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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】塩素低減固体燃料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 5/48 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
C10L5/48 ZAB
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020049767
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021147531
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹本 智典
(72)【発明者】
【氏名】武藤 恭宗
(72)【発明者】
【氏名】吉川 知久
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-199542(JP,A)
【文献】特開2000-096066(JP,A)
【文献】特開2004-305960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 5/00
B09B 1/00-5/00
B29B 29/00
C10L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素を含む廃棄物を加熱装置内で溶融温度以上であって、燃焼温度よりも低い温度で加熱する第1の工程と、
第1の工程後の廃棄物を破砕する第2の工程と、
第2の工程後の廃棄物を風速5m/s以上で風力選別して重量物と軽量物に分離し、軽量物を回収する第3の工程と、
回収した軽量物を水洗する第4の工程と、
水洗後の軽量物を固液分離する第5の工程
を含
燃焼温度が300~450℃である、
塩素低減固形燃料の製造方法(但し、アルカリを加熱装置内に導入する場合を除く)。
【請求項2】
廃棄物が廃プラスチックである、請求項1記載の塩素低減固形燃料の製造方法。
【請求項3】
第2の工程において、廃棄物の長径が30mm以下になるように破砕する、請求項1又は2記載の塩素低減固形燃料の製造方法。
【請求項4】
第5の工程において、遠心ろ過及び/又は遠心沈降により固液分離する、請求項1~3のいずれか1項に記載の塩素低減固形燃料の製造方法。
【請求項5】
第5の工程後、排水から固形物を回収する工程を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の塩素低減固形燃料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素低減固体燃料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大量の樹脂廃棄物の焼却灰が埋立処分されているが、樹脂には炭素分が多く含まれていることから、近年、これを燃料として有効利用する試みがなされている。しかし、樹脂廃棄物には塩化ビニル等の塩素含有樹脂が含まれているため、焼却灰にはダイオキシンが含まれることがある。
【0003】
そこで、樹脂廃棄物の焼却飛灰や焼却灰に対して、水洗により塩素分の除去処理、塩素分以外の所定の物質の除去処理を行なった後、固液分離して固形分をセメントの混練用材料として利用することが提案されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-15190号公報
【文献】特開2014-193456号公報
【文献】特開2005-279370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、樹脂廃棄物の加熱処理物から上記先行技術に記載の水洗により塩素を低減した固体燃料の製造方法の創製を試みたところ、次のような問題が生じた。即ち、樹脂廃棄物の加熱処理物は、樹脂廃棄物の焼却灰(主灰、飛灰)と比較して、粒度分布が広いこと、塩化ビニル等の水洗や酸洗浄では溶解しない塩素を含有すること、樹脂の加熱残渣の他、脆化が進んでいない樹脂や、金属、ガラス、繊維等の多種多様な夾雑物を含んでおり、粒子によって水洗時の流動性や浮沈性等の性質、塩素の溶出特性が異なることなどから、水洗により樹脂廃棄物の加熱処理物から塩素を除去することは困難であった。
