(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】空間位置算出装置
(51)【国際特許分類】
G01S 5/30 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
G01S5/30
(21)【出願番号】P 2021542825
(86)(22)【出願日】2020-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2020031537
(87)【国際公開番号】W WO2021039606
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2019157121
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519315187
【氏名又は名称】石井 徹
(72)【発明者】
【氏名】石井 徹
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0238994(US,A1)
【文献】国際公開第2011/102130(WO,A1)
【文献】特開平09-145820(JP,A)
【文献】特開2001-337157(JP,A)
【文献】特開2000-266833(JP,A)
【文献】特開2000-088942(JP,A)
【文献】米国特許第05940346(US,A)
【文献】宮良 泰明[創価大学院]ら,「B-18-3 スペクトル拡散超音波を用いた屋内測位システムにおけるドップラー効果に対するシリアルサーチを用いた信号検出の評価」,2016年電子情報通信学会総合大会講演論文集, 通信2,2016年03月01日,p.501
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/72- 1/82
G01S 3/80- 3/86
G01S 5/18- 5/30
G01S 7/52- 7/64
G01S 15/00-15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原音声信号に対して変調を施した変調音声信号を所定の時間間隔で送信する送信部と、
前記変調音声信号を受信する受信部と、
前記変調音声信号から生成した参照信号と、前記受信部の受信信号との相互相関演算から求めた前記変調音声信号の前記受信部への到達タイミングに基づいて、前記送信部と前記受信部のいずれかの空間位置座標もしくは前記送信部から前記受信部に至る距離を算出する算出部と、
前記参照信号または前記受信信号の時間方向の倍率を変更する倍率変更手段と
、
前記送信部と前記受信部との間に生じうる運動状態に基づいて前記送信部と前記受信部との間の相対速度を予測する相対速度予測手段を備え、
前記相対速度におけるドップラー効果により前記受信信号に生じる時間方向の伸縮を補償する倍率を、前記倍率変更手段に設定することを特徴とする空間位置算出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の空間位置算出装置において、
前記相対速度予測手段は、前記参照信号の一部分を切り取った信号を異なる複数個所で抽出した複数の抽出補正参照信号と、前記受信信号との相互相関演算でそれぞれ求めた複数の相関ピーク同士の相互の時間間隔に基づいて、前記相対速度を予測することを特徴とする空間位置算出装置。
【請求項3】
請求項1に記載の空間位置算出装置において、
前記相対速度予測手段は、前記相対速度が取りうる範囲の下限から上限に渡る相対速度におけるドップラー効果により前記受信信号に生じる時間方向の伸縮を補償する所定範囲の倍率を順次前記倍率変更手段に設定して前記相互相関演算を複数回行った中から相関値が最大となった倍率を、最終的に前記倍率変更手段に設定する倍率とすることを特徴とする空間位置算出装置。
【請求項4】
請求項1ないし
請求項3のいずれか1項に記載の空間位置算出装置において、
前記送信部を複数備え、
前記複数の送信部毎に独立した倍率を前記倍率変更手段に設定して前記受信部の空間位置座標を算出することを特徴とする空間位置算出装置。
【請求項5】
請求項1ないし
請求項4のいずれか1項に記載の空間位置算出装置において、
前記変調音声信号としてスペクトラム拡散符号による変調信号を用いたことを特徴とする空間位置算出装置。
【請求項6】
請求項2に記載の空間位置算出装置において、前記変調音声信号が複数の異なるスペクトラム拡散符号が連なって構成されており、前記複数の異なるスペクトラム拡散符号が、前記複数の抽出補正参照信号に相当することを特徴とする空間位置算出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音波、超音波等の波動を利用した空間位置算出装置である。
【背景技術】
【0002】
送信部から送出された音波もしくは超音波等の波動が受信部に到達するタイミングを計測し、送信部を基準とする受信部の位置、もしくは受信部を基準とする送信部の位置を算出する技術が特許文献1に開示されている。また送信部と受信部が空間的近傍に配置され、送信部から送出された波動が対象物に反射されて受信部に戻るまでの往復時間を計測し対象物の位置を算出する技術として、前記波動に電波を用いるレーダー技術や、音波もしくは超音波を用いるソナー技術が広く知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-300504号公報
【文献】国際公開第2011/102130号
【非特許文献】
【0004】
【文献】Widodo, Slamet, et al. "Moving object localization using sound-based positioning system with doppler shift compensation." Robotics 2.2 (2013): 36-53.
