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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/068 20120101AFI20240911BHJP
   B60W 30/02 20120101ALI20240911BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20240911BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
B60W40/068
B60W30/02
B60L7/14
B60L15/20 Y
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023536296
(86)(22)【出願日】2021-07-21
(86)【国際出願番号】 JP2021027338
(87)【国際公開番号】W WO2023002607
(87)【国際公開日】2023-01-26
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大黒 智寛
(72)【発明者】
【氏名】神部 芳幸
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-17182(JP,A)
【文献】特開2011-36062(JP,A)
【文献】特開2005-119647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
B60L 7/14
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられる車両用制御装置であって、
前輪に連結される1つ又は2つの前輪用モータを備える前輪駆動系と、
後輪に連結される2つの後輪用モータを備える後輪駆動系と、
互いに通信可能に接続されるプロセッサおよびメモリを備え、前記前輪駆動系および前記後輪駆動系を制御する制御システムと、
を有し、
前記制御システムは、コースト走行時において前輪スリップ率が開始閾値を上回る場合に、前記前輪用モータの回生トルクを前輪用初期トルクに向けて減少させる前輪スリップ抑制制御を実行し、
前記制御システムは、コースト走行時において前記前輪スリップ率が前記開始閾値を上回る場合に、前記後輪用モータの回生トルクを後輪用初期トルクに向けて減少させる後輪スリップ抑制制御を実行し、
前記制御システムは、前記後輪スリップ抑制制御が開始された状況のもとで、前記車両のヨーレートが挙動判定閾値を上回る場合に、左右に位置する前記2つの後輪用モータの少なくとも何れか一方の回生トルクを制御し、前記2つの後輪用モータの回生トルク差を拡大させる姿勢安定制御を実行する、
車両用制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用制御装置において、
前記制御システムは、前記後輪スリップ抑制制御が実行された状況のもとで、前記前輪スリップ率が前記開始閾値よりも小さな終了閾値を下回る場合に、車速に基づき設定される実行時間の経過後に前記後輪スリップ抑制制御を終了させる、
車両用制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用制御装置において、
前記制御システムは、前記前輪スリップ抑制制御において、前記前輪用モータの回生トルクを前記前輪用初期トルクに向けて減少させた後に、前記前輪用モータの回生トルクを調整して前記前輪スリップ率を前輪目標値に収束させ、
前記制御システムは、前記後輪スリップ抑制制御において、前記後輪用モータの回生トルクを前記後輪用初期トルクに向けて減少させた後に、前記後輪用モータの回生トルクを調整して後輪スリップ率を後輪目標値に収束させる、
車両用制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両用制御装置において、
前記制御システムは、前記姿勢安定制御において、前記2つの後輪用モータのうち、一方の前記後輪用モータの回生トルクを直近の値よりも減少させ、他方の前記後輪用モータの回生トルクを直近の値よりも増加させる、
車両用制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の車両用制御装置において、
前記制御システムは、走行路面が下り勾配である状況のもとで、前記前輪スリップ抑制制御、前記後輪スリップ抑制制御および前記姿勢安定制御を実行する、
車両用制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の車両用制御装置において、
前記制御システムは、車速が所定値を下回る状況のもとで、前記前輪スリップ抑制制御、前記後輪スリップ抑制制御および前記姿勢安定制御を実行する、
車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられる車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車等の車両として、複数の走行用モータを備えた車両が開発されている(特許文献1~3参照)。このように、複数の走行用モータを備える車両として、例えば、車輪毎に1つの走行用モータを設けるようにした車両がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-170086号公報
【文献】特開2005-349887号公報
【文献】特開2017-46494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、アクセル操作およびブレーキ操作が解除されるコースト走行時には、複数の走行用モータを回生状態に制御することが一般的である。ここで、圧雪路面や凍結路面等の低μ路においては、各車輪が接する路面の摩擦係数が不均一になることも多い。このため、各走行用モータの回生状態を一律に制御することは、一部の車輪スリップを招いて車両姿勢を不安定にする要因となっていた。
【0005】
本発明の目的は、コースト走行時の車両姿勢を安定させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態の車両用制御装置は、車両に設けられる車両用制御装置であって、前輪に連結される1つ又は2つの前輪用モータを備える前輪駆動系と、後輪に連結される2つの後輪用モータを備える後輪駆動系と、互いに通信可能に接続されるプロセッサおよびメモリを備え、前記前輪駆動系および前記後輪駆動系を制御する制御システムと、を有し、前記制御システムは、コースト走行時において前輪スリップ率が開始閾値を上回る場合に、前記前輪用モータの回生トルクを前輪用初期トルクに向けて減少させる前輪スリップ抑制制御を実行し、前記制御システムは、コースト走行時において前記前輪スリップ率が前記開始閾値を上回る場合に、前記後輪用モータの回生トルクを後輪用初期トルクに向けて減少させる後輪スリップ抑制制御を実行し、前記制御システムは、前記後輪スリップ抑制制御が開始された状況のもとで、前記車両のヨーレートが挙動判定閾値を上回る場合に、左右に位置する前記2つの後輪用モータの少なくとも何れか一方の回生トルクを制御し、前記2つの後輪用モータの回生トルク差を拡大させる姿勢安定制御を実行する。
【発明の効果】
【0007】
一実施形態の車両用制御装置は、後輪スリップ抑制制御が開始された状況のもとで、車両のヨーレートが挙動判定閾値を上回る場合に、左右に位置する2つの後輪用モータの少なくとも何れか一方の回生トルクを制御し、2つの後輪用モータの回生トルク差を拡大させる姿勢安定制御を実行する。これにより、コースト走行時の車両姿勢を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施の形態である車両用制御装置が設けられた車両の構成例を示す図
図2】車両用制御装置の構成例を示す図である。
図3】各制御ユニットの基本構造を簡単に示した図である。
