IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋紡エムシー株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】フレキソ印刷原版
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/031 20060101AFI20240912BHJP
   G03F 7/00 20060101ALI20240912BHJP
   G03F 7/027 20060101ALI20240912BHJP
   B41N 1/00 20060101ALI20240912BHJP
   B41M 1/04 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
G03F7/031
G03F7/00 502
G03F7/027 502
B41N1/00
B41M1/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023068045
(22)【出願日】2023-04-18
(62)【分割の表示】P 2021542658の分割
【原出願日】2020-07-30
(65)【公開番号】P2023100692
(43)【公開日】2023-07-19
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2019152853
(32)【優先日】2019-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】芳本 和也
(72)【発明者】
【氏名】肥後 衣里
(72)【発明者】
【氏名】中森 雅彦
【審査官】川口 真隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/169572(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/031
G03F 7/00
G03F 7/027
B41N 1/00
B41M 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも支持体(A)と感光性樹脂層(B)と酸素バリヤ層(C)と感熱マスク層(D)が順次積層されてなるフレキソ印刷原版であって、感光性樹脂層(B)を形成する感光性樹脂組成物が、(a)共役ジエンを重合して得られるポリマー、(b)エチレン性不飽和化合物、及び(c)光重合開始剤を含み、(c)光重合開始剤がベンジルジメチルケタールであり、感光性樹脂組成物中の(c)光重合開始剤の含有量が2.5~質量%であり、(b)エチレン性不飽和化合物が、数平均分子量100以上600以下の(メタ)アクリレート化合物(i)を含み、感光性樹脂組成物中の数平均分子量100以上600以下の(メタ)アクリレート化合物(i)の含有量が5~16質量%であり、感光性樹脂組成物中の(c)光重合開始剤の質量と数平均分子量100以上600以下の(メタ)アクリレート化合物(i)の質量との比率が0.20~0.55の範囲にあり、(b)エチレン性不飽和化合物が、数平均分子量600超20,000以下の(メタ)アクリレート化合物(ii)をさらに含み、感光性樹脂組成物中の数平均分子量600超20,000以下の(メタ)アクリレート化合物(ii)の含有量が5~25質量%であること、及び数平均分子量100以上600以下の(メタ)アクリレート化合物(i)が、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ブチル-2-エチルプロパンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ECH変性フタル酸ジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエンジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ECH変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、EO(PO)変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートからなる群から選択されることを特徴とするフレキソ印刷原版。
【請求項2】
現像が水系の現像液を使用して行なわれることを特徴とする請求項1に記載のフレキソ印刷原版。
【請求項3】
請求項1に記載のフレキソ印刷原版を露光して現像することによって得られたフレキソ印刷版であって、印刷版に形成されたベタ部分にマイクロセルを適用したことを特徴とするフレキソ印刷版。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷版のベタ部分のマイクロセル再現性が良く、ベタ部分のインク乗りに優れるフレキソ印刷原版に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フレキソ印刷は、版材の凸部にインキを乗せ、版材を基材へ押し当てることでインキを版材から基材へ転写させる印刷方式である。フレキソ印刷に用いる版材は比較的柔軟であり、種々の形状に追従可能であることから、幅広い基材への印刷が可能である。基材としては、包装フィルムやラベル紙、飲料用カートン、紙器、封筒、ダンボール等が挙げられ、なかでも表面の粗い基材には専らフレキソ印刷が用いられている。また、フレキソ印刷は、VOC排出量が少ない水性やアルコール性インキを用いることができ、環境適応性が高い印刷方式である。これらの基材適応性や環境適応性といった利点により、グラビア印刷やオフセット印刷からフレキソ印刷への移行が進んでいる。
【0003】
