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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】発酵組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/00 20160101AFI20240912BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240912BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20240912BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240912BHJP
   C12P 7/52 20060101ALN20240912BHJP
   C12P 7/54 20060101ALN20240912BHJP
   C12P 7/64 20220101ALN20240912BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20240912BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALN20240912BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALN20240912BHJP
【FI】
A23L33/00
A23L5/00 J
A23L33/135 ZNA
C12N15/09 Z
C12P7/52
C12P7/54
C12P7/64
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6876 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022557593
(86)(22)【出願日】2021-10-20
(86)【国際出願番号】 JP2021038832
(87)【国際公開番号】W WO2022085743
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2020176185
(32)【優先日】2020-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】596110729
【氏名又は名称】万田発酵株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】岸田晋輔
(72)【発明者】
【氏名】藤岡耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】増田充志
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼路紗愛
(72)【発明者】
【氏名】チュン ミィン ホウン
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第98/001042(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/009437(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111345416(CN,A)
【文献】管理栄養士による『万田酵素 ジンジャー』の効果解説, [online], 2020.08.13, [retrieved on 2021.12.14], <URL: https://web.archive.org/web/20200813230916/https://jckdi.jp/entry19/>特に、5頁目
【文献】発酵食品を食生活に取り入れたいと思う人が9割以上 腸内環境を整える効果を期待する声が多数, [online], 2020.05.19, [retrieved on 2021.12.14], <URL: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000048916.html> 特に、4頁目
【文献】短鎖脂肪酸に注目!不足すると腸内環境が悪化, [online],2019.04.17, [retrieved on 2021.12.14], <URL: https://www.asahi.com/relife/article/12295819>特に、1頁目
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00 - 33/135
