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特許7554646エノキタケ属キノコ含有加工品、及びエノキタケ属キノコ含有加工品の製造方法
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  • 特許-エノキタケ属キノコ含有加工品、及びエノキタケ属キノコ含有加工品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】エノキタケ属キノコ含有加工品、及びエノキタケ属キノコ含有加工品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/00 20160101AFI20240912BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20240912BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20240912BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20240912BHJP
   C12P 21/06 20060101ALI20240912BHJP
   C12P 1/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
A23L19/00 101
A23L27/00 D
A23L2/52
A23L2/00 B
C12P21/06
C12P1/00 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020193209
(22)【出願日】2020-11-20
(65)【公開番号】P2022081949
(43)【公開日】2022-06-01
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000104113
【氏名又は名称】カゴメ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】角井 達人
(72)【発明者】
【氏名】田口 太郎
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-275927(JP,A)
【文献】特開2009-254336(JP,A)
【文献】桐渕壽子, 川嶋かほる,紫外線照射エノキタケの呈味に関する研究:主として核酸関連化合物について,日本家政学会誌,1992年,Vol. 43, No. 10,pp. 1039-1042,https://doi.org/10.11428/jhej1987.43.1039
【文献】MAU, J.-L. et al.,Taste Quality of the Hot Water Extract from Flammulina velutipes and its Application in Umami Season,Food Science and Technology Research,2018年,Vol. 24, No. 2,pp. 201-208,https://doi.org/10.3136/fstr.24.201
【文献】甲山恵美,キノコのうま味成分,川村学園女子大学研究紀要,2018年,Vol. 29, No. 3,pp. 107-120
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エノキタケ属キノコ含有加工品の製造方法であって、それを構成するのは、少なくとも以下の工程である。:
酵素処理:ここで酵素処理されるのは、少なくとも、エノキタケ属キノコ加工品であり、
当該酵素は、デアミナーゼ、及びグルタミナーゼである。
【請求項2】
請求項1の製造方法であって、前記酵素処理において、さらに用いられる酵素は、ヌクレアーゼである。
【請求項3】
請求項1の製造方法であって、それを構成するのは、さらに以下の工程である。:
冷凍:ここで冷凍されるのは、エノキタケ属キノコであり、
解凍:ここで解凍されるのは、前記冷凍されたエノキタケ属キノコであり、
当該冷凍、及び解凍は、前記酵素処理の前に行われる。
【請求項4】
請求項1~3の何れかの製造方法であって、それを構成するのは、さらに以下の工程である。:
濃縮:ここで濃縮されるのは、少なくとも、前記酵素処理されたエノキタケ属キノコ加工品であり、当該濃縮は、蒸発濃縮、又は膜濃縮によって行われる。
【請求項5】
