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特許7554473粒状窒化ホウ素の製造方法および粒状窒化ホウ素
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】粒状窒化ホウ素の製造方法および粒状窒化ホウ素
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/064 20060101AFI20240912BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20240912BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C01B21/064 M
C08L63/00 C
C08L101/00
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020549724
(86)(22)【出願日】2020-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2020005627
(87)【国際公開番号】W WO2020195298
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2019064120
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)香川大学の学内LANを通じての修士論文のアブストラクトの掲載 掲載日:2019年2月15日 掲載アドレス:学内ネットワーク「file://stfile.eng.kagawa-u.ac.jp」 修士論文の閲覧サイト「¥¥stfile.eng.kagawa-u.ac.jp¥Report¥AMS¥abst2018¥修論発表」 ファイル「s17g556.docx」 (2)香川大学 材料創造工学専攻 平成30年度 修士論文発表会における公開 公開日:2019年2月28日 公開場所:国立大学法人香川大学林町キャンパス 6201号室
(73)【特許権者】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(72)【発明者】
【氏名】楠瀬 尚史
(72)【発明者】
【氏名】卯野 佳範
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-043804(JP,A)
【文献】特開2016-060661(JP,A)
【文献】国際公開第2016/092951(WO,A1)
【文献】特表2015-518808(JP,A)
【文献】特開2013-241321(JP,A)
【文献】特開2011-225736(JP,A)
【文献】特開2013-056789(JP,A)
【文献】特開2018-165241(JP,A)
【文献】卯野 佳範 ほか,微細な窒化ホウ素を原料とした窒化ホウ素凝集フィラーの合成:その2,日本セラミックス協会第31回秋季シンポジウム講演予稿集,2018年,1PC02
【文献】KUSUNOSE Takafumi et al.,Thermal conductivity of hot-pressed hexagonal boron nitride,Scripta Materialia,2016年,Vol. 124,pp. 138-141
【文献】楠瀬 尚史 ほか,凝集窒化ホウ素フィラー添加によるエポキシハイブリッド材料の熱伝導異方性の改善,日本セラミックス協会2018年年会講演予稿集,2018年,3D23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
C04B 35/583
C08L 63/00
C08L 101/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)窒化ホウ素を含んで成る窒化ホウ素成分、
(2)イットリウム、セリウムおよびイッテルビウムから選択される少なくとも1つの希土類元素の酸化物および/またはその前駆体化合物を含んで成る希土類成分、および
((3)酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムを含んで成るカルシウム成分
を含んで成る混合物を、非酸化性ガス雰囲気下で加熱処理する工程を含み、
加熱処理は、混合物を1800~2100℃にて5~20時間加熱することを特徴とする粒状窒化ホウ素組成物の製造方法。
【請求項2】
加熱処理する混合物に含まれる窒化ホウ素成分(1)中の窒化ホウ素、希土類成分(2)に含まれる希土類元素の酸化物ならびにカルシウム成分(3)に含まれる酸化カルシウムの総質量に対する、希土類成分(2)中の希土類元素の酸化物ならびにカルシウム成分(3)中の酸化カルシウムの総質量の割合は、5%~60%であることを特徴とする請求項1に記載の粒状窒化ホウ素組成物の製造方法。
【請求項3】
加熱処理する混合物における元素数基準で希土類成分(2)中の希土類元素:カルシウム成分(3)中のカルシウム元素は、1:0.25~1:4であることを特徴とする請求項1または2に記載の粒状窒化ホウ素組成物の製造方法。
【請求項4】
窒化ホウ素成分(1)は、5質量%以下の酸素を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の粒状窒化ホウ素組成物の製造方法。
【請求項5】
平均粒子径が10~25μm、比表面積(BET多点法を使用して算出)が2~10m/gであるシェル構造を有する粒状窒化ホウ素、ならびにイットリウム、セリウムおよびイッテルビウムから選択される少なくとも1つの希土類元素の酸化物を含んで成ることを特徴とする粒状窒化ホウ素組成物。
【請求項6】
粒状窒化ホウ素は、アスペクト比が1~3であるシェル構造を有することを特徴とする請求項5に記載の粒状窒化ホウ素組成物。
【請求項7】
質量基準で希土類元素酸化物を3~40%含み、酸化カルシウムを1~30%含んで成ることを特徴とする請求項5または6に記載の粒状窒化ホウ素組成物。
【請求項8】
請求項1~4のいずれかに記載の粒状窒化ホウ素組成物の製造方法により得られる粒状窒化ホウ素組成物を酸洗浄により処理することによって酸化物を除去することによって得られることを特徴とする粒状窒化ホウ素の製造方法。
【請求項9】
除去する酸化物は、実質的に全量の酸化カルシウムおよび少なくとも一部の希土類元素酸化物であることを特徴とする請求項8に記載の粒状窒化ホウ素の製造方法。
【請求項10】
平均粒子径が10~25μm、比表面積(BET多点法を使用して算出)が2~10m/gであるシェル構造を有することを特徴とする粒状窒化ホウ素。
【請求項11】
アスペクト比が1~3であるシェル構造を有することを特徴とする請求項10に記載の粒状窒化ホウ素。
【請求項12】
粒状窒化ホウ素の質量基準で、1%~15%の希土類元素酸化物を含むことを特徴とする請求項10または11に記載の粒状窒化ホウ素。
【請求項13】
請求項5~7のいずれかに記載の粒状窒化ホウ素組成物に含まれることを特徴とする請求項10~12のいずれかに記載の粒状窒化ホウ素。
【請求項14】
請求項5~7のいずれかに記載の粒状窒化ホウ素組成物および樹脂材料を含んで成ることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項15】
粒状窒化ホウ素組成物の量は、樹脂組成物の質量基準で10~90%であることを特徴とする請求項14に記載の樹脂組成物。
【請求項16】
請求項10~13のいずれかに記載の粒状窒化ホウ素および樹脂材料を含んで成ることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項17】
粒状窒化ホウ素の量は、樹脂組成物の質量基準で10~90%であることを特徴とする請求項16に記載の樹脂組成物。
【請求項18】
樹脂材料はエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項14~17のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項19】
請求項14~18のいずれかに記載の樹脂組成物を成形することを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項20】
請求項14~18のいずれかに記載の樹脂組成物を用いて製造することを特徴とする成形体。
【請求項21】
成形に際して圧力を加える方向に対して平行な方向の熱伝導率が10~25W/(m・K)である請求項20に記載の成形体。
【請求項22】
成形に際して圧力を加える方向に対して垂直な方向の熱伝導率が15~35W/(m・K)である請求項20または21に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粒状窒化ホウ素組成物の製造方法およびその方法により得られる粒状窒化ホウ素組成物に関する。更に、本発明は、粒状窒化ホウ素組成物および樹脂を含んで成る樹脂組成物、そのような樹脂組成物を成形して得られる、粒状窒化ホウ素および樹脂を含んで成る成形体、ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素(以下、「BN」とも呼ぶ)は、絶縁性のセラミックスであり、ダイヤモンド構造を持つc-BN、黒鉛構造をもつh-BN、乱層構造を持つt-BN等の様々な結晶型が知られている。
【0003】
これらの中で、h-BNは、合成が比較的容易で、熱伝導性、固体潤滑性、化学的安定性、耐熱性に優れるという特徴を備えていることから、著しく低い熱伝導性を有する樹脂材料にフィラーと混合して熱伝導性を高めることが試みられている。そのような樹脂材料は、電気・電子分野では集積回路の放熱部材用として用いられている。
【0004】
しかしながら、h-BNは、グラファイトと同様の積層構造を有し、結晶異方性が大きい。h-BNはマクロ的には粒状であるが、ミクロ的には板状結晶の積層体である。結晶のa軸方向に相当する板状晶面内では強い共有結合で繋がっているため400W/mK近い大きい熱伝導率を示す。他方、c軸方向に相当する板厚方向は弱いファンデルワールス力結合で積層しているため、1~2W/mK程度の小さい熱伝導率を示すに過ぎない。
【0005】
このような窒化ホウ素を樹脂材料に配合した樹脂組成物を成形して成形体を製造すると、板状の窒化ホウ素が成形時の樹脂組成物の流動方向である成形体の板面方向に配向することとなり、得られる成形体は、板面方向には熱伝導率に優れるものの、厚み方向には低い熱伝導率しか示さないという問題がある。従って、このような粒状BNの異方性を改善することが望まれている。
【0006】
例えば、特開2013-147363号には、窒化ホウ素と、イットリウム、セリウム、イッテルビウムから選ばれる少なくとも1種の希土類金属の酸化物と炭素とを混合し、非酸化性ガス雰囲気下で加熱処理する工程を含む金属酸化物含有窒化ホウ素の製造方法が開示されている。この方法で製造される窒化ホウ素は、熱伝導性、固体潤滑性、化学的安定性、耐熱性等の向上を目的として樹脂材料に多量配合した樹脂組成物とした場合であっても、樹脂組成物としての成形加工性を良好に維持しながらも、成形される成形体の厚み方向の熱伝導性を改良できる。
【0007】
上述の方法によって窒化ホウ素を製造すると、熱伝導率が改善され得ることが説明されているが、上述の窒化ホウ素の本来の熱伝導率と比較すると、改善される熱伝導率には更なる改善の余地がある。また、イットリウム等の希土類金属成分は比較的高価であるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-147363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、窒化ホウ素を樹脂材料に混合して、それを用いて成形体を製造するに際して、熱伝導率を更に大きくすることが望まれている。また、イットリウム等の希土類金属成分を使用する場合、その使用量を減らすことが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題について、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、焼結助剤としてのカルシウム化合物および希土類元素酸化物の存在下、窒化ホウ素、特に窒化ホウ素粉末を加熱処理することによって、上述の課題の少なくともひとつを改善できる粒状窒化ホウ素を製造できることを見出した。希土類元素酸化物に加えてカルシウム化合物が存在する条件下で窒化ホウ素粉末を加熱処理することによって、大きな粒子径を有する粒状窒化ホウ素を製造できることが見出された。
