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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】デングウイルスワクチン
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/01 20060101AFI20240912BHJP
   C12N 15/40 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 15/863 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240912BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 39/12 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C12N7/01 ZNA
C12N15/40
C12N15/863 Z
A61K35/76
A61K38/02
A61K48/00
A61P37/04
A61K39/12
A61P31/12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020044530
(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公開番号】P2020150940
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2019047582
(32)【優先日】2019-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591063394
【氏名又は名称】公益財団法人東京都医学総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(73)【特許権者】
【識別番号】505314022
【氏名又は名称】国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】591222245
【氏名又は名称】国立感染症研究所長
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】小原 道法
(72)【発明者】
【氏名】安井 文彦
(72)【発明者】
【氏名】山根 大典
(72)【発明者】
【氏名】小原 恭子
(72)【発明者】
【氏名】森田 公一
(72)【発明者】
【氏名】保富 康宏
(72)【発明者】
【氏名】石井 孝司
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-511042(JP,A)
【文献】特表2005-525821(JP,A)
【文献】特表平03-503364(JP,A)
【文献】国際公開第2006/013815(WO,A1)
【文献】特開2013-048597(JP,A)
【文献】The Journal of Biological Chemistry,1995年,Vol.270, No.32,pp.19100-19106
【文献】Journal of Virology,1990年,Vol.64, No.9,pp.4356-4363
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デングウイルス由来の非構造タンパク質をコードするcDNAと、発現プロモーターとを含む、組換えワクシニアウイルスであって、
前記非構造タンパク質をコードするcDNAが、
(a) デングウイルス由来の非構造タンパク質中のNS2A、NS2B、NS3、NS4A、NS4B及びNS5領域からなる領域をコードするcDNA;
(b) 配列番号2に示す塩基配列からなるDNA;
(c) 配列番号2に示す塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAと90%以上の同一性を有し、かつ、デングウイルス由来の非構造タンパク質をコードするDNA;
(d) 配列番号3に示す塩基配列からなるDNA;又は
(e) 配列番号3に示す塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAと90%以上の同一性を有し、かつ、デングウイルス由来の非構造タンパク質をコードするDNA
である、
前記組換えワクシニアウイルス
【請求項2】
ワクシニアウイルスがDIs株である、請求項1に記載の組換えワクシニアウイルス。
【請求項3】
前記デングウイルスが、2型の血清型のものである、請求項1又は2に記載の組換えワクシニアウイルス。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の組換えワクシニアウイルスを含む、医薬組成物。
【請求項5】
デングウイルス感染症の予防薬である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
デングウイルス感染症の治療薬である、請求項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デングウイルスワクチンとしての組換えワクシニアウイルス等に関する。
【背景技術】
【0002】
デングウイルスは、熱帯地域を中心に常在し、世界では年間約4億人が感染し、約1億人がデング熱を発症していると言われており、発症地域は、拡大傾向にあり(図1)、中国(広東省)でも大規模な感染(1万人を超える感染者数)が報告されている。日本では2014年(平成26年)の感染被害は終息したものの、毎年感染常在国から渡航者等を介してウイルスが持ち込まれていることから、国内での感染被害が慢性的に引き起こされる危険性に曝されている。2010年以降に報告された年間輸入症例数は、200例を超えている。
【0003】
