(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】油性ボールペン
(51)【国際特許分類】
C09D 11/18 20060101AFI20240912BHJP
B43K 7/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C09D11/18
B43K7/00
(21)【出願番号】P 2020193000
(22)【出願日】2020-11-20
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 千夏
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-302295(JP,A)
【文献】特開平03-207772(JP,A)
【文献】国際公開第2019/004084(WO,A1)
【文献】特開2005-290197(JP,A)
【文献】特開平10-101982(JP,A)
【文献】特開2020-070346(JP,A)
【文献】特開平11-217532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に、筆記具用油性インキ組成物を収容してなる油性ボールペンであって、前記筆記具用油性インキ組成物が、着色剤、有機溶剤、一般式(化1)で表される化合物を含んでなることを特徴とする
油性ボールペン。
【化1】
【請求項2】
前記一般式(化1)で表される化合物の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1~10質量%を含んでなることを特徴とする請求項1に記載の
油性ボールペン。
【請求項3】
前記一般式(化1)で表される化合物の重量分子量が、10万以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の
油性ボールペン。
【請求項4】
前記有機溶剤が、アルコール溶剤であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の
油性ボールペン。
【請求項5】
20℃、剪断速度5sec
-1におけるインキ粘度が、30000mPa・s以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の
油性ボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
筆記具用油性インキ組成物において、チップ先端部を大気中に放置すると、インキ中の溶媒などが蒸発して、着色剤や樹脂などが乾燥固化したときに、ドライアップ時の書き出しにおいて筆跡カスレが発生してしまう欠点があった。
【0003】
このようなドライアップ時の書き出し性能を向上するために、様々な溶剤や添加剤を用いることを検討していた。例えば、蒸気圧0.005~0.5mmHg(20℃)である不揮発性の有機溶剤を主溶剤として含有したものとしては、特開平6-247093号公報「油性ボールペン」が開示されており、特定分子量の200~4,000,000であるポリエチレングリコールを含有したものとしては、特開平7-196971公報「油性ボールペン用インキ組成物」が開示されており、デカマカデミアナッツ油脂肪酸デカグリセリルと、アルキル基の炭素数が16以上であり常温で固体のポリオキシエチレンアルキルエーテルとを少なくとも含有するものとしては、特開2008-88264号公報「ボールペン用油性インキ組成物」等に、開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1では、有機溶剤として、蒸気圧0.005~0.5mmHg(20℃)である不揮発性の有機溶剤を含有すると、インキが完全に乾ききるのを防ぐ効果はあるが、筆跡の乾燥性が悪く、それだけではドライアップ時の書き出し性能を満足させることができなかった。
【0005】
また、特許文献2では、添加剤として、特定分子量のポリエチレングリコールを含有すると、チップ先端部に樹脂皮膜を形成することで、それ以上のチップ先端部の乾燥を抑制して、チップ内のインキ増粘を抑制えることにより、ある程度書き出し性能を向上することは可能ではあるが、樹脂皮膜が硬いため、ドライアップ時の書き出しにおいて、筆跡カスレが発生してしまい、十分な書き出し性能が得られなかった。
【0006】
また、特許文献3では、デカマカデミアナッツ油脂肪酸デカグリセリルとポリオキシエチレンアルキルエーテルを併用することで、ある程度、書き出し性能を向上することは可能ではあるが、潤滑性が十分でなく、高筆圧で筆記する場合は(耐高筆圧筆記、筆記荷重300~500gf)、潤滑性に影響が出てしまい、ボール座の摩耗が促進することで、筆跡カスレの発生や、書き味が劣りやすい。さらに、特殊な界面活性剤を用いているため、着色剤、有機溶剤、他の界面活性剤などの選定次第では、インキ経時安定性に影響してしまい、着色剤や他の界面活性剤との相性が合わないと、析出物が発生してしまい、筆記不良の原因となる問題が発生しやすかった。
【0007】
また、特許文献4では、潤滑性を向上して、書き味を向上させるために、特開2007-176995号公報「油性ボールペン用インキ」では、新たな潤滑剤として、N-アシルアミノ酸、N-アシルメチルタウリン酸、N-アシルメチルアラニンを用いたが、筆記先端部と被筆記面との間で筆記抵抗をある程度低減することはできるが、十分に満足できるものではなく、高筆圧筆記(耐高筆圧筆記、筆記荷重300~500gf)では、潤滑性に影響が出てしまい、ボール座の摩耗が促進してしまい、さらに書き出し性能も満足な性能が得られず、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】「特開平6-247093号公報」
【文献】「特開平7-196971号公報」
【文献】「特開2008-88264号公報」
