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特許7554425吸音材および多孔質材料の吸音材への使用方法
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  • 特許-吸音材および多孔質材料の吸音材への使用方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】吸音材および多孔質材料の吸音材への使用方法
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/168 20060101AFI20240912BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
G10K11/168
B32B5/18 101
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020083080
(22)【出願日】2020-05-11
(65)【公開番号】P2021179459
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100121636
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌靖
(72)【発明者】
【氏名】上野 智永
(72)【発明者】
【氏名】飯盛 浩司
(72)【発明者】
【氏名】古性 和樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 潤一
(72)【発明者】
【氏名】仙頭 準
(72)【発明者】
【氏名】田尻 浩三
【審査官】松崎 孝大
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-156141(JP,A)
【文献】特表2011-509909(JP,A)
【文献】特開2018-140554(JP,A)
【文献】特開2019-008160(JP,A)
【文献】特開2020-020452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/168
B32B 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材料からなる吸音材であって、
前記多孔質材料が、繊維と、前記繊維を分散可能なバインダーと、を含み、
前記多孔質材料の密度が0.5mg/cm~20mg/cmであり、
前記繊維がカーボンナノチューブ繊維であり、
前記多孔質材料がエアロゲルである、吸音材。
【請求項2】
前記繊維の直径が1nm~1000nmである、請求項に記載の吸音材。
【請求項3】
前記多孔質材料が2つ以上の層の積層体であり、該2つ以上の層の中の少なくとも2つの層の密度が互いに異なる、請求項1または2に記載の吸音材。
【請求項4】
JIS-A-1405-2による吸音率測定において、周波数600Hzにおける吸音率が0.10以上である、請求項1からまでのいずれかに記載の吸音材。
【請求項5】
多孔質材料を吸音材として使用する多孔質材料の使用方法であって、
前記多孔質材料が、繊維と、前記繊維を分散可能なバインダーと、を含み、
前記多孔質材料の密度が0.5mg/cm~20mg/cmであり、
前記繊維がカーボンナノチューブ繊維であり、
前記多孔質材料がエアロゲルである、多孔質材料の使用方法。
【請求項6】
前記繊維の直径が1nm~1000nmである、請求項に記載の多孔質材料の使用方法。
【請求項7】
前記多孔質材料が2つ以上の層の積層体であり、該2つ以上の層の中の少なくとも2つの層の密度が互いに異なる、請求項5または6に記載の多孔質材料の使用方法。
【請求項8】
前記吸音材の、JIS-A-1405-2による吸音率測定において、周波数600Hzにおける吸音率が0.10以上である、請求項からまでのいずれかに記載の多孔質材料の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音材に関する。本発明は、また、多孔質材料の吸音材への使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吸音材は、建築、モビリティー、音響などの様々な分野において用いられている。吸音材は、一般に、多孔質吸音材、孔あき吸音材、板状吸音材などが知られている。これらの吸音材の中でも、多孔質吸音材が多く開発されている(例えば、特許文献1)。例えば、ガラス等の短繊維をボード状に成形しグラスウールやロックウール製品、短繊維を粒状にした粒状綿などが実用化されている。
【0003】
モビリティー分野、特に自動車における吸音材は、走行時の不快な騒音を低減し、車内の快適性を向上させるために用いられる。車内の騒音対策の対象となる周波数領域は5000Hz未満であるが、1000Hz以上の領域は、既存のフェルト、ウレタンなどの吸音材にて対策がなされている。
【0004】
