(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ユーロピウム化合物の結晶体及びユーロピウム化合物の結晶体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 17/271 20200101AFI20240912BHJP
C01F 17/224 20200101ALI20240912BHJP
C01F 17/259 20200101ALI20240912BHJP
C01F 17/30 20200101ALI20240912BHJP
【FI】
C01F17/271
C01F17/224
C01F17/259
C01F17/30
(21)【出願番号】P 2020046604
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 直
(72)【発明者】
【氏名】犬井 正彦
(72)【発明者】
【氏名】多賀谷 基博
(72)【発明者】
【氏名】片岡 卓也
(72)【発明者】
【氏名】本塚 智
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107311217(CN,A)
【文献】特開2020-033240(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103172102(CN,A)
【文献】特表2013-521208(JP,A)
【文献】特開平11-071111(JP,A)
【文献】特開2017-179003(JP,A)
【文献】TAGAYA, M. et al.,Synthesis of Luminescent Nanoporous Silica Spheres Functionalized with Folic Acid for Targeting to C,Inorganic Chemistry,2014, Vol. 53,p. 6817-6827
【文献】TAGAYA, M. et al.,In Vitro Targeting of Cancer Cells with Luminescent Nanoporous Silica Spheres,Transactions on GIGAKU,2012, Vol. 1, No. 01014,p. 1-8
【文献】多賀谷基博,高次構造制御された無機/有機ナノ複合体の創製と光機能化,DV-Xα研究協会会報,2014, Vol.26, No.1-2,p. 22-26
【文献】TAGAYA, M. et al.,Synthesis and Luminescence Properties of Eu(III)-doped Nanoporous Silica Spheres,Journal of Colloid and Interface Science,2011, Vol. 363, No. 2,p. 456-464
【文献】TAGAYA, M. et al.,Efficient Synthesis of Eu(III)-Containing Nanoporous Silicas,Materials Letters,2011, Vol. 65, No. 14,p. 2287-2290
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 17/271
C01F 17/224
C01F 17/259
C01F 17/30
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーロピウムを含有するユーロピウム化合物の結晶体であって、
粉末X線回折パターンにおいて、回折角度(2θ)が34.3~36.1°の範囲に第1回折ピークを有し該第1回折ピークの半価幅が1.8°以下であるか、及び/又は、回折角度(2θ)が28.6~29.6°の範囲に第2回折ピーク及び回折角度(2θ)が36.8~38.4°の範囲に第3回折ピークを有し該第2回折ピークの半価幅が1.0°以下であり該第3回折ピークの半価幅が1.6°以下であり、
下記化学式(1)~(4)で表される化合物から選択される少なくとも一種の化合物である、ユーロピウム化合物の結晶体。
EuCl
x ・・・(1)
Eu(OH)
2 ・・・(2)
Eu(OH)
2Cl・・・(3)
EuOCl ・・・(4)
(式(1)中、xは0.05以上5以下である。)
【請求項2】
請求項1に記載のユーロピウム化合物の結晶体の製造方法であって、
ケイ酸塩系基材と塩化ユーロピウム(III)六水和物とを混合し、固相メカノケミカル反応させる工程を含み、
前記ケイ酸塩系基材が、ケイ素元素(Si)及び酸素元素(O)を含有し、固体
29Si-NMRスペクトルにおける、Si(OSi)
4に由来するピーク面積をQ
4とし、HO-Si(OSi)
3に由来するピーク面積をQ
3としたときの、Q
4/Q
3が2.0~3.9であり、
前記固相メカノケミカル反応は、前記塩化ユーロピウム(III)六水和物を、前記ケイ酸塩系基材のケイ素元素とユーロピウム元素との合計モル数に対するユーロピウム元素のモル数の割合が1.0モル%以上となるように添加し、且つ、4N以上24N以下の荷重下で行う、ユーロピウム化合物の結晶体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーロピウム化合物の結晶体及びユーロピウム化合物の結晶体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ユーロピウムを含有するユーロピウム化合物は、例えば発光物質として用いられている。このような発光物質は、例えば、生体内の細胞や分子に発光物質を取り込ませて可視化(画像化)しその動態や機能を解析等するバイオイメージング技術に使用することができる(特許文献1参照)。