請求項1~4の何れかの製造方法であって、これによって得られるキノコ含有加工品の5’-イノシン酸(5’-IMP)含有量に対する5’-アデニル酸(5’-AMP)含有量の比は、4.0以下である。
【請求項6】
請求項1~5の何れかの製造方法であって、これによって得られるキノコ含有加工品の5’-イノシン酸(5’-IMP)の含有量は、当該キノコ含有加工品のBrix4.0換算時において、6.0ppm~150.0ppmである。
【請求項7】
請求項1~4の何れかの製造方法であって、これによって得られるキノコ含有加工品のグルタミン酸(Glu)含有量に対するグルタミン(Gln)含有量の比は、1.0以下である。
【請求項8】
請求項1~4、並びに7の何れかの製造方法であって、これによって得られるキノコ含有加工品のグルタミン酸の含有量は、当該キノコ含有加工品のBrix4.0換算時において、50mg/100g~140mg/100gである。
【請求項9】
エノキタケ属キノコ含有加工品であって、当該キノコ含有加工品における、5’-イノシン酸(5’-IMP)含有量に対する5’-アデニル酸(5’-AMP)含有量の比は、4.0以下であり、当該キノコ含有加工品の5’-イノシン酸(5’-IMP)含有量は、当該キノコ含有加工品のBrix4.0換算時において、30.0ppm~150.0ppmであり、当該キノコ含有加工品のグルタミン酸(Glu)含有量に対するグルタミン(Gln)含有量の比は、1.0以下である。
【請求項10】
請求項のキノコ含有加工品であって、当該キノコ含有加工品のグルタミン酸含有量は、当該キノコ含有加工品のBrix4.0換算時において、50mg/100g~140mg/100gである。
【請求項11】
請求項9又は10のキノコ含有加工品であって、当該キノコ含有加工品は、旨味増強用組成物である。
【請求項12】
野菜含有調味料であって、当該野菜含有調味料が含有するのは、請求項9~11の何れかのキノコ含有加工品である。
【請求項13】
野菜含有飲食品であって、当該野菜含有飲食品が含有するのは、請求項9~12の何れかのキノコ含有加工品である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明が関係するのは、エノキタケ属キノコ含有加工品及びその製造方法である。
【背景技術】
【0002】
飲食品や調味料の風味において、「旨味」や「コク」(香味の強度、持続性、及び複雑さ等)は、重要視されている。「旨味」に寄与する成分は、主にアミノ酸、及び核酸が挙げられる。一部の核酸は、アミノ酸の一種であるグルタミン酸と組み合わせることで、旨味増強の相乗効果があることが知られている。これら、アミノ酸や核酸は、動物性の食品原料や、酵母エキス等に多く含まれていることが知られている。
【0003】
近年、市場で求められるのは、動物性原料の不使用である。野菜のみで作られた料理や植物性の「だし調味料」も、野菜のやさしい味わいや、味の深さ、広がりから一定の需要がある。また、動物性の食品を食べられない人、菜食主義の人からの需要もあり、その需要は増加している。
【0004】
しかし、野菜を主原料とする飲食品や調味料は、動物由来の食品を主原料とする飲食品や調味料と比較して、旨味やコクが弱い。また、旨味やコクを増強するために、酵母エキスやタンパク加水分解物を使用すると、旨味や風味が強くなりすぎたり、人工感があったりすることで、忌避されることもあった。
【0005】
植物性の原料の中で、旨味増強に寄与する核酸を多く含む原料として、キノコ類が挙げられる。キノコ類を用いることで、天然由来であり、飲食品や調味料において、旨味やコクを増強させる効果が期待できる。
【0006】
しかしながら、キノコ類には独特の臭いがあり、人によっては忌避される。また、飲食品や調味料に用いると、その独特のキノコ臭によって、他の素材の風味を損なってしまう。特に、呈味だけを付与し、香りは付与したくないような調味料においては、使用しにくい。また、旨味増強効果を高めるために、キノコ類原料を多く使用するほど、キノコ臭も高まることとなる。
【0007】
特許文献1に記載されているのは、ヒラタケ属キノコを酵素加水分解処理したものであり、醤油入り加熱液体調味料において、醤油由来の加熱劣化臭を抑制している。
【0008】
特許文献2に記載されているのは、γ-アミノ酪酸含有量を高めた食品であり、γ-アミノ酪酸高含有素材を得るため、キノコを凍結してから解凍している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開第2015-181451号公報
