(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】無線電力伝送システム及びアンテナ装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 5/10 20150101AFI20240912BHJP
H01Q 15/14 20060101ALI20240912BHJP
H01Q 21/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H01Q5/10
H01Q15/14 Z
H01Q21/00
(21)【出願番号】P 2020198025
(22)【出願日】2020-11-30
【審査請求日】2023-09-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年3月3日 2020年総合大会講演論文集 令和2年11月17日 日刊工業新聞 電子版 https://www.nikkan.co.jp/articles/view/578600
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、総務省、戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)「パーソナルエリア高速大容量無線通信・無線電力伝送モジュールの研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 渉
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 昭
(72)【発明者】
【氏名】本城 和彦
(72)【発明者】
【氏名】石川 亮
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-196031(JP,A)
【文献】国際公開第2017/188172(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 5/10
H01Q 15/14
H01Q 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1周波数で無線通信を行う第1アンテナ及び第2アンテナを有し、
前記第1アンテナは、
第1平面に同心円状に配置され、前記第1周波数に対応する波長のほぼ整数倍の周囲長を有するN個(Nは任意の整数)の第1円形ループアンテナ素子と、
N個の前記第1円形ループアンテナ素子のそれぞれに接続された第1給電点と、
前記第1平面と所定の距離を離して平行に位置する第2平面に配置され、スパイラル状の第1導電部材を有する第1反射材と、を備え、
前記第2アンテナは、
前記第1平面の前記第2平面が配置された側と反対側に対向した第3平面に同心円状に配置され、前記第1周波数に対応する波長のほぼ整数倍の周囲長を有するN個の第2円形ループアンテナ素子と、
N個の前記第2円形ループアンテナ素子のそれぞれに接続された第2給電点と、
前記第3平面の前記第1平面が配置された側と反対側の面と所定の距離を離して平行に位置する第4平面に配置され、スパイラル状の第2導電部材を有する第2反射材と、を備え、
前記第1アンテナのN個の前記第1円形ループアンテナ素子の中心軸と、前記第1反射材の前記第1導電部材の中心軸と、前記第2アンテナのN個の前記第2円形ループアンテナ素子の中心軸と、前記第2反射材の前記第2導電部材の中心軸とを、ほぼ一致させて配置し、
N個の前記第1給電点又は前記第2給電点に前記第1周波数の送信信号を供給し、N個の前記第2給電点又は前記第1給電点に、前記送信信号を受信した受信信号を得ると共に、
少なくとも1つの前記第1給電点又は前記第2給電点に、前記第1周波数よりも低い第2周波数の送信電力を供給し、少なくとも1つの前記第2給電点又は前記第1給電点に、前記送信電力を受信した受信電力を得る
無線電力伝送システム。
【請求項2】
受信信号を得るN個の前記第2給電点又は前記第1給電点には、前記第2周波数を除去するハイパスフィルタを接続し、
受信電力を得る少なくとも1つの前記第2給電点又は前記第1給電点には、前記第1周波数を除去するローパスフィルタを接続し、
前記ハイパスフィルタを介して前記受信信号を得ると共に、前記ローパスフィルタを介して前記受信電力を得る
請求項1に記載の無線電力伝送システム。
【請求項3】
送信信号を供給するN個の前記第1給電点又は前記第2給電点には、前記第2周波数を除去するハイパスフィルタを接続し、
送信電力を供給する少なくとも1つの前記第1給電点又は前記第2給電点には、前記第1周波数を除去するローパスフィルタを接続し、
前記ハイパスフィルタを介して前記送信信号を供給すると共に、前記ローパスフィルタを介して前記送信電力を供給する
請求項2に記載の無線電力伝送システム。
【請求項4】
スパイラル状の前記第1導電部材及び前記第2導電部材のいずれか一方又は双方には、スパイラル状に隣接した導電部材同士を接続するキャパシタを配置した
