(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ヒ素含有固形廃棄物から短いプロセスで高純度の金属ヒ素を調製する方法
(51)【国際特許分類】
C22B 30/04 20060101AFI20240912BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20240912BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240912BHJP
C22B 7/02 20060101ALI20240912BHJP
C22B 7/04 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C22B30/04
C22B1/02
C22B7/00 Z
C22B7/02 B
C22B7/04 B
(21)【出願番号】P 2023510380
(86)(22)【出願日】2022-10-19
(86)【国際出願番号】 CN2022126068
(87)【国際公開番号】W WO2023179002
(87)【国際公開日】2023-09-28
【審査請求日】2023-02-13
(31)【優先権主張番号】202210299826.7
(32)【優先日】2022-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518309666
【氏名又は名称】中南大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲孫▼▲偉▼
(72)【発明者】
【氏名】▲韓▼海生
(72)【発明者】
【氏名】田佳
(72)【発明者】
【氏名】彭竣
(72)【発明者】
【氏名】王宇峰
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼▲イン▼斐
(72)【発明者】
【氏名】胡文吉豪
(72)【発明者】
【氏名】胡岳▲華▼
【審査官】隅川 佳星
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-293089(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102172514(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106636678(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107794372(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108611494(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110104753(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111876601(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第113929328(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00 - 61/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)非鉄製錬のヒ素含有固形廃棄物に対して酸化アルカリ浸出を行い、ヒ素含有アルカリ性浸出液を得るステップと、
2)前記ヒ素含有アルカリ性浸出液に、カルボキシル基及び/又はヒドロキシル基含有水溶性高分子有機質と、マグネシウム化合物と、アンモニウム化合物とで構成された混合アンモニウムマグネシウム試薬
、及び周期的幾何学的構造を有する疎水性高分子有機質
としてのポリビニールアルコール及び/又はキトサンを順に添加し、撹拌反応させ、有機質で被覆されたヒ素酸複塩結晶を得るステップと、
3)有機質で被覆されたヒ素酸複塩結晶を焙焼した後、炭素粉末と還元焙焼を行い、排ガスから金属ヒ素を凝縮回収するステップと、を含むことを特徴とする、ヒ素含有固形廃棄物から短いプロセスで高純度の金属ヒ素を調製する方法。
【請求項2】
前記非鉄製錬のヒ素含有固形廃棄物は、ヒ素アルカリスラグ、銅製錬煙灰、鉛陽極泥のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1に記載のヒ素含有固形廃棄物から短いプロセスで高純度の金属ヒ素を調製する方法。