【文献】Alvarez, Fernando J., et al. "Doppler-tolerant receiver for an ultrasonic LPS based on Kasami sequences." Sensors and Actuators A: Physical189 (2013): 238-253.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示されるよう、電波では実現が困難である高精度な位置計測に関し、超音波の位相もしくは周波数変調信号を用いた技術が従来報告されている。
【0006】
しかしながら超音波は電波に比べて伝搬速度が遅いため、送信部か受信部のいずれか、あるいは送信波を反射する検知対象が移動している場合には、ドップラー効果による受信信号に生じる周波数シフトが電波よりも著しく現れるため、人が歩く程度の速度でも信号検知が出来なくなるという問題点があった。
【0007】
これに対し特許文献2では、受信信号のI成分およびQ成分を符号周期に基づく位相差分処理してドップラー効果による位相変動を除去するという技術が開示されている。
【0008】
また非特許文献1では、受信信号を高速フーリエ変換(FFT)して前記周波数シフトを計算により求め、誤差を修正するという技術が開示されている。
【0009】
また非特許文献2では、複数の周波数フィルタを備え、前記周波数シフトが生じた信号であっても、前記複数のフィルタのいずれかで検知することにより、受信部における受信信号の到達タイミングを測定するという技術が開示されている。
【0010】
しかしながら特許文献2は受信信号をI成分とQ成分の二つに分けて同じ成分同士及び異なる成分間での差分演算を行うため、また非特許文献1はFFTによる周波数分析を行うため、いずれも計算量が多く処理時間や消費電力が増大するという課題があった。また非特許文献2については複数フィルタを備えるため回路規模が増大することに加え、前記周波数シフトが予め備えた前記複数フィルタの上下限を超える場合には検知できないという課題があった。
【0011】
本発明は、上記従来技術の課題を解決し、測定対象が高速に移動する場合にも、測定対象の空間内の位置を高精度に算出することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の空間位置算出装置は、原音声信号に対して変調を施した変調音声信号を所定の時間間隔で送信する送信部と、前記変調音声信号を受信する受信部と、前記変調音声信号から生成した参照信号と、前記受信部の受信信号との相互相関演算から求めた前記変調音声信号の前記受信部への到達タイミングとに基づいて、前記送信部と前記受信部のいずれかの空間位置座標もしくは前記送信部から前記受信部に至る距離を算出する算出部と、前記参照信号または前記受信信号の時間方向の倍率を変更する倍率変更手段とを備えたことを特徴とする。
【0013】
本発明の空間位置算出装置によれば、送信部からの変調音声信号の受信部への到達タイミングを特定するための相互相関演算を受信部で行う際に、送信部と受信部との間に生じうる運動状態に基づいて前記送信部と前記受信部との間の相対速度を予測して、この予測した相対速度によるドップラー効果により受信信号に生じる時間方向の伸縮を補償するよう、参照信号または受信信号の時間方向の倍率を変更して、受信信号におけるドップラー効果の影響を排除する。これにより、測定対象が高速に移動する場合にも、測定対象の空間内の位置を高精度に算出することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の空間位置算出装置によれば、測定対象が高速に移動する場合にも、測定対象の空間内の位置を高精度に算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明による一実施形態のシステム機能ブロック図である。
【
図2】変調音声信号Y1、Y2、Y3及び受信信号X4の時間関係を示したタイミングチャートである。
【
図3】送信部1の内部構成の第一の実施例を示す図である。
【
図4】
図3の内部信号のタイミングチャートである。
【
図6】相関演算部45で行う相互相関演算の説明図である。
【
図7】相互相関演算の結果を、横軸をシフト量、縦軸を相関値として示したグラフである。
