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  • 特許-改良土中性化方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】改良土中性化方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/08 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
B09C1/08 ZAB
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020108260
(22)【出願日】2020-06-23
(65)【公開番号】P2022002836
(43)【公開日】2022-01-11
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】512217341
【氏名又は名称】リーフエア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173989
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 友文
(72)【発明者】
【氏名】稲元 裕二
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-218354(JP,A)
【文献】特開2018-103071(JP,A)
【文献】特開平07-278541(JP,A)
【文献】特開2011-212621(JP,A)
【文献】特開2011-110476(JP,A)
【文献】特開2003-096817(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02412454(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09C 1/00
B09B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ成分として水酸化カルシウムを含んでいる被処理改良土に対して二酸化炭素ガス発生源から供給される二酸化炭素ガスを強制的に吹き込む工程(以下「強制曝気工程」という。)によって、前記被処理改良土と二酸化炭素ガスとを接触させて、前記被処理改良土に含まれるアルカリ成分と二酸化炭素ガスとを炭酸化反応させて炭酸塩を生成して、前記被処理改良土に含まれるアルカリ成分を中性化するものであり、
前記強制曝気工程は、前記被処理改良土を盛土状態に設置し、その盛土状態の前記被処理改良土全体をシート状体により覆うとともに、そのシート状体により覆われた盛土状態の前記被処理改良土の中であってその被処理改良土の上側部分に挿入される供給パイプを通じて前記二酸化炭素ガス発生源から供給される前記二酸化炭素ガスを強制的に吹き込むことで注入することによって、当該二酸化炭素ガスがその自重で前記被処理改良土の上側部分から下側部分へ向かって拡散するようにし、前記被処理改良土と前記二酸化炭素ガスとを連続接触させる盛土曝気工程を備えていることを特徴とする改良土中性化方法。
【請求項2】
前記強制曝気工程は、前記被処理改良土を収容して連続攪拌する攪拌容器内へ前記二酸化炭素ガスを強制的に吹き込み、前記被処理改良土と前記二酸化炭素ガスとを連続接触させる攪拌曝気工程を備えていることを特徴とする請求項1記載の改良土中性化方法。
【請求項3】
前記強制曝気工程は、請求項1記載の前記盛土曝気工程と、請求項2記載の前記攪拌曝気工程とを備えており、その盛土曝気工程の次に前記攪拌曝気工程が行われ、又は、その攪拌曝気工程の次に前記盛土曝気工程が行われるものであることを特徴とする請求項1記載の改良土中性化方法。
【請求項4】
前記強制曝気工程よりも前に、前記強制曝気工程中に、又は前記強制曝気工程後に、前記被処理改良土に対し、天然鉱物を主原料とするとともに水素イオンを含んでいる緩衝補助材を添加するものであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の改良土中性化方法。
【請求項5】