【0003】
ここで、ユーロピウム化合物であるユーロピウムの塩化物、ユーロピウムの水酸化物や、ユーロピウムの塩化水酸化物は、非晶質体であり、従来結晶体は知られていない。これらユーロピウムの塩化物、ユーロピウムの水酸化物や、ユーロピウムの塩化水酸化物について、結晶体を提供することができれば、非晶質体では得られ難い効果や用途が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ユーロピウムを含有するユーロピウム化合物の結晶体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ケイ素元素(Si)及び酸素元素(O)を含有し、固体29Si-NMRスペクトルにおける、Si(OSi)4に由来するピーク面積をQ4とし、HO-Si(OSi)3に由来するピーク面積をQ3としたときの、Q4/Q3が2.0~3.9であるケイ酸塩系基材と、塩化ユーロピウム(III)六水和物とを、ケイ酸塩系基材のケイ素元素とユーロピウム元素との合計モル数に対するユーロピウム元素のモル数の割合が1.0モル%以上となるように混合し、4N以上24N以下の荷重下で固相メカノケミカル反応させることにより、ユーロピウム化合物の結晶体を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の構成を有するものである。
【0007】
[1] ユーロピウムを含有するユーロピウム化合物の結晶体であって、
粉末X線回折パターンにおいて、回折角度(2θ)が34.3~36.1°の範囲に第1回折ピークを有し該第1回折ピークの半価幅が1.8°以下であるか、及び/又は、回折角度(2θ)が28.6~29.6°の範囲に第2回折ピーク及び回折角度(2θ)が36.8~38.4°の範囲に第3回折ピークを有し該第2回折ピークの半価幅が1.0°以下であり該第3回折ピークの半価幅が1.6°以下であり、
下記式(1)~(4)で表される化合物から選択される少なくとも一種の化合物である、ユーロピウム化合物の結晶体。
EuClx ・・・(1)
Eu(OH)2 ・・・(2)
Eu(OH)2Cl・・・(3)
EuOCl ・・・(4)
(式(1)中、xは0.05以上5以下である。)
【0008】
[2] 上記[1]に記載のユーロピウム化合物の結晶体の製造方法であって、
ケイ酸塩系基材と塩化ユーロピウム(III)六水和物とを混合し、固相メカノケミカル反応させる工程を含み、
前記ケイ酸塩系基材が、ケイ素元素(Si)及び酸素元素(O)を含有し、固体29Si-NMRスペクトルにおける、Si(OSi)4に由来するピーク面積をQ4とし、HO-Si(OSi)3に由来するピーク面積をQ3としたときの、Q4/Q3が2.0~3.9であり、
前記固相メカノケミカル反応は、前記塩化ユーロピウム(III)六水和物を、前記ケイ酸塩系基材のケイ素元素とユーロピウム元素との合計モル数に対するユーロピウム元素のモル数の割合が1.0モル%以上となるように添加し、且つ、4N以上24N以下の荷重下で行う、ユーロピウム化合物の結晶体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ユーロピウムの塩化物、ユーロピウムの水酸化物や、ユーロピウムの塩化水酸化物の結晶体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】球状のケイ酸塩系基材の表面全体に、ユーロピウム化合物の結晶体が被覆した構造を示す模式的断面図である。
【
図2】ケイ酸塩系基材1の固体
29Si-NMRスペクトルである。
【
図3】ケイ酸塩系基材1の粉末X線回折パターンである。
【
図4】ケイ酸塩系基材1の電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)による平均粒子径の測定結果である。
【
図5】実施例1の製造方法に用いた製造装置を説明する模式的側面図である。
【
図6】実施例及び比較例の粒子の粉末X線回折パターンである。
【
図7】実施例の粒子の励起スペクトル及び蛍光スペクトルである。
【
図8】実施例の粒子の粉末X線回折パターンである。
【
図9】実施例及び比較例の細胞密度の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、詳細に説明する。
<ユーロピウム化合物の結晶体>
本発明のユーロピウム化合物の結晶体は、粉末X線回折パターンにおいて、回折角度(2θ)が34.3~36.1°の範囲に第1回折ピークを有し該第1回折ピークの半価幅が1.8°以下であるか、及び/又は、回折角度(2θ)が28.6~29.6°の範囲に第2回折ピーク及び回折角度(2θ)が36.8~38.4°の範囲に第3回折ピークを有し該第2回折ピークの半価幅が1.0°以下であり該第3回折ピークの半価幅が1.6°以下である。
【0012】
そして、本発明のユーロピウム化合物の結晶体は、下記化学式(1)~(4)で表される化合物から選択される少なくとも一種の化合物を含む。
EuClx ・・・(1)
Eu(OH)2 ・・・(2)
Eu(OH)2Cl・・・(3)
EuOCl ・・・(4)
