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特許7554359グルタミン酸-システインリガーゼ変異体及びそれを用いたグルタチオン生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】グルタミン酸-システインリガーゼ変異体及びそれを用いたグルタチオン生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/00 20060101AFI20240911BHJP
   C12N 15/52 20060101ALI20240911BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240911BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
C12N9/00 ZNA
C12N15/52 Z
C12N1/19
C12P21/02 G
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023525461
(86)(22)【出願日】2021-09-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-08
(86)【国際出願番号】 KR2021012176
(87)【国際公開番号】W WO2022145623
(87)【国際公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】10-2021-0000361
(32)【優先日】2021-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCCM  KCCM12568P
【微生物の受託番号】KCCM  KCCM12674P
【微生物の受託番号】KCCM  KCCM12659P
【微生物の受託番号】KCCM  KCCM12891P
(73)【特許権者】
【識別番号】513178894
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム ヨンソ
(72)【発明者】
【氏名】ハ チョル ウン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ウン ビン
(72)【発明者】
【氏名】イム ヨン ウン
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101407768(CN,A)
【文献】特表2020-530260(JP,A)
【文献】国際公開第2015/115612(WO,A1)
【文献】特開2003-159049(JP,A)
【文献】国際公開第2001/090310(WO,A1)
【文献】中国特許第102296033(CN,B)
【文献】Protein J.,2007年,Vol.36,pp.270-277
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 9/00-9/99
C12P 21/00-21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルタミン酸-システインリガーゼ活性を有し、配列番号1のアミノ酸配列と95%以上100%未満の配列同一性を有し、配列番号1のアミノ酸配列のN末端から653番目の位置に相当するアミノ酸がメチオニンに置換されたグルタミン酸-システインリガーゼ(glutamate-cysteine ligase)変異体。
【請求項2】
前記653番目の位置に相当するアミノ酸はグリシンである、請求項1に記載のグルタミン酸-システインリガーゼ変異体。
【請求項3】
前記変異体は、配列番号3のアミノ酸配列からなるものである、請求項1に記載のグルタミン酸-システインリガーゼ変異体。
【請求項4】
前記変異体は、86番目の位置に相当するアミノ酸が他のアミノ酸にさらに置換されたものである、請求項1に記載のグルタミン酸-システインリガーゼ(glutamate-cysteine ligase)変異体。
【請求項5】
前記変異体は、配列番号13のアミノ酸配列からなるものである、請求項に記載のグルタミン酸-システインリガーゼ変異体。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載のグルタミン酸-システインリガーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載のグルタミン酸-システインリガーゼ変異体、前記変異体をコードするポリヌクレオチド、及び前記ポリヌクレオチドを含むベクターの少なくとも1つを含み、グルタチオンを生産する微生物であって、前記微生物がサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である微生物
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載のグルタミン酸-システインリガーゼ変異体、前記変異体をコードするポリヌクレオチド、及び前記ポリヌクレオチドを含むベクターの少なくとも1つを含む微生物を培地で培養するステップを含むグルタチオン生産方法であって、前記微生物がサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)であるグルタチオン生産方法
【請求項10】
前記方法は、前記培養された微生物、前記微生物の乾燥物、前記微生物の抽出物、前記微生物の培養物、及び前記微生物の破砕物から選択される少なくとも1つの物質からグルタチオンを回収するステップをさらに含む、請求項に記載のグルタチオン生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、新規なグルタミン酸-システインリガーゼ変異体及びそれを用いたグルタチオン生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グルタチオン(Glutathione, GSH)は、細胞内で最も一般的に存在する有機硫黄化合物であり、グリシン(glycine)、グルタミン酸(glutamate)、システイン(cysteine)の3つのアミノ酸が結合したトリペプチド(tripeptide)の形態である。
【0003】
グルタチオンは、体内において、還元型グルタチオン(GSH)と酸化型グルタチオン(GSSG)の2つの形態で存在する。一般的な状況において比較的高い割合で存在する還元型グルタチオン(GSH)は、人体の肝臓と皮膚細胞に主に分布しており、活性酸素を分解・除去する抗酸化機能、毒性物質をはじめとする外因性化合物の除去などの解毒作用、メラニン色素の生成を抑制する美白作用などの重要な役割を果たす。
【0004】
老化が進むほどグルタチオンの生成量が次第に減少し、抗酸化、解毒作用に重要な役割を果たすグルタチオンの生成量の減少は老化の主原因である活性酸素の蓄積を促進するので、外部からのグルタチオンの供給が必要である(非特許文献1)。
【0005】
このように様々な機能を有するグルタチオンは、製薬、機能性食品、化粧品などの様々な分野の素材として脚光を浴びており、呈味素材、食品及び飼料添加剤の製造に用いられることもある。グルタチオンは、原物の呈味向上と呈味持続性の維持効果が大きく、単独で用いるか、他の物質と配合することにより、コク味(kokumi)香味増強剤として用いられることが知られている。通常、コク味素材は、従来の核酸、MSGなどの旨味(umami)素材より濃厚であり、タンパク質が分解熟成されることにより生成されることが知られている。
【0006】
しかし、このように様々な分野で用いることのできるグルタチオンの需要が増加しているにもかかわらず、生産コストが高いため、酵素合成工程がいまだ商用化されておらず、グルタチオンの産業的生産には多大なコストがかかるので、市場が十分に活性化されていない現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Sipes IG et al, The role of glutathione in the toxicity of xenobiotic compounds: metabolic activation of 1,2-dibromoethane by glutathione, Adv Exp Med Biol. 1986;197:457-67.
【文献】Pearson et al (1988) [Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444
【文献】Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277
【文献】Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【文献】Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)
【文献】Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990)
【文献】Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994
【文献】[CARILLO et al.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073
【文献】Smith and Waterman, Adv. Appl. Math (1981) 2:482
【文献】Schwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)
【文献】Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745
【文献】J. Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York, 1989
【文献】F.M. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York
【文献】Sambrook et al., 1989, supra, 9.50-9.51, 11.7-11.8
【文献】Sitnicka et al. Functional Analysis of Genes. Advances in Cell Biology. 2010, Vol. 2. 1-16
【文献】Sambrook et al. Molecular Cloning 2012
【文献】Lee TH, et al.(J. Microbiol. Biotechnol. (2006), 16(6), 979-982)
【文献】Geitz, Nucleic Acid Research, 20(6), 1425