そこで、樹脂廃棄物の加熱処理物を微細化することが考えられるが、樹脂廃棄物の加熱処理物には金属が含まれているため、刃の摩耗や金属の噛み込みにより作業が中断しやすいこと、加熱による脆化の進度が異なる樹脂が混在することなどから、水洗により樹脂廃棄物の加熱処理物から塩素を除去することは困難であった。また、樹脂廃棄物の加熱処理物を数mm程度に粗破砕することが考えられるが、粒径や密度により水洗時の流動性や浮沈性等の性質が異なり水洗効率が低下すること、搬送する際にポンプや配管で閉塞しやすいこと、脱水時に機械の破損や摩耗・損傷等が発生することなどから、なお水洗により樹脂廃棄物の加熱処理物から塩素を除去することが困難であった。
本発明の課題は、塩素が低減された固体燃料の効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み検討した結果、塩素を含む廃棄物を加熱して脆化し、それを破砕した後、破砕物を風力選別し、選別した軽量物を水洗して固液分離により固形物を回収することで、塩素が低減された固体燃料を効率よく製造できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔7〕を提供するものである。
〔1〕塩素を含む廃棄物を加熱する第1の工程と、
第1の工程後の廃棄物を破砕する第2の工程と、
第2の工程後の廃棄物を風力選別により重量物と軽量物に分離し、軽量物を回収する第3の工程と、
回収した軽量物を水洗する第4の工程と、
水洗後の軽量物を固液分離する第5の工程
を含む、塩素低減固形燃料の製造方法。
〔2〕廃棄物が廃プラスチックである、前記〔1〕記載の塩素低減固形燃料の製造方法。
〔3〕第1の工程において、250~500℃に加熱する、前記〔1〕又は〔2〕記載の塩素低減固形燃料の製造方法。
〔4〕第2の工程において、廃棄物の長径が30mm以下になるように破砕する、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載の塩素低減固形燃料の製造方法。
〔5〕第3の工程において、風力選別を風速5m/s以上で行う、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一に記載の塩素低減固形燃料の製造方法。
〔6〕第5の工程において、遠心ろ過及び/又は遠心沈降により固液分離する、前記〔1〕~〔5〕のいずれか一に記載の塩素低減固形燃料の製造方法。
〔7〕第5の工程後、排水から固形物を回収する工程を有する、前記〔1〕~〔6〕のいずれか一に記載の塩素低減固形燃料の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、塩素が低減された固体燃料を簡便な操作で効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の塩素低減固体燃料の製造方法は、第1の工程から第5の工程を含むものである。以下、各工程について説明する。
【0010】
〔第1の工程〕
第1の工程は、廃棄物を加熱する工程である。これにより、廃棄物の分解が進み、廃棄物の表面や内部に空隙が発生して強度が低下しやすくなる。即ち、脆化が進むため、次工程における破砕を効率的に行うことができる。
本発明で使用可能な廃棄物としては、塩素が含まれていれば特に限定されないが、例えば、塩素を含む廃プラスチックを挙げることができる。塩素を含む廃プラスチックとしては、例えば、シュレッダーダスト、建築廃プラスチック、農業廃プラスチック、漁業廃プラスチック、海洋廃プラスチックを挙げられることができる。これら廃プラスチックには、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩素含有樹脂が通常含まれている。ここで、本明細書において「シュレッダーダスト」とは、工業用シュレーダーで産業廃棄物または一般廃棄物を破砕し、金属を回収した後に廃棄される破片の混合物をいう。前記廃棄物としては、例えば、廃自動車、廃家電、自動販売機、OA機器が挙げられる。
【0011】
加熱温度は、廃棄物を脆化できれば特に限定されないが、ダイオキシン発生防止の観点から、溶融温度以上であって、燃焼温度よりも低い温度が好ましい。具体的には、250~500℃が好ましく、275~475℃がより好ましく、300~450℃が更に好ましい。
加熱時間は、廃棄物を脆化できれば特に限定されないが、通常0.5~5時間であり、好ましくは0.5~4時間であり、更に好ましくは1~3時間である。
