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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】電池システム、充電装置及び充電方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20240912BHJP
   H02J 7/02 20160101ALI20240912BHJP
   H02J 7/04 20060101ALI20240912BHJP
   H02J 7/10 20060101ALI20240912BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H02J7/00 302A
H02J7/02 H
H02J7/04 C
H02J7/04 A
H02J7/10 H
H01M10/44 Q
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022570824
(86)(22)【出願日】2020-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2020047945
(87)【国際公開番号】W WO2022137346
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】522369728
【氏名又は名称】TeraWatt Technology株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】井本 浩
(72)【発明者】
【氏名】緒方 健
【審査官】鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/061999(WO,A1)
【文献】特開2011-233368(JP,A)
【文献】特開2009-158415(JP,A)
【文献】特開2008-305775(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109817868(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107275572(CN,A)
【文献】国際公開第2014/141930(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/076847(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/161865(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
H02J 7/02
H02J 7/04
H02J 7/10
H01M 10/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム2次電池と、前記リチウム2次電池を充電する充電装置と、を含む電池システムであって、
前記リチウム2次電池は、
正極と、
負極活物質を有しない負極と、を備え、
前記充電装置は、
前記リチウム2次電池に充電のための電力を供給する電力供給部と、
所定のプレチャージ電流により所定のプレチャージ容量まで充電するプレチャージの後、前記プレチャージ電流より高い所定の通常充電電流により前記プレチャージ容量より大きい通常容量まで充電する通常充電を行うよう前記電力供給部を制御する充電制御部と、を備え、
前記プレチャージは、繰り返し行われる前記通常充電のそれぞれの前に行われる、
電池システム。
【請求項2】
前記プレチャージ容量は、前記通常容量の0.025%以上0.5%以下であり、
前記プレチャージ電流は、0.001C以上0.03C以下である、
請求項1に記載の電池システム。
【請求項3】
前記プレチャージの完了から前記通常充電の開始までの時間が800秒以下である、
請求項1または請求項2に記載の電池システム。
【請求項4】
前記負極が銅箔である、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電池システム。
【請求項5】
前記負極が、銅箔と、前記銅箔上に設けられたカーボンナノファイバーと、を含んで構成される、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電池システム。
【請求項6】
前記負極が、銅箔と、前記銅箔上に設けられたLiを含まない金属層またはLiを含まない合金層のいずれか一方と、を含んで構成される、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電池システム。
【請求項7】
正極と、負極活物質を有しない負極と、を有するリチウム2次電池を充電する充電装置であって、
前記リチウム2次電池に充電のための電力を供給する電力供給部と、
所定のプレチャージ電流により所定のプレチャージ容量まで充電するプレチャージの後、前記プレチャージ電流より高い所定の通常充電電流により前記プレチャージ容量より大きい通常容量まで充電する通常充電を行うよう前記電力供給部を制御する充電制御部と、を備え、
前記プレチャージは、繰り返し行われる前記通常充電のそれぞれの前に行われる、
充電装置。
【請求項8】
正極と、負極活物質を有しない負極と、を有するリチウム2次電池を充電する充電方法であって、
所定のプレチャージ電流により所定のプレチャージ容量まで充電するプレチャージステップと、
前記プレチャージステップに続いて行われる、前記プレチャージ電流より高い所定の通常充電電流により前記プレチャージ容量より大きい通常容量まで充電する通常充電ステップと、を有し、
前記プレチャージステップは、繰り返し行われる前記通常充電ステップのそれぞれの前に行われる、
充電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム2次電池を含む電池システム、及び同電池の充電装置及び充電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光又は風力等の自然エネルギーを電気エネルギーに変換する技術が注目されている。これに伴い、安全性が高く、かつ多くの電気エネルギーを蓄えることができる蓄電デバイスとして、様々な2次電池が開発されている。