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本出願者らは、新たに見出したグルタミン酸-システインリガーゼ変異体を導入した微生物がグルタチオンを高収率で製造できることを確認し、本出願を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願は、グルタミン酸-システインリガーゼ活性を有するタンパク質において、配列番号1のアミノ酸配列のN末端から653番目の位置に相当するアミノ酸がメチオニンに置換されたグルタミン酸-システインリガーゼ変異体を提供する。
【0010】
本出願は、前記変異体をコードするポリヌクレオチド、及びそれを含むベクターを提供する。
【0011】
本出願は、前記変異体、前記変異体をコードするポリヌクレオチド、及び前記ポリヌクレオチドを含むベクターの少なくとも1つを含み、グルタチオンを生産する微生物を提供する。
【0012】
本出願は、前記微生物を培養するステップを含むグルタチオン生産方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本出願の新規なグルタミン酸-システインリガーゼ変異体は、グルタチオン生産を大幅に増加させるので、グルタチオンの高生産に有用であり、このようにグルタチオンを高生産する酵母、その乾燥物、抽出物、培養物、破砕物及び生産されたグルタチオンは、抗酸化効果、解毒効果、免疫力増強効果を有するので、化粧品用組成物、食品用組成物、飼料用組成物、医薬品組成物及びそれらの製造に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、これらを具体的に説明する。なお、本出願で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本出願で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本出願に含まれる。また、以下の具体的な記述に本出願が限定されるものではない。
【0015】
さらに、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、通常の実験のみを用いて本出願に記載された本出願の特定の態様の多くの等価物を認識し、確認することができるであろう。さらに、その等価物も本出願に含まれることが意図されている。
【0016】
本出願の一態様は、グルタミン酸-システインリガーゼ活性を有するタンパク質において、アミノ酸の置換を含み、前記置換は、配列番号1のN末端から653番目の位置に相当するアミノ酸のメチオニンへの置換を含む、グルタミン酸-システインリガーゼ(glutamate-cysteine ligase)変異体を提供する。
【0017】
前記変異体は、配列番号1のグルタミン酸-システインリガーゼアミノ酸配列において、N末端から653番目の位置に相当するアミノ酸であるグリシンがメチオニンに置換されたタンパク質変異体であってもよい。
【0018】
本出願における「グルタミン酸-システインリガーゼ(glutamate-cysteine ligase, GCL)」は、「グルタミン酸-システイン合成酵素」又は「γ-グルタミルシステインシンテターゼ(gamma-glutamylcysteine synthetase, GCS)」ともいう酵素である。グルタミン酸-システインリガーゼは、次の反応を触媒することが知られている。
【0019】
【化1】
【0020】
また、前記グルタミン酸-システインリガーゼが触媒する反応は、グルタチオン合成の第1段階であることが知られている。
【0021】
本出願において、グルタミン酸-システインリガーゼのアミノ酸配列は、gsh1遺伝子によりコードされるアミノ酸配列であり、「GSH1タンパク質」又は「グルタミン酸-システインリガーゼ」ともいう。本出願のグルタミン酸-システインリガーゼを構成するアミノ酸配列は、公知のデータベースであるNCBIのGenBankからその配列が得られる。前記グルタミン酸-システインリガーゼは、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質であるか、それから必須に構成される(consisting essentially of)タンパク質であるか、それからなるタンパク質であるが、これらに限定されるものではない。一例として、前記グルタミン酸-システインリガーゼは、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のものであり、他の例として、サッカロマイセス配列番号1のアミノ酸配列の653番目の位置に相当するアミノ酸がグリシンであるものである。しかし、これらに限定されるものではなく、前記アミノ酸配列と同じグルタミン酸-システインリガーゼ活性を有する配列であればいかなるものでもよい。
【0022】
具体例として、本出願のグルタミン酸-システインリガーゼは、配列番号1のアミノ酸配列、又はそれと80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%以上の相同性もしくは同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であってもよい。また、そのような相同性又は同一性を有して前記タンパク質に相当する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も本出願の変異対象となるタンパク質に含まれることは言うまでもない。
【0023】
また、本出願において、グルタミン酸-システインリガーゼの一例として、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質であると定義したとしても、配列番号1のアミノ酸配列の前後の無意味な配列付加や、自然発生する突然変異や、その非表現突然変異(silent mutation)を除外するものではなく、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質と同一又は相当する活性を有するものであれば、本出願のグルタミン酸-システインリガーゼに含まれることは言うまでもない。
【0024】
すなわち、本出願に「特定配列番号で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質又はポリペプチド」、「特定配列番号で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はポリペプチド」と記載されていても、当該配列番号のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同一又は相当する活性を有するものであれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であっても本出願に用いられることは言うまでもない。
【0025】
本出願における「変異体(variant)」又は「変異型ポリペプチド(modified polypeptide)」とは、少なくとも1つのアミノ酸の保存的置換(conservative substitution)及び/又は改変(modification)により上記列挙した配列(the recited sequence)とは異なるが、前記タンパク質の機能(functions)又は特性(properties)が維持されるタンパク質を意味する。本出願の目的上、前記変異体は、前述したグルタミン酸-システインリガーゼのうち、配列番号1のN末端から653番目の位置に相当するアミノ酸がメチオニンに置換されたグルタミン酸-システインリガーゼ変異体、又はグルタミン酸-システインリガーゼ活性を有する変異型ポリペプチドであってもよい。本出願の変異体は、「グルタミン酸-システインリガーゼ変異体」、「グルタミン酸-システインリガーゼ活性を有する(変異型)ポリペプチド」、「GSH1変異体」ともいう。
【0026】
前記変異体は、数個のアミノ酸の置換、欠失又は付加により識別される配列(identified sequence)とは異なる。このような変異体は、一般に前記タンパク質のアミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸を改変し、その改変したタンパク質の特性を評価することにより識別することができる。すなわち、変異体の能力は、本来のタンパク質(native protein)より向上するか、変わらないか又は低下する。また、一部の変異体には、N末端リーダー配列や膜貫通ドメイン(transmembrane domain)などの少なくとも1つの部分が除去された変異型ポリペプチドも含まれる。他の変異体には、成熟タンパク質(mature protein)のN及び/又はC末端から一部分が除去された変異体も含まれる。前記「変異体」又は「変異型ポリペプチド」は、変異型、改変、変異したタンパク質、変異などの用語(英語表現では、modification、modified protein、mutant、mutein、divergent、variantなど)と混用されるが、変異を意味する用語であればいかなるものでもよい。
【0027】
本出願の目的上、前記変異体は、天然の野生型又は非改変タンパク質に比べて変異したタンパク質の活性が向上するか、変異前のタンパク質、天然の野生型ポリペプチド又は非改変ポリペプチドに比べてグルタチオン生産量を増加させるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
本出願における「保存的置換(conservative substitution)」とは、あるアミノ酸が類似した構造的及び/又は化学的性質を有する他のアミノ酸に置換されることを意味する。前記変異体は、少なくとも1つの生物学的活性を依然として有する状態で、例えば少なくとも1つの保存的置換を有する。このようなアミノ酸置換は、一般に残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性及び/又は両親媒性(amphipathic nature)における類似性に基づいて発生し得る。
【0029】
例えば、電荷を帯びた側鎖(electrically charged amino acid)を有するアミノ酸のうち正に荷電した(塩基性)アミノ酸には、アルギニン、リシン及びヒスチジンが含まれ、負に荷電した(酸性)アミノ酸には、グルタミン酸及びアスパラギン酸が含まれ、電荷を帯びていない側鎖(uncharged side chain)を有するアミノ酸には、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、プロリン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミンが含まれるように分類される。
【0030】
