(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】水分および酸素バリア性積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20240911BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20240911BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B9/00 A
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2023535498
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(86)【国際出願番号】 KR2021019725
(87)【国際公開番号】W WO2022154305
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】10-2021-0004783
(32)【優先日】2021-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518215493
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ジェ イル
(72)【発明者】
【氏名】パク,チャン ウォン
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-178805(JP,A)
【文献】国際公開第2019/021759(WO,A1)
【文献】特開2020-049942(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0036833(US,A1)
【文献】国際公開第2015/163413(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/065264(WO,A1)
【文献】特開2005-097560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/40-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性基材の一面上に、順次形成された無機バリア層および保護層を含み、
前記光透過性基材はポリエチレンテレフタレートフィルムであり、
前記ポリエチレンテレフタレートフィルムは、面内のレターデーション(Re)値が120~300nmであり、
前記ポリエチレンテレフタレートフィルムは、厚さ方向のレターデーション(R
th
)値が100nm以上1,000nm以下であり、
前記ポリエチレンテレフタレートフィルムについての、面内遅相軸方向の屈折率(n
x
)と、面内進相軸方向の屈折率(n
y
)との差(n
x
-n
y
)が0.010~0.030であり、
前記ポリエチレンテレフタレートフィルムについて、150℃で30分間維持させた後、ASTM D 2305の規格にしたがい測定した、縦方向(MD)の収縮率が0.5%~2.0%であり、幅方向(TD)の収縮率が0.0%~1.0%であり、
前記保護層上に、ナイロンフィルムおよび未延伸ポリプロピレンフィルムがさらに形成され、
135℃の温度での、1時間の間のレトルト処理の前後における水分透過度(WVTR)の変化量が、1.00g/m
2*day以下である、水分および酸素バリア性積層体。
【請求項2】
光透過性基材の一面上に、順次形成された無機バリア層および保護層を含み、
前記光透過性基材はポリエチレンテレフタレートフィルムであり、
前記ポリエチレンテレフタレートフィルムは、面内のレターデーション(Re)値が120~300nmであり、
前記ポリエチレンテレフタレートフィルムは、厚さ方向のレターデーション(R
th
)値が100nm以上1,000nm以下であり、
前記ポリエチレンテレフタレートフィルムについての、面内遅相軸方向の屈折率(n
x
)と、面内進相軸方向の屈折率(n
y
)との差(n
x
-n
y
)が0.010~0.030であり、
前記ポリエチレンテレフタレートフィルムについて、150℃で30分間維持させた後、ASTM D 2305の規格にしたがい測定した、縦方向(MD)の収縮率が0.5%~2.0%であり、幅方向(TD)の収縮率が0.0%~1.0%であり、
前記保護層上に、ナイロンフィルムおよび未延伸ポリプロピレンフィルムがさらに形成され、
ゲルボ(Gelbo)フレックステスターを用いて、捩れ50回を繰り返した前後における水分透過度(WVTR)の変化量が、0.70g/m
