IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フォーデイズ株式会社の特許一覧

特許7554420神経幹細胞の増殖促進剤及びそれを用いた神経幹細胞の増殖促進方法
<>
  • 特許-神経幹細胞の増殖促進剤及びそれを用いた神経幹細胞の増殖促進方法 図1
  • 特許-神経幹細胞の増殖促進剤及びそれを用いた神経幹細胞の増殖促進方法 図2
  • 特許-神経幹細胞の増殖促進剤及びそれを用いた神経幹細胞の増殖促進方法 図3
  • 特許-神経幹細胞の増殖促進剤及びそれを用いた神経幹細胞の増殖促進方法 図4
  • 特許-神経幹細胞の増殖促進剤及びそれを用いた神経幹細胞の増殖促進方法 図5
  • 特許-神経幹細胞の増殖促進剤及びそれを用いた神経幹細胞の増殖促進方法 図6
  • 特許-神経幹細胞の増殖促進剤及びそれを用いた神経幹細胞の増殖促進方法 図7
  • 特許-神経幹細胞の増殖促進剤及びそれを用いた神経幹細胞の増殖促進方法 図8
  • 特許-神経幹細胞の増殖促進剤及びそれを用いた神経幹細胞の増殖促進方法 図9
  • 特許-神経幹細胞の増殖促進剤及びそれを用いた神経幹細胞の増殖促進方法 図10
  • 特許-神経幹細胞の増殖促進剤及びそれを用いた神経幹細胞の増殖促進方法 図11
  • 特許-神経幹細胞の増殖促進剤及びそれを用いた神経幹細胞の増殖促進方法 図12
  • 特許-神経幹細胞の増殖促進剤及びそれを用いた神経幹細胞の増殖促進方法 図13
  • 特許-神経幹細胞の増殖促進剤及びそれを用いた神経幹細胞の増殖促進方法 図14
  • 特許-神経幹細胞の増殖促進剤及びそれを用いた神経幹細胞の増殖促進方法 図15
  • 特許-神経幹細胞の増殖促進剤及びそれを用いた神経幹細胞の増殖促進方法 図16
  • 特許-神経幹細胞の増殖促進剤及びそれを用いた神経幹細胞の増殖促進方法 図17
  • 特許-神経幹細胞の増殖促進剤及びそれを用いた神経幹細胞の増殖促進方法 図18
  • 特許-神経幹細胞の増殖促進剤及びそれを用いた神経幹細胞の増殖促進方法 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】神経幹細胞の増殖促進剤及びそれを用いた神経幹細胞の増殖促進方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0797 20100101AFI20240912BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240912BHJP
   C07H 21/04 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALN20240912BHJP
   A61P 25/00 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
C12N5/0797
C12N15/11 Z
C07H21/04 Z
A61K31/7088
A61P25/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023077502
(22)【出願日】2023-05-09
(62)【分割の表示】P 2021120019の分割
【原出願日】2021-07-20
(65)【公開番号】P2023100900
(43)【公開日】2023-07-19
【審査請求日】2023-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2020123896
(32)【優先日】2020-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者名:公益社団法人 日本薬剤学会(主催者) 刊行物名:日本薬剤学会第36年会の講演要旨集 演題番号:一般演題P-055 日本薬剤学会第36年会のHP掲載年月日:令和3年5月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】500492750
【氏名又は名称】フォーデイズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 将夫
(72)【発明者】
【氏名】増尾 友佑
(72)【発明者】
【氏名】石本 尚大
(72)【発明者】
【氏名】須藤 慶太
(72)【発明者】
【氏名】桐山 恵介
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci. USA,1967年,vol.57,pp.423-430
【文献】Biochemistry,1993年,vol.32,pp.6019-6031
【文献】Biochemistry,1997年,vol.36,pp.1790-1797
【文献】Tetrahedron Lett.,1989年,vol.30,pp.543-546
【文献】第92回日本薬理学会年会,2019年,Session ID:1-P-1033,p.1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-5/28
C12N 15/11
C07H 21/00-21/04
PubMed
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デオキシシチジン一リン酸が三つ連なってなるリン酸付加トリヌクレオチドCCCにおいて該リン酸基の一部が除去されたリン酸除去トリヌクレオチドCCC。
【請求項2】
デオキシシチジン一リン酸が三つ連なってなるリン酸付加トリヌクレオチドCCCにおいて該リン酸基の一部が除去されたリン酸除去トリヌクレオチドCCCの内2つが連結してなるオリゴヌクレオチドC6。
【請求項3】
デオキシシチジン一リン酸が三つ連なってなるリン酸付加トリヌクレオチドCCCにおいて該リン酸基の一部が除去されたリン酸除去トリヌクレオチドCCCの内4つが連結してなるオリゴヌクレオチドC12。
【請求項4】
