(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】血液脳関門通過型ヘテロ2本鎖核酸
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7088 20060101AFI20240912BHJP
A61K 31/711 20060101ALI20240912BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20240912BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240912BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240912BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240912BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20240912BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240912BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20240912BHJP
【FI】
A61K31/7088
A61K31/711
A61K31/713
A61P27/02
A61P25/00
A61K48/00
A61K47/54
A61K9/08
C12N15/113 Z ZNA
(21)【出願番号】P 2022036122
(22)【出願日】2022-03-09
(62)【分割の表示】P 2018540337の分割
【原出願日】2017-09-25
【審査請求日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2016185806
(32)【優先日】2016-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業、第3世代ヘテロ核酸の開発委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横田 隆徳
(72)【発明者】
【氏名】永田 哲也
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-502134(JP,A)
【文献】国際公開第2015/075942(WO,A1)
【文献】第32 回日本分子生物学会年 会プログラム・講演要旨集,2009年,p.248,1P-0816
【文献】第57 回日本神経学会学術大会 プログ ラム・抄録集,2016年,p.194
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/739
A61K 48/00
A61K 47/00-47/69
C12N 1/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1核酸鎖と第2核酸鎖とを含む核酸複合体を含む、被験体の中枢神経系において標的RNAの発現または編集を調節するための静脈内投与用または皮下投与用二本鎖核酸剤であって、
該第1核酸鎖は、標的転写産物の少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な塩基配列を含み、かつ、標的転写産物に対してアンチセンス効果を有し、
該第2核酸鎖は、該第1核酸鎖に相補的な塩基配列を含み、かつ、トコフェロール、コレステロール、もしくはそれらの類縁体、または置換基を有していてもよいアルキル基と結合しており、
該類縁体は、α-トコトリエノール、β-トコトリエノール、γ-トコトリエノール、δ-トコトリエノール、コレスタノール、ラノステロール、セレブロステロール、デヒドロコレステロールおよびコプロスタノールからなる群から選択され、
該置換基を有していてもよいアルキル基は、以下の一般式(III)
【化1】
[式中、R
xは、炭素数3~24個の直鎖状アルキレン基である。]
で示される基、または
以下の一般式(IV)
【化2】
[式中、R
yは、炭素数1~15個の直鎖状アルキレン基である。]
で示される基であり、
該第1核酸鎖は、該第2核酸鎖にアニールしている、二本鎖核酸剤。
【請求項2】
被験体の中枢神経系疾患を治療するための、請求項1に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項3】
第1核酸鎖と第2核酸鎖とを含む核酸複合体を含む、被験体の中枢神経系に薬剤を送達するための静脈内投与用または皮下投与用二本鎖核酸剤であって、
該第1核酸鎖および/または該第2核酸鎖は、少なくとも1種の薬剤と結合しており、
該第2核酸鎖は、該第1核酸鎖に相補的な塩基配列を含み、かつ、トコフェロール、コレステロール、もしくはそれらの類縁体、または置換基を有していてもよいアルキル基と結合しており、
該類縁体は、α-トコトリエノール、β-トコトリエノール、γ-トコトリエノール、δ-トコトリエノール、コレスタノール、ラノステロール、セレブロステロール、デヒドロコレステロールおよびコプロスタノールからなる群から選択され、
該置換基を有していてもよいアルキル基は、以下の一般式(III)
【化3】
[式中、R
xは、炭素数3~24個の直鎖状アルキレン基である。]
で示される基、または
以下の一般式(IV)
【化4】
[式中、R
yは、炭素数1~15個の直鎖状アルキレン基である。]
で示される基であり、
該第1核酸鎖は、該第2核酸鎖にアニールしている、二本鎖核酸剤。
【請求項4】
前記第1核酸鎖が、モルホリノ核酸を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項5】
前記第1核酸鎖が、スプライシングの調節を引き起こす、請求項4に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項6】
前記第2核酸鎖が、2'位で修飾されたフラノシル糖を含む、請求項4または5に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項7】
前記第1核酸鎖が、13~20塩基長である、請求項1~6のいずれか一項に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項8】
前記中枢神経系が、大脳皮質、大脳基底核、大脳白質、間脳、脳幹、小脳、および脊髄からなる群から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項9】
前記中枢神経系が、前頭葉、側頭葉、海馬、海馬傍回、頭頂葉、後頭葉、線条体、淡蒼球、前障、視床、視床下核、中脳、黒質、橋、延髄、小脳皮質、小脳核、頸髄、胸髄および腰髄からなる群から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項10】
静脈内投与用である、請求項1~9のいずれか一項に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項11】
前記核酸複合体の1回の投与量が5mg/kg以上である、請求項1~10のいずれか一項に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項12】
前記第2核酸鎖が天然リボヌクレオシドを含まない、請求項1~11のいずれか一項に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項13】
前記第2核酸鎖の核酸部分が修飾もしくは非修飾のヌクレオシド間結合により連結されたデオキシリボヌクレオシドおよび/または糖修飾ヌクレオシドから成る、請求項1~12のいずれか一項に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項14】
前記第2核酸鎖に非切断性(uncleavable)リンカーを介してリガンドが結合している、請求項1~13のいずれか一項に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項15】
前記第1核酸鎖がエキソン・スキッピングまたはエキソン・インクルージョンを引き起こす、請求項1~14のいずれか一項に記載の二本鎖核酸剤。
【請求項16】
前記核酸複合体が血液脳関門(BBB)を通過する、請求項1~15のいずれか一項に記載の二本鎖核酸剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験体の中枢神経系においてアンチセンス効果をもたらす組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、核酸医薬と呼ばれる医薬品の現在進行中の開発において、オリゴヌクレオチドが関心を集めており、また特に、標的遺伝子の高い選択性および低毒性の点から考えて、アンチセンス法を利用する核酸医薬の開発が積極的に進められている。アンチセンス法は、標的遺伝子のmRNA(センス鎖)の部分配列に相補的なオリゴヌクレオチド(例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド、すなわちASO)を細胞に導入することにより、標的遺伝子によってコードされるタンパク質の発現を選択的に改変または阻害する方法を含む。同様に、アンチセンス法はまた、miRNAを標的とし、またこのようなmiRNAの活性を改変する働きをする。
【0003】
アンチセンス法を利用した核酸として、本発明者らは、アンチセンスオリゴヌクレオチドとそれに対する相補鎖とをアニーリングさせた二本鎖核酸複合体を開発した(特許文献1)。特許文献1は、トコフェロールを結合させた相補鎖とアニーリングさせたアンチセンスオリゴヌクレオチドが、肝臓に効率的に送達され、また、高いアンチセンス効果を有することを開示している。本発明者らはまた、エクソンスキッピング効果を有する二本鎖アンチセンス核酸(特許文献2)、ならびに付加ヌクレオチドがギャップマー(アンチセンスオリゴヌクレオチド)の5'末端、3'末端、もしくは5'末端と3'末端の両方に付加されている短いギャップマーアンチセンスオリゴヌクレオチド(特許文献3)を開発した。本発明者らはまた、治療用オリゴヌクレオチドを送達するための二本鎖剤を開発した(特許文献4)。
【0004】
脳には、血液脳関門(blood brain barrier、BBB)と呼ばれる、脳へ移行する物質を選択および制限する機構が存在する。この機構は、脳を有害物質から保護する役割を担っている。同時に、血液脳関門は、脳へ薬剤を送達するための障壁にもなっている。脳を含む神経系へアンチセンスオリゴヌクレオチドなどの核酸剤を送達する方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2013/089283号
【文献】国際公開第2014/203518号
【文献】国際公開第2014/132671号
【文献】国際公開第2014/192310号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、核酸剤を中枢神経系へ効率的に送達し、アンチセンス効果をもたらす組成物および方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、従来主として肝臓に送達されると考えられていた、アンチセンスオリゴヌクレオチドと、トコフェロールまたはコレステロールを結合させた相補鎖とをアニールさせた核酸複合体が、中枢神経系および/または網膜にも効率的に送達され、中枢神経系および/または網膜において高いアンチセンス効果を示すことを見出した。また本発明者らは、アンチセンスオリゴヌクレオチドと、置換基を有していてもよいアルキル基を結合させた相補鎖とをアニールさせた核酸複合体も、中枢神経系において高いアンチセンス効果を示すことを見出した。これらの知見に基づき、本発明者らは本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は以下を包含する。
[1]第1核酸鎖と第2核酸鎖とを含む核酸複合体を含む、被験体の中枢神経系において標的転写産物の発現量を減少させるための組成物であって、
該第1核酸鎖は、標的転写産物の少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な塩基配列を含み、かつ、標的転写産物に対してアンチセンス効果を有し、
該第2核酸鎖は、該第1核酸鎖に相補的な塩基配列を含み、かつ、トコフェロールもしくはコレステロールまたはそれらの類縁体と結合しており、
該第1核酸鎖は、該第2核酸鎖にアニールしている、組成物。
[2]被験体の中枢神経系疾患を治療するための、[1]に記載の組成物。
[3]第1核酸鎖と第2核酸鎖とを含む核酸複合体を含む、被験体の中枢神経系に薬剤を送達するための組成物であって、
該第1核酸鎖および/または該第2核酸鎖は、少なくとも1種の薬剤と結合しており、
該第2核酸鎖は、該第1核酸鎖に相補的な塩基配列を含み、かつ、トコフェロールもしくはコレステロールまたはそれらの類縁体と結合しており、
該第1核酸鎖は、該第2核酸鎖にアニールしている、組成物。
[4]前記第1核酸鎖が、少なくとも4個の連続デオキシリボヌクレオシドを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]前記第1核酸鎖が、ギャップマーである、[4]に記載の組成物。
[6]前記第2核酸鎖が、前記第1核酸鎖中の少なくとも4個の連続デオキシリボヌクレオシドに相補的な、少なくとも4個の連続リボヌクレオシドを含む、[4]または[5]に記載の組成物。
[7]前記第1核酸鎖が、13~20塩基長である、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]前記中枢神経系が、大脳皮質、大脳基底核、大脳白質、間脳、脳幹、小脳、および脊髄からなる群から選択される、[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[9]前記中枢神経系が、前頭葉、側頭葉、海馬、海馬傍回、頭頂葉、後頭葉、線条体、淡蒼球、前障、視床、視床下核、中脳、黒質、橋、延髄、小脳皮質、小脳核、頸髄、胸髄および腰髄からなる群から選択される、[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[10]静脈内投与または皮下投与される、[1]~[9]のいずれかに記載の組成物。
[11]前記核酸複合体の1回の投与量が5mg/kg以上である、[1]~[10]のいずれかに記載の組成物。
[12]前記第2核酸鎖が天然リボヌクレオシドを含まない、[1]~[11]のいずれかに記載の組成物。
[13]前記第2核酸鎖の核酸部分が修飾もしくは非修飾のヌクレオシド間結合により連結されたデオキシリボヌクレオシドおよび/または糖修飾ヌクレオシドから成る、[1]~[12]のいずれかに記載の組成物。
[14]前記第2核酸鎖に非切断性(uncleavable)リンカーを介してリガンドが結合している、[1]~[13]のいずれかに記載の組成物。
[15]前記第1核酸鎖がミックスマーである、[1]~[14]のいずれかに記載の組成物。
[16]前記核酸複合体が血液脳関門(BBB)を通過する、[1]~[15]のいずれかに記載の組成物。
[17]第1核酸鎖と第2核酸鎖とを含む核酸複合体を含む、被験体の網膜において標的RNAの発現または編集を調節するための組成物であって、
該第1核酸鎖は、標的RNAの少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な塩基配列を含み、かつ、標的RNAに対してアンチセンス効果を有し、
該第2核酸鎖は、該第1核酸鎖に相補的な塩基配列を含み、かつ、トコフェロール、コレステロール、もしくは置換基を有していてもよいアルキル基と結合しており、
該第1核酸鎖は、該第2核酸鎖にアニールしている、組成物。
[18]前記核酸複合体が血液網膜関門(BRB)を通過する、[17]に記載の組成物。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2016-185806号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、核酸剤を中枢神経系および/または網膜へ効率的に送達し、アンチセンス効果をもたらす組成物および方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明で用いる核酸複合体の特定の実施形態の例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、アンチセンス法の一般的な機構の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、様々な天然ヌクレオチドまたは非天然ヌクレオチドの構造を示す図である。
【
図4】
図4は、様々な架橋核酸の構造を示す図である。
【
図5】
図5は、トコフェロールが結合した核酸複合体による大脳皮質における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を示す、実施例1に記載される実験の結果を示すグラフである。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図6】
図6は、トコフェロールが結合した核酸複合体による脳の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を比較した、実施例2に記載される実験の結果の一部を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体、(d)海馬、および(e)脳幹の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図7】
図7は、トコフェロールが結合した核酸複合体による脊髄の様々な部位および網膜における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を比較した、実施例2に記載される実験の結果の一部を示すグラフである。(a)頸髄、(b)胸髄、(c)腰髄および(d)網膜の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図8】
図8は、トコフェロールが結合した核酸複合体の大脳皮質における濃度を示す、実施例2に記載される実験の結果の一部を示すグラフである。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図9】
図9は、トコフェロールが結合した核酸複合体による脳の様々な部位における標的遺伝子(SR-B1)発現抑制効果を示す、実施例3に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体、および(d)海馬の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図10】
図10は、トコフェロールが結合した核酸複合体による脳および脊髄の様々な部位における標的遺伝子(SR-B1)発現抑制効果を示す、実施例3に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)脳幹、(b)頸髄および(c)腰髄の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図11】
図11は、コレステロールが結合した核酸複合体による脳の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を比較した、実施例4に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体、(d)海馬、および(e)脳幹の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図12】
図12は、コレステロールが結合した核酸複合体による脊髄の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を比較した、実施例4に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)頸髄、および(b)腰髄の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図13】
図13は、コレステロールが結合した核酸複合体による脳の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例5に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)海馬、および(d)脳幹の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図14】
図14は、トコフェロールが結合した核酸複合体による脳の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例6に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体、および(d)海馬の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図15】
図15は、トコフェロールが結合した核酸複合体による脳幹における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例6に記載される実験の結果を示すグラフである。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図16】
図16は、コレステロールが結合した核酸複合体による脳の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例7に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体、および(d)海馬の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図17】
図17は、コレステロールが結合した核酸複合体による脳幹における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例7に記載される実験の結果を示すグラフである。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図18】
図18は、コレステロールが結合した核酸複合体による脳の様々な部位における標的遺伝子(DMPK)発現抑制効果を調べた、実施例8に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体、(d)海馬、および(e)脳幹の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図19】
図19は、コレステロールが結合した核酸複合体による脊髄の様々な部位における標的遺伝子(DMPK)発現抑制効果を調べた、実施例8に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)腰髄、および(b)後根神経節の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図20】
図20は、トコフェロールが結合した核酸複合体による脳および脊髄の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例9に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)線条体、(c)脳幹、(d)頸髄、および(e)胸髄の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図21】
図21は、コレステロールが結合した核酸複合体による脳の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例10に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体、(d)海馬、および(e)脳幹の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図22】
図22は、コレステロールが結合した核酸複合体による脊髄の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例10に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)頸髄、および(b)腰髄の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図23】
図23は、コレステロールが結合した核酸複合体による脳の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例11に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体、および(d)海馬の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図24】
図24は、コレステロールが結合した核酸複合体による脳幹における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例11に記載される実験の結果を示すグラフである。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図25】
図25は、コレステロールが結合した核酸複合体による脳の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例12に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)線条体、(c)海馬、および(d)脳幹の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図26】
図26は、コレステロールが結合した核酸複合体による脳および脊髄の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例13に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体、(d)海馬、(e)脳幹、および(f)頸髄の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図27】
図27は、コレステロールが結合した核酸複合体による脊髄の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例13に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)腰髄、および(b)後根神経節の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図28】
図28は、コレステロールが結合した核酸複合体による脳の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例14に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体、および(d)海馬の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図29】
図29は、コレステロールが結合した核酸複合体による脳幹における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例14に記載される実験の結果を示すグラフである。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図30】
図30は、コレステロールが結合した核酸複合体による脊髄の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例14に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)頸髄、および(b)腰髄の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図31】
図31は、コレステロールが結合した核酸複合体による脳の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例15に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体、(d)海馬、および(e)脳幹の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図32】
図32は、コレステロールが結合した核酸複合体による脊髄の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例15に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)頸髄、および(b)腰髄の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図33】