請求項2又は3に記載の無線電力伝送システム。
【請求項5】
前記キャパシタは、前記第1円形ループアンテナ素子又は前記第2円形ループアンテナ素子の電流分布が弱まる位置に近接した導電部材同士を接続し、前記第1周波数でインピーダンスがほぼ最小なる素子とした
請求項4に記載の無線電力伝送システム。
【請求項6】
第1周波数で無線通信を行うアンテナ装置であり、
第1平面に同心円状に配置され、前記第1周波数に対応する波長のほぼ整数倍の周囲長を有するN個(Nは任意の整数)の円形ループアンテナ素子と、
N個の前記円形ループアンテナ素子のそれぞれに接続された給電点と、
前記第1平面と所定の距離を離して平行に位置する第2平面に配置され、スパイラル状の導電部材を有する反射材と、を備え、
前記円形ループアンテナ素子の中心軸と、前記反射材の前記導電部材の中心軸とを、ほぼ一致させて配置し、
N個の前記給電点に前記第1周波数の送信信号の供給又は受信信号の取得を行う共に、少なくとも1つの前記給電点に、第1周波数よりも低い第2周波数の送信電力の供給又は受信電力の取得を行う
アンテナ装置。
【請求項7】
スパイラル状の前記導電部材には、スパイラル状に隣接した導電部材同士を接続するキャパシタを配置した
請求項6に記載のアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近距離で無線データ伝送と無線電力伝送とを行う無線電力伝送システム、及びその無線電力伝送システムに適用されるアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報社会の進展により、非接触で大容量のデータ伝送を行うニーズが高まっている。大量のデータを高速で伝送する上では、貴重な資源である周波数の有効利用が重要な課題になっている。このため、有効利用の指標として、伝送情報量を帯域幅で割った、周波数あたりの伝送レートを向上させる技術の重要性が増している。
【0003】
伝送レートを向上させる技術として、同じ時間内かつ同じ帯域内における伝送特性の違いを活用して多重化する空間多重化の手法が有効である。その一例として、送信側と受信側のそれぞれに複数のアンテナを設けたMIMO(Multiple Input Multiple Output)技術が知られている。MIMO技術では、受信側で混ざり合った信号を数学的に分離する複雑な信号処理が必要であり、また、複数のアンテナを協調して動作させる必要があるため、通信システムが非常に複雑化するという問題がある。
【0004】
MIMO技術とは別の手法で、同一の周波数における多重化を行うものとして、OAM(Orbital Angular Momentum:軌道角運動量)通信が提案されている。軌道角運動量は、量子力学における位置とそれに共役な運動量との積で表される角運動量であり、光(電磁波)においても保存される量である。このOAM通信の技術をマイクロ波に使用して、周波数効率を向上させるための研究が行われている。
【0005】
特許文献1には、OAM通信の技術を適用した無線通信装置が記載されている。
この無線通信装置は、送信アンテナ及び受信アンテナとして、複数の円形ループアンテナを同一平面に同心円状に配置し、送信アンテナの中心軸と受信アンテナの中心軸とをほぼ直線状になるように設置して、送信アンテナと受信アンテナとの間で無線通信を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年、非接触で無線電力伝送を行うニーズがあり、上述したOAM通信を行う場合にも、無線電力伝送を組み合わせることが考えられている。しかしながら、無線電力伝送の場合には、電力伝送効率を上げる必要があり、例えば特許文献1に記載された円形ループアンテナを使って無線電力伝送を行おうとしても、電力伝送効率がそれほど高くならないという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、OAM通信によるデータ伝送効率と、無線電力伝送による電力伝送効率の双方を改善できる無線電力伝送システム及びアンテナ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の無線電力伝送システムは、第1周波数で無線通信を行う第1アンテナ及び第2アンテナを有し、
第1アンテナは、
第1平面に同心円状に配置され、第1周波数に対応する波長のほぼ整数倍の周囲長を有するN個(Nは任意の整数)の第1円形ループアンテナ素子と、
N個の第1円形ループアンテナ素子のそれぞれに接続された第1給電点と、
第1平面と所定の距離を離して平行に位置する第2平面に配置され、スパイラル状の第1導電部材を有する第1反射材と、を備え、
第2アンテナは、
第1平面の第2平面が配置された側と反対側に対向した第3平面に同心円状に配置され、第1周波数に対応する波長のほぼ整数倍の周囲長を有するN個の第2円形ループアンテナ素子と、
N個の第2円形ループアンテナ素子のそれぞれに接続された第2給電点と、
