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特許7554570植物性蛋白質含有食品の風味改良剤、植物性蛋白質含有食品の風味改良方法、及び植物性蛋白質含有食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】植物性蛋白質含有食品の風味改良剤、植物性蛋白質含有食品の風味改良方法、及び植物性蛋白質含有食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/20 20160101AFI20240912BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20240912BHJP
   A23L 27/10 20160101ALI20240912BHJP
   A23L 13/40 20230101ALI20240912BHJP
   A23J 3/16 20060101ALI20240912BHJP
   A23J 3/14 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
A23L27/20 D
A23L27/00 C
A23L27/10 Z
A23L13/40
A23J3/16
A23J3/14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020056161
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021108642
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2023-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2020002818
(32)【優先日】2020-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302026508
【氏名又は名称】宝酒造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100135839
【弁理士】
【氏名又は名称】大南 匡史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 功一
(72)【発明者】
【氏名】進藤 悠
(72)【発明者】
【氏名】畑 千嘉子
【審査官】長谷川 莉慧霞
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-322836(JP,A)
【文献】特開2013-074802(JP,A)
【文献】特開昭60-126161(JP,A)
【文献】特開2010-110263(JP,A)
【文献】特開2001-299196(JP,A)
【文献】米国特許第04405510(US,A)
【文献】国際公開第2017/073720(WO,A1)
【文献】特表2008-505647(JP,A)
【文献】特開2019-106906(JP,A)
【文献】特開2018-007643(JP,A)
【文献】特開2013-034417(JP,A)
【文献】特開2013-198434(JP,A)
【文献】特開平11-276113(JP,A)
【文献】遠藤泰志,食用油脂の臭気成分,日本油化学会誌第,1999年,第48巻 第10号,pp. 173-241
【文献】W. L. BOATRIGHT et al.,Compounds Contributing to the “Beany” Odor of Aqueous Solutions of Soy Protein Isolates,Journal of Food Science,1999年07月,Vol. 64, No. 4,pp. 667-670,DOI: 10.1111/j.1365-2621.1999.tb15107.x
【文献】酒香の華,麺業新聞,第2762号,第8-11頁
【文献】うちの郷土料理 次世代に伝えたい大切な味 栃木県しもつかれ/シモツカレ,農林水産省HP[online],2022年05月21日,インターネット<URL: https://web.archive.org/web/20220521050824/https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/31_1_tochigi.html>,WEBアーカイブ使用、[検索日:2024/8/27]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトアルデヒドを有効成分として含有する植物性蛋白質含有食品の風味改良剤であって、
