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特許7554368EUV透過膜及びその使用方法、並びに露光方法
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  • 特許-EUV透過膜及びその使用方法、並びに露光方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】EUV透過膜及びその使用方法、並びに露光方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/62 20120101AFI20240911BHJP
【FI】
G03F1/62
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023562760
(86)(22)【出願日】2022-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2022034607
(87)【国際公開番号】W WO2024057500
(87)【国際公開日】2024-03-21
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【弁理士】
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】強力 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】谷村 昴
(72)【発明者】
【氏名】柏屋 俊克
(72)【発明者】
【氏名】茶園 弘基
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/018777(WO,A1)
【文献】特表2017-522590(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0047455(KR,A)
【文献】特開2020-098227(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0076258(KR,A)
【文献】特開2005-043895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長13.5nmにおけるEUV透過率が85%以上の主層であって、単層、又は2層以上の複合層で構成され、Beを主成分として含む主層と、
前記主層の少なくとも片面を覆う保護層であって、非晶質炭素、Cu、Al及び有機レジストからなる群から選択される少なくとも1種を主成分として含む保護層と、
を備えた、EUV透過膜。
【請求項2】
前記主層の50mol%以上をBeが占める、請求項1に記載のEUV透過膜。
【請求項3】
前記主層の両面が前記保護層で覆われている、請求項1又は2に記載のEUV透過膜。
【請求項4】
前記保護層の厚さが5nm以下である、請求項1又は2に記載のEUV透過膜。
【請求項5】
前記保護層が非晶質炭素で構成される、請求項1又は2に記載のEUV透過膜。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のEUV透過膜をEUV露光装置内に取り付ける工程と、
前記EUV透過膜にEUVを照射し、それにより前記保護層を除去する工程と、
を含む、EUV透過膜の使用方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のEUV透過膜をEUV露光装置内に取り付ける工程と、
前記EUV透過膜にEUVを照射し、それにより前記保護層を除去して前記主層を露出させる工程と、
EUV照射により前記露出した主層にEUVを透過させて、前記EUV露光装置内の感光基板にパターン露光を施す工程と、
【請求項8】