また、変異体は、ポリペプチドの特性と二次構造に最小限の影響を及ぼすアミノ酸の欠失又は付加を含んでもよい。例えば、ポリペプチドは、翻訳と同時に(co-translationally)又は翻訳後に(post-translationally)タンパク質の移転(transfer)に関与するタンパク質のN末端のシグナル(又はリーダー)配列に結合されてもよい。また、前記ポリペプチドは、ポリペプチドを確認、精製又は合成できるように、他の配列又はリンカーに結合されてもよい。
【0031】
一実施例において、前記変異体は、配列番号1のアミノ酸配列のN末端から653番目の位置に相当するアミノ酸がメチオニンに置換されたグルタミン酸-システインリガーゼ(glutamate-cysteine ligase)変異体であってもよい。一実施例において、前記変異体は、配列番号1のアミノ酸配列において、653番目の位置に相当するグリシンがメチオニンに置換された変異体であるが、これに限定されるものではない。
【0032】
本出願における「他のアミノ酸への置換」は、置換前のアミノ酸とは異なるアミノ酸であればいかなるものでもよい。なお、本出願における「特定アミノ酸が置換された」とは、他のアミノ酸に置換されたと表記していなくても、置換前のアミノ酸とは異なるアミノ酸に置換されたことを意味することは言うまでもない。本出願における「相当する位置(corresponding position)」とは、タンパク質もしくはポリペプチドにおいて列挙される位置のアミノ酸残基であるか、又はタンパク質もしくはポリペプチドにおいて列挙される残基に類似、同一もしくは相当するアミノ酸残基を意味する。本出願における「相当領域」とは、一般に関連タンパク質又は比較タンパク質における類似又は対応する位置を意味する。
【0033】
本出願において、本出願に用いられるタンパク質中のアミノ酸残基位置に特定ナンバリングが用いられる。例えば、比較する対象のタンパク質と本出願のタンパク質のポリペプチド配列をアラインメントすることにより、本出願のタンパク質のアミノ酸残基位置に相当する位置を再ナンバリングすることができる。
【0034】
本出願の配列番号1のアミノ酸配列のN末端から653番目の位置に相当するアミノ酸がメチオニンに置換されたグルタミン酸-システインリガーゼ変異体は、配列番号1のアミノ酸配列、又はそれと80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%以上の相同性もしくは同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号1の653番目の位置に相当するアミノ酸がメチオニンに置換されたタンパク質であってもよい。このような変異体は、配列番号1と80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の相同性又は同一性を有し、配列番号1と100%未満の相同性又は同一性を有する変異体であるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
本出願の配列番号1のアミノ酸配列のN末端から653番目の位置に相当するアミノ酸がメチオニンに置換されたグルタミン酸-システインリガーゼ変異体は、配列番号3のアミノ酸配列を含むものであってもよい。具体的には、配列番号3のアミノ酸配列から必須に構成される(consisting essentially of)ものであり、より具体的には、配列番号3のいずれかのアミノ酸配列からなるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
また、前記変異体は、配列番号3のアミノ酸配列を含むものであるか、又は前記アミノ酸配列において、653番目のアミノ酸は固定され(すなわち、変異体のアミノ酸配列において、配列番号3の653番目の位置に相当するアミノ酸は、配列番号3の653番目の位置のアミノ酸と同一であり)、それと80%以上の相同性もしくは同一性を有するアミノ酸配列を含むものであるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
具体的には、本出願の前記変異体は、配列番号3、及び配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の相同性又は同一性を有するポリペプチドを含むものであってもよい。また、このような相同性又は同一性を有して前記変異体に相当する効能を示すアミノ酸配列であれば、653番目の位置以外に、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であっても本出願に含まれることは言うまでもない。
【0038】
本出願における「相同性(homology)」又は「同一性(identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列又は塩基配列が関連する程度を意味し、百分率で表される。相同性及び同一性は、しばしば互換的に用いられる。
【0039】
保存されている(conserved)ポリヌクレオチド又はポリペプチドの配列相同性又は同一性は標準配列アルゴリズムにより決定され、用いられるプログラムにより確立されたデフォルトギャップペナルティが共に用いられてもよい。実質的には、相同性を有するか(homologous)又は同じ(identical)配列は、中程度又は高いストリンジェントな条件(stringent conditions)下において、一般に配列全体又は全長の少なくとも約50%、60%、70%、80%又は90%以上ハイブリダイズすることができる。ハイブリダイゼーションには、ポリヌクレオチドにおいて一般のコドン又はコドン縮退を考慮したコドンを有するポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションも含まれることは言うまでもない。
【0040】
任意の2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、例えば非特許文献2のようなデフォルトパラメーターと「FASTA」プログラムなどの公知のコンピュータアルゴリズムを用いて決定することができる。あるいは、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite, 非特許文献3)(バージョン5.0.0又はそれ以降のバージョン)で行われるように、ニードルマン=ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(非特許文献4)を用いて決定することができる(GCGプログラムパッケージ(非特許文献5)、BLASTP、BLASTN、FASTA(非特許文献6、7及び8)を含む)。例えば、国立生物工学情報センターのBLAST又はClustal Wを用いて相同性、類似性又は同一性を決定することができる。
【0041】
ポリヌクレオチド又はポリペプチドの相同性、類似性又は同一性は、例えば非特許文献9に開示されているように、非特許文献4などのGAPコンピュータプログラムを用いて、配列情報を比較することにより決定することができる。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列のうち短いものにおける記号の総数で、類似する配列記号(すなわち、ヌクレオチド又はアミノ酸)の数を割った値と定義している。GAPプログラムのためのデフォルトパラメーターは、(1)二進法比較マトリックス(同一性は1、非同一性は0の値をとる)及び非特許文献10に開示されているように、非特許文献11の加重比較マトリックス(又はEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックス)と、(2)各ギャップに3.0のペナルティ、及び各ギャップの各記号に追加の0.10ペナルティ(又はギャップオープンペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5)と、(3)末端ギャップに無ペナルティとを含む。
【0042】
また、任意の2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、定義されたストリンジェントな条件下にてサザンハイブリダイゼーション実験で配列を比較することにより確認することができ、定義される適切なハイブリダイゼーション条件は当該技術の範囲内であり、当業者に周知の方法(例えば、非特許文献12、13)で決定することができる。
【0043】
本出願の配列番号1のアミノ酸配列のN末端から653番目の位置に相当するアミノ酸がメチオニンに置換されたグルタミン酸-システインリガーゼ変異体は、配列番号1のアミノ酸配列のN末端から86番目の位置に相当するアミノ酸が他のアミノ酸に置換される変異をさらに含むものであってもよい。
【0044】
具体的には、前記変異体は、86番目の位置に相当するシステインが他のアミノ酸に置換される変異を含むものであってもよく、例えばアルギニンに置換される変異を含むものであってもよい。
【0045】
例えば、前記変異体は、配列番号13のアミノ酸配列を含むものであるか、それから必須に構成されるものであるか、又はそれからなるものである。しかし、これらに限定されるものではない。
【0046】
本出願の他の態様は、前記変異体をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0047】
本出願における「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチド単量体(monomer)が共有結合により長く鎖状につながったヌクレオチドの重合体(polymer)であって、所定の長さより長いDNA又はRNA鎖を意味する。
【0048】
本出願のグルタミン酸-システインリガーゼをコードする遺伝子は、gsh1遺伝子であってもよい。
【0049】
前記遺伝子は、酵母由来のものであってもよい。具体的には、サッカロマイセス(Saccharomyces)属であってもよく、より具体的には、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のものであってもよい。さらに具体的には、サッカロマイセス・セレビシエ由来のものであって、グルタミン酸-システインリガーゼ活性を有するポリペプチドをコードするものであればいかなるものでもよく、一実施例においては、配列番号1のアミノ酸配列をコードする遺伝子であり、一実施例においては、配列番号2の塩基配列を含むものであるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
本出願のタンパク質変異体をコードするポリヌクレオチドは、本出願のグルタミン酸-システインリガーゼ変異体、及びそれに相当する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであればいかなるものでもよい。
【0051】