C12N 15/09
C12P 7/64
C12Q 1/686- 1/6876
C12P 7/52 - 7/54
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実類に属するリンゴ、カキ、バナナ、パインアップル、アケビ、マタタビ、イチジク、野イチゴ、イチゴ、山ブドウ、ブドウ、山桃、もも、ウメ、ブルーベリー、ラズベリーから選ばれる1種又は2種以上のものと、かんきつ類に属するネーブルオレンジ、ハッサク、ミカン、夏ミカン、オレンジ、イヨカン、キンカン、ユズ、カボス、ザボン、ポンカン、レモン、ライムから選ばれる1種又は2種以上のものと、根菜類に属するゴボウ、ニンジン、ニンニク、レンコン、ユリ根から選ばれる1種又は2種以上のものと、穀類に属する玄米、もち米、白米、キビ、トウモロコシ、小麦、大麦、アワ、ひえから選ばれる1種又は2種以上のものと、豆・ゴマ類に属する大豆、黒豆、黒ゴマ、白ゴマ、あずき、クルミから選ばれる1種又は2種以上のものと、海草類に属するコンブ、ワカメ、ヒジキ、青ノリ、ノリから選ばれる1種又は2種以上のものと、糖類に属する黒糖、果糖、ブドウ糖から選ばれる1種又は2種以上のものと、ハチミツ、澱粉、キュウリ、シソ、セロリから選ばれる1種又は2種以上のものと、付加物として桑を、発酵、熟成させることで得られ、次の主成分及びアミノ酸組成からなる、前記主成分について、100g当たり、下記を含む、
水分:5.0g~50.0g、
タンパク質:0.5g~10.0g、
脂質:0.05g~10.00g、
炭水化物(糖質):30.0g~75.0g、
炭水化物(繊維):0.1g~5.0g、
灰分:0.5g~5.0g、
β-カロチン:10μg~150μg、
ビタミンA効力:10IU~100IU、
ビタミンB1:0.01mg~0.50mg、
ビタミンB2:0.01mg~0.50mg、
ビタミンB6:0.01mg~0.50mg、
ビタミンE:10.0mg以下、
ナイアシン:0.1mg~6.0mg、
カルシウム:50mg~900mg、
リン:200mg以下、
鉄:1.0mg~5.0mg、
ナトリウム:20mg~300mg、
カリウム:300mg~1000mg、
マグネシウム:40mg~200mg、
食塩相当量:0.05g~1.00g、
銅:7.0ppm以下。
前記アミノ酸組成について、100g中、
イソロイシン:30~200mg、
ロイシン:50~400mg、
リジン:20~200mg、
メチオニン:10~150mg、
シスチン:10~100mg、
フェニルアラニン:30~250mg、
チロシン:20~200mg、
スレオニン:40~200mg、
トリプトファン:1~100mg、
バリン:30~300mg、
ヒスチジン:10~200mg、
アルギニン:40~400mg、
アラニン:50~300mg、
アスパラギン酸:100~600mg、
グルタミン酸:100~1200mg、
グリシン:30~300mg、
プロリン:40~400mg、
セリン:30~300mg。
発酵組成物を主原料とし、黒糖に比べて、Acetate, Propionate, Butyrate, 及びIsobutyrateの1又は2以上から選択される短鎖脂肪酸を腸内で増加させることを特徴とするプレバイオティクス食品。
【請求項2】
前記付加物を含まない前記発酵成物に比べて増加させる前記短鎖脂肪酸がAcetate, Propionate, Butyrate, 及びIsobutyrateである請求項1に記載のプレバイオティクス食品。
【請求項3】
ラクトバチルス アシドフィルス菌を増殖させることにより、
短鎖脂肪酸の生産量を増加させることが可能な請求項1又は2に記載のプレバイオティクス食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内で短鎖脂肪酸を生産させる腸内細菌及び短鎖脂肪酸を増加させる発酵組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
短鎖脂肪酸は、ヒトの大腸内で腸内細菌によって作られる酸(有機酸)の一種で、具体的には酢酸、プロピオン酸、酪酸などの種類がある。
【0003】
近年、この短鎖脂肪酸の有益性が注目されている。腸は、食事とともに取り込まれるウイルスや病原菌による感染や炎症の危険があるものの、腸の粘膜が病原体の侵入を防ぐという腸管バリア機能を担っている。酪酸やプロピオン酸には、腸粘膜を維持して、腸のバリア機能を高める働きがある。
【0004】
特に酪酸は腸上皮細胞の最も重要なエネルギー源であり、腸管上皮の新陳代謝を促進し、また、腸管の蠕動運動を促進すると報告されている。その他に、抗肥満、抗糖尿病作用がある。また、インフルエンザウイルスを排除する免疫反応が回復したとの報告もあり、免疫系への有用性も挙げられる。