【文献】「特開2007-176995号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の特許文献1~4では満足できなかった、ドライアップ時の書き出し性能と、高筆圧で筆記する場合(耐高筆圧筆記、筆記荷重300~500gf)における潤滑性の両性能を満足できる筆記具用油性インキ組成物が必要とされている。特に、ノック式筆記具(油性ボールペン)や回転繰り出し式筆記具(油性ボールペン)等の出没式筆記具(油性ボールペン)を用いた場合では、書き出し性能に影響が出やすいので重要となる。さらに、近年では、油性ボールペンで、書き味を良好とするために、インキの低粘度化がすすんでおり、高筆圧で筆記する場合は(耐高筆圧筆記、筆記荷重300~500gf)、潤滑性に影響が出やすく、ボール座の摩耗がすすむことで、筆記性能に影響しやすい。そのため、筆記先端部と被筆記面との間で筆記抵抗をより低減するために、より潤滑性を向上して、耐高筆圧筆記の向上が求められている。
【0010】
本発明の目的は、書き出し性能と、高筆圧下(筆記荷重300~500gf)におけるボール座の摩耗抑制と、書き味を向上することが可能で、さらにインキ経時安定性が良好である筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために
「1.着色剤、有機溶剤、一般式(化1)で表される化合物を含んでなることを特徴とする筆記具用油性インキ組成物。
【化1】
2.前記一般式(化1)で表される化合物の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1~10質量%を含んでなることを特徴とする第1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
3.前記一般式(化1)で表される化合物の重量分子量が、10万以下であることを特徴とする第1項または第2項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
4.前記有機溶剤が、アルコール溶剤であることを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
5.20℃、剪断速度5sec
-1におけるインキ粘度が、30000mPa・s以下であることを特徴とする第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
6.第1項~第5項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物を収容してなることを特徴とする筆記具。
7.インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物を収容してなることを特徴とする油性ボールペン。」とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、インキ中に含まれる、一般式(化1)で表される化合物によって、形成される被膜が、剥がれやすいことで、書き出し性能を向上しつつ、同時に、筆記時(ボールの回転時)においても、従来よりも筆記先端部の筆記抵抗(ボールの回転抵抗)を低減することで、高筆圧下(筆記荷重300~500gf)におけるボール座の摩耗抑制と、書き味を向上し、さらに、インキ経時安定性が良好である筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具を得ることができた。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準であり、含有量とは、インキ組成物の質量を基準としたときの構成成分の質量%である。
【0014】
一般式(化1)で表される化合物)本発明の特徴は、一般式(化1)で表される化合物を含んでなる筆記具用油性インキ組成物とすることである。これは、チップ先端部が乾燥した場合、チップ先端部において、インキ中に含まれる、一般式(化1)で表される化合物によって、形成される被膜が、安定した均一の脆い被膜であるため、剥がれやすいことで、書き出し性能を向上しつつ、同時に、筆記時(ボールの回転時)においても、該被膜が脆いため、従来よりも筆記先端部の筆記抵抗(ボールの回転抵抗)を低減することで、高筆圧下(筆記荷重300~500gf)におけるボール座の摩耗抑制と、書き味を向上することができる。
さらに、一般式(化1)で表される化合物を含んでなることで、潤滑層を形成することによって、筆記先端部と被筆記面との間の潤滑性(ボールとチップ本体との間の潤滑性も含む)を保ち、筆記先端部の筆記抵抗(ボールの回転抵抗)を抑制して、書き味を向上することができるようになる。そのため、前述したように形成される被膜が脆いことによる、筆記先端部の筆記抵抗(ボールの回転抵抗)を低減することと併せて、潤滑層を形成することによる筆記先端部の筆記抵抗(ボールの回転抵抗)を低減することの相乗効果により、特段の高筆圧下(筆記荷重300~500gf)におけるボール座の摩耗抑制と、書き味を向上することができるため効果的である。特に、ボールペンの場合では、金属材のボールペンチップにおいて、一般式(化1)で表される化合物が、金属表面へ吸着し、潤滑層が形成しやすく、より書き味を向上することができるため、効果的である、
さらに、一般式(化1)で表される化合物は、インキ中の他成分による析出物が発生しづらく、インキ経時安定性を良好とすることが可能となるためである。
そのため、上記したように、書き出し性能、高筆圧下(筆記荷重300~500gf)におけるボール座の摩耗抑制、書き味、インキ経時安定性を全て良好とすることが可能である。
【化1】
【0015】
(一般式(化1)で表される化合物)
本発明においては、一般式(化1)で表される化合物は、上記のような構造式で示されるもので、主鎖にイオン性基、グラフト鎖にポリオキシアルキレン鎖を有する多官能櫛形の高分子カルボン酸である。また、前記化合物は、吸着基として機能するイオン性基、溶解性のコントロールするグラフト鎖を有する化合物である。
【0016】