現在、臨床に使用可能な治療薬は開発に成功されておらず、対処療法がおこなわれている。一方で、臨床治験が進められているデングワクチンが数例報告されている。その中で、最も開発が進んでいた、サノフィパスツール社の4価デング・黄熱キメラワクチンについては、平成27年(2015年)12月にメキシコにおいてワクチンが認可されたのを始め、世界10カ国以上で承認されている(図2)。しかしながら、同社の4価デング・黄熱キメラワクチン(CYD)については、平成29年(2017年)11月29日付けで、非感染者にワクチン接種するとデング熱やデング出血熱の発症リスクが高まるといった報告及び使用上の注意喚起が、同社及びWHOからなされた(非特許文献1)。
【0004】
【文献】The World Health Organization (WHO),“WHO advises Dengvaxia be used only in people previously infected with dengue”,2017(URL: https://www.who.int/medicines/news/2017/WHO-advises-dengvaxia-used-only-in-people-previously-infected/en/)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下において、臨床において使用可能な治療又は予防薬となり得るデングウイルスワクチン、詳しくは、当該ウイルス非感染者に接種した場合でもデング熱やデング出血熱の発症リスクが抑制できるデングウイルスワクチン等の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、以下に示す、組換えワクシニアウイルスや医薬組成物等を提供するものである。
【0007】
(1)デングウイルス由来の非構造タンパク質をコードするcDNAの全部又は一部と、発現プロモーターとを含む、組換えワクシニアウイルス。
(2)ワクシニアウイルスがDIs株である、上記(1)に記載の組換えワクシニアウイルス。
(3)前記非構造タンパク質をコードするcDNAが、デングウイルス由来の非構造タンパク質中のNS1領域をコードするcDNAである、上記(1)又は(2)に記載の組換えワクシニアウイルス。
【0008】
(4)前記非構造タンパク質をコードするcDNAが、デングウイルス由来の非構造タンパク質中のNS1領域以外の領域をコードするcDNAである、上記(1)又は(2)に記載の組換えワクシニアウイルス。
(5)前記非構造タンパク質中のNS1領域以外の領域が、NS2A、NS2B、NS3、NS4A、NS4B及びNS5領域からなる領域である、上記(4)に記載の組換えワクシニアウイルス。
(6)前記デングウイルスが、2型の血清型のものである、上記(1)~(5)のいずれか1つに記載の組換えワクシニアウイルス。
【0009】
(7)前記非構造タンパク質をコードするcDNAが、以下の(a)~(d)のDNAである、上記(1)~(6)のいずれか1つに記載の組換えワクシニアウイルス。
(a) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNA
(b) 配列番号1に示す塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAと80%以上の同一性を有し、かつ、デングウイルス由来の非構造タンパク質をコードするDNA
(c) 配列番号2に示す塩基配列からなるDNA
(d) 配列番号2に示す塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAと80%以上の同一性を有し、かつ、デングウイルス由来の非構造タンパク質をコードするDNA
(e) 配列番号3に示す塩基配列からなるDNA
(f) 配列番号3に示す塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAと80%以上の同一性を有し、かつ、デングウイルス由来の非構造タンパク質をコードするDNA
【0010】
(8)上記(1)~(7)のいずれか1つに記載の組換えワクシニアウイルスを含む、医薬組成物。
(9)デングウイルス感染症の予防薬である、上記(8)に記載の医薬組成物。
(10)デングウイルス感染症の治療薬である、上記(8)に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、臨床において使用可能な治療又は予防薬となり得るデングウイルスワクチンとしての組換えワクシニアウイルス、及びそれを用いた医薬組成物等を提供することができる。
本発明の組換えワクシニアウイルスは、デングウイルスワクチンとして、当該ウイルス非感染者に接種した場合でも、その後、デング熱やデング出血熱(特に重症度の高いデング出血熱)の発症リスクを抑制できる(例えば、antibody-dependent enhancement(ADE)の現象による重症疾患(デング出血熱など)の病態の誘発を抑制し得る)ものである点で極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】世界におけるデングウイルス感染の現状を示す図である。
図2】臨床開発が進められているデングワクチンの一覧を示す図である。
図3】デングウイルス遺伝子組換えワクシニアウイルスの遺伝子構成を示す図である。
図4】本発明において開発され得るワクチンの種類を示す図である。
図5】デングウイルスNS1タンパク質発現の同定の結果を示す図である。
図6】デングウイルスNS2B、NS3、NS4A、NS4B及びNS5タンパク質発現の同定の結果を示す図である。
図7】rDIs-DENV2C-NS25のウイルス力価をより高めるために、そのNS5領域にアミノ酸置換変異を加えた変異株(rDIs-DENV2C-NS25-GND)を作製したことを示す図である。
図8】rDIs-DENV2C-NS25-GNDの変異株にすること等によりウイルス増殖率が高まったことを示す図である。
図9】rDIs-DENV2C-NS1ワクチン接種による抗体誘導の結果を示す図である。
図10】rDIs-DENV2C-NS1接種マウスにおける細胞性免疫誘導の結果を示す図である。
図11】rDIs-DENV2C-NS25-GNDワクチン接種による抗体誘導の結果を示す図である。
図12】rDIs-DENV2C-NS25接種マウスにおける細胞性免疫誘導の結果を示す図である。
図13】AG129マウスを用いた、ワクチン接種による発症防御効果の評価方法を示す図である。
図14】AG129マウスを用いた、ワクチン接種による発症防御効果の評価結果を示す図である。