(式(1)中、xは0.05以上5以下である。)
【0013】
本発明のユーロピウム化合物の結晶体は、回折角度(2θ)が34.3~36.1°の範囲に第1回折ピークを有し該第1回折ピークの半価幅が1.8°以下であってもよいし、回折角度(2θ)が28.6~29.6°の範囲に第2回折ピーク及び回折角度(2θ)が36.8~38.4°の範囲に第3回折ピークを有し該第2回折ピークの半価幅が1.0°以下であり該第3回折ピークの半価幅が1.6°以下であってもよいし、また、回折角度(2θ)が34.3~36.1°の範囲に第1回折ピークを有し該第1回折ピークの半価幅が1.8°以下であり且つ回折角度(2θ)が28.6~29.6°の範囲に第2回折ピーク及び回折角度(2θ)が36.8~38.4°の範囲に第3回折ピーク(2θ)を有し該第2回折ピークの半価幅が1.0°以下であり該第3回折ピークの半価幅が1.6°以下であってもよい。
第1回折ピークの半価幅は1.1°以下であることが好ましい。第2回折ピークの半価幅は0.6°以下であることが好ましい。第3回折ピークの半価幅は、1.0°以下であることが好ましい。
第1回折ピークは、化学式(1)又は(2)で表される化合物の結晶体に由来する。また、第2回折ピーク及び第3回折ピークは、化学式(3)又は(4)で表される化合物の結晶体に由来する。
化学式(1)中、xは、0.2以上0.6以下が好ましい。
【0014】
「回折角度(2θ)がa~b°の範囲に回折ピークを有する」とは、その回折ピークのピークトップ位置(回折ピークトップ位置)が、a°~b°の範囲内に含まれていることを意味する。したがって、例えばブロードなピークにおいてピークの端部から端部までの全てがa°~b°の範囲内に含まれている必要はない。
【0015】
また、本発明のユーロピウム化合物の結晶体は、上記特定の回折ピーク以外の、他のピークを有していてもよい。
例えば、化学式(1)又は(2)で表される化合物の場合は、回折角度(2θ)が25.9~26.5°の範囲及び回折角度(2θ)が31.6~32.2°の範囲にも回折ピークを有していてもよい。回折角度(2θ)が25.9~26.5°の範囲の回折ピーク及び回折角度(2θ)が31.6~32.2°範囲の回折ピークは、それぞれ半価幅が0.6°以下であることが好ましく、0.4°以下であることがさらに好ましい。
また、化学式(3)又は(4)で表される化合物の結晶体の場合は、回折角度(2θ)が39.0~40.2°の範囲にも回折ピークを有していてもよい。回折角度(2θ)が39.0~40.2の範囲の回折ピークの半価幅は、1.2°以下であることが好ましく、0.8°以下であることがさらに好ましい。
【0016】
従来、上記化学式(1)~(4)で表される化合物の結晶体は知られていなかった。しかしながら、詳しくは後述するが、特定のケイ酸塩系基材と塩化ユーロピウム(III)六水和物とを用い、特定条件で固相メカノケミカル反応させることにより、上記特定の回折ピークを有する上記化学式(1)~(4)で表される化合物の結晶が得られた。
なお、「結晶体」とは、非晶質体ではないものであり、下記式(5)で表される結晶化度が0より大きいものである。結晶化度は、0.10より大きいものであることが好ましい。
結晶化度={結晶回折ピーク面積/アモルファスハロー回折ピーク面積}・・・(5)
(式(5)中、「結晶回折ピーク面積」とは、2θ=20~55°における結晶由来の回折ピークの面積の和であり、「アモルファスハロー回折ピーク面積」とは、2θ=20~55°において、観測されたすべての回折ピークの面積の和から結晶回折ピーク面積を引いた値である。)
【0017】
本発明のユーロピウム化合物の結晶体は、非晶質体と比べて塩化物イオン等のイオンが溶出し難いため、イオンの溶出により生じる悪影響が抑制される。本発明のユーロピウム化合物の結晶体は、例えば、非晶質体よりも細胞毒性が低いという特性を有する。
また、本発明のユーロピウム化合物の結晶体は、ユーロピウム(III)を含有するため、発光物質としての機能を有する。本発明のユーロピウム化合物の結晶体は、可視光領域で励起及び発光し、励起波長λexは例えば395nmや464nmであり、蛍光波長λemは例えば615nmである。
このように、本発明のユーロピウム化合物の結晶体は、細胞毒性が低く且つ発光物質としての機能を有するため、例えばバイオイメージング技術に好ましく用いることができる。また、本発明のユーロピウム化合物の結晶体は、励起波長及び発光波長が可視光領域であるため、バイオイメージングにおいて、光照射による生体組織及び標識材料の劣化を軽減でき、また、試料表面の光散乱を軽減し、観察感度を向上させることもできる。バイオイメージング技術に用いる場合、球状で平均粒子径50nm以上470nm以下程度になるようにして用いることが好ましい。
【0018】
<ユーロピウム化合物の結晶体の製造方法>
上記本発明のユーロピウム化合物の結晶体は、ケイ酸塩系基材と塩化ユーロピウム(III)六水和物とを混合し、固相メカノケミカル反応させる工程を含み、ケイ酸塩系基材が、ケイ素元素(Si)及び酸素元素(O)を含有し、固体29Si-NMRスペクトルにおける、Si(OSi)4に由来するピーク面積をQ4とし、HO-Si(OSi)3に由来するピーク面積をQ3としたときの、Q4/Q3が2.0~3.9であり、固相メカノケミカル反応は、塩化ユーロピウム(III)六水和物を、ケイ酸塩系基材のケイ素元素(Si)とユーロピウム元素(Eu)との合計モル数に対するユーロピウム元素のモル数の割合(Euのモル数/(Siのモル数+Euのモル数))が1.0モル%以上となるように添加し、且つ、4N以上24N以下の荷重下で行う、本発明のユーロピウム化合物の結晶体の製造方法により製造することができる。