近年の自動車は、温室効果ガス削減のため、動力源の電動化が急速に進んでおり、将来にわたってこの傾向が続くことは明白である。動力源の電動化が進むと、エンジン音に埋もれていた、こもり音、透過音、ロードノイズなどに由来する1000Hz未満の低周波数領域の騒音が顕在化するため、前記領域の騒音対策が新たな課題となっている。しかしながら、既存の吸音材では、1000Hz未満の低周波数領域においては吸音効果が低いため、この周波数領域を対象とする吸音材が望まれている。吸音材は、使用量を増やすことで吸音性能を全体的に向上させられることが可能であるが、車体重量増加、燃費や電費などの効率低下、運動性能低下を招くため、高い吸音性能を維持しつつ、より軽量なものが望まれている。
【0005】
軽量かつ低周波数から高周波数までの幅広い周波数領域において、バランスの良い吸音性能を示す吸音材として、不織布が用いられる。例えば、3M社のシンサレートがよく知られている。
【0006】
多孔質吸音材料中に音が入射すると、音は、吸音材料内の小さな隙間に入るので、音の周波数に応じて空気が圧縮と膨張を繰り返す。繊維からなる細い管を想定すると、空気の粘性および管の断面寸法等によって決まるエネルギー損失によって音は消滅する。また、空気の圧縮と膨張過程で発生し、移動する熱の伝導によっても音は消滅する。さらに、繊維自体の振動によってもエネルギー損失が起こる。このように、音のエネルギーが熱エネルギーに変わって消滅して、吸音される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-272280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、多孔質材料からなる吸音材であって、現時点で軽量かつ低周波数から高周波数までの幅広い領域においてバランスの良い吸音性能を示す不織布よりも、低周波数領域においてさらに高い吸音率を発現できる、吸音材を提供することにある。また、現時点で軽量かつ低周波数から高周波数までの幅広い領域においてバランスの良い吸音性能を示す不織布よりも、低周波数領域において、さらに高い吸音率を発現できる吸音材を提供することを目的とする、多孔質材料の吸音材への使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態による吸音材は、
繊維を含み、密度が0.5mg/cm~20mg/cmである、多孔質材料からなる。
【0010】
一つの実施形態においては、上記多孔質材料がエアロゲルである。
【0011】
一つの実施形態においては、上記繊維の直径が1nm~1000nmである。
【0012】
一つの実施形態においては、上記多孔質材料が2つ以上の層の積層体であり、該2つ以上の層の中の少なくとも2つの層の密度が互いに異なる。
【0013】
一つの実施形態においては、上記吸音材は、JIS-A-1405-2による吸音率測定において、周波数600Hzにおける吸音率が0.10以上である。
【0014】
本発明の実施形態による多孔質材料の使用方法は、
繊維を含み、密度が0.5mg/cm~20mg/cmである多孔質材料を、吸音材として使用する。
【0015】
一つの実施形態においては、上記多孔質材料がエアロゲルである。
【0016】
一つの実施形態においては、上記繊維の直径が1nm~1000nmである。
【0017】
一つの実施形態においては、上記多孔質材料が2つ以上の層の積層体であり、該2つ以上の層の中の少なくとも2つの層の密度が互いに異なる。
【0018】
一つの実施形態においては、上記吸音材は、JIS-A-1405-2による吸音率測定において、周波数600Hzにおける吸音率が0.10以上である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、多孔質材料からなる吸音材であって、現時点で軽量かつ低周波数から高周波数までの幅広い領域においてバランスの良い吸音率を示す不織布よりも、低周波数領域においてさらに高い吸音率を発現できる、吸音材を提供することができる。また、現時点で軽量かつ低周波数から高周波数までの幅広い領域においてバランスの良い吸音率を示す不織布よりも、低周波数領域において、さらに高い吸音率を発現できる吸音材を提供することを目的とする、多孔質材料の吸音材への使用方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例で製造した吸音材と不織布吸音材についての、低周波数領域における吸音率を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
≪吸音材≫
本発明の実施形態による吸音材は、繊維を含み、密度が0.5mg/cm~20mg/cmである、多孔質材料からなる。本発明の実施形態による吸音材が上記のような多孔質材料からなれば、現時点で軽量かつ低周波数から高周波数までの幅広い領域においてバランスの良い吸音率を示す不織布よりも、低周波数領域においてさらに高い吸音率を発現できる、吸音材を提供し得る。
【0022】
多孔質材料に含まれる繊維としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な繊維を採用し得る。このような繊維としては、例えば、炭素繊維、無機繊維、金属繊維、有機繊維などが挙げられる。このような繊維は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0023】
