(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/58 20060101AFI20240912BHJP
A47C 31/02 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
B60N2/58
A47C31/02 G
(21)【出願番号】P 2020130707
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】521452902
【氏名又は名称】アディエント ユーエス エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】中原 弘人
(72)【発明者】
【氏名】吉森 信也
【審査官】永冨 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-026161(JP,A)
【文献】特開2017-030500(JP,A)
【文献】特開2010-029276(JP,A)
【文献】特開2012-081161(JP,A)
【文献】特開2016-132228(JP,A)
【文献】特開2010-042719(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/58
A47C 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート幅方向の中央部を形成するメインパッド及び前記メインパッドの側方に設けられたサイドパッドを備え、シートフレームに取り付けられるパッド部と、
前記シートフレームに連結され、前記メインパッドの裏面側を支持するサスペンションマットと、
前記パッド部を覆う表皮と、
を有する車両用シートにおいて、
前記メインパッドと前記サイドパッドとの境界位置に設けられ、前記パッド部の表面から裏面に貫通するスリット部と、
前記スリット部を貫通して、前記パッド部の裏面側に引き出された引き部材と、を有し、
前記表皮は、
前記メインパッドを覆う第1表皮領域において、前記スリット部に沿って延在する第1端末部と、
前記サイドパッドを覆う第2表皮領域において、前記スリット部に沿って延在する第2端末部と、を備え、
前記引き部材の前端部は前記第1及び第2端末部に連結され
ており、前記引き部材の後端部側が前記パッド部の裏面側に引き出され
ている状態において、前記第1及び第2端末部
は前記スリット部の内側
に位置し、
前記引き部材の後端部側は、
前記メインパッドの裏面まで延出しており、前記メインパッドとの間に前記サスペンションマットを巻き込
むような格好で、前記メインパッドの裏面に対して係合され
ており、
前記メインパッドの裏面には、補剛シートが一体に固着され、
前記引き部材の後端部側は、略C字形状を有する留め具により前記補剛シートに対して係合され、
前記補剛シートは、一対の縦方向シートと横方向シートとでH形状に形成され、
前記一対の縦方向シートは、前記メインパッドの裏面の両端部にそれぞれ設けられ、前記引き部材の後端部側が係合される複数の係合位置に沿って延在し、
前記横方向シートは、前記一対の縦方向シートの間に跨がるように設けられ、
前記補剛シートは、前記留め具が挿通される一対の開口が、前記複数の係合位置に対応してそれぞれ設けられ、
前記引き部材の後端部は、前記留め具が挿通される単一の開口が、前記複数の係合位置に対応してそれぞれ設けられている、
車両用シート。
【請求項2】
前記
補剛シートは、前記メインパッドよりも剛性が
高い
請求項1記載の車両用シート。
【請求項3】
前記補剛シートは、繊維シートで
ある
請求項2記載の車両用シート。
【請求項4】
前記補剛シートは、前記補剛シートよりも大きなサイズを有するサポートシートに組み付けられており、
前記補剛シートは、前記サポートシートとともに前記メインパッドの裏面に一体に固着されている
請求項3記載の車両用シート。
【請求項5】
前記引き部材の後端部側は、かしめられた
前記留め具により前記補剛シートに係合されている
請求項3又は4記載の車両用シート。
【請求項6】
前記一対の開口のそれぞれ
の位置は、前記補剛シートと一体に前記パッド部を成形する成形型に設けられる
一対の位置決めピンの
それぞれの位置と対応している
