(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】水捌け判定方法及び疎水材充填装置
(51)【国際特許分類】
E02B 11/02 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
E02B11/02 Z
(21)【出願番号】P 2024067013
(22)【出願日】2024-04-17
【審査請求日】2024-04-26
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524150030
【氏名又は名称】株式会社丸正商会
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【氏名又は名称】井上 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【氏名又は名称】大西 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100179729
【氏名又は名称】金井 一美
(72)【発明者】
【氏名】本川 宏之
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-144619(JP,A)
【文献】特開2022-164404(JP,A)
【文献】特許第4997324(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
暗渠の長溝を圃場に形成する前に、この圃場における地盤の水捌けの良、不良を判定する水捌け判定方法であって、
撮影手段が前記暗渠を形成する予定の領域を撮影した第1の画像と、測定器が前記領域において測定したN値を入力データとし、前記領域における前記水捌けの良、不良を出力データとする教師データから、モデル生成部が機械学習を行ってモデルを生成するモデル生成工程と、
判定部が、前記モデルに基づいて、前記撮影手段が判定用領域を撮影した第1の判定用画像と、前記測定器が前記判定用領域において測定した判定用N値を含む判定用入力データに対応する、前記水捌けの良、不良を判定し、判定結果を出力する判定工程を備え
、
前記入力データは、前記第1の画像と、前記N値に加えて、前記第1の画像を撮影した第1の時点よりも後の第2の時点において前記領域を撮影した第2の画像と、少なくとも前記第1の時点以前の所定期間における気象条件を含み、
前記判定用入力データは、前記第1の判定用画像と、前記判定用N値に加えて、前記第1の判定用画像を撮影した第1の判定用時点よりも後の第2の判定用時点において前記判定用領域を撮影した第2の判定用画像と、少なくとも前記第1の判定用時点以前の所定期間における判定用気象条件を含み、
前記気象条件及び前記判定用気象条件は、それぞれ少なくとも降水量を含むことを特徴とする水捌け判定方法。
【請求項2】
前記水捌けが不良であるとの前記判定結果が出力される場合に、前記判定工程の後に実行される疎水材充填工程を備え、
前記疎水材充填工程は、駆動部が、疎水材を充填するホッパーの下端開口を閉止する底蓋を駆動して、その位置を変化させて前記下端開口を開放し、前記疎水材を前記長溝へ充填することを特徴とする請求項1に記載の水捌け判定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の水捌け判定方法の実施に用いられる疎水材充填装置であって、
前記ホッパーの前記下端開口を開放又は閉止するように設けられる前記底蓋と、
前記底蓋の位置を変化させるよう駆動する前記駆動部と、を備え、
前記駆動部は、前記水捌けが不良であるとの前記判定結果が出力される場合に、前記下端開口を閉止する前記底蓋を駆動して、その位置を変化させて前記下端開口を開放し、前記疎水材を前記長溝へ充填することを特徴とする疎水材充填装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、暗渠を形成する予定の領域について、水捌けの良、不良を判定する水捌け判定方法及びこれに用いられる疎水材充填装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圃場の水捌けを向上させるために、排水用の暗渠が形成されている。暗渠を形成するには、土地に複数の長溝を掘削し、籾殻や藁といった疎水材を長溝に投入する構成である。