炭素繊維としては、例えば、カーボンナノチューブ繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、気相成長炭素繊維(VFCG)、セルロースナノファイバーや発酵ナノセルロース等のセルロース系炭素繊維、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバー、黒鉛繊炭素繊維などが挙げられる。好ましくは、カーボンナノチューブ繊維およびセルロースナノファイバーであり、より好ましくはカーボンナノチューブ繊維である。
【0024】
無機繊維としては、例えば、グラスファイバー、ガラス繊維、セラミックス繊維、ボロン繊維、ロックウール等の人造鉱物繊維、天然鉱物繊維、シリカ繊維、アルミナナノファイバー、酸化チタンナノチューブなどが挙げられる。
【0025】
金属繊維としては、例えば、アルミニウム、黄銅、ステンレス、チタン、スチールなどの金属からなる繊維が挙げられる。
【0026】
有機繊維としては、例えば、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリアセタール繊維、PBO繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリアクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリアクリル繊維、ナイロン繊維、これらの混合繊維などが挙げられる。
【0027】
多孔質材料に含まれる繊維の直径は、好ましくは1nm~1000nmであり、より好ましくは1nm~500nmであり、さらに好ましくは1nm~100nmであり、特に好ましくは2nm~20nmである。ここで直径とは、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡で繊維を観察し、その幅を多数測定したものの平均値を指す。なお、上記繊維の断面は、丸状である必要はない。上記繊維の断面は、楕円形、多角形、Y字型等でも構わない。上記繊維の断面が丸状以外の場合(例えば、上記の楕円形、多角形、Y字型等)においても、その直径は上記測定方法で直径を算出することは可能であるが、算出が困難な場合には、断面の外接円の直径を繊維の直径としてもよい。上記繊維の長さについては、特に限定されないが、直径の100倍~200000倍であることが好ましい。繊維の長さが直径に対して上記の範囲である場合、後述するエアロゲル粒子が結合したクラスター構造の形成が促進され、吸音性能が向上する傾向にある。
【0028】
多孔質材料に含まれる繊維の直径が上記範囲内にあれば、現時点で軽量かつ低周波数から高周波数までの幅広い領域においてバランスの良い吸音率を示す不織布よりも、低周波数領域においてさらに高い吸音率を発現できる、吸音材を提供し得る。
【0029】
多孔質材料中の繊維の含有割合は、好ましくは1質量%~70質量%であり、より好ましくは5質量%~60質量%であり、さらに好ましくは10質量%~50質量%であり、特に好ましくは15質量%~45質量%である。多孔質材料中の繊維の含有割合が上記範囲内にあれば、現時点で軽量かつ低周波数から高周波数までの幅広い領域においてバランスの良い吸音率を示す不織布よりも、低周波数領域においてさらに高い吸音率をより発現できる、吸音材を提供し得る。
【0030】
多孔質材料の密度は、0.5mg/cm~20mg/cmであり、好ましくは1.0mg/cm~20mg/cmであり、より好ましくは1.0mg/cm~18mg/cmであり、さらに好ましくは1.5mg/cm~18mg/cmであり、特に好ましくは2.0mg/cm~15mg/cmである。多孔質材料の密度が上記範囲内にあれば、現時点で軽量かつ低周波数から高周波数までの幅広い領域においてバランスの良い吸音率を示す不織布よりも、低周波数領域においてさらに高い吸音率を発現できる、吸音材を提供し得る。
【0031】
多孔質材料は、バインダーを含むことが好ましい。バインダーは、繊維を分散できるものであれば、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切なバインダーを採用し得る。このようなバインダーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等のカルボキシ基含有単量体の(共)重合体;カルボキシメチルセルロース(CMC)等のカルボキシ基含有(共)重合体;スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基含有単量体の(共)重合体;リグニンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸等のスルホン酸基含有(共)重合体;リン酸基含有(共)重合体;等が挙げられる。上記(共)重合体は、含まれる酸基が中和されていなくても、一部または全部が中和されていてもかまわない。上記共重合体における共重合体成分としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な共重合体成分を採用し得る。このような共重合体成分としては、例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アミド基含単量体等のノニオン性単量体などが挙げられる。例えば、CMCは水溶媒に速やかに溶けて分散し、水溶媒中で繊維の凝集を抑えることができる。これにより、現時点で軽量かつ低周波数から高周波数までの幅広い領域においてバランスの良い吸音率を示す不織布よりも、低周波数領域においてさらに高い吸音率をより発現できる、吸音材を提供し得る。