デオキシシチジン一リン酸が三つ連なってなるリン酸付加トリヌクレオチドCCC又は該リン酸基の一部が除去されたリン酸除去トリヌクレオチドCCCにホスホロチオエート基が付いたトリヌクレオチドCsCsC。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主に神経幹細胞(NSCs)の増殖を促進することが可能な神経幹細胞の増殖促進剤に関するものである。詳細には、デオキシシチジン一リン酸が三つ連なってなるリン酸付加トリヌクレオチドCCC又はこれより一部のリン酸基が除去されたリン酸除去トリヌクレオチドCCC(以下これらを「トリヌクレオチドCCC」又は「CCC」とも総称する。)を含む神経幹細胞の増殖促進剤に関する。そして、さらにトリヌクレオチドCCCに加え、安定性を高めるためにホスホロチオエート基を付けて合成したCsCsCを含む神経幹細胞の増殖促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脳損傷又は神経変性障害に起因する脳疾患は日常生活の質の大幅な低下につながる。健康に対する世間一般の関心の高まりを反映して、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)又は核タンパク質を原料又は有効成分として用いた健康食品が提供されている。サケ白子などには、デオキシリボ核酸、プロタミン又は複合体である核タンパク質が高濃度に含まれている。したがって、人の脳機能を強化する可能性を提供するために、脳機能に対する促進、改善の効果に寄与するサケ白子などに含まれる機能的成分を解明することは重要な課題の一つである。
【0003】
一方、加水分解されたサケ白子抽出物(HSME)の食事摂取が健康な個人の脳機能を強化する可能性を示唆し加水分解されたサケ白子抽出物の核酸が脳機能に対する効果に寄与する機能的成分であり得る旨が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
非特許文献1には、水溶性サケ白子抽出物の摂取によって認知機能が促進される作用が発揮されることが開示されている。該文献では、加水分解されたサケ白子抽出物の経口投与により、海馬のシトシン、シチジン、及びデオキシシチジンの濃度が増加したと報告されている。ポリメラーゼ連鎖反応の定量的分析により、加水分解されたサケ白子抽出物食を摂取したマウスの海馬において神経幹細胞(NSCs)、星状細胞、希突起膠細胞、小膠細胞を含む脳実質細胞のマーカー遺伝子の発現が増加し、加水分解されたサケ白子抽出物の摂取は、その少なくとも一部は脳実質細胞の活性化を通じて、マウスの正常な状態での物体認識と物体位置記憶を強化する可能性がある点が示されている。
【0005】
しかしながら、神経幹細胞の増殖促進や神経幹細胞の分化誘導などに影響を及ぼす機能成分については全く明らかになっていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Nakamichi N. et al. J Med Food. 2019 Apr;22(4):408-415.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、神経幹細胞の増殖促進剤を提供することを主目的とする。より詳しくは、デオキシシチジン一リン酸又はこれよりリン酸基が除去されたデオキシシチジンが三つ連なったものであるトリヌクレオチドCCCを用いて神経幹細胞の増殖を促進することを可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、上記トリヌクレオチドCCC(以下、CCCとも称する)を機能成分として神経幹細胞の増殖を促進する作用があることそして、神経幹細胞の増殖促進剤として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1]デオキシシチジン一リン酸が三つ連なってなるリン酸付加トリヌクレオチドCCC又はこれより一部のリン酸基が除去されたリン酸除去トリヌクレオチドCCCが含まれる神経幹細胞の増殖促進剤。
[2] 前記リン酸付加トリヌクレオチドCCC及び前記リン酸除去トリヌクレオチドCCCの内2つ以上を連ねるオリゴヌクレオチドがさらに含まれる[1]に記載の神経幹細胞の増殖促進剤。
[3]前記リン酸付加トリヌクレオチドCCC及び前記リン酸除去トリヌクレオチドCCCの内2つを連結してなるオリゴヌクレオチドC6又は前記リン酸付加トリヌクレオチドCCC及び前記リン酸除去トリヌクレオチドCCCの内4つを連結してなるオリゴヌクレオチドC12がさらに含まれる[1]に記載の神経幹細胞の増殖促進剤。
[4]デオキシシチジン一リン酸が三つ連なってなるリン酸付加トリヌクレオチドCCC又はこれより一部のリン酸基が除去されたリン酸除去トリヌクレオチドCCCの全部又は一部が、前記リン酸付加トリヌクレオチドCCC又は前記リン酸除去トリヌクレオチドCCCにホスホロチオエート基が付いたトリヌクレオチドCsCsCに置換されているトリヌクレオチドが含まれる神経幹細胞の増殖促進剤。
[5]デオキシシチジン一リン酸が三つ連なってなるリン酸付加トリヌクレオチドCCC又はこれより一部のリン酸基が除去されたリン酸除去トリヌクレオチドCCCが神経幹細胞の培養培地に添加される工程を含む神経幹細胞の増殖促進方法。
[6]前記リン酸付加トリヌクレオチドCCC及び前記リン酸除去トリヌクレオチドCCCの内2つ以上を連ねるオリゴヌクレオチドが神経幹細胞の培養培地にさらに添加される工程を含む[5]に記載の神経幹細胞の増殖促進方法。
[7]前記リン酸付加トリヌクレオチドCCC及び前記リン酸除去トリヌクレオチドCCCの内2つを連結してなるオリゴヌクレオチドC6又は前記リン酸付加トリヌクレオチドCCC及び前記リン酸除去トリヌクレオチドCCCの内4つを連結してなるオリゴヌクレオチドC12が神経幹細胞の培養培地にさらに添加される工程を含む[5]に記載の神経幹細胞の増殖促進方法。
[8]デオキシシチジン一リン酸が三つ連なってなるリン酸付加トリヌクレオチドCCC又はこれより一部のリン酸基が除去されたリン酸除去トリヌクレオチドCCCの全部又は一部が、リン酸付加トリヌクレオチドCCC又は前記リン酸除去トリヌクレオチドCCCにホスホロチオエート基が付いたトリヌクレオチドCsCsCに置換されたトリヌクレオチドを神経幹細胞の培養培地に添加する工程を含む神経幹細胞の増殖促進方法。
[9]デオキシシチジン一リン酸が三つ連なってなるリン酸付加トリヌクレオチドCCC又はこれより一部のリン酸基が除去されたリン酸除去トリヌクレオチドCCC。