2*day以下である、水分および酸素バリア性積層体。
【請求項3】
前記積層体に対して、135℃の温度での、1時間の間のレトルト処理の前後における酸素透過度(OTR)の変化量が、0.50cc/m
2*day以下である、請求項1または2に記載の水分および酸素バリア性積層体。
【請求項4】
前記積層体に対して、ゲルボ(Gelbo)フレックステスターを用いて捩れ50回を繰り返した前後における水分透過度(WVTR)の変化量が、0.70g/m
2*day以下である、請求項1に記載の水分および酸素バリア性積層体。
【請求項5】
前記積層体に対して、ゲルボ(Gelbo)フレックステスターを用いて捩れ50回を繰り返した前後における酸素透過度(OTR)の変化量が、1.00cc/m
2*day以下である、請求項1または2に記載の水分および酸素バリア性積層体。
【請求項6】
前記ポリエチレンテレフタレートフィルムに対して、幅方向に100mmの間隔で測定された、面内のレターデーション(Re)についての、平均値は120~300nmであり、標準偏差は7.0~15.0である、請求項
1に記載の水分および酸素バリア性積層体。
【請求項7】
前記無機バリア層は、酸化ケイ素、酸化窒化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、および窒化アルミニウムからなる群より選ばれた1種以上の無機物からなる、請求項1または2に記載の水分および酸素バリア性積層体。
【請求項8】
前記保護層は、アルキド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂およびイソシアネート樹脂からなる群より選ばれた一つ以上の樹脂を含む、請求項1または2に記載の水分および酸素バリア性積層体。
【請求項9】
前記光透過性基材は5μm~100μmの厚さを有する、請求項1または2に記載の水分および酸素バリア性積層体。
【請求項10】
前記無機バリア層は1nm~200nmの厚さを有する、請求項1または2に記載の水分および酸素バリア性積層体。
【請求項11】
前記保護層は1nm~1000nmの厚さを有する、請求項1または2に記載の水分および酸素バリア性積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願との相互引用]
本出願は、2021年1月13日付韓国特許出願第10-2021-0004783号に基づく優先権の利益を主張するのであり、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は、本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、水分および酸素バリア性の積層体に関する。
【背景技術】
【0003】
プラスチック基材の表面に、酸化アルミニウムなどの無機薄膜を形成したバリア性積層体は、食品、電子素子など多様な物品の包装用途に適用されている。
【0004】
特に、食品包装用バリア性積層体は、食品を高温で殺菌するレトルト工程や、折り曲げなどの変形が加えられる場合、層間の分離または破れによりバリア性が劣化するという問題がある。
【0005】
そこで、レトルト熱処理や折り曲げなどの変形が加えられる場合にも優れたバリア性を維持できる積層体が必要なのが実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、食品を高温で殺菌するレトルト工程や、ゲルボフレックステストを行った後にも、水分および酸素透過度に優れたバリア性積層体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本発明の実施形態による水分および酸素バリア性の積層体について説明する。
【0008】
本明細書で特に定義されない限り、すべての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する通常の技術者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本発明で説明に使用される用語は、単に、特定の具体例を効果的に記述するためであり、本発明を制限することを意図しない。
【0009】
本明細書で使用される単数形は、文脈上明らかに反する意味を示さない限り複数形も含む。
【0010】
本明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、定数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特定の特性、領域、定数、段階、動作、要素、成分および/または群の存在や付加を除外させるものではない。