【0005】
これらの短鎖脂肪酸は多様な有用性が高いものの、その臭い、味、吸収性などから食べたり飲んだりして摂ることが困難であり、生来的に腸内に存在する腸内細菌に短鎖脂肪酸を生産させることが有効である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように有用性ある短鎖脂肪酸について、直接に取り込ませるサプリメント食品ではなく、生来的に腸内に存在する腸内細菌に短鎖脂肪酸を生産させることを目的とした食品を提供ものである。
【0007】
そこで、本発明者は、試行錯誤や各種実験を経て、本発明に係る発酵組成物を摂取させると人間の腸内で短鎖脂肪酸を生産する腸内細菌が増加することを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明がその技術的課題を解決するために用いる技術的手段としては、次のようなものである。
【0009】
すなわち、本発明は、果実類に属するリンゴ、カキ、バナナ、パインアップル、アケビ、マタタビ、イチジク、野イチゴ、イチゴ、山ブドウ、ブドウ、山挑、もも、ウメ、ブルーベリー、ラズベリーから選ばれる1種または2種以上のものと、かんきつ類に属するネーブルオレンジ、ハッサク、ミカン、夏ミカン、オレンジ、イヨカン、キンカン、ユズ、カボス、ザボン、ポンカン、レモン、ライムから選ばれる1種または2種以上のものと、根菜類に属するゴボウ、ニンジン、ニンニク、レンコン、ユリ根から選ばれる1種または2種以上のものと、穀類に属する玄米、もち米、白米、キビ、トウモロコシ、小麦、大麦、アワ、ひえから選ばれる1種または2種以上のものと、豆・ゴマ類に属する大豆、黒豆、黒ゴマ、白ゴマ、あずき、クルミから選ばれる1種または2種以上のものと、海草類に属するコンブ、ワカメ、ヒジキ、青ノリ、ノリから選ばれる1種または2種以上のものと、糖類に属する黒糖、果糖、ブドウ糖から選ばれる1種または2種以上のものと、ハチミツ、澱粉、キュウリ、シソ、セロリから選ばれる1種または2種以上のものとを、発酵、熟成させることで得られ、次の成分及びアミノ酸組成からなる、
主成分について、100g当たり、下記を含む、
水分:5.0g~50.0g、
タンパク質:0.5g~10.0g、
脂質:0.05g~10.00g、
炭水化物(糖質):30.0g~75.0g、
炭水化物(繊維):0.1g~5.0g、
灰分:0.5g~5.0g、
β-カロチン:10μg~150μg、
ビタミンA効力:10IU~100IU、
ビタミンB1:0.01mg~0.50mg、
ビタミンB2:0.01mg~0.50mg、
ビタミンB6:0.01mg~0.50mg、
ビタミンE:10.0mg以下、
ナイアシン:0.1mg~6.0mg、
カルシウム:50mg~900mg、
リン:200mg以下、
鉄:1.0mg~5.0mg、
ナトリウム:20mg~300mg、
カリウム:300mg~1000mg、
マグネシウム:40mg~200mg、
食塩相当量:0.05g~1.00g、
銅:7.0ppm以下。
アミノ酸組成について、100g中、
イソロイシン:30~200mg、
ロイシン:50~400mg、
リジン:20~200mg、
メチオニン:10~150mg、
シスチン:10~100mg、
フェニルアラニン:30~250mg、
チロシン:20~200mg、
スレオニン:40~200mg、
トリプトファン:1~100mg、
バリン:30~300mg、
ヒスチジン:10~200mg、
アルギニン:40~400mg、
アラニン:50~300mg、
アスパラキン酸:100~600mg、
グルタミン酸:100~1200mg、
グリシン:30~300mg、
プロリン:40~400mg、
セリン:30~300mg。
発酵組成物(以下、本発酵組成物という。)を主原料とする腸内で特定の短鎖脂肪酸を増加させる特徴のあるプレバイオティクス食品を提供するものである。
【0010】
前記発酵組成物の原材料に、桑、生姜、枇杷のうち1又は2以上の種類を加えた発酵、熟成させることで得られ、前記の成分及びアミノ酸組成からなる発酵組成物を主原料とするプレバイオティクス食品を提供するものである。
【0011】
前記の発酵組成物を主原料とする腸内で特定の短鎖脂肪酸を増加させる腸内細菌を増加させることができるプレバイオティクス食品としても良い。
【0012】
前記の腸内細菌がBifidobacterium longum であることを特徴としても良い。
【0013】
