(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物およびそれを成形してなる成形体
(51)【国際特許分類】
F04D 29/02 20060101AFI20240912BHJP
F04D 29/30 20060101ALI20240912BHJP
C08L 77/06 20060101ALI20240912BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
F04D29/02
F04D29/30 E
C08L77/06
C08K7/02
(21)【出願番号】P 2021516083
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(86)【国際出願番号】 JP2020016926
(87)【国際公開番号】W WO2020218209
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2019084798
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 美穂
(72)【発明者】
【氏名】三井 淳一
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-049793(JP,A)
【文献】特開2016-102194(JP,A)
【文献】特開2018-145292(JP,A)
【文献】国際公開第2015/053181(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/163408(WO,A1)
【文献】特開2013-049749(JP,A)
【文献】特開2016-150992(JP,A)
【文献】実開昭63-063597(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/06
C08K 7/02
F04D 29/02
F04D 29/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が290~330℃である半芳香族ポリアミド(A)と、繊維状強化材(B)とを含有
し、温度100℃、引張荷重75MPaの測定条件下における100時間経過時のクリープひずみ量が2.0%以下であ
るポリアミド樹脂組成物
を成形してなり、1分間当たり1万回転以上の回転で使用されることを特徴とするインペラ。
【請求項2】
半芳香族ポリアミド(A)が、ジカルボン酸成分とジアミン成分とを構成成分として含有し、ジカルボン酸成分がテレフタル酸を主成分として含み、ジアミン成分が1,10-デカンジアミンを主成分として含むことを特徴とする請求項1記載の
インペラ。
【請求項3】
繊維状強化材(B)が、引張強度が4000~4800MPaである炭素繊維であることを特徴とする請求項1または2記載の
インペラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半芳香族ポリアミドと繊維状強化材とを含有するポリアミド樹脂組成物、およびそれを成形してなる成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、インペラやファンなどの回転体を構成する材料には、軽量化のために、金属に代えて、熱可塑性樹脂が適用されている。また、近年、回転体は高速で回転されるようになり、例えば、最大外径が25mm程度である回転体が100000rpmで高速回転されている。このような高速回転する回転体は、耐熱性、遠心方向の強度、寸法精度、低比重が必要となり、特に100℃付近の高温環境下において、従来の材料よりも遠心方向の強度が高いことや、寸法精度に相当する引張クリープひずみ量が小さいことが要求されている。
【0003】
高速回転が可能なインペラの材料に用いられる熱可塑性樹脂として、特許文献1に、ナイロン66とポリエーテルスルフォンのアロイが、特許文献2に、ポリエーテルケトンとポリエーテルイミドのアロイが、特許文献3に、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンとポリエーテルイミドのアロイが、特許文献4に、ポリイミド、ポリアミドイミド、ビスマレイミドトリアジン、ポリエーテルスルフォンが、それぞれ開示されている。
しかしながら、これらの熱可塑性樹脂は、総じて高価であり、成形時において高温の金型が必要であり、さらに成形時の流動性が劣るため、インペラ等の回転体形状のデザイン性が低いという問題があった。また、これらの熱可塑性樹脂は、総じて比重が高いため、得られる回転体は、重量が大きくなるだけでなく、高速回転するとより大きな遠心力がかかるため、回転数を一定以上には上げられない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実公昭63-063597号公報
