(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】水硬性組成物の硬化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20240912BHJP
C04B 7/02 20060101ALI20240912BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20240912BHJP
C04B 40/02 20060101ALI20240912BHJP
C04B 14/10 20060101ALI20240912BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20240912BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B7/02
C04B22/14 B
C04B40/02
C04B14/10 A
C04B22/08 B
C04B22/06 A
(21)【出願番号】P 2020059730
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】黒野 承太郎
(72)【発明者】
【氏名】森 寛晃
(72)【発明者】
【氏名】島影 亮司
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-088777(JP,A)
【文献】特開2006-306664(JP,A)
【文献】特開昭56-063851(JP,A)
【文献】西独国特許出願公開第3340681(DE,A1)
【文献】特開2009-096664(JP,A)
【文献】特開昭51-138715(JP,A)
【文献】米国特許第4405372(US,A)
【文献】欧州特許出願公開第1614670(EP,A2)
【文献】特開2011-068546(JP,A)
【文献】特開2011-178604(JP,A)
【文献】TOSUN, Kamile,Effect of SO3 content and fineness on the rate of delayed ettringite formation in heat cured Portland cement mortars,Cement & Concrete Composites,2006年,Vol.28, No.9,PP.761-772,ISSN:0958-9465, DOI:10.1016/j.cemconcomp.2006.06.003
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカ粉末と、上記セメントクリンカ粉末100質量部に対して
4~25質量部の量のシリカフュームと、水を含み、
メタカオリンを含まず、かつ、せっこうの量が上記セメントクリンカ粉末100質量部に対してSO
3換算値で0~0.5質量部である水硬性組成物の硬化体を製造するための方法であって、
上記水硬性組成物を構成する各材料を混合して、未硬化の水硬性組成物を得る組成物調製工程と、
上記未硬化の水硬性組成物について、70℃以上の温度で1時間以上、蒸気養生を行い、蒸気養生後の水硬性組成物を得る蒸気養生工程と、
上記蒸気養生後の水硬性組成物について、硬化させるための養生を行い、上記水硬性組成物の硬化体を得る硬化工程、
を含むことを特徴とする水硬性組成物の硬化体の製造方法。
【請求項2】
上記蒸気養生工程における蒸気養生が、常圧蒸気養生である請求項
1に記載の水硬性組成物の硬化体の製造方法。
【請求項3】
上記水硬性組成物が、硬化促進剤を含む請求項1
又は2に記載の水硬性組成物の硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物の硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モルタルやコンクリート等の硬化体の塩分浸透抵抗性を向上させる目的で、シリカフューム等のポゾラン反応性を有する混和材を用いる方法が知られている。