しかし、長溝への疎水材の投入は手作業で行われることが多かったため、疎水材を各長溝へ均一に投入することが困難であった。そのため、疎水材の無駄が発生するという課題があった。また、長溝を掘削した後に疎水材の投入を行うことは効率的でないという課題もあった。
そこで、近年、上記の課題を解決するための技術が開発されており、それに関して既に発明が開示されている。
【0003】
特許文献1には「弾丸暗渠形成方法」という名称で、疎水材を充填した弾丸暗渠を形成する形成方法に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示された発明は、ブルドーザの前部に設けられている排土板に装着支持された作業機装着部と、作業機装着部に一体的に設けられた疎水材ホッパーと、疎水材ホッパーの下部に連設された疎水材投入部と、疎水材投入部の弾丸暗渠掘削方向前方に設けられた溝形成用のブレード部と、疎水材投入部の弾丸暗渠掘削方向後方下部に設けられた疎水材投入口と、疎水材投入口よりも弾丸暗渠掘削方向後方に設けられた弾丸と、疎水材ホッパーの上部に設けられる疎水材補給用ホッパーと、疎水材補給用ホッパー内の疎水材を疎水材ホッパー内に投入する搬送手段を設け、搬送手段の作動を弾丸暗渠の形成操作と連動させて、所定位置に弾丸暗渠を形成するときにのみ疎水材を疎水材ホッパーに投入することを特徴とする。
このような構成の発明によれば、弾丸暗渠内への疎水材の投入、充填を弾丸暗渠の形成と同時に、効率よくかつ均一に行うことができるとともに、疎水材の無駄な消費を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された発明においては、疎水材ホッパーに疎水材を投入するタイミングを限定することによって疎水材の無駄を抑制するものの、複数の掘削した溝部のすべてに疎水材を投入する構成である。
しかし、一般的に、水捌けの良、不良は、地盤の組成等に左右されるため、暗渠を形成する予定の地盤の組成等によっては、掘削した長溝に疎水材の充填が不要な場合があると考えられる。そのため、地盤の性質を考慮せず、溝部のすべてに疎水材を投入することは、その充填作業の作業負担が大きく効率的でないことに加えて、不要な疎水材の消費によるコストの無駄も発生する。
よって、特許文献1に開示された発明は、従来の課題を十分に解決できないおそれがある。
【0006】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたものであり、暗渠を形成する予定の地盤における水捌けの良、不良を予め判定することで、疎水材の充填作業の負担を軽減し効率的に暗渠を形成できるとともに、不要な疎水材の消費を無くして無駄なコストの削減が可能となる水捌け判定方法及び疎水材充填装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、第1の発明は、暗渠の長溝を圃場に形成する前に、この圃場における地盤の水捌けの良、不良を判定する水捌け判定方法であって、撮影手段が暗渠を形成する予定の領域を撮影した第1の画像と、測定器が領域において測定したN値を入力データとし、領域における水捌けの良、不良を出力データとする教師データから、モデル生成部が機械学習を行ってモデルを生成するモデル生成工程と、判定部が、モデルに基づいて、撮影手段が判定用領域を撮影した第1の判定用画像と、測定器が判定用領域において測定した判定用N値を含む判定用入力データに対応する、水捌けの良、不良を判定し、判定結果を出力する判定工程を備えることを特徴とする。
【0008】
このような構成の発明において、領域とは、圃場が複数に区画されてなる各部分であり、一以上の暗渠が形成される。そして、判定用領域とは、新たに一以上の暗渠を形成する予定の領域であって、水捌けの良、不良を判定する対象の領域である。
また、第1の画像とは、具体的には、カメラによって撮影されたディジタル画像である。このディジタル画像では、地盤の水捌けが不良で地面を水が覆っている状態になるほど、高輝度の画素値を示す範囲が増加する傾向になると考えられる。よって、第1の画像は、水捌けの良、不良を示唆すると考えられる。
【0009】
さらに、N値とは、標準貫入試験によって得られる地盤の工学的性質であり、一般的に固い締まった地盤ほど大きくなる。そして、粘性土を含む割合が多い地盤の場合、N値が低く、水捌けが不良な傾向にある。これに対し、砂質土を含む割合が多い地盤の場合、N値が高く、水捌けが良好な傾向にある。よって、N値は、水捌けの良、不良を示唆する因子であると考えられる。
【0010】