前記植物性蛋白質含有食品は、畜肉加工食品又は大豆加工品であり、
前記植物性蛋白質は、大豆タンパク、エンドウタンパク、又はソラマメタンパクであり、
アセトアルデヒド含量が5~1000mg/kgであり、
酒粕を含有し、
アルコール原料を含有し、
液体調味料である、植物性蛋白質含有食品の風味改良剤。
【請求項2】
食塩を少なくとも5.5w/w%含有する、請求項1に記載の植物性蛋白質含有食品の風味改良剤。
【請求項3】
前記植物性蛋白質100gに対して、前記アセトアルデヒドが0.07mg以上5.0mg以下の適用量となるように使用される、請求項1又は2に記載の植物性蛋白質含有食品の風味改良剤。
【請求項4】
植物性蛋白質含有食品の風味改良方法であって、
植物性蛋白質含有食品に、請求項1~3のいずれか1項に記載の風味改良剤を含有させる、植物性蛋白質含有食品の風味改良方法。
【請求項5】
ヘキサナール、ノナナール、2,4-ノナジエナール、又は2,4-デカジエナールに由来する不快臭をマスキングする、請求項4に記載の植物性蛋白質含有食品の風味改良方法。
【請求項6】
植物性蛋白質含有食品の製造方法であって、
植物性蛋白質含有食品の原料として、請求項1~3のいずれか1項に記載の風味改良剤を用いる、植物性蛋白質含有食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性蛋白質含有食品の風味改良剤、植物性蛋白質含有食品の風味改良方法、及び植物性蛋白質含有食品の製造方法に関する。本発明の植物性蛋白質含有食品の風味改良剤は、植物性蛋白質含有食品の不快臭の高いマスキング効果を備えたものである。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な人口の増加に伴い、畜肉の需要は増加傾向にある。その中で、畜肉の代わりとして代替肉の需要が高まっている。代替肉とは、食感、風味、化学特性等を畜肉に似せた畜肉の代替食品のことである。代替肉の原料として広く普及しているのは、大豆タンパク等の植物性蛋白質である。植物性蛋白質は畜肉に比べ安価であることが特徴である。
【0003】
植物性蛋白質は植物性蛋白臭と呼ばれる独特の風味を有し、この風味が消費者に嫌われることが多い。そのため、植物性蛋白質を含有する食品(植物性蛋白質含有食品)において、植物性蛋白質に由来する植物性蛋白臭をマスキングすることが1つの課題となっている。
【0004】
植物性蛋白質、植物性蛋白質含有食品の風味改良技術としては、例えば、特許文献1~5に記載のものが挙げられる。特許文献1には、C12~C18の飽和高級脂肪酸の1種又は2種以上の少量を精製大豆タンパクの異臭味除去剤として使用する大豆タンパクの風味改良方法が開示されている。特許文献2には、メラノイジン及び卵白分解物からなる、大豆タンパク添加食肉加工製品の風味改良剤、並びに該改良剤を添加する大豆タンパク添加食肉加工製品の風味改良方法が開示されている。特許文献3には、風味改善を目的とする大豆タンパク含有食品の製造方法として、茶類より抽出されたポリフェノール類を添加する大豆タンパク含有食品の製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献4には、植物性蛋白質の青臭味を抑えるために乳酸発酵卵白を配合した植物性蛋白質入り食品、及び乳酸発酵卵白を配合して植物性蛋白質の青臭味をマスキングする方法が開示されている。特許文献5には、トマト加工物を含有する植物性蛋白質含有組成物用香味改善剤、及びトマト加工物を用いた香味改善方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭56-26158号公報
【文献】特開平3-155759号公報
【文献】特開平8-103225号公報
【文献】特開2015-23853号公報
