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特許7554373柱梁接合部の構造および柱梁接合部の設計方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-10
(45)【発行日】2024-09-19
(54)【発明の名称】柱梁接合部の構造および柱梁接合部の設計方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/20 20060101AFI20240911BHJP
   E04B 1/18 20060101ALI20240911BHJP
   E04B 1/21 20060101ALI20240911BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
E04B1/20 E
E04B1/18 G
E04B1/21 B
E04B1/58 508P
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024012474
(22)【出願日】2024-01-31
【審査請求日】2024-01-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591205536
【氏名又は名称】JFEシビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】川田 侑子
(72)【発明者】
【氏名】山岡 賢史
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-207755(JP,A)
【文献】特開平11-100900(JP,A)
【文献】特開2010-196347(JP,A)
【文献】特開2010-242390(JP,A)
【文献】特開平07-189337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/20
E04B 1/18
E04B 1/21
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁との柱梁接合部の構造であって、
前記鉄骨梁の端部が前記鉄筋コンクリート柱の一方の側面から反対側の側面に向かって貫入し、
前記鉄骨梁のウェブのうち前記鉄筋コンクリート柱に貫入する部分が、ダブラープレートにより補強され
前記鉄骨梁の上フランジと下フランジの間の高さの範囲で、前記鉄筋コンクリート柱の側面を、前記鉄骨梁のウェブの表面位置まで覆うように取り囲むふさぎ板が設けられ、
前記鉄骨梁の上フランジと下フランジの間の高さの範囲における前記鉄筋コンクリート柱および前記鉄骨梁は、下記(1)式を満たす寸法および材料強度を有する、柱梁接合部の構造。
J dU w Q+ h Q+ c Q ……(1)
ただし、上記(1)式において、
J dU :柱梁接合部の終局時に柱梁接合部に作用するせん断力(N)
w Q:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブのせん断耐力(N)であり、
w Q= w τ U × w e ……(2)
h Q:ふさぎ板のせん断耐力(N)、
c Q:コンクリートのせん断耐力(N)、
上記(2)式において、
w τ U :柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブのせん断強度(N/mm 2
w e :柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブの有効断面積(mm 2 )であり、
w e =0.9×( w t+0.8 d t)× c D ……(3)
上記(3)式において、
w t:柱梁接合部内の鉄骨梁のウェブの厚さ(mm)、
d t:ダブラープレートの厚さ(mm)、
c D:鉄筋コンクリート柱の柱せい(mm)
である。
【請求項2】
鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁との柱梁接合部の構造であって、
前記鉄骨梁の端部が前記鉄筋コンクリート柱の一方の側面から反対側の側面に向かって貫入し、
前記鉄骨梁のウェブのうち前記鉄筋コンクリート柱に貫入する部分が、ダブラープレートにより補強され
前記鉄骨梁のウェブ、上フランジおよび下フランジに囲まれる部位に、前記柱梁接合部内のコンクリートを支圧する支圧板が設けられ、
前記鉄骨梁の上フランジと下フランジの間の高さの範囲で、前記鉄筋コンクリート柱の側面のうち、前記支圧板により覆われずに残る部分を取り囲むふさぎ板が、前記支圧板と連続するように設けられ、
前記鉄骨梁の上フランジと下フランジの間の高さの範囲における前記鉄筋コンクリート柱および前記鉄骨梁は、下記(1)式を満たす寸法および材料強度を有する、柱梁接合部の構造。
J dU w Q+ h Q+ c Q……(1)
ただし、上記(1)式において、
J dU :柱梁接合部の終局時に柱梁接合部に作用するせん断力(N)
w Q:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブのせん断耐力(N)であり、
w Q= w τ U × w e ……(2)
h Q:ふさぎ板および支圧板のせん断耐力(N)、
c Q:コンクリートのせん断耐力(N)、
上記(2)式において、
w τ U :柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブのせん断強度(N/mm 2
w e :柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブの有効断面積(mm 2 )であり、
w e =( w t+0.8 d t)× c D ……(4)
上記(4)式において、
w t:柱梁接合部内の鉄骨梁のウェブの厚さ(mm)、
d t:ダブラープレートの厚さ(mm)、
c D:鉄筋コンクリート柱の柱せい(mm)
である。
【請求項3】
前記ふさぎ板の幅hb(mm)および厚さht(mm)は、hb/ht≦217およびht≧6の関係を満たす、請求項1または2に記載の柱梁接合部の構造。
【請求項4】
前記鉄骨梁のウェブのうち前記鉄筋コンクリート柱に貫入する部分および前記ダブラープレートに、コンクリート充填用の孔が設けられている、請求項1または2に記載の柱梁接合部の構造。
【請求項5】
前記鉄骨梁のウェブのうち前記鉄筋コンクリート柱に貫入する部分および前記ダブラープレートに、コンクリート充填用の孔が設けられている、請求項に記載の柱梁接合部の構造。