[10]デオキシシチジン一リン酸が三つ連なってなるリン酸付加トリヌクレオチドCCC及びこれより一部のリン酸基が除去されたリン酸除去トリヌクレオチドCCCの内2つが連結してなるオリゴヌクレオチドC6。
[11]デオキシシチジン一リン酸が三つ連なってなるリン酸付加トリヌクレオチドCCC及びこれより一部のリン酸基が除去されたリン酸除去トリヌクレオチドCCCの内4つが連結してなるオリゴヌクレオチドC12。
[12] デオキシシチジン一リン酸が三つ連なってなるリン酸付加トリヌクレオチドCCC又はこれより一部のリン酸基が除去されたリン酸除去トリヌクレオチドCCCにホスホロチオエート基が付いたトリヌクレオチドCsCsC。
[13]デオキシシチジン一リン酸が三つ連なってなるリン酸付加トリヌクレオチドCC
C又はこれより一部のリン酸基が除去されたリン酸除去トリヌクレオチドCCCが含まれる神経幹細胞の分化誘導剤。
[14]デオキシシチジン一リン酸が三つ連なってなるリン酸付加トリヌクレオチドCCC又はこれより一部のリン酸基が除去されたリン酸除去トリヌクレオチドCCCが含まれる神経新生の促進剤。
[15]デオキシシチジン一リン酸が三つ連なってなるリン酸付加トリヌクレオチドCCC又はこれより一部のリン酸基が除去されたリン酸除去トリヌクレオチドCCCと、前記リン酸付加トリヌクレオチドCCC又は前記リン酸除去トリヌクレオチドCCCの内2つ以上を連ねるオリゴヌクレオチドとが含まれる脳機能を強化する健康食品。
[16]デオキシシチジン一リン酸が三つ連なってなるリン酸付加トリヌクレオチドCCC又はこれより一部のリン酸基が除去されたリン酸除去トリヌクレオチドCCC、
前記リン酸付加トリヌクレオチドCCC及び前記リン酸除去トリヌクレオチドCCCの内2つを連結してなるオリゴヌクレオチドC6、並びに
前記リン酸付加トリヌクレオチドCCC及び前記リン酸除去トリヌクレオチドCCCの内4つを連結してなるオリゴヌクレオチドC12の内少なくとも2種以上が含まれる脳機能を強化する健康食品。
[17]デオキシシチジン一リン酸が三つ連なってなるリン酸付加トリヌクレオチドCCC又はこれより一部のリン酸基が除去されたリン酸除去トリヌクレオチドCCCの全部又は一部が、前記リン酸付加トリヌクレオチドCCC又は前記リン酸除去トリヌクレオチドCCCにホスホロチオエート基が付いたトリヌクレオチドCsCsCに置換されたトリヌクレオチドを含む脳機能を強化する健康食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、デオキシシチジン一リン酸が三つ連なってなるリン酸付加トリヌクレオチドCCC又はこれより一部のリン酸基が除去されたトリヌクレオチドCCCを含む神経幹細胞の増殖促進剤を用いて、前記トリヌクレオチドCCCを神経幹細胞の培養培地に添加する工程を含む方法によって、神経幹細胞の増殖を促進することが可能となる。また前記トリヌクレオチドCCCが2つに連結してなるオリゴヌクレオチドC6又は前記トリヌクレオチドCCCが4つに連結してなるオリゴヌクレオチドC12をさらに含む神経幹細胞の増殖促進剤を用いて、前記オリゴヌクレオチドC6又はオリゴヌクレオチドC12を神経幹細胞の培養培地に添加する工程を含む方法によって、神経幹細胞の増殖を促進することが可能となる。さらに前記トリヌクレオチドCCCと、前記オリゴヌクレオチドC6、又は前記オリゴヌクレオチドC12とを含有する脳機能を強化することができる健康食品を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1はマウス由来初代培養神経幹細胞の単離、培養及び細胞増殖能評価の模式図である。
図2図2は神経幹細胞増殖能(A:64種類のトリヌクレオチドのATP活性アッセイ、B:MTTアッセイ、C:ATP活性アッセイ、D:細胞塊面積)を評価し、定量にて得られた結果である。
図3図3は神経幹細胞の培養培地にトリヌクレオチドCCCを添加する工程の模式図である。
図4図4はLC-MS/MSによる培地中の核酸濃度(A:シトシン、B:シチジン、C:デオキシシチジン、D:デオキシシチジン一リン酸)の定量において得られた結果を示すグラフである。横軸に示した化合物を添加して3日後の培地中の核酸濃度を縦軸に示している。
図5図5は神経幹細胞の培養培地にトリヌクレオチドCCCを添加する工程後、時間の推移に応じて、培地中の核酸濃度を定量するための模式図である。
図6図6は特定の培養日数(A:1日培養、B:2日培養、C:3日培養)を経てから、MTTアッセイにて得られた結果を示すグラフである。
図7図7は培地中分解後の各核酸(A:シトシン、B:シチジン、C:デオキシシチジン、D:デオキシシチジン一リン酸)濃度の変化を示すグラフである。
図8図8はC6及びC12を神経幹細胞の培養培地に添加する工程、並びにその後の神経幹細胞増殖能及び培養培地中の各核酸濃度を定量するための模式図である。
図9図9はトリヌクレオチドCCCが2つに連結してなるオリゴヌクレオチドC6又は前記トリヌクレオチドCCCが4つに連結してなるオリゴヌクレオチドC12等の神経幹細胞増殖能(A:MTTアッセイの結果、B:ATP活性アッセイの結果、C:細胞塊面積測定の結果)、及びリン酸付加トリヌクレオチドCCCの神経幹細胞増殖促進能(D:MTTアッセイの結果、E:ATP活性アッセイの結果)を評価して得られた結果である。
図10図10は神経幹細胞の分化を評価するための模式図である。
図11図11は免疫染色にてトリヌクレオチドCCCを神経幹細胞に添加する工程にて神経細胞への分化誘導の結果を示すグラフである。
図12図12図11の顕微鏡イメージングを定量分析して得られた結果[A:アストロサイト(GFAP)の割合、B:未成熟な神経細胞(βIII-チューブリン(tubulin))の割合]を示すグラフである。
図13図13はトリヌクレオチドCsCsCの神経幹細胞に及ぼす増殖効果を評価するための方法の模式図である。
図14図14はトリヌクレオチドCsCsCの神経幹細胞増殖能(A:MTTアッセイの結果、B:ATP活性アッセイの結果、C:細胞塊面積測定の結果)を評価して得られた結果である。
図15図15はトリヌクレオチドCCC及びトリヌクレオチドCsCsCを添加した後の培地中の変化を評価するための方法の模式図である。
図16図16はトリヌクレオチドCCC及びトリヌクレオチドCsCsCを添加した後の培地中のトリヌクレオチドCCC及びトリヌクレオチドCsCsC濃度の変化を示すグラフである。