本発明で用いられる一般式(化1)で表される化合物の重量平均分子量は、インキ中での安定性を考慮して本発明の効果を得られやすいことを考慮すれば、前記重量平均分子量は10万以下であることが好ましく、より書き出し性能、高筆圧下(筆記荷重300~500gf)におけるボール座の摩耗抑制を考慮すれば、前記重量平均分子量は8万以下であることが好ましく、前記重量平均分子量は6万以下であることが好ましく、前記重量平均分子量は4万5千以下であることが好ましい。また、書き出し性能、高筆圧下(筆記荷重300~500gf)におけるボール座の摩耗抑制効果を得られやすくするには、前記重量平均分子量は5000以上が好ましく、1万以上が好ましい。
【0017】
また、前記一般式(化1)で表される化合物については、構造中の吸着部位によって吸着しやすく、書き出し性能と高筆圧下(筆記荷重300~500gf)におけるボール座の摩耗抑制(潤滑性)との両方をより向上させることを考慮すれば、一般式(化1)のRのアルキル基の炭素数は1~4であることが好ましい。
また、前記一般式(化1)で表される化合物のAO(アルキレンオキシド基)については、書き出し性能と高筆圧下(筆記荷重300~500gf)におけるボール座の摩耗抑制(潤滑性)との両方をより向上させることを考慮すれば、y(AO付加数)が1~40であることが好ましく、y(AO付加数)が1~30であることが好ましく、5~25であることが好ましく、7~18であることが好ましい。
また、前記一般式(化1)で表される化合物のxについては、上記のような効果を考慮すれば、10~30であることが好ましく、15~25であることが好ましい。
特に、ノック式ボールペンや回転繰り出し式ボールペン等の出没式ボールペンにおいては、キャップ式ボールペンとは異なり、常時ペン先が外部に露出した状態であるため、筆記先端部の乾燥時の書き出し性能に影響しやすいことから、上記HLB値とした一般式(化1)で表される化合物を用いることはより好ましい。
【0018】
また、一般式(化1)で表される化合物は、ポリオキシアルキレンアリルエーテルと、無水マレイン酸と、スチレンとの共重合体であり、書き出し性能、高筆圧下(筆記荷重300~500gf)におけるボール座の摩耗抑制、書き味、インキ経時安定性を全て良好とすることを考慮すれば、ポリオキシエチレンアリルエーテル、無水マレイン酸と、スチレンとの共重合体、または、ポリオキシプロピレンアリルエーテル、無水マレイン酸と、スチレンとの共重合体であることが好ましい。
前記一般式(化1)で表される化合物としては、具体的には、マリアリムAKM-0531、同AAB-0851、同AFB-1521などのマリアリムシリーズ(日油(株)社製)などが挙げられる。
【0019】
一般式(化1)で表される化合物の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1~10質量%がより好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、所望の書き出し性能、高筆圧下(筆記荷重300~500gf)におけるボール座の摩耗抑制、書き味が得られにくく、10質量%を越えると、インキ経時が不安定になりやすいためであり、より考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.3~7質量%が好ましく、より考慮すれば、0.5~5質量%が好ましく、1.5~5質量%が好ましい。
【0020】
(有機溶剤)
本発明に用いる有機溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール等のグリコールエーテル溶剤、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコール等のグリコール溶剤、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t-ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール溶剤など、筆記具用インキとして一般的に用いられる有機溶剤が例示できる。
【0021】
これらの有機溶剤の中でも、一般式(化1)で表される化合物と溶解安定性を考慮し、本発明の効果を得られやすくするには、アルコ-ル溶剤が好ましい。さらに、芳香環を有することで潤滑性を向上し、より一般式(化1)で表される化合物との溶解安定性を考慮すれば、芳香族アルコ-ル溶剤を用いることが好ましい。
また、グリコールエーテル溶剤を用いると、適切な吸湿性により、チップ先端部が乾燥したときに形成する被膜の水分を適切に保持して被膜を軟化させ、書き出し性能を向上しやすいため、本発明のように一般式(化1)で表される化合物を用いる場合は、より効果的であり、好ましい。
【0022】
また、有機溶剤の含有量は、溶解性、潤滑性、筆跡乾燥性などを向上することを考慮すると、インキ組成物全量に対し、10~90質量%が好ましく、より考慮すれば、20~90質量%が好ましく、より好ましくは40~70質量%である。
【0023】
(着色剤)
本発明に用いる着色剤は、染料、顔料等、特に限定されるものではなく、適宜選択して使用することができ、染料、顔料は併用して用いても良い。染料としては、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料などや、それらの各種造塩タイプの染料等として、酸性染料と塩基性染料との造塩染料、塩基性染料と有機酸との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料などの種類が挙げられる。これらの染料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0024】
また、着色剤としては、潤滑性を考慮すれば、顔料を用いることが好ましい、これは、ボールとチップ本体の隙間に顔料粒子が入り込むことで、ベアリングのような作用が働きやすく、金属部材同士の直接的な接触を抑制することで、潤滑性を向上し、書き味を向上し、ボール座の摩耗を抑制する効果が得られやすいためである。さらに、顔料は、耐水性、耐光性に優れ、良好な発色を得られるため、好ましい。
【0025】
