(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】亜鉛電池の電圧推定方法および電圧推定装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20240912BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240912BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20240912BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20240912BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20240912BHJP
G01R 31/378 20190101ALI20240912BHJP
G01R 31/387 20190101ALI20240912BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20240912BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H02J7/00 Q
G01R31/367
G01R31/382
G01R31/385
G01R31/378
G01R31/387
G01R31/389
(21)【出願番号】P 2020093254
(22)【出願日】2020-05-28
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】322013937
【氏名又は名称】エナジーウィズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】大沼 孟光
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 悠
【審査官】赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/047258(WO,A1)
【文献】特開2019-100897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42-10/48
H02J 7/00-7/12
H02J 7/34-7/36
G01R 31/36-31/396
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛電池の端子電圧を推定する方法であって、
直流抵抗部を有する等価回路モデルに流れる電流に基づいて算出される、前記直流抵抗部に生じる電圧に基づいて、前記端子電圧を計算するステップを含み、
前記直流抵抗部は、線形直流抵抗成分と、前記線形直流抵抗成分と直列に接続され、抵抗値が前記電流に応じて変化する非線形直流抵抗成分と、を含み、
前記線形直流抵抗成分の抵抗値と、前記非線形直流抵抗成分の抵抗値の関数に含まれる係数と、のうち少なくとも一方を、
該少なくとも一方と亜鉛電池のSOCとの相関を示すルックアップテーブルを参照することにより、推定対象である亜鉛電池のSOCに応じて複数の値から選択し、
前記相関に含まれるSOCの下限及び上限はそれぞれ30%及び70%であり、
前記非線形直流抵抗成分の抵抗値を充電時と放電時とで異ならせる、亜鉛電池の電圧推定方法。
【請求項2】
亜鉛電池の端子電圧を推定する方法であって、
直流抵抗部を有する等価回路モデルに流れる電流に基づいて算出される、前記直流抵抗部に生じる電圧に基づいて、前記端子電圧を計算するステップを含み、
前記直流抵抗部は、線形直流抵抗成分と、前記線形直流抵抗成分と直列に接続され、抵抗値が前記電流に応じて変化する非線形直流抵抗成分と、を含み、
前記線形直流抵抗成分の抵抗値と、前記非線形直流抵抗成分の抵抗値の関数に含まれる係数と、のうち少なくとも一方を、該少なくとも一方と亜鉛電池のSOCとの相関を示すルックアップテーブルを参照することにより、推定対象である亜鉛電池のSOCに応じて複数の値から選択し、
前記ルックアップテーブルでは、SOCが複数の区間に分割され、該複数の区間それぞれに対応する前記少なくとも一方の複数の値が格納され、前記相関に含まれるSOCの範囲の中心から離れるほど区間幅が大きく、
前記非線形直流抵抗成分の抵抗値を充電時と放電時とで異ならせる、亜鉛電池の電圧推定方法。
【請求項3】
前記等価回路モデルは、前記直流抵抗部と直列に接続された分極モデル部を更に有し、
前記分極モデル部は、可変抵抗器と可変コンデンサとが並列接続されたRC並列回路を少なくとも含み、
前記ステップでは、前記等価回路モデルに流れる電流に基づいて算出される前記分極モデル部に生じる電圧に更に基づいて前記端子電圧を計算し、
前記可変抵抗器の抵抗値、及び前記RC並列回路の時定数のうち少なくとも一方を、推定対象である亜鉛電池のSOCに応じて複数の値から選択する、請求項1
又は2に記載の亜鉛電池の電圧推定方法。
【請求項4】
前記等価回路モデルは、コンデンサとスイッチング素子とが並列接続された、ガッシングに基づく直流抵抗成分を含まない、請求項1
~3のいずれか1項に記載の亜鉛電池の電圧推定方法。
【請求項5】
亜鉛電池の端子電圧を推定する装置であって、
直流抵抗部を有する等価回路モデルの特性パラメータを設定するパラメータ設定部と、
前記等価回路モデルに流れる電流に基づいて算出される、前記直流抵抗部に生じる電圧に基づいて、前記端子電圧を計算する端子電圧計算部と、
を備え、
前記直流抵抗部は、線形直流抵抗成分と、前記線形直流抵抗成分と直列に接続され、抵抗値が前記電流に応じて変化する非線形直流抵抗成分と、を含み、
