(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】摩擦制動体を製造する方法、および摩擦制動体を製造する装置
(51)【国際特許分類】
C23C 24/10 20060101AFI20240912BHJP
B23K 26/342 20140101ALI20240912BHJP
F16D 65/12 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C23C24/10 A
B23K26/342
F16D65/12 A
F16D65/12 Q
F16D65/12 S
(21)【出願番号】P 2022577139
(86)(22)【出願日】2021-06-10
(86)【国際出願番号】 EP2021065553
(87)【国際公開番号】W WO2021254858
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】102020207360.0
(32)【優先日】2020-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(73)【特許権者】
【識別番号】594072258
【氏名又は名称】ブデルス.グス.ゲゼルシャフト.ミット.ベシュレンクテル.ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Buderus Guss GmbH
【住所又は居所原語表記】Buderusstrasse 26, 35236 Breidenbach, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン シュナッテラー
(72)【発明者】
【氏名】カンジャン ウー
(72)【発明者】
【氏名】イリヤ ポタペンコ
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/151781(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0072307(US,A1)
【文献】国際公開第2021/047821(WO,A1)
【文献】再公表特許第2016/151781(JP,A1)
【文献】中国特許出願公開第105755464(CN,A)
【文献】特開2018-065144(JP,A)
【文献】特開2021-156267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K26/342
C23C24/10
F16D65/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦接触領域を備えた基体(3)を有する摩擦制動
体を製造する方法であって、
前記摩擦接触領域に向けられたレーザビーム(9)を用いたレーザ肉盛溶接によって、前記摩擦接触領域に摩耗防護層(5)を製作し、
前記摩耗防護層(5)を前記レーザ肉盛溶接時に少なくとも1種の粉末状の
付加材によって形成
し、
少なくとも2種の粉末状の
付加材を同時に添加し、前記レーザビーム(9)内での前記少なくとも2種の粉末状の
付加材の滞留期間をそれぞれ異なる長さに
し、
前記付加材の各々を、前記基体(3)に到達する前に前記レーザビーム(9)に到達するように、少なくとも1つのノズル(11~14)を通して前記基体(3)上に噴射する、
方法において、
前記少なくとも2種の付加材の材料噴流(S11~S14)が、前記レーザビーム(9)内で1つの衝突点(TP1)において衝突させる、
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記少なくとも2種の
付加材を前記レーザビーム(9)に対してそれぞれ異なる角度(α11~α14)で吹き込むことを特徴とする、請求項
1記載の方法。
【請求項3】
各々の前記
付加材が前記レーザビーム(9)によって溶融され
るように、前記角度(α11~α14)を選択することを特徴とする、請求項
2記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも2種の
付加材を前記レーザビーム(9)に対してそれぞれ等しいまたは異なる半径方向の間隔を置いて、前記レーザビーム(9)に対してそれぞれ等しいまたは異なる軸線方向の高さに吹き込むことを特徴とする、請求項1から
3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
各々の前記
付加材を少なくとも2つのノズル(11~14)から少なくとも2つの材料噴流(S11~S14)で前記レーザビーム(9)内に吹き込み、これによって、各々の前記
付加材の前記材料噴流(S11~S14)を前記レーザビーム(9)内で衝突させることを特徴とする、請求項1から
4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
各々の前記
付加材を前記少なくとも2つのノズル(11~14)から、前記レーザビーム(9)を基準として直径方向において互いに反対の側で吹き込むことを特徴とする、請求項
5記載の方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項記載の方法を実施する、摩擦制動