【文献】特開第2012-187068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、キノコ臭が抑制された、旨味増強用組成物を提供することである。従来のキノコを用いた加工品に内在するのは、キノコ臭の強さ、及び旨味増強用成分量の低さである。調味料として、キノコを用いた加工品に求められるのは、キノコ臭を抑えつつも、旨味増強成分を増加させることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
当該課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討し発見したのは、キノコ類が含有する核酸量、及びアミノ酸量と、キノコ類の種類による香味特性との関係である。そのような観点から本発明を定義すると、次のとおりである。
【0012】
エノキタケ属キノコ含有加工品の製造方法であって、それを構成するのは、少なくとも酵素処理である。この工程で酵素処理されるのは、少なくとも、エノキタケ属キノコ加工品である。当該酵素は、デアミナーゼ、又はグルタミナーゼのうち、少なくとも1つ以上である。また、酵素処理において、さらに用いられる酵素は、ヌクレアーゼである。
【0013】
また、前記酵素処理工程に加えて、冷凍、及び解凍工程を有することが好ましい。この冷凍工程で冷凍されるのは、エノキタケ属キノコである。この解凍工程で解凍されるのは、前記冷凍されたエノキタケ属キノコである。当該冷凍工程、及び解凍工程は、酵素処理の前に行われる。
【0014】
さらに、前記酵素処理工程に加えて、濃縮工程を有することが好ましく、ここで濃縮されるのは、少なくとも、前記酵素処理されたエノキタケ属キノコ加工品であり、当該濃縮は、蒸発濃縮、又は膜濃縮によって行われる。
【0015】
また、エノキタケ属キノコ含有加工品であって、当該キノコ含有加工品における、5’-イノシン酸(5’-IMP)含有量に対する5’-アデニル酸(5’-AMP)含有量の比は、4.0以下である。好ましくは、当該キノコ含有加工品の5’-イノシン酸(5’-IMP)含有量は、当該キノコ含有加工品のBrix4.0換算時において、6.0ppm~150.0ppmである。
【0016】
あわせて、エノキタケ属キノコ含有加工品であって、当該キノコ含有加工品のグルタミン酸(Glu)含有量に対するグルタミン(Gln)含有量の比は、1.0以下である。好ましくは、当該キノコ含有加工品のグルタミン酸含有量は、当該キノコ含有加工品のBrix4.0換算時において、50mg/100g~140mg/100gである。
【0017】
さらに、当該キノコ含有加工品は、旨味増強用組成物である。また、野菜含有調味料、又は野菜含有飲食品であって、当該野菜含有調味料、又は野菜含有飲食品が含有するのは、前記キノコ含有加工品である。
【発明の効果】
【0018】
本発明が可能にするのは、キノコ臭を抑えつつも、調味料や飲食品の旨味を強化することが可能な、キノコ含有加工品、及び旨味増強用組成物の提供である。これにより、キノコ加工品の使用量が少なくとも旨味増強効果が十分に得られ、かつ、キノコ臭を抑えられた飲食品や調味料を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】エノキタケ属キノコ含有加工品の製造方法の流れ図
【発明を実施するための形態】
【0020】
<エノキタケ属キノコ含有加工品>
本発明の実施の形態に係るエノキタケ属キノコ含有加工品とは、加工品であって、少なくとも、エノキタケ属キノコを加工したものを含有するものである。また、エノキタケ属キノコ加工品とは、加工品であって、エノキタケ属キノコを加工したものである。それらの形態は特に限定されず、搾汁、抽出物、ペースト状、乾燥物、粉末状、顆粒状、などである。
【0021】
<エノキタケ属キノコ>
本発明の実施の態様に係るエノキタケ属キノコとは、エノキタケ属に属するキノコの総称である。エノキタケ属キノコとしては、Flammulina callistosporioides, Flammulina elastica, Flammulina fennae, Flammulina ferrugineolutea, Flammulina mediterranea, Flammulina Mexicana, Flammulina ononidis, Flammulina populicola, Flammulina rossica, Flammulina similis, Flammulina stratosa, Flammulina velutipes(エノキタケ)が挙げられる。これらのエノキタケ属キノコの中でも、エノキタケ(Flammulina velutipes)を用いるのが好ましい。特に好ましくは、野生種のエノキタケではなく、栽培種のエノキタケを用いることである。また、エノキタケは、純白系又は黄白系のものであることが好ましく、より好ましくは純白系である。