前記緩衝補助材は、前記攪拌曝気工程において前記被処理改良土に対して添加されるものであることを特徴とする請求項2又は3に従属する請求項4記載の改良土中性化方法。
【請求項6】
前記強制曝気工程よりも前に、前記被処理改良土の土粒子の粒径を所定値(但し、粒径は0mmを越えるものとする。)以下に調整する粒度調整工程を備えていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の改良土中性化方法。
【請求項7】
前記二酸化炭素ガス発生源は、燃焼ガスを用いた発電設備から排出される二酸化炭素ガスを前記被処理改良土に強制的に供給するものであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の改良土中性化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
建設発生土、例えば、地盤改良工事に伴ってセメント系固形材を用いて改良された土砂(以下、「セメント改良土」という。)や、石灰系固形材を用いて改良された土砂(以下「石灰改良土」という。)や、アルカリ成分として水酸化カルシウムを含んでいるその他の改良土(以下「被処理改良土」という。)を、多方面に再度利活用することができるように中性化する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、地盤改良工事においてセメント系固形材を用いて地盤改良された後、かかる地盤改良の機能を果たし終えて不要となったセメント改良土や水酸化カルシウムを含んだその他の改良土は、強アルカリ性を示すことから、このままでは再利用することが困難なため、これを中性化することができる簡易な方法があれば、これを多方面で利活用することが可能となる。
【0003】
ここで、このような地盤改良において多く利用されているセメント系固化材は、セメント改良土の生成に用いられる改良材であり、地盤改良される土砂に含まれている水分と反応して水酸化カルシウムの水和物(セメント改良土に含まれる水和物を「セメント水和物」という。以下同じ。)を形成するものである。
【0004】
また、石灰系固化材を用いた石灰改良土は、石灰系固形材として生石灰(炭酸カルシウム)や消石灰(水酸化カルシウム)が用いられるものであり、地盤改良される土砂に含まれている水分と反応して水酸化カルシウムの水和物を形成するものである。
【0005】
このため、セメント改良土及び石灰改良土の水和物は、セメント由来又は石灰由来の多量のカルシウムイオン(Ca2+)と水酸化物イオン(ОH)とが含まれており、その水酸化物イオンが土砂に含まれている水に溶け出すことで、そのpH値が11~13の強アルカリ性を示すものとなる。このため、セメント改良土や石灰改良土のような水酸化カルシウムをアルカリ成分として含んだ改良土は、一般的な土砂とは異なった取り扱いをすることが必要となることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許3863737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した強アルカリ性を示すセメント改良土や石灰改良土ではあるが、地盤改良の用途として不要になれば、これを中性化したうえで盛土材や植栽土壌材として有効に利活用したいところではあるものの、現在、このようなセメント改良土や石灰改良土について、そのpH値を中性値に長期間維持するように中性化できる簡便な改質材や中性化方法が提案されていないという問題点があった。
【0008】
例えば、農業分野においては、弱アルカリ性の土壌に対して腐植質黒ぼく土やピートモスなどを改質材として使用したり、強アルカリ性の土壌に対して硫酸や硫黄華を改質材として使用したりするなど、土壌のpH値を低下させる土壌改良法もありはする。
【0009】
しかしながら、これらの方法では土壌改良に数か月から数年という長期間を要してしまうため、セメント改良土や石灰改良土を数時間から数日程度の短期間に中性化することのできる処理方法ではなく、セメント改良土や石灰改良土の中性化方法として転用が困難であるという問題点がある。
【0010】