本出願のグルタミン酸-システインリガーゼ及びその変異体をコードするポリヌクレオチドは、コドンの縮退(degeneracy)により又は前記ポリペプチドを発現させる生物において好まれるコドンを考慮し、ポリペプチドのアミノ酸配列が変化しない範囲でコード領域に様々な改変が行われてもよい。
【0052】
具体的には、本出願のタンパク質変異体をコードするポリヌクレオチドは、配列番号1のアミノ酸配列において653番目の位置に相当するアミノ酸がメチオニンに置換されたタンパク質変異体をコードするポリヌクレオチド配列であればいかなるものでもよい。例えば、本出願のタンパク質変異体をコードするポリヌクレオチドは、本出願のタンパク質変異体、具体的には配列番号3のアミノ酸配列を含むタンパク質、又はそれと相同性又は同一性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列であるが、これらに限定されるものではない。前記相同性又は同一性については前述した通りである。
【0053】
また、本出願のタンパク質変異体をコードするポリヌクレオチドは、公知の遺伝子配列から調製されるプローブ、例えば前記塩基配列の全部又は一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることにより、配列番号1のアミノ酸配列において653番目の位置に相当するアミノ酸がメチオニンに置換されたタンパク質変異体をコードする配列であればいかなるものでもよい。
【0054】
前記「ストリンジェントな条件(stringent condition)」とは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。このような条件は、文献(例えば、非特許文献12)に具体的に記載されている。例えば、相同性又は同一性の高いポリヌクレオチド同士、40%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、さらに具体的には99%以上の相同性又は同一性を有するポリヌクレオチド同士をハイブリダイズし、それより相同性又は同一性の低いポリヌクレオチド同士をハイブリダイズしない条件、又は通常のサザンハイブリダイゼーション(southern hybridization)の洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、具体的には60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より具体的には68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度において、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件が挙げられる。
【0055】
ハイブリダイゼーションは、たとえハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つの核酸が相補的配列を有することが求められる。「相補的」とは、互いにハイブリダイゼーションが可能なヌクレオチド塩基間の関係を表すために用いられるものである。例えば、DNAにおいて、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。よって、本出願のポリヌクレオチドには、実質的に類似する核酸配列だけでなく、全配列に相補的な単離された核酸フラグメントが含まれてもよい。
【0056】
具体的には、相同性又は同一性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値でハイブリダイゼーションステップが行われるハイブリダイゼーション条件と前述した条件を用いて検知することができる。また、前記Tm値は、60℃、63℃又は65℃であってもよいが、これらに限定されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節される。
【0057】
ポリヌクレオチドをハイブリダイズする適切なストリンジェンシーはポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は当該技術分野で公知である(非特許文献14参照)。
【0058】
本出願のさらに他の態様は、前記タンパク質変異体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0059】
本出願における「ベクター」とは、好適な宿主内で標的ポリペプチドを発現させることができるように、好適な発現調節領域(又は発現調節配列)に作動可能に連結された前記標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列を含有するDNA産物を意味する。前記発現調節領域には、転写を開始するプロモーター、その転写を調節するための任意のオペレーター配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、並びに転写及び翻訳の終結を調節する配列が含まれる。ベクターは、好適な宿主細胞内に形質転換されると、宿主ゲノムに関係なく複製及び機能することができ、ゲノム自体に組み込まれる。
【0060】
例えば、細胞内染色体導入用ベクターにより、染色体内で標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを変異したポリヌクレオチドに置換することができる。前記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば相同組換えにより行うことができるが、これに限定されるものではない。前記染色体に挿入されたか否かを確認するための選択マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。選択マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選択、すなわち標的核酸分子が挿入されたか否かを確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性、表面タンパク質の発現などの選択可能表現型を付与するマーカーが用いられる。選択剤(selective agent)で処理した環境においては、選択マーカーを発現する細胞のみ生存するか、異なる表現形質を示すので、形質転換された細胞を選択することができる。
【0061】
本出願に用いられるベクターは、特に限定されるものではなく、当該技術分野で公知の任意のベクターが用いられる。酵母発現ベクターは、酵母組み込みプラスミド(YIp: integrative yeast plasmid)と染色体外プラスミドベクター(extrachromosomal plasmid vector)のどちらであってもよい。前記染色体外プラスミドベクターには、酵母エピソームプラスミド(YEp: episomal yeast plasmid)、酵母複製プラスミド(YRp: replicative yeast plasmid)及び酵母動原体プラスミド(YCp: yeast centromere plasmid)が含まれる。また、酵母人工染色体(YACs: artificial yeast chromosomes)も、本出願のベクターとして用いることができる。具体例として、用いることのできるベクターとしては、pESCHIS、pESC-LEU、pESC-TRP、pESC-URA、Gateway pYES-DEST52、pAO815、pGAPZ A、pGAPZ B、pGAPZ C、pGAPα A、pGAPα B、pGAPα C、pPIC3.5K、pPIC6 A、pPIC6 B、pPIC6 C、pPIC6α A、pPIC6α B、pPIC6α C、pPIC9K、pYC2/CT、pYD1 Yeast Display Vector、pYES2、pYES2/CT、pYES2/NT A、pYES2/NT B、pYES2/NT C、pYES2/CT、pYES2.1、pYES-DEST52、pTEF1/Zeo、pFLD1、PichiaPinkTM、p427-TEF、p417-CYC、pGAL-MF、p427-TEF、p417-CYC,PTEF-MF、pBY011、pSGP47、pSGP46、pSGP36、pSGP40、ZM552、pAG303GAL-ccdB、pAG414GAL-ccdB、pAS404、pBridge、pGAD-GH、pGAD T7、pGBK T7、pHIS-2、pOBD2、pRS408、pRS410、pRS418、pRS420、pRS428、yeast micron A form、pRS403、pRS404、pRS405、pRS406、pYJ403、pYJ404、pYJ405及びpYJ406が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
本出願における「形質転換」とは、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞又は微生物内に導入することにより、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現するものであれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、いかなるものでもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、標的タンパク質をコードするDNAやRNAを含むものである。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現するものであれば、いかなる形態で導入されるものでもよい。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自ら発現する上で必要な全ての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入される。通常、前記発現カセットは、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーター(promoter)、転写終結シグナル、リボソーム結合部位及び翻訳終結シグナルを含む。前記発現カセットは、自己複製可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞において発現に必要な配列と作動可能に連結されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0063】
また、前記「作動可能に連結」されたものとは、本出願の標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するプロモーター配列と前記遺伝子配列が機能的に連結されたものを意味する。
【0064】