【0011】
本発明は、第1の要旨において、
(1)窒化ホウ素を含んで成る窒化ホウ素成分、
(2)イットリウム、セリウムおよびイッテルビウムから選択される少なくとも1つの希土類元素の酸化物および/またはその前駆体化合物を含んで成る希土類成分、および
(3)酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムを含んで成るカルシウム成分
を含んで成る混合物を、非酸化性ガス雰囲気下で加熱処理する工程を含むことを特徴とする粒状窒化ホウ素組成物の製造方法を提供する。
【0012】
本発明は、第2の要旨において、上述のような製造方法により得られる粒状窒化ホウ素組成物を提供する。これには、加熱処理によって得られる粒状窒化ホウ素に加えて、混合物に含まれていた成分(1)~(3)に由来する他の化合物が含まれている。そのような他の化合物は、主として希土類元素酸化物および酸化カルシウムであるが、例えば系に存在する元素に由来する複合酸化物等(例えばY-Ca-B-O系複合酸化物)も少量含まれ得る。
【0013】
本発明は、第3の要旨において、上述の粒状窒化ホウ素組成物に含まれている粒状窒化ホウ素を提供する。この粒状窒化ホウ素は、酸を用いる洗浄処理に上述の組成物を付して、酸化カルシウムおよび希土類元素酸化物の少なくとも一部分、酸化カルシウムの大部分、好ましくは実質的に全量を除去することによって得ることができる。従って、本発明は、第4の要旨において、粒状窒化ホウ素を製造する方法を提供し、この方法は、第2の要旨の粒状窒化ホウ素組成物を酸洗浄することを特徴とする。
【0014】
本発明は、第5の要旨において、第2の要旨の粒状窒化ホウ素組成物または第3の要旨の粒状窒化ホウ素および樹脂材料を含んで成る樹脂組成物を提供する。更に、本発明は、第6の要旨において、そのような樹脂材料を用いて成形することを特徴とする成形方法を、また、本発明は、第7の要旨において、そのような成形方法によって得られる成形体を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によって得られる粒状窒化ホウ素を樹脂材料と混合した樹脂組成物を用いて成形する場合、得られる成形体の熱伝導性が向上する。また、好ましい態様では、成形体の熱伝導に関する異方性が抑制される。特に多量に混合した場合であっても、良好な成形加工性を維持しながらも、得られる成形体の熱伝導性を向上できる。
【0016】
成形体としては、絶縁性が要求され、かつ、熱伝導性と成形加工性が要求される放熱シートを例示できる。例えば電気・電子分野等において使用するものに好適である。また、本発明の粒状窒化ホウ素組成物または粒状窒化ホウ素は、熱伝導性ペースト、熱伝導性接着剤、熱伝導性成形物用組成物等に配合できるフィラーとして使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の粒状窒化ホウ素の平均粒子径と加熱処理する混合物中における希土類成分(2)およびカルシウム成分(3)の総和(即ち、(2)+(3))の割合(質量基準パーセント)との関係を示す実験結果の表およびグラフを示す。
図2図2は、本発明の粒状窒化ホウ素の比表面積と加熱処理する混合物中における希土類成分(2)およびカルシウム成分(3)の総和(即ち、(2)+(3))の割合(質量基準パーセント)との関係を示す実験結果の表およびグラフを示す。
図3図3は、本発明の粒状窒化ホウ素を含む樹脂組成物を用いて得られる成形体の厚さ方向の熱伝導率と加熱処理する混合物中における希土類成分(2)およびカルシウム成分(3)の総和(即ち、(2)+(3))の割合(質量基準パーセント)との関係を示す実験結果の表およびグラフを示す。
図4図4は、本発明の粒状窒化ホウ素を含む樹脂組成物を用いて得られる成形体の面方向(厚さ方向に垂直な方向)の熱伝導率と加熱処理する混合物中における希土類成分(2)およびカルシウム成分(3)の総和(即ち、(2)+(3))の割合(質量基準パーセント)との関係を示す実験結果の表およびグラフを示す。
図5図5は、本発明の粒状窒化ホウ素を含む樹脂組成物を用いて成形した成形体中における粒状窒化ホウ素の配向度と粒状窒化ホウ素を製造する際に加熱処理する混合物中における希土類成分(2)およびカルシウム成分(3)の総和(即ち、(2)+(3))との関係を示す実験結果の表およびグラフを示す。
図6図6は、実施例6でえられた、本発明の粒状窒化ホウ素(但し、洗浄後)の典型的なSEM写真である。
図7図7は、実施例6で得られた、本発明の粒状窒化ホウ素組成物(但し、洗浄前)の典型的なSEM写真である。
図8図8は、実施例36で得られた酸化イットリウムを含む本発明の粒状窒化ホウ素(但し、洗浄後)のSEM写真およびEDS写真(N元素およびY元素について)である。
図9図9は、実施例11で得られた、本発明の粒状窒化ホウ素組成物(但し、洗浄前)のSEM写真およびEDS写真(N元素、Ca元素およびY元素について)である。
図10図10は、実施例12で得られた、本発明の粒状窒化ホウ素(但し、洗浄後)のSEM写真およびEDS写真(N元素について)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施するための形態を詳細に説明する。
【0019】
本発明の粒状窒化ホウ素組成物の製造方法において、好ましい態様では、窒化ホウ素成分(1)に含まれる窒化ホウ素は、黒鉛構造を有する六方晶窒化ホウ素(h-BN)であり、1つの態様では、窒化ホウ素は好ましくは粉末状(または微細な粒状)の窒化ホウ素、好ましくはh-BNである。このような窒化ホウ素成分(1)として、六方晶窒化ホウ素として一般的に市販されているものを用いることができる。
【0020】
希土類成分(2)に含まれる希土類元素の酸化物は、例えば酸化イットリウム、酸化セリウムまたは酸化イッテルビウムであり、希土類元素の酸化物の前駆体は、加熱処理に先だって実施する予備加熱処理および/または加熱処理において、そのような酸化物をもたらす化合物を意味する。このような希土類成分(2)として、例えば酸化イットリウム、酸化セリウム等として一般的に市販されているものを用いることができる。
【0021】
カルシウム成分(3)は酸化カルシウムおよび/または炭酸カルシウムを含んで成るが、そのようなカルシウム成分(3)として、一般的に市販されている酸化カルシウム、炭酸カルシウム等を用いることができる。
【0022】
1つの好ましい態様では、加熱処理する混合物に含まれる窒化ホウ素成分(1)中の窒化ホウ素(BN)、希土類成分(2)に含まれる希土類元素の酸化物(例えばY)およびその前駆体(存在する場合)ならびにカルシウム成分(3)に含まれる酸化カルシウム(CaO)および水酸化カルシウム(存在する場合)の総質量に対する、希土類成分(2)中の希土類元素の酸化物およびその前駆体(存在する場合)ならびにカルシウム成分(3)中の酸化カルシウムおよび水酸化カルシウム(存在する場合)の総質量の割合(例えば(Y+CaO)/(BN+Y+CaO))は、一般的には5%~60%(従って、窒化ホウ素は95~40%)、好ましくは6%~50%(従って、窒化ホウ素は94~50%)、より好ましくは、7~42%、特に好ましくは、14~42%、例えば14~35%である。
【0023】
別の好ましい態様では、加熱処理する混合物における元素数基準で希土類成分(2)中の希土類元素:カルシウム成分(3)中のカルシウム元素(例えばY元素数:Ca元素数)は、好ましくは1:0.25~1:4、より好ましくは1:0.5~1:3、特に好ましくは1:0.7~1:2.5、例えば1:1~1:2である。
【0024】
加熱処理は、非酸化性ガス雰囲気下で実施する。非酸化性ガス雰囲気とは、酸素を含まない雰囲気を意味し、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、アンモニアガス、水素ガス、メタンガス、プロパンガス、一酸化炭素ガスなどの1種又は2種以上を含んで成る雰囲気である。この雰囲気に用いるガスの種類によって窒化ホウ素の溶解後の結晶化速度が異なり、例えばアルゴンガスでは、結晶化の速度が遅くなり、加熱処理時間が長時間に及ぶ場合がある。結晶化を短時間で行うためには特に窒素ガス、または窒素ガスと他のガスを併用した混合ガスを用いるのが好適である。本発明の1つの態様では、加熱処理を窒素ガス雰囲気で実施する。加熱処理すべき混合物は、後述する所定の加熱処理温度に達するまでも非酸化性雰囲気下にあるのが好ましい。尚、本明細書において、非酸化性ガス雰囲気は、実質的にガスを含まない、または殆ど含まない、いわゆる真空状態または減圧状態であってもよい。
【0025】
尚、本発明の方法において、窒化ホウ素成分(1)は、酸素を含んでよく、その場合(例えば酸化ホウ素の形態で含む場合)、必要に応じて(例えば酸化ホウ素の少なくとも一部分を窒化ホウ素に変換するために)、混合物は、炭素を窒化ホウ素成分(1)中の窒化ホウ素の質量に対して1%~5%の量で使用してよい。別の態様では、実質的な悪影響が無い限り、混合物は炭素を含まない。尚、一般的に「窒化ホウ素」として市販されているものを窒化ホウ素成分(1)として使用する場合、含まれている酸素はそれほど多くない(例えば、窒化ホウ素成分(1)の質量基準で一般的には5%以下、例えば4質量%)ので通常炭素を使用する必要はないが、必要に応じて(例えば酸素量が多い場合)、混合物は炭素を含んでよい。
【0026】
本発明の粒状窒化ホウ素組成物に含まれている粒状窒化ホウ素は、その平均粒子径が好ましくは9~25μm、より好ましくは10~20μm、例えば12~15μmであり、また、粒状物の比表面積は、好ましくは2~10m/g、より好ましくは4~8m/g、例えば5~6m/gである。尚、上述の平均粒子径および比表面積は、それぞれ以下の方法で測定される値を意味する:
【0027】
(平均粒子径)
得られた粒状物0.02~0.04gを20mlの分散媒としての石鹸水(台所用液体洗剤(キッチンフレッシュ、三協油脂製)1gを純水500mlに混合したもの)に入れ、超音波洗浄機によって5分撹拌して粒状物を分散させた。その後、レーザ回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所:SALD-2100)を用い、体積基準の粒度累積線図を作成し、粒度累積率50%における粒子径(Dv50)を平均粒子径(または単に「粒子径」と呼ぶ)とする。尚、本明細書にて言及する平均粒子径は、粒子の凝集状態に関係無くこの測定法によって得られる数値であり、粒子の性質に応じて、一次粒子の平均粒子径である場合もあり、また、二次粒子の平均粒子径である場合もある。場合によっては、一次粒子と二次粒子の双方が混在した状態で測定される平均粒子径である。
【0028】
(比表面積)
粉末形態の粒状窒化ホウ素の比表面積をガス吸着量測定装置(AUTOSORB-1,カンタクローム・インスツルメンツ合同会社)によって測定した。尚、測定前にサンプルを110℃で12時間乾燥した。粒状物(0.5~1.0g)の表面積の計算方法として代表的なBrunauer-Emmett-Teller(BET)法を用いた。BET多点法を使用し、P/P=0.1、0.2、0.3となる3点のBETプロットから比表面積を計算した(但し、Pは吸着平衡にある吸着質の気体の圧力、Pは吸着温度における吸着質の飽和蒸気圧である)。
【0029】
加熱処理によって生成する本発明の粒状窒化ホウ素は、加熱処理に際して、希土類元素酸化物に加えて酸化カルシウムが先だって溶融して生じる液相に窒化ホウ素が溶解した後、液相から析出することによって生じると考えられる。このことは、いかなる理論によっても拘束されるものではないが、発明者らが有する、窒化ホウ素の生成に関する知識および経験ならびに上述の製造方法に関して得られた新たな知見、特に生じる粒状物のSEM写真の結果等に基づいて、粒状物の生成について、以下のように考えることができる。尚、この考えは可能な考え方のひとつに過ぎない。特定の条件下における加熱処理によって窒化ホウ素粒状物を得ることができるという本発明は、この考え方の適否によっていかなる制限を受けるものではない。
【0030】
