(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】情報処理システム及び情報処理装置
(51)【国際特許分類】
G01S 13/87 20060101AFI20240912BHJP
G01S 13/931 20200101ALN20240912BHJP
【FI】
G01S13/87
G01S13/931
(21)【出願番号】P 2020193186
(22)【出願日】2020-11-20
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000138462
【氏名又は名称】株式会社ユーシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】天野 義久
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-076711(JP,A)
【文献】特開2004-125591(JP,A)
【文献】特開2019-200154(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0161605(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/64
G01S 13/00-17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス波を発信し、当該パルス波の反射波を受信する送受信装置を複数備え、
前記反射波に基づいて、当該反射波を受信した送受信装置から判定対象までの距離と、当該送受信装置に対する前記判定対象のラジアル速度とを検出する検出部と、
少なくとも2つの送受信装置について前記検出部が出力した検出結果に基づいて、前記判定対象の位置を特定する特定部と、
特定された少なくとも2つの前記ラジアル速度に基づくベクトルの先端からの垂線の交点から算出した合成速度ベクトルに基づいて、前記判定対象が存在するか否かを判定する判定部と、
を有し、
所定の時間が経過した時点における、特定された前記判定対象の第1の位置からの移動先を推定する推定部をさらに備え、
前記判定部は、前記所定の時間が経過した時点における、当該判定対象の第2の位置と、推定された前記移動先とに基づいて、前記判定対象が存在するか否かを判定する、
情報処理システム。
【請求項2】
3つ以上の前記送受信装置と、
2つの前記送受信装置それぞれの検出結果に基づく、前記判定対象のラジアル速度に基づくベクトルを合成した第1の合成速度ベクトルと、前記2つの前記送受信装置とは異なる組み合わせの2つの前記送受信装置それぞれの検出結果に基づく、前記判定対象のラジアル速度に基づくベクトルを合成した第2の合成速度ベクトルとを算出する合成部と、
をさらに備え、
前記判定部は、前記第1の合成速度ベクトルと前記第2の合成速度ベクトルの差分が所定の閾値未満である場合に、前記判定対象が特定された前記位置に存在すると判定し、前記第1の合成速度ベクトルと前記第2の合成速度ベクトルの差分が所定の閾値以上である場合に、前記判定対象が存在しないと判定する、請求項1に記載の情報処理システム。
【請求項3】
前記推定部は、前記第1の位置と、前記合成速度ベクトルとを用いて、前記判定対象の移動先の予想範囲を推定し、
前記判定部は、前記第2の位置が、推定された前記移動先の予想範囲に含まれる場合に、前記判定対象が前記第2の位置に存在すると判定し、前記第2の位置が、推定された前記移動先の予想範囲に含まれない場合に、前記判定対象は存在しないと判定する、請求項
1に記載の情報処理システム。
【請求項4】
複数の前記送受信装置は、移動体に実装され、
前記推定部は、直交座標系を有するグリッドマップ上に、前記第1の位置に対応する第1の座標を配置し、前記移動体の移動速度ベクトルと、前記合成速度ベクトルとをさらに合成した合成移動ベクトルを用いて、前記第1の座標を平行移動させることにより、前記グリッドマップ上における前記移動先の位置を推定し、
前記判定部は、前記グリッドマップ上において、前記第2の位置に対応するグリッドと、前記移動先の位置に対応するグリッドとが所定の範囲内にある場合に、前記判定対象が前記第2の位置に存在すると判定し、前記グリッドマップ上において、前記第2の位置に対応するグリッドと、前記移動先の位置に対応するグリッドとが所定の範囲内にない場合に、前記判定対象は存在しないと判定する、請求項
1又は
3に記載の情報処理システム。
【請求項5】
前記推定部は、前記判定対象とは異なる位置であると特定された他の判定対象の位置に対応する第2の座標の移動先の位置を、前記合成移動ベクトルを用いて前記第2の座標を平行移動させることにより推定する、請求項
4に記載の情報処理システム。
【請求項6】
複数の前記送受信装置は、移動体の進行方向に直交する幅方向の両端部に離間して設置され、
複数の前記送受信装置における検出結果は、単一の前記特定部に出力される、請求項1乃至
5のいずれか1つに記載の情報処理システム。
【請求項7】
複数の前記送受信装置は、前記移動体の進行方向の両端部に離間して設置され、
複数の前記送受信装置における検出結果は、単一の前記特定部に出力される、請求項
4乃至
6のいずれか1つに記載の情報処理システム。
【請求項8】
3つ以上の前記送受信装置が、前記移動体の周方向に離間して設置され、
前記特定部は、3つ以上の前記送受信装置から、前記ラジアル速度の特定に用いる検出結果を受信する少なくとも2つの送受信装置を選択する、請求項
6又は
7に記載の情報処理システム。
【請求項9】
前記特定部は、前記移動体の移動速度ベクトルに基づいて、前記送受信装置を選択する、請求項
8に記載の情報処理システム。
【請求項10】
パルス波を発信し、当該パルス波の反射波を受信する、少なくとも2つの送受信装置から取得した、送受信装置から判定対象までの距離と、当該送受信装置に対する前記判定対象の
ラジアル速度とに基づいて、前期判定対象の位置を特定する特定部と、
所定の時間が経過した時点における、特定された前記判定対象の第1の位置からの移動先を推定する推定部と、
特定された少なくとも2つの前記ラジアル速度に基づくベクトルの先端からの垂線の交点から算出した合成速度ベクトルに基づいて、前記判定対象が前記位置に存在するか否かを判定
し、前記所定の時間が経過した時点における、当該判定対象の第2の位置と、推定された前記移動先とに基づいて、前記判定対象が存在するか否かを判定する判定部と、
を備える情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理システム及び情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
障害物検知のための車載ミリ波レーダは、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式が主流であるが、その一方で通称ではUWB(Ultra Wide Band)レーダ、正確にはIR(Impulse Response)-UWBレーダと呼ばれるパルス方式も伸びつつある。またどちらの方式のレーダも、基本的な1次元レーダから始まり、2次元~3次元のイメージングレーダへの高度化が続いている。
【0003】
図2は、1次元UWBレーダの模式的回路図であり、本発明もこれを主に使うことを想定している。変調器(DAC)101が発生したnsecオーダの極短パルスが、ミキサ102で6~9GHz帯へ周波数アップコンバートされ、送信アンプ103で増幅され、アンテナ105から放射され、光速で物体に当たって反射されて帰ってくる。1次元UWBレーダは、電波は光速で飛ぶことと、反射波が帰ってくるまでのnsecオーダの所要時間とから、物体までの距離を測定する。反射波はアンテナ105から入り、アンテナスイッチ104を通って受信アンプ106で増幅され、ミキサ107で周波数ダウンコンバートされ、nsecオーダの高速の復調器(ADC)108で取り込まれる。発振器109は、2つのミキサ102と107へ、周波数コンバートに必要な高周波を供給する。なお、後に示す受信アンプ106及びミキサ107は、後に説明する
図8のセンサ11の取得部111に対応し、復調器108は
図8の検出部112に対応することになる。
【0004】
1次元レーダの機能は、
図3の11Lや11Rのような1次元グラフを出力することである。横軸が距離に対して、
図3では縦軸が反射信号強度の場合を図示しているが、縦軸として物体のラジアル(radial)速度も出力できる製品が多い。「速度」とは本来は物理学の世界では大きさと方向を持ったベクトル量であり、本明細書ではこのことを強調するため「真の速度ベクトル」と呼ぶ。それに対して「ラジアル速度」とは、この「真の速度ベクトル」のうち、観測者の方向に向かう成分だけをベクトル分解して抜き出したもののことを指す用語であり、スカラー量である。それゆえラジアル速度は、スカラー量と方位成分とからなるベクトル量のうち、方位成分が欠落した不完全な情報である。
