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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】制御装置、排滓システム及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 41/12 20060101AFI20240912BHJP
   B22D 41/06 20060101ALI20240912BHJP
   B22D 43/00 20060101ALI20240912BHJP
   B22D 46/00 20060101ALI20240912BHJP
   C21C 7/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B22D41/12 A
B22D41/06
B22D43/00 E
B22D46/00
C21C7/00 J
C21C7/00 R
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020162111
(22)【出願日】2020-09-28
(65)【公開番号】P2022054863
(43)【公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100171099
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】地曳 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】関 拓也
(72)【発明者】
【氏名】木村 健智
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-028553(JP,U)
【文献】実開昭55-075649(JP,U)
【文献】実開昭51-124008(JP,U)
【文献】国際公開第2014/174977(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 41/00
B22D 43/00
C21C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾転装置による溶鋼鍋の傾転角度と、排滓台車の位置との関係をそれぞれが表す複数の制御プロファイルであって、少なくとも第1制御プロファイルと、前記溶鋼鍋の傾転角度と前記排滓台車の位置との関係が前記第1制御プロファイルと異なる第2制御プロファイルとを含む複数の制御プロファイルを記憶するプロファイル記憶部と、
前記溶鋼鍋から滓が出始める傾転角度が第1角度である場合には前記複数の制御プロファイルから前記第1制御プロファイルを選択し、前記溶鋼鍋から滓が出始める傾転角度が前記第1角度よりも大きい第2角度である場合には前記複数の制御プロファイルから前記第2制御プロファイルを選択するプロファイル選択部と、
前記プロファイル選択部が選択した制御プロファイルに基づき、前記溶鋼鍋の傾転に応じて前記排滓台車を変位させる変位制御部と、を備え
前記第2制御プロファイルにおいて、前記第1角度及び前記第2角度よりも大きい第3角度に対応する前記排滓台車の位置は、前記第1制御プロファイルにおいて前記第3角度に対応する前記排滓台車の位置よりも、前記溶鋼鍋の直下から遠い、制御装置。
【請求項2】
前記第1制御プロファイル及び前記第2制御プロファイルのそれぞれにおいて、前記溶鋼鍋の角度が大きくなるにつれて前記排滓台車の位置が前記溶鋼鍋の直下に近付く、請求項1記載の制御装置。
【請求項3】
前記溶鋼鍋からの滓の出始めを検知する開始検知部を更に備え、
前記プロファイル選択部は、前記開始検知部が前記溶鋼鍋からの滓の出始めを検知した際の傾転角度に基づいて、前記複数の制御プロファイルのいずれか一つを選択する、請求項1又は2記載の制御装置。
【請求項4】
前記開始検知部は、監視カメラにより撮像された画像に基づいて前記溶鋼鍋からの滓の出始めを検知する、請求項記載の制御装置。
【請求項5】
前記開始検知部は、前記監視カメラにより撮像された画像の輝度上昇に基づいて滓の出始めを検知する、請求項記載の制御装置。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項記載の制御装置と、
前記傾転装置と、
前記排滓台車と、を備える排滓システム。
