(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ニードルパンチ針を使用した仮留め器具
(51)【国際特許分類】
D05B 97/00 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
D05B97/00
(21)【出願番号】P 2024063666
(22)【出願日】2024-04-10
【審査請求日】2024-05-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593101131
【氏名又は名称】川崎 大司
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 大司
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-126113(JP,A)
【文献】特開2001-246576(JP,A)
【文献】米国特許第04497268(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 97/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニードルパンチ針(5)を取り付けたハンドル(1)、布押え(6)、及び台座(3)の三体を、この順で端部(23)で結合し、当該端部(23)を回動軸として回動自在な仮留め器具であって、
当該三体を加圧することで、糸(16)を通した前記ニードルパンチ針(5)
は、前記布押え(6)と、前記台座(3)との間に挟んだ複数の布(4)を貫通し
、加圧をやめ前記ニードルパンチ針(5)を引上げることによって、前記糸(16)だけが上下の前記布(4)を貫いた状態で残る仮留め器具。
【請求項2】
前記ニードルパンチ針(5)に突起(21)を付け、一方ハンドル(1)上部には前記突起が入る溝(22)を設け、同
溝(22)に前記ニードルパンチ針(5)
の前記突起(21)を入れることで、前記ニードルパンチ針(5)の針先のカット面(24)が常に一定方向に向くよう固定される請求項1記載の仮留め器具。
【請求項3】
前記布押え(6)と台座(3)に挟んだ布(4)の弛み防止手段を、布押え(6)の下側と前記台座(3)の上側に
、前記ニードルパンチ針(5)が貫通する孔を取り囲むように設けた請求項1記載の仮留め器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンで二枚の生地を中表に縫うときなど、重ねた布等(以下、単に「布」という。)のずれ防止と仮留めをするまち針に替わる仮留め器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ミシンについて
図10で説明すると、
図10(a)と(b)はミシンの同じ部分の斜視図と側面図であるが、
図10(b)の「布」4を上側の「押え」11と下側の「送り歯」10に挟み、
図10(a)の「縫い針」13に通した糸で上下に絡めて縫製する機械である。機械の構造上「送り歯」10が直線的な動きをするため直線縫いを基本とするが、曲線縫いも可能である。
【0003】
曲線縫いをするには、「送り歯」10の直線運動に合わせて、「布」4を手で回転させる必要があるが、この方法では「押え」11と「送り歯」10の間に挟んだ「布」4の上下間でずれが生じる。そのため、現在では
図11に示すように、ズレ防止のため上下の「布」4を「まち針」14で仮留めしている現状である。特に、曲線部分の半径が小さい場合は、ずれが大きくなるため「まち針」14を多用しなければならない。
【0004】
「まち針」14の替わりに図示しない「クリップ」で仮留めすることも可能であるが、取り付けや取り外しが面倒であり、細かい曲線縫いには不向きである。
一方、特許文献1と
図13に示すホッチキスは、紙等を留めるものであって「布」4を留めるものではない。
【0005】
現在のミシンは、「布」4のずれ防止と仮留めに「まち針」14や「クリップ」等の補助具を使わなければならないという問題がある。これはミシンの操作性や効率性を低下させる要因となっている。
【0006】
また、ニードルパンチという手芸技法があるが、これは専用の針に通した糸を「布」4に刺し込んで模様や絵に仕上げるものである。その針の呼び名も特許文献2の「刺繍針」や特許文献3の「刺しゅう器」の他に「パンチニードル針」、「ニードルパンチ針」、「文化刺しゅう針」、「フリーステッチング針」等多彩な呼び方がされている。本願では、このニードルパンチに使う針を「ニードルパンチ針」5と呼ぶことにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-188658号