また、土木分野でもpH値低下を短期に実現する処理方法として、例えば、希硫酸、硝酸法などの酸性物を改良対象となる土壌に改質材として使用するような土壌改良法がありはする。
【0011】
しかしながら、かかる方法を用いてセメント改良土や石灰改良土などのアルカリ成分として水酸化カルシウムを含んだ改良土を処理すると、その処理後のセメント改良土や石灰改良土から水酸化物イオンがすぐに溶出して土壌がアルカリ性にまた戻ってしまうという問題点がある。
【0012】
本発明は、上記した問題点を解決するためになされたものであり、農業分野における土壌改良のように数ヶ月から数年という長期間を要することなく数時間から数日程度の短期間で中性化を促すことができ、また、中性化処理後に水酸化物イオンが溶出してアルカリ性化することを抑制でき、長期的に安定した中性化を行える改良土中性化方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するために、第1発明の改良土中性化方法は、アルカリ成分として水酸化カルシウムを含んでいる被処理改良土に対して二酸化炭素ガス発生源から供給される二酸化炭素ガスを強制的に吹き込む工程(以下「強制曝気工程」という。)によって、前記被処理改良土と二酸化炭素ガスとを接触させて、前記被処理改良土に含まれるアルカリ成分と二酸化炭素ガスとを炭酸化反応させて炭酸塩を生成して、前記被処理改良土に含まれるアルカリ成分を中性化するものである。
【0014】
この第1発明の改良土中性化方法によれば、被処理改良土に含まれるアルカリ成分である水酸化カルシウムの炭酸化反応に着目し、この被処理改良土に二酸化炭素ガスを強制的に吹き込んで接触させることで被処理改良土に含まれるアルカリ成分を炭酸化反応させて炭酸塩を生成して、被処理改良土を中性化させる。
【0015】
また、第1発明の改良土中性化方法によれば、強制曝気工程によって、二酸化炭素ガスを被処理改良土に直接吹き込んで強制的に接触させるので、農業分野における土壌改良法のように数ヶ月から数年という長期間を要することなく、被処理改良土に含まれるアルカリ成分の炭酸化反応を促して中性化を促進させることができる。特に、大量の二酸化炭素を強制的かつ連続的に吹き込み被処理改良土と接触させることで、より数時間から数日程度の短期間で被処理改良土中のアルカリ成分の中性化を実現できる。
【0016】
ここで、被処理改良土に含まれるアルカリ成分を含んだ水和物の中性化に関し、そのメカニズムについて説明する。まず、被処理改良土に含まれる水和物中において最も多量に存在するカルシウム化合物は水酸化カルシウムであるが、この水酸化カルシウムの炭酸化反応は、以下の化学式に示した化学反応式で説明することができる。
[化1]
Ca(OH) + CO ⇒ CaCO + H
【0017】
この被処理改良土に含まれる水和物には、主に固相部分と細孔部分とがあり、これら固相と細孔とのいずれにも水酸化カルシウムが含まれている。この水和物の細孔では、その細孔内で水酸化カルシウムが水に溶けて電解質状態で存在すると考えられ、この電解溶液(これを「細孔溶液」という。以下同じ。)中に存在する水酸化カルシウムと二酸化炭素とが(炭酸化)反応をすることによって、水にほとんど溶解しない炭酸カルシウムと水とが生成される。
【0018】
また、このような水和物は、その細孔内及びその近傍に存在する水酸化カルシウムが炭酸化反応により大きく減少するまでは、細孔溶液中でそれらの各イオン濃度が大きく変化することがないと考えられる。
【0019】
ここで、細孔溶液のpH値を決定する主要因は、カルシウムイオンと平衡状態にある水酸化物イオンであると考えられるところ、水和物の固相部分にも水酸化カルシウムが含まれることから、仮に細孔溶液中の炭酸化反応がある程度進行しても、水和物の固相に含まれる水酸化カルシウムが存在したままで残存していると、この水酸化カルシウムが固相から細孔溶液へ供給されて、細孔溶液中のpH値が以前として高いままとなってしまう。
【0020】
つまり、水和物の最終的なpH値の低下は、それの固相に存在する水酸化カルシウムが二酸化炭素ガス(CO)と炭酸化反応を起こして、大きく減少し始めた時点から中性化に向かうことになるのである。
【0021】
