(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】定方位化処理装置、定方位化支援方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
E21B 25/16 20060101AFI20240912BHJP
E21B 43/00 20060101ALI20240912BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240912BHJP
G06T 7/33 20170101ALI20240912BHJP
G06T 7/70 20170101ALI20240912BHJP
G06V 10/82 20220101ALI20240912BHJP
【FI】
E21B25/16
E21B43/00 Z
G06T7/00 350C
G06T7/33
G06T7/70 Z
G06V10/82
(21)【出願番号】P 2023546622
(86)(22)【出願日】2021-09-08
(86)【国際出願番号】 JP2021032993
(87)【国際公開番号】W WO2023037442
(87)【国際公開日】2023-03-16
【審査請求日】2024-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】椋平 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 高敏
(72)【発明者】
【氏名】安西 眸
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特許第2881758(JP,B2)
【文献】特開平3-81492(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0003731(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0080705(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 25/16
E21B 43/00
G06T 7/00
G06T 7/33
G06T 7/70
G06V 10/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削された岩石の表面が撮像された岩石画像を示す岩石画像データと、前記岩石が存在していた位置の坑壁の表面が撮像された坑壁画像を示す坑壁画像データと、前記坑壁の表面が撮像された方位を示す方位情報と、を取得する画像データ取得部と、
前記岩石画像から前記岩石の表面の模様に関する特徴量を抽出し、前記坑壁画像から前記坑壁の模様に関する特徴量を抽出する特徴量抽出部と、
前記特徴量抽出部によって抽出された特徴量に基づいて前記岩石の表面の模様と前記坑壁の表面の模様との位置合わせを行い、前記位置合わせの結果と前記方位情報とに基づいて前記岩石の表面が撮像された方位を特定する定方位化部と、
を備える定方位化処理装置。
【請求項2】
前記定方位化部は、位相限定相関法を用いて前記岩石の表面の模様と前記坑壁の表面の模様との位置合わせを行う
請求項1に記載の定方位化処理装置。
【請求項3】
前記定方位化部は、前記模様を正弦波の形状に近似させて前記位置合わせを行う
請求項2に記載の定方位化処理装置。
【請求項4】
前記特徴量抽出部は、前記岩石画像及び前記坑壁画像に対してコントラスト調整を行うことによって前記岩石の表面の模様のエッジと前記坑壁の表面の模様のエッジとを強調させて特徴量を抽出する。
請求項1から3のうちいずれか一項に記載の定方位化処理装置。
【請求項5】
前記特徴量抽出部は、前記岩石画像及び前記坑壁画像に対してフィルタリング処理を行うことによって前記岩石の表面の模様のエッジと前記坑壁の表面の模様のエッジとを強調させて特徴量を抽出する
請求項1から4のうちいずれか一項に記載の定方位化処理装置。
【請求項6】
前記特徴量抽出部は、キャニーフィルタによる前記フィルタリング処理を行う
請求項5に記載の定方位化処理装置。
【請求項7】
コンピュータが、掘削された岩石の表面が撮像された岩石画像を示す岩石画像データと、前記岩石が存在していた位置の坑壁の表面が撮像された坑壁画像を示す坑壁画像データと、前記坑壁の表面が撮像された方位を示す方位情報と、を取得する画像データ取得ステップと、
コンピュータが、前記岩石画像から前記岩石の表面の模様に関する特徴量を抽出し、前記坑壁画像から前記坑壁の模様に関する特徴量を抽出する特徴量抽出ステップと、
コンピュータが、前記特徴量抽出ステップにおいて抽出された特徴量に基づいて前記岩石の表面の模様と前記坑壁の表面の模様との位置合わせを行い、前記位置合わせの結果と前記方位情報とに基づいて前記岩石の表面が撮像された方位を特定する定方位化ステップと、
を有する定方位化支援方法。
【請求項8】
コンピュータに、
掘削された岩石の表面が撮像された岩石画像を示す岩石画像データと、前記岩石が存在していた位置の坑壁の表面が撮像された坑壁画像を示す坑壁画像データと、前記坑壁の表面が撮像された方位を示す方位情報と、を取得する画像データ取得ステップと、
前記岩石画像から前記岩石の表面の模様に関する特徴量を抽出し、前記坑壁画像から前記坑壁の模様に関する特徴量を抽出する特徴量抽出ステップと、
前記特徴量抽出ステップにおいて抽出された特徴量に基づいて前記岩石の表面の模様と前記坑壁の表面の模様との位置合わせを行い、前記位置合わせの結果と前記方位情報とに基づいて前記岩石の表面が撮像された方位を特定する定方位化ステップと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定方位化処理装置、定方位化支援方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、地下に存在している石油・ガス等の地層流体の採取、二酸化炭素の回収・貯留、地熱開発等を目的として、坑井の掘削が行われている。坑井の掘削は、ロータリー式掘削法と呼ばれる方法によって行われることが今日の主流となっている。ロータリー式掘削法では、長くつながれたドリルパイプの先に、岩盤を掘削するためのドリルビットが装着され、坑井内に降入される。そして、地上でドリルパイプの上端を回転させることによってドリルビットが回転し、坑底の岩石が削られて掘削される。
【0003】
上記の方法によって掘削が行われる際に、掘削中の坑井から例えば円柱状の岩石サンプルが採取されることが多々ある。この岩石サンプルは、一般的に岩石コアと呼ばれる。
図11は、採取された岩石コアを撮像した写真の一例である。岩石コアを解析することで、地下に存在する物質を推定したり、地層の物性を低コストかつ簡便に測定したりすることができる。例えば、岩石コアの周方向における最大・最小直径差から地殻応力の差応力を求めることができる。
【0004】