【0022】
<エノキタケ属キノコ含有加工品の製造方法>
本エノキタケ属キノコ加工品の製造方法(以下、この欄では、「本製法」ということもある。)を概念的に構成するのは、少なくとも、酵素処理である。
【0023】
図1が示すのは、本製法の流れである。この製法を構成するのは、好ましくは、冷凍及び解凍(S10)、砕き(S20)、分画(S30)、酵素処理(S40)、濃縮(S50)、並びに殺菌及び充填(S60)である。当該工程は、必ずしもこの順に行われなければならないというものではなく、一部順番が変更されたり、同工程が複数回行われても良い。
【0024】
<冷凍、及び解凍(S10)>
冷凍、及び解凍を行う目的は、エノキタケ属キノコ組織中のヌクレアーゼを活性化させるためである。エノキタケ属キノコを冷凍、及び解凍することによって、当該キノコの組織が破壊され、組織中のヌクレアーゼが滲出する。これによって、核酸であるRNAが分解され、5’-アデニル酸(5’-AMP)や5’-グアニル酸(5’-GMP)等が生成される。5’-グアニル酸は、アミノ酸であるグルタミン酸と用いることで、旨味増強の相乗効果を有する。当該解凍は、工程としての解凍工程を設けても良いが、後述する砕き工程等において同時に解凍する方法を採用しても良い。当該冷凍、及び解凍を行う場合、後述する酵素処理において、ヌクレアーゼ処理を行わなくともよくなる、又は、添加するヌクレアーゼの量を減らせることによる原価の低減等の効率化が図れる。
【0025】
<砕き(S20)>
キノコを砕く目的は、キノコの表面積を大きくすることで、キノコ由来の成分を溶出しやすくすることである。砕きの形態は、特に限定されず、例示すると、スライス上、ダイス状、微塵切り状、ペースト状、等が挙げられる。砕きの方法は、公知の方法であれば特に限定されず、例示すると、破砕、切断、摩砕やこれらの組合せ等である。砕きで得られるのは、砕かれたキノコであり、例示すると、破砕物、切断物や摩砕物等である。
【0026】
破砕物とは、砕かれたキノコであって、その大きさが不均一なものをいう。破砕物の大きさは、0.5mm~10cmである。好ましくは、0.5mm~10mm、より好ましくは、0.5mm~5mmである。破砕物が奏する効果は、具材感又は手作り感の付与である。破砕手段を例示すると、ハンマーミル等である。
【0027】
切断物とは、砕かれたキノコであって、その大きさが均一なものをいう。切断物の大きさは、0.5mm~5cmである。好ましくは、0.5mm~10mm、より好ましくは、0.5mm~5mmである。切断物が奏する効果は、本エノキタケ属キノコ含有加工品、本野菜含有調味料及び本野菜含有飲食品における品質の安定化である。切断手段を例示すると、ミクログレーダー、ダイスカッター、コミトロール、フードプロセッサー等である。
【0028】
摩砕物とは、砕かれたキノコであって、その性状がピューレ又はペースト状のものをいう。摩砕物の大きさは、0.5mm程度である。摩砕手段は、コロイドミル、コミトロール、フードプロセッサー等である。
【0029】
砕きは、一段階で行っても良いし、二段階以上の複数の段階に分けて行っても良い。砕きがなされた後のキノコの大きさは、特に限定されないが、好ましくは、0.5mm~10mmである。より好ましくは、0.5mm~5mmである。
【0030】
<分画(S30)>
分画を行う目的は、キノコ加工品における、水溶性画分と不溶性画分の分離である。キノコ臭さが多く残留しているのは、キノコの不溶性画分である。キノコの不溶性画分を取り除くことで、キノコ臭が低減する。また、キノコの不溶性画分を取り除くことで、後工程の効率化を図れる。不溶性画分を取り除くことで、後工程の濃縮を行う際に、濃縮度が上がる。また、不溶性画分を取り除くことで、液体の粘度が低下し、種々の飲食品への適用が容易となる。分画を具現化した方法は、少なくとも、固液分離(S31)、搾り(S32)、及び水出し(S33)などである。本工程の実施要否は、最終的な素材の用途を考慮して判断することができる。
【0031】
<固液分離(S31)>
固液分離の目的は、一定の大きさの固形分の除去である。固液分離の方法は、公知の方法で良く、例えば、ふるい式、遠心分離式等である。遠心分離の原理は連続式、バッチ式のいずれの方法でもよいが、遠心分離装置を例示すると、デカンターがある。
【0032】