【0019】
本発明の製造方法で用いるケイ酸塩系基材は、ケイ素元素(Si)及び酸素元素(O)を含有するものである。ケイ酸塩系基材のSiに対するOのモル比O/Siは、2.0~2.2が好ましい。ケイ酸塩系基材としては、シリカ等の酸化ケイ素や、ケイ酸塩からなる基材が挙げられ、これらは結晶体でも非晶質体でもよい。
【0020】
また、ケイ酸塩系基材は、固体29Si-NMRスペクトルにおける、Si(OSi)4に由来するピーク面積をQ4とし、HO-Si(OSi)3に由来するピーク面積をQ3としたときの、Q4/Q3が2.0~3.9である。Q4/Q3は2.2~2.6であることが好ましい。
【0021】
このようなケイ素元素(Si)及び酸素元素(O)を含有し、Q4/Q3が2.0~3.9であるケイ酸塩系基材は、以下の方法で製造することができる。
このQ4/Q3が2.0~3.9であるケイ酸塩系基材は、従来公知のスート法によるシリカガラスの製造法(例えばVAD(Vapor phase Axial Deposition)によるシリカガラスの製造法)において生じる粒子状物質(スート体や副生成物)として、得ることができる。
例えば、四塩化珪素を原料とし、酸素・水素火炎中にて加水分解反応させ、多孔質合成石英ガラス(スート体)としてシリカガラスを製造する際、酸素・水素火炎中にて加水分解反応した後、火炎より脱離し多孔質合成石英ガラスとならなかった粒子が、上記ケイ酸塩系基材になり得る。
上記製造の条件を調整することにより、上記ケイ酸塩系基材が得られる。例えば、原料である四塩化珪素を酸素・水素火炎バーナーの中心部へ導入し、火炎温度帯長さと、酸素・水素ガスのガスバランスを調整する。具体的には、例えば、1000℃以上の火炎温度帯長さ:100mm以上800mm以下、水素と酸素の体積比(H2/O2):1.0以上2.5以下の範囲内で、核生成や粒成長を調整する。火炎温度帯長さを長くするとQ4/Q3が大きくなる傾向があり、H2/O2を大きくするとQ4/Q3が小さくなる傾向がある。
【0022】
ケイ酸塩系基材の形状は特に限定されず、例えば、球状でも板状でもよい。また、ケイ酸塩系基材の大きさも特に限定されない。
【0023】
なお、製造されるユーロピウム化合物の結晶体とケイ酸塩系基材との複合体をバイオイメージングに用いる場合は、細胞毒性の観点から、ケイ酸塩系基材は、球状で、平均粒子径が50nm以上470nm以下であり、非晶質体であることが好ましい。
【0024】
このようなケイ酸塩系基材及び塩化ユーロピウム(III)六水和物を、ケイ酸塩系基材のケイ素元素(Si)に対してユーロピウム元素(Eu)が1.0モル%以上となるように混合し、4N以上24N以下の荷重下で、固相メカノケミカル反応させる。
4N以上24N以下の荷重下でケイ酸塩系基材を塩化ユーロピウム(III)六水和物と固相メカノケミカル反応させることができれば、その方法は特に限定されない。例えば、粉末状のケイ酸塩系基材と塩化ユーロピウム(III)を乳鉢に入れ、乳棒に4N以上24N以下の荷重をかけながら乳棒を回転させることにより、粉砕すればよい。乳鉢を電子天秤に載せた状態で上記操作を行うことにより、電子天秤の計量表示計で、荷重値を読み取ることができる。また、板状のケイ酸塩系基材表面に塩化ユーロピウム(III)を載せ、4N以上24N以下の荷重をかけながら乳棒を動かすことにより、粉砕してもよい。この場合、板状のケイ酸塩系基材を電子天秤に載せた状態で上記操作を行うことにより、電子天秤の計量表示計で、荷重値を読み取ることができる。荷重は4N以上24N以下の範囲内であればよいが、荷重を大きくすることにより、結晶性を高めることができる。荷重をかけない、又は荷重が小さい場合は、本発明のユーロピウム化合物の結晶体を得ることはできない。
【0025】
ケイ酸塩系基材と塩化ユーロピウム六水和物との割合は、ケイ酸塩系基材のケイ素元素(Si)とユーロピウム元素(Eu)との合計モル数に対するユーロピウム元素(Eu)のモル数の割合(Euのモル数/(Siのモル数+Euのモル数))が1.0モル%以上になるようにする必要があり、該ケイ素元素(Si)とユーロピウム元素(Eu)との合計モル数に対するユーロピウム元素(Eu)のモル数の割合が1.0モル%以上7.0モル%以下とすることが好ましい。
【0026】
ユーロピウム化合物は、従来作り分けが難しかったが、本発明の製造方法によれば、固相メカノケミカル反応におけるEuの量により、化学式(1)~(4)で表される化合物の作り分けをすることができる。
具体的には、固相メカノケミカル反応時のユーロピウムの濃度が低い状態(反応時のOHが少ない状態)では、化学式(1)及び(2)式で表される化合物が共存し、反応時のユーロピウムの濃度増加に伴って多層構造が形成し始めると、化学式(1)で表される化合物と化学式(2)式で表される化合物とが相互作用して、化学式(3)及び(4)式で表される化合物へと変化していく傾向がある。このため、固相メカノケミカル反応におけるEuの量により、化学式(1)~(4)で表される化合物の作り分けをすることができる。なお、化学式(3)で表される化合物は、化学式(4)で表される化合物を経て、生成する傾向がある。
【0027】
固相メカノケミカル反応させた後、焼成し、必要に応じて有機溶媒や水で洗浄する。
【0028】