さらに、岩石コアの地中での方位が分かる場合、地殻応力の差応力に加えて、当該地殻応力の方向も同時に推定することができる。他にも、岩石コアの地中での方位が分かることで、例えば地下の異方透水性及び地下断層の向き等の地層構造に関する情報を推定することが可能になることが期待される。
【0005】
しかしながら、岩石コアの地中での方位を決めることは容易ではない。岩石コアを採取する方法は、コアリングと呼ばれる。
図12は、コアリングの一例を示す模式図である。コアリングでは、掘削時に使われるドリルビットとは異なり、ドリル中央に岩石コアを採取するための穴が開いたコアビットと呼ばれるビットが用いられる。地下の岩盤から切り離された岩石コアは、コアビットを通じてコアバレルと呼ばれる筒の中に入り、地上にて取り出される。
【0006】
一般的なコアリング方法においては、岩石コアは、地中から取り出される際に、どうしてもコアリング装置内で回転してしまう。そのため、地上で岩石コアを回収する際には、地中における岩石コアの方位を正確に推定すること(以下、「定方位化」という。)が難しい。回転してしまった岩石コアの定方位化を行う一般的な方法としては、例えば、地中で岩石コアの断面の型を取り、回収した岩石コアの断面と照合して方位を推定する方法、及び加速度センサーが搭載されたツールを用いて重力方向の違いから方位を推定する方法等が挙げられる。しかしながら、前者の方法では、地下深くにおいて正確に岩石コア断面の型を取ることが難しいという課題がある。また、後者の方法では、完全な鉛直坑井においては適用できないという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平4-53239号公報
【文献】特許第2881758号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】杉本 達洋 他,“岩石残留磁化を用いた掘削コア試料の低方位化:半遠洋性堆積軟岩への適用例”,材料(Journal of the Society of Materials Science, Japan), Vol.69, No.3,日本材料学会,pp.256-262,March 2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のようなツールを使用せずに岩石コアの定方位化を行う方法の一例として、検層により撮影した坑井の坑壁画像と採取した岩石コアの360度展開画像とを用いる方法がある。
図13は、上記の方法による岩石コアの定方位化の様子を示す図である。上記の方法の手順は、以下の通りである。まず初めに、作業者が、坑壁画像をプリントアウトし、紙に坑壁画像の模様をトレースする。次に、作業者が、坑壁画像に描かれた鉱脈模様と紙に描いた鉱脈模様とを一致させるように、岩石コアの表面にトレースした紙を巻き付ける。そして、作業者は、紙にトレースされた坑壁画像の模様と岩石コアの模様とが一致した位置に基づいて、岩石コアの方位を決定する。
【0010】
ここで、坑井の坑壁画像には、掘削深度の情報に加えて、岩石コアの地中での方位を示す情報が含まれる。そのため、作業者は、岩石コア表面の模様と一致するようにトレースした紙を巻き付けることで、岩石コアの地中での方位を特定することができる。すなわち、この手法では、作業者による目視によって、岩石コアの模様に対して坑壁画像の模様の位置合わせがされることによって、岩石コアの定方位化が実現される。
【0011】
しかしながら、この手法では、作業者の主観に影響されることも少なくない。また、この手法では、深度何百メートルもの坑井から採取される全ての岩石コアに対して定方位化を行う必要がある場合、膨大な時間を要してしまうという課題がある。
【0012】
上記事情に鑑み、本発明は、客観的かつ自動的に岩石コアの方位を決めることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様は、掘削された岩石の表面が撮像された岩石画像を示す岩石画像データと、前記岩石が存在していた位置の坑壁の表面が撮像された坑壁画像を示す坑壁画像データと、前記坑壁の表面が撮像された方位を示す方位情報と、を取得する画像データ取得部と、前記岩石画像から前記岩石の表面の模様に関する特徴量を抽出し、前記坑壁画像から前記坑壁の模様に関する特徴量を抽出する特徴量抽出部と、前記特徴量抽出部によって抽出された特徴量に基づいて前記岩石の表面の模様と前記坑壁の表面の模様との位置合わせを行い、前記位置合わせの結果と前記方位情報とに基づいて前記岩石の表面が撮像された方位を特定する定方位化部と、を備える定方位化処理装置である。
【0014】
本発明の一態様は、コンピュータが、掘削された岩石の表面が撮像された岩石画像を示す岩石画像データと、前記岩石が存在していた位置の坑壁の表面が撮像された坑壁画像を示す坑壁画像データでと、前記坑壁の表面が撮像された方位を示す方位情報と、を取得する画像データ取得ステップと、コンピュータが、前記岩石画像から前記岩石の表面の模様に関する特徴量を抽出し、前記坑壁画像から前記坑壁の模様に関する特徴量を抽出する特徴量抽出ステップと、コンピュータが、前記特徴量抽出ステップにおいて抽出された特徴量に基づいて前記岩石の表面の模様と前記坑壁の表面の模様との位置合わせを行い、前記位置合わせの結果と前記方位情報とに基づいて前記岩石の表面が撮像された方位を特定する定方位化ステップと、を有する定方位化支援方法である。
【0015】
本発明の一態様は、コンピュータに、掘削された岩石の表面が撮像された岩石画像を示す岩石画像データと、前記岩石が存在していた位置の坑壁の表面が撮像された坑壁画像を示す坑壁画像データと、前記坑壁の表面が撮像された方位を示す方位情報と、を取得する画像データ取得ステップと、前記岩石画像から前記岩石の表面の模様に関する特徴量を抽出し、前記坑壁画像から前記坑壁の模様に関する特徴量を抽出する特徴量抽出ステップと、前記特徴量抽出ステップにおいて抽出された特徴量に基づいて前記岩石の表面の模様と前記坑壁の表面の模様との位置合わせを行い、前記位置合わせの結果と前記方位情報とに基づいて前記岩石の表面が撮像された方位を特定する定方位化ステップと、を実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、客観的かつ自動的に岩石コアの方位を決めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態における定方位化処理装置1の機能構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態における定方位化処理装置1の動作を示すフローチャートである。
【
図3】局所的なコントラストの調整前後の画像の一例を示す図である。
【
図4】キャニーフィルタ及びソーベルフィルタによるフィルタリング処理の前後の画像の一例を示す図である。
【
図6】実施例の坑壁画像及びコア展開画像を示す図である。
【
図7】坑壁画像及びコア展開画像の一例を示す図である。
【
