(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】包装袋入り生甘酒およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 2/38 20210101AFI20240912BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20240912BHJP
A23L 2/42 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
A23L2/38 102
A23L2/00 B
A23L2/00 N
(21)【出願番号】P 2023218646
(22)【出願日】2023-12-07
【審査請求日】2024-01-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和5年2月15日より、株式会社仙醸が自社のオンラインストアにおいて、本願発明にかかる包装袋入り生甘酒を販売した。 オンラインストアのURL:https://shop-senjo.jp/
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500066436
【氏名又は名称】株式会社仙醸
(72)【発明者】
【氏名】黒河内 貴
(72)【発明者】
【氏名】北島 秀春
(72)【発明者】
【氏名】長崎 佑子
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】米発酵の世界を広く探求し、未来へと伝える老舗酒造、仙醸-長野県,あまざけプレス,2022年07月01日,pp.1-7,retrieved on 2024.04.15, retrieved from the internet <https://amazake-press.com/senzyou2022/>
【文献】J. Brew. Soc. Japan,2002年,vol.97, no.12,pp.865-871
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/38
日経テレコン
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項4】
米麹と水を混合して混合液をつくり、前記混合液の品温が50~70℃となるように温度調整して、前記混合液を断続的に撹拌しながら7~30時間維持することで前記混合液の糖化を促す糖化工程と、
前記糖化工程を経た前記混合液のBrixが38~42の範囲内となるように調整して、α-アミラーゼ活性および酸性カルボキシペプチダーゼ活性を有する生甘酒を生成する生成工程と、
前記生甘酒の温度を50~70℃に保ったまま内容量が15~50mlの可撓性包装袋内に前記生甘酒を充填する充填工程と、
前記生甘酒が充填された前記包装袋を50~70℃の温水または水蒸気中に所定時間接触させるブランチング工程と、
前記ブランチング工程を経た前記包装袋入り生甘酒を氷点下に冷却する冷却工程と
を備える包装袋入り生甘酒の製造方法。
【請求項5】
前記α-アミラーゼ活性が40~300U/gの範囲内にあり、かつ酸性カルボキシペプチダーゼ活性が300~1000U/gの範囲内にあることを特徴とする請求項4に記載の包装袋入り生甘酒の製造方法。
【請求項7】
前記冷却工程において、前記ブランチング工程を経た前記包装袋入り生甘酒を氷点下に冷却する冷却速度は、-1.0℃/分以上である請求項
4または5に記載の包装袋入り生甘酒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装袋入り生甘酒およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な甘酒は、米麹と飯米を混ぜて半日ほど加温しながら米のでんぷんを糖化させ、これを湯水で薄めて飲用する日本古来の伝統的甘味飲料である。この甘酒には水溶性ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸類、有機酸類、食物繊維等、バラエティーに富んだ栄養成分が含まれている。さらに、麹が産生するアミラーゼやペプチダーゼ等の消化酵素類は、活性を保った状態で摂取することにより、体調改善に期待が持てる効果があることが、動物実験により実証されている。このように、甘酒は保健飲料としても有用なものである。
【0003】