このような製造方法により、ケイ酸塩系基材の表面に本発明のユーロピウム化合物の結晶体が形成される。例えば、球状のケイ酸塩系基材を用いた場合は、球状のケイ酸塩系基材の表面の少なくとも一部に、ユーロピウム化合物の結晶体が被覆した複合体となる。一例として、球状のケイ酸塩系基材1の表面全体に、ユーロピウム化合物の結晶体2が被覆された複合体の模式的断面を
図1に示す。また、板状のケイ酸塩系基材を用いた場合は、板状のケイ酸塩系基材の表面の少なくとも一部に、ユーロピウム化合物の結晶体が被覆した複合体となる。
ユーロピウム化合物の結晶体は、ケイ酸塩系基材表面に存在する酸素原子とユーロピウム化合物が含有するユーロピウム原子が配位結合する等の何らかの化学結合により、ケイ酸塩系基材と強固に結合していると推測される。
【0029】
<ユーロピウム化合物の結晶体の用途>
本発明のユーロピウム化合物の結晶体は、細胞毒性が低く且つ発光物質としての機能を有するため、バイオイメージング技術に好ましく用いることができる。例えば、本発明のユーロピウム化合物の結晶体は、該ユーロピウム化合物の結晶体とこれを製造する際に用いた球状のケイ酸塩系基材との複合体(以下「発光ナノ粒子」ともいう。)として、バイオイメージング技術に用いることができる。
【0030】
バイオイメージング技術に用いる発光ナノ粒子は、表面に水酸基(OH基)を有することが好ましい。また、発光ナノ粒子の表面をアミノ基が修飾していることも好ましく、例えばアミノ基を含有したシランカップリング剤を用いて形成してもよい。OH基及びアミノ基は、ケイ酸塩系基材が細孔を有する場合は、細孔内表面にあってもよいが、細孔外表面にあることが好ましい。OH基又はアミノ基が細胞結合分子と水素結合又は縮合重合による共有結合で固定化され、発光ナノ粒子の表面が細胞結合分子に修飾されると、細胞結合分子は、がん細胞や正常細胞と特異結合することができる。細胞結合分子が細胞と特異結合すると、発光ナノ粒子が細胞内に取り込まれる。これにより、細胞内の発光ナノ粒子を発光させ、がん細胞等を検出することが可能となる。
【0031】
細胞結合分子としては、HER2抗体、ヒト上皮成長因子受容体に特異結合する抗体、がん特異的抗体、リン酸化タンパク抗体、葉酸、葉酸受容体βに特異結合する抗体、血管内皮細胞特異的抗体、組織特異的抗体、トランスフェリン、トランスフェリン結合型ペプチド、糖鎖と結合性を有するタンパク質等が挙げられる。この中でも、がん細胞が取り込む傾向にある葉酸を、細胞結合分子として用いることが好ましい。がん細胞は、細胞膜上に葉酸受容体が過剰発現するため、葉酸分子を特異的に結合・取込する傾向にあるためである。
【0032】
また、発光ナノ粒子の表面が抗がん剤分子で修飾されてもよい。抗がん剤分子が、がん細胞と特異結合すると、発光ナノ粒子が細胞内に取り込まれる。これにより、細胞内の発光ナノ粒子を発光させ、がん細胞を検出することができ、且つ、抗がん剤分子もがん細胞に取り込まれ、抗がん剤が作用し、がん細胞の増殖を抑制することができる。
【0033】
細胞結合分子や抗がん剤分子は、発光ナノ粒子の表面に、化学結合によって修飾、固定されることが好ましい。化学結合としては、ペプチド結合(-CO-NH-)、水素結合等が挙げられる。
【0034】
例えば、発光ナノ粒子を細胞内に投入し、発光ナノ粒子に光を照射し、細胞を観察することにより、細胞を検出することができる。
また、発光ナノ粒子を、ヒトを除く動物に投与し、発光ナノ粒子に光を照射し、ヒトを除く動物を治療することもできる。
また、体内細胞の検査を行う検査部と、体内細胞の診断を行う診断部と、及び/又は体内細胞の治療を行う治療部とを備え、検査、診断、及び/又は、治療を行う際に、発光ナノ粒子を体内細胞内に投入し、発光ナノ粒子に光を照射する光照射部をさらに備える医療装置とすることもできる。体内細胞の検査を行う検査部としては、例えば精密画像診断を行う蛍光内視鏡が挙げられる。また、体内細胞の診断を行う診断部としては、例えば組織生検を行う装置が挙げられる。さらに、体内細胞の治療を行う治療部としては、内視鏡による腫瘍部摘出装置が挙げられる。また、体内細胞の例としては、口腔癌、咽頭癌、食道癌、大腸癌、小腸癌、肺癌、乳癌、膀胱癌に係るがん細胞を例示することができる。
【0035】
また、本発明のユーロピウム化合物の結晶体は、バイオイメージング用途以外に用いることができ、例えば、発光ダイオード等の発光デバイス用途も期待される。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
(ケイ酸塩系基材1の製造)
四塩化珪素を原料とし、酸素・水素火炎中にて十分に加水分解反応させ、多孔質合成石英ガラス(スート体)としてシリカガラスを製造した。この際に、酸素・水素火炎中にて加水分解反応した後、火炎より脱離し多孔質合成石英ガラスとならなかった粒子を、ケイ酸塩系基材1とした。なお、四塩化珪素は酸素・水素火炎バーナーの中心部より導入し、1000℃以上の火炎温度帯長さは400mm、水素と酸素の体積比(H2/O2)比は1.5とした。
【0038】
(ケイ酸塩系基材の固体
29Si-NMRスペクトルにおけるQ
4/Q
3)
得られたケイ酸塩系基材1について、以下の条件で固体
29Si-NMRスペクトルを測定した。結果を
図2に示す。
<測定条件>
装置名:Bruker Advance 300wbs spectrometer(BRUKER社製)
測定方法:DD(Dipolar Decoupling)法
試料管:7mm
試料回転数:5000rpm
共振周波数:59.62MHz
パルス幅:4.5msec.