【文献】特開平02-269766号公報
【文献】特開平06-042302号公報
【文献】実公平01-111102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来よりも安価かつ低比重であり、流動性に優れ、120℃以下という低い金型温度で、外観に優れた成形体を成形することが可能であり、かつ高温環境下での寸法精度が優れる樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、特定の樹脂と強化材とを含有し、特定のクリープひずみ量を有する樹脂組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、
融点が290~330℃である半芳香族ポリアミド(A)と、繊維状強化材(B)とを含有し、
温度100℃、引張荷重75MPaの測定条件下における100時間経過時のクリープひずみ量が2.0%以下であることを特徴とする。
本発明のポリアミド樹脂組成物によれば、半芳香族ポリアミド(A)が、ジカルボン酸成分とジアミン成分とを構成成分として含有し、ジカルボン酸成分がテレフタル酸を主成分として含み、ジアミン成分が1,10-デカンジアミンを主成分として含むことが好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物によれば、繊維状強化材(B)が、引張強度が4000~4800MPaである炭素繊維であることが好ましい。
本発明の成形体は、上記ポリアミド樹脂組成物を成形してなるものである。
本発明の成形体は、回転体であることが好ましい。
本発明の成形体によれば、回転体がインペラであることが好ましい。
本発明の成形体によれば、回転体がファンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐熱性が高く、低比重であり、流動性に優れ、かつ100℃付近の高温環境下におけるクリープひずみ量が小さい樹脂組成物、およびそれからなる外観に優れた成形体を提供することができ、本発明の成形体は、インペラやファン等の回転体に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る成形体の一例であるインペラの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、半芳香族ポリアミド(A)と繊維状強化材(B)とを含有する。
【0011】
本発明において、半芳香族ポリアミド(A)は、ジカルボン酸成分とジアミン成分とを構成成分として含有し、ジカルボン酸成分が芳香族ジカルボン酸を含有し、ジアミン成分が脂肪族ジアミンを含有するものである。
半芳香族ポリアミド(A)を構成するジカルボン酸成分は、テレフタル酸(T)を主成分として含むことが好ましく、テレフタル酸の含有量は、耐熱性やクリープ特性の観点から、ジカルボン酸成分中、75モル%以上であることが好ましく、85モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることがさらに好ましい。
半芳香族ポリアミド(A)におけるジアミン成分は、耐熱性と加工性の観点から、炭素数8~12の脂肪族ジアミンであることが好ましい。炭素数8~12の脂肪族ジアミンとしては、例えば、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミンが挙げられ、これらは、単独で用いてもよいし、併用してもよい。中でも、汎用性が高いことから、ジアミン成分は、1,10-デカンジアミンを主成分として含むことが好ましく、耐熱性やクリープ特性の観点から、1,10-デカンジアミンの含有量は、ジアミン成分中、75モル%以上であることが好ましく、85モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることがさらに好ましい。
本発明において、半芳香族ポリアミド(A)の具体例として、例えば、ポリアミド8T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、ポリアミド11T、ポリアミド12Tが挙げられる。
【0012】
