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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】腸内フローラ改善剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/125 20160101AFI20240912BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240912BHJP
   A61K 31/718 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 31/727 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 31/726 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
A23L33/125
A23L33/10
A61K31/718
A61K31/727
A61K31/726
A61P1/00
A61P31/04
A61P37/04
A61P43/00 121
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020157228
(22)【出願日】2020-09-18
(65)【公開番号】P2022050998
(43)【公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】506177796
【氏名又は名称】ハイドロックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(74)【代理人】
【識別番号】100220098
【弁理士】
【氏名又は名称】宮脇 薫
(72)【発明者】
【氏名】大石 一二三
(72)【発明者】
【氏名】谷 久典
(72)【発明者】
【氏名】服部 隆史
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-093513(JP,A)
【文献】特開2004-154675(JP,A)
【文献】特開2003-289811(JP,A)
【文献】特開2001-169751(JP,A)
【文献】特開2006-298791(JP,A)
【文献】特開2004-137183(JP,A)
【文献】特開2015-117198(JP,A)
【文献】特開2005-082491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、およびコンドロイチン硫酸Aを含むグルコサミノグリカンを含む腸内フローラ改善剤。
【請求項2】
全体に対して、ヒアルロン酸が10~150μg/mgの量、ヘパラン硫酸が200~400μg/mgの量、コンドロイチン硫酸Aが50~150μg/mgの量で含まれる、請求項1に記載の腸内フローラ改善剤。
【請求項3】
全体に対して、グルコサミノグリカンが260~700μg/mgの量で含まれる、請求項1又は2に記載の腸内フローラ改善剤。
【請求項4】
腸内のビフィズス菌、および乳酸菌の増殖促進に使用するための、請求項1~3のいずれか1項に記載の腸内フローラ改善剤。
【請求項5】
腸内のアッカーマンシア菌の増殖促進に使用するための、請求項1~4のいずれか1項に記載の腸内フローラ改善剤。
【請求項6】
腸内の大腸菌の増殖抑制に使用するための、請求項1~5のいずれか1項に記載の腸内フローラ改善剤。
【請求項7】
自然免疫の賦活化に使用するための、請求項1~6のいずれか1項に記載に腸内フローラ改善剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の腸内フローラ改善剤を含む、腸内フローラの改善に使用するための飲食品
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の腸内フローラ改善剤を含む、腸内フローラの改善に使用するための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内フローラ改善剤及び自然免疫賦活化剤、並びに該剤を含む飲食品及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの腸管内では多種多様な腸内細菌が集まって複雑な微生物生態系を構築している。この微生物群集は「腸内フローラ」または「腸内細菌叢」と呼称される。この腸内フローラは、ヒトに対する様々な生理作用を有し、ヒトの健康と密接な関係がある。有用な作用として、病原菌の定着阻害、免疫系の調節や活性化、ビタミンの産生などが挙げられ、有害な作用として、腐敗産物や発がん物質の産生、各種腸疾患への関与が挙げられる。健康管理の上では、ヒトに有用な働きをする菌を優勢に、ヒトに有害な働きをする菌を劣勢にというバランスを保つことが重要である。腸内フローラの改善について複数の研究が報告されている(特許文献1~8、非特許文献9)。
【0003】
従来の腸内フローラを制御する方法としては、プロバイオティクス及びプレバイオティクスが挙げられる。プロバイオティクスは、Fullerにより「腸内フローラのバランスを改善することによって宿主の健康に好影響を与える生きた微生物」と定義され(非特許文献1)、これが現在でも広く受け入れられている。一方、プレバイオティクスは、「大腸内の特定の細菌の増殖および活性を選択的に変化させることより、宿主に有利な影響を与え、宿主の健康を改善する難消化性食品成分」としてGibsonとRoberfroidにより提唱された(非特許文献2)。現在までに、オリゴ糖や食物繊維の一部がプレバイオティクスとしての要件を満たす食品成分として認められている。プレバイオティクスの摂取により、乳酸菌及びビフィズス菌増殖促進作用、整腸作用、ミネラル吸収促進作用、炎症性腸疾患への予防及び改善作用、等の人の健康に有益な効果が報告されている(特許文献1)。
【0004】
グリコサミノグリカンは動物起源のアミノ糖を含む多糖であり、例えば、ウシの乳脂肪球皮膜(MGFM)を構成するグリコサミノグリカンとしてヒアルロン酸(HA)、ヘパラン硫酸(HS)、コンドロイチン硫酸A(CS-A)、コンドロイチン硫酸C(CS-C)が含まれること(非特許文献3)など、動物の体内に含まれるグリコサミノグリカンについて報告がされている(非特許文献4~6)。また、プロバイオティクスによるグリコサミノグリカンの分解が報告されている(非特許文献7及び8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-108968号公報
【文献】特開2020-83807号公報
【文献】特開2019-131527号公報
【文献】特表2013-525421号公報
【文献】特開2017-222652号公報
【文献】特開2018-154612号公報
【文献】特開2018-8911号公報
【文献】特開2019-43866号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Fuller,R.(1989)J.App.Bacteriol.,66,365-378.
【文献】Glenn R.Gibson,Marcel B.Roberfroid,The Journal of Nutrition,Volume 125,Issue 6,June 1995,Pages 1401-1412.
【文献】Shimizu,M.,et.al.;Agric. Biol. Chem.,45(3),741-745,1981.
【文献】Ohishi,H.,et.al.;Atherosclerosis,69(1),61-68,1988.