近年、飲料メーカーや食品メーカーなどが製造する甘酒が市販されている。これらの甘酒はガラス瓶や缶などの容器に入れられ、食品安全基準を満たすために、75~85℃といった高温で加熱して酵素を失活させたものが大半を占めている。
【0004】
一方、家庭で手作りをした甘酒を加熱することなく飲用する場合は、麹の分解酵素類を失活させることなく摂取することができる。
【先行文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-127367号公報
【文献】特開昭60-49782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
市場に流通している甘酒は、高温で加熱殺菌することにより、食品としての安全性は担保されるが、甘酒内の酵素は失活するため、その有効性を享受することができなくなる。しかも、殺菌のために甘酒を一定時間高温で保持することにより、甘酒中のアミノカルボニル反応や含硫アミノ酸の熱反応により、不快な臭気が生成され、甘酒が褐色を呈するなどの、好ましくない反応が生じてしまう。
【0007】
また、家庭の設備や道具で甘酒をつくる場合は、雑菌の混入が容易に起こり、雑菌の繁殖により不快な臭気や着色が発生するリスクがある。したがって、家庭での手作りの甘酒は、安全性の問題から市場に流通させることは困難である。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、甘酒内の消化酵素を失活させることなくその活性を保った状態で、かつ雑菌汚染のリスクがなく、不快な臭気や変色のない良好な食味の包装袋入り生甘酒およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明にかかる包装袋入り生甘酒は、内容量が15~50mlの可撓性包装袋内に充填された生甘酒であって、Brixが38~42であると共に、α-アミラーゼ活性および酸性カルボキシペプチダーゼ活性を有することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、甘酒内の消化酵素を失活させることなくその活性を保った状態で、しかも、雑菌汚染のリスクがなく良好な食味の包装袋入り生甘酒を提供することができる。
【0011】
また、本発明にかかる包装袋入り生甘酒は、水分活性が0.90~0.92であることが望ましい。
【0012】
ここで、水分活性とは食品中で微生物が利用できる自由水の割合を0~1で表した数値であり、一般的に水分活性が低いほど自由水が少なく微生物が増殖し難くなる。一方で、水分活性が低いほど食味が低下する傾向にある。本発明によれば、水分活性を上記範囲内にすることで、雑菌汚染のリスクがなく、かつ良好な食味の包装袋入り生甘酒を提供することができる。
【0013】
また、本発明において、前記α-アミラーゼ活性は40~300U/gの範囲内にあり、前記酸性カルボキシペプチダーゼ活性は300~1000U/gの範囲内にあることが望ましい。
【0014】
本発明にかかる包装袋入り生甘酒によれば、α-アミラーゼと酸性カルボキシペプチダーゼが失活せずに所定の活性を有するため、当該生甘酒を飲用者が摂取すると体内のタンパク質やデンプンを分解(消化)することができる。一方で、α-アミラーゼ活性と酸性カルボキシペプチダーゼ活性が多すぎると、甘酒自体の糖化が過剰になったりタンパク質等が分解され過ぎて風味や食感が劣ったりするところ、α-アミラーゼ活性と酸性カルボキシペプチダーゼ活性をそれぞれ所定値以下に抑えることで、良好な食味の生甘酒を提供することができる。
【0015】
また、本発明にかかる包装袋入り生甘酒は、前記包装袋に充填された状態で冷凍保存されていることが望ましい。
【0016】
かかる構成にすることで、α-アミラーゼや酸性カルボキシペプチダーゼの酵素反応の進行による品質変化を抑制して、長期間にわたって品質を保持できると共に、飲用者に冷涼感や新たな食感の生甘酒を提供することができる。
【0017】
本発明にかかる包装袋入り生甘酒の製造方法は、米麹と水を混合して混合液をつくり、前記混合液の品温が50~60℃となるように温度調整して、前記混合液を断続的に撹拌しながら15~24時間維持することで前記混合液の糖化を促す糖化工程と、前記糖化工程を経た前記混合液のBrixが38~42の範囲内となるように調整して、α-アミラーゼ活性および酸性カルボキシペプチダーゼ活性を有する生甘酒を生成する生成工程と、前記生甘酒の温度を50~60℃に保ったまま内容量が15~50mlの可撓性包装袋内に前記生甘酒を充填する充填工程と、前記生甘酒が充填された前記包装袋を55~65℃の温水または水蒸気中に所定時間接触させるブランチング工程と、前記ブランチング工程を経た前記包装袋入り生甘酒を氷点下に冷却する冷却工程とを備える。