一方、フレキソ印刷は、フィルム基材への印刷においてグラビア印刷に比べてベタ部分のインキ乗りが劣る課題がある。フレキソ印刷のベタ部分のインキ乗りを向上させる一つの方法として、印刷版と被印刷物の物理的な押し圧を増加させる方法がある。ただし、この場合は微小網点が押し圧により変形し、微小網点の印刷性が損なわれる。
【0004】
その他の方法として、ベタ部分の表面にマイクロセルを設けることで、ベタ部分のインキ乗りを向上させる方法がある。マイクロセルとはベタ部分の表面に形成された特定の微小凹凸パターンを意味する。マイクロセルを設けることにより印刷版と被印刷体を押し当てた際にインクに適度な移動性を持たせることができ、ベタ部分のインク分布の均一性を高めることができる。印刷版のベタ部分にマイクロセルを設ける方法としては、感熱マスク層のベタ部分にマイクロセルをイメージングし、それを印刷版に再現させる方式が広く用いられている。典型的な例として、ESKO-Graphic社製のマイクロセルスクリーニングがある(非特許文献1参照)。マイクロセルスクリーニングには、長方形のセルを導入するMCタイプ、斜線状のセルを導入するGROOVYタイプ、特殊形状のセルを導入するシングルピクセルスクリーンなどがある。これらのマイクロセルを効果的に活用するためには、感熱マスク層に描写したマイクロセルパターンを印刷版のベタ部分に忠実に再現することが求められる。
【0005】
印刷版表面にマイクロセルパターンを忠実に再現させるためには、感光性樹脂層の酸素重合阻害を抑制させることが重要である。感光性樹脂層が酸素重合阻害を受けた場合、感光性樹脂層中の架橋反応が十分に進まず、現像工程で感光性樹脂層表面が洗いだされてしまい、マイクロセルパターンを印刷版表面に忠実に再現することができなくなる。
【0006】
かかる問題に対して、特許文献1では、印刷版を不活性ガス雰囲気下で露光し酸素重合阻害を抑制させることで、印刷版表面にマイクロセルパターンを忠実に再現させる方法が提案されている。ただし、不活性ガス雰囲気下での露光には特別な装置が必要となる問題がある。特許文献2では、マスク層へのイメージング後に酸素バリヤ層を積層し酸素重合阻害を抑制させることで、印刷版表面にマイクロセルパターンを忠実に再現させる方法が提案されている。ただし、マスク層へのイメージング後の酸素バリヤ層の積層には専用のラミネーターが必要であり、また製版工程が煩雑となる問題がある。特許文献3、4には、感光性樹脂層と感熱マスク層の間に酸素バリヤ層を設けることで、酸素重合阻害を抑制させた印刷原版が提案されている。これらの方法は、製版時に特別な装置や追加工程を必要としないメリットを有する。しかし、これらの酸素バリヤ層は、酸素重合阻害をある程度抑制することはできるが、架橋反応の進行が十分でなく、印刷版表面にマイクロセルパターンを忠実に再現させることはできていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6219954号公報
【文献】特許第5872693号公報
【文献】特許第5573675号公報
【文献】特許第4332865号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】日本印刷学会誌 第43巻4号(2006)、第261頁-第271頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の従来技術の現状に鑑みなされたものであり、その目的は、特別な装置や追加工程なしに、印刷版表面にマイクロセルパターンを忠実に再現でき、ベタ部分のインク乗りを向上できるフレキソ印刷原版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特許文献3,4と同様の酸素バリヤ層を感光性樹脂層と感熱マスク層の間に設けたうえで、感光性樹脂層中の光重合開始剤の含有量を従来より多くすることによって、露光時、特に主露光時の酸素重合阻害の影響を受けずに感光性樹脂の架橋反応を十分に進行させることができ、それにより感熱マスク層にイメージングしたマイクロセルパターンを印刷版上に忠実に再現することができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下の(1)~(6)の構成を有するものである。
(1)少なくとも支持体(A)と感光性樹脂層(B)と酸素バリヤ層(C)と感熱マスク層(D)が順次積層されてなるフレキソ印刷原版であって、感光性樹脂層(B)を形成する感光性樹脂組成物が、(a)共役ジエンを重合して得られるポリマー、(b)エチレン性不飽和化合物、及び(c)光重合開始剤を含み、感光性樹脂組成物中の(c)光重合開始剤の含有量が2~9質量%であることを特徴とするフレキソ印刷原版。
(2)(b)エチレン性不飽和化合物が、数平均分子量100以上600以下の(メタ)アクリレート化合物(i)を含み、感光性樹脂組成物中の数平均分子量100以上600以下の(メタ)アクリレート化合物(i)の含有量が5~16質量%であり、感光性樹脂組成物中の(c)光重合開始剤の質量と数平均分子量100以上600以下の(メタ)アクリレート化合物(i)の質量との比率が0.20~0.55の範囲にあることを特徴とする(1)に記載のフレキソ印刷原版。
(3)(b)エチレン性不飽和化合物が、数平均分子量600超20,000以下の(メタ)アクリレート化合物(ii)をさらに含み、感光性樹脂組成物中の数平均分子量600超20,000以下の(メタ)アクリレート化合物(ii)の含有量が5~25質量%であることを特徴とする(2)に記載のフレキソ印刷原版。
(4)現像が水系の現像液を使用して行なわれることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載のフレキソ印刷原版。
(5)(1)~(4)のフレキソ印刷原版を露光して現像することによって得られたフレキソ印刷版であって、印刷版に形成されたベタ部分にマイクロセルを適用したことを特徴とするフレキソ印刷版。