【請求項3】
前記酸化アルカリ浸出の条件は、過酸化水素水及び/又はオゾンを酸化剤とし、水酸化ナトリウム及び/又は炭酸ナトリウムをアルカリ浸出媒体とし、浸出温度が50~90℃であり、撹拌速度が200~700rpmであり、浸出時間が1~3hであり、非鉄製錬のヒ素含有固形廃棄物を粒度≦1mmになるように磨鉱し、アルカリ浸出媒体の濃度が0~4mol/Lであり、液固比が4~10mL/gであることであることを特徴とする、請求項1に記載のヒ素含有固形廃棄物から短いプロセスで高純度の金属ヒ素を調製する方法。
【請求項4】
前記混合アンモニウムマグネシウム試薬において、マグネシウム化合物とアンモニウム化合物のモル比はn(Mg/N)=0.2~1.0であり、カルボキシル基及び/又はヒドロキシル基含有水溶性高分子有機質とマグネシウム化合物及びアンモニウム化合物の総質量との比は1~10mg/gであることを特徴とする、請求項1に記載のヒ素含有固形廃棄物から短いプロセスで高純度の金属ヒ素を調製する方法。
【請求項5】
前記カルボキシル基及び/又はヒドロキシル基含有水溶性高分子有機質はポリアクリル酸ナトリウム及び/又はポリエチレングリコールであることを特徴とする、請求項1又は4に記載のヒ素含有固形廃棄物から短いプロセスで高純度の金属ヒ素を調製する方法。
【請求項6】
前記マグネシウム化合物は酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムのうちの少なくとも1つであり、
前記アンモニウム化合物は炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウムのうちの少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1に記載のヒ素含有固形廃棄物から短いプロセスで高純度の金属ヒ素を調製する方法。
【請求項7】
周期的幾何学的構造を有する前記疎水性高分子有機質
としてのポリビニールアルコール及び/又はキトサンのヒ素含有アルカリ性浸出液への添加濃度は1~5g/Lであり、前記混合アンモニウムマグネシウム試薬のヒ素含有アルカリ性浸出液への添加量はマグネシウムとヒ素のモル比n(Mg/As)=1.2~2.5で計量されることを特徴とする、請求項1に記載のヒ素含有固形廃棄物から短いプロセスで高純度の金属ヒ素を調製する方法。
【請求項8】
前記撹拌反応の条件は、温度が30~50℃であり、撹拌速度が300~500r/pmであり、時間が1~3hである
ことを特徴とする、請求項1に記載のヒ素含有固形廃棄物から短いプロセスで高純度の金属ヒ素を調製する方法。
【請求項9】
前記焙焼の条件は、温度が200~300℃であり、時間が2~3hであることであり、
前記還元焙焼の条件は、不活性雰囲気下で、焙焼温度が800~1200℃であり、時間が2~4hであり、炭素粉末の使用量が焙焼スラグの質量の10%~15%である
ことを特徴とする、請求項1に記載のヒ素含有固形廃棄物から短いプロセスで高純度の金属ヒ素を調製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非鉄製錬のヒ素含有固形廃棄物を資源化利用する方法に関し、具体的には、ヒ素含有固形廃棄物を利用して高純度の金属ヒ素を調製する方法に関し、非鉄製錬のヒ素含有固形廃棄物の無害化処理及び資源化利用の技術分野に適用される。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒ素は深刻な環境汚染をもたらし、人間の生命と健康を脅かすものであるという認識があり、ヒ素は常に恐れられている。しかしながら、ヒ素は、物理や化学的性質が非常に特殊な両性元素で、半導体材料のコア原料であり、チップ、電子情報、バイオ医薬、光起電力、軍需産業、航空宇宙等の戦略的新興産業に広く応用されている。新材料、電子情報、バイオ医薬、ハイエンド機器製造等の多くの分野における高純度のヒ素を原料とする高級ヒ素製品の応用は、農薬、防食、ガラス、セラミック等の分野における三酸化二ヒ素を原料とする低級ヒ素製品の応用に急速に取って代わっており、世界的な需要が拡大し続けている。
【0003】