図15】AG129マウスを用いた、ワクチン接種による発症防御効果の評価結果を示す図である。
図16】AG129マウスを用いた、ワクチン接種による発症防御効果の評価結果を示す図である。
図17】(A)は、AG129マウスを用いた、ワクチン接種による発症防御効果(具体的には、ワクチンが直接対象とする血清型とは異なる血清型のデングウイルスに対する排除効果(発症防御効果))の評価方法を示す図である。(B)は、当該マウスを用いた、ワクチン接種による上記発症防御効果の評価結果(肝臓及び脾臓中のウイルス量の抑制)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる特願2019-047582号明細書(平成31年(2019年)3月14日出願)の全体を包含する。本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0014】

1.本発明の概要
デングウイルス(以下、DENVともいう)に感染後、異なる血清型に属するデングウイルスが2回目に感染した場合に、最初のウイルスに対する抗体が、2回目のウイルスの感染を助ける、antibody-dependent enhancement (以下、ADE)という現象を介して過剰なウイルス産生が引き起こされ、デング出血熱などの重症疾患の発症につながる。そこで、これらの病態を誘発しない、4つの血清亜型ウイルスに有効なワクチンが必要とされる。
構造タンパク質に対する抗体はADEを誘発する可能性があるので、この可能性のない非構造タンパク質のNS1領域やNS2-5領域(NS1領域以外の領域;具体的にはNS2A、NS2B、NS3、NS4A、NS4B及びNS5領域からなる領域)の遺伝子をDIs組換えワクチン作製用の組換えベクターへ挿入した。これらの組換えベクターを用いて組換えワクシニアウイルス(rDIs-DENV2C-NS1及びrDIs-DENV2C-NS25)の樹立を進めた。樹立したワクシニアウイルスを動物に接種したところ、細胞性免疫の誘導が認められた。また、ワクチンとして当該ワクシニアウイルスを接種した動物に、デングウイルスを攻撃感染したところ、血清中又は臓器(肝臓や脾臓等)中のウイルス量の減少・抑制が認められ(図14図17)、体重減少の阻害(図15)や、生存率の上昇(図16)など同一血清型に加えて異なる血清型デングウイルス(例えば血清型1型)に対しても顕著な発症防御(阻害)効果が認められた。
本発明は、以上のようにして完成された。
【0015】

2.デングウイルス(DENV)組換えワクシニアウイルスの作製
デングウイルス(DENV)のタンパク質をコードしているすべての遺伝子、外殻タンパク質領域をコードする遺伝子、及び複製に関与している非構造タンパク質領域をコードする遺伝子は、すでにクローニングされ、プラスミドの状態で保存されている。したがって、本発明の組換えワクシニアウイルスに含まれる遺伝子、すなわちDENVの非構造タンパク質領域を含む遺伝子は、通常の遺伝子工学的手法により得ることができる。例えば、遺伝子工学的手法として一般的に用いられているDNA合成装置を用いた核酸合成法を使用することができる。また、鋳型となる遺伝子配列を単離又は合成した後に、それぞれの遺伝子に特異的なプライマーを設計し、PCR装置を用いてその遺伝子配列を増幅するPCR法、又はクローニングベクターを用いた遺伝子増幅法を用いることができる。上記方法は、当業者であれば、「Moleculer cloning 4th Edt. Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012)」等に従って、行うことができる。得られたPCR産物の精製には公知の方法を用いることができる。好ましい態様としては、上記プラスミドに挿入されているDENV遺伝子を鋳型に用い、DENV遺伝子の所望の領域(非構造タンパク質領域)に特異的なプライマーを用いてPCRを行うことにより、DENVの各遺伝子領域をコードするDNAを調製することができる。
【0016】
本発明においては、DENVのすべての遺伝子領域のうちの非構造タンパク質領域をコードする遺伝子DNAを、組換えワクシニアウイルスの作製に用いる。当該非構造タンパク質領域は、NS1、NS2A、NS2B、NS3、NS4A、NS4B及びNS5領域からなる領域であり、本発明においては、このうちNS1領域と、NS1領域以外の領域(すなわち、NS2A、NS2B、NS3、NS4A、NS4B及びNS5領域からなる領域;NS2-5領域)とをそれぞれ用いる。ここで、DENVには、デング1,2,3,4の4種類の血清型(1型、2型、3型及び4型)が存在する。その中でデング2はさらにアジア型とコスモポリタン型に分けられるため、DENVには、計5種類の主要な型が存在することとなる。いずれの型のDENVにおいても、非構造タンパク質領域は、NS1、NS2A、NS2B、NS3、NS4A、NS4B及びNS5領域からなる領域である。本発明の組換えワクシニアウイルスの作製においては、いずれの型のDENVに由来する非構造タンパク質領域のcDNAを用いてもよく、限定はされないが、好ましくはデング2に由来するものであり、より好ましくはデング2のコスモポリタン型に由来するものである。
【0017】
本発明においては、デング2のコスモポリタン型のDENVに由来する非構造タンパク質領域中のNS1領域をコードする塩基配列DNAを、配列番号1に示し、NS2-5領域をコードする塩基配列DNAを、配列番号2に示す。また、NS2-5領域をコードする塩基配列DNAの変異型DNA(NS2-5領域中のNS5領域部分に変異(詳しくは、NS5の酵素活性を欠失させる変異)を加えた領域をコードするDNA)を、配列番号3に示す。但し、配列番号1、2及び3に示される塩基配列からなるDNAのほか、以下のDNAも、本発明において使用することができる。
【0018】
配列番号1に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAと80%以上、90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の同一性(相同性)を有し、かつ、デングウイルス由来の非構造タンパク質をコードするDNA(NS1領域の変異型DNA)。