体を製造する装
置であって、
レーザビームを発生させるレーザビーム源(8)と、
前記レーザビーム(9)内にそれぞれ1つの材料流を吹き出すための少なくとも2つのノズル(11~14)と、
を備え、
前記ノズル(11~14)は、前記材料流が前記レーザビーム(9)に対してそれぞれ異なる角度(α11~α14)で前記レーザビーム(9)内に吹込み可能に方向付けられている、
装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦接触領域を備えた基体を有する摩擦制動体、特にブレーキディスクを製造する方法および装置であって、摩擦接触領域に向けられたレーザビームを用いたレーザ肉盛溶接によって、摩擦接触領域に摩耗防護層を製作し、この摩耗防護層をレーザ肉盛溶接時に少なくとも1種の粉末状の添加材によって形成する、方法および装置に関する。
【0002】
背景技術
上述した形態の摩擦制動体を製造する方法は、先行技術に基づきすでに公知である。運転中に摩擦により生じる摩耗を減じるために、摩擦制動体に、耐摩耗性であり、摩擦制動体に対して長い寿命を保証する摩耗防護層を設けることが知られている。この摩耗防護層を製作するためには、すでにレーザ肉盛溶接が有利であることが判明している。このレーザ肉盛溶接では、基体の被覆すべき表面がレーザビームによって局所的に溶融され、粉末状の添加材が添加される。この添加材は、融液状の表面への到達前にレーザビームによって少なくとも一部液化されるかまたは完全に溶融され、これによって、溶融された表面と、添加材との間に材料接続的な結合が生じる。溶射された層と比較して、レーザ肉盛溶接により被着された層は材料接続的な結合によって、通常、より高い層付着と、より良好な層間剥離耐性とを提供する。欧州特許出願公開第3034902号明細書に基づき、例えば、レーザ肉盛溶接を行う相応の製作法がすでに公知である。
【0003】
発明の開示
請求項1の特徴を有する本発明に係る方法は、それぞれ異なる少なくとも2種の粉末状の添加材を組み合わせた場合、これらの添加材が、混合物としてではなく、別々にレーザ肉盛溶接プロセスに供給され、レーザビームによって個別に溶融され、これによって、摩耗防護層において最適な接合が保証されるという利点を有している。このために、本発明によれば、少なくとも2種の粉末状の添加材を同時に添加し、レーザビーム内での少なくとも2種の粉末状の添加材の滞留期間をそれぞれ異なる長さにすることが特定されている。これによって、それぞれ異なる添加材にレーザビームによってそれぞれ異なる影響が与えられるため、例えば、両方の添加材が、レーザビームによって完全に溶融されるかまたは目的に合わせてそれぞれ異なる強さで溶融されることが保証されることが達成される。
【0004】
好ましくは、添加材の各々が、それぞれ少なくとも1つのノズルによって基体に向けて噴射され、この基体への到達前にレーザビーム内に到達する。添加材が、それぞれ1つのノズルによって基体に向けて噴射されることによって、レーザビームへの照準された到達およびレーザビームの使用を廉価に可能にする添加材噴流の照準された方向付けが可能となる。
【0005】
特に好適には、少なくとも2種の添加材が、レーザビームに対してそれぞれ異なる角度でレーザビーム内に吹き込まれる。それぞれ異なる吹込み角によって、添加材がそれぞれ異なる期間レーザビーム内に滞留し、その後、基体に到達することが達成される。レーザビームに対する角度が、例えばより大きく選択されていると、滞留期間は、小さな角度と比較して短くなる。これによって、調整された角度に応じて、レーザビーム内での滞留期間を各々の添加材に簡単に最適に適合させることができる。
【0006】
好ましくは、少なくとも2種の添加材が、レーザビームに対してそれぞれ等しいまたは異なる半径方向の間隔を置いて、レーザビームに対してそれぞれ等しいまたは異なる軸線方向の高さに吹き込まれる。レーザビームに対するノズルの半径方向の間隔もしくは側方の間隔と、(レーザビームの向きでの軸線方向の高さもしくは間隔に相当する)基体に対する軸線方向の間隔とによっても、レーザビーム内での各々の添加材の滞留期間を有利に適合させることができる。
【0007】
さらに、好適には、各々の添加材がレーザビームによって溶融される、特に可能な限り完全にまたは可能な限り不完全に溶融されるように、角度を選択することが特定されている。完全な溶融によって、特に、各々の添加材と、基体の溶融された領域、特に基体における溶融された鉄基合金との有利な材料接続的な結合が保証されている。不完全な溶融によって、各々の添加材の望ましくない過度に高い溶融度または解離を回避することができる。
【0008】
さらに、好適には、各々の添加材を少なくとも2つのノズルから少なくとも2つの材料噴流でレーザビーム内に吹き込み、これによって、各々の添加材の材料噴流をレーザビーム内で衝突させることが特定されている。2つの側からの吹込みによって、レーザビーム内で衝突した材料噴流が、有利には、互いに混合され、かつ/または基体の溶融された表面内に均一に分配されることが達成される。したがって、添加材を側方の2つの側から入射させることによって、特にレーザビームの内部に、両方の材料噴流が衝突しかつ互いに混合される衝突点が生じる。この場合、両方の材料噴流の吹込み角は、好ましくは等しく選択されており、これによって、均一な分配が保証される。材料噴流が、それぞれ異なる材料密度および/または体積流量に基づき異なっている場合には、互いに異なる吹込み角が有利であり得る。