請求項5記載の車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、メイン部とサイド部とを備えるパッドと、パッド材を被覆する表皮とを備えるシートが開示されている。メイン部とサイド部とは、両端付近が連結状態に形成され、中央が分割状態に形成されている。パッド材のメイン部及びサイド部の分割部分は、メイン部表皮及びサイド部表皮により個別に被覆される。分割部分におけるメイン部表皮の端末及びサイド部表皮の端末は、シートフレーム側にクリップ止めされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された技術は、表皮の端末をシートフレームに係止する必要があり、表皮の端末を処理する位置がシートフレームのレイアウトに左右されるという不都合がある。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みて成されたものであり、その目的は、シートフレームのレイアウトに依存することなく表皮の端末を処理することができる車両用シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1又はそれ以上の実施形態の第1の態様によれば、シート幅方向の中央部を形成するメインパッド及びメインパッドの側方に設けられたサイドパッドを備え、シートフレームに取り付けられるパッド部と、シートフレームに連結され、メインパッドの裏面側を支持するサスペンションマットと、パッド部を覆う表皮と、を有する車両用シートが提供される。この車両用シートは、メインパッドとサイドパッドとの境界位置に設けられ、パッド部の表面から裏面に貫通するスリット部と、スリット部を貫通して、パッド部の裏面側に引き出された引き部材と、を有する。表皮は、メインパッドを覆う第1表皮領域において、スリット部に沿って延在する第1端末部と、サイドパッドを覆う第2表皮領域において、スリット部に沿って延在する第2端末部と、を備えている。引き部材の前端部は、第1及び第2端末部に連結され、引き部材の他方の端部側がパッド部の裏面側に引き出されることにより、第1及び第2端末部をスリット部の内側へと引き込む。また、引き部材の後端部側は、メインパッドとの間にサスペンションマットを巻き込みながらメインパッドの裏面まで延出し、メインパッドの裏面に対して係合されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、シートフレームのレイアウトに依存することなく表皮の端末を処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、車両用シートの構成を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、車両用シートを後方から示す説明図である。
【
図3】
図3は、車両用シートの内部構造を示す説明図である。
【
図4】
図4は、
図3に示す車両用シートの要部を拡大して示す説明図である。
【
図5】
図5は、
図3に示すAA線に沿う断面を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態に係る車両用シートについて説明する。説明の便宜上、前後方向、左右方向及び上下方向を、車両用シートが搭載される車両における方向を基準に規定する。
【0010】
図1において、車両用シート1は、クッションシート10と、シートバック20と、ヘッドレスト60とを有している。クッションシート10は、乗員の臀部から下方を支持し、シートバック20は、乗員の要部及び背中を支持する。ヘッドレスト60は、シートバック20の上部に装着され、乗員の頭部を支持する。
【0011】
車両用シート1は、車両の床面に設置された一対のレールに取り付けられ、周知のスライド構造により、前後方向に移動可能に構成されている。車両用シート1は、例えばシートリフタ機構を有し、車両用シート1を床面に対して昇降させることができる。また、車両用シート1は、例えばリクライニング機構を有し、シートバック20の起立角度を任意に調節することができる。
【0012】
図1から
図5を参照し、シートバック20の詳細について説明する。シートバック20は、シートバック20を支持するシートフレーム25の外側に、クッション性を備えたパッド部30と、表皮35とを被せることにより構成されている。
【0013】
パッド部30は、シートフレーム25に取り付けられ、乗員の背中及び腰部を支持するクッション材である。パッド部30は、弾力性を備えた、ウレタンフォームなどの合成樹脂発泡体から成形されている。
【0014】
パッド部30は、メインパッド30aと、左右のサイドパッド30bとを備えている。メインパッド30aは、シート幅方向、すなわち左右方向の中央部を形成する。左右のサイドパッド30bは、メインパッド30aの左右の側方に設けられている。