【請求項7】
溶鋼鍋の傾転角度と、排滓台車の位置との関係をそれぞれが表す複数の制御プロファイルであって、少なくとも第1制御プロファイルと、前記溶鋼鍋の傾転角度と前記排滓台車の位置との関係が前記第1制御プロファイルと異なる第2制御プロファイルとを含む複数の制御プロファイルを記憶することと、
滓を収容した前記溶鋼鍋を傾転装置により傾けることと、
滓が出始めた際の前記溶鋼鍋の傾転角度が第1角度である場合には前記複数の制御プロファイルから第1制御プロファイルを選択し、滓が出始めた際の前記溶鋼鍋の傾転角度が第1角度よりも大きい第2角度である場合には前記複数の制御プロファイルから前記第2制御プロファイルを選択することと、
制御プロファイルに従って前記排滓台車を変位させることと、を含み、
前記第2制御プロファイルにおいて、前記第1角度及び前記第2角度よりも大きい第3角度に対応する前記排滓台車の位置は、前記第1制御プロファイルにおいて前記第3角度に対応する前記排滓台車の位置よりも、前記溶鋼鍋の直下から遠い、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御装置、排滓システム及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、取鍋を傾動させる取鍋傾動装置と、該取鍋傾動装置で傾動された取鍋から排出される滓・地金の排出状況に応じ、滓・地金を受ける排滓用容器を傾動部材の下方で移動させるインチング装置と、を備える自動排滓設備が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開平5-28553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、排滓台車の位置調節における省人化に有効な制御装置、排滓システム及び制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る制御装置は、傾転装置による溶鋼鍋の傾転角度と、排滓台車の位置との関係をそれぞれが表す複数の制御プロファイルであって、少なくとも第1制御プロファイルと、溶鋼鍋の傾転角度と排滓台車の位置との関係が第1制御プロファイルと異なる第2制御プロファイルとを含む複数の制御プロファイルを記憶するプロファイル記憶部と、溶鋼鍋から滓が出始める傾転角度が第1角度である場合には複数の制御プロファイルから第1制御プロファイルを選択し、溶鋼鍋から滓が出始める傾転角度が第1角度よりも大きい第2角度である場合には複数の制御プロファイルから第2制御プロファイルを選択するプロファイル選択部と、プロファイル選択部が選択した制御プロファイルに基づき、溶鋼鍋の傾転に応じて排滓台車を変位させる変位制御部と、を備える。
【0006】
溶鋼鍋からの滓の落下位置は、主として溶鋼鍋の傾転角度に応じて変わる。このため、溶鋼鍋の傾転角度の変化に応じて、排滓台車を変位させることで、溶鋼鍋から落下した滓を排滓台車に回収することができる。
【0007】
ここで、溶鋼鍋の縁には地金が蓄積するので、蓄積した地金の高さによって、滓が出始める溶鋼鍋の傾転角度(以下、「出始め角度」という。)が変化する。出始め角度に応じて、溶鋼鍋の傾転角度と滓の落下位置との関係も変わる。
【0008】
これに対し、本制御装置は、出始め角度が第1角度である場合には第1制御プロファイルを選択する。出始め角度が第2角度である場合には、溶鋼鍋の傾転角度と排滓台車の位置との関係が第1制御プロファイルと異なる第2制御プロファイルを選択する。そして、選択した制御プロファイルに従って排滓台車を変位させる。このため、出始め角度に応じて、溶鋼鍋の傾転角度と滓の落下位置との関係が変わるのに合わせて、溶鋼鍋の傾転と排滓台車の位置との関係が調整される。従って、排滓台車の位置調節における省人化に有効である。
【0009】
例えば、出始め角度が第2角度である場合には、出始め角度が第1角度である場合に比較して、同一の傾転角度に対する滓の落下位置が溶鋼鍋の直下から遠くなる場合がある。そこで、第2制御プロファイルにおいて、第1角度及び第2角度よりも大きい第3角度に対応する排滓台車の位置は、第1制御プロファイルにおいて第3角度に対応する排滓台車の位置よりも、溶鋼鍋の直下から遠くてもよい。
【0010】