本出願のベクターを形質転換する方法は、核酸を細胞内に導入するいかなる方法であってもよく、当該分野において公知であるように、宿主細胞に適した標準技術を選択して行うことができる。例えば、エレクトロポレーション(electroporation)、リン酸カルシウム(CaPO)沈殿、塩化カルシウム(CaCl)沈殿、微量注入法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAE-デキストラン法、カチオン性リポソーム法、酢酸リチウム-DMSO法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
本出願は、前記変異体、前記変異体をコードするポリヌクレオチド、及び前記ポリヌクレオチドを含むベクターの少なくとも1つを含み、グルタチオンを生産する微生物を提供する。
【0066】
本出願における「微生物」とは、野生型微生物や自然に又は人為的に遺伝的改変が行われた微生物が全て含まれるものであり、外部遺伝子が挿入されるか、内在性遺伝子の活性が強化又は弱化されるなどの原因により、特定機序が弱化又は強化された微生物が全て含まれる概念である。本出願における微生物は、本出願のグルタミン酸-システインリガーゼ変異体が導入されるか、それを含む微生物であればいかなるものでもよい。
【0067】
前記微生物は、標的タンパク質をコードする遺伝子又はそれを含むベクターで形質転換され、例えば標的タンパク質を発現する細胞又は微生物であり、本出願の目的上、前記宿主細胞又は微生物は、前記グルタミン酸-システインリガーゼ変異体を含み、グルタチオンを生産する微生物であればいかなるものでもよい。
【0068】
本出願における「グルタチオン(glutathione)」とは、「グルタシオン」、「GSH」と互換的に用いられるものであり、グルタミン酸(glutamate)、システイン(Cysteine)、グリシン(glycine)の3つのアミノ酸からなるトリペプチドを意味する。グルタチオンは、製薬、機能性食品、呈味素材、食品、飼料添加剤、化粧品などの原料として用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
本出願における「グルタチオンを生産する微生物」とは、自然に又は人為的に遺伝的改変が行われた微生物が全て含まれるものであり、外部遺伝子が挿入されるか、内在性遺伝子の活性が強化又は不活性化されるなどの原因により、特定機序が弱化又は強化された微生物であって、目的とするグルタチオン生産のための遺伝的変異を起こすか、活性を強化した微生物である。本出願の目的上、前記グルタチオンを生産する微生物とは、グルタミン酸-システインリガーゼを含み、目的とするグルタチオンを野生型や非改変微生物と比較して過剰量で生産する微生物を意味する。前記「グルタチオンを生産する微生物」は、「グルタチオン生産微生物」、「グルタチオン生産能を有する微生物」、「グルタチオン生産菌株」、「グルタチオン生産能を有する菌株」などと混用される。
【0070】
前記グルタチオン生産微生物は、グルタチオンを生産するものであればいかなる種類であってもよいが、サッカロマイセス属(the genus Saccharomyces)微生物であり、具体的にはサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)であるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
前記変異体を含むグルタチオン生産微生物の親株は、グルタチオンを生産するものであればいかなるものでもよい。前記微生物は、グルタチオン生産能の向上のための生合成経路の強化、フィードバック阻害の解除、分解経路又は生合成経路を弱化する遺伝子不活性化などの変異をさらに含むものであってもよく、これらの変異は、天然のものを排除するものではない。一実施例において、前記微生物は、グルタミン酸-システインリガーゼの発現調節領域にグルタチオン生産能を向上させる変異を含むものであってもよい。これは、GSH1 ORFの上流の-250(C→T)、-252(G→A)、-398(A→T)、-399(A→C)、-407(T→C)及び-409(T→C)から選択される少なくとも1つの変異である。しかし、これらに限定されるものではない。
【0072】
本出願の変異体、前記変異体をコードするポリヌクレオチド、及び前記ポリヌクレオチドを含むベクターの少なくとも1つを含む微生物は、配列番号1のアミノ酸配列において653番目の位置に相当するアミノ酸がメチオニンに置換されたグルタミン酸-システインリガーゼ変異体を発現する微生物であるが、これに限定されるものではない。
【0073】
前記グルタミン酸-システインリガーゼ及びその変異体については前述した通りである。
【0074】
本出願における、タンパク質が「発現するように/する」とは、標的タンパク質が微生物に導入されるか、微生物で発現するように改変された状態を意味する。前記標的タンパク質が微生物中に存在するタンパク質の場合、内在性活性又は改変前の活性に比べて活性が強化された状態を意味する。
【0075】
本出願のタンパク質変異体を発現する微生物は、本出願のタンパク質変異体を発現するように改変された微生物であってもよい。よって、本出願のさらに他の態様は、本出願のタンパク質変異体を発現する微生物の製造方法を提供する。
【0076】
本出願における「タンパク質の導入」とは、微生物が本来持っていなかった特定タンパク質の活性が現れるようにすること、又は当該タンパク質の内在性活性もしくは改変前の活性に比べて向上した活性が現れるようにすることを意味する。例えば、特定タンパク質が導入されることや、特定タンパク質をコードするポリヌクレオチドが微生物中の染色体に導入されることや、特定タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターが微生物内に導入されてその活性が現れることであってもよい。
【0077】
本出願におけるポリペプチド又はタンパク質活性の「強化」とは、ポリペプチド又はタンパク質の活性を内在性活性に比べて向上させることを意味する。前記強化は、上方調節(up-regulation)、過剰発現(overexpression)、向上(increase)などと混用される。ここで、向上には、本来なかった活性を示すようになることや、内在性活性又は改変前の活性に比べて活性が向上することが全て含まれる。前記「内在性活性」とは、自然要因又は人為的要因により遺伝的に変異して形質が変化する場合に、形質変化の前の親株又は非改変微生物が本来有していた特定ポリペプチド又はタンパク質の活性を意味する。これは、「変形前の活性」と混用される。ポリペプチド又はタンパク質の活性が内在性活性に比べて「強化」又は「向上」するとは、形質変化の前の親株又は非改変微生物が本来有していた特定ポリペプチド又はタンパク質の活性に比べて向上することを意味する。
【0078】
前記「活性の向上」は、外来ポリペプチド又はタンパク質の導入により達成してもよく、内在性ポリペプチド又はタンパク質の活性の強化により達成してもよい。具体的には、内在性ポリペプチド又はタンパク質の活性の強化により達成してもよい。前記ポリペプチド又はタンパク質の活性が強化されたか否かは、当該ポリペプチド又はタンパク質の活性の程度、発現量、又は当該タンパク質から排出される産物の量の増加により確認することができる。
【0079】
前記ポリペプチド又はタンパク質の活性の強化には、当該分野で周知の様々な方法を適用することができ、標的ポリペプチド又はタンパク質の活性を改変前の微生物より強化できるものであればいかなるものでもよい。前記方法は、これらに限定されるものではないが、分子生物学における通常の方法であり、当該技術分野における通常の知識を有する者に周知の遺伝子工学及び/又はタンパク質工学を用いたものである(非特許文献15、16など)。
【0080】
前記遺伝子工学を用いてポリペプチド又はタンパク質の活性を強化する方法は、例えば1)前記ポリペプチド又はタンパク質をコードする遺伝子又はポリヌクレオチドの細胞内コピー数を増加させる方法、2)前記ポリペプチド又はタンパク質をコードする染色体上の遺伝子の発現調節領域を活性が強力な配列に置換する方法、3)前記ポリペプチド又はタンパク質の開始コドン又は5’UTR領域の塩基配列を改変する方法、4)前記ポリペプチド又はタンパク質の活性が向上するように染色体上のポリヌクレオチド配列を改変する方法、5)前記ポリペプチド又はタンパク質の活性を示す外来ポリヌクレオチドや、前記ポリヌクレオチドのコドン最適化された変異型ポリヌクレオチドを導入する方法、6)前記方法の組み合わせなどにより行われるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
前記タンパク質工学を用いてポリペプチド又はタンパク質の活性を強化する方法は、例えばポリペプチド又はタンパク質の三次構造を分析し、露出部分を選択して改変する方法や、化学的に修飾する方法などにより行われるが、これらに限定されるものではない。
【0082】
前記1)ポリペプチド又はタンパク質をコードする遺伝子又はポリヌクレオチドの細胞内コピー数を増加させる方法は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば当該ポリペプチド又はタンパク質をコードする遺伝子又はポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主に関係なく複製されて機能するベクターを宿主細胞内に導入することにより行われる。あるいは、前記遺伝子が作動可能に連結された、宿主細胞内の染色体に前記遺伝子又はポリヌクレオチドを挿入することのできるベクターを宿主細胞内に導入することにより行われるが、これらに限定されるものではない。前記ベクターについては前述した通りである。
【0083】
前記2)ポリペプチド又はタンパク質をコードする染色体上の遺伝子の発現調節領域(又は発現調節配列)を活性が強力な配列に置換する方法は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば前記発現調節領域の活性がさらに強化されるように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を誘導して行われるか、より高い活性を有する核酸配列に置換することにより行われる。前記発現調節領域には、特にこれらに限定されるものではないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、転写及び翻訳の終結を調節する配列などが含まれる。前記方法は、具体的には、本来のプロモーターに代えて強力な異種プロモーターを連結するものであるが、これに限定されるものではない。
【0084】