本発明の粒状窒化ホウ素組成物の製造方法において、混合物を加熱処理すると、希土類元素酸化物および酸化カルシウムが優先的に溶融して液相を形成し、そこに粒状窒化ホウ素が溶解していく。この溶解が進行することによって液相中の窒化ホウ素濃度が上昇して過飽和状態となり、その結果、窒化ホウ素が析出する(再結晶する)ことになる。このように窒化ホウ素が析出する一方で新たに別の窒化ホウ素粒子が液相に溶解して過飽和状態となり、その結果、窒化ホウ素が更に析出することになる。このような溶解→析出を繰り返すことによって析出した窒化ホウ素が結合して屈曲形態となる。屈曲形態の窒化ホウ素の内側および外側には窒化ホウ素が溶解した液相が存在するため、そこでは過飽和→析出が繰り返して起こり、窒化ホウ素の結晶が更に成長して屈曲形態が厚くなり、また、長くなり、窒化ホウ素の結晶が徐々に成長する。このように成長した屈曲窒化ホウ素は、別に同じように成長した屈曲窒化ホウ素の結晶と結合し、更にその内側および外側で成長して、最終的にある程度の厚さを有する壁で囲まれた形態、即ち、窒化ホウ素結晶の略球状または粒(つぶ)状のシェルが形成される。この意味で、本明細書では、加熱処理によって得られる窒化ホウ素を「粒状窒化ホウ素」と呼ぶ。
【0031】
このように、本発明の粒状窒化ホウ素は、比較的厚い壁の形態の窒化ホウ素により形成された強固なシェル構造を有する。このシェル構造は、粒子全体としては、巨視的には丸みを有する形態、即ち、粒(つぶ)状である。厳密な意味では、いわゆる球状、回転楕円体状、または多面体形状であり、一般的にはこれらの複雑な組み合わせの形状を有する。通常、この粒状物はアスペクト比が比較的小さい、好ましくは1~3、より好ましくは1~2であり、グラファイト構造を有する窒化ホウ素のようにアスペクト比が大きい粒状物とは明らかに異なる。
【0032】
典型的な本発明の粒状窒化ホウ素のSEM写真の例を図6に示す。これらの写真は、後述の実施例6で得られた粒状窒化ホウ素のものである。これを詳細に観察すると、粒状窒化ホウ素は、屈曲した壁によって構成された、全体としては多面体(または球状)の見かけの形態を有する、いわゆる粒(つぶ)状であることが分かる。尚、酸化物を除去する前の状態の本発明の粒状窒化ホウ素組成物についてもSEM写真を撮影した。その写真を図7に示す。両者を比較すると分かるように、酸化物を除去した後のものと実質的に差が無かった。このことを説明できる可能性として、添加した酸化物からなる液相成分が主にシェル構造の粒状窒化ホウ素内に残っているということが考えられる。
【0033】
上述のシェル構造を本発明の粒状窒化ホウ素において、シェル構造の内部に他の粒状窒化ホウ素またはその一部が包含されている場合がある。図10は後述の実施例12において得られた粒状窒化ホウ素をエポキシ樹脂に混合して硬化させたものの断面の2つの異なる視野部位におけるSEM写真と、その写真における窒素元素のEDS写真を示したものである。図10において、上方の写真がSEM写真である。この状態の粒状窒化ホウ素をEDS(エネルギー分散型X線分析)を用いてN元素についてマッピング分析した結果を示す下方の写真がEDS写真である。左上の写真に対応するEDS写真が左下の写真であり、右上の写真に対応するEDS写真が右下の写真である。SEM写真において白く光っているように見える窒化ホウ素のシェル構造の内部に、EDS写真で確認できるように窒素元素(白っぽい部分)が、従って、窒化ホウ素が存在することが分かる。
【0034】
明らかなように、粒状窒化ホウ素のシェル構造の内部にも粒状窒化ホウ素が存在していることが分かる。図10の写真の左側の態様では、内部の粒状窒化ホウ素は、柱状(従って、三次元的には面状)であり、外側に位置する粒状窒化ホウ素のシェル構造の内部が分割、例えば二分されている。他方、図10の写真の右側の態様では、内部の粒状窒化ホウ素は、外側に位置する粒状窒化ホウ素のシェル構造の内部の一部分を充填している。このように包含された粒状窒化ホウ素は、シェル構造を形成するに到っていないシェル構造の一部分(例えばシェル構成する面の少なくとも1つまたはその一部分)であっても、より小さいシェル構造であってもよい。シェル構造を構成する面は、シェル構造を構成する実質的に平坦な面であっても、屈曲した面であってもよい。このようにシェル構造の内部に粒状窒化ホウ素は、1つの態様では、既に形成されたシェル構造またはその一部の内側で、窒化ホウ素が新たに析出して成長することによって生じると考えられる。別の態様では、成長した粒状窒化ホウ素またはその一部分が他の粒状窒化ホウ素またはその一部と結合することによって、粒状窒化ホウ素の一部分が内包されることによって生じると考えられる。このように、他の粒状窒化ホウ素が内包されている粒状窒化ホウ素は、熱伝導経路を増やすため、粒状窒化ホウ素の熱伝導をより高くすることに寄与すると考えられる。また、内部に他の粒状窒化ホウ素が存在することによって、粒状窒化ホウ素に外部から圧力が作用した場合に、変形することを抑制または防止する効果も奏すると考えられる。
【0035】
本発明では、上述のように窒化ホウ素が液相から析出してシェルが形成されるに際して、液相として希土類元素酸化物および酸化カルシウムが存在することが主たる特徴のひとつであり、その結果、得られる粒状窒化ホウ素は、より厚いシェルおよび小さいアスペクト比を有する。それによって、既知の種々の窒化ホウ素凝集体よりも圧壊強度に優れた粒状窒化ホウ素を生成することができる。具体的には、後述するように、樹脂材料に配合して樹脂組成物を得、これを成形した場合、成形体における粒状窒化ホウ素の配向度を約85%以下、好ましくは70%以下、より好ましくは20~65%、例えば25~60%にできる。粒状窒化ホウ素粒子の粒径が小さな場合は、ホットプレス圧力に対しても抵抗が強いため、粒状粒子が崩壊せずに、低い(00L)面の配向度を示すが、樹脂材料が高い熱伝導率を持つためには、高熱伝導経路が長くとれるように粒径の大きな粒状窒化ホウ素が望ましい。しかしながら、粒状窒化ホウ素の粒径が大きくなると、ホットプレスによって粒状が崩壊し易くなるため、(00L)面の配向度が大きくなる可能性がある。
【0036】
尚、上述のようにシェルが形成されるが、本発明の粒状窒化ホウ素組成物は、加熱後の冷却によって最終的にシェルの内側で固化した成分を含んで成る。この成分は、希土類元素酸化物および酸化カルシウムを主成分とするが、上述のように種々の化合物、特に複合酸化物を含んで成り得る。尚、このような成分に加えて、上述のように、粒状窒化ホウ素のシェル構造またはその一部を構成する窒化ホウ素の部分も含み得る。本発明の粒状窒化ホウ素組成物の製造方法において、加熱処理することによって得られる粒状窒化ホウ素組成物に含まれるホウ素、希土類元素およびカルシウムの元素の割合は、混合物に含まれるこれらの元素の割合と実質的に同じである。従って、粒状窒化ホウ素組成物に含まれる希土類元素酸化物および酸化カルシウムの量は、混合物に含まれる希土類元素およびカルシウムに由来する酸化物の量に等しい。
【0037】
従って、1つの態様では、粒状窒化ホウ素組成物は、窒化ホウ素に加えて、その質量基準で希土類元素酸化物を通常3~40%、好ましくは5~37%、より好ましくは8~35%、例えば12~32%含み、酸化カルシウムを1~30%、好ましくは2~26%、より好ましくは5~22%、例えば8~15%含んで成る。
【0038】
このような酸化物は、上述のように酸洗浄、例えば酸水溶液を用いて酸化物と酸とを反応させて水溶性の塩に変換して水に溶解させて除去することにより減らすことができる。例えば、粒状窒化ホウ素組成物を熱伝導性フィラーとして用いる場合、酸化物の熱伝導率は通常小さいので、粒状窒化ホウ素組成物に含まれる酸化物が熱伝導率に実質的に悪影響を与えない程度まで減らすのが好ましい。例えば、酸化カルシウムは、酸洗浄によって優先的に除去できるので、酸化カルシウムを実質的に全量除去し、希土類元素酸化物を部分的に除去する。粒状窒化ホウ素組成物に含まれる希土類元素酸化物の量が、その質量基準で例えば0.1~30%、好ましくは1~15%、より好ましくは2~12%、例えば3~10%となるように酸洗浄する。
【0039】
従って、本発明は、シェル構造を有する粒状窒化ホウ素を提供し、上述の粒状物から少なくとも希土類元素酸化物および/または酸化カルシウムを、好ましくは酸化カルシウムの大部分、より好ましくは実質的に全ての酸化カルシウムを除去することによって得られる、別の粒状窒化ホウ素をも提供する。即ち、より好ましい粒状物は、ホウ素、窒素、酸素および希土類元素を含んで成り、実質的にカルシウムを含まない。この粒状物は、窒化ホウ素により形成された強固なシェル構造を有すると共に、窒化ホウ素に加えて、少量の希土類元素酸化物を含んで成る。尚、酸化物の除去は、粒状窒化ホウ素のフィラーとしての性質が過度に影響されない限り、酸による洗浄以外のいずれの他の適当な方法によって実施してもよい。酸による洗浄は、粒状窒化ホウ素に悪影響を与えることなく、実質的に酸化物を除去できる点で有利である。
【0040】
本発明は、上述のように、好ましくは洗浄によって酸化物量を減らした粒状窒化ホウ素、特に酸化カルシウムを実質的に含まない粒状窒化ホウ素および樹脂材料を含んで成る樹脂組成物を提供する。樹脂組成物は、その全体の質量基準で粒状窒化ホウ素を好ましくは10~90%、より好ましくは15~88%、例えば30~85%、特に50~82%含んで成る。これらの範囲を体積割合で示すと、粒状物の見かけ密度によって多少相違するが、一例としてそれぞれ約5~80体積%、約10~70体積%、約15~50体積%に対応する。粒状窒化ホウ素の量が少なすぎると、粒状窒化ホウ素が接触して存在する確率が低下して熱伝導が不十分なことが有り得る。逆に、多すぎると、マトリックスとしての樹脂材料が過度に少なくなり、成形体としての強度や耐電圧に悪意影響が出ることが有り得る。また、別の態様では、樹脂組成物は、上述の粒状窒化ホウ素に代えて本発明の粒状窒化ホウ素組成物を同様の割合で含んで成ってよい。
【0041】
<粒状窒化ホウ素組成物および粒状窒化ホウ素の製造方法>
本発明の粒状窒化ホウ素組成物の製造方法は、窒化ホウ素(BN、好ましくは六方晶窒化ホウ素(h-BN))を含んでなる窒化ホウ素成分(1)と、イットリウム、セリウムおよびイッテルビウムから選択される少なくとも1つの希土類の元素の酸化物および/またはその前駆体を含んで成る希土類成分(2)と、カルシウム成分(3)とを含んで成る混合物を、非酸化性ガス雰囲気下で加熱処理する工程を含むことを特徴とする。
【0042】
本発明の粒状窒化ホウ素組成物の製造方法において、希土類成分(2)がイットリウム、セリウムおよびイッテルビウムから選択される少なくとも1つの希土類元素の酸化物の前駆体を含む場合、加熱処理工程またはその前に必要に応じて実施してよい予備加熱または仮焼工程で前駆体は対応する希土類元素酸化物に変換される。また、カルシウム成分(3)が炭酸カルシウムを含んで成る場合、同様にして酸化カルシウムに変換される。変換されたものは、希土類元素酸化物または酸化カルシウムとして、粒状窒化ホウ素結晶の析出および成長に寄与する。
【0043】
本発明の粒状窒化ホウ素組成物の製造方法は、例えば原料としての成分(1)、(2)および(3)を混合して混合物を得、これを非酸化性ガス雰囲気下で加熱する、例えば1800~2100℃で加熱することにより実施する。混合物は、必要に応じて他の成分、例えば原料としての成分を製造するに際して不可避的に含まれてしまう成分を含んでよい。例えば、窒化ホウ素成分(1)が過度の酸素を含む場合(例えば酸化ホウ素を含むため5質量%以上の酸素を含む場合)、混合物は炭素を含んでよく、炭素を用いて還元することによって酸素を減らすことができる(その結果、窒化ホウ素が生成し得る)。
【0044】
混合物の均一な混合を促進するために、適当な分散媒(例えばエタノール、アセトン等)を用いてよく、質量基準で混合物に対して5~20倍の分散媒と共にホモジナイザーで均一に混合してスラリーまたはペーストとする。これを乾燥した後、必要に応じて空気中でか焼(calcination、仮焼成または焼成)して、混合物を構成する成分が均一に混合された粉末を得、その後、非酸化性ガス雰囲気下、1800~2100℃で加熱処理する。
【0045】
<窒化ホウ素成分(1)>
本発明で用いる窒化ホウ素成分(1)としては、市販のh-BN、市販のt-BN、ホウ素化合物とアンモニアの還元窒化法により作製されたBN、ホウ素化合物とメラミン等の含窒素化合物から合成されたBN等を例示でき、特に制限なく使用できる。1つの態様では、h-BNを用いるのが好ましい。このような窒化ホウ素成分(1)は、質量基準で窒化ホウ素を少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%含むのが好ましい。本発明の効果を阻害しない限り、窒化ホウ素を製造するに際して不可避的に混入する他のホウ素化合物(例えば酸化ホウ素)、他の元素または成分等を含んでよい。窒化ホウ素成分(1)を構成する窒化ホウ素は、h-BNが好ましいが、他の窒化ホウ素を含んでもよい。h-BNが窒化ホウ素に占める割合は、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、例えば少なくとも96%、特に少なくとも98%であってよく、残りは他の窒化ホウ素である。窒化ホウ素は、通常、微粒子または粉末の形態で市販されているものであってよい。例えば、日新リフラテック社から一次粒子径50nm、凝集粒子径3μm、比表面積160m/gの窒化ホウ素粉末が「ABN」として市販されている。また、株式会社MARUKAから「AP170S」として粉末形態のh-BNが市販されている。
