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特許7554490ヒータ、定着装置、画像形成装置及び加熱装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ヒータ、定着装置、画像形成装置及び加熱装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/10 20060101AFI20240912BHJP
   G03G 15/20 20060101ALI20240912BHJP
   H05B 3/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H05B3/10 A
G03G15/20 515
H05B3/00 335
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022117504
(22)【出願日】2022-07-22
(65)【公開番号】P2024014572
(43)【公開日】2024-02-01
【審査請求日】2024-04-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500201163
【氏名又は名称】株式会社美鈴工業
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】梅村 裕司
(72)【発明者】
【氏名】藤田 恭士
(72)【発明者】
【氏名】亀谷 真世
(72)【発明者】
【氏名】小林 健太
【審査官】豊島 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/112058(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/090692(WO,A1)
【文献】特開2002-141159(JP,A)
【文献】特開2011-121477(JP,A)
【文献】国際公開第03/102699(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/00-3/86
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に仮想的な境界線により区画された複数の発熱セルが並べて配置され、前記基体と対面された状態の被加熱物を加熱するヒータであって、
前記基体と、
各前記発熱セル内に形成され、複数の配線が並行して形成された並行配線と、隣接する前記発熱セルとの間の前記境界線近傍において前記並行配線を折り返すように形成された折返配線とが連接され、全体としてつづら折り形状をなす1本の抵抗発熱線と、
を備え、
隣り合う前記発熱セルにおいて、一方の前記発熱セルの前記抵抗発熱線は、前記境界線を越えて前記並行配線を延伸させるように形成された延伸部を有し、他方の前記発熱セルの前記抵抗発熱線は、前記延伸部に対向する部位の配線が前記延伸部との間で電気的絶縁を保つように短縮又は変形されており、
隣り合う前記発熱セルの前記抵抗発熱線は、前記境界線方向に交互に前記延伸部を備え、
前記延伸部を形成するために延伸された前記並行配線は、複数の前記発熱セルの配列方向と傾斜した傾斜部を有することを特徴とするヒータ。
【請求項2】
前記抵抗発熱線の前記延伸部は前記境界線を挟み、その全部又は一部が前記境界線に対して所定の角度で傾斜して設けられている請求項1記載のヒータ。
【請求項3】
前記抵抗発熱線は、前記並行配線に湾曲部を有し、
前記湾曲部は、隣り合う前記発熱セルの前記抵抗発熱線の間隙に向けて凸状に形成されている請求項記載のヒータ。
【請求項4】
複数の前記発熱セルは1つの直線方向に並べて配置されている請求項記載のヒータ。
【請求項5】
隣り合う前記発熱セルの間の前記境界線は、前記1つの直線に対して所定の角度で傾斜している請求項4記載のヒータ。
【請求項6】
前記抵抗発熱線は、前記並行配線に湾曲部を有し、
前記湾曲部は、隣り合う前記発熱セルの前記抵抗発熱線の間隙に向けて凸状に形成されている請求項4記載のヒータ。
【請求項7】
前記境界線方向の上端部又は下端部においては、前記折返配線は前記1つの直線と平行に形成されている請求項4記載のヒータ。
【請求項8】
前記1つの直線と垂直方向に前記基体と前記被加熱物とが相対的に掃引されることによって前記被加熱物を加熱する請求項4記載のヒータ。
【請求項9】
複数の前記発熱セルは1つの円の周方向に並べて配置されている請求項記載のヒータ。
【請求項10】
隣り合う前記発熱セルの間の前記境界線は、前記1つの円を中心回りに等角に分割する請求項9記載のヒータ。
【請求項11】
隣り合う前記発熱セルの間の前記境界線は、前記1つの円を中心回りに等角に分割する線分に対して所定の角度で傾斜している請求項9記載のヒータ。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載のヒータを備えることを特徴とする定着装置。
【請求項13】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載のヒータを備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項14】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載のヒータを備えることを特徴とする加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒータ、定着装置、画像形成装置及び加熱装置に関する。詳しくは、複数の発熱セルを備え且つ均熱性の高いヒータ、このようなヒータを備える定着装置、画像形成装置及び加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物の熱処理を行うための加熱手段として、通電発熱する発熱セルを基板上に設けたヒータが知られている。このようなヒータは、薄くコンパクトにできるため、例えば、複写機やプリンター等の定着用途に利用されたり、パネル等の被処理体を加熱乾燥させる乾燥機に組み込まれて利用されたりしている。これらの用途では、複数の発熱セルを電気的に並列に接続し、発熱面内における温度分布を均一化することができるヒータが開示されている(例えば、特許文献1~3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/073276号パンフレット