そこで、被処理改良土の水和物のpH値を低下させる炭酸化反応を起こさせて、当該水和物に含まれるアルカリ成分を中性化させるため、当該被処理改良土に二酸化炭素ガスを強制的に吹き込んで強制的に接触させて、上記した「化1」の化学反応式に基づく炭酸化反応を短時間で促して、炭酸塩である炭酸カルシウムが生成されるとともに水が生成されることで、被処理改良土中に含まれるアルカリイオンであるカルシウムイオン及び水酸化物イオンを短時間で低減させて、被処理改良土を中性化するのである。
【0022】
また、水和物のpH値低下させるための炭酸化反応は、炭酸カルシウムの沈殿を伴った不可逆的反応であり、水和物の細孔壁面には生成された炭酸カルシウムが沈積することとなる。ここで、水和物の細孔内で炭酸化反応による炭酸カルシウムの生成に伴ってカルシウムイオンが減少し、細孔溶液中のカルシウムイオン濃度が減少すると、水和物の固相に存在する水酸化カルシウムが細孔溶液中に溶解することになり、この過程が継続することで水和物の炭酸化反応(上記「化1」の化学反応式を参照。)が進み、細孔内に炭酸カルシウムも成長して、水和物の中性化も進行することとなる。
【0023】
第2発明の改良土中性化方法は、第1発明の改良土中性化方法において、前記強制曝気工程は、前記被処理改良土を盛土状態に設置し、その盛土状態の前記被処理改良土全体をシート状体により覆うとともに、そのシート状体により覆われた盛土状態の前記被処理改良土に対して前記二酸化炭素ガス発生源から供給される前記二酸化炭素ガスを強制的に吹き込むことで注入し、前記被処理改良土と前記二酸化炭素ガスとを連続接触させる盛土曝気工程を備えている。
【0024】
この第2発明の改良土中性化方法によれば、第1発明の改良土中性化方法と同様の作用及び効果を奏するうえ、盛土曝気工程によって、シート状体により全体的に覆われた盛土状態の被処理改良土の中に、二酸化炭素ガス発生源から供給される二酸化炭素ガスを強制的に直接吹き込んで注入することで炭酸化反応を行わせるので、被処理改良土が大量にあってもこれと二酸化炭素ガスとの接触状態を他の煩雑な処理や操作なしに簡便に行うことができ、大量の被処理改良土と二酸化炭素ガスとを長時間にわたって連続的に接触させることが簡便に行える。また、シート状体により盛土状態の被処理改良土の全体を覆うことで、かかる被処理改良土に注入される二酸化炭素ガスが盛土の外へ逃げにくくなり、被処理改良土の炭酸化反応をより促進させることができる。
【0025】
第3発明の改良土中性化方法は、第1発明の改良土中性化方法において、前記強制曝気工程は、前記被処理改良土を収容して連続攪拌する攪拌容器内へ前記二酸化炭素ガスを強制的に吹き込み、前記被処理改良土と前記二酸化炭素ガスとを連続接触させる攪拌曝気工程を備えている。
【0026】
この第3発明の改良土中性化方法によれば、第1発明の改良土中性化方法と同様の作用及び効果を奏するうえ、攪拌曝気工程によって、被処理改良土を攪拌容器内で連続的に攪拌しながら、その攪拌容器内に二酸化炭素ガスを強制的かつ連続的に吹き込んで、被処理改良土と二酸化炭素ガスとを連続接触させるので、かかる攪拌によって被処理改良土と二酸化炭素ガスとの接触部分を変化させて、被処理改良土の各土粒子と二酸化炭素ガスとの接触を均一化を図ることができ、攪拌容器内に収容された被処理改良土全体に二酸化炭素ガスをより満遍なく接触させることができ、被処理改良土に含まれる被処理改良土全体にわたって炭酸化反応をより促進させることができる。
【0027】
第4発明の改良土中性化方法法は、第1発明の改良土中性化方法において、前記強制曝気工程は、請求項2記載の前記盛土曝気工程と、請求項3記載の前記攪拌曝気工程とを備えており、その盛土曝気工程の次に前記攪拌曝気工程が行われ、又は、その攪拌曝気工程の次に前記盛土曝気工程が行われるものである。
【0028】
この第4発明の改良土中性化方法によれば、第1から第3発明のいずれもの改良土中性化方法と同様の作用及び効果を奏することに加え、上記した盛土曝気工程及び攪拌曝気工程の双方を用いて被処理改良土と二酸化炭素ガスとの接触を行うとともに、盛土曝気工程による処理のみでは炭酸化反応が不十分であった被処理改良土の部分についても、攪拌曝気工程を用いて被処理改良土を攪拌しながら二酸化炭素ガスを接触させることで、炭酸化反応を更に促すことができる。