【0046】
本発明の粒状窒化ホウ素組成物の製造方法において、h-BN結晶の成長の観点からは、原料となるh-BN等を含んで成る窒化ホウ素成分(1)中に酸素がある程度存在してもよい。本発明では、例えば、窒化ホウ素成分(1)は、その全酸素濃度が1質量%~10質量%であってよく、好ましくは全酸素濃度が5質量%以下であるものを用いることが一般的に好ましい。全酸素濃度が上記範囲内である場合、一般的に窒化ホウ素粒子の一次粒子径が小さく、結晶が未発達のものが多く、本発明で用いる他の成分と混合して加熱処理した場合、容易に溶解するので好ましい。全酸素濃度が過度に高いと、加熱処理後に得られる粒状窒化ホウ素組成物を熱伝導性フィラーとして用いル場合、酸化物を含んだ状態であるので、高熱伝導化が図れない場合があるので好ましくない。その場合は、上述のように混合物に炭素を追加して酸素の量を減らすことができる。別法では、粒状窒化ホウ素組成物を洗浄して酸化物を減らしてよい。また、窒化ホウ素成分(1)の全酸素濃度が過度に少ない場合、窒化ホウ素の純度、結晶性が既に良いために、液相に溶解し難いことがあり、その結果、窒化ホウ素の結晶成長等の変化が小さく、凝集構造を形成し難くなる場合がある。尚、原料としての窒化ホウ素成分(1)中の全酸素濃度は、不活性ガス融解-赤外線吸収法により、株式会社堀場製作所製の酸素・窒素分析計を用いて測定することができる。
【0047】
窒化ホウ素成分(1)を構成する窒化ホウ素、好ましくは粒状窒化ホウ素の粒径については特に制限はない。過度に大きい場合、混合物を調製する際に不均一な混合状態となり易いことから、窒化ホウ素成分(1)に含まれる窒化ホウ素、特に粒状窒化ホウ素の平均粒子径が、5μm以下のものであることが好ましい。平均粒子径の下限について特に制限はないが、通常0.1μm以上である。尚、平均粒子径は、上述のように、原料となる粒状窒化ホウ素を適当な溶剤に分散させ、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置により測定することができる。
【0048】
<希土類成分(2)>
本発明の製造方法で用いる希土類成分(2)は、希土類元素の酸化物の前駆体を含む場合、これは、加熱処理工程またはその前に必要に応じて実施してよいか焼工程で希土類元素酸化物へ変換され、この酸化物が、粒状窒化ホウ素を安定に析出・成長させるように作用する。希土類成分(2)に含まれている、元々酸化物である成分も、同様に作用する。
【0049】
また、本発明の製造方法において用いられる希土類成分(2)は、窒化ホウ素成分(1)と共に加熱処理されるので、加熱処理条件に対する耐熱性を有するものが好ましい。このような希土類成分(2)に含まれるものとして、本発明では、酸化イットリウム、酸化セリウム、酸化イッテルビウム等の希土類元素酸化物および/またはその前駆体を用いる。これらの中でも、酸化物としての熱伝導性と耐熱性、粒状窒化ホウ素を安定して析出させて強度を有するように成長させる観点から、酸化イットリウムが特に好適である。このような酸化物を含んで成る希土類成分(2)としては、そのような酸化物として市販されているものを使用できる。一般的には、純度が99質量%以上のものが市販されており、これを希土類成分(2)として使用できる。また、このような酸化物を生成させるために前駆体として用いるイットリウム、セリウム、イッテルビウムから選ばれる少なくとも1種の希土類元素化合物は、いずれの適当な形態であってもよく、例えば、液状ゾル、硝酸塩等の水溶性塩の形態であって、加熱処理工程またはその前に必要に応じて実施してよいか焼工程で希土類元素酸化物に変換される。
【0050】
本発明の製造方法で用いる希土類成分(2)において、酸化物は酸化イットリウム、酸化セリウム、および酸化イッテルビウムから選ばれる少なくとも1種であり、その前駆体は、そのような希土類元素の酸化物をもたらすものである。例えば、希土類元素の酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、硫酸塩等の無機酸の塩および有機酸の塩ならびに塩化物等から選ばれる少なくとも1種を例示できる。これらの中で、入手の容易さ等の観点から、酸化イットリウム、イットリウムの酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、硫酸塩等が好ましく用いられる。好ましい態様では、酸化イットリウム、硝酸イットリウム、炭酸イットリウム、クエン酸イットリウム、シュウ酸イットリウム、硫酸イットリウム等が用いられる。
【0051】
希土類成分(2)として、上述の希土類元素酸化物およびその前駆体である金属化合物から選択される1種を単独で用いてもよく、別の態様では、2種以上を組み合わせて用いてもよい。尚、希土類成分(2)は、上述のような希土類元素の酸化物および/またはその前駆体に加えて、本発明において製造される粒状窒化ホウ素に実質的に悪影響が無い限り、例えばその製造に際して不可避的に含まれる他の成分を含んでよい。
【0052】
<カルシウム成分(3)>
本発明の製造方法で用いるカルシウム成分(3)に含まれるのは、酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムから選択される少なくとも1種である。炭酸カルシウムは、本発明の加熱処理工程またはその前に必要に応じて実施してよいか焼工程で酸化カルシウムに変換される。カルシウム成分(3)は、いずれの適当な形態であってよく、例えば固体(例えば粉末状)、分散液等であってよい。いかなる理論によって拘束されるものではなく、本発明を限定するものではないが、後述の実施例および比較例の結果等を考慮すると、このようなカルシウム成分(3)は、上述の希土類元素酸化物と同様に、加熱処理工程において、窒化ホウ素に先駆けて溶融して既に存在する窒化ホウ素が溶解できる液相を提供し、そして、その後にその液相にて窒化ホウ素が結晶化(即ち、再結晶化)する溶媒をもたらす機能を有すると考えられる。このような結晶化に際して、窒化ホウ素の結晶がより大きく成長してそれが凝集して結合することによって、より大きい粒子径を有するシェル構造が形成されると考えられる。このようなカルシウム成分(3)としては、酸化カルシウム、炭酸カルシウムとして市販されているものを使用できる。一般的には、純度が90質量%以上のもの(例えば93%以上、95%以上等)が市販されており、これをカルシウム(2)として使用できる。尚、カルシウム成分(3)は、上述のような酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムに加えて、本発明において製造される粒状窒化ホウ素に実質的に悪影響が無い限り、それを製造するのに不可避的に含まれることになる他の成分を含んでもよい
【0053】
<各成分の使用量>
好ましい態様では、上述のように、加熱処理する混合物における元素数基準で希土類成分(2)中の希土類元素:カルシウム成分(3)中のカルシウム元素は、好ましくは1:0.25~1:4、より好ましくは1:0.5~1:3、特に好ましくは1:0.7~1:2.5、例えば1:1~1:2である。カルシウムが過度に少ない場合、酸化カルシウム成分が粒状窒化ホウ素の大きい粒子径をもたらす効果が不十分になることがあり得、また、カルシウムが過度に多い場合、希土類元素酸化物が過少に存在することになり、その効果、特に粒状窒化ホウ素を強固に結合する効果が不十分となる場合がある。
【0054】
また、上述のように、加熱処理する混合物に関して、希土類成分(2)に含まれる希土類元素酸化物(前駆体の場合は、対応する希土類元素酸化物に換算)の量およびカルシウム成分(3)に含まれる酸化カルシウム(炭酸カルシウムの場合は、酸化カルシウムに換算)の量が、混合物中の窒化ホウ素の量ならびに希土類元素酸化物の量および酸化カルシウムの量に占める割合、即ち、(希土類酸化物量+酸化カルシウム量)/(窒化ホウ素量+希土類酸化物量+酸化カルシウム量)は、質量基準で一般的には5%~60%(従って、窒化ホウ素は95~40%)、好ましくは6%~50%(従って、窒化ホウ素は94~50%)、より好ましくは、7~42%、特に好ましくは、14~42%、例えば14~35%である。
【0055】
このような範囲より小さい場合、加熱処理に際して希土類元素酸化物および酸化カルシウムによる、粒状窒化ホウ素のシェル構造を安定化する効果が小さくなる。その結果、得られる粒状窒化ホウ素組成物または粒状窒化ホウ素を樹脂材料と混練すると、シェル構造が崩壊し易くなる。そのような粒状窒化ホウ素を熱伝導性フィラーとして使用して成形する場合、成形のために溶融した樹脂組成物の粘度が上昇する。従って、成形時により大きい力が樹脂組成物に作用し、シェル構造を安定化する効果が低下する傾向にある。また、このような範囲より大きい場合、得られる粒状窒化ホウ素組成物に含まれる窒化ホウ素の量が過度に少なくなる。その結果、粒状窒化ホウ素組成物を熱伝導性のフィラーとして用いた場合に熱伝導率改善効果が小さくなる可能性がある。
【0056】
<炭素>
本発明の粒状窒化ホウ素の製造方法では、窒化ホウ素成分(1)が酸素を過度に含む場合、必要に応じて混合物は炭素を更に含んでよい。炭素としては、カーボンブラック、黒鉛、高温でカーボン源となり得るカーボン前駆体が使用できるが、入手の容易さなどの観点から、カーボンブラックが好適である。カーボンブラックは、ファーネス法、チャンネル法などのカーボンブラック、アセチレンブラックなどを使用することができる。これらカーボンブラックの平均粒子径(体積基準の平均粒子径)は、任意であるが、0.01~20μmのものが好ましい。
【0057】
また、上述の炭素に代えてまたは加えて、カーボン前駆体を使用してよい。例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、フランフェノール樹脂等の合成樹脂縮合物、ピッチ、タール等の炭化水素化合物、セルロース、ショ糖、ポリ塩化ビニリデン、ポリフェニレン等の有機化合物を前駆体として使用できる。これらのうち、特に、フェノール樹脂、セルロース、ポリフェニレン等の金属不純物等の少ないものが好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0058】
炭素の使用量(カーボン前駆体を用いた場合は、それから生成する炭素量として)は、質量基準で窒化ホウ素成分(1)に対して好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。加熱処理時に炭素が存在することによって、過度に酸素が存在しないようにできる。その結果、加熱処理時に酸化物によって得られる粒状窒化ホウ素のシェル構造がより強固になる。このような量より多くの炭素を用いると、シェル構造の安定性が阻害される場合がある。使用する炭素を減らすことによって、加熱処理後に残存する炭素量を最小限にすることができ、従って、熱伝導性フィラーとして用いた場合、粒状窒化ホウ素の絶縁性に対する影響を抑制できる。この意味では、炭素の使用を省略できるのが好ましい。従って、本発明の凝集体の製造方法において、混合物は炭素を含まない。
【0059】
<その他の成分>
本発明の粒状窒化ホウ素の製造方法において、成分(1)~(3)を含んで成る混合物は、この製造方法および製造される粒状窒化ホウ素に悪影響が生じない限り、他の成分を含んでよい。そのような他の成分としては、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム(アルミナ)等のアルミニウム化合物の無機物の1種または2種以上を例示できる。これらの化合物を併用することにより、得られる粒状窒化ホウ素の熱伝導性を損なわず、凝集構造の安定化をさらに図ることができる。
【0060】
但し、他の成分の量が多過ぎると製造される粒状窒化ホウ素中の窒化ホウ素の含有量が少なくなり過ぎ、熱伝導性フィラーとして用いた場合の熱伝導率の改善効果が不十分となることがある。よって、他の成分を併用する場合、その使用量は、質量基準で窒化ホウ素成分(1)に対して5%以下、例えば0.1~3%であるのが一般的に好ましい。
【0061】
<原料成分(1)~(3)の混合>
本発明の粒状窒化ホウ素の製造方法において、混合物を構成する窒化ホウ素成分(1)、希土類成分(2)およびカルシウム成分(3)、ならびに上述の必要に応じて含まれる炭素および他の成分の混合方法は、特に制限されるものではなく、例えば乾式混合、湿式混合を用いることが出来る。