【文献】国際公開第2017/090692号パンフレット
【文献】国際公開第2019/112058号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基体と対面された状態の被加熱物を加熱するヒータが知られている。例えば、1つの基体上に複数の発熱セルが設けられ、各発熱セルにはつづら折れ形状をなす抵抗発熱線が形成されたヒータが開示されている(例えば、特許文献1を参照)。このヒータでは、正の抵抗温度係数を有する抵抗発熱材料が使用され、各発熱セルは電気的並列に接続されているため、互いに温度を自己的に均熱することができ、長手方向に均熱なヒータを得ることができる。また、特定の発熱セルの過昇温を防止することができる。
また、基体に対して被加熱物が掃引される用途において、特許文献1に記載のヒータは、図16に示すように、発熱セル同士の間隙である抵抗発熱線の非形成部Iがヒータの長手方向に対して傾斜されているため、掃引方向Wに対して抵抗発熱線30の非形成部Iによる発熱の落ち込みの影響が緩和されている。
【0005】
しかしながら、昨今、隣接された発熱セル間の均熱性は、各段に高いレベルで求められつつある。また、掃引方向に対して、極端に幅狭なヒータが要望されている。このため、特許文献1に開示されたようなヒータを、単純に、掃引方向により幅狭となるように切り詰めても、非形成部による発熱の落ち込みの影響を掃引方向に対して十分に緩和することが困難な状況になっている。
【0006】
そこで、本願の発明者らは、隣接した発熱セル同士の抵抗発熱線パターンを互いに入り組ませることにより、発熱セル同士の間隙を分散させたヒータを提案した(特許文献2)。また、つづら折れ形状における折返部を、横配線と斜配線とが連接されたパターンとすることにより、発熱セル間に生じる熱的な空白を埋めることができるヒータを提案した(特許文献3)。これにより、掃引方向に幅狭なヒータであっても優れた均熱性を実現できた。しかしながら、これらの構成を採用し難いヒータも存在し、更に高い均熱性が求められてきている。このため、より多様な形態のヒータに適用することができ、複数の発熱セル間の均熱性を向上させることが必要となっている。更に、ヒータに通電後、利用可能な温度となったときの均熱、すなわち通電後の速やかな均熱化も強く望まれている。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、複数の発熱セル同士の境界部の発熱性を改善して、ヒータ全体の均熱性を向上させたヒータを提供することを目的とする。更に、このようなヒータを備える定着装置、画像形成装置及び加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下のとおりである。
1.基体上に仮想的な境界線により区画された複数の発熱セルが並べて配置され、前記基体と対面された状態の被加熱物を加熱するヒータであって、
前記基体と、
各前記発熱セル内に形成され、複数の配線が並行して形成された並行配線と、隣接する前記発熱セルとの間の前記境界線近傍において前記並行配線を折り返すように形成された折返配線とが連接され、全体としてつづら折り形状をなす1本の抵抗発熱線と、
を備え、
隣り合う前記発熱セルにおいて、一方の前記発熱セルの前記抵抗発熱線は、前記境界線を越えて前記並行配線を延伸させるように形成された延伸部を有し、他方の前記発熱セルの前記抵抗発熱線は、前記延伸部に対向する部位の配線が前記延伸部との間で電気的絶縁を保つように短縮又は変形されており、
隣り合う前記発熱セルの前記抵抗発熱線は、前記境界線方向に交互に前記延伸部を備えることを要旨とする。
2.前記1.記載のヒータにおいて、前記抵抗発熱線の前記延伸部は前記境界線を挟み、その全部又は一部が前記境界線に対して所定の角度で傾斜して設けられていることを要旨とする。
3.前記1.又は2.に記載のヒータにおいて、前記抵抗発熱線は、前記並行配線に湾曲部を有し、
前記湾曲部は、隣り合う前記発熱セルの前記抵抗発熱線の間隙に向けて凸状に形成されていることを要旨とする。
4.前記1.又は2.に記載のヒータにおいて、複数の前記発熱セルは1つの直線方向に並べて配置されていることを要旨とする。
5.前記4.記載のヒータにおいて、隣り合う前記発熱セルの間の前記境界線は、前記1つの直線に対して所定の角度で傾斜していることを要旨とする。
6.前記4.記載のヒータにおいて、前記抵抗発熱線は、前記並行配線に湾曲部を有し、
前記湾曲部は、隣り合う前記発熱セルの前記抵抗発熱線の間隙に向けて凸状に形成されていることを要旨とする。
7.前記4.記載のヒータにおいて、前記折返配線は隣接する前記発熱セルとの間の前記境界線と略平行に形成されていることを要旨とする。
参考として、前記4.記載のヒータにおいて、各前記発熱セルの前記抵抗発熱線は各別に給電を受けるようにすることができる。
8.前記4.記載のヒータにおいて、前記1つの直線と垂直方向に前記基体と前記被加熱物とが相対的に掃引されることによって前記被加熱物を加熱することを要旨とする。
9.前記1.又は2.に記載のヒータにおいて、複数の前記発熱セルは1つの円の周方向に並べて配置されていることを要旨とする。
10.前記9.記載のヒータにおいて、隣り合う前記発熱セルの間の前記境界線は、前記1つの円を中心回りに等角に分割することを要旨とする。
11.前記9.記載のヒータにおいて、隣り合う前記発熱セルの間の前記境界線は、前記1つの円を中心回りに等角に分割する線分に対して所定の角度で傾斜していることを要旨とする。
参考として、前記9.記載のヒータにおいて、前記抵抗発熱線は、前記並行配線に湾曲部を有し、
前記湾曲部は、隣り合う前記発熱セルの前記抵抗発熱線の間隙に向けて凸状に形成されているようにすることができる。
また、前記9.記載のヒータにおいて、前記折返配線は隣接する前記発熱セルとの間の前記境界線と略平行に形成されているようにすることができる。
また、前記9.記載のヒータにおいて、前記境界線方向の上端部又は下端部においては、前記折返配線は前記1つの円の周方向に形成されているようにすることができる。