【請求項6】
前記鉄骨梁の芯と前記鉄筋コンクリート柱の芯との交点に対し、ブレースの端部が偏心するように取り付いている、請求項1または2に記載の柱梁接合部の構造。
【請求項7】
鉄筋コンクリート柱に接合される鉄骨梁の端部を、前記鉄筋コンクリート柱の一方の側面から反対側の側面に向かって貫入させ、
前記鉄骨梁のウェブのうち前記鉄筋コンクリート柱に貫入する部分を、ダブラープレートにより補強し、
前記鉄骨梁の上フランジと下フランジの間の高さの範囲で、前記鉄筋コンクリート柱の側面を、前記鉄骨梁のウェブの表面位置まで覆うように取り囲むふさぎ板を設け、
下記(1)式を満たすように、前記鉄骨梁の上フランジと下フランジの間の高さの範囲における前記鉄筋コンクリート柱および前記鉄骨梁の寸法および材料強度を設定する、柱梁接合部の設計方法。
JdUwQ+hQ+cQ ……(1)
ただし、上記(1)式において、
JdU:柱梁接合部の終局時に柱梁接合部に作用するせん断力(N)
wQ:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブのせん断耐力(N)であり、
wQ=wτU×we ……(2)
hQ:ふさぎ板のせん断耐力(N)、
cQ:コンクリートのせん断耐力(N)、
上記(2)式において、
wτU:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブのせん断強度(N/mm2
we:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブの有効断面積(mm2)であり、
we=0.9×(wt+0.8dt)×cD ……(3)
上記(3)式において、
wt:柱梁接合部内の鉄骨梁のウェブの厚さ(mm)、
dt:ダブラープレートの厚さ(mm)、
cD:鉄筋コンクリート柱の柱せい(mm)
である。
【請求項8】
鉄筋コンクリート柱に接合される鉄骨梁の端部を、前記鉄筋コンクリート柱の一方の側面から反対側の側面に向かって貫入させ、
前記鉄骨梁のウェブのうち前記鉄筋コンクリート柱に貫入する部分を、ダブラープレートにより補強し、
前記鉄骨梁のウェブ、上フランジおよび下フランジに囲まれる部位に、前記柱梁接合部内のコンクリートを支圧する支圧板を設け、
前記鉄骨梁の上フランジと下フランジの間の高さの範囲で、前記鉄筋コンクリート柱の側面のうち、前記支圧板により覆われずに残る部分を取り囲むふさぎ板を、前記支圧板と連続するように設け、
下記(1)式を満たすように、前記鉄骨梁の上フランジと下フランジの間の高さの範囲における前記鉄筋コンクリート柱および前記鉄骨梁の寸法および材料強度を設定する、柱梁接合部の設計方法。
JdUwQ+hQ+cQ ……(1)
ただし、上記(1)式において、
JdU:柱梁接合部の終局時に柱梁接合部に作用するせん断力(N)
wQ:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブのせん断耐力(N)であり、
wQ=wτU×we ……(2)
hQ:ふさぎ板および支圧板のせん断耐力(N)、
cQ:コンクリートのせん断耐力(N)、
上記(2)式において、
wτU:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブのせん断強度(N/mm2
we:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブの有効断面積(mm2)であり、
we=(wt+0.8dt)×cD ……(4)
上記(4)式において、
wt:柱梁接合部内の鉄骨梁のウェブの厚さ(mm)、
dt:ダブラープレートの厚さ(mm)、
cD:鉄筋コンクリート柱の柱せい(mm)
である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁との柱梁接合部の構造、および柱梁接合部の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の構造形式として、柱を鉄筋コンクリート造とし、梁を鉄骨造とした、RCS構造が用いられている。RCS構造は、圧縮力に強い鉄筋コンクリート部材を柱に、軽量で曲げやせん断に強い鉄骨部材を梁に用いるため、合理的な構造となる。すなわち、鉄骨梁によりロングスパン化を可能にしつつ、鉄筋コンクリート柱により経済的に建物剛性を高め、建物重量を確実に支えることができる。RCS構造は、その特長から、大スパンかつ積載荷重の大きな建築物、具体的には物流施設や店舗などに特に適している。
【0003】
RCS構造では、その柱梁接合部の構造をどのような形式にするのかが、建築物全体の構造性能を確保する上でのポイントになる。RCS構造の柱梁接合部の構造としては、鉄骨梁の端部が鉄筋コンクリート柱の一方の側面から反対側の側面に向かって貫入するようにして柱梁接合部が構成される形式(以下、梁貫通形式という)が多く用いられている。
【0004】
梁貫通形式の柱梁接合部の構造には、図1に示すように柱梁接合部1内のコンクリートを取り囲むふさぎ板を設ける形式(以下、ふさぎ板タイプという)、柱梁接合部内のコンクリートをせん断補強筋で補強するとともに鉄骨梁の柱面位置に支圧板を設ける形式(以下、せん断補強筋タイプという)がある。
【0005】
非特許文献1には、このような梁貫通形式ふさぎ板タイプ、梁貫通形式せん断補強筋タイプの柱梁接合部の構造についての設計指針が記載されている。非特許文献1に記載される設計指針では、せん断補強筋タイプだけでなくふさぎ板タイプの梁貫通形式柱梁接合部についても、図2に示すように、鉄骨梁3の柱面位置に支圧板35を設けることで、枠効果により柱梁接合部1´内のコンクリートの耐力を上げ、構造性能上有利になるようにしている。
【0006】
また、非特許文献2、特許文献1および特許文献2には、梁貫通形式ふさぎ板タイプの柱梁接合部の構造の具体例が開示されている。
【0007】
非特許文献2では、梁貫通形式ふさぎ板タイプの柱梁接合部において、ふさぎ板の厚さを小さくして性能確認実験を行った結果が開示されている。
【0008】
特許文献1には、鉄骨梁の柱面位置にガセットプレートが一体に設けられ、このガセットプレートにふさぎ板がボルト接合された、柱梁接合部の構造が開示されている。これにより、ボルト孔で部材誤差が吸収され、ふさぎ板の製作、取付け時に高度な加工精度、溶接技術を不要としている。
【0009】
特許文献2には、柱梁接合部内のコンクリートを取り囲むふさぎ板を、鉄骨梁の下フランジよりも下方まで延長した、柱梁接合部の構造が開示されている。これにより、柱梁接合部におけるせん断補強筋の量を削減し、コンクリート充填性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2018-119316号公報