ヒ素の大部分は、共生・随伴ヒ素金属鉱の人為的な採鉱・選鉱・製錬作業に由来し、主に製錬副生成物の形態で煙塵、ヒ素アルカリスラグ、陽極泥、硫化ヒ素スラグ、砒かわ等のヒ素含有固形廃棄物に賦存し、ヒ素含有量が高く、成分が複雑で、処理が困難である等の特徴を有し、周辺環境への大きな脅威となっている。実際に、これらの固形廃棄物におけるヒ素の含有量は、従来のヒ素鉱物(雄黄鉱物)よりも遥かに高く、ヒ素製品を調製する可能性を持っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のプロセスでは、乾式焙焼でヒ素含有固形廃棄物を処理すると共に、副生成物の三酸化二ヒ素を回収し、続いて三酸化二ヒ素製品を使用して高純度のヒ素をさらに調製する。しかしながら、乾式焙焼で生成された三酸化二ヒ素製品には、セレン、アンチモン、ビスマス等のヒ素の性質と相似するいくつかの不純物成分が不可避的に含有されるが、これを原料として高純度のヒ素を生産するには、精製を繰り返す必要があり、プロセスが複雑であり、操作が難しく、コストが高い。中国特許(CN101935767B)には、三酸化二ヒ素中の不純物を除去して高純度のヒ素を調製するために、複数回の昇華蒸留と水素還元を組み合わせた方法を使用しているが、操作が非常に複雑である。現在、ヒ素含有固形廃棄物から単体ヒ素を回収する技術の開発に取り組む研究もあるが、研究の重点は単体ヒ素の回収率の向上にあり、単体ヒ素の品質を重視していない。例えば、中国特許(CN1068936864A)には、黒銅泥からヒ素を回収する方法が提供されており、該技術は、まず石灰で黒銅泥アルカリ浸出液中のヒ素成分を沈殿させ、次に還元焙焼でヒ素カルシウムスラグ中のヒ素成分を回収し、ヒ素含有固形廃棄物から単体ヒ素への変換を実現したが、調製されたヒ素製品中のヒ素の含有量が95%を超えているだけであり、後続で該単体ヒ素を使用して高純度のヒ素を調製するには、依然として複雑な浄化・不純物除去工程を必要とする。以上から分かるように、ヒ素をアンチモン、セレン、ビスマス等の相似する不純物から高度に分離する技術を開発して、高純度の金属ヒ素原料を調製することは、高純度ヒ素の生産におけるキーポイントである。中国特許(CN108611494A)には、ヒ素アルカリスラグを効率的に資源化総合利用する方法が提案されている。該方法は、ヒ素酸複塩の結晶沈殿によってアルカリ性浸出液中のヒ素とアルカリの効率的な分離の問題を解決し、アルカリ成分の資源化回収を実現している。後続の研究によると、ヒ素酸複塩の結晶化プロセスの高い選択性は、ヒ素とアルカリの分離を保証するだけでなく、ヒ素と浸出液中の不純物成分(アンチモン、セレン、アルミニウム等)との初期分離も実現し、ヒ素の浄化精製に可能性を提供することが発見される。しかしながら、通常の条件下でのヒ素酸複塩の結晶化時に、少量の不純物イオンが依然として吸着又は被覆等の方式でヒ素酸複塩結晶にドーピングすることができ、ヒ素と不純物の高度な浄化を実現することができない。このため、該ヒ素酸複塩の結晶化プロセスの調整制御を強化し、結晶への不純物のドーピングを減らし、高純度のヒ素酸複塩を調製すれば、該ヒ素酸複塩で高純度の金属ヒ素製品を調製することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
技術的解決手段
従来技術における、ヒ素含有固形廃棄物から高純度のヒ素を調製するプロセスにおいてヒ素と相似する不純物との分離が難しい問題に対して、本発明は、非鉄製錬のヒ素含有固形廃棄物から短いプロセスで高純度の金属ヒ素を調製する方法を提供することを目的とする。該方法は、カルボキシル基及び/又はヒドロキシル基含有水溶性高分子有機質と周期的幾何学的構造を有する疎水性高分子有機質が反応系で発生した有機-無機界面整合の相乗作用によって、ヒ素酸複塩の鉱化・結晶化プロセスを調整制御し、ヒ素酸複塩の高精度の鉱化・結晶化により、ヒ素含有固形廃棄物のアルカリ浸出液中のヒ素とアンチモン、セレン、ビスマス等の様々な不純物との高度な分離を実現する上で、還元焙焼により高純度のヒ素を取得する。該方法は迅速で効率的であり、コストが低く、且つプロセスが簡単で、操作しやすく、工業的生産のニーズを満たしている。
【0007】
上記技術的目的を実現するために、本発明はヒ素含有固形廃棄物から短いプロセスで高純度の金属ヒ素を調製する方法を提供し、該方法は下記のステップ1)、2)、3)を含む。
【0008】
1)非鉄製錬のヒ素含有固形廃棄物に対して酸化アルカリ浸出を行い、ヒ素含有アルカリ性浸出液を得る。
【0009】