【0009】
好適には、各々の添加材の材料噴流が、少なくとも2つのノズルから、レーザビームを基準として直径方向において互いに反対の側でまたはレーザビームの全周にわたって均等に分配されて吹き込まれる。
【0010】
さらに、好適には、少なくとも2種の添加材の材料噴流をレーザビーム内で1つの衝突点において衝突させることが特定されている。したがって、本発明におけるレーザ肉盛溶接時に使用される全ての材料噴流が、レーザビーム内の1つの箇所において衝突し、有利には、互いに混合される。この場合、材料噴流が、レーザビームに対するそれぞれ異なる入射角もしくはそれぞれ異なる半径方向の間隔に基づき、衝突点への到達前にすでにそれぞれ異なる期間レーザビーム内に滞留し、これによって、それぞれ異なる期間レーザビームによって処理される。
【0011】
本発明の好適な改良形態によれば、第1の添加材の材料噴流が、レーザビーム内で第1の衝突点において衝突し、第2の添加材の材料噴流が、レーザビームの延在内の第2の衝突点において衝突し、両方の衝突点は、レーザビームの放射方向で互いに離間させられて位置している。これによっても、レーザビーム内での添加材の滞留期間にさらに影響が与えられる。第2の衝突点は、特に基体への到達前にレーザビーム内に位置しているかまたは代替的には基体内に位置しており、これによって、第2の衝突点は単に仮想の衝突点である。
【0012】
本発明の好適な改良形態によれば、添加材として2つの群、つまり、合金、特に鉄基合金と、十分に均質な(sortenrein)化合物、例えば炭化物、窒化物またはホウ化物であってよい硬質材料とが添加される。これによって、耐食性および耐摩耗性に関して、摩耗防護層の有利な特性が得られる。
【0013】
請求項11の特徴を有する本発明に係る装置は、それぞれ異なる添加材を含んだ材料流をレーザビーム源のレーザビーム内に吹き込むための少なくとも2つのノズルを有しており、これらのノズルは、材料流がそれぞれ異なる角度でレーザビーム内に吹込み可能に方向付けられている。これによって、すでに記載した利点が得られる。更なる利点、好適な特徴および特徴の組合せは、前述した記載および特許請求の範囲から明らかとなる。
【0014】
以下に、本発明を図面に基づき詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】摩擦制動体を製造する装置および方法の有利な実施例を示す図である。
【
図3】摩擦制動体を製造する装置および方法の有利な実施例を示す図である。
【0016】
図1には、自動車の摩擦ブレーキ2(
図1には詳細に示さず)のブレーキディスク1として形成された摩擦制動体が、簡単な斜視図で示してある。ブレーキディスク1は円環状に形成されていて、摩擦ブレーキ2の、ブレーキディスク1の少なくとも一方の端面に向かって押圧可能である変位可能な制輪子と協働するために用いられる。任意選択的に存在するブレーキディスクハットは、
図1に示していない。
【0017】
ブレーキディスク1は基体3を有している。この基体3は円環状に形成されていて、その端面にそれぞれ1つの摩擦接触表面4を有している。この摩擦接触表面4は、摩擦ブレーキ2の制輪子と協働するために用いられる。基体3は、好ましくはねずみ鋳鉄から製作されている。摩擦接触表面4は、好適には、基体3に形成された摩耗防護層5によって形成される。
【0018】
本実施例によれば、摩耗防護層5はレーザ肉盛溶接によって製作される。このために、
図2には、レーザ肉盛溶接法を実施するための有利な装置6が簡略図で示してある。この装置6は、レーザビーム9を発生させるレーザビーム源8を支持する作業ヘッド7と、種々異なる粉末状の添加材を吹き出すための装置10とを有している。
【0019】
装置10は、例えば、作業ヘッド7に保持された複数のノズル11,12,13,14を有している。この場合、ノズル対13,14もしくはノズル対11,12が、レーザビームを中心として回転対称に配置されていて、単に写像の理由から対として図示してあるにすぎない。特に、回転対称あたり少なくとも3つのノズルが有利である。3つのノズルの使用時には、これらのノズルが120°の角度でずらされて配置されており、4つのノズルの使用時には、90°の角度ずれが好適である。
【0020】
ノズル11~14を分配すると、レーザビーム9に沿った回転対称を最大限に活用することができる。2×3のノズルの使用時には、ノズルを互い違いに60°ずつだけずらすことができる。
【0021】
個別のノズル(インジェクタ)に対して択一的には、(頂点で起立し、円形の底面を有する錐体の側面に類似して)連続的な圧送を可能にする環状ギャップノズルが使用されてよい。ノズル11~14は、レーザビーム9に対して規定の角度で方向付けられており、これによって、各々のノズル11~14から進出した材料噴流S11~S14が、レーザビーム9もしくはレーザビーム9の中心長手方向軸線9’に対して所定の角度α11,α12もしくは角度α13,α14で方向付けられている。
【0022】