【
図8】
図6と同様の相関演算部45で行う相互相関演算の説明図である。
【
図9】
図8の相互相関演算の結果を
図7と同様に示したグラフである。
【
図10】送信部k(但しk=1、2,3)から発せられる変調音声信号Ykの波形と、Ykが受信部4で受信される際の信号波形とを比較した図である。
【
図11】
図8と同じく、送信部2からの変調音声信号であるZ2のみ、ドップラー効果により時間方向に収縮している場合の相関演算部45で行う相互相関演算の説明図である。
【
図13】
図6、
図8、
図11とは別の第二の手法による、相関演算部45で行う相互相関演算の説明図である。
【
図15】
図6、
図8、
図11とは別の第三の手法による、相関演算部45で行う相互相関演算の説明図である。
【
図17】送信部1の内部構成の第二の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による一実施形態のシステム機能ブロック図を
図1に示す。
【0017】
全体のシステムは、空間内の異なる位置に設置され所定の時間間隔で、それぞれ異なる疑似乱数系列を用いたスペクトラム拡散符号による二値位相変調音声信号Y1、Y2、Y3を各々空間へ送出する送信部1、2、3と、空間を伝搬した変調音声信号Y1、Y2、Y3が重畳された信号である受信信号X4を受信し、変調音声信号Y1、Y2、Y3の各々の受信部への到達タイミングY4を出力する受信部4と、前記各々の到達タイミングY4に基づいて受信部4の空間位置座標Y5を算出する位置算出部5、から構成されている。なお位置算出部5は受信部4と必ずしも別体である必要はなく、受信部4と同一の筐体に内包されていてもよい。
【0018】
図2は、前記Y1、Y2、Y3、X4の時間関係を示したタイミングチャートである。変調音声信号Y1、Y2、Y3はお互いに異なる符号系列により二値位相変調された信号であり、送信部1、2、3からそれぞれ時刻t
y1,t
y2,t
y3に送信された後、送信部1、2、3各々から受信部4に至るそれぞれの距離に比例した伝搬時間Δt
1、Δt
2、Δt
3だけ遅延した信号Z1、Z2、Z3として受信部4に到達し、受信部4ではZ1、Z2、Z3が重畳された受信信号X4が受信される。
【0019】
送信部1、2、3からは先にY1、Y2、Y3を送信した時点から所定の時間間隔Tが経過すると、再び同時にY1、Y2、Y3が送信され、以降同様の処理が繰り返される。
【0020】
なお前記所定の時間間隔Tは、送信部1、2、3からの変調音声信号の出力タイミングを位置算出部5が知り得る限りどのような選び方でもよく、一定の固定値である以外にも、例えば予め定めた規則に基づいて間隔を逐次変更するものや、あるいは送信間隔Tの値を都度、前記変調音声信号に重畳して位置算出部5に伝えるもの、等の方式を採用することができる。
【0021】
それぞれの送信部からの送信開始時刻ty1,ty2,ty3については、これら相互の時間差ty1-ty2, ty2-ty3, ty3-ty1を位置置算出部5が知り得る限りどのような選び方でもよく、例えば、同時すなわちty1 = ty2 = ty3とする、あるいはty1-ty2, ty2-ty3, ty3-ty1をそれぞれ異なる所定の固定値とする、あるいはty1,ty2,ty3の値を都度、それぞれの前記変調音声信号Y1、Y2、Y3に重畳して位置算出部5に伝える、等の方式を採用することができる。
従って、他の送信信号との干渉のため、Z1、Z2、Z3のいずれかが十分に受信できない場合には、T,ty1,ty2,ty3を適宜変更することにより受信状態を改善することが可能である。
【0022】
図2では説明の便宜上、Y1、Y2、Y3として1符号につき搬送波1波長をあてた符号長2の短い符号を例として記載しているが、実用上は適宜より長い符号長の疑似乱数系列のスペクトラム拡散符号を用いることで、受信信号の受信部4への到達タイミング算出の精度や、雑音や他信号に対する干渉耐性を高めることが可能である。
【0023】
次に送信部1の内部構成の第一の実施例を
図3に、また
図3の内部信号のタイミングチャートを
図4に示す。送信部1は、原音声信号生成部12、疑似乱数生成部13、変調部14、制御タイマ15からなる。
【0024】
原音声信号生成部12は、例えば水晶発振器やマイクロコントローラの内蔵発振器等で構成され、一定周波数の原音声信号Y12を発生する。