また、前記9.記載のヒータにおいて、各前記発熱セルの前記抵抗発熱線は各別に給電を受けるようにすることができる。
12.定着装置は、前記1.乃至11.のいずれかに記載のヒータを備えることを要旨とする。
13.画像形成装置は、前記1.乃至11.のいずれかに記載のヒータを備えることを要旨とする。
14.加熱装置は、前記1.乃至11.のいずれかに記載のヒータを備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のヒータによれば、基体上に仮想的な境界線により区画された複数の発熱セルが並べて配置され、前記基体と対面された状態の被加熱物を加熱するヒータであって、前記基体と、各前記発熱セル内に形成され、複数の配線が並行して形成された並行配線と、隣接する前記発熱セルとの間の前記境界線近傍において前記並行配線を折り返すように形成された折返配線とが連接され、全体としてつづら折り形状をなす1本の抵抗発熱線と、を備え、隣り合う前記発熱セルにおいて、一方の前記発熱セルの前記抵抗発熱線は、前記境界線を越えて前記並行配線を延伸させるように形成された延伸部を有し、他方の前記発熱セルの前記抵抗発熱線は、前記延伸部に対向する部位の配線が前記延伸部との間で電気的絶縁を保つように短縮又は変形されており、隣り合う前記発熱セルの前記抵抗発熱線は、前記境界線方向に交互に前記延伸部を備えるため、隣接した発熱セル同士の境界線を跨いで入り組んだ抵抗発熱線により境界領域の発熱性が大きく改善され、ヒータ全体の極めて高い均熱性を得ることができる。また、ヒータに通電後、利用可能な温度となったときの均熱性が改善される。すなわち、発熱セル同士の境界領域の発熱性が改善されるため、通電後速やかに境界部の温度が上昇し、ヒータ立ち上がり時から均一性の高い加熱性能を発揮することができる。
【0010】
前記抵抗発熱線の前記延伸部は前記境界線を挟み、その全部又は一部が前記境界線に対して所定の角度で傾斜して設けられている場合は、傾斜した延伸部により隣接した発熱セル同士のより入り組んだ抵抗発熱線とすることができ、境界領域における発熱範囲を広げ、温度低下を効果的に防止することができる。
前記抵抗発熱線は、前記並行配線に湾曲部を有し、前記湾曲部は、隣り合う前記発熱セルの前記抵抗発熱線の間隙に向けて凸状に形成されている場合は、湾曲部により隣接した発熱セルの配線間の隙間を埋めるように抵抗発熱線を形成し、境界領域における発熱の均一性を更に改善することができる。
【0011】
複数の前記発熱セルは1つの直線の方向に並べて配置されている場合は、一方向に長く且つ全長にわたって均熱性の高い発熱部を有するヒータを構成することができる。
隣り合う前記発熱セルの間の前記境界線は、前記1つの直線に対して所定の角度で傾斜している場合は、隣接する発熱セル間の非発熱部が前記1つの直線と垂直方向に並ばないようにすることができ、特にヒータと被加熱物とが相対的に前記垂直方向に移動する場合に、被加熱物に対して均一な加熱を与えることができる。
前記抵抗発熱線は、前記並行配線に湾曲部を有し、前記湾曲部は、隣り合う前記発熱セルの前記抵抗発熱線の間隙に向けて凸状に形成されている場合は、湾曲部により隣接した発熱セルの配線間の隙間を埋めるように抵抗発熱線を形成し、境界領域における発熱の均一性を更に改善することができる。
なお、前記折返配線は隣接する前記発熱セルとの間の前記境界線と略平行に形成されている場合には、延伸部の配線及びそれに対向する部位の配線と好適に接続することができる。
前記境界線方向の上端部又は下端部においては、前記折返配線は前記1つの直線と平行に形成されている場合は、境界線方向の端部において隣接する発熱セル間の非発熱部を減らすことができる。
なお、各前記発熱セルの前記抵抗発熱線は各別に給電を受ける場合は、発熱セル毎の発熱を制御することができる。また、複数の発熱セルの抵抗発熱線を電気的に並列に接続すれば、発熱セル毎の温度が均一化され、全体にわたって均一な加熱性能を得ることができる。
前記1つの直線と垂直方向に前記基体と前記被加熱物とが相対的に掃引されることによって前記被加熱物を加熱する場合は、前記1つの直線と垂直方向に幅の狭いヒータにより前記垂直方向に長い対象物を加熱することができる。
【0012】
複数の前記発熱セルは1つの円の周方向に並べて配置されている場合は、円板状等の基体に複数の発熱セルを好適に配置することができ、全周にわたって均熱性の高い発熱部を有するヒータを構成することができる。
また、発熱セルが1つの円の周方向に並べて配置されている場合にも、発熱セルが1つの直線の方向に並べて配置されている場合と同様な構成を適用し、同様な効果を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ヒータの基本的な構成を示す模式的な平面図である。
図2】発熱セルが直線状に配列されたヒータの例を示す模式的な平面図である。
図3】発熱セルが円形状に配列されたヒータの例を示す模式的な平面図である。
図4】円形状に配列された発熱セル群を2組設けたヒータの例を示す模式的な平面図である。
図5】抵抗発熱線の配線例を示す模式的な平面図である。
図6】隣り合う発熱セル間の非配線領域を説明するための平面図である。
図7】抵抗発熱線の別の配線例を示す模式的な平面図である。
図8】抵抗発熱線の別の配線例を示す模式的な平面図である。
図9】抵抗発熱線の配線の変形例を示す模式的な平面図である。
図10】抵抗発熱線の配線の別の変形例を示す模式的な平面図である。
図11】電源投入直後のヒータの温度分布の例を示すグラフである。
図12】ヒータの使用時の温度分布の例を示すグラフである。
図13】ヒータを使用した定着装置の一例を表す概略斜視図である。
図14】ヒータを使用した定着装置の他例を表す概略斜視図である。
図15】ヒータを使用した画像形成装置の一例を表す概略図である。
図16】従来のヒータにおいて隣り合う発熱セル間の非配線領域を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図を参照しながら、本発明を詳しく説明する。
1.ヒータ
本実施形態に係るヒータ(1)は、基体(2)上に仮想的な境界線(B)により区画された複数の発熱セル(C)が並べて配置され、基体(2)と対面された状態の被加熱物を加熱するヒータである。ヒータ(1)は、基体(2)と、各発熱セル(C)内に形成された抵抗発熱線(3)と、を備える(図1、2参照)。