配列番号2に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAと80%以上、90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の同一性(相同性)を有し、かつ、デングウイルス由来の非構造タンパク質をコードするDNA(NS2-5領域の変異型DNA)。
配列番号3に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAと80%以上、90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の同一性(相同性)を有し、かつ、デングウイルス由来の非構造タンパク質をコードするDNA(NS2-5領域中のNS5領域部分に変異を加えた領域の変異型DNA)。
【0019】
配列番号1に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、デングウイルス由来の非構造タンパク質をコードするDNA(NS1領域の変異型DNA)。
配列番号2に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、デングウイルス由来の非構造タンパク質をコードするDNA(NS2-5領域の変異型DNA)。
配列番号3に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、デングウイルス由来の非構造タンパク質をコードするDNA(NS2-5領域中のNS5領域部分に変異(詳しくは、NS5の酵素活性を欠失させる変異)を加えた領域の変異型DNA)。
【0020】
ここで、「デングウイルス由来の非構造タンパク質をコードする」とは、ウイルスが増殖するときに細胞中に産生されるタンパク質をコードすることを意味する。また、上記非構造タンパク質をコードする遺伝子には、全長配列のほか、その一部の配列も含まれる。
上記変異型DNAは、化学合成により得ることができ、あるいは、配列番号1、2及び3で表される塩基配列からなるDNA、又はその断片をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、サザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法により、cDNAライブラリー及びゲノムライブラリーから得ることができる。また、上記ハイブリダイゼーションにおいてストリンジェントな条件としては、たとえば、0.1×SSC~10×SSC、0.1%~1.0%SDS及び20℃~80℃の条件が挙げられ、より詳細には、37℃~56℃で30分以上プレハイブリダイゼーションを行った後、0.1×SSC、0.1%SDS中、室温で10~20分の洗浄を1~3回行う条件が挙げられる。ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、「Moleculer cloning 4th Edt. Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012)」等を参照することができる。
【0021】
本発明の組換えワクシニアウイルスの作製は、特に限定はされないが、例えば、DENVの非構造タンパク質領域(NS1やNS2-5の所望の領域)をコードする塩基配列DNAを、所望の発現ベクター(プラスミド)に挿入し、そのプラスミドベクターを宿主であるワクシニアウイルスに導入することで行うことができる。当該発現ベクターとしては、特に限定はされないが、例えば、pSMART(登録商標)ベクター等を用いることができ、本発明の組換えワクシニアウイルスに含まれる発現プロモーターは、従来よりワクシニアウイルス遺伝子発現に使用されている各種発現プロモーター(例えばmH5プロモーター等)を用いることができる。
【0022】
プラスミドベクターの宿主への導入は、公知の任意の手法を採用することができ、例えば、弱毒ワクシニアウイルスDIs株を感染した動物細胞中に、上記のプラスミドベクターを導入することにより、ワクシニアウイルスのゲノム内で相同組換えを引き起こし、DENVの非構造タンパク質の所望の領域を発現する組換えワクシニアウイルスを作製することができる。
なお、上記の弱毒ワクシニアウイルスDIs株は、天然痘のワクチンであった大連株(DIE)から1日卵継代法により樹立された宿主域遺伝子欠損体で高度に弱毒化したもので、Chick Embryo Fibroblast (CEF) cells でのみ増殖可能であり、国立予防衛生研究所(現 国立感染症研究所)の多賀谷勇博士により開発された(Tagaya et al. Nature 1961)。大規模な遺伝子欠失によりマウス、モルモット、ウサギ、ヒトなどほとんどの哺乳動物細胞で増殖ができない。このために免疫不全・免疫抑制患者に万が一接種されても、安全性が担保される。
【0023】
作製した組換えワクシニアウイルスは、ウイルスゲノムを鋳型としてDENVの非構造タンパク質領域遺伝子特異的なプライマーによりPCRを行い、所望の非構造タンパク質領域の遺伝子導入を確認することができる。
また、所望の非構造タンパク質の発現は、作製した組換えワクシニアウイルスを感染させた後の動物細胞をサンプルとして、ウエスタンブロット法により確認することができる。なお、ウエスタンブロット法における抗体は、例えば、所望の非構造タンパク質領域を特異的に認識する市販の抗体や、DENVポリペプチドを免疫して作製した抗血清からProtein GによりIgGを精製したものを使用することができる。
【0024】

3.デングウイルス感染症の予防又は治療用の医薬組成物
本発明は、上記組換えワクシニアウイルスを含む医薬組成物、より具体的には、デングウイルス感染症の予防薬および治療薬としての医薬組成物を提供する。デングウイルス感染症としては、例えば、デング熱、デング出血熱などが挙げられる。
【0025】
本発明の医薬組成物は、あらゆる公知の方法、例えば、筋肉、腹腔内、皮内又は皮下等の注射、あるいは鼻腔、口腔又は肺からの吸入、経口投与により生体に導入することができる。さらに、本発明の医薬組成物に含まれる組換えワクシニアウイルスと、既存の抗ウイルス薬(例えばインターフェロン)を併用することも可能である。併用の態様は特に限定されるものではなく、本発明の組換えワクシニアウイルスと既存の抗ウイルス薬とを同時に投与することもできるし、一方を投与後、一定時間経過後に他方を投与する方法により生体に導入することもできる。