図8】画像の前処理及びイメージレジストレーション処理による画像解析結果の一例を示す図である。
【
図9】前処理時に設定できるパラメータと最適化されたパラメータ値とを示す図である。
【
図10】実施例で用いられた坑壁画像及びコア展開画像とイメージレジストレーションの結果とを示す図である。
【
図11】採取された岩石コアの一例を示す図である。
【
図13】岩石コアの定方位化の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。以下に説明する実施形態の定方位化処理装置1は、画像解析技術を用いて岩石コアの定方位化を行う装置である。定方位化処理装置1は、方位が既知の坑壁画像と、コア展開画像とを用いて、画像解析技術の1つであるイメージレジストレーションによって画像の模様の位置合わせを自動で行い、岩石コアを定方位化する。このようにして、定方位化処理装置1は、客観的かつ自動的に岩石コアの方位を決めることができる。
【0019】
[定方位化処理装置の構成]
以下、実施形態における定方位化処理装置1の構成について説明する。
図1は、本発明の実施形態における定方位化処理装置1の機能構成を示すブロック図である。定方位化処理装置1は、例えば汎用コンピュータ等の情報処理装置である。
図1に示されるように、定方位化処理装置1は、画像データ取得部10と、特徴量抽出部20と、定方位化部30と、結果出力部40とを備える。
【0020】
画像データ取得部10は、コア展開画像の画像データと坑壁画像の画像データとを、例えば外部の情報処理装置又は記憶媒体等から取得する。コア展開画像とは、例えば円柱状に掘削された岩石コアの表面(例えば、側面の周囲360度分)が撮像された展開画像である。また、坑壁画像とは、上記の掘削された岩石が地中で接していた位置の坑壁の表面(例えば、360度分)が撮像された展開画像である。
【0021】
また、坑壁画像の画像データには、坑壁の表面が撮像された方位を示す情報(方位情報)が含まれている。そのため、坑壁画像内の各位置が実際の坑壁においてどの方位に位置しているかを特定することが可能である。
【0022】
なお、画像データ取得部10が、方位情報が含まれた坑壁画像の画像データを取得する代わりに、方位情報が含まれていない坑壁画像の画像データと方位情報とを別々に取得する構成であってもよい。
【0023】
なお、方位情報は、例えば坑壁画像の特定部分が所定の角度を向いていることが予め定められている場合など、坑壁の表面が撮像された方位を特定することを可能にする情報であるならば、方位そのものを明示的に示す情報に限られるものではない。
【0024】
画像データ取得部10は、取得されたコア展開画像の画像データと坑壁画像の画像データとを特徴量抽出部20へ出力する。なお、以下、コア展開画像の画像データを単に「コア展開画像」、及び坑壁画像の画像データを単に「坑壁画像」ということがある。
【0025】
特徴量抽出部20は、後述される定方位化部30によるイメージレジストレーション及び定方位化処理の前に、コア展開画像から岩石コアの表面の模様に関する特徴量を抽出し、坑壁画像から坑壁の表面の模様に関する特徴量を抽出する処理(以下、「前処理」ともいう)を行う。なお、ここでいう模様とは、例えば鉱脈模様等である。
【0026】
図1に示されるように、特徴量抽出部20は、画像成形部21と、グレースケール変換部22と、コントラスト調整部23と、フィルタリング部24とを備える。
【0027】
画像成形部21は、画像データ取得部10から、コア展開画像と坑壁画像とを取得する。画像成形部21は、取得されたコア展開画像と坑壁画像とを、画像解析が容易な形式となるようにデータ成形する。例えば、画像成形部21は、取得されたコア展開画像及び坑壁画像から、同じ深度の位置に相当する範囲の画像領域をそれぞれ切り出し、拡大・縮小、及びトリミング等の画像加工処理を行う。画像成形部21は、成形されたコア展開画像と坑壁画像とをグレースケール変換部22へ出力する。
【0028】
グレースケール変換部22は、画像成形部21から、コア展開画像と坑壁画像とを取得する。グレースケール変換部22は、取得されたコア展開画像及び坑壁画像のうち少なくとも一方がカラー画像である場合、当該カラー画像をグレースケール画像に変換する。グレースケール変換部22は、グレースケール画像であるコア展開画像と坑壁画像とをコントラスト調整部23へ出力する。
【0029】
コントラスト調整部23は、グレースケール変換部22から、コア展開画像と坑壁画像とを取得する。コントラスト調整部23は、取得されたコア展開画像及び坑壁画像に対してそれぞれコントラストの調整を行うことによって、コア展開画像内の模様のエッジと坑壁画像内の模様のエッジとをそれぞれ強調させる。エッジとは、例えば画像内においてピクセル値が急激に変化している箇所である。コントラスト調整部23は、コントラスト調整がなされたコア展開画像と坑壁画像とをフィルタリング部24へ出力する。
【0030】
フィルタリング部24は、コントラスト調整部23から、コア展開画像と坑壁画像とを取得する。フィルタリング部24は、取得されたコア展開画像及び坑壁画像に対してそれぞれフィルタリング処理を行うことによって雑音(ノイズ)を除去したり模様を鮮鋭化させたりすることで、コア展開画像内の模様のエッジと坑壁画像内の模様のエッジとをそれぞれ強調させる。フィルタリング部24は、例えばキャニーフィルタによるフィルタリング処理を行う。フィルタリング部24は、フィルタリング処理がなされたコア展開画像と坑壁画像とを定方位化部30へ出力する。
【0031】
なお、画像成形部21、グレースケール変換部22、コントラスト調整部23、及びフィルタリング部24によってそれぞれ行われる処理の順序は上記の順序に限られるものではなく、任意の順序とすることができる。
【0032】
定方位化部30は、特徴量抽出部20による前処理がなされたコア展開画像と坑壁画像とを用いて、両画像内の模様どうしのイメージレジストレーション(位置合わせ)を行う。定方位化部30は、イメージレジストレーションによって位置合わせがなされたコア展開画像及び坑壁画像と、坑壁画像データに含まれる方位情報とに基づいて、コア展開画像が撮像された方位(すなわち、地中での岩石コアの向き)を特定する定方位化を行う。
【0033】
図1に示されるように、定方位化部30は、レジストレーション部31と、方位特定部32とを備える。
【0034】
レジストレーション部31は、フィルタリング部24から、コア展開画像と坑壁画像とを取得する。レジストレーション部31は、コア展開画像内の模様と坑壁画像内の模様とについてイメージレジストレーション(位置合わせ)を行う。
【0035】
レジストレーション部31は、例えば位相限定相関法を用いてイメージレジストレーションを行う。この場合、レジストレーション部31は、コア展開画像内の模様と坑壁画像内の模様とを、正弦波の形状に近似させてイメージレジストレーションを行う。模様を正弦波の形状に近似させてからイメージレジストレーションを行うことで、レジストレーション部31は、より精度高く模様の位置合わせを行うことができる。