また、顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、ジケトピロロピロール系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ジオキサジン系、メタリック顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。
顔料の中でも、カーボンブラック、キナクリドン系、スレン系、ジケトピロロピロール系の顔料の中から用いることが好ましく、さらに経時安定性の観点から、ジケトピロロピロール系の顔料を用いることが好ましい。
【0026】
着色剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、5~45質量%が好ましい。これは5質量%未満だと、濃い筆跡が得られにくい傾向があり、45質量%を越えると、インキ中での溶解性、インキ経時安定性に影響しやすい傾向があるためで、よりその傾向を考慮すれば、7~40質量%が好ましく、さらに考慮すれば、10~40質量%がより好ましい。
【0027】
(樹脂)
また、インキ漏れ抑制をより向上するためには、樹脂をインキ粘度調整剤として、用いることが好ましい、樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ケトン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、テルペン樹脂、アルキッド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂などが挙げられるが、その中でも、ポリビニルブチラール樹脂またはケトン樹脂を含んでなることが好ましい。
【0028】
ポリビニルブチラール樹脂についても、より高い潤滑効果が得られる潤滑層を形成しやすい。これは、前記ポリビニルブチラール樹脂を用いると、ボールとボール座との間に常に弾力性があるインキ層を形成して、直接接触しづらくするため、書き味を向上しやすく、一般式(化1)で表される化合物と併用することで形成される潤滑層とによる相乗効果によって、より高い潤滑効果が得られやすい。さらに、前記ポリビニルブチラール樹脂を用いると、形成する被膜によって、インキ漏れをより向上しやすくなるため、好ましく、また、着色剤として顔料を用いる場合は、顔料分散効果も得られるため、ポリビニルブチラール樹脂を用いることが好ましい。
ここで、ポリビニルブチラール樹脂は、ポリビニルアルコール(PVA)をブチルアルデヒド(BA)と反応させたものであり、ブチラール基、アセチル基、水酸基を有した構造である。
【0029】
また、ポリビニルブチラール樹脂は、水酸基量25mol%以上とすることが好ましい。これは、水酸基量25mol%未満のポリビニルブチラール樹脂では、有機溶剤への溶解性が十分でなく、十分な潤滑効果や、インキ漏れ抑制の効果が得られにくく、さらに、吸湿性による書き出し性能を考慮すると、水酸基量25mol%以上のポリビニルブチラール樹脂を用いることが好ましいためである。また、前記水酸基量30mol%以上のポリビニルブチラール樹脂は、書き味が向上しやすくなるため、好ましい。これは、筆記時において、ボールの回転により摩擦熱が発生することで、チップ先端部のインキが温められて、該インキの温度が高くなるが、前記ポリビニルブチラール樹脂は他の樹脂とは違い、インキ温度が高くなっても、インキ粘度を下がりづらくする性質があり、ボールとボール座との間に常に弾力性があるインキ層を形成して、直接接触しづらくするため、書き味を向上しやすい傾向がある。特に、ボールペンでは、高筆圧で筆記することも多いため、油性ボールペンでは効果的である。また、前記水酸基量40mol%を越えるポリビニルブチラール樹脂を用いると、吸湿量が多くなりやすく、インキ成分との経時安定性に影響が出やすいため、水酸基量40mol%以下のポリビニルブチラール樹脂が好ましい。そのため、水酸基量30~40mol%のポリビニルブチラール樹脂が好ましく、さらに好ましくは、水酸基量30~36mol%が好ましい。
なお、前記ポリビニルブチラール樹脂の水酸基量(mol%)とは、ブチラール基(mol%)、アセチル基(mol%)、水酸基(mol%)の 全mol量に対して、水酸基(mol%)の含有率を示すものである。
【0030】
また、ポリビニルブチラール樹脂の平均重合度については、前記平均重合度は200以上であると、インキ漏れ抑制性能が向上しやすく、また、前記平均重合度は2500を超えると、インキ粘度が高くなりすぎて書き味に影響する傾向があるため、前記平均重合度は、200~2500が好ましい。さらに、より考慮すれば、前記平均重合度は1500以下が好ましく、一般式(化1)で表される化合物との相互的な潤滑効果を考慮すれば、前記平均重合度は、200~1000が好ましい。ここで、平均重合度とは、ポリビニルブチラール樹脂の1分子を構成している基本単位の数をいい、JISK6728(2001年度版)に規定された方法に基づいて測定された値を採用可能である。
【0031】
ポリビニルブチラール樹脂の含有量は、筆記具用油性組成物中の全樹脂の含有量に対して50%以上とし、主たる樹脂として用いることが好ましい。これは、ポリビニルブチラール樹脂の含有量が全樹脂の含有量の50%未満となると、その他の樹脂によって、弾力性があるインキ層を形成するのを阻害してしまいやすく、書き味向上の効果が得られづらくなり、さらに、チップ先端の樹脂被膜の形成を阻害しやすく、インキ垂れ下がりを抑制できず、さらに弾力性があるインキ層を形成するのを阻害してしまい、書き味向上の効果が得られづらくなるためである。より書き味やインキ垂れ下がり性能を向上する傾向を考慮すれば、ポリビニルブチラール樹脂の含有量は、全樹脂の含有量に対して70%以上が好ましく、90%以上が好ましい。
【0032】
前記樹脂の含有量は、インキ組成物全量に対し、1質量%より少ないと、所望の潤滑性やインキ漏れ抑制性能が劣りやすく、40質量%を越えると、インキ中で溶解性が劣りやすいため、インキ組成物全量に対し、1~40質量%が好ましい。さらに、考慮すれば5質量%以上が好ましく、30質量%を越えると、インキ粘度が高くなりすぎて書き味に影響する傾向があるため、5~30質量%が好ましく、より考慮すれば、10~25質量%が好ましく、7~15質量%が最も好ましい。