【文献】実開平07-019388号
【文献】実開昭57-48290号(マイクロフィルム)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図10(b)に示すミシンで「布」4を縫う際に、「送り歯」10と「押え」11の間に挟んだ「布」4を、「押え」11に連動する「押え上げレバー」12を上げ下げし、「まち針」14を抜きながら縫う作業が非常に煩雑である。ミシンで縫うとは『「押え上げレバー」12を下げる、縫う、「押え上げレバー」12を上げる、「まち針」14を抜く』の繰り返しであることから、「まち針」14を抜く行為1回に対して「押え上げレバー」12を操作する回数は2回となる。例えば、
図11の様な赤ちゃんのスタイを縫う場合に「まち針」14を50本使った場合、「押え上げレバー」12の操作回数は100回になる。
【0009】
また、
図11において「布」4に「まち針」14を使って仮留めする際は、「布」4への「まち針」14の刺し方や刺す位置、間隔等に気を配らなければならず、「まち針」14の紛失や手に刺さる等という人体への傷害リスクもある。
【0010】
さらに、ミシンで「布」4を縫う際に「まち針」14を刺したまま縫うことにより起こる、
図12の様な「まち針」14と「縫い針」13の接触による、
図12(a)(b)のような「縫い針」13や「まち針」14の折れ、
図12(c)のような「まち針」14の曲り、
図12(d)のような「まち針」14のミシン内部への巻き込みによるミシン本体の故障等の課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上のような課題を解決するためには、ミシンで「布」4を縫う際に「まち針」14を使わない方法で「布」4を仮留めし、また「押え上げレバー」12を多用しない方法で「布」4を縫えるようにすることである。
【0012】
本発明は、「ニードルパンチ針」5を取り付けた「ハンドル」1、「布押え」6、及び「台座」3の三体をこの順で「端部」23で結合し、当該「端部」23を回動軸として回動自在な仮留め器具であって、前記「布押え」6は、前記「台座」3との間に挟む複数の「布」4を押える働きをする。
【0013】
即ち、「糸」16を通した「ニードルパンチ針」5で、「布」4を貫通した後、「ニードルパンチ針」5を引上げることによって、「糸」16だけが「布」4を貫通した状態で残り、これを繰り返していくことで上下の「布」4のズレ防止と仮留めを可能とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ミシンで縫う際に、「布」4がずれないようにする器具を提供することで、「まち針」14を使わずに「布」4を仮留めすることができる。このことは、「押え上げレバー」12を上げ下げし、「まち針」14を抜きながら縫う作業の煩雑さから解放され、縫製のスピードを速め、「まち針」14の紛失や手の怪我、ミシンの故障も防ぐことができる。つまりこの発明は、縫製の作業効率と安全性を向上させるとともに、産業界におけるミシンの利用価値を高めることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】同仮留め器具
図2におけるB-B線の断面図である。
【
図4】同仮留め器具
図1におけるA-A線の断面図である。
【
図6】同仮留め器具に「糸」16を通した透視図と、同仮留め器具で「布」4を仮留めする際の動作パターンを示す図である。
【
図7】同仮留め器具で「布」4を仮留めした状況を示す図である。
【
図8】「ハンドル」1に「ニードルパンチ針」5を装着前の「針止めネジ」9、「ニードルパンチ針」5、「ハンドル」1の側面図と平面図である。
【
図9】「布押え」6と「台座」3の「布」4を挟む面の平面図(前記「布押え」6は下側からの図)と側面図の事例(a)、(b)、(c)を示す図である。
【
図11】「布」4を「まち針」14で仮留めしている図である。
【
図12】「縫い針」13と「まち針」14の接触による針の折れ等を示す図である。
【
図13】従来の「ホッチキス」の構成を示した断面図である。
【
図14】従来の「ニードルパンチ針」5の使用図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
従来から、特許文献1、
図13の形状の「ホッチキス」が知られているが、本発明が提供する仮留め器具は