前記特定の短鎖脂肪酸がAcetate, Butyrate, Isobutyrate, Isopentanoate, Propionateの1又は2以上から選択される短鎖脂肪酸であることを特徴としても良い。
【0014】
前記の発酵組成物を主原料とするラクトバチルス アシドフィルス菌を増殖させ、Acetate,Propionate,Butyrate,Isobutyrateの1又は2以上から選択される短鎖脂肪酸の生産量を増加させることができるプレバイオティクス食品を提供するものである。
【0015】
前記の発酵組成物を摂取されたとき、腸内細菌であるBifidobacterium longumの数を腸内で増加させ、且つ、Acetate, Butyrate, Isobutyrate, Isopentanoate, Propionateの1又は2以上から選択される短鎖脂肪酸を増加させる方法を提供するものである。
【0016】
前記の発酵組成物を摂取されたとき、腸内細菌であるラクトバチルス アシドフィルス菌を増殖させ、Acetate,Propionate,Butyrate,Isobutyrateの1又は2以上から選択される短鎖脂肪酸の生産量を増加させる方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本件発酵組成物は、大腸の内部環境下において、健康に有効な短鎖脂肪酸を産出させる腸内細菌の存在比を高めるとともに、Acetate, Butyrate, Isobutyrate, Isopentanoate, Propionateの各短鎖脂肪酸が増加させることができる。
【0018】
以下、添付図面及び実施例を組み合わせて本発明を更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】左図、フェノールレッドをインジケーターとして使用する培養系で腸内細菌を嫌気培養した様子を示す写真。右図、フェノールレッドをインジケーターとして使用する培養系で腸内細菌を嫌気培養した培地をOD562 nm での測定結果を示すグラフ
図2】各種の腸内細菌の存在比の変化を示すグラフ
図3】各種の短鎖脂肪酸の変化量を示す表
図4】ラクトバチルス アシドフィルス菌が産出する各種短鎖脂肪酸の濃度を示すグラフ
【発明の実施の形態】
【0020】
本発明者は、本発酵組成物に着目をして、ヒトの腸内(特に、大腸内)で短鎖脂肪酸の生産に影響を与えるか否かを実験した。
【0021】
本実施形態での本発酵組成物は、黒糖、果糖、ブドウ糖、リンゴ、カキ、バナナ、パインアップル、白米、玄米、もち米、アワ、大麦、キビ、トウモロコシ、ミカン、ハッサク、ネーブルオレンジ、イヨカン、レモン、夏ミカン、カボス、キンカン、ザボン、ポンカン、ユズ、ブドウ、アケビ、イチジク、マタタビ、山ブドウ、山桃、
イチゴ、ウメ、大豆、黒ゴマ、白ゴマ、黒豆、ニンジン、ニンニク、ゴボウ、ユリ根、レンコン、ヒジキ、ワカメ、ノリ、青ノリ、コンブ、ハチミツ、クルミ、澱粉、キュウリ、セロリ、シソを静置発酵、熟成させて得られるものとした。また、本発酵組成物の原材料に桑、生姜、または、枇杷(以下、付加物)のいずれかを加えた各発酵組成物も用意した。
【0022】
ヒト糞便から単離した細菌(105 CFU/ml) を、Gas-Pak法(BD, スパークス, MD, 米)を用い、37°Cの嫌気条件下、強化クロストリジウム培地(RCM, オックスフォード, ハンプシャー,英)で培養した。微生物培養物に1:100希釈を行い、600 nmの吸光度[光学密度 (OD) 600]が1.0となるまで培養した。5,000 gで10分間遠心分離にかけて微生物を得、PBSで洗浄し、PBSに懸濁させた。
【0023】
次に、上記で得られた微生物について、37°Cの嫌気条件下、黒糖および本発酵組成物(2%)を含む富栄養培地で増殖させた。フェノールレッドをカラーインジケーターとして使用する培養系で嫌気培養した。富栄養培地中の0.001% (w/v)フェノールレッド(MilliporeSigma)を指標とし、これは発酵が起こると赤橙色から黄色に変化する。発酵は、コントロール液体培地と18時間培養した液体培地OD562 nm で定量的に測定した。
【0024】
図1aは、フェノールレッドをインジケーターとして使用する培養系で腸内細菌を嫌気培養した様子を示す写真である。コントロール液体培地は、18時間培養した液体培地に比較して赤橙色から黄色に変化することが分かる。これは液体培地のなかで発酵が進んだことを表すものである。図1bは、コントロール液体培地と18時間培養した液体培地のぞれぞれのOD562 nm での測定結果を示すグラフである。定量的な測定結果では、コントロール液体培地は0.35であるのに対して、18時間培養した液体培地では0.25である。