【0033】
(界面活性剤)
本発明によるインキ組成物は、界面活性剤を含むことが好ましい。これは、界面活性剤が、インキ組成物中に含まれる樹脂などによって筆記先端部に形成される被膜を柔らかくし、書き出し性能を向上しやすく、さらに潤滑性を向上して、書き味を向上しやすいためである。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤などあるが、ノニオン系界面活性剤を用いることが好ましい。これは、非イオン性であることによって、インキ組成物中に含まれる他成分による析出物が発生しづらいため、経時安定性を改良することができるためである。
【0034】
ノニオン系界面活性剤については、経時安定性を考慮すれば、HLB値が16以下であることが好ましく、3~14であることがより好ましく、3~11であることが特に好ましい。なお、HLB値は、グリフィン法などから求めることができる。
【0035】
ノック式筆記具や回転繰り出し式筆記具等の出没式筆記具においては、キャップ式筆記具とは異なり、ペン先が外部に常時露出した状態である。このような場合、筆記先端部が乾燥しやすい。上記HLB値を有する界面活性剤は、そのような問題も改良することができるので、それを用いることはより好ましい。
【0036】
また、ノニオン系界面活性剤としては、脂肪酸エステル類、ポリアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルイミダゾリン、アルキルアルカノールアミド、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、アセチレン結合を有する界面活性剤などが挙げられる。その中でも、上記のような書き出し性能、および経時安定性を考慮すれば、脂肪酸エステル類、ポリアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルイミダゾリン、アルキルアルカノールアミドの中から1種以上を選択することが好ましい。特に書き出し性能を向上することを考慮すれば、脂肪酸エステル類を用いることが好ましい。これらは、単独または2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0037】
また、脂肪酸エステル類としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルなどが挙げられる。このうち、一般式(化1)で表される化合物との相互作用により書き出し性能を改良されやすいので、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、アルキルイミダゾリンの中から1種以上を選択することが好ましく、さらに、環状骨格を有している構造であるソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アルキルイミダゾリンを用いることが好ましい。また水酸基を複数有する脂肪酸エステルは、筆記先端部に形成される被膜の水分を適切に保持できるので、ソルビタン脂肪酸エステル、または、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであるソルビタン脂肪酸エステル類の中から1種以上を選択することが好ましい。
【0038】
また、書き出し性能を考慮すれば、ソルビタン脂肪酸エステル類のアルキル基に含まれる炭素数が1~20であることが好ましい。さらに潤滑層を形成するのに適した長さとすることで、高筆圧下におけるボール座の摩耗抑制が改良されやすいので、ソルビタン脂肪酸エステル類のアルキル基に含まれる炭素数が10~20であることが好ましく、12~18であることが好ましい。
【0039】
ソルビタン脂肪酸エステル類としては、具体的に、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノココエート、ソルビタンジラウレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタンジオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレートやそれらの複合物などのソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレートやそれらの複合物などのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが挙げられる。
【0040】
ノニオン系界面活性剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1~15質量%がより好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、所望の高筆圧下(筆記荷重300~500gf)におけるボール座の摩耗抑制と、書き味を向上し、書き出し性能、インキ追従性が得られにくく、15質量%を越えると、インキ経時が不安定になりやすい傾向があるためである。その傾向を考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.5~10質量%が好ましく、1~5質量%が、最も好ましい。
【0041】
本発明において、筆記先端(ボールペンのボールとボール座)の潤滑性を向上し、書き味の向上や、筆記先端部を大気中に放置し、筆記先端部が乾燥したときの書き出し性能の更なる向上を考慮すると、アニオン系界面活性剤を含んでなることが好ましい。このようなアニオン系界面活性剤としてはリン酸エステル系界面活性剤を挙げることができる。さらに、経時安定性を良好に保ちつつ、潤滑性を良好に保つことを考慮すれば、ノニオン系界面活性剤とアニオン系界面活性剤を併用することが好ましい。
【0042】