【文献】Lis,D. and Monis,B.;J.Supramol.Struct.,2(1),15-22,1979.
【文献】中川 浩毅;日本水産学会誌,37(3),197-202,1971.
【文献】K.Kawai,et.al.;Scientific Reports,8,10674,2018.
【文献】京都大学プレスリリース、2018年7月30日付け http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2018/documents/180713_2/01.pdf
【文献】Bull,M.J.,Plummer,N.T.;Part1:Integr.Med.(Encinitas),13(6),17-22(2014).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、腸内フローラ改善剤を提供することであり、特に、腸内の大腸菌を含む有害菌の増殖抑制、並びにアッカーマンシア菌、ビフィズス菌及び乳酸菌の増殖促進に使用するための腸内フローラ改善剤を提供することである。
【0008】
本発明のさらなる目的は、自然免疫賦活化剤を提供することであり、特に、腸内の大腸菌を含む有害菌の増殖抑制、並びにアッカーマンシア菌、ビフィズス菌及び乳酸菌の増殖促進に使用するための自然免疫賦活化剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究した結果、グルコサミノグリカン(GAG)が、腸内フローラを改善すること、及び自然免疫を賦活化することを見出した。かかる知見に基づき、本発明者らは本発明を完成するに至った。
【0010】
一つの側面において本発明は以下の腸内フローラ改善剤を提供する。
【0011】
[1-1]ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、およびコンドロイチン硫酸Aを含むグルコサミノグリカンを含む腸内フローラ改善剤。
【0012】
[1-2]腸内フローラ改善剤全体のうちで、ヒアルロン酸が10~150μg/mgの量、ヘパラン硫酸が200~400μg/mgの量、コンドロイチン硫酸Aが50~150μg/mgの量で含まれる、[1-1]に記載の腸内フローラ改善剤。
【0013】
[1-3]腸内フローラ改善剤全体のうちで、ヒアルロン酸が70~130μg/mgの量、ヘパラン硫酸が270~350μg/mgの量、コンドロイチン硫酸Aが80~120μg/mgの量で含まれる、[1-1]又は[1-2]に記載の腸内フローラ改善剤。
【0014】
[1-4]腸内フローラ改善剤全体のうちで、ヒアルロン酸が105~125μg/mgの量、ヘパラン硫酸が305~310μg/mgの量、コンドロイチン硫酸Aが95~105μg/mgの量で含まれる、[1-1]~[1-3]のいずれかに記載の腸内フローラ改善剤。
【0015】
[1-5]腸内フローラ改善剤全体のうちで、グルコサミノグリカンが260~700μg/mgの量で含まれる、[1-1]又は[1-2]に記載の腸内フローラ改善剤。
【0016】
[1-6]腸内フローラ改善剤全体のうちで、グルコサミノグリカンが420~600μg/mgの量で含まれる、[1-1]~[1-5]のいずれかに記載の腸内フローラ改善剤。
【0017】
[1-7]腸内フローラ改善剤全体のうちで、グルコサミノグリカンが505~540μg/mgの量で含まれる、[1-1]~[1-6]のいずれかに記載の腸内フローラ改善剤。
【0018】
[1-8]腸内のビフィズス菌、および乳酸菌の増殖促進に使用するための、[1-1]~[1-7]のいずれかに記載の腸内フローラ改善剤。
【0019】
[1-9]腸内のアッカーマンシア菌の増殖促進に使用するための、[1-1]~[1-8]のいずれかに記載の腸内フローラ改善剤。
【0020】
[1-10]腸内の大腸菌の増殖抑制に使用するための、[1-1]~[1-9]のいずれかに記載の腸内フローラ改善剤。
【0021】
[1-11]感染症、がん又は免疫異常の予防又は治療に用いられる、[1-1]~[1-10]のいずれかに記載の腸内フローラ改善剤。
【0022】
[1-12]がんの予防又は治療に用いられる、[1-1]~[1-11]のいずれかに記載の腸内フローラ改善剤。
【0023】
[1-13][1-1]~[1-12]のいずれかに記載の腸内フローラ改善剤を含む飲食品または医薬組成物。
【0024】
一つの側面において本発明は以下の自然免疫賦活化剤を提供する。
【0025】
[2-1]ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、およびコンドロイチン硫酸Aを含むグルコサミノグリカンを含む自然免疫賦活化剤。
【0026】
[2-2]自然免疫賦活化剤全体のうちで、ヒアルロン酸が10~150μg/mgの量、ヘパラン硫酸が200~400μg/mgの量、コンドロイチン硫酸Aが50~150μg/mgの量で含まれる、[2-1]に記載の自然免疫賦活化剤。
【0027】
[2-3]自然免疫賦活化剤全体のうちでヒアルロン酸が70~130μg/mgの量、ヘパラン硫酸が270~350μg/mgの量、コンドロイチン硫酸Aが80~120μg/mgの量で含まれる、[2-1]又は[2-2]に記載の自然免疫賦活化剤。
【0028】
[2-4]自然免疫賦活化剤全体のうちで、ヒアルロン酸が105~125μg/mgの量、ヘパラン硫酸が305~310μg/mgの量、コンドロイチン硫酸Aが95~105μg/mgの量で含まれる、[2-1]~[2-3]のいずれかに記載の自然免疫賦活化剤。
【0029】
[2-5]自然免疫賦活化剤全体のうちで、グルコサミノグリカンが260~700μg/mgの量で含まれる、[2-1]又は[2-2]のに記載の自然免疫賦活化剤。
【0030】