したがって、第1の画像と、N値との組み合わせである入力データに対する水捌けの良、不良の関係性を機械学習によって学習しモデルを生成することで、このモデルに基づいて、判定用領域における水捌けの良、不良が判定可能になる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、水捌けが不良であるとの判定結果が出力される場合に、判定工程の後に実行される疎水材充填工程を備え、疎水材充填工程は、駆動部が、疎水材を充填するホッパーの下端開口を閉止する底蓋を駆動して、その位置を変化させて下端開口を開放し、疎水材を長溝へ充填することを特徴とする。
【0012】
このような構成の発明において、第1の発明の作用に加えて、水捌けが不良であるとの判定結果が出力される場合に、駆動部が底蓋を駆動して閉止された下端開口を開放し、疎水材を長溝へ充填する一方、水捌けが良好であるとの判定結果が出力される場合に、駆動部は底蓋を駆動しない。この場合、下端開口は閉止されたままであり、疎水材は長溝へ充填されない。
【0013】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、入力データは、第1の画像と、N値に加えて、第1の画像を撮影した第1の時点よりも後の第2の時点において領域を撮影した第2の画像と、少なくとも第1の時点以前の所定期間における気象条件を含み、判定用入力データは、第1の判定用画像と、判定用N値に加えて、第1の判定用画像を撮影した第1の判定用時点よりも後の第2の判定用時点において判定用領域を撮影した第2の判定用画像と、少なくとも第1の判定用時点以前の所定期間における判定用気象条件を含み、気象条件及び判定用気象条件は、それぞれ少なくとも降水量を含むことを特徴とする。
【0014】
このような発明においては、第1又は第2の発明の作用に加えて、第1の画像と、N値のほか、第2の画像と、気象条件の組み合わせを入力データとし、水捌けの良、不良を出力データとする教師データを学習することでモデルが生成される。
上記のとおり、入力データが第2の画像と、気象条件をさらに含む理由は、水捌けが良好な場合は地面が乾燥し易く、水捌けが不良の場合は地面が乾燥し難いため、水捌けの良、不良は、地面での水の溜まり具合の時間的変化を左右し、一方で、この時間的変化は、降水量といった気象条件によって左右されると考えられるためである。
【0015】
また、入力データは、第1の時点以前の所定期間における気象条件に加えて、第1の時点から第2の時点までの期間における気象条件が含まれてもよい。同様に、判定用入力データは、第1の判定用時点以前の所定期間における判定用気象条件に加えて、第1の判定用時点から第2の判定用時点までの期間における判定用気象条件が含まれてもよい。
なお、第1の時点以前の所定期間の長さと、第1の判定用時点以前の所定期間の長さは、同一であっても、なくてもよい。
そして、気象条件及び判定用気象条件は、降水量のほか、外気温や風速を含んでもよい。
【0016】
よって、上記のモデルに基づくと、例えば、降水量が多くても水の溜まり具合の時間的変化が大きい地盤は水捌けが良好であり、逆に、降水量が少なくても水の溜まり具合の時間的変化が小さい地盤は水捌けが不良であるといったように、水捌けの良、不良が気象条件を踏まえて判定される。
【0017】
第4の発明は、第2の発明の実施に用いられる発明であって、ホッパーの下端開口を開放又は閉止するように設けられる底蓋と、底蓋の位置を変化させるよう駆動する駆動部と、を備え、駆動部は、水捌けが不良であるとの判定結果が出力される場合に、下端開口を閉止する底蓋を駆動して、その位置を変化させて下端開口を開放し、疎水材を長溝へ充填することを特徴とする。
【0018】
このような構成の発明においては、底蓋として、例えば、下端開口をその下方から覆う板体と、この板体の周縁の一部に形成される回動軸を備える構成が考えられる。また、駆動部として、例えば、底蓋の回動軸を回動させるモーターが考えられる。
上記構成の発明においては、水捌けが不良であるとの判定結果が出力される場合に、駆動部がホッパーに貯留される疎水材を排出可能とするから、第2の発明である疎水材充填工程が実現される。
【発明の効果】
【0019】
第1の発明によれば、判定用領域における水捌けの良、不良が判定可能になるため、水捌けが良好で疎水材の充填が不要と考えられる長溝への充填作業を省略できる。よって、第1の発明によれば、充填作業の負担を軽減し効率的に暗渠を形成できるとともに、不要な疎水材の消費を無くして無駄なコストの削減が可能となる。
【0020】