【文献】特開2019-71851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、畜肉の代わりとして代替肉の需要が高まっており、代替肉の原料として用いられる植物性蛋白質の風味を改良するためのさらなる技術開発が求められている。そこで本発明は、新たな有効成分に基づいた植物性蛋白質含有食品の風味改良剤と風味改良方法、及び植物性蛋白質含有食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、植物性蛋白質含有食品の風味改良に有効な成分について種々の検討を行った。その結果、アセトアルデヒドが植物性蛋白質の不快臭に対する高いマスキング効果を有し、それにより植物性蛋白質含有食品に対する高い風味改良効果を発揮することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明の1つの様相は、アセトアルデヒドを有効成分として含有する、植物性蛋白質含有食品の風味改良剤である。
【0010】
好ましくは、前記風味改良剤におけるアセトアルデヒド含量が5~1000mg/kgである。
【0011】
好ましくは、前記風味改良剤は酒粕を含有する。
【0012】
本発明の他の様相は、植物性蛋白質含有食品の風味改良方法であって、植物性蛋白質含有食品に、上記の風味改良剤を含有させる、植物性蛋白質含有食品の風味改良方法である。
【0013】
好ましくは、前記風味改良方法において、ヘキサナール、ノナナール、2,4-ノナジエナール、又は2,4-デカジエナールに由来する不快臭をマスキングする。
【0014】
本発明の他の様相は、植物性蛋白質含有食品の製造方法であって、前記植物性蛋白質含有食品の原料として、上記の風味改良剤を用いる、植物性蛋白質含有食品の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の植物性蛋白質含有食品の風味改良剤によれば、植物性蛋白質の不快臭をマスキングすることができ、植物性蛋白質含有食品の風味を改良することができる。
【0016】
本発明の植物性蛋白質含有食品の風味改良方法によれば、植物性蛋白質の不快臭をマスキングすることができ、植物性蛋白質含有食品の風味を改良することができる。
【0017】
本発明の植物性蛋白質含有食品の製造方法によれば、植物性蛋白質の不快臭がマスキングされ、風味が改良された高品質の植物性蛋白質含有食品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について具体的に説明する。なお本明細書においてアルコールとは、特に断らない限りエタノールを指すものとする。
【0019】
本発明の植物性蛋白質含有食品の風味改良剤は、アセトアルデヒドを有効成分として含有するものである。
【0020】
植物性蛋白質は、大豆や小麦等に含まれる蛋白質そのもの、あるいはその蛋白質を抽出、加工したものである。植物性蛋白質の代表例は大豆タンパクであり、粉末、粒状、繊維状等の様々な形状のものが入手可能である。植物性蛋白質は、例えば、畜肉の代替肉の原料として使用される。例えば、畜肉に植物性蛋白質を混合することにより、畜肉の一部を植物性蛋白質で代替することができる。その他、畜肉の全部を植物性蛋白質で代替することができる。
【0021】
本発明の風味改良剤にアセトアルデヒドを含有させるためには、例えば、市販のアセトアルデヒド香料や、アセトアルデヒドを含有する飲食品を利用することができる。アセトアルデヒドを含有する飲食品としては、アルコール原料や酒粕等の醸造物が挙げられる。アルコール原料としては特に限定はなく、例えば、醸造アルコール、スピリッツ類(ラム、ウオッカ、ジン等)、リキュール類、ウイスキー、ブランデー又は焼酎(連続式蒸留しょうちゅう、単式蒸留しょうちゅう)等が挙げられ、さらには清酒、ワイン、ビール等の醸造酒類でもよい。これらのアルコール原料については、それぞれ単独又は併用して用いることができるが、植物性蛋白質含有食品の風味を消さないようなアルコール原料を選択することが好ましい。
【0022】
1つの好ましい実施形態では、アセトアルデヒドを含有する飲食品として酒粕を用いる。酒粕としては、清酒を製造する際に副生する清酒粕が代表的である。清酒粕以外の酒粕としては、みりん粕、蒸留酒粕(焼酎粕等)が挙げられる。酒粕は、例えば、そのまま(湿固形物)、あるいは乾燥させて粉砕したものを用いることができる。酒粕を用いることにより、アセトアルデヒドによる植物性蛋白質の風味改良効果に加えて、吸着による植物性蛋白質の風味改良効果も発揮される。
【0023】
本発明の植物性蛋白質の風味改良剤のアセトアルデヒド含量としては特に限定はなく、適用対象となる植物性蛋白質の種類や量、植物性蛋白質含有食品の形態、風味改良剤の使用態様、等に応じて適宜設定することができる。例えば、風味改良剤におけるアセトアルデヒド含量を5~1000mg/kg、5~500mg/kg、5~150mg/kg、等の範囲に設定することができる。