【文献】特開2022-076025号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】日本建築学会編、「鉄筋コンクリート柱・鉄骨梁混合構造設計指針 第1版」、一般社団法人日本建築学会、2021年2月
【文献】森貴久、外1名、「RCS構造におけるふさぎ板形式柱梁接合部のせん断耐力に関する実験」、日本建築学会大会学術講演梗概集(関東)、一般社団法人日本建築学会、2006年7月、pp.1099-1100
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述のような梁貫通形式の柱梁接合部の構造では、その耐力を上げようとすると、次のような課題が存在する。
【0013】
まず、柱梁接合部の耐力を上げる方法として、柱梁接合部内のみコンクリートの強度を上げようとすると、柱梁接合部内とそれ以外の鉄筋コンクリート柱とで、強度が異なるコンクリートを打ち分ける必要が生じるため、施工性や構造性能において好ましくない。
【0014】
また、ふさぎ板の厚さを大きくすることにより、柱梁接合部内のコンクリートを拘束する枠効果を高めようとすると、ふさぎ板の隅角部を曲げ加工する場合の曲げ半径が大きくなり、鉄筋コンクリート柱の主筋の位置に影響しやすくなる。これを避けるべく、ふさぎ板の隅角部を、二枚の鋼板を組み合わせて溶接することにより形成すると、ふさぎ板の加工手間が増える。
【0015】
また、鉄骨梁のウェブの厚さを大きくすることにより、柱梁接合部パネル内の鉄骨梁のウェブのせん断耐力を高めようとすると、鉄骨梁に要するコストが増大する。
【0016】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁との柱梁接合部において、比較的簡単な構造で柱梁接合部の耐力を上げることができ、経済性、施工性、および構造性能に優れる、柱梁接合部の構造および柱梁接合部の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁との柱梁接合部の構造であって、前記鉄骨梁の端部が前記鉄筋コンクリート柱の一方の側面から反対側の側面に向かって貫入し、前記鉄骨梁のウェブのうち前記鉄筋コンクリート柱に貫入する部分が、ダブラープレートにより補強されている、柱梁接合部の構造。
[2] 前記鉄骨梁の上フランジと下フランジの間の高さの範囲で、前記鉄筋コンクリート柱の側面を、前記鉄骨梁のウェブの表面位置まで覆うように取り囲むふさぎ板が設けられている、[1]に記載の柱梁接合部の構造。
[3] 前記鉄骨梁の上フランジと下フランジの間の高さの範囲における前記鉄筋コンクリート柱および前記鉄骨梁は、下記(1)式を満たす寸法および材料強度を有する、請求項2に記載の柱梁接合部の構造。
【0018】
JdUwQ+hQ+cQ ……(1)
ただし、上記(1)式において、
JdU:柱梁接合部の終局時に柱梁接合部に作用するせん断力(N)
wQ:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブのせん断耐力(N)であり、
wQ=wτU×we ……(2)
hQ:ふさぎ板のせん断耐力(N)、
cQ:コンクリートのせん断耐力(N)、
上記(2)式において、
wτU:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブのせん断強度(N/mm2
we:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブの有効断面積(mm2)であり、
we=0.9×(wt+0.8dt)×cD ……(3)
上記(3)式において、
wt:柱梁接合部内の鉄骨梁のウェブの厚さ(mm)、
dt:ダブラープレートの厚さ(mm)、
cD:鉄筋コンクリート柱の柱せい(mm)
である。
[4] 前記鉄骨梁のウェブ、上フランジおよび下フランジに囲まれる部位に、前記柱梁接合部内のコンクリートを支圧する支圧板が設けられ、前記鉄骨梁の上フランジと下フランジの間の高さの範囲で、前記鉄筋コンクリート柱の側面のうち、前記支圧板により覆われずに残る部分を取り囲むふさぎ板が、前記支圧板と連続するように設けられている、[1]に記載の柱梁接合部の構造。
【0019】
なお、支圧板は、鉄骨梁のウェブの厚さ以上の厚さを有する鋼板からなるものとする。
[5] 前記鉄骨梁の上フランジと下フランジの間の高さの範囲における前記鉄筋コンクリート柱および前記鉄骨梁は、下記(1)式を満たす寸法および材料強度を有する、[4]に記載の柱梁接合部の構造。
【0020】
JdUwQ+hQ+cQ……(1)
ただし、上記(1)式において、
JdU:柱梁接合部の終局時に柱梁接合部に作用するせん断力(N)
wQ:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブのせん断耐力(N)であり、
wQ=wτU×we ……(2)
hQ:ふさぎ板および支圧板のせん断耐力(N)、
cQ:コンクリートのせん断耐力(N)、
上記(2)式において、
wτU:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブのせん断強度(N/mm2
we:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブの有効断面積(mm2)であり、
we=(wt+0.8dt)×cD ……(4)
上記(4)式において、
wt:柱梁接合部内の鉄骨梁のウェブの厚さ(mm)、
dt:ダブラープレートの厚さ(mm)、
cD:鉄筋コンクリート柱の柱せい(mm)
である。
[6] 前記ふさぎ板の幅hb(mm)および厚さht(mm)は、hb/ht≦217およびht≧6の関係を満たす、[2]~[5]のいずれかに記載の柱梁接合部の構造。
[7] 前記鉄骨梁のウェブのうち前記鉄筋コンクリート柱に貫入する部分および前記ダブラープレートに、コンクリート充填用の孔が設けられている、[1]~[5]のいずれかに記載の柱梁接合部の構造。
[8] 前記鉄骨梁のウェブのうち前記鉄筋コンクリート柱に貫入する部分および前記ダブラープレートに、コンクリート充填用の孔が設けられている、[6]に記載の柱梁接合部の構造。
[9] 前記鉄骨梁の芯と前記鉄筋コンクリート柱の芯との交点に対し、ブレースの端部が偏心するように取り付いている、[1]~[5]のいずれかに記載の柱梁接合部の構造。