【0015】
メインパッド30aとサイドパッド30bとの境界位置には、パッド部30の表面から裏面に貫通するスリット部SLが設けられている。スリット部SLは、パッド部30における上下方向の全域に設けられておらず、乗員の腰部と対応する下方領域20aに設けられている。しかしながら、パッド部30の上下方向の全域に、スリット部SLを設けてもよい。
【0016】
メインパッド30aの裏面には、サポートシート31が設けられている。サポートシート31は、繊維シートであり、例えば織物、編物、不織布などから形成されている。サポートシート31は、メインパッド30aの裏面のほぼ全域を覆う程度のサイズを有している。サポートシート31は、メインパッド30aの裏面に固着され、メインパッド30aと一体化されている。
【0017】
サポートシート31には、補剛シート32が組み付けられている。補剛シート32は、サポートシート31のうち、メインパッド30aと対向する面に設けられており、サポートシート31とともにメインパッド30aに固着されている。つまり、補剛シート32は、メインパッド30aとサポートシート31との間に挟まれており、メインパッド30aを裏面側から眺めた場合、補剛シート32は、サポートシート31によって覆われている。
【0018】
補剛シート32は、メインパッド30aの裏面の剛性を高める補剛部材として機能する
。補剛シート32は、繊維シートであり、例えば織物、編物、不織布などから形成されている。補剛シート32は、上述したサポートシート31よりも高剛性に構成されている。
【0019】
補剛シート32は、メインパッド30aの裏面の全域に設けられておらず、必要な範囲で設けられている。この補剛シート32は、後述する引き部材45の後端部45b側が係合される複数の係合位置に沿って設けられている。
図3において、補剛シート32は、例えば略H形状に形成されており、一対の縦方向シート32aと、横方向シート32bとで構成されている。縦方向シート32aは、メインパッド30aの裏面の左右端部にそれぞれ設けられ、上下方向に延在している。横方向シート32bは、一対の縦方向シート32aの間に跨がるように設けられており、左右方向に延在している。
【0020】
表皮35は、パッド部30を覆い、シートバック20の意匠面を構成する面材である。表皮35は、シートバック20の形状に対応した袋形状を有し、例えば複数の表皮ピースを縫合することで形成されている。個々の表皮ピースは、例えば織物、編物、不織布及び皮革などから適宜選択される1つ素材から、又は複数の素材を縫合することによって形成されている。例えば、表皮35は、メインパッド30aにおける前方の面である表面を覆うメインピース(第1表皮領域)35aと、左右のサイドパッド30bの表面及び側面を覆う左右のサイドピース(第2表皮領域)35bと、パッド部30の裏面の全体を覆うバックピース35cとで構成されている。
【0021】
シートフレーム25を構成する左右のサイドフレーム25aの間には、サスペンションマット40が設けられている。サスペンションマット40は、左右の縦ワイヤ41aと、中央の縦ワイヤ41cと、複数のばね部材42aとで構成されている。
【0022】
左右の縦ワイヤ41aは、サスペンションマット40の左右の縁部に位置し、それぞれ上下方向に沿って延在している。中央の縦ワイヤ41cは、左右の縦ワイヤ41aの中央に位置し、上下方向に延在している。
【0023】
複数のばね部材42aは、上下方向にかけて配置されており、個々のばね部材42aの間には一定の間隔が設けられている。それぞれのばね部材42aは、全体として左右方向に延在したワイヤより構成され、所要の位置においてクランク状の曲げ部が設定されている。このような曲げ形状により、それぞれのばね部材42aは、左右方向に伸び変形可能となっている。
【0024】
個々のばね部材42aにおける左右の両端は、左右の縦ワイヤ41aに対して連結されている。例えば、ばね部材42aの左右の端部は、左右の縦ワイヤ41aに対してそれぞれ巻回されている。また、個々のばね部材42aにおける中央部は、中央の縦ワイヤ41cに対して連結されている。例えば、ばね部材42aの中央部は、中央の縦ワイヤ41cに対して溶接されている。
【0025】
左右の縦ワイヤ41aのそれぞれには、前方へと延出する支持ワイヤが、上下方向にかけて複数連結されている。個々の支持ワイヤの前端は、シートフレーム25のサイドフレーム25aに対して連結されている。サスペンションマット40は、支持ワイヤを介してシートフレーム25に支持される。シートフレーム25によって支持されたサスペンションマット40は、メインパッド30aの裏面側に位置し、メインパッド30aを裏面側から支持する。