【0018】
本発明によれば、甘酒内の消化酵素を失活させることなく、その活性を保った状態で、しかも雑菌汚染のリスクがなく、良好な食味の包装袋入り生甘酒を得ることができる。
【0019】
また、本発明にかかる包装袋入り生甘酒の製造方法において、前記生成工程で生成される前記生甘酒の水分活性を0.90~0.92の範囲内に調整することが望ましい。
【0020】
本発明によれば、水分活性を上記範囲内に調整することで、雑菌汚染のリスクがなく、かつ良好な食味の包装袋入り生甘酒を提供することができる。
【0021】
また、前記冷却工程において、前記包装袋入り生甘酒を氷点下に冷却する冷却速度は-1.0℃/分以上であることが望ましい。
【0022】
本発明によれば、包装袋内の生甘酒が雑菌増殖の至適温度帯(概ね10~45℃)に晒される時間を短縮することができるため、雑菌増殖リスクが低減されて、当該生甘酒の安全性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、甘酒内の消化酵素を失活させることなく、その活性を保った状態で、しかも雑菌汚染のリスクのない包装袋入り生甘酒およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明にかかる包装袋入り生甘酒の外観図であり、(1)は包装袋の平面図、(2)は(1)のA-A断面図、(3)は(1)のB-B断面図である。
【
図2】本発明にかかる包装袋入り生甘酒の製造方法の説明図である。
【
図3】本発明の他の実施形態にかかる包装袋入り生甘酒の外観図である。
【
図4】本発明の他の実施形態にかかる包装袋入り生甘酒の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の説明において同じ構成を示す場合には同じ符号を付し、重複する構成の説明を省略することがある。
【0026】
[包装袋入り生甘酒の構成]
図1に示すように、本実施形態にかかる生甘酒1は、可撓性を有する包装袋2内に充填されている。可撓性を有する包装袋2は、例えば、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン共重合体等の樹脂フィルムや、複数の樹脂フィルムをラミネート加工により積層させたラミネートフィルムや、アルミニウムフィルムと樹脂フィルムとの積層構造を有するフィルム素材などからなり、フィルムの厚さは30μm~300μm程度であって、常温でも氷点下でも包装袋2自体は可撓性を有している。この包装袋2の内容量、すなわち包装袋2に充填された生甘酒1の容量は15~50mlである。生甘酒1の容量は、20~40mlであることが好ましく、25~35mlであることが更に好ましい。生甘酒1の容量が15ml未満になると、1回に飲用する量が少なすぎて摂取感が物足りず、また生甘酒1の効能を十分に享受することができない。一方、生甘酒1の容量が50mlを超えると、後述する製造過程の加熱を伴うブランチング工程において、包装袋2内の生甘酒1の内部側と表面側との温度差が生じることにより、表面側よりも低温になりがちな内部側の生甘酒内の雑菌類を確実に滅菌することができず、品質低下を招いてしまう。また、内部側まで十分に加熱しようとすると、製造時間の長期化の要因となる。
【0027】
本実施形態にかかる包装袋2入り生甘酒1の外形は、長さLが8~15cm、幅Wが2~4cm、充填時の厚さTが5~15mmの範囲内であることが望ましい。外形寸法が上記範囲外になると包装袋2に生甘酒1を充填し難くなったり、飲用者が飲用し難くなったりする。特に、厚さTが15mmを超えると、ブランチング工程における包装袋2内の生甘酒1の内部側と表面側との温度差に起因する品質低下や製造時間の長期化を招いてしまう。
【0028】
包装袋2は、
図1(1)、(2)に示すように、長さ方向の両端側を熱溶着したときの溶着部3a、3bを有すると共に、同図(3)に示すように、片面(図示下側の面)に長さ方向に形成された溶着部3cを有する。なお、製造過程においてチューブ状の樹脂フィルムを用いて内部に生甘酒1を充填する場合は、溶着部3cが形成されない。生甘酒1が充填された包装袋2は密封状態であり、内部には空気が実質的に含まれていない。このような密封状態の包装袋2の一端側を開封して、開封口を飲用者が口に含み、他端側から手前に向かって内部の生甘酒1を指で移動させることで、容易に飲用することができる。また、包装袋2を易開封性フィルムで構成することにより、任意の箇所で容易に開封することができる。