【0025】
制御タイマ15は、前記Tを周期とする動作制御信号Y15を、疑似乱数生成部13と変調部14に対して出力する。
【0026】
疑似乱数生成部13は、M系列やGold符号あるいはKasami符号等の、一般に知られた疑似乱数系列に従い「1」または「0」の二値の疑似乱数Y13を発生する。
【0027】
変調部14は原音声信号Y12と疑似乱数Y13を入力し、Y13の値が「0」の時は原音声信号Y12と同位相、Y13の値が「1」の時は原音声信号Y12と逆位相となるよう二値位相変調が施された変調音声信号Y1を空中に送出する。
【0028】
疑似乱数生成部13と変調部14はいずれも、制御信号Y15がHiの期間は動作し、Loの期間は停止するよう、Y15により制御される。またY15が次にLoからHiになるタイミングで疑似乱数生成部13はリセットされ、あらかじめ定められた疑似乱数Y13を再び先頭から出力する。
【0029】
図4において、Y15がLoからHiに遷移する立ち上がりエッジの間隔が、前記Tに相当する。
【0030】
送信部2、送信部3においても、内部構成は
図3、内部信号のタイミングは
図4に示した送信部1の場合と同様であるが、それぞれ内部で生成する疑似乱数がY13とは異なる。
【0031】
送信部2、送信部3での疑似乱数をそれぞれ疑似乱数Y23、疑似乱数Y33とすると、疑似乱数Y13、Y23、Y33のいずれの組合せをとって相互相関演算を行っても明確なピークを示さない、いわゆる直交性の高い疑似乱数が選ぶことにより、後述する受信部4における相互相関演算により各々の送信部の変調音声信号を他のものと間違うことなく抽出することが可能となる。
【0032】
【0033】
受信部4は、受信バッファ43、参照信号生成部44、相関演算部45、相対速度予測部46、倍率変更部47、よりなる。
【0034】
受信バッファ43は、受信信号X4の波形を保持した信号を、受信記録信号Y43として相関演算部45に出力する。
【0035】
参照信号生成部44は、
図3の変調部14と同様の機能を有しており、送信部1、2、3各々の変調音声信号Y1,Y2,Y3と同一の信号を逐次、参照信号Y44として倍率変更部47に出力する。
【0036】
相対速度予測部46は送信部1 、2 、3と受信部4とのそれぞれの間の相対速度を予測し、この予測した相対速度によるドップラー効果により前記受信信号に生じる時間方向の伸縮を補償する倍率を倍率変更部47に設定する。
【0037】
倍率変更部47は、参照信号Y44を相対速度予測部に指定された前述の倍率に従って時間方向に伸縮して、補正参照信号Y47として、相関演算部45に出力する。
【0038】
相関演算部45は、受信記録信号Y43と補正参照信号Y47の相互相関演算を行うことにより、受信部4が各々の送信部からの変調音声信号を受信したタイミングを算出する。
【0039】
図6は相関演算部45で行う相互相関演算の説明図である。ここでは
図2における送信部2からの変調音声信号であるZ2の受信部4への到達タイミングを算出する例を示している。
【0040】
相関演算部45には、受信信号X4から、相関演算に必要な区間をコピーした受信記録信号Y43と、送信部2の変調音声信号Y2のレプリカであるY44に対して前述の倍率変更を施した補正参照信号Y47とが入力されるが、
図6では送信部2と受信部4との相対速度がゼロかつ前述の予測相対速度もゼロの例を示しているため、Y47は結果的に参照信号Y44と同波形となる。
【0041】
なお前記の相関演算に必要な区間とは、受信部4と送信部2の位置関係上取りうる、最も近距離の伝搬時間をtmin、逆に最も遠距離の伝搬時間をtmaxと表した時、tminからtmaxに至る区間として決定できる。
【0042】
相関演算部45は、受信記録信号Y43に対し、補正参照信号Y47をtminからtmaxに渡り順次シフトして相互相関演算を行い、相関が最大ピークを示すタイミングt2を求め、この時点をZ2が受信部4に受信されたタイミングとして算出する。
【0043】
図7は上記の相互相関演算の結果を、横軸をシフト量、縦軸を相関値として示したグラフである。
【0044】
さらに受信部4は、
図6、
図7で送信部2のt
2を求める際と同様の処理を、送信部1、送信部3に関しても行うことで、Z1,Z3が各々受信部4に受信されたタイミングであるt