真核生物に対する公知のプロモーターの例としては、翻訳伸長因子1(TEF1)、グリセロール3-リン酸デヒドロゲナーゼ1(GPD1)、3-ホスホグリセリン酸キナーゼ、又は他のグリコール分解酵素、例えばエノラーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ、3-ホスホグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ及びグルコキナーゼに対するプロモーターが挙げられ、成長条件に応じて制御される転写のさらなる利点を有する誘導性プロモーターである他の酵母プロモーターの例としては、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソチトクロームC、酸性ホスファターゼ、窒素代謝に関連する分解酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、並びにマルトース及びガラクトース利用を担う酵素に対するプロモーターが挙げられ、宿主細胞が酵母であれば、用いることのできるプロモーターとしては、TEF1プロモーター、TEF2プロモーター、GAL10プロモーター、GAL1プロモーター、ADH1プロモーター、ADH2プロモーター、PHO5プロモーター、GAL1-10プロモーター、TDH3プロモーター(GPDプロモーター)、TDH2プロモーター、TDH1プロモーター、PGK1プロモーター、PYK2プロモーター、ENO1プロモーター、ENO2プロモーター及びTPI1プロモーターが挙げられ、酵母発現に用いるのに適したベクター及びプロモーターは、EP 073657にさらに記載されているが、これらに限定されるものではない。また、酵母エンハンサーも、酵母プロモーターと共に有用であるが、これに限定されるものではない。
【0085】
前記3)ポリペプチド又はタンパク質の開始コドン又は5’UTR領域の塩基配列を改変する方法は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば前記ポリペプチド又はタンパク質の内在性開始コドンを前記内在性開始コドンに比べてポリペプチド又はタンパク質の発現率が高い他の開始コドンに置換するものであるが、これらに限定されるものではない。
【0086】
前記4)ポリペプチド又はタンパク質の活性が向上するように染色体上のポリヌクレオチド配列を改変する方法は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば前記ポリヌクレオチド配列の活性がさらに強化されるように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより発現調節配列上の変異を誘導して行われるか、より高い活性を有するように改良されたポリヌクレオチド配列に置換することにより行われる。前記置換は、具体的には相同組換えにより前記遺伝子を染色体内に挿入するものであるが、これに限定されるものではない。
【0087】
ここで、用いられるベクターは、染色体に挿入されたか否かを確認するための選択マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。前記選択マーカーについては前述した通りである。
【0088】
前記5)ポリペプチド又はタンパク質の活性を示す外来ポリヌクレオチドを導入する方法は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば前記ポリペプチド又はタンパク質と同一/類似の活性を示すポリペプチド又はタンパク質をコードする外来ポリヌクレオチドや、そのコドン最適化された変異型ポリヌクレオチドを宿主細胞内に導入することにより行われる。前記外来ポリヌクレオチドは、前記ポリペプチド又はタンパク質と同一/類似の活性を示すものであれば、その由来や配列はいかなるものでもよい。また、宿主細胞内で最適化された転写、翻訳が行われるように、導入された前記外来ポリヌクレオチドのコドンを最適化して宿主細胞内に導入してもよい。前記導入は、公知の形質転換方法を当業者が適宜選択して行うことができ、宿主細胞内で前述したように導入したポリヌクレオチドが発現することにより、ポリペプチド又はタンパク質が産生されてその活性が向上する。
【0089】
最後に、6)前記方法の組み合わせは、前記1)~5)の少なくとも1つの方法を共に適用することにより行われる。
【0090】
このようなポリペプチド又はタンパク質の活性の強化は、対応するポリペプチド又はタンパク質の活性又は濃度が野生型微生物や改変前の微生物の菌株で発現したポリペプチド又はタンパク質の活性又は濃度に比べて向上するものであるか、当該ポリペプチド又はタンパク質から生産される産物の量が増加するものであるが、これらに限定されるものではない。
【0091】
本出願における「改変前の菌株」又は「改変前の微生物」とは、微生物に自然に発生し得る突然変異を含む菌株を除外するものではなく、野生型菌株もしくは天然菌株自体、又は自然要因もしくは人為的要因により遺伝的に変異して形質が変化する前の菌株を意味する。前記「改変前の菌株」又は「改変前の微生物」は、「非変異菌株」、「非改変菌株」、「非変異微生物」、「非改変微生物」又は「基準微生物」と混用される。
【0092】
本出願において、前記グルタミン酸-システインリガーゼ変異体を含むか、それをコードするポリヌクレオチド、又は前記ポリヌクレオチドを含むベクターを含む微生物は、組換え微生物であってもよく、前記組換えは、形質転換などの遺伝的改変(genetically modification)により行われてもよい。
【0093】
例えば、前記ポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換により作製される組換え微生物であるが、これに限定されるものではない。前記組換え微生物は、酵母であり、例えばサッカロマイセス属微生物であり、具体的にはサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)であるが、これらに限定されるものではない。
【0094】
本出願のさらに他の態様は、前記微生物を培養するステップを含むグルタチオン製造方法を提供する。前記微生物、グルタチオンについては前述した通りである。
【0095】
本出願の菌株の培養に用いられる培地及び他の培養条件は、通常のサッカロマイセス属微生物の培養に用いられるものであればいかなるものでもよく、具体的には、好適な炭素源、窒素源、リン源、無機化合物、アミノ酸及び/又はビタミンなどを含有する通常の培地中で好気性又は嫌気性条件下にて温度、pHなどを調節して本出願の菌株を培養することができる。
【0096】
本出願における前記炭素源としては、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトースなどの炭水化物、マンニトール、ソルビトールなどの糖アルコール、ピルビン酸、乳酸、クエン酸などの有機酸、グルタミン酸、メチオニン、リシンなどのアミノ酸などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、デンプン加水分解物、糖蜜、ブラックストラップ糖蜜、米糠、キャッサバ、バガス、トウモロコシ浸漬液などの天然の有機栄養源を用いることができ、グルコースや殺菌した前処理糖蜜(すなわち、還元糖に変換した糖蜜)などの炭水化物を用いることができ、その他適量の炭素源であればいかなるものでも用いることができる。これらの炭素源は、単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0097】
前記窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの無機窒素源と、アミノ酸、ペプトン、NZ-アミン、肉類抽出物、酵母抽出物、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、カゼイン加水分解物、魚類又はその分解生成物、脱脂大豆ケーキ又はその分解生成物などの有機窒素源とを用いることができる。これらの窒素源は、単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0098】
前記リン源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム又はそれらに相当するナトリウム含有塩などが挙げられる。無機化合物としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化鉄、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン、炭酸カルシウムなどを用いることができる。
【0099】
それ以外に、前記培地は、アミノ酸、ビタミン及び/又は好適な前駆体などを用いることができる。具体的には、前記菌株の培養培地には、L-アミノ酸などを添加することができる。より具体的には、グリシン(glycine)、グルタミン酸(glutamate)及び/又はシステイン(cysteine)などを添加することができ、必要に応じてリシン(lysine)などのL-アミノ酸をさらに添加することができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0100】
前記培地又は前駆体は、培養物に回分式又は連続式で添加することができるが、これらに限定されるものではない。
【0101】
本出願における菌株の培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸、硫酸などの化合物を培養物に好適な方法で添加することにより、培養物のpHを調整することができる。また、培養中には、脂肪酸ポリグリコールエステルなどの消泡剤を用いて気泡生成を抑制することができる。さらに、培養物の好気状態を維持するために、培養物中に酸素又は酸素含有気体を注入してもよく、嫌気及び微好気状態を維持するために、気体を注入しなくてもよく、窒素、水素又は二酸化炭素ガスを注入してもよい。
【0102】
培養物の温度は、25℃~40℃であり、より具体的には28℃~37℃であるが、これらに限定されるものではない。培養期間は、有用物質の所望の生成量が得られるまで続けられ、具体的には1時間~100時間であるが、これらに限定されるものではない。
【0103】
前記グルタチオン製造方法は、前記培養ステップの後に、追加工程をさらに含んでもよい。前記追加工程は、グルタチオンの用途に応じて適宜選択される。
【0104】
具体的には、前記グルタチオン製造方法は、前記培養ステップにより菌体内に蓄積されたグルタチオンを回収するステップを含んでもよく、例えば、前記培養ステップの後に、前記菌株、その乾燥物、抽出物、培養物、破砕物から選択される少なくとも1つの物質からグルタチオンを回収するステップを含んでもよい。
【0105】
前記方法は、前記回収ステップの前又は同時に、菌株を溶菌するステップをさらに含んでもよい。菌株の溶菌は、本出願の属する技術分野で通常用いられる方法、例えば溶菌用緩衝液、ソニケーター、熱処理、フレンチプレスなどを用いて行うことができる。また、前記溶菌ステップには、細胞壁分解酵素、核酸分解酵素、核酸転移酵素、タンパク質分解酵素などの酵素反応が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0106】