加熱装置は、廃棄物を収容し、かつ上記温度に設定できれば特に限定されないが、例えば、固定炉、ストーカー炉、ロータリーキルン炉、流動床炉、堅型炉、多段炉等を挙げることができる。
【0012】
〔第2の工程〕
第2の工程は、第1の工程後の廃棄物を破砕する工程である。本工程により、廃棄物が粒子になりやすく、次工程における風力選別を効率的に行うことができるとともに、塩素を除去しやすくなる。
第1の工程後の廃棄物は、加熱により強度が低下しているため、破砕により容易に粒子とすることができるが、通常、破砕機を用いる。
破砕機としては、廃棄物を破砕できれば特に限定されないが、衝撃式の破砕機が好ましい。例えば、インパクトクラッシャー、ハンマークラッシャー、ロールクラッシャー、ロータリークラッシャーを挙げることができる。
本工程においては、塩素低減、製造効率の観点から、破砕後の廃棄物の長径が30mm以下とすることが好ましく、20mm以下がより好ましく、15mm以下が更に好ましい。ここで、本明細書において「長径」とは、破砕物の内、最も大きな破砕物を採取して、破砕物の径が最大となる箇所を測定した値である。
本工程において、破砕後の廃棄物の長径が30mmを超えるものは、取り除くことが好ましい。それにより、廃棄物に含まれている破砕されない金属など夾雑物を取り除くことができるため、次工程の風力選別や水洗効率の向上、機械の破損や摩耗・損傷等を防ぐことができる。
【0013】
〔第3の工程〕
第3の工程は、第2の工程後の廃棄物を風力選別により重量物と軽量物に分離し、軽量物を回収する工程である。これにより、主に金属、ガラス、未分解の樹脂や大きな粒子からなる重量物を除くことができるため、次工程以降における運転トラブルが防止され、効率的に行うことができる。
風力選別は、風力選別機を用いて行うことができる。
風力選別機としては特に限定されず、例えば、ジグザグ式、内部循環式等の公知の装置を用いることができる。
風力選別する際には、重産物に金属、ガラス、未分解の樹脂、粒径の大きな粒子が主体になるように、風力選別の風速を設定することが好ましい。具体的には、風速は、5m/s以上が好ましく、7.5m/s以上がより好ましく、10m/s以上が更に好ましい。なお、風力の上限値は廃棄物の種類により適宜設定可能であるが、通常30m/s以下であり、好ましくは25m/s以下である。
【0014】
〔第4の工程〕
第4の工程は、回収した軽量物を水洗する工程である。これにより、軽量物中に含まれる塩素を除去することができる。また、水洗対象に重産物が含まれないため、水洗時の運転トラブルが防止され、生産効率が向上する。
軽量物の水洗は、軽量物を水と接触させることができれば特に限定されないが、例えば、軽量物を水槽に入れ攪拌する方法、軽量物を水に浸漬させる方法、軽量物に水を散布する方法を挙げることができる。
水の使用量は、塩素の低減、製造効率の観点から、水と軽量物との質量比(水/軽量物)として、1以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2以上が更に好ましく、そして30以下が好ましく、20以下がより好ましく、10以下が更に好ましい。
水洗時間は軽量物の量や水の使用量により適宜設定可能であるが、通常2~30分である。
また、水の温度は、通常常温(20℃±15℃)である。
【0015】
〔第5の工程〕
第5の工程は、水洗後の軽量物を固液分離する工程である。これにより、固形物として塩素が低減された固体燃料を回収することができる。
固液分離としては固形物と水とを分離できれば特に限定されないが、例えば、遠心分離を挙げることができる。遠心分離の操作方式は、連続式でも、回分式(バッチ式)でも構わない。
遠心分離としては、例えば、遠心ろ過、遠心沈降が挙げられる。遠心分離は、複数回行っても、遠心沈降と遠心ろ過を組み合わせて行ってもよい。
【0016】
遠心ろ過は、遠心ろ過機を用いて行うことができる。遠心ろ過機には様々な形式が存在するが、本工程では特に限定されない。中でも、製造効率の観点から、連続式スクリュー排出型が好ましい。
遠心ろ過機のろ材としては、例えば、ろ布、スクリーンを挙げることができるが、孔径0.05mm以上のスクリーンを使用すると、効率よく固液分離できる点で好ましい。
遠心ろ過における遠心力は、通常200~2000Gであるが、製造効率の観点から、300~1500Gが好ましい。
【0017】