請求項1又は2に記載のEUV透過膜にEUVを照射し、それにより前記保護層を除去する工程を含む、EUV透過膜の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EUV透過膜及びその使用方法、並びに露光方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスにおける微細化が年々進行しており、各工程で様々な改良がなされている。特に、フォトリソグラフィ工程においては、従来のArF露光の波長193nmに代えて、波長13.5nmのEUV(極端紫外線)光が使用され始めた。その結果、波長が一気に1/10以下になり、その光学的特性は全く異なるものとなった。しかし、EUV光に対して高透過率を有する物質が無いため、例えばフォトマスク(レチクル(reticle))のパーティクル付着防止膜であるペリクル(pellicle)にはまだ実用的な物が存在しない。このため、デバイスメーカーはペリクルを使うことができずに半導体デバイスの製造を行っているのが現状である。
【0003】
そこで、ペリクル膜の開発が行われており、ペリクル膜のコア材料はEUV透過率が高いSi、Be、Y、Zr等を用いるのが望ましいとされている。特許文献1(特許第6858817号公報)には、コア層が(ポリ)Si等のEUV放射に実質的に透明な材料を含むコア層と、IR放射を吸収する材料を含むキャップ層とを備えたペリクル膜が開示されている。
【0004】
また、特許文献2(特開2020-98227号公報)には、ペリクルフレームの一端面に張設されるペリクル膜であって、単結晶Siの主層と、主層の片面又は両面にグラフェンを有するペリクル膜が開示されている。主層がグラフェンを有することで、ペリクル作製中にペリクル膜の破損がなく十分な機械的強度を呈することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6858817号公報
【文献】特開2020-98227号公報
【発明の概要】
【0006】
ところで、ペリクル膜に用いられる、上述したEUV透過率が高いコア材料は、大気中でその表面に数nmの自然酸化膜を形成し、この酸化膜がEUVを吸収することでペリクル膜のEUV透過率が低下してしまう。とりわけBeはEUV透過率が高い材料であるが、その表面には2~3nmの自然酸化膜が形成するとされており、その酸化膜による透過率損失は6~9%と大きい。また、ペリクル膜を作製するプロセスでは、大気以外のフッ素や塩素といったガスや、酸やアルカリ溶液を用いた処理を行うことがあるため、コア材料の表面に副反応膜が生じて、これによりEUV透過率が低下することも起こり得る。そのため、これらの膜の形成を抑制するための保護層を、コア材料表面に形成するのが望ましい。
【0007】
しかしながら、SiやBeのようなコア材料の表面に反応抑制保護層を付けることで、ペリクル膜の著しいEUV透過率の低下は防げるものの、このような保護層も純粋なコア材料と比べるとEUV透過率が低く、ペリクル膜全体としてのEUV透過率の低下につながる。例えば、Beコア材料の保護層としてRuが挙げられるが、このRuをBeコア材料の表面及び裏面に1~2nm設けた3層構造(Ru/Be/Ru)のペリクル膜を考えた場合、Ru保護層により約3~6%のEUV透過率損失が生じ、ペリクル膜としての性能は大きく低下する。その他にも保護層としてSiやBeのような窒化物が挙げられるが、上記同様にEUV透過率の低下が課題となる。すなわち、従来のペリクル膜においてEUV透過率低下の要因となっていた保護層によるEUV吸収を抑制又は無くすことができる、EUV透過膜が望まれる。
【0008】
本発明者らは、今般、EUV透過率が高い主層を、EUV露光により除去可能な一時保護層で覆うことで、EUV透過率低下の要因となっていた保護層によるEUV吸収を無くすことができ、それにより露光時に高いEUV透過率を呈することが可能なEUV透過膜を提供できるとの知見を得た。
【0009】
したがって、本発明の目的は、EUV透過率低下の要因となっていた保護層によるEUV吸収を無くすことができ、それにより露光時に高いEUV透過率を呈することが可能なEUV透過膜を提供することにある。
【0010】
本発明によれば、以下の態様が提供される。
[態様1]
