(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ
(51)【国際特許分類】
B60K 35/23 20240101AFI20240912BHJP
G02B 27/01 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B60K35/23
G02B27/01
(21)【出願番号】P 2023026809
(22)【出願日】2023-02-23
(62)【分割の表示】P 2020553757の分割
【原出願日】2019-10-16
【審査請求日】2023-02-23
(31)【優先権主張番号】P 2018202559
(32)【優先日】2018-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】牛田 典彦
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-224068(JP,A)
【文献】特開2017-203881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 35/00
-37/20
G02B 27/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の反射透過部材に表示光を投影することで虚像を映し出すヘッドアップディスプレイであって、
車両情報を表す前記表示光を出射する表示部と、
前記表示光を反射し、所定の回転軸を中心に回転可能である反射部と、
前記反射部と連動して回転することで前記反射部を回転できる突出部と、
前記突出部を弾性力により所定の回転方向に付勢する弾性部と、
前記突出部に当接する動力伝達部と、
前記動力伝達部を運動する動力部と、
前記反射部を回転可能に保持し、前記弾性部と、前記動力部と、前記回転軸の相対位置を固定する硬質構造物と、
を備え、
前記反射部は、
前記表示光を前記反射透過部材に投影するディスプレイモードと、
前記表示光を前記反射透過部材に投影しない休止モードと、
を有し、
前記弾性部は、前記弾性力がディスプレイモード時により強くなるように設定され、
前記突出部は、前記回転軸からの平面視において前記動力伝達部と常に回転方向に点接触にて当接し、
前記当接の方向と前記運動の方向とが為す当接角度は、休止モードの時よりディスプレイモードの時の方が小さい
ヘッドアップディスプレイ。
【請求項2】
前記反射部は、
前記ディスプレイモード時に複数の表示位置に変位でき、
前記休止モードでは休止位置に変位でき、
前記当接角度は、
前記反射部が前記表示位置の内、少なくとも一箇所の表示位置にあるときに0°となる
請求項
1に記載のヘッドアップディスプレイ。
【請求項3】
前記当接角度は、
前記複数の表示位置のうち、休止位置に最も近い表示位置で0°となる
請求項
2に記載のヘッドアップディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドアップディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
従来ヘッドアップディスプレイとして、特許文献1が示すような、リードスクリュー(61c)を用いて凹面鏡(41)の角度を調整する構成が開示されている。具体的には、位置調整手段(43)の突起部(65h,65i)が凹面鏡(41)の保持部材(42)をそれぞれ点接触し、駆動部材(61a)が駆動することで、凹面鏡(41)が回転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような構成では、駆動部材(61a)が含む螺合部やギア部のかみ合わせにより、車両に大きな振動が生じた場合に、像ブレが生じてしまう虞があった。そこで本発明の目的とするところは、上述課題に着目し、像ブレが生じる虞を低減したヘッドアップディスプレイを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係るヘッドアップディスプレイは、
車両の反射透過部材に表示光を投影することで虚像を映し出すヘッドアップディスプレイであって、
車両情報を表す前記表示光を出射する表示部と、
前記表示光を反射し、所定の回転軸を中心に回転可能である反射部と、
前記反射部と連動して回転することで前記反射部を回転できる腕片状の突出部と、
前記突出部を弾性力により所定の回転方向に付勢する弾性部と、
前記突出部に当接する動力伝達部と、
前記動力伝達部を運動する動力部と、