2)前記ヒ素含有アルカリ性浸出液に、カルボキシル基及び/又はヒドロキシル基含有水溶性高分子有機質と、マグネシウム化合物と、アンモニウム化合物とで構成された混合マグネシウムアンモニウム試薬及び周期的幾何学的構造を有する疎水性高分子有機質を順に添加し、撹拌反応させ、有機質で被覆されたヒ素酸複塩結晶を得る。
【0010】
3)有機質で被覆されたヒ素酸複塩結晶を焙焼した後、炭素粉末と混合して還元焙焼を行い、排ガスから金属ヒ素を凝縮回収する。
【0011】
従来技術には、アンモニウムマグネシウム試薬を使用してヒ素含有アルカリ性浸出液からヒ素を沈殿させるプロセスを実現することが報告されているが、ヒ素酸複塩の結晶化時に、依然として少量の不純物イオンが吸着又は被覆等の方式でヒ素酸複塩結晶にドーピングすることがあり、ヒ素と不純物の高度な浄化を実現することができないため、後工程でさらに高純度のヒ素を取得することができない。本発明の技術的解決手段のキーポイントは、カルボキシル基及び/又はヒドロキシル基含有水溶性高分子有機質、及び金属イオンに対して強い錯化能力を有する疎水性高分子有機質を同時に使用して、アンモニウムマグネシウム試薬によるヒ素沈殿効果を相乗的に変性することであり、該ヒ素酸複塩の結晶化プロセスを調整制御することで、結晶への不純物のドーピングを減らし、高純度のヒ素酸複塩を得ることができ、これにより高純度のヒ素製品を得ることができる。アンモニウムマグネシウム試薬でヒ素を沈殿させるプロセスにおいて、有機質の周期的幾何学的構造とヒ素酸複塩結晶構造の整合によって、ヒ素酸複塩結晶のその表面における正確な核生成を誘導することができ、また、有機質に含まれる機能官能基と溶液中のイオンとの間の界面相互作用によってヒ素酸複塩結晶の核生成速度、数量、核形成部位、結晶型配向性の制御を実現し、これによりヒ素酸複塩の結晶化プロセスの高い選択性を確保し、ヒ素と不純物の高度な分離に可能性を創出する。さらに例を挙げて説明すると、キトサン分子の周期的幾何学的構造とヒ素酸複塩結晶構造の整合は、ヒ素酸複塩結晶のその表面における正確な核生成を誘導することができ、ヒ素酸複塩の核生成後、ポリアクリル酸ナトリウム分子主鎖の両側のカルボキシル官能基(-COO-)は、ヒ素酸複塩結晶核中のカチオンMg2+と静電作用を発生して結晶表面に吸着し、結晶の表面エネルギーを低減し、ヒ素酸複塩結晶の成長過程を制御し、ヒ素酸複塩の高精度の鉱化・結晶化を実現することができ、よって、2種類の有機質を導入することで、アンチモン、セレン、テルル等のヒ素の性質と相似する不純物成分をほとんど含有しないヒ素酸複塩を生成することができ、後工程で該金属ヒ素を使用して高純度のヒ素を調製するプロセスは大幅に簡略化される。該方法は、高純度のヒ素生産プロセスにおける高品質原料不足という「首をしめる」問題の解決に寄与し、非鉄製錬業界及び戦略的新興産業の持続可能な発展を促進する。
【0012】
好ましい一解決手段として、前記非鉄製錬のヒ素含有固形廃棄物は、ヒ素アルカリスラグ、銅製錬煙灰、鉛陽極泥のうちの少なくとも1つを含む。これらの非鉄製錬のヒ素含有固形廃棄物は従来技術における一般的なヒ素含有製錬固形廃棄物である。
【0013】
好ましい一解決手段として、前記酸化アルカリ浸出の条件は、過酸化水素水又はオゾンを酸化剤とし、水酸化ナトリウム及び/又は炭酸ナトリウムをアルカリ浸出媒体とし、浸出温度が50~90℃であり、撹拌速度が200~700rpmであり、浸出時間が1~3hであり、非鉄製錬のヒ素含有固形廃棄物を粒度≦1mmになるように磨鉱し、アルカリ浸出媒体の濃度が0~4mol/Lであり、液固比が4~10mL/gであることである。好ましい条件下で、ヒ素酸塩がアルカリ液に溶解するが大部分の金属成分がアルカリ液に溶解しないという特徴によって、ヒ素成分と大部分の金属成分との選択的な分離を実現する。具体的な浸出プロセスは、非鉄製錬のヒ素含有固形廃棄物を粉砕した後に、水と混合し、続いて酸化剤及びアルカリを添加することである。不純物を導入しないように、酸化剤は好ましくは過酸化水素水又はオゾンであり、酸化剤の使用量は、非鉄製錬のヒ素含有固形廃棄物中の三価ヒ素を五価ヒ素に酸化することに必要な理論的な酸化剤の使用量の1.5~2.0倍である。
【0014】
好ましい一解決手段として、前記混合アンモニウムマグネシウム試薬において、マグネシウム化合物とアンモニウム化合物のモル比はn(Mg/N)=0.2~1.0であり、カルボキシル基及び/又はヒドロキシル基含有水溶性高分子有機質とマグネシウム化合物及びアンモニウム化合物の総質量との比は1~10mg/gである。混合アンモニウムマグネシウム試薬は、マグネシウム化合物と、アンモニウム化合物と、カルボキシル基及び/又はヒドロキシル基含有水溶性高分子有機質とを予め反応させて得られたものであり、つまり、カルボキシル基及び/又はヒドロキシル基含有水溶性高分子有機質を濃度が1~5g/Lの水溶液に調製し、その後所望の配合比でマグネシウム化合物とアンモニウム化合物を添加する。