【0026】
サスペンションマット40は、複数のばね部材42aにより、左右方向に伸び変形可能となっている。これにより、サスペンションマット40が前後方向に変位可能となる。サスペンションマット40は、乗員がシートバック20にたれかかった場合にメインパッド
30aに入力される後方への荷重を適切に受け止めることができる。
【0027】
図5に示すように、メインパッド30aの表面を覆うメインピース35aにおいて、スリット部SLと対応する位置には、メインピース35aの辺縁である第1端末部35a1が存在している。この第1端末部35a1は、スリット部SLに沿って存在しており、上下方向におけるスリット部SLのサイズに対応する範囲に設定されている。
【0028】
同様に、サイドパッド30bを覆うサイドピース35bにおいて、スリット部SLと対応する位置には、サイドピース35bの辺縁である第2端末部35b1が存在している。この第2端末部35b1は、スリット部SLに沿って存在しており、上下方向におけるスリット部SLのサイズに対応する範囲に設定されている。
【0029】
スリット部SLには、第1端末部35a1及び第2端末部35b1と対応して、引き部材45が設けられている。引き部材45は、前後方向に延在するシート状の部材であり、スリット部SLを貫通するように設けられている。引き部材45における上下方向の幅は、上下方向におけるスリット部SLのサイズと概ね対応している。引き部材45は、例えば織物、編物、不織布及び皮革などから適宜選択される素材によって形成されている。
【0030】
引き部材45の前側に位置する前端部45aは、第1端末部35a1及び第2端末部35b1とそれぞれ結合されている。具体的には、第1端末部35a1及び第2端末部35b1は、互いの辺縁が一致する状態で重ねられている。引き部材45の前端部45aは、第1及び第2端末部35a1、35b1に対してカウンター方向となる向きで、第1及び第2端末部35a1、35b1に対して重ねられている。第1端末部35a1、第2端末部35b1及び引き部材45の前端部45aは、互いが重なり合う重複範囲において上下方向に沿って縫合され、これにより、一体的に結合されている。
【0031】
引き部材45の後側に位置する後端部45bは、メインパッド30aの後方の面である裏面側に引き出されている。引き部材45の後端部45bが引き出されることにより、第1及び第2端末部35a1、35b1がスリット部SLの内側(後方)へと引き込まれる。第1及び第2端末部35a1、35b1がスリット部SLの内側へと引き込まれることで、シートバック20を前方より眺めた場合、第1及び第2端末部35a1、35b1がスリット部SLの内側に隠れ、メインパッド30aとサイドパッド30bとの境界位置を整然と仕上げることができる。
【0032】
引き部材45の後端部45b側は、メインパッド30aの裏面まで延出しており、メインパッド30aの裏面に対して係合されている。この場合において、引き部材45は、メインパッド30aとの間にサスペンションマット40の縦ワイヤ41aを巻き込むような格好で、メインパッド30aの裏面を覆っている。
【0033】
メインパッド30aの裏面に固着されているサポートシート31及び補剛シート32には、一対の開口33a、33bが形成されている。一対の開口33a、33bは、左右方向に並んで形成され、一方の開口33aがメインパッド30aの中央側に位置し、他方の開口33bがメインパッド30aの端部側(スリット部SL側)に位置する。一対の開口33a、33bは、後述する留め具50による係合位置に対応して複数設けられている。
【0034】
引き部材45の後端部45bには、単一の開口46が設けられている。引き部材45の開口46は、サポートシート31及び補剛シート32に設けられた一対の開口33うち、スリット部SL側の開口33bと対応する位置に設けられている。開口46は、一対の開口33a、33bと同様、後述する留め具50による係合位置に対応して複数設けられている。
【0035】
また、引き部材45の後端部45bにおいて、開口46よりも辺縁側には、ワイヤ47が固着されている。ワイヤ47は、後端部45bの辺縁に沿って上下方向に延在している。例えば、ワイヤ47の周囲は表皮によって覆われており、引き部材45と表皮とを縫合することにより、後端部45bに固着されている。ワイヤ47は、金属、樹脂などの材料から形成されており、留め具50に対する引き部材45の係合力を確保するために設けられている。
【0036】