第3平面の第1平面が配置された側と反対側の面と所定の距離を離して平行に位置する第4平面に配置され、スパイラル状の第2導電部材を有する第2反射材と、を備え、
第1アンテナのN個の第1円形ループアンテナ素子の中心軸と、第1反射材の第1導電部材の中心軸と、第2アンテナのN個の第2円形ループアンテナ素子の中心軸と、第2反射材の第2導電部材の中心軸とを、ほぼ一致させて配置し、
N個の第1給電点又は第2給電点に第1周波数の送信信号を供給し、N個の第2給電点又は第1給電点に、送信信号を受信した受信信号を得ると共に、少なくとも1つの第1給電点又は第2給電点に、第1周波数よりも低い第2周波数の送信電力を供給し、少なくとも1つの第2給電点又は第1給電点に、送信電力を受信した受信電力を得るものである。
【0010】
また、本発明のアンテナ装置は、第1周波数で無線通信を行うアンテナ装置であり、
第1平面に同心円状に配置され、第1周波数に対応する波長のほぼ整数倍の周囲長を有するN個(Nは任意の整数)の円形ループアンテナ素子と、
N個の円形ループアンテナ素子のそれぞれに接続された給電点と、
第1平面と所定の距離を離して平行に位置する第2平面に配置され、スパイラル状の導電部材を有する反射材と、を備え、
円形ループアンテナ素子の中心軸と、反射材の前記導電部材の中心軸とを、ほぼ一致させて配置し、
N個の給電点に第1周波数の送信信号の供給又は受信信号の取得を行う共に、少なくとも1つの給電点に、第1周波数よりも低い第2周波数の送信電力の供給又は受信電力の取得を行うものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、円形ループアンテナ素子を使ってOAM通信により無線情報通信を行うことができ、さらに同じ円形ループアンテナ素子を使って無線電力伝送も行うことができる。ここで、本発明の場合には、スパイラル状の導電部材を有する反射材を設けたことで、無線電力伝送効率を維持しつつ、無線通信性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1の実施の形態例のアンテナシステムの構成例を示す側面図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態例による円形ループアンテナの構成例を示す平面図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態例による反射板の構成例を示す平面図である。
【
図4】本発明の第1の実施の形態例による電力伝送効率の例を示す特性図である。
【
図5】本発明の第1の実施の形態例による各ポートからの伝送信号の通過特性の例を示す特性図である。
【
図6】本発明の第1の実施の形態例による電界分布の例を示す図である。
【
図7】本発明の第2の実施の形態例による円形ループアンテナの電流分布(a)と、反射板の構成例(b)を示す平面図である。
【
図8】本発明の第2の実施の形態例による電力伝送効率の例を示す特性図である。
【
図9】本発明の第2の実施の形態例による各ポートからの伝送信号の通過特性の例を示す特性図である。
【
図10】本発明の第2の実施の形態例による電界分布の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1の実施の形態例>
以下、本発明の第1の実施の形態例を、
図1~
図6を参照して説明する。
【0014】
図1は、本発明の第1の実施の形態例(以下、「本実施の形態例」という)のアンテナシステム1の構成を示す側面図である。
図1では、右手系の直交座標系XYZを定義する。X軸は、
図1の上下方向に対応する。Y軸は、
図1の前後方向に対応する。Z軸は
図1の左右方向に対応する。
【0015】
アンテナシステム1は、第1アンテナ10と第2アンテナ20とを備える。第1アンテナ10と第2アンテナ20は同一の構成であり、
図1に示すようにZ軸方向に所定の距離D1(例えば30mm)を開けて対向して配置される。但し、送信側のアンテナを第1アンテナ10としたとき、受信側のアンテナである第2アンテナ20は、第1アンテナ10に対してZ軸上を180°回転した状態で配置される。つまり、後述する給電点の位置が、第1アンテナ10と第2アンテナ20とで、180°回転した位置になっている。但し、第1アンテナ10と第2アンテナ20を180°回転した状態で配置するのは一例であり、例えば同じ位置関係で対向配置してもよい。
【0016】
第1アンテナ10は、
図2に示すように、アンテナ基板101に配置された複数個(4個)のアンテナ素子(第1円形ループアンテナ素子)110,120,130,140を有する。アンテナ基板101は、X軸とY軸で形成される平面に配置される。4個のアンテナ素子110,120,130,140は、背景技術の欄で説明したOAM通信を行うためのものである。すなわち、4個のアンテナ素子110,120,130,140は、同一の周波数を使用して送信又は受信を行う。