波長13.5nmにおけるEUV透過率が85%以上の主層であって、単層、又は2層以上の複合層で構成される主層と、
前記主層の少なくとも片面を覆う保護層であって、非晶質炭素、Cu、Al及び有機レジストからなる群から選択される少なくとも1種を主成分として含む保護層と、
を備えた、EUV透過膜。
[態様2]
前記主層の両面が前記保護層で覆われている、態様1に記載のEUV透過膜。
[態様3]
前記主層が、Be、Si、Y又はZrを主成分として含む、態様1又は2に記載のEUV透過膜。
[態様4]
前記保護層の厚さが5nm以下である、態様1~3のいずれか一つに記載のEUV透過膜。
[態様5]
前記保護層が非晶質炭素で構成される、態様1~4のいずれか一つに記載のEUV透過膜。
[態様6]
態様1~5のいずれか一つに記載のEUV透過膜をEUV露光装置内に取り付ける工程と、
前記EUV透過膜にEUVを照射し、それにより前記保護層を除去する工程と、
を含む、EUV透過膜の使用方法。
[態様7]
態様1~5のいずれか一つに記載のEUV透過膜をEUV露光装置内に取り付ける工程と、
前記EUV透過膜にEUVを照射し、それにより前記保護層を除去して前記主層を露出させる工程と、
EUV照射により前記露出した主層にEUVを透過させて、前記EUV露光装置内の感光基板にパターン露光を施す工程と、
を含む、露光方法。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明によるEUV透過膜の一形態を示す模式断面図である。
図2A】例1~3におけるEUV透過膜の製造手順の前半部分を示す工程流れ図である。
図2B】例1~3におけるEUV透過膜の製造手順の後半部分を示す工程流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
EUV透過膜
図1に本発明の一形態によるEUV透過膜10の模式断面図を示す。EUV透過膜10は、主層12と、主層12の少なくとも片面を覆う保護層14とを備える。主層12は波長13.5nmにおけるEUV透過率が85%以上であり、単層、又は2層以上の複合層で構成される。保護層14は非晶質炭素、Cu、Al及び有機レジストからなる群から選択される少なくとも1種を主成分として含む。このように、EUV透過率が高い主層を、EUV露光により除去可能な一時保護層で覆うことで、EUV透過率低下の要因となっていた保護層によるEUV吸収を無くすことができ、それにより露光時に高いEUV透過率を呈することが可能なEUV透過膜を提供することができる。
【0013】
前述のとおり、EUV透過率が高いコア材料は、大気中でその表面に数nmの自然酸化膜を形成することがある。また、ペリクル膜を作製するプロセスでは、大気以外のフッ素や塩素といったガスや、酸やアルカリ溶液を用いた処理を行うことがあるため、コア材料の表面に副反応膜が生じることもある。このような膜の形成により、ペリクル膜のEUV透過率が低下する。そのため、これらの膜の形成を抑制するための保護層を、コア材料表面に形成するのが望ましい。しかしながら、コア材料の表面に反応抑制保護層を付けることで、ペリクル膜全体としてのEUV透過率の低下につながる。これらの問題が、本発明のEUV透過膜によれば首尾よく解決される。本発明のEUV透過膜が、自然酸化膜等の形成を防ぎながらも、保護層によるEUV透過率低下も防ぐことができるメカニズムは以下のとおりである。本発明のEUV透過膜は、EUV透過率が高い主層と、主層の少なくとも片面を覆う保護層を備えるところ、この保護層は、EUV露光により除去可能な一時保護層である。すなわち、ペリクル膜は、これを作製しEUV露光装置に搭載され露光プロセスに付されるまでの間に、上述した自然酸化膜や副反応膜が形成されてしまうところ、本発明のEUV透過膜は保護層を有することで上述した膜の形成を防ぐことができる。次に、露光プロセスは一般的に水素雰囲気中で行われ、その雰囲気中にはEUVにより生じた水素ラジカルが多く存在する。そこで、保護層を水素ラジカルで除去される材料で構成することにより、露光装置内でEUV透過膜の保護膜が除去され、純粋なコア材料(主層)のみの膜が得られるため、ペリクル膜として高い透過率を呈することができる。このようなメカニズムにより、本発明のEUV透過膜は、一時保護層により、自然酸化膜等の形成を防ぎながらも、露光プロセス中の一時保護層の除去により、保護層によるEUV透過率低下を防ぐことができる。その結果、露光時に高いEUV透過率を呈することが可能となる。