蓄積された地金の有無によらず、滓が出始めた後には、溶鋼鍋の傾転角度が大きくなるにつれて滓の落下位置が溶鋼鍋の直下に近付く傾向がある。そこで、第1制御プロファイル及び第2制御プロファイルのそれぞれにおいて、溶鋼鍋の角度が大きくなるにつれて排滓台車の位置が溶鋼鍋の直下に近付いてもよい。
【0011】
制御装置は、溶鋼鍋からの滓の出始めを検知する開始検知部を更に備え、プロファイル選択部は、開始検知部が溶鋼鍋からの滓の出始めを検知した際の傾転角度に基づいて、複数の制御プロファイルのいずれか一つを選択してもよい。この場合、実際の出始め角度に基づいて、制御プロファイルがリアルタイムに変えられるので、排滓台車の位置をより適切に調節することができる。
【0012】
開始検知部は、監視カメラにより撮像された画像に基づいて溶鋼鍋からの滓の出始めを検知してもよい。この場合、監視カメラを出始め角度の検知に有効活用し、システム構成の簡素化を図ることができる。
【0013】
開始検知部は、監視カメラにより撮像された画像の輝度上昇に基づいて滓の出始めを検知してもよい。この場合、簡単な画像処理により、滓の出始めを高い信頼性で検知することができる。
【0014】
本開示の他の側面に係る排滓システムは、上記の制御装置と、傾転装置と、排滓台車と、を備える。
【0015】
本開示の更に他の側面に係る排滓方法は、溶鋼鍋の傾転角度と、排滓台車の位置との関係をそれぞれが表す複数の制御プロファイルであって、少なくとも第1制御プロファイルと、溶鋼鍋の傾転角度と排滓台車の位置との関係が第1制御プロファイルと異なる第2制御プロファイルとを含む複数の制御プロファイルを記憶することと、滓を収容した溶鋼鍋を傾転装置により傾けることと、滓が出始めた際の溶鋼鍋の傾転角度が第1角度である場合には複数の制御プロファイルから第1制御プロファイルを選択し、滓が出始めた際の溶鋼鍋の傾転角度が第1角度よりも大きい第2角度である場合には複数の制御プロファイルから第2制御プロファイルを選択することと、制御プロファイルに従って排滓台車を変位させることと、を含む。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、排滓台車の位置調節における省人化に有効な制御装置、排滓システム及び制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】排滓システムの模式図である。
図2】傾転制御プロファイルを例示するテーブルである。
図3】変位制御プロファイルを例示するテーブルである。
図4】選択基準を例示するテーブルである。
図5】制御装置のハードウェア構成を例示するブロック図である。
図6】溶鋼鍋から排滓台車への排滓における制御手順を例示するフローチャートである。
図7】溶鋼鍋から排滓台車への排滓における制御手順を例示するフローチャートである。
図8】傾転角度と排滓台車位置との関係を示す模式図である。
図9】傾転角度と排滓台車位置との関係を示す模式図である。
図10】傾転角度と排滓台車位置との関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
〔装置〕
図1に示す排滓システム1は、溶鋼鍋に残った滓を回収し、排出するためのシステムである。例えば排滓システム1は、傾転装置2と、排滓台車3と、監視カメラ4と、制御装置100とを備える。傾転装置2は、天井クレーンなどにより搬送された溶鋼鍋9を保持し、電動式又は油圧式等の駆動源により水平な傾転軸線11まわりに溶鋼鍋9を傾転させる。
【0020】
排滓台車3は、傾転装置2が保持する溶鋼鍋9よりも下に位置し、傾転装置2が傾転させた溶鋼鍋9から排出された滓を回収し、回収した滓を所定の搬送経路12に沿って搬送する。搬送経路12は、傾転軸線11に交差(例えば直交)する。ここでの交差は、所謂立体交差のようにねじれの関係にある状態を含む。例えば搬送経路12は、上方から見ると傾転軸線11と交差しているが、水平方向から見ると傾転軸線11よりも下に位置し、傾転軸線11と交差していない。例えば排滓台車3は、受入鍋8の開口を上方に向けて支持し、滓を受入鍋8内に回収し、搬送経路12に沿って受入鍋8を搬送する。
【0021】
監視カメラ4は、例えばITV(Industrial Television)カメラであり、傾転装置2が保持する溶鋼鍋9を撮像する。監視カメラ4は、傾転装置2が溶鋼鍋9を傾転させているときに、滓が出始める縁部を撮像し得るように配置されている。
【0022】