第2の発明によれば、第1の発明の効果に加えて、水捌けが不良との判定結果が出力される場合に限り、疎水材が長溝へ充填されるので、複数の暗渠のすべてにおいて、一定以上の良好な排水性と、コスト削減を同時に実現させることができる。
【0021】
第3の発明によれば、第1又は第2の発明の効果に加えて、水捌けの良、不良が気象条件を踏まえて判定されることから、充填の必要性の有無を一層正確に把握することができる。
【0022】
第4の発明によれば、第2の発明と同様の効果を発揮可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例に係る水捌け判定方法を実施するための水捌け判定装置及び疎水材充填装置の構成図である。
【
図3】水捌け判定装置がモデルを生成するまでのフローチャートである。
【
図4】水捌け判定装置が使用する教師データの一覧表である。
【
図5】実施例に係る水捌け判定方法のフローチャートである。
【
図6】実施例の変形例に係る水捌け判定方法において使用される教師データの一覧表である。
【
図7】実施例の変形例に係る水捌け判定方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0024】
最初に、本発明の実施の形態に係る水捌け判定方法を実施するための水捌け判定装置及び疎水材充填装置について、
図1を用いて説明する。
図1は、実施例に係る水捌け判定方法を実施するための水捌け判定装置及び疎水材充填装置の構成図である。
図1に示すように、水捌け判定装置1は、暗渠の長溝を圃場に形成する前に、この圃場における地盤の水捌けの良、不良を判定する装置であって、取得部2と、出力部3と、制御部4と、記憶部5を備える。具体的には、水捌け判定装置1は、コンピューターである。
【0025】
また、制御部4は、モデル生成部6と、判定部7を備える。この制御部4は、取得部2乃至記憶部5の動作をすべて制御する中央処理装置である。
さらに、記憶部5は、教師データ記憶部8と、モデル記憶部9と、判定用入力データ記憶部10と、判定結果記憶部11を備える。以下、各構成について、順に説明する。
【0026】
取得部2は、モデル生成部6がモデルを生成するために使用する教師データと、判定部7が水捌けの良、不良を判定する対象についての判定用入力データを取得する。
このうち、教師データとは、暗渠を形成する予定の領域が撮影された第1の画像と、この領域において測定されたN値に対応する、水捌けの良、不良である。また、判定用入力データとは、判定用領域が撮影された判定用画像と、判定用領域において測定された判定用N値である。
【0027】
第1の画像と、判定用画像は、撮影手段20によって撮影されるディジタル画像である。また、N値と、判定用N値は、測定器21によって測定される同一種類の物理量である。具体的には、撮影手段20はカメラであり、測定器21はコーンペネトロメータである。
よって、取得部2は、撮影手段20と、測定器21から、上記の第1の画像等と、N値等を、インターネットNを介してそれぞれ取得する。なお、本実施例では、気象データサーバー22は不要である。
【0028】
出力部3は、判定部7が出力する水捌けの良、不良についての判定結果を、出力する。具体的には、出力部3は、水捌けが不良であるとの判定結果(以下、不良判定という。)を、後述する疎水材充填装置30へ送信する送信部である。このほか、出力部3は、表示画面、プリンターを含んでいる。
すなわち、出力部3は、水捌けが良好であるとの判定結果(以下、良判定という。)を、疎水材充填装置30へ送信しない。このように、判定結果を、その内容に応じて疎水材充填装置30へ送信をするか否かは、制御部4が判断する。
【0029】
モデル生成部6は、取得部2が取得した教師データから、機械学習を行ってモデルを生成する。
判定部7は、モデル生成部6が生成したモデルに基づいて、判定用入力データに対応する水捌けの良、不良を判定し、良判定又は不良判定を出力する。
【0030】
教師データ記憶部8は、取得部2が取得した教師データを記憶し、モデル記憶部9は、モデル生成部6が生成したモデルを記憶する。また、判定用入力データ記憶部10は、取得部2が取得した判定用入力データを記憶し、判定結果記憶部11は、判定部7が出力した判定結果を記憶する。
【0031】
次に、疎水材充填装置30は、底蓋31と、駆動部32と、受信部33を備える。
このうち、受信部33は、水捌け判定装置1の出力部3が出力する不良判定を、無線通信路34を介して受信する。その後、受信部33は、受信した不良判定を駆動部32へ伝達する。
【0032】