前記反射部を回転可能に保持し、前記弾性部と、前記動力部と、前記回転軸の相対位置を固定する硬質構造物と、
を備え、
前記反射部は、
前記表示光を前記反射透過部材に投影するディスプレイモードと、
前記表示光を前記反射透過部材に投影しない休止モードと、
を有し、
前記弾性部は、前記弾性力がディスプレイモード時により強くなるように設定されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば像ブレが生じる虞を低減したヘッドアップディスプレイを提供することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示のヘッドアップディスプレイ1が車両Cに搭載された様子を示す図。
【
図2】ヘッドアップディスプレイ1の構成を示す図。
【
図3】パーキング位置のヘッドアップディスプレイ1の一部を示す図。
【
図4】トーラー位置のヘッドアップディスプレイ1の一部を示す図。
【
図5】ショーター位置のヘッドアップディスプレイ1の一部を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本開示のヘッドアップディスプレイ(HUD)1を車両Cに搭載された実施形態及び変形例として例にあげ、添付図面を用いて次の順序で説明する。
[第一実施形態]
1-1.構成の説明
1-2.モードの説明
[変形例]
[効果例]
[第一実施形態]
<1-1.構成の説明>
【0009】
図1に示す通り、本開示のHUD1は車両Cに設けられたウインドシールドWSの下方に組み付けることができる。図面の上下方向は車両Cの上下方向Y、左右方向は前後方向Z、奥行き方向は左右方向Xに対応している。
【0010】
HUD1は車両の前方向に傾斜した自由曲面形状を為すウインドシールドWS(反射透過部材)に車両情報を表す表示光Lを投影することで虚像Vを映し出す。HUD1は車両後斜め上方向に向けて表示光Lを出射する。HUD1に出射された表示光Lは、ウインドシールドWSに反射される。ウインドシールドWSに反射された表示光Lを視点EPで視認する利用者(例えば車両Cの乗員)は、映し出された虚像VをウインドシールドWSの奥に浮遊した表示像として視認できる。
【0011】
虚像Vには例えば速度やエンジン回転数と言った車両情報や、ターンバイターンや地図などの経路案内表示、ブラインドスポットモニターや制限速度超過警告などの警告表示など、乗員(利用者)へ注意喚起する必要性が高い情報が表示される。これにより視点移動及び眼の焦点距離調整の必要が低減された運転環境が提供される。表示像Vにはこれら情報を示す文字やアイコンの他、背景部分も含まれており、乗員からの平面視ではこれは例えば矩形状を為している。
【0012】
またHUD1は大きく2つのモードを有する。1つは
図1に示すような、HUD1がウインドシールドWSに表示光Lを投影することで、視点EPから虚像Vを視認することができるディスプレイモードである。もう1つは、HUD1がウインドシールドWSに表示光Lを投影せず、視点EPからは虚像Vを視認することができない、休止モード(パーキングモード)である。ウインドシールドWSに表示光Lを投影しないパーキングモードのHUD1は、光線の逆進の原理に基づいて、ウインドシールドWS方向からHUD1に入射する外光(主に太陽光)を表示光Lが入射する方向(光学的に表示部が存在する方向)へ反射することが無い位置にあることになる。これにより、車両Cが停車している状態であると考えられるHUD1がパーキングモードであるときに、表示部が外光に照らされて高温状態となることを防止することとなる。
【0013】
ディスプレイモードのHUD1は、虚像Vを視認できる視点EPの高さを調節するために、表示光Lの光路を後述する構成により変更することができる。本開示では図面に示す通り、ショーター表示光Ls、センター表示光Lc、トーラー表示光Ltの3種類に変更が可能である。ショーター表示光Lsは、ディスプレイモードでは、HUD1はウインドシールドSWの比較的下部へ表示光Lを投影し、虚像Vを映し出す。トーラー表示光Ltでは、HUD1はウインドシールドSWの比較的上部へ表示光Lを投影し、虚像Vを映し出す。センター表示光Lcでは、前述2つの表示光路の間を通り、虚像Vを映し出す。
【0014】
図2を用いて、HUD1の構成を説明する。車両Cの方向に対応する図面内の方向は
図1と同様である。