【0011】
本発明は、多様な変更を加えることができ、様々な形態を有することができるため、特定の実施例を例示して下記で詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の開示形態について限定しようとするものではなく、前記思想および技術範囲に含まれるすべての変更、均等物ないし代替物を含むものとして理解しなければならない。
【0012】
本明細書で、例えば「~上に」、「~上部に」、「~下部に」、「~隣に」などでもって、二つの部分の位置関係が説明される場合、「すぐに」または「直接」という表現が使用されない限り、二つの部分の間に一つ以上の他の部分が位置し得る。
【0013】
本明細書で、例えば「~後に」、「~に続いて」、「~次に」、「~前に」などでもって、時間的な前後関係が説明される場合、「すぐに」または「直接」という表現が使用されない限り、連続的でない場合も含むことができる。
【0014】
本明細書で「少なくとも一つ」の用語は、一つ以上の関連項目から提示可能なすべての組み合わせを含むものとして理解しなければならない。
【0015】
発明の一実施形態によれば、光透過性基材の一面上に順次形成された無機バリア層および保護層を含み、135℃の温度で1時間の間のレトルト処理前後の水分透過度(WVTR)の変化量が1.00g/m2*day以下である、水分および酸素バリア性積層体が提供される。
【0016】
本発明者らの継続的な研究の結果、水分および酸素バリア性の積層体が光透過性基材の一面上に順次に形成された無機バリア層および保護層を含み、135℃の温度での、1時間の間のレトルト処理の前後における水分透過度(WVTR)の変化量が、1.00g/m2*day以下、0.80g/m2*day以下、0.60g/m2*day以下、0.50g/m2*day以下、または0.01~0.40g/m2*dayである場合、食品を高温で殺菌するレトルト工程だけでなく、ゲルボフレックステストを行った後にも、水分および酸素の透過度が良好に維持され、優れた層間密着性を示すことが確認された。
【0017】
また、発明の他の実施形態によれば、光透過性基材の一面上に順次に形成された無機バリア層および保護層を含み、ゲルボ(Gelbo)フレックステスターを用いて、捩れ50回を繰り返した前後における水分透過度(WVTR)の変化量が、0.70g/m2*day以下である、水分および酸素バリア性の積層体が提供される。
【0018】
前記水分および酸素バリア性の積層体に対して、ゲルボ(Gelbo)フレックステスターを用いて、捩れ50回を繰り返した前後における水分透過度(WVTR)の変化量が、0.70g/m2*day以下、0.68g/m2*day以下、0.65g/m2*day以下、または0.01~0.62g/m2*dayであり得る。また、このような水分透過度を満たすことによって、ゲルボフレックステストを行った後にも、水分および酸素の透過度が良好に維持され、優れた層間密着性を示すことができる。
【0019】
また、前記水分および酸素バリア性の積層体に対する、135℃の温度での、1時間の間のレトルト処理の前後における酸素透過度(OTR)の変化量が、0.50cc/m2*day以下、0.40cc/m2*day以下、0.30cc/m2*day以下、または0.01~0.25cc/m2*dayであり得る。
【0020】
前記水分および酸素バリア性の積層体に対して、ゲルボ(Gelbo)フレックステスターを用いて、捩れ50回を繰り返した前後における酸素透過度(OTR)の変化量が、1.00cc/m2*day以下、0.90cc/m2*day以下、0.80cc/m2*day以下、0.70cc/m2*day以下または0.01~0.65cc/m2*dayであり得る。
【0021】
前記水分および酸素バリア性の積層体は、上述した数値範囲を満たすことによって食品を高温で殺菌するレトルト工程およびゲルボフレックステストを行った後にも、水分および酸素の透過度が高く維持され、優れた層間密着性を示すことができる。
【0022】
前記水分透過度および酸素透過度の変化量は、光透過性基材の種類、面内のレターデーション(Re)、収縮率または保護層の組成などによって制御されるが、これに限定されるものではない。
【0023】
また、前記レトルト処理は、例えば、レトルト評価装備(KYUNGHAN社PRS-03-IH)を用いて、135℃での1時間の間の殺菌を行う方法で処理され得る。
【0024】