【0005】
2次元イメージングレーダとは、
図7のような自分の周囲の2次元障害物地図を出力できるもののことである。2次元イメージングレーダの構造は、直感的に例えるなら昆虫の複眼のようなものであり、基本である1次元レーダを多数密集させることで実現される。即ち、大規模回路を高密度実装することが好ましい。FMCWレーダの世界では既に8~12個の1次元レーダを高集積化したICチップが普及しており、わずか1チップで高解像度な2次元レーダ画像が得られる。それに対して、UWBレーダは高集積化が大きく遅れており、まだ単体の1次元レーダしか入手しにくい状況にある。この現状を受けて本発明は、容易に入手できる
図2の1次元UWBレーダ数台だけを用いて、
図7の2次元イメージングレーダを実現することを目的とする。その手段としては、情報処理システムにおいて、数台の1次元レーダからのデータを情報処理装置が統合信号処理している。
【0006】
このように1次元UWBレーダ数台だけを用いて物体の2次元座標を測定する(2次元測位する)ことは、物体が1個しか存在しない単純な場合は簡単である。
図3と
図4Aは、レーダ2台だけを用いた場合の原理を説明している。
図3において、レーダ11Lが測定した反射信号のピーク11L1までの距離がr1であり、レーダ11Rが測定した反射信号のピーク11R1までの距離がr2だとする。
図4Aにおいて、レーダ11Lを中心として描いた半径r1の円Ldと、レーダ11Rを中心として描いた半径r2の円Rdの交点Tdを求めれば、その位置に物体が存在するという原理である。なお、当該半径の交点Tdは、2つの反射波の組合せ(pairing)結果の一例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし物体が複数に増えると、この単純な原理だけでは、実際には物体が存在しない場所に虚像として物体を誤検出してしまう、という問題が起きる。
図4Bと
図5Aと
図5Bは、レーダ2台と物体2個の場合に、虚像が発生するメカニズムを説明したものである。2台のレーダがそれぞれ観測した2個のピーク点について、どのピーク点とどのピーク点が同じ物体から生まれた反射なのか、正しい組合せ(pairing)を知る手段が無い。この場合、
図5Aのように、ピーク11L3と11R4が同じ物体から生まれ、ピーク11L1と11R2が同じ物体から生まれた反射である場合が考えられる。或いは
図5Bのように、ピーク11L1と11R4が同じ物体から生まれ、ピーク11L3と11R2が同じ物体から生まれた反射である可能性もある。この2通りの組合せ(pairing)のどちらを選ぶかで、物体の位置が違って推測されてしまう。
図4Bはこの様子を表したものだが、レーダ11Lからは2つのピークの距離を半径とした2つの円LdとLeが描かれ、レーダ11Rからは2つのピークの距離を半径とした2つの円RdとReが描かれ、交点の数が4つに増えてしまう。物体の数は2個しか無いので、交点のうち2つは真の像だが、残る2つは虚像である。
【0009】
図6は、物体の数を数十個に増やした場合のシミュレーション結果である。レーダも3台(11L、11R、11C)に増やし、車CARの上に三角形に配置した。物体(Tb、Tc、Tdなどの白丸)が無い場所にも黒いレーダ像が多数現れており、これらが虚像である。
【0010】
本発明は、虚像を排除できる、情報処理システム及び情報処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一つの態様において、情報処理システムは、複数の送受信装置と、検出部と、特定部と、判定部と、推定部と、を備える。複数の送受信装置は、パルス波を発信し、当該パルス波の反射波を受信する。検出部は、前記反射波に基づいて、当該反射波を受信した送受信装置から判定対象までの距離と、当該送受信装置に対する前記判定対象のラジアル速度とを検出する。特定部は、少なくとも2つの送受信装置について前記検出部が出力した検出結果に基づいて、前記判定対象の位置を特定する。判定部は、特定された少なくとも2つの前記ラジアル速度の先端からの垂線の交点から算出した合成速度ベクトルに基づいて、前記判定対象が存在するか否かを判定する。推定部は、所定の時間が経過した時点における、特定された前記判定対象の第1の位置からの移動先を推定する。判定部は、前記所定の時間が経過した時点における、当該判定対象の第2の位置と、推定された前記移動先とに基づいて、前記判定対象が存在するか否かを判定する。
【0012】
一つの態様によれば、障害物の誤検出を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、情報処理システムを搭載した自動車の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、反射源が1つ存在する場合の信号強度の一例を示す図である。
【
図4A】
図4Aは、反射源が1つ存在する場合の2つのセンサの受信結果と判定対象の特定結果との関係の一例を示す図である。
【
図4B】
図4Bは、反射源が2つ存在する場合の2つのセンサの受信結果と判定対象の特定結果との関係の一例を示す図である。
【
図5A】
図5Aは、反射源が2つ存在する場合の反射波と検出結果との関係の一例を示す図である。
【
図5B】
図5Bは、反射源が2つ存在する場合の反射波と検出結果との関係の別の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、虚像が除外される前の特定結果の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、虚像が除外された特定結果の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、第1の実施形態における情報処理装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、第1の実施形態における判定対象とセンサとの関係の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、第1の実施形態における反射波と判定対象との関係の一例を示す図である。
【
図11A】
図11Aは、第1の実施形態における真の速度ベクトルの一例を示す図である。
【
図11B】
図11Bは、第1の実施形態における真の速度ベクトルの別の一例を示す図である。
【
図12A】
図12Aは、第1の実施形態における虚像の真の速度ベクトルの一例を示す図である。
【
図12B】
図12Bは、第1の実施形態における虚像の真の速度ベクトルの別の一例を示す図である。
【
図13】
図13は、センサ情報取得処理の一例を示すフローチャートである。
【
図14】
図14は、第1の実施形態における判定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図15】
図15は、第2の実施形態における判定対象に対応する、判定対象の相対的な移動速度を示す真の速度ベクトルの一例を示す図である。
【
図16】
図16は、第2の実施形態における存在すると判定される判定対象の一例を示す図である。
【
図17】
図17は、第2の実施形態における虚像と判定される判定対象の一例を示す図である。
【
図18】
図18は、第2の実施形態における判定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図19】
図19は、第3の実施形態におけるグリッドマップ上に配置された特定結果の一例を示す図である。
【
図20】
図20は、第3の実施形態における処理装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図21】
図21は、第3の実施形態における予想範囲の一例を示す図である。
【
図22】
図22は、第3の実施形態における特定結果の一例を示す図である。
【
図23】
図23は、第3の実施形態におけるセンサ選択処理及びマップ初期化処理の一例を示すフローチャートである。
【
図24】
図24は、第3の実施形態におけるグリッドマップ処理の一例を示すフローチャートである。
【
図25】
図25は、第3の実施形態におけるモフォロジー処理結果の別の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本願の開示する情報処理システム及び情報処理装置の各実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、図面における各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、以下に示す各実施形態は、矛盾を起こさない範囲で適宜組み合わせても良い。
【0015】
(第1の実施形態)