【0024】
本発明の植物性蛋白質の風味改良剤の使用量としては特に限定はなく、例えば、風味改良剤のアセトアルデヒド含量に応じて、適宜設定することができる。例えば、植物性蛋白質含有食品に対して、0.01~10w/w%(植物性蛋白質含有食品100質量部に対して、風味改良剤0.01~10質量部)、0.05~7.5w/w%、0.1~5.0w/w%、等の範囲に設定することができる。
【0025】
また、植物性蛋白質100gに対して、アセトアルデヒドが0.07mg以上、好ましくは0.14mg以上、より好ましくは0.36mg以上適用されるように、本発明の風味改良剤を使用することができる。アセトアルデヒド適用量の上限としては特に限定はないが、例えば、植物性蛋白質100gに対してアセトアルデヒドが5.0mg以下で適用されるように設定することができる。上限を適宜設定することにより、例えば、アセトアルデヒドの香りによって植物性蛋白質含有食品の風味バランスが悪化することを回避できる。
【0026】
本発明の植物性蛋白質の風味改良剤の形態としては特に限定はなく、例えば、粉末状、液体状、等の形態とすることができる。その他、顆粒状、錠剤状、乳液状、ペースト状、等の形状とすることができる。
【0027】
本発明の植物性蛋白質の風味改良剤には、その機能を損なわない範囲で、他の原料をさらに含有させてもよい。例えば、前記したアルコール原料を含有させてもよいし、食塩等を含有させた発酵調味料の形態としてもよい。
【0028】
本発明の植物性蛋白質の風味改良剤を製造する方法としては特に限定されず、例えば、使用する原料の性状等に応じて適宜決定することができる。例えば、アセトアルデヒド香料やアセトアルデヒドを含有する飲食品と水とを混合して、必要に応じて、アルコール、食塩等を添加し、殺菌して、粉砕、ろ過して風味改良剤とすることができる、必要に応じて、他の成分を添加してもよい。さらに、造粒、乾燥等を行って、固体状としてもよい。
【0029】
本発明の植物性蛋白質の風味改良剤は、風味の改良を求める全ての植物性蛋白質含有食品に適用することができる。植物性蛋白質含有食品としては、例えば、畜肉の代替として大豆タンパクを添加した畜肉加工食品が好適であり、ハンバーグ、ソーセージ、ハム、肉団子、メンチカツ、唐揚げ、餃子、シューマイ等が挙げられる。畜肉加工食品以外では、例えば、ちくわ、はんぺん、蒲鉾等の魚肉製品、麺類やパン等の小麦製品、菓子類、プロテイン飲料等に、本発明の風味改良剤を使用することができる。また、本発明における植物性蛋白質含有食品には、米、麦類、とうもろこし、そば等の穀物;大豆、えんどう豆、そら豆、枝豆等の豆類;アスパラガス、ブロッコリー、芽キャベツ、ピーマン、キュウリ、ナス、トマト等の野菜類;アボガド、バナナ等の果実類;等の食品、及びこれらの加工品が含まれる。例えば、大豆加工品には、豆乳、豆腐及びその加工品、ユバ、おから等が挙げられる。
【0030】
本発明は、植物性蛋白質含有食品に上記した風味改良剤を含有させる、植物性蛋白質含有食品の風味改良方法を包含する。本発明の風味改良剤に含まれるアセトアルデヒドの作用により、植物性蛋白質の不快臭がマスキングされ、植物性蛋白質含有食品に対する高い風味改良効果が発揮される。1つの好ましい実施形態では、ヘキサナール、ノナナール、2,4-ノナジエナール、又は2,4-デカジエナールに由来する不快臭をマスキングする。すなわち、植物性蛋白質の不快臭、青臭さの原因とされるのは、ヘキサナール、ノナナール、2,4-ノナジエナール、2,4-デカジエナールであり、特にヘキサナールが主要な原因とされている。そして、本発明の植物性蛋白質含有食品の風味改良方法では、アセトアルデヒドの作用により、ヘキサナール等の上記不快臭成分をマスキングすることができる。
【0031】
なお、アセトアルデヒドが不快臭成分であるヘキサナールをマスキングするメカニズムについては、次のように考察される。すなわち、原料大豆由来のリノール酸が過酸化脂質を経てヘキサナールを生成し、そのヘキサナールとアルデヒド類とがアルドール反応を引き起こしてβ-ヒドロキシカルボニル化合物が生成していることによるものと思われる。
【0032】
本発明は、植物性蛋白質含有食品の原料として上記した風味改良剤を用いる、植物性蛋白質含有食品の製造方法を包含する。
【0033】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0034】