図33は、トコフェロールが結合した核酸複合体による全脳における標的遺伝子(DMPK)発現抑制効果を調べた、実施例16に記載される実験の結果を示すグラフである。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図34】
図34は、トコフェロールが結合したsiRNAによる脳の様々な部位ににおける標的遺伝子(BACE1)発現抑制効果を調べた、実施例17に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体、および(d)海馬の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図35】
図35は、トコフェロールが結合したsiRNAによる脳および脊髄の様々な部位における標的遺伝子(BACE1)発現抑制効果を調べた、実施例17に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)脳幹、(b)腰髄、および(c)後根神経節の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図36】
図36は、コレステロールが結合したsiRNAによる脳の様々な部位ににおける標的遺伝子(BACE1)発現抑制効果を調べた、実施例18に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体、(d)海馬、および(e)脳幹の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図37】
図37は、ドコサヘキサエン酸(DHA)が結合した核酸複合体による脳の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例19に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体、および(d)海馬の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図38】
図38は、ドコサヘキサエン酸(DHA)が結合した核酸複合体による脳幹における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例19に記載される実験の結果を示すグラフである。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図39】
図39は、トコフェロールが結合した核酸複合体による脳における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例20に記載される実験の結果を示すグラフである。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図40】
図40は、コレステロールが結合した核酸複合体による脳の様々な部位における標的遺伝子(SR-B1)発現抑制効果を示す、実施例21に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体、(d)海馬、および(e)脳幹の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図41】
図41は、コレステロールが結合した核酸複合体による脊髄の様々な部位における標的遺伝子(SR-B1)発現抑制効果を示す、実施例21に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)頸髄、および(b)腰髄の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図42】
図42は、コレステロールが結合した核酸複合体の少量投与による脳および脊髄の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を比較した、実施例22に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体、(d)海馬、(e)脳幹、および(f)頸髄の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図43】
図43は、コレステロールが結合した核酸複合体の少量投与による腰髄における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を比較した、実施例22に記載される実験の結果を示すグラフである。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図44】
図44は、第2鎖のヌクレオシド間結合の修飾パターンが異なる、コレステロールが結合した核酸複合体による、脳の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を示す、実施例23に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体、および(d)海馬の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図45】
図45は、第2鎖のヌクレオシド間結合の修飾パターンが異なる、コレステロールが結合した核酸複合体による、脳幹における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を示す、実施例23に記載される実験の結果を示すグラフである。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図46】
図46は、トコフェロールまたはコレステロールが結合した核酸複合体の週2回投与での脳の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を示す、実施例24に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体、(d)海馬、および(e)脳幹の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図47】
図47は、コレステロールが結合した核酸複合体による脳の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例25に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、および(c)線条体の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図48】
図48は、コレステロールが結合した核酸複合体による脳幹における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例25に記載される実験の結果を示すグラフである。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図49】
図49は、コレステロールが結合した核酸複合体による脳の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例26に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体、(d)海馬、および(e)脳幹の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図50】
図50は、コレステロールが結合した核酸複合体による脊髄の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を調べた、実施例26に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)頸髄、および(b)腰髄の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図51】
図51は、コレステロールが結合した核酸複合体による脳の様々な部位における標的転写産物(miR-21)発現抑制効果を調べた、実施例27に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体、(d)海馬、および(e)脳幹の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図52】
図52は、トコフェロールが結合した核酸複合体による脳の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を示す、実施例28に記載される実験の結果を示すグラフである。投与7日後の結果を示す。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体、および(d)海馬の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図53】
図53は、トコフェロールが結合した核酸複合体による脳幹における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を示す、実施例28に記載される実験の結果を示すグラフである。投与7日後の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図54】
図54は、コレステロールが結合した核酸複合体による脳の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を示す、実施例29に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体、および(d)海馬の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図55】
図55は、コレステロールが結合した核酸複合体による脳および脊髄の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を示す、実施例29に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)脳幹、および(b)頸髄の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図56】
図56は、コレステロールが結合した核酸複合体による脳の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を示す、実施例30に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体、(d)海馬、および(e)脳幹の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図57】
図57は、コレステロールが結合した核酸複合体による脊髄の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を示す、実施例30に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)頸髄、および(b)腰髄の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図58】
図58は、先端にOH基がついたアルキル基が結合した核酸複合体による脳の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を示す、実施例31に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体および(d)海馬の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図59】
図59は、先端にOH基がついたアルキル基が結合した核酸複合体による脳幹における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を示す、実施例31に記載される実験の結果を示すグラフである。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図60】
図60は、コレステロールが結合した核酸複合体による脳の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を示す、実施例32に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体、(d)海馬および(e)脳幹の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図61】
図61は、アルキル基が結合した核酸複合体による脳の様々な部位における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を示す、実施例33に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)大脳皮質、(b)小脳、(c)線条体および(d)海馬の結果を示す。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図62】
図62は、アルキル基が結合した核酸複合体による脳幹における標的転写産物(malat1)発現抑制効果を示す、実施例33に記載される実験の結果を示すグラフである。エラーバーは標準誤差を示す。
【
図63】
図63は、コレステロールが結合した核酸複合体による血小板抑制効果について示す、実施例34に記載される実験の結果を示すグラフである。(a)コレステロール結合核酸複合体静脈投与について、25mg/kgの2回投与と50mg/kgの1回投与との比較。(b)コレステロール結合核酸複合体について、50mg/kgの1回静脈投与と皮下投与との比較。エラーバーは標準誤差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<核酸複合体>
本発明は、核酸複合体を含む組成物に関する。この核酸複合体は、第1核酸鎖と第2核酸鎖とを含む。第2核酸鎖は、第1核酸鎖に相補的な塩基配列を含むヌクレオチド鎖である。一実施形態では、第2核酸鎖は、トコフェロールもしくはコレステロールまたはそれらの類縁体と結合している。核酸複合体において、第1核酸鎖は、第2核酸鎖にアニールしている。
【0012】
核酸複合体の代表的な模式図を
図1に示す。
図1aは、第2核酸鎖の5'末端にトコフェロールが結合している核酸複合体を示す。
図1bは、第2核酸鎖の5'末端にコレステロールが結合している核酸複合体を示す。
図1cは、第2核酸鎖の3'末端にトコフェロールが結合している核酸複合体を示す。
図1dは、第2核酸鎖の3'末端にコレステロールが結合している核酸複合体を示す。しかし、後述のように、トコフェロールもしくはコレステロールまたはそれらの類縁体は、第2核酸鎖の5'末端、3'末端または両端に結合していてもよく、第2核酸鎖の内部のヌクレオチドに結合していてもよい。
【0013】
一実施形態において、第1核酸鎖は、標的転写産物の少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な塩基配列を含むヌクレオチド鎖である。特定の実施形態において、第1核酸鎖は、標的遺伝子の転写産物または標的転写産物に対してアンチセンス効果を有するヌクレオチド鎖である。
【0014】
「アンチセンス効果」とは、標的転写産物(RNAセンス鎖)の、例えばDNA鎖との、またはより一般的には転写産物等の部分配列に相補的な、アンチセンス効果を引き起こすように設計された鎖との、ハイブリダイゼーションの結果として生じる、標的遺伝子の発現または標的転写産物のレベルを抑制することを意味する。特定の例においては、翻訳の阻害またはスプライシング機能改変効果、例えばエクソンスキッピングなどが、アンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば第1核酸鎖)の転写産物へのハイブリダイゼーションによって引き起こされ得る(
図2中の点線で囲まれている領域の外側の上部の記載を参照)。あるいは、転写産物の分解が、ハイブリダイズされた部分の認識の結果として生じ得る(
図2中の点線で囲まれている領域内の記載を参照)。例えば、翻訳の阻害では、RNAを含むオリゴヌクレオチドがアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)として細胞に導入されると、ASOは、標的遺伝子の転写産物(mRNA)に結合し、部分的二本鎖が形成される。この二本鎖は、リボソームによる翻訳を妨げるためのカバーとしての役割を果たし、このため標的遺伝子によりコードされるタンパク質の発現が阻害される(
図2、上部)。一方、DNAを含むオリゴヌクレオチドがASOとして細胞に導入されると、部分的DNA-RNAヘテロ二本鎖が形成される。この構造がRNase Hによって認識され、その結果、標的遺伝子のmRNAが分解されるため、標的遺伝子によってコードされるタンパク質の発現が阻害される(
図2、下部)。これは、RNaseH依存性経路と称される。さらに、特定の例において、アンチセンス効果は、プレ-mRNAのイントロンを標的化することによってもたらされ得る。アンチセンス効果はまた、miRNAを標的化することによってもたらされ得る。この場合、当該miRNAの機能は阻害され、当該miRNAが通常発現を制御している遺伝子の発現は増加し得る。
【0015】
「アンチセンスオリゴヌクレオチド」または「アンチセンス核酸」は、標的遺伝子の転写産物または標的転写産物の少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な(すなわち、相補的な)塩基配列を含み、主にアンチセンス効果により標的遺伝子の転写産物の発現または標的転写産物のレベルを抑制し得る、一本鎖オリゴヌクレオチドを指す。
【0016】
アンチセンス効果によってその発現が抑制され、変更され、あるいは改変される「標的遺伝子」または「標的転写産物」は特に限定されないが、例えば、核酸複合体を導入する生物由来の遺伝子、例えば、様々な疾患においてその発現が増加している遺伝子が挙げられる。また、「標的遺伝子の転写産物」は、標的遺伝子をコードするゲノムDNAから転写されるmRNAであり、さらにまた、塩基修飾を受けていないmRNA、プロセシングされていないmRNA前駆体などを含む。「標的転写産物」は、mRNAだけでなく、miRNAなどのノンコーディングRNA(non-coding RNA、ncRNA)も含み得る。さらに一般的には、「転写産物」は、DNA依存性RNAポリメラーゼによって合成される任意のRNAであってよい。一実施形態では、「標的転写産物」は、例えば、転移関連肺腺癌転写産物1(metastasis associated lungadenocarcinoma transcript 1、malat1)ノンコーディングRNA、またはスカベンジャー受容体B1(scavenger receptor B1、SR-B1) mRNAであってもよい。マウスおよびヒトmalat1ノンコーディングRNAの塩基配列を、それぞれ配列番号6および8に示す(但し、RNAの塩基配列をDNAの塩基配列として示す)。マウスおよびヒトSR-B1 mRNAの塩基配列を、それぞれ配列番号7および9に示す(但し、mRNAの塩基配列をDNAの塩基配列として示す)。標的転写産物は、DMPK(dystrophia myotonica-protein kinase) mRNAであってもよい。マウスおよびヒトDMPK mRNAの塩基配列を、それぞれ配列番号17および18に示す(但し、RNAの塩基配列をDNAの塩基配列として示す)。遺伝子および転写産物の塩基配列は、例えばNCBI(米国国立生物工学情報センター)データベースなどの公知のデータベースから入手できる。
【0017】
第1核酸鎖は、標的転写産物の少なくとも一部(例えば、任意の標的領域)にハイブリダイズし得る塩基配列を含み得る。標的領域は、3'UTR、5'UTR、エキソン、イントロン、コード領域、翻訳開始領域、翻訳終結領域または他の核酸領域を含んでよい。標的転写産物の標的領域は、例えばマウスmalat1ノンコーディングRNAの場合は配列番号6の1316~1331位、マウスSR-B1 mRNAの場合は配列番号7の2479~2492位、マウスDMPK mRNAの場合は配列番号17の2682~2697位の塩基配列を含んでもよい。標的転写産物の標的領域は、少なくとも8塩基長、例えば、10~35塩基長、12~25塩基長、13~20塩基長、14~19塩基長、または15~18塩基長であってもよい。
【0018】
本明細書中で使用される用語「核酸」は、モノマーのヌクレオチドまたはヌクレオシドを指してもよいし、複数のモノマーからなるオリゴヌクレオチドを意味してもよい。用語「核酸鎖」または「鎖」もまた、本明細書中でオリゴヌクレオチドを指すために使用される。核酸鎖は、化学的合成法により(例えば自動合成装置を使用して)、または酵素的工程(例えば、限定するものではないが、ポリメラーゼ、リガーゼ、または制限反応)により、全体的にまたは部分的に作製することができる。
【0019】
本明細書中で使用される用語「核酸塩基」または「塩基」とは、別の核酸の塩基と対合可能な複素環部分を意味する。
【0020】
本明細書中で使用される用語「精製または単離された核酸複合体」は、天然には生じない核酸鎖を少なくとも1つ含むか、または天然の核酸物質を本質的に含まない核酸複合体を意味する。
【0021】
本明細書中で使用される用語「相補的」は、水素結合を介して、いわゆるワトソン-クリック塩基対(天然型塩基対)または非ワトソン-クリック塩基対(フーグスティーン型塩基対など)が形成され得る関係を意味する。本発明において、第1核酸鎖は、標的転写産物(例えば、標的遺伝子の転写産物)の少なくとも一部と完全に相補的であることは必ずしも必要ではなく、塩基配列が少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%(例えば、95%、96%、97%、98%、または99%以上)の相補性を有していれば許容される。同様に、第1核酸鎖は、第2核酸鎖と完全に相補的であることは必ずしも必要ではなく、塩基配列が少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%(例えば、95%、96%、97%、98%、または99%以上)の相補性を有していれば許容される。配列の相補性は、BLASTプログラムなどを使用することによって決定することができる。第1核酸鎖は、配列が相補的である場合に(典型的には、配列が標的転写産物の少なくとも一部の配列に相補的である場合に)、標的転写産物に「ハイブリダイズする」ことができる。第1核酸鎖は、配列が相補的である場合に、第2核酸鎖に「アニールする」ことができる。当業者であれば、鎖間の相補度を考慮して、2本の鎖がアニールまたはハイブリダイズし得る条件(温度、塩濃度等)を容易に決定することができる。このような条件は、典型的には、生理的条件であってよい。またさらに、当業者であれば、例えば標的遺伝子の塩基配列の情報に基づいて、標的転写産物に相補的なアンチセンス核酸を容易に設計することができる。
【0022】
ハイブリダイゼーション条件は、例えば、低ストリンジェントな条件および高ストリンジェントな条件などのストリンジェントな条件であってもよい。低ストリンジェントな条件は、例えば、30℃、2×SSC、0.1%SDSであってよい。高ストリンジェントな条件は、例えば、65℃、0.1×SSC、0.1%SDSであってよい。温度および塩濃度などの条件を変えることによって、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを調整できる。ここで、1×SSCは、150mM塩化ナトリウムおよび15mMクエン酸ナトリウムを含む。
【0023】
第1核酸鎖および第2核酸鎖は、通常、少なくとも8塩基長、少なくとも9塩基長、少なくとも10塩基長、少なくとも11塩基長、少なくとも12塩基長、少なくとも13塩基長、少なくとも14塩基長または少なくとも15塩基長であってよいが、特に限定されない。第1核酸鎖および第2核酸鎖は、35塩基長以下、30塩基長以下、25塩基長以下、24塩基長以下、23塩基長以下、22塩基長以下、21塩基長以下、20塩基長以下、19塩基長以下、18塩基長以下、17塩基長以下または16塩基長以下であってもよい。第1核酸鎖および第2核酸鎖は、約100塩基長もの長さであってもよいし、または、10~35塩基長、12~25塩基長、13~20塩基長、14~19塩基長、もしくは15~18塩基長であってもよい。第1核酸鎖と第2核酸鎖は、同じ長さであっても、異なる長さ(例えば、1~3塩基異なる長さ)であってもよい。第1核酸鎖と第2核酸鎖とが形成する二重鎖構造は、バルジを含んでいてもよい。特定の例において、長さの選択は、一般的に、例えば費用、合成収率などの他の因子の中でも特に、アンチセンス効果の強度と標的に対する核酸鎖の特異性とのバランスによって決まる。
【0024】
一般に、「ヌクレオシド」は、塩基および糖の組み合わせである。ヌクレオシドの核酸塩基(塩基としても知られる)部分は、通常は、複素環式塩基部分である。「ヌクレオチド」は、ヌクレオシドの糖部分に共有結合したリン酸基をさらに含む。ペントフラノシル糖を含むヌクレオシドでは、リン酸基は、糖の2'、3'、または5'ヒドロキシル部分に連結可能である。オリゴヌクレオチドは、互いに隣接するヌクレオシドの共有結合によって形成され、直鎖ポリマーオリゴヌクレオチドを形成する。オリゴヌクレオチド構造の内部で、リン酸基は、一般に、オリゴヌクレオチドのヌクレオシド間結合を形成するとみなされている。
【0025】
本明細書において、核酸鎖は、天然ヌクレオチドおよび/または非天然ヌクレオチドを含み得る。本明細書において「天然ヌクレオチド」は、DNA中に見られるデオキシリボヌクレオチドおよびRNA中に見られるリボヌクレオチドを含む。本明細書において、「デオキシリボヌクレオチド」および「リボヌクレオチド」は、それぞれ、「DNAヌクレオチド」および「RNAヌクレオチド」と称することもある。
【0026】
同様に、本明細書において「天然ヌクレオシド」は、DNA中に見られるデオキシリボヌクレオシドおよびRNA中に見られるリボヌクレオシドを含む。本明細書において、「デオキシリボヌクレオシド」および「リボヌクレオシド」は、それぞれ、「DNAヌクレオシド」および「RNAヌクレオシド」と称することもある。
【0027】
「非天然ヌクレオチド」は、天然ヌクレオチド以外の任意のヌクレオチドを指し、修飾ヌクレオチドおよびヌクレオチド模倣体を含む。同様に、本明細書において「非天然ヌクレオシド」は、天然ヌクレオシド以外の任意のヌクレオシドを指し、修飾ヌクレオシドおよびヌクレオシド模倣体を含む。本明細書において「修飾ヌクレオチド」とは、修飾糖部分、修飾ヌクレオシド間結合、および修飾核酸塩基のいずれか1つ以上を有するヌクレオチドを意味する。本明細書において「修飾ヌクレオシド」とは、修飾糖部分および/または修飾核酸塩基を有するヌクレオシドを意味する。非天然オリゴヌクレオチドを含む核酸鎖は、多くの場合、例えば、細胞取り込みの強化、核酸標的への親和性の強化、ヌクレアーゼ存在下での安定性の増加、または阻害活性の増加等の望ましい特性により、天然型よりも好ましい。
【0028】
本明細書において「修飾ヌクレオシド間結合」とは、天然に存在するヌクレオシド間結合(すなわち、ホスホジエステル結合)からの置換または任意の変化を有するヌクレオシド間結合を指す。修飾ヌクレオシド間結合には、リン原子を含むヌクレオシド間結合、およびリン原子を含まないヌクレオシド間結合が含まれる。代表的なリン含有ヌクレオシド間結合としては、ホスホジエステル結合、ホスホロチオエート結合、ホスホロジチオエート結合、ホスホトリエステル結合、メチルホスホネート結合、メチルチオホスホネート結合、ボラノホスフェート結合、およびホスホロアミデート結合が挙げられるが、これらに限定されない。ホスホロチオエート結合は、ホスホジエステル結合の非架橋酸素原子を硫黄原子に置換したヌクレオシド間結合を指す。リン含有および非リン含有結合の調製方法は周知である。修飾ヌクレオシド間結合は、ヌクレアーゼ耐性が天然に存在するヌクレオシド間結合よりも高い結合であることが好ましい。
【0029】
本明細書において「修飾核酸塩基」または「修飾塩基」とは、アデニン、シトシン、グアニン、チミン、またはウラシル以外のあらゆる核酸塩基を意味する。「非修飾核酸塩基」または「非修飾塩基」(天然核酸塩基)とは、プリン塩基であるアデニン(A)およびグアニン(G)、ならびにピリミジン塩基であるチミン(T)、シトシン(C)、およびウラシル(U)を意味する。修飾核酸塩基の例としては、5-メチルシトシン、5-フルオロシトシン、5-ブロモシトシン、5-ヨードシトシンまたはN4-メチルシトシン; N6-メチルアデニンまたは8-ブロモアデニン;ならびにN2-メチルグアニンまたは8-ブロモグアニンが挙げられるが、これらに限定されない。修飾核酸塩基は、好ましくは、5-メチルシトシンである。
【0030】