<搾り(S32)>
砕かれたキノコを搾って得られるのは、搾汁及び粕である。つまり、キノコを搾る方法は、公知の方法で良く、例えば、圧搾式、遠心分離式等である。搾汁装置を例示すると、エクストルーダー、フィルタープレス、デカンター、ギナー等である。
【0033】
<水出し(S33)>
水出しの目的は、砕かれたキノコからその含有成分を抽出することである。キノコが浴することで、その含有成分が溶け出す。当該成分が溶け出す先は、水である。水(溶媒)の温度が低すぎると、抽出時間が長くなる。他方で、水(溶媒)の温度が高すぎると、キノコ由来の成分が劣化してしまう。また、キノコに含まれる酵素が失活する。そのような観点から、水(溶媒)の温度は、好ましくは、10~50℃である。
【0034】
<酵素処理(酵素反応)(S40)>
本発明に係る酵素処理、及び酵素反応とは、添加した酵素、又はキノコの内在酵素により、キノコ中の基質が反応を起こし、成分変換を生じることである。
【0035】
酵素処理を行う目的は、エノキタケ属キノコ加工品の旨味成分、又は旨味増強成分を増加させるためである。ここで使用する酵素は、食品添加物としての酵素である。使用する酵素は、デアミナーゼ、又はグルタミナーゼのうち、少なくとも1つ以上である。好ましくは、前記酵素に加えて、ヌクレアーゼである。デアミナーゼは、5’-アデニル酸(5’-AMP)を5’-イノシン酸(5’-IMP)に変換する酵素である。5’-イノシン酸は、グルタミン酸と組み合わせることで、旨味増強の相乗効果を示す。また、グルタミナーゼは、グルタミン(Gln)をグルタミン酸(Glu)に変換する酵素である。グルタミン酸は旨味に寄与する成分であるため、グルタミンがグルタミン酸に変換されることで、旨味が増強される。ヌクレアーゼは、RNAを5’-グアニル酸(5’-GMP)や5’-アデニル酸(5’-AMP)に変換する酵素である。5’-グアニル酸は、グルタミン酸と組み合わせることで、旨味増強の相乗効果を示す。また、5’-アデニル酸は、前記デアミナーゼの基質となるため、ヌクレアーゼ処理を行った後、又は同時にデアミナーゼ処理を行うことにより、5’-イノシン酸がさらに増加し、旨味増強効果が大きくなる。前記酵素以外に、セルラーゼ、ペクチナーゼ、ヘミセルラーゼ、プロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、ラクターゼ、グルコースオキシダーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ、β-グルコシダーゼ、などを用いてもよい。
【0036】
デアミナーゼとして使用できる酵素は、具体的には、Aspergillus属由来のデアミザイムG(天野エンザイム社製)、デアミザイムT(天野エンザイム社製)などがある。また、グルタミナーゼとして使用できる酵素は、具体的には、Bacillus属由来のグルタミナーゼSD-C100S(天野エンザイム社製)などがある。さらに、ヌクレアーゼとして使用できる酵素は、具体的には、Penicillilum属由来のヌクレアーゼ「アマノ」G(天野エンザイム社製)などがある。
【0037】
酵素の形態は、特に限定されない。例えば、粉末状、顆粒状、液体状、などである。用いる酵素が粉末状、又は顆粒状である場合は、一度水性溶媒で溶解した後、キノコ加工品に添加することが好ましい。これにより、キノコ加工品中で、均一に分散し、酵素反応を安定的に行うことができるためである。
【0038】
当該酵素処理は、他の工程と区別して行われても良いし、後述する濃縮工程と同時に行われても良い。使用する酵素の量は、キノコ加工品に含有される基質量を考慮して調整することが好ましい。これにより、効率的に酵素処理を行うことができる。また、酵素処理の温度やpHの条件は、使用する酵素の適性に合わせて、酵素活性が高まる条件とすることが好ましい。
【0039】
<濃縮(S50)>
分画で得られた液体部分(液体)を濃縮する目的は、素材のハンドリングの向上である。液体を濃縮することで、液体の容積が減る。つまり、液体の保管コストが下がる。濃縮方法は、公知の方法で良く、例えば、真空濃縮、膜濃縮、凍結濃縮等である。キノコ臭を低減する目的から、真空濃縮、又は膜濃縮で行うことが好ましい。
【0040】
<殺菌及び充填(S60)>
以上に加えて、本製法が適宜採用するのは、殺菌及び充填である。これらの方法は、公知の方法で良く、例えば、プレート式殺菌、チューブラー式殺菌方法等がある。
<キノコ臭>
【0041】