【0014】
主層12は、波長13.5nmにおけるEUV透過率が85%以上であり、好ましくは92%以上、より好ましくは94%以上、さらに好ましくは96%以上である。露光プロセスにおいて、EUV透過膜10のうち保護層14が除去され主層12が残ることなる。そのため、主層12のEUV透過率は高ければ高いほど望ましく、その上限値は特に限定されず理想的には100%であるが、典型的には99%以下、より典型的には98%以下である。
【0015】
主層12は、単層であってもよいし、2層以上の複合層であってもよい。いずれにしても、主層12は、Be、Si、Y又はZrを主成分として含むのが好ましい。ここで、主層12における「主成分」とは、主層12の50mol%以上、好ましくは70mol%以上、より好ましくは80mol%以上、さらに好ましくは90mol%以上を占める成分を意味する。もっとも、主層12(特に単層、又は複合層を構成する少なくとも1層)がBe、Si、Y又はZrのみからなるものであってもよい。このような主層12は、ペリクル膜としての基本的機能(パーティクル付着防止機能等)を確保しながら、高いEUV透過率の実現に寄与する。かかる観点から、主層12の厚さは、10~70nmであるのが好ましく、より好ましくは15~50nm、さらに好ましくは20~35nmである。
【0016】
上述のとおり、主層12は、2層以上の複合層であってもよい。例えば、金属ベリリウム層である主層に非晶質炭素の保護層を直接設けると、非晶質炭素と金属ベリリウムが反応して炭化ベリリウムを形成する場合がある。そこで、例えば主層12を金属ベリリウム層/窒化ベリリウム層(あるいは窒化ベリリウム層/金属ベリリウム層/窒化ベリリウム層)のような複合層構成とし、窒化ベリリウム層上に非晶質炭素の保護層を設けることで、非晶質炭素と金属ベリリウムの反応を防ぐ、すなわち主層と保護層との反応を抑制することができる。なお、本明細書において「窒化ベリリウム」なる用語は、Beのような化学量論組成のみならず、Be2-x(式中0<x<2である)のような非化学量論組成も許容する包括的な組成を意味するものとする。
【0017】
保護層14は、主層12を一時的に保護するための層である。したがって、保護層14は、主層12の少なくとも片面を覆っていればよいが、主層12の両面を保護層で覆うのが好ましい。保護層14は、非晶質炭素、Cu、Al及び有機レジストからなる群から選択される少なくとも1種を主成分として含む。EUV透過率が高い点、保護層14を除去した時の残渣による主層12への影響が少ない点、及び保護層14が除去されやすい点を考慮すると、保護層14は、非晶質炭素を主成分として含むのが好ましく、より好ましくは非晶質炭素で構成される。非晶質炭素は一般に、完全に不規則の原子配列を有することは少なく、微視的には結晶構造を有しているところ(すなわち、微結晶を有する)、このような微結晶が不規則に配列し、全体として非晶質になることが多い。なかでも、ダイヤモンドのように立体的な4配位構造の微結晶を多く含むものをDLC(Diamond-like Carbon)、グラファイトのように平面的な3配位構造の微粒子を多く含むものをGLC(Graphite-like Carbon)と呼ぶ。保護層14は完全に不規則な原子配列を有する炭素であってもよく、微結晶を不規則に有する炭素であってもよい。さらには、完全に緻密でなく、微細な気孔を含む非晶質炭素であってもよい。ここで、保護層14における「主成分」とは、保護層14の総重量に占める重量が50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上である成分を意味する。もっとも、保護層14は、非晶質炭素、Cu、Al及び有機レジストからなる群から選択される少なくとも1種のみからなるものであってもよい。