【0029】
本実施形態にかかる生甘酒1は、Brixが38~42の範囲内にある。本明細書においてBrixとは、JAS規格に基づく、試料の温度が20℃における糖用屈折計の示度をいう。Brixの測定は、公知の方法、装置を用いて行うことができる。Brixの調整は、例えば後述する製造過程において生甘酒に加水する水量の調整などにより行うことができる。生甘酒1のBrixが38未満になると、雑菌増殖リスクが高まったり、甘味が弱くなったりして食品としての利用には不向きである。また、生甘酒1のBrixが42を超えると、生甘酒1の粘度が高くなりすぎて、内容量が15~50mlの可撓性包装袋2内へのスムーズな充填が出来なくなってしまう。したがって、生甘酒1のBrixが38~42であれば、雑菌増殖リスクが低く、適度な甘味を有すると共に、製造過程における装袋2内へのスムーズな充填を行うことができる。
【0030】
本実施形態にかかる生甘酒1は、α-アミラーゼ活性および酸性カルボキシペプチダーゼ活性を有している。α-アミラーゼは、デンプンを分解して糖を生成する働きをする酵素であり、酸性カルボキシペプチダーゼは、タンパク質やペプチドに作用し、アミノ酸を産生する酵素である。したがって、α-アミラーゼ活性を有するということは、α-アミラーゼが失活せずに、生甘酒1中に残存して、デンプンを分解する反応が起こりうることを意味し、酸性カルボキシペプチダーゼ活性を有するということは、酸性カルボキシペプチダーゼが失活せずに、生甘酒1中に残存して、タンパク質やペプチドを分解する反応が起こりうることを意味する。α-アミラーゼ及び酸性カルボキシペプチダーゼの活性は、国税庁所定分析法のα-アミラーゼ活性測定法及び酸性カルボキシペプチダーゼ活性測定法に準拠して測定することができる。具体的には、キッコーマンバイオケミファ株式会社の醸造分析キットを用いて測定することができる。
【0031】
本実施形態にかかる生甘酒1において、α-アミラーゼ活性は40~300U/gの範囲内にあり、酸性カルボキシペプチダーゼ活性は300~1000U/gの範囲内にあることが望ましい。上記各範囲の下限値未満になると各酵素による分解能が低下してしまい、上限値を超えると雑菌汚染のリスクが高まるからである。α-アミラーゼ活性の好ましい範囲は50~200U/gであり、更に好ましくは60~150U/gであり、より好ましくは70~120U/gである。また、酸性カルボキシペプチダーゼ活性の好ましい範囲は400~800U/gであり、更に好ましくは500~700U/gであり、より好ましくは550~650U/gである。
【0032】
本実施形態にかかる生甘酒1には、α-アミラーゼや酸性カルボキシペプチダーゼの他に、麹菌に由来する多数の消化酵素や代謝酵素が含まれている。また、当該生甘酒1には、ロイシン、バリン、リジン、フェニルアラニン、イソロイシンなどの複数種の必須アミノ酸や、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンE等のビタミン群、さらには、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウムなどのミネラルが豊富に含まれている。
【0033】
なお、後述する製造過程、特にブランチング工程において、これらの酵素が失活する温度領域に達しないように甘酒の温度管理を行うことで、α-アミラーゼ活性および酸性カルボキシペプチダーゼ活性を有する生甘酒1を得ることが可能となる。また、ブランチング工程では、生甘酒1が充填された包装袋2を雑菌が死滅する温度領域の温水または水蒸気中に所定時間接触させることで、雑菌汚染されない生甘酒1を得ることが可能となる。
【0034】
このように、本実施形態にかかる生甘酒1は、α-アミラーゼ活性および酸性カルボキシペプチダーゼ活性を有しているので、各酵素が活性を有する生甘酒1を飲用者が摂取すると、体内のタンパク質やデンプンの分解(消化)を促進すると共に、代謝や免疫力の向上に寄与することができる。
【0035】