制御装置100は、少なくとも、溶鋼鍋9から排出された滓の落下位置に受入鍋8を配置するように排滓台車3を制御する。傾転装置2は、溶鋼鍋9内の滓を徐々に排出するように、溶鋼鍋9の傾転角度を徐々に増やす。溶鋼鍋9からの滓の落下位置は、主として溶鋼鍋9の傾転角度に応じて変化する。このため、溶鋼鍋9の傾転角度の変化に応じて、排滓台車3を変位させることで、溶鋼鍋9から落下した滓を受入鍋8内に回収し続けることができる。
【0023】
ここで、溶鋼鍋9の縁には地金が蓄積するので、蓄積した地金の高さによって、滓が出始める溶鋼鍋9の傾転角度(以下、「出始め角度」という。)が変化する。出始め角度に応じて、溶鋼鍋9の傾転角度と滓の落下位置との関係も変わる。
【0024】
これに対し、制御装置100は、傾転装置2による溶鋼鍋9の傾転角度と、排滓台車3の位置との関係をそれぞれが表す複数の制御プロファイルであって、少なくとも第1制御プロファイルと、溶鋼鍋9の傾転角度と排滓台車3の位置との関係が第1制御プロファイルと異なる第2制御プロファイルとを含む複数の制御プロファイルを記憶することと、溶鋼鍋9から滓が出始める傾転角度が第1角度である場合には複数の制御プロファイルから第1制御プロファイルを選択し、溶鋼鍋9から滓が出始める傾転角度が第1角度よりも大きい第2角度である場合には複数の制御プロファイルから第2制御プロファイルを選択することと、選択した制御プロファイルに基づき、溶鋼鍋9の傾転角度の変化に対応して排滓台車3を変位させることと、を実行するように構成されている。このため、出始め角度に応じて、溶鋼鍋9の傾転角度と滓の落下位置との関係が変わるのに合わせて、溶鋼鍋9の傾転角度と排滓台車3の位置との関係が調整される。
【0025】
例えば制御装置100は、機能上の構成(以下、「機能ブロック」という。)として、プロファイル記憶部111と、傾転制御部112と、開始検知部113と、プロファイル選択部114と、変位制御部115とを有する。
【0026】
プロファイル記憶部111は、少なくとも1つの傾転制御プロファイルと、複数の変位制御プロファイル(上記複数の制御プロファイル)とを記憶する。傾転制御プロファイルは、溶鋼鍋9の傾転角度の時間変化を定める。例えば傾転制御プロファイルは、傾転軸線11まわりの一方向に溶鋼鍋9の傾転角度を徐々に大きくするように、傾転角度の時間変化を定める。
【0027】
一例として図2に示すように、傾転制御プロファイルは、時系列に並ぶ複数の目標傾転角度を含む。各目標傾転角度は、例えば溶鋼鍋9が鉛直上方に向いた状態からの角度で表される。傾転制御プロファイルは、複数の目標傾転角度のそれぞれに対応付けられた複数の停止時間を含んでいてもよい。傾転制御プロファイルにおける最初の目標傾転角度は、溶鋼鍋9からの滓が出始めることが想定される角度よりも大きい角度に設定されている。
【0028】
複数の変位制御プロファイルのそれぞれは、溶鋼鍋9の傾転角度の時間変化に応じた排滓台車3の位置の変化を定める。例えば各変位制御プロファイルは、溶鋼鍋9の傾転角度が大きくなるにつれて、排滓台車3の位置が溶鋼鍋9の直下(例えば傾転軸線11の直下)に近付くように定められている。
【0029】
一例として図3に示すように、各変位制御プロファイルは、傾転制御プロファイルの複数の目標傾転角度にそれぞれ対応付けられた複数の目標位置を含む。各目標位置は、例えば、傾転軸線11の直下から離れた所定の基準位置からの距離で表される。
【0030】
複数の変位制御プロファイルは、溶鋼鍋9の傾転角度と排滓台車3の位置との関係において互いに異なっており、少なくとも第1制御プロファイルと、第2制御プロファイルとを含む。
【0031】
プロファイル記憶部111は、複数の変位制御プロファイルのうち、排滓台車3の制御に用いる変位制御プロファイルの選択基準を更に記憶する。選択基準は、滓が出始める溶鋼鍋9の傾転角度(上記出始め角度)に応じて選択される変位制御プロファイルが変わるように定められている。滓の排出においては、出始め角度が大きくなるにつれて、同一の傾転角度に対応する滓の落下位置が溶鋼鍋9の直下から遠くなる場合がある。例えば、出始め角度が大きいほど、溶鋼鍋9の縁に地金が高く蓄積していると考えられるので、少なくとも地金の高さの分だけ、滓の落下位置が溶鋼鍋9の直下から遠くなる場合がある。これに対し、選択基準は、出始め角度が大きくなるにつれて、同一の傾転角度に対応する排滓台車3の位置が溶鋼鍋9の直下から遠くなるように定められていてもよい。例えば選択基準は、出始め角度が第1角度である場合には複数の変位制御プロファイルから第1制御プロファイルが選択され、出始め角度が第1角度よりも大きい第2角度である場合には複数の変位制御プロファイルから第2制御プロファイルが選択されるように定められている。そして、第2制御プロファイルにおいて、第1角度及び第2角度よりも大きい第3角度に対応する排滓台車3の位置は、第1制御プロファイルにおいて第3角度に対応する排滓台車3の位置よりも、溶鋼鍋9の直下から遠い。