1、t
3も同様に算出する。
【0045】
以上により受信部4にて求められたt1、t2、t3は、受信部4への到達タイミングY4としてまとめて位置算出部5に出力され、位置算出部5内部で受信部4の空間位置座標Y5が計算される。
【0046】
位置算出部5における受信部4の空間位置座標の算出にあたっては複数の方法が存在する。
【0047】
例えば受信部4が
図2における変調音声信号Y1,Y2,Y3の送信開始時刻t
y1,t
y2,t
y3を何らかの手段により事前に知り得ている場合には、受信部4が
図6の左端のt
2=0に相当する時点を、t
y1,t
y2,t
y3に合わせることにより、Y1,Y2,Y3が送信されてから受信部4に至るまでのそれぞれの所要時間Δt
1、Δt
2、Δt
3をΔt
1=t
1、Δt
2=t
2、Δt
3=t
3で求められる。よってt
1、t
2、t
3に音速を乗じることで、送信部1、2、3それぞれと受信部4との間の距離r
1、r
2、r
3が求められ、位置算出部5は三辺測量の原理に基づいて送信部1、2、3を基準とする受信部4の位置座標を算出することができる。
【0048】
あるいは受信部4が
図2におけるY1,Y2,Y3の送信開始時刻t
y1,t
y2,t
y3を知りえない場合であっても、t
y1 = t
y2 = t
y3であれば、
図2のΔt
1、Δt
2、Δt
3の三者から二者を選ぶ三通りの組合せに対する差Δt
3-Δt
1、Δt
1-Δt
2、Δt
2-Δt
3がそれぞれ、t
3-t
1、t
1-t
2、t
2-t
3より求められるため、異なる空間位置から同時に送信された信号がある点に到達する時間差から位置算出するTDoA(Time Difference of Arrival)として一般に知られた原理により、受信部4の位置座標を算出することもできる。
【0049】
図6、
図7では送信部と受信部が相対的に静止している場合を説明したが、送信部に対して受信部が相対速度を持って移動している場合には、受信信号に表れるドップラー効果の影響により、倍率変更部47による前述の倍率変更を施さない限り、位置座標算出が困難となる。
【0050】
【0051】
図8は、
図6と同様の相関演算部45で行う相互相関演算の説明図であるが、送信部2からの変調音声信号であるZ2がドップラー効果により時間方向に収縮している点が
図6との相違点である。
【0052】
図8では、受信信号X4からコピーした受信記録信号Y43のZ2の部分がドップラー効果により収縮しているにも関わらず、補正参照信号Y47として、参照信号Y44をそのまま入力しているため、Y43に対してY47を順次シフトして相互相関演算を行っても、ドップラー効果によるZ2の時間方向の伸縮度合が大きいため、
図9に示すよう、相互相関演算結果に高い相関を示すピーク点が明確に現れないという現象が生じる。
【0053】
次に、受信信号に表れるドップラー効果の影響を補正して受信部の位置座標を求める本発明の原理を
図10と
図11を用いて説明する。
【0054】
図10は、送信部k(但しk=1、2,3)から発せられる変調音声信号Ykの波形と、Ykが受信部4で受信される際の信号波形との比較であり、Zk+, Zk0, Zk-はそれぞれ、送信部kに対して受信部4が、近づく場合、静止している場合、遠ざかる場合、を示している。
【0055】
wyはYkの波形の時間幅であり、Zk0の時間幅wz0はwyに等しいが、ドップラー効果によりZk+の時間幅wz+はwyより短く、逆にZk-の時間幅wz-はwyより長くなる。
【0056】
今、空間内の所定位置に固定された送信部kに対し、受信部4が相対速度v
k(但しv
k> 0が相互に近づく向き)で空間内を動いている時、前記Ykが受信部4で受信される信号波形の時間幅w
zkは、音速をv
sとするとドップラー効果に基づき、
【数1】
と表される。
【0057】
従って、受信部4が、送信部k各々に対する前記相対速度v
kを何等かの手段により知りえれば、以下の式により上記のwyに対するwzkの伸縮率である倍率r
kを、前記倍率変更部47に設定することにより、送信部kと受信部4間の相対速度が大きい場合であっても、送信部k毎に程度が異なるドップラー効果の影響が補償されるため、常に前記相互相関演算結果に高い相関を示すピーク点が得られる。
【数2】