各実施形態における情報処理システムは、例えば、複数のセンサと情報処理装置とを備え、自動車等の移動体に搭載される。
図1は、情報処理システムを搭載した自動車の一例を示す図である。
図1に示すように、自動車1には、複数のセンサ11L、11C、11R、12L、12R、13L、13C及び13Rと、情報処理装置14とを有する情報処理システム10が搭載される。
【0016】
センサ11L、11C、11R、12L、12R、13L、13C及び13Rは、
図2の模式的回路図の構造を備える、パルス方式の1次元UWBレーダである。これらを区別せずに表現する場合は、単にセンサ11と表記する。センサ11は公知の通り、
図3の11Lと11Rのような1次元グラフ状の測定データを出力する。
図3において、横軸は距離を示し、縦軸は反射信号強度およびラジアル速度を示す。この測定データは、有線または無線で情報処理装置14に出力される。
【0017】
図1におけるセンサ11の配置はあくまで一例であり、その趣旨は、車の大きさの範囲内でなるべく分散・離間して配置することにある。離間配置すればセンサ間の視差が広がるため、本発明の効果を高めることができる。
図1ではセンサ11L、11C、11Rは、それぞれ自動車1の前方の左端、中央、右端に取り付けた。センサ12L、12Rは、それぞれ自動車1の左側面中央及び右側面中央に取り付けた。センサ13L、13C、13Rは、それぞれ自動車1の後方の左端、中央、右端に取り付けた。
【0018】
図1の扇形r11L、r11C、r11R、r12Lは、それぞれセンサ11L、11C、11R、12Lの電波の放射範囲である。センサ12R、13L、13C及び13Rの電波の放射範囲については、同様なので図示を省略した。扇形の半径、即ちUWBレーダ11の電波が到達し物体を発見できる限界距離については、本発明の原理には特には影響しないが、後述の
図6と
図7のシミュレーション例では20mとした。
【0019】
情報処理装置14は、例えば専用のコンピュータであるが、これに限られず、カーナビゲーションシステム等の自動車1に搭載された端末や、スマートフォンやタブレット等の汎用のコンピュータにアプリケーションを実行させることにより実現させるような構成であってもよい。情報処理装置14の機能構成については、後に詳しく説明する。
【0020】
本実施例では3台以上のセンサの測定データを用いて、情報処理装置14が2段階で物体位置を推定する。
【0021】
第1段階は、既に
図4B、
図5A、
図5Bを用いて説明した、虚像の発生が不可避な公知技術と同じである。
図9と
図10は、センサを11L、11C、11Rの3台に拡張し、物体がTx、Fyの2個である場合の説明図である。
図9において、3台のセンサがそれぞれ、物体までの距離SLx、SCx、SRx、SLy、SCy、SRyを測定する。
図10では、3台のセンサを中心に、それぞれが測定した物体までの距離2つを半径として、2つの同心円が描かれる。結果、合計で3×2=6つの円が描かれ、それらは多数の交点を生む。煩雑なため、
図10には一部の円とそれらによる交点U1、U2、U3、Tx、Fyしか描いていない。これら交点のうち2個のみが物体2個の真の像であり、残りは虚像である。
【0022】
第2段階では、これら交点の中から、虚像だけを排除し、真の像だけを残す。
図11A、
図11B、
図12A、
図12Bはその原理を説明する図だが、センサ11L、11C、11Rの測定データのうちラジアル速度を用いてベクトル演算を行う点に特徴がある。
【0023】
図11A、
図11Bでは、
図10の円の交点のうち、Txが真の像であるか否かを判定する過程を説明したものである。
図11Aにおいて、VLx、VCx、VRxはそれぞれ、センサ11L、11C、11Rが測定した物体距離におけるラジアル速度(スカラー量)を、交点Txから各センサ11L、11C、11Rへの方位情報と対応付けて、ベクトル量とみなした仮想ベクトルである。またVVxとVVx’は物体が実際に移動する「真の速度ベクトル」であるが、これは1次元レーダに過ぎないセンサ11からは直接は測定できない。また、仮想ベクトルVLx、VCx、VRxは、ラジアル速度に基づくベクトルの一例である。
【0024】
図11Aでは、まず2台のセンサ11L、11Cが測定したラジアル速度に基づく仮想ベクトルVLx、VCxから、「真の速度ベクトル」VVxを推定する。仮想ベクトルVLxは、「真の速度ベクトル」VVxのうち、センサ11Lと物体Tdを結ぶ直線SLxへの射影成分である。また仮想ベクトルVCxは、「真の速度ベクトル」VVxのうち、センサ11Cと物体Tdを結ぶ直線SCxへの射影成分である。このことから逆に「真の速度ベクトル」VVxは、仮想ベクトルVLxの先端を通る垂線NLxと、仮想ベクトルVCxの先端を通る垂線NCxとの、交点cVxへ向けたベクトルとして推定できる。なお、真の速度ベクトルは、合成速度ベクトルの一例である。
【0025】
図11Bは同様に、まず、交点Txに対し、2台のセンサ11C、11Rが測定したラジアル速度に基づく仮想ベクトルVCx、VRxから、「真の速度ベクトル」VVx’を推定する。仮想ベクトルVCxは、「真の速度ベクトル」VVx’のうち、センサ11Cと物体Tdを結ぶ直線SCxへの射影成分である。また仮想ベクトルVRxは、「真の速度ベクトル」VVx’のうち、センサ11Rと物体像Tdを結ぶ直線SRxへの射影成分である。このことから逆に「真の速度ベクトル」VVx’は、仮想ベクトルVCxの先端を通る垂線NCxと、仮想ベクトルVRxの先端を通る垂線NRxとの、交点cVx’へ向けたベクトルとして推定できる。
【0026】
もし2つの組合せで求めた「真の速度ベクトル」VVx、VVx’が一致したならば、Tdは真の像であると判定する。
【0027】
図12Aと12Bは、同じ判定手順を交点Fyに対して行った場合を説明したものである。2つの組合せで求めた「真の速度ベクトル」VVy、VVy’は大きさや方向が大きく食い違っており、このような場合は、Fyは虚像であると判定する。
【0028】
図7は、従来技術の問題として説明した
図6と同じ物体配置条件において、本実施例の効果を確認した理論シミュレーション結果である。図において、車CARの上に3台のセンサ11L、11C,11Rを三角形状に配置した。結果、白丸で表したTa、Tb、Tc、Tdなどの物体配置と、黒塗で表したレーダ画像とが一致し、
図6と比べると虚像が排除されている。
【0029】
図8は、以上の虚像判定を行った情報処理装置14およびセンサ11の模式的ブロック図の一例である。センサ11は、複数台あるうちの1台だけを図示した。各センサ11は、反射波の取得部111の出力から検出部112が1次元グラフ状の測定データを解析し、情報処理装置14の中の通信部16へ優先あるいは無線で転送する。
【0030】
情報処理装置14において、通信部16は、有線又は無線を問わず、センサ11など、その他の機器等との通信を制御する。通信部16は、例えばNIC(Network Interface Card)等の通信インタフェース等である。
【0031】
記憶部17は、例えば制御部19が実行するプログラムや、当該プログラムが使用する判定条件やデータテーブル、処理結果等の各種データなどを記憶する記憶装置の一例であり、例えば半導体メモリやプロセッサなどである。記憶部17は、センサ11から通信部16を介して受信した測定データに関する情報を記憶する。また、記憶部17は、各センサ11の位置関係や、各センサ11が発信するパルス信号の周波数等に関する情報を記憶する。本実施形態において、記憶部17は、センサテーブル171と、ペアリング(pairing)データ172とを備える。
【0032】
センサテーブル171には、各センサ11から取得された、各センサ11から判定対象までの距離と、各センサ11が受信した信号強度と、当該判定対象から各センサ11までの移動の速度に関する情報とを記憶する。センサテーブル171に記憶されるレコードは、後に説明する取得部191により格納され、また後に説明する特定部192により適宜削除される。
【0033】
ペアリングデータ172には、2つの反射波の組合せ(pairing)結果である、判定対象の位置に関する情報と、2つのラジアル速度に基づく仮想ベクトルから合成された真の速度ベクトルにより示される、自動車1に対する判定対象の相対的な移動速度とを1つのレコードとして記憶する。なお、ペアリングデータ172は、例えば、当該判定対象が実際に存在するか否かを示すフラグをさらに備えてもよい。ペアリングデータ172に記憶されるレコードは、特定後に説明する合成部193により格納又は更新され、また後に説明する判定部194及び出力部195により更新又は削除される。
【0034】
入出力部18は、例えば、キーボード(不図示)等の入力装置や、ディスプレイ(不図示)等の出力装置に接続される。入出力部18は、利用者(不図示)による情報処理装置14への情報処理の開始指示や終了指示等の入力を受け付け、また制御部19による処理結果をディスプレイ等に出力する。