特許文献1には、中性化に対する抵抗性を十分に維持しながら、塩化物浸透抵抗性、乾燥収縮抑制、凍害に対する抵抗性及び圧縮強度の全てを十分高水準に達成し得る高耐久性モルタルとして、結合材と、シリカフュームと、メタカオリンと、水と、細骨材と、化学混和剤とを含む高耐久性モルタルであって、前記結合材はセメントを含み、前記結合材100質量部に対して前記シリカフュームを1~15質量部含み且つ前記メタカオリンを1~15質量部含み、前記結合材と前記シリカフュームと前記メタカオリンの合計質量Aに対する前記水の質量Bの比(B/A)が0.20~0.65である高耐久性モルタルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポゾラン反応性を有する混和材を使用しかつ蒸気養生を行うコンクリート等の二次製品において、塩分浸透抵抗性をより優れたものにするためには、上記混和材のポゾラン反応を促進させる必要がある。また、製造効率を向上する観点から、ポゾラン反応は早期に発現することが望ましい。ポゾラン反応が促進されかつ早期に発現する方法として、高温で蒸気養生を行う方法が知られている。
しかし、高温で蒸気養生を行った場合、DEF(Delayed Ettringite Formation:エトリンガイトの遅延生成)に起因する膨張によって、硬化体にひび割れが発生する可能性がある。このため、65℃を超える温度での蒸気養生は通常行われない。
本発明の目的は、塩分浸透抵抗性に優れる水硬性組成物の硬化体を、効率的に製造することのできる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメントクリンカ粉末と、セメントクリンカ粉末100質量部に対して1~30質量部の量のシリカフュームと、水を含み、かつ、せっこうの量がセメントクリンカ粉末100質量部に対してSO3換算値で0~0.5質量部である水硬性組成物を構成する各材料を混合して、未硬化の水硬性組成物を得る工程と、未硬化の水硬性組成物について、70℃以上の温度で1時間以上、蒸気養生を行い、蒸気養生後の水硬性組成物を得る工程と、蒸気養生後の水硬性組成物について、硬化させるための養生を行い、水硬性組成物の硬化体を得る工程を含む水硬性組成物の硬化体の製造方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]を提供するものである。
【0006】
[1] セメントクリンカ粉末と、上記セメントクリンカ粉末100質量部に対して1~30質量部の量のシリカフュームと、水を含み、かつ、せっこうの量が上記セメントクリンカ粉末100質量部に対してSO3換算値で0~0.5質量部である水硬性組成物の硬化体を製造するための方法であって、上記水硬性組成物を構成する各材料を混合して、未硬化の水硬性組成物を得る組成物調製工程と、上記未硬化の水硬性組成物について、70℃以上の温度で1時間以上、蒸気養生を行い、蒸気養生後の水硬性組成物を得る蒸気養生工程と、上記蒸気養生後の水硬性組成物について、硬化させるための養生を行い、上記水硬性組成物の硬化体を得る硬化工程、を含むことを特徴とする水硬性組成物の硬化体の製造方法。
[2] 上記水硬性組成物が、セメントクリンカ粉末100質量部に対して30質量部以下の量のメタカオリンを含む前記[1]に記載の水硬性組成物の硬化体の製造方法。
[3] 上記蒸気養生工程における蒸気養生が、常圧蒸気養生である前記[1]又は[2]に記載の水硬性組成物の硬化体の製造方法。
[4] 上記水硬性組成物が、硬化促進剤を含む前記[1]~[3]のいずれかに記載の水硬性組成物の硬化体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水硬性組成物の硬化体の製造方法によれば、塩分浸透抵抗性に優れる水硬性組成物の硬化体を、効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の水硬性組成物の硬化体の製造方法は、セメントクリンカ粉末と、セメントクリンカ粉末100質量部に対して1~30質量部の量のシリカフュームと、水を含み、かつ、せっこうの量がセメントクリンカ粉末100質量部に対してSO3換算値で0~0.5質量部である水硬性組成物の硬化体を製造するための方法であって、水硬性組成物を構成する各材料を混合して、未硬化の水硬性組成物を得る組成物調製工程と、未硬化の水硬性組成物について、70℃以上の温度で1時間以上、蒸気養生を行い、蒸気養生後の水硬性組成物を得る蒸気養生工程と、蒸気養生後の水硬性組成物について、硬化させるための養生を行い、水硬性組成物の硬化体を得る硬化工程、を含むものである。
【0009】