図4】要求駆動力を示した駆動力マップの一例を示す図である。
図5】フロントモータの回生トルクを制御するフロントトルク制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
図6】フロントモータの回生トルクを制御するフロントトルク制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
図7】フロントトルク制御において実行されるスリップ維持制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
図8】リアモータの回生トルクを制御するリアトルク制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
図9】リアモータの回生トルクを制御するリアトルク制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
図10】リアトルク制御において実行される姿勢安定制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
図11】リアトルク制御において実行されるスリップ維持制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
図12】コースト走行状況の一例を示す図である。
図13】モータトルク制御の実行状況の一例を示すタイミングチャートである。
図14図13のタイミングチャートの一部を拡大して示すタイミングチャートである。
図15図13のタイミングチャートの一部を拡大して示すタイミングチャートである。
図16】時刻t3,t4における車両の走行状況を示す図である。
図17図13のタイミングチャートの一部を拡大して示すタイミングチャートである。
図18】時刻t5,t6における車両の走行状況を示す図である。
図19】本発明の他の実施形態である車両用制御装置の構成例を示す図である。
図20】フロントトルク制御の他の実行手順を示すフローチャートである。
図21】リアトルク制御の他の実行手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一または実質的に同一の構成や要素については、同一の符号を付して繰り返しの説明を省略する。
【0010】
[車両構成]
図1は本発明の一実施の形態である車両用制御装置10が設けられた車両11の構成例を示す図であり、図2は車両用制御装置10の構成例を示す図である。図1および図2に示すように、車両11には、左右の前輪12L,12Rを駆動する前輪駆動系13が設けられており、左右の後輪22L,22Rを駆動する後輪駆動系23が設けられている。前輪駆動系13は、左前輪12Lに連結される左フロントモータ(前輪用モータ)14と、右前輪12Rに連結される右フロントモータ(前輪用モータ)15と、を有している。また、後輪駆動系23は、左後輪22Lに連結される左リアモータ(後輪用モータ)24と、右後輪22Rに連結される右リアモータ(後輪用モータ)25と、を有している。このように、車両11は、前輪12L,12Rに連結される2つのフロントモータ14,15を備える前輪駆動系13と、後輪22L,22Rに連結される2つのリアモータ24,25を備える後輪駆動系23と、を有している。
【0011】
なお、図示する例では、左フロントモータ14のロータ14rが左前輪12Lに直結されており、右フロントモータ15のロータ15rが右前輪12Rに直結されているが、これに限られることはない。例えば、左前輪12Lとロータ14rとをギア列を介して連結しても良く、右前輪12Rとロータ15rとをギア列を介して連結しても良い。同様に、図示する例では、左リアモータ24のロータ24rが左後輪22Lに直結されており、右リアモータ25のロータ25rが右後輪22Rに直結されているが、これに限られることはない。例えば、左後輪22Lとロータ24rとをギア列を介して連結しても良く、右後輪22Rとロータ25rとをギア列を介して連結しても良い。
【0012】
左フロントモータ14のステータ14sにはインバータ16が接続されており、右フロントモータ15のステータ15sにはインバータ17が接続されている。同様に、左リアモータ24のステータ24sにはインバータ26が接続されており、右リアモータ25のステータ25sにはインバータ27が接続されている。これらのインバータ16,17,26,27には、通電ライン30を介してバッテリパック31が接続されている。バッテリパック31には、複数のバッテリセルからなるバッテリモジュール32が設けられるとともに、バッテリモジュール32の充放電を監視するバッテリ制御ユニット33が設けられている。さらに、バッテリパック31には、充放電電流や端子電圧等を検出するバッテリセンサ34が設けられている。なお、バッテリ制御ユニット33は、バッテリセンサ34によって検出される充放電電流や端子電圧等に基づき、バッテリモジュール32の充電状態であるSOC(State of Charge)を算出する機能を有している。
【0013】
左フロントモータ14を制御するため、インバータ16には左フロント制御ユニット18が接続されている。左フロント制御ユニット18は、複数のスイッチング素子等からなるインバータ16を制御することにより、ステータ14sの通電状態を制御して左フロントモータ14のモータトルク(力行トルク,回生トルク)を制御する。同様に、右フロントモータ15を制御するため、インバータ17には右フロント制御ユニット19が接続されている。右フロント制御ユニット19は、複数のスイッチング素子等からなるインバータ17を制御することにより、ステータ15sの通電状態を制御して右フロントモータ15のモータトルク(力行トルク,回生トルク)を制御する。左右のフロントモータ14,15を力行状態に制御する際には、バッテリモジュール32からインバータ16,17を介してステータ14s,15sに電力が供給される。一方、左右のフロントモータ14,15を回生状態つまり発電状態に制御する際には、ステータ14s,15sからインバータ16,17を介してバッテリモジュール32に電力が供給される。
【0014】
左リアモータ24を制御するため、インバータ26には左リア制御ユニット28が接続されている。左リア制御ユニット28は、複数のスイッチング素子等からなるインバータ26を制御することにより、ステータ24sの通電状態を制御して左リアモータ24のモータトルク(力行トルク,回生トルク)を制御する。同様に、右リアモータ25を制御するため、インバータ27には右リア制御ユニット29が接続されている。右リア制御ユニット29は、複数のスイッチング素子等からなるインバータ27を制御することにより、ステータ25sの通電状態を制御して右リアモータ25のモータトルク(力行トルク,回生トルク)を制御する。左右のリアモータ24,25を力行状態に制御する際には、バッテリモジュール32からインバータ26,27を介してステータ24s,25sに電力が供給される。一方、左右のリアモータ24,25を回生状態つまり発電状態に制御する際には、ステータ24s,25sからインバータ26,27を介してバッテリモジュール32に電力が供給される。
【0015】
[制御システム]
車両用制御装置10には、前輪駆動系13や後輪駆動系23等を制御するため、複数の電子制御ユニットからなる制御システム40が設けられている。制御システム40を構成する電子制御ユニットとして、前述したバッテリ制御ユニット33、左右のフロント制御ユニット18,19および左右のリア制御ユニット28,29が設けられるとともに、これらの制御ユニット18,19,28,29,33に制御信号を出力する車両制御ユニット41が設けられている。これらの制御ユニット18,19,28,29,33,41は、CANやLIN等の車載ネットワーク42を介して互いに通信可能に接続されている。車両制御ユニット41は、各制御ユニット18,19,28,29,33や後述する各種センサからの入力情報に基づき、左右のフロントモータ14,15やリアモータ24,25等の作動目標を設定する。そして、左右のフロントモータ14,15やリアモータ24,25等の作動目標に応じた制御信号を生成し、これらの制御信号を各制御ユニット18,19,28,29,33に出力する。