駆動部32は、不良判定が伝達されると、底蓋31の位置を変化させるよう、この底蓋31を駆動する。底蓋31とは、疎水材を貯留するホッパー44の下端開口44a(
図2参照)に設けられる板体である。これらの底蓋31と、駆動部32の詳細な構成及び作用については、
図2を用いて説明する。
【0033】
続いて、疎水材充填装置の構成及び作用について、
図2を用いて説明する。
図2は、疎水材充填装置の側面図である。
図2に示すように、疎水材充填装置30は、疎水材Mを貯留する既設のホッパー44の下端開口44aを、開放又は閉止するように設けられる底蓋31と、底蓋31の位置を変化させるよう駆動する駆動部32と、不良判定を、無線通信路34(
図1参照)を介して受信し、駆動部32へ伝達する受信部33(
図1参照)と、底蓋31乃至受信部33をホッパー44の一方の側面44bにおいて保持するための保持部35を備える。
なお、疎水材Mは、具体的には、籾殻である。
【0034】
ここで、まずホッパー44の構成について説明する。ホッパー44は、圃場Fを移動する油圧ショベル40が備えるアーム41の先端に取り付けられる。詳細には、ホッパー44は、取付フレーム42を介して、暗渠の長溝Dを掘削する掘削ブレード43とともに、アーム41の先端に保持される。
また、ホッパー44の下端開口44aは、ホッパー44の上下方向に対して傾斜しており、長溝Dの深さ方向について、疎水材Mを広範囲に排出できるようになっている。そして、下端開口44aは、平面視で四角形状の内空を有している。
【0035】
さらに、掘削ブレード43の下端には、所定の長さのチェーン45を介して弾丸型の孔形成用部材46が取り付けられている。よって、掘削ブレード43が進行方向Xに移動することで、孔形成用部材46が引っ張られ、下側溝部D1が形成される。なお、この下側溝部D1には、長溝Dに疎水材Mが充填される場合であっても、疎水材Mが充填されない。
【0036】
次に、疎水材充填装置30の構成について、詳細に説明する。底蓋31は、金属製であって、ホッパー44の内部において下端開口44aを閉止可能な、四角形状の板体31aと、この板体31aの周縁の一部に形成される円筒形状の回動軸31bを備える。この回動軸31bは、ホッパー44の外部に配置されており、その軸方向はホッパー44の両側面44b,44bに対して直交している。
【0037】
また、駆動部32は、回動軸31bの内空を貫通して挿入される軸体32aを備え、この軸体32aの軸中心を中心として回動軸31bを回動させる電動モーターである。この電動モーターは、図示しないケーブルを介して、新設又は油圧ショベル40に既設のバッテリーから、電力供給を受ける。
【0038】
さらに、保持部35は、金属製であって、駆動部32を収容する円筒部35aと、この円筒部35aをホッパー44の一方の側面44bに吊り下げ固定する略台形状の固定板35bを備える。なお、保持部35は、軸体32aの先端を回動可能に保持する円筒部と、この円筒部を他方の側面44bに吊り下げ固定する固定板が付加されてもよい。
【0039】
加えて、疎水材充填装置30は、疎水材Mの残量を検知するレベルセンサー36を備える。このレベルセンサー36は、ホッパー44の内壁に設けられている。具体的には、レベルセンサー36は、下端開口44aを閉止する状態にある底蓋31よりも上方に設置されており、疎水材Mの残量がほぼ無くなると、疎水材不足信号を出力する。
【0040】
よって、疎水材充填装置30においては、判定部7が不良判定を出力すると、駆動部32が下端開口44aを閉止する底蓋31の回動軸31bを、Y1方向へ駆動して、板体31aの位置を変化させて下端開口44aを開放する。これにより、ホッパー44に貯留されている疎水材Mが長溝Dへ充填される。
【0041】
また、駆動部32は、レベルセンサー36が出力した疎水材不足信号を受信部33が受信することで、下端開口44aを閉止するように軸体32aを回動させる構成となっている。よって、充填後に、ホッパー44の疎水材Mがほぼ無くなると、底蓋31の回動軸31bがY2方向へ回動し、板体31aが下端開口44aを再び閉止する。
さらに、駆動部32は、油圧ショベル40のオペレーターによるスイッチ操作を受信部33が受信することで、判定結果とは無関係に、底蓋31がホッパー44の下端開口44aを開放又は閉止するようにも構成されている。これにより、例えば、油圧ショベル40の移動時や緊急時、又は疎水材Mのホッパー44への補給時に、下端開口44aを適宜開閉可能である。
【0042】