前記パラメータ設定部は、前記線形直流抵抗成分の抵抗値と、前記非線形直流抵抗成分の抵抗値の関数に含まれる係数と、のうち少なくとも一方を、
該少なくとも一方と亜鉛電池のSOCとの相関を示すルックアップテーブルを参照することにより、推定対象である亜鉛電池のSOCに応じて複数の値から選択し、前記非線形直流抵抗成分の抵抗値を充電時と放電時とで異ならせ
、
前記相関に含まれるSOCの下限及び上限はそれぞれ30%及び70%である、亜鉛電池の電圧推定装置。
【請求項6】
亜鉛電池の端子電圧を推定する装置であって、
直流抵抗部を有する等価回路モデルの特性パラメータを設定するパラメータ設定部と、
前記等価回路モデルに流れる電流に基づいて算出される、前記直流抵抗部に生じる電圧に基づいて、前記端子電圧を計算する端子電圧計算部と、
を備え、
前記直流抵抗部は、線形直流抵抗成分と、前記線形直流抵抗成分と直列に接続され、抵抗値が前記電流に応じて変化する非線形直流抵抗成分と、を含み、
前記パラメータ設定部は、前記線形直流抵抗成分の抵抗値と、前記非線形直流抵抗成分の抵抗値の関数に含まれる係数と、のうち少なくとも一方を、該少なくとも一方と亜鉛電池のSOCとの相関を示すルックアップテーブルを参照することにより、推定対象である亜鉛電池のSOCに応じて複数の値から選択し、前記非線形直流抵抗成分の抵抗値を充電時と放電時とで異ならせ、
前記ルックアップテーブルでは、SOCが複数の区間に分割され、該複数の区間それぞれに対応する前記少なくとも一方の複数の値が格納され、前記相関に含まれるSOCの範囲の中心から離れるほど区間幅が大きい、亜鉛電池の電圧推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛電池の電圧推定方法および電圧推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、蓄電デバイスのシミュレーション方法に関する技術が開示されている。この文献に記載された方法は、等価回路モデルに流れる電流を計算するステップと、等価回路モデルの直流抵抗成分に生じる電圧である直流抵抗電圧を計算するステップと、直流抵抗電圧に基づいて、端子電圧を計算するステップと、を含む。直流抵抗成分は、互いに直列に接続された線形直流抵抗成分及び非線形直流抵抗成分を含む。非線形直流抵抗成分の抵抗値は、電流に応じて変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、二次電池をモデル化し、二次電池の端子電圧を推定する技術が、様々な用途において用いられている。例えば、車両の燃費シミュレーションにおいては、エンジン及び二次電池といった様々な動力源並びに負荷をモデル化し、規定の走行パターンを該モデルに入力して燃費を算出することが行われている。また、運用中の二次電池の端子電圧を推定することにより、該二次電池の状態検知が可能となる。二次電池の端子電圧を推定する際には、推定精度が重要である。本発明の一側面は、二次電池のうち特に亜鉛電池の端子電圧を精度良く推定することができる電圧推定方法および電圧推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面に係る電圧推定方法は、亜鉛電池の端子電圧を推定する方法であって、端子電圧を計算するステップを含む。このステップでは、直流抵抗部を有する等価回路モデルに流れる電流に基づいて算出される、直流抵抗部に生じる電圧に基づいて、端子電圧を計算する。直流抵抗部は、線形直流抵抗成分と、線形直流抵抗成分と直列に接続され、抵抗値が電流に応じて変化する非線形直流抵抗成分と、を含む。線形直流抵抗成分の抵抗値と、非線形直流抵抗成分の抵抗値の関数に含まれる係数と、のうち少なくとも一方は、推定対象である亜鉛電池のSOCに応じて複数の値から選択され、非線形直流抵抗成分の抵抗値は充電時と放電時とで異なる。
【0006】
本発明の一側面に係る電圧推定装置は、亜鉛電池の端子電圧を推定する装置であって、パラメータ設定部と、端子電圧計算部とを備える。パラメータ設定部は、直流抵抗部を有する等価回路モデルの特性パラメータを設定する。端子電圧計算部は、等価回路モデルに流れる電流に基づいて算出される、直流抵抗部に生じる電圧に基づいて、端子電圧を計算する。直流抵抗部は、線形直流抵抗成分と、線形直流抵抗成分と直列に接続され、抵抗値が電流に応じて変化する非線形直流抵抗成分と、を含む。パラメータ設定部は、線形直流抵抗成分の抵抗値と、非線形直流抵抗成分の抵抗値の関数に含まれる係数と、のうち少なくとも一方を、推定対象である亜鉛電池のSOCに応じて複数の値から選択し、非線形直流抵抗成分の抵抗値を充電時と放電時とで異ならせる。
【0007】
上述した特許文献1には、鉛電池等の端子電圧を推定するために、線形直流抵抗成分及び非線形直流抵抗成分を含む等価回路モデルを用いる方法が開示されている。しかしながら、亜鉛電池の端子電圧を推定する場合、次の問題が生じる。すなわち、亜鉛電池は鉛電池等と異なり、広いSOC(State Of Charge)の範囲において使用される。鉛電池は低いSOCにて使用されると劣化が早く進むが、亜鉛電池は低いSOCにて使用されても劣化の程度が比較的小さいからである。そして、二次電池においては、SOCが大きく変動すると直流抵抗成分の抵抗値等のパラメータも変動するので、SOCにかかわらずパラメータを一定とすると、推定誤差が大きくなってしまう。この問題に対し、上記の方法及び装置では、線形直流抵抗成分の抵抗値と、非線形直流抵抗成分の抵抗値の関数に含まれる係数と、のうち少なくとも一方を、推定対象である亜鉛電池のSOCに応じて、互いに大きさが異なる複数の値から選択する。この場合、等価回路モデルのパラメータの少なくとも一部を、変動するSOCに応じて適切な大きさに変更することができる。したがって、SOCの変動に伴う推定誤差の増大を抑制することができる。すなわち、上記の方法及び装置によれば、二次電池のうち特に亜鉛電池の端子電圧を精度良く推定することができる。