半芳香族ポリアミド(A)のジカルボン酸成分は、テレフタル酸以外のジカルボン酸を含有してもよい。テレフタル酸以外のジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸や、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸や、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸が挙げられる。テレフタル酸以外のジカルボン酸の含有量は、ジカルボン酸成分中、25モル%未満であることが好ましく、15モル%未満であることがより好ましく、ジカルボン酸成分は、テレフタル酸以外のジカルボン酸を実質的に含まないことがさらに好ましい。
【0013】
半芳香族ポリアミド(A)のジアミン成分は、炭素数8~12の脂肪族ジアミン以外の他のジアミンを含有してもよい。他のジアミンとしては、例えば、1,2-エタンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,13-トリデカンジアミン、1,14-テトラデカンジアミン、1,15-ペンタデカンジアミン等の脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン等の脂環式ジアミンや、キシリレンジアミン、ベンゼンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。炭素数8~12の脂肪族ジアミン以外の他のジアミンの含有量は、ジアミン成分中、25モル%未満であることが好ましく、15モル%未満であることがより好ましく、ジアミン成分は、炭素数8~12の脂肪族ジアミン以外の他のジアミンを実質的に含まないことがさらに好ましい。
【0014】
半芳香族ポリアミド(A)は、必要に応じて、カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸等のω-アミノカルボン酸を含有してもよい。これらの含有量は、原料モノマーの総モル数に対して、10モル%未満であることが好ましく、半芳香族ポリアミド(A)は、これらを実質的に含まないことがより好ましい。
【0015】
半芳香族ポリアミド(A)は、モノカルボン酸成分を構成成分として含有することが好ましい。モノカルボン酸を含有することにより、半芳香族ポリアミドは、末端の遊離アミノ基量を低く保つことが可能となり、熱を受けた際の、熱劣化や酸化劣化によるポリアミドの分解や変色が抑えられ、また末端が疎水性となるため低吸水性とすることができる。その結果、得られる樹脂組成物の耐熱性や低吸水性を向上させることができる。
【0016】
モノカルボン酸成分の含有量は、半芳香族ポリアミド(A)を構成する全モノマー成分に対して0.3~4.0モル%であることが好ましく、0.3~3.0モル%であることがより好ましく、0.3~2.5モル%であることがさらに好ましく、0.8~2.5モル%であることが特に好ましい。モノカルボン酸成分の含有量が0.3~4.0モル%であることにより、重合時の分子量分布を小さくしたり、成形加工時の離型性を向上させたり、成形加工時においてガスの発生量を抑制したりすることができる。一方、モノカルボン酸成分の含有量が4.0モル%を超えると、機械的特性が低下する場合がある。なお、本発明において、モノカルボン酸の含有量は、半芳香族ポリアミド(A)中のモノカルボン酸の残基、すなわち、モノカルボン酸から末端の水酸基が脱離したものが占める割合をいう。
【0017】
モノカルボン酸成分としては、脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸が挙げられる。中でも、半芳香族ポリアミド由来成分の発生ガス量を減少させ、樹脂組成物の流動性を向上させ、金型汚れを低減させ、離型性を向上させることができることから、脂肪族モノカルボン酸が好ましい。
【0018】
モノカルボン酸成分は、分子量が140以上のモノカルボン酸が好ましく、分子量が170以上のモノカルボン酸がより好ましい。分子量が140以上のモノカルボン酸を用いることにより、離型性が向上し、成形加工時の温度においてガスの発生量を抑制することができ、また成形流動性も向上させることができる。
分子量が140以上の脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、カプリル酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸が挙げられ、分子量が140以上の脂環族モノカルボン酸としては、例えば、4-エチルシクロヘキサンカルボン酸、4-へキシルシクロヘキサンカルボン酸、4-ラウリルシクロヘキサンカルボン酸が挙げられ、分子量が140以上の芳香族モノカルボン酸としては、例えば、4-エチル安息香酸、4-へキシル安息香酸、4-ラウリル安息香酸、1-ナフトエ酸、2-ナフトエ酸およびそれらの誘導体が挙げられる。モノカルボン酸成分は、単独で用いてもよいし、併用してもよい。また、分子量が140以上のモノカルボン酸と分子量が140未満のモノカルボン酸を併用してもよい。なお、本発明において、モノカルボン酸の分子量は、原料のモノカルボン酸の分子量を指す。