続いて、水捌け判定装置1がモデルを生成するまでの処理の流れについて説明する。
図3は、水捌け判定装置がモデルを生成するまでのフローチャートである。
図3に示すように、水捌け判定装置1が実行するモデル生成方法50は、S51の教師データ取得工程と、S52のモデル生成工程を備える。
S51の教師データ取得工程は、取得部2が、第1の画像と、N値からなる入力データと、これに対応する水捌けの良、不良の結果である出力データの組み合わせである教師データを取得する工程である。取得された教師データは、教師データ記憶部8に記憶される。
【0043】
S52のモデル生成工程は、モデル生成部6が、取得部2が取得した入力データと、出力データから、機械学習を行ってモデルを生成する工程である。この機械学習は、公知の学習方法によって行われる。生成されたモデルは、モデル記憶部9に記憶される。
【0044】
次に、教師データの内容について、
図4を用いて説明する。
図4は、水捌け判定装置が使用する教師データの一覧表である。
図4に示すように、第1欄目の「第1の画像番号」は、第1の画像に付された通し番号であって、暗渠を形成する予定である複数箇所の領域をそれぞれ識別する番号である。
第2欄目の「N値」は、第1の画像番号で識別される領域毎に測定されたN値である。よって、一の領域に形成される予定の複数の暗渠は、互いに同一のN値となり、異なる領域に形成される予定の複数の暗渠は、互いに同一又は異なるN値となる。
【0045】
第3欄目の「水捌けの良、不良」は、複数の「第1の画像番号」と、複数の「N値」との組み合わせにそれぞれ対応する、水捌けについての正解を示すデータである。
よって、モデル生成部6が上記のような教師データを機械学習することで、新たに水捌けの良、不良を判定する必要のある判定用領域についての、水捌けの良、不良を正しく判定することができる。
【0046】
次に、水捌け判定装置1と、疎水材充填装置30を用いて実施される水捌け判定方法の工程について、
図5を用いて説明する。
図5は、実施例に係る水捌け判定方法のフローチャートである。
図5に示すように、水捌け判定方法60は、S51の教師データ取得工程と、S52のモデル生成工程と、S61の判定用N値測定工程と、S62-1の第1の判定用画像撮影工程と、S63-1の判定用入力データ取得工程と、S64の判定工程と、S65の不良判定送信工程と、S66の疎水材充填工程と、S67の閉止工程と、を備える。
【0047】
なお、モデル生成方法50のS51の教師データ取得工程と、S52のモデル生成工程は、S64の判定工程が開始される前に実施されればよい。また、モデル生成方法50は一度実施されれば、必ずしも水捌け判定方法60の実施の都度、実施されなくてよい。
さらに、疎水材充填装置30を構成する底蓋31は、水捌け判定方法60が開始される時点で、ホッパー44の下端開口44aを閉止した状態にある。以下、各工程について、順に説明する。
【0048】
S61の判定用N値測定工程は、作業者が、測定器21を用いて判定用領域における判定用N値を測定する工程である。この判定用N値として、例えば、判定用領域の複数箇所で測定された、複数個の測定値の代表値を採用することができる。
【0049】
S62-1の第1の判定用画像撮影工程は、作業者が、撮影手段20を用いて判定用領域を撮影し、第1の判定用画像を得る工程である。これ以外にも、作業者の代わりに、例えば、ドローン等の飛行体に搭載された撮影手段20が遠隔操作されることで、第1の判定用画像が得られてもよい。
【0050】
S63-1の判定用入力データ取得工程は、取得部2が、判定用N値と、第1の判定用画像からなる判定用入力データを取得する工程である。取得された判定用入力データは、判定用入力データ記憶部10に記憶される。
【0051】
S64の判定工程は、判定部7が、モデル生成部6が生成したモデルに基づいて、第1の判定用画像と、判定用N値を含む判定用入力データに対応する、水捌けの良、不良を判定し、良判定及び不良判定のいずれかの判定結果を出力する工程である。判定結果は、判定結果記憶部11に記憶される。
そして、不良判定が出力される場合、S65の不良判定送信工程が実行される。このS65の不良判定送信工程は、出力部3が、不良判定を疎水材充填装置30へ送信する工程である。
これに対し、良判定が出力される場合、出力部3は、この良判定を、疎水材充填装置30へ送信しない。よって、S66の疎水材充填工程以降の工程は実行されず、水捌け判定方法60が終了する。
【0052】