【0032】
一例として図4に示すように、選択基準は、複数段階の出始め角度範囲ごとに、選択すべき変位制御プロファイルを定める。各出始め角度範囲には、当該出始め角度範囲に属する傾転角度にて滓が出始めた場合に、溶鋼鍋9の傾転角度が変化しても滓の落下位置を受入鍋8内に収め続けることが可能な変位制御プロファイルが対応付けられる。例えば、それぞれの変位制御プロファイルにおいて、同一の傾転角度に対応する排滓台車3の位置は、対応する出始め角度範囲の中央値が大きくなるにつれて溶鋼鍋9の直下から遠くなっている。
【0033】
傾転制御部112は、傾転制御プロファイルに基づいて、傾転装置2により溶鋼鍋9を傾転させる。上述のように、傾転制御プロファイルが複数の目標傾転角度を含む場合、傾転制御部112は、溶鋼鍋9が複数の目標傾転角度まで順次傾転するように、傾転装置2により所定の角速度で溶鋼鍋9を傾転させる。傾転制御プロファイルが複数の停止時間を含む場合、傾転制御部112は、各目標傾転角度において溶鋼鍋9の傾転を一時停止させながら、傾転装置2により溶鋼鍋9を傾転させる。
【0034】
開始検知部113は、傾転制御部112が溶鋼鍋9の傾転を開始させた後、溶鋼鍋9からの滓の出始めを検知する。例えば開始検知部113は、監視カメラ4により撮像された画像に基づいて溶鋼鍋9からの滓の出始めを検知する。一例として、開始検知部113は、監視カメラ4により撮像された画像の輝度上昇に基づいて滓の出始めを検知する。より具体的に、開始検知部113は、監視カメラ4により撮像された画像の輝度が所定の閾値を超えた場合に滓の出始めを検知する。
【0035】
プロファイル選択部114は、溶鋼鍋9から滓が出始める傾転角度が第1角度である場合には複数の傾転制御プロファイルから第1制御プロファイルを選択し、溶鋼鍋9から滓が出始める傾転角度が第1角度よりも大きい第2角度である場合には複数の傾転制御プロファイルから第2制御プロファイルを選択する。
【0036】
例えばプロファイル選択部114は、開始検知部113が溶鋼鍋9からの滓の出始めを検知した際の傾転角度(以下、「出始め角度検出値」という。)に基づいて、複数の変位制御プロファイルのいずれか一つを選択する。一例として、プロファイル選択部114は、プロファイル記憶部111が記憶する上記選択基準と、出始め角度検出値とに基づいて、複数の変位制御プロファイルのいずれか一つを選択する。より具体的に、プロファイル選択部114は、上記選択基準において、出始め角度検出値が属する出始め角度範囲に対応付けられた変位制御プロファイルを選択する。
【0037】
この例において、上記第2角度は、上記第1角度が属する出始め角度範囲よりも高い(出始め角度が大きい)出始め角度範囲に属する。このため、出始め角度検出値が第2角度である場合にプロファイル選択部114が選択する第2制御プロファイルは、出始め角度検出値が第1角度である場合にプロファイル選択部114が選択する第1制御プロファイルに比較して、同一の傾転角度に対応する排滓台車3の位置が溶鋼鍋9の直下から遠いものとなる。
【0038】
変位制御部115は、プロファイル選択部114が選択した変位制御プロファイルに基づき、溶鋼鍋9の傾転に応じて排滓台車3を変位させる。上述のように、変位制御プロファイルが複数の目標傾転角度にそれぞれ対応する複数の目標位置を含む場合、変位制御部115は、傾転制御部112が目標傾転角度まで溶鋼鍋9を傾転させるのに同期して、当該目標傾転角度に対応する目標位置まで所定速度で排滓台車3を変位させる。傾転制御プロファイルが複数の停止時間を含む場合、変位制御部115は、排滓台車3を各目標位置において一時停止させながら変位させる。
【0039】