本明細書において「修飾糖」とは、天然糖部分(すなわち、DNA(2'-H)またはRNA(2'-OH)中に認められる糖部分)からの置換および/または任意の変化を有する糖を指す。本明細書において、核酸鎖は、場合により、修飾糖を含む1つ以上の修飾ヌクレオシドを含んでもよい。かかる糖修飾ヌクレオシドは、ヌクレアーゼ安定性の強化、結合親和性の増加、または他の何らかの有益な生物学的特性を核酸鎖に付与し得る。特定の実施形態では、ヌクレオシドは、化学修飾リボフラノース環部分を含む。化学修飾リボフラノース環の例としては、限定するものではないが、置換基(5'および2'置換基を含む)の付加、非ジェミナル環原子の架橋形成による二環式核酸(架橋核酸、BNA)の形成、リボシル環酸素原子のS、N(R)、またはC(R1)(R2)(R、R1およびR2は、それぞれ独立して、H、C1-C12アルキル、または保護基を表す)での置換、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0031】
本明細書において、修飾糖部分を有するヌクレオシドの例としては、限定するものではないが、5'-ビニル、5'-メチル(RまたはS)、4'-S、2'-F(2'-フルオロ基)、2'-OCH3(2'-OMe基もしくは2'-O-メチル基)、および2'-O(CH2)2OCH3置換基を含むヌクレオシドが挙げられる。2'位の置換基はまた、アリル、アミノ、アジド、チオ、-O-アリル、-O-C1-C10アルキル、-OCF3、-O(CH2)2SCH3、-O(CH2)2-O-N(Rm)(Rn)、および-O-CH2-C(=O)-N(Rm)(Rn)から選択することができ、各RmおよびRnは、独立して、Hまたは置換もしくは非置換C1-C10アルキルである。本明細書において「2'-修飾糖」は、2'位で修飾されたフラノシル糖を意味する。
【0032】
本明細書で使用する際、「二環式ヌクレオシド」は、二環式糖部分を含む修飾ヌクレオシドを指す。二環式糖部分を含む核酸は、一般に架橋核酸(bridged nucleic acid、BNA)と称される。本明細書において、二環式糖部分を含むヌクレオシドは、「架橋ヌクレオシド」と称することもある。
【0033】
二環式糖は、2'位の炭素原子および4'位の炭素原子が2つ以上の原子によって架橋されている糖であってよい。二環式糖の例は当業者に公知である。二環式糖を含む核酸(BNA)の1つのサブグループは、4'-(CH2)p-O-2'、4'-(CH2)p-CH2-2'、4'-(CH2)p-S-2'、4'-(CH2)p-OCO-2'、4'-(CH2)n-N(R3)-O-(CH2)m-2'[式中、p、mおよびnは、それぞれ1~4の整数、0~2の整数、および1~3の整数を表し;またR3は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、スルホニル基、およびユニット置換基(蛍光もしくは化学発光標識分子、核酸切断活性を有する機能性基、細胞内または核内局在化シグナルペプチド等)を表す]により架橋された2'位の炭素原子と4'位の炭素原子を有すると説明することができる。さらに、特定の実施形態によるBNAに関し、3'位の炭素原子上のOR2置換基および5'位の炭素原子上のOR1置換基において、R1およびR2は、典型的には水素原子であるが、互いに同一であっても異なっていてもよく、さらにまた、核酸合成のためのヒドロキシル基の保護基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、スルホニル基、シリル基、リン酸基、核酸合成のための保護基によって保護されているリン酸基、または-P(R4)R5[ここで、R4およびR5は、互いに同一であっても異なっていてもよく、それぞれヒドロキシル基、核酸合成のための保護基によって保護されているヒドロキシル基、メルカプト基、核酸合成のための保護基によって保護されているメルカプト基、アミノ基、1~5個の炭素原子を有するアルコキシ基、1~5個の炭素原子を有するアルキルチオ基、1~6個の炭素原子を有するシアノアルコキシ基、または1~5個の炭素原子を有するアルキル基で置換されているアミノ基を表す]であってもよい。このようなBNAの非限定的な例としては、メチレンオキシ(4'-CH2-O-2')BNA(LNA(Locked Nucleic Acid(登録商標)、2',4'-BNAとしても知られている)、例えば、α-L-メチレンオキシ(4'-CH2-O-2')BNAもしくはβ-D-メチレンオキシ(4'-CH2-O-2')BNA、エチレンオキシ(4'-(CH2)2-O-2')BNA(ENAとしても知られている)、β-D-チオ(4'-CH2-S-2')BNA、アミノオキシ(4'-CH2-O-N(R3)-2')BNA、オキシアミノ(4'-CH2-N(R3)-O-2')BNA(2',4'-BNANCとしても知られている)、2',4'-BNAcoc、3'-アミノ-2',4'-BNA、5'-メチルBNA、(4'-CH(CH3)-O-2')BNA(cEt BNAとしても知られている)、(4'-CH(CH2OCH3)-O-2')BNA(cMOE BNAとしても知られている)、アミドBNA(4'-C(O)-N(R)-2')BNA(R=H、Me)(AmNAとしても知られている)、2'-O,4'-C-スピロシクロプロピレン架橋型核酸(scpBNAとしても知られている)および当業者に公知の他のBNAが挙げられる。
【0034】
本明細書において、メチレンオキシ(4'-CH2-O-2')架橋を有する二環式ヌクレオシドを、LNAヌクレオシドと称することもある。
【0035】
修飾糖の調製方法は、当業者に周知である。修飾糖部分を有するヌクレオチドにおいて、核酸塩基部分(天然、修飾、またはそれらの組み合わせ)は、適切な核酸標的とのハイブリダイゼーションのために維持されてよい。
【0036】
本明細書において「ヌクレオシド模倣体」は、オリゴマー化合物の1つ以上の位置において糖または糖および塩基、ならびに必ずではないが結合を置換するために使用される構造体を含む。「オリゴマー化合物」とは、核酸分子の少なくともある領域にハイブリダイズ可能な連結したモノマーサブユニットのポリマーを意味する。ヌクレオシド模倣体としては、例えば、モルホリノ、シクロヘキセニル、シクロヘキシル、テトラヒドロピラニル、二環式または三環式糖模倣体、例えば、非フラノース糖単位を有するヌクレオシド模倣体が挙げられる。「ヌクレオチド模倣体」は、オリゴマー化合物の1つ以上の位置において、ヌクレオシドおよび結合を置換するために使用される構造体を含む。ヌクレオチド模倣体としては、例えば、ペプチド核酸またはモルホリノ核酸(-N(H)-C(=O)-O-または他の非ホスホジエステル結合によって結合されるモルホリノ)が挙げられる。ペプチド核酸(Peptide Nucleic Acid、PNA)は、糖の代わりにN-(2-アミノエチル)グリシンがアミド結合で結合した主鎖を有するヌクレオチド模倣体である。モルホリノ核酸の構造の一例は、
図3に示される。「模倣体」とは、糖、核酸塩基、および/またはヌクレオシド間結合を置換する基を指す。一般に、模倣体は、糖または糖-ヌクレオシド間結合の組み合わせの代わりに使用され、核酸塩基は、選択される標的に対するハイブリダイゼーションのために維持される。
【0037】
一般的には、修飾は、同一鎖中のヌクレオチドが独立して異なる修飾を受けることができるように実施することができる。また、酵素的切断に対する抵抗性を与えるため、同一のヌクレオチドが、修飾ヌクレオシド間結合(例えば、ホスホロチオエート結合)を有し、さらに、修飾糖(例えば、2'-O-メチル修飾糖または二環式糖)を有することができる。同一のヌクレオチドはまた、修飾核酸塩基(例えば、5-メチルシトシン)を有し、さらに、修飾糖(例えば、2'-O-メチル修飾糖または二環式糖)を有することができる。
【0038】
核酸鎖における非天然ヌクレオチドの数、種類および位置は、本発明の核酸複合体によって提供されるアンチセンス効果などに影響を及ぼし得る。修飾の選択は、標的遺伝子などの配列によって異なり得るが、当業者であれば、アンチセンス法に関連する文献(例えば、WO 2007/143315、WO 2008/043753、およびWO 2008/049085)の説明を参照することによって好適な実施形態を決定することができる。さらに、修飾後の核酸複合体が有するアンチセンス効果が測定される場合、このようにして得られた測定値が修飾前の核酸複合体の測定値と比較して有意に低くない場合(例えば、修飾後に得られた測定値が、修飾前の核酸複合体の測定値の70%以上、80%以上または90%以上である場合)、関連修飾を評価することができる。
【0039】
アンチセンス効果の測定は、被験核酸化合物を細胞などに導入し、さらにノーザンブロッティング、定量PCR、およびウェスタンブロッティングなどの公知技術を適切に使用することにより、被験候補核酸複合体によって提供されるアンチセンス効果により発現が抑制される細胞内の標的遺伝子の発現量または標的転写産物のレベル(例えば、mRNA量もしくはマイクロRNAなどのRNA量、cDNA量、タンパク質量など)を測定することによって、実施することができる。
【0040】
中枢神経系におけるアンチセンス効果の測定および血液脳関門の通過の判定は、被験核酸化合物を被験体(例えばマウス)に投与し、例えば数日後~数ヶ月後(例えば2~7日後または1ヶ月後)に、被験核酸化合物によって提供されるアンチセンス効果により発現が抑制される中枢神経系における標的遺伝子の発現量または標的転写産物のレベル(例えば、mRNA量もしくはマイクロRNAなどのRNA量、cDNA量、タンパク質量など)を測定することによって、例えば以下の実施例に示されるように、実施することができる。
【0041】
測定された標的遺伝子の発現量または標的転写産物のレベルが、陰性対照(例えばビヒクル投与)と比較して、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、または少なくとも40%減少している場合に、被験核酸化合物が中枢神経系にアンチセンス効果をもたらし得る、または血液脳関門を通過できることが示される。また、血液脳関門の通過の判定は、被験核酸化合物を被験体(例えばマウス)に投与し、例えば数日後~数ヶ月後(例えば2~7日後または1ヶ月後)に、中枢神経系における被験核酸化合物の存在量(濃度)を測定することによって、実施してもよい。
【0042】
第1核酸鎖および第2核酸鎖におけるヌクレオシド間結合は、天然に存在するヌクレオシド間結合および/または修飾ヌクレオシド間結合であってよい。好ましくは、第1核酸鎖および/または第2核酸鎖の末端(5'末端、3'末端もしくは両端)から少なくとも1個(例えば、少なくとも2個または少なくとも3個)のヌクレオシド間結合は、修飾ヌクレオシド間結合である。核酸鎖の末端から2つのヌクレオシド間結合とは、核酸鎖の末端に最も近接するヌクレオシド間結合と、これに隣接する、末端とは反対方向に位置するヌクレオシド間結合とを指す。核酸鎖の末端領域における修飾ヌクレオシド間結合は、核酸鎖の望ましくない分解を阻止できるために、好ましい。一実施形態では、第1核酸鎖および/または第2核酸鎖の全てのヌクレオシド間結合は、修飾ヌクレオシド間結合であってもよい。修飾ヌクレオシド間結合は、ホスホロチオエート結合であってよい。
【0043】
第2核酸鎖の3'末端から少なくとも1個(例えば3個)のヌクレオシド間結合は、修飾ヌクレオシド間結合(例えば、ホスホロチオエート結合などのRNase耐性の高い結合)であってもよい。第2核酸鎖の3'末端にホスホロチオエート修飾などの修飾ヌクレオシド間結合を含む場合、二本鎖核酸複合体の遺伝子抑制活性が高まるために好ましい。
【0044】
第2核酸鎖のコレステロールまたはトコフェロールの結合側の対側の末端の2~6個の塩基のヌクレオシド間結合は、修飾ヌクレオシド間結合(例えばホスホロチオエート結合)であってもよい。
【0045】
第2核酸鎖の3'末端から少なくとも1個(例えば3個)のヌクレオシドは、修飾ヌクレオシド(例えば、2'F-RNAなどのRNase耐性の高い修飾ヌクレオシド)であってもよい。第2核酸鎖の3'末端に2'F-RNAなどの修飾ヌクレオシドを含む場合、二本鎖核酸複合体の遺伝子抑制活性が高まるために好ましい。
【0046】
第2核酸鎖のコレステロールまたはトコフェロールの結合側の対側の末端の1~5個のヌクレオシドは、修飾ヌクレオシド(例えば、2'F-RNAなどのRNase耐性の高い修飾ヌクレオシド)であってもよい。
【0047】
第1核酸鎖および第2核酸鎖におけるヌクレオシドは、天然ヌクレオシド(デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシド、もしくは両者)および/または非天然ヌクレオシドであってよい。
【0048】
一実施形態では、第1核酸鎖は、標的転写産物にハイブリダイズしている場合にRNase Hによって認識される少なくとも4個の連続ヌクレオシドを含んでもよい。「RNase Hによって認識される少なくとも4個の連続ヌクレオシド」は、少なくとも5個、少なくとも6個または少なくとも7個の連続ヌクレオシドであってもよく、通常、4~20塩基、5~16塩基または6~12塩基の連続ヌクレオシドを含む領域であってよい。この領域には、RNAにハイブリダイズした際に、RNA鎖を切断するRNase Hによって認識されるヌクレオシド、例えば天然型デオキシリボヌクレオシド、を用いることができる。修飾されたデオキシリボヌクレオシドおよび他の塩基を含む、好適なヌクレオシドは、この分野において知られている。また、リボヌクレオシドなどの、2'位にヒドロキシ基を有するヌクレオシドは、不適当であることも知られている。「少なくとも4個の連続ヌクレオシド」を含むこの領域への利用に関し、当業者であればヌクレオシドの適合性を容易に決定することができる。一実施形態では、第1核酸鎖は、少なくとも4個の連続デオキシリボヌクレオシドを含み得る。
【0049】
一実施形態では、第1核酸鎖は全てが天然リボヌクレオシドではない。一実施形態では、第1核酸鎖に含まれる天然リボヌクレオシドは全長の半数以下である。一実施形態では、第1核酸鎖は天然リボヌクレオシドを含まない。
【0050】
一実施形態では、第2核酸鎖は、第1核酸鎖中の上記の少なくとも4個の連続ヌクレオシド(例えばデオキシリボヌクレオシド)に相補的な、少なくとも4個の連続リボヌクレオシドを含んでよい。第2核酸鎖が、第1核酸鎖と部分的DNA-RNAヘテロ二本鎖を形成し、RNaseHによって認識され切断されるようにするためである。第2核酸鎖中の少なくとも4個の連続リボヌクレオシドは、好ましくは、天然に存在するヌクレオシド間結合、すなわちホスホジエステル結合によって連結される。
【0051】
一実施形態では、第2核酸鎖の全てのヌクレオシドが、リボヌクレオシドおよび/または修飾ヌクレオシドから構成されていてもよい。対照的に、一実施形態では、第2核酸鎖は、リボヌクレオシドを含まなくてもよい。一実施形態では、第2核酸鎖の全てのヌクレオシドが、デオキシリボヌクレオシドおよび/または修飾ヌクレオシドから構成されていてもよい。
【0052】
特定の実施形態では、第1核酸鎖および/または第2核酸鎖は、ギャップマー(gapmer)であってもよい。本明細書において「ギャップマー」とは、少なくとも4個の連続デオキシリボヌクレオシドを含む中央領域(DNAギャップ領域)と、その5'末端側および3'末端側に配置された非天然ヌクレオシドを含む領域(5'ウイング領域および3'ウイング領域)からなる核酸鎖を指す。非天然ヌクレオシドが架橋ヌクレオシドであるギャップマーを、BNA/DNAギャップマーと称する。5'ウイング領域および3'ウイング領域の長さは、独立して、少なくとも2塩基長、通常、2~10塩基長、2~7塩基長、または3~5塩基長であってよい。5'ウイング領域および3'ウイング領域は、非天然ヌクレオシドを少なくとも1種含んでいればよく、天然ヌクレオシドをさらに含んでいてもよい。第1核酸鎖は、2もしくは3個の架橋ヌクレオシドを含む5'ウイング領域、2もしくは3個の架橋ヌクレオシドを含む3'ウイング領域、およびそれらの間のDNAギャップ領域を含むBNA/DNAギャップマーであってもよい。架橋ヌクレオシドは、修飾核酸塩基(例えば、5-メチルシトシン)をさらに含んでもよい。ギャップマーは、架橋ヌクレオシドがLNAヌクレオシドであるLNA/DNAギャップマーであってもよい。
【0053】
第1核酸鎖および/または第2核酸鎖は、5'末端から2~7塩基長もしくは3~5塩基長の架橋ヌクレオシド;4~15塩基長もしくは8~12塩基長のリボヌクレオシド;ならびに2~7塩基長もしくは3~5塩基長の架橋ヌクレオシドから構成されていてもよい。
【0054】
第1核酸鎖および/または第2核酸鎖は、5'末端から2~7塩基長もしくは3~5塩基長の架橋ヌクレオシド;4~15塩基長もしくは8~12塩基長のデオキシリボヌクレオシド;ならびに2~7塩基長もしくは3~5塩基長の架橋ヌクレオシドから構成されていてもよい。
【0055】
別の実施形態では、第1核酸鎖および/または第2核酸鎖は、ミックスマー(mixmer)であってもよい。本明細書において「ミックスマー」とは、周期的または無作為セグメント長の交互型の天然ヌクレオシド(デオキシリボヌクレオシドおよび/またはリボヌクレオシド)ならびに非天然ヌクレオシドを含み、かつ、4個以上の連続デオキシリボヌクレオシドおよび4個以上の連続リボヌクレオシドを有さない核酸鎖を指す。非天然ヌクレオシドが架橋ヌクレオシドであり、天然ヌクレオシドがデオキシリボヌクレオシドであるミックスマーを、BNA/DNAミックスマーと称する。非天然ヌクレオシドが架橋ヌクレオシドであり、天然ヌクレオシドがリボヌクレオシドであるミックスマーを、BNA/RNAミックスマーと称する。ミックスマーは、必ずしも2種のヌクレオシドだけを含むように制限される必要はない。ミックスマーは、天然もしくは修飾のヌクレオシドまたはヌクレオシド模倣体であるか否かに関わらず、任意の数の種のヌクレオシドを含み得る。例えば、ミックスマーは、架橋ヌクレオシド(例えば、LNAヌクレオシド)により分離された1または2個の連続デオキシリボヌクレオシドを有してもよい。架橋ヌクレオシドは、修飾核酸塩基(例えば、5-メチルシトシン)をさらに含んでもよい。
【0056】
第2核酸鎖の末端(5'末端、3'末端もしくは両端)から少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個または少なくとも4個のヌクレオシドは、修飾ヌクレオシドであってもよい。修飾ヌクレオシドは、修飾糖および/または修飾核酸塩基を含んでよい。修飾糖は、2'-修飾糖(例えば、2'-O-メチル基を含む糖)であってよい。修飾核酸塩基は、5-メチルシトシンであってよい。
【0057】
第2核酸鎖は、5'末端から2~7塩基長もしくは3~5塩基長の修飾ヌクレオシド(例えば、2'-修飾糖を含む修飾ヌクレオシド);4~15塩基長もしくは8~12塩基長の(場合により、修飾ヌクレオシド間結合で連結された)リボヌクレオシド;ならびに2~7塩基長もしくは3~5塩基長の修飾ヌクレオシド(例えば、2'-修飾糖を含む修飾ヌクレオシド)から構成されていてもよい。この場合、第1核酸鎖は、ギャップマーであってもよい。
【0058】
第2核酸鎖は、5'末端から2~7塩基長もしくは3~5塩基長の修飾ヌクレオシド(例えば、2'-修飾糖を含む修飾ヌクレオシド);4~15塩基長もしくは8~12塩基長の(場合により、修飾ヌクレオシド間結合で連結された)デオキシリボヌクレオシド;ならびに2~7塩基長もしくは3~5塩基長の修飾ヌクレオシド(例えば、2'-修飾糖を含む修飾ヌクレオシド)から構成されていてもよい。。この場合、第1核酸鎖は、ギャップマーであってもよい。
【0059】
第1核酸鎖および第2核酸鎖は、全体的または部分的にヌクレオシド模倣体またはヌクレオチド模倣体を含んでもよい。ヌクレオチド模倣体は、ペプチド核酸および/またはモルホリノ核酸であってもよい。第1核酸鎖は、少なくとも1つの修飾ヌクレオシドを含んでもよい。修飾ヌクレオシドは、2'-修飾糖を含んでよい。2'-修飾糖は、2'-O-メチル基を含む糖であってもよい。
【0060】
第1核酸鎖および第2核酸鎖は、上記の修飾ヌクレオシド間結合および修飾ヌクレオシドの任意の組み合わせを含んでよい。
【0061】
第2核酸鎖は、トコフェロールもしくはコレステロールまたはそれらの類縁体と結合し得る。トコフェロールまたはコレステロール等の脂質を核酸鎖に結合させることにより肝臓等への送達性が増大することが従来知られていた。本発明は、トコフェロールまたはコレステロールと結合した二重鎖核酸複合体が、予想外にも脳などの中枢神経系にも送達されるという本発明者らの知見に基づいている。一部の実施形態では、核酸複合体は、血液脳関門(bood brain barrier; BBB)を通過できるものであり得る。血液脳関門の通過の判定は、上に記載されている。
【0062】
一部の実施形態では、核酸複合体は、血液網膜関門(blood retinal barrier; BRB)を通過できるものであってもよい。血液網膜関門の通過は、例えば、視細胞、網膜色素上皮細胞やミューラー細胞などにおけるアンチセンス効果の測定により判定できる。薬剤のBRB通過により、網膜を構成する神経細胞、上皮細胞、および/またはグリア細胞(例えば、視細胞、網膜色素上皮細胞、ミューラー細胞など)の遺伝子発現を調節することが可能となり、網膜に関連する疾患、例えば、網膜色素変性症、黄斑変性症、球後神経炎などが治療されうる。
【0063】
本明細書において「類縁体(analog)」とは、同一または類似の基本骨格を有する類似した構造および性質を有する化合物を指す。類縁体は、例えば、生合成中間体、代謝産物、置換基を有する化合物などを含む。ある化合物が別の化合物の類縁体であるかどうかは、当業者であれば判定できる。
【0064】
トコフェロールは、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、およびδ-トコフェロールからなる群から選択され得る。トコフェロールの類縁体としては、トコフェロールの種々の不飽和類縁体、例えば、α-トコトリエノール、β-トコトリエノール、γ-トコトリエノール、δ-トコトリエノールなどが挙げられる。好ましくは、トコフェロールは、α-トコフェロールである。
【0065】
コレステロールの類縁体は、ステロール骨格を有するアルコールである、種々のコレステロール代謝産物および類縁体などを指し、限定されるものではないが、コレスタノール、ラノステロール、セレブロステロール、デヒドロコレステロール、およびコプロスタノールなどを含む。
【0066】
トコフェロールまたはその類縁体と結合した第2核酸鎖は、以下の一般式(I)で示される基を有してもよい。
【化1】
[式中、R
aは、置換基を有していてもよい炭素数7~15個、好ましくは炭素数12~14個のアルキル基を表す(ここで、該置換基はハロゲン原子または炭素数1~3個のアルキル基、好ましくはメチル基である)。]
R
aは、限定されないが、CH
3-CH(CH
3)-(CH
2)
3-CH(CH
3)-(CH
2)
3-CH(CH
3)-(CH
2)
3-であってもよい。
【0067】
コレステロールまたはその類縁体と結合した第2核酸鎖は、以下の一般式(II)で示される基を有してもよい。
【化2】
[式中、R
cは、置換基を有していてもよい炭素数4~18個、好ましくは炭素数5~16個のアルキレン基を表す(ここで、該置換基はハロゲン原子、またはヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素数1~3個のアルキル基、例えばヒドロキシメチル基であり、該アルキレン基は相隣接しない炭素原子が酸素原子で置換されていてもよい)。]
R
cは、限定されないが、-(CH
2)
3-O-(CH
2)
2-O-(CH
2)
2-O-(CH
2)
2-O-(CH
2)
2-、-(CH
2)
3-O-(CH
2)
2-O-(CH
2)
2-O-(CH
2)
2-O-CH
2-CH(CH
2OH)-、または-(CH
2)
6-であってもよい。
【0068】
一般式(I)~(II)で示される基は、第2核酸鎖の5'末端または3'末端にリン酸エステル結合を介して結合してもよい。
【0069】
トコフェロールもしくはコレステロールまたはそれらの類縁体は、第2核酸鎖の5'末端、または3'末端、あるいは両端に連結されていてもよい。あるいは、トコフェロールもしくはコレステロールまたはそれらの類縁体は、第2核酸鎖の内部のヌクレオチドに連結されていてもよい。例えば、コレステロールは、第2核酸鎖の5'末端に結合されうる。他の実施形態において、第2核酸鎖は、トコフェロールもしくはコレステロールまたはそれらの類縁体を2つ以上含み、これらは第2核酸鎖の複数の位置に連結されていてもよく、および/または第2核酸鎖の1つの位置に一群として連結されていてもよい。トコフェロールもしくはコレステロールまたはそれらの類縁体は、第2核酸鎖の5'末端と3'末端にそれぞれ1つずつ連結されていてもよい。コレステロールまたはその類縁体が、第2核酸鎖の5'末端と3'末端にそれぞれ1つずつ連結されていてもよい。
【0070】
第2核酸鎖とトコフェロールもしくはコレステロールまたはそれらの類縁体との間の結合は、直接結合であってもよいし、別の物質によって介在される間接結合であってもよい。しかし、特定の実施形態においては、トコフェロールもしくはコレステロールまたはそれらの類縁体は、共有結合、イオン性結合、水素結合などを介して第2核酸鎖に直接結合されていることが好ましく、またより安定した結合を得ることができるという点から考えると、共有結合がより好ましい。
【0071】
トコフェロールもしくはコレステロールまたはそれらの類縁体はまた、切断可能な連結基(リンカー)を介して第2核酸鎖に結合されていてもよい。「切断可能な連結基(リンカー)」とは、生理学的条件下で、例えば細胞内または動物体内(例えば、ヒト体内)で、切断される連結基を意味する。特定の実施形態では、切断可能なリンカーは、ヌクレアーゼなどの内在性酵素によって選択的に切断される。切断可能なリンカーとしては、アミド、エステル、ホスホジエステルの一方もしくは両方のエステル、リン酸エステル、カルバメート、およびジスルフィド結合、ならびに天然DNAリンカーが挙げられる。例えば、トコフェロールもしくはコレステロールまたはそれらの類縁体は、ジスルフィド結合を介して連結されていてもよい。
【0072】
トコフェロールもしくはコレステロールまたはそれらの類縁体は、非切断性(uncleavable)リンカーを介して第2核酸鎖に結合していてもよい。「非切断性リンカー」は、生理学的条件下で、例えば細胞内または動物体内(例えば、ヒト体内)で、切断されない連結基を意味する。非切断性リンカーとしては、ホスホロチオエート結合、およびホスホロチオエート結合で連結された修飾もしくは非修飾のデオキシリボヌクレオシドまたは修飾もしくは非修飾のリボヌクレオシドからなるリンカーなどが挙げられる。リンカーがDNAなどの核酸またはオリゴヌクレオチドの場合、鎖長は、限定されないが、2~20塩基長、3~10塩基長または4~6塩基長であってもよい。
【0073】
第2核酸鎖は、ポリヌクレオチドに結合された少なくとも1つの機能性部分をさらに含んでいてもよい。機能性部分が、核酸複合体および/または機能性部分が結合している鎖に所望の機能を与える限り、特定の実施形態による「機能性部分」の構造について特定の限定はない。所望の機能としては、標識機能および精製機能が挙げられる。標識機能を与える部分の例としては、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼなどの化合物が挙げられる。精製機能を与える部分の例としては、ビオチン、アビジン、Hisタグペプチド、GSTタグペプチド、FLAGタグペプチドなどの化合物が挙げられる。機能性部分の第2核酸鎖における結合位置および結合の種類は、トコフェロールもしくはコレステロールまたはそれらの類縁体と第2核酸鎖との結合について上に記載されるとおりである。
【0074】
本発明者らは、コレステロールまたはトコフェロールの代わりに、アルキル基が結合した第2核酸鎖を用いた場合にも、核酸複合体が、神経系において高いアンチセンス効果を示すことを見出した。よって、第2核酸鎖は、コレステロールまたはトコフェロールの代わりに、置換基を有していてもよいアルキル基と結合していてもよい。
【0075】
置換基を有していてもよいアルキル基と結合した第2核酸鎖を含む核酸複合体において、第1核酸鎖および第2核酸鎖、ならびに第2核酸鎖とアルキル基との結合などに関する具体的な実施形態は、トコフェロールまたはコレステロールを含む核酸複合体について本明細書中に記載されているものを用いることができる。
【0076】
置換基を有していてもよいアルキル基は、炭素数3~15個、好ましくは6~14個または9~13個の直鎖状アルキル基であってよく、ここで、置換基は、ヒドロキシ基、ハロゲン原子または炭素数1~3個のアルキル基であってよい。
【0077】
置換基を有していてもよいアルキル基と結合した第2核酸鎖は、以下の一般式(III)で示される基を有してもよい。
【化3】
[式中、R
xは、炭素数3~24個、好ましくは6~14個または9~13個の直鎖状アルキレン基である。]
【0078】
置換基を有していてもよいアルキル基と結合した第2核酸鎖は、以下の一般式(IV)で示される基を有してもよい。
【化4】
[式中、R
yは、炭素数1~15個、好ましくは3~15個、6~14個または9~13個の直鎖状アルキレン基である。]
【0079】