【0003】
その中でも、正極及び負極の間をリチウムイオンが移動することで充放電を行うリチウム2次電池は、高電圧及び高エネルギー密度を示すことが知られている。典型的なリチウム2次電池として、正極及び負極にリチウム元素を保持することのできる活物質を有し、正極活物質及び負極活物質の間でのリチウムイオンの授受によって充放電をおこなうリチウムイオン2次電池が知られている。
【0004】
また、高エネルギー密度化を目的として、負極活物質に、炭素系材料のようなリチウム元素を挿入することができる材料ではなく、リチウム金属を用いるリチウム2次電池が開発されている。例えば、特許文献1には、室温で少なくとも1Cのレートでの放電時に、1000Wh/Lを越える体積エネルギー密度及び/又は350Wh/kgを越える質量エネルギー密度を実現するために、極薄リチウム金属アノードを備えるリチウム2次電池が開示されている。特許文献1は、かかるリチウム2次電池において、負極活物質としてのリチウム金属上に更なるリチウム金属が直接析出することにより充電がされる旨を開示している。
【0005】
また、更なる高エネルギー密度化や生産性の向上等を目的として、負極活物質を用いないリチウム2次電池が開発されている。例えば、特許文献2には、正極、負極、これらの間に介在された分離膜及び電解質を含むリチウム2次電池において、前記負極は、負極集電体上に金属粒子が形成され、充電によって前記正極から移動され、負極内の負極集電体上にリチウム金属を形成する、リチウム2次電池が開示されている。特許文献2は、そのようなリチウム2次電池は、リチウム金属の反応性による問題と、組み立ての過程で発生する問題点を解決し、性能及び寿命が向上されたリチウム2次電池を提供することができることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2019-517722号公報
【文献】特表2019-505971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが、上記特許文献に記載のものを始めとする従来の電池を詳細に検討したところ、エネルギー密度、及びサイクル特性の少なくともいずれかが十分でないことがわかった。
【0008】
例えば、負極活物質を有する負極を備えるリチウム2次電池は、その負極活物質の占める体積や質量に起因して、エネルギー密度及び容量を十分高くすることが困難である。また、従来型の負極活物質を有しない負極を備えるアノードフリー型リチウム2次電池は、充放電を繰り返すことにより負極表面上にデンドライト状のリチウム金属が形成されやすく、短絡及び容量低下が生じやすいため、サイクル特性が十分でない。
【0009】
本出願人が鋭意検討を重ねたところ、リチウム2次電池の充電方法を工夫することで、サイクル特性を向上させることができることが見出された。本発明は、特別な充電方法を採用することでサイクル特性に優れるリチウム2次電池の電池システム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態に係る電池システムは、リチウム2次電池と、リチウム2次電池を充電する充電装置と、を含む。リチウム2次電池は、正極と、負極活物質を有しない負極と、を備える。充電装置は、リチウム2次電池に充電のための電力を供給する電力供給部と、所定のプレチャージ電流により所定のプレチャージ容量まで充電するプレチャージの後、プレチャージ電流より高い所定の通常充電電流によりプレチャージ容量より大きい通常容量まで充電する通常充電を行うよう電力供給部を制御する充電制御部と、を備える。プレチャージは、繰り返し行われる通常充電のそれぞれの前に行われる。
【0011】
上記の電池システムでは、プレチャージ電流を用いたプレチャージにより、負極表面上にリチウム金属を薄く、かつほぼ均一に析出させることができる。このプレチャージ後に通常充電を行うと、負極表面上に均一かつ薄く析出したリチウム金属が、均一に析出していくこととなる。そのため、プレチャージを行わない従来の充電による場合と比較して、リチウム金属の析出をより均一化させることが可能となり、これによって、優れたサイクル特性を有する電池システムを提供することができる。
【0012】
上記電池システムでは、プレチャージ容量を、通常容量の0.025%以上0.5%以下とし、プレチャージ電流を、0.001C以上0.03C以下とすることが好ましい。
【0013】
上記電池システムによれば、リチウム金属の均一な析出に特に適したプレチャージを可能とし、さらに優れたサイクル特性を有する電池システムを提供することが可能となる。
【0014】
上記電池システムでは、プレチャージの完了から通常充電の開始までの時間を800秒以下とすることが好ましい。
【0015】
上記電池システムによれば、プレチャージの効果を有効に活用することができ、優れたサイクル特性を有する電池システムとすることができる。
【0016】
上記電池システムでは、負極を銅箔とする構成が好ましい。また、負極を、銅箔と、銅箔上に設けられたカーボンナノファイバーとを含む構成にしてもよい。また、負極を、銅箔と、銅箔上に設けられたLiを含まない金属層またはLiを含まない合金層のいずれか一方と、を含む構成にしてもよい。負極を上記のような構成にすることで、サイクル特性が特に優れた構成とすることができる。
【0017】
本発明の一実施形態に係る充電装置は、正極と、負極活物質を有しない負極と、を有するリチウム2次電池を充電する充電装置であって、リチウム2次電池に充電のための電力を供給する電力供給部と、所定のプレチャージ電流により所定のプレチャージ容量まで充電するプレチャージの後、プレチャージ電流より高い所定の通常充電電流によりプレチャージ容量より大きい通常容量まで充電する通常充電を行うよう電力供給部を制御する充電制御部と、を備え、プレチャージは、繰り返し行われる通常充電のそれぞれの前に行われる。
【0018】
本発明の一実施形態に係る充電方法は、正極と、負極活物質を有しない負極と、を有するリチウム2次電池を充電する充電方法であって、所定のプレチャージ電流により所定のプレチャージ容量まで充電するプレチャージステップと、プレチャージステップに続いて行われる、プレチャージ電流より高い所定の通常充電電流によりプレチャージ容量より大きい通常容量まで充電する通常充電ステップと、を有し、プレチャージステップは、繰り返し行われる通常充電ステップのそれぞれの前に行われる。