【0058】
図11は、
図8と同じく、送信部2からの変調音声信号であるZ2のみ、ドップラー効果により時間方向に収縮している場合の相関演算部45で行う相互相関演算の説明図である。
【0059】
但し
図11では、前記相対速度予測部46が予測する送信部kと受信部4間の前記相対速度v
kに基づいて求めた前記倍率rkを前記倍率変更部47に設定し、ドップラー効果によるY43の伸縮に合わせて参照信号Y44を伸縮させた補正参照信号Y47を用いている点が
図8との相違点である。
【0060】
【0061】
送信部kそれぞれの参照信号Y44との相互相関演算毎に前記倍率変更部47に設定する倍率rkを設定することにより、送信部kに対する受信部4の相対速度がそれぞれ異なる場合であっても、各送信部との間の相互相関演算結果においていずれも高い相関を示すピーク点が得られる点が
図9との相違点であり、この結果、後段の位置算出部5にて正確な位置算出が可能となる。
【0062】
なお相対速度予測部46における相対速度の予測には、例えば加速度や角速度等の運動状態を測る別途受信部4に取り付けたセンサ装置から求める手法や、直近の過去の前記到達タイミングを算出した際に前記倍率変更手段に最終的に設定した倍率で補償される速度を用いる手法、送信部における前記所定の時間間隔Tと受信部における直近の過去2回の前記到達タイミングの差から求めた時間間隔T’との比から求める手法、等がある。
【0063】
または相対速度予測の第二の手法として、
図13、
図14に示すよう、前記補正参照信号Y47の一部分を切り取った信号を異なる2か所で抽出し、前記2か所の信号と受信信号との相関演算を相関演算部45で各々行って、この2か所の相関ピークの間隔t
2_2-t
2_1と、所与の値である前記補正参照信号を切り取った2か所の間隔t
d12との比較により、以下の式により、前記倍率変更部47に設定する倍率r
2と、相対速度v
2を求めることが出来る。なお、t
2_1、t
2_2 、r
2、v
2はいずれも、送信部2に対する値を例として示したものである.
【数3】
【数4】
【0064】
または相対速度予測の第三の手法として、前記補正参照信号Y47の一部分を切り取った信号を異なる3か所以上で抽出した抽出補正参照信号を用いて、前記抽出補正参照信号と受信信号との相関演算を相関演算部45で行って得られる複数の相関ピークの間隔から、相対速度を求めることが出来る。
【0065】
この手法の一例を
図15、
図16に示す。
図15のt
k_1、t
k_2、t
k_3は各々、送信部kに対する参照信号Y47全体を三分割した抽出補正参照信号Y47
k_1、Y47
k_2、Y47
k_3、に対し、受信信号Y43との相関の最大ピークが得られるタイミングである.これら複数の相関ピークの間隔t
k_2-t
k_1、t
k_3- t
k_2、t
k_3-t
k_1と、所与の値である前記抽出補正参照信号Y47
k_1、Y47
k_2、Y47
k_3の相互間隔t
d12、t
d23、t
d13との比較により、以下の式により、前記倍率変更部47に設定する倍率r
kと、相対速度v
kを求めることが出来る。
【数5】
【数6】
【0066】
上記(数5)では、結果を求めるにあたり、3つの相関ピーク間隔それぞれで得られる算出値を平均しているが、このように、複数の得られた相関ピーク間隔から最終的に一つの倍率rkとドップラー速度を求めるには、上記のように平均を取る以外にも、中間値を用いる、各々の相関ピークの和が最も大きくなるものを選ぶ、前回以前のドップラー予測速度の時系列変化から別途求めた予測値に最も近いものを選ぶ等、の手法を適宜選択、もしくは組み合わせることで、算出精度を高めることが出来る。
【0067】
なお上記(数3)ないし(数6)に用いる前記抽出補正参照信号としては、想定される相対速度範囲内ではピーク検知ができるまでドップラー効果の影響が軽減される程度の短い時間幅を有する区間を前記補正参照信号Y47から切り出すか、もしくは、前記程度の短い時間幅を有する異なる複数の疑似乱数系列を連結した信号により予め前記変調音声信号および前記参照信号を構成し、前記抽出補正参照信号としての前記複数の疑似乱数系列を選ぶことにより、前記補正参照信号Y47の全体を使うよりもピーク値は落ちるものの、前記抽出補正参照信号の区間毎に相関ピークを得ることが可能となる。
【0068】