【0025】
次に、上記の発酵に寄与した微生物(菌)を特定するために、菌を単離した。試験手順は次の通りである。PBSバッファで希釈分散させた35歳白人男性の100マイクロリットル便を、トリプチケース寒天培地+0.001%(重量/容積)フェノールレッド(ミリポアシグマ社製)+2%の本件発酵組成物を含有させたものを平板表面に塗沫し24時間培養した。
【0026】
この菌をコロニーから単離すると、遺伝子同定によりBifidobacterium longumと同定された。糞便を使用して本件発酵組成物を資化源として培養を行った場合に、複数種類存在する菌の中で、Bifidobacteriumがほかの菌より優位に増殖することも、次世代シークエンス法により確認された。
【0027】
具体的な微生物同定法は、次の通りである。黒糖あるいは本件発酵組成物と糞便の共培養物から、DNAあるいはDNA抽出物を、QIAamp DNA Stool Mini Kit (Qiagen社、ヒルデン、ドイツ)の使用説明書に従い常法で使用し抽出した。菌の同定には16S rRNA遺伝子解析法を使用した。 単一のコロニーを滅菌された爪楊枝で釣り上げ、PCRプライマーペア27F-534Rを使用した16S rRNA 遺伝子解析を行い、解析結果はBasic Local Alignment Search Tool (BLAST)相同性検索プログラムを使用して同定を行った。
【0028】
次に、本発明に係る菌のDNA抽出と次世代シークエンスによる菌叢解析法を述べる。QIAamp DNA Stool Mini Kit (Qiagen, ヒルデン, ドイツ)を製造者の説明書に従って用い、黒糖または本件発酵組成物とともにインキュベートしたヒト糞便から全DNAを抽出した。再現性が極めて高いキットの中でもQiagen DNA抽出法は、次世代シークエンスデータ解析に及ぼす影響が最小である確度が高いものと考えられた。
【0029】
各試験群からの5サンプルで次世代シークエンス法を実施した(サンプル総数=10)。真正細菌プライマーキット(Qiagen, バレンシア, CA)を以下の条件下で使用した: 94oCで3分、次いで、94oCで30秒; 53oCで40秒および72oCで1分を28サイクル、その後、72oCで5分の最終伸長工程。PCRの後、種々のサンプルからの全ての増副産物を等濃度で混合し、Agencourt Ampureビーズ(Agencourt Bioscience Corporation, MA, 米)を用いて精製した。サンプルの配列決定は、Roche 454 FLXチタン機および試薬を製造者のガイドライン従って用いて行った。16S rRNA遺伝子V4可変領域PCRプライマー515/806を用い、以下の条件下: 94°Cで3分、次いで、94°Cで30秒、53°Cで40秒および72°Cで1分を28サイクル(PCR産物に対しては5サイクル)、その後、72°Cで5分の最終伸長工程、HotStarTaq Plus Master Mix Kit (Qiagen, 米)を用いる30サイクル1回のPCRを実施した。
【0030】
配列決定は、Ion Torrent PGM機のMR DNA (www.mrdnalab.com, シャロウォーター, TX, 米)で、製造者のガイドラインに従って行った。配列データは、特許分析パイプライン(MR DNA, シャロウォーター, TX, 米)を用いて処理した。配列からバーコードとプライマーを削除した後、150bp未満の配列を除き、曖昧なベースコールおよび6bpを超えるホモポリマー鎖を含む配列も除いた。配列からノイズを除き、16S rRNA operational taxonomic units (OTUs)を作成し、キメラを除いた。OTUsは、非類似度3%(類似度97%)でのクラスタリングによって定義した。最終的なOTUsは、GreenGenes, RDPII and NCBI (www.ncbi.nlm.nih.gov, http://rdp.cme.msu.edu)から導き出された精選データベースに対してBLASTnを用い、分類学的に分類した。
【0031】
DNA抽出について説明する。DNAを含有するライゼートは、サンプルを1x溶解バッファー中で10分間100°Cに加熱し、冷却し、18,000 x gで5分の遠心分離を行い、上清を得ることにより調製する。10x溶解バッファーは、10% Triton X-100、5% Tween 20、100 mM Tris-HCl (pH 8.0)、および10 mM EDTA (Reischl, Linde, Metz, Leppmeier, & Lehn, 2000 PMID: 10835024)を含有する。
【0032】
