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特許7554465イメージング質量分析用薄切片の作製方法、及び生体表面における対象物質の局在解析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】イメージング質量分析用薄切片の作製方法、及び生体表面における対象物質の局在解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20240912BHJP
   G01N 1/04 20060101ALI20240912BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
G01N27/62 F
G01N1/04 X
G01N33/50 Q
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020182791
(22)【出願日】2020-10-30
(65)【公開番号】P2022073036
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】505089614
【氏名又は名称】国立大学法人福島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】平 修
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 仁美
(72)【発明者】
【氏名】新田 洋司
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2015/053039(JP,A1)
【文献】特開平07-198557(JP,A)
【文献】特開2014-206488(JP,A)
【文献】特開2019-109146(JP,A)
【文献】特開2015-232462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60-27/70
G01N 1/00-1/44
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物質を含有する生体表面(ただし、ヒトの体内にある組織の表面を除く)と、導電性基材とを、レーザーイオン化法でイオン化しない接着剤を用いて接着させる接着工程と、
前記生体表面から、前記導電性基材を剥離して、前記対象物質の前記生体表面での局在を保持したまま、前記導電性基材上に前記生体表面の薄切片を作製する薄切片作製工程と、
を含み、
前記レーザーイオン化法でイオン化しない接着剤が、シアノアクリレートまたはエポキシ樹脂である、対象物質を含有する生体表面のイメージング質量分析用薄切片の作製方法。
【請求項2】
前記レーザーイオン化法でイオン化しない接着剤が、シアノアクリレートである、請求項1に記載のイメージング質量分析用薄切片の作製方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のイメージング質量分析用薄切片の作製方法で作製した、導電性基材上のイメージング質量分析用薄切片を、イメージング質量分析法により分析し、前記生体表面における前記対象物質の局在を解析する局在解析工程を含む、生体表面における対象物質の局在解析方法。
【請求項4】
前記レーザーイオン化法でイオン化しない接着剤が、シアノアクリレートである、請求項3に記載の対象物質の局在解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イメージング質量分析用薄切片の作製方法、及び生体表面における対象物質の局在解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イメージング質量分析法は、質量分析(MS)を用いて、物質の局在を可視化する分析方法として注目されている。分析対象物質を含む試料をイメージング質量分析法に供するためには、試料を薄切片化しなくてはならない。従来は、クライオスタット等を用いて、試料を薄切片に加工していたが、その加工は熟練を要するものであった。
【0003】
生体表面から試料を作製する方法としては、粘着テープ、接着剤等を使用して、生体表面から試料を作製する方法が知られている。例えば、特許文献1には、皮膚から採取した試料を熱分解マススペクトル法、または熱脱着マススペクトル法を用いて皮膚表面、または皮膚内部に存在する物質の定量を行う方法において、試料の採取方法として、シアノアクリレート系接着剤やセロファンテープを、採取皮膚部位に塗布又は圧着し、乾いた後に剥がすことにより、皮膚に存在する物質を分析する方法が開示されている。また、特許文献2には、シアノアクリレート系接着剤を、植物の葉の表面に塗布し、固化させた後、当該葉表面から接着剤を剥離して、葉の付着物を分析するために用いられることが開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法は、採取された皮膚表面中に存在する物質を熱分解して分析する方法であり、生体表面における対象物質の局在を解析する方法ではない。また、試料の採取方法として具体的に開示されているのは、セロファンテープを圧着して試料を採取する方法のみである。特許文献2の方法は、試料表面に付着している物質を採取する方法であって、生体表面に元々存在する対象物質の局在を解析するための試料の作製方法ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-243636号公報