【0036】
なお、レジストレーション部31は、コア展開画像内の模様と坑壁画像内の模様とを正弦波とみなしてハフ変換等の手法を用いて検出し、正弦波どうしのイメージレジストレーションを行うようにしてもよい。
【0037】
レジストレーション部31は、イメージレジストレーションの結果を示す情報、及び坑壁画像データに含まれる方位情報を方位特定部32へ出力する。イメージレジストレーションの結果を示す情報とは、例えば、同位置であると推定されたコア展開画像内の位置と坑壁画像内の位置とを紐づける情報である。あるいは、イメージレジストレーションの結果を示す情報とは、例えば、同位置であると推定されたコア展開画像内の位置と坑壁画像内の位置とに基づいて両者の画像を重畳(あるいは合成)した画像データである。
【0038】
方位特定部32は、レジストレーション部31から、イメージレジストレーションの結果を示す情報と、方位情報とを取得する。方位特定部32は、イメージレジストレーションによって位置合わせがなされたコア展開画像及び坑壁画像と、方位情報に基づく坑壁の方位とに基づいて、コア展開画像が撮像された方位(すなわち、地中での岩石コアの向き)を特定する定方位化を行う。方位特定部32は、特定された方位を示す情報を結果出力部40へ出力する。
【0039】
結果出力部40は、方位特定部32から、方位を示す情報を取得する。結果出力部40は、取得された方位を示す情報を、例えば外部の情報処理装置等へ出力する。なお、結果出力部40が、例えば液晶ディスプレイ(LCD)等の表示装置を備えており、上記の方位を示す情報を当該表示装置に表示させることで結果出力する構成であってもよい。
【0040】
[定方位化処理装置の動作]
以下、実施形態における定方位化処理装置1の動作の一例について説明する。
図2は、本発明の実施形態における定方位化処理装置1の動作を示すフローチャートである。
【0041】
まず、画像データ取得部10は、コア展開画像と坑壁画像とを、例えば外部の情報処理装置等から取得する(ステップS001)。なお、坑壁画像には、坑壁の表面が撮像された方位を示す情報(方位情報)が含まれる。
【0042】
次に、画像成形部21は、コア展開画像と坑壁画像とを画像解析が容易な形式となるようにデータ成形する(ステップS002)。
【0043】
次に、グレースケール変換部22は、コア展開画像及び坑壁画像のうち少なくとも一方がカラー画像である場合、当該カラー画像をグレースケール画像に変換する(ステップS003)。
【0044】
次に、コントラスト調整部23は、コア展開画像及び坑壁画像に対してそれぞれコントラストの調整を行うことによって、コア展開画像内の模様のエッジと坑壁画像内の模様のエッジとを強調させる(ステップS004)。
【0045】
次に、フィルタリング部24は、コア展開画像及び坑壁画像に対してそれぞれフィルタリング処理を行うことによって雑音(ノイズ)を除去したり模様を鮮鋭化させたりすることで、コア展開画像内の模様のエッジと坑壁画像内の模様のエッジとを強調させる(ステップS005)。なお、フィルタリング部24は、例えばキャニーフィルタによりフィルタリング処理を行う。
【0046】
次に、レジストレーション部31は、コア展開画像内の模様と坑壁画像内の模様とについてイメージレジストレーション(位置合わせ)を行う(ステップS006)。なお、レジストレーション部31は、例えば位相限定相関法を用いてイメージレジストレーションを行う。
【0047】
次に、方位特定部32は、イメージレジストレーションによって位置合わせがなされたコア展開画像及び坑壁画像と、坑壁画像データに含まれる方位情報に基づく坑壁の方位とに基づいて、コア展開画像が撮像された方位(すなわち、地中での岩石コアの向き)を特定する定方位化を行う(ステップS007)。
【0048】
結果出力部40は、特定された方位を示す情報を、例えば外部の装置へ出力する(ステップS008)。以上で、
図2のフローチャートが示す定方位化処理装置1の動作が終了する。
【0049】
以下、実施形態の定方位化処理装置1が行う各処理について、さらに詳細に説明する。
【0050】
実施形態の定方位化処理装置1は、画像データの抽出・成形、画像の前処理、イメージレジストレーション、及び定方位化を順に行う。定方位化処理装置1は、イメージレジストレーションの手法として、例えば位相限定相関法を用いる。位相限定相関法は、例えば指紋照合等の複雑な線状模様が描かれた画像の照合に用いられている技術である。実施形態の定方位化処理装置1は、例えば鉱脈模様等の特徴的な線状模様を坑壁画像及びコア展開画像から検出し、位相限定相関法によるイメージレジストレーションを行う。
【0051】
なお、本実施形態においては、定方位化処理装置1は、岩石コアの定方位化を行う装置であるものとしたが、これに限定されるものではない。本発明は、特徴的な線状模様を有する物体であるならば、岩石コア以外の物体についての定方位化においても適用することができる。
【0052】
[画像の前処理]
以下、実施形態における定方位化処理装置1が行う画像の前処理について詳しく説明する。
【0053】
実施形態における定方位化処理装置1は、イメージレジストレーション及び定方位化処理を行う前に、必要となる情報(特徴量)を画像から正確に検出することを目的として、画像に対する前処理を行う。前処理には、主に画像のコントラスト調整及びフィルタリング等の処理が含まれる。
【0054】
まず、画像のコントラスト調整について説明する。定方位化処理装置1は、画像のコントラスト調整を行うことによって、画像の暗い部分と明るい部分との差異をより明瞭にすることができる。具体的には、画像のコントラスト調整の手法として、例えば、画像における輝度値のヒストグラムを均等化する手法を用いることができる。
【0055】
実施形態における定方位化処理装置1は、局所的に画像のコントラストを調整する。具体的には、定方位化処理装置1は、画像内に描かれている強いエッジ部分はそのまま保持しつつ、細部を平滑化させる処理を行うことによって局所的なコントラスト調整を行う。
【0056】
図3は、局所的なコントラストの調整前後の画像の一例を示す図である。
図3(A)は、局所的なコントラスト調整が行われる前の画像を表し、
図3(B)は、局所的なコントラスト調整が行われた後の画像を表す。局所的なコントラスト調整では、保持するエッジと処理を加えるエッジとを閾値設定によって分別することができる。
【0057】
図3(B)に示される局所的なコントラスト調整後の画像では、閾値設定によって、画像内の強いエッジ部分は保持され、輝度値の変化が少ないような弱いエッジ部分は平滑化によってぼやけている。具体的には、例えば、画像内の背景の空の深い色の部分(明度が低い部分)と雲との境界部分は、輝度値の変化が大きく、強いエッジ部分であると認識される。そのため、当該境界部分は、コントラストの調整前後で画像の状態(例えば、輝度値)がそのまま保持されている。
【0058】