【0017】
アンテナ基板101上の各アンテナ素子110,120,130,140は、
図2に示すように、それぞれ異なる半径の円形に構成され、同心円状に配置される。アンテナ素子110が最内周側であり、アンテナ素子140が最外周側である。
第1アンテナ10の各アンテナ素子110,120,130,140には、給電点(第1給電点)111,121,131,141が設置され、それぞれの給電点111,121,131,141には、
図1に示すように、それぞれ別の信号線112,122,132,142が接続されている。
【0018】
各信号線112,122,132,142は、通信を行う不図示の機器(第1機器)の4つの通信用端子に接続される。信号線112,122,132,142の途中には、ハイパスフィルタ113,123,133,143が接続される。このハイパスフィルタ113,123,133,143は、電力伝送用に使用される低周波の成分に対して、高インピーダンスとなることで通過を阻止し、情報伝送に使用される周波数の成分を通過させるためのフィルタである。
【0019】
最外周のアンテナ素子140は、無線電力伝送用にも使用され、信号線142に電力伝送用の給電線151が接続される。この給電線151には、情報伝送に使用される周波数の成分(高周波成分)に対して、高インピーダンスとなることで通過を阻止し、電力伝送用に使用される低周波数の成分を通過させるローパスフィルタ152が接続されている。
【0020】
第2アンテナ20も、
図2に示す第1のアンテナと同様な構成を有する。すなわち、X軸とY軸で形成される平面に配置されるアンテナ基板201上に、複数(4個)のアンテナ素子(第2円形ループアンテナ素子)210,220,230,340を備える。第2アンテナ20の各アンテナ素子210,220,230,240も、第1のアンテナ素子と同様に、それぞれ異なる半径の同心円状に配置される。アンテナ素子210が最内周側であり、アンテナ素子240が最外周側である。なお、第2アンテナ20のアンテナ基板201は、アンテナ基板101と同一の構成であり、
図2では、アンテナ基板201上の構成要素の符号をカッコ書きで示している。
【0021】
第2アンテナ20の各アンテナ素子210,220,230,240には、給電点(第2給電点)211,221,231,241が設置され、各給電点211,221,231,241には、
図1に示すように、それぞれ別の信号線212,222,232,242が接続されている。
【0022】
各信号線212,222,232,242は、通信を行う不図示の機器(第2機器)の4つの通信用端子に接続される。信号線212,222,232,242の途中には、ハイパスフィルタ213,223,233,243が接続されている。
最外周のアンテナ素子240は、無線電力伝送用にも使用され、信号線242に電力伝送用の給電線251が接続される。そして、給電線251には、ローパスフィルタ252が接続されている。
【0023】
第2アンテナ20のハイパスフィルタ213,223,233,243及びローパスフィルタ252は、第1アンテナ10側のハイパスフィルタ113~143及びローパスフィルタ152と同様の機能を有するフィルタである。
【0024】
第1アンテナ10のアンテナ素子110と第2アンテナ20のアンテナ素子210は、同一の半径を有するアンテナ素子である。同様に、アンテナ素子120とアンテナ素子220、アンテナ素子130とアンテナ素子230、アンテナ素子140とアンテナ素子240も、それぞれ同一の半径を有するアンテナ素子である。各アンテナ素子110~140,210~240の半径を設定する条件については後述する。
【0025】
また、
図1に示すように、第1アンテナ10のアンテナ基板101の裏面側には、Z軸方向に所定の距離D2(例えば5mm)を開けて反射板190が配置されている。さらに、第2アンテナ20のアンテナ基板201の裏面側には、Z軸方向に所定の距離D2を開けて反射板290が配置されている。ここで、裏面側とは、第1アンテナ10と第2アンテナ20とが向き合った面を表面側として、その反対側の面を指している。
【0026】
反射板190には、
図3に示すように、スパイラル状導電部材191が配置される。スパイラル状導電部材191は、中心側の端部191aから外周側の端部191bまで、導電材を一定間隔でスパイラル状に配置したものである。例えば、スパイラル状導電部材191は、3.5mmの導電材を0.5mmだけ隙間を設けて、約12巻させたものである。
反射板290も、スパイラル状導電部材191と同じ構成で同一サイズのスパイラル状導電部材291が配置される。
【0027】
次に、
図2を参照して、各アンテナ基板101,201に設けたアンテナ素子110~140,210~240の配置状態について説明する。
既に説明したように、各アンテナ素子110~140,210~240は、同心円状に配置された円形ループアンテナである。ここで、各アンテナ素子110,120,130,140(210,220,230,240)のループ半径はそれぞれ異なる。