図17図17はウッシングタイプチャンバー法による小腸膜透過試験{A:模式図、B:核酸画分試料(以下これをNAFとも称する。)中の核酸(デオキシリボヌクレオチド)の分子量分布をフォトダイオードアレイ検出器(測定波長:250-270 nm)により検出したグラフ}を示した。
図18図18はウッシングタイプチャンバー法によるNAFの小腸膜透過試験の添加側培地及び透過側培地(A:添加側の0分経過時の培地、B:添加側の120分経過時の培地、C:透過側の0分経過時の培地、D:透過側の120分経過時の培地)中の核酸(デオキシリボヌクレオチド)の分子量分布をフォトダイオードアレイ検出器(測定波長:250-270 nm)により検出したグラフである。
図19図19はウッシングタイプチャンバー法によるNAFの小腸膜透過試験の添加側培地及び透過側培地中のトリヌクレオチドCCC(A:ブランクの結果、B:CCC標品の結果、C:添加側の0分経過時の結果、D:添加側の120分経過時の結果、E:透過側の0分経過時の結果、F:透過側の120分経過時の結果)を飛行時間型質量分析法により検出したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的態様に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
[統計学的解析]
本研究における全ての実験は、少なくとも2回以上実施された。数値データは、平均±標準偏差(mean±Standard Deviation,(mean±SD))で表示した。有意差はスチューデントのt検定(Student’s t-test)又はダネット(Dunnett)検定を用いて評価した。
【実施例
【0013】
[合成例]
<オリゴヌクレオチド合成>
オリゴヌクレオチドはホスホロアミダイト法による固相合成によって作製した(文献;J Biol Chem. 2013 Jan 11;288(2):1420-7)。例えば、リン酸除去トリヌクレオチド「5’-CCC-3’」を作製する場合、3’末端から5’末端の順に合成していくため、まずは固相に担持されたデオキシシチジン{ニトフェーズ(登録商標)HL dC(ac)250、KINOVATE社}から、デブロッキング溶液[ジクロロ酢酸-トルエン(3:97)](富士フィルム和光純薬株式会社)を用いて5’位の4,4’-ジメトキシトリチル基を除去する(脱保護)。脱保護したヌクレオチドに対し、デオキシシチジンホスホロアミダイト(富士フィルム和光純薬株式会社)とアクチベーター溶液[1H-テトラゾール・アセトニトリル溶液](富士フィルム和光純薬株式会社)を用いて縮合する(カップリング)。ここで、カップリング反応での未反応物による副反応を抑制するため、キャッピング試薬であるキャップA溶液[無水酢酸/テトラヒドロフラン溶液](富士フィルム和光純薬株式会社)及びキャップB溶液[テトラヒドロフラン/1-メチルイミダゾール/ピリジン(8:1:1)溶液](富士フィルム和光純薬株式会社)を用いて未反応鎖の5’位水酸基をアセチル化する(キャッピング)。その後、酸化溶液[ヨウ素・テトラヒドロフラン:ピリジン:水(78:20:2)溶液](富士フィルム和光純薬株式会社)を用いて亜リン酸エステルをリン酸エステルに変換する(安定化)。再度、脱保護した後、デオキシシチジンホスホロアミダイトを用いてカップリング反応を行う。その後、キャッピング、安定化及び脱保護の反応を行い、最後にアンモニア水を用いて担体からの切り出しを行うことで目的のトリヌクレオチド「5’-CCC-3’」(リン酸基除去トリヌクレオチド)を作製する。実際には、合成効率を考え、ABI社製model394、392等のオリゴヌクレオチド合成装置で合成を行う。
また、5’末端にリン酸基を付加したリン酸付加トリヌクレオチド「5’-pCCC-3’」を合成する場合は、上記で作製したトリヌクレオチド「5’-CCC-3’」に化学リン酸化反応試薬2-[2-(4,4’-ジメトキシトリチルオキシ)エチルスルホニル]エチル-(2-シアノエチル)-(N,N-ジイソプロピル)-ホスホロアミダイト(ホンジェネ・バイオテクノロジー社)を用いて、その手順書に従ってトリヌクレオチドの5’末端にリン酸基を付加することで目的のトリヌクレオチド「5’-pCCC-3’」を作製する。実施例1で使用した他のトリヌクレオチドも同様に作成する。
さらに、ホスホロチオエート基を付加したトリヌクレオチドCsCsCを合成する場合は、前述のトリヌクレオチド「5’-CCC-3’」を作製する工程のうち、亜リン酸エステルをリン酸エステルに変換する安定化の工程の代わりに硫化剤であるDDTT硫化試薬(富士フィルム和光純薬株式会社)で処理することで目的のホスホロチオエート基が付いたトリヌクレオチドCsCsCを作製する。
【0014】
[実験方法1]
<マウス由来初代培養神経幹細胞の単離/培養>
妊娠15日齢のマウスより胎児の大脳皮質を単離しメスで細断した。0.25% トリプシンと28 mMのグルコースを含むPBSに浸し、37℃で、20分間インキュベートした。組織をピペッティングによりばらばらにほぐし、0.2% アガロースをコーティングした(Agarose coating)6ウェルプレートに5×10 cells/mLの細胞密度で播種し、浮遊条件下で培養した。最初の6日間は、100 U/mLのペニシリン(penicillin)、100 μg/mLのストレプトマイシン(streptomycin)、0.5% B27(12587010、サーモフィッシャーサイエンティフィック)、10 ng/mL EGF、10 ng/mL bFGFを含有するDMEM/F12培地(D8437、シグマ アルドリッチ)で、37℃、5
% COインキュベーター(incubation)において培養を行った。培養3日目に、培地を半量換え、アガロースをコーティングしてない(No agarose coating)6ウェルプレートに撒きなおした。神経幹細胞は、細胞塊を形成し、その大きさは培養日数依存的に増加していく。6日目に、ニューロカルト化学解離キット(Neuro Cult Chemical Dissociation Kit) (Stem Cell Technologies Inc.)により細胞塊を分散させ、96ウェルプレートに8×10 cells/mLで撒きなおし(Reseeding)、0.1 μg/mL及び1 μg/mLの各核酸(トリヌクレオチドCCC、デオキシシチジン一リン酸(dCMP)、デオキシシチジン(dC)、シチジン(Cytidine)、シトシン(Cytosine))や10 μMフォルスコリン(Forskolin、陽性対照)を曝露した。3日後に、MTTアッセイ(MTT assay)、ATPアッセイ(ATP assay)、細胞塊面積(Neurosphere Area)測定により、神経幹細胞増殖能を評価した。