リン酸エステル系界面活性剤は、リン酸基を有することから、金属表面に吸着しやすく、特に、ボールとボール座との間に潤滑膜を形成することができる。この結果、潤滑性を向上し、書き味を良化させることができる。そのため、リン酸エステル系界面活性剤と一般式(化1)で表される化合物を組み合わせることにより、双方の潤滑作用が働き、相乗的にボールとボール座の間の潤滑性をより一層向上させることができ、滑らかな書き味をもたらす。さらに、リン酸エステル系界面活性剤は、書き出し性能の向上する効果も有し、一般式(化1)で表される化合物と併用することで、より書き出し性能を一層向上させることができるためである。
【0043】
さらに、リン酸エステル系界面活性剤は、防錆効果を有するため、ボールが金属製である場合は、ボールの腐食が抑制されて、書き味が良好に維持され、ボール座の摩耗が抑制されるので好ましい。特にボールがコバルト、ニッケル、クロム等を含む合金製である場合、これらの金属はリン酸エステル系界面活性剤の防錆効果によって経時による腐食を受けにくいので好ましい。この傾向は、ボール材として、超硬合金ボール、特に、ボール材として、タングステンカーバイドを主成分とし、結合材としてコバルト、ニッケル、クロム等を含む超硬合金ボールの場合に顕著であり、好ましい。
【0044】
このため、本発明において、アニオン性界面活性剤、特にリン酸エステル系界面活性剤と一般式(化1)で表される化合物とを併用することは効果的である。
【0045】
さらに、本発明によるインキ組成物はポリビニルブチラールを含んでいてもよい。ポリビニルブチラールも潤滑性改良の効果を有するが、アニオン性界面活性剤、特にリン酸エステル系界面活性剤と組み合わせることにより、ポリビニルブチラールによる潤滑性改良効果と、アニオン性界面活性剤(特にリン酸エステル系界面活性剤)による潤滑性改良効果により、潤滑性がより一層、向上しやすく、好ましい。
【0046】
リン酸エステル系界面活性剤において、一般式(化1)で表される化合物との相互作用による潤滑性と書き出し性能との両方をより向上させることを考慮すれば、HLB値が6~18であることが好ましく、6~14であることがより好ましい。これは、HLB値が18を越えると親水性が強くなりやすく、油性インキ組成物中での溶解性が劣りやすいため、リン酸エステル系界面活性剤の効果、特に、潤滑効果が得られにくいためである。また、HLB値が6未満だと、親油性が強くなり過ぎて、有機溶剤との相溶性に影響が出やすく、経時安定性が得られにくく、さらに書き出し性能が向上しにくいためである。さらに、潤滑性を考慮れば、HLB値が17以下にすることが好ましく、12以下にすることがより好ましい。すなわち、HLB値が6~17であることが好ましく、6~12であることがより好ましい。また、さらに書き出し性能を考慮すれば、HLB値が7~17であることが好ましく、7~12であることがより好ましい。特に、ノック式ボールペンや回転繰り出し式ボールペン等の出没式ボールペンにおいては、ペン先が外部に常時露出した状態であるため、筆記先端部が乾燥しやすい。このために書き出し性能を改良するために、上記HLB値を有するリン酸エステル系界面活性剤を用いることはより好ましい。なお、HLB値は、グリフィン法、川上法などから求めることができる。
【0047】
リン酸エステル系界面活性剤としては、アルコキシ基(CaH2a+1O)を有するリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸トリエステル、アルキルリン酸エステル、アルキルエーテルリン酸エステル或いはその誘導体等が挙げられる。
【0048】
これらの中でも、高筆圧下(筆記荷重300~500gf)におけるボール座の摩耗抑制を考慮すれば、アルキル基を有するリン酸エステル系界面活性剤を用いることが好ましく、特に、アルキル基に含まれる炭素数が8~18であることが好ましく、10~18であることがより好ましく、12~18であることがさらに好ましい。これは、アルキル基の炭素数が過度に少ないと、潤滑性が不足しやすい傾向があり、炭素数が過度に多いと、経時安定性に影響が出やすい傾向があるためである。
【0049】
また、リン酸エステル系界面活性剤を用いる場合は、酸価は、200(mgKOH/g)以下とすることが好ましく、170(mgKOH/g)以下とすることがより好ましく、150以下とすることがさらに好ましい、これは、リン酸エステル系界面活性剤による潤滑性の向上を発揮しやすくするためである。さらに、インキ組成物中での安定性や、潤滑性を考慮すれば、酸価は30~170(mgKOH/g)が好ましく、40~160(mgKOH/g)が好ましく、70~120(mgKOH/g)がより好ましい。
【0050】
なお、酸価については、試料1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表すものとする。
【0051】
本発明では、インキ中でのインキ成分の安定性を考慮すれば、有機アミンを用いることが好ましい。オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン等のエチレンオキシドを有するアミンや、ラウリルアミン、ステアリルアミン等のアルキルアミンや、ジステアリルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルオクチルアミン等のジメチルアルキルアミン等の脂肪族アミンが挙げられ、その中でも、インキ中での安定性を考慮すれば、エチレンオキシドを有するアミン、ジメチルアルキルアミンが好ましい。
【0052】
また、その他として、粘度調整剤として、脂肪酸アマイド、水添ヒマシ油などの擬塑性付与剤を、また、着色剤安定剤、可塑剤、キレート剤などを適宜用いても良い。これらは、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0053】