[2-6]自然免疫賦活化剤全体のうちで、グルコサミノグリカンが420~600μg/mgの量で含まれる、[2-1]~[2-5]のいずれかに記載の自然免疫賦活化剤。
【0031】
[2-7]自然免疫賦活化剤全体のうちで、グルコサミノグリカンが505~540μg/mgの量で含まれる、[2-1]~[2-6]のいずれかに記載の自然免疫賦活化剤。
【0032】
[2-8]腸内のビフィズス菌、および乳酸菌の増殖促進に使用するための、[2-1]~[2-7]のいずれかに記載の自然免疫賦活化剤。
【0033】
[2-9]腸内のアッカーマンシア菌の増殖促進に使用するための、[2-1]~[2-8]のいずれかに記載の自然免疫賦活化剤。
【0034】
[2-10]腸内の大腸菌の増殖抑制に使用するための、[2-1]~[2-9]のいずれかに記載の自然免疫賦活化剤。
【0035】
[2-11]感染症、がん又は免疫異常の予防又は治療に用いられる、[2-1]~[2-10]のいずれかに記載の自然免疫賦活化剤。
【0036】
[2-12]がんの予防又は治療に用いられる、[2-1]~[2-11]のいずれかに記載の自然免疫賦活化剤。
【0037】
[2-13][2-1]~[2-12]のいずれかに記載の自然免疫賦活化剤を含む飲食品または医薬組成物。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、腸内において、大腸菌などの有害菌の増殖を抑制し、ビフィズス菌、および乳酸菌だけでなくアッカーマンシア菌の増殖を促進する腸内フローラ改善剤及び自然免疫賦活化剤を提供することができる。本発明によれば、大腸菌などの有害菌の増殖を抑制し、乳酸菌、ビフィズス菌、及びアッカーマンシア菌の増殖を促進することによって、腸内フローラ構成菌の乱れ(dysbiosis)をなくし、腸内フローラのバランスを回復することができる。
【0039】
また、本発明によれば、自然免疫を賦活化させ、がん等の疾患を治療及び予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1は、GAGを含む試料の摂取マウスと非摂取マウスから回収した糞便中の大腸菌、乳酸菌、及びビフィズス菌の菌数を計測した結果を示すグラフであり、試料を摂取したマウスと非摂取のマウスにおける腸内フローラの変化を示す。
図2図2は、LL/2肺ガン細胞を移植したマウスを、GAGを含む試料を摂取した予防群及び治療群と、摂取しない非摂取群とに分け、生存日数の変化を調べた結果を示すグラフである。
図3A図3Aは、LL/2肺ガン細胞を移植したマウスを、GAGを含む試料の摂取群(予防群及び治療群)と、非摂取群とに分け、それぞれの血清中のインターロイキン-2(IL-2)のレベルを測定した結果を示すグラフである。
図3B図3Bは、LL/2肺ガン細胞を移植したマウスを、GAGを含む試料の摂取群(予防群及び治療群)と、非摂取群とに分け、それぞれの血清中のインターロイキン-12β(IL-12β)のレベルを測定した結果を示すグラフである。
図3C図3Cは、LL/2肺ガン細胞を移植したマウスを、GAGを含む試料の摂取群(予防群及び治療群)と、非摂取群とに分け、それぞれの血清中のインターロイキン-18(IL-18)のレベルを測定した結果を示すグラフである。
図3D図3Dは、LL/2肺ガン細胞を移植したマウスを、GAGを含む試料の摂取群(予防群及び治療群)と、非摂取群とに分け、それぞれの血清中のインターフェロン-α(IFN-α)のレベルを測定した結果を示すグラフである。
図3E図3Eは、LL/2肺ガン細胞を移植したマウスを、GAGを含む試料の摂取群(予防群及び治療群)と、非摂取群とに分け、それぞれの血清中のインターフェロン-γ(IFN-γ)のレベルを測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の一態様は、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、およびコンドロイチン硫酸Aを含むグルコサミノグリカン(GAG)を含む腸内フローラ改善剤である。
【0042】
1.成分
本発明において使用されるグリコサミノグリカンの例としては、限定されることなく、コンドロイチン硫酸(A型、B型(デルマタン硫酸)、C型、D型、E型、H型、K型)、ヒアルロン酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ケラタン硫酸、デルマタン硫酸などが挙げられ、好ましくは、コンドロイチン硫酸A、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸が挙げられる。また、ヘパラン硫酸としてシアリル化ヘパラン硫酸が挙げられる。
【0043】
本発明のグリコサミノグリカンの平均分子量は、特に限定されない。一般に、ヒアルロン酸は10~10の範囲であり、より詳しくは10~10の範囲である。コンドロイチン硫酸Aは1×10~1×10の範囲であり、より詳しくは1×10~1×10の範囲である。コンドロイチン硫酸Cは1×10~1×10の範囲であり、より詳しくは1×10~1×10の範囲である。ヘパリンは1,000~100,000の範囲であり、より詳しくは10,000~15,000の範囲である。ヘパラン硫酸は1,000~100,000の範囲であり、より詳しくは10,000~15,000の範囲である。シアリル化ヘパラン硫酸は100~10,000の範囲であり、より詳しくは1,000~5,000の範囲である。
【0044】
本発明のグリコサミノグリカンは、市販品として、または公知の方法によって調製することによって入手することができる。
【0045】
本発明のグリコサミノグリカンは、牛、羊、山羊、馬、水牛などの動物の乳由来、好ましくは牛乳由来のものであることができる。また、バターミルク由来のものであることができる。
【0046】