【0015】
図1は、上記マウス由来初代培養神経幹細胞の単離・培養の実験方法の流れを模式図として示されている。
【0016】
以下、実施例及び試験例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等の具体的範囲に限定されるものではない。
【0017】
[実施例1]
<神経幹細胞の増殖に及ぼす効果>
(試験例1)
<ATPアッセイ(ATP assay)>
ATP測定キットATPlite (PerkinElmer)の推奨プロトコルに従った。細胞が撒かれた96ウェルプレートを、ディッシュ用遠心機により遠心した(1000 rpm、5分、室温)。上清をすべて除去し、100 μL PBSを加え、さらに、キットの試薬(哺乳類細胞溶解液、Mammalian cell lysis solution) 50 μL/well加え、700 rpm、10分間振盪させた。キットのATPlite buffer 5 mLを凍結乾燥基質溶液(Lyophilized substrate solution)に加えて、沈殿が溶けるまで優しく撹拌し、これを50 μL/well加え、700 rpm、5分間振盪させた。100
μLずつ測定用プレートに移し、アルミホイルで包み10分間静置した。SparkTM10Mマルチ検出モードリーダー(TECAN)により発光を測定した。
【0018】
(試験例2)
<MTTアッセイ(MTT assay)>
本発明においては、神経幹細胞増殖の促進を確認する方法としてMTT試験を用いる。MTTアッセイは、MTT(3-(4,5-Dimethylthial-2-yl)-2,5-Diphenyltetrazalium Bromide)を用いた公知の比色分析試験である。
細胞が撒かれた96ウェルプレートを、ディッシュ用遠心機により遠心した(1000
rpm、10分、室温)。培地を除き、0.5 mg/mL MTT及び33 mM グルコースを含むPBSを100 μL/well加え、37℃、5% CO インキュベーター内で1時間静置する。反応停止のために、0.04M HClを含むイソプロパノールを、各ウェルに100 μL添加して、570 nmの吸光度を測定した。
【0019】
(試験例3)
<細胞塊面積(Neurosphere area)測定>
各ウェルから100 μLずつ培地を除去し、4 μM カルセイン-AMを含むPB
Sを100 μLずつ加え、37℃、5% COインキュベーター内に30分間静置した。IN Cell Analyzer 2000により撮影し、ソフトウェア ImageJにより細胞塊面積を測定した。
【0020】
<MTTアッセイ、ATPアッセイ及び細胞塊面積測定の結果>
結果を図2に示す。図2中、各核酸の添加濃度は[実験方法1]に記載の通りである。「*」はP<0.05(コントロールに対する)であることを示す。フォルスコリンは核酸とは異なる陽性対照として用いた。
図2に示すように、3つのヌクレオチドが連なったトリヌクレオチド(全64種)のうちCCCを添加した場合のみ、マウス胎仔由来神経幹細胞におけるATPアッセイで有意に増加した。さらに、トリヌクレオチドCCC、デオキシシチジン一リン酸(dCMP)、デオキシシチジン(dC)、シチジン(Cytidine)及びシトシン(Cytosine)で処理後の神経幹細胞の増殖に及ぼす効果との対比において、MTTアッセイや細胞塊面積においてもトリヌクレオチドCCC添加のみで有意に増加し、有意に神経幹細胞の増殖を促進する効果が見えたことが分かる。
【0021】
これらの結果によって、トリヌクレオチドCCCにて神経幹細胞の増殖を促進された効果が見えた一方、デオキシシチジン一リン酸、デオキシシチジン、シチジン、シトシンでは効果がなかったことから、神経幹細胞増殖に対してトリヌクレオチドCCCが重要であると示唆された。
実施例1では、神経幹細胞増殖に及ぼす効果を評価することにより、トリヌクレオチドCCCを用いて神経幹細胞増殖を促進することが可能であるのを確認した。
【0022】
[実施例2]
<培地中の核酸濃度の定量>
トリヌクレオチドCCC、デオキシシチジン一リン酸、デオキシシチジン、シチジン、シトシンの、神経幹細胞へ添加後に特定の時間後の分解を追跡した。
【0023】
(試験例4)
<LC-MS/MSによる核酸濃度の定量>
[実験方法1]の方法に従って、培養培地を回収し、22,000 ×g、4℃、10分で遠心する。得られた上清100 μLに2 μM 内標準物質5端-ジオキシ-5端-フルオロシチジン及び2 mMのEDTAを含む水を10 μL、100% メタノールを480 μL、水10 μLを添加し、3分間、室温でボルテックスを行った。22,000 ×g、4℃、10分間遠心を行い、上清530 μLを回収し、さらに22,000 ×g、4℃、10分間遠心を行い、上清500 μLを回収し、エバポレーターにより蒸発乾固した。水75 μL、アセトニトリル75 μLを添加し、ソニケーションにより溶解させた。22,000 ×g、4℃、10分間遠心を行い、上清1 μLを測定に用いた。測定には、ACQUITY UPLC BEH アミドカラム(粒子サイズ:1.7 μm、カラム直径:2.1×150 mm;ウォーターズ株式会社)を装備したLCMS-8040(島津)を用い、シトシン、シチジン、デオキシシチジン、及びデオキシシチジン一リン酸の定量を行った。
カラム温度は50℃で維持した。溶出は、以下に示す溶媒A及び溶媒Bを用いて、0.4 mL/minの流速で行った。イオン化は、陽イオンエレクトロスプレー法を用いた。m/zをそれぞれシトシン(112.00 ないし 112.05)、シチジン(244.00 ないし 112.00)、デオキシシチジン(dC)(228.00 ないし
112.05)、デオキシシチジン一リン酸(dCMP)(307.95 ないし 112.00)に設定し、多重反応モニタリング(MRM)取得モードにより検出された。分析は、ラボソリューション ソフトウェア(島津)を用い行った。詳しい測定条件は以下の通りである。