【0015】
好ましい一解決手段として、前記カルボキシル基及び/又はヒドロキシル基含有水溶性高分子有機質はポリアクリル酸ナトリウム及び/又はポリエチレングリコールである。好ましいカルボキシル基及び/又はヒドロキシル基含有水溶性有機質は、主に配位作用により結晶表面に吸着し、結晶の表面エネルギーを低減し、ヒ素酸複塩結晶の成長過程を制御して、ヒ素酸複塩の高精度の鉱化・結晶化を実現することができるものである。
【0016】
好ましい一解決手段として、前記マグネシウム化合物は酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムのうちの少なくとも1つである。
【0017】
好ましい一解決手段として、前記アンモニウム化合物は炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウムのうちの少なくとも1つである。マグネシウム化合物とアンモニウム化合物は一般的なマグネシウム塩とアンモニウム塩であり、両者はヒ素酸根と化学構造的に安定したヒ素酸マグネシウムアンモニウム沈殿物に転化することができる。
【0018】
好ましい一解決手段として、周期的幾何学的構造を有する前記疎水性高分子有機質のヒ素含有アルカリ性浸出液への添加濃度は1~5g/Lである。周期的幾何学的構造を有する疎水性高分子有機質も一般的に溶液の形態に調製されてから添加するが、加熱及び超音波処理等の作用により水溶液に分散又は溶解する。具体的には、例えば、周期的幾何学的構造を有する疎水性高分子有機質を100℃の熱水と10~20mL/gで混合し、超音波処理時間が30~50minである。
【0019】
好ましい一解決手段として、前記混合アンモニウムマグネシウム試薬のヒ素含有アルカリ性浸出液への添加量はマグネシウムとヒ素のモル比n(Mg/As)=1.2~2.5で計量される。
【0020】
好ましい一解決手段として、周期的幾何学的構造を有する前記疎水性高分子有機質はポリビニールアルコール及び/又はキトサンである。好ましい周期的幾何学的構造を有する有機質は主に結晶核の生成を誘導するためのものである。
【0021】
好ましい一解決手段として、前記撹拌反応の条件は、温度が30~50℃であり、撹拌速度が300~500r/pmであり、時間が1~3hであることである。好ましい撹拌反応条件下で、ヒ素酸アンモニウムマグネシウム沈殿物の高速沈降過程を制御することができる。
【0022】
好ましい一解決手段として、前記焙焼の条件は、温度が200~300℃であり、時間が2~3hであることである。好ましい焙焼条件下で、ヒ素酸アンモニウムマグネシウム沈殿物中の結晶水と遊離アンモニア成分を揮発させ、還元焙焼の処理量を低減することができる。
【0023】
好ましい一解決手段として、前記還元焙焼の条件は、不活性雰囲気下で、焙焼温度が800~1200℃であり、時間が2~4hであり、炭素粉末の使用量が焙焼スラグの質量の10%~15%であることである。不活性雰囲気は窒素ガス、アルゴンガス等である。好ましい還元焙焼プロセスはヒ素の効率的な還元及び揮発プロセスを制御することができる。
【0024】
本発明の解決手段で調製して得られた高純度の金属ヒ素は、純度が99%以上の高純度の金属ヒ素原料を指す。前記純度が99%以上の高純度の金属ヒ素は、さらに従来の通常の真空蒸留プロセスにより5N~7Nの金属ヒ素を得ることができる。より具体的には、99%の高純度の金属ヒ素(即ち2Nレベルの金属ヒ素)を真空タンクに入れ、吸気口にアルゴンガスを導入して空気を排出し、真空タンクを610~650℃に加熱して、ヒ素蒸気を形成し、その後、吸気口に水素を導入して、混合ガスを形成し、排気口に石英反応配管を接続し、ヒ素蒸気が石英配管の内壁に凝縮して純度が5N~7Nの高純度のヒ素を形成する。
【発明の効果】
【0025】
有益な効果