【0019】
本発明において、半芳香族ポリアミド(A)は、融点が290~330℃であることが必要である。本発明のポリアミド樹脂組成物は、融点が290~330℃である半芳香族ポリアミド(A)と繊維状強化材(B)とを含有することにより、クリープひずみ量を小さくすることができる。半芳香族ポリアミド(A)の融点が290℃未満であると、ポリアミド樹脂組成物は、耐熱性が低く、クリープひずみ量が大きくなり、一方、融点が330℃を超える半芳香族ポリアミド(A)は、溶融加工温度が分解温度に近くなり、溶融加工時に分解して加工しにくくなるので好ましくない。
【0020】
本発明に用いる半芳香族ポリアミド(A)は、従来から知られている加熱重合法や溶液重合法の方法を用いて製造することができる。工業的に有利である点から、加熱重合法が好ましく用いられる。加熱重合法としては、芳香族ジカルボン酸成分と、ジアミン成分とから反応生成物を得る工程(i)と、得られた反応生成物を重合する工程(ii)とからなる方法が挙げられる。
【0021】
工程(i)としては、例えば、ジカルボン酸粉末を、予めジアミンの融点以上、かつジカルボン酸の融点以下の温度に加熱し、この温度のジカルボン酸粉末に、ジカルボン酸の粉末の状態を保つように、実質的に水を含有させずに、ジアミンを添加する方法が挙げられる。別の方法としては、溶融状態のジアミンと固体のジカルボン酸とからなる懸濁液を攪拌混合し、混合液を得た後、最終的に生成する半芳香族ポリアミドの融点未満の温度で、ジカルボン酸とジアミンの反応による塩の生成反応と、生成した塩の重合による低重合物の生成反応とをおこない、塩および低重合物の混合物を得る方法が挙げられる。この場合、反応をさせながら破砕をおこなってもよいし、反応後に一旦取り出してから破砕をおこなってもよい。工程(i)としては、反応生成物の形状の制御が容易な前者の方が好ましい。
【0022】
工程(ii)としては、例えば、工程(i)で得られた反応生成物を、最終的に生成する半芳香族ポリアミドの融点未満の温度で固相重合し、所定の分子量まで高分子量化させ、半芳香族ポリアミドを得る方法が挙げられる。固相重合は、重合温度180~270℃、反応時間0.5~10時間で、窒素等の不活性ガス気流中でおこなうことが好ましい。
【0023】
工程(i)および工程(ii)の反応装置としては、特に限定されず、公知の装置を用いればよい。工程(i)と工程(ii)を同じ装置で実施してもよいし、異なる装置で実施してもよい。
【0024】
半芳香族ポリアミド(A)の製造において、重合の効率を高めるため重合触媒を用いてもよい。重合触媒としては、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸またはそれらの塩が挙げられる。重合触媒の添加量は、通常、半芳香族ポリアミド(A)を構成する全モノマーに対して、2.0モル%以下であることが好ましい。
【0025】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、繊維状強化材(B)を含有することが必要である。
繊維状強化材(B)としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、アスベスト繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ケナフ繊維、竹繊維、麻繊維、バガス繊維、高強度ポリエチレン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維、セラミックス繊維、玄武岩繊維が挙げられる。
【0026】
中でも、繊維状強化材(B)は、引張強度が4000~4800MPaである炭素繊維であることが好ましい。
引張強度が4000MPa以上である炭素繊維を含有することにより、ポリアミド樹脂組成物は、温度100℃、引張荷重75MPaの測定条件下における100時間経過時の流動方向のクリープひずみ量が2.0%以下になりやすい。