溶媒Aは、5 mM 酢酸アンモニウム、5 mM ギ酸アンモニウム、及び2% ギ酸及びアセトニトリルの混合物(ギ酸:アセトニトリル=80:20)を含有する水溶液。
溶媒Bは、1 mM 酢酸アンモニウム水溶液、1 mM ギ酸アンモニウム水溶液、及び2% ギ酸及びアセトニトリルの混合物(ギ酸:アセトニトリル=5:95)を含有する水溶液。
移動相の条件は以下の通りである。
0-0.5分: 1% A/99% B
0.5-7.0分: 1% A/99% B ないし 15% A/85%B
7.0-7.5分: 15% A/85% B
7.5-9.0分: 70% A/30% B
9.0-9.2分: 70% A/30% B ないし 1%A/99%B
9.2-14.5分: 1%A/99%B
【0024】
<結果>
図3は、上記試験例4の流れを模式図として示されている。
図3に示すように、1 μg/mLのトリヌクレオチドCCCや他の核酸を神経幹細胞へ添加すると、添加後の特定の時間において各核酸が分解した結果を図4に示した。それぞれ添加された核酸が主成分として検出された一方、トリヌクレオチドCCC添加後に特徴的な核酸は検出されておらず、検討されたトリヌクレオチドCCC以外の核酸が増殖促進作用を示している可能性は低いと思われた。
【0025】
[実施例3]
MTTアッセイ及びLC-MS/MSにより、神経幹細胞増殖能及び神経幹細胞培養培地中で各核酸濃度と時間推移との両方を測定し、両者の対応関係を解明した。
図5は、実施例3の流れを示す。
【0026】
<MTTアッセイの結果>
結果を図6に示した。図6中、DIVは1日培養を意味する。
図6に示すように、トリヌクレオチドCCCによる増殖促進は2日後から3日後にかけて見られる一方、dCMPやdCでは、相変わらず、増殖効果がなかった。
この結果により、トリヌクレオチドCCCは神経幹細胞の増殖を促進する効果があるが、dCMPやdCには増殖効果がなかったことを考えると、トリヌクレオチドCCCは神経幹細胞の増殖促進に有利、且つ重要である。
【0027】
<培地中各核酸濃度の変化の結果>
神経幹細胞増殖能及び培地中各核酸濃度と培養時間との対応関係の結果が図7の折れ線グラフに示された。図7の中には、DIVは1日培養を意味し、横軸は培養時間であり、吹き出しに示された化合物を添加後の培地中各核酸濃度の変化を示している。トリヌクレオチドCCC添加後のみで特徴的に検出された核酸は見られず、検討されたトリヌクレオチドCCC以外の核酸が増殖促進作用を示している可能性は低いと思われた。
【0028】
[実施例4]
Cの数をトリマー(trimer)からもっと多く増やし、前記トリヌクレオチドCCCが2つに連結してなるオリゴヌクレオチドC6又は前記トリヌクレオチドCCCが4つに連結してなるオリゴヌクレオチドC12を神経幹細胞の培養培地に添加する工程後、神経幹細胞の増殖能及び培地中各核酸濃度を測定し、その結果により、C6又はC12が神経幹細胞の増殖に与える影響を評価した。
図8は、オリゴヌクレオチドC6又はオリゴヌクレオチドC12を神経幹細胞の培養培地に添加する工程及びその後増殖能及び核酸濃度の測定の模式図である。
<MTTアッセイ、ATPアッセイ及び細胞塊面積測定の結果>
結果を図9に示す。図9中、*はP<0.05(コントロールに対する)であることを示す。
図9に示すように、フォルスコリンは核酸とは異なる陽性対照として用いた。試験の結果は、リン酸除去トリヌクレオチドCCC、リン酸付加トリヌクレオチドCCCだけでなく、トリヌクレオチドCCCをその2倍又は4倍の長さにし、オリゴヌクレオチドC6(図9中のC6)やオリゴヌクレオチドC12(図9中のC12)にて処理後の神経幹細胞でも同様にATPアッセイで有意に増加した。さらに、MTTアッセイや細胞塊面積においても有意に増加し、神経幹細胞の増殖を促進する効果がある。
【0029】
[実施例5]
神経幹細胞の神経細胞及びグリア細胞への分化能について評価した。
【0030】
(試験例5)
<マウス由来初代培養神経幹細胞の分化誘導>
[実験方法1]の方法に従って6日目に、ニューロカルト化学解離キット(Neuro
Cult Chemical Dissociation Kit)により細胞塊を分散させ、6ウェルプレートに0.8×10 cells/mLで撒きなおし、1 μg/mL トリヌクレオチドCCCあるいは10 μM フォルスコリンにて曝露した。3日後に、ニューロカルト化学解離キット(Neuro Cult Chemical Dissociation Kit)による細胞塊を分散させ、あらかじめポリーLーリジンがコーティングされた96ウェルプレートに3×10 cells/mLで撒きなおし、接着培養を行った。分化誘導時の培地は、5% FBS、100 U/mLのペニシリン、100 μg/mL ストレプトマイシン、28 mM グルコース、2 mM グルタミン、5 mM HEPES、25 μg/mL アポトランスフェリン、250
ng/mL インスリン、0.5 pM エストラジオール、1.5
nM トリヨードチロニン、10 nM プロゲステロン、4 ng/mL セレン酸ナトリウム、50 μM プトレッシンを添加したDMEM(D5796、シグマ アルドリッチ)を用いた。3日後、免疫染色を行い、分化能を評価した。
【0031】
(試験例6)
<免疫染色(分化能評価)>
細胞を、PBSで洗浄し、4% パラホルムアルデヒドにより、室温、20分インキュベートし固定化した。さらに、3% ウシ血清アルブミン(bovine serum albumin)、0.2% Triton X-100を含むPBSにて室温、30分間インキュベートし、ブロッキングを行った。未成熟な神経細胞のマーカー(βIII-チューブリン(tubulin))、アストロサイトのマーカー(GFAP)を、ブロッキング液を10倍希釈した溶液により、各1/1000で希釈し、4℃で一晩反応させた。PBSによって、3回洗浄し、蛍光標識された二次抗体を、ブロッキング液を10倍希釈した溶液により1000倍に希釈し、室温で1時間反応させた。二次抗体反応を終えた細胞は、PBSにより3回洗浄を行い、DAPI封入剤を添加し、周りをマニキュアで密封し、室温、遮光条件下で乾燥させた。観察は、IN Cell Analyzer 2000を用いて行った。神経分化能の評価においては、緑色蛍光で染色したβIII-チューブリン(tubulin)陽性細胞数と、赤色蛍光で染色したGFAP陽性細胞数を、全細胞数であるDAPI陽性細胞数に占める各陽性細胞数の割合により算出した。