【0018】
保護層14の厚さは5nm以下であるのが好ましく、より好ましくは3nm以下である。保護層14の厚さの下限値は特に限定されないが、典型的には1nm以上である。
【0019】
上述のとおり、主層12は2層以上の層の複合層であってもよく、例えば、主層12がベリリウム層等の金属層に加え、その片面又は両面に窒化ベリリウム層等の窒化物層を備えていてもよい。この場合、主層12は、ベリリウム層等の金属層に近づくにつれて窒素濃度が減少する窒素濃度傾斜領域を有するのが好ましい。すなわち、上述のとおり窒化ベリリウムの組成にはBeのような化学量論組成からBe2-x(式中0<x<2である)のような非化学量論組成まで包含しうるところ、窒化ベリリウム層を構成する窒化ベリリウムが、ベリリウム層に近づくにつれてベリリウムリッチの組成に近づく傾斜組成とするのが好ましい。こうすることで、主層12を構成する窒化物層(すなわち窒化ベリリウム層)と金属層(すなわちベリリウム層)との密着性を向上できるとともに、両層間の熱膨張差に起因する応力の発生を緩和することができる。すなわち、両層間の密着性を向上させて剥離を抑制したり、EUV光を吸収して高温になった場合の両層間の熱膨張緩和層として剥離しにくくしたりすることができる。窒素濃度傾斜領域の厚さは、窒化物層の厚さよりも小さいのが好ましい。すなわち、窒化物層の厚さの全域が窒素濃度傾斜領域である必要はない。例えば、窒化物の厚さの一部のみ、例えば、窒化物層の厚さのうち10~70%の領域が窒素濃度傾斜領域であるのが好ましく、より好ましくは15~50%の領域が窒素濃度傾斜領域である。
【0020】
EUV透過膜10は、EUVを透過するための主要領域が自立膜の形態であるのが好ましい。すなわち、EUV透過膜10の外縁部にのみ、成膜時に用いた基板(例えばSi基板)がボーダー(border)として残存しているのが好ましい、つまり、外縁部以外の主要領域には基板(例えばSi基板)が残存していない、すなわち主要領域は主層12及び保護層14のみで構成されるのが好ましい。そして、露光プロセスにおいて保護層14が全て除去されるのが好ましい。なお、露光装置内は通常、超高真空になるまで減圧した後に処理を開始することから、露光装置内部の酸素分圧は著しく低く、保護層14が除去されて露出した主層12が酸化することはほぼない。露光装置内のわずかな残留酸素で、主層12表面がごくわずかに酸化する可能性があるが、酸化した部分は水素雰囲気中のEUV照射により還元することができる。そのため、露光プロセスに付されたEUV透過膜10は、露光装置から取り出すまで高いEUV透過率を維持することができる。
【0021】
製造方法
本発明によるEUV透過膜は、Si基板上にEUV透過膜とすべき積層膜を形成した後、Si基板の不要部分をエッチングで除去して自立膜化することにより作製することができる。したがって、前述のとおり、EUV透過膜の主要部分はSi基板が残存していない自立膜の形態となっている。
【0022】
(1)Si基板の準備
まず、その上に積層膜を形成するためのSi基板を準備する。Si基板は、その上に主層12と保護層14からなる積層膜を形成した後に、その外縁部以外の主要領域(すなわち自立膜とすべき領域)がエッチングにより除去されることになる。したがって、エッチングを効率良く短時間で行うため、予め自立膜とすべき領域のSi基板の厚さを薄くしておくことが望ましい。そのため、通常の半導体プロセスを用いて、Si基板にEUV透過形状に対応したマスクを形成し、ウェットエッチングによりSi基板をエッチングして、Si基板の主要領域の厚さを所定厚さまで薄くすることが望まれる。ウェットエッチングを経たSi基板を洗浄及び乾燥することで、ウェットエッチングにより形成したキャビティを有するSi基板を準備する。なお、ウェットエッチングマスクとしては、Siのウェットエッチング液に対して耐食性を有する材質であればよく、例えばSiOが好適に使用される。また、ウェットエッチング液としては、Siをエッチング可能なものであれば特に限定されない。例えば、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)を適切な条件で使用すれば、Siに対する異方性エッチングで非常に良好なエッチングができるため好ましい。