また、本発明の腸内フローラ改善剤は、乳タンパク質を含むことができる。本明細書において使用される乳タンパク質の例としては、限定されることなく、α-カゼイン、β-カゼイン、γ-カゼイン、β-ラクトグロブリンA、β-ラクトグロブリンB、α-ラクトアルブミン、乳清アルブミン、オイグロブリン、プソイドグロブリン、プロテオースペプトン等が挙げられ、好ましくは、α-ラクトアルブミン、およびオイグロブリンが挙げられる。
【0047】
本発明の乳タンパク質の平均分子量は、特に限定されない。一般に、α-カゼインの平均分子量は約27,000である。β-カゼインの平均分子量は約24,100である。γ-カゼインの平均分子量は約30,600である。β-ラクトグロブリンAの平均分子量は約35,000である。β-ラクトグロブリンBの平均分子量は約35,000である。α-ラクトアルブミンの平均分子量は約16,500である。乳清アルブミンの平均分子量は約69,000である。オイグロブリンの平均分子量は約252,000である。プソイドグロブリンの平均分子量は約289,000である。プロテオースペプトンの平均分子量は約4,900~24,000である(食衛誌、2(3)、5-14(1961))。
【0048】
2.腸内フローラ
本明細書において腸内とは、ヒト等の動物の小腸や大腸など、細菌が常在して、摂取した食物を消化し、栄養を吸収する消化器官の内部を指す。
【0049】
本明細書において腸内フローラとは、ヒト等の動物の腸内に存在する細菌の集団のことを指す。腸内フローラは、腸内細菌叢と呼ばれることもある。本発明において、腸内フローラに含まれる細菌の例としては、ファーミキューテス(Firmicutes)門、バクテロイデス(Bacteroidetes)門、アクチノバクテリア(Actinobacteria)門、プロテオバクテリア(Proteobacteria)門、及びウェルコミクロビウム(Verrucomicrobia)門に属する細菌などが挙げられるが、これに限定されない。
【0050】
腸内フローラの構成菌種のバランスが変化し、量・質的な異常を来すと、腸管免疫の恒常性は破綻し異常な免疫反応や代謝機構の乱れが生じる。特定の疾患は、腸内フローラにおける障害、特に腸内フローラ構成菌の乱れ(dysbiosis)が関与すると考えられている。一つの態様において、本発明の腸内フローラ改善剤は、腸内フローラが関与する疾患、例えば、消化管疾患(例えば、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群)、非アルコール性脂肪肝炎、肥満、糖尿病、多発性硬化症、パーキンソン病、関節リウマチ、自閉症、がん等の慢性疾患等の予防または治療に用いることができる。本発明では、腸内フローラ構成菌の乱れを改善することが一つの目的とされ、一態様としてその用途に用いられる腸内フローラ改善剤が提供される。
【0051】
(1)乳酸菌
本発明の乳酸菌は、限定されることなく、グラム陽性の菌群であるファーミキューテス門に分類されるラクトバチルス属、ペディオコッカス属、ストレプトコッカス属、ロイコノストック属、ラクトコッカス属、及びエンテロコッカス属に属する有益菌(善玉菌)を包含し、例えば、ラクトバチルス属に属するラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)などが例として挙げられる。
【0052】
(2)ビフィズス菌
本発明のビフィズス菌は、限定されることなく、グラム陽性の菌群であるアクチノバクテリア門に分類されるビフィドバクテリウム属に属する有益菌(善玉菌)であり、例えば、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)などが例として挙げられる。
【0053】
(3)アッカーマンシア菌
本発明のアッカーマンシア菌は、限定されることなく、ウェルコミクロビウム門に属するアッケルマンシア属に属する細菌、例えば、アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)菌を包含する。
(4)有害菌
本発明で増殖を抑制されるべき有害菌としては、プロテオバクテリア門に分類されるエシェリキア(Escherichia)属に属する大腸菌(Escherichia coli)、ファーミキューテス門に分類されるクロストリジウム属に属するウェルシュ菌(Clostridium perfringens)が挙げられ、特に、大腸菌が挙げられる。
【0054】
3.腸内フローラ改善剤
腸内フローラ改善とは、腸内フローラにおける構成菌種及び各腸内細菌の占有率のバランス(構成比)を、宿主にとって都合のよい方向に変動させること、即ち、腸内フローラ構成菌の乱れ(dysbiosis)を改善することを指す。腸内フローラバランスが、宿主の健康状態に影響を与え、それにより宿主にとって都合の良い方向に変動したときに、「腸内フローラバランスが改善した」という。
【0055】
腸内フローラ改善剤には、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、およびコンドロイチン硫酸Aを含むグルコサミノグリカンが含まれる。これらの化合物の含有量は、その投与形態、投与方法などを考慮し、本発明の所望の効果が得られるような量であればよく、特に限定されるものではない。
【0056】
例えば、ヒアルロン硫酸の含有量は、剤全体に対して、10μg/mg以上、好ましくは70μg/mg以上、より好ましくは105μg/mg以上であり、150μg/mg以下、130μg/mg以下、125μg/mg以下であり、典型的には、10~150μg/mg、好ましくは70~130μg/mg、より好ましくは105~125μg/mg、さらに好ましくは108~124μg/mgの量である。
【0057】