【0029】
また逆に、攪拌曝気工程のみでは被処理改良土と二酸化炭素ガスとの接触が十分に行えない場合であっても、その不足を補うように盛土曝気工程によって被処理改良土と二酸化炭素ガスとの強制接触を十分に行える。このように、盛土曝気工程及び攪拌曝気工程を併用することによって被処理改良土と二酸化炭素ガスとの強制接触をより濃密に行えるのである。
【0030】
第5発明の改良土中性化方法は、第1から第4発明のいずれかの改良土中性化方法において、前記強制曝気工程よりも前に、前記強制曝気工程中に、又は前記強制曝気工程後に、前記被処理改良土に対し、天然鉱物を主原料とするとともに水素イオンを含んでいる緩衝補助材を添加するものである。
【0031】
この第5発明の改良土中性化方法によれば、第1から第4発明のいずれかの改良土中性化方法と同様の作用及び効果を奏するうえ、被処理改良土に対し、天然鉱物を主原料とするとともに水素イオンを含んでいる緩衝補助材が添加されるところ、この緩衝補助材によって、中性化処理済みの被処理改良土(以下、「中性化処理土」ともいう。)にやむを得ず残存している水酸化カルシウムが水に溶け出すようなことが後々あった場合にこれを中性化して、中性化処理土が再度アルカリ性化することを抑制することができる。
【0032】
また、この緩衝補助材は、土によるpHの緩衝作用を利用したものであり、天然鉱物の微粒子であってpHの緩衝作用(pH緩衝能(広義的に「吸着能」ともいう。))を有したものを主原料としており、例えば、酸性白土などの天然鉱物微粒子が主原料として用いられている。なお、この緩衝補助材には、酸性白土の他に、酸化剤としてフタル酸、クエン酸、硫酸鉄等を1~2重量%程度添加しても良い。
【0033】
この緩衝補助材が被処理改良土に添加されていることによって、仮に、二酸化炭素ガスとの反応で消費されずに被処理改良土に残存してしまった水酸化カルシウムが存在しても、この緩衝補助材が水酸化カルシウムから溶出する水酸化物イオンを長期間にわたって消費し続け、この消費によって中性化処理土のpH値が再び上昇することを抑制できる。
【0034】
具体的には、この緩衝補助材は、水素イオン(H)と天然鉱物粒子とを含んでおり、その天然鉱物粒子がカルシウムイオンなどの陽イオンを吸着できる吸着能も併有している。この天然鉱物粒子の吸着能は、緩衝補助材が水と接しているときにその表面がマイナスに帯電して陽イオンを吸着する性能であり、緩衝補助材の天然鉱物粒子と水酸化カルシウムとが接触すると、その天然鉱物粒子の表面に吸着していた陽イオンのうち、カルシウムイオンよりも親和力の小さい陽イオンを放出し、その代わりにカルシウムイオンを天然鉱物粒子に吸着させる。一方、水酸化カルシウムの水酸化物イオンは、天然鉱物粒子から放出された陽イオンと反応することで消費されることとなり、その結果、中性化処理土のpH値が再上昇せずに中性値のまま維持される。
【0035】
よって、この緩衝補助材を中性化処理土に添加しておくことで、二酸化炭素ガスの強制接触を受けても消費されずに中性化処理土に残存した水酸化カルシウムから溶出する水酸化物イオンを、長時間かけて消費し続けることができる。また、かかる緩衝補助材の主原料となる天然鉱物粒子には元来、土壌成分自体に働く緩衝作用があり、この弱酸性から中性の鉱物も同様にそのpH値を維持する方向に挙動する。
【0036】
しかも、この緩衝補助材による中性化処理土のpH値上昇を抑制するための緩衝作用の反応は、中性化処理土の固相中の緩やかなイオン拡散に付随して起こるため、緩衝補助材が中性化処理土に添加されていることで、中性化処理土のpH上昇を抑える働きを長時間持続することができる。
【0037】
また、被処理改良土を中性化する際に予想される懸念事項の中には、セメント改良土のセメント水和物に含まれる六価クロムの溶出もあるが、緩衝補助材の吸着性能を利用して六価クロム等の重金属の溶出防止も図られるものと考えられる。
【0038】
第6発明の改良土中性化方法は、第3又は第4発明に従属する第5発明の改良土中性化方法において、前記緩衝補助材は、前記攪拌曝気工程において前記被処理改良土に対して添加されるものである。
【0039】