この他、基体(2)上には、各発熱セル(C)に給電するための1対以上の給電配線(F)、外部電源と接続するための給電端子、温度センサ等を設けることができる。尚、発熱セル自体に給電配線が備えられてもよい。
ヒータ(1)は、被加熱物との位置関係を固定して被加熱物を加熱するようにしてもよいし、ヒータ及び被加熱物の一方又は両方を動かして相対的に掃引して被加熱物を加熱することもできる。
【0015】
(基体)
基体(2)は、複数の発熱セル(C)を支持する基板である。基体(2)の表面形状は特に問わず、例えば、長方形状(図2参照)、円形状(図3参照)等とすることができるが、それに限られず、用途に合わせて正方形状、L字状、弧状及び扇状等の任意の形状を選択することができる。また、基体(2)の厚さは、その材質や平面寸法、必要な強度等に応じて定められればよい。
【0016】
ヒータ(1)の発熱面と被加熱物とが対面された状態で、被加熱物とヒータ(1)とを相対的に掃引方向に掃引させて被加熱物を加熱するような用途において、基体(2)の掃引方向の断面形状は、平面形状の他、掃引方向と直交する軸を中心として被加熱物との対面側に凸状な円弧形状(即ち、円柱又は円筒を、中心軸に平行な平面で切り取った形状)とすることができる。この場合、各抵抗発熱配線は、凸状の面上に配設することもできるし、反対側の面(凹状の面)上に配設することもできる。このような形状とすることにより、ヒータを円筒状のロールに取り付け、ロールを回転させることによって、ロール上を掃引される被加熱物を効率的に加熱することができる。
【0017】
基体(2)を構成する材料は限定されず、例えば、金属、セラミックス及びこれらの複合材料等を利用できる。
基体(2)を構成する金属としては、スチール等を挙げることができ、なかでもステンレスを好適に用いることができる。ステンレスの種類は特に限定されず、フェライト系ステンレス及び/又はオーステナイト系ステンレスが好ましい。これらのステンレスのなかでも、特に耐熱性及び/又は耐酸化性に優れた品種が好ましい。例えば、SUS430、SUS436、SUS444、SUS316L等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
また、基体(2)を構成する金属として、アルミニウム、マグネシウム、銅及びこれらの金属の合金を用いることができる。これらは1種のみで用いてもよく2種以上を併用してもよい。そのうち、アルミニウム、マグネシウム、及び、これらの合金(アルミニウム合金、マグネシウム合金、Al-Mg合金等)は比重が小さいため、これらを採用することによって本ヒータの軽量化を図ることができる。また、銅及びその合金は、熱伝導性に優れているため、これらを採用することによって本ヒータの均熱性の向上を図ることができる。
【0018】
基体(2)の材料として金属等の導電材を用いる場合には、導電材とその上に設けられる配線(抵抗発熱線、給電配線、給電端子等)との電気的絶縁のため、基体(2)は導電材上に絶縁層を設けて構成される。この場合、発熱セルは、その絶縁層上に形成されることとなる。
絶縁層の材料は特に限定されないが、例えば、ガラス、セラミックス、ガラス・セラミックス等が好ましい。これらのなかでも、基体(2)を構成する材料として金属(ステンレス等)を用いる場合、絶縁層の材料は、その熱膨張バランスの観点から、ガラスが好ましく、結晶化ガラス及び半結晶化ガラスがより好ましい。具体的には、SiO-Al-MO系ガラスが好ましい。ここで、MOは、アルカリ土類金属の酸化物(MgO、CaO、BaO、SrO等)である。絶縁層の厚さは特に限定されない(例えば、30~200μm程度)。
【0019】
また、セラミックスを用いて基体(2)を構成する場合、基体の材料は、その上に設けられる配線(抵抗発熱線、給電配線、給電端子等)との間の電気的絶縁を達することができるものであればよい。好ましい基体の材料として、例えば、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ジルコニア、シリカ、ムライト、スピネル、コージェライト、窒化ケイ素等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。これらのうち、酸化アルミニウム及び窒化アルミニウムがより好ましい。
また、基体(2)として、金属とセラミックスとの複合材料を用いることもできる。好ましい複合材料として、例えば、SiC/C、SiC/Al等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0020】
(発熱セル)
基体(2)上には、仮想的な境界線(B)により区画された複数の発熱セル(C)が並べて配置される。発熱セル(C)の配列方法は限定されないが、基本的な構成例として、複数の発熱セル(C)が1つの直線方向又は1つの円の周方向に並ぶような配列を挙げることができる(図2、3参照)。1つの基体(2)上に、そのような基本的な構成の発熱セル群が複数配設されてもよい(図4参照)。
【0021】
隣り合う発熱セル(C)は間隙を挟んで分離され、電気的に絶縁されている。境界線(B)は、複数の発熱セル(C)を区画するために設計上設けられた境界線である(図1、2参照)。境界線(B)は直線状であってもよいし、曲線状や波状であってもよい。
境界線(B)は、複数の発熱セル(C)の配列方向(例えば、前記1つの直線方向又は前記1つの円の周方向)と垂直方向に設定することができる。また、境界線(B)は、複数の発熱セル(C)の配列方向に対して傾斜して設定されてもよい。例えば、発熱セル群が1つの直線方向に配列される場合、境界線(B)はその1つの直線方向と垂直方向であってもよいし、前記1つの直線に対して所定の角度で傾斜して設けられてもよい。また、発熱セル群が1つの円の周方向に配列される場合、境界線(B)はその1つの円の半径方向であってもよいし、周方向に対して所定の角度で傾斜して設けられてもよい。前記所定の角度は、発熱セル(C)の幅(発熱セルの配列方向に垂直な方向のサイズ)等に応じて任意に設定されればよく、例えば、発熱セルの配列方向に対して15度~90度(又は90度~165度)、好ましくは25度~65度(又は115度~155度)、より好ましくは35度~55度(又は125度~145度)とすることができる。