【0016】
車両制御ユニット41に接続されるセンサとして、アクセルペダルの操作量を検出するアクセルセンサ50があり、ブレーキペダル46の操作量を検出するブレーキセンサ51がある。また、車両制御ユニット41に接続されるセンサとして、車両11に作用する加速度を検出する加速度センサ52があり、車両11の走行位置を検出するGPS(Global Positioning System)センサ53があり、車両11の鉛直軸周りの回転角速度であるヨーレートを検出するヨーレートセンサ54がある。また、左フロント制御ユニット18には、左前輪12Lの回転速度を検出するレゾルバ等の車輪速センサ55が接続されており、右フロント制御ユニット19には、右前輪12Rの回転速度を検出するレゾルバ等の車輪速センサ56が接続されている。同様に、左リア制御ユニット28には、左後輪22Lの回転速度を検出するレゾルバ等の車輪速センサ57が接続されており、右リア制御ユニット29には、右後輪22Rの回転速度を検出するレゾルバ等の車輪速センサ58が接続されている。さらに、車両制御ユニット41には、制御システム40を起動する際に運転者によって操作されるスタートスイッチ59が接続されている。
【0017】
図3は各制御ユニット18,19,28,29,33,41の基本構造を簡単に示した図である。図3に示すように、各制御ユニット18,19,28,29,33,41は、プロセッサ60およびメモリ61等が組み込まれたマイクロコントローラ62を有している。メモリ61には所定のプログラムが格納されており、プロセッサ60によってプログラムの命令セットが実行される。プロセッサ60とメモリ61とは、互いに通信可能に接続されている。なお、図示する例では、マイクロコントローラ62に1つのプロセッサ60と1つのメモリ61が組み込まれているが、これに限られることはなく、マイクロコントローラ62に複数のプロセッサ60を組み込んでも良く、マイクロコントローラ62に複数のメモリ61を組み込んでも良い。
【0018】
また、各制御ユニット18,19,28,29,33,41には、入力変換回路63、駆動回路64、通信回路65、外部メモリ66および電源回路67等が設けられている。入力変換回路63は、各種センサから入力される信号を、マイクロコントローラ62に入力可能な信号に変換する。駆動回路64は、マイクロコントローラ62から出力される信号に基づき、前述したフロントモータ14,15やリアモータ24,25等のアクチュエータに対する駆動信号を生成する。通信回路65は、マイクロコントローラ62から出力される信号を、他の制御ユニットに向けた通信信号に変換する。また、通信回路65は、他の制御ユニットから受信した通信信号を、マイクロコントローラ62に入力可能な信号に変換する。さらに、電源回路67は、マイクロコントローラ62、入力変換回路63、駆動回路64、通信回路65および外部メモリ66等に対し、安定した電源電圧を供給する。また、不揮発性メモリ等の外部メモリ66には、非通電時にも保持すべきデータ等が記憶される。
【0019】
[要求駆動力]
図4は要求駆動力を示した駆動力マップの一例を示す図である。図4に示すように、駆動力マップには、アクセルペダルの操作量(以下、アクセル開度と記載する。)毎に要求駆動力を示す特性線L1~L4が設定されている。つまり、車両制御ユニット41は、アクセル開度Acpが0%である場合に、特性線L1に沿って車両11に対する要求駆動力を設定し、アクセル開度Acpが25%である場合に、特性線L2に沿って車両11に対する要求駆動力を設定する。また、車両制御ユニット41は、アクセル開度Acpが50%である場合に、特性線L3に沿って車両11に対する要求駆動力を設定し、アクセル開度Acpが100%である場合に、特性線L4に沿って車両11に対する要求駆動力を設定する。
【0020】
例えば、車速が「V1」である状況のもとで、アクセル開度Acpが「50%」となるようにアクセルペダルが踏み込まれると、車両制御ユニット41は、要求駆動力として「Fa」を設定する。また、車速が「V1」である状況のもとで、アクセル開度Acpが「0%」となるようにアクセルペダルの踏み込みが解除されると、車両制御ユニット41は、要求駆動力として「Fb」を設定する。そして、車両制御ユニット41は、要求駆動力つまり各車輪12L,12R,22L,22Rの合計駆動力として「Fa」や「Fb」が得られるように、左右のフロントモータ14,15およびリアモータ24,25の目標モータトルクを設定する。
【0021】
すなわち、アクセルペダルが踏み込まれて要求駆動力が加速側に設定された場合には、フロントモータ14,15およびリアモータ24,25の目標モータトルクが力行側に設定される。一方、アクセルペダルの踏み込みが解除されて要求駆動力が減速側つまり制動側に設定された場合には、フロントモータ14,15およびリアモータ24,25の目標モータトルクが回生側に設定される。なお、図4に示される駆動力マップには、説明を容易にする観点から4本の特性線L1~L4を設定しているが、これに限られることはなく、駆動力マップに5本以上の特性線が設定されていても良いことはいうまでもない。
【0022】
[コースト走行時のモータトルク制御]
図4に示すように、アクセル開度Acpが「0%」である場合には、車両11に対する要求駆動力が減速側に設定される。つまり、アクセル操作およびブレーキ操作が解除されるコースト走行時には、車速に応じて要求駆動力が減速側に設定されることから、左右のフロントモータ14,15およびリアモータ24,25の目標モータトルクが回生側に設定される。ここで、圧雪路面や凍結路面等の低μ路においては、各車輪12L,12R,22L,22Rが接する路面の摩擦係数が不均一になることも多い。このため、フロントモータ14,15およびリアモータ24,25の回生状態を一律に制御することは、各車輪12L,12R,22L,22Rのスリップつまりロックを招いて車両姿勢を不安定にしてしまう虞がある。
【0023】
そこで、車両用制御装置10を構成する制御システム40は、コースト走行時にフロントモータ14,15およびリアモータ24,25の回生トルクを制御するフロントトルク制御およびリアトルク制御を実行する。これらの回生トルク制御を実行することにより、後述するように、各車輪12L,12R,22L,22Rの過度なスリップを抑制することができ、コースト走行時の車両挙動を安定させることができる。なお、後述する図5図11のフローチャートに示される各ステップには、制御システム40を構成する1つまたは複数のプロセッサ60によって実行される処理が示されている。また、後述するフロントトルク制御およびリアトルク制御は、運転者によってスタートスイッチ59が操作され、車両制御ユニット41等からなる制御システム40が起動された後に、制御システム40によって所定周期毎に実行される制御である。
【0024】
<フロントトルク制御>
以下、各フロントモータ14,15を制御するためのフロントトルク制御について説明する。図5および図6はフロントモータ14,15の回生トルクを制御するフロントトルク制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。また、図7はフロントトルク制御において実行されるスリップ維持制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。また、図5および図6のフローチャートにおいては、符号A,Bを付した箇所で互いに接続されている。
【0025】
図5に示すように、ステップS10では、アクセル操作およびブレーキ操作が解除されるコースト走行であるか否かが判定される。ステップS10において、コースト走行であると判定された場合には、ステップS11に進み、車速に基づき目標回生トルクTtq1が設定され、この目標回生トルクTtq1に向けてフロントモータ14,15の回生トルクが制御される。なお、ステップS11において設定される目標回生トルクTtq1とは、図4を用いて前述したように、コースト走行時において減速側に設定された要求駆動力を得るために、フロントモータ14,15に設定される回生側の目標モータトルクである。