【文献】特開平7-198557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
イメージング質量分析法に供するためには、試料を薄切片化しなくてはならないが、従来は、クライオスタット等を用いて、試料を薄切片に加工しなければならず、その加工は熟練を要する。イメージング質量分析法のための薄切片試料を作製するために、粘着テープや接着剤を用いた場合は、粘着テープや接着剤に、レーザーイオン化法でイオン化する物質が含まれていると、質量分析の際にノイズとなり、試料中の対象物質の正確な解析ができない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、イメージング質量分析用の薄切片を、熟練を要さずに簡便に作製する方法及び、該作製方法を用いて作製した薄切片を用いて、イメージング質量分析法により、簡便に、生体表面における対象物質の局在を解析する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記目的を達成すべく鋭意検討した結果、レーザーイオン化法でイオン化しない接着剤を用いて、対象物質を含有する生体表面と、導電性基材と、を接着させ、前記導電性基材を生体表面から剥離することにより、対象物質の局在を保持したまま、導電性基材上に生体表面の薄切片を作製することができ、作製した薄切片を、そのままイメージング質量分析法に供することにより、簡便に、生体表面における対象物質の局在を分析することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明は以下の態様を含む。
[1] 対象物質を含有する生体表面と、導電性基材とを、レーザーイオン化法でイオン化しない接着剤を用いて接着させる接着工程と、
前記生体表面から、前記導電性基材を剥離して、前記対象物質の前記生体表面での局在を保持したまま、前記導電性基材上に前記生体表面の薄切片を作製する薄切片作製工程と、
を含む、対象物質を含有する生体表面のイメージング質量分析用薄切片の作製方法。
[2] 前記レーザーイオン化法でイオン化しない接着剤が、シアノアクリレートである、[1]に記載のイメージング質量分析用薄切片の作製方法。
[3] [1]又は[2]に記載のイメージング質量分析用薄切片の作製方法で作製した、導電性基材上のイメージング質量分析用薄切片を、イメージング質量分析法により分析し、前記生体表面における前記対象物質の局在を解析する局在解析工程を含む、生体表面における対象物質の局在解析方法。
[4] 前記レーザーイオン化法でイオン化しない接着剤が、シアノアクリレートである、[3]に記載の対象物質の局在解析方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熟練を要さずに、対象物質の局在を保持したまま、生体表面の薄切片を簡便に作製することができる、イメージング質量分析用薄切片の作製方法、及び前記作製方法により作製した薄切片を、そのままイメージング質量分析法に供することにより、イメージング質量分析法により、簡便に、生体表面における対象物質の局在を分析することができる、対象物質の局在解析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】シソ葉剥離面の顕微鏡観察像を示した図である。
図2】ペリルアルデヒドとグリシンとの反応を示した図である。
図3】シソ葉剥離面におけるペリルアルデヒドのイメージング質量分析像を示した図である。
図4】シソ葉剥離面の顕微鏡観察像とペリルアルデヒドのイメージング質量分析像とを重ね合わせた図である。
図5】シソ葉剥離面におけるβカリオフィレンのイメージング質量分析像を示した図である。
図6】シソ葉剥離面の顕微鏡観察像とβカリオフィレンのイメージング質量分析像とを重ね合わせた図である。
図7】シソ葉剥離面におけるロスマリン酸のイメージング質量分析像を示した図である。
図8】シソ葉剥離面の顕微鏡観察像とロスマリン酸のイメージング質量分析像とを重ね合わせた図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<薄切片作製方法>
本発明のイメージング質量分析用薄切片の作製方法は、対象物質を含有する生体表面と、導電性基材とを、レーザーイオン化法でイオン化しない接着剤を用いて接着させる接着工程と、前記生体表面から、前記導電性基材を剥離して、前記対象物質の前記生体表面での局在を保持したまま、前記導電性基材上に前記生体表面の薄切片を作製する薄切片作製工程と、を含む。本発明のイメージング質量分析用薄切片の作製方法により、熟練を要さずに、対象物質の局在を保持したまま、生体表面の薄切片を簡便に作製することができる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0013】
<<接着工程>>
本発明において、接着工程は、対象物質を含有する生体表面と、導電性基材とを、レーザーイオン化法でイオン化しない接着剤を用いて接着させる工程である。
対象物質としては、生体表面に存在し、イメージング質量分析法で測定可能な物質であれば特に制限はなく、例えば、ヒトを含む動物の脳、胃、小腸、大腸等の消化器、心臓、肺、腎臓、肝臓、皮膚等の表面に含まれる物質、がん組織等の病理組織や細胞の表面に含まれる物質、植物の葉、茎、果実等の表面に含まれる物質等が挙げられる。