3以上の発熱セル(C)が配列されている場合、各発熱セルの境界線(B)の発熱セルの配列方向に対する傾きは、同じ角度である必要はなく、それぞれ異なる角度で傾斜していてもよい。例えば、4つの発熱セル(C~C)が配列されている場合、発熱セルC~Cの配列方向に対し、CとCとの境界線(B)は45度傾斜し、CとCとの境界線(B)は135度傾斜し、CとCとの境界線(B)は45度傾斜するように構成することができる。
【0022】
(抵抗発熱線)
ヒータ(1)は、各発熱セル(C)内に形成され、複数の配線が並行して形成された並行配線(L)と、隣接する発熱セルとの間の境界線(B)近傍において並行配線(L)を折り返すように形成された折返配線(L)とが連接され、全体としてつづら折り形状をなす1本の抵抗発熱線(3)を備える(図1参照)。
つづら折り形状とは、例えば、3本の並行配線Lを順にL11、L12、L13とした場合に、L11とL12とを各々の一端で折返配線Lにより接続し、L12とL13とを各々の他端で折返配線Lにより接続した形状である。また、4本の並行配線Lを、順に、L11、L12、L13、L14とした場合に、L11とL12とが各々の一端で接続され、L12とL13とが各々の他端で接続され、L13とL14とが各々の一端で接続される。
【0023】
尚、図面においては、並行配線と折返配線との接続部や延伸部等の配線が屈曲する部位の角が面取りして描かれているが、これらの角は面取りされていなくてもよい。
【0024】
抵抗発熱線(3)の配線材料として高TCR材料(抵抗温度係数が高い材料)を選択する場合、材料単独で得られる抵抗率が低くなるため、並行配線と折返配線をと組み合わせたつづら折れ形状を用い、配線幅を細く且つ配線長を折り返し回数倍に長くして抵抗値を大きくすることにより、実用的なヒータに要求される発熱量を得ることができる。
つづら折れ形状の抵抗発熱線(3)において、配線の膜厚及び幅は、1つの発熱セル(C)内で略同一にすることが好ましい。また、異なる発熱セル(C)同士でも略同一にすることが好ましい。当然ながら、各発熱セルでは、必要に応じ、適宜、温度勾配を設けたりする目的で、膜厚や配線幅を変化させてもよい。
配線幅と配線間距離(絶縁距離)は、適宜のものとすることができる(例えば、いずれも、0.1mm~3.5mm、好ましくは0.3mm~2.0mm、更に好ましくは0.4mm~1.2mm)。
【0025】
並行配線(L)は、抵抗発熱線(3)のうち、複数が略並行に配置された配線部分である。並行配線(L)は、複数の発熱セル(C)の配列方向に沿った方向、即ち境界線(B)と交差する方向に形成される。例えば、複数の発熱セル(C)が1つの直線方向に配列されている場合、並行配線(L)は、1つの抵抗発熱線において前記1つの直線に略平行な方向に形成された複数の配線部分である。また、複数の発熱セル(C)が1つの円の周方向に配列されている場合、1つの抵抗発熱線において略同心円に形成された複数の配線部分が並行配線(L)となる。また、1つの抵抗発熱線(3)全体が円弧状(楕円の円弧状も含む。)である場合、並行配線(L)は略同心円状となるように配置された配線部分とすることができる。
更に、並行配線(L)の形状は直線状、円弧状に限られず、1以上の屈曲部を備える線状、蛇行する曲線状、その他不定形の直線又は曲線とすることができ、これらの複数の配線が略並行に配置されていれば並行配線(L)とすることができる。
【0026】
複数の発熱セル(例えば、発熱セルC1及びC2)は1列に配設されるが、各発熱セルが有する各並行配線L同士は、互いに、並行配線Lを発熱セルCの配列方向に延長した場合に重なることが好ましい。即ち、各発熱セルCの各並行配線L同士が、直線状の並行配線Lであれば同一直線状、円弧状の並行配線Lであれば同一の円の円周上となることが好ましい。
【0027】
折返配線(L)は、抵抗発熱線(3)のうち、隣り合う2本の並行配線(L)の端部間を接続することで、隣り合う2本の並行配線(L)がつづら折りの一部となる1つの折り返し形状となるように接続する配線部分である。1つの発熱セルCが有する並行配線(L)の数がnの場合、折返配線Lの数は、通常n-1となる。発熱セルに孔や他の構成要素を備える場合、この数に限られない。
並行配線(L)と折返配線(L)とがなす角度は限定されない。例えば、折返配線(L)は隣接する発熱セルとの間の境界線(B)と略平行に形成することができる。
【0028】
折返配線(L)の傾斜角度は特に限定されず、例えば、境界線(B)とほぼ平行になる角度とすることができる(図1参照)。また、1つの発熱セル(C)の抵抗発熱線(3)が有する複数の折返配線(L)同士は、互いに、並行配線Lに対して異なる傾斜角度を有してもよいが、実質的に同じ傾斜角度を有することが好ましい。
発熱セル(C)の境界線(B)方向の上端部又は下端部においては、隣接する発熱セル(C)間の抵抗発熱線(3)の空白部(非発熱部)を減らすように、折返配線(L)を変形したり傾斜角度を変更したりすることが好ましい。例えば、発熱セル(C)が1つの直線方向に並べて配列されている場合、折返配線(L)は、境界線(B)方向の上端部又は下端部において前記1つの直線方向と略平行に形成することができる。
【0029】
発熱セル(C)を構成する抵抗発熱線(3)の材料として、通電により抵抗値に応じた発熱をすることができる導電材料を用いることができる。この導電材料は限定されないが、例えば、銀、銅、金、白金、パラジウム、ロジウム、タングステン、モリブデン、レニウム(Re)及びルテニウム(Ru)等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合においては合金とすることができる。より具体的には、銀-パラジウム合金、銀-白金合金、白金-ロジウム合金、銀-ルテニウム、銀、銅及び金等を利用できる。
【0030】
各発熱セル(C)は、どのような抵抗発熱特性を有してもよいが、各発熱セル間で、自己温度均衡作用(自己温度補完作用)を発揮できることが好ましい。その観点から、抵抗発熱線(3)を構成する導電材料は、正の抵抗温度係数を有することが好ましい。具体的には、-200℃以上1000℃以下の温度範囲における抵抗温度係数が100ppm/℃以上4400ppm/℃以下であることが好ましく、更には、300ppm/℃以上3700ppm/℃以下であることがより好ましく、500ppm/℃以上3000ppm/℃以下であることが特に好ましい。このような材料としては、銀-パラジウム合金等の銀系合金が挙げられる。