図5は、制御装置100のハードウェア構成を例示するブロック図である。図5に示すように、制御装置100は、一つ又は複数の制御用コンピュータにより構成される。例えば制御装置100は、回路190を有する。回路190は、一つ又は複数のプロセッサ191と、メモリ192と、ストレージ193と、入出力ポート194とを有する。ストレージ193は、例えばハードディスク等、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を有する。記憶媒体は、不揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク及び光ディスク等の取り出し可能な媒体であってもよい。ストレージ193は、傾転装置2による溶鋼鍋9の傾転角度と、排滓台車3の位置との関係をそれぞれが表す複数の制御プロファイルであって、少なくとも第1制御プロファイルと、溶鋼鍋9の傾転角度と排滓台車3の位置との関係が第1制御プロファイルと異なる第2制御プロファイルとを含む複数の制御プロファイルを記憶することと、溶鋼鍋9から滓が出始める傾転角度が第1角度である場合には複数の制御プロファイルから第1制御プロファイルを選択し、溶鋼鍋9から滓が出始める傾転角度が第1角度よりも大きい第2角度である場合には複数の制御プロファイルから第2制御プロファイルを選択することと、選択した制御プロファイルに基づき、溶鋼鍋9の傾転角度の変化に対応して排滓台車3を変位させることと、を制御装置100に実行させるためのプログラムを記憶している。例えばストレージ193は、上述した各機能ブロックを制御装置100に構成させるためのプログラムを記憶している。
【0040】
メモリ192は、ストレージ193からロードしたプログラム及びプロセッサ191による演算結果を一時的に記憶する。プロセッサ191は、メモリ192と協働して上記プログラムを実行することで、制御装置100の各機能ブロックを構成する。入出力ポート194は、プロセッサ191からの指令に従って、傾転装置2、排滓台車3及び監視カメラ4との間で電気信号の入出力を行う。なお、制御装置100は、必ずしもプログラムにより各機能ブロックを構成するものに限られない。例えば制御装置100の各機能ブロックは、専用の論理回路又はこれを集積したASIC(Application Specific Integrated Circuit)により構成されていてもよい。
【0041】
〔制御手順〕
続いて、制御方法の一例として、制御装置100が実行する制御手順を例示する。この手順は、傾転装置2による溶鋼鍋9の傾転角度と、排滓台車3の位置との関係をそれぞれが表す複数の制御プロファイルであって、少なくとも第1制御プロファイルと、溶鋼鍋9の傾転角度と排滓台車3の位置との関係が第1制御プロファイルと異なる第2制御プロファイルとを含む複数の制御プロファイルを記憶することと、溶鋼鍋9から滓が出始める傾転角度が第1角度である場合には複数の制御プロファイルから第1制御プロファイルを選択し、溶鋼鍋9から滓が出始める傾転角度が第1角度よりも大きい第2角度である場合には複数の制御プロファイルから第2制御プロファイルを選択することと、選択した制御プロファイルに基づき、溶鋼鍋9の傾転角度の変化に対応して排滓台車3を変位させることと、を含む。
【0042】
図6に示すように、制御装置100は、まずステップS01,S02,S03,S04,S05を実行する。ステップS01では、変位制御部115が、排滓台車3を初期位置に配置する。初期位置は、上記出始め角度の値にかかわらず、溶鋼鍋9から出始めた滓の落下位置が受入鍋8内に収まるように予め定められている。ステップS02では、傾転制御部112が、傾転制御プロファイルに基づいて、傾転装置2による溶鋼鍋9の傾転を開始させる。
【0043】
ステップS03では、開始検知部113が、傾転装置2による溶鋼鍋9の傾転角度の情報を傾転制御部112から取得する。ステップS04では、監視カメラ4が撮像した画像を開始検知部113が取得する。ステップS05では、監視カメラ4が撮像した画像に基づいて、溶鋼鍋9から滓が出始めたか否かを、開始検知部113が確認する。
【0044】
ステップS05において溶鋼鍋9から滓が出始めていないと判定した場合、制御装置100は処理をステップS03に戻す。以後、溶鋼鍋9から滓が出始めるまでは、傾転角度の情報及び監視カメラ4が撮像した画像の取得と、溶鋼鍋9から滓が出始めたか否かの確認とが繰り返される。
【0045】