本発明で用いられるセメントクリンカの例としては、普通ポルトランドセメントクリンカ、早強ポルトランドセメントクリンカ、中庸熱ポルトランドセメントクリンカ、低熱ポルトランドセメントクリンカ等の各種ポルトランドセメントクリンカ等が挙げられる。
セメントクリンカ粉末のブレーン比表面積は、好ましくは2,000~10,000cm2/g、より好ましくは2,500~8,000cm2/g、特に好ましくは3,000~6,000cm2/gである。上記ブレーン比表面積が2,000cm2/g以上であれば、水硬性組成物の硬化体の圧縮強さ(以下、「強度」と略すことがある。)がより大きくなる。上記ブレーン比表面積が10,000cm2/g以下であれば、硬化前の水硬性組成物の流動性がより向上する。
【0010】
シリカフュームの量は、セメントクリンカ粉末100質量部に対して、1~30質量部、好ましくは2~25質量部、より好ましくは3~20質量部、特に好ましくは4~18質量部である。上記量が1質量部未満であると、硬化体の塩分浸透抵抗性が低下する。上記量が30質量部を超えると硬化体の強度が小さくなる。
シリカフュームのBET比表面積は、好ましくは10~25m2/g、より好ましくは12~20m2/g、特に好ましくは14~18m2/gである。上記比表面積が10m2/g以上であれば、水硬性組成物の硬化体の強度がより大きくなる。上記比表面積が25m2/g以下であれば、硬化前の水硬性組成物の流動性がより向上する。
【0011】
上記水硬性組成物は、シリカフュームの他に、メタカオリンを含んでいてもよい。
メタカオリンの量は、セメントクリンカ粉末100質量部に対して、好ましくは30質量部以下、より好ましくは4~25質量部、さらに好ましくは6~22質量部、さらに好ましくは8~17質量部、特に好ましくは9~12質量部である。上記量が30質量部以下であれば、水硬性組成物の硬化体の強度がより大きくなる。
メタカオリンのBET比表面積は、好ましくは8~20m2/g、より好ましくは9~15m2/g、特に好ましくは10~14m2/gである。上記比表面積が8m2/g以上であれば、水硬性組成物の硬化体の強度がより大きくなる。上記比表面積が20m2/g以下であれば、硬化前の水硬性組成物の流動性がより向上する。
【0012】
水硬性組成物が、メタカオリンを含む場合、シリカフュームの量は、水硬性組成物の硬化体の強度がより大きくなり、塩分浸透抵抗性がより向上する観点から、セメントクリンカ粉末100質量部に対して、好ましくは5~20質量部、より好ましくは6~18質量部、特に好ましくは8~12質量部である。
また、シリカフュームとメタカオリンの合計量は、水硬性組成物の硬化体の強度をより大きくする観点から、セメントクリンカ粉末100質量部に対して、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下、特に好ましくは35質量部以下である。
【0013】
水の量は、特に限定されず、モルタルやコンクリート等における一般的な配合量であればよい。例えば、水の量は、水とセメントクリンカ粉末の質量比(水/セメントクリンカ粉末)の値として、好ましくは0.2~0.6となる量である。
せっこうの量は、セメントクリンカ粉末100質量部に対してSO3換算値で、0~0.5質量部、好ましくは0~0.3質量部、より好ましくは0~0.2質量部、さらに好ましくは0~0.1質量部、特に好ましくは0質量部である。該量が0.5質量部を超えると、65℃を超える高温で蒸気養生を行なった場合、水硬性組成物の硬化体に、エトリンガイトの遅延生成に起因する膨張によるひび割れが起こりやすくなるため、70℃以上の蒸気養生を行なうことができず、それゆえ、水硬性組成物の硬化体の製造効率の向上を図ることができない。
【0014】
上記水硬性組成物は、水和を促進して、養生時間を短くする観点から、さらに、硬化促進剤を含んでいてもよい。
硬化促進剤としては、モルタルやコンクリート用混和剤として一般的に用いられているものであればよく、例えば、亜硝酸塩系、チオシアン酸塩系、硫酸塩系、チオ硫酸塩系、塩化物系、炭酸塩系、及びアルミナ系等の硬化促進剤が挙げられる。中でも、硬化前の水硬性組成物の流動性を低下させることなく、凝結始発時間をより早めることができる観点から、亜硝酸系の硬化促進剤が好ましく、亜硝酸カルシウム系の硬化促進剤がより好ましい。