図2は反射部30が表示光Lをトーラー表示光Ltとして反射するトーラー位置Ptである状態を図示したものである。粗破線Psは反射部30の凹面鏡31がショーター位置にあるときの外形を示し、細破線Ppは凹面鏡31がパーキング位置Pp(休止位置)にあるときの外形を示している。本開示ではパーキング位置とはウインドシールドWSに表示光Lを投影しない位置として、特に表示光Lの中心を方向Bへ反射するような位置とする。また、パーキング位置Pp、トーラー位置Pt、センター位置、ショーター位置Psのそれぞれで、凹面鏡31の反射面31aの中心(表示光Lの中心が入射する箇所)の法線が方向Bに対して有する角度は、例えば0°、18.5°、19.7°、21°である。
【0015】
HUD1は、表示部20と、反射部30と、トーションスプリング40と、制御部50、動力伝達部70と、動力部80とを備える。
【0016】
表示部20は表示光Lを出射する部材である。本開示では方向Fへ向かって出射している。表示光Lを出射する部材としては、例えばTFT液晶モジュールを用いる構成や、有機ELを用いた構成、DMD(Digital Micro-mirror Device)を用いたプロジェクタなどを適用できる。TFT液晶モジュールを用いた構成では、例えば表示部20はそれぞれ制御部に接続されたバックライトユニットと液晶表示素子を固定された状態で設ける構成で、制御部の制御により情報を表示する液晶表示素子が制御部の制御により点滅を制御されるバックライトユニットから出る照明光に照らされることで表示光Lを出射する。しかしながら、例示したもの以外でも、表示光を出射できる構成であれば本開示の構成の効果を発揮できることは言うまでもない。
【0017】
反射部30は、凹面鏡31、ホルダ32、軸33、係止孔35(力点)、突出部37(作用点)を設ける。
【0018】
凹面鏡31は、反射面31aに形成された自由曲面形状に則って表示光Lを拡大しつつ、表示光Lを反射する。凹面鏡31は、基材に硬質合成樹脂や無機ガラスを適用でき、例えば銀を蒸着することでなる反射面31aを有する構成を適用できる。また、反射面31aは自由曲面形状によってウインドシールドWSで生じることが想定される表示像Vの歪みを相殺することができる形状であると望ましい。
【0019】
ホルダ32は、凹面鏡31を接着やビス止めなどにより固定する保持部材である。素材はマグネシウムや鉄などの硬質金属や、ABS樹脂などの硬質合成樹脂を適用できる。凹面鏡31の保持は表示光Lの反射を妨げない位置で適宜行うことが可能である。例えば図示の通りホルダ32が反射面31aに対して裏面で保持を行うと、ホルダ32が視点EPから見えず、また意図しない光(迷光)が視点EPへ到達する虞も低減できる。
【0020】
軸33は、例えばホルダ32と一体に形成されている。方向Xに沿った回転軸Pを規定するために、軸33はホルダ32の例えば方向Xを向く両側面に1つずつ設けるのが望ましい。反射部30が、この軸33が規定する回転軸Pを中心に回転を行うことで、ディスプレイモードとパーキングモードとを切り替えることができる。
【0021】
また軸33は、図示しない硬質構造物で回転軸Pが後述の固定端41と動力部80との相対位置が固定されている状態かつ回転可能に保持されている。硬質構造物としては例えばABS樹脂のような合成樹脂材料や、マグネシウムのような金属が適用可能である。この硬質構造物は、ヘッドアップディスプレイ1を構成する各部材を収容する筐体であってもよいし、車両Cの車体の一部であってもよい。また、硬質構造物が軸33を保持する構造は、U字状の誘い込みに軸33を載置し、回転を妨げない程度の力で板バネなどで抑えることができる。しかしこれに限定されず、回転軸Pを規定できるような保持を行う硬質構造物であればよい。
【0022】
係止孔35(力点)は弾性部を連結するために反射部30に設けられた箇所である。本開示では例えば軸付近に設けられた孔である。この孔へ、弾性部の例示である後述のトーションスプリング40の荷重端42を係止することで、弾性部の反力を伝えることができる。
【0023】
突出部37(作用点)は、ホルダ32に一体に設けられた腕片である。例えば、本開示ではホルダ32から突出した平板状を為している。また突起71と当接する当接面は、凹面鏡31の中心に対して回転方向成分において18.5°傾斜しており、なおかつ回転軸Pと同一平面上に存在する。これにより、反射部材30がトーラー位置Ptにあるときに、当接面が方向Yに垂直となる。また突出部37は方向X成分においてホルダの中央に設けることで、比較的に凹面鏡31を歪みを生じることなく回転を行うことができる。後述の動力伝達部70が、この突出部37の位置を変位することで、反射部30が表示光Lを反射する方向を調節することができる。反射部30は回転軸Pを中心に回転可能に保持されており、なおかつ後述のトーションスプリング40で回転方向に対して付勢されている。この付勢より大きい力で突出部37が押し返される、または弱い力で引き込まれることで、反射部30の角度を変更できる。