本実施形態にかかる生甘酒1は、水分活性が0.90~0.92の範囲内にある。水分活性とは、上述のとおり、食品中で微生物が利用できる自由水の割合を0~1で表した数値であり、水分活性が低いほど自由水が少なく微生物が増殖し難くなり、水分活性が高いほど自由水が多く微生物が増殖し易くなる。生甘酒1の水分活性を0.90未満に低くしすぎると、雑菌の増殖を抑制できる反面、食品としての美味しさが低下する。また、生甘酒1の水分活性を0.92超に高くしすぎると、雑菌の増殖リスクが高まったり、酵母菌が糖分を分解しすぎて過発酵となり食味が悪くなったりする。本実施形態にかかる生甘酒1は、水分活性を0.90~0.92とすることで、雑菌の増殖を抑制しつつ食味が良好な生甘酒1である。
【0036】
水分活性は、公知の平衡重量法、平衡蒸気圧法、フガシティー法によって測定することができ、水分活性の測定は通常25℃で行われる。水分活性は水分含量を小さくすることで低くなるが、糖質や食塩の添加によっても低下するので、水分含量の調整、糖質や食塩の添加によって水分活性を調整できる。また、水分活性とBrixは負の相関があるため、事前に生甘酒1におけるBrixごとの水分活性の数値の関係を把握しておけば、製造過程においてBrixを測定することで、水分活性を推認することができる。
【0037】
本実施形態にかかる生甘酒1は、包装袋2に充填された状態で冷凍保存されていることが望ましい。生甘酒1には、上述のようにα-アミラーゼや酸性カルボキシペプチダーゼなどの酵素が活性状態で含有されているが、これらの酵素は低温になるほど酵素反応が低下する。したがって、包装袋入り生甘酒1を冷凍保存することで、酵素反応による品質変化を抑制して、長期間にわたって品質を保持できる。加えて、飲用者に冷涼感や新たな食感の生甘酒を提供することができる。なお、冷凍保存する温度は、-5℃以下であることが好ましく、-10℃以下であることが更に好ましく、-15℃以下であることがより好ましい。
【0038】
[包装袋入り生甘酒の製造方法]
次に、本発明の実施形態にかかる包装袋2入り生甘酒1の製造方法について説明する。
図2は、当該生甘酒1の製造方法の説明図である。
図2に示すように、本実施形態の製造方法は、製麹工程S1と糖化工程S2と生成工程S3と充填工程S4とブランチング工程S5と冷却工程S6とを備える。
【0039】
[製麹工程]
製麹工程S1は、蒸米に麹菌を接種して米麹を製造する工程である。この工程では、まず白米を蒸して得た蒸米を40℃前後に冷ましてから、種麹としての麹菌を万遍なく撒いて、蒸米と麹菌を均一に混ぜ合わせる。種麹の接種量は、白米1kgに対して4g~8g程度であることが好ましい。次いで、麹菌を接種した蒸米を清潔な布で柔らかく包み、30~45℃の温度で暗所にて保温しつつ、途中で蒸米の塊を崩してほぐす切り返しを行い、保温開始から約20~40時間培養することで甘酒の原料となる米麹をつくることができる。なお、本実施形態では、製麹工程S1を備えた包装袋2入り生甘酒1の製造方法の例を示すが、本発明において製麹工程S1は必須の工程ではなく、市販の米麹を用いることで製麹工程S1を省略することができる。
【0040】
[糖化工程]
本形態にかかる糖化工程S2は、米麹と水とを混合して混合液をつくる混合工程S21と、混合液の品温が50~60℃となるように調整する温度調整工程S22と、混合液を断続的に撹拌しながら15~24時間維持することで混合液の糖化を促す維持工程S23とを含む。混合工程S21で用いる米麹としては、製麹工程S1でつくった米麹や市販の米麹を用いることができる。なお、混合液をつくる際に麹菌を接種していない蒸米を所定量添加することもできるが、Brixが38~42である生甘酒を効率的に製造する観点から、蒸米を添加せずに米麹と水のみで混合液をつくることが望ましい。
【0041】
糖化工程S2で用いる米麹と水の配合割合は、重量比でおよそ1.0:0.7~1.0:2.0の割合である。そして、混合液の品温が速やかに50~60℃になるように加温などにより温度調整し(温度調整工程S22)、混合液がこの温度領域にある状態を所定時間維持する(維持工程S23)ことで、麹菌の酵素による糖化が進行する。維持工程S23においては、一定間隔で断続的に混合液を撹拌することが望ましい。攪拌することで、混合液の糖化を均一に促すことができる。また、維持工程S23の初期の段階で、米麹を追加で添加してもよい。
【0042】