また、前記ゲルボフレックステストは、ケルボフレックステスター(モデル名:G0005,製造会社:IDM Instruments)を用いて、ASTM F392の標準試験法にしたがってテストを行い得る。例えば、前記水分および酸素バリア性の積層体を、ケルボフレックステスターのマンドレルに取り付け、テスト設定は、ストロークの最初の90mmにて440度の捩れ動作を提供して65mmの直線水平動作が続くようにするとともに、曲げる動作の速度は、分当り50サイクルに設定して、50サイクルでストロークすることができる。
【0025】
さらに、前記レトルト処理およびゲルボフレックステストの前後における水分透過度は、水分透過度分析器(モデル名:AQUATRAN 2 WVTR Analyzer、製造会社:Mocon)を用いて、ASTM F1249の標準試験法にしたがい40℃および相対湿度90%の条件下で行われ得る。
【0026】
また、前記レトルト処理およびゲルボフレックステストの前後における酸素透過度は、酸素透過度分析器(モデル名:OX-Tran 2/21 OTR Analyzer、製造会社:Mocon)を用いてASTM D3985の標準試験法にしたがい、23℃および相対湿度0%の条件下で行われ得る。
【0027】
発明の一実施形態による前記水分および酸素バリア性の積層体は、光透過性基材の一面上に順次に形成された無機バリア層および保護層を含む構造を有することができる。
【0028】
また、前記水分および酸素バリア性の積層体は、前記光透過性基材の両面上に、それぞれ順次に形成された無機バリア層および保護層を含む構造を有することができる。
【0029】
発明の一実施形態による前記水分および酸素バリア性の積層体に含まれた光透過性基材は、透明性と柔軟性を有するプラスチックフィルムであり得る。
【0030】
前記光透過性基材は、300nm以上の波長で透過率が50%以上、70%以上、80%以上、または90%以上であり得る。
【0031】
具体的には、前記光透過性基材は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリカーボネート(PC)、およびポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)からなる群より選ばれた1種以上の高分子を含むプラスチックフィルムであり得る。
【0032】
これらの中でもポリエチレンテレフタレートフィルムは、透明性と柔軟性を兼ね備えながらも強度に優れることから、前記光透過性基材として好適に適用することができる。
【0033】
前記ポリエチレンテレフタレートフィルムは、例えば、面内のレターデーション(Re)値が120~300nm、130~280nm、140~250nm、または150~200nmであり得る。前記ポリエチレンテレフタレートフィルムが、上述した面内のレターデーション値を満たさない場合は、レトルト工程やゲルボフレックステストを行った後における積層体の水分透過度、酸素透過度および接着力の特性が、急激に劣化し得る。
【0034】
前記ポリエチレンテレフタレートフィルムは、例えば、厚さ方向のレターデーション(Rth)値が、100nm以上1,000nm以下、200nm以上800nm以下、300nm以上700nm以下、400nm以上600nm以下であり得る。前記ポリエチレンテレフタレートフィルムが、上述した厚さ方向のレターデーション値を満たさない場合は、レトルト工程やゲルボフレックステストを行った後における積層体の水分透過度、酸素透過度および接着力の特性が、急激に劣化し得る。
【0035】
前記レターデーションは、ポリエチレンテレフタレートフィルムの面内にて最も屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)、前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)、ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚さ方向の屈折率(nz)、および前記ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚さd(単位:nm)を、下記数式1および2に、それぞれに代入して計算したものであり得る。
【0036】
[数式1]
Re=(nx-ny)Хd
【0037】
[数式2]
Rth=(nz-ny)Хd
【0038】
また、このようなレターデーションは、例えば、位相差測定器(KOBRA-WPR、測定波長:590nm)を用いて測定された値であり得る。
【0039】