また、本発明の医薬組成物は、賦形剤、増量剤、結合剤、滑沢剤等公知の薬学的に許容される担体、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等と混合することができる。
【0026】
本発明の医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、シロップ剤等の経口投与剤、注射剤、外用剤、坐剤、点眼剤等の非経口投与剤などの形態に応じて、経口投与又は非経口投与することができる。好ましくは、皮内、筋肉、腹腔等への局部注射等が例示される。
投与量は、有効成分の種類、投与経路、投与対象、患者の年齢、体重、性別、症状その他の条件により適宜選択されるが、組換えワクシニアウイルスの一日投与量としては、経口の場合は1000~1000000000PFU(plaque forming units)程度、好ましくは100000~100000000PFU程度であり、非経口の場合は100~1000000000PFU(plaque forming units)程度、好ましくは1000~100000000PFU程度である。ウイルスは、1日1回投与することもでき、数回に分けて投与することもできる。
【0027】
本発明の組換えワクシニアウイルスは、デングウイルス感染症の予防用または治療用ワクチンとして使用され得るが、予めワクチンとしての抗体価または細胞性免疫活性を測定しておくことが好ましい。
例えば、本発明の組換えワクシニアウイルス、または親株であるDIs株に対する抗体価は、これらのウイルス株をマウス、ウサギ等に接種後、経時的に血清を回収し、血清のDENVタンパク質に対するELISA価やNanoLuc(登録商標)価等を測定することで得ることができる。これにより接種個体でのデングウイルスの遺伝子発現及び免疫応答の有無を確認できる。本発明の組換えワクシニアウイルスを接種したマウス血清は、接種1週間後からDENVタンパク質に対する抗体価の上昇が認められた。
【0028】
また、細胞性免疫活性は、本発明の組換えワクシニアウイルス、または親株であるDIs株をマウスに接種後、免疫したマウスから脾臓細胞を分離し、DENVの非構造タンパク質に特異的なCD4陽性及びCD8陽性細胞が誘導・活性化されている否かを、FACSやELISPOT assayにより測定することができる。本発明においては、本発明の組換えワクシニアウイルスにより免疫したBALB/cマウス由来の脾臓細胞を、各非構造タンパク質を発現する標的細胞と共培養することによって、抗原特異的に活性化したCD4及びCD8陽性T細胞が検出された。このことから、本発明の組換えワクシニアウイルスによる免疫は、BALB/cマウスにおいて、DENVの非構造タンパク質に特異的な細胞性免疫を誘導することが分かった。
以上のことから、本発明者らが作製した組換えワクシニアウイルスは、DENVに対する液性免疫及び細胞性免疫を誘導することが確認された。
さらに、本発明に係る組換えワクシニアウイルス(デングウイルスワクチン)は、当該ワクシニアウイルスが本来直接対象とする血清型のデングウイルスに対してはもちろん、その血清型とは異なる血清型のデングウイルスに対しても(すなわち、好ましくは、4種の血清亜型のうちの、2種又は3種あるいは全て(4種)の血清型のデングウイルスに対して)、排除効果(免疫応答による発症防御効果)を有する(つまり、交差反応性を有する)ものである、又は有することが期待されるものである。本発明に係る組換えワクシニアウイルスは、デングウイルス感染で特に問題となっているantibody-dependent enhancement(ADE)の現象による重症疾患(デング出血熱など)の病態の誘発を抑制し得るワクシニアウイルス(ワクチン)として有用なものである。
【0029】

以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0030】
1.方法
(1)デングウイルス非構造タンパク質遺伝子組換えワクシニアワクチンの作製及び評価
i)遺伝子組換えに用いるデングウイルス株の選択
デングウイルスにはデング1,2,3,4の4種類の血清型が存在する。その中でデング2はさらにアジア型とコスモポリタン型に分けられ、計種類の主要な型が存在する。この5種類デングウイルスの血清型系統樹解析の結果、ほぼ中央に位置するデング2型コスモポリタン株(Dengue-2: Cosmopolitan: o1Sa-054)の遺伝子をワクチン候補として選択した。解析に使用した5種類の遺伝子配列情報を以下に示す。
【0031】
Dengue-1: genotype-I, M-72, Myanmar 2013 clinical isolate (NCBI GenBank Accession number: KR051912)(配列番号10)
【0032】
Dengue-2: Asian I, M-82, Myanmar 2013 clinical isolate (NCBI GenBank Accession number: KR051902)(配列番号11)
【0033】
Dengue-2: Cosmopolitan, o1Sa-054(非構造タンパク質NS1領域の遺伝子配列情報:配列番号1;非構造タンパク質NS2-5領域の遺伝子配列情報:配列番号2)
【0034】
Dengue-3: isolate DEL-72 (NCBI GenBank Accession number: GQ466079.1)(配列番号12)
【0035】
Dengue-4: strain GZ/9809/2012 (NCBI GenBank Accession number: KC333651.1)(配列番号13)
【0036】