一方、背景部分(例えば、空の領域のうち雲が少ない部分、及び海面の部分など)の領域内に関しては、輝度値の変化が少なく、弱いエッジ部分であると認識される。そのため、
図3(B)に示される局所的なコントラスト調整後の画像では、背景部分の領域内は、局所的に画像がぼやけた状態となっている。このように、局所的なコントラスト調整を行うことで、実施形態における定方位化処理装置1は、画像をぼやかす部分とぼやかさない部分とに分別し、注目したい模様のコントラストをより上げるようにすることができる。
【0059】
次に、フィルタリング処理について説明する。実施形態における定方位化処理装置1は、フィルタリングを行うことによって、画像内に含まれている雑音(ノイズ)を除去したり、画像内の模様を鮮鋭化・検出したりすることができる。
【0060】
定方位化処理装置1は、例えば畳み込み演算を行うことによってフィルタリングを行うことができる。定方位化処理装置1は、入力画像内において注目しているピクセル及びその近傍にあるピクセルの全ピクセル値に対し、空間フィルタ内で対応するピクセルの係数を乗算する。そして、定方位化処理装置1は、各ピクセルにおける乗算結果の合計値によって、出力画像内で注目ピクセルと同じ位置にあるピクセルの値を置き換えていく。
【0061】
フィルタは、線形フィルタと非線形フィルタとに大きく分類することができる。線形フィルタを用いたフィルタリングでは、入力画像のピクセル値とフィルタリング後の出力画像のピクセル値との間で、線形計算が行われる。一方、非線形フィルタを用いたフィルタリングでは、入力画像のピクセル値と出力画像のピクセル値との間で、非線形計算が行われる。
【0062】
フィルタリングに用いられるフィルタは、処理によって得られる効果によって、平滑化フィルタ、鮮鋭化フィルタ、及びエッジ検出フィルタの大きくの3種類に分類することができる。
【0063】
平滑化フィルタは、入力画像に含まれる雑音(ノイズ)を除去することを目的として用いられる。代表的なフィルタとしては、移動平均フィルタ、ガウシアンフィルタ、及びメディアンフィルタが挙げられる。
【0064】
移動平均フィルタは、注目ピクセルの値を、近傍ピクセル値の平均値に置き換えることによって平滑化を行う。移動平均フィルタによって、ノイズを除去することができる一方で、入力画像のエッジも同時に失われるため、画像のボケが生じてしまう。これに対し、フィルタの係数を中心ピクセルからの距離に応じて変化させる重み付きフィルタがある。
【0065】
重み付きフィルタのうちガウス分布に基づいてフィルタの係数が設定されたフィルタをガウシアンフィルタと呼ぶ。メディアンフィルタは、非線形フィルタとして最も基本的なフィルタであり、出力ピクセルの値を、入力画像の注目ピクセルの値と近傍ピクセルの値との中央値に置き換えることで、エッジ情報を残しながら平滑化を行う。
【0066】
鮮鋭化フィルタは、画像内のエッジを強調することを目的として用いられる。代表的な鮮鋭化フィルタの処理として、ピクセル値の空間方向の2次微分を求めるラプラシアンフィルタの出力結果から入力画像を差し引く処理がある。
【0067】
エッジ検出フィルタは、平滑化フィルタと微分フィルタとを組み合わせることで得られる。微分フィルタでは、隣接するピクセル値の差分を1次微分とし、さらに差分を取ったものを2次微分と近似することに基づいてフィルタ係数が定められる。エッジ検出の代表的なフィルタとして、プリューウィットフィルタ、ソーベルフィルタ、及びラプラシアンフィルタがある。
【0068】
プリューウィットフィルタ及びソーベルフィルタは、近傍ピクセルとの平均値の差分を利用したフィルタであり、1次微分の原理に基づいている。プリューウィットフィルタ及びソーベルフィルタは、フィルタの係数により縦方向のみ、横方向のみ、といったようにエッジ検出の方向を指定することができる。一方、2次微分に基づいた微分フィルタとして、ラプラシアンフィルタがある。
【0069】
また、近年、エッジの検出漏れ及び誤検出が少なく、雑音の影響を受けにくいキャニーフィルタが用いられている。
図4は、キャニーフィルタ及びソーベルフィルタによるフィルタリング処理の前後の画像の一例を示す図である。
図4(A)は、フィルタリング前の画像、
図4(B)は、ソーベルフィルタによるフィルタリング後の画像、及び
図4(C)は、キャニーフィルタによるフィルタリング後の画像を表す。
【0070】
図4に示されるように、ソーベルフィルタによるフィルタリングが行われた場合と比べて、キャニーフィルタによるフィルタリングが行われた場合の方が、フィルタリング前の画像内に描かれているコインの輪郭及びエッジの情報が、より正確に検出されていることが分かる。
【0071】
[イメージレジストレーション処理]
以下、実施形態における定方位化処理装置1が行うイメージレジストレーションについて詳しく説明する。
【0072】
実施形態における定方位化処理装置1は、上記説明した画像の前処理によって模様が検出され、エッジが強調された画像を用いて、イメージレジストレーションによる模様の位置合わせを行う。イメージレジストレーションは、画像解析技術の一種であり、2枚の画像間で共通した模様の位置合わせに必要な幾何学的変換を推定し、当該模様の位置合わせを行う技術である。イメージレジストレーションでは、1つの画像を参照イメージ(固定イメージ)として、もう一方の画像(移動イメージ)に対して幾何学変換を適用して、参照イメージと重ね合わせることが行われる。
【0073】
例えば、イメージレジストレーションの技術は、衛星画像と航空写真との位置合わせに用いられるほか、MRI(Magnetic Resonance Imaging)及びSPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)といった医療検査機器によって撮影される医療用画像の位置合わせにも用いられている。
【0074】
イメージレジストレーションによる画像位置合わせの技術は、特徴点に基づく手法と、画像の輝度値の強度に基づく手法との2種類に大別することができる。
【0075】
特徴点に基づくイメージレジストレーションの手法では、複数の画像に対して、鋭角のコーナー、ブロブ、及び強度が一様な領域等で特徴点の検出を行う。そして、各画像で共通した特徴点を対応付けてイメージレジストレーションを行う。特徴点を検出する関数としては、例えばSIFT(Scale Invariant Feature Transform)及びSURF(Speed Up Robust Features)といった特徴量に基づく関数がある。
【0076】
特徴点に基づくイメージレジストレーション手法は、画像間での局所的な対応関係を得ることができる一方で、誤った特徴点の対応付けがなされることによって、意図しないイメージレジストレーション結果が得られる可能性がある。自動での特徴点検出では、その可能性はより高くなる。一方、手動による特徴点の検出は、1回のイメージレジストレーションにつき最低でも3個の点を、各画像から主観的に検出する必要がある。したがって、手動による特徴点の検出は、非常に手間がかかる手法である。