引き部材45の後端部45bと、メインパッド30aの裏面との係合は、留め具50によって行われる。留め具50による係合は、1カ所以上の適宜の位置で行われる。本実施形態において、留め具50による係合位置は、上下方向に並んだ3カ所に設定されている。
【0037】
留め具50は、例えば略C字形状を有するホグリングである。留め具50の一方の端部は、引き部材45の開口46並びにサポートシート31及び補剛シート32の開口33bに挿通され、留め具50の他方の端部は、サポートシート31及び補剛シート32の開口33aに挿通されている。留め具50は、これらの開口46,33a,33bに挿通された状態で、環状にかしめられている。これにより、引き部材45の後端部45b、具体的にはワイヤ47と、補剛シート32において一対の開口33a、33bの中央に位置するシート領域とが留め具50によって保持される。補剛シート32は、メインパッド30aの裏面に固着されているため、留め具50により、引き部材45の後端部45bがメインパッド30aの裏面の外面に係合されることとなる。
【0038】
上述した補剛シート32は、例えば縫合など手法によりサポートシート31に対して組み付けられている。この補剛シート32付のサポートシート31は、パッド部30の成形時に、パッド部30と一体化されている。具体的には、補剛シート32付のサポートシート31は、パッド部30を成形する成形型に予めセットされる。補剛シート32付のサポートシート31がセットされた状態で成形型に、合成樹脂発泡体の原材料が注入される。成形型に注入された原材料は、成形型にセットされた補剛シート32付のサポートシート31に対して含浸される。そして、成形型に注入された原材料を発泡させることで、パッド部30が所要の形状に成形され、併せて、成形されたパッド部30に対して補剛シート32及びサポートシート31が一体的に固着される。
【0039】
補剛シート32付のサポートシート31を成形型にセットする場合、成形型には、複数の位置決めピンが設けられている。補剛シート32付のサポートシート31には、留め具50を取り付けるための開口33a、33b、46が設けられている。成形型の位置決めピンは、開口33a、33b、46に対応して設けられており、補剛シート32付のサポートシート31を成形型にセットするときに位置決め機能を果たす。この位置決め機能により、補剛シート32付のサポートシート31は、メインパッド30aの裏面において所定の位置に精度よく固着されている。
【0040】
このように本実施形態において、引き部材45の前端部45aは、第1及び第2端末部35a1、35b1に連結されている。引き部材45の後端部45b側は、メインパッド30aの裏面側に向けて引き出されており、これにより、第1及び第2端末部35a1、35b1は、スリット部SLの内側へと引き込まれている。引き部材45の後端部45b側は、メインパッド30aとの間にサスペンションマット40の縦ワイヤ41aを巻き込みながら、メインパッド30aの裏面まで延出し、メインパッド30aの裏面に対して係合されている。
【0041】
この構成によれば、メインパッド30aとサイドパッド30bとの境界位置のうちの下
方領域20a、具体的には乗員の腰部と対応する領域に、スリット部SLが設けられている。スリット部SLにより、メインパッド30aとサイドパッド30bとが独立している。そのため、メインパッド30aがサイドパッド30bから独立して変形することができるので、メインパッド30aの変形にサイドパッド0bが引っ張られることを抑制することができる。これにより、乗員の腰部の動きに対してメインパッド30aが良好に追従するので、座り心地の向上を図ることができる。
【0042】
また、第1及び第2端末部35a1、35b1は、引き部材45を介して、メインパッド30aの裏面に対して係合されている。メインパッド30aの裏面における広い範囲の中で引き部材45を係合することができるので、シートフレーム25のレイアウトに依存することなく第1及び第2端末部35a1、35b1を柔軟に処理することができる。
【0043】
加えて、引き部材45とメインパッド30aとの間には、サスペンションマット40の縦ワイヤ41aが巻き込まれている。引き部材45によってメインパッド30aとサスペンションマット40とが密着するので、メインパッド30aとサスペンションマット40との一体感を向上させることができる。
【0044】