ii)デング2コスモポリタン株の非構造タンパク質領域の遺伝子をクローニングし、NS-1領域およびNS2-5領域の遺伝子を、下記の「NS-1領域プライマー」及び「NS2-5領域プライマー」を用いて、PCRを行った。当該PCR産物をSbf-I酵素及びAsiSI酵素で消化後、DIs株遺伝子組換えプラスミドであるtransfer vector pUC/DIs(Koji Ishii et. al, Virology 2001,302, 433-444)改変ベクターに挿入した。その後、DIs組換えワクチン作製用の組換えベクターへ挿入した(図3)。NS2-5領域GND変異を導入するにあたっては、下記の「NS2-5領域変異導入プライマー」を用いてクイックチェンジ法(QuikChange; Stratagene)により行った。この組換えベクターを用いて組換えウイルスの樹立を進めた(図4)。組換えDIsに挿入された遺伝子配列を確認した後、デングウイルスタンパク質が発現していることをウエスタンブロット法で確認した(図5、6)。
【0037】
<NS-1領域プライマー>
SbfI-mH5p-NS1-2420-F:
5’_GGGCGGCCCTGCAGGAAAAATTGAAAATAAATACAAAGGTTCTTGAGGGTTGTGTTAAATTGAAAGCGAGAAATAATCATAAATAGCCTTGGCGatgAGCACCTCTCTGTCTGTGTCACTAG_3’(配列番号4)
NS1-SgfI (AsiSI)-3430-R:
5’_GGGCGGCGCGATCGCTCACTATTAGGCTGTGACCAAAGAGTTGACCAA_3’(配列番号5)
【0038】
<NS2-5領域プライマー>
SbfI-mH5p-NS2-3474-F:
GGGCGGCCCTGCAGGAAAAATTGAAAATAAATACAAAGGTTCTTGAGGGTTGTGTTAAATTGAAAGCGAGAAATAATCATAAATAGCCTTGGCGatgGGACATGGGCAGATTGACAAC(配列番号6)
SgfI (AsiSI)-NS5-10224-R:
GGGCGGCGCGATCGCTCACATTTACCACAGGACTCCTGCCTCTTCC(配列番号7)
【0039】
<NS2-5領域変異導入プライマー>
DEN2C NS5 GND-F:
5’_CAAGAATGGCTATCAGTGGAaATGATTGTGTTGTGAAACC_3’(配列番号8)
DEN2C NS5 GND-R:
5’_GGTTTCACAACACAATCATtTCCACTGATAGCCATTCTTG_3’(配列番号9)
【0040】
なお、上記のNS-1領域プライマー(配列番号4、5)を用いたPCRは、以下の反応液組成及び反応条件で行った。
【0041】
<反応液組成>
鋳型cDNA(DENV 2C cDNA): 1.0μL
5×Q5 DNA polymerase バッファー: 5μL
2.5mM dNTP: 2.5μL
Q5 DNA polymerase (2.0U/μl): 0.5μL
Fプライマー (10μM): 1.25μL
Rプライマー (10μM): 1.25μL
滅菌水: 13.5μL
合計: 25μL
【0042】
<反応条件>
「熱変性・解離:98℃(10 sec)→アニーリング:71℃(15 sec)→合成・伸長:72℃(40 sec)」を1サイクルとして計35サイクル。
【0043】
また、上記のNS2-5領域プライマー(配列番号6、7)を用いたPCRは、以下の反応液組成及び反応条件で行った。
【0044】
<反応液組成>
鋳型cDNA(DENV 2C cDNA): 1.0μL
5×Q5 DNA polymerase バッファー: 5μL
2.5mM dNTP: 2.5μL
Q5 DNA polymerase (2.0U/μl): 0.5μL
Fプライマー (10μM): 1.25μL
Rプライマー (10μM): 1.25μL
滅菌水: 13.5μL
合計: 25μL
【0045】
<反応条件>
「熱変性・解離:98℃(10 sec)→アニーリング:72℃(15 sec)→合成・伸長:72℃(40 sec)」を1サイクルとして計35サイクル。
【0046】
さらに、上記のNS2-5領域変異導入プライマー(配列番号8、9)を用いたクイックチェンジ法については、以下のキット、反応液組成及び反応条件で行った。
QuickChange Lightning Site-Directed Mutagenesis kit (Stratagene #210518)
【0047】
<反応液組成>
鋳型DNA(DENV 2C NS25 plasmid): 1.0μL
10×反応バッファー: 2.0μL
2.5mM dNTP: 0.4μL
Fプライマー (50ng/ul): 1.0μL
Rプライマー (50ng/ul): 1.0μL
QuickSolution reagent: 0.6μL
QuickChange Lightning Enzyme: 0.4μL
滅菌水: 13.6μL
合計: 20μL
【0048】
<反応条件>
「熱変性・解離:95℃(20 sec)→アニーリング:60℃(10 sec)→合成・伸長:68℃(6 min)」を1サイクルとして計18サイクル。
【0049】
iii)動物へ接種して抗体の産生および細胞性免疫の誘導効果を検証するために必要なデングウイルス遺伝子組換えDIsワクチン候補株を、大量に培養して準備を進めた。
この経過中に、NS2-5領域遺伝子-DIs組換えウイルス(rDIs-DENV2C-NS25)の力価が低く、大量増殖が困難である事が明らかとなった。そこで、デングウイルスNS5の酵素活性を欠失した変異株(rDIs-DENV2C-NS25-GND)を作製した(図7)。
【0050】
(2)デングウイルス非構造タンパク質遺伝子組換えワクシニアワクチンの動物での評価
作製したNS-1領域あるいはNS2-5領域遺伝子を含むDIs組換えワクチンを、BALB/c及びC57BL/6マウスに接種して免疫応答評価を行った。
【0051】
i)NS-1領域遺伝子-DIs組換えワクチン(rDIs-DENV2C-NS1)はBALB/c及びC57BL/6マウスに対して高い抗体産生と細胞性免疫の誘導が認められた。
【0052】
ii)NS2-5領域遺伝子-DIs組換えワクチン(rDIs-DENV2C-NS25)はNS2領域に対する抗体の産生と、NS3領域に対する細胞性免疫の誘導が認められた。さらにワクチン接種量、ワクチン回数、期間など詳細な検討を進めている。
【0053】
(3)デングウイルス感染モデル動物の選択及びワクチン効果の評価
野生型のマウスはデングウイルス感染が弱く、また、デングウイルス感染により出血熱など誘発する動物モデルは見出されていない。ワクチン効果を検証するためにはデングウイルス感染モデル動物が必須となる。そこで、マーモセット、ツパイおよび遺伝子改変マウスを用いて感染感受性及び病態発症の評価を進めている。