アンモニウムマグネシウム試薬を使用してヒ素含有アルカリ性浸出液からヒ素を沈殿させるプロセスを実現するプロセスにおいて、依然として少量の不純物イオンが吸着又は被覆等の方式でヒ素酸複塩結晶にドーピングすることがあり、ヒ素と不純物の高度な浄化を実現することができないため、後工程でさらに高純度のヒ素を取得することができないという従来技術の技術的課題を解決するために、本発明の技術的解決手段のキーポイントは、カルボキシル基及び/又はヒドロキシル基含有水溶性高分子有機質と周期的幾何学的構造を有する疎水性高分子有機質を同時に使用して、アンモニウムマグネシウム試薬によるヒ素沈殿効果を相乗的に変性することであり、カルボキシル基及び/又はヒドロキシル基含有水溶性有機質と周期的幾何学的構造を有する有機質が反応系で発生した有機-無機界面整合の相乗作用によって、ヒ素酸複塩の鉱化・結晶化プロセスを調整制御し、ヒ素酸複塩の高精度の鉱化・結晶化により、ヒ素含有固形廃棄物のアルカリ浸出液中のヒ素とアンチモン、セレン、ビスマス等の様々な不純物との高度な分離を実現する上で、還元焙焼により高純度のヒ素原料を取得する。該方法は迅速で効率的であり、コストが低く、且つプロセスが簡単であり、操作しやすく、工業的生産のニーズを満たしている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の最適実施例
以下の実施例は、本発明の請求項の保護範囲を制限するものではなく、本発明の内容をさらに説明することを目的とする。
【0027】
実施例1
【0028】
5kgのヒ素アルカリスラグ(主な成分は、As4.29%、Sb1.62%、Al2.41%、Fe0.89%、アルカリ(主に炭酸ナトリウムである)54.71%である)を20Lの水と混合し、ヒ素アルカリスラグ自体がアルカリを含有するため、浸出プロセスにおいて、水酸化ナトリウム又は炭酸ナトリウムを補充する必要がなく、適量の過酸化水素水のみを補充し、浸出温度が50℃であり、撹拌強度が500rpmであり、浸出時間が1.5hであるように制御し、浸出が終了した後、固液分離を行い、主な成分が表1に示すようなアルカリ性ヒ素含有浸出液を得て、ヒ素浸出率が92.15%である。
【0029】
酸化マグネシウムと炭酸水素アンモニウムをモル比n(Mg/N)=0.5で混合した後、ポリアクリル酸ナトリウムと該混合試薬を質量比5mg/gで混合し、混合マグネシウムアンモニウム試薬を調製する。キトサンと100℃の熱水を15mL/gで混合し、50min超音波処理して、十分に分散させる。その後、アルカリ性浸出液に混合マグネシウムアンモニウム試薬とキトサン溶液をn(Mg/As)=1.5:1、濃度5g/Lで順に添加し、50℃で500r/pmの速度で3h十分に撹拌し、反応が完了した後に濾過し、有機質で被覆されたヒ素酸複塩結晶を得る。
【0030】
ヒ素酸複塩結晶を300℃の高温で3h焙焼し、続いて焙焼スラグと炭素粉末を均一に混合した後(炭素粉末の質量が焙焼スラグの質量の15%である)、管状炉内に入れ、窒素ガス雰囲気下で900℃に加熱して3時間維持し、凝縮管部分で金属ヒ素製品を回収する。検出した結果、金属ヒ素の純度が99.84%に達し、アンチモン、セレン、アルミニウム等の不純物の含有量がいずれも0.01%よりも低い。
【0031】
さらに、得られた99.84%の金属ヒ素製品を真空タンクに入れ、吸気口にアルゴンガスを導入して空気を排出し、真空タンクを610℃に加熱して、ヒ素蒸気を形成し、その後、吸気口に水素を導入して、混合ガスを形成し、排気口に石英反応配管を接続し、ヒ素蒸気が石英配管の内壁に凝縮して6Nのより高い純度の高純度ヒ素を形成する。
【0032】
比較例1
【0033】
5kgのヒ素アルカリスラグを15Lの水と混合し、浸出温度が40℃であり、撹拌強度が500rpmであり、浸出時間が1.5hであるように制御し、浸出が終了した後、固液分離を行い、ヒ素浸出率が85.32%であるアルカリ性ヒ素含有浸出液を得る。
【0034】
比較例2
【0035】
実施例1の実験パラメータに従ってアルカリ性浸出液を調製する。ヒ素酸複塩結晶の調製時にキトサンを添加せず、その他の条件は実施例1と同じである。ヒ素酸複塩の還元焙焼プロセスの反応パラメータは実施例1と同じであり、最終的な金属ヒ素製品の純度が97.89%であり、不純物セレンの含有量が0.05%であり、不純物アンチモンの含有量が0.1%である。
【0036】
比較例3
【0037】
実施例1の実験パラメータに従ってアルカリ性浸出液を調製する。ヒ素酸複塩結晶の調製時、マグネシウムアンモニウム混合剤を調製するための溶液にポリアクリル酸ナトリウムを添加せず、その他の条件は実施例1と同じである。ヒ素酸複塩還元焙焼プロセスの反応パラメータは実施例1と同じであり、最終的な金属ヒ素製品の純度が96.98%であり、不純物セレンの含有量が0.09%であり、不純物アンチモンの含有量が0.15%である。