【0062】
乾式混合では、水平円筒型混合機、V型混合機、2重円錐型混合機、リボン型混合機、単軸ロッドまたはピン付ローター型混合機、パドル型混合機、円錐型スクリュー混合機、高速流動型混合機、回転円盤型混合機、マラー型混合機、気流攪拌型混合機などが用いられ、湿式混合では、手動で攪拌混合する以外に、自動乳鉢、ボールミル、ボニーミキサー、インターナルミキサー、3本ロールミキサー、コニーダー、ボテーター、高速流動混合機、超音波ホモジナイザーなど一般的な混合機を用いることができる。
【0063】
より均一に混合するには、湿式混合が好ましく用いられる。湿式混合に用いる溶媒(分散媒)に制限はないが、乾燥の容易さ、装置の簡素化などの観点から、純水、エタノール、メタノール、プロパノール等のアルコール、アセトン等のケトン等の有機溶媒が好ましく、別の態様では、水とこれらの有機溶媒との混合溶媒が好ましい。
【0064】
純水、アルコール、ケトン等の有機溶媒の使用量は、多過ぎると後で実施する乾燥時の負荷が増大し、少な過ぎると均一混合が困難であることから、窒化ホウ素成分(1)に対して質量基準で5~20倍、特に5~10倍とすることが好ましい。
【0065】
<乾燥・粉砕>
上述のように成分を混合する場合に湿式混合を採用した場合は、混合物を乾燥して溶媒を除去し、乾燥物を粉砕することが好ましく、その後、必要に応じて、か焼した後、熱処理を実施する。
【0066】
この乾燥を実施する方法に特に制限はなく、加熱乾燥、加熱真空乾燥等を用いてよい。一般的には、加熱乾燥を行うことが好ましい。小スケールでは、通常、加熱真空乾燥を用いる。加熱乾燥の場合の条件としては100~120℃の加熱温度、12~48時間程度の加熱時間とすることが好ましい。加熱温度が低過ぎたり、加熱時間が短か過ぎたりすると、十分な乾燥を行えず、逆に加熱温度が高過ぎたり加熱時間が長過ぎたりすると加熱コストの点から好ましくない。加熱真空乾燥の場合は、50℃程度の温度でエバポレーターを用いて溶媒を留去する。
【0067】
乾燥後の粉砕は、乳鉢による粉砕であってもよく、その他ボールミルなどを用いることもできる。この粉砕の程度としては、平均粒子径100μm以上の大きな塊が存在しない程度に粉砕されていれば問題ない。この平均粒子径は、先に説明した平均粒子径と同様の方法で測定できる。
【0068】
尚、この乾燥、粉砕時の雰囲気は空気雰囲気であってよいが、吸湿を避けるために湿度50%以下の乾燥空気中が好ましい。
【0069】
<か焼>
希土類成分(2)の希土類元素酸化物の前駆体として、例えば硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩等の金属塩を用いた場合は、加熱処理に先立って、これらの前駆体を酸化物に変換するためにか焼(または仮焼成、即ち、加熱処理に先立って実施する、より低い温度における加熱処理)を行ってもよい。また、カルシウム成分(3)として炭酸カルシウムを用いる場合も同様であり、酸化カルシウムに変換する。
【0070】
このか焼は、例えば500~700℃の温度で1~5時間程度、空気等の酸化性雰囲気下で加熱することにより行ってよい。このか焼時の加熱温度が低過ぎたり、加熱時間が短か過ぎたりすると変換が不十分となり、本か焼中に酸が発生したり、窒素酸化物が発生して装置を傷めるため好ましくない。尚、加熱時に分解ガス等を排気できる加熱炉を用いる場合、か焼の工程を省略してよく、後の加熱処理時にか焼を同時に行うことが出来る。また、か焼時の加熱温度が高過ぎたり加熱時間が長過ぎたりすると窒化ホウ素成分(1)に含まれる窒化ホウ素が酸化されてしまうことがあるので好ましくない。加熱炉が排気設備を備えている場合、炉内空気を排気することで酸化は回避できる。この場合、高い加熱温度、長い加熱時間による窒化ホウ素の酸化は問題とはならない。
【0071】
<加熱処理>
加熱処理の温度は、通常1800~2100℃、好ましくは1900~2100℃、更に好ましくは2000~2100℃である。加熱処理の温度がこの範囲より低いと、h-BNの結晶化が不十分となり、結晶化が未発達のアモルファス部分が残り、熱伝導性フィラーとして使用した場合の熱伝導率改善効果が小さくなる。加熱処理の温度が上記上限を超えると、希土類元素酸化物が蒸発・分解してシェル構造を保てなくなり、窒化ホウ素の分解などが生じる場合がある。
【0072】
加熱処理時間は、通常、5時間~20時間であり、好ましくは5時間~15時間である。加熱処理時間が、この範囲より短い場合、結晶成長が不十分となり、この範囲より長い場合、h-BNが一部分解するおそれがある。
【0073】
加熱処理は、非酸化性ガス雰囲気下で行うために、好ましくは、通常、炉内を真空ポンプで排気しながら加熱し、加熱に伴う分解ガスなどが少なくなるまで排気を継続した後、非酸化性ガスを導入しながら、続けて所望の温度まで加熱して昇温する。真空ポンプで排気を行う温度の目安としては、200~700℃、例えば600℃程度であり、その温度まで真空度を10-1Pa程度に保持しながら、20℃/分程度の昇温速度で加熱してよい。その後、非酸化性ガスを大気圧まで導入し、加熱処理終了まで導入し続ける。非酸化性ガスの流量は、炉の大きさにもよるが、通常1ml/分以上であれば問題ない。非酸化性ガス導入後は、1100℃程度まで20~100℃/分で昇温し、その後1100℃から所定の加熱処理温度まで2~20℃/分で昇温する。この温度で上述の加熱処理時間加熱した後、例えば5~50℃/分程度で室温まで降温することが好ましい。当然ではあるが、本発明の粒状窒化ホウ素の製造方法には、加熱処理した混合物を室温まで冷却する工程も内在する。
【0074】
加熱処理を施す焼成炉は、マッフル炉、管状炉、雰囲気炉、多目的高温炉などのバッチ式炉やロータリーキルン、スクリューコンベヤ炉、トンネル炉、ベルト炉、プッシャー炉、竪型連続炉などの連続炉が挙げられ、目的に応じて使い分けられる。
【0075】
この加熱処理を酸化性ガス雰囲気下で行うと、窒化ホウ素成分(1)に含まれる窒化ホウ素の大部分が酸化ホウ素などに変換されるため、加熱処理は非酸化性ガス雰囲気下であることが必要である。
【0076】
<粒状窒化ホウ素組成物の洗浄(粒状窒化ホウ素の製造)>
上述のようにして得られる、本発明の粒状窒化ホウ素組成物には、希土類元素酸化物および酸化カルシウムが残留している。また、これらの酸化物を構成する元素の複合酸化物(ホウ酸カルシウムイットリウム(CaYBO)等)、ホウ酸塩化合物(ホウ酸カルシウム(CaB)等)も含まれることが有り得、残留し得る。これらの残留物の熱伝導率は、窒化ホウ素よりも小さいことが多いので、好ましい1つの態様では、残留物を除去して減らすことによって粒状窒化ホウ素の熱伝導率が向上する。そこで、必要に応じて、この上述の方法で得られる粒状窒化ホウ素組成物から残留物を除去してよい。この除去は、粒状窒化ホウ素組成物を酸水溶液によって洗浄することにより実施できる。詳しくは、残留物をそれに対応する水溶性の塩に変換する反応を用いて、存在する水に塩を溶解させて塩水溶液を得、これを除去することによって酸化物を除去する。用いる酸として有機酸および無機酸を挙げることができ、例えば塩酸、硝酸、硫酸等を使用してよい
【0077】
この酸水溶液による洗浄は、酸水溶液中に粒状窒化ホウ素組成物を、撹拌下、分散させることによって実施できる。その後、組成物を濾別した後、水洗することによって残存する酸を除去した後、乾燥させて粒状窒化ホウ素を得る。酸化カルシウムおよびホウ酸塩化合物(存在する場合)は酸洗浄で実質的にその全量を容易に除去できる。この得られた粒状窒化ホウ素に含まれる希土類元素酸化物の総量は、粒状窒化ホウ素の質量基準で、好ましくは0.1~30%、好ましくは1~15%、より好ましくは3~10%である。尚、残存する希土類元素酸化物は、洗浄条件(例えば酸の濃度、洗浄に用いる水溶液量および/または洗浄回数)を適宜選択することによって、容易に調節できる。
【0078】
尚、粒状窒化ホウ素組成物中の希土類元素酸化物の量は、次のようにして測定できる:
テフロン内張耐圧容器に酸洗浄した粒状窒化ホウ素組成物1gを1規定の塩酸水溶液60gに添加し、密封後に100℃で11時間処理を行った。得られたスラリーをメンブレンフィルターで濾過をし、濾液を純水によって200倍に希釈した溶液をICP(イオン誘導結合プラズマ)発光分析装置(島津製作所株式会社製、ICPS-7510)を用いて希土類元素(例えばイットリウム)の濃度を分析し、それに基づいて組成物に含まれている希土類元酸化物(例えばY)の量を算出する。また、濾滓をXRD分析して希土類元素酸化物のピークがないことを確認する。
【0079】
尚、濾別される粒子が粒状窒化ホウ素(h-BN)であることの確認は、X線回折パターンにより確認した。また、SEMによって、窒化ホウ素結晶のc面が折れ曲がって多面体(または略球状)を形成している観察結果を得た。尚、粒状窒化ホウ素がシェル構造を有することについては、粒状窒化ホウ素をエポキシ樹脂に添加して硬化したものをアルゴンイオンビームでエッチングすることによって作製したSEM観察用サンプルを用い調べた。粒状窒化ホウ素粒子はエッチングによって輪切りにした場合、窒化ホウ素のc面の積層が円状に繋がりシェルを形成し、その中に窒化ホウ素以外の物質が存在することをSEM観察することによって確認できる。
【0080】
例えば、上述のように輪切り状態の粒状窒化ホウ素(後述の実施例36(酸化物が部分的に残存する実施例)において得られた粒状窒化ホウ素(但し、酸化イットリウムを約8.65%含む))のSEM写真を図8の左上に示す。また、この状態の粒状窒化ホウ素をEDS(エネルギー分散型X線分析)を用いてマッピング分析した結果を図8の右上(N元素)および左下(Y元素)に示す。これらのマッピング結果とSEM写真とを組み合わせると、N元素が多角形の周(または略円周状)の部分(即ち、環状部分)に窒素元素が存在し、その内部にY元素が存在することが分かる。これらの結果から、N元素(即ち、窒化ホウ素)がシェル構造を構成し、そのシェル構造の内部にY(即ち、酸化イットリウム)が存在すると理解できる。即ち、本発明の粒状窒化ホウ素は、窒化ホウ素により構成されたシェル部分、および洗浄の程度に応じた量でその内部に残存する希土類元素酸化物によって構成される。
【0081】
また、後述の実施例11において得られた本発明の粒状窒化ホウ素組成物(従って、洗浄処理を実施する前の状態のもの)を同様に分析した結果を図9に示す。図9の左上はSEM写真、右上はN元素のEDSマッピング結果、左下はCa元素のEDSマッピング結果、右下はY元素のEDSマッピング結果を示す。図8と同様に、N元素が粒状窒化ホウ素の結晶の周囲にシェル構造で存在し、その内部にカルシウム元素およびイットリウム元素が存在する(従って、これらの酸化物が存在する)ことが分かる。更に、洗浄処理によって、酸化物の量が減少することも理解できる。
【0082】
<粒状窒化ホウ素組成物>
本発明の粒状窒化ホウ素組成物は、好ましくは上述の本発明の粒状窒化ホウ素組成物の製造方法により製造でき、窒化ホウ素とイットリウム、セリウムおよびイッテルビウムから選ばれる少なくも1種の希土類元素の酸化物と酸化カルシウムとを含有し、好ましくは窒化ホウ素が黒鉛構造を持つものである。これらの酸化物は、上述のように酸洗浄によって、減量できる。
【0083】
本発明の粒状窒化ホウ素組成物は、希土類元素酸化物および酸化カルシウムによってシェル構造が強化され、その結果、圧力が作用した場合の強度(例えば圧壊強度)が改善されている。従って、熱伝導異方性の改善や熱伝導率の向上を目的として、樹脂材料に配合できる。更に、粒状窒化ホウ素に由来する固体潤滑性を維持しているので樹脂材料に配合した場合であっても、樹脂組成物としての成形加工性を良好に維持することができ、しかも、成形体を作製した場合、成形体中でシェル構造に由来して厚み方向の熱伝導パスが形成され易くなる。その結果、成形体の厚み方向の熱伝導率を高くできる。加えて、本発明の粒状窒化ホウ素は、窒化ホウ素に由来する、化学的安定性、耐熱性等をも備えている。
【0084】
窒化ホウ素成分が酸素を含む場合、その酸素は、一般的には酸化ホウ素(B)として含まれることが多い。この場合、酸化ホウ素は、希土類元素酸化物および酸化カルシウムと反応して酸化物(例えばCaYBOのような複合酸化物)となり液相を構成する。この酸化物は、本発明の粒状窒化ホウ素組成物の製造方法において加熱処理を実施する場合、希土類元素酸化物および酸化カルシウムと同様に、窒化ホウ素成分(1)に含まれている窒化ホウ素が溶解する液相を形成する。窒化ホウ素が再結晶する際に粒状窒化ホウ素が生成する際にシェル構造を強化できると考えられる。尚、上述の複合酸化物も、希土類元素酸化物と同様に、酸による洗浄の条件に応じて減らすことができ、また、実質的に全量を除去することもできる。