本出願の目的上、前記グルタチオン製造方法によりグルタチオンを高含有量で含む乾燥酵母(Dry yeast)、酵母抽出物(yeast extract)、酵母抽出物混合粉末(yeast extract mix powder)、純粋精製したグルタチオン(pure glutathione)が製造されるが、これらに限定されるものではなく、目的とする製品に応じて適宜製造される。
【0107】
本出願における乾燥酵母(dry yeast)は、「菌株乾燥物」などと互換的に用いられる。前記乾燥酵母は、グルタチオンを蓄積した酵母菌体を乾燥させて製造することができ、具体的には、飼料用組成物、食品用組成物などに含まれるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0108】
本出願における酵母抽出物(yeast extract)は、「菌株抽出物」などと互換的に用いられる。前記菌株抽出物とは、前記菌株の菌体から細胞壁を分離して残った物質を意味する。具体的には、菌体を溶菌して得た成分から細胞壁を除いた残りの成分を意味する。前記菌株抽出物は、グルタチオンを含み、グルタチオン以外の成分としては、タンパク質、炭水化物、核酸、繊維質の少なくとも1つの成分を含むが、これらに限定されるものではない。
【0109】
前記回収ステップは、当該技術分野で公知の好適な方法により、目的物質であるグルタチオンを回収することができる。
【0110】
前記回収ステップは、精製工程を含んでもよい。前記精製工程は、菌株からグルタチオンのみを分離して純粋精製する工程であってもよい。前記精製工程により、純粋精製したグルタチオン(pure glutathione)を製造することができる。
【0111】
必要に応じて、前記グルタチオン製造方法は、前記培養ステップの後に、得られた菌株、その乾燥物、抽出物、培養物、破砕物及びそれらから回収したグルタチオンから選択される物質と賦形剤を混合するステップをさらに含んでもよい。前記混合ステップにより、酵母抽出物混合粉末(yeast extract mix powder)を製造することができる。
【0112】
前記賦形剤は、目的とする用途や形態に応じて適宜選択して用いることができ、例えばデンプン、グルコース、セルロース、ラクトース、グリコーゲン、D-マンニトール、ソルビトール、ラクチトール、マルトデキストリン、炭酸カルシウム、合成ケイ酸アルミニウム、リン酸一水素カルシウム、硫酸カルシウム、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、精製ラノリン、デキストリン、アルギン酸ナトリウム、メチルセルロース、コロイド性二酸化ケイ素、ヒドロキシプロピルスターチ、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、プロピレングリコール、カゼイン、乳酸カルシウム、プリモゲル、アラビアガムから選択されるものであり、具体的にはデンプン、グルコース、セルロース、ラクトース、デキストリン、グリコーゲン、D-マンニトール、マルトデキストリンから選択される少なくとも1つの成分であるが、これらに限定されるものではない。
【0113】
前記賦形剤には、例えば保存剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0114】
本出願のさらに他の態様は、本出願の変異体のグルタチオン生産用途を提供する。
【0115】
本出願のさらに他の態様は、本出願の変異体グルタミン酸-システインリガーゼ変異体を含む微生物のグルタチオン生産用途を提供する。
【0116】
前記変異体、ポリヌクレオチド、微生物については前述した通りである。
【実施例
【0117】
以下、実施例及び実験例を挙げて本出願をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例及び実験例は本出願を例示するものにすぎず、本出願がこれらの実施例及び実験例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0118】
グルタチオン生産菌株の選択及び改良
実施例1-1:グルタチオン生産菌株の選択
様々な菌株を含有する麹から菌株を得て、それを改良してグルタチオン生産能を有する菌株を選択した。
【0119】
具体的には、韓国京畿道龍仁、利川、平沢、華城地域などの計20の地域でコメ、オオムギ、リョクトウ、エンバクなどの穀物試料を採取し、粉砕してペーストにしたものを布に包んで強く押して形を作り、次いで藁で包んで10日間発酵させ、その後徐々に乾燥させて麹を作製した。
【0120】
作製した麹から様々な菌株を分離するために、次の実験を行った。5gの麹に45mlの食塩水を添加し、混合機で粉砕した。酵母菌株の純粋分離は、serial dilutionしてYPD Agar(Yeast extract 10g/L,Bacto peptone 20g/L,Glucose 20g/L,蒸留水1リットル中)にspreadingし、30℃で48時間培養した。また、colony形態と顕微鏡の検証により酵母のcolonyをYPD agarにstreakingした。250ml三角フラスコにYPD brothを25ml分注し、純粋分離した菌株を接種して48時間振盪培養(30℃,200rpm)し、グルタチオン生産量を確認して菌株スクリーニングを行った。
【0121】
一次的に分離した菌株の改良のために、分離した菌株に突然変異(random mutation)を誘導した。具体的には、前記麹から分離した酵母のうち、グルタチオン生産が確認された菌株を分離し、CJ-37菌株と命名した。CJ-37菌株を固体培地で培養し、その後brothに接種して培養液を得て、UVランプを用いて菌体にUVを照射した。その後、UV照射した培養液を平板培地に塗抹し、コロニーを形成した変異菌株のみ分離して回収し、それらのグルタチオン生産量を確認した。
【0122】
その結果、変異菌株のうち最も優れたグルタチオン生産量を示す菌株をグルタチオン生産菌株として選択し、CJ-5菌株と命名した。それをブダペスト条約上の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(Korean CultureCenter of Microorganisms, KCCM)に2019年7月31日付けで寄託番号KCCM12568Pとして寄託した。
【0123】
実施例1-2:グルタチオン生産能を向上させるためのさらなる改良実験
CJ-5菌株のグルタチオン生産能をさらに改善するために、次の方法で突然変異を誘導した。
【0124】
CJ-5菌株を固体培地に培養し、その後brothに接種して培養液を得て、UVランプを用いて菌体にUVを照射した。その後、UV照射した培養液を平板培地に塗抹し、コロニーを形成した変異菌株のみ分離して回収し、グルタチオン生産能が最も大きく向上した菌株を分離し、CC02-2490菌株と命名した。それをブダペスト条約上の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(Korean CultureCenter of Microorganisms, KCCM)に2020年1月17日付けで受託番号KCCM12659Pとして寄託した。
【0125】
前記CC02-2490菌株のグルタチオン生産能の向上に関連して、グルタチオン生合成遺伝子gsh1の塩基配列を分析した結果、gsh1遺伝子がコードするGSH1タンパク質(配列番号1)の86番目のアミノ酸であるシステインがアルギニンに置換されていることが確認された。
【0126】
実施例1-3:グルタチオン生産能の向上のためのさらなる改良実験
CC02-2490菌株のグルタチオン生産能をさらに改善するために、次の方法で突然変異を誘導した。
【0127】
CC02-2490菌株を固体培地に培養し、その後brothに接種して培養液を得て、UVランプを用いて菌体にUVを照射した。その後、UV照射した培養液を平板培地に塗抹し、コロニーを形成した変異菌株のみ分離して回収し、グルタチオン生産能が最も大きく向上した菌株を分離し、CC02-2544菌株と命名した。それをブダペスト条約上の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(Korean CultureCenter of Microorganisms, KCCM)に2020年2月20日付けで受託番号KCCM12674Pとして寄託した。
【0128】
前記CC02-2544菌株のグルタチオン生産能の向上に関連して、グルタチオン生合成遺伝子gsh1の塩基配列を分析した結果、GSH1 ORFの上流の-250(C→T)、-252(G→A)、-398(A→T)、-399(A→C)、-407(T→C)、-409(T→C)の位置において変異が起こったことが確認された(配列番号12)。
【実施例2】
【0129】
グルタチオン生産能の向上のためのCC02-2544菌株のさらなる改良実験
CC02-2544菌株のグルタチオン生産能をさらに改善するために、次の方法で突然変異を誘導した。
【0130】
CC02-2544菌株を固体培地に培養し、その後brothに接種して培養液を得て、UVランプを用いて菌体にUVを照射した。その後、UV照射した培養液を平板培地に塗抹し、コロニーを形成した変異菌株のみ分離して回収し、塩基配列を分析した。
【0131】
実験の結果、グルタチオン含有量が27%向上した菌株のグルタチオン生合成遺伝子gsh1がコードするタンパク質であるGSH1の653番目のアミノ酸(グリシン)がメチオニンに置換されていることが確認された。この菌株をCC02-2816と命名し、ブダペスト条約上の受託機関である韓国微生物保存センターに2020年12月8日付けで受託番号KCCM12891Pとして寄託した。
【実施例3】
【0132】
GSH1 G653残基の変異実験
実施例2の結果から、GSH1タンパク質の653番目の位置がグルタチオン生産に重要であると判断し、GSH1タンパク質の653番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された変異タンパク質を発現するようにサッカロマイセス・セレビシエ(S. cerevisiae)CEN.PK2-1D及びCC02-2544菌株の変異菌株を作製し、グルタチオン生産量が増加するか否かを確認した。なお、前述したように、CC02-2544菌株は、GSH1 C86R変異株においてGSH1 ORFの上流の-250(C→T)、-252(G→A)、-398(A→T)、-399(A→C)、-407(T→C)、-409(T→C)の位置に変異のある菌株であり、当該菌株には、GSH1タンパク質の653番目のアミノ酸の変異をさらに導入した。
【0133】