本形態において維持工程S23で混合液を維持する温度は50~60℃である。この温度帯(糖化温度)は、一般的な酵素の活性温度よりも高く、甘酒の細菌汚染の原因となる環境由来の酵母や乳酸菌類、人由来の黄色ブドウ球菌や大腸菌類などの雑菌類が生育・増殖することが困難な温度帯である。一方、麹由来の分解酵素であるα-アミラーゼや酸性カルボキシペプチダーゼなどは、この温度帯でも失活することなく活性を保持している。また、維持工程S23で混合液を50~60℃で維持する時間(糖化時間)は、15~24時間であることが望ましい。糖化時間が15時間に満たないと糖化が不十分で、良好な食味の生甘酒1を得られなくなる。一方、糖化時間が24時間を超えると過剰に糖化が進んで、生甘酒1の風味や色味、食感が低下してしまう。
【0043】
[生成工程]
本形態にかかる生成工程S3は、糖化工程S2を経た混合液のBrixが38~42の範囲内となるように調整して、α-アミラーゼ活性および酸性カルボキシペプチダーゼ活性を有する生甘酒1を生成する工程である。上述のとおり、糖化工程S2において、混合液を50~60℃で所定時間維持することで雑菌類は失活するが、α-アミラーゼや酸性カルボキシペプチダーゼは活性を保っている。ただし、糖化工程S2を経た混合液のBrixは必ずしも所望の範囲内にない場合があるので、この生成工程S3では、Brixが38~42の範囲内となるように調整する工程を含む。
【0044】
Brixの測定は、公知の方法、装置を用いて行われる。糖化工程S2における米麹と水の配合割合や糖化温度、あるいは糖化時間について試行錯誤を繰り返して適正値を把握することで、一定程度の確率でBrixが38~42の範囲内の生甘酒を生成することができるが、製造条件や外部環境などの影響により、必ずしもBrixが38~42の範囲内に入らない場合があるので、製造ロット毎にBrixを測定する。糖化工程S2を経た混合液のBrixが42を超えていた場合は、当該混合液に水を加えて42以下になるように調整することができる。逆にBrixが38未満であった場合は、短時間で混合液のBrixを高める手段がないため、不良品として廃棄処分する。そこで、廃棄品を削減する観点から、糖化工程S2において予めBrixが42以上の混合液(生甘酒の仕掛品)を作り、それを水で希釈することで所望のBrixに調整するという方法を採用することが望ましい。そして、以上のような生成工程S3により、α-アミラーゼ活性および酸性カルボキシペプチダーゼ活性を有すると共にBrixが38~42である生甘酒を生成することができる。
【0045】
[充填工程]
本形態にかかる充填工程S4は、生成工程S3で得られた生甘酒の温度を50~60℃に保ったまま、内容量が15~50mlの可撓性包装袋2内に生甘酒1を充填する工程である。麹由来の分解酵素であるα-アミラーゼや酸性カルボキシペプチダーゼは、50~60℃の温度帯でも失活することなく酸素活性を保持している。ところが、糖化工程S3を終えた後、生甘酒1の温度を糖化温度未満に下げると途端に雑菌汚染が始まる。そこで、糖化温度である50~60℃を保ったまま生甘酒1を包装袋2に充填することで、α-アミラーゼや酸性カルボキシペプチダーゼの活性を保持しつつ、雑菌汚染リスクの少ない生甘酒1を包装袋2に充填することができる。
【0047】
この充填工程で用いる包装袋2は、上述のようにポリエチレンなどの樹脂フィルムやラミネートフィルムなどの可撓性を有する包装袋2であって、内容量が15~50mlの長尺の包装袋2である。(
図1参照)
【0048】
生成工程S3で得られた生甘酒1を包装袋2に充填する方法としては、充填装置の充填ノズルを一方端が開口する包装袋2内に挿入して、充填ノズルの先端から生甘酒1を注入し、所定量の注入が完了したら充填ノズルを包装袋2から抜いて、包装袋2内に空気が入らないように開口部を熱溶着で封止することで、充填工程S4が完了する。ここで、生甘酒1のBrixが42を超えると、生甘酒1の粘度が高くなりすぎて包装袋2内へのスムーズな充填が出来なくなったり、包装袋2内の空気が抜け難くなったりする。これに対して、本発明では生甘酒1のBrixの上限を42に抑えているため、容易に包装袋2内へ生甘酒1を充填することができる。
【0049】
[ブランチング工程]
本形態にかかるブランチング工程S5は、生甘酒1が充填された包装袋2を55~65℃の温水または水蒸気中に所定時間接触させる工程である。前工程の充填工程S4終了直後からブランチング工程S5に移行する間において、一時的に包装袋2内の生甘酒1の温度が50℃未満に低下することがあるが、このブランチング工程S5を経ることで、生甘酒1中のα-アミラーゼや酸性カルボキシペプチダーゼの活性を保持しつつ、雑菌増殖を抑止して変質や変色を防ぐことができる。また、後工程である冷却工程S6の前にブランチングすることで、包装袋2内の生甘酒1の密度の偏在を解消することができ、冷却工程S6で速やかに冷凍することにより均質な包装袋2入り生甘酒1を安定的に生産できる。