【0019】
上記の充電装置及び充電方法によれば、正極及び負極活物質を有しない負極を備えるリチウム2次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、サイクル特性に優れるリチウム2次電池の電池システム等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係る電池システム1の概略構成の一例を示すブロック図である。
図2】2次電池セル101の概略構成の一例を示す図である。
図3】BMS400による充電制御の動作フローの一例を示すフローチャートである。
図4】実施例及び比較例の実験結果を示したグラフの図である。
図5】2次電池セル101の変形例の概略構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0023】
[電池システムの構成]
図1は、本発明の実施形態に係る電池システム1の概略構成の一例を示すブロック図である。
【0024】
電池システム1は、例えば、リチウム2次電池100と、充電器200と、負荷300と、バッテリ・マネジメント・システム(BMS)400と、を含む。
【0025】
リチウム2次電池100は、直列に接続された複数の2次電池セル101を含んで構成される。リチウム2次電池100が有する2次電池セル101の数は特に限定されない。複数の2次電池セル101は、それぞれ同一の特性を有していてもよいし、異なる特性を有していてもよい。リチウム2次電池100が含む2次電池セル101は、必ずしも直列に接続されなくてもよいし、少なくとも一部が並列に接続されてもよい。2次電池セル101の構成の詳細については後述する。
【0026】
充電器200の構成は特に限定されないが、例えば、外部電源に接続された充電プラグが接続可能な充電コネクタが設けられ、外部電源からの供給電力をリチウム2次電池100の2次電池セル101の充電電力に変換するように構成されてよい。例えば、充電器200は、リチウム2次電池100に所定の充電電流を供給する電流源として機能する。充電器200がリチウム2次電池100に対して供給する電流は、プレチャージ時のプレチャージ電流と、通常充電時の通常充電電流とで可変である。充電器200は充電器200からリチウム2次電池100に対して供給する電流を制御する。2次電池セル101は、充電器200から供給される電流により充電される。
【0027】
負荷300の構成は特に限定されないが、例えば、電動車両(電気自動車、ハイブリッド自動車)の駆動装置等として構成されてよい。2次電池セル101は、例えば、負荷300に接続され、BMS400による制御によって負荷300に電流を供給し得る。
【0028】
BMS400は、例えば、メモリ401と、CPU402と、を含んで構成されるコントローラであって、リチウム2次電池100に含まれる2次電池セル101の充電及び放電を制御する。BMS400は、本発明の「充電制御部」の一具体例である。BMS400及び充電器200を含む構成は、本発明の「充電装置」の一具体例である。
【0029】
メモリ401は、例えば、RAM、ROM、半導体メモリ、磁気ディスク装置、もしくは光ディスク装置等、またはこれらの組み合わせによって構成され、CPU402による処理に用いられる充電制御プログラム、ドライバプログラム、オペレーティングシステムプログラム、アプリケーションプログラム、データ等を記憶する。各種プログラムは、例えばCD-ROM、DVD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な可搬型記録媒体から、公知のセットアッププログラム等を用いてメモリ401にインストールされてもよい。
【0030】
CPU402は、一又は複数個のプロセッサ及びその周辺回路を備え、BMS400の全体的な動作を統括的に制御する。CPU402は、メモリ401に記憶されている、充電制御プログラムを含む各種プログラムに基づいて処理を実行する。
【0031】
[2次電池セル101の構成]
図2は、2次電池セル101の概略構成の一例を示す図である。図2に示すように、2次電池セル101は、正極11、負極活物質を有しない負極12及び正極11と負極12との間に配置されたセパレータ13等が外装体14内に封止されたパウチセルであり、正極11及び負極12にそれぞれ接続された正極端子15、負極端子16が外装体14の外部に延出して外部回路に接続できるように構成されている。2次電池セル101の上面及び下面は平面であり、その形状は、方形であるが、これに限定されるものではなく、用途等に応じて任意の形状(例えば、円形等)にすることができる。
【0032】
(正極)
正極11としては、正極活物質を有する限り、一般的にリチウム2次電池に用いられるものであれば、特に限定されないが、リチウム2次電池の用途によって、公知の材料を適宜選択することができる。正極11は、正極活物質を有するため、安定性及び出力電圧が高い。
【0033】
本明細書において、「正極活物質」とは、リチウム元素(典型的には、リチウムイオン)を正極11に保持するための物質を意味し、リチウム元素(典型的には、リチウムイオン)のホスト物質と換言してもよい。
【0034】
そのような正極活物質としては、特に限定されないが、例えば、金属酸化物及び金属リン酸塩が挙げられる。上記金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化コバルト系化合物、酸化マンガン系化合物、及び酸化ニッケル系化合物等が挙げられる。上記金属リン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、リン酸鉄系化合物、及びリン酸コバルト系化合物が挙げられる。典型的な正極活物質としては、LiCoO2、LiNixCoyMnzO(x+y+z=1)、LiNixMnyO(x+y=1)、LiNiO2、LiMn24、LiFePO、LiCoPO、LiFeOF、LiNiOF、及びTiS2が挙げられる。上記のような正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0035】
正極11は、上記の正極活物質以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、特に限定されないが、例えば、公知の導電助剤、バインダー、固体ポリマー電解質、及び無機固体電解質が挙げられる。