図10は、マウス由来初代培養神経幹細胞の分化誘導及び免疫染色の流れの模式図である。
【0032】
<結果>
免疫染色を行い、トリヌクレオチドCCCを用いて神経幹細胞を培養した後の神経細胞
への分化誘導の結果を、図11の画像で示した。
図11の画像にて免疫染色の各陽性細胞数を定量し、その結果を図12の柱系図に示した。トリヌクレオチドCCCにて培養すると神経細胞に分化する割合が増える傾向にある一方、アストロサイト(Astrocytes)への分化は変わらない。神経新生が選択的に促進されている。
【0033】
非特許文献1には、水溶性のサケ白子抽出物を摂取した場合、脳内(海馬中)のシチジン量やデオキシシチジン量が増加したとの動物試験の結果が報告されている。その時、さらに行動試験や培養細胞試験において脳機能の改善作用や神経幹細胞の増殖促進が見られるとも報告されている。一方、本発明の実施例2ないし実施例4は、トリヌクレオチドCCC、オリゴヌクレオチドC6又はオリゴヌクレオチドC12を細胞の培養液に加入すると、前記ヌクレオチドもシチジンやデオキシシチジンなどに分解され(図4図7)、神経幹細胞の増殖を促進する(図2図6図9)ことから、本発明にあっては、非特許文献1の動物試験の結果のように、脳機能改善作用が発現することが期待される。
要するに、トリヌクレオチドCCC、オリゴヌクレオチドC6又はオリゴヌクレオチドC12を含む健康食品を摂取することは、ヒトの脳機能を強化することができると思われる。
したがって、本発明によるトリヌクレオチドCCC、オリゴヌクレオチドC6又はオリゴヌクレオチドC12を含有する、例えば、前記トリヌクレオチドが多く存在している水溶性サケ白子抽出物を含む食品は脳機能改善作用を発現する健康食品として、好ましく使用することができる。また、本発明によるトリヌクレオチドCCC、オリゴヌクレオチドC6又はオリゴヌクレオチドC12を含有する水溶性サケ白子抽出物と、ほかの栄養補給成分、例えば、たんぱく質、脂質、炭水化物、ビタミンC、パントテン酸カルシウム、ビタミンB12、ビタミンB6、ビタミンB2、ビタミンB1、食塩等とを組み合わせて、それらの栄養補給機能、並びに脳機能を強化するとともに健康を維持することを目的として、サプリメント特定保健用食品、機能性表示食品、栄養補助食品等としても、好ましく使用することができる。
【0034】
[実施例6]
神経幹細胞の増殖促進効果が示されていたトリヌクレオチドCCCに加え、安定性を高めるためにホスホロチオエート基を付けて合成したCsCsCを用いてマウスの神経幹細胞の増殖促進効果を検討した。ホスホロチオエート基は、リン酸基の酸素原子が硫黄原子に置換された構造である。この構造はエキソヌクレアーゼ、エンドヌクレアーゼの活性に耐性がある。ゆえに、トリヌクレオチドCsCsCは、トリヌクレオチドCCCに比べ安定性が高いといわれている。
【0035】
<MTTアッセイ、ATPアッセイ及び細胞塊面積測定>
試験は、6日目まで、[実験方法1]の方法に従い、6日目に、ニューロカルト化学解離キットにより細胞塊を分散させ、96ウェルプレートに0.8×10 cells/mLで撒きなおし、0.1、1及び10 μg/mL トリヌクレオチドCCCあるいは0.1、1及び10 μg/mL トリヌクレオチドCsCsCを曝露した。神経幹細胞増殖能の評価は、その3日後に、MTTアッセイ(試験例2参照)、ATPアッセイ(試験例1参照)、細胞塊面積(試験例3参照)測定により行われた。図13は実施例6の方法の流れを示す模式図である。
【0036】
<MTTアッセイ、ATPアッセイ及び細胞塊面積測定の結果>
結果を図14に示す。図14のAはMTTアッセイ、図14のBはATPアッセイ、図14のCは細胞塊面積測定の結果を示す。「*」はP<0.05(コントロールに対する)であることを示す。フォルスコリンはオリゴヌクレオチド等の核酸関連物質とは異なる陽性対照として用いた。
図14に示すように、MTTアッセイ、ATPアッセイ及び細胞塊面積測定のいずれの結果においても、トリヌクレオチドCsCsCを用いた場合は、トリヌクレオチドCCCを用いた場合と同様にコントロールに対し有意に神経幹細胞の増殖を促進する濃度が存在する。トリヌクレオチドCsCsCを用いた場合は、トリヌクレオチドCCCを用いた場合と類似した結果が得られた。トリヌクレオチドCsCsCは有意に神経幹細胞の増殖を促進する効果を有することが判った。
先に述べたように、トリヌクレオチドCsCsCは、トリヌクレオチドCCCよりも安定性に優れているため、トリヌクレオチドCsCsCは分解して神経幹細胞の増殖に関与しているのではなく、分解せずトリヌクレオチドCsCsCとして神経幹細胞の増殖に関与していることが判った。
【0037】
[実施例7]
<トリヌクレオチドCCC及びトリヌクレオチドCsCsCの代謝>
LC-MS/MSにより、神経幹細胞培養培地中で各オリゴヌクレオチド濃度と時間推移との両方を測定し、両者の対応関係を解明した。
試験は、6日目まで、[実験方法1]の方法に従い、6日目に、ニューロカルト化学解離キットにより細胞塊を分散させ、96ウェルプレートに0.8×10 cells/mLで撒きなおし、1 μg/mL トリヌクレオチドCCCあるいは1 μg/mL トリヌクレオチドCsCsCを曝露した。その後に、培地を採取しLC-MS/MSで分析した。図15は、実施例7の方法の流れを示す模式図である。
【0038】
<培地中各オリゴヌクレオチド濃度の変化の結果>
培地中各オリゴヌクレオチド濃度と培養時間との対応関係の結果を図16の折れ線グラフに示す。図16のAは、トリヌクレオチドCCCの変化を示し、図16のBは、トリヌクレオチドCsCsCの変化を示す。図16の横軸は培養時間であり、DIVは1日培養を意味する。なお、実施例6で示したように、トリヌクレオチドCCC及びトリヌクレオチドCsCsCにおいては、同様に神経幹細胞の増殖がみられた。図16により、トリヌクレオチドCCC添加後トリヌクレオチドCCCは、時間の経過に伴い培地中で減少した。しかし、トリヌクレオチドCsCsCの添加後トリヌクレオチドCsCsCはトリヌクレオチドCCCに比べ変化しないことが示された。
この結果から、トリヌクレオチドCsCsCは、分解されず神経幹細胞の増殖に作用している、即ち、培地中に添加したトリヌクレオチドCCCはトリヌクレオチドの形のまま神経幹細胞の増殖に作用していることが示された。