または、前記ポリエチレンテレフタレートフィルムの配向軸方向として備えられており、配向軸方向に対して直交する二つの軸屈折率(nx,ny)を、Abbe式屈折率系(NAR-4T)により求める。ここで、より大きい屈折率を示す軸を遅相軸と定義する。また、前記ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚さを、例えば電気マイクロメーターを用いて測定し、先に得た屈折率を用いて屈折率差(nx-ny)を算出し、この屈折率差(nx-ny)と、ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚さd(nm)との積によってレターデーション(Re)を求めることができる。
【0040】
前記ポリエチレンテレフタレートフィルムの屈折率差(nx-ny)は、0.010~0.030、0.013~0.028または0.015~0.025であり得る。前記ポリエチレンテレフタレートフィルムが上述した屈折率差(nx-ny)を満たさない場合は、レトルト工程やゲルボフレックステストを行った後における積層体の水分透過度、酸素透過度および接着力の特性が、急激に劣化し得る。
【0041】
また、このようなレターデーションは、前記ポリエチレンテレフタレートフィルムを、幅方向(TD)の長さが全幅である帯形状の試験片を切り出した後、幅方向に100mmの間隔で10個の測定点にて、550nmにおける面内のレターデーション(Re)および厚さ方向のレターデーション(Rth)を、それぞれ測定することができる。
【0042】
ここで、前記ポリエチレンテレフタレートフィルムに対して幅方向に100mmの間隔で測定された面内のレターデーション(Re)の平均値は、120~300nm、130~280nm、140~250nm、または150~200nmであり得る。また、上述した各測定点にて測定された面内のレターデーション(Re)の標準偏差は、7.0~15.0、8.0~14.0、9.0~12.0、9.5~11.0、または10.0~10.3であり得る。
【0043】
また、前記ポリエチレンテレフタレートフィルムに対して、幅方向に100mmの間隔で測定された厚さ方向のレターデーション(Rth)の平均値は、200nm以上900nm以下、300nm以上800nm以下、350nm以上600nm以下、400nm以上550nm以下であり得る。また、上述した各測定点にて測定された厚さ方向のレターデーション(Rth)の標準偏差は、10.0~40.0、15.0~35.0、20.0~30.0または25.0~30.0であり得る。
【0044】
一方、前記ポリエチレンテレフタレートフィルムは、150℃で30分間維持させた後ASTM D 2305規格にしたがい測定した、縦方向(MD)の収縮率が、0.5%~2.0%、0.7%~1.8%、または1.0%~1.5%であり得る。また、幅方向(TD)の収縮率は、0.0%~1.0%、0.0%~0.8%、または0.0%~0.5%であり得る。
【0045】
前記ポリエチレンテレフタレートフィルムは、縦方向(MD)および幅方向(TD)で上述した収縮率を満たさない場合は、レトルト工程やゲルボフレックステストを行った後における積層体の水分透過度、酸素透過度および接着力の特性が急激に劣化し得る。
【0046】
前記縦方向(MD)の収縮率および幅方向(TD)の収縮率は、150℃状態の条件が維持されている熱風オーブンに30分間放置した後のサイズ変化をASTM D 2305規格に準拠して測定し、収縮率は下記の式により計算することができる。
【0047】
収縮率(%)=(熱処理前のフィルムの長さ-150℃で30分間維持させた後のフィルムの長さ)/熱処理前のフィルムの長さ×100
【0048】
前記光透過性基材は、5μm~300μm、5μm~250μm、あるいは10μm~250μm、あるいは10μm~200μm、あるいは10μm~150μm、あるいは10μm~100μm、あるいは10μm~50μmの厚さを有することができる。基材としての適切な強度が発現できるようにするために、前記光透過性基材の厚さは5μm以上であることが好ましい。ただし、基材が過度に厚い場合は、柔軟性が低下し得る。したがって、前記光透過性基材の厚さは、300μm以下であることが好ましい。
【0049】
前記光透過性基材は、その表面のぬれ性または前記無機バリア層との密着性などを向上させるために、表面処理されたものであり得る。非制限的な例として、前記表面処理は、プラズマ処理、コロナ処理、グロー放電処理などであり得る。
【0050】
一方、前記無機バリア層は、無機物からなる薄膜であって、前記光透過性基材の一面上に積層される。
【0051】
前記無機バリア層は、透明であり、前記水分および酸素バリア性積層体が水分および酸素バリア性を示すようにすることができる。
【0052】