【0036】
正極11における導電助剤としては、特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)、カーボンナノファイバー(CNF)、及びアセチレンブラック等が挙げられる。また、バインダーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリビニリデンフロライド、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル樹脂、及びポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0037】
正極11における、正極活物質の含有量は、正極11全体に対して、例えば、50質量%以上100質量%以下であってもよい。導電助剤の含有量は、正極11全体に対して、例えば、0.1質量%以上30質量%以下あってもよい。バインダーの含有量は、正極11全体に対して、例えば、0.5質量%以上30質量%以下であってもよい。固体ポリマー電解質、及び無機固体電解質の含有量の合計は、正極11全体に対して、例えば、0.5質量%以上30質量%以下であってもよい。
【0038】
正極11の単位面積当たりの重量は、例えば、10-40mg/cm2である。正極活物質層の厚さは、例えば、30~150μmである。正極11の密度は、例えば、2.5~4.5g/mlである。正極11の面積容量は、例えば、1.0~10.0mAh/cm2である。
【0039】
正極11の厚さ(上下方向の長さ)は、好ましくは20μm以上150μm以下であり、より好ましくは40μm以上120μm以下であり、更に好ましくは50μm以上100μm以下である。
【0040】
(負極)
負極12は、負極活物質を有さず、すなわち、リチウム及びリチウムのホストとなる活物質を有しないものである。したがって、リチウム2次電池100は、負極活物質を有する負極を備えるリチウム2次電池と比較して、電池全体の体積及び質量が小さく、エネルギー密度が原理的に高い。ここで、リチウム2次電池100は、リチウム金属が負極12上に析出し、及び、その析出したリチウム金属が電解溶出することによって充放電が行われる。
【0041】
本実施形態において、「リチウム金属が負極の表面に析出する」とは、負極の表面の少なくとも1箇所に、リチウム金属が析出することを意味する。したがって、リチウム2次電池100において、リチウム金属は、例えば、負極12の表面(負極12とセパレータ13との界面)に析出してもよい。
【0042】
本明細書において、「負極活物質」とは、リチウムイオン、又はリチウム金属を負極12に保持するための物質を意味し、リチウム元素(典型的にはリチウム金属)のホスト物質と換言してもよい。そのような保持の機構としては、特に限定されないが、例えば、インターカレーション、合金化、及び金属クラスターの吸蔵等が挙げられ、典型的には、インターカレーションである。
【0043】
そのような負極活物質としては、特に限定されないが、例えば、リチウム金属及びリチウム金属を含む合金、炭素系物質、金属酸化物、並びにリチウムと合金化する金属及び該金属を含む合金等が挙げられる。上記炭素系物質としては、特に限定されないが、例えば、グラフェン、グラファイト、ハードカーボン、メソポーラスカーボン、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノホーン等が挙げられる。上記金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化チタン系化合物、酸化スズ系化合物、及び酸化コバルト系化合物等が挙げられる。上記リチウムと合金化する金属としては、例えば、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、アルミニウム、及びガリウムが挙げられる。
【0044】
本明細書において、負極が「負極活物質を有しない」とは、負極における負極活物質の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であることを意味する。負極における負極活物質の含有量は、負極全体に対して、好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。負極が負極活物質を有さず、又は、負極における負極活物質の含有量が上記の範囲内にあることにより、リチウム2次電池100のエネルギー密度が高いものとなる。
【0045】
より詳細には、負極12は、電池の充電状態によらず、リチウム金属以外の負極活物質の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であり、好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。また、負極12は、初期充電前、及び/又は放電終了時において、リチウム金属の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であり、好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。
【0046】
したがって、「負極活物質を有しない負極を備えるリチウム2次電池」は、アノードフリー2次電池、ゼロアノード2次電池、又はアノードレス2次電池と換言することができる。また、「負極活物質を有しない負極を備えるリチウム2次電池」は、「リチウム金属以外の負極活物質を有さず、初期充電前及び/又は放電終了時においてリチウム金属を有しない負極を備えるリチウム2次電池」や「初期充電前及び/又は放電終了時においてリチウム金属を有しない負極集電体を備えるリチウム2次電池」と換言してもよい。
【0047】
本明細書において、電池が「初期充電前である」とは、電池が組み立てられてから第1回目の充電をするまでの状態を意味する。また、電池が「放電終了時である」とは、電池の電圧が1.0V以上3.8V以下である状態を意味する。
【0048】
また、リチウム2次電池100において、電池の電圧が4.2Vの時の負極12上に析出しているリチウム金属の質量M4.2に対する、電池の電圧が3.0Vの時の負極12上に析出しているリチウム金属の質量M3.0の比M3.0/M4.2は、好ましくは20%以下であり、より好ましくは15%以下であり、更に好ましくは10%以下である。