【0038】
比較例4
【0039】
実施例1のようにヒ素アルカリスラグの浸出及びヒ素酸複塩の結晶化プロセスの反応パラメータを制御する。還元焙焼プロセスにおいて炭素粉末の質量が焙焼スラグの質量の8%であり、その他の条件は実施例1と同じである。最終的な金属ヒ素製品の純度が81.55%であり、酸素の含有量が15.31%に達し、アンチモン、セレン、アルミニウム等の不純物の含有量がいずれも0.01%よりも低い。
【0040】
比較例5
【0041】
実施例1の実験パラメータに従ってアルカリ性浸出液を調製する。浸出液に十分な石灰をn(Ca/As)=3.0で添加し、温度が80℃であり、時間が1hであり、撹拌速度が300rpmである条件下で苛性化し、苛性化が完了した後、固液分離を行う。大量の炭酸カルシウムがヒ素カルシウムスラグと共沈するため、ヒ素スラグ中のヒ素の含有量がわずか8.49%であり、ヒ素の沈殿率がわずか67.44%である。
【0042】
実施例2
【0043】
5kgの鉛陽極泥(具体的な成分はPb12.88%、As27.53%、Sb24.92%、Ag5.08%であり、ヒ素が主に単体と酸化状態で存在する)を取って酸化アルカリ浸出を行い、浸出プロセスにおいて適量の過酸化水素水を酸化剤として添加し、液固比が10:1であり、炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの使用量がいずれも1mol/Lであり、温度が60℃であり、浸出時間が2hであり、撹拌速度が500rpmであるように制御し、浸出反応が完了した後、固液分離を行い、主な成分が表2に示すようなアルカリ性ヒ素含有浸出液を得て、ヒ素浸出率が90.47%である。
【0044】
塩化マグネシウムと塩化アンモニウムをモル比n(Mg/N)=0.4で混合した後、ポリエチレングリコールと該混合試薬を質量比8mg/gで混合し、混合マグネシウムアンモニウム試薬を調製する。ポリビニールアルコールと100℃の熱水を18mL/gで混合し、50min超音波処理して、十分に分散させる。アルカリ性浸出液に混合マグネシウムアンモニウム試薬とポリビニールアルコール溶液をn(Mg/As)=2.0:1、濃度5g/Lで順に添加し、50℃で500r/pmの速度で3h十分に撹拌し、反応が完了した後に濾過し、有機質で被覆されたヒ素酸複塩結晶を得る。
【0045】
ヒ素酸複塩結晶を250℃の高温で3h焙焼し、続いて焙焼スラグと炭素粉末を均一に混合した後(炭素粉末の質量が焙焼スラグの質量の12%である)、管状炉内に入れ、窒素ガス雰囲気下で1100℃に加熱して3時間維持し、凝縮管部分で金属ヒ素製品を回収する。検出した結果、金属ヒ素の純度が99.89%に達し、鉛、アンチモン、銀等の不純物の含有量がいずれも0.01%よりも低い。
【0046】
さらに、上記で得られた99.89%の金属ヒ素を真空タンクに入れ、吸気口にアルゴンガスを導入して空気を排出し、真空タンクを620℃に加熱して、ヒ素蒸気を形成し、その後、吸気口に水素を導入して、混合ガスを形成し、排気口に石英反応配管を接続し、ヒ素蒸気が石英配管の内壁に凝縮して純度が5Nレベルのより高い純度の金属ヒ素を形成する。
【0047】
比較例6
【0048】
5kgの鉛陽極泥を取って酸化アルカリ浸出を行い、浸出プロセスにおいて適量の過酸化水素水を酸化剤として添加し、液固比が10:1であり、炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの使用量がいずれも0.5mol/Lであり、温度が60℃であり、浸出時間が2hであり、撹拌速度が500rpmであるように制御し、浸出反応が完了した後、固液分離を行い、ヒ素浸出率が74.52%であるアルカリ性ヒ素含有浸出液を得る。
【0049】
比較例7
【0050】
実施例2の実験パラメータに従ってアルカリ性浸出液を調製する。混合マグネシウムアンモニウム試薬を調製するプロセスにおいて、可溶性有機質と塩化マグネシウム及び塩化アンモニウムの総質量との混合割合が0.5mg/gであり、その他の条件は実施例2と同じである。ヒ素酸複塩還元焙焼プロセスの反応パラメータは実施例2と同じであり、最終的な金属ヒ素製品の純度が98.38%であり、アンチモン不純物の含有量が0.02%である。
【0051】
比較例8
【0052】