遠心沈降は、遠心沈降機を用いて行うことができる。遠心沈降機にも様々な形式が存在するが、本工程では特に限定されない。中でも、製造効率の観点から、連続式デカンタ型が好ましい。
遠心沈降における遠心力は、通常1000~3000Gであるが、製造効率の観点から、1500~3000Gが好ましい。
【0018】
なお、第5の工程の排水には、微粒子が多く含まれることがある。そのため、第5の工程後、排水から固形物を回収する工程を有することができる。排水処理は、例えば、脱水機を使用することができる。脱水機としては、例えば、遠心沈降機を挙げることができる。脱水処理は、複数回行っても構わない。
【0019】
このようにして、本発明の塩素低減固体燃料を製造することができるが、得られた固体燃料は、塩素だけでなく、金属も低減されている。また、水分が20%以下に低減されており、ハンドリング性も良好で、燃焼性に優れるため、そのままで窯前燃料として利用することができる。
また、廃プラスチック、廃畳、微粉炭、廃油等と混合して窯前燃料として利用してもよく、更に石炭と一緒に石炭ミルに投入して、乾燥・粉砕してもよい。
【0020】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、第2の工程の破砕後、第3の工程の風力選別前に、廃棄物の破砕物を磁力選別工程に供することができる。
【0021】
磁力選別工程においては、第2の工程後の廃棄物を磁力選別し、磁着物と、非磁着物とに分離し、非磁着物を回収することできる。そして、非磁着物を第3の工程の風力選別に供する。これにより、廃棄物中に含まれる鉄屑等の磁着性金属が回収されるため、第3の工程での軽量物の回収量を増加できるだけでなく、品位のより高い塩素低減固体燃料を製造できる。
【0022】
磁力選別工程では、例えば、ドラム式磁選機、ロール式磁選機、吊下げ式磁選機等の公知の磁選機を適宜選択して使用することできる。
磁選機の表面磁束密度は、磁着物の効率的除去の観点から、例えば、500~12000ガウスが好ましく、1000~10000ガウスが更に好ましい。
【0023】
また、例えば、第3の工程後、第4の工程前に、軽量物を渦電流選別工程に供してもよい。これにより、金、銀、パラジウム、白金、銅等の有価金属が回収されるため、品位のより高い塩素低減固体燃料を製造することができる。
【実施例
【0024】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0025】
本実施例で使用した装置は、以下のとおりである。
(1)破砕機:御池鐵工所社製、型式:MHM-75
(2)風力選別機:御池鐵工所社製、型式:ジグザグ式
(3)遠心ろ過機:コトブキ技研工業社製、型式:N452K
【0026】
本実施例で使用した塩素を含む廃棄物は、以下のとおりである。
・原料A:プラスチック・ゴム・ゴム等が主体の自動車シュレッダーダスト
・原料B:洗剤やシャンプーの容器・包装の破砕物や繊維くずが主体の廃プラスチック
【0027】
実施例1
原料A1,000kgを325℃で60分に加熱した後、破砕機で破砕した。破砕後の廃棄物の長径は、15mmであった。次に、破砕物を風力10m/sで風力選別して軽量物を回収し、軽量物を水/軽量物の質量比=3の条件で水洗した後、400Gの条件で遠心ろ過して固体燃料を回収した。
【0028】
実施例2
原料Aを原料Bに変更し、かつ風力選別工程の風力を7m/sに変更したこと以外は、実施例1と同様の操作により、固体燃料を製造した。
【0029】
比較例1
風力選別工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の操作により、固体燃料を製造した。
【0030】
比較例2
風力選別工程を行わなかったこと以外は、実施例2と同様の操作により、固体燃料を製造した。
【0031】
塩素含有量の分析
実施例1、2においては、第3の工程(風力選別工程)後に水洗前後の軽量物の塩素含有量を分析し、比較例1、2においては、第2の工程(破砕工程)後に水洗前後の破砕物の塩素含有量を分析した。なお、塩素含有量は、ISO 587 Solid mineral fuels - Determination of chlorine using Eschka mixtureに準拠して分析した。その結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
表1から、加熱後の廃棄物の破砕物を風力選別し、軽量物を水洗することで、塩素がより一層低減された固体燃料を効率よく製造できることがわかる。