【0049】
典型的なリチウム2次電池において、負極の容量(負極活物質の容量)は、正極の容量(正極活物質の容量)と同程度となるように設定されるが、リチウム2次電池100において、負極12はリチウム元素のホスト物質である負極活物質を有しないため、その容量を規定する必要がない。したがって、リチウム2次電池100は、負極による充電容量の制限をうけないため、原理的にエネルギー密度を高くすることができる。
【0050】
負極12としては、負極活物質を有さず、集電体として用いることができるものであれば特に限定されないが、例えば、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、その他Liと反応しない金属、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものが挙げられる。なお、負極12にSUSを用いる場合、SUSの種類としては従来公知の種々のものを用いることができる。上記のような負極材料は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。なお、本明細書中、「Liと反応しない金属」とは、リチウム2次電池の動作条件においてリチウムイオン又はリチウム金属と反応して合金化することがない金属を意味する。
【0051】
負極12は、好ましくはCu、Ni、Ti、Fe、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものであり、より好ましくは、Cu、Ni、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものである。負極12は、更に好ましくは、Cu、Ni、これらの合金、又は、ステンレス鋼(SUS)である。このような負極を用いると、電池のエネルギー密度、及び生産性が一層優れたものとなる傾向にある。
【0052】
負極12は、リチウム金属を含有しない電極である。したがって、製造の際に可燃性及び反応性の高いリチウム金属を用いなくてよいため、リチウム2次電池100は、安全性、生産性、及びサイクル特性に優れるものである。
【0053】
負極12の平均厚さは、好ましくは4μm以上20μm以下であり、より好ましくは5μm以上18μm以下であり、更に、好ましくは6μm以上15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池100における負極12の占める体積が減少するため、リチウム2次電池100のエネルギー密度が一層向上する。
【0054】
負極12の面積は、正極11の面積よりも大きいことが好ましく、例えば、その四方が正極11よりも僅かに(例えば、0.5~1.0mm程度)大きく構成されている。
【0055】
(セパレータ)
セパレータ13は、正極11と負極12とを隔離することにより電池が短絡することを防ぎつつ、正極11と負極12との間の電荷キャリアとなるリチウムイオンのイオン伝導性を確保するための部材であり、電子導電性を有さず、リチウムイオンと反応しない材料により構成される。また、セパレータ13は当該電解液を保持する役割も担う。セパレータ13は、上記役割を担う限りにおいて限定はないが、例えば、多孔質のポリエチレン(PE)膜、ポリプロピレン(PP)膜、又はこれらの積層構造により構成される。
【0056】
セパレータ13は、セパレータ被覆層により被覆されていてもよい。セパレータ被覆層は、セパレータ13の両面を被覆していてもよく、片面のみを被覆していてもよい。セパレータ被覆層は、イオン伝導性を有し、リチウムイオンと反応しない部材であれば特に限定されないが、セパレータ13と、セパレータ13に隣接する層とを強固に接着させることができるものであると好ましい。そのようなセパレータ被覆層としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースの合材(SBR-CMC)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(Li-PAA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、及びアラミドのようなバインダーを含むものが挙げられる。セパレータ被覆層は、上記バインダーにシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硝酸リチウム等の無機粒子を添加させてもよい。なお、セパレータ13は、セパレータ被覆層を有するセパレータを包含するものである。
【0057】
セパレータ13の平均厚さは、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは25μm以下であり、更に好ましくは20μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池100におけるセパレータ13の占める体積が減少するため、リチウム2次電池100のエネルギー密度が一層向上する。また、セパレータ13の平均厚さは、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは7μm以上であり、更に好ましくは10μm以上である。そのような態様によれば、正極11と負極12とを一層確実に隔離することができ、電池が短絡することを一層抑止することができる。セパレータ13の面積は、正極11及び負極12の面積よりも大きいことが好ましい。
【0058】
(電解液)
リチウム2次電池100は、電解液を有していることが好ましい。リチウム2次電池100において、電解液は、セパレータ13に浸潤させてもよく、正極11と、セパレータ13と、負極12との積層体と共に密閉容器に封入してもよい。電解液は、電解質及び溶媒を含有し、イオン伝導性を有する溶液であり、リチウムイオンの導電経路として作用する。このため、電解液を含む態様によれば、電池の内部抵抗が一層低下し、エネルギー密度、容量、及びサイクル特性が一層向上する。
【0059】