ノズル11,12は、第1の添加材を吹き出すために用いられる。ノズル13,14は、第2の添加材を吹き出すために用いられる。
図2に示したように、添加材は、予め設定された角度α11~α14でレーザビーム9内に吹き込まれる。ノズル11,12の吹込み角は互いに対応していて、ノズル13,14の同じく等しい吹込み角α13,α14と異なっている(α11=α12≠α13=α14)。ノズル11,12は、互いに異なる側でまたは直径方向において互いに反対の側で作業ヘッド7に配置されており、ノズル13,14も互いに同様である。これによって、ノズル11,12,13,14の材料噴流S11,S12,S13,S14が、レーザビーム9内で1つの衝突点TP1において衝突する。ノズル11,12は、ノズル13,14よりもレーザビームもしくはレーザビーム源8からさらに半径方向に離間させられて作業ヘッド7に配置されている。一方の吹込み角α11,α12と他方の吹込み角α13,α14とが互いに異なっていることに基づき、それにもかかわらず、材料噴流S11~S14がレーザビーム9の内部の衝突点TP1において、基体3に対して軸線方向に離間させられて衝突することが保証される。
【0023】
ノズル11~14の有利な配置および方向付けに基づき、両方の添加材が互いに異なる期間レーザビーム9内に滞留することが達成される。小さい方の角度α13,α14と、レーザビーム源8に対する側方への離間とに基づき、ノズル13,14により吹き出された第2の添加材が、ノズル11,12により吹き出された第1の添加材よりも長い期間レーザビーム9に滞留することが達成される。衝突点TP1は、材料噴流S11~S14がレーザビーム9の範囲内で基体3に衝突するように選択されており、これによって、添加材が溶融され、吹き込まれた添加材と、基体3の溶融された領域との有利な材料接続的な結合が保証されている。したがって、図示の構成では、溶融のために、第1の添加材として、第2の添加材と比較してレーザビーム内で短い滞留期間を要する添加材が使用される。逆に、例えば添加材を溶融したくない場合にも、この原理を利用することができる。例えば、鉄基合金を炭化クロムと共に処理する場合には、鉄基合金を完全に溶融させることが求められるのに対して、炭化クロムについては、溶融度が可能な限り低いと有利であることが判っている。この場合には、炭化クロムが、好適には、レーザビーム9との相互作用時間(滞留期間)が可能な限り短くなるように供給される。
【0024】
添加材料の特に高い熱物理的な差が存在する場合には、両方の添加材に対して、ノズル11~14の吹込み角および吹込み位置によって、それぞれ1つの固有の衝突点が調整される。このために、
図3には、別の実施例が簡略図で示してある。
図3には、同じ要素に同じ参照符号が付してあり、この点に関しては、上述した記載を参照されたい。以下では、実質的に違いのみを説明する。
【0025】
前述した実施例と同様、材料噴流S13,S14は、前述した衝突点TP1において基体3に対して離間させられて衝突する。これに対して、材料噴流S11,S12は、軸線方向もしくはレーザビーム9の放射方向で衝突点TP1に対して離間させられて位置する第2の衝突点TP2において衝突する。図示の構成では、この衝突点TP2は、確かにレーザビーム9の放射方向に位置しているものの、基体3の内部に位置している。このために、吹込み角α11,α12が、前述した実施例よりも小さく選択されている。これによって、第2の添加材が、ノズル11,12により吹き出される第1の添加材よりもレーザビーム9内に著しく長い滞留期間を有することが達成される。
【0026】
更なる実施例によれば、摩耗防護層が、炭化ニオブ(NbC)と特殊鋼(例えばCr鋼またはCrNi鋼)とを含有している。NbCの熱安定性が特殊鋼と比較して高いことに基づき、NbCについては、レーザとの相互作用時間をより長くすることを求める必要がある。レーザビーム9内で基体3の上方において炭化ニオブの滞留時間と特殊鋼の滞留時間とを互いに適合させることによって、完全な溶融に達するまで、両方の添加材の効果的な溶融が保証される。炭化ニオブの溶融部分は、凝固中にNbCとして特殊鋼母材内に細かく分布して析出し、したがって、被覆層の内部に均質な硬さ分布を生じさせる。さらに、炭化物の残存部分の表面の溶融によって、母材と硬質材料との間で材料接続的な結合が可能となる。これによって、摩擦制動体に熱機械的な負荷がかけられた際に硬質材料または炭化物が溶出してしまうことが阻止される。したがって、本実施例によれば、炭化ニオブが第2の添加材として使用され、完全な溶融に達するまで、レーザビーム9において、より長い滞留期間に曝されることが特定されている。
【0027】
更なる実施例によれば、摩耗防護層が、炭化ケイ素と特殊鋼とから形成される。炭化ケイ素の高い熱伝導率によって、摩耗防護層から基体への有利な熱伝導が保証される。これによって、摩擦制動体の熱的な耐荷性が向上させられる。第1の添加材として使用される炭化ケイ素に対する衝突点TP2を
図3に従って適合させることによって、レーザ肉盛溶接時に炭化ケイ素内に供給される熱エネルギーが減じられる。これによって、SiCの解離が減じられ、摩耗防護層5内への望ましくないFe-Si化合物の形成が十分に阻止されるため、特に摩耗防護層5の脆化が阻止される。