このように、本発明の一部の実施形態の核酸複合体の幾つかの好適な例示的実施形態について説明したが、核酸複合体が上記の例示的実施形態に限定されることは意図されない。さらに、当業者であれば、公知の方法を適切に選択することによって、本発明の様々な実施形態による核酸複合体を構成する第1核酸鎖および第2核酸鎖を製造することができる。例えば、本発明の一部の実施形態による核酸は、標的転写産物の塩基配列(または、一部の例においては、標的遺伝子の塩基配列)の情報に基づいて核酸のそれぞれの塩基配列を設計し、市販の自動核酸合成装置(アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems, Inc.)の製品、ベックマン・コールター社(Beckman Coulter, Inc.)の製品など)を使用することによって核酸を合成し、その後、結果として得られたオリゴヌクレオチドを逆相カラムなどを使用して精製することにより製造することができる。例えば、第2核酸鎖は、トコフェロールもしくはコレステロールまたはそれらの類縁体が予め結合された核酸種を使用し、上記の合成および精製を実施することによって製造してもよい。この方法で製造した核酸を適切な緩衝溶液中で混合し、約90℃~98℃で数分間(例えば5分間)変性させ、その後核酸を約30℃~70℃で約1~8時間アニールし、このようにして本発明の一部の実施形態の核酸複合体を製造することができる。
【0080】
第1核酸鎖および第2核酸鎖をそれぞれ、約90℃~98℃の緩衝液(例えばリン酸緩衝生理食塩水)中で溶解し、得られた2つの溶液を混合し、混合液を約90℃~98℃で数分間(例えば5分間)保持し、その後、混合液を約30℃~70℃(又は30℃~50℃)で約1~8時間保持して、本発明の一部の実施形態の核酸複合体を調製してもよい。この方法で調製した核酸複合体は、投与後の被験体の過鎮静(一時的に弱くなること)を抑制し、被験体への負担が少ないために好ましい。特に、コレステロール又はその類縁体が結合した第2核酸鎖を含む核酸複合体を静脈内投与する場合に、この方法で調製した核酸複合体を用いることが好ましい。
【0081】
アニールした核酸複合体の作製は、このような時間および温度プロトコルに限定されない。鎖のアニーリングを促進するのに適した条件は、当技術分野において周知である。機能性部分がさらに結合している核酸複合体は、機能性部分が予め結合された核酸種を使用し、上記の合成、精製およびアニーリングを実施することによって製造することができる。機能性部分を核酸に連結するための多数の方法が、当技術分野において周知である。あるいは、一部の実施形態に係る核酸鎖は、塩基配列ならびに修飾部位および種類を指定して、製造業者(例えば、株式会社ジーンデザイン)に注文し、入手することもできる。
【0082】
<組成物>
一態様では、上記の核酸複合体を含む、被験体の中枢神経系において標的転写産物の発現量を減少させるための組成物が本発明によって提供される(なお、本明細書では、「標的転写産物の発現量」をしばしば「標的転写産物のレベル」と表記する)。本発明に係る組成物は、被験体の中枢神経系疾患を治療するためのものであってもよい。組成物は、医薬組成物であってもよい。
【0083】
一態様では、上記の核酸複合体を含む、被験体の網膜において標的転写産物の発現量を減少させるための組成物が本発明によって提供される。一態様では、上記の核酸複合体を含む、被験体の網膜を構成する神経細胞、上皮細胞、および/またはグリア細胞において標的転写産物の発現量を減少させるための組成物が本発明によって提供される。
【0084】
本明細書において、組成物は、公知の製薬法により製剤化することができる。例えば、本組成物は、カプセル剤、錠剤、丸剤、液剤、散剤、顆粒剤、微粒剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、トローチ剤、舌下剤、解膠剤(peptizer)、バッカル剤、ペースト剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤、乳剤、コーティング剤、軟膏、硬膏剤(plaster)、パップ剤(cataplasm)、経皮剤、ローション剤、吸入剤、エアロゾル剤、点眼剤、注射剤および坐剤の形態で、経口的にまたは非経口的に使用することができる。
【0085】
これらの製剤の製剤化に関して、薬学的に許容可能な担体または食品および飲料品として許容可能な担体、具体的には滅菌水、生理食塩水、植物性油、溶媒、基剤、乳化剤、懸濁化剤、界面活性剤、pH調整剤、安定化剤、香味料、香料、賦形剤、ビヒクル、防腐剤、結合剤、希釈剤、等張化剤、鎮静剤、増量剤、崩壊剤、緩衝剤、コーティング剤、滑沢剤、着色剤、甘味剤、増粘剤、矯味剤、溶解助剤、および他の添加剤を適切に組み込むことができる。
【0086】
本明細書において、組成物の好ましい投与形態には特定の限定はなく、その例としては、経口投与または非経口投与、より具体的には、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、皮内投与、気管/気管支投与、直腸投与、および筋肉内投与、ならびに輸血による投与が挙げられる。投与は、筋肉内注射投与、静脈内点滴投与、または埋め込み型持続皮下投与により行ってもよい。皮下投与は、患者自身による自己注射が可能であり、好ましい。なお、特定の理論に拘泥されるものではないが、皮下投与には、皮下脂肪から抜けて血中に移行するリガンドの適度な脂溶性が必要であり、コレステロールリガンドの使用が好ましいと考えられる。
【0087】
静脈内投与の場合、上記の核酸複合体の1回の投与量は、例えば、5mg/kg以上、10mg/kg以上、20mg/kg以上、30mg/kg以上、40mg/kg以上、50mg/kg以上、75mg/kg以上、100mg/kg以上、150mg/kg以上、200mg/kg以上、300mg/kg以上、400mg/kg以上、もしくは500mg/kg以上とすることができ、例えば、5~500mg/kgの範囲に含まれる任意の量(例えば、5mg/kg、10mg/kg、50mg/kg、100mg/kg、もしくは200mg/kg)を適宜選択することができる。
【0088】
組成物は、被験体としてヒトを含む動物に使用することができる。しかし、ヒトを除く動物には特定の限定はなく、様々な家畜、家禽、ペット、実験動物などが一部の実施形態の被験体となり得る。被験体は、中枢神経系において標的転写産物の発現量を減少させることが必要な被験体であってもよい。また被験体は、中枢神経系疾患の治療が必要な被験体であってもよい。
【0089】
治療対象の疾患は、遺伝子発現の増加または減少に関連する中枢神経系疾患、特に標的転写産物または標的遺伝子の発現の増加に関連する疾患(腫瘍など)であり得る。中枢神経系疾患としては、特に限定されないが、例えば、脳腫瘍、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、ハンチントン病などが挙げられる。
【0090】
神経系は、中枢神経系および末梢神経系に分けられる。中枢神経系は、脳および脊髄からなる。脳は大脳(大脳皮質、大脳白質、大脳基底核)、間脳(視床、視床下核)、小脳(小脳皮質、小脳核)および脳幹(中脳、黒質、橋、延髄)を含む。脊髄は、頸髄、胸髄、腰髄、仙髄および尾髄を含む。本明細書における中枢神経系は、これらのいずれの領域であってもよいが、特に、大脳皮質(前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉)、小脳、線条体、淡蒼球、前障、海馬、海馬傍回、脳幹、頸髄、胸髄または腰髄であり得る。末梢神経は、脳神経および脊髄神経からなる。
【0091】
例えば、アルツハイマー病の治療においては、海馬および/または頭頂葉への薬剤送達が有効となり得る。前頭側頭型認知症(FTD)(前頭側頭葉変性症(FTLD)、意味性認知症(SD)、進行性非流暢性失語(PNFA))、ピック病の治療においては、前頭葉、側頭葉および/または黒質への薬剤送達が有効となり得る。パーキンソン病認知症の治療においては、後頭葉、黒質および/または線条体への薬剤送達が有効となり得る。パーキンソン病の治療においては、黒質および/または線条体への薬剤送達が有効となり得る。皮質基底核変性症(CBD)の治療においては、前頭葉、頭頂葉、大脳基底核および/または黒質への薬剤送達が有効となり得る。進行性核上性麻痺(PSP)の治療においては、前頭葉、大脳基底核および/または黒質への薬剤送達が有効となり得る。筋萎縮性側索硬化症の治療においては、前頭葉、頭頂葉、大脳基底核および/または黒質への薬剤送達が有効となり得る。脊髄小脳変性症(SCD)SCA1型~SCA34型までの治療においては、脳幹および/または小脳への薬剤送達が有効となり得る。歯状核赤核淡蒼球ルイ体変性症(DRPLA)の治療においては、大脳基底核、脳幹および/または小脳への薬剤送達が有効となり得る。球脊髄性萎縮症(SBMA)の治療においては、脳幹および/または脊髄への薬剤送達が有効となり得る。フリードライヒ失調症(FA)の治療においては、脳幹および/または小脳への薬剤送達が有効となり得る。ハンチントン病の治療においては、線条体、前頭葉、頭頂葉および/または大脳基底核への薬剤送達が有効となり得る。プリオン病(狂牛病、GSS)の治療においては、大脳皮質、大脳白質、大脳基底核および/または黒質への薬剤送達が有効となり得る。大脳白質性脳症の治療においては、大脳白質への薬剤送達が有効となり得る。脳炎(ウイルス性、細菌性、真菌性、結核性)、髄膜炎(ウイルス性、細菌性、真菌性、結核性)の治療においては、脳全体への薬剤送達が有効となり得る。代謝性脳症、中毒性脳症、栄養障害性脳症の治療においては、脳全体への薬剤送達が有効となり得る。大脳白質性脳症の治療においては、大脳白質への薬剤送達が有効となり得る。脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、もやもや病、無酸素脳症の治療においては、脳全体への薬剤送達が有効となり得る。大脳白質性脳症の治療においては、大脳白質への薬剤送達が有効となり得る。びまん性軸索損傷(Diffuse axonal injury)の治療においては、大脳白質への薬剤送達が有効となり得る。頭部外傷の治療においては、脳全体への薬剤送達が有効となり得る。多発性硬化症(MS)、視神経脊髄炎(NMO)の治療においては、大脳白質、大脳皮質、視神経および/または脊髄への薬剤送達が有効となり得る。筋緊張型ジストロフィー症(DM1, DM2)の治療においては、骨格筋、心筋、大脳皮質および/または大脳白質への薬剤送達が有効となり得る。家族性痙性対麻痺(HSP)の治療においては、頭頂葉および/または脊髄への薬剤送達が有効となり得る。福山型筋ジストロフィーの治療においては、骨格筋、大脳皮質および/または大脳白質への薬剤送達が有効となり得る。レビー小体型認知症(DLB)の治療においては、黒質、線条体、後頭葉、前頭葉および/または頭頂葉への薬剤送達が有効となり得る。多系統萎縮症(MSA)の治療においては、線条体、大脳基底核、小脳、黒質、前頭葉および/または側頭葉への薬剤送達が有効となり得る。アレキサンダー病の治療においては、大脳白質への薬剤送達が有効となり得る。CADASIL、CARASILの治療においては、大脳白質への薬剤送達が有効となり得る。
【0092】
したがって、本発明の一部の実施形態は、上記の各疾患を治療するための核酸複合体を含む組成物、またはそのような組成物を投与することを含む治療方法に関する。また、本発明の一部の実施形態は、上記の各部位における転写産物の発現量を調節する(例えば、発現量を減少させる)ための核酸複合体を含む組成物に関する。また、本発明の一部の実施形態は、上記の各部位に薬剤を送達するための核酸複合体を含む組成物に関する。
【0093】
組成物が投与または摂取される場合、投与量または摂取量は、被験体の年齢、体重、症状および健康状態、組成物の種類(医薬品、食品および飲料品等)などに従って適切に選択することができる。本発明の特定の実施形態による組成物の摂取有効量は、例えば、核酸複合体0.00001mg/kg/日~10000mg/kg/日または0.001mg/kg/日~100mg/kg/日であり得る。組成物は、単回投与しても、または毎日もしくは適当な時間間隔で(例えば1日、2日、3日、1週間、2週間、1ヶ月の間隔で)、複数回(例えば2~20回など)投与してもよい。上記の核酸複合体の1回の投与量は、例えば、0.5mg/kg以上、1.0mg/kg以上、2.0mg/kg以上、3.0mg/kg以上、4.0mg/kg以上、5mg/kg以上、10mg/kg以上、20mg/kg以上、30mg/kg以上、40mg/kg以上、50mg/kg以上、75mg/kg以上、100mg/kg以上、150mg/kg以上、200mg/kg以上、300mg/kg以上、400mg/kg以上、もしくは500mg/kg以上とすることができ、例えば、0.5~500mg/kgの範囲に含まれる任意の量(例えば、5mg/kg、10mg/kg、50mg/kg、100mg/kg、もしくは200mg/kg)を適宜選択することができる。
【0094】
本発明の一実施形態に係る核酸複合体は、3~10mg/kg(例えば約6.25mg/kg)の用量で週2回の頻度で4回投与してもよい。あるいは本発明の一実施形態に係る核酸複合体は、20~30mg/kg(例えば約25mg/kg)の用量で週1~2回の頻度で2~4回投与してもよい(例えば週2回の頻度で2回)。このような投与レジメン(分割投与)の採用により、より高用量の単回投与に比べて、毒性を下げる(例えば血小板の減少を回避する)ことができる。このような分割投与は、特に、半減期の長いコレステロールを用いる場合に可能となる。半減期の長いコレステロールは、慢性疾患の治療に有用であり得る。一方、半減期の短いトコフェロールは、効果が一過性でも有効となる急性の疾患または障害、例えば脳梗塞および脳炎などの治療に有用であり得る。急性の症状の治療では、効果が短期間であることが好ましい場合もあり得る。
【0095】
核酸複合体の単回投与によるBBB通過量、BNB通過量には制限(上限)があるが、反復投与でも抑制効果は細胞内において相加的に働くと考えられる。すなわち、BBB通過、BNB通過の制限以上の高用量(例えば25mg/kg以上)では1回の投与量の増量では有効性の増強は低減するが、ある程度の投与間隔(例えば、半日以上)をおいた反復投与により有効性を向上させることができると考えられる。
【0096】
一態様では、上記の核酸複合体を含む、被験体の中枢神経系に薬剤を送達するための組成物も本発明によって提供される。本態様では、第1核酸鎖および/または第2核酸鎖は、少なくとも1種の薬剤と結合している。トコフェロールもしくはコレステロールまたはそれらの類縁体と結合している第2核酸鎖と、それにアニールしている第1核酸鎖とを含む核酸複合体が神経系に効率的に送達され得ることを利用して、第1核酸鎖および/または第2核酸鎖に結合している薬剤を神経系に送達することができる。神経系に送達される「薬剤」としては、特に限定されないが、ペプチド、タンパク質または核酸薬剤、あるいはその他の有機化合物など、例えば抗腫瘍薬、ホルモン薬、抗生物質、抗ウイルス剤、抗炎症薬などが挙げられる。薬剤は、好ましくは、小分子薬剤である。小分子薬剤という用語は、当該技術分野において十分に理解されている。小分子薬剤は、典型的には、1,000ダルトン未満の分子量を有する薬剤を指す。薬剤は、親油性薬剤であってもよい。核酸薬剤としては、特に限定されないが、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アンタゴmiR、スプライススイッチングオリゴヌクレオチド、アプタマー、一本鎖siRNA、マイクロRNA、プレ-マイクロRNAなどが挙げられる。薬剤の第2核酸鎖における結合位置および結合の種類は、トコフェロールもしくはコレステロールまたはそれらの類縁体と第2核酸鎖との結合について上に記載されるとおりである。
【0097】
一態様では、上記の核酸複合体を含む、被験体の網膜に薬剤を送達するための組成物が本発明によって提供される。一態様では、上記の核酸複合体を含む、被験体の網膜を構成する神経細胞、上皮細胞、および/またはグリア細胞に薬剤を送達するための組成物が本発明によって提供される。
【0098】
一部の実施形態の核酸複合体を含む組成物は、以下の実施例に開示されるとおり、高効率に中枢神経系に送達され、標的遺伝子の発現または標的転写産物のレベルを極めて効果的に改変または抑制することができる。したがって、被験体の中枢神経系において標的転写産物の発現量を減少させる方法であって、上記の核酸複合体を含む組成物を被験体に投与することを含む、方法が提供される。当該方法は、被験体の中枢神経系疾患を治療する方法であってもよい。また、被験体の中枢神経系に薬剤を送達する方法であって、上記の核酸複合体を含む組成物を被験体に投与することを含む、方法も提供される。
【0099】
また、被験体の中枢神経系において標的転写産物の発現量を減少させるために使用される、上記の核酸複合体も提供される。当該核酸複合体は、被験体の中枢神経系疾患を治療するために使用されてもよい。被験体の中枢神経系に薬剤を送達するために使用される、上記の核酸複合体も提供される。
【0100】
本発明はまた、第1核酸鎖と第2核酸鎖とを含む核酸複合体を含む、被験体の中枢神経系において標的転写産物の発現量を減少させるための組成物であって、
該第1核酸鎖は、標的転写産物の少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な塩基配列を含み、かつ、標的転写産物に対してアンチセンス効果を有し、
該第2核酸鎖は、該第1核酸鎖に相補的な塩基配列を含み、かつ、置換基を有していてもよいアルキル基と結合しており、
該第1核酸鎖は、該第2核酸鎖にアニールしている、組成物にも関する。
【0101】
本発明はまた、第1核酸鎖と第2核酸鎖とを含む核酸複合体を含む、被験体の中枢神経系に薬剤を送達するための組成物であって、
該第1核酸鎖および/または該第2核酸鎖は、少なくとも1種の薬剤と結合しており、
該第2核酸鎖は、該第1核酸鎖に相補的な塩基配列を含み、かつ、置換基を有していてもよいアルキル基と結合しており、
該第1核酸鎖は、該第2核酸鎖にアニールしている、組成物にも関する。
【0102】
本発明はまた、第1核酸鎖と第2核酸鎖とを含む核酸複合体を含む、被験体の中枢神経系において標的miRNAの効果を阻害するための組成物であって、
該第1核酸鎖は、標的miRNAの少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な塩基配列を含み、かつ、標的miRNAに対してアンチセンス効果を有し、
該第2核酸鎖は、該第1核酸鎖に相補的な塩基配列を含み、かつ、トコフェロール、コレステロール、もしくは置換基を有していてもよいアルキル基と結合しており、
該第1核酸鎖は、該第2核酸鎖にアニールしている、組成物にも関する。例えば、標的miRNAの効果を阻害することにより、当該miRNAが通常ダウンレギュレートしている遺伝子の発現をアップレギュレートすることができる。
【0103】
本発明はまた、第1核酸鎖と第2核酸鎖とを含む核酸複合体を含む、被験体の中枢神経系において標的RNAの発現または編集を調節するための組成物であって、
該第1核酸鎖は、標的RNAの少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な塩基配列を含み、かつ、標的RNAに対してアンチセンス効果を有し、
該第2核酸鎖は、該第1核酸鎖に相補的な塩基配列を含み、かつ、トコフェロール、コレステロール、もしくは置換基を有していてもよいアルキル基と結合しており、
該第1核酸鎖は、該第2核酸鎖にアニールしている、組成物にも関する。ここで、標的RNAの発現調節とは、例えば、発現量の上方制御および下方制御を含む。標的RNAの編集調節とは、RNA編集によるスプライシングの調節、例えば、エキソン・スキッピングやエキソン・インクルージョンを含む。一部の実施形態においては、標的RNAはウイルスもしくは細菌のRNA、または毒性のRNA(Toxic RNA)であってもよい。
【0104】
本発明はまた、第1核酸鎖と第2核酸鎖とを含む核酸複合体を含む、被験体の中枢神経系において標的mRNAの翻訳を阻害するための組成物であって、
該第1核酸鎖は、標的mRNAの少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な塩基配列を含み、かつ、標的mRNAに対してアンチセンス効果を有し、
該第2核酸鎖は、該第1核酸鎖に相補的な塩基配列を含み、かつ、トコフェロール、コレステロール、もしくは置換基を有していてもよいアルキル基と結合しており、
該第1核酸鎖は、該第2核酸鎖にアニールしている、組成物にも関する。第1核酸鎖が標的mRNAに結合することにより、ステリックブロックが生じ、mRNAの翻訳が阻害される。
【0105】
本発明はまた、第1核酸鎖と第2核酸鎖とを含む核酸複合体を含む、被験体の網膜において標的転写産物の発現量を減少させるための組成物であって、
該第1核酸鎖は、標的転写産物の少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な塩基配列を含み、かつ、標的転写産物に対してアンチセンス効果を有し、
該第2核酸鎖は、該第1核酸鎖に相補的な塩基配列を含み、かつ、トコフェロール、コレステロール、もしくは置換基を有していてもよいアルキル基と結合しており、
該第1核酸鎖は、該第2核酸鎖にアニールしている、組成物にも関する。
【0106】
本発明はまた、第1核酸鎖と第2核酸鎖とを含む核酸複合体を含む、被験体の網膜に薬剤を送達するための組成物であって、
該第1核酸鎖および/または該第2核酸鎖は、少なくとも1種の薬剤と結合しており、
該第2核酸鎖は、該第1核酸鎖に相補的な塩基配列を含み、かつ、トコフェロール、コレステロール、もしくは置換基を有していてもよいアルキル基と結合しており、
該第1核酸鎖は、該第2核酸鎖にアニールしている、組成物にも関する。
【0107】
本発明はまた、第1核酸鎖と第2核酸鎖とを含む核酸複合体を含む、被験体の網膜において標的miRNAの効果を阻害するための組成物であって、
該第1核酸鎖は、標的miRNAの少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な塩基配列を含み、かつ、標的miRNAに対してアンチセンス効果を有し、
該第2核酸鎖は、該第1核酸鎖に相補的な塩基配列を含み、かつ、トコフェロール、コレステロール、もしくは置換基を有していてもよいアルキル基と結合しており、
該第1核酸鎖は、該第2核酸鎖にアニールしている、組成物にも関する。
【0108】
本発明はまた、第1核酸鎖と第2核酸鎖とを含む核酸複合体を含む、被験体の網膜において標的RNAの発現または編集を調節するための組成物であって、
該第1核酸鎖は、標的RNAの少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な塩基配列を含み、かつ、標的RNAに対してアンチセンス効果を有し、
該第2核酸鎖は、該第1核酸鎖に相補的な塩基配列を含み、かつ、トコフェロール、コレステロール、もしくは置換基を有していてもよいアルキル基と結合しており、
該第1核酸鎖は、該第2核酸鎖にアニールしている、組成物にも関する。
【0109】
本発明はまた、第1核酸鎖と第2核酸鎖とを含む核酸複合体を含む、被験体の網膜において標的mRNAの翻訳を阻害するための組成物であって、
該第1核酸鎖は、標的mRNAの少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な塩基配列を含み、かつ、標的mRNAに対してアンチセンス効果を有し、
該第2核酸鎖は、該第1核酸鎖に相補的な塩基配列を含み、かつ、トコフェロール、コレステロール、もしくは置換基を有していてもよいアルキル基と結合しており、
該第1核酸鎖は、該第2核酸鎖にアニールしている、組成物にも関する。
【実施例】
【0110】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0111】
以下の実施例で用いるオリゴヌクレオチドの配列を表1にまとめて示す。オリゴヌクレオチドは、株式会社ジーンデザイン(Gene Design)(大阪、日本)によって合成された。
【0112】
【0113】
表1に示すオリゴヌクレオチドToc#1-cRNA(mMalat1)、Toc#1-cRNA(mSR-B1)、Toc#1-cDNA(mMalat1)、Toc#1-cRNA(mfMalat1)、Toc#1-cRNA(mDMPK)、およびToc#1-AS(mBACE1)の5'末端構造を以下に示す。なお、以下の化学式で「オリゴ」という表示は、オリゴヌクレオチドを示す。
【化5】
【0114】
表1に示すオリゴヌクレオチドChol#1-cRNA(mMalat1)、Chol#1-cDNA(mMalat1)、Chol#1-cRNA(mDMPK)、Chol#1-AS(mBACE1)、Chol#1-cRNA(mSR-B1)、Chol#1-cRNA(mMalat1)(PO)、Chol#1-cRNA(mMalat1)(5'PS)、Chol#1-cRNA(mMalat1)(3'PS)、Chol#1-cRNA-Chol#3(mMalat1)、Chol#1-cDNA(mMalat1) Full DNA、Chol#1-cDNA(mMalat1) Full PS、Chol#1-cDNA(mMalat1) Full PO、Chol#1-cRNA(anti-miR21)、Chol#1-cRNA(LNA)(mMalat1)、およびChol#1-cRNA(DNA)(mMalat1)の5'末端構造を以下に示す。
【化6】
【0115】
表1に示すオリゴヌクレオチドChol#2-cRNA(mMalat1)の5'末端構造を以下に示す。
【化7】
【0116】
表1に示すオリゴヌクレオチドChol#3-cRNA(mMalat1)およびChol#1-cRNA-Chol#3(mMalat1)の3'末端構造を以下に示す。
【化8】
【0117】
表1に示すオリゴヌクレオチドChol#4-cRNA(mMalat1)の5'末端構造を以下に示す。
【化9】
【0118】
表1に示すオリゴヌクレオチドChol#5-cRNA(mMalat1)の3'末端構造を以下に示す。
【化10】
【0119】
表1に示すオリゴヌクレオチドChol#1-cRNA(PS)(mMalat1)の5'末端構造を以下に示す。
【化11】
【0120】
表1に示すオリゴヌクレオチドDHA-cRNA(mMalat1)の5'末端構造を以下に示す。
【化12】
【0121】
表1に示すオリゴヌクレオチドC6(OH)-cRNA(mMalat1)の5'末端構造を以下に示す。
【化13】
【0122】
表1に示すオリゴヌクレオチドC9(OH)-cRNA(mMalat1)の5'末端構造を以下に示す。
【化14】
【0123】
表1に示すオリゴヌクレオチドC12(OH)-cRNA(mMalat1)の5'末端構造を以下に示す。
【化15】
【0124】
表1に示すオリゴヌクレオチドC3-cRNA(mMalat1)の5'末端構造を以下に示す。
【化16】
【0125】
表1に示すオリゴヌクレオチドC4-cRNA(mMalat1)の5'末端構造を以下に示す。
【化17】
【0126】
表1に示すオリゴヌクレオチドC8-cRNA(mMalat1)の5'末端構造を以下に示す。
【化18】
【0127】
表1に示すオリゴヌクレオチドC10-cRNA(mMalat1)の5'末端構造を以下に示す。
【化19】
【0128】
表1に示すオリゴヌクレオチドC12-cRNA(mMalat1)の5'末端構造を以下に示す。
【化20】
【0129】
[実施例1]
malat1を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドとトコフェロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の単回投与による、脳におけるアンチセンス効果の評価
アンチセンスオリゴヌクレオチドとトコフェロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸剤による脳内RNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0130】
(核酸剤の調製)
二本鎖剤を、従来の一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)対照と比較した。対照(ASO)は、転位関連肺腺癌転写産物(malat1)ノンコーディングRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mMalat1)、配列番号1)とした。このLNA/DNAギャップマーは、5'末端の3個および3'末端の3個のLNAヌクレオシド、ならびにそれらの間の10個のDNAヌクレオシドを含む。このLNA/DNAギャップマーは、マウスのmalat1ノンコーディングRNA(GenBankアクセッション番号NR_002847、配列番号6)の1316~1331位に相補的な塩基配列を有する。このLNA/DNAギャップマー(第1鎖)を、トコフェロール結合型相補鎖RNA(Toc#1-cRNA(mMalat1)、配列番号10)(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤であるトコフェロール結合型ヘテロ二重鎖オリゴヌクレオチド(Tocopherol-conjugated heteroduplex oligonucleotide、Toc-HDO)を調製した。第1鎖と第2鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。調製した二本鎖核酸剤をToc#1HDOと称する。
【0131】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mMalat1)
5'-C
*
T
*
A
*g*t*t*c*a*c*t*g*a*a*
T
*
G
*
C-3'(配列番号1)