[10] 鉄筋コンクリート柱に接合される鉄骨梁の端部を、前記鉄筋コンクリート柱の一方の側面から反対側の側面に向かって貫入させ、前記鉄骨梁のウェブのうち前記鉄筋コンクリート柱に貫入する部分を、ダブラープレートにより補強し、前記鉄骨梁の上フランジと下フランジの間の高さの範囲で、前記鉄筋コンクリート柱の側面を、前記鉄骨梁のウェブの表面位置まで覆うように取り囲むふさぎ板を設け、下記(1)式を満たすように、前記鉄骨梁の上フランジと下フランジの間の高さの範囲における前記鉄筋コンクリート柱および前記鉄骨梁の寸法および材料強度を設定する、柱梁接合部の設計方法。
【0021】
JdUwQ+hQ+cQ ……(1)
ただし、上記(1)式において、
JdU:柱梁接合部の終局時に柱梁接合部に作用するせん断力(N)
wQ:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブのせん断耐力(N)であり、
wQ=wτU×we ……(2)
hQ:ふさぎ板のせん断耐力(N)、
cQ:コンクリートのせん断耐力(N)、
上記(2)式において、
wτU:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブのせん断強度(N/mm2
we:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブの有効断面積(mm2)であり、
we=0.9×(wt+0.8dt)×cD ……(3)
上記(3)式において、
wt:柱梁接合部内の鉄骨梁のウェブの厚さ(mm)、
dt:ダブラープレートの厚さ(mm)、
cD:鉄筋コンクリート柱の柱せい(mm)
である。
[11] 鉄筋コンクリート柱に接合される鉄骨梁の端部を、前記鉄筋コンクリート柱の一方の側面から反対側の側面に向かって貫入させ、前記鉄骨梁のウェブのうち前記鉄筋コンクリート柱に貫入する部分を、ダブラープレートにより補強し、前記鉄骨梁のウェブ、上フランジおよび下フランジに囲まれる部位に、前記柱梁接合部内のコンクリートを支圧する支圧板を設け、前記鉄骨梁の上フランジと下フランジの間の高さの範囲で、前記鉄筋コンクリート柱の側面のうち、前記支圧板により覆われずに残る部分を取り囲むふさぎ板を、前記支圧板と連続するように設け、下記(1)式を満たすように、前記鉄骨梁の上フランジと下フランジの間の高さの範囲における前記鉄筋コンクリート柱および前記鉄骨梁の寸法および材料強度を設定する、柱梁接合部の設計方法。
【0022】
JdUwQ+hQ+cQ ……(1)
ただし、上記(1)式において、
JdU:柱梁接合部の終局時に柱梁接合部に作用するせん断力(N)
wQ:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブのせん断耐力(N)であり、
wQ=wτU×we ……(2)
hQ:ふさぎ板および支圧板のせん断耐力(N)、
cQ:コンクリートのせん断耐力(N)、
上記(2)式において、
wτU:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブのせん断強度(N/mm2
we:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブの有効断面積(mm2)であり、
we=(wt+0.8dt)×cD ……(4)
上記(4)式において、
wt:柱梁接合部内の鉄骨梁のウェブの厚さ(mm)、
dt:ダブラープレートの厚さ(mm)、
cD:鉄筋コンクリート柱の柱せい(mm)
である。
【0023】
なお、支圧板は、鉄骨梁のウェブの厚さ以上の厚さを有する鋼板からなるものとする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の柱梁接合部の構造および柱梁接合部の設計方法によれば、鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁との柱梁接合部内の鉄骨梁のウェブが、ダブラープレートにより補強されているので、比較的簡単な構造で柱梁接合部の耐力を上げることができる。よって、鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁との柱梁接合部の設計を容易にしつつ、経済性、施工性、および構造性能に優れる柱梁接合部を実現できる。
【0025】
また、鉄骨梁のウェブのうち鉄筋コンクリート柱に貫入する部分が、ダブラープレートにより補強されているので、この鉄骨梁のウェブおよびダブラープレートに、コンクリート充填用の孔を大きく開けることが可能となる。よって、柱梁接合部内におけるコンクリートの充填性が高められ、コンクリートの打設が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、梁貫通形式ふさぎ板タイプの柱梁接合部の構造の一例を示す斜視図である。
図2図2は、梁貫通形式ふさぎ板タイプの柱梁接合部の構造の他の一例を示す斜視図である。
図3図3(a)、図3(b)はそれぞれ、本発明の柱梁接合部の構造の一例の要部を示す斜視図、側面図である。
図4図4は、本発明の柱梁接合部の構造におけるせん断力の流れを説明する模式図である。
図5図5は、柱梁接合部に対してブレースが偏心して取り付く状況を模式的に示す側面図である。
図6図6(a)、図6(b)はそれぞれ、本発明の柱梁接合部の構造の他の一例の要部を示す斜視図、側面図である。
図7図7(a)は、本発明の柱梁接合部の構造および柱梁接合部の設計方法の効果を検証するために実施した加力試験の試験体を示す側面図であり、図7(b)および図7(c)はそれぞれ、図7(a)におけるB-B断面図、C-C断面図である。
図8図8は、本発明の柱梁接合部の構造および柱梁接合部の設計方法の効果を検証するために実施した加力試験における柱のせん断耐力Qと層間変形角Rとの関係を示すグラフである。
図9図9(a)は、本発明の柱梁接合部の構造および柱梁接合部の設計方法の効果を検証するために実施した数値解析における解析モデルを示す斜視図であり、図9(b)は側面図である。
図10図10は、本発明の柱梁接合部の構造および柱梁接合部の設計方法の効果を確認するために実施した数値解析において、柱梁接合部の終局時に柱梁接合部パネル内の鉄骨梁のウェブに生じるせん断応力の分布を示すグラフである。
図11図11は、本発明の柱梁接合部の構造および柱梁接合部の設計方法の効果を確認するために実施した数値解析において、柱梁接合部の終局時に柱梁接合部パネル内のダブラープレートに生じるせん断応力の分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の柱梁接合部の構造および柱梁接合部の設計方法の実施形態について、具体的に説明する。