正の抵抗温度係数を有する導電材料を用いて形成された複数の抵抗発熱線(即ち、発熱セル)が、電気的に並列に接続されている場合、これらの複数の発熱セル同士は自己温度均衡の作用を奏する。即ち、例えば、第1発熱セル及び第3発熱セルに挟まれて、第2発熱セルがある場合、第2発熱セルの温度が低下すると、第1発熱セル及び第3発熱セルから熱が補われる。この熱の補充により結果的に、温度低下した第1発熱セル及び第3発熱セルへの電流が増加し、奪われた熱による温度低下を自律的に回復しようとする作用が働くこととなる。つまり、第2発熱セルの周囲の発熱セルが、第2発熱セルの温度低下を補完するように振る舞うこととなる。このように、正の抵抗温度係数を有する導電材料を用いて形成された複数の抵抗発熱線を備えるヒータは、複数の発熱セルにわたって均一に発熱するように自律的に制御される。
【0031】
ヒータの抵抗発熱線に利用される一般的な金属材料をみると、例えば、銀(20℃において、抵抗率ρ=1.62×10-8Ωm、温度係数α=4.1×10-3/℃)を用いる場合、温度係数αは大きいものの、抵抗率ρが小さいため高抵抗値とすることが困難となる。そこで、銀よりも抵抗率ρが大きいパラジウム(ρ=10.8×10-8Ωm、α=3.7×10-3/℃)を添加できるが、抵抗率ρは増加しても、温度係数αが低下してしまう。このように、高TCR特性を有する材料を選択すると、抵抗率が低くなる傾向にある。このため、抵抗発熱配線を、高TCR且つ実用的抵抗値にするには、配線長を長くする必要がある。つづら折れ形状を採用することにより、配線長を長くして高抵抗値化することができる。
【0032】
1対の電極に接続されている複数の発熱セル(C)の抵抗発熱線(3)は、電気的に並列に接続することができる。並列に接続された発熱セルは発熱制御を一括で行うことができる。並列に接続された各発熱セルは、抵抗値、抵抗発熱特性等の電気的特性が略揃っていることが好ましい。
【0033】
(延伸部)
延伸部(31)は、1つの発熱セルを構成する抵抗発熱線(3)の並行配線及び折返配線の一方又は両方が境界線(B)を越えるように形成されている部分である。その発熱セルに隣接する発熱セルの抵抗発熱線(3)は、対向する前記延伸部の配線パターンに対応し、電気的絶縁を保つように配線が短縮又は変形されている部分(後退部)を有する。隣り合う発熱セル(C)において、抵抗発熱線(3)は、境界線(B)方向に交互に延伸部(31)を備えるように構成される(図1参照)。これにより、一方の隣接セルの延伸部の周囲が他方の隣接セルの配線によって囲まれる形状とすることができる。尚、隣接する発熱セルの各延伸部(31)の対応する並行配線及び折返配線のそれぞれが通常並行に配設されるがこれに限られない。
【0034】
複数の発熱セル(C)を並べて配置するには、各発熱セル(C)間に絶縁に必要な絶縁間隙を形成する必要がある。この絶縁間隙には抵抗発熱線(3)が存しないため、発熱の空白が生じる。特に、発熱セルの配列方向と直交する方向に被加熱物を掃引して加熱する場合には、絶縁間隙が掃引方向に沿って形成されることになり、加熱するときに掃引方向に連続した熱空白が形成されてしまう(図16参照)。
そこで、隣り合う発熱セル(C)の境界線(B)方向に交互に抵抗発熱線(3)の延伸部(31)を設けることにより、絶縁間隙が掃引方向に一線とならず、熱空白部分を掃引と直交方向に分散することができる。隣接する発熱セルの一方の延伸部と他方の後退部との間には熱空白部分が生じるが、境界線方向に、延伸部と後退部を交互に配設されるため、熱空白部分が分散される。
延伸部(31)の配線パターン及び長さは特に限定されない。また、その延伸部(31)に対応して設けられる隣りの発熱セル(C)の前記後退部の配線パターンも限定されず、一方の発熱セルの延伸部の配線との隙間を減らし、且つ電気的絶縁が保たれるように、適宜決定されればよい。
【0035】
延伸部(31)は、境界線(B)に対して所定の角度で傾斜して設けることができる。延伸部(31)に当たる並行配線及び/又は折返配線は、延伸部以外の各配線に対して屈曲又は傾斜させることができる。延伸部(31)は、境界線(B)を挟み、その全部又は一部が境界線(B)に対して所定の角度で傾斜するように形成されてもよい。即ち、延伸部(31)には非傾斜部を有してもよく、例えば、延伸部として、傾斜部と、並行配線(L)に略平行な非傾斜部とを有することができる。
延伸部(31)を境界線(B)に対して傾斜させることで、延伸部(31)が境界線(B)を越えてより深く延伸され、隣り合う発熱セルの抵抗発熱線を境界部において相互に入り組んだパターンとすることができる。これにより、発熱の空白部を減らし、境界部における温度低下を大幅に抑制することが可能になる。
境界線(B)に対する延伸部(31)の傾斜角度は適宜選択することができる(例えば40度~140度、好ましくは60度~120度、より好ましくは80度~100度)。
【0036】
(湾曲部)
ヒータ(1)において、抵抗発熱線(3)は、並行配線(L)に湾曲部(33)を有し、湾曲部(33)は、隣り合う発熱セル(C)の抵抗発熱線(3)の間隙に向けて凸状に形成することができる(図1参照)。
湾曲部(33)を設けることにより、抵抗発熱線の配線密度が他の部位よりも低い部分(例えば、一つの発熱セルの延伸部と隣の発熱セルの後退部との間隙)の発熱を増やすことができる。
湾曲部の長さ(その両端を結ぶ線分の長さ)や凸状の突出長さは特に限定されず、抵抗発熱線の間隙を埋めるように適宜選択されればよい。
【0037】
図1及び2は、長方形の基体2上に境界線Bにより区画された複数の発熱セルCが1つの直線方向(基体2の長辺方向)に並べて配置されたヒータ1を表している。隣り合う発熱セルCの間の境界線Bは、前記1つの直線に対して一定の角度で傾斜されている。
各発熱セルC内には、複数の配線が並行して形成された並行配線Lと、隣接する発熱セルCとの間の境界線B近傍において並行配線Lを折り返すように形成された折返配線Lとが連接され、全体としてつづら折り形状をなす1本の抵抗発熱線3が形成されている。本例においては、折返配線Lは境界線Bと略平行に形成されている。