【0077】
輝度値の強度に基づくイメージレジストレーション手法には、画像内の輝度値の差分を取っていく手法と、画像内の輝度値の相関を取っていく手法とがある。これらの手法は、参照イメージと移動イメージとをピクセル単位で比較し、差分が少ない領域又は相関が高くなっている領域を探していくことで位置合わせを行う。
【0078】
輝度値の差分を用いて画像を比較していく手法では、例えば、SAD(Sum of Absolute Differences)又はSSD(Sum of Squared Difference)といった相違度が用いられる。SADでは、輝度値の差の絶対値が用いられ、SSDでは、輝度値の差の2乗の値が用いられる。
【0079】
輝度値の相関を用いて画像を比較していく手法では、NCC(Normalized Cross-Correlation)及びPOC(Phase-Only Correlation)といった類似度が用いられる。特に、POCを用いたイメージレジストレーション手法は、輝度値の強度に基づくイメージレジストレーションの手法方法と比べて、画像の輝度変化及びノイズに対する堅牢性が優れている。実施形態における定方位化処理装置1は、POCを用いた位相限定相関法によるイメージレジストレーションを行う。
【0080】
以下、位相限定相関法によるイメージレジストレーションについて説明する。前述の通り、位相限定相関法によるイメージレジストレーションは、近年、特徴量の検出が難しいとされている指紋照合システム及び顔認証システム等で用いられている画像解析技術である。
【0081】
図5は、位相限定相関法の手順を示す図である。位相限定相関法では、2つの画像を離散フーリエ変換することによって二次元の周波数領域に変換してから、処理を行っていく。以下、位相限定相関法を用いた処理の流れについて説明する。
【0082】
入力画像として、M×Nピクセルからなる2つの画像f(m,n)とg(m,n)とを考える。また、g(m,n)は、f(m,n)を、m方向及びn方向にそれぞれδ1及びδ2だけ移動させた画像であると仮定した場合、以下の(1)式のような関係が成り立つ。
【0083】
【0084】
これらの画像に対して2次元の離散フーリエ変換が行われたものをF(u,v)及びG(u,v)とした場合、これらは、以下の(2)式及び(3)式にようにそれぞれ示される。
【0085】
【0086】
【0087】
上式のAF(k1,k2)及びAG(k1,k2)は、f(m,n)及びg(m,n)の振幅成分をそれぞれ表す。また、e^jθF(k1,k2)及びe^jθG(k1,k2)は、位相成分を表す。このうち、位相成分の方には画像内の像の形状に関わる情報が含まれていることが知られている。そこで、それぞれの画像の位相成分のみを用いて相関をとるために、以下の(4)式によって表される計算を行う。
【0088】
【0089】
ここで、上線が引かれたG(k1,k2)と上線が引かれていないG(k1,k2)とは、共役な関係であるとする。(4)式によって得られたH(k1,k2)を、逆離散フーリエ変換すると、位相限定相関関数(POC関数)と呼ばれる関数を得ることができる。位相限定相関法によるイメージレジストレーションでは、上記のようなPOC関数から得られる情報に基づいて模様の位置合わせが行われる。
【0090】
[画像解析による岩石コアの定方位化]
以下、実施形態における定方位化処理装置1による、前述の画像の前処理及びイメージレジストレーション等の画像解析技術を用いた岩石コアの定方位化処理について、実施例を交えながら説明する。
【0091】
実施形態における定方位化処理装置1は、画像から、鉱脈に相当する特徴的な線状模様を検出し、位相限定相関法によるイメージレジストレーションを行うことによって、岩石コアの定方位化を行う。定方位化処理装置1による岩石コアの定方位化処理の大まかな流れとなる手順1~3を以下に示す。
【0092】
手順1(画像データの抽出・成形)元の坑壁画像、コア展開画像に対して、画像解析が容易な形にデータ成形する。
手順2.(画像の前処理)画像データ内に描かれている目立った鉱脈模様のみを検出する。
手順3.(イメージレジストレーション)目立った鉱脈模様のみを検出した画像を使用して位相限定相関法によるイメージレジストレーションを行い、岩石コアの方位を決定する。
【0093】
以下、定方位化処理装置1による岩石コアの定方位化処理の流れの一例を、詳細に説明する。
【0094】
まず、坑井に対して検層が行われる。この検層では、掘削された坑井内に光学カメラが降入され、坑井内で光学カメラを回転させながら壁面(坑壁)の撮影が行われる。これにより、360度の坑壁の展開画像(坑壁画像)が得られる。また、スキャナーによって岩石コアの表面の撮影が行われる。これにより、360度の岩石コアの展開画像(コア展開画像)が得られる。
【0095】
本実施例では、坑井は、鉛直方向から約45度傾いており、平均直径が約96.3[mm]である。また、岩石コアの平均直径は約47.6[mm]である。以下、回収された岩石コアの鉛直下向きに相当する方位を表す線を「ボトムライン」という。例えば、360度のコア展開画像には、約800[m]分の深度のうち、目視によって決められた岩石コアのボトムラインが4割程度の深度で引かれている。ここでは、このボトムラインが岩石コアの方位と仮定した上で、約800[m]分の画像データのうちボトムラインが多く引かれている深度500~530[m]区間のデータのみを用いた。
【0096】
図6は、本実施例で使用された坑壁画像及びコア展開画像を示す図である。
図6において、左側半分は深度500~530[m]区間全体の画像を表し、右側半分は深度524.5[m]付近を拡大した画像を表す。
図6の左側半分の画像に関して、坑壁画像は、30801ピクセル×1440ピクセル(縦×横)の画像サイズであり、コア展開画像は、62730ピクセル×275ピクセル(縦×横)の画像サイズである。
【0097】
坑壁画像においては、画像中央の線が岩石コアの正確なボトムラインに相当する線となっている。また、大多数の深度で右側半分の鉱脈模様が隠れて見えなくなっている。これは、例えば、坑壁を撮影する際に光学カメラが坑壁にぶつかり、掘削パイプが坑井の壁面に当たって壁面が削れてしまうこと等が原因となって生じる。一方、コア展開画像には、前述の目視によって決められたボトムラインに相当する線BL1が引かれている。
【0098】
以下、上記の手順1~3に沿って説明する。まず、実施形態の定方位化処理装置1は、手順1の画像データの抽出・成形において、以下の手順1-1~1-4の処理を行う。
【0099】
また、
図7は、以下の手順1-1~1-4の処理における坑壁画像及びコア展開画像の一例を示す図である。ここで用いられた画像は、前述の深度524.5[m]付近のデータである。
図7(A)、(B)、(C)、及び(D)ともに、左側の画像が坑壁画像であり、右側の画像がコア展開画像である。
【0100】