【0008】
上記の電圧推定方法及び電圧推定装置では、非線形直流抵抗成分の抵抗値を充電時と放電時とで異ならせる。亜鉛電池においては、充電時と放電時とで非線形直流抵抗成分の抵抗値が異なる。故に、この場合、亜鉛電池の端子電圧の推定精度をより高めることができる。
【0009】
上記の電圧推定方法及び電圧推定装置において、等価回路モデルは、直流抵抗部と直列に接続された分極モデル部を更に有してもよい。分極モデル部は、可変抵抗器と可変コンデンサとが並列接続されたRC並列回路を少なくとも含んでよい。上記ステップでは(端子電圧計算部は)、等価回路モデルに流れる電流に基づいて算出される分極モデル部に生じる電圧に更に基づいて端子電圧を計算してよい。パラメータ設定部は、可変抵抗器の抵抗値、及びRC並列回路の時定数のうち少なくとも一方を、推定対象である亜鉛電池のSOCに応じて複数の値から選択してよい。この場合、等価回路モデルの特性を亜鉛電池の特性に更に近づけることができ、亜鉛電池の端子電圧を更に精度良く推定することができる。
【0010】
上記の電圧推定方法及び電圧推定装置において、等価回路モデルは、コンデンサとスイッチング素子とが並列接続された、ガッシングに基づく直流抵抗成分を含まなくてもよい。鉛電池の等価回路モデルは、ガッシングを表すこのような直流抵抗成分を含む。しかし、亜鉛電池においてガッシングは生じないので、亜鉛電池の等価回路モデルから該容量成分を排除することによって、亜鉛電池の端子電圧の推定精度をより高めることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一側面によれば、二次電池のうち特に亜鉛電池の端子電圧を精度良く推定することができる電圧推定方法および電圧推定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、車両の燃費計算を行う燃費計算装置の概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は、亜鉛電池の等価回路モデルの例を示す回路図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係る電圧推定装置の概略構成を示す図である。
【
図4】
図4は、
図3の電圧推定装置のハードウェア構成の例を示す図である。
【
図5】
図5は、入力部から入力される充放電電流の波形の例を概念的に示すグラフである。
【
図6】
図6は、電圧推定装置が実行する端子電圧の計算処理(電圧推定方法)を説明する図である。
【
図7】
図7は、細分化された特性パラメータの例を示す図表である。
【
図8】
図8は、特性パラメータの値とSOCとの相関を表すルックアップテーブルを概念的に示す図である。
【
図9】
図9は、等価回路モデルによる電圧推定結果の例を示すグラフである。
【
図10】
図10は、等価回路モデルによる電圧推定結果の例を示すグラフである。
【
図11】
図11は、等価回路モデルによる電圧推定結果の例を示すグラフである。
【
図12】
図12は、等価回路モデルによる電圧推定結果の例を示すグラフである。
【
図13】
図13は、分極対称二段分極モデルによる電圧推定結果の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明による亜鉛電池の電圧推定方法および電圧推定装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。以下の説明において、亜鉛電池とは、ニッケル亜鉛電池、空気亜鉛電池、及び銀亜鉛電池を含む概念である。
【0014】
一実施形態に係る亜鉛電池の電圧推定方法および電圧推定装置は、例えば、亜鉛電池が搭載された車両の燃費シミュレーションにおいて用いられる。この亜鉛電池は、例えばμHEV方式を採用した車両に搭載されるメイン電池、若しくはメイン電池とは別に設けられたサブ電池である。亜鉛電池がサブ電池である場合、亜鉛電池は、車両に搭載された12V系の補機の消費電流を賄うために用いられる。
【0015】
図1は、車両の燃費計算を行う燃費計算装置の概略構成を示す図である。
図1に示されるように、燃費計算装置90は、その機能ブロックとして、入力部91と、制御部92と、出力部93とを含む。入力部91は、燃費計算に必要なデータを入力する。入力データの例は、車両の走行パターンである。それ以外にも、車両に搭載されるエンジンなどの各種デバイスの特性を定めるパラメータ、亜鉛電池の充放電の制御方法の種類、亜鉛電池の構成、車両に搭載される補機の消費電力、および車両の重量などのデータが入力され得る。
【0016】
制御部92は、入力部91によって入力されたデータを用いて、燃費シミュレーションを行う。燃費シミュレーションの具体的な手法は特に限定されないが、例えば、次のような手順で行われる。まず、制御部92は、入力部91によって入力された走行パターンなどから、例えば区間ごとに、車両が走行するために要求されるパワー(以下、単に「要求パワー」という)および補機の消費電流を算出する。区間としては、停止区間、加速区間、定速走行区間、および減速区間などがある。要求パワーは、加速区間では比較的大きく、定速走行区間では比較的小さい。要求パワーは、停止区間および減速区間では0であってもよい。補機の消費電流は、補機の種類によって異なる。例えばオーディオ機器など連続的に使用される補機の消費電流の大きさは、区間によらずほぼ一定である。これに対し、エンジンの点火装置など一時的に使用される補機の消費電流の大きさは、使用時のみ大きくなる。