一方、ポリアミド樹脂組成物が含有する炭素繊維は、次の理由から、引張強度が4800MPaを超えないことが好ましい。すなわち、本発明のポリアミド樹脂組成物は、半芳香族ポリアミド(A)の融点が290~330℃であるので、溶融混練における実際の加工温度は、330~400℃程度に達する。樹脂組成物は、引張強度が4800MPaを超える高強度の炭素繊維を含有すると、溶融混練時に過剰なせん断発熱を引き起こし、さらに温度が上昇し、樹脂の分解や繊維の表面処理剤の分解が起きたり、粘度低下による繊維の分散不良が起きることがある。そのため、樹脂組成物は、引張強度が4800MPaを超える高強度の炭素繊維を含有したとしても、ひずみ量やその他機械特性の向上効果が得られないばかりか、低下することがある。また、引張強度が4800MPaを超える高強度の炭素繊維の含有による、溶融混練時の分解や粘度低下が起こらなくても、炭素繊維の強度の影響で、樹脂組成物は硬くなり、流動性が低下する。なお、せん断発熱を抑えるために、小さいスケールの押出機で溶融混練したり、吐出と回転数を低く設定して溶融混練することも可能であるが、生産性が著しく低下する。
【0027】
引張強度が4000~4800MPaである炭素繊維は、繊維長が0.1~7mmであることが好ましく、0.5~6mmであることがより好ましい。炭素繊維は、繊維長が0.1~7mmであることにより、成形性に悪影響を及ぼすことなく、樹脂組成物の機械的特性を向上させることができる。また、炭素繊維は、繊維径が3~20μmであることが好ましく、5~13μmであることがより好ましい。炭素繊維は、繊維径が3~20μmであることにより、溶融混練時に折損を減らしながらも、樹脂組成物の機械的特性を向上させることができる。炭素繊維の断面形状は、円形断面であることが好ましいが、必要に応じて、長方形、楕円、それ以外の異形断面であってもよい。
【0028】
引張強度が4000~4800MPaである炭素繊維の含有量は、1~60質量%であることが好ましく、機械的強度が向上することから、1~50質量%であることがより好ましい。中でも、従来の樹脂組成物に比べて低比重であり、機械強度の向上効果が大きくなることから、15~50質量%であることがさらに好ましい。ポリアミド樹脂組成物は、この炭素繊維の含有量が60質量%を超えると、樹機械的特性の向上効果が飽和し、それ以上の向上効果が見込めないばかりでなく、流動性が極端に低下するために、成形体を得ることが困難になる場合がある。
【0029】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、必要に応じて、安定剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、炭化抑制剤等の添加剤をさらに含有してもよい。着色剤としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック等の顔料、ニグロシン等の染料が挙げられる。安定剤としては、例えば、ヒンダートフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、光安定剤、銅化合物からなる熱安定剤、アルコール類からなる熱安定剤が挙げられる。難燃剤としては、例えば、臭素系難燃剤、ホスフィン酸金属塩からなるリン系難燃剤、ホスファゼン化合物からなる難燃剤が挙げられる。難燃助剤としては、例えば、錫酸亜鉛、硼酸亜鉛、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンやアンチモン酸ナトリウム等の金属塩が挙げられる。炭化抑制剤は、耐トラッキング性を向上させる添加剤であり、例えば、金属水酸化物、ホウ酸金属塩等の無機物が挙げられる。
【0030】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、温度100℃、引張荷重75MPaの測定条件下における100時間経過時のクリープひずみ量が2.0%以下であることが必要であり、1.5%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましい。ポリアミド樹脂組成物の前記ひずみ量が2.0%を超えると、得られるインペラやファン等の回転体等は、回転速度が限定される場合がある。本発明のポリアミド樹脂組成物は、半芳香族ポリアミド(A)と繊維状強化材(B)を含有することにより、前記ひずみ量を2.0%以下とすることができる。
【0031】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ISO 178に準拠して測定した曲げ強度が180MPa以上であることが好ましく、250MPa以上であることがより好ましく、また、ISO 178に準拠して測定した曲げ弾性率が5GPa以上であることが好ましく、10GPa以上であることがより好ましい。ポリアミド樹脂組成物の曲げ強度が180MPa以上であり、曲げ弾性率が5GPa以上であると、得られるインペラやファン等の回転体等は、寸法変化が小さく、より高速で回転させることができる。
【0032】
本発明のポリアミド樹脂組成物を製造する方法としては、半芳香族ポリアミド(A)、繊維状強化材(B)および必要に応じて添加される添加剤等を配合して、溶融混練する方法が好ましい。