本発明の筆記具用油性インキ組成物のインキ粘度の粘度は、特に限定されるものではないが、粘度が過度に高いと、書き出し性能、書き味、インキ追従性が劣りやすいため、20℃、剪断速度5sec-1(静止時)におけるインキ粘度は、30,000mPa・s以下であることが好ましい。また、粘度が過度に低いと、インキ漏れを抑制しにくいため、500mPa・s以上とすることが好ましく、1,000mPa・s以上とすることがより好ましい。インキ漏れ抑制、書き味、インキ追従性能、書き出し性能をより向上することを考慮すれば、インキ組成物の粘度は500~25,000mPa・sであることが好ましく、1,000~25,000mPa・sであることがより好ましく、800~25,000mPa・sであることがより好ましい。さらに、書き味、書き出し性能の観点から、1,000~20,000mPa・sであることがより好ましく、2,000~20,000mPa・sであることがより好ましい。また、書き味をより向上させ、インキ消費量を多くして、濃い筆跡とするために、粘度は500~10,000mPa・sが好ましく、1,000~5,000mPa・sがより好ましい。
【0054】
(筆記具)
本発明による筆記具用油性インキ組成物は、各種の筆記具に適用することができるが、油性ボールペン、油性マーキングペンなどあるが、本発明の効果を発揮しやすい、油性ボールペンに用いることが好ましく、特にノック式や回転繰り出し式などの出没式ボールペンに用いることが好ましい。このようなボールペンは、本発明による油性インキ組成物を収容した収容筒と、その収容筒の先端に配置された、ボール抱持室にボールを回転自在に抱持したボールペンチップとを具備したものである。そして、そのボールペンチップを軸筒の先端開口部から出没可能とされており、一般的に出没式ボールペンと呼ばれる構造を有する。一般にインキ組成物をペン先が密閉されない出没式ボールペンに用いた場合は、チップ先端部が定常的に大気中に放置されるため、チップ先端部が乾燥して、書き出し時にカスレなどが生じやすいが、本発明による組成物を用いると、そのような問題が改善されるため好ましい。
【0055】
(ボールペンチップ)
また、本発明で用いられるボールの表面の算術平均粗さ(Ra)については、0.1~12nmとすることが好ましい。これは、算術平均粗さ(Ra)が0.1nm未満だと、ボール表面に十分にインキが載りづらく、筆記時に濃い筆跡が得られづらく、筆跡に線とび、カスレが発生しやすく、算術平均粗さ(Ra)が12nmを越えると、ボール表面が粗すぎて、ボールとボール座の回転抵抗が大きいため、ボール座の摩耗や書き味が劣りやすく、さらに、筆跡にカスレ、線とび、線ムラなどの筆記性能に影響が出やすくなるためである。また、算術平均粗さ(Ra)が0.1~10nmであると、本発明のようなインキ組成物を用いた場合、書き味の向上やボール表面にインキが載りやすいためより好ましく、より書き味を考慮すれば、2~8nmが好ましい。ボール表面の算術平均粗さについて、算術平均粗さ(Ra)とは、表面粗さ測定器(セイコーエプソン株式会社製SPI3800N、商品名)により測定された粗さ曲線から求めることができる。具体的には、粗さ曲線の平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定粗さ曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均した値である。
【0056】
また、ボ-ルペンチップ本体の材料は、特に限定されるものではないが、例えば各種金属の単体若しくは合金、セラミックス、樹脂等とすればよい。具体的には、鋼、銅、アルミニウムまたはニッケル等の金属単体を用いてもよく、洋白またはステンレス等の合金を用いてもよい。書き味を向上させることができ、また切削等の加工性が高いため洋白製のチップ本体とすることが好ましい。またはボール座の摩耗、経時安定性が高いためステンレス製のチップ本体とすることが好ましく、これらのうち、フェライト系ステンレス鋼が好ましい。
【0057】
また、ボールペンチップについては、ボールペンチップのボールの縦軸方向の移動可能量(クリアランス)が、3~30μmとするのが好ましい。これは、過度に小さいと、筆跡のカスレ、泣きボテ、点ムラなどの筆記性、書き味に影響しやすく、過度に大きいと、泣きボテ、インキ追従性能、インキ漏れ抑制に影響が出やすくなるためである。移動可能量は、3~25μmとするのがより好ましく、5~25μmとするのがさらに好ましく、筆跡乾燥性、インキ追従性能、筆跡カスレを考慮すれば、7~20μmとするのが特に好ましい。
本発明において、ボールペンチップのボールの縦軸方向の移動可能量については、筆記開始前の初期状態のボールペンのボールペンチップの形態とする。
【0058】
ボールペンの100mあたりのインキ消費量は、20~150mgであることが好ましい。これは、100mあたりのインキ消費量が、20mg未満だと、筆跡カスレや点ムラが発生しやすく、濃い筆跡、良好な書き味が得られにくく、100mあたりのインキ消費量が150mgを越えると、インキ追従性に影響や、ボールとチップ先端の間隙よりインキ漏れしやすく、筆跡乾燥性、さらに泣きボテも発生しやすいためである。ボールペンの100mあたりのインキ消費量は、25~140mgであることがより好ましく、30~130mgであることがさらに好ましい。
なお、インキ消費量については、20℃、筆記用紙JIS P3201筆記用紙上に筆記角度70°、筆記荷重200gの条件にて、筆記速度4m/minの速度で、試験サンプル5本を用いて、らせん筆記試験を行い、その100mあたりのインキ消費量の平均値を、100mあたりのインキ消費量と定義する。
【0059】
また、より濃い筆跡や、書き味、インキ追従性、インキ漏れ抑制を向上するにはインキ消費量を設定するだけではなく、ボール直径との関係も考慮すると効果的である。具体的には、油性ボールペンの100mあたりのインキ消費量(mg)に対するボール直径(mm)の比については(ボール直径:インキ消費量)を1:40~1:140の関係とすることで、より濃い筆跡や、書き味、インキ追従性、インキ漏れ抑制、筆跡乾燥性が得られやすい。ボール直径:インキ消費量の比は、1:50~1:130であることがより好ましく、1:60~1:120であることがさらに好ましい。
【0060】