この第6発明の改良土中性化方法によれば、第3又は第4発明に従属する第5発明の改良土中性化方法と同様の作用及び効果を奏するうえ、緩衝補助材が攪拌曝気工程において前記被処理改良土に対して添加されるものであるので、攪拌容器内で緩衝補助材と被処理改良土と一緒に攪拌でき、被処理改良土の中に緩衝補助材を均一に混合させることができる。
【0040】
第7発明の改良土中性化方法は、第1から第6発明のいずれかの改良土中性化方法において、前記強制曝気工程よりも前に、前記被処理改良土の土粒子の粒径を所定値(但し、粒径は0mmを越えるものとする。)以下に調整する粒度調整工程を備えている。
【0041】
この第7発明の改良土中性化方法によれば、第1から第6発明のいずれかの改良土中性化方法と同様の作用及び効果を奏するうえ、粒度調整工程によって、被処理改良土に二酸化炭素ガスを強制的に吹き込む強制曝気工程よりも前に、被処理改良土の土粒子の粒径を所定値(但し、粒径は0mmを越えるものとする。)以下に調整するので、被処理改良土に含まれる各土粒子の粒度を一定範囲に収まるように均一に調整することができる。
【0042】
さすれば、中性化処理される被処理改良土について、その各土粒子の単位体積又は単位重量当たりの表面積(比表面積)を均一化でき、土粒子ごとの二酸化炭素ガスとの接触面積も均一化でき、ひいては、土粒子ごとの二酸化炭素ガスとの接触を均一化することもでき、結果、被処理改良土全体に均一的に炭酸化反応を起こさせて中性化させることができる環境を創り出すことができる。
【0043】
なお、粒度調整工程よりも前に又はこれと一緒に、被処理改良土を粉砕する工程を行うことによって、被処理改良土に含まれている粒径の大きな土粒子を、それよりも粒径の小さな土粒子に粉砕するようにしても良い。なぜなら、粒径の大きなままの土粒子では、その表面部分にあるごく一部の水和物は二酸化炭素ガスと直接接触できる訳だが、この土粒子の内部には二酸化炭素ガスとは接触できない水和物が多量に残存することとなり、かかる内部にある水和物が炭酸化反応できずに被処理改良土の中性化の効率を大きく低下させてしまう恐れがあるところ、被処理改良土の土粒子をより小さくするように粉砕することで、被処理改良土全体が二酸化炭素ガスとより接触し易くなって中性化がより促進されるからである。
【0044】
第8発明の改良土中性化方法は、第1から第7発明のいずれかの改良土中性化方法において、前記二酸化炭素ガス発生源は、燃焼ガスを用いた発電設備から排出される二酸化炭素ガスを前記被処理改良土に強制的に供給するものである。
【0045】
この第8発明の改良土中性化方法によれば、第1から第7発明のいずれかの改良土中性化方法と同様の作用及び効果を奏するうえ、二酸化炭素ガス発生源が燃焼ガスを用いた発電設備から排出される二酸化炭素ガスを被処理改良土に供給するものなので、発電設備から排出される不要な二酸化炭素ガスを被処理改良土(に含まれる水和物)を用いて消費でき、大気中への二酸化炭素ガスの排出量を低減できる。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、農業分野における土壌改良のように数ヶ月から数年という長期間を要することなく数時間から数日程度の短期間で中性化を促すことができ、また、中性化処理後に水酸化物イオンが溶出してアルカリ性化することを抑制でき、長期的に安定した中性化が施された中性化処理土を取得することができるという効果がある。
【0047】
また、この中性化処理土を有効に利活用することができ、かつ、不要となったセメント改良土や石灰改良土などの改良土の残土処分費を大幅に削減でき、この中性化処理土を再度利活用することで新規購入する土砂量を低減でき、更に、二酸化炭素を大量に有効利用することで地球の温暖化防止に資するという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本実施形態の改良土中性化方法の処理工程を示したフローチャートであって、被処理改良土としてセメント改良土を採用したものである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態(実施例)について説明する。図1は、本発明に関する一実施形態であって、本実施形態の改良土中性化方法の処理工程を示したフローチャートであって、被処理改良土としてセメント改良土を採用したものである。