【0017】
次に、制御部92は、区間ごとのエンジンの出力を算出する。エンジンの出力は、例えば、停止区間ではエンジンが停止して0となり、それ以外の区間では所定の出力とされる。エンジンの出力のうち、要求パワーを上回る分の出力が、オルタネータによって電力に変換され、オルタネータから補機および亜鉛電池に向かって供給される。オルタネータから供給される電力が補機の消費電力を上回ると、オルタネータから亜鉛電池に電流が流れ、亜鉛電池が充電される。オルタネータから供給される電力が補機の消費電力を下回ると、亜鉛電池から補機に電流が流れ、亜鉛電池が放電する。ここで、亜鉛電池の端子電圧は、亜鉛電池のSOCおよび充放電電流の大きさなどに依存する。この亜鉛電池の端子電圧が、亜鉛電池の等価回路モデルを用いて推定される。端子電圧の推定の詳細については後述する。亜鉛電池の充放電電流および亜鉛電池の端子電圧から、制御部92は、区間ごとの亜鉛電池の充放電電力も算出する。
【0018】
その後、制御部92は、全区間におけるエンジンの出力および亜鉛電池の充放電電力の積算値を算出する。全区間におけるエンジンの出力の積算値は、入力部91によって入力された走行パターンに応じて車両が走行した場合に、エンジンが消費するであろうエネルギー量を示す。全区間における亜鉛電池の充放電電力の積算値は、入力部91によって入力された走行パターンに応じて車両が走行した場合に、亜鉛電池において増減するであろうエネルギー量の大きさを示す。エンジンが消費するであろうエネルギー量と、亜鉛電池において減少するであろうエネルギー量との合計のエネルギー量は、入力部91によって入力された走行パターンの車両の走行に要するエネルギー量となる。走行パターンから車両の走行距離も分かるので、当該走行距離とそれに要するエネルギー量とに基づいて、制御部92は、所定エネルギー量当たりに走行可能な距離を燃費として算出する。
【0019】
出力部93は、制御部92によって算出された燃費を出力する。これにより、入力部91によって入力された走行パターンなどに基づく燃費シミュレーションの結果が得られる。
【0020】
上述のように、燃費シミュレーションにおいては、亜鉛電池の端子電圧が推定される。亜鉛電池の端子電圧の推定精度を向上させることによって燃費シミュレーションの精度も向上するので、例えば燃費の計算精度を向上させることを目的として、実施形態に係る電圧推定装置が用いられてもよい。本実施形態において、電圧推定装置は、亜鉛電池の端子電圧を計算するための等価回路モデルを用いて、亜鉛電池の端子電圧を推定する。
【0021】
図2は、亜鉛電池の等価回路モデルの例を示す回路図である。この等価回路モデル40は、互いに逆極性のノードN
1およびノードN
2の間に直列に接続された、直流抵抗部10と、分極モデル部20と、定電圧源30とを含む。ノードN
1およびノードN
2は、亜鉛電池の外部の要素と電気的に接続される部分であり、等価回路モデル40に発生する電圧を与える。等価回路モデル40に発生する電圧は、亜鉛電池の端子電圧V(t)である。ノードN
1はアノードであり、亜鉛電池に流入する電流I(t)を与える。なお、電圧および電流などの時間変化する物理量を示す符号に(t)などを付す場合があるが、このように示された物理量は、時刻tにおける当該物理量の値を意味するものとする。また、時刻tは、0以上の整数であり、端子電圧V(t)の推定の開始時刻からの経過時間を示す。時刻t=0は、端子電圧V(t)の推定の開始時刻である。
【0022】
直流抵抗部10は、亜鉛電池の直流インピーダンス(直流抵抗成分)を模擬する部分である。直流抵抗部10は、抵抗器を含む。
図2に示される例では、抵抗器11と、抵抗器12とが、互いに直列に接続されている。抵抗器11は、亜鉛電池の線形直流抵抗成分を模擬している。線形直流抵抗成分としては、電極の抵抗が挙げられる。抵抗器11の抵抗値R
0は定数である。抵抗器12は、亜鉛電池の非線形直流抵抗成分を模擬している。非線形直流抵抗成分としては、液抵抗が挙げられる。抵抗器12の抵抗値R(I)は可変である。抵抗値R(I)は、電流I(t)に応じて変化し、例えば充電時と放電時とで異なる。つまり、直流抵抗部10によって模擬される直流抵抗成分は、抵抗器11によって模擬される線形直流抵抗成分と、抵抗器12によって模擬される非線形直流抵抗成分と、を含む。直流抵抗部10中の各抵抗器の抵抗値によって、直流抵抗部10のインピーダンスが定まる。直流抵抗部10のインピーダンスが定まれば、等価回路モデル40に電流I(t)が流れたときに、その電流I(t)が直流抵抗部10にも流れるので、電流I(t)と直流抵抗部10のインピーダンスとから、直流抵抗部10に発生する電圧(直流抵抗電圧Vdc(t))が計算される。直流抵抗電圧Vdc(t)は、抵抗器11に発生する電圧Vdc1(t)と、抵抗器12に発生する電圧Vdc2(t)との合計電圧である。すなわち、直流抵抗部10において、以下の関係式(1)が成立する。
【数1】
【0023】
分極モデル部20は、亜鉛電池の分極インピーダンス成分を模擬する部分である。分極モデル部20は、並列接続された抵抗器およびコンデンサ(RC並列回路)を含む。
図2に示される例では、3つのRC並列回路が直列に接続されている。具体的に、並列接続された可変抵抗器21および可変コンデンサ22(第1のRC並列回路)と、並列接続された固定抵抗器23および固定コンデンサ24(第2のRC並列回路)と、並列接続された固定抵抗器25および固定コンデンサ26(第3のRC並列回路)とが、直列に接続されている。可変抵抗器21、固定抵抗器23および固定抵抗器25は、亜鉛電池の分極抵抗成分を模擬している。可変コンデンサ22、固定コンデンサ24および固定コンデンサ26は、亜鉛電池の分極容量成分を模擬している。可変抵抗器21および可変コンデンサ22の抵抗値および容量値は可変であり、固定抵抗器23,25および固定コンデンサ24,26の抵抗値および容量値は一定である。なお、