【0028】
一例であるが、本実施の形態例では、アンテナ素子120,130,140(220,230,240)のループ半径は、それぞれ、アンテナ素子110(210)のループ半径の2倍、3倍、4倍としている。言い換えれば、アンテナ素子120,130,140(220,230,240)の周囲長は、それぞれ、アンテナ素子110(210)の周囲長の2倍、3倍、4倍になっている。これらの倍数は、整数であることが好ましい。ただし、これらの倍数はあくまでも一例であって、本発明はこれらの倍数を有する本実施の形態例に限定されない。
【0029】
ここで、最内周のアンテナ素子110(210)の周囲長は、無線送信する信号の周波数に対応する波長に実質的に等しいことが好ましい。一般化すると、各アンテナ素子110~140(210~240)の周囲長は、アンテナ素子110(210)の周囲長の整数倍に近いものであるが、その倍数は必ずしも厳密な整数であるとは限らない。
すなわち、所望の周波数を有する信号を入力されて定在波が発生するように、アンテナ素子110~140(210~240)の周囲長が決定されることが好ましいが、この周囲長は、実際のアンテナ素子110~140(210~240)及びその周囲の構成要素などの影響により、無線送信する信号の周波数に対応する波長の整数倍に厳密に等しいとは限らない。
【0030】
以降、本明細書で倍数が整数であると述べるとき、厳密なものではなく、実質的に略整数倍であることを意味する。一例として、本実施の形態例では、第1アンテナ10と第2アンテナ20との間での無線伝送に使用される周波数を5.3GHzとし、アンテナ素子110,120,130,140(210,220,230,240)のループ半径は、それぞれ8.0mm、16.0mm、24.0mm、32.8mmとする。
【0031】
図1の例において、第1アンテナ10が送信アンテナとして動作する際、第1アンテナ10は第2アンテナ20に向けて、電磁波を照射する。したがって、給電点111~141に接続された信号線(給電線)112~142は、アンテナ素子110~140から見て、照射方向とは逆方向である反射板190が配置された面に引き出されるのが好ましい。信号線112~142は、反射板190を貫通していてもよい。
【0032】
同様に、第2アンテナ20が送信アンテナとして動作する際、第2アンテナ20は第1アンテナ10に向けて、電磁波を照射する。したがって、給電点211~241に接続された信号線(給電線)212~242は、アンテナ素子210~240から見て、照射方向とは逆方向である反射板290が配置された面に引き出されるのが好ましく、信号線212~242は、反射板290を貫通していてもよい。
【0033】
図4は、第1アンテナ10のアンテナ素子140と、第2アンテナ20のアンテナ素子240との間で無線電力伝送を行う際の電力伝送効率を示す。
図4の縦軸は効率を示し、横軸は無線電力伝送に使用する周波数を示す。
図4に示すように、本実施の形態例の場合、無線電力伝送に使用する周波数が44MHzのとき、80.7%と最も高い効率になる。したがって、44MHzで第1アンテナ10のアンテナ素子140と、第2アンテナ20のアンテナ素子240との間で無線電力伝送を行うのが好ましい。
【0034】
図5は、第1アンテナ10を送信アンテナとし、第2アンテナ20を受信アンテナとした場合の、第1アンテナ10の4つのアンテナ素子110,120,130,140からの無線送信信号の通過特性を示す。各図の縦軸は信号波又は干渉波のレベル、横軸は周波数を示す。
【0035】
図5(a)のアンテナ素子110からの通過特性で示す4つの信号S
51,S
61,S
71,S
81は、それぞれアンテナ素子110から無線送信される信号を、第2アンテナ20のアンテナ素子210,220,230,240で受信した信号のレベルを示す。ここでは、アンテナ素子110に対向したアンテナ素子210での受信信号S
51が信号波となり、他のアンテナ素子220,230,240での受信信号S
61,S
71,S
81が干渉波となる。受信信号S
51は、5.37GHzにおいて、干渉波としての受信信号S
61,S
71,S
81との通過アイソレーションが、15.7dBである。
【0036】
図5(b)のアンテナ素子120からの通過特性で示す4つの信号S
52,S
62,S
72,S
82は、それぞれアンテナ素子120から無線送信される信号を、第2アンテナ20のアンテナ素子210,220,230,240で受信した信号のレベルを示す。ここでは、アンテナ素子120に対向したアンテナ素子220での受信信号S
62が信号波となり、他のアンテナ素子210,230,240での受信信号S
52,S
72,S
82が干渉波となる。受信信号S
62は、5.37GHzにおいて、干渉波としての受信信号S
52,S
72,S
82との通過アイソレーションが、19.1dBである。
【0037】
図5(c)のアンテナ素子130からの通過特性で示す4つの信号S