【0023】
(2)積層膜の形成
積層膜の形成は、いかなる成膜手法により行われてもよい。好ましい成膜手法の一例としては、スパッタリング法が挙げられる。非晶質炭素/ベリリウム/非晶質炭素の3層構造を作製する場合、主層12としてのベリリウム膜は、純Beターゲットを用いたスパッタリングにより作製し、保護層14としての非晶質炭素膜は、グラファイトターゲットを用いたスパッタリングにより行うのが好ましい。なお、ベリリウムや非晶質炭素膜の形成手法はこれらに限定されるものではない。なお、ベリリウム膜と非晶質炭素膜は後述する実施例のように1つのチャンバーのスパッタリング装置で形成してもよいし、2チャンバーのスパッタリング装置を用いてベリリウム膜と非晶質炭素膜を別々のチャンバー内で形成してもよい。
【0024】
主層12を窒化ベリリウム/ベリリウム/窒化ベリリウムの3層構造の複合層として作製する場合、ベリリウム膜は、純Beターゲットを用いたスパッタリングにより作製し、窒化ベリリウム膜は、反応性スパッタリングにより行うのが好ましい。この反応性スパッタリングは、例えば、純Beターゲットを用いたスパッタリング中に、チャンバー内に窒素ガスを入れることで、ベリリウムと窒素が反応して窒化ベリリウムを生成することにより行うことができる。また、別の手法として、窒化ベリリウムの作製は、ベリリウム膜を形成した後、窒素プラズマを照射することでベリリウムを窒化反応させて窒化ベリリウムを生成させることにより行うこともできる。いずれにしても、窒化ベリリウムの合成手法はこれらに限定されるものではない。
【0025】
窒化ベリリウム/ベリリウム/窒化ベリリウムの3層構造の複合層において窒素濃度傾斜領域を形成する場合、窒化ベリリウムの成膜及び金属ベリリウムの成膜を行うに際して、チャンバー内に窒素ガスを入れて純Beターゲットを用いたスパッタリングを継続して行いながら、途中から窒素ガスの導入を止めて金属ベリリウムの成膜に切り替えればよい。こうすることで、チャンバー内の窒素ガスの濃度の低下に伴い、成膜される膜中の窒素濃度が厚さ方向に減少する領域が形成される。一方、金属ベリリウムから窒化ベリリウムに切り替える場合は、上記とは逆に、スパッタリングを継続して行いながら、途中から窒素ガスの導入を始めれば、窒素濃度傾斜領域を形成することができる。窒素濃度傾斜領域の厚さは、窒素ガス濃度を変化させる時間を調整することにより制御することができる。
【0026】
(3)自立膜化
複合膜を形成したSi基板の、ボーダーとして残す外縁部以外のSi基板の不要部分をエッチングで除去して、複合膜の自立膜化を行う。Siのエッチングは、いかなる手法により行われてもよいが、XeFを用いたエッチングにより好ましく行うことができる。
【0027】
使用方法及び露光方法
上述のとおり、露光プロセスは一般的に水素雰囲気中で行われ、その雰囲気中にはEUVにより生じた水素ラジカルが多く存在する。そのため、EUV透過膜10における保護層14は水素ラジカルにより除去され、純粋なコア材料(主層12)のみの膜が得られるため、露光プロセスにおいて主層12はペリクル膜として高い透過率を呈することができる。したがって、好ましいEUV透過膜の使用方法は、EUV透過膜をEUV露光装置内に取り付ける工程と、EUV透過膜にEUVを照射し、それにより保護層を除去する工程とを含む。また、好ましい露光方法は、EUV透過膜をEUV露光装置内に取り付ける工程と、EUV透過膜にEUVを照射し、それにより保護層を除去して主層を露出させる工程と、EUV照射により露出した主層にEUVを透過させて、EUV露光装置内の感光基板にパターン露光を施す工程とを含む。
【実施例
【0028】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0029】
例1
図2A及び2Bに示される手順に従い、非晶質炭素/ベリリウム/非晶質炭素の3層構造の複合自立膜(EUV透過膜)を以下のようにして作製した。