【0024】
本開示では突出部37はホルダ32と一体に形成されている。しかし、突出部37は必ずしもホルダ32と一体に形成されていなくとも良い。突出部37は凹面鏡31に設けられていても良い。また更には、突出部37が所定の回転軸を中心に位置を変位することで、反射部30の位置が調節できる構成であれば良い。即ち、回転可能に設けられた突出部の回転が、例えば少なくとも1つの歯車を介して間接的に反射角度を調節する構成であってもよい。
【0025】
トーションスプリング40(弾性部)は、反射部30を回転方向へ向けて付勢する弾性部材である。材料は硬鋼やステンレス鋼のような硬質金属が適用できる。本開示では、軸33が案内棒としての機能を果たす。案内棒である軸33の中心(回転軸P)を中心にして、荷重端42へトルクを与える事ができる。そのトルクは、トーションスプリング40固有のトルクばね定数[N・mm/deg]とたわみ角度に従って決定される。また、固定端41は前述の硬質構造物に係止や接着などの手段で固定され、前述の通り回転軸Pと動力部80との相対位置が一定に保たれている。荷重端42はトーションスプリング40の一端が方向Rに向かって折れ曲がっており、前述の通り係止孔35に係止されている。すなわち、
図2に示される通りの様子で組み付けられている。
【0026】
また本開示では、トーションスプリング40は巻き込み方向に対して荷重が加わっている。すなわち、トーションスプリング40は図示する方向から見たときに時計回りの方向に付勢されていることを意味する。一方、突出部37は方向Bに向かって突起71に押されていることを意味する。この付勢は反射部30の反射面31aが方向Uを向くにつれて換言すればショーター位置に近くなるにつれて、大きくなる。一方、この付勢はパーキング位置に近づくにつれて、小さくなる。
【0027】
また、パーキング位置に到達した際も、トーションスプリング40は自身の自由角度には復帰せず、たわみを持ち続けるような構成である。というのも、このトーションスプリング40が付勢を行うことの目的は、パーキングモード、ディスプレイモード、その間の移行モードのいずれにおいても、付勢を行うことである。所定以上のトルクで付勢を行うことで、HUD1に衝撃が加わったことで逆方向のトルクが生じた場合でも、所望の方向へ係止孔35、反射部30、突出部37、突起71、動力伝達部70、動力80が付勢され、たとえ動力伝達部と動力部80の接続部、動力部80の内部に存在するバックラッシュが生じうる間隙に起因するガタつきに因る像ブレ、ガタつきに因る音が生じる虞を低減することができるのである。
【0028】
また、上述のように、パーキングモードの時よりディスプレイモードの時の付勢が強くなるように、弾性部の両端の位置を設定するとよい。というのも、パーキングモードでは車両Cは一般的に走行状態ではない一方、ディスプレイモードでは車両Cが走行状態であることが多い。これはつまり、ディスプレイモードの際にヘッドアップディスプレイ1へ大きな衝撃が加わる可能性が大きいことを意味する。つまり、パーキングモードの時よりディスプレイモードの時の付勢が強くなるように、弾性部の両端の位置を設定すると、効率的に像ブレが生じる虞を低減することができる。
【0029】
ところで、上述の事情によりトーションスプリング40のトルクばね定数[N・mm/deg]は大きければ大きいほど、より大きい逆方向のトルクに対して耐性を持つことができる。しかしながら、あまりに強くした場合、凹面鏡31(反射面31a)に歪みが生じてしまう。これは虚像Vの歪みにも繋がってしまうため、極力小さいバネ荷重で、十分な付勢を行う必要がある。その設定手法に則った構成はあとで詳述する。
【0030】
制御部50は、所定プログラムや各種データの格納、演算時の記憶領域などに用いる図示しないROMやRAM等の記憶部と、前記所定プログラムに従って演算処理するためのCPUと、入出力インターフェース等を設けたマイクロコンピュータを適用できる。制御部50は、HUD1の外部の車載機器から受信した車両情報に基づき、表示部20に表示する画像を生成したり、表示部の表示を制御したり、照明手段の照度を制御したりする。制御部50は表示部20及び動力部80、またHUD1の外部の電子機器と電気的に接続されており、動力部80の駆動も制御している。
【0031】