(1) アセトアルデヒドによる風味改良効果
市販のアセトアルデヒド香料を水に溶解し、アセトアルデヒド含量が5mg/L、10mg/L、25mg/L、50mg/L、75mg/L、100mg/L、150mg/L、又は200mg/Lの8種のアセトアルデヒド水溶液を得た。表1に示す配合により、各含量のアセトアルデヒド水溶液を添加し、植物性蛋白質である粒状大豆タンパク「ニューフジニック59」(不二精油株式会社製)を粉砕して3倍量の水で水戻ししたものを含む鶏肉の肉団子を調製した。使用したニューフジニック59は、大豆タンパクを乾燥重量比率で55.6w/w%含んでおり、表1の配合で使用した植物性蛋白質は41.7gと算出される。熟練したパネラー10名により、大豆タンパク由来の不快臭(青臭さ、豆臭さ)に関する官能評価試験を実施した。不快臭が強い場合を5点、不快臭が弱い場合を1点として5段階で評価した。結果を表2に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
その結果、アセトアルデヒドの添加量が高くなるにつれて、植物性蛋白質を含む鶏肉の肉団子の不快臭が弱くなるという評価であった。すなわち、アセトアルデヒドにより植物性蛋白質の不快臭が低下することがわかった。
【0038】
(2)風味改良剤の調製<1>
市販のアセトアルデヒド香料を水に溶解し、アセトアルデヒド含量が100mg/Lの水溶液を調製した。100mg/Lアセトアルデヒド水溶液200mL、清酒粕400g、95v/v%エタノール180mL、食塩55g、水を混合し、風味改良剤1を得た(表3)。風味改良剤1のアセトアルデヒド含量を測定したところ、22.6mg/Lであった。
【0039】
【表3】
【0040】
(3)風味改良剤の効果の確認
表4に示す配合により、鶏肉の肉団子を調製した。すなわち、鶏ミンチ300gに対して、植物性蛋白質であるニューフジニック59を粉砕して3倍量の水で水戻ししたものを300g添加した。使用したニューフジニック59は、大豆タンパクを乾燥重量比率で55.6w/w%含んでおり、表4の配合で使用した植物性蛋白質は41.7gと算出される。実施例1においては、風味改良剤1を添加した。比較例1では、風味改良剤を添加しない配合として、アルコール濃度、食塩含量を同じとなるように調整した。なお、表4の実施例1の配合では、植物性蛋白質100gあたりのアセトアルデヒド量は0.33mg、肉団子中におけるアセトアルデヒド含量は0.22mg/kgとなる。
【0041】
【表4】
【0042】
調製したそれぞれの肉団子について、熟練したパネラー10名により、大豆タンパク由来の不快臭(青臭さ、豆臭さ)に関する官能評価試験を実施した。不快臭が強い場合を5点、不快臭が弱い場合を1点として5段階で評価した。結果を表5に示す。
【0043】
【表5】
【0044】
その結果、実施例1では、植物性蛋白質の不快臭がマスキングされているという高い評価であった。一方、比較例1では、植物性蛋白質の不快臭が強いといった結果であった。すなわち、アセトアルデヒドを有効成分とする風味改良剤により、植物性蛋白質含有食品の不快臭をマスキングできることがわかった。
【0045】
(4)ヘキサナールの低減効果
実施例1と比較例1の肉団子の揮発成分をガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)で分析し、ヘキサナールのクロマトグラムのピーク面積値を得た。その結果、実施例1の肉団子のヘキサナールのピーク面積値は105であり、一方、比較例1のヘキサナールのピーク面積値は145であった。これにより、実施例1の肉団子では、植物性蛋白質の不快臭、青臭さの主要な原因であるヘキサナールが大幅に減少していることが分かった。
【0046】
(5)風味改良剤の調製<2>
市販のアセトアルデヒド香料を水に溶解し、アセトアルデヒド含量が800mg/Lの水溶液を調製した。800mg/Lアセトアルデヒド水溶液100mL、焼酎粕360g、95v/v%エタノール140mL、発酵調味料(製品名:味しるべ、宝酒造株式会社製)200mL、食塩55g、水を混合し、風味改良剤2を得た(表6)。風味改良剤2のアセトアルデヒド含量を測定したところ、92.6mg/Lであった。
【0047】
【表6】
【0048】
(6)風味改良剤の効果の確認