【0028】
本実施形態の柱梁接合部の構造および柱梁接合部の設計方法は、鉄筋コンクリート柱と、H形鋼からなる鉄骨梁との柱梁接合部、具体的には、図1に示す梁貫通形式ふさぎ板タイプの柱梁接合部1、または図2に示す梁貫通形式ふさぎ板タイプの柱梁接合部1´に適用されている。
【0029】
図3(a)、図3(b)に、本実施形態の柱梁接合部1、1´の構造の要部の斜視図、側面図をそれぞれ示す。
【0030】
図1図3(a)および図3(b)に示すように、本実施形態の柱梁接合部1、1´の構造では、鉄骨梁3の端部が鉄筋コンクリート柱2の一方の側面から反対側の側面に向かって貫入している。
【0031】
図1に示す柱梁接合部1の構造では、柱梁接合部1の上下の鉄筋コンクリート柱2から連続的に柱梁接合部1内に打設されたコンクリート(図示せず)を取り囲むように、鋼板からなるふさぎ板24が設けられている。ふさぎ板24は、鉄骨梁3の上フランジ32と下フランジ33の間の高さの範囲で、柱梁接合部1内のコンクリートを、鉄骨梁3のウェブ31の表面位置まで完全に覆うように設けられている。ふさぎ板24の側縁は、鉄骨梁3のウェブ31、上フランジ32、および下フランジ33に溶接により固定されている。
【0032】
また、図2に示す柱梁接合部1´の構造では、鉄骨梁3のウェブ31、上フランジ32および下フランジ33に囲まれる部位に、柱梁接合部1´内のコンクリートを支圧する支圧板35が設けられている。支圧板35は、鉄骨梁3のウェブ31の厚さ以上の厚さを有する鋼板からなり、鉄骨梁3のウェブ31、上フランジ32、および下フランジ33に溶接により固定されている。そして、柱梁接合部1の上下の鉄筋コンクリート柱2から連続的に柱梁接合部1´内に打設されたコンクリート(図示せず)のうち、支圧板35により覆われずに残る部分を取り囲むように、ふさぎ板24が設けられている。支圧板35およびふさぎ板24は、鉄骨梁3の上フランジ32と下フランジ33の間の高さの範囲で、柱梁接合部1内のコンクリートを、鉄骨梁3のウェブ31の表面位置まで完全に覆うように設けられている。ふさぎ板24は、支圧板35と連続するように設けられ、溶接またはボルト接合により支圧板35に固定されている。
【0033】
図1および図2では、鉄筋コンクリート柱2の四方に鉄骨梁3が十字形に取り付く場合を示している。この場合、十字形に交差する鉄骨梁3は両方とも、鉄筋コンクリート柱2の一方の側面から反対側の側面まで完全に貫通するように設けられている。
【0034】
また、鉄筋コンクリート柱2の三方に鉄骨梁3がT字形に取り付く場合や、鉄筋コンクリート柱2の二方に鉄骨梁3がL字形に取り付く場合も、T字形またはL字形に交差する鉄骨梁3は両方とも、鉄筋コンクリート柱2の一方の側面から反対側の側面まで完全に貫通するように設けられている。
【0035】
そして、鉄筋コンクリート柱2を貫通した鉄骨梁3が、鉄筋コンクリート柱2の反対側の側面上に突出する部位においても、ふさぎ板24の側縁または支圧板35が、鉄骨梁3のウェブ31、上フランジ32、および下フランジ33に溶接により固定されている。
【0036】
本実施形態の柱梁接合部1、1´の構造では、図3(a)および図3(b)に示すように、柱梁接合部1、1´内の鉄骨梁3のウェブ31が、ダブラープレート34により補強されている。具体的には、ダブラープレート34の外周の全長が鉄骨梁3のウェブ31に、隅肉溶接等により固定されている。
【0037】
図1に示す柱梁接合部1における鉄筋コンクリート柱2および鉄骨梁3は、下記(1)式を満たす寸法および材料強度を有するようにすることが好ましい。このようにすると、柱梁接合部1のせん断耐力を十分に確保できる。
【0038】
JdUwQ+hQ+cQ ……(1)
ただし、上記(1)式において、
JdU:柱梁接合部の終局時に柱梁接合部に作用するせん断力(N)
wQ:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブのせん断耐力(N)であり、
wQ=wτU×we ……(2)
hQ:ふさぎ板のせん断耐力(N)、
cQ:コンクリートのせん断耐力(N)、
上記(2)式において、
wτU:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブのせん断強度(N/mm2
we:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブの有効断面積(mm2)であり、
we=0.9×(wt+0.8dt)×cD ……(3)
上記(3)式において、
wt:柱梁接合部内の鉄骨梁のウェブの厚さ(mm)、
dt:ダブラープレートの厚さ(mm)、
cD:鉄筋コンクリート柱の柱せい(mm)
である。
【0039】
図4に、本実施形態の柱梁接合部の構造におけるせん断力の流れを模式的に示す。図4に示すように、鉄骨梁3から柱梁接合部1に入力するせん断力JQは、柱梁接合部1内では、鉄骨梁3のウェブ31、ダブラープレート34、ふさぎ板24およびコンクリート23により分担して負担される。すなわち、鉄骨梁3のウェブ31およびダブラープレート34が負担するせん断力の合計をwQ、ふさぎ板24が負担するせん断力をhQ、コンクリート23が負担するせん断力をcpQとすると、JQ=wQ+hQ+cpQとなる。
【0040】
同様に、柱梁接合部1の終局時のせん断耐力J sU は、鉄骨梁3のウェブ31およびダブラープレート34のせん断耐力の合計をw sU 、ふさぎ板24のせん断耐力をh sU 、コンクリート23のせん断耐力をcp sU とすると、J sU w sU h sU cp sU となる。
【0041】
柱梁接合部のせん断耐力J sU は、柱梁接合部1の終局時(地震時)に柱梁接合部1に作用するせん断力JdUを上回るようにする、すなわちJ sU JdUとする。上記(1)式は、これに基づいている。
【0042】
このように、本実施形態の柱梁接合部の構造では、柱梁接合部1内の鉄骨梁3のウェブ31がダブラープレート34により補強されているので、ダブラープレート34のせん断耐力を柱梁接合部1全体のせん断耐力に累加できる。ただし、ダブラープレート34を設けることによる各抵抗要素の負担割合の変化や、ダブラープレート34の全断面積のうちどの程度の割合がせん断耐力に有効に寄与するかついては、これまで確立されていなかった。本実施形態の柱梁接合部の構造では、後述のとおり、ダブラープレート34の全断面積の80%以上がせん断耐力に有効に寄与しているという発明者らによる新たな知見に基づき、この寄与率を上記(3)式に反映している。また、柱梁接合部1に支圧板35が設けられず、これよりも薄いふさぎ板24のみが設けられる場合には、後述のとおり、ダブラープレートにより補強されたウェブ31の断面積の90%程度がせん断耐力に有効に寄与しているという発明者らによる新たな知見に基づき、この寄与率も上記(3)式に反映している。