【0035】
制御部19は、プロセッサ等により構成され、情報処理装置14全体の処理を制御する。本実施形態において、制御部19は、取得部191と、特定部192と、合成部193と、判定部194と、出力部195とを備える。
【0036】
取得部191は、測定データを取得する。取得部191は、例えば、通信部16を介して、各センサ11から、
図3の11Lと11Rのような1次元グラフ状の測定データを取得し、各センサ11から判定対象までの距離、反射信号強度、及びラジアル速度に関する情報をセンサテーブル171に格納する。
【0037】
特定部192は、センサ11から判定対象までの距離、反射信号強度、及びラジアル速度に関する情報を用いて、判定対象の位置を特定するとともに、仮想ベクトルを算出する。センサ11から判定対象までの距離は、
図3等に示すように、反射信号強度がピークとなる位置から算出される。特定部192は、例えば、センサテーブル171に記憶された、反射信号強度のピークの値が閾値以上である判定対象について、当該判定対象までの距離と、ラジアル速度に関する情報とを用いて、2つのセンサ11がそれぞれ取得した反射波を組合せる(pairingする)ことにより、当該反射波に対応する判定対象の位置を特定する。
【0038】
図8に戻って、合成部193は、異なるセンサ11から取得した反射波のペアリングにより得られた複数のラジアル速度を合成することにより、自動車1に対する判定対象の相対的な移動速度を示す真の速度ベクトルを算出する。本実施形態において、この真の速度ベクトルは、例えば、2つのラジアル速度に基づく仮想ベクトルの先端から伸ばした垂線の交点である。また、合成部193は、例えば、位置及び真の速度ベクトルが特定された判定対象に対応する測定データを、センサテーブル171から適宜削除する。
【0039】
図11Aは、第1の実施形態における真の速度ベクトルの一例を示す図である。
図11Bは、第1の実施形態における真の速度ベクトルの一例を示す図である。
図11Aに示すように、合成部193は、仮想ベクトルVLxの先端から伸ばした垂線NLxと、仮想ベクトルVCxの先端から伸ばした垂線NCxとの交点cVxを算出する。そして、合成部193は、判定対象Txから交点cVxへ向かうベクトルVVxを、仮想ベクトルVLxと、仮想ベクトルVCxとを合成した真の速度ベクトルとして、自動車1に対する判定対象の相対的な移動速度を算出する。同様に、合成部193は、
図11Bに示すように、例えば、仮想ベクトルVCxの先端から伸ばした垂線NCxと、仮想ベクトルVRxの先端から伸ばした垂線NRxとの交点cVx’を算出することにより、判定対象Txから交点cVx’へ向かう真の速度ベクトルVVx’を算出する。
【0040】
図12Aは、第1の実施形態における虚像の真の速度ベクトルの一例を示す図である。
図12Bは、第1の実施形態における虚像の真の速度ベクトルの別の一例を示す図である。
図12Aに示すように、合成部193は、判定対象Fyに対して、仮想ベクトルVLyの先端から伸ばした垂線NLyと、仮想ベクトルVCyの先端から伸ばした垂線NCyとの交点cVyを算出することにより、判定対象Fyから交点cVyへ向かう真の速度ベクトルVVyを、自動車1に対する判定対象の相対的な移動速度として算出する。同様に、合成部193は、
図12Bに示すように、例えば、仮想ベクトルVCyの先端から伸ばした垂線NCyと、仮想ベクトルVRyの先端から伸ばした垂線NRyとの交点cVy’を算出することにより、判定対象Fyから交点cVy’へ向かう真の速度ベクトルVVy’を算出する。
【0041】
図8に戻って、判定部194は、判定対象が実際に存在するか否かを判定する。本実施形態において、判定部194は、自動車1に対する判定対象の相対的な移動速度を示す2つの真の速度ベクトルを比較し、その真の速度ベクトルが略一致しない場合、すなわち真の速度ベクトルの差分が所定の閾値以上である場合に、判定対象が存在しないと判定する。判定部194は、例えば、存在しないと判定された判定対象に対応するレコードを、ペアリングデータ172から削除する。なお、判定部194は、ペアリングデータ172から該当するレコードを削除する代わりに、例えば、判定対象が存在しないことを示すフラグを、ペアリングデータ172の該当するレコードに登録してもよい。
【0042】
例えば、
図11A及び
図11Bにおいて、垂線NLxと垂線NCxとの交点cVxは、垂線NCxと垂線NRxとの交点cVx’と略一致する。すなわち、自動車1に対する判定対象の相対的な移動速度を示す、2つの真の速度ベクトルVVx及びVVx’は略一致する。この場合において、判定部194は、2つの真の速度ベクトルVVx及びVVx’に対応する判定対象Txは実際に存在すると判定する。
【0043】
一方、例えば、
図12A及び
図12Bに示すように、垂線NLyと垂線NCyとの交点cVyは、垂線NCyと垂線NRyとの交点cVy’とは大きく異なる。すなわち、自動車1に対する判定対象の相対的な移動速度を示す、2つの真の速度ベクトルVVy及びVVy’は略一致しない。この場合において、判定部194は、2つの真の速度ベクトルVVy及びVVy’に対応する判定対象Fyは存在しない、すなわち判定対象Fyは虚像であると判定する。
【0044】
図8に戻って、出力部195は、判定部194による判定結果を出力する。出力部195は、ペアリングデータ172に記憶された判定対象を2次元座標上に配置した画像データを生成する。そして、出力部195は、生成した画像データを、入出力部18を介して、外部のディスプレイ等に出力する。また、出力部195は、例えば、画像の生成が完了した判定対象に関する情報を、ペアリングデータ172から適宜削除する。
【0045】
本実施形態における処理の流れについて、
図13及び
図14を用いて説明する。
図13は、センサ情報取得処理の一例を示すフローチャートである。
図13に示す処理は、例えば各センサ11と、情報処理装置14の取得部191とにより実行される。また、
図13に示す処理は、後に説明する他の実施形態においても同様に実行される。
【0046】
まず、各センサ11は、他のセンサ11のタイミングで、パルス信号を発信する(ステップS10)。次に、各センサ11の取得部111は、発信したパルス信号が判定対象となる反射源に反射することにより発生する反射波を受信する(ステップS11)。
【0047】
各センサ11の検出部112は、反射波を用いて、各センサ11から判定対象までの距離を算出する(ステップS20)。また、取得部111は、判定対象の各センサ11に対するラジアル速度を算出する(ステップS21)。取得部111は、距離及びラジアル速度の算出結果を、情報処理装置14に出力する(ステップS22)。情報処理装置14は、センサ11から出力された情報をセンサテーブル171に格納する。
【0048】
そして、各センサ11は、次のパルス発信タイミングまで(ステップS30:No)、ステップS11に戻って処理を繰り返す。また、各センサ11は、次のパルス発信タイミングになった場合(ステップS30:Yes)、情報処理装置14から終了指示を受け付けたか否かを判定する(ステップS40)。各センサ11は、終了指示を受け付けていない場合(ステップS40:No)、ステップS10に戻って処理を繰り返す。また、各センサ11は、終了指示を受け付けた場合(ステップS40:Yes)、処理を終了する。
【0049】
次に、情報処理装置14による処理について説明する。
図14は、第1の実施形態における判定処理の一例を示すフローチャートである。
図14に示す処理は、例えば、情報処理装置14の特定部192、合成部193、判定部194及び出力部195により実行される。
【0050】
まず、特定部192は、センサ11Lが受信した測定データ(検出結果)L1~Liを取得し(ステップS101)、センサ11Cが受信した測定データ(検出結果)C1~Cjを取得し(ステップS102)、センサ11Rが受信した測定データ(検出結果)R1~Rkを取得する(ステップS103)。以下において、検出結果は、例えば、判定対象までの距離と、各センサ11に対する判定対象のラジアル速度とを含む。
【0051】
次に、特定部192は、データLiのうちのいずれか1つと、データCjのうちのいずれか1つと、データRkのうちのいずれか1つとの組み合わせを選択する(ステップS110)。特定部192は、選択された組み合わせをペアリングすることにより、交点座標を算出する(ステップS111)。
【0052】
次に、合成部193は、データLiとデータCjとを用いて、センサ11Lに対応する判定対象のラジアル速度に基づく仮想ベクトルとセンサ11Cに対応する判定対象のラジアル速度に基づく仮想ベクトルとを合成することにより、自動車1に対する判定対象の相対的な移動速度を示す、真の速度ベクトルを算出する(ステップS131)。同様に、合成部193は、データCjとデータRkとを用いて、センサ11Cに対応する判定対象のラジアル速度に基づく仮想ベクトルとセンサ11Rに対応する判定対象のラジアル速度に基づく仮想ベクトルとを合成することにより、自動車1に対する判定対象の相対的な移動速度を示す、真の速度ベクトルを算出する(ステップS132)。