ステップS05において溶鋼鍋9から滓が出始めたと判定した場合、制御装置100はステップS06を実行する。ステップS06では、プロファイル選択部114が、上記選択基準と、上記出始め角度検出値とに基づいて、複数の変位制御プロファイルのいずれか一つを選択する。例えばプロファイル選択部114は、開始検知部113が取得した最新の傾転角度と、プロファイル記憶部111が記憶する上記選択基準とに基づいて、複数の変位制御プロファイルのいずれか一つを選択する。以下、選択された一つの変位制御プロファイルを単に「変位制御プロファイル」という。
【0046】
次に、制御装置100は、図7に示すようにステップS11,S12,S13,S14,S15を実行する。ステップS11では、変位制御部115が、変位制御プロファイルに従った排滓台車3の変位を開始させる。ステップS12では、溶鋼鍋9の傾転角度が傾転制御プロファイルの最初の目標傾転角度に到達するのを傾転制御部112が待機し、排滓台車3の位置が変位制御プロファイルの最初の目標位置に到達するのを変位制御部115が待機する。
【0047】
ステップS13では、傾転制御部112が傾転装置2による溶鋼鍋9の傾転を停止させ、変位制御部115が排滓台車3の変位を停止させる。ステップS14では、傾転制御部112及び変位制御部115が、目標傾転角度に対応付けられた停止時間の経過を待機する。ステップS15では、溶鋼鍋9の傾転角度が、傾転制御プロファイルにおける最終の目標傾転角度に到達しているか否かを確認する。
【0048】
ステップS15において溶鋼鍋9の傾転角度が最終の目標傾転角度に到達していないと判定した場合、制御装置100はステップS16を実行する。ステップS16では、傾転制御部112が、次の目標傾転角度まで、傾転装置2により所定角速度で溶鋼鍋9を傾転させ、変位制御部115が、次の目標位置まで、所定速度で排滓台車3を変位させる。その後、制御装置100は処理をステップS14に戻す。以後、溶鋼鍋9の傾転角度が上記最終の目標傾転角度に到達するまで、各目標傾転角度において溶鋼鍋9の傾転を一時停止させながら、傾転制御部112が傾転装置2により溶鋼鍋9を傾転させ、変位制御部115が排滓台車3を各目標位置において一時停止させながら変位させる。
【0049】
ステップS15において溶鋼鍋9の傾転角度が最終の目標傾転角度に到達したと判定した場合、傾転装置2及び排滓台車3の制御手順が完了する。
【0050】
〔本実施形態の効果〕
以上に説明したように、制御装置100は、傾転装置2による溶鋼鍋9の傾転角度と、排滓台車3の位置との関係をそれぞれが表す複数の制御プロファイルであって、少なくとも第1制御プロファイルと、溶鋼鍋9の傾転角度と排滓台車3の位置との関係が第1制御プロファイルと異なる第2制御プロファイルとを含む複数の制御プロファイルを記憶するプロファイル記憶部111と、溶鋼鍋9から滓が出始める傾転角度が第1角度である場合には複数の制御プロファイルから第1制御プロファイルを選択し、溶鋼鍋9から滓が出始める傾転角度が第1角度よりも大きい第2角度である場合には複数の制御プロファイルから第2制御プロファイルを選択するプロファイル選択部114と、プロファイル選択部114が選択した制御プロファイルに基づき、溶鋼鍋の傾転に応じて排滓台車3を変位させる変位制御部115と、を備える。
【0051】
傾転装置2は、溶鋼鍋9内の滓を徐々に排出するように、溶鋼鍋9の傾転角度を徐々に増やす。溶鋼鍋9からの滓の落下位置は、主として溶鋼鍋9の傾転角度に応じて変化する。このため、溶鋼鍋9の傾転角度の変化に応じて、排滓台車3を変位させることで、溶鋼鍋9から落下した滓を受入鍋8内に回収し続けることができる。
【0052】
ここで、溶鋼鍋9の縁には地金が蓄積するので、蓄積した地金の高さによって、滓が出始める溶鋼鍋9の傾転角度(以下、「出始め角度」という。)が変化する。出始め角度に応じて、溶鋼鍋9の傾転角度と滓の落下位置との関係も変わる。
【0053】
これに対し、制御装置100は、出始め角度が第1角度である場合には第1制御プロファイルを選択する。出始め角度が第2角度である場合には、溶鋼鍋9の傾転角度と排滓台車3の位置との関係が第1制御プロファイルと異なる第2制御プロファイルを選択する。そして、選択した制御プロファイルに従って排滓台車3を変位させる。このため、出始め角度に応じて、溶鋼鍋9の傾転角度と滓の落下位置との関係が変わるのに合わせて、溶鋼鍋9の傾転と排滓台車3の変位との関係が調整される。従って、排滓台車3の位置調節における省人化に有効である。
【0054】