隣り合う発熱セルCにおいて、一方の発熱セルCの抵抗発熱線3は、境界線Bを越えて並行配線Lを延伸させるように形成された延伸部31を有し、他方の発熱セルCの抵抗発熱線3の配線は、前記延伸部31に対応して短縮された後退部32を有する。隣り合う発熱セルの抵抗発熱線3は、境界線B方向に交互に延伸部31を備えている。また、延伸部31は境界線Bを挟み、その全体が境界線Bに対して一定の角度で傾斜して設けられている。
更に、抵抗発熱線3は並行配線Lに湾曲部33を有し、湾曲部33は、隣り合う発熱セルCの抵抗発熱線3の間隙に向けて凸状に形成されている。
このヒータ1では、各発熱セルCの抵抗発熱線3は、1対の給電配線Fにより電気的に並列に接続されている。基体2の幅が狭く、基体2の短辺方向に基体2と被加熱物とを相対的に掃引することによって被加熱物を加熱する用途に好適である。境界線B方向に延伸部31が交互に配設されているため、隣り合う発熱セル間で抵抗発熱線3の配線が存しない熱空白部分が分散される。
【0038】
図3は、円形の基体2上に境界線Bにより区画された複数の発熱セルCが1つの円の円周方向に並べて配置されたヒータ1を表している。本例では、隣り合う発熱セルCの間の境界線Bは、前記1つの円を中心回りに等角に分割する線分に対して一定の角度で傾斜している。
各発熱セルCの抵抗発熱線3は、同心円状に並行に配設された複数の並行配線Lと、隣接する発熱セルCとの間の境界線B近傍において並行配線Lを折り返すように形成された折返配線Lとが連接され、全体としてつづら折り形状をなしている。
その他、本例のヒータは、前図に示したものと同様に構成されている。
【0039】
図4は、円形の基体2上に、円周方向に並べて配置された複数の発熱セルC群を2組設けた例を表している。
【0040】
図5は、長方形の基体2上に境界線Bにより区画された複数の発熱セルCが、基体2の長辺方向に並べて配置されたヒータ1を表している。隣り合う発熱セルCの間の境界線Bは、複数の発熱セルCの配列方向と垂直方向に設定されている。その他の構成は、図1に示したヒータと同様である。
【0041】
図6は、隣り合う発熱セルC間に生じる抵抗発熱線3の非配線部Iを説明するため図である。本ヒータの抵抗発熱線3の配線パターンにより、非配線部Iを発熱セルCの配列方向に分散させることができる。
【0042】
図7及び図8は、抵抗発熱線3を構成する並行配線Lが4本及び8本である場合の配線例を表している。図7に示されるように、隣り合う発熱セルCの抵抗発熱線3が境界線B方向に延伸部31を交互に備えることができない場合であっても、隣り合う発熱セルC間の非配線部を可能な限り減らし、且つその非配線部を発熱セルCの配列方向に分散させるように配線を変形することによって、同様の効果を得ることができる。
【0043】
図9及び図10は、隣り合う発熱セルC間における抵抗発熱線3の配線パターンの変形例を表している。このように、一方の発熱セルCの抵抗発熱線3に形成された延伸部31の配線パターンに応じて、他方の発熱セルCの抵抗発熱線3に形成される後退部32の配線パターンを任意に変更することができる。両図に示されるように、隣り合う発熱セルCの延伸部31と後退部32において、それぞれの折返配線Lは境界線Bに対して任意の傾斜角度とすることができる。また、図10に表されているように、延伸部31は境界線Bを挟み、その一部が境界線Bに対して一定の角度で傾斜しており、他の部分は発熱セルCの配列方向と平行方向とすることができる。更に、折返配線Lは、発熱セルCの配列方向と平行方向に設けられてもよいし、ヘアピン状の折り返しとされてもよい。
【0044】
図11及び図12は、7つの発熱セルC1~C7が直線X方向に配列されたヒータを用いて計測された温度プロファイルを示している。図11は、ヒータに電圧を印加した直後(約12秒後)の温度プロファイルであり、各発熱セル間に延伸部を設けた抵抗発熱線パターンの効果として、各発熱セルの境界部の温度が電源投入後速やかにヒータ使用温度に達していることが分かる。また、図12は、ヒータに電圧を印加した後、ヒータの温度が基準に達したときの温度プロファイルであり、ヒータ全体に高い均熱性が得られている。
【0045】
ヒータ(1)は、印刷機、複写機、ファクシミリ等の画像形成装置や定着装置等に組み込まれて、記録媒体にトナーやインク等を定着する定着用ヒータとして利用できる。また、加熱機に組み込まれて、パネル等の被処理体を均一に加熱(乾燥又は焼成など)する加熱装置として利用できる。その他、金属製品の熱処理、各種形状の基体に形成された塗膜、被膜の熱処理等を好適に行うことができる。具体的には、フラットパネルディスプレイ用の塗膜(フィルター構成材料)の熱処理、塗装された金属製品、自動車関連製品、木工製品等の塗装乾燥、静電植毛接着乾燥、プラスチック加工製品の熱処理、プリント基板のはんだリフロー、厚膜集積回路の印刷乾燥等に利用することができる。
【0046】
2.定着装置
本ヒータを備える定着装置は、被加熱物の材質・形状や定着手段等により、適宜選択された構成とすることができる。例えば、圧着を伴う定着手段を備えて、紙等の記録用媒体にトナー等を定着させる場合や、複数の部材を貼り合わせる場合には、ヒータを備える加熱部と、加圧部とを備える定着装置とすることができる。勿論、圧着を伴わない定着手段とすることもできる。本発明においては、紙、フィルム等の記録用媒体の表面に形成されたトナーを含む未定着画像を記録用媒体に定着させる定着装置5であることが好ましい。
図13は、電子写真方式の画像形成装置に配設される定着装置5の要部を示している。定着装置5は、回転可能な定着用ロール51と、回転可能な加圧用ロール54とを備え、ヒータ1は定着用ロール51の内部に配設されている。ヒータ1は、好ましくは、定着用ロール51の内表面に近接するように配設される。
ヒータ1は、例えば、図に示される定着手段5のように、ヒータ1の発した熱を伝導可能な材料からなるヒータホルダ53の内部に固定されて、ヒータ1の発熱を、定着用ロール51の内側から外表面に伝える構造とすることもできる。
【0047】
図14もまた、電子写真方式の画像形成装置に配設される定着装置5の要部を示している。定着装置5は、回転可能な定着用ロール51と、回転可能な加圧用ロール54とを備え、定着用ロール51に熱を伝えるヒータ1、及び、加圧用ロール54と共に記録用媒体を圧接する固定パッド52、が定着用ロール51の内部に配設されている。ヒータ1は、定着用ロール51の円筒面に沿うように配設されている。