図4の「布押え」6の後部に金属製の「ハンドル」1が枢着されている機能は、「ホッチキス」の「マガジン」17の後部に金属製の「ハンドル」19が枢着されている機能と同様である。
【0017】
本発明の仮留め器具が「ホッチキス」と異なる点は、「ホッチキス」が金属製の「マガジン」17内に収納されたコ状に形成された図示しない「ステープル」を金属製の「ハンドル」19先に取り付けられた「ドライバ」18で打ち出し、紙等をクリンチする働きをするのに対し、本発明の仮留め器具は
図4と
図5で示すように「ハンドル」1に取り付けた「ニードルパンチ針」5で、「布押え」6と「台座」3の間に挟んだ「布」4を貫通した後引上げることによって、
図7のように「糸」16だけで上下の「布」4を固定することになり、これを繰り返すことで上下の「布」4のずれ防止と仮留めを可能とするものである。
【0018】
本発明の仮留め器具の構成について
図4で説明すると、上から「ニードルパンチ針」5を取り付けた「ハンドル」1、「布押え」6、及び「台座」3の三体をこの順で「端部」23で結合し、当該「端部」23を回動軸として回動自在な器具である。「ハンドル」1と「布押え」6の間には「コイルバネ」7が、「布押え」6と「台座」3の間には「板バネ」8が取り付けてあり、「ハンドル」1、「布押え」6、及び「台座」3三体を上下方向から加圧すると、同三体は合体し、加圧をやめると元にもどる機能を有す。この三体の関係については、
図6に示すように、まず「台座」3上にある「布」4の上に「布押え」6が下りてきて、その後、「ニードルパンチ針」5のついた「ハンドル」1が下りてくるという順序になるようにする。両バネの選択についてはその一例を示した。
【0019】
図4に示す「板バネ」8が、「布押え」6と「台座」3の間に「布」4入れるための隙間を作る働きをするのに対し、「コイルバネ」7は、「布押え」6と「台座」3間に挟んだ「布」4から「ニードルパンチ針」5を引き抜く働きをすると同時に、「布押え」6を介して「台座」3間の「布」4を押える働きもする。つまり、「ニードルパンチ針」5は「布」4の張りが弱いと針を上手く刺すことができないことから、「布」4が弛まないようにしておく必要がある。そのため、「ハンドル」1と「布押え」6間にある「コイルバネ」7は、「布」4が弛まない程度の強度が必要である。
【0020】
従来のニードルパンチについて
図14で説明すると、中が空洞になった「ニードルパンチ針」5を使って、生地の上に刺繍糸や毛糸を埋め込んでいくものあり、「ニードルパンチ針」5に「糸」16を通して「ステッチフープ」20等で張った「布」4にイラストを描くように刺すだけで模様や絵を描くことができるという手芸技法である。
【0021】
本発明は、この「ニードルパンチ針」5を使って「布」4に対する仮留め効果を達成しようとするものである。その「ニードルパンチ針」5は、
図6(d)に示すような細長いパイプの先を鋭角にカットした針で、その「カット面」24の反対側には
図6(d)、(e)に示すような「糸」16を通す「ヨコ穴」25が設けてある。「ニードルパンチ針」5を使用する際は、パイプ状になった針の上部から針先の方へ「糸」16を引き出し、その引き出した「糸」16をさらに針先の「ヨコ穴」25に出した状態で「布」4に刺して使用する。
【0022】
つまり、本発明の仮留め器具を使う際の動作パターンについては、
図6(a)に示すように「ハンドル」1の上部から「糸」16を通した「ニードルパンチ針」5で、「布」4を貫通した後、
図6(b)に示すように「ニードルパンチ針」5を引上げることによって、「糸」16だけが上下の「布」4を貫いた状態で残り、
図6(c)に示すように繰り返し「ニードルパンチ針」5を刺していくことで、
図7のように「糸」16が上下の「布」4を貫通し、下側にループが作られることで、上下の布のずれ防止と仮留めを可能とするものである。
【0023】
この際に、上下の「布」4の仮留めを確実にするためには、「糸」16が「布」4を貫いた時点で、「布」4の下側に「糸」16がループ状に確実に残る必要がある。そのためには、「布」4から「ニードルパンチ針」5を引き抜く際に、「布」4下に残した「糸」16の分だけ、「ニードルパンチ針」5の上部から「糸」16が供給される必要がある。さらに、「布」4に刺した「糸」16が下側から上部に抜けないようにする必要があることから、「布」4に適した生地としては、中肉から厚手の織目の詰まった生地、シーチングや、デニム、オックスフォード等で、使用する「糸」16については、25番刺しゅう糸、40番レース糸、ミシン糸等、「ニードルパンチ針」5については、刺しゅうの場合と違って、「布」4へのダメージが小さい細い針を使うのが望ましい。
【0024】