図2に示される例では、分極モデル部20は3つのRC並列回路を含むが、分極モデル部20は、少なくとも第1のRC並列回路(可変抵抗器21および可変コンデンサ22)を含んでいればよい。また、分極モデル部20は、4つ以上のRC並列回路を含んでいてもよい。
【0024】
分極モデル部20中の各抵抗器の抵抗値および各コンデンサの容量値によって、分極モデル部20のインピーダンスが定まる。分極モデル部20のインピーダンスが定まれば、等価回路モデル40に電流I(t)が流れたときに、その電流I(t)が分極モデル部20にも流れるので、電流I(t)と分極モデル部20のインピーダンスとから、分極モデル部20に発生する電圧(分極電圧Vpol(t))が計算できる。分極電圧Vpolは、可変抵抗器21および可変コンデンサ22に発生する第1分極電圧Vp1(t)と、固定抵抗器23および固定コンデンサ24に発生する第2分極電圧Vp2(t)と、固定抵抗器25および固定コンデンサ26に発生する第3分極電圧Vp3(t)との合計電圧である。すなわち、分極モデル部20において、以下の関係式(2)が成立する。
【数2】
【0025】
ここで、第1のRC並列回路の時定数τ1は、可変抵抗器21の抵抗値と可変コンデンサ22の容量値とを乗じた値として定められる。時定数τ1は、可変抵抗器21および可変コンデンサ22に発生する第1分極電圧Vp1(t)の時間変化に反映される。例えば、時定数τ1が大きいほど、第1分極電圧Vp1(t)の時間変化は遅くなる。同様に、第2のRC並列回路の時定数τ2は、固定抵抗器23および固定コンデンサ24に発生する第2分極電圧Vp2(t)の時間変化に反映される。第3のRC並列回路の時定数τ3は、固定抵抗器25および固定コンデンサ26に発生する第3分極電圧Vp3(t)の時間変化に反映される。時定数τ1、時定数τ2および時定数τ3は互いに異なる値に設定されてよい。分極モデル部20が複数の異なる時定数を有するRC並列回路を含むことにより、分極電圧Vpol(t)の時間変化をより正確に表すことができる。各時定数は、例えば、τ1<τ2<τ3となるように設定されてよい。
【0026】
定電圧源30は、一定の直流(DC)電圧を有する。定電圧源30の有する電圧は、亜鉛電池の開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage)Vocv(t)である。定電圧源30のインピーダンスは0である。開放電圧Vocv(t)は、例えば、亜鉛電池のSOCから求められる。その場合、開放電圧Vocv(t)は、SOCを引数とする関数となる。亜鉛電池の温度なども、引数に含まれてよい。
【0027】
以上に説明した、直流抵抗部10に発生する直流抵抗電圧Vdc(t)、分極モデル部20に発生する分極電圧Vpol(t)および定電圧源30が有する開放電圧Vocv(t)と、端子電圧V(t)との間には、以下の関係式(3)が成立する。以上に説明した亜鉛電池の等価回路モデル40を用いて、実施形態に係る電圧推定装置は、亜鉛電池の端子電圧V(t)を推定する。
【数3】
【0028】
図3は、一実施形態に係る電圧推定装置1の概略構成を示す図である。電圧推定装置1は、その機能ブロックとして、入力部2と、SOC計算部3と、パラメータ設定部4と、直流抵抗計算部5と、分極計算部6と、OCV計算部7と、端子電圧計算部8とを含む。
【0029】
図4は、
図3の電圧推定装置1のハードウェア構成の例を示す図である。
図4に示されるように、電圧推定装置1は、物理的には、一または複数のCPU(Central Processing Unit)51と、主記憶装置であるRAM(RandomAccess Memory)52およびROM(Read Only Memory)53と、データ送受信デバイスである通信モジュール54と、ハードディスクおよびフラッシュメモリなどの補助記憶装置55と、キーボードなどのユーザの入力を受け付ける入力装置56と、ディスプレイなどの出力装置57と、を備えるコンピュータとして構成されている。
図3に示される電圧推定装置1の各機能は、CPU51およびRAM52などのハードウェア上に一または複数の所定のコンピュータソフトウェアを読み込ませることにより、CPU51の制御のもとで通信モジュール54、入力装置56、および出力装置57を動作させるとともに、RAM52および補助記憶装置55におけるデータの読み出しおよび書き込みを行うことで実現される。なお、上記の説明は電圧推定装置1のハードウェア構成として説明したが、燃費計算装置90がCPU51、RAM52およびROM53などの主記憶装置、通信モジュール54、補助記憶装置55、入力装置56、および出力装置57などを含む通常のコンピュータシステムとして構成されてもよい。
【0030】
再び
図3を参照して、電圧推定装置1の各機能の詳細を説明する。入力部2は、亜鉛電池への指定値(bat_demand)を入力する部分である。指定値は、例えば上述の燃費計算装置90による燃費計算において亜鉛電池に要求される、充放電電流の大きさ、および充放電電力の大きさなどを含む。入力部2は、入力した指定値を直流抵抗計算部5に出力する。
図5は、入力部2から入力される充放電電流の波形の例を概念的に示すグラフである。
図5において、横軸は時間を表し、縦軸は電流量を表す。この例に示される波形は、エンジン始動期間A1、定電圧充電期間A2、定電流放電期間A3、及び休止期間A4が含まれる。そして、これらの期間A1~A5をそれぞれ定められた回数だけ含む周期A0を1サイクルとして、複数のサイクルにわたって同じ波形を繰り返す。