(実施例)
次に実施例を示して本発明を説明する。
実施例1の筆記具用油性インキ組成物は、予め有機溶剤、顔料、顔料分散剤を添加し、3本ロール分散機で分散させて、顔料分散体を作製した。その後、顔料分散体、有機溶剤、一般式(化1)で表される化合物を採用し、これを所定量秤量して、60℃に加温した後、ディスパー攪拌機を用いて完全溶解させて筆記具用油性インキ組成物を得た。具体的な配合量は下記の通りである。
尚、ブルックフィールド株式会社製粘度計 ビスコメーターRVDVII+Pro CP-52スピンドルを使用して20℃の環境下で剪断速度5sec-1(回転数2.5rpm)にて実施例1のインキ粘度を測定したところ、インキ粘度3000mPa・sであった。
【0061】
実施例1
顔料分散体(顔料:20質量%、ポリビニルブチラール:20質量%、ベンジルアルコール:60質量%含有) 60.0質量%
アルコール溶剤 37.0質量%
一般式(化1)で表される化合物
(重量分子量40000(R:n-ブチル基、y:13、x:18)) 3.0質量%
【0062】
実施例2~15
表に示すように、各成分、ボールペンチップを変更した以外は、実施例1と同様な手順でインキ配合し、実施例2~15の筆記具用油性インキ組成物を得た。表に評価結果を示す。
【0063】
比較例1~2
表に示すように、各成分、ボールペンチップを変更した以外は、実施例1と同様の手順で、比較例1~2の筆記具用油性インキ組成物を得た。表に評価結果を示す。
【表1】
【表2】
【0064】
試験および評価
実施例1~15および比較例1~2で作製した筆記具用油性インキ組成物を、インキ収容筒(ポリプロピレン製)の先端に、ボール(φ0.7mm、ボール表面の算術平均粗さ(Ra):7nm))を回転自在に抱時したボールペンチップを装着するとともに、インキ収容筒内に、実施例1の油性ボールペン用インキ(0.4g)を直に収容してボールペンレフィルを(株)パイロットコーポレーション製の油性ボールペンに配設して、油性ボールペンを作製し筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験および評価を行った。
【0065】
実施例1、実施例3のインキ組成物を油性ボールペンに配設し、らせん筆記試験を行ったところ、書き始め100mあたりのインキ消費量は、それぞれ、70mg/100m、75mg/100mであった。
また、これらの油性ボールペンの書始め100mあたりのインキ消費量(mg)とボール直径(mm)の比(ボール直径:インキ消費量)は、それぞれ、1:100、1:107であった。
【0066】
耐摩耗試験(ボール座の摩耗試験):荷重400gf、筆記角度70°、4m/minの走行試験機にて筆記試験後のボール座の摩耗を測定した。
ボール座の摩耗が5μm未満のもの ・・・◎
ボール座の摩耗が5μm以上、10μm未満であるもの ・・・○
ボール座の摩耗が10μm以上、20μm未満であるが、筆記可能であるもの ・・・△
ボール座の摩耗がひどく、筆記不良になってしまうのもの ・・・×
【0067】
書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。
非常に滑らかなもの ・・・◎
滑らかであるもの ・・・○
実用上問題ないレベルの滑らかさであるもの ・・・△
重いもの ・・・×
【0068】
書き出し性能試験:手書き筆記した後、チップ先端部を出したまま20℃、65%RHの環境下に24時間放置し、その後、走行試験で下記筆記条件にて筆記し、書き出しにおける筆跡カスレの長さを測定した。
<筆記条件>筆記荷重200gf、筆記角度70°、筆記速度4m/minの条件で、走行試験機にて直線書きを行い評価した。
筆跡カスレの長さが、5mm未満であるもの ・・・◎
筆跡カスレの長さが、5mm以上、10mm未満であるもの ・・・○
筆跡カスレの長さが、10mm以上、20mm未満であるもの ・・・△
筆跡カスレの長さが、20mm以上であるもの ・・・×
【0069】
インキ経時試験:50℃環境下、1ヶ月後にチップ本体内のインキを顕微鏡観察した。
析出物がなく、良好のもの ・・・◎
析出物が微少に発生したもの ・・・○
析出物が発生したが、実用上問題のないもの ・・・△
析出物が発生し、カスレや筆記不良などの原因になるもの ・・・×
【0070】
実施例1~15では、耐摩耗試験(ボール座の摩耗試験)、書き味、書き出し性能試験、インキ経時試験ともに良好な性能が得られた。
実施例1~15では、着色剤として顔料を用いているが、顔料分散性が良く、安定していた。
書き味については、リン酸エステル系界面活性剤を含んでいる実施例10、11が最も書き味が良好であった。
【0071】
また、比較例1~2では、一般式(化1)で表される化合物を用いなかったため、耐摩耗試験(ボール座の摩耗試験)が悪く、さらに、書き味、書き出し性能試験、インキ経時試験、インキ追従性試験も劣っていた。
【0072】
また、ノック式油性筆記具(ボールペン、マーキングペン)や回転繰り出し式油性筆記具(ボールペン、マーキングペン)等の出没式油性筆記具(ボールペン、マーキングペン)を用いた場合では、書き出し性能が重要な性能の1つであるため、本発明のようなインキ組成物を用いると効果的である。
【0073】
また、本実施例では、インキ収容筒内に筆記具用油性インキ組成物を収容したボールペンレフィルを軸筒内に配設した油性ボールペンを例示したが、本発明の筆記具は、軸筒自体をインキ収容筒とし、軸筒内に、筆記具用油性インキ組成物を直に収容した直詰め式のボールペン、マーキングペンとした油性ボールペン、油性マーキングペンであっても良く、インキ収容筒内に筆記具用油性インキ組成物を収容したもの(レフィル)をそのままボールペン、マーキングペンとして使用した構造であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は筆記具用油性インキ組成物として利用でき、さらに詳細としては、該油性筆記具用インキ組成物を充填した、キャップ式、ノック式等の油性ボールペン、油性マーキングペンとして広く利用することができる。