【0050】
図1に示すように、改良土中性化方法による処理対象となる処理土は、建設発生土であり、具体的には、セメント系固形材を用いて改良された土砂、即ち、セメント改良土である。なお、このセメント改良土は、そのpH値が11以上となるものである。
【0051】
この改良土中性化方法では、まず、処理土として建設発生土であるセメント改良土に対し、粉砕調粒工程(S1)が行われる。具体的には、処理土であるセメント改良土の集積場にて、破砕機を用いて、セメント改良土が粉砕されて、その土粒子の粒径が0mmを越え50mm以下(より好ましくは40mm以下)となるように粒度調整される(S1)。
【0052】
次に、S1で処理されたセメント改良土に対し、強制曝気工程の一つである盛土曝気工程(S2)が行われる。具体的には、セメント改良土を盛土状態に設置してセメント改良土の仮盛土を行い、これをブルーシートその他の養生シートなどのシート状体で覆った状態にしたうえで、このセメント改良土の仮盛土の中に、二酸化炭素ガス発生源からブロアにより供給パイプを通じて供給される二酸化炭素ガスを強制的かつ連続的に吹き込み注入する(S2)。
【0053】
なお、盛土曝気工程(S2)は、例えば、セメント改良土などの被処理改良土を盛土状態に設置した仮盛土に対して二酸化炭素ガスを供給パイプによって供給する場合、シート状体の下側であってこの仮盛土の上側部分に供給パイプを配置して、仮盛土の上側部分に二酸化炭素ガスを吹き込むことで、二酸化炭素ガスがその自重で仮盛土の上側部分から下側部分へ向けて拡散するようにすることが好適である。二酸化炭素ガスは空気の約1.5倍の比重であることから、二酸化炭素ガスを仮盛土の上側部分に吹き込んだ場合、二酸化炭素ガスがその自重で仮盛土の下側へ向かって拡散して、二酸化炭素ガスを仮盛土全体に拡散させやすくなるからである。
【0054】
ここで、供給パイプは、その先端部分がセメント改良土の仮盛土の中に挿入されており、その先端部分が複数の開孔が穿設された土木用有孔管となっており、これら開孔から二酸化炭素ガスがセメント改良土の仮盛土内へ排出されるようになっている。なお、この盛土曝気工程は、例えば、約16時間行われるものであり、攪拌曝気工程を日中行う場合にその前日夜から当日朝にかけて行うことができる。
【0055】
ここで、盛土曝気工程(S2)及び攪拌曝気工程(S4)に対して供給される二酸化炭素ガスは、二酸化炭素ガス発生源を用いて二酸化炭素ガス発生工程(S3)により発生される。
【0056】
二酸化炭素ガス発生源は、バイオマスガス化発電装置などの燃焼ガスを用いた発電設備である。バイオマスガス化発電装置は、バイオマスをチップ化又はペレット化した燃料(これを「バイオマス燃料」という。)をガス化炉内で高温状態で蒸し焼きにすることによって発生した可燃性ガスを燃料ガスとして燃焼させた燃焼ガスを用いてエンジンを駆動させて発電を行う発電装置である。
【0057】
バイオマスガス化発電装置に使用されるバイオマス燃料は、例えば、建設廃材や剪定枝などから製造された未使用の木質バイオマスの燃料であり、例えば、この未使用の木質バイオマス燃料が1時間あたりの発電に38kg使用される。なお、この木質バイオマス燃料を使用して発電を行うバイオマスガス化発電装置のことを、木質バイオマスガス化発電装置という。
【0058】
バイオマスガス化発電装置から生じる燃焼ガスの中には二酸化炭素ガスが含まれており、この二酸化炭素ガスが盛土曝気工程(S2)及び攪拌曝気工程(S4)へとブロアにより供給パイプを介して供給される。なお、木質バイオマスガス化発電装置で発電した電力は、処理S3で用いる攪拌装置や処理S2,S3で用いるブロアなど機械設備の運転用電力として使用しても良い。
【0059】
このバイオマスガス化発電装置は、例えば、その発電出力が40kWで、排出ガス量が1時間当たり300mで、その排出ガスに含まれる二酸化炭素ガス量の割合が14.7%であり、二酸化炭素ガス発生量が1時間あたり86.4kgとなる。このため、二酸化炭素ガス発生源は、盛土曝気工程の連続処理時間が約16時間の場合に約1380kgの二酸化炭素ガスを、攪拌曝気工程の連続処理時間が約8時間の場合に約690kgの二酸化炭素ガスを、それぞれ供給できることとなる。