・第2鎖:Toc#1-cRNA(mMalat1)
5'-Toc#1-g
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-3'(配列番号10)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Toc#1は、上記のα-トコフェロール#1を表す。
【0132】
(in vivo実験)
マウスは、体重20gの6~7週齢の雄のC57BL/6マウスであった。マウスを使用する実験は全て、n=3で実施した。核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて50 mg/kgの量で静脈内注射した(単回投与)。さらにまた、陰性対照群として、(核酸剤の代わりに)PBSのみを注射したマウスも作製した。
【0133】
(発現解析)
注射の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質を摘出した。続いて、RNAを、ハイスループット全自動核酸抽出装置MagNA Pure 96(ロシュ・ライフサイエンス社)を使用してプロトコルに従って抽出した。cDNAは、Transcriptor Universal cDNA Master(ロシュ・ライフサイエンス社)をプロトコルに従って使用して合成した。定量RT-PCRは、TaqMan(ロシュ・ライフサイエンス社)により実施した。定量RT-PCRにおいて使用したプライマーは、様々な遺伝子数に基づいて、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社(Thermo Fisher Scientific、旧ライフ・テクノロジーズ社(Life Technologies Corp))によって設計および製造された製品であった。増幅条件(温度および時間)は以下のとおりであった:95℃で15秒、60℃で30秒、および72℃で1秒(1サイクル)を40サイクル繰り返した。このようにして得られた定量RT-PCRの結果に基づいて、ノンコーディングRNA(malat1)の発現量/mRNA(GAPDH;内部標準遺伝子)の発現量をそれぞれ計算し、相対的発現レベルを得た。相対的発現レベルの平均値および標準誤差を算出した。また各群の結果を比較し、さらにt-検定によって結果を評価した。
【0134】
(結果)
実施例1の結果は、
図5のグラフに示される。大脳皮質におけるmalat1ノンコーディングRNA発現の、1本鎖ASOによる抑制は、陰性対照(PBSのみ)の場合と同程度であった。一方、Toc#1HDOは、ASOと比較して、大脳皮質におけるmalat1ノンコーディングRNAの発現を顕著に抑制した。
この結果から、malat1を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドとトコフェロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体は、脳に効率的に送達され、脳においてmalat1ノンコーディングRNAに対してアンチセンス効果をもたらすことが示された。
【0135】
[実施例2]
malat1を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドとトコフェロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の複数回投与による、脳および脊髄の様々な部位におけるアンチセンス効果の評価
アンチセンスオリゴヌクレオチドとトコフェロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸剤の複数回投与による脳内RNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0136】
(核酸剤の調製)
実施例1と同じ核酸剤、すなわち、一本鎖ASOおよびトコフェロール結合型ヘテロ二重鎖オリゴヌクレオチド(Toc#1HDO)を使用した。
【0137】
(in vivo実験)
マウスは、体重20gの6~7週齢の雄のC57BL/6マウスであった。マウスを使用する実験は全て、n=4で実施した。核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて1回の投与あたり50 mg/kgの量で静脈内注射した。投与は、週1回行い、4週間にわたり計4回行った。さらにまた、陰性対照群として、(核酸剤の代わりに)PBSのみを注射したマウスも作製した。
【0138】
(発現解析)
最終投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して脳および脊髄を摘出した。脳から大脳皮質、小脳、線条体、海馬、および脳幹を別々に採取した。脊髄から、頸髄、胸髄および腰髄を別々に採取した。また、マウスから網膜を採取した。得られた各組織から、実施例1に記載したとおりに、RNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
加えて、核酸剤の大脳皮質における濃度を、TaqMan Small Assay(ロシュ・ライフサイエンス社)を用いてプロトコルに従って定量RT-PCRにより測定した。
【0139】
(結果)
実施例2の結果は、
図6~8のグラフに示される。Toc#1HDOは、陰性対照(PBSのみ)および一本鎖ASOと比較して、大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、頸髄、胸髄、腰髄および網膜のいずれにおいてもmalat1ノンコーディングRNAの発現を顕著に抑制した(
図6および7)。さらに、大脳皮質における核酸剤の濃度は、ASOよりもToc#1HDOにおいて顕著に高かった(
図8)。
この結果から、トコフェロールが結合した二本鎖核酸複合体は、脳および脊髄の様々な部位および網膜に大量に効率的に送達され、アンチセンス効果をもたらし得ることが示された。
【0140】
[実施例3]
SR-B1を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドとトコフェロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の単回投与による、脳におけるアンチセンス効果の評価
実施例1および2とは異なるSR-B1遺伝子を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドとトコフェロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸剤による脳内mRNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0141】
(核酸剤の調製)
二本鎖剤を、従来の一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)対照と比較した。対照(ASO)は、スカベンジャー受容体B1(scavenger receptor B1、SR-B1)mRNAを標的とする14merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mSR-B1)、配列番号3)とした。このLNA/DNAギャップマーは、5'末端の2個および3'末端の2個のLNAヌクレオシド、ならびにそれらの間の10個のDNAヌクレオシドを含む。このLNA/DNAギャップマーは、マウスのSR-B1 mRNA(GenBankアクセッション番号NM_016741、配列番号7)の2479~2492位に相補的な塩基配列を有する。このLNA/DNAギャップマー(第1鎖)を、トコフェロール結合型相補鎖RNA(Toc#1-cRNA(mSR-B1)、配列番号11)(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤であるトコフェロール結合型ヘテロ二重鎖オリゴヌクレオチド(Tocopherol-conjugated heteroduplex oligonucleotide、Toc-HDO)を調製した。第1鎖と第2鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。調製した二本鎖核酸剤をToc#1HDOと称する。
【0142】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mSR-B1)
5'-T
*
C
*a*g*t*c*a*t*g*a*c*t*
T
*
C-3'(配列番号3)
・第2鎖:Toc#1-cRNA(mSR-B1)
5'-Toc#1-g
*
a
*AGUCAUGACU*
g
*
a-3'(配列番号11)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Toc#1は、上記のα-トコフェロール#1を表す。
【0143】
(in vivo実験)
マウスは、体重20gの6~7週齢の雄のC57BL/6マウスであった。マウスを使用する実験は全て、n=4で実施した。核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて50 mg/kgの量で静脈内注射した(単回投与)。さらにまた、陰性対照群として、(核酸剤の代わりに)PBSのみを注射したマウスも作製した。
【0144】
(発現解析)
注射の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、頸髄および腰髄を摘出した。続いて、mRNAを、各組織からハイスループット全自動核酸抽出装置MagNA Pure 96(ロシュ・ライフサイエンス社)を使用してプロトコルに従って抽出した。cDNAは、Transcriptor Universal cDNA Master(ロシュ・ライフサイエンス社)をプロトコルに従って使用して合成した。定量RT-PCRは、TaqMan(ロシュ・ライフサイエンス社)により実施した。定量RT-PCRにおいて使用したプライマーは、様々な遺伝子数に基づいて、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社(Thermo Fisher Scientific)によって設計および製造された製品であった。増幅条件(温度および時間)は以下のとおりであった:95℃で15秒、60℃で30秒、および72℃で1秒(1サイクル)を40サイクル繰り返した。このようにして得られた定量RT-PCRの結果に基づいて、mRNA(SR-B1)の発現量/mRNA(GAPDH;内部標準遺伝子)の発現量をそれぞれ計算し、相対的発現レベルを得た。相対的発現レベルの平均値および標準誤差を算出した。また各群の結果を比較し、さらにt-検定によって結果を評価した。
【0145】
(結果)
実施例3の結果は、
図9および10のグラフに示される。大脳皮質におけるSR-B1 mRNA発現の、1本鎖ASOによる抑制は、陰性対照(PBSのみ)の場合と同程度であった。一方、Toc#1HDOは、ASOと比較して、大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、頸髄および腰髄におけるSR-B1 mRNAの発現を顕著に抑制した。
この結果から、二本鎖核酸複合体の脳におけるアンチセンス効果はmalat1に特異的ではなく、様々な遺伝子転写産物を標的とし得ることが示された。
【0146】
[実施例4]
malat1を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドとコレステロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の複数回投与による、脳の様々な部位におけるアンチセンス効果の評価
malat1を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドと、実施例1~3とは異なりコレステロールが結合した相補鎖とからなる二本鎖核酸剤の複数回投与による脳内RNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0147】
(核酸剤の調製)
対照(ASO)は、実施例1で用いた、malat1ノンコーディングRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mMalat1)、配列番号1)とした。このLNA/DNAギャップマー(第1鎖)を、コレステロール結合型相補鎖RNA(Chol#1-cRNA(mMalat1)、配列番号10)(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤であるコレステロール結合型ヘテロ二重鎖オリゴヌクレオチド(Cholesterol-conjugated heteroduplex oligonucleotide、Chol-HDO)を調製した。具体的には、第2鎖(粉末)を、95℃に加熱したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に入れ、ボルテックスにかけて溶解し、95℃に加熱した第1鎖の溶液と混合し、得られた混合液を95℃で5分間保持し、その後、混合液を37℃で1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。調製した二本鎖核酸剤をChol#1HDOと称する。
【0148】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mMalat1)
5'-C
*
T
*
A
*g*t*t*c*a*c*t*g*a*a*
T
*
G
*
C-3'(配列番号1)
・第2鎖:Chol#1-cRNA(mMalat1)
5'-Chol#1-g
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-3'(配列番号10)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Chol#1は、上記のコレステロール#1を表す。
【0149】
(in vivo実験)
マウスは、体重20gの6~7週齢の雄のC57BL/6マウスであった。マウスを使用する実験は全て、n=4で実施した。核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて1回の投与あたり50 mg/kgの量で静脈内注射した。投与は、週1回行い、4週間にわたり計4回行った。さらにまた、陰性対照群として、(核酸剤の代わりに)PBSのみを注射したマウスも作製した。
【0150】
(発現解析)
最終投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、頸髄、および腰髄を摘出した。得られた各組織から、実施例1に記載したとおりに、RNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
【0151】
(結果)
実施例4の結果は、
図11および12のグラフに示される。Chol#1HDOは、陰性対照(PBSのみ)および一本鎖ASOと比較して、大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、頸髄、および腰髄のいずれにおいてもmalat1ノンコーディングRNAの発現を顕著に抑制した。
この結果から、コレステロールが結合した二本鎖核酸複合体は、脳の様々な部位に送達され、アンチセンス効果をもたらし得ることが示された。
【0152】
[実施例5]
アンチセンスオリゴヌクレオチドとコレステロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の複数回投与による、脳の様々な部位におけるアンチセンス効果の評価
malat1を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドと、実施例4とは異なり3'末端にコレステロールが結合した相補鎖とからなる二本鎖核酸剤の複数回投与による脳内RNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0153】
(核酸剤の調製)
malat1ノンコーディングRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mMalat1)、配列番号1)(第1鎖)を、3'末端にコレステロールが結合したコレステロール結合型相補鎖RNA(Chol#3-cRNA(mMalat1)、配列番号10)(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤を調製した。第1鎖と第2鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。調製した二本鎖核酸剤をChol#3HDOと称する。
【0154】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mMalat1)
5'-C
*
T
*
A
*g*t*t*c*a*c*t*g*a*a*
T
*
G
*
C-3'(配列番号1)
・第2鎖:Chol#3-cRNA(mMalat1)
5'-g
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-Chol#3-3'(配列番号10)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Chol#3は、上記のコレステロール#3を表す。
【0155】
(in vivo実験)
実施例4に記載したように、マウスに核酸剤を複数回投与した。
【0156】
(発現解析)
最終投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、小脳、海馬、および脳幹を別々に採取した。定量RT-PCRの内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた各組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
【0157】
(結果)
実施例5の結果は、
図13のグラフに示される。Chol#3HDOは、陰性対照(PBSのみ)と比較して、大脳皮質、小脳、海馬、および脳幹のいずれにおいてもmalat1ノンコーディングRNAの発現を抑制した。
この結果から、アンチセンスオリゴヌクレオチドと、3'末端にコレステロールが結合した相補鎖とからなる二本鎖核酸剤は、脳の様々な部位に送達され、アンチセンス効果をもたらし得ることが示された。
【0158】
[実施例6]
アンチセンスオリゴヌクレオチドとトコフェロール結合型DNA相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の複数回投与による、脳の様々な部位におけるアンチセンス効果の評価
malat1を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドと、実施例1~5とは異なりDNA相補鎖とからなる二本鎖核酸剤の複数回投与による脳内RNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0159】
(核酸剤の調製)
malat1ノンコーディングRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mMalat1)、配列番号1)(第1鎖)を、トコフェロール結合型相補鎖DNA(Toc#1-cDNA(mMalat1)、配列番号12)(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤を調製した。このトコフェロール結合型相補鎖DNA(第2鎖)は、5'末端の3個および3'末端の3個のLNAヌクレオシド、ならびにそれらの間の10個のDNAヌクレオシドを含む。第1鎖と第2鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。調製した二本鎖核酸剤をToc#1DNA/DNAと称する。
【0160】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mMalat1)
5'-C
*
T
*
A
*g*t*t*c*a*c*t*g*a*a*
T
*
G
*
C-3'(配列番号1)
・第2鎖:Toc#1-cDNA(mMalat1)
5'-Toc#1-G
*
C
*
A
*ttcagtgaac*
T
*
A
*
G-3'(配列番号12)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Toc#1は、上記のα-トコフェロール#1を表す。
【0161】
(in vivo実験)
実施例4に記載したように、マウスに核酸剤を複数回投与した。
【0162】
(発現解析)
最終投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、小脳、線条体、海馬、および脳幹を別々に採取した。定量RT-PCRの内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた各組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
【0163】
(結果)
実施例6の結果は、
図14及び15のグラフに示される。Toc#1DNA/DNAは、陰性対照(PBSのみ)と比較して、大脳皮質、小脳、線条体、海馬、および脳幹のいずれにおいてもmalat1ノンコーディングRNAの発現を顕著に抑制した。
この結果から、アンチセンスオリゴヌクレオチドと、トコフェロールが結合したDNA相補鎖とからなる二本鎖核酸剤は、脳の様々な部位に送達され、アンチセンス効果をもたらし得ることが示された。
【0164】
[実施例7]
アンチセンスオリゴヌクレオチドとコレステロール結合型DNA相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の単回投与による、脳の様々な部位におけるアンチセンス効果の評価
malat1を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドと、実施例1~5とは異なりDNA相補鎖とからなる二本鎖核酸剤の単回投与による脳内RNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0165】
(核酸剤の調製)
malat1ノンコーディングRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mMalat1)、配列番号1)(第1鎖)を、コレステロール結合型相補鎖DNA(Chol#1-cDNA(mMalat1)、配列番号12)(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤を調製した。このコレステロール結合型相補鎖DNA(第2鎖)は、5'末端の3個および3'末端の3個のLNAヌクレオシド、ならびにそれらの間の10個のDNAヌクレオシドを含む。第2鎖(粉末)を、95℃に加熱したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に入れ、ボルテックスにかけて溶解し、95℃に加熱した第1鎖の溶液と混合し、得られた混合液を95℃で5分間保持し、その後、混合液を37℃で1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。調製した二本鎖核酸剤をChol#1DNA/DNAと称する。
【0166】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mMalat1)
5'-C
*
T
*
A
*g*t*t*c*a*c*t*g*a*a*
T
*
G
*
C-3'(配列番号1)
・第2鎖:Chol#1-cDNA(mMalat1)
5'-Chol#1-G
*
C
*
A
*ttcagtgaac*
T
*
A
*
G-3'(配列番号12)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Chol#1は、上記のコレステロール#1を表す。
【0167】
(in vivo実験)
実施例3に記載したように、マウスに核酸剤を単回投与した。
【0168】
(発現解析)
投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、小脳、線条体、海馬、および脳幹を別々に採取した。定量RT-PCRの内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた各組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
【0169】
(結果)
実施例7の結果は、
図16及び17のグラフに示される。Chol#1DNA/DNAは、陰性対照(PBSのみ)と比較して、大脳皮質、小脳、線条体、海馬、および脳幹のいずれにおいてもmalat1ノンコーディングRNAの発現を顕著に抑制した。
この結果から、アンチセンスオリゴヌクレオチドと、コレステロールが結合したDNA相補鎖とからなる二本鎖核酸剤は、脳の様々な部位に送達され、アンチセンス効果をもたらし得ることが示された。
【0170】
[実施例8]
アンチセンスオリゴヌクレオチドとコレステロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の複数回投与による、脳および脊髄の様々な部位におけるアンチセンス効果の評価
実施例1~7とは異なりDMPKを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドと、コレステロールが結合した相補鎖とからなる二本鎖核酸剤の複数回投与による脳内RNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0171】
(核酸剤の調製)
DMPK(dystrophia myotonica-protein kinase) mRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mDMPK)、配列番号13)を第1鎖とした。このLNA/DNAギャップマーは、5'末端の3個および3'末端の3個のLNAヌクレオシド、ならびにそれらの間の10個のDNAヌクレオシドを含む。このLNA/DNAギャップマーは、マウスのDMPK mRNA(GenBankアクセッション番号NM_032418、配列番号17)の2682~2697位に相補的な塩基配列を有する。このLNA/DNAギャップマー(第1鎖)を、コレステロール結合型相補鎖RNA(Chol#1-cRNA(mDMPK)、配列番号14)(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤を調製した。第1鎖と第2鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。調製した二本鎖核酸剤をChol#1HDOと称する。
【0172】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mDMPK)
5'-A
*
C
*
A
*a*t*a*a*a*t*a*c*c*g*
A
*
G
*
G-3'(配列番号13)
・第2鎖:Chol#1-cRNA(mDMPK)
5'-Chol#1-c
*
c
*
u
*CGGUAUUUAU*
u
*
g
*
u-3'(配列番号14)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Chol#1は、上記のコレステロール#1を表す。
【0173】
(in vivo実験)
投与を週2回、計4回行ったことを除いて実施例4に記載したように、マウスに核酸剤を複数回投与した。
【0174】
(発現解析)
最終投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、腰髄、および後根神経節を別々に採取した。定量RT-PCRにおいてmalat1の代わりにDMPK mRNAを増幅するプライマーを用い、また、内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた各組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、DMPK mRNAの発現レベルを評価した。
【0175】
(結果)
実施例8の結果は、
図18および19のグラフに示される。Chol#1HDOは、陰性対照(PBSのみ)と比較して、大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、腰髄、および後根神経節のいずれにおいてもDMPK mRNAの発現を顕著に抑制した。
この結果から、本発明の一実施形態に係る二本鎖核酸複合体は、様々な遺伝子転写産物を標的とし得ることが示された。
【0176】
[実施例9]
アンチセンスオリゴヌクレオチドとトコフェロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の霊長類への単回投与による、脳および脊髄の様々な部位におけるアンチセンス効果の評価
malat1を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドと、トコフェロールが結合した相補鎖とからなる二本鎖核酸剤の霊長類(カニクイザル)への単回投与による脳内RNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0177】