【0014】
生体表面としては、レーザーイオン化法でイオン化しない接着剤で剥離可能な生体表面であれば、特に制限はなく、例えば、ヒトを含む動物の脳、胃、小腸、大腸等の消化器、心臓、肺、腎臓、肝臓、皮膚等の表面、がん組織等の病理組織や細胞の表面、植物の葉、茎、果実等の表面等が挙げられる。
【0015】
導電性基材としては、イメージング質量分析法に使用される導電性基材であれば、特に制限はなく、例えば、金属基材、金属や酸化インジウムスズ(ITO)などで導電性を付与したガラス基材、導電性両面テープ等が挙げられる。
【0016】
レーザーイオン化法でイオン化しない接着剤としては、レーザーイオン化法でイオン化しない接着剤であれば特に制限はなく、例えば、シアノアクリレートの他、アクリル樹脂(ラジカル重合開始剤を使用)またはエポキシ樹脂(カチオン重合開始剤を使用)等の光硬化型樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化型樹脂等が挙げられる。対象物質を含有する生体表面と、導電性基材とを、レーザーイオン化法でイオン化しない接着剤を用いて接着させることにより、接着後に得られる、導電性基材上のイメージング質量分析用薄切片を、そのままイメージング質量分析法に供しても、接着剤が、イオン化することがないため、接着剤がイメージング質量分析の際のノイズになることがない。
レーザーイオン化法でイオン化しない接着剤の中でも、シアノアクリレートが、極めて短時間に固化し、生体に毒性がなく、すなわち生体試料に与える影響がなく、また、固化後も透明性が極めて高いため顕微鏡観察時に標的となる生体表面構造の観察が行いやすいため、好ましく用いられる。
【0017】
生体表面と導電性基材との接着は、レーザーイオン化法でイオン化しない接着剤を、生体表面及び導電性基材のいずれか一方又は両方に塗布し、固化させることにより行うことができる。例えば、レーザーイオン化法でイオン化しない接着剤がシアノアクリレートの場合は、生体表面に1滴~数滴滴下し、導電性基材を押し当てて、30秒~2分間密着固化させることにより、生体表面と導電性基材とを接着させることができる。レーザーイオン化法でイオン化しない接着剤が、光硬化型接着剤の場合は、光を照射することにより固化することができる。例えば、光硬化型接着剤が、アクリル樹脂(ラジカル重合開始剤を使用)またはエポキシ樹脂(カチオン重合開始剤を使用)である場合は、重合開始剤を配合した光硬化型接着剤を、生体表面及び導電性基材のいずれか一方又は両方に塗布し、300~500nmの光を、0.5~2分間照射することにより固化することができる。レーザーイオン化法でイオン化しない接着剤が、熱硬化型接着剤の場合は、加熱することにより固化することができる。例えば、熱硬化型接着剤が、エポキシ樹脂である場合は、エポキシ樹脂を、生体表面及び導電性基材のいずれか一方又は両方に塗布し、25~200℃で、30~120分間加熱することにより固化することができる。
【0018】
<<薄切片作製工程>>
本発明において、薄切片作製工程は、前記生体表面から、前記導電性基材を剥離して、前記対象物質の前記生体表面での局在を保持したまま、前記導電性基材上に前記生体表面の薄切片を作製する工程である。前記接着工程において、レーザーイオン化法でイオン化しない接着剤を固化した後に、生体表面から、導電性基材を剥離することにより、導電性基材上に、対象物質の生体表面の局在を保持したまま、生体表面の薄切片を作製することができる。
【0019】
本発明における薄切片作製工程において作製される生体表面の薄切片は、対象物質の生体表面での局在が保持されているため、対象物質が、生体表面のどの部分に局在しているかをイメージング質量分析法により解析することができる。
【0020】
薄切片作製工程により作製される生体表面の薄切片は、レーザーイオン化法でイオン化する接着剤を含まないため、後述するイメージング質量分析法による対象物質の局在解析方法において、接着剤によるノイズが発生することなく、生体表面における対象物質の局在を解析することができる。
【0021】
<対象物質の局在解析方法>
本発明の対象物質の局在解析方法は、前記イメージング質量分析用薄切片の作製方法で作製したイメージング質量分析用薄切片を、イメージング質量分析法により分析し、前記生体表面における前記対象物質の局在を解析する局在解析工程と、を含む。本発明の対象物質の局在解析方法により、生体表面における対象物質の局在を簡便に解析することができる。
【0022】
<<局在解析工程>>
本発明の対象物質の局在解析方法において、局在解析工程は、前記イメージング質量分析用薄切片作製方法において作製した生体表面の薄切片を、イメージング質量分析法により分析し、前記生体表面における前記対象物質の局在を解析する工程である。前記イメージング質量分析用薄切片の作製方法において作製した生体表面の薄切片は、イメージング質量分析法を用いて解析する際に、接着剤がイオン化することがないため、接着剤がイメージング質量分析の際のノイズになることがない。
【0023】
局在解析工程において、生体表面の薄切片は、イメージング質量分析法により分析する前に、前処理してもよい。例えば、対象物質が、揮発性物質の場合は、対象成分が、イメージング質量分析法に供する前に揮発しないように、不揮発性又は難揮発性の誘導体に変換してもよい。
【0024】