【0085】
尚、本発明の粒状窒化ホウ素組成物中の希土類元素酸化物の含有量は、上述のような洗浄を実施しない場合(即ち、加熱処理およびその後の冷却のみを実施する場合)、前述の本発明の粒状窒化ホウ素組成物の製造方法で加熱処理される混合物に含まれる希土類元素酸化物およびその前駆体に由来する酸化物(前駆体が存在する場合)の量の和に実質的に等しく、また、酸化カルシウムの含有量は、同様に、加熱処理される混合物に含まれる酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムに由来する酸化物(前駆体が存在する場合)の量の和に実質的に等しい。通常、粒状窒化ホウ素組成物の窒化ホウ素含有量は、粒状窒化ホウ素組成物の窒化ホウ素、希土類元素酸化物および酸化カルシウムの総質量基準で、好ましくは40~95%、より好ましくは50~90%、例えば55~85%である。
【0086】
<粒状窒化ホウ素を含む樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物、特に熱伝導性の樹脂組成物は、上述の本発明の粒状窒化ホウ素および樹脂材料を含んで成る。即ち、本発明の粒状窒化ホウ素は、上述のように、樹脂組成物において熱伝導性フィラーとして好適に用いられる。尚、場合により、粒状窒化ホウ素に代えて、粒状窒化ホウ素組成物を使用することも可能である。
【0087】
<樹脂材料>
樹脂組成物においてマトリックスを形成することになる樹脂として機能する樹脂材料は特に限定されるものではなく、例えば硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等であってよい。硬化性樹脂としては、熱硬化性、光硬化性、電子線硬化性などの架橋可能なものであればよいが、耐熱性、吸水性、寸法安定性などの点で、熱硬化性樹脂が好ましく、特にエポキシ樹脂が最適である。
【0088】
エポキシ樹脂は1種類の構造単位を有するエポキシ樹脂のみであってもよいが、構造単位の異なる複数のエポキシ樹脂を組み合わせてもよい。また、エポキシ樹脂は、必要に応じて、エポキシ樹脂用硬化剤、硬化促進剤と共に用いられる。
【0089】
ここで、塗工性または成膜性、接着性と併せて、硬化物中のボイドを低減して高熱伝導の硬化物を得るために、エポキシ樹脂として少なくとも後述するフェノキシ樹脂(以下、「エポキシ樹脂(A)」と称す。)を含むことが好ましく、特にエポキシ樹脂全量に対するエポキシ樹脂(A)の質量比率が、好ましくは5~95質量%の範囲、より好ましくは10~90質量%、さらに好ましくは20~80質量%の範囲で含有されることが好ましいが、何らこのようなものに限定されるものではない。
【0090】
フェノキシ樹脂とは、通常、エピハロヒドリンと2価フェノール化合物とを反応させて得られる樹脂、または2価のエポキシ化合物と2価のフェノール化合物とを反応させて得られる樹脂を指すが、本発明においてはこれらのうち、特に質量平均分子量10000以上の高分子量エポキシ樹脂であるフェノキシ樹脂をエポキシ樹脂(A)という。尚、質量平均分子量とは、ゲルパーミエイションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の値である。
【0091】
エポキシ樹脂(A)としては、ナフタレン骨格、フルオレン骨格、ビフェニル骨格、アントラセン骨格、ピレン骨格、キサンテン骨格、アダマンタン骨格およびジシクロペンタジエン骨格からなる群から選択された少なくとも1つの骨格を有するフェノキシ樹脂が好ましい。中でも、耐熱性がより一層高められるので、フルオレン骨格および/またはビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂が特に好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0092】
上記エポキシ樹脂(A)以外のエポキシ樹脂としては、分子内に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(以下「エポキシ樹脂(B)」と称す場合がある。)であることが好ましく、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、多官能フェノール型エポキシ樹脂等の、各種エポキシ樹脂が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0093】
エポキシ樹脂(B)は、溶融粘度制御の観点から、その質量平均分子量が、好ましくは100~5000であり、より好ましくは200~2000である。質量平均分子量が100より低いものでは、耐熱性が劣る傾向にあり、5000より高いと、エポキシ樹脂の融点が高くなり、作業性が低下する傾向がある。
【0094】
また、本発明に係るエポキシ樹脂は、その目的を損なわない範囲において、エポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)以外のエポキシ樹脂(以下、「他のエポキシ樹脂」)を含んでいてもよい。他のエポキシ樹脂の含有量は、エポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)の合計に対して、通常50質量%以下、好ましくは30質量%以下である。
【0095】
本発明の樹脂組成物において、エポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)を含む全エポキシ樹脂中のエポキシ樹脂(A)の割合は、その合計を100質量%として、前述の如く、好ましくは5~95質量%、好ましくは10~90質量%、更に好ましくは20~80質量%である。なお、「エポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)を含む全エポキシ樹脂」とは、本発明の樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂が、エポキシ樹脂(A)及びエポキシ樹脂(B)のみの場合には、エポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂(B)の合計を意味し、さらに他のエポキシ樹脂を含む場合には、エポキシ樹脂(A)、エポキシ樹脂(B)及び他のエポキシ樹脂の合計を意味する。
【0096】
エポキシ樹脂(A)の割合が上記下限以上であることにより、エポキシ樹脂(A)を配合することによる熱伝導性の向上効果を十分に得ることができ、所望の高熱伝導性を得ることができる。エポキシ樹脂(A)の割合が上記上限以下で、特にエポキシ樹脂(B)が全エポキシ樹脂の10質量%以上であることにより、エポキシ樹脂(B)の配合効果が発揮され、硬化性、硬化物の物性が十分なものとなる。
【0097】
エポキシ樹脂用硬化剤は、用いられる樹脂の種類に応じて適宜選べばよい。例えば、酸無水物系硬化剤やアミン系硬化剤が挙げられる。酸無水物系硬化剤としては、例えば、テトラヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、及びベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物が挙げられる。アミン系硬化剤としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の脂肪族ポリアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、m-フェニレンジアミン等の芳香族ポリアミン及びジシアンジアミドが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらのエポキシ樹脂用硬化剤は、通常、エポキシ樹脂に対して当量比で、0.3~1.5の範囲で配合される。
【0098】
硬化促進剤は、用いられる樹脂や硬化剤の種類に応じて適宜選べばよい。例えば前記酸無水系硬化剤用の硬化促進剤としては、例えば三フッ化ホウ素モノエチルアミン、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-イソブチル-2-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾールが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの硬化促進剤は、通常、エポキシ樹脂100質量部に対して0.1~5質量部の範囲で用いられる。
【0099】
また、本発明の樹脂組成物に用いる樹脂材料は、熱可塑性樹脂であってもよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、液晶ポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルアミドイミド樹脂、ポリエーテルアミド樹脂及びポリエーテルイミド樹脂などが挙げられる。また、それらのブロック共重合体、グラフト共重合体等の共重合体も含まれる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0100】
また、樹脂材料は、ゴム成分であってもよく、ゴム成分としては、例えば、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、エチレン-プロピレン共重合体ゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体ゴム、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体ゴム、イソブチレン-イソプレン共重合体ゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、クロロ・スルホン化ポリエチレン、ポリウレタンゴムなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0101】
<粒状窒化ホウ素の配合量>
本発明の樹脂組成物に含まれる、本発明の粒状窒化ホウ素(または粒状窒化ホウ素組成物)の量は、上述のように、樹脂組成物の質量基準で通常10~90%であることが好ましく、より好ましくは15~88%、更に好ましくは30~85%である。樹脂組成物中の粒状窒化ホウ素の量がこのような範囲より少ない場合、樹脂組成物としての粘度(溶融した場合の粘度)は低く、成形加工性は良好であるものの、熱伝導性を改善する効果が不十分となり得る。樹脂組成物中の粒状窒化ホウ素の量が、このような範囲より大きい場合、溶融時の樹脂組成物の粘度が高くなり、成形が困難になる傾向がある。
【0102】
<その他の成分>
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果が得られる限り、他の成分を含有してもよい。このような成分としては、例えば、液晶性エポキシ樹脂等の上述の樹脂に機能性を付与した機能性樹脂、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、繊維状窒化ホウ素等の窒化物粒子、アルミナ、繊維状アルミナ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化チタン等の絶縁性金属酸化物、ダイヤモンド、フラーレン等の絶縁性炭素成分、樹脂硬化剤、樹脂硬化促進剤、粘度調整剤、分散安定剤が挙げられる。
【0103】
また、樹脂組成物の粘度を下げる観点から、本発明の樹脂組成物は溶剤を含んでよい。この溶剤として、樹脂を溶解する公知の溶剤が用いられる。このような溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン、モノクロルベンゼン、ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、フェノール、及びヘキサフルオロイソプロパノールが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。溶剤は、エポキシ樹脂等の樹脂100質量部に対して、例えば0~10,000質量部の範囲で用いられる。
【0104】
また、本発明の樹脂組成物には、その効果を損なわない限り、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの無機フィラー、無機フィラーとマトリックス樹脂の界面接着強度を改善するシランカップリング剤などの表面処理剤、還元剤などを添加してもよい。