【0043】
なお、上記(3)式において、dt(ダブラープレートの厚さ)にかかる係数0.8を、より小さい値、例えば、0.7、0.6等に変更してもよい。同様に、上記(3)式の右辺全体にかかる係数0.9を、より小さい値、例えば、0.8、0.7等に変更してもよい。このようにすれば、JdU(柱梁接合部の終局時に柱梁接合部1に作用するせん断力)に対して柱梁接合部1が有する安全率を大きくすることができる。
【0044】
また、図2に示す柱梁接合部1´における鉄筋コンクリート柱2および鉄骨梁3は、下記(1)式を満たす寸法および材料強度を有するようにすることが好ましい。このようにすると、柱梁接合部1´のせん断耐力を十分に確保できる。
【0045】
JdUwQ+hQ+cQ……(1)
ただし、上記(1)式において、
JdU:柱梁接合部の終局時に柱梁接合部に作用するせん断力(N)
wQ:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブのせん断耐力(N)であり、
wQ=wτU×we ……(2)
hQ:ふさぎ板および支圧板のせん断耐力(N)、
cQ:コンクリートのせん断耐力(N)、
上記(2)式において、
wτU:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブのせん断強度(N/mm2
we:柱梁接合部パネル内における、ダブラープレートにより補強された鉄骨梁のウェブの有効断面積(mm2)であり、
we=(wt+0.8dt)×cD ……(4)
上記(4)式において、
wt:柱梁接合部内の鉄骨梁のウェブの厚さ(mm)、
dt:ダブラープレートの厚さ(mm)、
cD:鉄筋コンクリート柱の柱せい(mm)
である。
【0046】
このように、図2に示す柱梁接合部1´の構造では、支圧板35によりコンクリートのせん断耐力が効果的に引き出されるため、上記(3)式に変えて、上記(4)式を満たすようにすればよい。
【0047】
また、ふさぎ板24の幅hb(mm)および厚さht(mm)は、hb/ht≦217およびht≧6の関係を満たすようにすることが好ましい。このようにすると、ふさぎ板24の座屈を抑制でき、ふさぎ板24によってコンクリートを拘束する枠効果が十分に得られるため、柱梁接合部1の耐力をさらに高めることができる。
【0048】
ここで、ふさぎ板24の幅hb(mm)とは、鉄筋コンクリート柱2に取り付く複数の鉄骨梁3のうち、水平方向に隣接する鉄骨梁3の間に設けられるふさぎ板24の各々の全幅をいう。例えば、図1および図2に示す柱梁接合部1、1´の構造では、隣接する鉄骨梁3の間でコンクリート(図示せず)を覆うように、L字状に曲げ加工された四枚のふさぎ板24が設けられているが、上述のふさぎ板24の幅hb(mm)とは、これら各ふさぎ板24を曲げ加工する前の全幅をいう。
【0049】
また、支圧板35の厚さは、非特許文献1に記載の設計指針を満たすように、鉄骨梁3のウェブ31の厚さ以上とすることが好ましい。このようにすると、支圧板35によるコンクリートの支圧効果が高められ、柱梁接合部1、1´内のコンクリートが負担するせん断耐力を十分に発揮させることができる。また、支圧板35の枠効果により、柱梁接合部1、1´内の鉄骨梁3のウェブ31およびダブラープレート34が負担するせん断耐力を大きくすることができる。上記(4)式によるwe(ダブラープレート34により補強された鉄骨梁3のウェブ31の有効断面積)が、支圧板35が設けられていない場合の上記(3)式によるweよりも大きいのは、これを反映したものである。
【0050】
また、本実施形態の柱梁接合部の設計方法は、上述の柱梁接合部1、1´を設計する方法である。すなわち、図1に示すように、柱梁接合部1に支圧板35が設けられず、これよりも薄いふさぎ板24のみが設けられる場合には、この柱梁接合部1を設計するときに、上記(1)式~(3)式を満たすように、鉄骨梁の上フランジと下フランジの間の高さの範囲における鉄筋コンクリート柱および鉄骨梁の寸法および材料強度を設定することで、本実施形態の柱梁接合部の設計方法が実現される。また、図2に示すように、柱梁接合部1´に支圧板35が設けられる場合には、この柱梁接合部1を設計するときに、上記(1)式、(2)式および(4)式を満たすように、鉄骨梁の上フランジと下フランジの間の高さの範囲における鉄筋コンクリート柱および鉄骨梁の寸法および材料強度を設定することで、本実施形態の柱梁接合部の設計方法が実現される。
【0051】
本実施形態の柱梁接合部1、1´の構造および柱梁接合部の設計方法によれば、鉄筋コンクリート柱2と鉄骨梁3との柱梁接合部1、1´内の鉄骨梁3のウェブ31が、ダブラープレート34により補強されているので、比較的簡単な構造で柱梁接合部1、1´の耐力を上げることができる。本実施形態の柱梁接合部1、1´の構造では、ダブラープレート34のせん断耐力を、柱梁接合部1、1´全体のせん断耐力に累加できるため、柱梁接合部1、1´の設計が容易になる。このように、本実施形態の柱梁接合部1、1´の構造では、鉄筋コンクリート柱2と鉄骨梁3との柱梁接合部1、1´の設計を容易にしつつ、経済性、施工性、および構造性能に優れる柱梁接合部1、1´を実現できる。
【0052】
図5に、柱梁接合部1、1´に対してブレース4が偏心して取り付く状況を模式的に示す。図5に示すように、柱梁接合部1、1´に対してブレース4が偏心して取り付く場合や、RCS構造が適用される大スパンかつ積載荷重の大きな建築物では、柱梁接合部1、1´に大きなせん断力が作用しやすい。本実施形態の柱梁接合部1、1´の構造は、このように大きなせん断力が作用する柱梁接合部に適用すると、その特長を生かしやすい。
【0053】
また、本実施形態の柱梁接合部1、1´の構造では、鉄筋コンクリート柱2と鉄骨梁3との柱梁接合部1、1´内の鉄骨梁3のウェブ31が、ダブラープレート34により補強されているため、柱梁接合部1、1´内の鉄骨梁3のウェブ31およびダブラープレート34に、コンクリート充填用の孔を大きく開けることが可能となる。
【0054】
図6(a)、図6(b)に、本実施形態の柱梁接合部1、1´の構造において、柱梁接合部1、1´内の鉄骨梁3のウェブ31およびダブラープレート34に、コンクリート充填用の孔31h、34hを設けた場合の斜視図、側面図を、それぞれ示す。このようにすると、柱梁接合部1、1´内におけるコンクリートの充填性が高められ、コンクリートの打設が容易となる。