手順1-1.(同じ深度に相当する坑壁画像及びコア展開画像の抽出)定方位化処理装置1は、深度500~530[m]区間の画像データから、同じ深度に相当する坑壁画像及びコア展開画像を切り出し、2つの画像サイズを合わせる。例えば、定方位化処理装置1は、画像サイズを、縦280ピクセル、横180ピクセルとし、縦方向は実深度0.5[m]分に相当する長さとなるように画像を切り出す(
図7(A))。
【0101】
手順1-2.(坑壁画像の縦方向への縮小)定方位化処理装置1は、坑壁画像の縦幅のみを縮小する。前述の通り、坑井と岩石コアの平均直径が異なるため、同じ画像サイズの場合、坑壁画像内に描かれている鉱脈模様は、コア展開画像内の鉱脈模様と比べて振幅が大きくなる。そのため、定方位化処理装置1は、坑壁画像の縦方向への縮小を行うことで、坑壁画像とコア展開画像内に描かれた鉱脈模様の振幅とを大まかに合わせる(
図7(B))。
【0102】
手順1-3.(坑壁画像の右側部分のトリミング)定方位化処理装置1は、坑壁画像の右側半分をトリミングによって除去する(
図7(C))。これにより、定方位化処理装置1は、イメージレジストレーションを行う際に、鉱脈模様が見えていない部分が、イメージレジストレーションの結果に影響を及ぼすことを避けるようにすることができる。
【0103】
手順1-4.(コア展開画像の横方向への並列)定方位化処理装置1は、同一のコア展開画像を横に2枚並べて、360度のコア展開画像を720度のコア展開画像に拡張させる(
図7(D))。これにより、定方位化処理装置1は、コア展開画像内の鉱脈模様が途中で途切れてしまう位置が生じることを防ぐことができ、イメージレジストレーションの結果をより安定させることができる。
【0104】
以上の手順1-1~1-4に沿って処理が施された坑壁画像及びコア展開画像に対して、実施形態における定方位化処理装置1は、手順2の画像の前処理を行う。以下に、画像の前処理の流れを示す。定方位化処理装置1は、手順2の画像の前処理において、以下の手順2-1~2-2の処理を行う。
【0105】
手順2-1.(坑壁画像及びコア展開画像のグレースケール変換)定方位化処理装置1は、坑壁画像及びコア展開画像を、カラー画像からグレースケール画像に変換する。この変換によって、定方位化処理装置1は、画像を3次元配列のデータから2次元配列のデータに変換し、画像解析を容易にさせる。
【0106】
手順2-2.(画像のコントラスト調整)定方位化処理装置1は、坑壁画像内及びコア展開画像内に描かれている大きく太い鉱脈模様のコントラストを強調するために、前述の局所的なコントラストの調整を行う。
【0107】
手順2-3.(画像のフィルタリング)定方位化処理装置1は、コントラストの調整がなされた坑壁画像及びコア展開画像に対し、前述のキャニーフィルタ及びソーベルフィルタ等を用いたフィルタリング処理を行う。前述の通り、キャニーフィルタは、ソーベルフィルタと比べてエッジをより正確に検出することができるが、エッジ検出の方向を指定することができない。一方、ソーベルフィルタは、キャニーフィルタと比べてエッジの検出精度は劣るが、エッジの検出方向を指定することができる。
【0108】
ここでは、検出したい鉱脈模様は、基本的に横方向の正弦波に禁じた形状と見なされていることから、縦方向のエッジは検出しないことが理想的である。そのため、実施形態における定方位化処理装置1は、キャニーフィルタにより鉱脈模様のエッジを方向に関係なく検出した後、ソーベルフィルタにより横方向のエッジのみを検出する。この一連の前処理によって、定方位化処理装置1は、画像内の小さなノイズや細い鉱脈模様を除去することができ、大きくて太い、かつ、横方向の鉱脈模様だけをエッジとして検出することができる。
【0109】
以上の手順2-1~2-3に沿って画像の前処理が施された坑壁画像及びコア展開画像に対して、実施形態における定方位化処理装置1は、位相限定相関法によるイメージレジストレーション処理を行う。以下に、位相限定相関法によるイメージレジストレーション処理の流れを示す。定方位化処理装置1は、手順3のイメージレジストレーション処理において、以下の手順3-1~3-2の処理を行う。
【0110】
手順3-1.(位相限定相関法によるイメージレジストレーション)定方位化処理装置1は、前処理がなされた坑壁画像及びコア展開画像を用いてイメージレジストレーションを行い、模様の位置合わせを行う。定方位化処理装置1は、坑壁画像の模様がコア展開画像の模様に重なるように画像を移動させる。
【0111】
手順3-2.(岩石コアの方位のずれの検出)ここでは、イメージレジストレーションによって決められた岩石コアの方位と、前述の目視による模様の位置合わせによって決められた岩石コアの方位とのずれを検出し、実施形態の定方位化処理装置1による画像解析の有効性を検証した。
【0112】
図8は、上記の手順2-1~2-3の画像の前処理、及び手順3-1~3-2のイメージレジストレーション処理による画像解析結果の一例を示す図である。ここで用いられた画像は、
図7と同様に、深度524.5[m]付近のデータである。
図8(A)、(B)、及び(C)の画像は、それぞれグレースケール変換後の画像、局所的コントラスト調整後の画像、及びエッジ検出後の画像を表す。
【0113】
また、
図8(D)は、エッジ検出後の坑壁画像とコア展開画像とを用いてイメージレジストレーションを行った結果を示す画像である。
図8(D)において、線BL2は、目視による模様の位置合わせによって決められた岩石コアのボトムラインを表し、線BL3は、イメージレジストレーションによって決められた岩石コアのボトムラインを表す。
【0114】
ここでは、目視による模様の位置合わせによって決められた岩石コアのボトムラインを基準として、線BL2と線BL3とのずれを求めた。このとき、線BL3が線BL2の左側にある場合には、ずれはマイナスの値であるものとし、線BL3が線BL2の右側にある場合には、ずれはプラスの値であるものとした。
【0115】
このずれの大きさを示す数値は、画像解析によって決められた岩石コアの方位が正確な方位からどれだけずれているかを表す。例えば、地殻応力測定においては、10度の応力方向の決定誤差は認められていることから、定方位化処理装置1は、上記のずれが20度程度の範囲に収まるように定方位化を行えばよい。
【0116】
以下、実施形態における定方位化処理装置1による岩石コアの定方位化の解析及び検証結果例について説明する。
【0117】
ここでは、一例として、定方位化処理装置1が、深度500~530[m]区間の坑壁画像及びコア展開画像を用いて、前述の手順1~3に沿って岩石コアの定方位化を行った場合の解析結果及び検証結果について説明する。
【0118】
ここでは、定方位化処理装置1は、大きく太い鉱脈模様が存在する深度524.4~524.7[m]付近での画像データを用いて岩石コアの定方位化を行った。この際、画像の前処理時に設定できるパラメータを手動で調整し、方位のずれが最も小さくなったパラメータセットを探す作業を行った。