溶融混練法としては、ブラベンダー等のバッチ式ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ヘリカルローター、ロール、一軸押出機、二軸押出機等を用いる方法が挙げられる。
【0033】
ポリアミド樹脂組成物を様々な形状に加工する方法としては、例えば、溶融混合物をストランド状に押出しペレット形状にする方法や、溶融混合物をホットカット、アンダーウォーターカットしてペレット形状にする方法や、シート状に押出しカッティングする方法、ブロック状に押出し粉砕してパウダー形状にする方法が挙げられる。
【0034】
本発明の成形体は、上記ポリアミド樹脂組成物を成形してなるものであり、インペラやファンなどの回転体に適用することができる。
通常、インペラは、筐体の中に収納されており、インペラが回転した時にインペラの外面と筐体の内面との間の空間に流れが生じる仕組みになっており、インペラの回転が速いほど、また上記空間が小さいほど、生じる流れが速くなる。
一方、高速回転しているインペラは、質量に比例して遠心方向に大きな応力(遠心力)がかかり、さらに、流体との抵抗により回転と反対方向に曲げ応力がかかり、回転時は常にわずかに変形している。高速回転が長期間継続されると、インペラは、遠心方向に徐々に変形する。この継続的な変形の度合いは、インペラの材料のクリープ変形で評価することができる。また、瞬間的な変形の度合いは、インペラの材料の弾性率で評価することができる。
高性能化のために、インペラは、インペラ外径と筐体内径との寸法差によって形成される隙間を小さくし、回転が速くなるように設計されるため、高性能インペラを構成する材料は、比重が小さいほど、弾性率が高いほど、クリープ変形が小さいほど好適である。本発明のポリアミド樹脂組成物は、高耐熱性、高いクリープ強度であるため、プロペラ、インペラ、ファン、軸流ファン、羽、羽根車などの回転体や、アクチュエーター、ベアリング等の摺動部材として好適に用いることができる。小型で、羽根が薄肉で、さらに1分間当たり1万回転以上の高速回転で使用されるような回転体用途に、特に好適に用いることができる。
【0035】
ポリアミド樹脂組成物を成形して成形体を製造する方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、焼結成形法が挙げられる。中でも、機械的特性、成形性の向上効果が大きいことから、射出成形法が好ましい。
【0036】
射出成形機としては、特に限定されず、例えば、スクリューインライン式射出成形機やプランジャ式射出成形機が挙げられる。射出成形機のシリンダー内で加熱溶融されたポリアミド樹脂組成物は、ショットごとに計量され、金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化された後、成形体として金型から取り出される。射出成形時の樹脂温度は、半芳香族ポリアミド(A)の融点(Tm)以上であることが好ましく、(Tm+50℃)未満であることがより好ましい。
【0037】
成形時の金型温度は、特に限定されないが、80~150℃であることが好ましい。本発明のポリアミド樹脂組成物は、この温度範囲の金型で、結晶化度の高い成形体を得ることができ、ひいては高耐熱性や低吸水性に優れた成形体を得ることができる。
高速回転が可能なインペラの材料に用いられていた従来の樹脂においては、いずれも、成形時における金型温度は、200℃以上であることが必要である。本発明のポリアミド樹脂組成物は、従来の樹脂に比べて低温の金型で成形することが可能であり、成形量産時のエネルギーコストの削減が可能となる。
【0038】
なお、樹脂組成物の加熱溶融時には、十分に乾燥された樹脂組成物ペレットを用いることが好ましい。含有する水分量が多いと、射出成形機のシリンダー内で樹脂組成物が発泡し、最適な成形体を得ることが困難となることがある。射出成形に用いる樹脂組成物ペレットの水分率は、0.3質量%未満であることが好ましく、0.1質量%未満であることがより好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
1.測定方法
ポリアミド樹脂組成物および成形体の特性は、以下の方法により測定、評価した。
(1)融点
示差走査熱量計(パーキンエルマー社製 DSC-7型)を用い、昇温速度20℃/分で360℃まで昇温した後、360℃で5分間保持し、降温速度20℃/分で25℃まで降温し、さらに25℃で5分間保持後、再び昇温速度20℃/分で昇温測定した際の吸熱ピークのトップを融点とした。
【0040】
(2)密度