【0026】
続くステップS12では、以下の式(1)に基づいて、前輪12L,12Rのスリップ率(以下、前輪スリップ率FSLと記載する。)が算出される。式(1)において、「Vv」は車体速度つまり車体の移動速度であり、「Vfw」は車輪速度つまり前輪12L,12Rの回転速度である。すなわち、凍結路面等の低μ路において前輪12L,12Rにスリップつまりロックが発生した場合には、車体速度Vvに対して車輪速度Vfwが低下することから、前輪スリップ率FSLが大きく算出される。一方、ドライ路面等の高μ路において前輪12L,12Rにスリップが発生していない場合には、車体速度Vvと車輪速度Vfwとがほぼ一致することから、前輪スリップ率FSLが小さく算出される。なお、車両制御ユニット41は、加速度センサ52やGPSセンサ53の検出情報に基づいて、車体速度Vvを算出することが可能である。例えば、前後方向の車両加速度を用いて車体速度Vvを算出する際には、所定のサンプリング時間毎の加速度にサンプリング時間を乗じて積算することにより、車体速度Vvを算出することが可能である。また、車両制御ユニット41は、前輪12L,12Rの車輪速センサ55,56の検出情報に基づいて、車輪速度Vfwを算出することが可能である。
FSL=(Vv-Vfw)/Vv ・・式(1)
【0027】
ステップS12において、前輪スリップ率FSLが算出されると、ステップS13に進み、前輪スリップ率FSLが所定の閾値(開始閾値)fs1を上回るか否かが判定される。ステップS13において、前輪スリップ率FSLが閾値fs1以下であると判定される状況とは、前輪12L,12Rに過度なスリップが発生していない状況である。このため、ステップS13において、前輪スリップ率FSLが閾値fs1以下であると判定された場合には、ステップS11に戻り、目標回生トルクTtq1に基づくフロントモータ14,15の回生制御が継続される。一方、ステップS13において、前輪スリップ率FSLが閾値fs1を上回ると判定される状況とは、前輪12L,12Rに過度なスリップが発生している状況である。このため、ステップS13において、前輪スリップ率FSLが閾値fs1を上回ると判定された場合には、ステップS14に進み、前輪スリップフラグFFが設定される(FF=1)。続いて、ステップS15に進み、前輪12L,12Rのスリップを解消するための初期目標トルク(前輪用初期トルク)Ttq2が設定され、この初期目標トルクTtq2に向けてフロントモータ14,15の回生トルクを減少させる。なお、初期目標トルクTtq2は、前輪12L,12Rの過度なスリップを解消させる観点から、シミュレーション等に基づき設定される目標トルクである。この初期目標トルクTtq2としては、目標回生トルクTtq1よりも小さな回生トルクであっても良く、ゼロや力行側に設定されるトルクであっても良い。
【0028】
前述したように、ステップS13において、前輪スリップ率FSLが閾値fs1を上回ると判定された場合には、ステップS15に進み、フロントモータ14,15の回生トルクを初期目標トルクTtq2に向けて減少させる。その後、図6に示すように、ステップS16に進み、前輪スリップ率FSLを所定の目標スリップ率(前輪目標値)Tfsに収束させるスリップ維持制御が実行される。このスリップ維持制御では、図7に示すように、ステップS30において、前輪スリップ率FSLが算出され、続くステップS31において、前輪スリップ率FSLが、上限スリップ率Fsmaxを上回るか否かが判定される。なお、上限スリップ率Fsmaxとは、下記の式(2)に示すように、目標スリップ率Tfsに所定値αを加算した値である。ステップS31において、前輪スリップ率FSLが上限スリップ率Fsmaxを上回ると判定された場合には、ステップS32に進み、フロントモータ14,15の回生トルクを減少させる。なお、ステップS32においては、フロントモータ14,15の回生トルクを所定量だけ減少させても良く、前輪スリップ率FSLに応じた減少量でフロントモータ14,15の回生トルクを減少させても良い。
Fsmax=Tfs+α ・・式(2)
【0029】
一方、ステップS31において、前輪スリップ率FSLが上限スリップ率Fsmax以下であると判定された場合には、ステップS33に進み、前輪スリップ率FSLが、下限スリップ率Fsminを下回るか否かが判定される。なお、下限スリップ率Fsminとは、下記の式(3)に示すように、目標スリップ率Tfsから所定値αを減算した値である。ステップS33において、前輪スリップ率FSLが下限スリップ率Fsminを下回ると判定された場合には、ステップS34に進み、フロントモータ14,15の回生トルクを増加させる。なお、ステップS34においては、フロントモータ14,15の回生トルクを所定量だけ増加させても良く、前輪スリップ率FSLに応じた増加量でフロントモータ14,15の回生トルクを増加させても良い。
Fsmin=Tfs-α ・・式(3)
【0030】
また、ステップS33において、前輪スリップ率FSLが下限スリップ率Fsmin以上であると判定された場合、つまり前輪スリップ率FSLが目標スリップ率Tfsの近傍に保持されていると判定された場合には、ステップS35に進み、フロントモータ14,15の回生トルクが維持される。このように、スリップ維持制御においては、前輪スリップ率FSLに応じてフロントモータ14,15の回生トルクを増減させることにより、前輪スリップ率FSLを目標スリップ率Tfs(例えば10%)に収束させている。これにより、前輪12L,12Rのグリップを高めることができ、低μ路をコースト走行する車両11の走行姿勢を安定させることができる。
【0031】
このようなスリップ維持制御が実行されると、図6に示すように、ステップS17に進み、前輪スリップ率FSLが算出され、ステップS18に進み、前輪スリップ率FSLが閾値fs1よりも小さな閾値(終了閾値)fs2を下回るか否かが判定される。ステップS18において、前輪スリップ率FSLが閾値fs2を下回ると判定される状況とは、前輪12L,12Rのスリップが解消されている状況であり、走行路面が低μ路からドライ路面等の高μ路に変化した状況である。このため、ステップS18において、前輪スリップ率FSLが閾値fs2を下回ると判定された場合には、ステップS19に進み、前輪スリップフラグFFの設定が解除される(FF=0)。そして、ステップS20に進み、車速およびアクセル開度に基づいて目標モータトルクが設定され、この目標モータトルクに向けてフロントモータ14,15のトルク制御を実施する通常制御が実行される。
【0032】
一方、ステップS18において、前輪スリップ率FSLが閾値fs2以上であると判定される状況とは、前輪12L,12Rのスリップが継続して発生している状況である。この場合には、ステップS21に進み、アクセルペダルやブレーキペダルが踏み込まれているか否かが判定される。ステップS21において、アクセルペダルやブレーキペダルが踏み込まれている場合には、コースト走行を解消する運転状況であることから、ステップS19に進み、前輪スリップフラグFFの設定が解除され、ステップS20に進み、フロントモータ14,15の通常制御が実行される。一方、ステップS21において、アクセルペダルやブレーキペダルが踏み込まれていないと判定された場合、つまりコースト走行を維持する運転状況であると判定された場合には、ステップS16に戻り、前述したスリップ維持制御の実行が継続される。
【0033】
<リアトルク制御>
続いて、各リアモータ24,25を制御するためのリアトルク制御について説明する。図8および図9はリアモータ24,25の回生トルクを制御するリアトルク制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。また、図10はリアトルク制御において実行される姿勢安定制御の実行手順の一例を示すフローチャートであり、図11はリアトルク制御において実行されるスリップ維持制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。また、図8および図9のフローチャートにおいては、符号C,Dを付した箇所で互いに接続されている。