図9は、前処理時に設定できるパラメータと最適化されたパラメータ値とを示す図である。
【0119】
局所的なコントラスト調整の際に設定できるパラメータは、そのまま保持する画像内のエッジの閾値、閾値以下のエッジに対する平滑化の度合いである。フィルタリングの際に設定できるパラメータは、キャニーフィルタ、ソーベルフィルタの際に検出されるエッジの閾値である。局所的なコントラスト調整時に保持するエッジの閾値は0~1の値をとり、1に近づくほど保持されるエッジは少なくなる。
【0120】
ここでは、規定値で設定されているパラメータ値を用いた。また平滑化の度合いは-1~0の値をとり、-1に近づくほど平滑化の度合いが強くなる。また、ここでは、-1から-0.1までは0.1ずつ値を小さくしていき、-0.1から0までは0.01ずつ値を小さくしていきながら画像の変化を確認し、最適なパラメータ値を設定した。
【0121】
一方キャニーフィルタ、ソーベルフィルタにおける検出エッジの閾値は0~1の値をとり、1に近づくほど検出されるエッジは少なくなる。ここでは、0.5から0.1ずつ値を小さくしていき最適なパラメータ値を設定した。以下、パラメータを最適化した方法について説明する。
【0122】
図10は、用いられた坑壁画像及びコア展開画像とイメージレジストレーションの結果とを示す図である。
図10(A)は、用いられた坑壁画像及びコア展開画像を表し、
図10(B)は、イメージレジストレーションの結果を表す。本実施例においては、イメージレジストレーションの結果に基づいて求められた方位のずれは12.2度となった。すなわち、ここで求められた方位のずれは20度以内であり、前述の地殻応力測定における応力方向の決定誤差の許容範囲とすることができた。
【0123】
また、
図10(B)に示されるイメージレジストレーション結果を目視で確認しても、坑壁画像の模様とコア展開画像の模様とが大きくずれていないことが分かる。このように、前処理のパラメータを適切に調整することにより、実施形態における定方位化処理装置1は、画像解析による岩石コアの定方位化を精度高く行うことができると考えられる。
【0124】
以上説明したように、実施形態の定方位化処理装置1は、画像解析手法の1つであるイメージレジストレーションによって、コア展開画像の模様と方位が既知である坑壁画像の模様との位置合わせを行うことにより、岩石コアの定方位化を行う。上記のような構成を備えることで、実施形態の定方位化処理装置1は、客観的かつ自動的に岩石コアの方位を特定することができる。
【0125】
なお、定方位化処理装置1が、機械学習を用いて岩石コアの定方位化を行う構成としてもよい。具体的には、坑壁画像及びコア展開画像の入力に対して、イメージレジストレーションされた画像が出力されるような学習モデルを構築することが考えられる。機械学習を用いることにより、画像の前処理におけるパラメータの調整等も含めて、岩石コアの定方位化に関する画像解析処理を全て自動化することができる。これにより、岩石コアの定方位化を一層簡便に行うことが可能になる。
【0126】
以下に、機械学習を用いた岩石コアの定方位化の手順の一例について説明する。まず、定方位化処理装置1は、例えば、数百[m]分の坑壁画像を0.5[m]ごとに自動分割する(Step1)。次に、定方位化処理装置1は、分割された坑壁画像とコア展開画像とを深度ごとにまとめる(Step2)。次に、定方位化処理装置1は、コア展開画像と、坑壁画像と、イメージレジストレーションの結果とを深度ごとにまとめて、教師データセットを作成する(Step3)。次に、定方位化処理装置1は、作成された教師データセットを用いて機械学習を行い、学習済みの学習モデルを得る(Step4)。次に、定方位化処理装置1は、テスト用データ等を用いて学習済みの学習モデルのパラメータ調整を行い、定方位化のさらなる精度改善を図る(Step5)。なお、このStep5は省略されてもよい。次に、定方位化処理装置1は、定方位化の対象である坑壁画像とコア展開画像を学習済みの学習モデルに入力し、当該学習モデルから出力されるイメージレジストレーションされた画像を得る。定方位化処理装置1は、得られた画像を用いて岩石コアの定方位化を行う(Step6)。なお、定方位化処理装置1は、Step6における入出力データを教師データとして、さらに機械学習を行なうようにしてもよい。
【0127】
上述した実施形態によれば、定方位化処理装置は、画像データ取得部と、特徴量抽出部と、定方位化部とを備える。例えば、定方位化処理装置は実施形態における定方位化処理装置1であり、画像データ取得部は実施形態における画像データ取得部10であり、特徴量抽出部は実施形態における特徴量抽出部20であり、定方位化部は実施形態における定方位化部30である。
【0128】
画像データ取得部は、掘削された岩石の表面が撮像された岩石画像を示す岩石画像データと、岩石が存在していた位置の坑壁の表面が撮像された坑壁画像を示す坑壁画像データと、坑壁の表面が撮像された方位を示す方位情報と、を取得する。例えば、岩石画像は実施形態におけるコア展開画像である。特徴量抽出部は、岩石画像から岩石の表面の模様に関する特徴量を抽出し、坑壁画像から坑壁の模様に関する特徴量を抽出する。例えば、模様は実施形態における鉱脈模様であり、特徴量は実施形態における(エッジ等の)ピクセル値である。定方位化部は、特徴量抽出部によって抽出された特徴量に基づいて岩石の表面の模様と坑壁の表面の模様との位置合わせを行い、位置合わせの結果と方位情報とに基づいて岩石の表面が撮像された方位を特定する。例えば、位置合わせは実施家相対におけるイメージレジストレーションである。
【0129】
なお、定方位化部は、位相限定相関法を用いて岩石の表面の模様と坑壁の表面の模様との位置合わせを行うようにしてもよい。
【0130】
なお、定方位化部は、模様を正弦波の形状に近似させて位置合わせを行うようにしてもよい。
【0131】
なお、特徴量抽出部は、岩石画像及び坑壁画像に対してコントラスト調整を行うことによって岩石の表面の模様のエッジと坑壁の表面の模様のエッジとを強調させて特徴量を抽出するようにしてもよい。
【0132】
なお、特徴量抽出部は、岩石画像及び坑壁画像に対してフィルタリング処理を行うことによって岩石の表面の模様のエッジと坑壁の表面の模様のエッジとを強調させて特徴量を行うようにしてもよい。
【0133】
なお、特徴量抽出部は、キャニーフィルタによるフィルタリング処理を行うようにしてもよい。
【0134】
上述した各実施形態における定方位化処理装置1の一部又は全部をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0135】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0136】
1…定方位化処理装置,10…画像データ取得部,20…特徴量抽出部,21…画像成形部,22…グレースケール変換部,23…コントラスト調整部,24…フィルタリング部,30…定方位化部,31…レジストレーション部,32…方位特定部,40…結果出力部