例えば、出始め角度が第2角度である場合には、出始め角度が第1角度である場合に比較して、同一の傾転角度に対する滓の落下位置が溶鋼鍋9の直下から遠くなる場合がある。そこで、第2制御プロファイルにおいて、第1角度及び第2角度よりも大きい第3角度に対応する排滓台車3の位置は、第1制御プロファイルにおいて第3角度に対応する排滓台車3の位置よりも、溶鋼鍋9の直下から遠くてもよい。
【0055】
蓄積された地金の有無によらず、滓が出始めた後には、溶鋼鍋9の傾転角度が大きくなるにつれて滓の落下位置が溶鋼鍋9の直下に近付く傾向がある。そこで、第1制御プロファイル及び第2制御プロファイルのそれぞれにおいて、溶鋼鍋9の角度が大きくなるにつれて排滓台車3の位置が溶鋼鍋9の直下に近付いてもよい。
【0056】
例えば図8の(a)においては、溶鋼鍋9の傾転角度が角度θ1(第1角度)となったときに溶鋼鍋9から滓91が出始め、落下位置P1に落下している。排滓台車3の初期位置は、受入鍋8が落下位置P1の直下の近傍に位置するように配置されているので、落下位置P1は受入鍋8内に収まっている。
【0057】
図8の(b)においては、溶鋼鍋9の傾転角度が角度θ1から角度θ2まで大きくなり、滓91の落下位置が、傾転軸線11の直下(以下、「基準位置」という。)P0に近付く方向に向かって落下位置P1から落下位置P2まで変位している。この場合、制御装置100は、第1制御プロファイルに基づき、溶鋼鍋9の傾転角度が角度θ1から角度θ2まで大きくなるのに応じて排滓台車3を変位させる。これにより、落下位置P2は受入鍋8内に収まる。
【0058】
図9の(a)においては、溶鋼鍋9の縁に蓄積した地金M1にせき止められて、溶鋼鍋9の傾転角度が角度θ1に達しても滓91が出始めていない。地金M1にせき止められた滓91は、図9の(b)に示すように、溶鋼鍋9が更に角度θ11(第2角度)まで傾転したタイミングで溶鋼鍋9から出始め、落下位置P11に落下する。地金M1の影響により、落下位置P11と落下位置P1とに差異が生じるものの、この差異は比較的小さいので、排滓台車3が図8の(a)と同じ初期位置に配置されていても、落下位置P11は受入鍋8内に収まっている。
【0059】
図10の(a)においては、溶鋼鍋9の傾転角度が角度θ11から角度θ2まで大きくなり、滓91の落下位置が、傾転軸線11の直下(以下、「基準位置」という。)P0に近付く方向に向かって落下位置P11から落下位置P21まで変位している。落下位置P21は、落下位置P2に比較して基準位置P0から遠い。このため、仮に制御装置100が第1制御プロファイルに基づき排滓台車3を変位させる場合、図10の(a)に示すように、落下位置P21が受入鍋8内の中央から大きく外れ、受入鍋8内に収まらない可能性もある。
【0060】
これに対し、制御装置100は、第1制御プロファイルに比較して、同一の傾転角度に対応する排滓台車3の位置が溶鋼鍋9の直下から遠い第2制御プロファイルに基づき、溶鋼鍋9の傾転角度が角度θ11から角度θ2まで大きくなるのに応じて排滓台車3を変位させる。このため、図10の(b)に示すように、落下位置P21が受入鍋8内に収まる。
【0061】
制御装置100は、溶鋼鍋9からの滓の出始めを検知する開始検知部113を更に備え、プロファイル選択部114は、開始検知部113が溶鋼鍋9からの滓の出始めを検知した際の傾転角度に基づいて、複数の制御プロファイルのいずれか一つを選択してもよい。この場合、実際の出始め角度に基づいて、制御プロファイルがリアルタイムに変えられるので、排滓台車3の位置をより適切に調節することができる。
【0062】
開始検知部113は、監視カメラ4により撮像された画像に基づいて溶鋼鍋9からの滓の出始めを検知してもよい。この場合、監視カメラ4を出始め角度の検知に有効活用し、システム構成の簡素化を図ることができる。
【0063】
開始検知部113は、監視カメラ4により撮像された画像の輝度上昇に基づいて滓の出始めを検知してもよい。この場合、簡単な画像処理により、滓の出始めを高い信頼性で検知することができる。
【0064】
以上、実施形態について説明したが、本開示は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0065】
1…排滓システム、2…傾転装置、3…排滓台車、4…監視カメラ、9…溶鋼鍋、100…制御装置、111…プロファイル記憶部、113…開始検知部、114…プロファイル選択部、115…変位制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10