53,S
63,S
73,S
83は、それぞれアンテナ素子130から無線送信される信号を、第2アンテナ20のアンテナ素子210,220,230,240で受信した信号のレベルを示す。ここでは、アンテナ素子130に対向したアンテナ素子230での受信信号S
73が信号波となり、他のアンテナ素子210,220,240での受信信号S
53,S
63,S
83が干渉波となる。受信信号S
73は、5.37GHzにおいて、干渉波としての受信信号S
53,S
63,S
83との通過アイソレーションが、15.8dBである。
【0038】
図5(d)のアンテナ素子140からの通過特性で示す4つの信号S
54,S
64,S
74,S
84は、それぞれアンテナ素子140から無線送信される信号を、第2アンテナ20のアンテナ素子210,220,230,240で受信した信号のレベルを示す。ここでは、アンテナ素子140に対向したアンテナ素子240での受信信号S
84が信号波となり、他のアンテナ素子210,220,230での受信信号S
54,S
64,S
74が干渉波となる。受信信号S
84は、5.37GHzにおいて、干渉波としての受信信号S
54,S
64,S
74との通過アイソレーションが、15.6dBである。
【0039】
このように本実施の形態例の場合、5.37GHzにおいて通過アイソレーションが少なくとも15.6dB以上あり、4つのアンテナ素子110~140,210~240を使って、4系統の情報の無線伝送を同じ周波数で同時に行うことができる。
【0040】
図6(a),(b),(c),(d)は、送信側である第1アンテナ10の4つのアンテナ素子110,120,130,140を励振したときの電界分布を示す。
図6において、上下方向が
図1のZ軸方向であり、反射板190,290の位置を太い実線、アンテナ基板101,201の位置を細い実線で示す。この
図6は、電界強度をカラーで色分けしたものであり、白黒で示す図面上では必ずしも正確に電界分布を示すものではないが、電界強度分布のおおよその状態が判る。
【0041】
本実施の形態例では、スパイラル状導電部材191,291を配置した反射板190,290を配置したことで、向き合った反射板190,290の間の電解分布が比較的高くなっていることがわかる。したがって、第1アンテナ10と第2アンテナ20との間での無線情報伝送や、無線電力伝送を効率よく行うことができる。
但し、
図6(a)のアンテナ素子110を励振したときの電界分布や、
図6(b)のアンテナ素子120を励振したときの電界分布では、反射板190,290の後方まである程度電界が漏れている。次に説明する第2の実施の形態例では、反射板190,290の後方の電界の漏れを改善するようにした。
【0042】
<第2の実施の形態例>
以下、本発明の第2の実施の形態例を、
図7~
図10を参照して説明する。
【0043】
本発明の第2の実施の形態例(以下、「本実施の形態例」という)において、アンテナシステム1の第1アンテナ10及び第2アンテナ20の全体構成は、
図1に示す第1アンテナ10及び第2アンテナ20と同一である。
すなわち、本実施の形態例は、アンテナシステム1の第1アンテナ10が複数(4個)のアンテナ素子110~140を備え、第2アンテナ20が複数(4個)のアンテナ素子210~240を備えてOAM通信を行うと共に、アンテナ素子140、240の間で無線電力伝送を行う点は、第1の実施の形態例と同じである。
ただし、本実施の形態例においては、第1アンテナ10及び第2アンテナ20が備える反射板190及び290の構成が、第1の実施の形態例とは異なる。
【0044】
図7(a)は、アンテナ基板101上のアンテナ素子110~140の電流分布を示し、
図7(b)は、本実施の形態例の反射板190,290の構成を示す。
図7(b)は、第1アンテナ10の反射板190を示しているが、第1アンテナ10の反射板190と第2アンテナ20の反射板290は同一の構成であるから、反射板290については説明を省略する。
【0045】
反射板190には、
図7(b)に示すように、スパイラル状導電部材191が取り付けられている。
図7(b)に示すスパイラル状導電部材191の配置状態は、
図3に示すスパイラル状導電部材191と同一形状である。
図3に示した第1の実施の形態例の反射板190とは異なり、本実施の形態例のスパイラル状導電部材191では、スパイラル状に配置されている隣接した導電箇所が、キャパシタ192で接続されている。
【0046】
このキャパシタ192としては、OAM通信を行う周波数帯域において通過特性が上昇し、それ以外の帯域において通過特性が低下する特性の小容量のキャパシタ(コンデンサ)が使用される。つまり、OAM通信を行う周波数でインピーダンスがほぼ最小になる特性のキャパシタ192を接続する。例えば、キャパシタ192として、2.5pFのものが使用される。
キャパシタ192で隣接する導電箇所を接続する箇所は、
図7(a)に示すアンテナ素子110~140の電流分布の節i