硬化促進剤の量は、セメントクリンカ粉末100質量部に対して、固形分換算値として、好ましくは0.2~1.2質量部、より好ましくは0.4~1.0質量部、特に好ましくは0.6~0.9質量部である。上記量が0.2質量部以上であれば、硬化前の水硬性組成物の凝結開始時間を早めることができるため、1~4時間程度(一般的な前養生に要する時間)の前置き養生の時間で、所望の強度の水硬性組成物の硬化体を得ることができる。上記量が1.2質量部以下であれば、コストを低減することができる。
【0015】
上記水硬性組成物は、セメントクリンカ粉末に対する水の量を低減させて、硬化後の大きな強度の発現を図りつつ、硬化前の流動性を維持して、より優れた作業性を得る観点から、さらに、高性能減水剤及び高性能AE減水剤の少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。
高性能減水剤又は高性能AE減水剤としては、モルタルやコンクリート用混和剤として一般的に用いられているものであればよく、例えば、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系等の高性能減水剤又は高性能AE減水剤が挙げられる。中でも、水硬性組成物の硬化前の流動性をより向上させる観点から、ポリカルボン酸系の高性能減水剤又は高性能AE減水剤が好ましく、ポリカルボン酸エーテル系の高性能減水剤又は高性能AE減水剤がより好ましい。
高性能減水剤及び高性能AE減水剤の少なくともいずれか一方の量(セメント組成物が高性能減水剤及び上記高性能AE減水剤の両方を含む場合はその合計量)は、セメントクリンカ粉末100質量部に対して、固形分換算値で、好ましくは0.1~1.0質量部、より好ましくは0.2~0.8質量部、特に好ましくは0.3~0.7質量部である。上記量が0.1質量部以上であれば、水硬性組成物の硬化前の流動性が向上する。上記量が1.0質量部を超えると、コストが過大になる。
【0016】
上記水硬性組成物は、必要に応じて他の材料として、骨材、セメント分散剤(ただし、高性能減水剤及び高性能AE減水剤を除く。)、膨張材、収縮低減剤、空気量調整剤等を含んでいてもよい。
骨材としては、細骨材のみ、または、細骨材と粗骨材の組み合わせが挙げられる。
細骨材としては、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、硅砂、スラグ細骨材、及び軽量細骨材等から選ばれる1種以上が挙げられる。また、細骨材としては、天然骨材のほか、再生骨材を用いることができる。
粗骨材としては、川砂利、山砂利、陸砂利、海砂利、砕石、スラグ粗骨材、及び軽量粗骨材等から選ばれる1種以上が挙げられる。また、粗骨材としては、前記細骨材と同様に、天然骨材のほか再生骨材を用いることができる。
骨材の量(細骨材と粗骨材を併用する場合はその合計量)は特に限定されず、モルタルやコンクリート等における一般的な配合量であればよい。例えば、骨材の量は、骨材とセメントクリンカ粉末の質量比(骨材/セメントクリンカ粉末)が、好ましくは1~7、より好ましくは2~5となる量である。
【0017】
以下、本発明の水硬性組成物の硬化体の製造方法について、工程ごとに詳しく説明する。
[組成物調製工程]
本工程は、上述した水硬性組成物を構成する各材料を混合して、未硬化の水硬性組成物を得る工程である。
各材料の混合に用いるミキサとしては、特に限定されるものではなく、パン型ミキサ、二軸ミキサ等の慣用のミキサを用いることができる。
混合方法は、特に限定されるものではなく、全ての材料を一括してミキサに投入して混合してもよく、セメントクリンカ粉末、シリカフューム、及び、必要に応じて配合されるメタカオリン、骨材をミキサに投入して空練りを行った後に、水、及び、必要に応じて配合される他の材料等を投入して混合してもよい。
組成物調製工程後、得られた未硬化の水硬性組成物は、通常、型枠内に打込まれた(打設された)後、前養生工程(後述)、蒸気養生工程が行われる。
【0018】
[前養生工程]
本工程は、組成物調製工程と蒸気養生工程の間に任意で設けられる工程であり、組成物調製工程で得られた未硬化の水硬性組成物について、1時間以上(好ましくは1.5~6時間、より好ましくは2~5時間)気中養生する工程である。気中養生を行う際の温度は、通常、常温(例えば、5℃以上、40℃未満、好ましくは10~30℃)である。気中養生の時間が1時間以上であると、水硬性組成物の硬化体の強度がより向上する。