【0031】
SOC計算部3は、亜鉛電池のSOCを計算する部分である。例えば、亜鉛電池の初期のSOC(0)と、その後の亜鉛電池の充放電電流量とから、亜鉛電池のSOC(t)が計算される。亜鉛電池の初期のSOC(0)の値は特に限定されず、適宜設定されてよい。亜鉛電池の充放電電流量は、亜鉛電池の充放電電流を充放電時間で積算することによって求められる。亜鉛電池のSOC(t)は、時刻tにおける亜鉛電池の充放電電流量と亜鉛電池の満充電容量とに基づいて求められる。時刻tのSOC(t)の計算において、亜鉛電池に流れる電流として、等価回路モデル40を時刻0から時刻tまでに流れた電流Iが用いられ得る。この場合、SOC計算部3は、例えば以下の式(4)によってSOC(t)を計算する。SOC計算部3は、計算したSOC(t)をパラメータ設定部4、分極計算部6、およびOCV計算部7にそれぞれ出力する。
【数4】
但し、s=容量(単位Ah)×3600(C/Ah)である。
【0032】
パラメータ設定部4は、亜鉛電池の端子電圧の推定に必要な種々の特性パラメータの値を設定する部分である。特性パラメータには、例えば、抵抗器11の抵抗値、抵抗器12の抵抗値の関数に含まれる係数、可変抵抗器21の抵抗値、時定数τ1、固定抵抗器23の抵抗値、時定数τ2、固定抵抗器25の抵抗値、及び時定数τ3が含まれる。これらの特性パラメータのうち、抵抗器11の抵抗値と、抵抗器12の抵抗値の関数に含まれる係数と、のうち少なくとも一方は、推定対象である亜鉛電池のSOCに基づいて設定される。また、可変抵抗器21の抵抗値と、時定数τ1と、のうち少なくとも一方もまた、推定対象である亜鉛電池のSOCに基づいて設定されてよい。これらの特性パラメータと、亜鉛電池のSOCとの相関は、ルックアップテーブルとしてまとめられている。ルックアップテーブルには、特性パラメータのそれぞれについて、SOCを複数の区間に分割し、該複数の区間それぞれに対応する複数の値が格納されている。パラメータ設定部4は、ルックアップテーブルを参照することによって、各特性パラメータの値を上記複数の値から選択する。上記の相関に含まれるSOCの下限は、例えば30%である。上記の相関に含まれるSOCの上限は、例えば70%である。SOCの区間分割数は、例えば4区間である。その場合、SOCの分割区間は、例えば、30%~50%の区間、50%~55%の区間、55%~60%の区間、及び60%~70%の区間である。SOCの区間分割数はこれに限られず、3区間以下であってもよく、5区間以上であってもよい。上記の相関に含まれるSOCの範囲の中心付近の区間幅を小さくし、SOCの範囲の中心から離れるほど区間幅を大きくしてもよい。或いは、複数の値から一の値を選択する別の方法として、SOCの値を変数とする関数を用いて特性パラメータの値を算出してもよい。なお、各特性パラメータの値は、亜鉛電池の温度に更に基づいて設定されてもよい。その場合には、さらに、亜鉛電池の温度も考慮して、各パラメータのルックアップテーブルが用意される。パラメータ設定部4は、設定した各特性パラメータの値を、直流抵抗計算部5および分極計算部6に出力する。
【0033】
直流抵抗計算部5は、直流抵抗部10に発生する直流抵抗電圧Vdc(t)を計算する。また、直流抵抗計算部5は、入力部2によって入力された指定値(bat_demand)から、等価回路モデル40に流れる電流I(t)を計算する。分極計算部6は、分極モデル部20に発生する分極電圧Vpol(t)を計算する。OCV計算部7は、開放電圧Vocv(t)を計算する。先に説明したように、開放電圧Vocv(t)は、亜鉛電池のSOCから求められる。例えば、各SOCの値と開放電圧Vocvの値とを対応付けたテーブルが予め準備されている。OCV計算部7は、当該テーブルを参照することによって、SOC計算部3から受け取ったSOC(t)から開放電圧Vocv(t)を計算する。なお、上述のテーブルが、温度ごとに準備されていてもよく、その場合には、さらに、亜鉛電池の温度も考慮して、開放電圧Vocv(t)が計算される。
【0034】
端子電圧計算部8は、亜鉛電池の端子電圧V(t)を計算する部分である。先に説明したように、直流抵抗計算部5によって計算された直流抵抗電圧Vdc(t)、分極計算部6によって計算された分極電圧Vpol(t)、およびOCV計算部7によって計算された開放電圧Vocv(t)が端子電圧計算部8に送られる。端子電圧計算部8は、直流抵抗電圧Vdc(t)、分極電圧Vpol(t)、および開放電圧Vocv(t)に基づいて、端子電圧V(t)を計算する。具体的には、端子電圧計算部8は、上記式(2)に示されるように、直流抵抗電圧Vdc(t)、分極電圧Vpol(t)、および開放電圧Vocv(t)を加算し、その合計電圧を端子電圧V(t)とする。端子電圧計算部8は、算出した端子電圧V(t)を電圧推定装置1の外部および直流抵抗計算部5に出力する。
【0035】
次に、
図6を参照して、電圧推定装置1が実行する端子電圧V(t)の計算処理(電圧推定方法)を説明する。
図6は、電圧推定装置1が実行する端子電圧V(t)の計算処理の例を示すフローチャートである。
図6に示されるフローチャートの処理は、例えば燃費計算装置90の燃費計算において、ある時刻tにおける亜鉛電池の端子電圧を推定する際に実行される。
【0036】
まず、入力部2が指定値(bat_demand)を入力する(ステップS01)。例えば、入力部2は、電圧推定装置1の外部装置から指定値を受け取ることにより、その指定値を入力する。そして、入力部2は、入力した指定値を直流抵抗計算部5に出力する。そして、SOC計算部3は、亜鉛電池のSOCを計算する(ステップS02)。SOC計算部3は、例えば、上述した式(3)を用いてSOC(t)を計算する。そして、SOC計算部3は、計算したSOC(t)をパラメータ設定部4、分極計算部6、およびOCV計算部7に出力する。