例えば、ヘパラン硫酸の含有量は、剤全体に対して、200μg/mg以上、好ましくは270μg/mg以上、より好ましくは305μg/mg以上であり、400μg/mg以下、好ましくは350μg/mg以下、より好ましくは310μg/mg以下であり、典型的には、200~400μg/mg、好ましくは270~350μg/mg、より好ましくは305~310μg/mg、さらに好ましくは309~310μg/mgの量である。
【0058】
例えば、コンドロイチン硫酸Aの含有量は、剤全体に対して、50μg/mg以上、好ましくは80μg/mg以上、より好ましくは95μg/mg以上であり、150μg/mg以下、好ましくは120μg/mg以下、より好ましくは105μg/mg以下であり、典型的には、50~150μg/mg、好ましくは80~120μg/mg、より好ましくは95~105μg/mg、さらに好ましくは95~103μg/mgの量である。
【0059】
例えば、グルコサミノグリカンの含有量は、剤全体に対して、260μg/mg以上、好ましくは420μg/mg以上、より好ましくは505μg/mg以上であり、700μg/mg以下、好ましくは600μg/mg以下、より好ましくは540μg/mg以下であり、典型的には260~700μg/mg、好ましくは420~600μg/mg、より好ましくは505~540μg/mg、さらに好ましくは512~537μg/mgである。
【0060】
さらに、本発明の腸内フローラ改善剤は、グリコサミノグリカン成分以外に、脂肪、乳タンパク質、及び/又は水分を含むことができる。
【0061】
4.腸内フローラ改善剤の使用
本発明の腸内フローラ改善剤は、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、およびコンドロイチン硫酸Aを含むグルコサミノグリカンを含有し、これらの成分によって、腸内フローラを改善することができる。具体的には、本発明の腸内フローラ改善剤は、乳酸菌、ビフィズス菌及びアッカーマンシア菌を含む有益菌の増殖促進に使用することができる。また、本発明の腸内フローラ改善剤は、大腸菌、ウェルシュ菌等の有害菌の増殖抑制に使用することができる。菌の増殖促進とは、腸内フローラにおいて対象の菌の数又は占有率を増加させることを指し、菌の増殖抑制とは、腸内フローラにおいて対象の菌の数又は占有率を増加させないこと又は減少させることを指す。
【0062】
本発明の腸内フローラ改善剤は、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、およびコンドロイチン硫酸Aを含むグルコサミノグリカンによって腸内フローラを改善することによって、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群等の消化疾患、肥満、糖尿病、多発性硬化症、パーキンソン病、関節リウマチ、自閉症、種々の感染症、がん等の慢性疾患、自己免疫等の免疫異常、腸内腐敗菌によるアンモニア、インドール、スカトール等の抑制及び胆汁酸二次代謝産物の増加、並びに認知症等の腸内フローラ構成菌の乱れが関与する疾患の治療又は予防に使用することができ、好ましくはがんの治療又は予防に使用することができる。これは、腸内細菌が宿主の恒常性に貢献しているためであり、種々の要因で菌叢が乱れると、炎症性腸疾患、大腸がん、肥満、肝臓がん、糖尿病等の全身の多様な疾患リスクを上昇させることが報告されている(非特許文献9)。がんの例としては、肺がん、結腸直腸がん、胆嚢がん、腎臓がん、多発性骨髄腫、膵臓がん、子宮がんなどが挙げられる。なお、本明細書における「治療」には、改善、回復、軽減、緩和等の概念も含まれ得る。
【0063】
本発明の腸内フローラ改善剤は、例えば、後述に記載のとおり、腸内フローラ改善用の医薬組成物、飲食品等に用いることができる。また、本発明の腸内フローラ改善剤は、例えば、培地、又は培養用製剤等に用いることができる。
【0064】
本発明の腸内フローラ改善剤は、医薬組成物として製剤化することができ、医薬組成物は、薬学的に許容されうる担体又は希釈剤を含んでいてもよい。
【0065】
薬学的に許容されうる担体又は希釈剤は、賦形剤、稀釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味料、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤、添加剤、結合剤、滑沢剤、懸濁剤、コーティング剤等が挙げられる。これら担体の1種以上を用いることにより、液剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤又はシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。
【0066】
本発明の腸内フローラ改善剤はどのような飲食品に配合しても良く、飲食品の製造工程中に原料に添加しても良い。本発明の飲食品は、健康食品(特定保健用食品を含む)、機能性食品、健康飲料、機能性飲料を含む。飲食品の例としては、チーズ、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、バター、マーガリンなどの乳製品、乳飲料、果汁飲料、清涼飲料などの飲料、ゼリー、キャンディー、プリン、マヨネーズなどの卵加工品、バターケーキなどの菓子・パン類、さらには、各種粉乳の他、乳幼児食品、栄養組成物などを挙げることができるが特に限定されるものではない。
【0067】
本発明の医薬組成物は、被検動物(ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物、好ましくはヒト)の年齢、性別、体重、症状、治療方法、投与方法、処理時間等を勘案して適宜調節される。
【0068】
本発明の医薬組成物に含まれるグルコサミノグリカンの投与量は、症状又は適用する疾患に応じて適宜調整すればよく、例えば、経口投与の場合、一般の成人においては、1日あたり0.1~5g/kg、好ましくは0.3~1g/kg、より好ましくは0.4~0.6g/kgの量で投与される。