(6)(5)に記載のフレキソ印刷版を用いたことを特徴とするフレキソ印刷法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフレキソ印刷原版は、感光性樹脂層と感熱マスク層の間に酸素バリヤ層を設けたうえで、感光性樹脂組成物中の光重合開始剤の含有量を従来より多くしているので、特別な装置や追加工程なしに、露光時、特に主露光時の酸素重合阻害の影響を受けずに印刷版表面にマイクロセルパターンを忠実に再現することができ、印刷版のベタ部分のインク乗りを向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のフレキソ印刷原版は、少なくとも支持体(A)と感光性樹脂層(B)と酸素バリヤ層(C)と感熱マスク層(D)が順次積層されてなるフレキソ印刷原版であって、感光性樹脂層(B)を形成する感光性樹脂組成物が、(a)共役ジエンを重合して得られるポリマー、(b)エチレン性不飽和化合物、及び(c)光重合開始剤を含み、感光性樹脂組成物中の(c)光重合開始剤の含有量が2~9質量%であることを特徴とする。このように感光性樹脂層と感熱マスク層の間に酸素バリヤ層を設けたうえで、感光性樹脂組成物中の光重合開始剤の含有量を従来より多くすることにより、特別な装置や追加工程なしに、露光時、特に主露光時の酸素重合阻害の影響を受けずに印刷版表面にマイクロセルパターンを忠実に再現することができ、印刷版のベタ部分のインク乗りを向上することができる。なお、本発明のフレキソ印刷原版は、ベタ部分のマイクロセル以外にも、ハイライトの特殊網点や網点にマイクロセルを導入する場合にも、感熱マスク層のイメージング画像を印刷版に忠実に再現することができる。ハイライトの特殊網点としては、例えば、ESKO社からのハイライト網点の数を調整したSambaFlex Screenや、PerfectHighlight Screens、Smooth PerfectHighlight、 Support dotなどが挙げられる。網点へのマイクロセルの導入は、例えばESKO社からのCrystal Screeningなどが挙げられる。
【0014】
フレキソ印刷原版に使用される支持体(A)は、可撓性であるが、寸法安定性に優れた材料が好ましく、例えばスチール、アルミニウム、銅、ニッケルなどの金属製支持体、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、またはポリカーボネートフィルムなどの熱可塑性樹脂製支持体を使用することができる。これらの中でも、寸法安定性に優れ、充分に高い粘弾性を有するポリエチレンテレフタレートフィルムが特に好ましい。支持体の厚みは、機械的特性、形状安定化あるいは印刷版製版時の取り扱い性等から、50~350μm、好ましくは100~250μmが望ましい。また、必要により、支持体(A)と感光性樹脂層(B)との接着性を向上させるために、それらの間に接着剤を設けても良い。
【0015】
フレキソ印刷原版に使用される感光性樹脂層(B)を形成する感光性樹脂組成物は、(a)共役ジエンを重合して得られるポリマー、(b)エチレン性不飽和化合物、及び(c)光重合開始剤を含み、さらに必要により可塑剤、親水性化合物、紫外線吸収剤、表面張力調整剤、熱重合防止剤、染料、顔料、香料、又は酸化防止剤などの添加剤を含むものである。特に、本発明では、感光性樹脂層(B)を形成する感光性樹脂組成物において(b)エチレン性不飽和化合物の組成を工夫したこと、そして(c)光重合開始剤を従来の実際の使用量より多い質量割合で使用することを特徴とする。
【0016】
(a)共役ジエンを重合して得られるポリマーとしては、印刷原版に使用される従来公知の合成高分子化合物を使用することができる。具体的には、共役ジエン系炭化水素を重合して得られる重合体、又は共役ジエン系炭化水素とモノオレフィン系不飽和化合物とを共重合して得られる共重合体が挙げられる。例えば、ブタジエン重合体、イソプレン重合体、クロロプレン重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体、スチレン-クロロプレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-イソプレン共重合体、メタクリル酸メチル-ブタジエン共重合体、メタクリル酸メチル-イソプレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-イソプレン-スチレン共重合体等が挙げられる。これらの中でもフレキソ印刷版としての特性、すなわち版面の反発弾性、強伸度物性、樹脂版硬度、及び未露光時の形態安定性、または入手性等の観点から、ブタジエン重合体が好ましく用いられる。これらのポリマーは1種のみを単独で用いても、2種以上を併用してもよい。感光性樹脂層(B)を形成する感光性樹脂組成物中の(a)成分の割合は、40~70質量%の範囲であることが好ましい。
【0017】
(b)エチレン性不飽和化合物としては、印刷原版に使用される従来公知のものを使用することができるが、数平均分子量100以上600以下の(メタ)アクリレート化合物(以下、単に低分子量の(メタ)アクリレート化合物とも言う)(i)を含むことが好ましく、さらに、それに加えて数平均分子量600超20,000以下の(メタ)アクリレート化合物(以下、単に高分子量の(メタ)アクリレート化合物とも言う)(ii)を含むことが好ましい。ここで、低分子量の(メタ)アクリレート化合物は光重合開始剤により架橋硬化して密な架橋ネットワークを形成するものであり、高分子量の(メタ)アクリレート化合物は光重合開始剤により架橋硬化してゆるやかな架橋ネットワークを形成するものである。前者は、数平均分子量200以上500以下がさらに好ましく、後者は、数平均分子量2000以上10000以下がさらに好ましい。上記のように低分子量の(メタ)アクリレート化合物だけでなく、高分子量の(メタ)アクリレート化合物を配合させることで、(c)光重合開始剤を従来より多量に配合した場合でも独立点の再現性や、印刷時の耐久性が損なわれない効果を有する。これは、高分子量(メタ)アクリレート化合物の一定割合の含有により版の強靭性が高まるためと考えられる。感光性樹脂層(B)を形成する感光性樹脂組成物中の(b)成分の割合は、10~50質量%の範囲であることが好ましい。