【0054】
i)遺伝子改変マウス
野生型のマウスはデングウイルス感染が弱く、デング熱が発症もしないことが知られている。そこで、抗ウイルスに働くインターフェロンの受容体欠失マウスを用いて感染発症動物モデルとしての可能性を検討した。I型及びII型インターフェロンの受容体欠失マウス(AG129マウス)にデングウイルスを攻撃感染したところ、発症・死亡する事を見いだした。このAG129マウスにデングウイルス非構造タンパク質遺伝子組換えワクシニアワクチンを接種し、さらにデングウイルス(血清型2型)で攻撃感染を行った。ワクチン接種群は被接種群に比較して、良好な感染発症防御効果を示した。
【0055】
ii)マーモセット
マーモセットにデングウイルス(血清型1型、血清型2型)を接種して14日間にわたり血中ウイルス量、抗体誘導の有無などの臨床経過を観察した。
【0056】
iii)ツパイ
ツパイにデングウイルス(血清型1型、血清型2型)を接種して14日間にわたり血中ウイルス量、抗体誘導の有無などの臨床経過を観察した。
【0057】

2.結果
(1)デングウイルスNS5の酵素活性を欠失した変異株(rDIs-DENV2C-NS25-GND)を作製した。rDIs-DENV2C-NS25-GND組換えウイルスにすることで4倍以上の高収率が得られるようになった(図8)。
【0058】
(2)作製したNS-1領域あるいはNS2-5領域遺伝子を含むDIs組換えワクチン(rDIs-DENV2C-NS1、rDIs-DENV2C-NS25)を、BALB/c及びC57BL/6マウスに接種して免疫応答評価を行った。
【0059】
i)NS-1領域遺伝子-DIs組換えワクチン(rDIs-DENV2C-NS1)はBALB/c及びC57BL/6マウスに対して高い抗体産生と細胞性免疫の誘導が認められた(図9,10)。
【0060】
ii)NS2-5領域遺伝子-DIs組換えワクチン(rDIs-DENV2C-NS25)はNS2領域に対する抗体の産生と、NS3領域に対する細胞性免疫の誘導が認められた。さらにワクチン接種量、ワクチン回数、期間など詳細な検討を進めている(図11,12)。
【0061】
(3)NS2-5領域遺伝子-DIs組換えワクチン(rDIs-DENV2C-NS25-GND)をAG129マウスに接種して2週間後にデングウイルス(血清型2型)の攻撃感染を行い、免疫応答による発症防御効果の評価を行った(図13)。このように、ワクチン接種動物にデングウイルスを攻撃感染したところ、血清中ウイルス量の減少が認められ(図14)、また体重減少の阻害、生存率の上昇などの顕著な発症防御効果が認められた(図15,16)。
【0062】
(4)マーモセットにデングウイルス(血清型1型、血清型2型)を接種して14日間にわたり血中ウイルス量、抗体誘導の有無などの臨床経過を観察した。14日間にわたり血中ウイルスが検出され、またウイルス粒子に対する抗体及びNS-1領域の抗体が産生されており感染感受性があることを見出した。また、マーモセットにデング1,2,3,4型を接種して臨床経過を観察したところ、抗デングウイルス抗体が産生されており感染感受性があることを見出した。また、デング1,2,3,4型ともに潜血反応陽性を示し、腎臓に異常所見が認められた。以上の知見から、マーモセットによるワクチンの感染発症防御効果を評価することが可能となった。
【0063】
(5)ツパイにデングウイルス(血清型1型、血清型2型)を接種して14日間にわたり血中ウイルス量、抗体誘導の有無などの臨床経過を観察した。14日間にわたり血中ウイルスが検出され、またウイルス粒子に対する抗体及びNS-1領域の抗体が産生されており感染感受性があることを見出した。ツパイにデング1,2,3,4型を接種して臨床経過を観察した。全ての個体でNS-1領域の抗体が産生されており感染感受性があることを見出した。以上の知見から、ツパイによるワクチンの感染発症防御効果を評価することが可能となった。現在、デングウイルス-DIs組換えワクチンを接種し、ワクチンの感染発症防御効果の評価を進めている。
【0064】

3.考察
デングウイルスに感染後、異なる血清型に属するデングウイルスが2回目に感染した場合に、最初のウイルスに対する抗体が、2回目のウイルスの感染を助ける、antibody-dependent enhancement (ADE)という現象を介して過剰なウイルス産生が引き起こされ、デング出血熱などの重症疾患の発症につながる。デングウイルス非構造タンパク質に対するワクチンはウイルス粒子に結合する抗体を産生しないのでADEを起こす危険性はなく、有効な予防ワクチンとなり得る。NS-1領域遺伝子-DIs組換えワクチン及びNS2-5領域遺伝子-DIs組換えワクチンはマウス実験において抗体の産生及び細胞性免疫の誘導が認められた。さらにワクチン免疫マウスへデングウイルを攻撃感染したところ顕著なウイルス排除及び発症防御効果を示した。これらのことから、NS-1領域遺伝子-DIs組換えワクチン(rDIs-DENV2C-NS1)及びNS2-5領域遺伝子-DIs組換えワクチン(rDIs-DENV2C-NS25)は、ADE誘発の危険性を回避できる、有効な新規ワクチンで有ることが示された。
【実施例2】
【0065】
実施例1で作製した、NS2-5領域遺伝子-DIs組換えウイルス(rDIs-DENV2C-NS25)の変異株(rDIs-DENV2C-NS25-GND)を、I型及びII型インターフェロンの受容体欠失マウス(AG129マウス)の皮膚に、1×108 PFUで接種(単回接種)し、2週間後に、当該マウスにデングウイルス1株(血清型1型;NIID-02-17株)の攻撃感染(皮下への感染)を行い、免疫応答による発症防御効果の評価を行った(図17A)。
上記感染から13~16日後の当該マウスの肝臓中及び脾臓中のウイルス量を定量的RT-PCRで測定した結果、rDIs-DENV2C-NS25-GND接種群(ワクチン接種群)で、有意にウイルス量が低値を示した(図17B)。