【0019】
[蒸気養生工程]
本工程は、前工程(組成物調製工程または前養生工程)で得られた未硬化の水硬性組成物について、70℃以上の温度で1時間以上、蒸気養生を行い、蒸気養生後の水硬性組成物を得る工程である。
本工程において、70℃以上の温度で1時間以上、蒸気養生を行うことで、シリカフュームやメタカオリンのポゾラン反応を促進させて、得られる硬化体をより緻密なものにし、硬化体の塩分浸透抵抗性を向上することができる。
また、上記水硬性組成物はせっこうを含まない、又は、せっこうの量が少ない(セメントクリンカ粉末100質量部に対してSO3換算値で、0.5質量部以下)ため、高温(70℃以上)で蒸気養生を行なっても、DEF(エトリンガイトの遅延生成)に起因する膨張によって、ひび割れが発生しにくい硬化体を得ることができる。
蒸気養生は、大気圧下で行われる常圧蒸気養生でも、オートクレーブを用いて、常圧よりも高い圧力下で行われる高温高圧蒸気養生であってもよい。中でも、製造の容易性等の観点から、常圧蒸気養生が好ましい。
【0020】
蒸気養生においては、所望の最高温度となるまで1時間以上(好ましくは2~5時間、より好ましくは2~4時間)、昇温が行われる。所望の最高温度となるまでの昇温速度(単位時間当たりの温度の上昇の幅)は、好ましくは10~30℃/時間である。
70℃以上(好ましくは80~100℃)の雰囲気下での蒸気養生の時間は、水硬性組成物の硬化体の強度を大きくする観点から、好ましくは2時間以上、より好ましくは2時間30分間以上、特に好ましくは3時間以上である。また、上記時間は、水硬性組成物の硬化体の製造に要する時間を短くする観点から、好ましくは10時間以下、より好ましくは8時間以下である。
蒸気養生における最高温度は、水硬性組成物の硬化体の強度をより大きくすることができ、かつ、蒸気養生に要する時間をより短くすることができる観点から、70℃以上、好ましくは80~90℃である。
【0021】
次いで、常温(20℃程度)まで、2~12時間(好ましくは3~11時間)、降温が行われる。
常温(20℃程度)までの降温速度(単位時間当たりの温度の降下の幅)は、好ましくは3~40℃/時間、より好ましくは5~20℃/時間、特に好ましくは6~10℃/時間である。
蒸気養生工程に要する時間(昇温の開始から降温の終了までの時間)は、製品の製造に要する時間を短くする観点から、好ましくは16時間以下、より好ましくは15時間以下である。
【0022】
[硬化工程]
本工程は、蒸気養生後の水硬性組成物について、硬化させるための養生を行い、水硬性組成物の硬化体を得る工程である。上記養生は、通常、常温で静置することで行われる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)セメントクリンカ粉末;太平洋セメント社製、普通ポルトランドセメントクリンカ粉末、ブレーン比表面積:3,370cm2/g、密度:3.15g/cm3
(2)セメント;太平洋セメント社製、普通ポルトランドセメント、ブレーン比表面積:3,000cm2/g、密度:3.16g/cm3、普通ポルトランドセメントクリンカ粉末100質量部に対するせっこうの量(SO3換算値):2.1質量部
(3)シリカフューム;BET比表面積:15.6m2/g、密度:2.25g/cm3
(4)メタカオリンA;BET比表面積:13.6m2/g、密度:2.64g/cm3、平均粒径:1.00μm
(5)メタカオリンB;BET比表面積:11.4m2/g、密度:2.73g/cm3、平均粒径:1.50μm
(6)細骨材;山砂、表乾密度2.57g/cm3
(7)高性能減水剤;ポリカルボン酸エーテル系高性能減水剤、BASFジャパン社製、商品名「マスターグレニウム8000S、タイプM」、固形分:30質量%
(8)空気量調整剤;ポリアルキレングリコール誘導体、BASFジャパン社製、商品名「マスターエア404」を100倍希釈したもの
(9)硬化促進剤;亜硝酸カルシウム系硬化促進剤、マノール社製、商品名「防凍材 NAC-M」、固形分20質量%
【0024】
[実施例1~7]
表1~2に示す水硬性組成物を調製した。具体的には、容量5リットルのホバートミキサに、セメントクリンカ粉末と表1~2に示す種類の混和材と細骨材を投入して、低速で15秒間空練りを行った。次いで、高性能減水剤と空気量調整剤と硬化促進剤と水を予め混合してなる液状物をミキサに投入して、低速で60秒間混練し、ミキサの内壁に付着した材料を掻き落とした後、高速で60秒間混練した。混練物をミキサ内で180秒間静置した後、さらに低速で60秒間混練して、モルタルを調製した。