図6において、「ニードルパンチ針」5を連続して「布」4に刺していく場合の針の進行方向については、
図6(b)で針先の「カット面」24の反対方向に進行すると針の「ヨコ穴」25から出た「糸」16を刺すことになり上手くいかない。また、
図11における「出来上がり線」15の外側を、「出来上がり線」15に沿って平行になるように針を刺していくことになることから、針の「カット面」24は常に進行方向になるよう固定する必要がある。
【0025】
以上のようなことで、本発明の仮留め器具は、
図4の「ニードルパンチ針」5のある方を前、「端部」23を後ろとした場合に、
図8記載の前記「ニードルパンチ針」5に「矢羽根形状の突起」21を付け、一方「ハンドル」1上部には「矢羽根形状の突起が入る溝」22を設け、前記「ニードルパンチ針」5を前記溝に沿って入れ、上部を「針留めネジ」9で留めた場合に、前記「ニードルパンチ針」5の針先の「カット面」24が常に一定方向に向くよう固定されることになる。このことは、「布」4の種類に応じて「ニードルパンチ針」5の交換も可能となる。例えば、右利きの人は「カット面」24は左向きで、進行方向は左方向になり、左利きの人は「カット面」24は右向きで、進行方向は右方向になる。この様に右利き左利きに応じて「カット面」24の向きを決めることができる。
【0026】
また、「ニードルパンチ針」5を「布」4に刺すためには、「布」4を弛まないようにしておく必要があることは述べたが、本発明の仮留め器具は、「布押え」6と「台座」3の間に挟んだ「布」4の弛みを防止する弛み防止手段を備える。例えば、
図9(a)に示すように、「布押え」6の下側と「台座」3の上側に突起を付け、「ハンドル」1と「布押え」6間の「コイルバネ」7の力とも相まって「布押え」6と「台座」3の間に挟んだ「布」4の弛みを防止することとする。
図9(a)の事例は、「布押え」6側の突起が3か所、「台座」3側の突起が3か所であるが、上下の突起の位置をずらすことで6か所の突起で「布」4を固定することになる。
【0027】
図9(a)は、「布押え」6と「台座」3に付けた突起で「布」4を挟んで固定する一例を示すが、
図9(b)のように「布押え」6の下側と「台座」3の上側にゴムリング様のものを付けて「布」4を固定する方法や、
図9(a)と
図9(b)を組み合わせた図(c)等の事例等も考えられる。
【0028】
この様な仮留め器具を使って、例えば
図11の「出来上がり線」15の2~3ミリメートル外側を仮留めしていき、その後、「出来上がり線」15に沿ってミシンで本縫いしていく。その後、仮留めした「糸」16を外していくことにより、「まち針」14やクリップ等を使わずに、美しく綺麗に縫製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
近年、ハンドメイド品の人気が高まり、インターネットを通じて自分の作品を販売する者も増えている。その中でミシンは重要な道具の一つであり、縫製のスキルや効率に大きく影響する。本発明は、ミシンの操作性や機能性を向上させることで、縫製の品質やスピードを高めることができることから、ミシンの利用者はより多くの作品を作成し、経済的なメリットも得られると考える。ミシンの市場も世界的にさらに拡大し、産業としての成長に大いに貢献できると考える。
【符号の説明】
【0030】
1 ハンドル
2 ハンドルカバー
3 台座
4 重ねた布等(布で読替)
5 ニードルパンチ針
6 布押え
7 コイルバネ
8 板バネ
9 針留めネジ
10 送り歯
11 押え
12 押え上げレバー
13 縫い針
14 まち針
15 出来上がり線
16 糸
17 マガジン
18 ドライバ
19 ハンドル(ホッチキス)
20 ステッチフープ
21 矢羽根形状の突起
22 矢羽根形状の突起が入る溝
23 端部
24 カット面
25 ヨコ穴
【要約】 (修正有)
【課題】ミシンで押え上げレバーを上げ下げし、まち針を抜きながら布を縫う作業が非常に煩雑であり、また、まち針の紛失や手に刺さるという人体への障害リスク、まち針と縫い針の接触による針の折れ、まち針のミシン内部への巻込みによるミシンの故障等の課題があることから、まち針を使わない方法で仮留めし、押え上げレバーを多用しない方法で布を縫えるようにする仮留め器具を提供する。
【解決手段】本発明の仮留め器具は、まち針を使わずに布等を仮留めする代替策である。同器具は、ハンドル1先に取付けた糸を通したニードルパンチ針5で、布押えと台座の間に挟んだ布等を貫通した後引上げることによって、糸だけが布を貫いた状態で残り、これを繰り返すことで布のズレ防止と仮留めを可能とするものである。
【選択図】
図4