(核酸剤の調製)
カニクイザルのmalat1ノンコーディングRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mfMalat1)、配列番号15)を第1鎖とした。このLNA/DNAギャップマーの塩基配列はHung Gら(Characterization of Target mRNA Reduction Through In Situ RNA Hybridization in Multiple Organ Systems Following Systemic Antisense Treatment in Animal, Nucleic Acid Therapeutics. 23(6): 369-378 (2013))を参考にして設計した。このLNA/DNAギャップマーは、5'末端の3個および3'末端の3個のLNAヌクレオシド、ならびにそれらの間の10個のDNAヌクレオシドを含む。このLNA/DNAギャップマー(第1鎖)を、トコフェロール結合型相補鎖RNA(Toc#1-cRNA(mfMalat1)、配列番号16)(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤を調製した。第1鎖と第2鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。調製した二本鎖核酸剤をToc#1HDOと称する。
【0178】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mfMalat1)
5'-A
*
G
*
T
*a*c*t*a*t*a*g*c*a*t*
C
*
T
*
G-3'(配列番号15)
・第2鎖:Toc#1-cRNA(mfMalat1)
5'-Toc#1-c
*
a
*
g
*AUGCUAUAGU*
a
*
c
*
u-3'(配列番号16)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Toc#1は、上記のα-トコフェロール#1を表す。
【0179】
(in vivo実験)
カニクイザルは、体重1.8kgの雄であった。実験は全て、n=1で実施した。核酸剤を、カニクイザルにそれぞれ伏在静脈を通じて50 mg/kgの量で静脈内に注射した。また、陰性対照群として、PBSのみまたは第1鎖(ASO)を注射したカニクイザルも作製した。
【0180】
(発現解析)
投与の72時間後、PBSをカニクイザルに灌流させ、その後解剖して大脳皮質、線条体、脳幹、頸髄、および胸髄を別々に採取した。各組織から4箇所のサンプルを得た。定量RT-PCRにおいてマウスmalat1の代わりにカニクイザルmalat1を増幅するプライマーを用い、また、内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた各サンプルからのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
【0181】
(結果)
実施例9の結果は、
図20のグラフに示される。Toc#1HDOは、陰性対照(PBSのみ)と比較して、大脳皮質、線条体、脳幹、頸髄、および胸髄のいずれにおいてもmalat1ノンコーディングRNAの発現を顕著に抑制した。
この結果から、本発明の一実施形態に係る二本鎖核酸剤は、霊長類の脳および脊髄の様々な部位に送達され、アンチセンス効果をもたらし得ることが示された。
【0182】
[実施例10]
アンチセンスオリゴヌクレオチドとコレステロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の単回投与による、脳および脊髄の様々な部位におけるアンチセンス効果の評価
malat1を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドと、コレステロールが結合した相補鎖とからなる二本鎖核酸剤の単回投与による脳内RNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0183】
(核酸剤の調製)
malat1ノンコーディングRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mMalat1)、配列番号1)(第1鎖)を、コレステロール結合型相補鎖RNA(Chol#2-cRNA(mMalat1)、配列番号10)(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤を調製した。具体的には、第2鎖(粉末)を、95℃に加熱したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に入れ、ボルテックスにかけて溶解し、95℃に加熱した第1鎖の溶液と混合し、得られた混合液を95℃で5分間保持し、その後、混合液を37℃で1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。調製した二本鎖核酸剤をChol#2HDOと称する。
【0184】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mMalat1)
5'-C
*
T
*
A
*g*t*t*c*a*c*t*g*a*a*
T
*
G
*
C-3'(配列番号1)
・第2鎖:Chol#2-cRNA(mMalat1)
5'-Chol#2-g
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-3'(配列番号10)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Chol#2は、上記のコレステロール#2を表す。
【0185】
(in vivo実験)
実施例3に記載したように、マウスに核酸剤を単回投与した。
【0186】
(発現解析)
投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、頸髄、および腰髄を別々に採取した。定量RT-PCRの内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた各組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
【0187】
(結果)
実施例10の結果は、
図21及び22のグラフに示される。Chol#2HDOは、陰性対照(PBSのみ)と比較して、大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、頸髄、および腰髄のいずれにおいてもmalat1ノンコーディングRNAの発現を顕著に抑制した。
この結果から、アンチセンスオリゴヌクレオチドと、コレステロールが結合した相補鎖とからなる二本鎖核酸剤は、脳および脊髄の様々な部位に送達され、アンチセンス効果をもたらし得ることが示された。
【0188】
[実施例11]
アンチセンスオリゴヌクレオチドとコレステロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の単回投与による、脳の様々な部位におけるアンチセンス効果の評価
malat1を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドと、コレステロールが結合した相補鎖とからなる二本鎖核酸剤の単回投与による脳内RNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0189】
(核酸剤の調製)
malat1ノンコーディングRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mMalat1)、配列番号1)(第1鎖)を、コレステロール結合型相補鎖RNA(Chol#4-cRNA(mMalat1)、配列番号10)(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤を調製した。具体的には、第2鎖(粉末)を、95℃に加熱したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に入れ、ボルテックスにかけて溶解し、95℃に加熱した第1鎖の溶液と混合し、得られた混合液を95℃で5分間保持し、その後、混合液を37℃で1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。調製した二本鎖核酸剤をChol#4HDOと称する。
【0190】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mMalat1)
5'-C
*
T
*
A
*g*t*t*c*a*c*t*g*a*a*
T
*
G
*
C-3'(配列番号1)
・第2鎖:Chol#4-cRNA(mMalat1)
5'-Chol#4-g
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-3'(配列番号10)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Chol#4は、上記のコレステロール#4を表す。
【0191】
(in vivo実験)
実施例3に記載したように、マウスに核酸剤を単回投与した。
【0192】
(発現解析)
投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、小脳、線条体、海馬、および脳幹を別々に採取した。定量RT-PCRの内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた各組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
【0193】
(結果)
実施例11の結果は、
図23及び24のグラフに示される。Chol#4HDOは、陰性対照(PBSのみ)と比較して、大脳皮質、小脳、線条体、海馬、および脳幹のいずれにおいてもmalat1ノンコーディングRNAの発現を顕著に抑制した。
この結果から、アンチセンスオリゴヌクレオチドと、コレステロールが結合した相補鎖とからなる二本鎖核酸剤は、脳の様々な部位に送達され、アンチセンス効果をもたらし得ることが示された。
【0194】
[実施例12]
アンチセンスオリゴヌクレオチドとコレステロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の単回投与による、脳の様々な部位におけるアンチセンス効果の評価
malat1を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドと、コレステロールが結合した相補鎖とからなる二本鎖核酸剤の単回投与による脳内RNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0195】
(核酸剤の調製)
malat1ノンコーディングRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mMalat1)、配列番号1)(第1鎖)を、コレステロール結合型相補鎖RNA(Chol#5-cRNA(mMalat1)、配列番号10)(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤を調製した。第1鎖と第2鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。調製した二本鎖核酸剤をChol#5HDOと称する。
【0196】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mMalat1)
5'-C
*
T
*
A
*g*t*t*c*a*c*t*g*a*a*
T
*
G
*
C-3'(配列番号1)
・第2鎖:Chol#5-cRNA(mMalat1)
5'-g
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-Chol#5-3'(配列番号10)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Chol#5は、上記のコレステロール#5を表す。
【0197】
(in vivo実験)
実施例3に記載したように、マウスに核酸剤を単回投与した。
【0198】
(発現解析)
投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、線条体、海馬、および脳幹を別々に採取した。定量RT-PCRの内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた各組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
【0199】
(結果)
実施例12の結果は、
図25のグラフに示される。Chol#5HDOは、陰性対照(PBSのみ)と比較して、大脳皮質、線条体、海馬、および脳幹のいずれにおいてもmalat1ノンコーディングRNAの発現を抑制した。
この結果から、アンチセンスオリゴヌクレオチドと、コレステロールが結合した相補鎖とからなる二本鎖核酸剤は、脳の様々な部位に送達され、アンチセンス効果をもたらし得ることが示された。
【0200】
[実施例13]
アンチセンスオリゴヌクレオチドとコレステロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の単回皮下投与による、脳および脊髄の様々な部位におけるアンチセンス効果の評価
malat1を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドと、コレステロールが結合した相補鎖とからなる二本鎖核酸剤の単回皮下投与による脳内RNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0201】
(核酸剤の調製)
malat1ノンコーディングRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mMalat1)、配列番号1)(第1鎖)を、コレステロール結合型相補鎖RNA(Chol#1-cRNA(mMalat1)、配列番号10)(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤を調製した。具体的には、第2鎖(粉末)を、95℃に加熱したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に入れ、ボルテックスにかけて溶解し、95℃に加熱した第1鎖の溶液と混合し、得られた混合液を95℃で5分間保持し、その後、混合液を37℃で1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。調製した二本鎖核酸剤をChol#1HDOと称する。
【0202】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mMalat1)
5'-C
*
T
*
A
*g*t*t*c*a*c*t*g*a*a*
T
*
G
*
C-3'(配列番号1)
・第2鎖:Chol#1-cRNA(mMalat1)
5'-Chol#1-g
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-3'(配列番号10)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Chol#1は、上記のコレステロール#1を表す。
【0203】
(in vivo実験)
尾静脈を通じた静脈内注射の代わりに皮下注射を行ったことを除いて実施例3に記載したように、マウスに核酸剤を単回投与した。
【0204】
(発現解析)
投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、頸髄、腰髄、および後根神経節を別々に採取した。定量RT-PCRの内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた各組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
【0205】
(結果)
実施例13の結果は、
図26および27のグラフに示される。Chol#1HDOは、陰性対照(PBSのみ)と比較して、大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、頸髄、腰髄、および後根神経節のいずれにおいてもmalat1ノンコーディングRNAの発現を顕著に抑制した。
この結果から、本発明の一実施形態に係る二本鎖核酸剤は、皮下投与により、脳および脊髄の様々な部位に送達され、アンチセンス効果をもたらし得ることが示された。
【0206】
[実施例14]
二本鎖核酸複合体の長期効果の評価
二本鎖核酸剤の長期間にわたるin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0207】
(核酸剤の調製)
実施例13に記載した二本鎖核酸剤Chol#1HDOを用いた。
【0208】
(in vivo実験)
実施例3に記載したように、マウスに核酸剤を単回投与した。
【0209】
(発現解析)
投与の3日、7日、14日、28日および56日後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、頸髄および腰髄を別々に採取した。定量RT-PCRの内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた各組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
【0210】
(結果)
実施例14の結果は、
図28~30のグラフに示される。Chol#1HDOは、陰性対照(PBSのみ)と比較して、大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、頸髄および腰髄のいずれにおいてもmalat1ノンコーディングRNAの発現を長期間にわたり顕著に抑制した。
【0211】
[実施例15]
二本鎖核酸複合体の用量の検討
様々な用量の二本鎖核酸剤によるin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0212】
(核酸剤の調製)
実施例13に記載した二本鎖核酸剤Chol#1HDOを用いた。
【0213】
(in vivo実験)
用量12.5 mg/kg、25.0 mg/kg、50 mg/kgまたは75 mg/kgを用いたことを除き実施例3に記載したように、マウスに核酸剤を単回投与した。
【0214】
(発現解析)
投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、頸髄、および腰髄を別々に採取した。定量RT-PCRの内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた各組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
【0215】
(結果)
実施例15の結果は、
図31および32のグラフに示される。Chol#1HDOは、大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、頸髄、および腰髄のいずれにおいても、用量依存的にmalat1ノンコーディングRNAの発現を抑制する傾向を示した。
【0216】
[実施例16]
アンチセンスオリゴヌクレオチドとトコフェロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の複数回投与による、脳の様々な部位におけるアンチセンス効果の評価
DMPKを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドと、5'末端にトコフェロールが結合した相補鎖とからなる二本鎖核酸剤の複数回投与による脳内RNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0217】
(核酸剤の調製)
DMPK(dystrophia myotonica-protein kinase) mRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mDMPK)、配列番号13)を第1鎖とした。このLNA/DNAギャップマーは、5'末端の3個および3'末端の3個のLNAヌクレオシド、ならびにそれらの間の10個のDNAヌクレオシドを含む。このLNA/DNAギャップマーは、マウスのDMPK mRNA(GenBankアクセッション番号NM_032418、配列番号17)の2682~2697位に相補的な塩基配列を有する。このLNA/DNAギャップマー(第1鎖)を、トコフェロール結合型相補鎖RNA(Toc#1-cRNA(mDMPK)、配列番号14)(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤を調製した。第1鎖と第2鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。調製した二本鎖核酸剤をToc#1HDOと称する
【0218】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mDMPK)
5'-A
*
C
*
A
*a*t*a*a*a*t*a*c*c*g*
A
*
G
*
G-3'(配列番号13)
・第2鎖:Toc#1-cRNA(mDMPK)
5'-Toc#1-c
*
c
*
u
*CGGUAUUUAU*
u
*
g
*
u-3'(配列番号14)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Toc#1は、上記のトコフェロール#1を表す。
【0219】
(in vivo実験)
週1回、計4回マウスに核酸剤を静脈内投与した。さらにまた、陰性対照群として、(核酸剤の代わりに)PBSのみまたは第1鎖(ASO)を注射したマウスも作製した。
【0220】
(発現解析)
最終投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して全脳を採取した。定量RT-PCRにおいてmalat1の代わりにDMPK mRNAを増幅するプライマーを用い、また、内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、DMPK mRNAの発現レベルを評価した。
【0221】
(結果)
実施例16の結果は、
図33のグラフに示される。Toc#1HDOは、陰性対照(PBSのみまたはASOのみ)と比較して、全脳のDMPK mRNAの発現を顕著に抑制した。
この結果から、本発明の一実施形態に係る二本鎖核酸複合体は、様々な遺伝子転写産物を標的とし得ることが示された。
【0222】
[実施例17]
トコフェロール結合siRNAの投与による、脳および脊髄の様々な部位における遺伝子抑制効果の評価
BACE1(Beta-secretase 1)を標的とした5'末端にトコフェロールが結合したアンチセンス鎖と相補鎖からなる二本鎖(siRNA)核酸剤の単回投与による脳内RNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0223】
(核酸剤の調製)
BACE1(Beta-secretase 1) mRNAを標的とする29merのRNAおよび2'-O-Me RNAからなる一本鎖オリゴヌクレオチド(Toc#1-AS(mBACE1)、配列番号19)をアンチセンス鎖とした。このアンチセンス鎖は、マウスのBACE1 mRNA(GenBankアクセッション番号NM_011792.6、配列番号23)の2522~2550位に相補的な塩基配列を有する。このアンチセンス鎖は、5'末端にトコフェロールが結合している。このアンチセンス鎖(第1鎖)を、RNAおよび2'-O-Me RNAからなる27merのセンス鎖オリゴヌクレオチド(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤を調製した。第1鎖と第2鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。調製した二本鎖核酸剤をToc#1siRNAと称する。
【0224】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:Toc#1-AS(mBACE1)
5'-Toc#1-guauaaACAUuCGCAuCGCAUAgGUuC*U*U-3' (配列番号19)
・第2鎖:SS(mBACE1)27mer
5'-GAAcCuAuGCGAuGCGAAuGUUUAU*A*C-3' (配列番号20)
大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Toc#1は、上記のトコフェロール#1を表す。
【0225】
(in vivo実験)
マウスは、体重20gの6~7週齢の雄のC57BL/6マウスであった。マウスを使用する実験は全て、n=4で実施した。核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じてアンチセンス鎖で92 mg/kg(実施例1のヘテロ二重鎖オリゴヌクレオチド50mg/kg投与時のアンチセンス鎖と等モル)の量で静脈内注射した(単回投与)。さらにまた、陰性対照群として、(核酸剤の代わりに)PBSのみを注射したマウスも作製した。
【0226】
(発現解析)
最終投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して、大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、腰髄および後根神経節を別々に採取した。定量RT-PCRにおいてmalat1の代わりにBACE1 mRNAを増幅するプライマーを用い、また、内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた各組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、BACE1 mRNAの発現レベルを評価した。
【0227】
(結果)
実施例17の結果は、
図34および
図35のグラフに示される。Toc#1siRNAは、陰性対照(PBSのみ)と比較して、BACE1発現抑制効果を全く示さなかった。
この結果から、アンチセンス鎖(第1鎖)に脂質リガンドを結合させたsiRNAを末梢投与した場合には、脳内で遺伝子抑制効果を示さないことが示された。
【0228】
[実施例18]
コレステロール結合siRNAの投与による、脳の様々な部位における遺伝子抑制効果の評価
BACE1(Beta-secretase 1)を標的とした5'末端にコレステロールが結合したアンチセンス鎖とセンス鎖からなる二本鎖(siRNA)核酸剤の単回投与による脳内RNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0229】
(核酸剤の調製)
BACE1(Beta-secretase 1) mRNAを標的とする23merのRNAおよび2'-O-Me RNAからなる一本鎖オリゴヌクレオチド(Chol#1-AS(mBACE1)、配列番号21)をアンチセンス鎖とした。このアンチセンス鎖は、マウスのBACE1 mRNA(GenBankアクセッション番号NM_011792.6、配列番号23)の2522~2544位に相補的な塩基配列を有する。このアンチセンス鎖は、5'末端にコレステロールが結合している。このアンチセンス鎖(第1鎖)を、RNAおよび2'-O-Me RNAからなる21merセンス鎖オリゴヌクレオチド(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤を調製した。第1鎖と第2鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。調製した二本鎖核酸剤をChol#1siRNAと称する。
【0230】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:Chol#1-AS(mBACE1)
5'-Chol#1-a*cAUuCGCAuCGCAUAgGUuC*U*U-3’ (配列番号21)
・第2鎖:SS(mBACE1)21mer
5'-GAAcCuAuGCGAuGCGAAuG*U-3' (配列番号22)
大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Chol#1は、上記のコレステロール#1を表す。
【0231】
(in vivo実験)
マウスは、体重20gの6~7週齢の雄のC57BL/6マウスであった。マウスを使用する実験は全て、n=4で実施した。核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じてアンチセンス鎖で73 mg/kg(実施例1のヘテロ二重鎖オリゴヌクレオチド50mg/kg投与時のアンチセンス鎖と等モル)の量で静脈内注射した(単回投与)。さらにまた、陰性対照群として、(核酸剤の代わりに)PBSのみを注射したマウスも作製した。
【0232】
(発現解析)