【0018】
感光性樹脂組成物中の上記の高分子量の(メタ)アクリレート化合物の含有量は、5~25質量%が好ましく、更に好ましくは8~20質量%である。この含有量が上記範囲未満では、(c)光重合開始剤を多量に配合したときに耐久性が低下しやすく、上記範囲を越えると、ベタ部分の複合弾性率が高くなりやすく、ベタ部分のインキ乗りが不十分で印刷物の品質不良を生じるおそれがある。また、感光性樹脂組成物中の上記の低分子量の(メタ)アクリレート化合物の含有量は、5~16質量%が好ましく、更に好ましくは7~13質量%である。低分子量(メタ)アクリレート化合物の含有量が上記範囲未満では、酸素重合阻害を十分に抑制できないおそれがあり、上記範囲を越えると、版が硬くなりすぎ、ベタ部分のインキ乗りが不十分で印刷物の品質不良を生じるおそれがある。
【0019】
低分子量の(メタ)アクリレート化合物としては、数平均分子量が100以上600以下の範囲内であれば特に制限されるものでなく、例えば、ヘキシル(メタ)アクリレート、ノナン(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2-エチル,2-ブチルプロパンジオール(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート,2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタレート、(メタ)アクリル酸ダイマー、ECH変性アリルアクリレート、ベンジルアクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の直鎖、分岐、環状の単官能モノマーが挙げられる。また、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ブチル-2-エチルプロパンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ECH変性フタル酸ジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエンジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ECH変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンベンゾエート(メタ)アクリレート、EO(PO)変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の直鎖、分岐、環状の多官能モノマー等も挙げられる。これらの化合物は1種のみを単独で使用してもよく、目的とする樹脂物性を持たせるために2種以上併用してもよい。
【0020】
高分子量の(メタ)アクリレート化合物としては、数平均分子量が600超20000以下の範囲内であれば特に制限されるものでなく、例えば、ブタジエンオリゴマーやイソプレンオリゴマーに(メタ)アクリレート基を付与したものや、ウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの化合物は1種のみを単独で使用してもよく、目的とする樹脂物性を持たせるために2種以上併用してもよい。
【0021】
(c)光重合開始剤の質量と低分子量の(メタ)アクリレート化合物(i)の質量との比率[(光重合開始剤の質量)/(低分子量の(メタ)アクリレート化合物の質量)]は、0.20~0.55であることが好ましい。より好ましくは0.22~0.50、更に好ましくは0.25~0.45である。このような比率とすることにより、酸素重合阻害を抑制し、マイクロセルパターンを忠実に再現することができる。この比率が上記範囲未満では、光重合開始剤が少なすぎて、酸素重合阻害を十分に抑制できず、その結果、架橋反応が進まず、マイクロセルパターンを印刷版上に忠実に再現できなくなりうる。上記範囲を越えると、(メタ)アクリレートに対して光重合開始剤が多すぎて、架橋反応する(メタ)アクリレート量が不十分となるおそれがあり、この場合も酸素重合阻害を十分に低減することができないおそれがある。
【0022】
(c)光重合開始剤としては、例えばベンゾフェノン類、ベンゾイン類、アセトフェノン類、ベンジル類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルアルキルケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類などが挙げられる。具体的には、ベンゾフェノン、クロロベンゾフェノン、ベンゾイン、アセトフェノン、ベンジル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルジイソプロピルケタール、アントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-メチルアントラキノン、2-アリルアントラキノン、2-クロロアントラキノン、チオキサントン、2-クロロチオキサントンなどが挙げられる。
【0023】
本発明では、感光性樹脂組成物中の(c)光重合開始剤の含有量は、好ましくは2~9質量%、より好ましくは2.5~7.5質量%、さらに好ましくは3~7質量%である。このように光重合開始剤の含有量を従来の使用量より多量に配合することにより、露光時の酸素重合阻害の影響を完全に解消して架橋反応を十分に進めることができ、その結果、感熱マスク層にイメージングしたマイクロセルパターンを印刷版上に忠実に再現することができる。
【0024】