動力部80は、後述の動力伝達部70に回転軸Pと非平行な方向に沿って直線運動を行わせる動力部である。本開示では例えば方向Zに直線運動を行わせる。前述の通り制御部50と電気的に接続され、動作を制御されている。
【0032】
動力部80には、例えばリードスクリューを用いた構成を適用できる。具体的には、回転軸を入力信号に応じて回転させるモータなどの駆動部、その回転に応じて回転するネジ軸、ネジ軸に螺合する輪状のナット部、ナット部の回転を抑制するガイド部を有し、後述の動力伝達部70をナットに固定した構成である。ガイド部によって回転を抑制されたナット部は、駆動部によって回転されるネジ軸の軸方向に沿って直線運動を行うことができる。
【0033】
動力伝達部70は例えば硬質剛性樹脂材料を適用でき、動力部80の動力によって直線運動を行い、自身に設けられた突起71を介して突出部37を押すことで、反射部材30の角度を調節することができる。動力部80がリードスクリューを用いた前述の構成である場合にはナット部に対して固定され、ナット部は固定された動力伝達部70を介してガイド部に当接することで自身の回転を抑制しても良い。
<1-2.モードの説明>
【0034】
図3、
図4、
図5を用いて、各モードでの付勢の様子を説明する。
図3は凹面鏡31がパーキング位置Ppにある場合の付勢の様子を示している。Tpはパーキング位置Ppでのトーションスプリング40が反射部材30に与えるトルクを示す。Fpは突出部37が突起部71に当接する力を示す。当接力Fpは突出部37の当接面に対して垂直に発生する。fpはFpの内、Z方向分力(保持分力)を示す。保持分力fpが大きくなることで、より強い衝撃が加えられた場合でも動力部80のガタつきを防ぐことができる。これは動力部80及び動力伝達部70の直線運動方向が方向Zに一致するからである。
図4、
図5のTx、Fx、fx(xはtまたはs)はトーラー位置Ptまたはショーター位置Psでのトルクまたは力または保持分力を示す。
【0035】
ここで、当接力Fpと保持分力fpが為す角度は、18.5°である。これは突出部37が凹面鏡31と為す角度が18.5°であって、凹面鏡31は方向Zと垂直であることからわかる。言い換えると、突出部37が動力伝達部70と当接する角度(当接角度)が18.5°であるとも言える。加えて、保持分力fpは当接力Fpに18.5°の余弦の値を乗じた大きさである。
【0036】
同様にして、保持分力ftは当接力Ftと等しい大きさ、保持分力fsは当接力Fsに2.5°の余弦の値を乗じた大きさである。つまり当接角度が0°に近い方が効率の良く保持分力fを加えることができる。
【0037】
一般に、HUDの凹面鏡がショーター位置からトーラー位置まで回転する際の角度は3°以内である。また、ショーター位置とトーラー位置のうち、パーキング位置に近い位置からパーキング位置まで回転するために必要な角度は10°以上ある。そのため、反射部がパーキング位置付近のときに、当接角度が0度を迎えると、その後反射部がディスプレイモードに至った際には当接角度が0°から乖離してしまう。このように応力分散してしまうと、当接力Fxが大きくとも保持分力fxを効率的に加えることができず、小さくなってしまう。
【0038】
そこで本開示で示す様に、ディスプレイモードではパーキング位置Ppの時より当接角度が0°付近になるような構成とすれば、応力分散を極力低減し、像ブレを低減したヘッドアップディスプレイを提供できる。
【0039】
また更には、トーラー位置とショーター位置のうち、パーキング位置に近い方で当接角度が直角になるような構成では、ディスプレイモードのうち少なくとも一箇所で応力分散の無い位置を設定する事となるので、更に効率よく像ブレを低減できる。
【0040】
更に望ましくは、トルクばね定数をk[N・mm/deg]、変数としての角度をθ[deg]、トーラー位置とショーター位置のうちパーキングに近い一方での当接角度をθt[deg]、他方での当接角度をθs(すなわち、ディスプレイモード時に反射部を一方の位置から他方の位置まで回転した時の角度をθtに足した角度)[deg]としたときに、θ・k・cosθをθtからθsまで積分した際の絶対値が最大となるようにθtを設定することが望ましい。これによれば、さらに応力分散を低減し、効率よく像ブレを低減できる。
【0041】
こうして、像ブレが生じる虞を低減したヘッドアップディスプレイを提供することとなった。
【0042】