S66の疎水材充填工程は、駆動部32が、ホッパー44の下端開口44aを閉止する疎水材充填装置30の底蓋31を駆動して、その位置を変化させて下端開口44aを開放し、疎水材Mを長溝Dへ充填する工程である。
【0053】
S67の閉止工程は、レベルセンサー36が出力する疎水材不足信号、又はオペレーターによるスイッチ操作によって、駆動部32が、下端開口44aを開放した状態の底蓋31を駆動して、再び下端開口44aを閉止する工程である。
【0054】
以上説明したように、水捌け判定方法60によれば、水捌け判定装置1と疎水材充填装置30を用いることで、判定部7が不良判定を出力する場合に限って、疎水材充填装置30の駆動部32がホッパー44の下端開口44aを開放して疎水材Mを充填可能とする。よって、水捌けが良好で疎水材Mの充填が不要と考えられる長溝Dへの充填作業を省略できる。
したがって、水捌け判定方法60によれば、充填作業の負担を軽減し効率的に暗渠を形成できるとともに、不要な疎水材Mの消費を無くして無駄なコストの削減が可能となる。
【0055】
さらに、判定部7が不良判定を出力する場合に限って、疎水材Mが長溝Dへ充填されるので、複数の暗渠のすべてにおいて、一定以上の良好な排水性と、コスト削減を同時に実現させることができる。
また、判定部7が、水捌けの良、不良を示唆すると考えられる第1の画像と、N値を入力データとした教師データを用いて生成されたモデルに基づいて、判定用領域の水捌けの良、不良を判定するため、判定用領域における地盤の特性が反映された精度の良い判定結果を得ることができる。
【0056】
次に、実施例の変形例に係る水捌け判定方法について、
図6及び
図7を用いて説明する。
図6は、実施例の変形例に係る水捌け判定方法において使用される教師データの一覧表である。
実施例の変形例に係る水捌け判定方法においては、
図4で示した水捌け判定方法60での教師データとは異なる教師データが使用される。その結果、モデル生成部6が生成するモデルも、水捌け判定方法60でのモデルとは異なるものとなる。
【0057】
図6に示すように、変形例に係る水捌け判定方法において、教師データの入力データは、第1の画像番号で識別される第1の画像(第1欄目)と、N値(第2欄目)に加えて、第2の画像番号で識別される第2の画像(第5欄目)と、気象条件(第3,4欄目)を含む。
このうち、第1の画像番号「A1~A5」は、一の圃場についての領域を識別し、「A100~A104」は、一の圃場とは異なる圃場についての領域を識別している。
また、第2の画像は、第1の画像を撮影した第1の時点よりも後の第2の時点において、第1の画像の場合と同一の領域を撮影したものであり、第2の画像番号「B1~B5」と、「B100~B104」は、撮影する領域についてそれぞれ第1の画像番号「A1~A5」と、「A100~A104」に対応している。
【0058】
さらに、気象条件は、第1の時点以前の所定期間における降水量と、外気温であって、取得部2が、気象データサーバー22(
図1参照)から、インターネットNを介して取得したものである。ただし、気象条件は、外気温を含まなくてもよく、また、風速といったほかの気象条件を含んでもよい。なお、所定期間としては、任意の期間が選択される。
そして、教師データの出力データである最右欄の「水捌けの良、不良」は、複数の「第1の画像番号」と、複数の「第2の画像番号」と、複数の「N値」と、複数の「気象条件」との組み合わせにそれぞれ対応する、水捌けについての正解を示すデータである。
また、変形例に係る水捌け判定方法において、水捌け判定装置1が上記の教師データを用いてモデルを生成するまでの生成方法は、モデル生成方法50と同様である。
【0059】
よって、判定用入力データも、第1の判定用画像と、判定用N値に加えて、第2の判定用画像と、第1の判定用時点以前の所定期間における判定用気象条件を含んでいる。
このうち、第2の判定用画像は、第1の判定用画像を撮影した第1の判定用時点よりも後の第2の判定用時点において、第1の判定用画像の場合と同一の判定用領域を撮影したものである。
また、判定用気象条件は、第1の判定用時点以前の所定期間における気象情報であって、その取得経路や、種類、所定期間は、入力データが含む気象条件の場合と同様である。
【0060】
続いて、実施例の変形例に係る水捌け判定方法の工程について、
図7を用いて説明する。
図7は、実施例の変形例に係る水捌け判定方法のフローチャートである。
図7に示すように、実施例の変形例に係る水捌け判定方法60Aは、水捌け判定方法60におけるS63-1の判定用入力データ取得工程と、S64の判定工程の間に、S62-2の第2の判定用画像撮影工程と、S63-2の判定用入力データ取得工程を備える。なお、モデル生成方法50の図示は省略する。