【0053】
次に、判定部194は、算出された2つの真の速度ベクトルが略一致するか否かを判定する(ステップS140)。判定部194は、2つの真の速度ベクトルが一致しないと判定した場合(ステップS140:No)、すなわち判定対象が存在しないと判定される場合、2つの真の速度ベクトルに対応する判定対象を、判定対象から除外し(ステップS141)、ステップS150に移行する。
【0054】
一方、判定部194は、2つの交点座標が一致すると判定した場合(ステップS140:Yes)、すなわち判定対象が存在すると判定される場合、全てのデータLiとデータCjとデータRkとの組み合わせについて、処理が完了したか否かを判定する(ステップS150)。処理が完了していないと判定された場合(ステップS150:No)、ステップS110に戻って処理が繰り返される。
【0055】
一方、処理が完了したと判定された場合(ステップS150:Yes)、出力部195は、ペアリングデータ172に記憶された判定対象を2次元座標上に配置した画像を出力することにより、画面を更新する(ステップS151)。そして、出力部195は、終了指示を受け付けたか否かを判定する(ステップS160)。情報処理装置14は、終了指示を受け付けていない場合(ステップS160:No)、ステップS101に戻って処理を繰り返す。また、情報処理装置14は、終了指示を受け付けた場合(ステップS160:Yes)、処理を終了する。
【0056】
以上説明したように、本実施形態における情報処理システム10は、複数の送受信装置11と、検出部112と、特定部192と、判定部194とを備える。複数の送受信装置11は、パルス信号を発信し、当該パルス信号の反射波を受信する。検出部112は、反射波に基づいて、当該反射波を受信した送受信装置11から判定対象までの距離と、送受信装置11に対する判定対象のラジアル速度とを検出する。特定部は、少なくとも2つの送受信装置について前記検出部が出力した検出結果に基づいて、前記判定対象の位置を特定する。判定部194は、特定された複数のラジアル速度に基づくベクトルを合成した真の速度ベクトルに基づいて、判定対象が存在するか否かを判定する。これにより、情報処理システム10は、障害物の誤検出を抑制できる。
【0057】
また、本実施形態における情報処理システム10は、3つ以上の送受信装置11と、2つの送受信装置11L、11Cそれぞれが受信した反射波に基づく判定対象のラジアル速度を合成した第1の真の速度ベクトルと、異なる組み合わせの2つの送受信装置11C、11Rそれぞれが受信した反射波に基づく判定対象のラジアル速度を合成することにより、自動車1に対する判定対象の相対的な移動速度を示す真の速度ベクトルとを算出する合成部をさらに有してもよい。この場合において、判定部194は、第1の真の速度ベクトルと第2の真の速度ベクトルとの差分が所定の閾値以上である場合に、判定対象が存在しないと判定する。これにより、情報処理システム10は、虚像の検出を抑制できる。なお、本実施形態では、送受信装置11が取得部11と検出部112とを有する構成としたが、情報処理装置14が取得部11と検出部112とを設ける構成としてもよい。
【0058】
(第2の実施形態)
第1の実施形態は、速度のベクトル合成に基づいて、現在の時刻における測定データのみを用いて虚像判定を行う原理であった。しかし過去の測定データをさらに利用すると、同じく速度のベクトル合成に基づきつつ、更に別の虚像判定原理が考えられる。そしてこの別の虚像判定原理は、第1の実施形態の判定原理と矛盾せずに共存して、更に判定精度を高めることができる。
図15、
図16、
図17を用い、この原理を説明する。
【0059】
1次元レーダセンサ11は通常一定周期で間欠的に測定を行っており、その周期は33~100msec程度が多い。本実施例では100msec=0.1秒として説明する。
【0060】
時刻tにおいて、2台のセンサ11と物体像Tpの位置関係が、
図15のようだったとする。VLpとVRpはそれぞれ、センサ11L、11Rが測定したラジアル速度に基づく仮想ベクトルである。VLpとVRpからベクトル合成によって推測した物体の「真の速度ベクトル」は、Vvpである。
【0061】
図15はセンサ11が最小構成の2台で説明しているが、増やすことに支障は無い。そしてセンサ11を3台以上に増やした場合は、
図15は、第1の実施形態によって虚像を判定して排除した直後の状態と見なしても、以下の説明に何も支障は生じない。即ち、第2の実施形態は単独でも実現できるし、第1の実施形態と同時に組み合わせて更に厳しく虚像を排除するために使っても構わない。
【0062】
物体の現在の位置Tpと、物体が移動する「真の速度ベクトル」Vvpが分かっているならば、次の時刻(t+0.1秒)における物体の位置は、(Tpの座標+Vvp×0.1)のベクトル演算で予想できる。ただし、刻一刻とベクトルが微妙に変化するために予想には誤差が伴うので、物体の予想位置は小さな円cvpと考えると良い。なお、小さな円cvpは、判定対象の移動先の範囲の一例である。
【0063】
次の時刻(t+0.1秒)においては、第1の実施形態における第1段階後と同じ原理で、真の像と虚像が入り乱れた物体像を得る。これら物体像のうち、
図16のように事前に予想していた物体位置の円cvpに入った物体像Tzは、真の像であると判断される。
図17のように事前に予想していた物体位置の円cvpに入らなかった物体像Fvは、虚像であると判断される。
【0064】
上記判定の後に第1の実施形態における第2段階を適用しても、何ら支障は生じない。即ち、上記虚像の判定原理は、単独でも実現できるし、第1の実施形態と同時に組み合わせて更に厳しく虚像を排除するために使っても構わない。このうち以下では、単独で実現した場合を説明する。
【0065】
第2の実施形態における情報処理システム20は、第1の実施形態における情報処理システム10と同様に、例えば、複数のセンサ11を備え、自動車等の移動体に搭載される。また、第2の実施形態における情報処理システム20が備える情報処理装置30は、特定部192a及び判定部194aによる処理が特定部192及び判定部194による処理と一部異なる他は、第1の実施形態における情報処理装置14と同様の構成を有する。なお、特定部192aは、推定部の一例である。
【0066】
図15は、第2の実施形態における判定対象に対応する、判定対象の相対的な移動速度を示す真の速度ベクトルの一例を示す図である。
図15に示すように、第2の実施形態における特定部192aは、例えば、判定対象Tpのセンサ11Lに対する位置と、判定対象Tpのラジアル速度とを用いて、センサ11Lに対する判定対象Tpのラジアル速度に基づく仮想ベクトルVLpを算出する。同様に、特定部192aは、例えば、判定対象Tpのセンサ11Rに対する位置と、判定対象Tpの相対的な速度とを用いて、センサ11Rに対する判定対象Tpのラジアル速度VRpを算出する。また、第2の実施形態における合成部193は、ラジアル速度に基づく仮想ベクトルVLpと、ラジアル速度に基づく仮想ベクトルVRpとを合成して真の速度ベクトルVvpを算出し、判定対象Tpの時間t経過後の移動先の予想範囲として、真の速度ベクトルVvpに時間tを掛けた距離にある位置を中心とする円cvpを算出する。
【0067】
上で述べたように、判定対象Tpの時間t経過後の移動先の予想位置を示す円cvpは、判定対象Tpが検出された時点から時間tが経過した時点における、判定対象Tpのセンサ11L及び11Rに対する相対的な位置に相当する。すなわち、予想位置を示す円cvpを中心とする一定の範囲は、判定対象Tpの時間t経過後の移動先の予想範囲として用いることができる。そこで、第2の実施形態における特定部192aは、時間tが経過した時点において、センサ11Lの検出結果と、センサ11Rの検出結果とのペアリングを行い、相対的な移動後の判定対象Tpの位置を推定する。そして、第2の実施形態における判定部194aは、移動後の判定対象Tpの位置と、予想位置を示す円cvpとを用いて、移動後の判定対象Tpが存在するか否かを判定する。
【0068】
時間tが経過した時点において特定される判定対象について、
図16及び
図17を用いて説明する。
図16は、第2の実施形態における存在すると判定される判定対象の一例を示す図である。
図17は、第2の実施形態における虚像と判定される判定対象の一例を示す図である。
図16は、時間tが経過した時点において、センサ11Lの検出結果と、センサ11Rの検出結果とのペアリングを行った結果、座標Tzにおいて判定対象が特定された場合を示す。また、