【0039】
[実施例8]
<ウッシングタイプチャンバー法による小腸膜透過試験>
試験に用いた動物は8週齢の雄性ICRマウスである。試験に用いた腸は、18時間絶食後のマウスをイソフルランガス麻酔で仰向けに固定し、マウスの小腸上部の腸管を採取した。取り出した腸管は腸軸に沿って切り開き、氷冷した生理食塩水で内容物を洗った後にピンセットを使用し筋層を剥いだ。小腸の組織切片は直ちに有効表面積0.25 cmのウッシングタイプチャンバーに装着した。試験は、pH6.0に調整した試薬を添加側に2 mL添加し、pH7.4に調整した輸送バッファーを透過側に2 mL添加することで開始した。評価は添加側から透過側への膜透過する物質を測定することで行った。筋層剥離後の膜の完全性は、パラセルラーマーカーとして平均分子量4000のFITC-デキストラン(FD-4)を用いることで確認した。実験は37℃で行い、常に95%O/5%COガスを両溶液中に通気させた。サンプリングは所定の時間に透過側のバッファーを200 μL採取し、当量のバッファーを補充することでチャンバー内のバッファー量が変化しないようにした。また、添加側のサンプリングは所定の時間にバッファーを20 μL採取した。サンプリングは薬液添加後2時間まで行った。得られたサンプルは、測定するまで-30℃で凍結保存した。ウッシングタイプチャンバー法の模式図を
図17のAに示す。図17中のNAF(核酸画分)は、高濃度・高分子DNA-Naを加水分解することでモノヌクレオチド、ジヌクレオチド、トリヌクレオチド及びテトラヌクレオチドを多く含むように作製したサンプルである。図17のBはNAF中の核酸(デオキシリボヌクレオチド)の分子量分布をフォトダイオードアレイ検出器(測定波長:250-270 nm)により検出したグラフである。
【0040】
試薬等は以下の組成で準備した。
<輸送バッファー>
NaCl 7.480 g/L (128 mM)
KCl 0.380 g/L (5.1 mM)
D(+)-グルコース 0.901 g/L (5.0 mM)
CaCl・2HO 0.206 g/L (1.4 mM)
KHPO 0.177 g/L (1.3 mM)
MgSO・7HO 0.320 g/L (1.3 mM)
NaHCO 1.764 g/L (21 mM)
NaHPO 1.120 g/L (10 mM)
pH6.0は5 N HClを用いて調製し、pH7.4は5N NaOHを用いて調製した。pH調製前、調製時は95%O/5%COガスを用いてバブリングを行った。
<NAF 8 mg/mL>
試薬は、FD-4を100 μMになるようにpH6.0の輸送バッファーで溶解し、核酸画分試料(NAF)の濃度を8 mg/mLになるように輸送バッファーで希釈した。
【0041】
<測定対象>
測定対象は、透過側からサンプリングしたバッファーを10 μL、 移動相B(10
mM酢酸アンモニウム、95%アセトニトリル/5%HO)を90 μL加えた後ボルテックスと遠心(26,418 ×g、4℃、10分)を2度行い、上清を回収した。一方の測定対象は、添加側からサンプリングしたバッファーを100倍希釈し、希釈液10 μLと移動相90uLを加え、ボルテックスと遠心(26,418 ×g、4℃、10分)を2度行い、上清を回収した。
【0042】
<ダイオードアレイ検出器による測定>
測定は、サンプル調製後、カラムとしてアドバンスバイオSEC(300A 2.7μm 4.6×150mm)を用いて分離した後、フォトダイオードアレイ検出器を用いた。移動相は、(A)10 mM 酢酸アンモニウム、(HO)と(B)10mM酢酸アンモニウム、(95%アセトニトリル/5%HO)を用いた。測定時の条件は、注入量を3 μLとし、流速を0.2 mL/minとして、移動相の割合は80%A/20%Bで15分とし、フォトダイオードアレイ検出器を用いて測定波長を250-270 nmとした。
<飛行時間型質量分析法による測定>
測定は、サンプル調製後、カラムとしてショウデックス親水性相互作用クロマトグラフィ用カラムVN-50 2D (2.0mmI.D.×150mm)を用いて分離した。移動相は、(A)50 mM ギ酸アンモニウム(95%アセトニトリル/5%HO)と(B)10mM ギ酸アンモニウム(95%アセトニトリル/5%HO)を用いた。測定時の条件は、流速を0.3 mL/minとして、飛行時間型質量分析法で測定した。
【0043】
<ダイオードアレイ検出器による測定結果>
図18はウッシングタイプチャンバー法による添加側へNAF添加した際の小腸膜透過
試験結果である。図18のAは添加側の0分経過時の培地、図18のBは添加側の120分経過時の培地、図18のCは透過側の0分経過時の培地、及び図18のDは透過側の120分経過時の培地中の核酸(デオキシリボヌクレオチド)の分子量分布を示す。通説では、核酸はモノヌクレオチドまで分解されないと腸管で吸収されないとされているが、図18に示した結果は、ウッシングタイプチャンバー法による小腸膜透過試験により、モノヌクレオチドだけでなく、ジヌクレオチド、トリヌクレオチド及びテトラヌクレオチドも小腸膜を透過することを示した。
<飛行時間型質量分析法による測定結果>
図19はウッシングタイプチャンバー法による添加側へNAF添加した際の小腸膜透過試験の飛行時間型質量分析法の測定結果である。図19のAはブランクのサンプル、図19のBはCCC標品のサンプル、図19のCは添加側の0分経過時の培地、図19のDは添加側の120分経過時の培地、図19のEは透過側の0分経過時の培地、及び図19のFは透過側の120分経過時の培地中に含まれるトリヌクレオチドCCCを測定した結果を示す。図19に示した結果は、ウッシングタイプチャンバー法による小腸膜透過試験によりトリヌクレオチドCCCが小腸膜を透過することを示した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、トリヌクレオチドCCCを神経幹細胞の増殖促進剤の機能成分として神経幹細胞の増殖及び神経新生を促進することが可能となる。さらにトリヌクレオチドCCC、オリゴヌクレオチドC6又はオリゴヌクレオチドC12を含む健康食品を提供することが可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19