また、水捌け判定方法60Aは、水捌け判定装置1と同様に、水捌け判定装置1と、疎水材充填装置30を用いて実施される。
【0061】
水捌け判定方法60Aにおいて、S63-1の判定用入力データ取得工程は、取得部2が、第1の判定用時点での判定用入力データを取得する工程である。ただし、この判定用入力データは、第1の判定用時点以前の所定期間における判定用気象条件をさらに含んでいる。これ以外は、水捌け判定方法60のS63-1の判定用入力データ取得工程と同様である。
【0062】
また、S62-2の第2の判定用画像撮影工程は、撮影手段20が、第2の判定用時点において、第1の判定用画像の場合と同一の判定用領域を撮影する工程である。これ以外は、水捌け判定方法60のS62-1の第1の判定用画像撮影工程と同様である。
さらに、S63-2の判定用入力データ取得工程は、取得部2が、第2の判定用時点判定用入力データを取得する工程である。この判定用入力データは、第2の判定用画像のみを含み、判定用気象条件を含んでいない。これ以外は、水捌け判定方法60のS63-1の判定用入力データ取得工程と同様である。
水捌け判定方法60Aの上記以外の構成は、水捌け判定方法60の構成と同様である。
【0063】
水捌け判定方法60Aによれば、入力データが、期間を空けて撮影された第1及び第2の画像と、気象条件を含むため、地面での水の溜まり具合の時間的変化と、この時間的変化を左右する因子が反映されると考えられるモデルに基づいて、判定結果を出力することができる。
したがって、水捌けの良、不良が気象条件を踏まえて判定されることから、充填の必要性の有無を一層正確に把握することができる。これ以外の水捌け判定方法60Aの効果は、水捌け判定方法60の効果と同様である。
【0064】
なお、本発明に係る水捌け判定装置1、疎水材充填装置30及び水捌け判定方法60,60Aは、実施例に示すものに限定されない。例えば、水捌け判定装置1は、教師データ記憶部8が水捌け判定装置1とは別のコンピューターに設けられてもよい。
また、疎水材充填装置30は、回動する板状の底蓋31の代わりに、駆動部32の軸体32aが巻き取り可能なスラットが用いられてもよい。
さらに、水捌け判定方法60において、S61の判定用N値測定工程と、S62-1の第1の判定用画像撮影工程との実行順が逆になってもよい。
このほか、水捌け判定方法60Aにおいて、入力データが、第1の時点から第2の時点までの期間における気象条件を含んでいてもよい。この場合、判定用入力データが、第1の判定用時点から第2の判定用時点までの期間における判定用気象条件を含み、S63-2の判定用入力データ取得工程で取得部2が判定用気象条件を取得する。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、暗渠を形成する予定の領域について、水捌けの良、不良を判定する水捌け判定方法及びこれに用いられる疎水材充填装置として利用可能である。
【符号の説明】
【0066】
1…水捌け判定装置 2…取得部 3…出力部 4…制御部 5…記憶部 6…モデル生成部 7…判定部 8…教師データ記憶部 9…モデル記憶部 10…判定用入力データ記憶部 11…判定結果記憶部 20…撮影手段 21…測定器 22…気象データサーバー 30…疎水材充填装置 31…底蓋 31a…板体 31b…回動軸 32…駆動部 32a…軸体 33…受信部 34…無線通信路 35…保持部 35a…円筒部 35b…固定板 36…レベルセンサー 40…油圧ショベル 41…アーム 42…取付フレーム 43…掘削ブレード 44…ホッパー 44a…下端開口 44b…側面 45…チェーン 46…孔形成用部材 50…モデル生成方法 60,60A…水捌け判定方法 F…圃場 M…疎水材 D…長溝 D1…下側溝部
【要約】
【課題】疎水材の充填作業の負担を軽減し効率的に暗渠を形成できるとともに、不要な疎水材の消費を無くして無駄なコストの削減が可能となる水捌け判定方法を提供する。
【解決手段】水捌け判定方法60は、暗渠の長溝を圃場に形成する前に、この圃場における地盤の水捌けの良、不良を判定可能であり、S51の教師データ取得工程と、S52のモデル生成工程と、S61の判定用N値測定工程と、S62-1の第1の判定用画像撮影工程と、S63-1の判定用入力データ取得工程と、S64の判定工程と、S65の不良判定送信工程と、S66の疎水材充填工程と、S67の閉止工程と、を備える。
【選択図】
図5