また、混練物をミキサ内で180秒間静置した理由は、せっこうを含まないことに起因するこわばりを、意図的に生じさせた後、再度混練することによって、モルタルの流動性の変化を小さくするためである。
混練直後のモルタルのフロー値を、「JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)」に準拠して、15回の落下運動を行って測定した。
また、モルタルの空気量を、「JIS A 1116:2014(フレッシュコンクリートの単位容積質量試験方法及び空気量の質量による試験方法(質量方法))に準拠して測定した。
また、混練直後のモルタルの温度を測定した。
【0025】
さらに、注水後30分間経過したモルタルを、φ5×10cmのスチール製の型枠に打込み、封緘した後、20℃の温度下で3時間前養生を行なった。前養生後、3時間30分間かけて90℃まで昇温(昇温速度:20℃/時間)し、90℃(最高温度)を3時間保持し、次いで、10時間かけて20℃まで降温(降温速度:7℃/時間)する温度履歴で蒸気養生を行なった。蒸気養生後、20℃の環境下の封緘状態で14日間静置した後、脱型を行い、硬化体を得た。
得られた硬化体を、打込み面に対して水平な方向に切断し、φ5×5cmの円柱供試体を得た。該供試体の側面に、側面から塩分が浸透しないようにする目的で、エポキシ樹脂を塗布した後、該供試体を、10質量%の塩化ナトリウム(NaCl)溶液に、切断面を上にした状態で浸漬した。
浸漬後、7日間経過時、14日間経過時に、供試体を取り出して、供試体を軸方向に割裂して、割裂面に0.1mol/リットル硝酸銀溶液を噴霧した。切断面から蛍光を発する部分までの深さを電子ノギスで測定し、これを塩分浸透深さとした。
また、得られたモルタルの材齢14日における圧縮強さを、「JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)」に準拠して測定した。
結果を表2に示す。
【0026】
[比較例1]
混和材を使用しない以外は、実施例1と同様にして、硬化体を得た。
モルタルのフロー値等を実施例1と同様にして測定した。
[比較例2]
前養生後、2時間15分間かけて65℃まで昇温(昇温速度:20℃/時間)し、65℃(最高温度)を3時間保持し、次いで、5時間かけて20℃まで降温(降温速度:7.5℃/時間)する温度履歴で蒸気養生を行う以外は、実施例1と同様にして、硬化体を得た。
モルタルのフロー値等を実施例1と同様にして測定した。
[比較例3]
水硬性組成物Aに代えて、表1に示す水硬性組成物Iを用いた以外は実施例1と同様にして硬化体を得た。
モルタルのフロー値等を実施例1と同様にして測定した。
【0027】
[比較例4]
クリンカ粉末の代わりに、普通ポルトランドセメントを使用し、硬化促進剤を使用しない以外は、実施例1と同様にして、硬化体を得た。
モルタルのフロー値等を実施例1と同様にして測定した。
【0028】
【0029】
【0030】
表2から、実施例1~7の塩分浸透深さ(7日:2.76~3.84mm、14日:3.22~4.59mm)は、比較例1(シリカフューム及びメタカオリンを含まないもの)の塩分浸透深さ(7日:12.42mm、14日:15.69mm)、比較例2(蒸気養生の最高温度が65℃である以外は、実施例1と同様のもの)の塩分浸透深さ(7日:7.31mm、14日:9.20mm)、比較例3(シリカヒュームを含まず、メタカオリンを含むもの)の塩分浸透深さ(7日:5.50mm、14日:9.14mm)、比較例4(セメントクリンカ粉末の代わりに、普通ポルトランドセメントを使用したもの)の塩分浸透深さ(7日:6.61mm、14日:8.32mm)よりも小さいことがわかる。
また、実施例1~7の水硬性組成物の硬化体は、せっこうを含まないことから、高温での蒸気養生(70℃以上で1時間以上)を行ったにもかかわらず、DEFに起因する膨張によって、硬化体にひび割れが発生する可能性が低いと考えられる。
一方、比較例4の水硬性組成物には、せっこうが含まれていることから、DEFに起因する膨張によって、硬化体にひび割れが発生するリスクは、せっこうを含まない実施例1~7及び比較例1~3と比較して、高いと考えられる。