最終投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して脳を摘出した。脳から大脳皮質、小脳、線条体、海馬、および脳幹を別々に採取した。定量RT-PCRにおいてmalat1の代わりにBACE1 mRNAを増幅するプライマーを用い、また、内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた各組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、BACE1 mRNAの発現レベルを評価した。
【0233】
(結果)
実施例18の結果は、
図36のグラフに示される。Chol#1siRNAは、陰性対照(PBSのみ)と比較して、BACE1発現抑制効果を全く示さなかった。
この結果から、アンチセンス鎖(第1鎖)に脂質リガンドを結合させたsiRNAを末梢投与した場合には、脳内で遺伝子抑制効果を示さないことが示された。
【0234】
[実施例19]
アンチセンスオリゴヌクレオチドとドコサヘキサエン酸(DHA)結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の単回投与による、脳の様々な部位におけるアンチセンス効果の評価
malat1を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドと、実施例4とは異なり5'末端にDHAが結合した相補鎖とからなる二本鎖核酸剤の単回投与による脳内RNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0235】
(核酸剤の調製)
malat1ノンコーディングRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mMalat1)、配列番号1)(第1鎖)を、5'末端にDHAが結合したDHA結合型相補鎖RNA(DHA-cRNA(mMalat1)、配列番号10)(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤を調製した。第1鎖と第2鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。調製した二本鎖核酸剤をDHA-HDOと称する。
【0236】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mMalat1)
5'-C
*
T
*
A
*g*t*t*c*a*c*t*g*a*a*
T
*
G
*
C-3'(配列番号1)
・第2鎖:DHA-cRNA(mMalat1)
5'-DHA-g
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-3'(配列番号10)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。
【0237】
(in vivo実験)
マウスは、体重20gの6~7週齢の雄のC57BL/6マウスであった。マウスを使用する実験は全て、n=4で実施した。核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて50 mg/kgの量で静脈内注射した(単回投与)。さらにまた、陰性対照群として、(核酸剤の代わりに)PBSのみを注射したマウスも作製した。
【0238】
(発現解析)
最終投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、小脳、線条体、海馬、および脳幹を別々に採取した。定量RT-PCRの内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた各組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
【0239】
(結果)
実施例19の結果は、
図37および38のグラフに示される。DHA-HDOは、陰性対照(PBSのみ)と比較して、大脳皮質、小脳、線条体、海馬、および脳幹のいずれにおいてもmalat1ノンコーディングRNAの発現を抑制しなかった。
【0240】
[実施例20]
二本鎖核酸複合体(トコフェロール)の長期効果の評価
二本鎖核酸剤の長期間にわたるin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0241】
(核酸剤の調製)
実施例1に記載した二本鎖核酸剤Toc#1HDOを用いた。
【0242】
(in vivo実験)
実施例3に記載したように、マウスに核酸剤を単回投与した。
【0243】
(発現解析)
投与の3日、7日、14日、および28日後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して全脳を採取した。定量RT-PCRの内部標準遺伝子としてGAPDHを用いて実施例1に記載したように、得られた各組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
【0244】
(結果)
実施例20の結果は、
図39のグラフに示される。Toc#1HDOは、陰性対照(PBSのみ)と比較して、全脳においてmalat1ノンコーディングRNAの発現を2週間にわたり抑制した。
【0245】
[実施例21]
SR-B1を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドとコレステロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の単回投与による、脳におけるアンチセンス効果の評価
実施例1および2とは異なるSR-B1遺伝子を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドとコレステロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸剤による脳内mRNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0246】
(核酸剤の調製)
SR-B1 mRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mSR-B1)、配列番号3)(第1鎖)を、コレステロール結合型相補鎖RNA(Chol#1-cRNA(mSR-B1)、配列番号11)(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤を調製した。第1鎖と第2鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。調製した二本鎖核酸剤をChol#1HDOと称する。
【0247】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mSR-B1)
5'-T
*
C
*a*g*t*c*a*t*g*a*c*t*
T
*
C-3'(配列番号3)
・第2鎖:Chol#1-cRNA(mSR-B1)
5'-Chol#1-g
*
a
*AGUCAUGACU*
g
*
a-3'(配列番号11)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Chol#1は、上記のコレステロール#1を表す。
【0248】
(in vivo実験)
マウスは、体重20gの6~7週齢の雄のC57BL/6マウスであった。マウスを使用する実験は全て、n=4で実施した。核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて50 mg/kgの量で静脈内注射した(単回投与)。さらにまた、陰性対照群として、(核酸剤の代わりに)PBSのみを注射したマウスも作製した。
【0249】
(発現解析)
注射の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、頸髄および腰髄を摘出した。続いて、mRNAを、ハイスループット全自動核酸抽出装置MagNA Pure 96(ロシュ・ライフサイエンス社)を使用してプロトコルに従って抽出した。cDNAは、Transcriptor Universal cDNA Master(ロシュ・ライフサイエンス社)をプロトコルに従って使用して合成した。定量RT-PCRは、TaqMan(ロシュ・ライフサイエンス社)により実施した。定量RT-PCRにおいて使用したプライマーは、様々な遺伝子数に基づいて、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社(Thermo Fisher Scientific)によって設計および製造された製品であった。増幅条件(温度および時間)は以下のとおりであった:95℃で15秒、60℃で30秒、および72℃で1秒(1サイクル)を40サイクル繰り返した。このようにして得られた定量RT-PCRの結果に基づいて、mRNA(SR-B1)の発現量/mRNA(アクチン;内部標準遺伝子)の発現量をそれぞれ計算し、相対的発現レベルを得た。相対的発現レベルの平均値および標準誤差を算出した。また各群の結果を比較し、さらにt-検定によって結果を評価した。
【0250】
(結果)
実施例21の結果は、
図40および41のグラフに示される。Chol#1HDOにより、大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、頸髄および腰髄においてSR-B1 mRNAの発現が顕著に抑制されたことが示された。
【0251】
[実施例22]
アンチセンスオリゴヌクレオチドとコレステロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の少量複数回投与による、脳および脊髄の様々な部位におけるアンチセンス効果の評価
malat1を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドと、コレステロールが結合した相補鎖とからなる二本鎖核酸剤の複数回投与による脳内RNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0252】
(核酸剤の調製)
malat1ノンコーディングRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mMalat1)、配列番号1)(第1鎖)を、コレステロール結合型相補鎖RNA(Chol#1-cRNA(mMalat1)、配列番号10)(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤を調製した。第1鎖と第2鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。調製した二本鎖核酸剤をChol#1HDOと称する。
【0253】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mMalat1)
5'-C
*
T
*
A
*g*t*t*c*a*c*t*g*a*a*
T
*
G
*
C-3'(配列番号1)
・第2鎖:Chol#1-cRNA(mMalat1)
5'-Chol#1-g
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-3'(配列番号10)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Chol#1は、上記のコレステロール#1を表す。
【0254】
(in vivo実験)
核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて6.25 mg/kgの量で静脈内注射した。投与は週2回、計4回行った。さらにまた、陰性対照群として、(核酸剤の代わりに)PBSのみを注射したマウスも作製した。
【0255】
(発現解析)
投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、頸髄、および腰髄を別々に採取した。定量RT-PCRの内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた各組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
【0256】
(結果)
実施例22の結果は、
図42および43のグラフに示される。Chol#1HDOは、陰性対照(PBSのみ)と比較して、大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、頸髄、および腰髄のいずれにおいてもmalat1ノンコーディングRNAの発現を顕著に抑制した。
【0257】
[実施例23]
アンチセンスオリゴヌクレオチドと、様々なヌクレオシド間結合の修飾パターンを有するコレステロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体による、脳の様々な部位におけるアンチセンス効果の評価
malat1を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドと、様々なヌクレオシド間結合の修飾パターンを有するコレステロールが結合した相補鎖とからなる二本鎖核酸剤による脳内RNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0258】
(核酸剤の調製)
malat1ノンコーディングRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mMalat1)、配列番号1)(第1鎖)を、様々なヌクレオシド間結合の修飾パターンを有するコレステロール結合型相補鎖RNA(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤を調製した。下記のように3種類の第2鎖を用意した。第1鎖と第2鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。
【0259】
第2鎖としてChol#1-cRNA(mMalat1)(PO)を用いて調製した二本鎖核酸剤をChol#1HDO(PO)と称する。第2鎖としてChol#1-cRNA(mMalat1)(5'PS)を用いて調製した二本鎖核酸剤をChol#1HDO(5'PS)と称する。第2鎖としてChol#1-cRNA(mMalat1)(3'PS)を用いて調製した二本鎖核酸剤をChol#1HDO(3'PS)と称する。
【0260】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mMalat1)
5'-C
*
T
*
A
*g*t*t*c*a*c*t*g*a*a*
T
*
G
*
C-3'(配列番号1)
・第2鎖:Chol#1-cRNA(mMalat1)(PO)
5'-Chol#1-gcaUUCAGUGAACuag-3'(配列番号10)
・第2鎖:Chol#1-cRNA(mMalat1)(5'PS)
5'-Chol#1-g
*
c
*
a
*UUCAGUGAACuag-3'(配列番号10)
・第2鎖:Chol#1-cRNA(mMalat1)(3'PS)
5'-Chol#1-gcaUUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-3'(配列番号10)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Chol#1は、上記のコレステロール#1を表す。
【0261】
(in vivo実験)
核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて50mg/kgの量で静脈内に単回注射した。また、陰性対照群として、(核酸剤の代わりに)PBSのみを注射したマウスも作製した。
【0262】
(発現解析)
投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、小脳、線条体、海馬、および脳幹を別々に採取した。定量RT-PCRの内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた各組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
【0263】
(結果)
実施例23の結果は、
図44および45のグラフに示される。二本鎖剤Chol#1HDO(PO)、Chol#1HDO(5'PS)およびChol#1HDO(3'PS)は、陰性対照(PBSのみ)と比較して、大脳皮質、小脳、線条体、海馬、および脳幹のいずれにおいてもmalat1ノンコーディングRNAの発現を顕著に抑制した。特に、3'末端から修飾ヌクレオシド間結合を有する場合に、活性が増加する傾向が示された。
【0264】
[実施例24]
アンチセンスオリゴヌクレオチドとトコフェロールまたはコレステロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の週2回投与による脳の様々な部位におけるアンチセンス効果の評価
malat1を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドと、トコフェロールまたはコレステロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸剤の週2回投与での脳内RNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0265】
(核酸剤の調製)
malat1ノンコーディングRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mMalat1)、配列番号1)(第1鎖)を、トコフェロール結合型相補鎖RNA(Toc#1-cRNA(mMalat1)、配列番号10)(第2鎖)またはコレステロール結合型相補鎖RNA(Chol#1-cRNA(mMalat1)、配列番号10)(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤を調製した。第1鎖と第2鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。
【0266】
第2鎖としてToc#1-cRNA(mMalat1)を用いて調製した二本鎖核酸剤をToc#1HDOと称する。第2鎖としてChol#1-cRNA(mMalat1)を用いて調製した二本鎖核酸剤をChol#1HDOと称する。
【0267】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mMalat1)
5'-C
*
T
*
A
*g*t*t*c*a*c*t*g*a*a*
T
*
G
*
C-3'(配列番号1)
・第2鎖:Toc#1-cRNA(mMalat1)
5'-Toc#1-g
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-3'(配列番号10)
・第2鎖:Chol#1-cRNA(mMalat1)
5'-Chol#1-g
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-3'(配列番号10)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Toc#1は、上記のα-トコフェロール#1を表す。Chol#1は、上記のコレステロール#1を表す。
【0268】
(in vivo実験)
マウスは、体重20gの6~7週齢の雄のC57BL/6マウスであった。マウスを使用する実験は全て、n=4で実施した。核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて1回の投与あたり25mg/kgまたは50mg/kgの量で静脈内注射した。投与は、週2回行った。さらにまた、陰性対照群として、(核酸剤の代わりに)PBSのみを注射したマウスも作製した。
【0269】
(発現解析)
最終投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して脳を摘出した。脳から大脳皮質、小脳、線条体、海馬、および脳幹を別々に採取した。得られた各組織から、実施例1に記載したとおりに、RNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
【0270】
(結果)
実施例24の結果は、
図46のグラフに示される。Toc#1HDOおよびChol#1HDOは、陰性対照(PBSのみ)と比較して、大脳皮質、小脳、線条体、海馬、および脳幹のいずれにおいてもmalat1ノンコーディングRNAの発現を顕著に抑制した。
【0271】
[実施例25]
アンチセンスオリゴヌクレオチドとコレステロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の単回皮下投与による、脳の様々な部位におけるアンチセンス効果の評価
malat1を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドと、コレステロールが結合した相補鎖とからなる二本鎖核酸剤の単回皮下投与による脳内RNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0272】
(核酸剤の調製)
malat1ノンコーディングRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mMalat1)、配列番号1)(第1鎖)を、コレステロール結合型相補鎖RNA(Chol#1-cRNA-Chol#3(mMalat1)、配列番号10)(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤を調製した。具体的には、第2鎖(粉末)を、95℃に加熱したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に入れ、ボルテックスにかけて溶解し、95℃に加熱した第1鎖の溶液と混合し、得られた混合液を95℃で5分間保持し、その後、混合液を37℃で1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。調製した二本鎖核酸剤をChol#1HDOChol#3と称する。
【0273】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mMalat1)
5'-C
*
T
*
A
*g*t*t*c*a*c*t*g*a*a*
T
*
G
*
C-3'(配列番号1)
・第2鎖:Chol#1-cRNA-Chol#3(mMalat1)
5'-Chol#1-g
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-Chol#3-3'(配列番号10)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Chol#1は、上記のコレステロール#1を表す。Chol#3は、上記のコレステロール#3を表す。
【0274】
(in vivo実験)
尾静脈を通じた静脈内注射の代わりに皮下注射を行ったことを除いて実施例3に記載したように、マウスに核酸剤を単回投与した。
【0275】
(発現解析)
投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、小脳、線条体、および脳幹を別々に採取した。定量RT-PCRの内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた各組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
【0276】
(結果)
実施例25の結果は、
図47および48のグラフに示される。Chol#1HDOChol#3は、陰性対照(PBSのみ)と比較して、大脳皮質、小脳、線条体、および脳幹のいずれにおいてもmalat1ノンコーディングRNAの発現を抑制した。
この結果から、本発明の一実施形態に係る二本鎖核酸剤は、皮下投与により、脳の様々な部位に送達され、アンチセンス効果をもたらし得ることが示された。
【0277】
[実施例26]
アンチセンスオリゴヌクレオチドとコレステロール結合型DNA相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の単回投与による、脳の様々な部位におけるアンチセンス効果の評価
malat1を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドと、実施例1~5とは異なりDNA相補鎖とからなる二本鎖核酸剤の単回投与による脳内RNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0278】
(核酸剤の調製)
malat1ノンコーディングRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mMalat1)、配列番号1)(第1鎖)を、コレステロール結合型相補鎖DNA(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤を調製した。下記のように3種類の第2鎖を用いた。第2鎖(粉末)を、95℃に加熱したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に入れ、ボルテックスにかけて溶解し、95℃に加熱した第1鎖の溶液と混合し、得られた混合液を95℃で5分間保持し、その後、混合液を37℃で1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。
【0279】
第2鎖としてChol#1-cDNA(mMalat1) Full DNAを用いて調製した二本鎖核酸剤をChol#1DNA/DNA full DNAと称する。第2鎖としてChol#1-cDNA(mMalat1) Full PSを用いて調製した二本鎖核酸剤をChol#1DNA/DNA full PSと称する。第2鎖としてChol#1-cDNA(mMalat1) Full POを用いて調製した二本鎖核酸剤をChol#1DNA/DNA full POと称する。
【0280】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mMalat1)
5'-C
*
T
*
A
*g*t*t*c*a*c*t*g*a*a*
T
*
G
*
C-3' (配列番号1)
・第2鎖: Chol#1-cDNA(mMalat1) Full DNA
5'-Chol#1-g*c*a*ttcagtgaac*t*a*g-3' (配列番号24)
・第2鎖: Chol#1-cDNA(mMalat1) Full PS
5'-Chol#1-g
*
c
*
a
*t*t*c*a*g*t*g*a*a*c*
u
*
a
*
g-3' (配列番号25)
・第2鎖: Chol#1-cDNA(mMalat1) Full PO
5'-Chol#1-gcattcagtgaacuag-3' (配列番号25)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Chol#1は、上記のコレステロール#1を表す。
【0281】
(in vivo実験)
実施例3に記載したように、マウスに核酸剤を単回投与した。
【0282】
(発現解析)
投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、頸髄および腰髄を別々に採取した。定量RT-PCRの内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた各組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
【0283】
(結果)
実施例26の結果は、
図49および50のグラフに示される。二本鎖剤Chol#1DNA/DNA full DNA、Chol#1DNA/DNA full PS、およびChol#1DNA/DNA full POは、陰性対照(PBSのみ)と比較して、大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、頸髄および腰髄のいずれにおいてもmalat1ノンコーディングRNAの発現を顕著に抑制した。
この結果から、アンチセンスオリゴヌクレオチドと、コレステロールが結合したDNA相補鎖とからなる二本鎖核酸剤は、脳および脊髄の様々な部位に送達され、アンチセンス効果をもたらし得ることが示された。
【0284】
[実施例27]
アンチセンスオリゴヌクレオチドとコレステロール結合型DNA相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の単回投与による、脳の様々な部位におけるmiRNA抑制効果の評価
miRNA-21(miR21)を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドと、相補鎖とからなる二本鎖核酸剤の単回投与による脳内miRNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0285】
(核酸剤の調製)