【0032】
多孔質材料中のバインダーの含有割合は、好ましくは10質量%~95質量%であり、より好ましくは20質量%~90質量%であり、さらに好ましくは30質量%~90質量%であり、特に好ましくは40質量%~85質量%である。多孔質材料中のバインダーの含有割合が上記範囲内にあれば、現時点で軽量かつ低周波数から高周波数までの幅広い領域においてバランスの良い吸音率を示す不織布よりも、低周波数領域においてさらに高い吸音率をより発現できる、吸音材を提供し得る。
【0033】
多孔質材料は、必要に応じて、粒子状物質を含んでいてもよい。多孔質材料に粒子状物質を適切に含ませることにより、多孔質材料の細孔を微小化することができ、多孔質材料の密度を調整することができる。粒子状物質としては、本発明の効果を損なわない範囲で任意の適切な粒子状物質を採用し得る。このような粒子状物質としては、例えば、有機材料、無機材料、有機無機複合材料などが挙げられる。このような粒子状物質としては、好ましくは、金属、金属酸化物などの無機材料から選択され、特に好ましくは、空隙を持つ無機多孔質材料が選択される。このような無機多孔質材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアからなる群から選ばれる少なくとも1種からなる粉末、或いはゾルを用いることができる。
【0034】
多孔質材料中の粒子状物質の含有割合は、好ましくは20質量%以下である。多孔質材料中の粒子状物質の含有割合が上記範囲内にあれば、現時点で軽量かつ低周波数から高周波数までの幅広い領域においてバランスの良い吸音率を示す不織布よりも、低周波数領域においてさらに高い吸音率をより発現できる、吸音材を提供し得る。
【0035】
多孔質材料は、好ましくは、スポンジ状のエアロゲルである。エアロゲルとは、湿潤ゲルを超臨界乾燥させて得られた低密度の乾燥ゲルを指す。一般的にエアロゲルの内部は網目状の微細構造となっており、2~20nm程度のエアロゲル粒子(エアロゲルを構成する粒子)が結合したクラスター構造を有している。このクラスターにより形成される骨格間には、200nmに満たない微細な細孔が存在し、三次元的に微細な多孔性の構造をしている。
【0036】
本発明の実施形態における吸音材を構成する多孔質材料は、繊維を主成分とし、好ましくは繊維とバインダーを含むスポンジ状のエアロゲルである。
【0037】
本発明の実施形態における吸音材は、JIS-A-1405-2による吸音率測定において、周波数600Hzにおける吸音率が、好ましくは0.10以上である。上記吸音率が上記範囲内にあれば、現時点で軽量かつ低周波数から高周波数までの幅広い領域においてバランスの良い吸音率を示す不織布よりも、低周波数領域においてさらに高い吸音率をより発現できる、吸音材を提供し得る。
【0038】
本発明の吸音材の一つの実施形態(吸音材実施形態1)は、多孔質材料が1つの層からなる。ここにいう層は、層状であればよく、厚みが一定である必要はない。また、層の厚みは、吸音材として配置する場所や環境などに応じて、任意の適切な厚みを採用し得る。
【0039】
本発明の吸音材の別の一つの実施形態(吸音材実施形態2)は、多孔質材料が2つ以上の層の積層体であり、該2つ以上の層の中の少なくとも2つの層の密度が互いに異なる。ここにいう層は、層状であればよく、厚みが一定である必要はない。また、層の厚みは、吸音材として配置する場所や環境などに応じて、任意の適切な厚みを採用し得る。
【0040】
吸音材実施形態2において、3つ以上の密度の異なる層が積層される場合、密度が小さいものから大きいものに、もしくは密度が大きいものから小さいものに順に積層されていてもよく、密度が大きいものと小さいものとが交互に積層されていてもよい。
【0041】
本発明の吸音材は、例えば、含まれる繊維もしくはバインダー等の材質や組成が異なる多孔質体が積層されている形態であっても良い。
【0042】
吸音材実施形態2が、低周波数領域において高い吸音率を発現できることは、例えば、シミュレーションによって実証できている。具体的には、伝達関数法による吸音率測定を模擬した数値計算において、吸音材を粘弾性試料と見なし、2つのマイクの設置位置における音圧の複素振幅を境界要素法により計算することで実証した。その際、前記試料の材料パラメーターとして、密度、ヤング率、ポアソン比、粘性係数などの物性を反映させた。これにより、密度および厚みの異なる2つの試料を積層すると、500Hz~1000Hzにおいて0.4~1.0の吸音率を与えることが示唆された。
【0043】