本発明において、イメージング質量分析法とは、組織切片上の1点で質量分析(MS)測定する一次元MSを行った後、一定間隔(10~200μm)をおいて再度同条件でMS測定を行い、それをイメージングしたい切片領域内で行う二次元的MSを行い、多数のMSスペクトルから測定対象物質のみを抽出し、二次元画像とする方法である。測定対象物質と同質量が検出された位置と、検出されない位置ではコントラストが異なるため,測定対象物質の局在解析が可能になる。
【0025】
イメージング質量分析法は、マトリクス支援型レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析装置を用いて行うことができる。イメージング質量分析法は、薄切片に、イメージング用イオン化支援剤を噴霧し、レーザーを2次元的に操作し、薄切片を2次元的に質量分析することにより行うことができる。イメージング用イオン化支援剤としては、例えば、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、シナピン酸、9-アミノアクリジン等が挙げられる。
イメージング質量分析法は、切片上を二次元的に質量分析することで、測定後に画像を構築するため、画像解像度は、レーザー照射径、照射ステップ間隔、及び、対象物質に塗布するマトリックス結晶の大きさに依存することになる。これらの値が小さい程、画像解像度は高くなるため、好ましい。例えば、レーザー照射径は、5~50μmが好ましく、5~20μmがより好ましい。照射ステップ間隔は、5~200μmが好ましく、5~20μmがより好ましい。対象物質に塗布するマトリックス結晶の大きさは、5~50μmが好ましく、5~20μmがより好ましい。
イメージング質量分析の測定時間は、薄切片の大きさ、画像解像度に応じて適宜決定することができるが、例えば、5分間から5時間である。また、本発明のイメージング質量分析法としては、試料全面に均一な強度でレーザーを照射・イオン化し、静電イオンレンズによって拡大・検出し蛍光板に投影する、投影型イメージング質量分析法を用いることもできる。
【実施例
【0026】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
[実施例1]
対象物質を、ペリルアルデヒド(PA)、βカリオフィレン(βC)、ロスマリン酸(RA)として、シソ葉裏面における対象物質の局在を以下のようにしてイメージング質量分析法により解析した。
シソ葉裏面にシアノアクリレートを滴下し、すぐに導電性ガラスを押し付け、約1分間保持することにより、接着剤を固化させた。その後、導電性ガラスを裏返し、葉を上にして、葉をゆっくりと剥離することで腺鱗及び、葉表層を導電性ガラスに転写した。
導電性ガラスに転写したシソ葉剥離面を顕微鏡観察したところ、図1に示すように、表皮組織、葉脈、腺鱗を視認することができた。
【0028】
次に、剥離面を上にし、ポリプロピレンやポリエチレンなど疎水性シートを押し付けることで腺鱗をつぶした。こうすることで腺鱗内の物質を腺鱗外へ露出させた。その後、直ちにグリシン(1mM、600μL)を剥離面へスプレーした。これにより、図2に示すように、ペリルアルデヒドが持つアルデヒド基をグリシンの持つアミノ基がシッフ塩基を形成することで、ペリルアルデヒドが揮発しなくなる。
次に、イメージング用イオン化支援剤である、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸を剥離面へスプレーした後、rapifleX(BRUKER社製)を用いて、レーザーを2次元的に走査し剥離面を2次元的に質量分析測定した。この時、レーザーの照射間隔は20μmとした。測定後、グリシン-ペリルアルデヒドの質量であるm/z 209.1を画像化した。その結果を図3に示す。また、図1の顕微鏡観察像と図3のイメージング質量分析像とを重ね合わせた像を図4に示す。
図4に示したように、腺鱗がつぶれた箇所で、ペリルアルデヒドが検出された。このことから、ペリルアルデヒドは腺鱗に局在していることが判明した。
【0029】
上記と同様にして、βカリオフィレン及びロスマリン酸のシソ葉裏面での局在を、βカリオフィレンの質量であるm/z 205.3、ロスマリン酸の質量であるm/z 361.1をイメージング質量分析法で画像化することにより解析した。レーザー照射間隔は20μmとした。図5に、βカリオフィレンのイメージング質量分析像、図6に、図1の顕微鏡画像と、図5のイメージング質量分析像とを重ね合わせた像をそれぞれ示す。図7に、ロスマリン酸のイメージング質量分析像、図8に、図1の顕微鏡画像と、図7のイメージング質量分析像とを重ね合わせた像をそれぞれ示す。
図6に示すように、βカリオフィレンについても、ペリルアルデヒドと同様に、腺鱗がつぶれた箇所で、ペリルアルデヒドが検出された。このことから、βカリオフィレンも腺鱗に局在していることが判明した。
それに対し、ロスマリン酸は、図8に示すように、腺鱗と腺鱗以外の表皮細胞とから検出された。このことから、ロスマリン酸は腺鱗以外の表皮細胞にも局在していることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、熟練を要さずに、対象物質の局在を保持したまま、導電性基材上に生体表面の薄切片を簡便に作製することができる、イメージング質量分析用薄切片の作製方法、及び前記作製方法により作製した薄切片を用いて、イメージング質量分析法により、簡便に、生体表面における対象物質の局在を分析することができる、生体表面における対象物質の局在解析方法を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8