通常、フレキソ印刷原版からフレキソ印刷版を製造する際には、裏露光、主露光、後露光、及び殺菌灯での露光という四種類の露光が行なわれる。裏露光は、支持体側から全面に光照射し、印刷版にフロア部分を形成させるためのものである。主露光は、マスクを介してフレキソ印刷原版を像様に光照射し、光照射された部分の感光性樹脂層中の不飽和化合物を架橋硬化させて像となる部分を形成させるためのものである。後露光は、主露光後の版を現像して網点部分の凸やベタ部分が形成された後の版を全面光照射するものであり、主露光での架橋硬化を補完するとともに、網点部分の凸の側面を架橋硬化させるためのものである。殺菌灯による露光は、版の表面粘着性を除去するために行われるものであるが、後露光と同様に網点の側面を架橋硬化させる役割も一部有する。なお、通常、主露光及び後露光はUVAを使用して行なわれるのに対して、殺菌灯による露光はUVCを使用して行なわれる。
【0025】
これらの四種類の露光は通常、大気下で行なうため、大気中の酸素による重合阻害が起きる。このため、従来は、感光性樹脂層中の架橋反応が十分に進まず、現像工程で感光性樹脂層表面が洗いだされてしまい、マイクロセルパターンを印刷版表面に忠実に再現することができなかった。これに対して、本発明では、従来より多量の光重合開始剤を配合することによって、酸素による重合阻害の影響を抑制して、架橋硬化反応を十分に進行させ、感熱マスク層のイメージング画像(マイクロセルパターン)を印刷版に忠実に再現することができる。
【0026】
光重合開始剤の含有量が上記の好ましい範囲未満では、露光時の架橋硬化反応が十分でなくなり、印刷版上でイメージング画像(マイクロセルパターン)の忠実な再現が不十分となりうる。一方、光重合開始剤の含有量が上記の好ましい範囲を越えると、独立点の再現性や、印刷版の耐久性が低下するおそれがある。
【0027】
従来は、光重合開始剤の含有量を多くすると、反応後の光重合開始剤の光吸収により版の厚み方向の光到達が遮られ、厚み方向の架橋が重要となる独立点の再現性が低下する問題や、印刷時の耐久性が低下する問題が起きると考えられていた。そのため、従来は、感光性樹脂組成物中の光重合開始剤の含有量としては、通常、最大でも1質量%程度しか実使用では採用されていなかった。これに対して、本発明では、高分子量の(メタ)アクリレート化合物を感光性樹脂組成物中に一定割合で含有させることによって、版の強靱性を高めることができ、光重合開始剤を多量に配合した場合の上述の従来の欠点(独立点の再現性の低下や、印刷時の耐久性の低下)を克服したうえで、光重合開始剤の含有量の増加による利点(酸素重合阻害の影響をなくすことによる、マイクロセルパターンの印刷版上での忠実な再現)を享受することが可能となった。
【0028】
フレキソ印刷原版に使用される感光性樹脂層(B)を形成する感光性樹脂組成物は、(a)共役ジエンを重合して得られるポリマー、(b)エチレン性不飽和化合物、及び(c)光重合開始剤の他に、必要により可塑剤、親水性化合物、紫外線吸収剤、表面張力調整剤、熱重合防止剤、染料、顔料、香料、又は酸化防止剤などの添加剤を含むものである。
【0029】
可塑剤は、感光性樹脂層(B)に柔軟性を付与するものであり、可塑剤としては、液状ゴム、オイル、ポリエステル、リン酸系化合物などを挙げることができる。液状ゴムとしては、例えば液状のポリブタジエン、液状のポリイソプレン、あるいは、これらに水酸基やカルボキシル基を付与したものなどを挙げることができる。オイルとしては、パラフィン、ナフテン、アロマなどを挙げることができる。ポリエステルとしては、アジピン酸系ポリエステルなどを挙げることができる。リン酸系化合物としては、リン酸エステルなどを挙げることができる。この中でも、共役ジエンを重合して得られるポリマーとの相溶性の観点より液状のポリブタジエン、水酸基やカルボキシル基を付与した液状ポリブタジエンが好ましい。水系の現像液で現像する場合は、水酸基やカルボキシル基を付与した液状ポリブタジエンが特に好ましい。感光性樹脂組成物中の可塑剤の含有量は5~15質量%であることが好ましい。
【0030】
親水性化合物は、感光性樹脂層(B)の水系現像液での現像性を高めるものである。親水性化合物としては、カルボン酸、カルボン酸塩、スルホン酸、スルホン酸塩、水酸基、アミノ基、リン酸基、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどの親水基を有するアクリル重合体、ウレタン重合体、ポリアミド重合体、ポリエステル重合体が挙げられる。また、公知の界面活性剤も使用することができる。この中でも、水系現像液での現像性の観点よりカルボン酸塩を有するウレタン重合体が好ましい。感光性樹脂組成物中の親水性化合物の含有量は1~15質量%であることが好ましい。
【0031】
表面張力調整剤は、印刷版の表面張力を調整するものであり、印刷版の表面張力を調整することで、インク転移性や印刷版へのインク詰まりを調整することができる。表面張力調整剤としては、パラフィンオイル、長鎖アルキル化合物、界面活性剤、脂肪酸アミド、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、フッ素化合物、変性フッ素化合物などが挙げられる。感光性樹脂組成物中の表面張力調整剤の含有量は0.1~2質量%であることが好ましい。
【0032】
紫外線吸収剤は、感光性樹脂層(B)の露光ラチチュードを高めるものであり、紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、アクリロニトリル系、金属錯塩系、ヒンダートアミン系、アントラキノン系、アゾ系、クマリン系、フラン系の化合物が挙げられる。この中でも、入手性や露光ラチチュードの観点よりベンゾトリアゾール系が好ましい。感光性樹脂組成物中の紫外線吸収剤の含有量は0.005~0.1質量%であることが好ましい。
【0033】