【0105】
尚、上述の無機フィラーについては、樹脂組成物中の成形加工性を維持する目的で、樹脂組成物中の本発明の粒状窒化ホウ素と無機フィラーとの合計量で90質量%以下であることが好ましい。
【0106】
<樹脂組成物の製造・成形>
本発明の樹脂組成物は、本発明の粒状窒化ホウ素(または粒状窒化ホウ素組成物)、樹脂材料、及び必要に応じて添加されるその他の成分を撹拌や混練によって均一に混合することによって得ることができる。その混合には、例えば、ミキサー、ニーダー、単軸又は二軸混練機等の一般的な混練装置を用いることができ、混合に際しては、必要に応じて加熱してもよい。
【0107】
<成形体>
本発明の成形体は、本発明の樹脂組成物を成形して得られる。成形体の成形方法は、樹脂組成物の性質に応じて、その成形に一般に用いられる方法、例えば、射出成形、型成形、を用いることができる。いずれの成形方法であっても、樹脂組成物を必要に応じて加熱して流動化または可塑化させ、型等を用いて樹脂組成物を成形体に成形することになるので、流動化した樹脂組成物に何等かの力が作用する。例えば、樹脂組成物を型に充填する際に圧力が作用する。このことは、樹脂材料が硬化性樹脂(例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂等)であっても、熱可塑性樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリル樹脂等)であっても、当て嵌まると考えられる。
【0108】
例えば、本発明の樹脂組成物が可塑性および流動性を有する場合、樹脂組成物を所望の形状で、例えば型へ充填した状態で硬化させることによって成形することができる。このような成形体の製造法としては、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、及び圧縮成形法を用いることができる。また、本発明の樹脂組成物がエポキシ樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂組成物である場合、成形体の成形、即ち、硬化は、それぞれの組成に応じた硬化条件で行うことができる。更に、本発明の樹脂組成物が熱可塑性樹脂組成物である場合、成形体の成形は、熱可塑性樹脂の溶融温度以上の温度及び所定の成形速度や圧力の条件で行うことができる。尚、本発明の成形体は、本発明の樹脂組成物を成形または硬化した固形状のバルク材料から所望の形状に削り出すことによっても得ることができる。
【0109】
上述のようにして得られる本発明の成形体では、樹脂材料および粒状窒化ホウ素(または粒状窒化ホウ素組成物)の配合量に依存するが、質量基準で樹脂材料の量が65~85%の樹脂組成物の1つの態様では、成形に際して力を加える方向に対して平行な方向の熱伝導率が通常10~25W/(m・K)、好ましくは15~23W/(m・K)、より好ましくは18~22W/(m・K)である。また、成形に際して圧力を加える方向に対して垂直な方向の熱伝導率が通常15~35W/(m・K)、好ましくは20~30W/(m・K)、より好ましくは22~27W/(m・K)である。
【0110】
従って、本発明の粒状窒化ホウ素を使用して樹脂組成物を調製し、これを用いて成形して成形体を製造すると、一般的には、平行方向の熱伝導率は、垂直方向の熱伝導率の好ましくは70~120%、より好ましくは80~110%、特に90~105%であり、熱伝導に関する成形体の異方性は大幅に抑制でき、場合によっては、異方性を実質的に解消できる。また、この傾向は、粒状窒化ホウ素に代えて、本発明の粒状窒素組成物と樹脂材料を混合して成形体を得る場合であっても、同様に平行方向の熱伝導率は垂直方向の熱伝導率より小さい。即ち、粒状窒化ホウ素が酸化物、特に希土類元素酸化物、Ca-希土類元素-B-O系複合酸化物等を含む場合にも異方性を抑制できる。特に好ましい1つの態様では、樹脂組成物は、65~85質量%の粒状窒化ホウ素を含み、その場合、平行方向の熱伝導率の垂直方向の熱伝導率に対する割合は、少なくとも約90~105%である。
【実施例
【0111】
以下に、実施例を説明して本発明をより具体的に説明するが、本発明はそのような実施例に限定されるものではない。
【0112】
[使用原料]
以下の実施例及び比較例で用いた原料の仕様は、以下の通りである。
<窒化ホウ素成分(1)>
窒化ホウ素粉末:三井化学株式会社製、商品名:MBN-250
(全酸素濃度4質量%、平均粒子径:1.8μm)
<希土類成分(2)>
微粉末酸化イットリウム:日本イットリウム株式会社製
99.9%、平均粒子径0.91μm
微粉末酸化セリウム:日本イットリウム株式会社製
CeO 99.9%、平均粒子径0.58μm
<カルシウム成分(3)>
粉末酸化カルシウム:足立石灰工業株式会社製
CaO 98.5%、平均粒子径150μm
<エポキシ樹脂材料>
エポキシ樹脂:三菱化学株式会社製、商品名:JER828、
同エポキシ樹脂硬化剤:三菱化学株式会社製、商品名:YH306
同エポキシ硬化促進剤:三菱化学株式会社製、商品名:EMI24
混合比(質量基準)JER828:YH306:EMI24=100:80:2
【0113】
[粒状窒化ホウ素組成物および粒状窒化ホウ素の製造]
<実施例1>
300mlビーカーに、窒化ホウ素成分(1)として窒化ホウ素粉末20g、希土類成分(2)としてY粉末1.70g(熱処理前混合粉末総量中の3.6体積%)、カルシウム成分(3)としてCaO粉末0.42g(熱処理前混合粉末総量中の1.4体積%)を加えて、更にエタノール150mlを加え、均一に混合するために超音波ホモジナイザー(IKA社製 U200 Contorols)を用い、5分間超音波処理を行い、混合物のスラリーを得た。
【0114】
得られたスラリーのエタノールをエバポレーターで除去し、乾燥した粉末を混合物として得た。この粉末を窒化ホウ素製坩堝に入れ、多目的高温炉(富士電波工業株式会社、ハイマルチ5000)を用いて加熱処理を行い、粒状窒化ホウ素組成物を得た。この組成物は、窒化ホウ素に加えて、CaYBO等のCa-Y-B-O系複合酸化物等を含んでいた。この複合酸化物中のB-Oは、原料として用いた窒化ホウ素粉末が4重量%の酸素を含むことに由来したものであると考えられる。
【0115】
加熱処理処理は、室温から1100℃まで20℃/分で昇温し、続いて1100~1900℃まで10℃/分で昇温し、1900℃で10時間保持し、その後、20℃/分で室温まで降温することにより実施した。加熱処理の雰囲気は、400℃まで1×10-1Pa未満の真空で保持し、続いて窒素ガスを大気圧まで炉内に導入し、加熱処理終了まで1ml/分の窒素ガスフローの状態を保持した。
【0116】
上述のように混合物を加熱処理して本発明の粒状窒化ホウ素組成物を得た。その後、得られた組成物を洗浄して含まれている酸化物(酸化イットリウム、酸化カルシウム)を除去した。詳しくは、テフロン内張密閉圧力容器中に組成物2.5gを3規定の塩酸水溶液20mlに添加し、100℃で11時間反応させて含まれている酸化物を水溶性の塩に変換した。その後、純水にて洗浄・濾過して塩を除去して、本発明の粒状窒化ホウ素を得た。得られた粒状窒化ホウ素をXRD分析したところ、それに残存し得る酸化イットリウムおよび酸化カルシウムは検出できなかった。
【0117】
<実施例2~6>
実施例1におけるYの添加量を3.59g(実施例2:熱処理前混合粉末総量中の7.3体積%)、5.70g(実施例3:熱処理前混合粉末総量中の10.9体積%)、8.07g(実施例4:熱処理前混合粉末総量中の14.6体積%)、10.76g(実施例5:熱処理前混合粉末総量中の18.2体積%)、13.84g(実施例6:熱処理前混合粉末総量中の21.9体積%)とし、実施例1におけるCaOの添加量を、0.89g(実施例2:熱処理前混合粉末総量中の2.7体積%)、1.41g(実施例3:熱処理前混合粉末総量中の4.1体積%)、2.00g(実施例4:熱処理前混合粉末総量中の5.4体積%)、2.67g(実施例5:熱処理前混合粉末総量中の6.8体積%)、3.44g(実施例6:熱処理前混合粉末総量中の8.1体積%)とした以外は実施例1を繰り返して本発明の粒状窒化ホウ素を得た。得られた粒状窒化ホウ素をXRD分析したところ、それに残存し得る酸化イットリウムおよび酸化カルシウムは検出できなかった。
【0118】
尚、実施例1~6において、加熱処理前の混合物粉末に含まれるYとCaOを合計した酸化物の体積の混合物の体積に対する割合は、実施例1では5体積%、実施例2では10体積%、実施例3では15体積%、実施例4では20体積%、実施例5では25体積%、実施例6では30体積%であった。
【0119】
<実施例7~24>
以下に示す表1に記載の条件とした以外は実施例1を繰り返して本発明の粒状窒化ホウ素を得た。実施例7~12では、混合物を構成する酸化イットリウムと酸化カルシウムのモル比は1:2であり、実施例13~18混合物を構成する酸化イットリウムと酸化カルシウムのモル比は1:4であり、実施例19~24混合物を構成する酸化イットリウムと酸化カルシウムのモル比は1:6であった。
【0120】
<実施例25>
酸化イットリウムに代えてCeO粉末1.97gを加え、CaO粉末0.64gとした以外は、実施例1を繰り返して加熱処理して本発明の粒状窒化ホウ素組成物を得、更に洗浄して酸化物を除去した本発明の粒状窒化ホウ素を得た。得られた粒状窒化ホウ素をXRD分析したところ、それに残存し得る酸化セリウムおよび酸化カルシウムは検出できなかった。
【0121】
<実施例26~30>
実施例25において、CeOの添加量を4.15g(実施例26:熱処理前混合粉末総量中の5.9体積%)、6.59g(実施例27:熱処理前混合粉末総量中の8.8体積%)、9.34g(実施例28:熱処理前混合粉末総量中の11.8体積%)、12.45g(実施例29:熱処理前混合粉末総量中の14.7体積%)、16.01g(実施例30:熱処理前混合粉末総量中の17.6体積%)とし、実施例25におけるCaOの添加量を1.35g(実施例26:熱処理前混合粉末総量中の4.1体積%)、2.15g(実施例27:熱処理前混合粉末総量中の6.2体積%)、3.04g(実施例28:熱処理前混合粉末総量中の8.2体積%)、4.06g(実施例29:熱処理前混合粉末総量中の10.3体積%)、5.22g(実施例30:熱処理前混合粉末総量中の12.4体積%)とした以外は、実施例25を繰り返して本発明の粒状窒化ホウ素を得た。
【0122】
尚、上記実施例25~30において、熱処理前の混合粉末に含まれるCeOとCaOを合計した酸化物の体積の混合物の体積に対する割合は、実施例25では5体積%、実施例26では10体積%、実施例27では15体積%、実施例28では20体積%、実施例29では25体積%、実施例30では30体積%であった。
【0123】
<実施例31~38>
実施例3で得られた加熱処理後の酸化物を含む粒状窒化ホウ素組成物3gを3規定の塩酸水溶液65mlに添加し、スターラーを用いて25℃で11時間攪拌を行った後、濾過・乾燥を行い、酸化カルシウム成分を部分的に除去した粒状窒化ホウ素組成物の粉末を得た。更に、得られた粉末を0.6規定の塩酸水溶液10mlに添加し、テフロン内張密閉容器中100℃にて11時間反応させて含まれている酸化物の大部分を水溶性の塩に変換した。その後、上述と同様に純水にて洗浄・濾過して塩を除去して本発明の粒状窒化ホウ素を得た。この酸による処理は、実施例3と比較して、100℃で用いる塩酸濃度を小さくしたため、Yは部分的に残存したが、他の成分は実質的に除去できた。濾別後に得られた粒状窒化ホウ素1gを1規定の塩酸水溶液20mlに添加し、テフロン内張密閉容器中100℃にて11時間反応した後、濾液部分をICPにより定量分析したところ、酸化イットリウムを1.01質量%含んでいたが、酸化カルシウムの量は検出限界以下であった。同様に、実施例4、実施例6、実施例9、実施例11、実施例12、実施例18および実施例24で得られた加熱処理後の酸化物を含む粒状窒化ホウ素組成物を同様に処理して、それぞれ実施例32~38の本発明の粒状窒化ホウ素を得た。
【0124】
<比較例1>
300mlビーカーに、窒化ホウ素粉末20g、Y粉末2.32g(熱処理前混合粉末総量中の5体積%)を加え、更にエタノールを150ml加え、均一に混合するために超音波ホモジナイザー(IKA社製 U200 Contorols)を用い、5分間超音波処理を行い、混合物のスラリーを得た。得られたスラリーのエタノール溶媒をエバポレーターで除去し、乾燥した粉末を混合物として得た。この粉末を実施例1と同様に、混合物の加熱処理およびその後の洗浄を実施して、窒化ホウ素を得た。
【0125】
<比較例2~6>
加えるY粉末量を変えて比較例1を繰り返した。