【0030】
(1)Si基板の準備
直径8インチ(20.32cm)のSiウェハ20を用意した(図2A(a))。このSiウェハ20の両面に、熱酸化によりSiO膜22を50nm厚さで形成した(図2A(b))。Siウェハ20の両面にレジストを塗布し、片面に110mm×145mmのレジストの穴ができるように、露光及び現像を行いSiOエッチング用のレジストマスク24を形成した(図2A(c))。この基板の一方の面をフッ酸でウェットエッチングすることにより、SiO膜22の露出部分をエッチング除去してSiOマスク22aを作製した(図2A(d))。SiOエッチングのためのレジストマスク24をアッシング装置で除去した(図2A(e))。その後、TMAH液によりSiをウェットエッチングした。このエッチングは、事前にエッチングレートを測定しておき、狙いとするSi基板厚50μmとするためのエッチング時間だけ実施した(図2A(f))。最後にSiエッチングしていない面に形成してあるSiO膜22をフッ酸により除去及び洗浄して、Si基板28を準備した(図2B(g))。Si基板外形は必要に応じてレーザー30でダイシングして(図2B(h))、所望の形状としてもよい(図2B(i))。こうして、8インチ(20.32cm)Siウェハ20の中央に110mm×145mmのキャビティ26を設け、キャビティ26部分のSi厚さが50μmであるSi基板28を準備した。
【0031】
(2)複合膜の形成
上記(1)で得られたキャビティ26を備えたSi基板28に、非晶質炭素/ベリリウム/非晶質炭素の3層構造の複合膜を以下のようにして形成した(図2B(i))。まず、マルチターゲットのスパッタリング装置にSi基板28をセットし、グラファイトターゲット及び純Beターゲットを取り付けた。チャンバー内を真空引きし、グラファイトターゲットを使用して、内圧0.3Paでアルゴンガスのみでスパッタリングを行い、非晶質炭素としてDLC(Diamond-like Carbon)が2nm成膜される時間を見計らってスパッタリングを終了した。次いで、チャンバー内を再度真空引きし、純Beターゲットを使用して、内圧0.5Paで、アルゴンガスのみでスパッタリングを行い、ベリリウムが30nm成膜される時間を見計らってスパッタリングを終了した。その後、最初と同様にグラファイトターゲットを使用してスパッタリングを行い、非晶質炭素が2nm成膜される時間を見計らってスパッタリングを終了した。このようにして、非晶質炭素(C)2nm/ベリリウム(Be)30nm/非晶質炭素(C)2nmの複合膜をEUV透過膜10として形成した。すなわち、このEUV透過膜10は、Beを主成分として含む主層と、非晶質炭素を主成分として含む保護層を主層の両面に備える。
【0032】
(3)自立膜化
8インチ(20.32cm)基板を処理可能なXeFエッチャーのチャンバー内に、上記(2)で準備した複合膜付きのSi基板28をセットした。チャンバー内を十分真空引きした。このとき、チャンバー内に水分が残留していると、XeFガスと反応してフッ酸を生じ、エッチャーの腐食や想定外のエッチングが起きてしまうため、十分な真空引きを行った。必要に応じて、チャンバー内を、真空引きと窒素ガス導入を繰り返し、残留水分を減らした。十分に真空引きが出来たところで、XeF原料ボンベと予備室の間のバルブを開いた。その結果、XeFが昇華して予備室内にもXeFガスが蓄積された。十分に予備室内にXeFガスが蓄積されたところで、予備室とチャンバーの間のバルブを開き、XeFガスをチャンバー内に導入した。XeFガスはXeとFに分解し、FはSiと反応してSiFを生成した。SiFの沸点は-95℃であるため、生成したSiFは速やかに蒸発し、新たに露出したSi基板とFの反応が引き起こされた。Siエッチングが進行し、チャンバー内のFが減少したところで、チャンバー内を真空引きし、再度XeFガスをチャンバー内に導入しエッチングを行った。このようにして、真空引き、XeFガス導入、及びエッチングを繰り返して、自立膜化させる部分に対応するSi基板28が消失するまでエッチングを続けた。不要部分のSi基板が無くなったところでエッチングを終了した。こうして、Si製ボーダー(border)20を有する複合自立膜をEUV透過膜10として得た(図2B(j))。