得られた樹脂組成物のペレットを十分に乾燥した後、射出成形機(ファナック社製 S2000i-100B型)を用いて、シリンダー温度(融点+15℃)、成形サイクル35秒の条件で射出成形し、ダンベル試験片を作製した。実施例1~12および比較例1~10、12の場合は、金型温度を120℃とし、比較例11の場合は、金型温度を90℃とした。
得られたダンベル試験片を用いて、ISO 1183に準拠して密度を測定した。
【0041】
(3)機械的特性
上記(2)に記載された方法と同じ方法で作製したダンベル試験片を用いて、ISO 178に準拠して曲げ強度と曲げ弾性率を測定した。
また、作製したダンベル試験片を用いて、ISO899-1を参考にして、100℃の温度雰囲気下、引張荷重75MPaにおける引張クリープ試験を実施し、100時間経過時のクリープひずみ量を測定した。
【0042】
(4)外観(算術平均高さ)
得られた樹脂組成物のペレットを十分に乾燥した後、射出成形機(日本製鋼所社製 J35-AD)を用いて、シリンダー温度(融点+15℃)、金型表面粗さ(算術平均高さ(Sa))1μm、金型温度180℃にて、成形サイクル30秒の条件で、40mm×40mm×3.0mmtの試験片を作製した。
同様に、金型温度120℃においても、試験片を作製した。
3D形状測定機(キーエンス社製 VR-3200)を用いて、試験片中心部25mm×25mm範囲内を、拡大倍率12倍で算術平均高さ(Sa)を測定した。
本発明においては、算術平均高さ(Sa)5μm以下を合格とした。
【0043】
(5)流動性
得られた樹脂組成物のペレットを十分に乾燥した後、射出成形機(日本製鋼所社製 J35-AD)を用いて、シリンダー温度(融点+15℃)、金型温度120℃にて、成形サイクル30秒の条件で、0.5mm厚の流動長測定用試験片を作製した。
本発明においては、流動長8mm以上を合格とし、流動長は15mm以上が好ましい。
【0044】
(6)生産性
実施例において樹脂組成物ペレットを作製する際の溶融混練条件(スクリュー回転数(Ns)250rpm、吐出量(Q)25kg/h)から、スクリュー1回転当たりの押出し量(Q/Ns)を一定にして、吐出量(Q)を増やしていき、押出機のトルクが上昇したり、トルクの変動が大きくなって、溶融混練が困難となるまでの、生産可能な吐出量(Q)の上限を、最大吐出量として求めた。ポリアミド樹脂組成物は、最大吐出量が高いほど、混練しやすく、生産性や生産効率が高い。
【0045】
(7)連続耐久試験
ダンベル試験片作製用金型に代えて、
図1のインペラを成形するための金型を用いた以外は、上記(2)に記載された成形方法で、最大外径が25mmであるインペラを作製した。
得られたインペラを、インペラ外径と筐体内径との寸法差によって形成される隙間が500μmである筐体に収納し、スピンテスターを使用し、回転数100,000rpmで、200時間連続耐久試験を行ない、インペラの疲労、クリープ寿命、翼部の変形によって、インペラが筐体と接触し、インペラにクラックが入ったり、インペラが欠けるなどによってインペラが破壊するまでの時間で、インペラの連続耐久性を評価した。
【0046】
(8)翼部の接触試験
スピンテスターを使用し、インペラ外径とスピンテスター内径との寸法差によって形成されるの隙間を500μmと100μmの2通りに設定して、上記(7)と同じ方法で作製したインペラを5個ずつ、回転数120,000rpmで、1分間回転を行ない、翼部が接触し、インペラにクラックが入ったり、インペラが欠けるなどによってインペラが破壊するインペラの個数の割合を測定した。
【0047】
2.原料
実施例および比較例で用いた原料を以下に示す。
(1)ポリアミド
・半芳香族ポリアミド(PA10T-1)
ジカルボン酸成分として粉末状のテレフタル酸(TPA)4.81kgと、モノカルボン酸成分としてステアリン酸(STA)0.15kgと、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物9.3gとを、リボンブレンダー式の反応装置に入れ、窒素密閉下、回転数30rpmで撹拌しながら170℃に加熱した。その後、温度を170℃に保ち、かつ回転数を30rpmに保ったまま、液注装置を用いて、ジアミン成分として100℃に加温した1,10-デカンジアミン(DDA)5.04kgを、2.5時間かけて連続的(連続液注方式)に添加し反応生成物を得た。なお、原料モノマーのモル比は、TPA:DDA:STA=49.3:49.8:0.9(原料モノマーの官能基の当量比率は、TPA:DDA:STA=49.5:50.0:0.5)であった。
続いて、得られた反応生成物を、同じ反応装置で、窒素気流下、250℃、回転数30rpmで8時間加熱して重合し、ポリアミドの粉末を作製した。