第1及び第2端末部35a1、35b1をスリット部SLの内側に引き込むため、引き部材45は、張力がかかった状態でメインパッド30aの裏面に対して係合されている。引き部材45が縦ワイヤ41aを巻き込まず、縦ワイヤ41aの内側を通って引き出された場合、引き部材45がメインパッド30aに対して直接押し当たる格好となる。この場合、メインパッド30aとサスペンションマット40との密着性が失われるばかりか、引き部材45からの力によってメインパッド30aが潰れてしまう虞がある。この点、縦ワイヤ41aを巻き込むことで、縦ワイヤ41aの剛性によって引き部材45からの力を受けることができるので、メインパッド30aの圧壊を抑制することができる。
【0045】
また、本実施形態では、メインパッド30aの裏面、すなわち、裏面の面自体に、引き部材45の後端部45bを係合している。引き部材45を係合する方法として、パッド部30の内部に専用のワイヤなど設ける方法がある。しかしながら、本実施形態の係合方法は、ワイヤを用いる方法と比較して、車両用シート1の重量及びコストの抑制を図ることができる。
【0046】
また、引き部材45の後端部45bは、メインパッド30aの裏面側まで引き出されているので、メインパッド30aの裏面側の開放された領域において、引き部材45を係合することができる。これにより、引き部材45とメインパッド30aとの係合作業を作業性よく行うことができる。
【0047】
本実施形態において、メインパッド30aの裏面には、メインパッド30aよりも剛性が高い補剛シート32が一体化され、引き部材45の後端部45b側は、補剛シート32に対して係合されている。
【0048】
メインパッド30aは合成樹脂発泡体によって形成されているため、メインパッド30aの裏面は、かしめられた留め具50を保持する力が弱い傾向にある。そこで、メインパッド30aよりも剛性が高い補剛シート32に対して引き部材45の後端部45bを係合することで、引き部材45とメインパッド30aとの係合を強固に行うことができる。
【0049】
本実施形態において、補剛シート32は、繊維シートであり、引き部材45の後端部45bが係合される係合位置に対応して設けられている。
【0050】
この構成によれば、メインパッド30aの裏面の全域に限らず、引き部材45の係合に
必要な範囲で補剛シート32を設けることができる。これにより、材料の無駄を抑制しつつ、引き部材45の係合を実現することができる。
【0051】
本実施形態において、補剛シート32は、補剛シート32よりも大きなサイズを有するサポートシート31に組み付けられている。補剛シート32は、サポートシート31とともにメインパッド30aの裏面に一体化されている。
【0052】
この構成によれば、サポートシート31で補剛シート32を含むメインパッド30aの裏面を覆うことができる。これにより、補剛シート32とメインパッド30aとを一体性よく仕上げることができる。
【0053】
本実施形態において、引き部材45の後端部45b側は、かしめられた環状の留め具50により補剛シート32に係合されている。
【0054】
この構成によれば、補剛シート32の剛性を利用することで、留め具50を保持する力を発揮することができる。これにより、留め具50による係合を強固に行うことができる。
【0055】
本実施形態において、補剛シート32には、複数の係合位置に対応して、留め具50が挿通される一対の開口33a、33bが設けられている。この一対の開口33a、33bのそれぞれは、補剛シート32と一体にパッド部30を成形するための成形型に設けられた位置決めピンの位置と対応している。
【0056】
この構成によれば、留め具50によって引き部材45を係合する開口33a、33bを、成形時の位置決めに利用することができる。これにより、メインパッド30aの裏面における補剛シート32の位置精度を確保しつつ、留め具50を利用した係合を適切に行うことができる。
【0057】
上記のように、本発明の実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0058】
上述した実施形態では、シートバックに適用されているが、本実施形態に示す手法は、クッションシートに対して適用することもできる。
【符号の説明】
【0059】
1 車両用シート
10 クッションシート
20 シートバック
60 ヘッドレスト
25 シートフレーム
30 パッド部
30a メインパッド
30b サイドパッド
31 サポートシート
32 補剛シート
35 表皮
35a メインピース
35a1 第1端末部
35b サイドピース
35b1 第2端末部
35c バックピース
40 サスペンションマット
41a、41c 縦ワイヤ
42a ばね部材
45 引き部材
45a 前端部
45b 後端部
46 開口
47 ワイヤ
50 留め具
SL スリット部