このような無機バリア層は、酸化ケイ素、酸化窒化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、および窒化アルミニウムからなる群より選ばれた1種以上の無機物からなる。
【0053】
前記無機バリア層は、1nm~200nm、1nm~150nm、あるいは5nm~150nm、あるいは5nm~100nm、あるいは10nm~100nmの厚さを有することができる。バリア層としての適切な物性が発現できるようにするために、前記無機バリア層の厚さは1nm以上であることが好ましい。ただし、前記無機バリア層が過度に厚い場合、応力によるカールが発生するか、わずかな折り曲げによっても亀裂が発生し得る。したがって、前記無機バリア層の厚さは、200nm以下であることが好ましい。
【0054】
前記無機バリア層は、通常の方法により前記光透過性基材上に形成されうるのであり、例えば、前記無機バリア層の積層方法としては、物理気相蒸着(PVD)または化学気相蒸着(CVD)より適切な方法を選択することができる。
【0055】
好ましくは、前記無機バリア層の積層方法としては、熱蒸着(thermal evaporation)および電子ビーム蒸着(electron-beam evaporation)といった蒸発法(evaporation);またはスパッタリング(sputtering)を選択することができる。
【0056】
一例として、前記蒸発法は、最も基本的な薄膜形成方法で、金属および非金属のソースを加熱、蒸発させて温度が低い状態の基材の表面に凝縮させて薄膜を形成する方法である。発明の一実施様態によれば、前記蒸発法のうちで熱蒸着が、前記無機バリア層の積層方法として好ましく選択されうる。前記熱蒸着は、初期真空度10-4torr程度の蒸気圧が求められ、蒸発しようとするソースを載せたボート(boat)に電気を流し、このボートで発生する抵抗熱を用いて前記ソースを加熱する方式の蒸着法である。前記熱蒸着での蒸着速度は、フィラメントに供給される電流量を調節することで変化させることができる。また、反応性ガス(酸素ガス)を入れて反応することで酸化膜(AlOx,SiOxなど)を形成することができる。
【0057】
他の一例として前記スパッタリングは、再現性に優れ、緻密な薄膜を大面積に容易に形成できるため好ましく用いられる。好ましくは、前記無機バリア層の積層方法としては、前記無機物であるターゲットと、反応性酸素(例えば酸素)とを使用する反応性スパッタリング(reactive sputtering)が用いられる。前記反応性スパッタリングでは、システム内にプラズマ発生ガスであるアルゴン(Ar)の他に、前記反応性ガスを追加で入れる。前記反応性スパッタリングでは、プラズマ放出モニター(plasma emissionmonitor)、マスフローコントローラ(mass flow controller)などの装置を用いて、システム内の前記反応ガスの量を精密に制御することが好ましい。形成しようとする無機薄膜の化学量論比が合わなければならないからである。前記反応ガスの導入量を調整することによって、安定した成膜が可能であり、優れたバリア性を有する前記無機バリア層が形成されうる。
【0058】
一方、前記保護層は、前記無機バリア層に積層される。前記保護層は、折り曲げなどの変形による前記無機バリア層の亀裂や層間の分離を最小化することができる。
【0059】
前記保護層は、アルキド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂およびイソシアネート樹脂からなる群より選ばれた一つ以上の樹脂を含むことができる。
【0060】
また、前記保護層は、前記無機バリア層との接着力を向上させ得るシランカップリング剤がさらに含まれ得る。
【0061】
前記保護層は、本発明が属する技術分野における通常的な方法によって、前記無機バリア層上に形成されうる。
【0062】
一例として、前記保護層の積層方法は、湿式コート法が選択され得る。具体的には、前記湿式コート法としてはバーコート法、スピンコート法、ローラーコート法、噴霧コート法、エアーナイフコート法、フローコート法、カーテンコート法、ダイレクトグラビアコート法、スリットリバースコート法などを適用することができる。
【0063】
他の一例として、前記保護層は、接着剤または接着フィルムを使用して前記無機バリア層上に積層することができる。
【0064】
前記保護層は、1nm~1000nm、5nm~1000nm、あるいは5nm~800nm、あるいは10nm~800nm、あるいは50nm~700nm、あるいは100nm~700nm、あるいは200nm~600nm、あるいは400nm~600nmの厚さを有することができる。保護層としての適切な物性が発現できるようにするために、前記保護層の厚さは、1nm以上であることが好ましい。ただし、前記保護層が過度に厚い場合、柔軟性が低下し、応力によるカールが発生し得る。したがって、前記保護層の厚さは、1000nm以下であることが好ましい。