【0033】
例2(比較)
複合膜の形成を以下のとおり行ったこと以外は、例1と同様にしてルテニウム/ベリリウム/ルテニウムの3層構造の複合自立膜を作製した。
【0034】
(複合膜の形成)
例1の上記(1)で得られたキャビティを形成したSi基板を、マルチターゲットのスパッタリング装置内に入れ、純ルテニウムターゲット及び純Beターゲットを取り付けた。チャンバー内を真空引きし、純ルテニウムターゲットを使用して、内圧0.3Paでアルゴンガスのみでスパッタリングを行い、ルテニウムが2nm成膜される時間を見計らってスパッタリングを終了した。次いで、チャンバー内を再度真空引きし、純Beターゲットを使用して、内圧0.5Paで、アルゴンガスのみでスパッタリングを行い、ベリリウムが30nm成膜される時間を見計らってスパッタリングを終了した。その後、最初と同様に純ルテニウムターゲットを使用してスパッタリングを行い、ルテニウムが2nm成膜される時間を見計らってスパッタリングを終了した。このようにして、ルテニウム(Ru)2nm/ベリリウム(Be)30nm/ルテニウム(Ru)2nmの複合膜をEUV透過膜として形成した。
【0035】
例3(比較)
複合膜の形成を以下のとおり行ったこと以外は、例1と同様にして結晶性炭素/ベリリウム/結晶性炭素の3層構造の複合自立膜を作製した。
【0036】
(複合膜の形成)
例1の上記(1)で得られたキャビティを形成したSi基板を、化学気相成長(CVD(Chemical Vaper Deposition))装置内に入れ、メタンをガス原料としてグラファイトの結晶構造を有する結晶性炭素を2nm成膜した。次いで、結晶性炭素を成膜したSi基板をマルチターゲットのスパッタリング装置内に入れ、グラファイトターゲット及び純Beターゲットを取り付けた。チャンバー内を真空引きし、純Beターゲットを使用して、内圧0.5Paで、アルゴンガスのみでスパッタリングを行い、ベリリウムが30nm成膜される時間を見計らってスパッタリングを終了した。グラファイトターゲットを使用して、内圧0.3Paで、アルゴンガスのみでスパッタリングを行い、非晶質炭素が0.5nm成膜される時間を見計らってスパッタリングを終了した。その後、スパッタリングしたSi基板を再度気相成長装置に入れ、非晶質炭素が十分に除去されるまで、水素クリーニングを行い、最初と同様にメタンをガス原料としてグラファイトの結晶構造を有する結晶性炭素を2nm成膜した。このようにして、結晶性炭素(C)2nm/ベリリウム(Be)30nm/結晶性炭素(C)2nmの複合膜をEUV透過膜として形成した。なお、スパッタリングで一時的に成膜した非晶質炭素はスパッタリングから化学気相成長するまでの間に、ベリリウムが酸化することを抑制するために形成したものである。
【0037】
EUV透過率
例1~3で作製したEUV透過膜としての自立膜に対して、20Paの水素雰囲気中にて600Wの出力でEUV光を15分間照射した後、透過したEUV光量をセンサーで測定した。得られた測定値と、EUV透過膜無しで直接のEUV光量をセンサーで測定した値との比較から、EUV透過率を求めた。その結果、例1で作製した複合自立膜のEUV透過率は95%であった。比較例である例2で作製した複合自立膜のEUV透過率は88%であった。比較例である例3で作製した複合自立膜のEUV透過率は90%であった。例3における複合自立膜を解析したところ、保護層には結晶性炭素が残存していることが確認された。すなわち、例3の結晶性炭素/ベリリウム/結晶性炭素の複合自立膜においては、露光プロセスにおいて結晶性炭素が除去されにくくベリリウムの主層表面に残存することで、複合自立膜のEUV透過率が低下すると考えられる。一方で、例1の非晶質炭素/ベリリウム/非晶質炭素の複合自立膜においては、露光プロセスにおいて非晶質炭素が除去されることでベリリウムの主層のみとなるため、95%という高いEUV透過率を呈するものと考えられる。
図1
図2A
図2B