次いで、16s rDNA のPCRを説明する。PCRの設定は、95°Cで5分、次いで、94°Cで30秒、54°Cで40秒、72°Cで1分を15サイクル(第1PCR)または20サイクル(第2PCR) 、その後、72°Cで10分を1サイクルの条件とする。ライゼート(2-10 μl)をAmpliTaqTM gold mix (Thermo Fisher, グランドアイランド, NY)とともに最終容量50 μlで使用する。第1PCRプライマーは、ユニバーサル16s細菌プライマー(Nakatsuji, et al., 2013 PMID: 23385576) U1048F (5’-GTG-STG-CAY-GGY-TGT-CGT-CA-3’)およびU1175R (5’-ACG-TCR-TCC-MCA-CCT-TCC-TC-3’)である。第2PCRは、バーコード付きのフォワードアダプタープライマーIT-A-BC#-U1048-F (5’-CCA-TCT-CAT-CCC-TGC-GTG-TCT-CCG-ACT-CAG-BC#-GAT-GTG-STG-CAY-GGY-TGT-CGT-CA-3'、Ion TorrentアダプターA配列およびIon Torrentバーコード+「スタッファー(stuffer)」を含み、Ion Torrent P1b配列を含むシングルアダプタープライマーを伴う)、P1-U1175-R (5'-CCA-CTA-CGC-CTC-CGC-TTT-CCT-CTC-TAT-GGG-CAG-TCG-GTG-ATA-CGT-CRT-CCM-CAC-CTT-CCT-C-3')を用いて行う。最終PCR(7サイクル)は、KAPAライブラリープライマー(KAPA Biosystems, Wilmington, MA)を用い、キットプロトコールに従って行う。
【0033】
次いで、16s rDNAの次世代シークエンス法(NGS)について説明する。個々のサンプルPCRをQubit結果に基づいて等モル濃度で混合し、OneTouch2機でIon PGM Hi-Q View OT2キットに基づく標準プロトコールを用いて鋳型とし、Ion Torrent PGM機で、700回分のIon PGM Hi-Q Viewシークエンシングキットに基づくIon 314 V2チップに対する標準プロトコールを用いて配列を決定する(全てThermo Fisher, グランドアイランド, NY)。
【0034】
16s rDNAの次世代シークエンス結果の分析について説明する。16s rDNA配列は、Ion Serverソフトウエアにより、アダプタープライマーバーコードに基づいて自動的にサンプルfastqファイルにビニングされる。次に、リードに対してプライマー配列のトリミングを行い、カスタムpython スクリプトを用い、10 bpスライディングウインドウ品質係数が20以上であることに基づいて質を精選する。次に、フィルタリングされた配列をRDP Classifier v2.12 (Wang, Garrity, Tiedje, & Cole, 2007 PMID: 17586664)を用いて、信頼区間80%以上で分類を割り当てる。分類プロファイルは、カスタムシエルスクリプティングおよびQIIME 1.9.1 (Caporaso, et al., 2010 PMID: 20383131)を用いて比較する。
【0035】
図2は、各種の腸内細菌の存在比の変化を示すグラフである。
実験条件は、前記のものと同じであり、ヒト糞便から単離した細菌(105 CFU/ml) を、Gas-Pak法(BD, スパークス, MD, 米)を用い、37°Cの嫌気条件下、強化クロストリジウム培地(RCM, オックスフォード, ハンプシャー,英)で、18時間培養した。実験は、コントロール群として当該培地に黒糖を投与したものと、実験群として当該培地に本発酵組成物を投与したものをそれぞれ5例用意した。微生物菌叢の解析方法は、上述の通りである。結果は、いずれの実験例においても、本発酵組成物を投与した群においてBifidobacterium longumの存在割合が増加していることが明らかになった。
【0036】
次に、本発酵組成物を投与した群において如何なる短鎖脂肪酸が増加しているか否かを試験した。糞便単離物 (105 CFU/ml)を、2%の本発酵組成物を含む富栄養培地中で18時間インキュベートし、発酵培地を5,000 gで10分間遠心分離にかけて細菌を除去した。本発酵組成物を投与した群の菌のペレットを50%メタノール/水混合物450μlに再懸濁させ、それぞれ42μlの内部標準液(IS)を混合する。並行して、ブランクとして、細胞を含まずに水/メタノール/内部標準を含むものを測定する。内部標準液は、200 μlのD3-酢酸、200μlのD6-プロピオン酸、200 μlのD8-酪酸、および200 μlの2-エチル-酪酸(全て1 mM、全てSigmaから)と40μlの5M NaOHを混合することで作製する。