【0048】
図に示された定着装置5において、図示していない電源装置から電圧を加えることによりヒータ1を発熱させ、その熱が定着用ロール51に伝えられる。そして、表面に未定着のトナー画像を有する記録用媒体が、定着用ロール51と加圧用ロール54との間に供給されると、定着用ロール51及び加圧用ロール54の圧接部において、トナーが溶融して定着画像が形成される。定着用ロール51及び加圧用ロール54の圧接部を有するので、連れだって回転する。前記のように、ヒータ1は、小さい記録用媒体を用いた際に発生しやすい局所的な温度上昇が抑制されるので、定着用ロール51における温度むらが発生しにくく、定着を均一に行うことができる。更に、定着装置の使用開始直後であってもヒータ1の発熱セル同士の隣接部分の均一性に優れるため、連続使用時とほぼ同様の定着結果が得られる。
【0049】
本ヒータ1を備える定着装置の他の態様としては、上型及び下型を備える金型であって、上型及び下型の少なくとも一方の内部にヒータを配設した態様とすることができる。
本ヒータ1を備える定着装置は、電子写真方式の印刷機、複写機等の画像形成装置をはじめ、家庭用の電気製品、業務用、実験用の精密機器等に装着して、加熱、保温等の熱源として好適である。
【0050】
3.画像形成装置
本ヒータを備える画像形成装置は、被加熱物や加熱目的等により、適宜選択された構成とすることができる。本発明においては、図に示されるように、紙、フィルム等の記録用媒体の表面に未定着画像を形成する作像手段と、未定着画像を記録用媒体に定着させる定着手段5とを備え、定着手段5が本ヒータ1を備える画像形成装置4であることが好ましい。画像形成装置4は、上記手段の他、記録用媒体搬送手段や、各手段を制御するための制御手段を備えて構成することができる。
【0051】
図15は、電子写真方式の画像形成装置4の要部を示す概略図である。作像手段としては、転写ドラムを備える方式及び転写ドラムを備えない方式のいずれでもよいが、図15は、転写ドラムを備える態様である。
作像手段では、回転しながら、帯電装置43により所定の電位に帯電処理された感光ドラム44の帯電処理面に、レーザースキャナー41から出力されるレーザーが照射され、現像器45から供給されるトナーにより静電潜像が形成される。次いで、電位差を利用して、感光ドラム44と連動する転写ドラム46の表面に、トナー画像が転写される。その後、転写ドラム46及び転写用ロール47の間に供給される記録用媒体の表面に、トナー画像が転写され、未定着画像を有する記録用媒体が得られる。トナーは、結着樹脂と着色剤と添加剤とを含む粒子であり、結着樹脂の溶融温度は、通常、90℃~250℃である。尚、感光ドラム44及び転写ドラム46の表面には、不溶なトナー等を除去するための清掃装置を備えることができる。
【0052】
定着手段5は、前記定着装置5と同様の構成とすることができ、加圧用ロール54と、通紙方向通電型のヒータ1を保持したヒータホルダ53を内部に備え、加圧用ロール54と連動する定着用ロール51と、を備える。作像手段からの未定着画像を有する記録用媒体は、定着用ロール51及び加圧用ロール54の間に供給される。定着用ロール51の熱が、記録用媒体のトナー画像を溶融し、更に、溶融したトナーが、定着用ロール51と加圧用ロール54との圧接部で加圧されて、トナー画像が記録用媒体に定着される。図20の定着手段5においては、定着用ロール51に代えて、ヒータ1を近接配置した定着用ベルトを備える態様であってもよい。
【0053】
一般に、定着用ロール51の温度が不均一となって、トナーに与えられる熱量が小さすぎる場合にはトナーが記録用媒体から剥がれ、一方、熱量が大きすぎる場合にはトナーが定着用ロール51に付着し、定着用ロール51が一周して記録用媒体に再付着してしまうことがある。本発明のヒータを備える定着手段5によれば、所定の温度へ迅速に調整されるので、不具合を抑制することができる。また、定着装置の使用開始直後であってもヒータ1の発熱セル同士の隣接部分の熱空白が分散されることにより均一性に優れるため、記録用媒体が通過(掃引)しても過熱や加熱不足となる箇所をなくし、連続使用時とほぼ同様の定着結果が得られる。
本発明の画像形成装置は、使用時に非通紙領域の過昇温が抑制され、電子写真方式の印刷機、複写機等として好適である。
【0054】
4.加熱装置
本ヒータを備える加熱装置は、被加熱物の大きさや形状等により、適宜選択された構成とすることができる。本発明においては、例えば、筐体部と、被熱処理物の出し入れ等のために配された密閉可能な窓部と、筐体部の内部に配された移動可能なヒータ部と、を備えて構成することができる。必要に応じて、筐体部の内部に、被熱処理物を配置する被熱処理物設置部、被熱処理物の加熱により気体が排出された場合に、この気体を排出する排気部、筐体部の内部の圧力を調整する、真空ポンプ等の圧力調整部等を備えることができる。また、加熱は、被熱処理物及びヒータ部を固定した状態で行ってよいし、いずれか一方を移動させながら行ってもよい。
本加熱装置は、水、有機溶剤等を含む被熱処理物の乾燥を、所望の温度で行う装置として好適である。そして、真空乾燥機(減圧乾燥機)、加圧乾燥機、除湿乾燥機、熱風乾燥機、防爆型乾燥機等として用いることができる。また、LCDパネル、有機ELパネル等の未焼成物の焼成を、所望の温度で行う装置として好適である。そして、減圧焼成機、加圧焼成機等として用いることができる。
【0055】
尚、本発明においては、上記の具体的実施形態に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施形態とすることができる。
【符号の説明】
【0056】
1;ヒータ、2;基体、3;抵抗発熱線、31;延伸部、32;後退部、33;湾曲部、
4;画像形成装置、41:レーザースキャナー、42:ミラー、43:帯電装置、44:感光ドラム、45:現像器、46:転写ドラム、47:転写用ロール、5:定着装置(定着手段)、51:定着用ロール、52:固定パッド、53:ヒータホルダ、54:加圧用ロール、
B;境界線、C;発熱セル、F;給電配線、
;並行配線、L;折返配線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16