【0060】
次に、S3で処理されたセメント改良土に対し、強制曝気工程の一つである攪拌曝気工程(S4)が行われる。
【0061】
この攪拌曝気工程では、攪拌装置の攪拌容器内にセメント改良土を収容し、併せてセメント改良土に対して緩衝補助材を添加するとともに、この攪拌装置の攪拌容器内に二酸化炭素ガスをブロアにより供給パイプを介して強制的に吹き込んでセメント改良土と二酸化炭素ガスとを強制的かつ連続的に接触させて行われる炭酸化反応処理と、そのセメント改良土と緩衝補助材との撹拌による混合処理とが同時に行われる(S4)。
【0062】
なお、緩衝補助材は、酸性白土などの天然鉱物微粒子が主原料として用いられており、かかる酸性白土に酸化剤(酸性物)としてフタル酸、クエン酸、硫酸鉄等が1~2重量%程度添加されたものである。
【0063】
攪拌装置は、例えば、攪拌容器内にセメント改良土等を収容して攪拌することができる攪拌羽根を有しているキルン回転装置などである。
【0064】
攪拌曝気工程(S4)では、攪拌装置の攪拌容器内にセメント改良土及び緩衝補助材が投入された後、二酸化炭素ガスが攪拌容器内に強制的かつ連続的に吹き込まれた状態のまま、セメント改良土及び緩衝補助材が攪拌混合されて、この攪拌混合を10~60分継続した後、攪拌容器からpH値が9以下となった中性化処理土(中性化処理済みのセメント改良土をいう。以下同じ。)が排出される。なお、攪拌曝気処理の連続処理を約8時間行った場合、200~300mの中性化処理土が生成されることとなる。
【0065】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0066】
例えば、本実施形態では、セメント改良土に二酸化炭素ガスを強制的に吹き込む強制曝気工程として、盛土曝気工程(S2)の後に攪拌曝気工程(S4)を行ったが、例えば、盛土曝気工程又は攪拌曝気工程のいずれか一方のみを選択的して実施しても良く、或いは、盛土曝気工程と攪拌曝気工程の前後を入れ替えて実施しても良い。
【0067】
また、本実施形態のように、攪拌曝気工程において緩衝補助材をセメント改良土に添加した場合、緩衝補助材をセメント改良土に混ぜ込む攪拌操作を別途行う必要がなく、より好ましいものと考えられるが、例えば、種々の状況に応じて、盛土曝気工程よりも前や、盛土曝気工程の仮盛土形成時や、攪拌曝気工程よりも前や、又は攪拌曝気工程よりも後などに、適宜、緩衝補助材をセメント改良土に添加するようにしても良い。
【0068】
また、本実施形態では、二酸化炭素ガス発生源としてバイオマスガス化発電装置を用いて説明したが、二酸化炭素ガス発生源は必ずしもこれに限定されるものではなく、燃焼ガスを用いて発電を行う発電設備や、発電に際して二酸化炭素ガスを発生する発電設備や、稼働に際して二酸化炭素ガスを発生するその他の設備であっても良い。
【0069】
また、本実施形態では、処理土としてセメント改良土を用いて説明したが、かかる処理は必ずしもセメント改良土に限定されるものではなく、上記「化1」に示した化学式にある水酸化カルシウム(水和物)を含む改良土であれば、石灰改良土や、その他上記「化1」の化学反応式を満たす石油由来系固形材を用いた改良土であっても良い。
【0070】
例えば、上記した実施形態に関し、被処理改良土として石灰改良土を採用して中性化処理方法を実施する場合は、上記した実施形態の記載について、「セメント固形材」を「石灰系固形材」と、「セメント改良土」を「石灰改良土」と、それぞれ読み替えた内容となる。
【0071】
また、本実施形態では、被処理改良土であるセメント改良土に対して緩衝補助材を添加して六価クロムの溶出対策を施したが、例えば、被処理改良土が石灰改良土である場合は、必ずしも六価クロムが溶出するとは言えないこともあることから、緩衝補助材を添加する処理を省いても良く、この場合、上記した本実施形態からは緩衝補助材及びその添加に関連する記載事項を省略して読み替えるものとする。
【符号の説明】
【0072】
S1 破砕調粒工程
S2 盛土曝気工程(盛土曝気工程、強制曝気工程)
S3 二酸化炭素ガス発生工程
S4 攪拌曝気工程(盛土曝気工程、強制曝気工程)
図1