本発明のフレキソ印刷原版に使用される酸素バリヤ層(C)は、感光性樹脂層(B)と感熱マスク層(D)との間に設けて主露光時の酸素重合阻害を抑制し、十分な硬化反応が起こるようにしたものである。この酸素バリヤ層(C)により、主露光時の酸素重合阻害の影響をある程度なくすことができるが、酸素バリヤ層だけでは不十分である。本発明では、酸素バリヤ層に加えて、従来より多い量の(c)光重合開始剤を使用するため、結果として感光性樹脂の十分な架橋反応が達成され、印刷版上でマイクロセルパターンを忠実に再現することができる。バリヤ層中のバインダーポリマーとしては、ポリビニルアルコール、部分鹸化酢酸ビニル、アルキルセルロース、セルロース系ポリマー、ポリアミドが挙げられる。これらのポリマーは、一種類の使用に限定されず、二種類以上のポリマーを組み合わせて使用することもできる。酸素バリヤ性の点で好ましいバインダーポリマーとしては、ポリビニルアルコール、部分鹸化酢酸ビニル、ポリアミドである。酸素バリヤ性が好ましい範囲にあるバインダーポリマーを選択することで画像再現性を好適に制御することができる。
【0034】
酸素バリヤ層(C)の層厚としては、0.2μm~3.0μmが好ましく、さらに好ましくは0.2μm~1.5μmの範囲である。層厚が上記範囲未満になると、酸素バリヤ性が不十分であり、レリーフの版面に荒れが生じるおそれがある。上記範囲を越えると、細線再現不良が起こるおそれがある。
【0035】
フレキソ印刷原版に使用される感熱マスク層(D)は、印刷原版に使用されるものを使用することができるが、例えば赤外線レーザーを吸収して熱に変換する機能と紫外光を遮断する機能を有する材料であるカーボンブラックと、その分散バインダーと、被膜形成可能なバインダーポリマーとから構成されるものであることが好ましい。分散バインダーと被膜形成可能なバインダーポリマーとは、兼用することもできる。また、これら以外の任意成分として、顔料分散剤、フィラー、界面活性剤又は塗布助剤などを、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0036】
本発明のフレキソ印刷原版に使用される感熱マスク層(D)は、水現像性であることが好ましい。具体的な感熱マスク層(D)としては、極性基含有ポリアミドとブチラール樹脂とを組合せた感熱マスク層(特許第4200510号)、感光性樹脂層中のポリマーと同じ構造を持つポリマーとアクリル樹脂とを含有する感熱マスク層(特許第5710961号)、アニオン性ポリマーと側鎖にエステル結合を有するケン化度が0%以上90%以下のポリマーとを含有する感熱マスク層(特許第5525074号)などが挙げられる。
【0037】
本発明のフレキソ印刷原版を製造する方法は特に限定されないが、一般的には以下のようにして製造される。
まず、感熱マスク層(D)のカーボンブラック以外のバインダー等の成分を適当な溶媒に溶解させ、そこにカーボンブラックを分散させて分散液を作製する。次に、このような分散液を感熱マスク層用支持体(例えばポリエチレンテレフタレートフィルム)上に塗布して、溶媒を蒸発させる。その後、酸素バリヤ層(C)成分を上塗りし、一方の積層体を作成する。さらに、これとは別に、支持体(A)上に塗工により感光性樹脂層(B)を形成し、他方の積層体を作成する。このようにして得られた二つの積層体を、圧力及び/又は加熱下に、感光性樹脂層(B)が酸素バリヤ層(C)に隣接するように積層する。なお、感熱マスク層用支持体は、印刷原版の完成後はその表面の保護フィルムとして機能する。
【0038】
上記のように製造したフレキソ印刷原版からフレキソ印刷版を製造する方法としては、保護フィルムが存在する場合には、まず保護フィルムをフレキソ印刷原版から剥離する。その後、感熱マスク層(D)をIRレーザにより画像様にイメージングして、感光性樹脂層(B)上に画像を形成する。好適なIRレーザの例としては、ND/YAGレーザ(1064nm)又はダイオードレーザ(例、830nm)を挙げることができる。コンピュータ製版技術に好適なレーザシステムは、市販されており、例えばCDI(エスコ・グラフィックス社)を使用することができる。このレーザシステムは、印刷原版を保持する回転円筒ドラム、IRレーザの照射装置、及びレイアウトコンピュータを含み、画像情報は、レイアウトコンピュータからレーザ装置に直接移される。
【0039】
画像情報を感熱マスク層(D)にイメージングした後、フレキソ印刷原版に像様のマスクを介して活性光線を全面照射する(主露光)。これは版をレーザシリンダに取り付けた状態で行うことも、版をレーザ装置から取りはずし慣用の平板な照射ユニットで照射することも可能である。活性光線としては、330~380nmの波長に発光ピークを有する紫外線を使用することができる。その光源としては、LED,低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ジルコニウムランプ、カーボンアーク灯、紫外線用蛍光灯等を使用することができる。その後、照射された版は現像され、後露光され、さらに殺菌灯により露光されて、フレキソ印刷版を得る。現像工程は、慣用の現像ユニットで実施することができる。
【0040】
印刷版のベタ部分にマイクロセルを適用する場合は、例えばCDI(エスコ・グラフィックス社)に搭載されている各種マイクロセルの中から好適なマイクロセルを選定した後、コンピュータ上で画像にマイクロセルを適用させ、その画像を用いて感熱マスク層にイメージングさせればよい。
【実施例
【0041】
本発明の印刷原版の効果を以下の実施例によって示すが、本発明はこれらに限定されない。なお、実施例中の部は質量部を意味し、表中の組成割合を示す数値も質量部を意味する。
【0042】
実施例中の評価は以下の方法で行なった。
(1)印刷版上でのマイクロセルの再現性
後述するパターン1で作製した印刷版のベタ部分の表面をキーエンス社製デジタル顕微鏡(VHX5000)で500倍に拡大して以下基準で判定した。判定は、MG45のマイクロセルパターンで、ブースト値は50~170の10刻みの中で、最も良好に再現されている箇所で行った。
◎:印刷版のベタ部分の表面にマイクロセルが忠実に且つ鮮明に再現されている。
○:印刷版のベタ部分の表面にマイクロセルが再現されている。