【0050】
ブランチングする際の温度(ブランチング温度)は、上述の糖化温度と同程度もしくは糖化温度よりも若干高い温度であることが好ましく、具体的には55~65℃であることが望ましい。ブランチングする時間(ブランチング時間)は、10~60分であることが好ましく、20~50分がより好ましく、30~45分であることが最も好ましい。ブランチング時間が短すぎると雑菌増殖を確実に抑止することや生甘酒1の密度の偏在解消が不十分になる場合がある。また、ブランチング時間が長すぎると製造時間が長期化し、甘酒の風味も劣化する。
【0051】
本発明の生甘酒1は内容量が15~50mlの可撓性包装袋2内に充填された生甘酒1であり、包装袋ひとつ当たりの内容量が限定的であるため、包装袋2の表面から生甘酒1の最遠部までの距離がいずれの箇所においても比較的短くなる。したがって、ブランチング工程S5を行った場合、包装袋2内の生甘酒1の表面側と内部側(最遠部)の温度差が生じ難いので、内部側の生甘酒内の雑菌類をも確実に滅菌することができ、品質低下を招くことがない。なお、ブランチング工程S5において、複数の包装袋2入りの生甘酒1を55~65℃の温水または水蒸気中に同時に接触させる際、各包装袋2と温水等との接触面積を十分に確保するため、包装袋2同士が重ならないように個別収納ケースに入れた状態でブランチング工程S5を行うことで品質の安定化に寄与する。
【0052】
[冷却工程]
本形態にかかる冷却工程S6は、ブランチング工程S5を経た包装袋2入りの生甘酒1を氷点下に冷却する冷却工程である。生甘酒1を氷点下に冷却することで、生甘酒1中のα-アミラーゼおよび酸性カルボキシペプチダーゼの酵素活性が一時的に停止して、糖化反応が起こらない。
【0053】
本発明の生甘酒1は内容量が15~50mlの包装袋2内に充填された生甘酒1であるため、冷却工程S6において包装袋2内の生甘酒1の表面側と内部側の温度差が生じ難い。したがって、短時間で包装袋2内の生甘酒1を氷点下に冷却することができる。冷却温度は-5℃以下であることが好ましく、-10℃以下であることが更に好ましく、-15℃以下であることがより好ましい。本発明の生甘酒1は、Brixが38~42であるため、水のように-5℃程度では完全に固化しないため、冷却工程S6において、例えば-5℃に冷却した包装袋2入り生甘酒1の外観検査や品質検査を行った後、検査に合格した包装袋2入り生甘酒1を所定数量ずつ袋詰めして、袋詰めの状態でさらに低温(例えば-15℃)で冷凍保存することで、市場流通可能な商品が完成する。包装袋2入り生甘酒1を所定数量ずつ袋詰めした商品は、搬送途中や店頭販売において冷凍保存することが望まれる。
【0054】
上述のブランチング工程S5を経た包装袋2入り生甘酒1を、冷却工程S6において氷点下に冷却する際の冷却速度は-1.0℃/分以上であることが望ましい。このような冷却速度で生甘酒1を冷却することで、包装袋2内の生甘酒1が雑菌増殖の至適温度帯に晒される時間を短縮することができるため、雑菌増殖リスクが低減されて、生甘酒1の安全性を向上させることができる。
【0055】
冷凍保存された包装袋2入り生甘酒1を飲用する場合、常温に晒す時間の長短によって飲用者は様々な食感を知覚することができる。しかも、この生甘酒1は不快な臭気や変色のない良好な食味を呈する。また、飲用者の体内に取り込まれた生甘酒1は、α-アミラーゼおよび酸性カルボキシペプチダーゼ等の働きにより腸活動の促進が期待できる。
【0056】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更を加えることができる。
例えば、
図3に示すように、包装袋2の一端側の幅が狭くなるように溶着部3dを形成して細径の開封口2aを設けると共にその近傍に切り込み4を入れた包装袋2を用いることができる。開封口を狭くすることにより、より開封しやすくなることに加え、開封した後に内容物(生甘酒)がこぼれにくくなる。また、
図4に示すように、幅が狭い開口部2aを片側に寄せた包装袋2を用いてもよい。
【実施例】
【0057】
以下に本発明の実施例を説明する。
【0058】
[米麹の製造]
精米歩合70%の米を蒸して蒸米をつくり、この蒸米麹菌を接種して、220kgの米麹を製造した。米は長野県産加工用米を用い、麹菌は「生酒専用IV-2」(株式会社秋田今野商店)を使用した。