電解液に含まれる電解質としては、塩であれば特に限定されないが、例えば、Li、Na、K、Ca、及びMgの塩等が挙げられる。電解質としては、好ましくはリチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、特に限定されないが、LiI、LiCl、LiBr、LiF、LiBF4、LiPF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF32、LiN(SO2CF3CF32、LiBF2(C24)、LiB(O2242、LiB(O224)F2、LiB(OCOCF34、LiNO3、及びLi2SO4等が挙げられる。上記のリチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0060】
電解液における電解質の濃度は特に限定されないが、好ましくは0.5M以上であり、より好ましくは0.7M以上であり、更に好ましくは0.9M以上であり、更により好ましくは1.0M以上である。電解質の濃度が上記の範囲内にあることにより、SEI層が一層形成されやすくなり、また、内部抵抗が一層低くなる傾向にある。電解質の濃度の上限は特に限定されず、電解質の濃度は10.0M以下であってもよく、5.0M以下であってもよく、2.0M以下であってもよい。
【0061】
溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、フロロエチレンカーボネート、ジフロロエチレンカーボネート、トリフロロメチルプロピレンカーボネート、メチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、ノナフロロブチルメチルエーテル、ノナフロロブチルエチルーテル、テトラフロロエチルテトラフロロプロピルエーテル、リン酸トリメチル、及びリン酸トリエチルが挙げられる。上記の溶媒は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0062】
(外装体)
外装体14は、2次電池セル101の正極11、負極12、セパレータ13、電解液等を収容して密閉封止するものである。外装体14の材料は、例えば、ラミネートフィルムが用いられる。
【0063】
(正極端子及び負極端子)
正極端子15は、一端が正極11の上面(セパレータ13に対向する面と反対側の面)に接続され、外装体14の外部に延出して、他端が外部回路(図示せず)に接続される。負極端子16は、一端が負極12の下面(セパレータ13に対向する面と反対側の面)に接続され、外装体14の外部に延出して、他端が外部回路(図示せず)に接続される。正極端子15、負極端子16の材料としては、導電性のあるものであれば特に限定されないが、例えば、Al、Ni等が挙げられる。
【0064】
[BMS400による充電制御]
本実施形態の電池システム1では、繰り返し行われる充電サイクルにおいて、プレチャージが行われた後に通常充電が行われるよう、BMS400による充電制御が行われる。図3は、電池システム1においてBMS400により行われる充電制御の動作フローの一例を示すフローチャートである。当該充電制御は、CPU402が、メモリ401に記憶された充電制御プログラムを実行することにより行われる。
【0065】
(S100)
充電制御が開始されると、BMS400は、充電器200からリチウム2次電池100に対して、充電のための電力として所定のプレチャージ電流を供給することでプレチャージを開始する(S100)。プレチャージ電流は、通常充電時にリチウム2次電池100に対して供給される通常充電電流よりも小さい電流である。
【0066】
(S110)
次に、BMS400は、リチウム2次電池100に充電した充電量がプレチャージ容量に達したか否かを判定する。当該判定は、リチウム2次電池100に対してプレチャージ電流を与えた時間に基づいて行われるが、これに限定されない。例えば、当該判定は、リチウム2次電池100に対して与えられたプレチャージ電流と時間との積分演算の結果に基づいて行われてもよいし、その他の方法により行われてもよい。ただし、リチウム2次電池100にプレチャージ電流が与えられた時間に基づいて判定する方法が比較的安易な処理で実現可能であるため好ましい。BMS400は、リチウム2次電池100に充電した充電量がプレチャージ容量に達したと判定した場合には(S110でY)、S120の処理に移る。そうでない場合には(S110でN)、BMS400はS100からS110の処理を繰り返す。
【0067】
(S120)
次に、BMS400は、充電器200からリチウム2次電池100に対してプレチャージ電流を与えるのを停止し、充電のための電力として所定の通常充電電流を供給することで通常充電を開始する(S120)。通常充電電流は、プレチャージ電流より大きい電流である。
【0068】
(S130)
次に、BMS400は、リチウム2次電池100に充電した充電量が通常充電容量に達したか否かを判定する(S130)。当該判定は、リチウム2次電池100またはリチウム2次電池100に含まれる2次電池セル101の電流値または電圧値に基づいて行われてもよいし、その他の周知の方法により行われてもよい。BMS400は、リチウム2次電池100に充電した充電量が通常充電容量に達したと判定した場合には(S130でY)、充電器200からリチウム2次電池100への電流の供給を停止して充電を終了する。そうでない場合には(S130でN)、BMS400はS140の処理に移る。
【0069】
(S140)
次に、BMS400は、充電器200がリチウム2次電池100から取り外され、または充電を停止させる操作が行われることなどにより、充電が停止されたか否かを判定する(S140)。充電が停止されていない場合には(S140でN)、BMS400は、S120からS140の処理を繰り返す。充電が停止された場合には(S140でY)、BMS400は充電器200からリチウム2次電池100への電流の供給を停止して充電を終了する。
【0070】
上記充電サイクルは、S100及びS110のプレチャージの後に、S120~S140の通常充電が行われる。プレチャージと通常充電との間には休止時間を設けてもよい。
【0071】
なお、通常充電は、必ずしも上記の方法である必要はなく、他の従来の方法を採用してもよい。
【実施例
【0072】
[充放電サイクルの実験]
ここで、本実施形態における充放電サイクルの実験の実施例及び比較例について説明する。実施例及び比較例では、図2に示された構成を有する2次電池セル101を製作したうえでリチウム2次電池100として図1のように充電器200及び負荷300に連結し、プレチャージ、通常充電、及び放電の充放電サイクルを繰り返す実験を行った。