【0034】
図8に示すように、ステップS40では、アクセル操作およびブレーキ操作が解除されるコースト走行であるか否かが判定される。ステップS40において、コースト走行であると判定された場合には、ステップS41に進み、車速に基づき目標回生トルクTtq1が設定され、この目標回生トルクTtq1に向けてリアモータ24,25の回生トルクが制御される。なお、ステップS41において設定される目標回生トルクTtq1とは、図4を用いて前述したように、コースト走行時において減速側に設定された要求駆動力を得るために、リアモータ24,25に設定される回生側の目標モータトルクである。
【0035】
続くステップS42では、以下の式(4)に基づいて、後輪22L,22Rのスリップ率(以下、後輪スリップ率RSLと記載する。)が算出される。式(4)において、「Vv」は車体速度つまり車体の移動速度であり、「Vfw」は車輪速度つまり後輪22L,22Rの回転速度である。すなわち、凍結路面等の低μ路において後輪22L,22Rにスリップつまりロックが発生した場合には、車体速度Vvに対して車輪速度Vrwが低下することから、後輪スリップ率RSLが大きく算出される。一方、ドライ路面等の高μ路において後輪22L,22Rにスリップが発生していない場合には、車体速度Vvと車輪速度Vrwとがほぼ一致することから、後輪スリップ率RSLが小さく算出される。前述したように、車両制御ユニット41は、加速度センサ52やGPSセンサ53の検出情報に基づいて、車体速度Vvを算出することが可能である。また、車両制御ユニット41は、後輪22L,22Rの車輪速センサ57,58の検出情報に基づいて、車輪速度Vrwを算出することが可能である。
RSL=(Vv-Vrw)/Vv ・・式(4)
【0036】
ステップS42において、後輪スリップ率RSLが算出されると、ステップS43に進み、後輪スリップ率RSLが所定の閾値rs1を上回るか否かが判定される。ステップS43において、後輪スリップ率RSLが閾値rs1以下であると判定された場合には、ステップS44に進み、前輪スリップフラグFFが設定されているか否かが判定される。また、ステップS44において、前輪スリップフラグFFが設定されていないと判定された場合には、ステップS41に戻り、目標回生トルクTtq1に基づくリアモータ24,25の回生制御が継続される。つまり、ステップS43において、後輪スリップ率RSLが閾値rs1以下であると判定される状況とは、後輪22L,22Rに過度なスリップが発生していない状況であり、ステップS44において、前輪スリップフラグFFが設定されていないと判定される状況とは、前輪12L,12Rに過度なスリップが発生していない状況である。このため、ステップS44において、前輪スリップフラグFFが設定されていないと判定された場合には、前輪12L,12Rおよび後輪22L,22Rに過度なスリップが発生していないことから、ステップS41に戻り、目標回生トルクTtq1に基づくリアモータ24,25の回生制御が継続される。
【0037】
一方、ステップS43において、後輪スリップ率RSLが閾値rs1を上回ると判定された場合や、ステップS44において、前輪スリップフラグFFが設定されていると判定された場合には、ステップS45に進む。ステップS45においては、後輪22L,22Rのスリップを解消するための初期目標トルク(後輪用初期トルク)Ttq2が設定され、この初期目標トルクTtq2に向けてリアモータ24,25の回生トルクを減少させる。前述のように、ステップS43において、後輪スリップ率RSLが閾値rs1を上回ると判定される状況とは、後輪22L,22Rに過度なスリップが発生する状況である。このため、ステップS43において、後輪スリップ率RSLが閾値rs1を上回ると判定された場合には、ステップS45に進み、リアモータ24,25の回生トルクを初期目標トルクTtq2に向けて減少させる。さらに、ステップS44において、前輪スリップフラグFFが設定されていると判定される状況とは、既に前輪12L,12Rに過度なスリップが発生している状況であり、直後のタイミングで後輪22L,22Rにもスリップが発生する可能性の高い状況である。このため、ステップS44において、前輪スリップフラグFFが設定されていると判定された場合には、ステップS45に進み、リアモータ24,25の回生トルクを初期目標トルクTtq2に向けて減少させる。なお、初期目標トルクTtq2は、後輪22L,22Rの過度なスリップを解消または防止する観点から、シミュレーション等に基づき設定される目標トルクである。この初期目標トルクTtq2としては、目標回生トルクTtq1よりも小さな回生トルクであっても良く、ゼロや力行側に設定されるトルクであっても良い。
【0038】
前述したように、ステップS43において、後輪スリップ率RSLが閾値rs1を上回ると判定された場合や、ステップS44において、前輪スリップフラグFFが設定されていると判定された場合には、ステップS45に進み、初期目標トルクTtq2に向けてリアモータ24,25の回生トルクを減少させる。そして、図9に示すように、ステップS46に進み、左右に位置するリアモータ24,25の回生トルクを制御して車両姿勢を安定させる姿勢安定制御が実行される。この姿勢安定制御では、図10に示すように、ステップS60において、車両11の鉛直軸周りの回転角速度であるヨーレートYRが読み込まれる。なお、ステップS60において、車両姿勢が右回りの回転状態である場合には、正の値(+)のヨーレートYRが読み込まれ、車両姿勢が左回りの回転状態である場合には、負の値(-)のヨーレートYRが読み込まれる。
【0039】
続くステップS61では、ヨーレートYRが所定の閾値(挙動判定閾値)である「ya1」を上回るか否かが判定される。ステップS61において、ヨーレートYRが閾値ya1を上回ると判定される状況とは、低μ路でコースト走行する車両11が右回りに回転する状況である。このため、ステップS61において、ヨーレートYRが閾値ya1を上回ると判定された場合には、ステップS62に進み、左リアモータ24の回生トルクを直近の値よりも増加させ、右リアモータ25の回生トルクを直近の値よりも減少させる。このように、リアモータ24,25の回生トルク差を拡大させること、つまり後輪22L,22Rの制動力差を拡大させることにより、車両11に発生している右回りのモーメントを打ち消すことができ、車両姿勢を直進状態に戻すことができる。
【0040】
一方、ステップS61において、ヨーレートYRが閾値ya1以下であると判定された場合には、ステップS63に進み、ヨーレートYRが所定の閾値(挙動判定閾値)である「-ya1」を下回るか否かが判定される。ステップS63において、ヨーレートYRが閾値-ya1を下回ると判定される状況とは、低μ路でコースト走行する車両11が左回りに回転する状況である。このため、ステップS63において、ヨーレートYRが閾値-ya1を下回ると判定された場合には、ステップS64に進み、左リアモータ24の回生トルクを直近の値よりも減少させ、右リアモータ25の回生トルクを直近の値よりも増加させる。このように、リアモータ24,25の回生トルク差を拡大させること、つまり後輪22L,22Rの制動力差を拡大させることにより、車両11に発生している左回りのモーメントを打ち消すことができ、車両姿勢を直進状態に戻すことができる。
【0041】
なお、ステップS63,S64においては、車両11が左回りに回転する際のヨーレートYRが負側(-側)に出力されるため、負側(-側)に設定される閾値-ya1をヨーレートYRが下回る場合に、リアモータ24,25の回生トルク差を拡大させている。つまり、ステップS63,S64においても、ヨーレートYRおよび閾値-ya1の絶対値をとることにより、ヨーレートYRが閾値ya1を上回る場合にリアモータ24,25の回生トルク差を拡大させることが示されている。
【0042】