本発明の実施の形態に係るキノコ臭とは、臭いであって、キノコ独特の香りを形成するものである。多くのキノコに共通して含まれる、いわゆるキノコ臭を形成している成分には、1-オクテン-3-オール、1-オクテン-3-オン、3-オクタノール、3-オクタノンなどが挙げられる。特に、1-オクテン-3-オールは、前記化合物の中でもその占める割合が最も多く、典型的なキノコ臭を呈することが知られている。キノコ臭は、その独特の香りのために、調味料や飲食品に含まれている場合に感知しやすく、飲食品の風味に少なからず寄与する。一方で、キノコ臭を忌避する人もいる。そのため、飲食品において他の風味を活かしたい場合、キノコ臭は少ないことが望まれる。
【0042】
本発明に係るキノコ加工品は、キノコの中でもエノキタケ属のキノコを用いることで、他のキノコと比較して明らかにキノコ臭が低いキノコ加工品を製造することが可能であることを見出した。
【0043】
<核酸>
核酸とは、デオキシリボヌクレオチド(DNA)、及びリボヌクレオチド(RNA)の総称である。核酸の構成単位であるヌクレオチドは、核酸塩基、5単糖、及びリン酸から構成される。DNAの塩基は、アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、及びチミン(T)の4種類があり、RNAの塩基はアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、ウリジン(U)の4種類がある。この中でも、塩基がグアニンにより構成される5’-グアニル酸は、アミノ酸と組み合わせることで、旨味増強の相乗効果を有することが知られている。また、塩基がアデニンにより構成される5’-アデニル酸は、デアミナーゼによる加水分解が行われることによって5’-イノシン酸に変換される。5’-イノシン酸は、5’-グアニル酸と同様、アミノ酸と組み合わせることで、旨味増強の相乗効果を有することが知られている。
【0044】
<核酸比率>
本発明の実施の形態に係るエノキタケ属キノコ含有加工品において、5’-イノシン酸含有量に対する5’-アデニル酸の含有量の比は、好ましくは、4.0以下である。より好ましくは、1.0以下、さらに好ましくは、0.2以下である。
【0045】
<アミノ酸比率>
本発明の実施の形態に係るエノキタケ属キノコ含有加工品において、グルタミン酸含有量に対するグルタミン含有量の比は、好ましくは、1.0以下である。また好ましくは0.1以下であり、より好ましくは、0.01以下、さらに好ましくは、0.005以下である。
【0046】
<核酸含有量>
本実施の形態に係るエノキダケ属キノコ含有加工品の核酸含有量(濃度)は、HPLC法により分析される。本発明の実施の形態に係るエノキタケ属キノコ含有加工品において、5’-グアニル酸の含有量は、エノキタケ属キノコ含有加工品のBrix4.0換算時において、8.0ppm~120.0ppmであることが好ましい。より好ましくは、20ppm~100.0ppmであり、さらに好ましくは、40.0ppm~80.0ppmである。また、5’-イノシン酸の含有量は、エノキタケ属キノコ含有加工品のBrix4.0換算時において、6.0ppm~150.0ppmであることが好ましい。より好ましくは、30ppm~100.0ppmであり、さらに好ましくは、50ppm~80ppmである。
【0047】
なお、Brix4.0換算時とは、Brixが4.0より高いものについては、これを水でBrix4.0まで希釈したときのことを表し、Brixが4.0より低いものについては、水だけを除いてBrix4.0まで濃縮したと想定したときのことを表し、以下同様である。
【0048】
<アミノ酸含有量>
本実施の形態に係るエノキダケ属キノコ含有加工品のアミノ酸含有量(濃度)は、HPLC法により分析される。本発明の実施の形態に係るエノキタケ属キノコ含有加工品において、グルタミン酸含有量は、エノキタケ属キノコ含有加工品のBrixが4.0換算時において、50mg/100g~140mg/100gであることが好ましい。より好ましくは、70mg/100g~120mg/100gである。また、グルタミン含有量は、20mg/100g以下であることが好ましい。より好ましくは、10.0mg/100g以下であり、さらに好ましくは、1.0mg/100g以下である。
【0049】
<グルタミン酸当量旨味濃度(EUC)>
本発明の実施の形態において、旨味の指標は、「グルタミン酸当量旨味濃度(EUC:Equivalent Umami Concentration)」で表すことができる。EUCの計算方法は、以下に記載の式で示される。当該計算方法として取り込むのは、Yamaguchi,S.,Yoshikawa.,T.,Ikeda,S.,etal.:J.FoodSci.,36:846-849,(1971)である。