【0065】
前記一実施形態による水分および酸素バリア性積層体は、前記保護層上にナイロンフィルムおよび未延伸ポリプロピレンフィルムからなる群で一つ以上のフィルムがさらに形成されることができる。
【0066】
前記ナイロンフィルムは、二軸延伸ナイロンフィルムであり得るのであって、前記水分および酸素バリア性の積層体の耐衝撃性を補完することができる。また、前記未延伸ポリプロピレンフィルムは、前記積層体の耐熱性を補完することができる。
【0067】
例えば、前記水分および酸素バリア性の積層体は、保護層上に未延伸ポリプロピレンフィルムのみが形成されるか、前記保護層上にナイロンフィルムおよび未延伸ポリプロピレンフィルムが順次形成されうるのであり、これらの層同士の間の結合は、ウレタン接着剤などで接着されて形成されうる。
【0068】
前記一実施形態による水分および酸素バリア性の積層体は、食品包装材として使用することができる。また、前記積層体は、液晶表示素子、太陽電池、タッチパネル、有機EL素子、有機TFT、有機半導体センサ、有機発光デバイス、フィルムコンデンサ、無機EL素子、およびカラーフィルタといった各種電子素子に適用されるか、前記電子素子の包装材として使用することができる。
【発明の効果】
【0069】
本発明による水分および酸素バリア性の積層体は、食品を高温で殺菌するレトルト工程やゲルボフレックステストを行った後にも、優れた層間密着性を維持しながらも、優れた水分および酸素バリア性を示すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0070】
以下、発明の理解を深めるために好ましい実施例が提示される。しかし、下記の実施例は本発明を例示するためであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0071】
<実施例1>
(1)保護層形成用組成物の製造
ウレタン樹脂(三井化学社製、タケラックWPB-341A)、純水およびイソプロピルアルコールを、30:55:15の重量比で混合して保護層形成用組成物を製造した。
【0072】
(2)接着剤製造
ポリエステル系2液型接着剤である、主剤成分(製品名:TM-585-60K、固形分60重量%)、硬化剤成分(製品名:CAT-10,固形分75重量%)および酢酸エチルを、36:4:60の重量比で混合して接着剤を製造した。
【0073】
(3)水分および酸素バリア性積層体の製造
光透過性基材として、下記表1のポリエチレンテレフタレート(PET1)フィルムを準備した。アルミニウムターゲットが備えられた熱蒸着装備を用いて、前記PET1フィルム上に、酸化アルミニウムを厚さ10nmで蒸着して無機バリア層を形成した。前記無機バリア層上に、メーヤバー(Mayer-Bar;ワイヤーバー(WIRE BAR))を用いて前記保護層形成用組成物を乾燥塗布量が0.5g/m2になるように塗布した後、100℃で12秒間乾燥して、厚さ500nmの保護層を形成した。
【0074】
前記保護層上に、前記接着剤を3μmの厚さで塗布した後に、100℃で20秒間乾燥し、乾燥された接着剤コーティング面に、15μmの厚さのナイロンフィルム(KOLON社CNH-02)を、ラミネート機を用いてラミネート(合紙)した。前記ナイロンフィルム上に前記接着剤を3μmの厚さに塗布した後、100℃で20秒間乾燥し、乾燥された接着剤コーティング面に、70μmの厚さの未延伸ポリプロピレン(FILMAX社CPR-HS)フィルムを、ラミネート機を用いてラミネート(合紙)することで、水分および酸素バリア性の積層体を製造した。
【0075】
<比較例1~3>
PET1フィルムの代わりに、下記表1のPET2~PET4フィルムのうちの一つを使用したことを除いては、実施例1と同一の方法で、水分および酸素バリア性の積層体を製造した。
【0076】
一方、下記表1における収縮率および面内のレターデーション(Re)の測定方法は、下記のとおりである。
【0077】
(a)収縮率測定
実施例および比較例のそれぞれで使用したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムについての、縦方向(MD)の収縮率および幅方向(TD)の収縮率は、ASTM D 2305規格にしたがい測定した。
【0078】
具体的には、ポリエチレンテレフタレートフィルムを、横200mm、縦200mmの規格で切断した後、150℃の状態の条件が維持されている熱風オーブンにて30分間放置した後におけるサイズ変化を測定した。