【0055】
そして、柱梁接合部の耐力を上げる方法として柱梁接合部内のみコンクリートの強度を上げる場合とは異なり、本実施形態の柱梁接合部1、1´の構造では、柱梁接合部1、1´内とそれ以外の鉄筋コンクリート柱2とで、強度が同じコンクリートを一体的に打設できる。このため、本実施形態の柱梁接合部1、1´の構造は、施工性や構造性能において優れている。
【0056】
また、柱梁接合部1、1´内の鉄骨梁3のウェブ31をダブラープレート34により補強することにより、ふさぎ板24の厚さを大きくすることなく、柱梁接合部1、1´の耐力を上げることができる。これにより、ふさぎ板の隅角部を曲げ加工する場合の曲げ半径を大きくする必要がなく、鉄筋コンクリート柱2の主筋21の位置に影響を生じることがない。
【0057】
また、本実施形態の柱梁接合部1、1´の構造では、鉄骨梁3全体のウェブ31の厚さを大きくするのではなく、柱梁接合部1、1´内のみにおいて、鉄骨梁3のウェブ31が、ダブラープレート34により補強されている。よって、鉄骨梁3に要するコストが増大することがない。
【0058】
なお、上述の実施形態では、本発明の柱梁接合部の構造および柱梁接合部の設計方法が、梁貫通形式ふさぎ板タイプの柱梁接合部に適用されている例について説明したが、本発明の柱梁接合部の構造および柱梁接合部の設計方法は、梁貫通形式せん断補強筋タイプの柱梁接合部にも適用可能である。この場合、鉄骨梁の端部は、鉄筋コンクリート柱の一方の側面から反対側の側面まで完全に貫通する必要は無く、鉄骨梁の端部が柱梁接合部内に十分に定着される長さだけ、鉄骨梁3の端部が鉄筋コンクリート柱2の一方の側面から反対側の側面に向かって貫入していればよい。
【実施例
【0059】
本発明の柱梁接合部の構造について、1/2縮尺モデルの十字形の試験体を用意し、この試験体に対して加力試験を行った。また、この加力試験を模擬する条件で、有限要素法による数値解析を行った。そして、これら加力試験および数値解析の結果に基づいて、本発明の柱梁接合部の構造および柱梁接合部の設計方法の性能を検証した。以下では、その結果について説明する。
【0060】
まず、加力試験の試験条件について説明する。図7(a)に、本加力試験の試験対象とした試験体の側面図を示す。また、図7(b)および図7(c)に、図7(a)におけるB-B断面図、C-C断面図を、それぞれ示す。
【0061】
図7(a)に示すように、本加力試験では、鉄筋コンクリート柱2の両側に鉄骨梁3が接合されて構成された、5種類の十字形の試験体No.1~5を用意した。
【0062】
本加力試験では、鉄筋コンクリート柱2の主筋21のサイズおよび種類、鉄骨梁3の上フランジ32および下フランジ33の幅Bb(mm)ならびにウェブ31の厚さwt(mm)、ふさぎ板24の厚さht(mm)、柱梁接合部1内のコンクリートの強度Fc(N/mm2)、ダブラープレート34の有無、を試験パラメータとした。表1および表2に示すように、5種類の試験体No.1~5では、これらのパラメータを変えるようにした。
【0063】
具体的には、試験体のうち鉄筋コンクリート柱2の断面サイズは、500×500mmとし、図7(b)に示すように、主筋21を12本配筋するとともに、帯筋を50mmプッチで配筋した。主筋21の呼び名および種類は、試験体No.1、2、4、5については、日本産業規格JIS G3112:2020「鉄筋コンクリート用棒鋼」に規定されるD22、SD490とし、試験体No.3については、D19、SD345とした。また、帯筋22の呼び名および種類は、試験体No.1~5の全てについて、国土交通省国住指第4958-1号(認定番号MSRB-0067)「高強度せん断補強筋用異形棒鋼MK785」)に規定されるMD13、785とした。試験体のうち、鉄筋コンクリート柱2部分に打設されるコンクリートの強度Fcは、試験体No.1~5の全てについて、39N/mm2とした。
【0064】
また、試験体のうち鉄骨梁3には、ビルトH鋼を用いた。試験体No.1、2、4、5の鉄骨梁3には、上フランジ32および下フランジ33として厚さ28mmの鋼板と、ウェブ31として厚さ9.0mmの鋼板とが組み合わせて構成された、梁せい450mm、梁幅160mmのビルトH鋼を用いた。また、試験体No.3の鉄骨梁3には、上フランジ32および下フランジ33として厚さ28mmの鋼板と、ウェブ31として厚さ12.0mmの鋼板とが組み合わせて構成された、梁せい450mm、梁幅200mmのビルトH鋼を用いた。鉄骨梁3の鋼種は、試験体No.1~5の全てについて、日本産業規格JIS G3106:2020「溶接構造用圧延鋼板」に規定されるSM490とした。
【0065】
そして、試験体のうち柱梁接合部1内に打設されるコンクリートの強度Fcは、試験体No.1~3、5については39N/mm2とし、試験体No.4については60N/mm2とした。柱梁接合部1内においては、帯筋22の配筋は省略した。また、試験体のうち柱梁接合部1内に打設されるコンクリートを取り囲むふさぎ板24の厚さは、試験体No.1、3~5については2.3mmとし、試験体No.2については6.0mmとした。ふさぎ板24の鋼種は、試験体No.1~5の全てについて、日本産業規格JIS G3101:2020「一般構造用圧延鋼板」に規定されるSS400とした。ふさぎ板24の側縁は、鉄骨梁3のウェブ31、上フランジ32、および下フランジ33に、隅肉溶接により固定した。
【0066】
さらに、試験体No.1~5のうち、試験体No.5のみにおいて、図7(a)に示すように、柱梁接合部1内の鉄骨梁3のウェブ31の片面にダブラープレート34を2枚並べて設け、柱梁接合部1内の鉄骨梁3のウェブ31のほぼ全面を覆うようにした。2枚のダブラープレート34の各々のサイズは、厚さ3.2mm、幅203mm、高さ354mm、鋼種はSS400とした。ダブラープレート34は、その外周の全長を、隅肉溶接により鉄骨梁3のウェブ31の表面に固定した。
【0067】
そして、図7(a)に示すとおり、十字形の試験体を試験フレームに設置した。具体的には、鉄筋コンクリート柱2の上端および下端を、それぞれピン支承、ローラー支承により支持した。ピン支承とローラー支承との間の距離は、3100mmとした。
【0068】
そして、水平荷重を受ける建物の柱梁接合部の挙動を模擬するように、鉄筋コンクリート柱2の両側の二本の鉄骨梁3の先端に対して逆対称に、正負交番漸増繰り返し加力を行った。鉄骨梁3の両加力点間の距離は、4400mmとした。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