△:印刷版のベタ部分の表面にマイクロセルが部分的にしか再現していない。
×:印刷版のベタ部分の表面にマイクロセルが再現されていない。
【0043】
(2)ベタ部分のインク乗り
パターン1で作製したフレキソ印刷版について、フレキソ印刷機FPR302(エム・シーケー社製)を用い、900LPIのアニロックスを用いて、ベタ部分のインク乗りを評価した。インキは、UVインキ(商品名:FLEXOCURE CYAN(Flint社製))を用いて行った。被印刷体にはポリプロピレンフィルム(商品名:P4256 東洋紡製)を用いた。印刷速度は50m/分で行った。印刷での押し込み量は、版が被印刷体に接触した箇所をゼロとし、そこから90μm押し込んだ箇所とした。
通常ベタ部分(マイクロセル適用なし)と各種マイクロセルを適用したベタ部分の印刷物のインク隠ぺい率(インク均一性)をキーエンス社製デジタル顕微鏡(VHX5000)で測定して%で表わした。なお、各種マイクロセルの中で最も隠ぺい率が高いマイクロセルパターンの隠ぺい率を、マイクロセル適用時の隠ぺい率とした。インク隠ぺい率が高いほど、インクが均一に乗っており、インク乗りに優れることを意味する。また、マイクロセル適用時の隠ぺい率と通常ベタ部分の隠ぺい率の差を計算して、マイクロセル適用による隠ぺい率の改善とした。
【0044】
(3)独立点の再現性
後述するパターン2で作製した印刷版上での最小独立点の再現性を測定した。最小独立点が50μm以下であれば◎、50μmより大きく100μm以下であれば○、100μmより大きく200μm以下であれば△、200μmより上であれば×で判定した。再現する最小独立点が小さいほど、独立点の再現性に優れることを意味する。
【0045】
(4)印刷版の耐久性
パターン2で作製したフレキソ印刷版について、フレキソ印刷機FPR302(エム・シーケー社製)を用い、900LPIのアニロックスを用いて、印刷版の耐久性を評価した。インキは、UVインキ(商品名:FLEXOCURE CYAN(Flint社製))を用いて行った。被印刷体にはコート紙(商品名:パールコート 王子製紙製)を用いた。印刷速度は50m/分で行った。印刷での押し込み量は、版が被印刷体に接触した箇所をゼロとし、そこから150μm押し込んだ箇所とした。この印刷方法で5、000mの印刷を行った。印刷後の版の直径16μmの網点を顕微鏡で観察した。印刷前後で変化がない場合は◎、端部のみに軽微な磨耗がある場合は○、部分的に欠けや磨耗がみられる場合は△、全体に欠けや磨耗がみられる場合を×で判定した。
【0046】
実施例1
感光性樹脂組成物の作成
共役ジエンを重合して得られるポリマーとしてブタジエンラテックス(Nipol LX111NF、不揮発分55%、日本ゼオン(株)製)86質量部、及びアクリロニトリル-ブタジエンラテックス(Nipol SX1503、不揮発分42%、日本ゼオン(株)製)24質量部、エチレン性不飽和化合物として数平均分子量が10000であるポリブタジエン末端アクリレート(BAC45、大阪有機化学工業(株)製)15質量部、及び数平均分子量が338であるトリメチロールプロパントリメタクリレート(ライトエステルTMP、共栄社化学(株)製)10質量部、光重合開始剤としてベンジルジメチルケタール3質量部、その他成分として親水性重合体(PFT-4、不揮発分25%、共栄社化学(株)製)20質量部、ブタジエンオリゴマー(日本曹達(株)製 B2000)9.9質量部、熱安定剤(4-メトキシフェノール)0.1質量部、紫外線吸収剤(チヌビン326)0.01質量部を容器中で混合し、ドープを作成した。ドープを加圧ニーダーに投入して、80℃で溶剤を減圧除去し、感光性樹脂組成物を得た。
【0047】
フレキソ印刷原版の作成
カーボンブラック分散液(オリエント化学工業(株)製、AMBK-8)、共重合ポリアミド(PA223、東洋紡績(株)製)、プロピレングリコール、メタノールを45/5/5/45の質量割合で混合し、感熱マスク層塗工液を得た。PETフィルム(東洋紡績(株)、E5000、厚さ100μm)の両面に離型処理を施した後、乾燥後の塗膜の厚みが2μmとなるようにバーコーターで感熱マスク層塗工液を塗工し、120℃×5分乾燥してフィルム積層体(I)を得た。光学濃度は2.3であった。光学濃度は白黒透過濃度計DM-520(大日本スクリーン製造(株))によって測定した。鹸化度80%のポリ酢酸ビニル(KH20、日本合成(株)製)と可塑剤(グリセリン)を、70/30の質量割合で混合し、酸素バリヤ層塗工液を得た。フィルム積層体(I)上に、乾燥後の塗膜の厚みが2.0μmとなるようにバーコーターで酸素バリヤ層塗工液を塗工し、120℃×5分乾燥してフィルム積層体(II)を得た。共重合ポリエステル系接着剤を塗工したPETフィルム支持体(東洋紡績(株)、E5000、厚さ125μm)上に上記感光性樹脂組成物を配置し、その上からフィルム積層体(II)を重ね合わせた。ヒートプレス機を用いて100℃でラミネートし、PET支持体、接着層、感光性樹脂層、酸素バリヤ層、感熱マスク層およびカバーフィルムからなるフレキソ印刷原版を得た。版の総厚は1.14mmであった。
【0048】
フレキソ印刷原版からの印刷版の作成
フレキソ印刷原版からの印刷版の作成は、形成させる画像を変えて、以下の2パターンで行なった。
パターン1
印刷原版のPET支持体側から裏露光を10秒行った。続いて、カバーフィルムを剥離した。この版を、エスコグラフィック社製 CDI4530に巻き付け、解像度4000dpiでイメージングを行った。画像には、通常(マイクロセルを持たない)のベタ部分と、MG45、MG34、MG25、WSI、MC16の各マイクロセルを適用させたベタ部分を持つテストチャートを用いた。このテストチャートをブースト値50~170の間で10刻みに配置させた画像をイメージング画像とした。主露光はCDI4530に内蔵されているLEDで照度22mW/cmで480秒行った。その後、版をCDIより取り外し、A&V(株)製現像機(Stuck System、1%洗濯石鹸水溶液、40℃)で8分現像し、版面の水滴を水きり棒で除去した。その後、60℃の乾燥機で10分乾燥した。続いて、後露光を7分間行い、最後に殺菌灯を5分間照射し、フレキソ印刷版を得た。裏露光、後露光はPhilips社のTL-K 40W/10Rランプ(ピーク波長370nm、350nmの照度が10mW/cm)を、殺菌灯はパナソニック社製 殺菌ランプ GL-40(ピーク波長250nm、250nmの照度が4.5mW/cm)を用いて行った。得られた印刷版のレリーフ深度は0.6mmであった。