【0079】
収縮率(%)=(熱処理前のフィルムの長さ-150℃で30分間維持させた後のフィルムの長さ)/熱処理前のフィルムの長さ×100
【0080】
(b)レターデーション測定
実施例および比較例のそれぞれで使用したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムから、縦方向(MD)の長さ50mm×幅方向(TD)の長さが全幅の、帯形状の試験片を切り出した。次に、平行ニコル回転方式位相差測定器(Oji Scientific Instruments社、KOBRA-WPR、日本)を用いて、幅方向に100mmの間隔で10個の測定点にて、590nmにおける、面内のレターデーション(Re)および厚さ方向のレターデーション(Rth)をそれぞれ測定し、面内のレターデーション(Re)および厚さ方向のレターデーション(Rth)についての平均および標準偏差を計算した。
【0081】
【0082】
<試験例>
(1)水分透過度評価
実施例および比較例の水分および酸素バリア性の積層体50cm2を、水分透過度分析器(モデル名:AQUATRAN 2 WVTR Analyzer、製造会社:Mocon)に取り付けた後、ASTM F1249の標準試験法にしたがい、40℃および相対湿度90%の条件下で、透過する水分の比率(g/m2*day)を測定した。
【0083】
(2)酸素透過度評価
実施例および比較例の水分および酸素バリア性の積層体50cm2を、酸素透過度分析器(モデル名:OX-Tran 2/21 OTR Analyzer、製造会社:Mocon)に取り付けた後、ASTM D3985の標準試験法にしたがい、23℃および相対湿度0%の条件下で、透過する酸素の比率(cc/m2*day)を測定した。
【0084】
(3)接着力評価
実施例および比較例の水分および酸素バリア性積層体にて、ナイロンフィルムおよび未延伸ポリプロピレンフィルムが形成されていない保護層上に、接着剤を3μmの厚さでドライコートした後、その上に未延伸ポリプロピレンフィルムのみを積層し、45℃で1日間エージングしてテストサンプルを準備した。
【0085】
剥離試験機(モデル名:AR-1000,製造会社:ChemInstruments)の測定板上に、両面テープを2枚貼り付けた後、幅1.5cmに切断した前記テストサンプルを貼り付け、ASTM D3330の標準試験法にしたがい180°ピール試験を実施して接着力(gf/15mm)を得た。
【0086】
(4)レトルト処理後の水分透過度、酸素透過度および接着力評価
前記実施例および比較例の水分および酸素バリア性の積層体に対して、レトルト処理を実施した。具体的には、レトルト評価装備(KYUNGHAN社PRS-03-IH)を用いて、135℃で1時間の間殺菌した。
【0087】
その後、レトルト処理した前記水分および酸素バリア性の積層体を回収して、前記(1)水分透過度評価、(2)酸素透過度評価および(3)接着力評価を再び評価した。
【0088】
(5)ゲルボフレックステスト後の水分透過度および酸素透過度評価
前記実施例および比較例の水分および酸素バリア性積層体に対してゲルボフレックステストを実施した。具体的には、ゲルボフレックステスター(モデル名:G0005,製造会社:IDM Instruments)を用いて、ASTM F392の標準試験法にしたがってテストを行い、前記水分および酸素バリア性の積層体をゲルボフレックステスターのマンドレルに貼り付け、テスト設定は、ストロークの最初の90mmで440度の捩れ動作を提供し、65mmの直線水平動作が続くようにした。この際、曲げる動作の速度は、分当り50サイクルに設定した。
【0089】
その後、ゲルボフレックステスト行った前記水分および酸素バリア性の積層体を回収して、前記(1)水分透過度評価および(2)酸素透過度評価について再び評価した。
【0090】
【0091】
前記表2を参照すると、前記実施例の水分および酸素バリア性の積層体は、初期の水分バリア性、酸素バリア性および接着力に優れるとともに、特に、レトルト処理およびゲルボフレックステストの前後における水分透過度、酸素透過度および接着力の変化量が顕著に少なく示されたことから、レトルト処理およびゲルボフレックステストを行った後にも、優れた層間密着性を維持しながらも、優れた水分および酸素バリア性を示すということを確認した。
【0092】
それに比べて、前記比較例の水分および酸素バリア積層体は、初期の水分バリア性、酸素バリア性および接着力が実施例に比べて劣るだけでなく、レトルト処理およびゲルボフレックステストの後にも、前記特性が急激に劣化したことを確認した。