miR21を標的とする15merの一本鎖LNA/DNAミックスマー(ASO(anti-miR21)、配列番号26)(第1鎖)を、コレステロール結合型相補鎖RNA(Chol#1-cRNA(anti-miR21))、配列番号27)(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤を調製した。第2鎖(粉末)を、95℃に加熱したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に入れ、ボルテックスにかけて溶解し、95℃に加熱した第1鎖の溶液と混合し、得られた混合液を95℃で5分間保持し、その後、混合液を37℃で1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。調製した二本鎖核酸剤をChol#1HDO(antimiR21)と称する。
【0286】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(anti-miR21)
5'-T
*c*
A
*g*t*
C
*
T
*g*a*
T
*a*
A
*g*
C
*
T-3' (配列番号26)
・第2鎖:Chol#1-cRNA(anti-miR21)
5'-Chol#1-a
*
g
*
c
*UUAUCAGAC*
u
*
g
*
a-3' (配列番号27)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Chol#1は、上記のコレステロール#1を表す。
【0287】
(in vivo実験)
実施例3に記載したように、マウスに核酸剤を単回投与した。
【0288】
(発現解析)
投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、小脳、線条体、海馬、および脳幹を別々に採取した。RNAをmiRNeasy Mini Kit(Qiagen社)を使用してプロトコルに従って抽出した。cDNAは、TaqMan MicroRNA Reverse Transcription Kit(Thermo Fisher Scientific社)をプロトコルに従って使用して合成した。定量RT-PCRは、TaqMan(ロシュ・ライフサイエンス社)により実施した。また定量RT-PCRの内部標準遺伝子としてU6を使用した。
【0289】
(結果)
実施例27の結果は、
図51のグラフに示される。Chol#1HDO(anti-miR21)は、陰性対照(PBSのみ)と比較して、大脳皮質、小脳、線条体、海馬および脳幹のいずれにおいてもmiR21の発現を顕著に抑制した。
この結果から、アンチセンスオリゴヌクレオチドと、コレステロールが結合したDNA相補鎖とからなる二本鎖核酸剤は、脳の様々な部位に送達され、anti-miR効果をもたらし得ることが示された。
【0290】
[実施例28]
アンチセンスオリゴヌクレオチドとトコフェロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の単回投与による、脳の様々な部位におけるアンチセンス効果の評価
malat1を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドと、トコフェロールが結合した相補鎖とからなる二本鎖核酸剤の単回投与による脳内RNA発現のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。実施例1とは異なり投与7日後での効果を評価した。
【0291】
(核酸剤の調製)
malat1ノンコーディングRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mMalat1)、配列番号1)(第1鎖)を、トコフェロール結合型相補鎖RNA(Toc#1-cRNA(mMalat1)、配列番号10)(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤を調製した。第1鎖と第2鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。調製した二本鎖核酸剤をToc#1HDOと称する。
【0292】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mMalat1)
5'-C
*
T
*
A
*g*t*t*c*a*c*t*g*a*a*
T
*
G
*
C-3'(配列番号1)
・第2鎖:Toc#1-cRNA(mMalat1)
5'-Toc#1-g
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-3'(配列番号10)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Toc#1は、上記のトコフェロール#1を表す。
【0293】
(in vivo実験)
実施例1に記載したように、マウスに核酸剤を単回投与した。
【0294】
(発現解析)
投与の7日後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、小脳、線条体、海馬、および脳幹を別々に採取した。定量RT-PCRの内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた各組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
【0295】
(結果)
実施例28の結果は、
図52または53のグラフに示される。Toc#1HDOは、陰性対照(PBSのみ)と比較して、7日後においても大脳皮質、小脳、線条体、海馬、および脳幹のいずれにおいてもmalat1ノンコーディングRNAの発現を顕著に抑制した。
この結果から、アンチセンスオリゴヌクレオチドと、トコフェロールが結合した相補鎖とからなる二本鎖核酸剤は、脳の様々な部位に送達され、アンチセンス効果を長期間もたらし得ることが示された。
【0296】
[実施例29]
アンチセンスオリゴヌクレオチドとコレステロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の単回投与による、脳および脊髄の様々な部位におけるアンチセンス効果の評価
相補鎖(第2鎖)の構造を変更した二本鎖核酸剤のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0297】
(核酸剤の調製)
対照(ASO)は、実施例1で用いた、malat1ノンコーディングRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mMalat1)、配列番号1)とした。このLNA/DNAギャップマー(第1鎖)を、コレステロール結合型相補鎖RNA(Chol#1-cRNA(LNA)(mMalat1)、配列番号28)(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤であるコレステロール結合型ヘテロ二重鎖オリゴヌクレオチド(Cholesterol-conjugated heteroduplex oligonucleotide、Chol-HDO)を調製した。具体的には、第2鎖(粉末)を、95℃に加熱したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に入れ、ボルテックスにかけて溶解し、95℃に加熱した第1鎖の溶液と混合し、得られた混合液を95℃で5分間保持し、その後、混合液を37℃で1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。調製した二本鎖核酸剤をChol#1HDO(LNA/LNA)と称する。
【0298】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mMalat1)
5'-C
*
T
*
A
*g*t*t*c*a*c*t*g*a*a*
T
*
G
*
C-3'(配列番号1)
・第2鎖:Chol#1-cRNA(LNA)(mMalat1)
5'-Chol#1-G
*
C
*
A
*UUCAGUGAAC*
T
*
A
*
G-3'(配列番号28)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Chol#1は、上記のコレステロール#1を表す。
【0299】
(in vivo実験)
実施例3に記載したように、マウスに核酸剤を単回投与した。
【0300】
(発現解析)
投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹および頸髄を別々に採取した。定量RT-PCRの内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた各組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
【0301】
(結果)
実施例29の結果は、
図54または55のグラフに示される。Chol#1HDO(LNA/LNA)は、陰性対照(PBSのみ)と比較して、大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、および頸髄いずれにおいてもmalat1ノンコーディングRNAの発現を抑制した。
この結果から、LNAが両端に配置した相補鎖(第2鎖)を用いた二本鎖核酸剤は、脳および脊髄の様々な部位に送達され、アンチセンス効果をもたらし得ることが示された。
【0302】
[実施例30]
アンチセンスオリゴヌクレオチドとコレステロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の単回投与による、脳および脊髄の様々な部位におけるアンチセンス効果の評価
相補鎖(第2鎖)のオリゴヌクレオチドとコレステロール間の結合を変更した二本鎖核酸剤のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0303】
(核酸剤の調製)
対照(ASO)は、実施例1で用いた、malat1ノンコーディングRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mMalat1)、配列番号1)とした。このLNA/DNAギャップマー(第1鎖)を、コレステロール結合型相補鎖RNA(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤であるコレステロール結合型ヘテロ二重鎖オリゴヌクレオチド(Cholesterol-conjugated heteroduplex oligonucleotide、Chol-HDO)を調製した。以下のように2種類の第2鎖を用いた。第2鎖(粉末)を、95℃に加熱したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に入れ、ボルテックスにかけて溶解し、95℃に加熱した第1鎖の溶液と混合し、得られた混合液を95℃で5分間保持し、その後、混合液を37℃で1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。
【0304】
第2鎖としてChol#1-cRNA(PS)(mMalat1)を用いて調製した二本鎖核酸剤をChol#1HDO(PS)と称する。Chol#1-cRNA(PS)(mMalat1)では、コレステロールとオリゴヌクレオチドの5'末端のgとの間がホスホロチオエート結合である。
第2鎖としてChol#1-cRNA(DNA)(mMalat1)を用いて調製した二本鎖核酸剤をChol#1HDO(DNA)と称する。Chol#1-cRNA(DNA)(mMalat1)では、コレステロールと5'末端のgは、4塩基長のDNAで連結されている。
【0305】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mMalat1)
5'-C
*
T
*
A
*g*t*t*c*a*c*t*g*a*a*
T
*
G
*
C-3'(配列番号1)
・第2鎖:Chol#1-cRNA(PS)(mMalat1)
5'-Chol#1*
g
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-3'(配列番号10)
・第2鎖:Chol#1-cRNA(DNA)(mMalat1)
5'-Chol#1-cttcg
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-3'(配列番号29)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Chol#1は、上記のコレステロール#1を表す。
【0306】
(in vivo実験)
実施例3に記載したように、マウスに核酸剤を単回投与した。
【0307】
(発現解析)
投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、頸髄および腰髄を別々に採取した。定量RT-PCRの内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた各組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
【0308】
(結果)
実施例30の結果は、
図56または57のグラフに示される。Chol#1HDO(PS)またはChol#1HDO(DNA)は、陰性対照(PBSのみ)と比較して、大脳皮質、小脳、線条体、海馬、脳幹、頸髄および腰髄いずれにおいてもmalat1ノンコーディングRNAの発現を抑制した。
この結果から、Chol#1HDO(PS)またはChol#1HDO(DNA)は、脳および脊髄の様々な部位に送達され、アンチセンス効果をもたらし得ることが示された。またChol#1HDO(PS)は、Chol#1HDO(DNA)と比較して効果が強い傾向があることが示された。
【0309】
[実施例31]
アンチセンスオリゴヌクレオチドと先端にOH基がついたアルキル基結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の単回投与による、脳の様々な部位におけるアンチセンス効果の評価
トコフェロールおよびコレステロールの代わりに、先端にOH基がついたアルキル基が結合した二本鎖核酸剤のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0310】
(核酸剤の調製)
対照(ASO)は、実施例1で用いた、malat1ノンコーディングRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mMalat1)、配列番号1)とした。このLNA/DNAギャップマー(第1鎖)を、アルキル基結合型相補鎖RNA(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤であるアルキル基結合型ヘテロ二重鎖オリゴヌクレオチドを調製した。以下のように3種類の第2鎖を用いた。第2鎖(粉末)を、95℃に加熱したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に入れ、ボルテックスにかけて溶解し、95℃に加熱した第1鎖の溶液と混合し、得られた混合液を95℃で5分間保持し、その後、混合液を37℃で1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。
【0311】
第2鎖としてC6(OH)-cRNA(mMalat1)を用いて調製した二本鎖核酸剤をC6(OH)HDOと称する。
第2鎖としてC9(OH)-cRNA(mMalat1)を用いて調製した二本鎖核酸剤をC9(OH)HDOと称する。
第2鎖としてC12(OH)-cRNA(mMalat1)を用いて調製した二本鎖核酸剤をC12(OH)HDOと称する。
【0312】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mMalat1)
5'-C
*
T
*
A
*g*t*t*c*a*c*t*g*a*a*
T
*
G
*
C-3'(配列番号1)
・第2鎖:C6(OH)-cRNA(mMalat1)
5'-C6(OH)-g
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-3'(配列番号10)
・第2鎖:C9(OH)-cRNA(mMalat1)
5'-C9(OH)-g
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-3'(配列番号10)
・第2鎖:C12(OH)-cRNA(mMalat1)
5'-C12(OH)-g
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-3'(配列番号10)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。C6(OH)、C9(OH)およびC12(OH)の構造は上に記載されている。
【0313】
(in vivo実験)
実施例3に記載したように、マウスに核酸剤を単回投与した。
【0314】
(発現解析)
投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、小脳、線条体、海馬、および脳幹を別々に採取した。定量RT-PCRの内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた各組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
【0315】
(結果)
実施例31の結果は、
図58または59のグラフに示される。C6(OH)HDO、C9(OH)HDOおよびC12(OH)HDOは、陰性対照(PBSのみ)と比較して、大脳皮質、小脳、線条体、海馬、および脳幹いずれにおいてもmalat1ノンコーディングRNAの発現を抑制した。
この結果から、C6(OH)HDO、C9(OH)HDOまたはC12(OH)HDOは、脳の様々な部位に送達され、アンチセンス効果をもたらし得ることが示された。またC12(OH)HDOは、C6(OH)HDOおよびC9(OH)HDOと比較して効果が強い傾向があることが示された。
【0316】
[実施例32]
アンチセンスオリゴヌクレオチドとコレステロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の単回投与による、脳の様々な部位におけるアンチセンス効果の評価
アンチセンスオリゴヌクレオチド(第1鎖)の構造を、LNAを両側に配置したRNAに変更した二本鎖核酸剤のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0317】
(核酸剤の調製)
対照(ASO)は、malat1ノンコーディングRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/RNAギャップマー(ASO(RNA)(mMalat1)、配列番号30)とした。このLNA/RNAギャップマー(第1鎖)を、コレステロール結合型相補鎖RNA(Chol#1-cRNA(mMalat1)、配列番号10)(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤であるコレステロール結合型ヘテロ二重鎖オリゴヌクレオチド(Cholesterol-conjugated heteroduplex oligonucleotide、Chol-HDO)を調製した。具体的には、第2鎖(粉末)を、95℃に加熱したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に入れ、ボルテックスにかけて溶解し、95℃に加熱した第1鎖の溶液と混合し、得られた混合液を95℃で5分間保持し、その後、混合液を37℃で1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。調製した二本鎖核酸剤をChol#1HDO(RNA/RNA)と称する。
【0318】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(RNA)(mMalat1)
5'-C
*
T
*
A
*G*U*U*C*A*C*U*G*A*A*
T
*
G
*
C-3'(配列番号30)
・第2鎖:Chol#1-cRNA(mMalat1)
5'-Chol#1-g
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-3'(配列番号10)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Chol#1は、上記のコレステロール#1を表す。
【0319】
(in vivo実験)
実施例3に記載したように、マウスに核酸剤を単回投与した。
【0320】
(発現解析)
投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、小脳、線条体、海馬および脳幹を別々に採取した。定量RT-PCRの内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた各組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
【0321】
(結果)
実施例32の結果は、
図60のグラフに示される。Chol#1HDO(RNA/RNA)は、陰性対照(PBSのみ)と比較して、大脳皮質、小脳、線条体、海馬および脳幹いずれにおいてもmalat1ノンコーディングRNAの発現を抑制した。
【0322】
[実施例33]
アンチセンスオリゴヌクレオチドとアルキル基結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の単回投与による、脳の様々な部位におけるアンチセンス効果の評価
トコフェロールおよびコレステロールの代わりにアルキル基が結合した二本鎖核酸剤のin vivo阻害効力を評価する実験を行った。
【0323】
(核酸剤の調製)
対照(ASO)は、実施例1で用いた、malat1ノンコーディングRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mMalat1)、配列番号1)とした。このLNA/DNAギャップマー(第1鎖)を、アルキル基結合型相補鎖RNA(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤であるアルキル基結合型ヘテロ二重鎖オリゴヌクレオチドを調製した。以下のように5種類の第2鎖を用いた。第2鎖(粉末)を、95℃に加熱したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に入れ、ボルテックスにかけて溶解し、95℃に加熱した第1鎖の溶液と混合し、得られた混合液を95℃で5分間保持し、その後、混合液を37℃で1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。
【0324】
第2鎖としてC3-cRNA(mMalat1)を用いて調製した二本鎖核酸剤をC3HDOと称する。
第2鎖としてC4-cRNA(mMalat1)を用いて調製した二本鎖核酸剤をC4HDOと称する。
第2鎖としてC8-cRNA(mMalat1)を用いて調製した二本鎖核酸剤をC8HDOと称する。
第2鎖としてC10-cRNA(mMalat1)を用いて調製した二本鎖核酸剤をC10HDOと称する。
第2鎖としてC12-cRNA(mMalat1)を用いて調製した二本鎖核酸剤をC12HDOと称する。
【0325】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mMalat1)
5'-C
*
T
*
A
*g*t*t*c*a*c*t*g*a*a*
T
*
G
*
C-3'(配列番号1)
・第2鎖:C3-cRNA(mMalat1)
5'-C3-g
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-3'(配列番号10)
・第2鎖:C4-cRNA(mMalat1)
5'-C4-g
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-3'(配列番号10)
・第2鎖:C8-cRNA(mMalat1)
5'-C8-g
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-3'(配列番号10)
・第2鎖:C10-cRNA(mMalat1)
5'-C10-g
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-3'(配列番号10)
・第2鎖:C12-cRNA(mMalat1)
5'-C12-g
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-3'(配列番号10)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。C3、C4、C8、C10およびC12の構造は上に記載されている。
【0326】
(in vivo実験)
実施例3に記載したように、マウスに核酸剤を単回投与した。
【0327】
(発現解析)
投与の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して大脳皮質、小脳、線条体、海馬、および脳幹を別々に採取した。定量RT-PCRの内部標準遺伝子としてGAPDHの代わりにアクチンを用いたことを除き実施例1に記載したように、得られた各組織からのRNA抽出、cDNA合成、および定量RT-PCRを行い、malat1ノンコーディングRNAの発現レベルを評価した。
【0328】
(結果)
実施例33の結果は、
図61または62のグラフに示される。C3HDO、C4HDO、C8HDO、C10HDOおよびC12HDOは、陰性対照(PBSのみ)と比較して、大脳皮質、小脳、線条体、海馬、および脳幹いずれにおいてもmalat1ノンコーディングRNAの発現を抑制した。
【0329】
[実施例34]
アンチセンスオリゴヌクレオチドとコレステロール結合型相補鎖とからなる二本鎖核酸複合体の投与による、血小板数への影響の評価
二本鎖核酸剤の血小板数への影響を評価する実験を行った。
【0330】
(核酸剤の調製)
対照(ASO)は、実施例1で用いた、malat1ノンコーディングRNAを標的とする16merの一本鎖LNA/DNAギャップマー(ASO(mMalat1)、配列番号1)とした。このLNA/DNAギャップマー(第1鎖)を、コレステロール結合型相補鎖RNA(Chol#1-cRNA(mMalat1)、配列番号10)(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖核酸剤であるコレステロール結合型ヘテロ二重鎖オリゴヌクレオチド(Cholesterol-conjugated heteroduplex oligonucleotide、Chol-HDO)を調製した。具体的には、第2鎖(粉末)を、95℃に加熱したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に入れ、ボルテックスにかけて溶解し、95℃に加熱した第1鎖の溶液と混合し、得られた混合液を95℃で5分間保持し、その後、混合液を37℃で1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして上記の二本鎖核酸剤を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。調製した二本鎖核酸剤をChol#1HDOと称する。
【0331】
本実施例で用いた第1鎖および第2鎖の名称および配列を以下に示す。
・第1鎖:ASO(mMalat1)
5'-C
*
T
*
A
*g*t*t*c*a*c*t*g*a*a*
T
*
G
*
C-3'(配列番号1)
・第2鎖:Chol#1-cRNA(mMalat1)
5'-Chol#1-g
*
c
*
a
*UUCAGUGAAC*
u
*
a
*
g-3'(配列番号10)
下線付の大文字はLNAを表し(Cは5-メチルシトシンLNAを表す)、小文字はDNAを表し、大文字はRNAを表し、下線付きの小文字は2'-O-メチル化RNAを表し、星印はホスホロチオエート結合を表す。Chol#1は、上記のコレステロール#1を表す。
【0332】
(in vivo実験)
マウスに核酸剤を25mg/kgの用量で2回(3日間隔)静脈投与するか、または50mg/kgの用量で1回静脈投与して、血小板数を評価した。また同様にマウスに核酸剤を50mg/kgの用量で1回静脈投与するか、または50mg/kgの用量で1回皮下投与をして、血小板数を評価した。
【0333】
(血小板数の解析)
投与の72時間後または7日後、採血を行い、LSIメディエンス社により血小板数を測定した。
【0334】
(結果)
実施例34の結果は、
図63のグラフに示される。25mg/kgの用量で2回静脈投与した場合、50mg/kgの用量で1回静脈投与した場合と比較して、血小板数の低下は見られなかった。また50mg/kgの用量で1回皮下投与した場合、50mg/kgの用量で1回静脈投与した場合と比較して、血小板数の低下は見られなかった。
この結果から、本発明に係る二本鎖核酸剤は、1回あたりの投与量を減少させるか、または皮下投与することにより、血小板減少を回避できることが示された。
【0335】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【配列表】