本発明の実施形態における吸音材を構成する多孔質材料は、炭素原子(C)の含有割合が、好ましくは10質量%~95質量%であり、より好ましくは20質量%~90質量%であり、さらに好ましくは25質量%~85質量%であり、特に好ましくは30質量%~80質量%である。本発明の実施形態における吸音材を構成する多孔質材料中の炭素原子(C)の含有割合が上記範囲内にあれば、現時点で軽量かつ低周波数から高周波数までの幅広い領域においてバランスの良い吸音率を示す不織布よりも、低周波数領域においてさらに高い吸音率をより発現できる、吸音材を提供し得る。
【0044】
≪吸音材の製造≫
本発明の実施形態における吸音材の製造方法としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な方法によって製造し得る。このような製造方法としては、代表的には、繊維と、好ましくはバインダーと、必要に応じて粒子状物質を、水中で分散させ、これを低温下で凍結乾燥することにより得ることができる。密度の異なる多孔質材料を積層する場合は、繊維とバインダーなどからなる濃度の異なる複数の分散溶液を逐次凍結乾燥すればよい。
【0045】
≪多孔質材料の使用方法≫
本発明の実施形態における多孔質材料の使用方法は、繊維を含み、密度が0.5mg/cm~20mg/cmである多孔質材料を、吸音材として使用する。
【0046】
本発明の実施形態における多孔質材料の使用方法において使用する多孔質材料は、前述の≪吸音材≫の項における多孔質材料の説明を援用し得る。
【実施例
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
【0048】
<吸音率の測定方法>
吸音率は、JIS-A-1405-2に従い、日本音響エンジニアリング製のWinZacMTXを用いて、背後空気層のない剛壁密着条件における垂直入射吸音率を測定した。
【0049】
[実施例1]
直径が2.0nm±0.5nmであるシングルウォールカーボンナノチューブ(株式会社名城ナノカーボン製、Meijo eDIPS EC2.0)0.200gとカルボキシメチルセルロースナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社製、分子量:100,000~110,000、Na含有率:6.5質量%~8.5質量%)0.300gを混合し、純水に分散させ200mLとした。これを直径約100mm×深さ13mmのシャーレに入れ、5℃で予備冷却の後、-80℃で凍結した。これをさらに-45℃~-50℃、圧力10Pa~20Paで凍結乾燥した。その後、常圧室温下でシャーレからエアロゲルを取り出して、密度3.4mg/cmの吸音材(1)を得た。結果を図1に示す。
図1に示すように、吸音材(1)は、周波数600Hzにおける吸音率が0.11であった。
【0050】
[実施例2]
直径が2.0nm±0.5nmであるシングルウォールカーボンナノチューブ(株式会社名城ナノカーボン製、Meijo eDIPS EC2.0)0.400gとカルボキシメチルセルロースナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社製、分子量:100,000~110,000、Na含有率:6.5質量%~8.5質量%)0.600gを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、密度6.1mg/cmの吸音材(2)を得た。当該吸音材の密度は6.1mg/cmであった。結果を図1に示す。
図1に示すように、吸音材(2)は、周波数600Hzにおける吸音率が0.16であった。
【0051】
[実施例3]
直径が3nm~5nm、配向集合体長さ100μm~600μmであるシングルウォールカーボンナノチューブ(ゼオンナノテクノロジー株式会社製、ZEONANO SG101)0.800gとカルボキシメチルセルロースナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社製、分子量:100,000~110,000、Na含有率:6.5質量%~8.5質量%)1.200gを用いたこと以外は実施例1と同様にして、密度12.2mg/cmの吸音材(3)を得た。結果を図1に示す。
図1に示すように、吸音材(3)は、周波数600Hzにおける吸音率が0.26であった。
【0052】
[比較例1]
1μm~4μmおよび20μm~30μmの直径を有する繊維からなり、組成の65%がポリプロピレンであり、厚さが約13mm、密度が18.0mg/cmの不織布吸音材(C1)を入手した。この不織布吸音材(C1)を直径約100mmの円形に切り抜いた。結果を図1に示す。
図1に示すように、吸音材(C1)は、周波数600Hzにおける吸音率が0.08であった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の実施形態による吸音材は、現時点で軽量かつ低周波数から高周波数までの幅広い領域においてバランスの良い吸音率を示す不織布よりも、低周波数領域においてさらに高い吸音率を発現できるので、低周波数領域の吸音が求められる各種分野の製品の吸音対策として利用可能である。


図1