【0126】
<比較例7>
特開2017-14064号の記載に基づき、HBO粉末(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)44.41g、CaO12.48g、蒸留水200mlを蓋付きガラス瓶(容量250ml)に加え(CaO/Bモル比=0.62)、蓋をして95℃のオイルバスで2時間攪拌しながら、Ca・HOとCa2033・12HOの複合酸化物の混合物48.0gを合成した。この合成物に、原料のHBOのBに対して元素比B/C=0.79となるようにカーボン粉末(三菱化学株式会社製:2300B)を9.2g添加し、ボールミル混合して粉末を混合物として得た。その後、実施例1と同様に混合物の加熱処理および洗浄を実施して、多面構造の窒化ホウ素を得た。
【0127】
<比較例8>
使用原料
市販の板状窒化ホウ素を熱伝導性フィラーとして用いて、以下のようにして成形体を製造した:
[窒化ホウ素成分]
板状窒化ホウ素粉末:電気化学工業(株)製、商品名:デンカボロンナイトライドGP
(全酸素濃度0.1質量%、平均粒子径:8.0μm、比表面積:8m/g)
窒化ホウ素をエポキシ樹脂材料に添加・混合して樹脂組成物を得た。樹脂組成物の組成は、粒状窒化ホウ素81.7質量%(70体積%)およびエポキシ樹脂材料18.3質量%(30体積%)であった。尚、特に言及しない処理条件は、比較例の条件と同様である。
【0128】
<樹脂組成物および成形体の製造>
実施例1~30で得られた本発明の粒状窒化ホウ素および比較例1~7で得られた窒化ホウ素を、それぞれエポキシ樹脂材料に添加・混合して樹脂組成物を得た。樹脂組成物の質量基準の組成は、粒状窒化ホウ素81.7%(70体積%)およびエポキシ樹脂材料18.3%(30体積%)であった。
【0129】
詳しくは、100mlのナス型フラスコに、得られた窒化ホウ素1.0g、ビスフェノールA型液状エポキシ(主剤)(三菱化学株式会社製 JER828)0.1229g、テトラヒドロメチル無水フタル酸(硬化剤)(三菱化学株式会社製 YH306)0.0983g、2-エチル-4(5)-メチルイミダゾール(硬化促進剤)(三菱化学株式会社製 EMI-24)0.00246g、アセトン(和光純薬工業株式会社聖 試薬特級)20gを加え、超音波ホモジナイザーを用い5分間混合を行った。
【0130】
続いて、エバポレーターを使用してアセトンを除去した。除去後にナス型フラスコに残った粒状窒化ホウ素とエポキシ樹脂材料を含む樹脂組成物としての混合物0.8gを直径15mm金型に入れて、ホットプレスすることにより樹脂組成物を熱硬化して成形体を得た。
【0131】
ホットプレスの条件は、以下の通りである:
・比較例1~6、実施例1~4、7~10、13~16、19~22、25~28の窒化ホウ素について
125℃、70MPaの一軸加圧下で、120分間のホットプレス
・比較例7、実施例5、6、11、12、17、18、23、24、29、30の窒化ホウ素について
125℃、5MPa以下の一軸加圧下で、60分間のホットプレス、続いて70MPaまで圧力を上昇させて60分間のホットプレス
【0132】
<成形体の熱伝導率の測定>
得られた成形体の密度、比熱および熱拡散率をそれぞれ測定し、次の式に基づいて成形体の熱伝導率を算出した:
熱伝導率=密度×比熱×熱拡散率
【0133】
<密度の測定>
エポキシ/窒化ホウ素の成形体について水中アルキメデス法により測定を行い、以下の(式1)により密度を求めた:
【0134】
【数1】
式中、ρは成形体の密度(g/cm)、ρは測定温度での水の密度(g/cm)、mは空気中での成形体の質量(g)、mは水中での成形体の質量である。
【0135】
<比熱の測定>
示差走査熱量計(Netzsch製 DSC200F3 Maia)を用いて、既知の基準物質(本測定ではサファイア)と試料としての成形体に一定の熱を加えながらこれらの温度を測定し、その温度差を計測して熱分析を行って比熱を得た。試料の比熱を下記(式2)により求めた。尚、温度測定範囲は-50℃~100℃とし、下記の熱拡散率と同じ測定温度である25℃の比熱を熱伝導率の計算に用いた。
【0136】
【数2】
式中、Cpは成形体試料の比熱(J/g/K)、Cpstandardは基準物質の比熱(J/g/K)、mは成形体試料の重量(g)、Mは基準物質の重量(g)、hは空容器と成形体試料のDSC曲線の差、Hは空容器と基準物質のDSC曲線の差である。
【0137】
<熱拡散率の測定>
キセノンフラッシュ法熱定数測定装置(Netzsch製 Xeフラッシュアナライザー LFA447 Nanoflash)を使用して実施した。熱伝導率(α)は、成形体試料の表面に熱源を照射して裏面の温度を測定し、裏面の最高温度に到達するまでの時間(ΔTm)の1/2に達する時間t1/2(s)と試料厚さL(m)から下記の式(3)により求める:
【0138】
【数3】
【0139】
尚、成形体の熱伝導率は、ホットプレス時に適用した圧力の加圧方向(プレス方向)およびそれに対して垂直な方向について測定した。
【0140】
<成形体中における粒状窒化ホウ素の配向度の測定>
粒状窒化ホウ素の強さ(詳しくは、粒状窒化ホウ素に外部から加えられる力に抗する能力、即ち、圧壊強度)の評価を、70MPa加圧のホットプレスにより得た成形体のエポキシ樹脂材料中における粒状窒化ホウ素の(00L)面の配向度によって調べた。
【0141】
成形体に含まれる粒状窒化ホウ素を構成するシェル構造の強度が不十分であると、ホットプレスによってシェル構造一部が崩壊し、粒状窒化ホウ素のシェル構造の性質が弱化して積層構造の性質が強くなる。その結果、ホットプレス方向に対して垂直な方向に沿って壊れた窒化ホウ素板状結晶のa軸が配向する傾向が強まり、窒化ホウ素結晶の(002)や(004)等の(00L)面の回折ピークが高くなる。
【0142】
即ち、窒化ホウ素(00L)面の回折ピークの高さによって、窒化ホウ素の板状晶がプレス方向に対して平行な方向に配向したか見積もることができる。即ち、粒状窒化ホウ素の圧壊強度が不十分であると、シェル構造の一部分が壊れてその断片がプレス方向に並び易くなる。換言すれば、プレス方向に並んでいる断片の割合が多いほど、強度が小さいことを意味する。
【0143】
ホットプレス後の成形体における窒化ホウ素(00L)面の配向度の測定は、ロットゲーリング法を用いてプレス方向に垂直な面(即ち、ホットプレス面または加圧面)に対しXRD回折パターンを測定し、下記の式(4)により求めた:
【0144】
【数4】
【0145】
尚、ロットゲーリング法とは、式(4)によって算出される配向度(ロットゲーリングファクターとも呼ぶ)を用いて結晶等の配向度を評価する方法をいう。ロットゲーリングファクターは、完全配向の場合は100%となる。この式(4)において、ΣI(hkl)は、凝集体を含む成形体の試料に関してプレス方向に垂直な面にて測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和であり、ΣI0(hkl)は、粒状窒化ホウ素に代えて無配向の窒化ホウ素を用いた場合に得られる成形体の試料について測定されたすべての結晶面(hkl)のX線回折強度の総和である。また、ΣI(00L)は凝集体を含む成形体について測定された結晶学的に等価な特定の結晶面(例えば(002)や(004)面などを含む(00L)面)のX線回折強度の総和であり、ΣI0(00L)は、上述の無配向の窒化ホウ素を用いた場合の特定面のハイブリッド材料と同一組成であり無配向のものについて測定された(00L)面の結晶面のX線回折強度の総和である。このように配向度を評価するロットゲーリング法は、結晶の配向度を評価する手法として周知であり、例えば特開2011-37695号公報を参照できる。
【0146】
<実施例の条件および測定結果>
上述の実施例および比較例の条件ならびに種々の測定結果を以下の表1~表5に示す:
【0147】
【表1】
【0148】
【表2】
【0149】
【表3】
【0150】
【表4】
【0151】
【表5】
【0152】
いずれの実施例から得られた粒状窒化ホウ素も、カルシウム成分を用いない比較例1~6の窒化ホウ素と比べて、相当大きい平均粒子径を有するが、比表面積は若干小さい。そのような粒状窒化ホウ素を熱伝導性フィラーとして用いた本発明の樹脂組成物を成形して得られる本発明の成形体の熱伝導率に関して、力が加わる方向では約10~25W/(m・K)、また、それに対して垂直な方向では15~35W/(m・K)を達成できる。このような熱伝導率は、比較例としての既知の粒状窒化ホウ素をフィラーとして用いて得られる成形体の場合より大きい。このように大きい熱伝導率は、粒子径が大きいことによって粒状窒化ホウ素が有効な熱伝導パスを形成できることを意味する。
【0153】
尚、本発明の成形体において、平行方向の熱伝導率は、垂直方向の熱伝導率の少なくとも60%程度でありであり、この粒状窒化ホウ素を含む成形体の熱伝導に関する異方性は抑制されている。場合によっては、粒子径および結果的に100%を越える場合もあり、熱伝導に関する異方性が実質的に認められない場合も有り得る。
【0154】
成形体における粒状窒化ホウ素の配向度は、成形体の熱伝導性に影響を及ぼす。成形時のプレスにより加えられる力によって板状になった窒化ホウ素(または元々板状の窒化ホウ素)はプレス方向に対して平行でない方向、特に垂直な方向に沿って配向して樹脂中で並ぶ傾向が強くなるため、成形時のプレス方向に対して平行な方向の熱伝導率が著しく低くなり、その結果、熱伝導異方性が大きくなる。例えば、比較例8は市販の板状粒子が添加されているため、配向度が高く、プレス方向に平行な方向の熱伝導率が低くなっている。
【0155】
比較例7では、窒化ホウ素粒子が板状ではなく、合成された多面構造の窒化ホウ素粒子を添加されている。しかしながら、窒化ホウ素結晶の凝集力が弱いために、プレス成形によって加えられる力によって多面体構造が板状の窒化ホウ素に崩壊してそれが配向していると考えられる。そのため、比較例8と同様に、プレス成形によって、プレス方向に平行な方向に沿った熱伝導が低いと考えられる。
【0156】
本実施例で製造した粒状窒化ホウ素は、製造方法において希土類元素酸化物を用いる。希土類元素酸化物は窒化ホウ素の溶解・再析出仮定を促進するため、従来のアルカリ土類酸化物のみを添加して作製された比較例7多面構造を有する窒化ホウ素よりも強い凝集力をもたらすと考えられる。特に、本実施例で製造した粒状窒化ホウ素のシェル部分は一体となった板状窒化ホウ素が多面体または球体を形成する傾向にあると考えられ、これが粒状窒化ホウ素の強度を高める要因と考えられる。その結果、プレス成形によって加えられる力に抗して崩壊して板状の窒化ホウ素に変換され難い。よって、これを用いてプレス成形して得られる成形体の配向度は、比較例7および比較例8の配向度より相当小さい。
【0157】
また、発明者らの検討では、加熱処理する混合物において、酸化物におけるYのような希土類元素酸化物の割合が高いほど、シェル部分の層の厚さが、粒状窒化ホウ素の直径に比べ、厚くなる傾向が観察される。本発明の粒状窒化ホウ素が強い形状維持能を有する理由であると考え得る。
【0158】
粒状窒化ホウ素粒子組成物に含まれる粒状窒化ホウ素は、酸洗浄する前、その内部に酸化物を包含している。酸洗浄の程度を変えることによって、例えば洗浄に用いる酸濃度を低くすることによって、内部に残存する希土類元素酸化物の量を変えることができる。粒状窒化ホウ素内に酸化物が残っていると、形成される窒化ホウ素のシェル構造の強度、特に圧縮強度を向上させることができると予想される。即ち、そのような粒状窒化ホウ素を用いて樹脂組成物を得、これをホットプレスで成形すると、粒状窒化ホウ素が崩壊し難くくなり、成形体の(00L)面の配向度が低くなると考えられる。表5に示す結果は、この考えに沿っており、この観点からは、本発明の粒状窒化ホウ素は、好ましくは0.5~15質量%、より好ましくは3~10質量%、特に4~8質量%の希土類元素酸化物を含む。
【0159】
従って、本発明の樹脂組成物および該組成物を成形して作製された成形体は、例えば、電気・電子分野などで熱伝導性が要求されるような放熱シート、熱伝導性ペースト、熱伝導性接着剤等において熱伝導性フィラーとして好適に用いることが出来る。
【関連出願の相互参照】
【0160】
本出願は、日本国特許出願第2019-064120号(出願日:2019年3月28日、発明の名称:粒状窒化ホウ素の製造方法および粒状窒化ホウ素)に基づく優先権を主張し、ここで該特許出願を引用することによって該特許出願に記載事項は本願の明細書を構成する。
図1
図2
図3
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