図17は時間tが経過した時点において、センサ11Lの検出結果と、センサ11Rの検出結果とのペアリングを行った結果、座標Fvにおいて判定対象が特定された場合を示す。なお、以下において、時間tが経過した時点において特定された判定対象に対応する座標を、実座標と表記する場合がある。
【0069】
第2の実施形態における判定部194aは、判定対象Tpの時間t経過後の移動先の予想位置の座標と、時間tが経過した時点において判定対象が特定された座標(実座標)とが、所定の距離以上であるか否かを判定する。例えば、
図16に示す例においては、判定対象Tzが特定された実座標は、予想位置を示す円cvpに含まれる。この場合、判定部194aは、判定対象Tzが、判定対象Tpの移動後の位置に対応する、すなわち判定対象Tzは実際に存在すると判定する。この場合において、特定部192aは、判定対象Tpの移動後の位置に対応する判定対象Tzに対応する真の速度ベクトルをさらに算出する。そして、当該真の速度ベクトルの先端を中心とする予想範囲を用いることで、時間tが経過した時点から、さらに時間tが経過した時点における処理を繰り返すことができる。
【0070】
一方、
図17に示す例においては、判定対象Fvが特定された座標は、予想位置を示す円cvpに含まれない。この場合、判定部194aは、判定対象Fvが、判定対象Tpの移動後の位置cvpには対応しないと判定する。
【0071】
ただし、第2の実施形態においては、判定対象Fvが、判定対象Tp以外のその他の判定対象の移動後の位置に対応している場合がある。そこで、判定部194aは、判定対象Fvが特定された座標が、その他の予想位置に含まれるか否かをさらに判定する。判定部194aは、判定対象Fvが特定された座標が、いずれの予想位置にも含まれない場合、判定対象Fvは存在しない、すなわち虚像であると判定する。そして、判定部194aは、判定対象Fvに対応するレコードを、ペアリングデータ172から削除する。
【0072】
図18は、第2の実施形態における判定処理の一例を示すフローチャートである。なお、
図18に示す処理は、
図13に示すセンサ情報取得処理と並行して実行される。
【0073】
図18に示すように、特定部192aは、センサ11Lが受信した測定データ(検出結果)L
1~L
iを取得するとともに(ステップS201)、センサ11Rが受信した測定データ(検出結果)R
1~R
jを取得する(ステップS202)。
【0074】
次に、特定部192aは、データLiのうちのいずれか1つと、データRjのうちのいずれか1つとの組み合わせを選択する(ステップS210)。特定部192aは、選択されたデータLiとデータRjとの組み合わせを用いて、センサ11Lの検出結果とセンサ11Rの検出結果とをペアリングすることにより、交点座標を算出する(ステップS211)。
【0075】
次に、合成部193は、データLiとデータRjとを用いて、ペアリング結果におけるセンサ11Lに対応する判定対象のラジアル速度に基づく仮想ベクトルとセンサ11Rに対応する判定対象のラジアル速度に基づく仮想ベクトルとから真の速度ベクトルを合成する(ステップS212)。この場合において、合成部193は、算出した真の速度ベクトルに時間tを掛けて距離を算出し、判定対象Tpの時間t経過後の移動先の予想範囲を推定する(ステップS213)。
【0076】
そして、合成部193は、全てのデータLiとデータRjとの組み合わせについて、処理が完了したか否かを判定する(ステップS220)。特定部192aは、処理が完了していないと判定された場合(ステップS220:No)、ステップS210に戻って処理を繰り返す。
【0077】
一方、処理が完了したと判定された場合(ステップS220:Yes)、合成部193は、時間tが経過するまで待機する(ステップS230:No)。特定部192は、時間tが経過したと判定された場合(ステップS230:Yes)、時間tの経過後にセンサ11Lが受信した測定データ(検出結果)L1~Llを取得するとともに(ステップS231)、時間tの経過後にセンサ11Rが受信した測定データ(検出結果)R1~Rmを取得する(ステップS232)。
【0078】
次に、特定部192は、データLlのうちのいずれか1つと、データRmのうちのいずれか1つとの組み合わせを選択する(ステップS240)。特定部192は、選択されたデータLlとデータRmとの組み合わせを用いて、センサ11Lの検出結果とセンサ11Rの検出結果とをペアリングすることにより、実座標である交点座標を算出する(ステップS241)。
【0079】
次に、判定部194aは、実座標が、推定されたいずれかの予想範囲内に含まれるか否かを判定する(ステップS250)。判定部194aは、実座標がいずれの予想範囲内にも含まれないと判定した場合(ステップS250:No)、すなわち判定対象が存在しないと判定される場合、実座標である交点座標を、判定対象から除外し(ステップS251)、ステップS270に移行する。
【0080】
一方、実座標がいずれかの予想範囲内に含まれると判定された場合(ステップS250:Yes)、すなわち判定対象が存在すると判定される場合、合成部193は、実座標に対応するラジアル速度に基づく仮想ベクトルから真の速度ベクトルを算出する。そして、判定部194aは、実座標の時間t経過後の移動先の予想位置に基づいて、さらに時間tが経過した後の予想範囲を推定する(ステップS262)。
【0081】
その後、判定部194aは、全てのデータLlとデータRmとの組み合わせについて、処理が完了したか否かを判定する(ステップS270)。処理が完了していないと判定された場合(ステップS270:No)、ステップS240に戻って処理が繰り返される。
【0082】
一方、処理が完了したと判定された場合(ステップS270:Yes)、出力部195は、ペアリングデータ172に記憶された判定対象を2次元座標上に配置した画像を出力することにより、画面を更新する(ステップS271)。そして、出力部195は、終了指示を受け付けたか否かを判定する(ステップS280)。情報処理装置30は、終了指示を受け付けていない場合(ステップS280:No)、ステップS230に戻って処理を繰り返す。また、情報処理装置30は、終了指示を受け付けた場合(ステップS280:Yes)、処理を終了する。
【0083】
以上説明したように、本実施形態における情報処理システム20は、所定の時間tが経過した時点における、判定対象の第1の位置Tpと、真の速度ベクトルVvpとを用いて、判定対象Tpの時間t経過後の移動先の予想範囲cvpを推定する推定部をさらに備えてもよい。この場合において、判定部194aは、所定の時間tが経過した時点における、判定対象の第2の位置Fvが、推定された移動先の予想範囲cvpに含まれない場合に、判定対象Fvが存在しないと判定する。これにより、情報処理システム20は、センサ11が3つ以上ない構成においても、障害物の誤検出を抑制できる。
【0084】
(第3の実施形態)
ところで、走行中の車から見た風景を考えると、障害物の大半は道路脇の電柱や住宅等の移動しない物体なので、車の速度ベクトルとは真逆のベクトルで一斉に同じ移動をするよう制約されて見える。第2の実施形態ではN個の物体がそれぞれ違うN種類の真の速度ベクトルを持つと仮定したのだが、走行中の車からはN個の物体がほぼ同じ1種類の真の速度ベクトルしか持たないように単純化されて見える。この場合、1種類の真の速度ベクトルをN個の物体に適用させることにより、第2の実施形態のアルゴリズムを簡略化・高速化することができる。
【0085】
このような車から見た風景の移動を計算するためには、Gridmapと呼ばれる技術が効率的であることが知られている。Gridmapとは、自分の周囲の座標を直交座標で細かくメッシュ状に分割して障害物をプロットしたもので、多くの場合は車の上から観察した、車と共に移動する座標系を用いる。通常メッシュは非常に細かく設定されるため、Gridmapは画像データとほぼ同じものになる。車の移動に伴ってGridmap画像には、アファイン変換と呼ばれる並行移動と回転の座標変換処理が次々と施されて行く。第2の実施形態にこのGridmapの考え方を融合させると、虚像除去の精度と計算効率を高めることができる。
【0086】
情報処理システム10の更新時間を仮に0.1秒とする。
図21において、時点tにおいてGridmap上に2つの物体候補TqとF1があったとする。車の車速ベクトルと真逆のベクトルに更新時間0.1秒を掛け算したベクトルをMVとすると、次の時刻(t+0.1秒)には全ての物体が一律に移動ベクトルMVによって移動すると考えられる。この一律という点が、第2の実施形態との違いである。2つの物体候補TqとF1は、一律移動ベクトルMVを足し算した位置に移動すると予想されるが、更新時間0.1秒が粗いために、一律移動ベクトルが微妙に変化する可能性がある。そのため予想移動位置は、「点」ではなく「範囲」tMqとtM1とすることが好ましい。Gridmapが画像状のメッシュデータであることから、「点」を「範囲」に拡大するのは、例えばモフォロジー変換の中の「膨張」を使えば簡単に実現できる。そして第2の実施形態と同様に、次の時刻(t+0.1秒)に推定された物体位置が範囲tMqとtM1に入っていれば真の物体像と判定し、入っていなければ虚像と判定すれば良い。