【0073】
製作した2次電池セル101の概要は、以下のとおりである。正極には、面積約16cm2、厚さ約74μmのニッケル酸リチウム(NCA)を用いた。負極には、面積約20.25cm2、厚さ約8μmの銅箔(Cu箔)のみの構成、同サイズの銅箔上にカーボンナノファイバー(CNF)を設けた構成、及び同サイズの銅箔上に100nm厚のSn板を設けた構成、のいずれかを用いた。なお、Sn板はLiを含まない金属層の一例である。Sn板は、Liを含まない別の金属に置き換えてもよい。セパレータには、PvDFをコートした微多孔性ポリエチレンフィルムを用いた。電解液には、ジメトキシエタン(DME)に、4molのLiN(SO2F)2(LiFSI)を溶解させた、4.0M LiFSI溶液を用いた。2次電池セル101の定格容量は64mAhとした。
【0074】
プレチャージ時には、充電レート及び充電時間を様々な値に変化させた。充電レートは、充電時の電流と2次電池セル101の定格容量とに基づいて算出される。プレチャージ後の通常充電では、6.4mA、4.2Vを2次電池セル101に所定の充電時間の間供給し、プレチャージ容量まで、定電流源による充電を行った。プレチャージ容量は、充電レートまたはプレチャージ時の電流と、充電時間とによって算出される。プレチャージ容量比率は、プレチャージ容量と2次電池セル101の定格容量とに基づいて算出される。プレチャージ後には通常充電を行うが、いくつかの実施例及び比較例では、プレチャージと通常充電との間に休止時間を設けた。放電時には、2次電池セル101を6.4mA、3Vの定電流源として動作させることで放電を行った。このような条件で、放電容量が初期容量の80%になったときのサイクル回数を計測した。なお、上記の例では、充電レート及びプレチャージ容量比率は定格容量に基づいて算出されているが、この定格容量は、通常充電時に充電すべき所定の容量に置き換えてもよい。
【0075】
[実施例1~9、及び比較例1~8]
実施例1~9、及び比較例1~8では、負極を銅箔のみとした構成の2次電池セル101を用いた。これらの実施例1~9及び比較例1~8の条件及び実験結果は、次の表1のとおりである。
【0076】
【表1】
【0077】
図4は、表1に示す実施例1~9及び比較例1~8の実験結果を示したグラフである。図4では、実施例1~7に対応する結果をそれぞれB1~B7とし、比較例1~7に対応する結果をそれぞれC1~C7として示している。実験結果によれば、図4中の領域Aに含まれる条件において、放電容量が初期容量の80%となるまでのサイクル回数が100回以上となっている。すなわち、プレチャージ容量を0.016mAh以上0.32mAh以下、プレチャージ容量比率を0.025%以上0.5%以下、プレチャージ電流を0.001C以上0.03C以下とすることで、放電容量が初期容量の80%となるまでのサイクル回数が100回以上となる優れた結果を得ることができた。これは、プレチャージ電流を用いたプレチャージにより、負極表面上にリチウム金属を薄く、かつほぼ均一に析出させることができたことによる。このプレチャージ後に通常充電を行うと、負極表面上に均一かつ薄く析出したリチウム金属が、均一に析出していくこととなる。そのため、プレチャージを行わない従来の充電による場合と比較して、リチウム金属の析出をより均一化させることが可能となり、これによって、優れたサイクル特性を得ることができる。
【0078】
なお、2次電池セル101の定格容量が変化した場合には、容量の増減に比例してプレチャージ容量を増減させ、上記のようなプレチャージ容量比率(%)までプレチャージを行うことが好ましい。同様に、2次電池セル101の定格容量が変化した場合には、容量の増減に比例してプレチャージ時の電流値を大きくまたは小さくし、上記のような充電レート(C)でのプレチャージを行うことが好ましい。
【0079】
また、プレチャージと通常充電との間の休止時間については以下のような結果が得られた。すなわち、実施例8及び9のように、それぞれ休止時間を60秒及び780秒とした場合には、放電容量が初期容量の80%となるまでのサイクル回数が100回以上となったものの、比較例8のように休止時間を900秒とした場合には、放電容量が初期容量の80%となるまでのサイクル回数が100回未満となった。すなわち、プレチャージと通常充電との間には休止時間を設けてもよいが、休止時間を、例えば800秒以上などの所定時間以上長くしてしまうと、プレチャージによるサイクル特性向上の効果が薄くなる。よって、プレチャージと通常充電との間の休止時間を所定時間以下とすることが好ましく、例えば800秒以下とすることが好ましい。また、プレチャージ直後に通常充電を開始すると、プレチャージによるサイクル特性向上の効果を維持でき、かつ充電時間を必要以上に長くする必要がないため好ましい。
【0080】
[実施例10~13、及び比較例9~12]
実施例10~13、及び比較例9~12では、負極を銅箔上にカーボンナノファイバー(CNF)を設けた構成の2次電池セル101を用いた。これらの実施例10~13及び比較例9~12の条件及び実験結果は、次の表2のとおりである。
【0081】
【表2】
【0082】
[実施例14~17、及び比較例13~16]
実施例14~17、及び比較例13~16では、負極を銅箔上に100nm厚のSn板を設けた構成の2次電池セル101を用いた。これらの実施例14~17及び比較例13~16の条件及び実験結果は、次の表3のとおりである。
【0083】
【表3】
【0084】
実施例10~17及び比較例9~16の結果から、負極材料を本実施形態の範囲において変化させたとしても、実施例1~9及び比較例1~8と同様の結果が得られることが判る。
【0085】
[変形例]
上記実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施形態のみに限定する趣旨ではなく、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な変形が可能である。
【0086】