さらには、前記いずれかの手法により予測した相対速度によるドップラー効果を補償するよう、前記送信部各々に対して倍率変更部47に設定したそれぞれの倍率を初期値として、この前後で倍率をスキャンして各送信部との相関演算を相関演算部45にて行い、前記相関演算の相関値が極大値を示した倍率に相当するドップラー速度を結果的に受信部4とそれぞれの送信部との間の相対速度とする、という手法を取ることも出来る。
【0069】
なお最後の手法は、予測というよりもむしろその時点の相対速度を正確に求めていることに相当するが、この手法は初回の測定時等の過去の直近の前記倍率が得られない場合は広い範囲でのスキャンが必要となり、計算負荷が増大して実時間での計測が困難となる恐れもあるため、過去の直近の前記倍率が得られない場合には、計算負荷の軽い前者の手法にて計測を行って、過去の直近の前記倍率が得られた後、前記スキャン範囲を絞って後者の手法を取るというように前記二つの手法を適宜組合せることで、実時間で結果を得ながらも時間の経過と共により正確な相対速度を算出することが可能である。
【0070】
次に送信部1の内部構成の第二の実施例を
図17に、また
図17の内部信号のタイミングチャートを
図18に示す。
【0071】
図17における、原音声信号生成部12、疑似乱数生成部13、変調部14、制御タイマ15は、いずれも前述の
図3で説明したものと同じであるが、ここでの送信部1はさらに、通信データ生成部16、二次変調部17、二次変調制御タイマ18から構成されている。
【0072】
二次変調制御タイマ18は、原音声信号Y12に同期して計時し、一定周期の動作制御信号Y18を、通信データ生成部16と二次変調部17に対して出力する。
【0073】
通信データ生成部16は、今送信しようとする通信データを「1」または「0」の二値データ列として表したデータ符号列Y16を生成する。
【0074】
二次変調部17は一次変調音声信号Y14に対し、データ符号列Y16で二値位相変調を施した信号をY1として出力する。
【0075】
なおここで前記Y16として送る通信データとしては、前述の
図2のTに相当する次の送信間隔データ、あるいは、送信部の位置・速度・送信時刻・周囲温度等の測定精度を向上させうるデータ、または音楽等の測定とは全く独立した任意データであっても構わない。
【0076】
【0077】
疑似乱数生成部13、変調部14は制御タイマ15からの制御信号Y15により制御され、いずれもY15がHiの期間は動作し、Loの期間は停止する。
【0078】
Y15がHiとなる期間の長さT1は、疑似乱数生成部13からの疑似乱数Y13の2周期分に設定されており、疑似乱数Y13は2回連続して出力される。
【0079】
通信データ生成部16は制御タイマ18からの制御信号Y18により制御され、いずれもY18がHiの期間は動作し、Loの期間は停止する。
【0080】
二次変調部17は、Y15およびY18により制御され、Y15=HiかつY18=Loとなる期間は入力であるY14をそのままY1に出力するが、Y15=HiかつY18=Hiとなる期間は、Y16の値が「0」の時はY14と同位相、Y16の値が「1」の時はY14と逆位相となるよう、Y14に対して更にデータ符号列Y16で二値位相変調を施してY1に出力する。
【0081】
なお
図18において、Y15がLoからHiに遷移する立ち上がりエッジの間隔が、前述の時間間隔Tに相当する。
【0082】
今、Tを一定でなく可変とする場合には、制御タイマ15のみを、Y15=Hiの期間は常に一定に保ちながら、Y15=Loの期間を可変とするように設計すればよく、疑似乱数生成部13、変調部14はいずれも、前記Tが一定の場合から特に変更することなく対応可能である。
【0083】
なお送信部2、送信部3においても、内部構成は
図17、内部信号のタイミングは
図18と同じであるが、内部で生成する疑似乱数のみY13とは異なっている点は、
図3、
図4で説明した第一の実施例の場合と同様である。
【符号の説明】
【0084】
1~3 送信部
4 受信部
5 位置算出部
12 原音声信号生成部
13 疑似乱数生成部
14 変調部
15 制御タイマ
16 通信データ生成部
17 二次変調部
18 二次変調制御タイマ
43 受信バッファ
44 参照信号生成部
45 相関演算部
46 相対速度予測部
47 倍率変更部