Vとなる位置(電流分布が弱まる位置)である。
【0047】
すなわち、アンテナ素子110~140の電流分布には、節i
Vとなる箇所と谷i
Pとなる箇所とが交互に発生し、節i
Vとなる箇所と重なる位置に、スパイラル状導電部材191にキャパシタ192が接続されている。
図7では図示を省略するが、第2アンテナ20の反射板290に配置したスパイラル状導電部材291にも、同様の位置にキャパシタ192が接続される。
【0048】
円形ループアンテナであるアンテナ素子110~140に発生する定在波の節の位置は、以下の式1で一般化される。
A=(2k+1)π/2n …(式1)
ここで、Aは、節の位置を、円形ループアンテナの中心から給電部に向かう直線と、中心から節に向かう直線との間の角度として、ラジアンで表す。nは、アンテナ素子の周囲長の、入力信号の波長に対する倍数を表す。kは、0以上2n未満の任意の整数を表す。πは円周率である。
【0049】
式1をアンテナ素子110(210)の例に適用すると、倍数nは1であり、任意の正数kは0又は1であり、角度Aはπ/2又は3π/2である。
また、式1をアンテナ素子120(220)の例に適用すると、倍数nは2であり、任意の正数kは0,1,2又は3であり、角度Aはπ/4,3π/4,5π/4又は7π/4である。
【0050】
また、式1をアンテナ素子130(230)の例に適用すると、倍数nは3であり、任意の正数kは0,1,2,3,4又は5であり、角度Aはπ/6,3π/6,5π/6,7π/6,9π/6又は11π/6である。
【0051】
さらに、式1をアンテナ素子140(240)の例に適用すると、倍数nは4であり、任意の正数kは0,1,2,3,4,5,6又は7であり、角度Aはπ/8,3π/8,5π/8,7π/8,9π/8,11π/8,13π/8又は15π/8である。
キャパシタ192は、これらの角度Aに対応する位置と向き合った箇所のスパイラル状導電部材191(291)同士を接続するように配置される。
【0052】
図8は、第1アンテナ10のアンテナ素子140と、第2アンテナ20のアンテナ素子240との間で無線電力伝送を行う際の電力伝送効率を示す。
図8の縦軸は効率を示し、横軸は無線電力伝送に使用する周波数を示す。
【0053】
図8に示すように、本実施の形態例の場合、無線電力伝送に使用する周波数が34MHzのとき、83.6%と最も高い効率になる。したがって、34MHzで第1アンテナ10のアンテナ素子140と、第2アンテナ20のアンテナ素子240との間で無線電力伝送を行うのが好ましい。
【0054】
図9は、第1アンテナ10を送信アンテナとし、第2アンテナ20を受信アンテナとした場合の、第1アンテナ10の4つのアンテナ素子110,120,130,140からの無線送信信号の通過特性を示す。各図の縦軸は信号波又は干渉波のレベル、横軸は周波数を示す。
【0055】
図9(a)のアンテナ素子110からの通過特性で示す4つの信号S
51,S
61,S
71,S
81は、それぞれアンテナ素子110から無線送信される信号を、第2アンテナ20のアンテナ素子210,220,230,240で受信した信号のレベルを示す。ここでは、アンテナ素子110に対向したアンテナ素子210での受信信号S
51が信号波となり、他のアンテナ素子220,230,240での受信信号S
61,S
71,S
81が干渉波となる。受信信号S
51は、5.2GHzにおいて、干渉波としての受信信号S
61,S
71,S
81との通過アイソレーションが、22.6dBである。
【0056】
図9(b)のアンテナ素子120からの通過特性で示す4つの信号S
52,S
62,S
72,S
82は、それぞれアンテナ素子120から無線送信される信号を、第2アンテナ20のアンテナ素子210,220,230,240で受信した信号のレベルを示す。ここでは、アンテナ素子120に対向したアンテナ素子220での受信信号S
62が信号波となり、他のアンテナ素子210,230,240での受信信号S
52,S
72,S
82が干渉波となる。受信信号S
62は、5.2GHzにおいて、干渉波としての受信信号S
52,S
72,S
82との通過アイソレーションが、18.5dBである。
【0057】
図9(c)のアンテナ素子130からの通過特性で示す4つの信号S
53,S
63,S
73,S
83は、それぞれアンテナ素子130から無線送信される信号を、第2アンテナ20のアンテナ素子210,220,230,240で受信した信号のレベルを示す。ここでは、アンテナ素子130に対向したアンテナ素子230での受信信号S
73が信号波となり、他のアンテナ素子210,220,240での受信信号S
53,S
63,S
83が干渉波となる。受信信号S
73は、5.2GHzにおいて、干渉波としての受信信号S
53,S
63,S
83との通過アイソレーションが、19.7dBである。
【0058】
図9(d)のアンテナ素子140からの通過特性で示す4つの信号S
54,S
64,S
74,S