【0037】
続いて、パラメータ設定部4は、等価回路モデル40の各特性パラメータを設定する(ステップS03)。ステップS03において設定される特性パラメータは、例えば、抵抗器11の抵抗値、抵抗器12の抵抗値の関数に含まれる係数、可変抵抗器21の抵抗値、時定数τ1、固定抵抗器23の抵抗値、時定数τ2、固定抵抗器25の抵抗値、及び時定数τ3である。前述したように、各特性パラメータの値は、亜鉛電池のSOCに基づいて設定される。パラメータ設定部4は、各特性パラメータと、亜鉛電池のSOCとの相関が記載されたルックアップテーブルを参照し、SOCに応じて複数の値の中から一の値を各特性パラメータの値として設定する。そして、パラメータ設定部4は、設定した各特性パラメータの値を直流抵抗計算部5および分極計算部6に出力する。
【0038】
続いて、直流抵抗計算部5は、パラメータ設定部4から提供された抵抗器11の抵抗値を用いて、電流I(t)および直流抵抗電圧Vdc(t)を計算する(ステップS04)。直流抵抗計算部5は、充放電モードが定電流放電モード(端子電圧V(t)によらず、一定の電流を流すモード)である場合には、入力部2によって入力された指定値に含まれる指定電流を電流I(t)に設定する。そして、直流抵抗計算部5は、この電流I(t)に基づいて直流抵抗電圧Vdc(t)を計算する。また、直流抵抗計算部5は、充放電モードが定電圧充電モード(亜鉛電池を充電するための電圧源(例えばオルタネータ)の出力電圧を一定にした状態で亜鉛電池を充電するモード)である場合には、まず直流抵抗電圧Vdc(t)を計算する。そして、この直流抵抗電圧Vdc(t)に基づいて、等価回路モデル40に流れる電流I(t)を計算する。
【0039】
続いて、分極計算部6は、分極電圧Vpol(t)を計算する(ステップS05)。具体的には、分極計算部6は、パラメータ設定部4から提供された可変抵抗器21の抵抗値、時定数τ1、固定抵抗器23の抵抗値、時定数τ2、固定抵抗器25の抵抗値、及び時定数τ3を用いて、第1分極電圧Vp1(t)、第2分極電圧Vp2(t)、及び第3分極電圧Vp3(t)を計算する。そして、分極計算部6は、それら第1分極電圧Vp1(t)、第2分極電圧Vp2(t)および第3分極電圧Vp3(t)の合計値を、分極電圧Vpol(t)とする。
【0040】
続いて、OCV計算部7は、開放電圧Vocv(t)を計算する(ステップS06)。例えば、OCV計算部7は、各SOCの値と開放電圧Vocvの値とを対応付けたテーブルを参照することによって、SOC計算部3から受け取ったSOC(t)から開放電圧Vocv(t)を計算する。そして、OCV計算部7は、計算した開放電圧Vocv(t)を端子電圧計算部8に出力する。
【0041】
続いて、端子電圧計算部8は、端子電圧V(t)を計算する(ステップS07)。具体的には、端子電圧計算部8は、直流抵抗計算部5によって計算された直流抵抗電圧Vdc(t)、分極計算部6によって計算された分極電圧Vpol(t)、およびOCV計算部7によって計算された開放電圧Vocv(t)に基づいて、端子電圧V(t)を計算する。より具体的には、端子電圧計算部8は、上記式(2)に示されるように、直流抵抗電圧Vdc(t)、分極電圧Vpol(t)、および開放電圧Vocv(t)を加算し、その合計電圧を端子電圧V(t)とする。そして、端子電圧計算部8は、算出した端子電圧V(t)を電圧推定装置1の外部、および直流抵抗計算部5に出力する。以上のようにして、時刻tにおける端子電圧V(t)の計算処理が終了する。なお、ステップS05の処理とステップS06の処理とは、並行して行われてもよく、実施される順番が逆になってもよい。
【0042】
ここで、パラメータ設定部4及びパラメータ設定ステップS03について更に詳細に説明する。前述したように、等価回路モデル40を構成する特性パラメータは、例えば、抵抗器11の抵抗値、抵抗器21の抵抗値、時定数τ1、抵抗器23の抵抗値、時定数τ2、抵抗器25の抵抗値、及び時定数τ3であるが、実際のシミュレーションにおいては、これらの特性パラメータをより細分化したものが使用される。
図7は、細分化された特性パラメータの例を示す図表である。
図7において、項番1~3は抵抗器11の抵抗値に関するパラメータであり、項番4は抵抗器12の抵抗値に関するパラメータであり、項番5~21は時定数τ1に関するパラメータであり、項番22~24は抵抗器21の抵抗値に関するパラメータであり、項番25,26は時定数τ2に関するパラメータであり、項番27~30は抵抗器23の抵抗値に関するパラメータであり、項番31,32は時定数τ3に関するパラメータであり、項番33~36は抵抗器25の抵抗値に関するパラメータである。前述したように、本実施形態の特性パラメータの値のうち少なくとも一つは、推定対象である亜鉛電池のSOCに基づいて設定される。
図8は、一例として、全ての特性パラメータの値がSOCに基づいて設定される場合における、特性パラメータの値とSOCとの相関を表すルックアップテーブルを概念的に示す図である。
図8において、XXXは特性パラメータの様々な値を表し、A
1~A
n(nは3以上の整数)はSOCの値を表す。
【0043】