その後、得られたポリアミドの粉末を、二軸混練機を用いてストランド状とし、ストランドを水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングして半芳香族ポリアミド(PA10T-1)ペレットを得た。
【0048】
・半芳香族ポリアミド(PA10T-2、PA10T/10I-1、2、3、PA10T/6T-1、2、PA9T-1、2、3、4)
樹脂組成を表1に示すように変更した以外は、PA10T-1と同様にして、半芳香族ポリアミドペレットを得た。
【0049】
得られた半芳香族ポリアミドの樹脂組成と特性値を表1に示す。
【0050】
【0051】
・PA66:ポリアミド66(ユニチカ社製 ユニチカナイロン66 A125J)、融点260℃
(2)PEEK
ポリエーテルエーテルケトン(ダイセル・エボニック社製 VESTAKEEP 2000G)、融点340℃
【0052】
(3)繊維状強化材
・CF1:炭素繊維(東レ社製 T800SC-24K)引張強度5880MPa
・CF2:炭素繊維(三菱レイヨン社製 TR06NEB4J)引張強度4900MPa
・CF3:炭素繊維(三菱レイヨン社製 TR06NLB5K)引張強度4120MPa
・CF4:炭素繊維(帝人カーボンテナックス社製 HTA-C6-NR)引張強度3920MPa
・CF5:炭素繊維(三菱レイヨン製 223HE)引張強度3800MPa
・GF:ガラス繊維(日本電気硝子社製 T-262H)引張強度3200MPa
【0053】
実施例1
PA10T-1の90質量部をロスインウェイト式連続定量供給装置(クボタ社製 CE-W-1型)を用いて計量し、スクリュー径26mm、L/D50の同方向二軸押出機(東芝機械社製 TEM26SS型)の主供給口に供給して、溶融混練をおこなった。途中、サイドフィーダーよりCF3を10質量部供給し、さらに溶融混練をおこなった。ダイスからストランド状に引き取った後、水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングして樹脂組成物のペレットを得た。押出機のバレル温度設定は、(PA10T-1の融点-5~+15℃)、スクリュー回転数250rpm、吐出量25kg/hとした。
【0054】
実施例2~12、比較例1~12
樹脂組成物の組成を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様の操作をおこなって樹脂組成物のペレットを得た。
【0055】
得られた樹脂組成物の樹脂組成と評価を表2に示す。
【0056】
【0057】
実施例1~12のポリアミド樹脂組成物は、構成成分が本発明で規定する範囲内にあったため、クリープひずみ量が2.0%以下であり、また、金型温度120℃、180℃で成形した成形体は、表面粗さ(算術平均高さ(Sa))が小さく、外観に優れていた。
実施例11、12のポリアミド樹脂組成物は、炭素繊維の引張強度が高いたため、流動性がやや劣っていた。実施例1、2のポリアミド樹脂組成物は、繊維状強化材の含有量が少ないため、また実施例6~10のポリアミド樹脂組成物は、半芳香族ポリアミド樹脂の融点が低く、耐熱性が低いため、いずれもクリープひずみ量がやや大きかった。
実施例3と9の樹脂組成物は、モノカルボン酸成分がステアリン酸である半芳香族ポリアミド(A)を含有するため、半芳香族ポリアミド(A)のモノカルボン酸成分が安息香酸である実施例5と10の樹脂組成物に比べ、それぞれ流動長が長くなった。
比較例1の樹脂組成物は、繊維状強化材を含有しなかったため、比較例2、3の樹脂組成物は、引張強度が4000MPa未満の炭素繊維を用いたため、比較例4、5の樹脂組成物は、炭素繊維を用いずにガラス繊維を用いたため、いずれも、クリープひずみ量が大きかった。
比較例6では、繊維状強化材の含有量が多すぎたため、溶融混錬することができず、樹脂組成物を得ることができなかった。
比較例7~11の樹脂組成物は、融点が低いポリアミド樹脂を用いたため、クリープひずみが量大きかった。比較例12の樹脂組成物は、ポリエーテルエーテルケトンを用いたため、密度が高く、また、低温の金型で成形した成形体は、表面粗さ(Sa)が大きく、外観が劣っていた。
【0058】
比較例で得られた樹脂組成物を成形したインペラは、連続耐久試験において、50時間までに破壊したが、実施例の樹脂組成物を成形したインペラは、100時間以上の寿命を持っていた。荷重負荷が不連続の場合には、発熱の影響が減少し、ひずみ回復効果が期待できるため、インペラは、連続耐久試験において100時間以上の寿命を有していれば、耐久性が十分であるといえる。実施例3~5、11、12のインペラは、筐体との隙間を500μmから100μmへ変更することが可能であり、これを使用したコンプレッサは、圧縮効率を向上することができる。