【0087】
本第3の実施形態は、単独でも実現できるし、第1の実施形態と同時に組み合わせて構わない。このうち以下では、単独で実現した場合を説明する。
【0088】
図20は、第3の実施形態における処理装置の構成の一例を示すブロック図である。
図20に示すように、第3の実施形態における情報処理装置60は、通信部16と、記憶部67と、入出力部18と、制御部69とを有する。
【0089】
記憶部67は、例えば制御部69が実行するプログラムや、当該プログラムが使用するグリッドマップの直交座標系、データテーブル、処理結果等の各種データなどを記憶する記憶装置の一例であり、例えば半導体メモリやプロセッサなどである。記憶部67は、センサ11から通信部16を介して受信した測定データを記憶する。また、記憶部67は、各センサ11の位置関係や、各センサ11が発信するパルス波の周波数等に関する情報を記憶する。本実施形態において、記憶部67は、センサテーブル171と、ペアリングデータ172とを備える。
【0090】
制御部69は、プロセッサ等により構成され、情報処理装置60全体の処理を制御する。本実施形態において、制御部69は、例えば、取得部191と、特定部192と、合成部193と、判定部694と、出力部695と、車速検出部696と、マップ生成部697と、センサ選択部698とを備える。
【0091】
車速検出部696は、自動車1の車速や移動の方向を検出する。車速検出部696は、例えば、通信部16を介して、自動車1に搭載された速度計や加速度センサから自動車1の車速や加速度に関する情報を取得する。また、車速検出部696は、例えば、車速に関する情報と、加速度に関する情報とを組み合わせることにより、自動車1の移動方向を検出する。これにより、車速検出部696は、自動車1の移動速度ベクトルを算出する。車速検出部696は、検出した移動速度ベクトルを、マップ生成部697及びセンサ選択部698に出力する。
【0092】
マップ生成部697は、直交座標系上に、特定された判定対象や、判定対象の移動先を配置することにより、グリッドマップを生成する。マップ生成部697は、例えば、記憶部67から読み出したグリッドマップの直交座標系に、特定部192により特定された判定対象Tq及びF1を配置する。これにより、
図19に示すようなグリッドマップGMが得られる。なお、マップ生成部697は、推定部の一例である。
【0093】
また、マップ生成部697は、車速検出部696から出力された移動速度ベクトルを用いて、グリッドマップGMに配置された各判定対象の移動先を算出する。第3の実施形態における情報処理システム50が搭載された自動車1は、例えば、
図19における図面の上方向に、時間tあたりグリッド4つ分の速度で移動しているものとする。この場合において、各判定対象Tq及びF1は、各判定対象Tq及びF1の固有の移動速度を除外すると、自動車の移動方向とは反対の方向、すなわち
図19における図面の下方向に、相対的に平行移動すると考えられる。
【0094】
そこで、マップ生成部697は、自動車1の移動速度に応じて、各判定対象Tq及びF1の予想範囲を算出する。
図21は、第3の実施形態における予想範囲の一例を示す図である。
図21に示すように、判定対象Tq及びF1は、判定対象Tq及びF1が特定された時点から、時間tの経過後において、一律移動ベクトルMVに示すように移動するものと考えられる。
【0095】
なお、判定対象の移動後の位置には、各センサ11の特定誤差等に応じた誤差が生じる場合がある。そこで、
図21に示す予想範囲は、判定対象Tq及びF1が配置されたグリッドを拡張した範囲Mq及びF1を平行移動することにより算出されてもよい。かかる範囲の拡張は、例えばモフォロジー変換等の公知の技術により実現できる。そして、第3の実施形態におけるマップ生成部697は、モフォロジー変換されたグリッド群Mq及びF1を平行移動させることにより、予想範囲tMq及びtM1を算出する。なお、以下において、モフォロジー変換されたグリッド群を平行移動させることにより算出される予想範囲を「変換後範囲」と表記する場合がある。
【0096】
また、マップ生成部697は、
図19に示す判定対象Tq及びF1をグリッドマップGM上に配置してから、時間tの経過後に特定された判定対象を、
図22に示すように、さらにグリッドマップGM上に配置する。
図22は、第3の実施形態における特定結果の一例を示す図である。
図22に示すように、マップ生成部697は、時間tの経過後に特定された判定対象tTq及びtF1を、グリッドマップGM上に配置する。
【0097】
図20に戻って、第3の実施形態における判定部694は、マップ生成部697により算出された予想範囲に、時間tが経過した時点において判定対象が特定された座標(実座標)に対応するグリッドが含まれるか否かを判定する。判定部694は、例えば、
図22に示す時間tの経過後に特定された判定対象tTq及びtF1が配置されたグリッドが、予想範囲tMq又はtM1に含まれるか否かを判定する。
【0098】
図22に示す例において、判定対象tTqが配置されたグリッドは、予想範囲tMqに含まれる。この場合、判定部694は、判定対象tTqは実際に存在すると判定する。一方、判定対象tF1は、予想範囲tM1の範囲外に配置されている。この場合、判定部694は、判定対象tF1は実際には存在しない、すなわち虚像であると判定する。この場合において、判定部694は、虚像であると判定された判定対象を、グリッドマップから削除する。
【0099】
図20に戻って、第3の実施形態における出力部695は、グリッドマップに関する情報を出力する。出力部695は、例えば、マップ生成部697により生成され、マップ生成部697及び判定部694により更新されるグリッドマップを、入出力部18を通じて外部のディスプレイ等に出力する。また、出力部695は、例えば、画像の生成が完了した判定対象に関する情報を、ペアリングデータ172から適宜削除する。
【0100】
センサ選択部698は、判定対象の特定に用いるセンサ11を選択する。センサ選択部698は、例えば、自動車1の移動速度ベクトルに基づいて、センサ11を選択し、判定対象の特定に用いるセンサを、選択されたセンサ11に変更する。この場合において、センサ選択部698は、車速検出部696から出力される移動速度ベクトルの角度が、進行方向(
図19における図面の上方向)に対して5度~45度の範囲内である場合に、自動車1が右折中であると判定する。この場合、センサ選択部698は、判定対象の特定に用いるセンサ11を、センサ11C、11R及び12Rに変更する。また、センサ選択部698は、車速検出部696から出力される移動速度ベクトルの角度が、進行方向(
図19における図面の上方向)に対して150度~210度の範囲内である場合に、自動車1が後退中であると判定する。この場合、センサ選択部698は、判定対象の特定に用いるセンサ11を、センサ13L、13C及び13Rに変更する。
【0101】
本実施形態における処理の流れについて、
図23及び
図24を用いて説明する。
図23は、第3の実施形態におけるセンサ選択処理及びマップ初期化処理の一例を示すフローチャートである。まず、情報処理装置60の車速検出部696は、自動車1の移動速度ベクトルを算出する(ステップS300)。次に、センサ選択部698は、移動速度ベクトルの角度が所定の閾値以上であるか否かを判定する(ステップS310)。センサ選択部698は、センサ選択部698は、移動速度ベクトルの角度が所定の閾値以上であると判定した場合(ステップS310:Yes)、判定対象の検出に用いるセンサ11を変更し(ステップS311)、ステップS341に移行する。
【0102】
一方、移動速度ベクトルの角度が所定の閾値未満であると判定された場合(ステップS310:No)、特定部692は、センサ11Lが受信した測定データ(検出結果)L1~Liを取得するとともに(ステップS341)、センサ11Rが受信した測定データ(検出結果)R1~Rjを取得する(ステップS342)。
【0103】
次に、特定部692は、データLiのうちのいずれか1つと、データRjのうちのいずれか1つとの組み合わせを選択する(ステップS350)。特定部692は、データLiとデータRjとを用いて、センサ11Lの検出結果とセンサ11Rの検出結果とをペアリングすることにより、交点座標を算出する(ステップS351)。マップ生成部697は、判定対象の交点座標をモフォロジー変換したグリッド群をグリッドマップ上に配置する(ステップS352)。そして、マップ生成部697は、自動車1の移動速度ベクトルに基づく一律移動ベクトルを用いて、配置されたグリッド群を平行移動させることにより(ステップS353)、変換後範囲をグリッドマップ上に配置させる(ステップS354)。