【0069】
5.自然免疫賦活化剤
本発明の一態様は、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、およびコンドロイチン硫酸Aを含むグルコサミノグリカンを含む免疫賦活化剤、好ましくは自然免疫賦活化剤が提供される。
【0070】
免疫とは、生物が病原体を認識して自己を防御する能力を指す。特に、自然免疫とは、体内での外来作用因子または抗原の出現から直ちにまたは数時間以内に活性化される非特異的防御機構を指す。このような非特異的防御機構としては、物理的バリア、例えば皮膚、血液中の化学物質、ならびに体内の外来作用因子または細胞を攻撃する免疫系細胞、例えば樹状細胞(DC)、白血球、食細胞、マクロファージ、好中球およびナチュラルキラー細胞(NK)が挙げられる。自然免疫応答中に、サイトカインが産生される。
【0071】
免疫の賦活化とは、免疫の機能の増強を指し、特に、自然免疫賦活化とは、自然免疫の機能の増強、例えば、自然免疫系の細胞型(例えば、NK細胞)の各細胞の活性及び/又は少なくとも1つの細胞機能(例えば、細胞傷害性、細胞分裂及び/又は成長速度など)の少なくとも増強、細胞型の細胞数の増強(例えば、細胞増殖)、又は両方を指す。自然免疫の賦活化は、様々な刺激によりマクロファージ等の免疫担当細胞によるサイトカイン分泌を促すこと、及び侵入した病原体を排除することを含む。自然免疫が賦活化されたことは、サイトカインの分泌を測定することで確認することができる。
【0072】
サイトカインとしては、インターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-10(IL-10)、インターロイキン-12(IL-12)、インターロイキン-12β(IL-12β)、インターロイキン-18(IL-18)、インターロイキン-23(IL-23)、インターフェロン-α(IFN-α)、インターフェロン-β(IFN-β)、インターフェロン-γ(IFN-γ)、及び腫瘍壊死因子-α(TNF-α)が挙げられ、好ましくは、IL-2、IL-12β、IL-18、IFN-α、及びIFN-γが挙げられる。
【0073】
本発明の免疫賦活化剤、特に自然免疫賦活化剤には、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、およびコンドロイチン硫酸Aを含むグルコサミノグリカンが含まれる。ヘパラン硫酸は、シアル化ヘパラン硫酸を含み得る。これらの化合物の含有量は、その投与形態、投与方法などを考慮し、本発明の所望の効果が得られるような量であればよく、特に限定されるものではない。具体的な成分の含有量に関しては、上記で腸内フローラ改善剤における成分の含有量に関して記載した通りである。
【0074】
6.自然免疫賦活化剤の使用
本発明の免疫賦活化剤、特に自然免疫賦活化剤は、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、およびコンドロイチン硫酸Aを含むグルコサミノグリカンを含有し、腸内フローラを改善することによって、免疫、特に自然免疫を賦活化することができる。
【0075】
本発明の免疫賦活化剤、特に自然免疫賦活化剤は、免疫、特に自然免疫を賦活化することによって免疫、特に自然免疫の障害に関連する疾患、例えば、感染症及びがん、特にがんの治療及び予防に使用することができる。がんは、上記のとおり、肺がん、結腸直腸がん、胆嚢がん、腎臓がん、多発性骨髄腫、膵臓がん、子宮がんを含み得る。
【0076】
本発明の免疫賦活化剤、特に自然免疫賦活化剤は、免疫賦活化、特に自然免疫賦活化用の医薬組成物、飲食品等に用いることができる。具体的な医薬組成物及び飲食品での使用に関しては、上記で腸内フローラ改善剤の医薬組成物及び飲食品での使用に関して記載した通りである。
【実施例
【0077】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0078】
<実施例1> 出発材料の調製
バターミルクは南日本酪農協同株式会社製のバターミルクパウダー(商品名:デーリィ(商標) バターミルクパウダー)を用いた。ブロメラインは天野エンザイム株式会社製(商品名;ブロメラインF)を、アクチナーゼは科研製薬株式会社製(商品名;アクチナーゼE)を用いた。使用した試薬類は全て一級である。
【0079】
バターミルクパウダー(100g)を脱イオン水(1L)に加え、得られた混合物に、1N HClを加えてpH5.0~5.5に調整した。次に混合物にブロメライン(1g)を加え、37℃で24時間穏やかに撹拌した。再度同量のブロメラインを加えてさらに24時間穏やかに撹拌し、酵素消化を行った。酵素消化の進行によってpHが低下した。pHは、pHメーター(YOKOGAWA社製MODEL PH81)を用いて測定した。pHの低下が認められなくなってから1時間経過後を終了時点とした。得られた混合物を97℃で10分間加熱して酵素を失活させた後、3,000rpmに設定された遠心分離機に10℃で30分間かけて上清と沈殿物とに分けた。沈殿物を脱イオン水で洗浄した後、洗浄液を上清に加え、さらに1N NaOHを加えてpH8.0~8.3に調整し、得られた混合物にアクチナーゼ(0.1g)を添加して37℃で穏やかに撹拌した。16時間経過毎に同量のアクチナーゼを追加し(最初の添加分以外に2回追加)、穏やかに撹拌しながら37℃で48時間酵素消化を行った。撹拌中、必要に応じて1N NaOHを加えることによってpHを8.0~8.3に維持した。反応終了後、最終濃度が50%飽和になるように固形硫安を加え、生じた不溶物を遠心分離によって除去した。得られた上清について、分画分子量1,000Daの透析チューブ(Spectrum Laboratories, Inc. (U.S.A.)社製Spectra/Por 7 Dialysis Membrane Pre-treated RC Tubing MWCO:1,000)で脱イオン水を用いて4℃で48時間透析を行った。