待ち時間:60sec
積算回数:1000times
標準試料:ヘキサメチルシクロトリシロキサン(-9.55ppm)
<ピーク分離法>
(ベースラインの作成法)
操作(1):-70~-79ppmの範囲の強度の平均値1と、-131~-140ppmの範囲の強度の平均値2を算出する
操作(2):2点(-70ppm,平均値1)(-140ppm,平均値2)を通る直線をベースラインと定義
操作(3):ベースライン値をスペクトルから削除
(ピーク分離方法)
分離方法:Microsoft Office 2016 Excel(登録商標)のソルバー機能
使用した関数:ガウス関数(式中、Aはピーク高さ、Bはピーク位置、Cは半価幅である。)
【数1】
ピーク帰属:
Q
2:-91±2ppm、2つの≡Si-O-Si≡結合と2つの≡Si-OH結合
Q
3:-100±2ppm、3つの≡Si-O-Si≡結合と1つの≡Si-OH結合
Q
4:-110±2ppm、4つの≡Si-O-Si結合
A,B,Cの初期条件:
Q
2:A=100000、B=-91、C=4
Q
3:A=400000、B=-100、C=5.5
Q
4:A=960000、B=-110、C=5.5
【0039】
図2より、ケイ酸塩系基材1について、得られたスペクトルを生データと定義しそれを上記のようにスペクトル分離した。固体
29Si-NMRスペクトルにおける、Si(OSi)
4に由来するピーク面積をQ
4とし、HO-Si(OSi)
3に由来するピーク面積をQ
3としたときの、Q
4/Q
3を求めたところ、2.4であった。なお、
図2に示すQ
2は、(HO)
2-Si(OSi)
2に由来するピークである。
【0040】
<ケイ酸塩系基材の粉末X線回折パターンの測定>
ケイ酸塩系基材1について、粉末X線回折(XRD)パターンを測定した。
試料水平型X線回折装置(XRD、(株)リガク製、Smart Lab)を用い、X線源:CuKα線源(λ:1.5418Å)、出力:40kV/30mA、スキャンスピード:3.0°/min、サンプリング幅:0.01°、測定モード:連続、の条件で測定した。結果を
図3に示す。
この結果、ケイ酸塩系基材1は、2θ=20°付近にみられるアモルファスハローパターンの半価幅が大きく6.7°であり、また、結晶由来のピークは観察されず、非晶質体であった。
【0041】
(ケイ酸塩系基材の平均粒子径の測定)
ケイ酸塩系基材1(粒子粉末)をカーボンペーストにて観察用の試料台に固定した後、乾燥させた。次いで、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)(日立ハイテクノロジーズ株式会社製、SU8230)により、粒子を観察し、粒径を100個以上計測し、平均粒子径を算出した。具体的には、300個の粒子について、各粒子の長径及び短径をそれぞれ計測し、(長径+短径)/2を各粒子の粒径とした。この各粒子の粒径の平均値(各粒子の粒径の合計値を個数(300)で除した値)を平均粒子径(Ave.)とし、また、変動係数(Cv.)を計算した。結果を
図4に示す。
この結果、ケイ酸塩系基材1の平均粒子径は151nmであり、変動係数は45%であった。
【0042】
(実施例1)
図5は、実施例1の製造方法に用いた製造装置を説明する模式的側面図である。
図5に示すように、半球状凹空間(直径65mm、深さ30mm)を有する瑪瑙乳鉢11内で、半球状凸部(先端直径20mm、高さ5mm)を有する長さ80mmの乳棒12により粉砕することにより、ケイ酸塩系基材と塩化ユーロピウム(III)六水和物とを、4Nの荷重下で、固相メカノケミカル反応させた。具体的には、乳鉢11内の、120℃で24時間乾燥させたケイ酸塩系基材1 0.4g(6.66mmol)へ、塩化ユーロピウム六水和物(EuCl
3・6H
2O,和光純薬(株)製,試薬特級,純度99.9wt%)を、Si及びEuの合計モル数に対するEuのモル数の割合(Euのモル数/(Siのモル数+Euのモル数))が5.0モル%となるように添加した。そして、5分間、乳棒12により乳棒12を自転させずに乳鉢11内凹空間内の半径25mmの円周上を公転させた。乳棒12の公転は、120回転/minとし、乳棒12に荷重を4Nかけて行った。なお、乳鉢11を電子天秤13に載せた状態で上記操作を行い、電子天秤13の計量表示計14で、荷重値を読み取った。
得られた粉末を、120℃で2時間乾燥させ、550℃で6時間焼成した。その後、40mLのエタノールで洗浄して遠心分離により固液分離し、固相を120℃で2時間乾燥させることで、実施例1の粒子(球状の粉末)を得た。
【0043】
(実施例2)
塩化ユーロピウム六水和物を、Si及びEuの合計モル数に対するEuのモル数の割合が2.5モル%となるように添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例2の粒子を得た。
【0044】
(実施例3)
塩化ユーロピウム六水和物を、Si及びEuの合計モル数に対するEuのモル数の割合が1.25モル%となるように添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例3の粒子を得た。
【0045】
(比較例1)
塩化ユーロピウム六水和物を、Si及びEuの合計モル数に対するEuのモル数の割合が0.625モル%となるように添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例1の粒子を得た。
【0046】
(比較例2)
塩化ユーロピウム六水和物を、比較例2の粒子として用いた。
【0047】
<粉末X線回折(XRD)>