表7に示す配合により、鶏肉の肉団子を調製した。すなわち、鶏ミンチ300gに対して、植物性蛋白質であるニューフジニック59を粉砕して3倍量の水で水戻ししたものを300g添加した。使用したニューフジニック59は、大豆タンパクを乾燥重量比率で55.6w/w%含んでおり、表7の配合において使用した植物性蛋白質は41.7gと算出される。実施例2においては、風味改良剤2を添加した。比較例2では、風味改良剤を添加しない配合として、アルコール濃度、食塩含量を同じとなるように調整した。なお、表7の実施例2の配合では、植物性蛋白質100gあたりのアセトアルデヒド量は1.33mg、肉団子中におけるアセトアルデヒド含量は0.88mg/kgとなる。
【0049】
【表7】
【0050】
調製したそれぞれの肉団子について、熟練したパネラー10名により、大豆タンパク由来の不快臭(青臭さ、豆臭さ)に関する官能評価試験を実施した。不快臭が強い場合を5点、不快臭が弱い場合を1点として5段階で評価した。結果を表8に示す。
【0051】
【表8】
【0052】
その結果、実施例2では、植物性蛋白質の不快臭がよくマスキングされているとの高い評価であった。一方、比較例2では、植物性蛋白質の不快臭が強いといった結果であった。すなわち、アセトアルデヒドを有効成分とする風味改良剤により、植物性蛋白質含有食品の不快臭をマスキングできることがわかった。
【0053】
(7)えんどう豆の蛋白質の不快臭のマスキング
表9に示す配合により、えんどう豆の蛋白質(エンドウタンパク)を用いたハンバーグを調製した。すなわち、牛ミンチ250gに対して、植物性蛋白質であるエンドウタンパクを250g添加した。実施例3においては、風味改良剤1を添加した。比較例3では、風味改良剤を添加しない配合として、アルコール濃度、食塩含量を同じとなるように調整した。
【0054】
【表9】
【0055】
調製したそれぞれのハンバーグについて、熟練したパネラー10名により、エンドウタンパク由来の不快臭(青臭さ、豆臭さ)に関する官能評価試験を実施した。不快臭が強い場合を5点、不快臭が弱い場合を1点として5段階で評価した。その結果、実施例3は、評点が2.8点であった。一方、比較例3は、評点が4.8点であった。すなわち、アセトアルデヒドを有効成分とする風味改良剤により、植物性蛋白質含有食品の不快臭をマスキングできることがわかった。
【0056】
(8)ソラ豆のタンパク質の不快臭のマスキング
表9に示す配合において、エンドウタンパクに代えてソラ豆のタンパク質(ソラマメタンパク)を使用してハンバーグを調製した。すなわち、牛ミンチ250gに対して、植物性蛋白質であるソラマメタンパクを250g添加した。実施例4においては、風味改良剤1を添加した。比較例4では、風味改良剤を添加しない配合として、アルコール濃度、食塩含量を同じとなるように調整した。
【0057】
調製したそれぞれのハンバーグについて、熟練したパネラー10名により、ソラマメタンパク由来の不快臭(青臭さ、豆臭さ)に関する官能評価試験を実施した。不快臭が強い場合を5点、不快臭が弱い場合を1点として5段階で評価した。その結果、実施例4は、評点が2.9点であった。一方、比較例4は、評点が4.8点であった。すなわち、アセトアルデヒドを有効成分とする風味改良剤により、植物性蛋白質含有食品の不快臭をマスキングできることがわかった。
【0058】
(9)豆乳の不快臭のマスキング
市販の無調整豆乳(A社、B社)200gに、風味改良剤1を4g添加し、表10に示す配合により、豆乳を得た(実施例5)。また、市販の無調整豆乳(A社、B社)200gに、風味改良剤1を2g添加し、アルコール濃度、食塩含量を実施例5と同じとなるように調整し、豆乳を得た(実施例6)。対照として、市販の無調整豆乳(A社、B社)200gに、風味改良剤を添加せず、アルコール濃度、食塩含量を実施例5と同じとなるように調整し、豆乳を得た(比較例5)。
【0059】
【表10】
【0060】
調製したそれぞれの豆乳について、熟練したパネラー10名により、豆乳由来の不快臭(青臭さ、豆臭さ)に関する官能評価試験を実施した。不快臭が強い場合を5点、不快臭が弱い場合を1点として5段階で、上立ち香と含み香のそれぞれについて評価した。結果を表11に示す。
【0061】
【表11】
【0062】
実施例5及び実施例6は、比較例5に比べて、豆乳由来の不快臭が低減されていた。風味改良剤1の添加量が多い実施例5は、実施例6に比べて、さらに豆乳由来の不快臭が低減されていた。すなわち、アセトアルデヒドを有効成分とする風味改良剤により、植物性蛋白質含有食品の不快臭をマスキングできることがわかった。