サッカロマイセス・セレビシエ酵母のGSH1タンパク質の653番目のアミノ酸をメチオニンに置換した菌株を作製するために、非特許文献17に開示された内容を参考とし、pWAL100及びpWBR100プラスミドを用いた。具体的には、CJ-5菌株のgenomic DNAを鋳型(template)とし、次のようにPCRを行った。配列番号4と配列番号5のプライマーを用いたPCRを行い、N-terminal BamHI flanking配列、GSH1 ORFの開始コドン、及びG653M変異コード配列を含むGSH1 N-terminalの一部の配列を確保し、配列番号6と配列番号7のプライマーを用いて、C-terminal XhoI flanking配列、GSH1 ORFの終止コドン、及びG653M変異コード配列を含むGSH1 C-terminalの一部の配列を確保した。その後、その2つの配列を鋳型(template)とし、配列番号4と配列番号7を用いてoverlap PCRを行った結果、653番目のアミノ酸がメチオニンに置換されたGSH1変異タンパク質コード配列、N-terminal BamHI、C-terminal XhoI制限酵素配列を含むGSH1 ORF断片が確保された。前記ORF断片は、BamHI及びXhoI処理後に、同じ酵素で処理したpWAL100ベクターにクローニングし、pWAL100-GSH1(G653M)ベクターを作製した。
【0134】
また、CJ-5菌株のgenomic DNAをtemplateとし、配列番号8と配列番号9を用いたPCRを行い、N-terminal SpeI、C-terminal NcoI制限酵素配列を含むGSH1 ORFの終止コドン後の500bp断片を確保し、SpeI、NcoI制限酵素で処理した。その後、同じ制限酵素で処理したpWBR100にクローニングし、pWBR100-GSH1ベクターを作製した。
【0135】
最終的に酵母に導入するDNA断片を作製するために、前述したように作製したpWAL100-GSH1(G653M)ベクターを鋳型(template)とし、配列番号4と配列番号10のプライマーを用いて、メチオニン変異コード配列とKlURA3の一部を含むPCR産物を得て、pWBR100-GSH1ベクターを鋳型(template)とし、配列番号11と配列番号9のプライマーを用いて、KlURA3の一部とGSH1の終止コドン後の500bpを含むPCR産物を得て、その後各PCR産物を同じモル比でS.cerevisiae CEN.PK2-1D及びS.cerevisiae CC02-2544に形質転換した。PCRは、95℃で熱変性過程5分間、53℃で結合過程1分間、72℃で重合過程1kb当たり1分間の条件で行い、酵母の形質転換には、非特許文献18を変形した酢酸リチウム法(Lithium acetate method)を用いた。具体的には、O.D.0.7~1.2の間の酵母細胞を酢酸リチウム/TE bufferで2回洗浄し、その後上記PCR産物とsingle stranded DNA(Sigma D-7656)を混合し、酢酸リチウムate/TE/40%PEG bufferで、30℃で30分間、42℃で15分間静置培養し、次いでウラシル(Uracil)を含まないSC(2%glucose)agar plateでコロニーが形成されるまでcellを培養し、GSH1 G653M変異コード配列とKlURA3遺伝子を導入した菌株を得た。その後、KlURA3を除去するために、各菌株を2mlのYPDにovernight培養し、次いで1/100に希釈し、0.1%の5-FOAを含むSC(2%glucose)agar plateに塗抹し、ウラシル(Uracil)マーカーを除去したS.cerevisiae CEN.PK2-1D GSH1 G653M変異菌株及びS.cerevisiae CC02-2544 GSH1 G653M変異菌株を作製した。メチオニン以外の他の種類のアミノ酸に置換したGSH1変異タンパク質を発現する菌株も、配列番号5及び配列番号6のプライマー配列上の653番目のメチオニンコード配列を他のアミノ酸をコードする配列に置換したプライマー対を用いた点を除いて、同様に作製した。
【0136】
【表1】
【0137】
前述したように作製した各菌株を26時間培養して生産したグルタチオン(GSH)の濃度及び含有量を測定した結果を表2及び表3に示す。CC02-2544菌株にGSH1 G653M変異をさらに導入(配列番号13)した結果、GSHの濃度が471.5mg/Lから548.5mg/Lに77mg/L増加し、CEN.PK-1D菌株にGSH1 G653M変異(配列番号3)を導入した結果、GSHの濃度が42mg/Lから100mg/Lに58mg/L増加した。
【0138】
実施例3-1:CC02-2544菌株へのGSH1 G653変異の導入
【0139】
【表2】
【0140】
実施例3-2:CEN.PK-1D菌株へのGSH1 G653変異の導入
【0141】
【表3】
【0142】
これらの結果から、GSH1タンパク質の653番目のグリシンをメチオニンに置換したGSH1変異体がグルタチオン生産能を大幅に向上させることが分かる。
【0143】
よって、本出願で見出した新規なGSH1変異体がグルタチオン生産量の増加をもたらすものであることが確認された。また、本出願のGSH1変異体を含み、グルタチオンを高生産する酵母、その乾燥物、抽出物、培養物、破砕物及び生産されたグルタチオンは、抗酸化効果、解毒効果、免疫力増強効果を有するので、化粧品用組成物、食品用組成物、飼料用組成物、医薬品組成物及びそれらの製造に有用である。
【0144】
参考例:GSH1タンパク質のC86残基の置換実験
GSH1タンパク質の86番目のシステインアミノ酸が他のアミノ酸に置換された変異タンパク質を発現するように、サッカロマイセス・セレビシエ(S. cerevisiae)CEN.PK2-1D及びサッカロマイセス・セレビシエ(S. cerevisiae)CJ-5菌株の変異菌株を作製し、グルタチオン生産量が増加するか否かを確認した。
【0145】
サッカロマイセス・セレビシエのGSH1タンパク質の86番目のシステインをアルギニンに置換した菌株を作製するために、非特許文献17に開示された内容を参考とし、pWAL100及びpWBR100プラスミドを用いた。具体的には、CJ-5菌株のgenomic DNAを鋳型(template)とし、次のようにPCRを行った。配列番号4と配列番号14のプライマーを用いたPCRを行い、N-terminal BamHI flanking配列、GSH1 ORFの開始コドン、及びC86R変異コード配列を含むGSH1 N-terminalの一部の配列を確保し、配列番号15と配列番号7のプライマーを用いて、C-terminal XhoI flanking配列、GSH1 ORFの終止コドン、及びC86R変異コード配列を含むGSH1 C-terminalの一部の配列を確保した。その後、その2つの配列を鋳型(template)とし、配列番号4と配列番号7を用いてoverlap PCRを行った結果、86番目のシステインがアルギニンに置換されたGSH1変異タンパク質コード配列、N-terminal BamHI、C-terminal XhoI制限酵素配列を含むGSH1 ORF断片が確保された。前記ORF断片は、BamHI及びXhoI処理後に、同じ酵素で処理したpWAL100ベクターにクローニングし、pWAL100-GSH1(C86R)ベクターを作製した。
【0146】
また、CJ-5菌株のgenomic DNAをtemplateとし、配列番号8と配列番号9のプライマーを用いたPCRを行い、N-terminal SpeI、C-terminal NcoI制限酵素配列を含むGSH1 ORFの終止コドン後の500bpを確保し、SpeI、NcoI制限酵素で処理した。その後、同じ制限酵素で処理したpWBR100にクローニングし、pWBR100-GSH1ベクターを作製した。
【0147】
最終的に酵母に導入するDNA断片を作製するために、前述したように作製したpWAL100-GSH1(C86R)ベクターを鋳型(template)とし、配列番号4と配列番号10のプライマーを用いて、アルギニン変異コード配列とKlURA3の一部を含むPCR産物を得て、pWBR100-GSH1ベクターを鋳型(template)とし、配列番号11と配列番号9のプライマーを用いて、KlURA3の一部とGSH1の終止コドン後の500bpを含むPCR産物を得て、その後各PCR産物を同じモル比でS.cerevisiae CEN.PK2-1D及びS.cerevisiae CJ-5に形質転換した。PCRは、95℃で熱変性過程5分間、53℃で結合過程1分間、72℃で重合過程1kb当たり1分間の条件で行い、酵母の形質転換には、非特許文献18を変形した酢酸リチウム法(Lithium acetate method)を用いた。具体的には、O.D.0.7~1.2の間の酵母細胞を酢酸リチウム/TE bufferで2回洗浄し、その後上記PCR産物とsingle stranded DNA(Sigma D-7656)を混合し、酢酸リチウムate/TE/40%PEG bufferで、30℃で30分間、42℃で15分間静置培養し、次いでウラシル(Uracil)を含まないSC(2%glucose)agar plateでコロニーが形成されるまでcellを培養し、GSH1 C86R変異コード配列とKlURA3遺伝子を導入した菌株を得た。その後、KlURA3を除去するために、各菌株を2mlのYPDにovernight培養し、次いで1/100に希釈し、0.1%の5-FOAを含むSC(2%glucose)agar plateに塗抹し、ウラシル(Uracil)マーカーを除去したS.cerevisiae CEN.PK2-1D GSH1 C86R変異菌株及びS.cerevisiae CJ-5 GSH1 C86R変異菌株を作製した。アルギニン以外の他のアミノ酸に置換したGSH1変異タンパク質を発現する菌株も、配列番号14及び配列番号15のプライマー配列上の86番目のアルギニンコード配列を他のアミノ酸をコードする配列に置換したプライマー対を用いた点を除いて、同様に作製した。
【0148】
【表4】
【0149】
前述したように作製した各菌株を26時間培養して生産したグルタチオン(GSH)の濃度を測定した結果を表5及び表6に示す。
【0150】
【表5】
【0151】
【表6】
【0152】
実験の結果、GSH1タンパク質の86番目のシステインを他のアミノ酸に置換すると、野生型GSH1タンパク質を含むものよりグルタチオン生産能が向上することが確認された。
【0153】
これらの結果から、GSH1タンパク質の86番目のシステインを他のアミノ酸に置換したGSH1変異体がグルタチオン生産能を大幅に向上させることが分かる。
【0154】
以上の説明から、本出願の属する技術分野の当業者であれば、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本出願には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
【配列表】
0007554359000001.app