実施例1~3及び比較例1~2の粒子について、以下の条件で粉末X線回折(XRD)パターンを測定した。
試料水平型X線回折装置(XRD、(株)リガク製、Smart Lab)を用い、X線源:CuKα線源(λ:1.5418Å)、出力:40kV/30mA、スキャンスピード:3.0°/min、サンプリング幅:0.01°、測定モード:連続、の条件で測定した。回折ピーク位置、回折角、及び、半価幅は、装置に付属のソフトウェア((株)リガク製、ソフト名:PDXL)により得た。回折ピークは、PDXLの自動プロファイル処理により、2次微分法(2次微分が負(上に凸)の領域をピークとして検出する方法)により、バックグラウンドの除去、Kα
2線の除去、平滑化を順に行い、Bスプライン関数(分割疑Voigt関数)によりフィッティングすることで検出した。回折ピークを検出する際の閾値(標準偏差のカット値)は3.0とした。この閾値の意味は回折ピークの強度がその誤差の3.0倍以下の場合にその回折ピークを回折ピークとみなさないことを意味する。回折ピーク強度(回折ピークの高さ)が高い順に三点を選定し、結晶体の同定に利用した。
また、上記式(5)により結晶化度を算出した。
結果を表1及び
図6に示す。表1において、上段の各回折ピークが位置する回折角度2θを示す「m±n」は、回折ピークのピークトップ位置(回折ピークトップ位置)がm(°)であり、回折ピークの開始点がm-n(°)であり、回折ピークの終了点がm+n(°)であることを示す。具体的に、回折ピークトップは、各回折ピークの開始点から終了点までベースラインを引き、開始点から終了点まで間の最大強度(最大高さ)と定義した。その回折ピークトップの位置(回折角)を回折ピークトップ位置とした。また、表1において、下段の括弧内は、各回折ピークにおける半価幅である。半価幅は、「m-n」°~「m+n」°の範囲内において回折ピークトップの50%の強度(高さ)になっている回折ピーク位置間の幅を示している。
【0048】
表1及び
図6に示すように、実施例2~3は、粉末X線回折パターンにおいて、回折角度(2θ)が34.3~36.1°の範囲に回折ピーク(第1回折ピーク)を有し該回折角度(2θ)が34.3~36.1°の範囲の回折ピークの半価幅が1.8°以下であり、化学式(1)又は(2)で表される化合物の結晶体を含んでいた。なお、化学式(1)におけるxは0.2以上0.6以下であった。
また、実施例2~3は、いずれも回折角度(2θ)が25.9~26.5°の範囲及び回折角度(2θ)が31.6~32.2°の範囲に回折ピークを有し、該回折角度(2θ)が25.9~26.5°範囲の回折ピーク及び回折角度(2θ)が31.6~32.2°の範囲の回折ピークの半価幅は、いずれも0.6°以下であった。
【0049】
また、実施例1は、粉末X線回折パターンにおいて、回折角度(2θ)が28.6~29.6°の範囲及び回折角度(2θ)が36.8~38.4°の範囲に回折ピーク(第2回折ピーク、第3回折ピーク)を有し、該回折角度(2θ)が28.6~29.6°の範囲の回折ピークの半価幅が1.0°以下であり回折角度(2θ)が36.8~38.4°の回折ピークの半価幅が1.6°以下であり、化学式(3)又は(4)で表される化合物の結晶体を含んでいた。
また、実施例1は、回折角度(2θ)が39.0~40.2°の範囲に回折ピークを有し、該回折角度(2θ)が39.0~40.2の回折ピークの半価幅が1.2°以下であった。
また、表1及び
図6に示すように、実施例1~3で得られた粒子では、結晶化度が0超えであり、表面に、ユーロピウム化合物の結晶が形成された一方、比較例1~2の粒子では非晶質であった。
【0050】
【0051】
<発光特性>
実施例1~3の粒子ついて、以下の条件で、励起スペクトル及び蛍光スペクトルを測定した。
・励起スペクトル
分光光度計(PL、JASCO(株)、FP-8500)で、検出波長(615nm)を固定して、励起スペクトルを得た。測定条件は、雰囲気:空気、励起/検出スリットサイズ:2.5nm/2.5nm、ステップ幅:1.0nm、サンプル重量:20mg、形状:ペレット、とした。
・蛍光スペクトル
分光光度計(PL、JASCO(株)、FP-8500)で、室温下でXeランプから試料へ励起光を照射し(励起波長:395nm)、PLスペクトル(蛍光スペクトル)を得た。測定条件は、雰囲気:空気、励起/検出スリットサイズ:2.5nm/2.5nm、ステップ幅:1.0nm、サンプル重量:20mg、形状:ペレット、とした。
【0052】
図7に示すように、実施例1~3全てで、Eu(III)イオンに起因する励起ピーク(
7F
0→
5D
4遷移、
7F
0→
5G
4遷移、
7F
0→
5L
6遷移、
7F
0→
5D
2遷移、
7F
0→
5D
1遷移)及び発光ピーク(
5D
0→
7F
1遷移、
5D
0→
7F
2遷移、
5D
0→
7F
3遷移、
5D
0→
7F
4遷移)が観測された。
また、実施例1~3の粒子それぞれについて、
図7から、励起波長λ
ex=395nm,発光波長λ
em=615nmでの内部量子収率を求めたところ、1.0~4.0%であった。
【0053】
(実施例4)
荷重を8.0Nにしたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例4の粒子を得た。
【0054】
(実施例5)
荷重を12.0Nにしたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例5の粒子を得た。
【0055】
実施例4~5の粒子について、上記<粉末X線回折(XRD)>と同様にした結果を表2及び