また、ステップS63において、ヨーレートYRが閾値-ya1以上であると判定された場合には、ステップS65に進み、左右双方のリアモータ24,25の回生トルクが直近の値に維持される。つまり、ステップS63において、ヨーレートYRが閾値-ya1以上であると判定される状況とは、ヨーレートYRがゼロ近傍に維持されている状況であり、コースト走行中の車両姿勢が直進状態を保持する状況である。このため、ステップS65においては、左右双方のリアモータ24,25の回生トルクが直近の値に維持されている。
【0043】
また、図9に示すように、ステップS46において姿勢安定制御が実行されると、ステップS47に進み、後輪スリップ率RSLを所定の目標スリップ率(後輪目標値)Trsに収束させるスリップ維持制御が実行される。このスリップ維持制御では、図11に示すように、ステップS70において、後輪スリップ率RSLが算出され、続くステップS71において、後輪スリップ率RSLが、上限スリップ率Rsmaxを上回るか否かが判定される。なお、上限スリップ率Rsmaxとは、下記の式(5)に示すように、目標スリップ率Trsに所定値αを加算した値である。ステップS71において、後輪スリップ率RSLが上限スリップ率Rsmaxを上回ると判定された場合には、ステップS72に進み、リアモータ24,25の回生トルクを減少させる。なお、ステップS72においては、リアモータ24,25の回生トルクを所定量だけ減少させても良く、後輪スリップ率RSLに応じた減少量でリアモータ24,25の回生トルクを減少させても良い。
Rsmax=Trs+α ・・式(5)
【0044】
一方、ステップS71において、後輪スリップ率RSLが上限スリップ率Rsmax以下であると判定された場合には、ステップS73に進み、後輪スリップ率RSLが、下限スリップ率Rsminを下回るか否かが判定される。なお、下限スリップ率Rsminとは、下記の式(6)に示すように、目標スリップ率Trsから所定値αを減算した値である。ステップS73において、後輪スリップ率RSLが下限スリップ率Rsminを下回ると判定された場合には、ステップS74に進み、リアモータ24,25の回生トルクを増加させる。なお、ステップS74においては、リアモータ24,25の回生トルクを所定量だけ増加させても良く、後輪スリップ率RSLに応じた増加量でリアモータ24,25の回生トルクを増加させても良い。
Rsmin=Trs-α ・・式(6)
【0045】
また、ステップS73において、後輪スリップ率RSLが下限スリップ率Rsmin以上であると判定された場合、つまり後輪スリップ率RSLが目標スリップ率Trsの近傍に保持されていると判定された場合には、ステップS75に進み、リアモータ24,25の回生トルクが維持される。このように、スリップ維持制御においては、後輪スリップ率RSLに応じてリアモータ24,25の回生トルクを増減させることにより、後輪スリップ率RSLを目標スリップ率Trs(例えば10%)に収束させている。これにより、後輪22L,22Rのグリップを高めることができ、低μ路をコースト走行する車両11の走行姿勢を安定させることができる。
【0046】
このようなスリップ維持制御が実行されると、図9に示すように、ステップS48に進み、後輪スリップ率RSLが算出され、ステップS49に進み、後輪スリップ率RSLが所定の解除条件である閾値rs2を下回るか否かが判定される。ステップS49において、後輪スリップ率RSLが閾値rs2を下回ると判定される状況とは、後輪22L,22Rのスリップが解消されている状況であり、走行路面が低μ路からドライ路面等の高μ路に変化した状況である。このため、ステップS49において、後輪スリップ率RSLが閾値rs2を下回ると判定された場合には、ステップS50に進み、車速およびアクセル開度に基づいて目標モータトルクが設定され、この目標モータトルクに向けてリアモータ24,25のトルク制御を実施する通常制御が実行される。
【0047】
一方、ステップS49において、後輪スリップ率RSLが閾値rs2以上であると判定される状況とは、後輪22L,22Rのスリップが継続して発生している状況である。この場合には、ステップS51に進み、アクセルペダルやブレーキペダルが踏み込まれているか否かが判定される。ステップS51において、アクセルペダルやブレーキペダルが踏み込まれている場合には、コースト走行を解消する運転状況であることから、ステップS50に進み、リアモータ24,25の通常制御が実行される。
【0048】
また、ステップS51において、アクセルペダルやブレーキペダルが踏み込まれていない場合には、ステップS52に進み、前輪スリップフラグFFの設定が解除されているか否かが判定される。ステップS52において、前輪スリップフラグFFが設定されていると判定される状況とは、前輪12L,12Rのスリップが継続して発生している状況である。つまり、前述したステップS49において、後輪スリップ率RSLが閾値rs2以上であると判定される状況とは、後輪22L,22Rのスリップが継続している状況であり、ステップS52において、前輪スリップフラグFFが設定されていると判定される状況とは、前輪12L,12Rのスリップが継続している状況である。このため、ステップS52において、前輪スリップフラグFFが設定されていると判定された場合には、前輪12L,12Rおよび後輪22L,22Rのスリップが継続していることから、ステップS46,S47に戻り、前述した姿勢安定制御やスリップ維持制御が継続される。
【0049】
一方、ステップS52において、前輪スリップフラグFFの設定が解除されていると判定された場合には、ステップS53に進み、以下の式(7)に示すように、車速VvおよびホイールベースWBに基づいて実行時間Txが算出される。この実行時間Txとは、前輪12L,12Rが接触する路面に後輪22L,22Rが到達するまでの時間である。このように、ステップS53において実行時間Txが算出され、ステップS54において実行時間Txが経過したと判定されると、ステップS50に進み、リアモータ24,25の通常制御が実行される。つまり、ステップS52において、前輪スリップフラグFFの解除が判定される状況とは、前輪12L,12Rのスリップが解消された状況であり、前輪12L,12Rがドライ路面に到達した状況である。このため、後輪22L,22Rのスリップ解消が判定される前であっても、実行時間Txを用いて後輪22L,22Rのスリップが解消されるタイミングを予測し、リアモータ24,25のフィードフォワード制御を実行している。
Tx=WB/Vv ・・式(7)
【0050】
[コースト走行時のモータトルク制御(タイミングチャート)]
前述したモータトルク制御の実行状況をタイミングチャートに沿って説明する。図12はコースト走行状況の一例を示す図であり、図13はモータトルク制御の実行状況の一例を示すタイミングチャートである。また、図14および図15図13のタイミングチャートの一部を拡大して示すタイミングチャートであり、図16は時刻t3,t4における車両11の走行状況を示す図である。さらに、図17図13のタイミングチャートの一部を拡大して示すタイミングチャートであり、図18は時刻t5,t6における車両11の走行状況を示す図である。
【0051】
図12に示される時刻t1~t6と、図13図18に示される時刻t1~t6とは、互いに同時刻である。また、図13図17において、「FTq」はフロントモータ14,15のモータトルクであり、「RLTq」は左リアモータ24のモータトルクであり、「RRTq」は右リアモータ25のモータトルクである。また、図13図15および図17において、「RLSL」は左後輪22Lの後輪スリップ率であり、「RRSL」は右後輪22Rの後輪スリップ率である。さらに、図13図15および図17においては、トルクや速度等の推移を明確にするため、互いに重なる線であっても若干ずらして記載している。
【0052】
<前輪スリップ抑制制御,後輪スリップ抑制制御>
図13に示すタイミングチャートには、図12に示すように、車両11が下り坂をコースト走行する際に実行されるモータトルク制御の実行状況が示されている。また、図12に示すように、車両11がコースト走行する下り坂の一部区間には、圧雪路面や凍結路面等の低μ路が存在している。