本加力試験では、鉄骨梁3の先端の変位から、柱梁接合部1を含むラーメン架構の層間変形角R(rad)を計算し、この層間変形角Rを制御することにより行った。具体的には、まず、弾性範囲内の±0.1%、±0.25%の各層間変形角Rで正負方向に1サイクルずつ加力し、続いて±0.5%、±1.0%、±1.5%、±2.0%の各層間変形角Rで正負方向に2サイクルずつ加力し、±3.0%、±4.0%の各層間変形角Rで正負方向に1サイクルずつ加力した。
【0072】
なお、本加力試験は、鉄筋コンクリート柱2に対して軸力比N=0.16の軸方向力を与える条件で実施した。
【0073】
図8に、上記加力試験における柱のせん断耐力Qと層間変形角Rとの関係を、試験体No.1(ダブラープレート無し)および試験体No.5(ダブラープレート有り)について示す。図8に示すように、試験体No.1、No.5のいずれも、ふさぎ板24が座屈することなく、最大耐力(層間変形角R=2.0%)に到達した後も、安定した履歴を示した。そして、ダブラープレートによる補強を行った試験体No.5では、ダブラープレート5を設けない試験体No.1よりも、各サイクル時の柱のせん断力Qの最大値が大きく、ダブラープレートが柱梁接合部の性能に効果的に寄与していることを確認できた。
【0074】
次に、上述の加力試験を模擬する条件で行った有限要素法による数値解析の計算条件について説明する。図9(a)に、本数値解析の解析対象とした試験体の有限要素モデルの斜視図を示す。また、図9(b)に、図9(a)に示す有限要素モデルの要部の側面図を示す。
【0075】
本数値解析では、上述の加力試験で試験対象とした試験体No.1~5に対応する5種類の有限要素モデルに対して、数値解析を行った。すなわち、本数値解析では、有限要素モデルの各要素には、加力試験の試験体No.1~5の各部材の形状および材料強度を反映するように、形状および力学特性を設定した。
【0076】
加力試験の試験体No.5を模擬する有限要素モデルについては、2枚のダブラープレート34の各々が、その外周の全長に亘って、ウェブ31の表面に固定されている条件とした。
【0077】
そして、上述の加力試験と同様に、鉄筋コンクリート柱2の上端および下端を、それぞれピン支承、ローラー支承により支持し、鉄筋コンクリート柱2に対して軸力比N=0.16の軸方向力を与える条件で、数値解析を行った。有限要素モデルに入力する外力は、上述の加力試験と同様に、鉄筋コンクリート柱2の両側の二本の鉄骨梁3の先端に対して逆対称に、正負交番漸増繰り返し加力を与える条件とした。
【0078】
これらの加力試験および数値解析では、層間変形角Rが0.2となった時点を終局時とし、この時点での柱梁接合部1のせん断耐力を確認した。
【0079】
図10に、試験体No.1~5を模擬する有限要素モデルの各々に対して行った上述の数値解析において、柱梁接合部1の終局時に柱梁接合部パネル内の鉄骨梁3のウェブ31に生じるせん断応力の分布を示す。また、図11に、試験体No.5を模擬する有限要素モデルの各々に対して行った上述の数値解析において、柱梁接合部1の終局時に柱梁接合部パネル内のダブラープレート34に生じるせん断応力の分布を示す。
【0080】
また、表3に、上述の数値解析により計算した、柱梁接合部1内の鉄骨梁3のウェブ31、ダブラープレート34、ふさぎ板24およびコンクリートの終局時のせん断耐力wanadana、Σhanacpanaを示す。また、表3には、上述の数値解析により計算した、柱梁接合部1内の鉄骨梁3のウェブ31、ダブラープレート34、ふさぎ板24およびコンクリートの有効断面係数wanadanahanacpana、ならびに、柱梁接合部1全体の終局時のせん断耐力Janaを示す。
【0081】
さらに、表3には、一般財団法人日本建築総合試験所の建築技術性能証明(性能証明番号第23-05号)に記載の提案式により計算した、柱梁接合部1内の鉄骨梁3のウェブ31、ダブラープレート34、ふさぎ板24およびコンクリートの終局時のせん断耐力worg’、dorg’、Σhorg’、cporg’ を示す。また、表3には、同提案式により計算した、柱梁接合部1内の鉄骨梁3のウェブ31、ダブラープレート34、ふさぎ板24およびコンクリートの有効断面係数worg’、dorg’、horg’、cporg’、ならびに、柱梁接合部1全体の終局時のせん断耐力Jorg’を示す。
【0082】
さらに、表3には、上述の加力試験によって得られた、柱梁接合部1全体の終局時のせん断耐力Jexp、および、上記建築技術性能証明(性能証明番号第23-05号)に記載の提案式により計算した柱梁接合部1全体の終局時のせん断耐力Jorg’に対する比JexpJorg’を示す。
【0083】
【表3】
【0084】
表3の太枠内に示すように、試験体No.5を模擬する有限要素モデルを対象として行った数値解析結果では、ダブラープレート34の全断面積の80%以上がせん断耐力として有効に寄与していること確認できた。
【0085】
また、柱梁接合部1内の鉄骨梁3のウェブ31の有効断面係数wanaは、概ね0.9となった。すなわち、柱梁接合部1に支圧板35が設けられず、これよりも薄いふさぎ板24のみが設けられる場合には、ウェブ31の断面積の90%程度がせん断耐力に有効に寄与することを確認できた。これより、支圧板35が設けられない場合の上記(3)式におけるwe(ダブラープレート34により補強された鉄骨梁3のウェブ31の有効断面積)を、支圧板35が設けられている場合の上記(4)式によるweの0.9倍としていることの妥当性を確認できた。
【符号の説明】
【0086】
1、1´ 柱梁接合部
2 鉄筋コンクリート柱
21 主筋
22 帯筋
23 コンクリート
24 ふさぎ板
3 鉄骨梁
31 ウェブ
32 上フランジ
33 下フランジ
34 ダブラープレート
35 支圧板
31h、34h 孔
4 ブレース
【要約】
【課題】鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁との柱梁接合部において、比較的簡単な構造で柱梁接合部の耐力を上げることができ、経済性、施工性、および構造性能に優れる、柱梁接合部の構造および柱梁接合部の設計方法を提供する。
【解決手段】鉄筋コンクリート柱と鉄骨梁との柱梁接合部の構造であって、前記鉄骨梁の端部が前記鉄筋コンクリート柱の一方の側面から反対側の側面に向かって貫入し、前記鉄骨梁のウェブのうち前記鉄筋コンクリート柱に貫入する部分が、ダブラープレートにより補強されている、柱梁接合部の構造。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11