なお、本発明のヘッドアップディスプレイを上述した実施の形態の構成にて例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の構成においても、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の改良、並びに表示の変更が可能なことは勿論である。 例えば、本開示では反射部として、反射面、突出部の他に、ホルダを用いた構成を示した。しかし、ホルダを設けず、少なくとも反射面31aと突出部が連動して動くような構成であればいい。
【0043】
また、弾性部としてトーションスプリングを用いた構成とした。しかし、トーションスプリング以外でも、反射部を回転方向に付勢することができる弾性部であれば他の構成であっても良い。例えば、回転軸に対して、固定端と弾性端(移動端)とを結んだ伸縮方向がねじれの位置にあるようなコイルスプリングで構成されていてもよい。伸縮方向がねじれの位置にない場合には、回転軸に対してトルクを生じさせることができず、結果的に付勢を行えない。しかし、ねじれの位置であって、上述のように固定端と回転軸と動力部との相対位置が硬質構造物で一定に保たれた状態で、移動端を反射部に止めればトルクが生じ、付勢を行うことができる。
【0044】
また、本開示では、反射部30の位置がパーキング位置から順に、パーキング位置Pp、トーラー位置Pt、センター位置、ショーター位置Psとなっていた。しかし仮にパーキング位置を、反射面31aが方向F、車両の進行方向に向いた位置をとした設計では、パーキング位置に最も近いディスプレイモードでの反射部の位置はショーター位置となる。その様になった場合は、パーキング位置に近いショーター位置で当接角度が0°となるように構成すれば、効率的に像ブレが生じる虞を低減したヘッドアップディスプレイとなる。
[効果例]
【0045】
第一に、本開示のヘッドアップディスプレイ1は、車両Cの反射透過部材WSに表示光Lを投影することで虚像Vを映し出すヘッドアップディスプレイ1であって、
車両情報を表す表示光Lを出射する表示部2と、
表示光Lを反射し、所定の回転軸Pを中心に回転可能である反射部30と、
反射部30と連動して回転することで反射部30を回転できる腕片状の突出部37と、
突出部37を弾性力により所定の回転方向に付勢する弾性部40と、
弾性部40の付勢方向に位置する面と当接する動力伝達部70と、
動力伝達部70を直線運動する動力部80と、
反射部30を回転可能に保持し、弾性部40と、動力部80と、回転軸Pの相対位置を固定する硬質構造物と、
を備え、
反射部30は、
表示光Lを反射透過部材WSに投影するディスプレイモードと、
表示光Lを反射透過部材WSに投影しないパーキングモードと、
を有し、
弾性部40は、弾性力がディスプレイモード時により強くなるように設定された
ヘッドアップディスプレイである。
この構成に依れば、ヘッドアップディスプレイ1に衝撃が加わりやすい、車両Cの走行可能状態のときに像ブレを最低限効率よく低減できるヘッドアップディスプレイを提供できる。
【0046】
第二に、ヘッドアップディスプレイ1は、
突出部37は、
回転軸Pからの平面視において動力伝達部70と常に回転方向に点接触にて当接し、
当接する方向と直線運動の方向Zとが為す当接角度は、
パーキングモードの時よりディスプレイモードの時の方が小さい
ヘッドアップディスプレイである。
この構成に依れば、更に比較的効率的に像ブレを防止できるヘッドアップディスプレイを提供できる。
【0047】
第三に、ヘッドアップディスプレイ1は、
反射部30は、
ディスプレイモード時に複数の表示位置(トーラー位置Ptやショーター位置Ps)に変位でき、
パーキングモードではパーキング位置Ppに変位でき、
当接角度は、
反射部30がディスプレイモード時の表示位置の内、少なくとも一箇所の表示位置にあるときに0°となる
ヘッドアップディスプレイである。
この構成に依れば、少なくとも1箇所では応力分散が生じない表示位置を有し、効率的に像ブレが生じる虞を低減したヘッドアップディスプレイを提供できる。
【0048】
第四に、ヘッドアップディスプレイ1は
当接角度が複数の表示位置のうち、パーキング位置に最も近い表示位置で0°となる
ヘッドアップディスプレイである。
【符号の説明】
【0049】
C 車両
1 ヘッドアップディスプレイ(HUD)
WS ウインドシールド(反射透過部材)
V 虚像
EP 視点
L 表示光
2 表示部
3 反射部
31 凹面鏡
31a 反射面
32 ホルダ
33 軸
35 係止孔(力点)
37 突出部(作用点)
40 トーションスプリング(弾性部)
41 荷重端
42 固定端
70 動力伝達部
71 突起
80 動力部
P 回転軸(支点)