以上に説明した、本実施形態による電圧推定方法および電圧推定装置1によって得られる効果について説明する。前述した特許文献1には、鉛電池等の端子電圧を推定するために、線形直流抵抗成分及び非線形直流抵抗成分を含むバトラーボルマーの等価回路モデルを用いる方法が開示されている。従来より、鉛電池以外の二次電池(リチウムイオン電池等)の端子電圧を推定する際には、テブナンの等価回路を応用した分極対称二段分極モデルが用いられているが、亜鉛電池の端子電圧推定にもバトラーボルマーの等価回路モデルを用いれば、より推定精度をより向上させ得ると本発明者は考えた。しかしながら、亜鉛電池の端子電圧を推定する場合、次の問題が生じる。すなわち、亜鉛電池は鉛電池等と異なり、広いSOC(State Of Charge)の範囲において使用される。鉛電池は低いSOCにて使用されると劣化が早く進むが、亜鉛電池は低いSOCにて使用されても劣化の程度が比較的小さいからである。そして、SOCが大きく変動すると直流抵抗成分の抵抗値等の特性パラメータも変動するので、SOCにかかわらず特性パラメータを一定とすると、推定誤差が大きくなってしまう。
【0044】
この問題に対し、本実施形態の電圧推定方法および電圧推定装置1では、抵抗器11(線形直流抵抗成分)の抵抗値と、抵抗器12(非線形直流抵抗成分)の抵抗値の関数に含まれる係数と、のうち少なくとも一方を、推定対象である亜鉛電池のSOCに応じて、互いに大きさが異なる複数の値から選択する。この場合、等価回路モデル40の特性パラメータの少なくとも一部を、変動するSOCに応じて適切な大きさに変更することができる。したがって、SOCの変動に伴う推定誤差の増大を抑制することができる。すなわち、本実施形態の電圧推定方法及び電圧推定装置1によれば、二次電池のうち特に亜鉛電池の端子電圧V(t)を精度良く推定することができる。
【0045】
本実施形態では、抵抗器12(非線形直流抵抗成分)の抵抗値を充電時と放電時とで異ならせる。亜鉛電池においては、充電時と放電時とで非線形直流抵抗成分の抵抗値が異なる。故に、この場合、亜鉛電池の端子電圧V(t)の推定精度をより高めることができる。
【0046】
本実施形態のように、パラメータ設定部4は、可変抵抗器21の抵抗値と、RC並列回路の時定数τ1と、のうち少なくとも一方を、推定対象である亜鉛電池のSOCに応じて複数の値から選択してもよい。この場合、等価回路モデル40の特性を亜鉛電池の特性に更に近づけることができ、亜鉛電池の端子電圧を更に精度良く推定することができる。
【0047】
本実施形態のように、等価回路モデル40は、コンデンサとスイッチング素子とが並列接続された、ガッシングに基づく直流抵抗成分を含まなくてもよい。鉛電池の等価回路モデルは、ガッシングを表すこのような直流抵抗成分を含む(特許文献1を参照)。しかし、亜鉛電池においてガッシングは生じないので、亜鉛電池の等価回路モデル40から該容量成分を排除することによって、亜鉛電池の端子電圧V(t)の推定精度をより高めることができる。
【0048】
図9~
図12は、実施例として、本実施形態の等価回路モデル40による電圧推定結果の例を示すグラフである。
図9は、SOCが30%~50%の範囲内にある場合のグラフである。
図10は、SOCが50%~55%の範囲内にある場合のグラフである。
図11は、SOCが55%~60%の範囲内にある場合のグラフである。
図12は、SOCが60%~70%の範囲内にある場合のグラフである。
図9~
図12において、グラフG11は推定電圧を示し、グラフG12は実測電圧を示す。
図13は、比較例として、分極対称二段分極モデルによる電圧推定結果の例を示すグラフである。
図13において、グラフG21は推定電圧を示し、グラフG22は実測電圧を示す。なお、分極対称二段分極モデルでは、全てのSOCに対して共通の特性パラメータを用いている。
【0049】
図9~
図12と
図13とを比較すると、本実施形態の等価回路モデル40による電圧推定では、従来の分極対称二段分極モデルによる電圧推定と比較して、実測電圧に対する推定電圧の誤差が格段に小さいことがわかる。具体的には、
図13における推定電圧の誤差の二乗平均平方根(RMS)が34.9mVであるのに対し、
図9~
図12における推定電圧の誤差のRMSは5~7mVとごく僅かである。このように、本実施形態によれば、従来の方法と比較して推定精度を格段に高めることができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、等価回路モデル40は、目的に応じて変更され得る。電圧推定装置1では、等価回路モデル40の構成に応じて、上記実施形態における計算は適宜変更され得る。例えば、端子電圧V(t)のうち、直流抵抗電圧Vdc(t)の影響を受ける部分の推定精度の向上を目的とする場合には、等価回路モデル40の分極モデル部20の構成は上記実施形態の構成に限られず、任意の構成であってもよい。例えば、線形分極インピーダンスを模擬する抵抗器およびコンデンサの並列接続構成のみを備えていてもよい。この場合、電圧推定装置1では、可変抵抗器21の抵抗値および可変コンデンサ22の容量値に関する計算、および時定数τ1に関する計算は適宜省略され、または変更され得る。
【符号の説明】
【0051】
1…電圧推定装置、2…入力部、3…SOC計算部、4…パラメータ設定部、5…直流抵抗計算部、6…分極計算部、7…OCV計算部、8…端子電圧計算部、10…直流抵抗部、11,12,21,23,25…抵抗器、20…分極モデル部、22,24,26…コンデンサ、30…定電圧源、40…等価回路モデル、51…CPU、52…RAM、53…ROM、54…通信モジュール、55…補助記憶装置、56…入力装置、57…出力装置、90…燃費計算装置、91…入力部、92…制御部、93…出力部、A1…エンジン始動期間、A2…定電圧充電期間、A3…定電流放電期間、A4…休止期間、N1…ノード、N2…ノード、Vdc…直流抵抗電圧、Vdc1,Vdc2…電圧、Vocv…開放電圧、Vp1,Vp2,Vp3…分極電圧、Vpol…分極電圧。