図8に示す。
。
表2及び
図8に示すように、実施例4~5は、いずれも回折角度(2θ)が28.6~29.6°の範囲及び回折角度(2θ)が36.8~38.4°の範囲に回折ピーク(第2回折ピーク、第3回折ピーク)を有し、該回折角度(2θ)が28.6~29.6°の範囲の回折ピークの半価幅が1.0°以下であり回折角度(2θ)が36.8~38.4°の回折ピークの半価幅が1.6°以下であり、化学式(3)又は(4)で表される化合物の結晶体を含んでいた。
また、実施例4~5は、いずれも回折角度(2θ)が39.0~40.2°の範囲に回折ピークを有し、該回折角度(2θ)が39.0~40.2°の回折ピークの半価幅が1.2°以下であった。
また、表2及び
図8に示すように、実施例4~5で得られた粒子では、いずれも結晶化度が0超えであり、表面に、ユーロピウム化合物の結晶が形成されていた。
また、表2及び
図8に示すように、荷重を大きくすることにより、結晶性を高めることができることが分かる。
【0056】
【0057】
実施例1~3又は比較例1~2の粒子を用いて、以下の方法で、がん細胞イメージングと蛍光強度測定による、毒性評価を行った。
(粒子へのがん細胞結合分子(葉酸誘導体FA-NHS)の修飾)
実施例1~3又は比較例1~2の粒子250mgに、HCl水溶液(pH=2)12mLを添加し、超音波処理を行った。次に、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)0.78mL(3.3mmol)を5mLのエタノールに含有させた溶液を調製し、超音波処理した溶液に加え、混合溶液を得た。当該混合溶液を40℃で20時間攪拌した(pH<6.5)。攪拌終了後、当該混合溶液を遠心分離し、エタノールで洗浄した。洗浄後、減圧乾燥し、APTESが表面に修飾した粒子150mgを得た。このAPTESが表面に修飾した粒子150mgに、50mMのリン酸緩衝液(pH=7.0)25mLを添加し、超音波処理を行った。次に、FA-NHS(葉酸誘導体)430mg(0.8mmol)をジメチルスルホキシド(DMSO)12mLに含有させた溶液を調製し、超音波処理した溶液に加え、混合溶液を得た。当該混合溶液を室温で3時間攪拌した。攪拌終了後、当該混合溶液を遠心分離し、水で洗浄した。洗浄後、減圧乾燥し、実施例1~3又は比較例1~2のFA(葉酸)修飾粒子を得た。
【0058】
(細胞の培養)
Helaがん細胞をPSフラスコで培養した(播種濃度:100×104cells/37cm2)。解凍及び播種を7日間行った。
細胞を剥離、分離した。Helaの濃度は、(0.99±0.07)×105cells/mLであった。
細胞の濃度調整を行い、DMEM(ダルベッコ改変培地)に10vol%FBS(ウシ胎児血清)を培養した。1mLあたり、7.5×104cellsであった。
ポリスチレンディッシュ(TCPS)(培養面積:9.6cm2)へ2.25mL/TCPSの量で播種し、播種濃度は1.8×104cells/cm2であった。(顕微鏡観察)。
その後、培養した(温度:37℃、CO2濃度:5%、湿度100%)。
12時間後、実施例1~3又は比較例1~2のFA(葉酸)修飾粒子を10vol%DMEMへ添加し、分散させ、濃度100mg/mLに調整した。
【0059】
(細胞密度の測定)
上記細胞を培養後、細胞の入ったポリスチレンディッシュ(TCPS)を1mlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて2回洗浄し、細胞に取り込まれていないFA(葉酸)修飾粒子を除去し、0.05%Trypsin-EDTA0.1mlを細胞の入ったTCPSに入れ、CO
2インキュベータ内で12分静置し、TCPSから細胞を剥離した。剥離を確認後、細胞を含む懸濁液を50mlコニカルチューブにとり、遠心分離(2000rpm,2min)を行った。遠心分離後、上澄みを捨て、チューブに培地を7ml加え、転倒攪拌を10回程度行った後、遠心分離(2000rpm,2min)を行った。その後、上澄みを捨て、チューブに培地を20ml加え、ピペッティングを20回程度行い1mlを15mlのチューブに分取し、クリーンベンチの外でマイクロピペットを使いディスポーサブル血球計算版に細胞懸濁液を入れ、顕微鏡で細胞数を確認し、平均値(cell/cm
2)を算出した。
FA(葉酸)修飾粒子を細胞表面へ噴霧した3時間後から、12時間後、24時間後、36時間後、48時間後において、それぞれ細胞密度の平均値を算出した結果を
図9に示す。
【0060】
図9に示すように、表面にユーロピウム化合物の結晶体が形成された実施例1~3では、正常な細胞増殖挙動がみられ、細胞毒性がないことが確認された。つまり、結晶体として球状のケイ酸塩系基材へ複合化した場合、細胞毒性は無いと言える。
これに対し、比較例2では、正常な細胞増殖挙動がみられず、非晶質体であるEuCl
3・6H
2O単体では、不安定な塩化物であるため、細胞培養液へ溶出してEuイオンもしくはEu塩化物イオンとなって直接細胞と反応したと考えられる。同様に非晶質体である比較例1の粒子を用いた場合も、細胞培養液へ溶出してEuイオンもしくはEu塩化物イオンとなって直接細胞と反応したと考えられる。よって、非晶質体の場合は、溶出による細胞毒性があると言える。
【0061】
以上により、本発明のユーロピウム化合物の結晶体は、球状のケイ酸塩系基材との複合体とした場合、細胞は良好に成長し、細胞へ取り込ませて可視化するバイオイメージングに適合すると期待される。
【符号の説明】
【0062】
1 ケイ酸塩系基材(球状)
2 ユーロピウム化合物の結晶体