【0104】
そして、情報処理装置60は、グリッドマップ処理を実行する(ステップS400)。
図24は、第3の実施形態におけるグリッドマップ処理の一例を示すフローチャートである。まず、特定部692は、時間tが経過するまで待機する(ステップS401:No)。特定部692は、時間tが経過したと判定した場合(ステップS401:Yes)、時間tの経過後にセンサ11Lが受信した測定データ(検出結果)L
1~L
lを取得するとともに(ステップS411)、時間tの経過後にセンサ11Rが受信した測定データ(検出結果)R
1~R
mを取得する(ステップS412)。
【0105】
次に、特定部692は、データLlのうちのいずれか1つと、データRmのうちのいずれか1つとの組み合わせを選択する(ステップS420)。特定部692は、選択されたデータLlとデータRmとの組み合わせを用いて、センサ11Lの検出結果とセンサ11Rの検出結果とをペアリングすることにより、実座標である交点座標を算出する(ステップS421)。
【0106】
次に、判定部694は、交点座標が、変換後範囲内に含まれるか否かを判定する(ステップS430)。判定部694は、交点座標が変換後範囲内に含まれないと判定した場合(ステップS430:No)、すなわち判定対象が存在しないと判定される場合、判定対象を除外し(ステップS431)、ステップS450に移行する。
【0107】
一方、交点座標が変換後範囲内に含まれると判定された場合(ステップS430:Yes)、判定部694は、全てのデータLlとデータRmとの組み合わせについて、処理が完了したか否かを判定する(ステップS450)。処理が完了していないと判定された場合(ステップS450:No)、ステップS411に戻って処理が繰り返される。
【0108】
一方、処理が完了したと判定された場合(ステップS450:Yes)、出力部695は、ペアリングデータ172に記憶された判定対象をグリッドマップ上に配置した画像を出力することにより、画面を更新する(ステップS451)。そして、
図23に示す処理に戻る。
【0109】
図23に戻って、情報処理装置60は、終了指示を受け付けたか否かを判定する(ステップS360)。情報処理装置60は、終了指示を受け付けていない場合(ステップS360:No)、ステップS300に戻って処理を繰り返す。また、情報処理装置60は、終了指示を受け付けた場合(ステップS360:Yes)、処理を終了する。
【0110】
以上説明したように、第3の実施形態における情報処理システム50は、自動車1に搭載され、推定部697と、判定部694とを備える。推定部697は、直交座標系を有するグリッドマップGM上に、第1の位置に対応する第1の座標Tqを配置し、自動車の移動速度ベクトルに基づく一律移動ベクトルMVと、ラジアル速度に基づく仮想ベクトルVvqとをさらに合成した合成移動ベクトルMVqを用いて、第1の座標を平行移動させることにより、グリッドマップGM上における移動先の位置vMqを推定する。判定部694は、グリッドマップGM上において、第2の位置tTqに対応するグリッドと、移動先の位置vMqに対応するグリッドとが所定の範囲内にある場合に、判定対象が第2の位置に存在すると判定し、グリッドマップGM上において、第2の位置tF1に対応するグリッドと、前記移動先の位置vM1に対応するグリッドとが所定の範囲内にない場合に、判定対象は存在しないと判定する。これにより、2次元座標よりもデータ量が小さいグリッドマップを用いると共に、一つの一律移動ベクトルMVで複数の判定対象の移動先を算出できるので、計算量を削減できる。
【0111】
また、第3の実施形態にかかるセンサ選択部698は、自動車1の周方向に離間して設置された3つ以上のセンサ11のうち、相対的な速さの検出に用いる反射波を受信する少なくとも2つのセンサ11を選択する。その際、特定部692は、自動車1の移動速度ベクトルに基づいて、センサ11を選択してもよい。これにより、自動車1が前進中の場合だけでなく、転回中や後退中においても、判定対象を適切に特定できる。
【0112】
なお、第3の実施形態にかかるグリッドマップ処理が行われている場合において、他の判定処理に切替ができるようにしてもよい。例えば、自動車1の移動速度ベクトルの大きさや方向等に応じて、第1の実施形態にかかる判定処理や、第2の実施形態にかかる判定処理に切り替えられるような構成であってもよい。
【0113】
また、マップ生成部697は、グリッド群の平行移動に用いる移動速度ベクトルを、いずれかの判定対象のラジアル速度に基づく仮想ベクトルと合成して用いてもよい。
図25は、第3の実施形態におけるモフォロジー処理結果の別の一例を示す図である。
図25には、判定対象Tqのラジアル速度に基づく仮想ベクトルVvqと、判定対象F1のラジアル速度に基づく仮想ベクトルVv1がさらにグリッドマップGM上に示されている。この場合において、マップ生成部697は、自動車1の移動速度ベクトルに基づく一律移動ベクトルMVと、判定対象Tqのラジアル速度に基づく仮想ベクトルVvqとを合成することにより、新たな合成移動ベクトルMVqを算出する。そして、マップ生成部697は、算出した合成移動ベクトルMVqを用いて、モフォロジー変換されたグリッド群Tqを平行移動させる。これにより、
図22に示す予想範囲tMqとは異なる変換後範囲vMqが、
図25に示すグリッドマップGMに配置される。
【0114】
なお、
図25においては、判定対象F1に対応するグリッド群M1を平行移動させるための移動ベクトルにも、判定対象F1のラジアル速度に基づく仮想ベクトルVv1ではなく判定対象Tqのラジアル速度に基づく仮想ベクトルVvqを用いて合成された合成移動ベクトルMVqが用いられる。このように、一つの移動ベクトルを複数の判定対象に対応するグリッド群の平行移動に用いることにより、グリッドマップ処理における計算量を削減できる。その際、複数の判定対象Tq及びF1のうち、センサ11からの距離が最も大きい判定対象Tqのラジアル速度に基づく仮想ベクトルを用いる例について説明したが、実施の形態はこれに限られない。
【0115】
また、センサ11が、自動車1の進行方向に直行する幅方向(
図1に示す左右方向)の両端部、又は自動車1の進行方向(
図1に示す上下方向)の両端部に離間して設置される例について示したが、実施の形態はこれらに限られない。例えば、センサ11C、12L及び12Rのように、センサ11は自動車1の両端部以外の場所に設けられてもよい。また、図示した各センサ11以外に、自動車1の車室内を含む中央付近にセンサ11が配置されていてもよい。また、
図1に示す例においては、例えばセンサ11Lとセンサ11Rとは、自動車1の進行方向(
図1に示す上下方向)において同一の位置に設けられているが、異なる位置に設けられていてもよい。
【0116】
これまで本発明の各実施形態について説明したが、本発明は上述した各実施形態以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。例えば、各実施形態においては、2次元座標上における判定対象の特定及び虚像の除外について説明したが、これに限られず、3次元座標上において、判定対象を特定するとともに虚像を除外するような構成であってもよい。また、自動車1とのリアルタイム通信が可能であれば、各実施形態における情報処理装置14、30、60は外部のサーバやクラウド等、自動車1から離れた場所に実装されていてもよい。
【0117】
また、第3の実施形態におけるセンサ選択部698は、第1の実施形態又は第2の実施形態における情報処理装置14又は30に搭載されていてもよい。これにより、自動車1の車速や進行方向に応じて、最適なセンサ11の組み合わせを選択できる。
【0118】
また、各実施形態において説明した各処理のうち、自動的におこなわれるものとして説明した処理の一部を手動的におこなうこともできる。あるいは、手動的におこなわれるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的におこなうこともできる。この他、上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0119】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散や統合の具体的形態は図示のものに限られない。つまり、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。また、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【符号の説明】
【0120】
1 自動車、 10 情報処理システム、 11 センサ、 111 取得部、 112 検出部、 14 情報処理装置、 16 通信部、 17 記憶部、 18 入出力部、 19 制御部、 191 取得部、 192 特定部、 193 合成部、 194 判定部、 195 出力部