【0049】
パターン2
印刷原版のPET支持体側から裏露光を10秒行った。続いて、カバーフィルムを剥離した。この版を、エスコグラフィック社製 CDI4530に巻き付け、175線で0~10%間で0.3%刻みの網点と、0~300μm間で50μm刻みの独立点、及びゼロへ移行する網点グラデーション部(フェードアウト部)を持つテスト画像で、解像度4000dpiでアブレーションを行った。アブレーション後、版を取り出して平面に戻し、主露光を7分行った。その後、A&V(株)製現像機(Stuck System、1%洗濯石鹸水溶液、40℃)で8分現像し、版面の水滴を水きり棒で除去した。その後、60℃の乾燥機で10分乾燥した。続いて、後露光を7分間行い、最後に殺菌灯を5分間照射し、フレキソ印刷版を得た。裏露光、主露光、後露光はPhilips社のTL-K 40W/10Rランプ(ピーク波長370nm、350nmの照度が10mW/cm)を、殺菌灯はパナソニック社製 殺菌ランプ GL-40(ピーク波長250nm、250nmの照度が4.5mW/cm)を用いて行った。得られた印刷版のレリーフ深度は0.6mmであり、印刷版上に直径16μmの網点が再現していることを確認した。
【0050】
実施例2~12、比較例1~5
感光性樹脂層を構成する感光性樹脂組成物中の各成分の配合割合を表1及び表2に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法でフレキソ印刷原版を作製し、その原版から印刷版を得た。なお、レリーフ深度が0.6mmとなるように裏露光時間を調整した。
【0051】
比較例6
実施例1において、フレキソ印刷原版の作製時に酸素バリヤ層を形成させなかったこと以外は実施例1と同様にして、フレキソ印刷原版を得た。その後、フレキソ印刷原版からの印刷版の作製において、酸素バリヤ層としてMembrane100を専用ラミネータを使用して、イメージング後の感熱マスク層の上に積層させた。主露光後にMembrane100を取り除き、その後、実施例1と同様にして、フレキソ印刷版を得た。
【0052】
実施例1~12、比較例1~6の評価結果を表1及び表2に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
なお、上記の表中のエチレン性不飽和化合物の詳細は以下の通りである。
ライトエステルTMP:トリメチロールプロパントリメタクリレート、数平均分子量338、共栄社化学(株)製。
ライトエステル1,6HX:1,6ヘキサンジオールジメタクリレート、数平均分子量254、共栄社化学(株)製。
ライトエステル19ND:1,9ノナンジオールジメタクリレート、数平均分子量298、共栄社化学(株)製。
BAC45:ポリブタジエン末端アクリレート、数平均分子量10000、大阪有機化学工業(株)製。
TE2000:末端メタクリル基導入ポリブタジエン、ウレタン結合型、数平均分子量3,000、日本曹達(株)製。
【0056】
上記の表の評価結果からわかるように、光重合開始剤の量、低分子量(メタ)アクリレート化合物の量、及び光重合開始剤と低分子(メタ)アクリレート化合物の配合比率が本発明の範囲内である実施例1~12では、印刷版上でのマイクロセルの再現性及びベタ部分のインキ乗りに優れる。さらに、高分子量の(メタ)アクリレート化合物を配合することで光重合開始剤を多量配合した場合でも独立点の再現性や印刷版の耐久性を損なわない(実施例1~6,9~11と実施例7,8,12の対比)。
【0057】
これに対して、比較例1では、光重合開始剤の配合量が少なく、従来と同程度の量であるため、印刷版上でのマイクロセルの再現性及びベタ部分のインキ乗りに劣る。比較例2では、光重合開始剤の配合量が少ないため、光重合開始剤と低分子量の(メタ)アクリレート化合物の配合比率が適切であっても、印刷版上でのマイクロセルの再現性及びベタ部分のインキ乗りに劣る。比較例3では、光重合開始剤の配合量が少なく、さらに低分子量の(メタ)アクリレート化合物の配合量も少ないため、印刷版上でのマイクロセルの再現性及びベタ部分のインキ乗りに劣る。比較例4では、光重合開始剤の配合量が多すぎるため、ベタ部分の版硬度が高くなりすぎベタ部分のインキ乗りに劣り、独立点の再現性及び印刷版の耐久性にも劣る。比較例5では、酸素バリヤ層を設けていないため、光重合開始剤の配合量、低分子量の(メタ)アクリレート化合物の配合量、及び光重合開始剤と低分子量の(メタ)アクリレート化合物の配合比率が適切であっても、印刷版上でのマイクロセルの再現性及びベタ部分のインキ乗りに劣る。比較例6では、酸素バリヤ層を感光性樹脂層と感熱マスク層の間に設けるのではなく、感熱マスク層へのイメージング後に酸素バリヤ層を積層させているので、印刷版上でのマイクロセルの再現性及びベタ部分のインキ乗りに優れるが、酸素バリヤ層の積層に専用のラミネータが必要であり、また、製版工程が煩雑であった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のフレキソ印刷原版は、感光性樹脂層と感熱マスク層の間に酸素バリヤ層を設けたうえで、感光性樹脂組成物中の光重合開始剤の含有量を従来より多くしているので、特別な装置や追加工程なしに、露光時、特に主露光時の酸素重合阻害の影響を受けずに印刷版表面にマイクロセルパターンを忠実に再現することができ、印刷版のベタ部分のインク乗りを向上することができる。従って、本発明のフレキソ印刷原版は、当業界において極めて有用である。