例えば、2次電池セルは、セパレータではなく固体電解質層を有していてもよい。図5は、変形例にかかる2次電池セル101Aの概略断面図である。図5に示すように、2次電池セル101Aは、正極11と負極と13との間に固体電解質層17が形成された固体電池である。2次電池セル101Aは、実施形態にかかる2次電池セル101(図2)において、セパレータ13を固体電解質層17に変更した上、外装体を有しないようにしたものである。
【0087】
一般に、液体電解質を備える電池は、液体の揺らぎに起因して、電解質から負極表面に対してかかる物理的圧力が場所によって異なる傾向にある。これに対し、2次電池セル101Aは、固体電解質層17を備えるため、負極12の表面にかかる圧力がより均一なものとなり、負極12の表面に析出するキャリア金属の形状をより均一化することができる。これにより、負極12の表面に析出するキャリア金属が、デンドライト状に成長することがより抑制されるため、2次電池(2次電池セル101A)のサイクル特性がさらに優れたものとなる。
【0088】
固体電解質層17としては、2次電池の用途及びキャリア金属の種類によって、公知の材料を適宜選択することができる。固体電解質層17を構成する固体電解質は、好ましくはイオン伝導性を有し、電子伝導性を有さないものである。これにより、2次電池セル101Aの内部抵抗を低下させ、2次電池セル101A内部の短絡を抑制することができる。その結果、2次電池(2次電池セル101A)のエネルギー密度、容量、及びサイクル特性を向上させることができる。
【0089】
固体電解質層17としては、例えば、樹脂及び塩を含むものが挙げられる。そのような樹脂としては、特に限定されないが、例えば、主鎖及び/又は側鎖にエチレンオキサイドユニットを有する樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、エステル樹脂、ナイロン樹脂、ポリシロキサン、ポリホスファゼン、ポリビニリデンフロライド、ポリメタクリル酸メチル、ポリアミド、ポリイミド、アラミド、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリアセタール、ポリスルホン、及びポリテトラフロロエチレン等が挙げられる。上記のような樹脂は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0090】
固体電解質層17に含まれる塩としては、特に限定されないが、例えば、Li、Na、K、Ca、及びMgの塩等が挙げられる。リチウム塩としては、特に限定されないが、LiI、LiCl、LiBr、LiF、LiBF4、LiPF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF32、LiN(SO2CF3CF32、LiB(O2242、LiB(O224)F2、LiB(OCOCF34、LiNO3、及びLi2SO4等が挙げられる。上記のようなリチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0091】
一般に、固体電解質層における樹脂とリチウム塩との含有量比は、樹脂の有する酸素原子と、リチウム塩の有するリチウム原子の比([Li]/[O])によって定められる。固体電解質層17において、樹脂とリチウム塩との含有量比は、上記比([Li]/[O])が、好ましくは0.02以上0.20以下、より好ましくは0.03以上0.15以下、更に好ましくは0.04以上0.12以下になるように調整される。
【0092】
固体電解質層17は、上記樹脂及び塩以外の成分を含んでいてもよい。例えば、例えば、2次電池セル101が含み得る電解液と同様の電解液を含んでも良い。なお、この場合は、2次電池セル101Aを外装体により封止することが好ましい。
【0093】
固体電解質層17は、正極と負極とを確実に離隔する観点からある程度の厚みを有することが好ましく、他方、2次電池(2次電池セル101A)のエネルギー密度を大きくする観点からは厚みを一定以下に抑えることが好ましい。具体的には、固体電解質層17の平均厚さは、好ましくは5μm~20μmであり、より好ましくは7μm~18μm以下であり、さらに好ましくは、10μm~15μmである。
【0094】
なお、本明細書において、「固体電解質」とは、ゲル電解質を含むものとする。ゲル電解質としては、特に限定されないが、例えば、高分子と、有機溶媒と、リチウム塩とを含むものが挙げられる。ゲル電解質における高分子としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン及び/又はポリエチレンオキシドの共重合体、ポリビニリデンフロライド、並びにポリビニリデンフロライド及びヘキサフロロプロピレンの共重合体等が挙げられる。
【0095】
また、例えば、2次電池セル101は、正極又は負極に接触するように配置される集電体を有していてもよい。この場合、正極端子及び負極端子は、集電体に接続される。集電体としては、特に限定されないが、例えば、負極材料に用いることのできる集電体が挙げられる。なお、2次電池セル101が集電体を有しない場合、負極及び正極自身が集電体として働く。
【0096】
また、例えば、2次電池セル101は、負極とセパレータ又は固体電解質層と、正極とを複数積層させて、電池の容量や出力電圧を向上させるようにしてもよい。積層数は、例えば、3以上、好ましくは、10~30である。
【0097】
なお、本明細書において、エネルギー密度が高いとは、電池の総体積又は総質量当たりの容量が高いことを意味するが、好ましくは800Wh/L以上又は350Wh/kg以上であり、より好ましくは900Wh/L以上又は400Wh/kg以上であり、更に好ましくは1000Wh/L以上又は450Wh/kg以上である。
【0098】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明のリチウム2次電池は、エネルギー密度が高く、サイクル特性に優れるため、様々な用途に用いられる蓄電デバイスとして、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0100】
1…電池システム、 100…リチウム2次電池、 101、101A…2次電池セル、 200…充電器、 300…負荷、 400…BMS、 401…メモリ、 402…CPU、 11…正極、 12…負極、 13…セパレータ、 14…外装体、 15…正極端子、 16…負極端子、 17…固体電解質層
図1
図2
図3
図4
図5