【0080】
透析によって塩を除いた後、凍結乾燥を行い26gの凍結乾燥粉末(試料1)を得た。回収率は26%であった。
【0081】
2次元セルロースアセテート膜電気泳動法によって試料1に含まれる構成グリコサミノグリカンを確認した(Ohishi, H., et. Al.;Atherosclerosis,69(1),61-68,1988を参照)。試料1のGAG粉末サンプルに脱イオン水を加えて1mg/mlの濃度に調製し、得られたサンプル溶液を10μLずつ1次元電気泳動及び2次元電気泳動にアプライした。1次元電気泳動はピリジン-ギ酸(pH3.0)電極液を用いて40分間行い、2次元電気泳動は0.1M酢酸バリウム(pH8.0)電極液を用いて5時間行った。1次元電気泳動も2次元電気泳動も1.5mA/cmの電力で行った。泳動後、セルロースアセテート膜をメチレンブルーで染色し、7%酢酸で脱色した。試験を2回行って得られた結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
HA:ヒアルロン酸、HS:ヘパラン硫酸、CS-A:コンドロイチン硫酸A
表1に示したように、試料1中の構成GAGsとしてヒアルロン酸(HA)、ヘパラン硫酸(HS)、コンドロイチン硫酸A(CS-A)が検出され、その他のGAGは検出されなかった。
【0083】
試料1に含まれているGAGsの構成成分はHS、HA、及びCS-Aの3種類であることが示された。測定による各GAGの含有量は表1より1mgの試料1当たりHAが108~124μg、HSが309~310μg、CS-Aが95~103μgであった。また、試料1全体の構成成分はGAGsが54%、脂肪が0.5%、乳タンパク質が1%、水分が8%であった。乳タンパク質は主にα-ラクトアルブミン、オイグロブリンであった。脂肪はクロロホルム・メタノール混液抽出法によって測定した。乳たんぱく質はバイオラッド社製プロテインアッセイキットを用いて測定した。水分は赤外線水分計(エー・アンド・ディ社製AD-4712)を使用し、その取扱説明書に従って常圧加熱乾燥法によって測定した。酵素消化後の遠心沈殿物および50%硫安不溶物について、オルシノール塩酸法による測定において、グルコサミノグリカンの構成要素であるイズロン酸が認められず、カルバゾール硫酸法による測定において、ウロン酸が認められなかったことから、供されたバターミルクパウダーに含まれていたGAGの大部分を回収できたと考えられる。さらに、HS画分(309μg)において、3.1μgのシアル酸がチオバルビツール酸法によって検出され、精製過程でも解離しなかったことから、HS画分中のシアル酸含量は1%(w/w)だと言える。シアル酸は精製過程で解離しないことからHSに結合していると考えられた。本発明で検出されたシアリル化ヘパラン硫酸の分子量は3,000Daである。
【0084】
<実施例2> 肺がん細胞移植マウスへの投与試験
<実施例2-1> 乳酸菌、ビフィズス菌、大腸菌
実施例1で得られた試料1を1%(w/v)溶液になるように水道水に溶解させ、LL/2肺がん細胞(European Collection of Authenticated Cell Cultures(ECACC)社のマウスC57BL肺ガン由来LL/2(LLc1)細胞株(ATCC CRL 1624))をあらかじめ移植したマウス(C57BL/6、雄、5週齢;三協ラボサービス(株))に1週間自由摂取させた摂取群(N=5)を準備した。LL/2肺がん細胞のマウスへの移植は、細胞1×10個をC57BL/6マウスの足掌部の皮内に移植し、3~4週間目に肺に転移した腫瘍を再度足掌部に移植し肺への転移能を持つ細胞株を使用することによって行った。また、試料1の凍結粉末を摂取させないこと以外は同じ方法によってマウスの非摂取群(N=5)を準備した。上記肺への転移能を獲得した腫瘍細胞(LL/2)のマウス足掌部への移植を行った日を第0日として1週間後にケージ内の床敷を交換し、18時間さらに飼育した。床敷交換後の床敷内の糞を無作為に回収し、マウスの菌叢の測定用試料とした。
【0085】
培地は大腸菌群にはDeso寒天培地(メルク社製)、乳酸菌にはBCP加寒天培地(ニッスイ社製)、ビフィズス菌にはBL寒天培地(ニッスイ社製)をそれぞれ用いた。
【0086】
摂取群及び非摂取群のそれぞれの糞を0.06g秤量し滅菌生食を10ml加えて十分に懸濁させた。懸濁させた糞を10倍に段階希釈したものをシャーレに1ml加えた中に各培地を添加後、大腸菌群は35℃で1日、乳酸菌とビフィズス菌は35℃で2日培養した。摂取群及び非摂取群のそれぞれについて、大腸菌、乳酸菌及びビフィズス菌を計測して、腸内フローラの変化を図1に示した。
【0087】
<実施例2-2> アッカーマンシア菌
次にHeart Infusion Broth(ベクトンディッキンソン社;Bacto Heart Infusion Broth(カタログNo. 238400))に実施例1で得られた試料1を0.1%(w/v)、0.05%(w/v)、0.025%(w/v)、0.0125%(w/v)、及び0.006%(w/v)になるように添加して滅菌した後、それぞれにアッカーマンシア菌(Akkermansia muciniphila, JCM:30893, 理化学研究所 バイオリソース研究センター 微生物材料開発室)液を10μl加え、35℃で1日培養し、分光光度計(島津社製UV-1900i UV-VIS SPECTROPHOTOMETER)を用いて660nmの波長で各菌液の吸光を測定することにより濁度を測定した(表2)。
【0088】
【表2】