よって、rDIs-DENV2C-NS25-GNDの接種は、異なる血清型のデングウイルス(血清型1型)が感染した場合であっても、速やかに排除し得る効果を有することが実証された。このように、本願発明に係る組換えワクシニアウイルス(デングウイルスワクチン)は、異なる血清型のデングウイルス(好ましくは、全ての血清型(4つの血清亜型)のデングウイルス)に対しても、排除効果(免疫応答による発症防御効果)を有するものである。そのため、デングウイルス感染で特に問題となっているantibody-dependent enhancement(ADE)の現象による重症疾患(デング出血熱など)の病態を誘発させない組換えワクシニアウイルスとして、本発明は有用なものである。
【0066】

4.関連情報・論文
(1) Jin-Won Youn, Yu-Wen Hu, Nancy Tricoche, Wolfram Pfahler, Mohamed Tarek Shata, Marlene Dreux, Franc,ois-Loic Cosset, Antonella Folgori, Dong-Hun Lee, Betsy Brotman, and Alfred M. Prince. Evidence for Protection against Chronic Hepatitis C Virus Infection in Chimpanzees by Immunization with Replicating Recombinant Vaccinia Virus. JOURNAL OF VIROLOGY, Nov. 2008, 82 (21): 10896-10905. doi:10.1128/JVI.01179-08
(2) FRANCOIS HABERSETZER, GERALDINE HONNET, CHRISTINE BAIN, MARIANNE MAYNARD-MUET, VINCENT LEROY, JEAN-PIERRE ZARSKI, CYRILLE FERAY, THOMAS F. BAUMERT, JEAN-PIERRE BRONOWICKI, MICHEL DOFFOEL, CHRISTIAN TREPO,DELPHINE AGATHON, MYEW-LING TOH, MARTINE BAUDIN, JEAN-YVES BONNEFOY, JEAN-MARC LIMACHER, and GENEVIEVE INCHAUSPE. A Poxvirus Vaccine Is Safe, Induces T-Cell Responses, and Decreases Viral Load in Patients With Chronic Hepatitis C. GASTROENTEROLOGY 2011;141:890-899. doi:10.1053/j.gastro.2011.06.009
(3). Satoshi Sekiguchi, Kiminori Kimura, Tomoko Chiyo, Takahiro Ohtsuki, Yoshimi Tobita, Yuko Tokunaga, Fumihiko Yasui, Kyoko Tsukiyama-Kohara, Takaji Wakita, Toshiyuki Tanaka, Masayuki Miyasaka, Kyosuke Mizuno, Yukiko Hayashi, Tsunekazu Hishima, Kouji Matsushima and Michinori Kohara. Immunization with a recombinant vaccinia virus that encodes nonstructural proteins of the hepatitis C virus suppresses viral protein levels in mouse liver. PLoS ONE 7(12):e51656 (2012).
(4) Takeshi Wada, Michinori Kohara and Yasuhiro Yasutomi. DNA vaccine expressing the non-structural proteins of hepatitis C virus diminishes the expression of HCV proteins in a mouse model. Vaccine 31(50):5968-74, doi: 10.1016/j.vaccine.2013.10.037 (2013).
(5) Takahiro Ohtsuki, Kiminori Kimura, Yuko Tokunaga, Kyoko Tsukiyama-Kohara, Chise Tateno, Yukiko Hayashi, Tsunekazu Hishima, and Michinori Kohara. M2 macrophages play critical roles in progression of inflammatory liver disease in hepatitis C virus transgenic mice. J. Virology 2015 Oct 14;90(1):300-7. doi: 10.1128/JVI.02293-15.
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の組換えワクシニアウイルス、及びそれを用いた医薬組成物等は、デングウイルスワクチンとして、当該ウイルス非感染者に接種した場合でも、その後、デング熱やデング出血熱(特に重症度の高いデング出血熱)の発症リスクを抑制できる(例えば、antibody-dependent enhancement(ADE)の現象による重症疾患(デング出血熱など)の病態の誘発を抑制し得る)ものである点で極めて有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0068】
配列番号3:改変DNA
配列番号4:合成DNA
配列番号5:合成DNA
配列番号6:合成DNA
配列番号7:合成DNA
配列番号8:合成DNA
配列番号9:合成DNA
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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【配列表】
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