【0053】
図13および図14に時刻t1で示すように、アクセルペダルの踏み込みが解除されると(符号a1)、回生側に設定される目標回生トルクTtq1に向けてフロントモータ14,15およびリアモータ24,25が制御される(符号b1)。つまり、フロントモータ14,15のモータトルクFTqが回生側に制御されるとともに、リアモータ24,25のモータトルクRLTq,RRTqが回生側に制御される。以下、回生側に制御されるフロントモータ14,15のモータトルクFTqを、フロント回生トルクFTqとして記載し、回生側に制御されるリアモータ24,25のモータトルクRLTq,RRTqを、リア回生トルクRLTq,RRTqとして記載する。
【0054】
図13および図14に時刻t2で示すように、低μ路に進入する前輪12L,12Rにスリップが発生し、前輪スリップ率FSLが閾値fs1を上回ると(符号c1)、前輪スリップフラグFFが設定され(符号d1)、フロントモータ14,15用に初期目標トルクTtq2が設定される。そして、フロント回生トルクFTqは、初期目標トルクTtq2に向けて制御される(符号e1)。その後、フロント回生トルクFTqは前輪スリップ率FSLに基づき調整され、前輪スリップ率FSLは目標スリップ率Tfsに収束する(符号c2)。このように、制御システム40は、前輪スリップ率FSLが閾値fs1を上回る場合に、フロント回生トルクFTqを初期目標トルクTtq2に向けて減少させる前輪スリップ抑制制御を実行する。
【0055】
また、前輪スリップ率FSLが閾値fs1を上回り(符号c1)、前輪スリップフラグFFが設定されると(符号d1)、リアモータ24,25用に初期目標トルクTtq2が設定される。そして、リア回生トルクRLTq,RRTqは、初期目標トルクTtq2に向けて制御される(符号f1)。その後、リア回生トルクRLTq,RRTqは後輪スリップ率RSLに基づき調整され、後輪スリップ率RSLは目標スリップ率Trsに収束する(符号g1)。このように、制御システム40は、前輪スリップ率FSLが閾値fs1を上回る場合に、リア回生トルクRLTq,RRTqを初期目標トルクTtq2に向けて減少させる後輪スリップ抑制制御を実行する。
【0056】
このように、前輪スリップ率FSLが閾値fs1を上回る場合に(符号c1)、フロント回生トルクFTqを減少させるだけでなく(符号e1)、リア回生トルクRLTq,RRTqを減少させるようにしたので(符号f1)、後輪22L,22Rの過度なスリップを抑制することができる。つまり、後輪22L,22Rに対して過度なスリップが現れる前に、リア回生トルクRLTq,RRTqを減少させるようにしたので(符号f1)、後輪スリップ率RSLを大きく上昇させることなく、後輪スリップ率RSLを目標スリップ率Trsに収束させることができる(符号g1)。これにより、コースト走行時において車両11が低μ路に進入する状況であっても、後輪22L,22Rのスリップを抑制して車両姿勢を安定させることができる。
【0057】
なお、前述の前輪スリップ抑制制御は、図5のフローチャートを用いて説明したフロントトルク制御のステップS11~S15に相当し、前述の後輪スリップ抑制制御は図8のフローチャートを用いて説明したリアトルク制御のステップS41~S45に相当する。また、前述の説明では、フロントモータ14,15およびリアモータ24,25に対して、共通の目標回生トルクTtq1を設定するとともに、共通の初期目標トルクTtq2を設定しているが、これに限られることはない。つまり、フロントモータ14,15用の目標回生トルクと、リアモータ24,25用の目標回生トルクと、を互いに相違させても良い。また、フロントモータ14,15用の初期目標トルクと、リアモータ24,25用の初期目標トルクと、を互いに相違させても良い。
【0058】
<車両姿勢安定制御>
図13および図15に時刻t3で示すように、後輪スリップ抑制制御が開始された状況のもとで、車両11のヨーレートYRが右回り側の閾値ya1を上回ると(符号h1)、リア回生トルクRRTqが直近の値よりも下げられ(符号f2)、リア回生トルクRLTqが直近の値よりも上げられる(符号f3)。つまり、図16に時刻t3として示すように、車両11には右回りのモーメントMaが作用した状況であることから、右側のリア回生トルクRRTqを減少させ、左側のリア回生トルクRLTqを増加させる。この車両姿勢安定制御を実行することより、車両11に対してモーメントMaを打ち消す方向のモーメントm1を発生させることができ、車両姿勢を右回りから直進状態に戻すことができる。
【0059】
また、図13および図15に時刻t4で示すように、後輪スリップ抑制制御が開始された状況のもとで、車両11のヨーレートYRが左回り側の閾値-ya1を上回ると(符号h2)、リア回生トルクRLTqが直近の値よりも下げられ(符号f4)、リア回生トルクRRTqが直近の値よりも上げられる(符号f5)。つまり、図16に時刻t4として示すように、車両11には左回りのモーメントMbが作用した状況であることから、左側のリア回生トルクRLTqを減少させ、右側のリア回生トルクRRTqを増加させる。この車両姿勢安定制御を実行することより、車両11に対してモーメントMbを打ち消す方向のモーメントm2を発生させることができ、車両姿勢を左回りから直進状態に戻すことができる。
【0060】
このように、後輪スリップ抑制制御が開始された状況のもとで、車両11のヨーレートが閾値を上回る場合には、リア回生トルクRRTq,RLTqを増減させることにより、リア回生トルクRRTq,RLTqのトルク差を拡大させる。前述したように、前輪スリップ抑制制御に続いて後輪スリップ抑制制御が実行される場合であっても、コースト走行時や降坂走行時には前輪12L,12Rに比べて後輪22L,22Rの荷重が低下する傾向にある。このため、前後輪12L,12R,22L,22Rを同様に制動していた場合であっても、荷重の小さな後輪22L,22Rにスリップが発生し易いことから、車両姿勢安定制御によってリア回生トルクRRTq,RLTqを増減させている。これにより、後輪22L,22Rのスリップによって乱れ易い車両後部を安定させることができ、コースト走行時の車両姿勢を安定させることができる。
【0061】
前述の説明では、車両姿勢安定制御において、左右のリア回生トルクRRTq,RLTqのうち、一方のリア回生トルクを減少させて他方のリア回生トルクを増加させているが、これに限られることはない。例えば、左右のリア回生トルクRRTq,RLTqのうち、一方のリア回生トルクを減少させて他方のリア回生トルクを維持しても良い。また、左右のリア回生トルクRRTq,RLTqのうち、一方のリア回生トルクを増加させて他方のリア回生トルクを維持しても良い。このように、リア回生トルクRRTq,RLTqを制御した場合であっても、リア回生トルクRRTq,RLTqのトルク差を拡大させることができ、車両姿勢を直進状態に戻すことができる。なお、車両姿勢安定制御におけるリア回生トルクRRTq,RLTqの増減量は、ヨーレートYRの大きさに基づき設定しても良く、ヨーレートYRの変化速度に基づき設定しても良い。
【0062】
<トルク抑制解消制御>
図13および図17に時刻t5で示すように、低μ路を脱出する前輪12L,12Rのスリップが解消し、前輪スリップ率FSLが閾値fs2を下回ると(符号c3)、前輪スリップフラグFFの設定が解除され(符号d2)、フロント回生トルクFTqは通常制御の目標値に向けて制御される(符号e2)。また、前輪スリップ率FSLが閾値fs2を下回ると(符号c3)、前述の式(7)に従い、車速VvおよびホイールベースWBに基づき実行時間Txが設定される。そして、時刻t6で示すように、実行時間Txの経過後に後輪スリップ抑制制御を終了させ、リア回生トルクRRTq,RLTqは通常制御の目標値に向けて制御される(符号f6)。
【0063】