図1には、試料1を1週間摂取させた場合、試料1非摂取の場合に比べて、大腸菌群の菌数が激減(10倍以上減少)したという驚くべき結果が示されている。また、乳酸菌の菌数は、試料1を摂取させた場合、試料1を非摂取の場合と比べて10倍以上に増加し、ビフィズス菌の菌数は10倍以上に増加した。さらにアッカーマンシア菌の増殖促進効果も認められた(表2)。
【0089】
これらの結果から、試料1は大腸菌群等のいわゆる有害菌には増殖刺激を与えず、アッカーマンシア菌、乳酸菌やビフィズス菌等のいわゆる有益菌と言われている腸内有用菌を有意に増加させていることが理解される。
【0090】
<実施例3>肺ガン細胞(LL/2)移植マウスの延命効果
実施例1で得られた試料1を1日当たり0.5g/kg体重摂取となるように粉末飼料(CE-2;日本クレア社製)に混合した。LL/2肺がん細胞を移植したC57BL/6マウス(雄、5週齢;三協ラボサービス(株))を、上記の通り肺への転移能を獲得した腫瘍細胞(LL/2)の移植を行った日を第0日として、LL/2肺がん細胞移植1週間前から上記飼料を摂取させた群(予防群)、移植と同時期から摂取させた群(治療群)、及び非摂取群の3群(各群ともn=4)に無作為に分けて飼育した。移植後3週間目に採血を行い、定法に従って血清を得て、以下の測定に供した。その後継続して飼育を行い、各群の生存日数を求め図2に示した。
【0091】
血清中のIL-2、IL-12β、IL-18、IFN-α、及びIFN-γをELISA法にて測定し図3A図3Eに示した。
【0092】
ELISA法の詳細は以下の通りである。
1)ELISAプロトコール
以下の試薬及び器具を用いた。
【0093】
96ウェルプレート
コーティングバッファー;0.1M炭酸バッファー(pH9.6)
PBST;PBS中の0.05% Tween-20(0.01Mリン酸バッファー+0.15M 塩化ナトリウム)
OVA/PBST;PBST中の0.2%オボアルブミン
基質溶解液;0.1Mリン酸二ナトリウム加0.05Mクエン酸バッファー(pH5.0)
ビオチン結合二次抗体;抗マウスIgG (H&L)(Donkey) Biotin conjugated(コスモバイオ社;品番:610-706-124)
ペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジン;Streptavidin Poly-HRP20 Conj.(コスモバイオ社;品番:65R-S103PHRP)
以下の手順にしたがった。
【0094】
150μl/wellのマウス血清をコーティングバッファーにて96ウェルプレートに添加し、室温で一晩置いた。
【0095】
200μl/wellのPBSTによりウェルを洗浄し、余分の水分を除去することを3回繰り返した。150μl/wellのOVA/PBSTを各ウェルに加えて35℃で1時間おいた。
【0096】
余分の水分を除去後、100μl/wellの1次抗体を添加し、35℃で1時間おいた。
【0097】
200μl/wellのPBSTによりウェルを洗浄し、余分の水分を除去することを3回繰り返した。100μl/wellのビオチン結合二次抗体を含むOVA/PBSTを各ウェルに加え、35℃で1時間おいた。
【0098】
200μl/wellのPBSTによりウェルを洗浄し、余分の水分を除去することを3回繰り返した。
【0099】
100μl/wellのペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジンを含むOVA/PBSTを各ウェルに加え、35℃で1時間おいた。
【0100】
200μl/wellのPBSTによりウェルを洗浄し、余分の水分を除去することを3回繰り返した。
【0101】
150μl/wellの基質バッファーにO-フェニレンジアミン(2mg/5ml)及び0.003%の過酸化水素を含む溶液を各ウェルに加え、室温で発色させた。50μl/wellの2.5M硫酸を添加して反応を停止させた。
【0102】
反応停止後、429nmの吸収を測定した。
【0103】
図2より非摂取群、治療群及び予防群の生存日数はそれぞれ24、30、及び33日であった。このことから試料1をLL/2細胞移植時から摂取させることで30%、LL/2細胞移植前から摂取させることで38%の延命効果が認められた。この延命効果はアッカーマンシア菌の抗炎症とビフィズス菌、乳酸菌による腸管免疫亢進によると考えられたので、自然免疫の状態を検討するため血清中のサイトカインを測定した。
【0104】
図3より今回測定したサイトカイン(IL-2、IL-12β、IL-18、IFN-α、及びIFN-γ)類はいずれも試料1を摂取することで増加し、特にあらかじめ摂取していた群(予防群)においてそれらの増加は大きいことが認められた。試料1をあらかじめ摂取することで非摂取群に対してIL-2は約65~85%、IL-12βは約55~100%、IL-18は約40~70%、IFN-αは30~85%、IFN-γは10~40%増加していた。
【0105】
IL-2はT細胞によって分泌されT細胞の増殖・分化を促進し、ガンの免疫療法に用いられている。また、IL-12はNK細胞を刺激し、Th1への分化を誘導する。これらのサイトカインの産生が増加したことで自然免疫(NK、NKT)が強化され抗腫瘍効果が認められたと考えられた。
【0106】
IL-18はIFN-γの産生を誘導し、IFN-γはIFN-αの産生を誘導する。これらのサイトカインが増加したことで抗腫瘍作用にはこれらのIFNの関与も推測された。
【0107】
特にアッカーマンシア菌は自然免疫に関与しており、抗ガン薬のPD-L1(チェックポイント阻害薬)治療での効果を促進させる事が報告されている(Science, 359(6371),pp.91-97(2018))。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E