【0037】
チューブをボルテックスで撹拌して細胞を再懸濁させ、ドライアイス上で30分間凍結させ、室温で10間解凍する。ペレットサンプルの凍結-解凍サイクルを繰り返す前にクロロホルム(225 μl)を加える。同様に、42μlのISと225 μlのクロロホルムを450 μlの培養培地に加える。チューブをボルテックスで5秒間撹拌し、10,000 x g (4°C)で5分の遠心分離を行う。
【0038】
これらのサンプル調製物からの上相を、様々な量の短鎖脂肪酸標準品(Supelco揮発酸スタンダードミックス(Sigma)からなる)の1 mM溶液および上記の内部標準とともに、pH 11に調整したものを、遠心蒸発機で乾燥させ、80℃で60分間、60 μlのピリジン: MTBSTFA (Soltec) 1:1混合物で誘導体化した。サンプル、ブランク、および標準品をGC-MSで記載の通りに分析する(Sharma, et al., 2018 PMID 30231992)。Metaquant (Bunk, et al., 2006 PMID 17046977)を使用し、各短鎖脂肪酸の特定のm/z値に対するピーク面積に基づいて標準曲線を作成する。
【0039】
次に、サンプル中の短鎖脂肪酸をMetaquantで定量し、ブランク値における短鎖脂肪酸量および内部標準(内部標準としては、各短鎖脂肪酸に対して重水素化標準品を用い、他の短鎖脂肪酸に対して2-エチル-酪酸を用いる)の回収量に対して補正する。
【0040】
図3は、上記の実験による各種の短鎖脂肪酸の変化量を示す表である。この実験の結果、本発酵組成物を投与した群(M2.3)において、特に、Acetate, Butyrate, Isobutyrate, Isopentanoate, Propionateの各短鎖脂肪酸が黒糖投与群(B2.3 コントロール)に比較して増加していることが示された。
【0041】
次に、本発酵組成物及び本発酵組成物の原材料に桑、生姜、枇杷をそれぞれ加えて発酵組成物を作成した。これらの発酵組成物が善玉菌と呼ばれる腸内細菌の一種であるラクトバチルス アシドフィルス菌(Lactobacillus acidophilus)を増殖させることができるかを試験した。
【0042】
試験は、本発酵組成物、本発酵組成物の圧搾液、本発酵組成物の原材料に桑を加えたもの、本発酵組成物の原材料に生姜を加えたもの、本発酵組成物の原材料に枇杷を加えたもの、コントロールとして黒糖溶液の6種類を用意した。結果は、この5種類ともに、ラクトバチルス アシドフィルス菌を増殖させることが確認できた。
【0043】
次に、ラクトバチルス アシドフィルス菌が増殖することに伴い、Acetate, Propionate, Butyrate, Isobutyrateの各種短鎖脂肪酸の産出量が増加するのか否かを確認した。試験方法は、上述した6種類の溶液をそれぞれ用意して、それらの溶液でラクトバチルス アシドフィルス菌を一定数まで増殖させた。本試験では、10 7 CUF/mlまでラクトバチルス アシドフィルス菌を増殖したものをそれぞれ用意して、各種短鎖脂肪酸の産出量を測定した。
【0044】
図4は、ラクトバチルス アシドフィルス菌が産出する各種短鎖脂肪酸の濃度を示すグラフである。BRはコントロールの黒糖のみ、Aは本発酵組成物(付加物を含まないもの)、Bは本発酵組成物の原材料に枇杷を加えて発酵したもの、Cは本発酵組成物の原材料に生姜を加えて発酵したもの、Dは本発酵組成物の原材料に桑を加えて発酵したもの、Eは本発酵組成物の圧搾液である。
【0045】
図4の結果から、いずれの短鎖脂肪酸でもコントロールの黒糖に比較して、本発酵組成物などは高い濃度を示すことが分かった。これは、本発酵組成物などがラクトバチルス アシドフィルス菌に作用して上記の各種短鎖脂肪酸の産出量を増加させることが示された。また、D(本発酵組成物の原材料に桑を加えて発酵したもの)は、本発酵組成物の場合と比較してアシドフィルス菌に作用して上記の各種短鎖脂肪酸のいずれの産出量を増加させることが示された。他方で、Cは本発酵組成物の原材料に生姜を加えて発酵したものは、本発酵組成物の場合と比較してアシドフィルス菌に作用して上記の各種短鎖脂肪酸のいずれの産出量を低下することが示された。したがって、アシドフィルス菌に作用して上記の各種短鎖脂肪酸のいずれの産出量を増加させるには、本発酵組成物の原材料に桑を加えて発酵したものが良好な結果が得られることを示すことができた。
図1
図2
図3
図4