【0059】
[生甘酒の製造]
重量比で米麹1に対して水1.5の割合で混合し、速やかに品温を50~60℃の範囲内に調整して4時間維持した。その後、重量比で米麹1を追加で加え、混合後、50~60℃で15時間維持した。その間、撹拌を1時間に1回、計14回行った。(糖化工程)
【0060】
14回目の撹拌の直後にBrixを測定したところ、38~42の範囲の41であることを確認したため、加水等を行うことなく生甘酒を生成した。(生成工程)
【0061】
生成した生甘酒を、充填装置により速やかに可撓性を有する包装袋に充填した。包装袋として、長さ10cm、幅3cm、内容量が30mlのポリエチレン製フィルムを用いた。フィルム内に充填したスティック状の生甘酒を3000本製造した(充填工程)
【0062】
フィルム内に充填した生甘酒を60℃の温水に30分間浸した。その際、フィルム内の生甘酒が温水に触れる面積を大きくするために、網目状の個別収納ケースに入れて浸漬し、30分間静置した。(ブランチング工程)
【0063】
包装袋入りの生甘酒を温水から引き上げ、速やかに冷蔵庫に投入して-5℃に冷却した。-5℃に冷却した包装袋入りの生甘酒をすべて目視検査した後、合格品を30本ずつ袋詰めして100個の商品が完成し、これらを-25℃の冷凍庫に保存した。
【0064】
[比較実験]
次に、本発明にかかる製造方法および比較例にかかる製造方法によって製造された甘酒の特性の違いについて説明する。
【0065】
まず、本発明にかかる製造方法で製造した包装袋入り生甘酒(実施例)を用意した。次に、本発明にかかる製造方法のうちブランチング工程S5を省き、その他は同様の製造方法で製造した包装袋入り甘酒(比較例A)を用意した。さらに、本発明にかかる製造方法のうちブランチング工程S5に代えて、加熱殺菌工程として85℃の熱水に30分間浸漬する処理を行い、その他は実施例Aと同様の製造方法で製造した包装袋入り甘酒(比較例B)を用意した。
そして、実施例、比較例Aおよび比較例Bについてそれぞれのα-アミラーゼ、酸性カルボキシペプチダーゼの酵素力価測定を行った。なお、この測定は長野県工業技術総合センターに委託して行われ、α-アミラーゼ及び酸性カルボキシペプチダーゼの活性はキッコーマンバイオケミファ社製醸造分析キットを用い、大腸菌群はデソキシコレート培地法、一般生菌数は標準平板培養法により測定された。測定結果を表1に示す。
【0066】
【0067】
表1に示すように、実施例および比較例Aの甘酒は、いずれもα-アミラーゼ活性と酸性カルボキシペプチターゼ活性を有することが判る。これに対して、加熱殺菌処理を行った比較例Bの甘酒は、α-アミラーゼ、酸性カルボキシペプチターゼ、一般生菌が失活していることが判る。また、比較例Aの甘酒は、α-アミラーゼおよび酸性カルボキシペプチターゼの数値が実施例の数値よりも大きいが、ブランチング工程S5を省いて製造しているため、大腸菌群が陽性となり、食品としての安全性が担保されない。
【0068】
【産業上の利用可能性】
【0069】
消化酵素を失活させることなく、その活性を保った状態で、かつ雑菌汚染のリスクがなく、不快な臭気や変色のない良好な食味の包装袋入り生甘酒およびその製造方法を提供できる。
【符号の説明】
1 生甘酒
2 包装袋
3a、3b、3c、3d 溶着部
4 開口部
S1 製麹工程
S2 糖化工程
S21 混合工程
S22 温度調整工程
S23 維持工程
S3 生成工程
S4 充填工程
S5 ブランチング工程
S6 冷却工程
【要約】
【課題】甘酒内の消化酵素の活性を保った状態で、雑菌汚染のリスクがなく、不快な臭気や変色のない良好な食味の包装袋入り生甘酒およびその製造方法を提供する。
【解決手段】内容量が15~50mlの可撓性包装袋2内に充填されて、Brixが38~42であると共に、α-アミラーゼ活性および酸性カルボキシペプチダーゼ活性を有する包装袋入り生甘酒1。この生甘酒1は、米麹と水を混合した混合液の品温が50~60℃となるように温度調整して15~24時間維持する糖化工程S2と、混合液のBrixが38~42の範囲内となるように調整して生甘酒を生成する生成工程S3と、包装袋2内に生甘酒1を充填する充填工程S4と、包装袋2入りの生甘酒1を55~65℃の温水または水蒸気中に所定時間接触させるブランチング工程S5と、包装袋2入り生甘酒1を氷点下に冷却する冷却工程S6と備える製造方法で製造される。
【選択図】
図1