ここで、前述したように、実行時間Txは、車両11のホイールベースWBを車速Vvで除した時間であり、前輪12L,12Rが接触する路面に後輪22L,22Rが到達するまでの時間である。つまり、図18に時刻t5,t6として示すように、時刻t5とは、前輪12L,12Rが低μ路から高μ路に移るタイミングであり、時刻t5から実行時間Txが経過した時刻t6とは、後輪22L,22Rが低μ路から高μ路に移るタイミングである。このように、実行時間Txが経過した時刻t6とは、後輪22L,22Rが高μ路に達したと予測されるタイミングである。このため、後輪22L,22Rのスリップ解消が判定される前であっても、実行時間Txを用いて後輪22L,22Rのスリップが解消されるタイミングを予測し、リアモータ24,25のフィードフォワード制御を実行している。これにより、リア回生トルクRRTq,RLTqをより適切に制御することができる。
【0064】
[他の実施形態1]
前述の説明では、前輪12L,12Rに対して2つのフロントモータ14,15を連結しているが、これに限られることはなく、前輪12L,12Rに対して1つのフロントモータを連結しても良い。ここで、図19は本発明の他の実施形態である車両用制御装置70の構成例を示す図である。図19において、図2に示した構成と同様の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0065】
図19に示すように、車両71には、左右の前輪12L,12Rを駆動する前輪駆動系72が設けられている。この前輪駆動系72は、フロントモータ(前輪用モータ)73およびフロントデファレンシャル74を有している。フロントモータ73のロータ73rには駆動ギア75が連結されており、駆動ギア75にはフロントデファレンシャル74に固定される従動ギア76が噛み合っている。そして、フロントデファレンシャル74から延びる車軸77には前輪12L,12Rが連結されている。
【0066】
フロントモータ73のステータ73sにはインバータ78が接続されており、インバータ78にはバッテリパック31が接続されている。また、インバータ78を介してフロントモータ73を制御するため、インバータ78にはフロント制御ユニット79が接続されている。このフロント制御ユニット79には、ロータ73rの回転速度を検出するレゾルバ等の回転センサ80が接続されている。さらに、フロント制御ユニット79および前述した各制御ユニット28,29,33,41によって、前輪駆動系72および後輪駆動系23を制御する制御システム81が構成されている。
【0067】
このように、車両用制御装置70を構成する前輪駆動系72が、左右の前輪12L,12Rに連結される1つのフロントモータ73によって構成される場合であっても、前述した車両用制御装置10と同様に機能させることが可能である。つまり、前述したコースト走行時のモータトルク制御を実行することにより、コースト走行時の車両姿勢を安定させることができる。
【0068】
[他の実施形態2]
図5に示したフロントトルク制御や図8に示したリアトルク制御においては、コースト走行であるか否かを判定した後に、前輪スリップ抑制制御や後輪スリップ抑制制御を開始しているが、これに限られることはない。ここで、図20はフロントトルク制御の他の実行手順を示すフローチャートであり、図21はリアトルク制御の他の実行手順を示すフローチャートである。なお、図20において、図5に示したステップと同様のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略する。また、図21において、図8に示したステップと同様のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0069】
図20に示すように、ステップS10では、アクセル操作およびブレーキ操作が解除されるコースト走行であるか否かが判定される。ステップS10において、コースト走行であると判定された場合には、ステップS100に進み、走行路面の路面勾配が下り勾配であるか否かが判定される。ステップS100において、走行路面が下り勾配であると判定された場合には、ステップS110に進み、車速が所定値Vaを下回る低車速領域であるか否かが判定される。ステップS110において、車速が所定値Vaを下回ると判定された場合には、ステップS11に進み、車速に基づき目標回生トルクTtq1が設定され、この目標回生トルクTtq1に基づきフロントモータ14,15の回生トルクが制御される。
【0070】
また、図21に示すように、ステップS40では、アクセル操作およびブレーキ操作が解除されるコースト走行であるか否かが判定される。ステップS40において、コースト走行であると判定された場合には、ステップS200に進み、走行路面の路面勾配が下り勾配であるか否かが判定される。ステップS200において、走行路面が下り勾配であると判定された場合には、ステップS210に進み、車速が所定値Vaを下回る低車速領域であるか否かが判定される。ステップS210において、車速が所定値Vaを下回ると判定された場合には、ステップS41に進み、車速に基づき目標回生トルクTtq1が設定され、この目標回生トルクTtq1に基づきリアモータ24,25の回生トルクが制御される。
【0071】
このように、コースト走行時の走行路面が下り勾配である状況のもとで、前述した前輪スリップ抑制制御、後輪スリップ抑制制御および姿勢安定制御が実行される。これにより、後輪22L,22Rの荷重が抜け易い下り勾配において、コースト走行時のモータトルク制御を実行することができ、コースト走行時の車両姿勢を安定させることができる。なお、車両制御ユニット41は、加速度センサ52の検出情報を用いて走行路面の路面勾配を算出することが可能である。また、コースト走行時の車速が所定値Vaを下回る状況のもとで、前述した前輪スリップ抑制制御、後輪スリップ抑制制御および姿勢安定制御が実行される。これにより、低車速領域においてコースト走行時の車両姿勢を安定させることができる。なお、図20および図21に示した例では、路面勾配が下り勾配であるか否を判定し、かつ車速が所定値Vaを下回るか否かを判定しているが、これに限られることはなく、路面勾配が下り勾配であるか否だけを判定しても良く、車速が所定値Vaを下回るか否かだけを判定しても良い。
【0072】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。前述の説明では、複数の制御ユニット18,19,28,29,33,41によって制御システム40を構成しているが、これに限られることはない。例えば、1つの制御ユニットによって制御システム40を構成しても良い。なお、車両11としては、図示する電気自動車に限られることはなく、燃料電池車であっても良く、シリーズ方式のハイブリッド車両であっても良い。また、前述の説明では、車体速度Vvを車速として利用しているが、これに限られることはなく、車輪速度Vfwを車速として利用しても良く、車輪速度Vrwを車速として利用しても良い。
【符号の説明】
【0073】
10 車両用制御装置
11 車両
12L 左前輪(前輪)
12R 右前輪(前輪)
13 前輪駆動系
14 左フロントモータ(前輪用モータ)
15 右フロントモータ(前輪用モータ)
22L 左後輪(後輪)
22R 右後輪(後輪)
23 後輪駆動系
24 左リアモータ(後輪用モータ)
25 右リアモータ(後輪用モータ)
40 制御システム
60 プロセッサ
61 メモリ
70 車両用制御装置
71 車両
72 前輪駆動系
73 フロントモータ(前輪用モータ)
81 制御システム
FSL 前輪スリップ率
fs1 閾値(開始閾値)
fs2 閾値(終了閾値)
Tfs 目標スリップ率(前輪目標値)
Ttq2 初期目標トルク(前輪用初期トルク,後輪用初期トルク)
YR ヨーレート
ya1,-ya1 閾値(挙動判定閾値)
Vv 車体速度(車速)
図1
図2
図3
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図5
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図10
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