実施例2の実験パラメータに従ってアルカリ性浸出液を調製する。疎水性有機質調製時の熱水温度が50℃であり、その他の条件は実施例2と同じである。ヒ素酸複塩還元焙焼プロセスの反応パラメータは実施例2と同じであり、最終的な金属ヒ素製品の純度が97.18%であり、不純物アンチモンの含有量が0.15%である。
【0053】
比較例9
【0054】
実施例2の実験パラメータに従ってアルカリ性浸出液を調製する。混合マグネシウムアンモニウム試薬を調製するプロセスにおいて、塩化マグネシウムと塩化アンモニウムをn(Mg/N)=2.0で混合し、その他の条件は実施例2と同じである。ヒ素酸複塩還元焙焼プロセスの反応パラメータは実施例2と同じであり、最終的な金属ヒ素製品の純度が96.33%であり、鉛、アンチモン、銀等の不純物の含有量がいずれも0.02%よりも高い。
【0055】
実施例3
【0056】
5kgの銅製錬煙灰(具体的な成分はPb24.95%、Cu14.21%、As5.78%、Bi2.50%、Zn2.335%であり、ヒ素が主に混合硫酸塩に賦存する)を取って酸化アルカリ浸出を行う。浸出プロセスにおいて適量の過酸化水素水を酸化剤として添加し、液固比が5:1であり、炭酸ナトリウムの使用量が1.5mol/Lであり、水酸化ナトリウムの使用量が0.5mol/Lであり、温度が50℃であり、浸出時間が1hであり、撹拌速度が600rpmであるように制御し、浸出反応が完了した後、固液分離を行い、主な成分が表2に示すようなアルカリ性ヒ素含有浸出液を得て、ヒ素浸出率が82.38%である。
【0057】
硫酸マグネシウムと硫酸アンモニウムをモル比n(Mg/N)=0.5で混合した後、ポリアクリル酸ナトリウムと該混合試薬を質量比6mg/gで混合し、混合マグネシウムアンモニウム試薬を調製する。キトサンと100℃の熱水を20mL/gで混合し、50min超音波処理して、十分に分散させる。アルカリ性浸出液に混合マグネシウムアンモニウム試薬とキトサン溶液をn(Mg/As)=2.5:1、濃度5g/Lで順に添加し、50℃で600r/pmの速度で2h十分に撹拌し、反応が完了した後に濾過し、有機質で被覆されたヒ素酸複塩結晶を得る。
【0058】
ヒ素酸複塩結晶を300℃の高温で3h焙焼し、続いて焙焼スラグと炭素粉末を均一に混合した後(炭素粉末の質量が焙焼スラグの質量の10%である)、管状炉内に入れ、窒素ガス雰囲気下で1000℃に加熱して2.5時間維持し、凝縮管部分で金属ヒ素製品を回収する。検出した結果、金属ヒ素の純度が99.38%に達し、銅、鉛、亜鉛等の不純物の含有量がいずれも0.01%よりも低い。
【0059】
金属ヒ素を真空タンクに入れ、吸気口にアルゴンガスを導入して空気を排出し、真空タンクを650℃に加熱して、ヒ素蒸気を形成し、その後、吸気口に水素を導入して、混合ガスを形成し、排気口に石英反応配管を接続し、ヒ素蒸気が石英配管の内壁に凝縮して純度が7Nの高純度のヒ素を形成する。
【0060】
比較例10
【0061】
5kgの銅製錬煙灰を取って酸化アルカリ浸出を行い、浸出プロセスにおいて適量の過酸化水素水を酸化剤として添加し、液固比が2:1であり、炭酸ナトリウムの使用量が1.5mol/Lであり、水酸化ナトリウムの使用量が0.5mol/Lであり、温度が50℃であり、浸出時間が1hであり、撹拌速度が600rpmであるように制御し、浸出反応が完了した後、固液分離を行い、ヒ素浸出率が61.37%であるアルカリ性ヒ素含有浸出液を得る。
【0062】
比較例11
【0063】
実施例3の実験パラメータに従ってアルカリ性浸出液及び混合マグネシウムアンモニウム試薬を調製する。ヒ素酸複塩を調製する際にn(Mg/As)=1:1で混合マグネシウムアンモニウム試薬を添加し、その他の条件は実施例3と同じであり、最終的なアルカリ性浸出液中のヒ素の除去率が71.69%であり、ヒ素酸複塩中のヒ素品位が28.38%であり、金属ヒ素の純度が98.94%に達する。
【0064】
比較例12
【0065】
実施例3の実験パラメータに従ってアルカリ性浸出液及びヒ素酸複塩を調製する。還元焙焼の時、焙焼温度が600℃であり、その他の条件は実施例3と同じであり、最終的に金属ヒ素製品を回収することができなかった。
【0066】
比較例13
【0067】
実施例3の実験パラメータに従ってアルカリ性浸出液及びヒ素酸複塩を調製する。還元焙焼の時、焙焼スラグと炭素粉末を混合する際に炭素粉末の質量が焙焼スラグの質量の5%であり、その他の条件は実施例3と同じであり、最終的に金属ヒ素製品を回収することができなかった。