84は、それぞれアンテナ素子140から無線送信される信号を、第2アンテナ20のアンテナ素子210,220,230,240で受信した信号のレベルを示す。ここでは、アンテナ素子140に対向したアンテナ素子240での受信信号S
84が信号波となり、他のアンテナ素子210,220,230での受信信号S
54,S
64,S
74が干渉波となる。受信信号S
84は、5.2GHzにおいて、干渉波としての受信信号S
54,S
64,S
74との通過アイソレーションが、18.5dBである。
【0059】
このように本実施の形態例の場合、5.2GHzにおいて通過アイソレーションが少なくとも18.5dB以上あり、4つのアンテナ素子110~140,210~240を使って、4系統の情報の無線伝送を同じ周波数で同時に行うことができる。
また、
図9の例の場合の通過アイソレーション18.5dBは、第1の実施の形態例で説明した
図5の例の場合の通過アイソレーション15.6dBから2.9dB改善されている。したがって、本実施の形態例のアンテナシステム1は、第1の実施の形態例のアンテナシステムと比較しても、高効率な電力伝送効率を維持しつつ通信特性を改善できることが判る。
【0060】
図10(a),(b),(c),(d)は、送信側である第1アンテナ10の4つのアンテナ素子110,120,130,140を励振したときの電界分布を示す。
図10において、上下方向が
図1のZ軸方向であり、反射板190,290の位置を太い実線、アンテナ基板101,201の位置を細い実線で示す。この
図10は、第1の実施の形態例で説明した
図6と同様に、電界強度をカラーで色分けしたものであり、白黒で示す図面上では必ずしも正確に電界分布を示すものではない。
【0061】
本実施の形態例での電界分布を示す
図10の場合、第1の実施の形態例での電界分布を示す
図6と比較すると判るように、スパイラル状導電部材191,291を配置した反射板190,290の後方のOAM波の漏れが非常に少なくなっている。
したがって、本実施の形態例によると、第1アンテナ10と第2アンテナ20との間での無線情報伝送や、無線電力伝送をより効率よく行うことができる。
【0062】
<変形例>
なお、本発明は、上述した各実施の形態例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した第2の実施の形態例では、反射板190のスパイラル状導電部材191に接続するキャパシタ192として、2.5pFのものを使用したが、この2.5pFのキャパシタは一例であり、その他の容量値のキャパシタを使用してもよい。OAM通信を行う周波数についても、各実施の形態例で説明した5.2GHzなどの値は一例であり、その他の周波数を使用してもよい。
【0063】
また、各実施の形態例では、電力伝送を行うアンテナ素子を、電力送信側の第1アンテナ10と電力受信側の第2アンテナ20のいずれも、最外周のアンテナ素子140,240とした。これに対して、その他のアンテナ素子を使って電力伝送を行うようにしてもよい。また、電力送信側のアンテナ10と電力受信側のアンテナ20の双方で、複数のアンテナ素子を使って電力伝送を行うようにしてもよい。
【0064】
また、各実施の形態例では、情報信号を送信する側の第1アンテナ10から受信する側の第2アンテナ20に電力を伝送するようにした。これに対して、情報信号を伝送する方向と、電力を伝送する方向とを逆に設定してもよい。また、情報信号の伝送は、第1アンテナ10と第2アンテナ20との間で双方向に行うようにしてもよい。
【0065】
さらにまた、各実施の形態例で説明した各アンテナ10,20に配置するアンテナ素子110~140,210~240の数についても一例を示したものであり、第1アンテナ10と第2アンテナ20とで同じ数であれば、任意の数(N個)のアンテナ素子を設けて、対向配置すればよい。
【符号の説明】
【0066】
1…アンテナシステム、10…第1アンテナ、20…第2アンテナ、101…アンテナ基板、110…第1アンテナ素子、111…第1給電点、112…信号線、113…ハイパスフィルタ、120…第2アンテナ素子、121…第2給電点、122…信号線、123…ハイパスフィルタ、130…第3アンテナ素子、131…第3給電点、132…信号線、133…ハイパスフィルタ、140…第4アンテナ素子、141…第4給電点、142…信号線、143…ハイパスフィルタ、151…給電線、152…ローパスフィルタ、190…反射板、191…スパイラル状導電部材、192…キャパシタ、201…アンテナ基板、210…第5アンテナ素子、211…第1給電点、212…信号線、213…ハイパスフィルタ、220…第6アンテナ素子、221…第2給電点、222…信号線、223…ハイパスフィルタ、230…第7アンテナ素子、231…第3給電点、232…信号線、233…ハイパスフィルタ、240…第8アンテナ素子、241…第4給電点、242…信号線、243…ハイパスフィルタ、251…給電線、252…ローパスフィルタ、290…反射板、291…スパイラル状導電部材