【0050】
【数1】
【0051】
ここで、Aspとは、アスパラギン酸の略称である。Gluとは、グルタミン酸の略称である。5’-GMPとは、5’-グアニル酸の略称である。5’-IMPとは、5’-イノシン酸の略称である。5’-XMPとは、5’-キサンチル酸の略称である。5’-AMPとは、5’-アデニル酸の略称である。biで示される、Aspの旨味強度は、0.077である。biで示されるGluの旨味強度は1.0である。bjで示される5’-AMPの旨味強度は、0.18である。bjで示される5’-GMPの旨味強度は、2.3である。bjで示される5’-IMPの旨味強度は、1.0である。bjで示される5’-XMPの旨味強度は0.61である。表1にアミノ酸、及び核酸の旨味強度を示した。本発明の実施の形態において、5’-XMPの含有量はほとんど含まれていないことから、本発明に係るEUCの算出では、5’-XMPの含有量は考慮しないものとした。
【0052】
【表1】
【0053】
<Brix(可溶性固形分)>
本実施の形態に係るエノキダケ属キノコ含有加工品において、Brixは、特に限定されないが、好ましくは、1.0以上60以下である。より好ましくは、5.0以上40.0以下である。Brixの測定方法は、公知の方法でよい。測定手段を例示すると、光学屈折率計(NAR-3T ATAGO社製)である。
【0054】
<pH>
本実施の形態に係るエノキダケ属キノコ含有加工品のpHは、特に限定されないが、好ましくは、Brix4.0において、5.0~8.0である。より好ましくは、Brix4.0において、6.0~7.0である。pHの測定法は、公知の方法でよい。
【0055】
<野菜含有調味料、野菜含有飲食品>
本発明における、野菜含有調味料とは、調味料であって、少なくとも、野菜加工品、及びエノキタケ属キノコ含有加工品を含有する調味料である。ここで、調味料とは、調味用途の材料をいう。また、本発明における野菜含有飲食品とは、少なくとも、野菜加工品、及びエノキタケ属キノコ含有加工品を含有する飲料、又は食品である。
【実施例
【0056】
[酵素処理による5’-イノシン酸、及びグルタミン酸の増加確認]
<比較例1>
市販の純白系のエノキタケ400gの石突部をカットし、5cm程度に切断し、フードプロセッサーを使用して破砕後、遠心分離機(日立社製、himacCR22N)により8000rpm、10分間処理し、エノキタケを搾汁したもの(上清部)を、エノキタケ搾汁液(比較例1)とした。
【0057】
<実施例1>
市販の純白系のエノキタケ400gの石突部をカットし、5cm程度に切断し、フードプロセッサーを使用して破砕後、遠心分離機(日立社製、himacCR22N)により8000rpm、10分間処理し、エノキタケを搾汁したもの(上清部)を、エノキタケ搾汁液(実施例1-1)とした。エノキタケ搾汁液を水でBrix4に調整したもの100gに対して、0.1gのデアミザイムG「アマノ」(デアミナーゼ)、及び、0.1gのグルタミナーゼSD-C100S(グルタミナーゼ)を添加後、よく撹拌し溶解させた。これを、恒温槽で撹拌しながら、60℃で1.5時間保持した。その後、100℃で10分加熱することにより酵素失活を行い、冷却後、エノキタケ酵素処理試料(実施例1-2)とした。
【0058】
<実施例2>
市販の純白系のエノキタケを-18℃で16時間凍結させたのち、40℃で20分間湯浴解凍を行った。この冷解凍を行ったエノキタケ400gの石突部をカットし、5cm程度に切断し、フードプロセッサーを使用して破砕後、遠心分離機(日立社製、himacCR22N)により8000rpm、10分間処理し、エノキタケを搾汁したもの(上清部)を、エノキタケ搾汁液(実施例2-1)とした。エノキタケ搾汁液を水でBrix4に調整したもの100gに対して、0.1gのデアミザイムG「アマノ」(デアミナーゼ)、及び、0.1gのグルタミナーゼSD-C100S(グルタミナーゼ)を添加後、よく撹拌し溶解させた。これを、恒温槽で撹拌しながら、60℃で1.5時間保持した。その後、100℃で10分加熱することにより酵素失活を行い、冷却後、エノキタケ酵素処理試料(実施例2-2)とした。
【0059】
<核酸の分析>
本測定で採用した核酸の測定器は、紫外検出器付き高速液体クロマトグラフ(日立製作所Chromasterシリーズ)である。測定条件は、カラム:Develosil RPAQUEOUS AR[固定相:C30(トリアコンチル基)、粒子径:5μm、内径:4.6nm×250mm、野村化学(株)製]、カラム温度:40℃、サンプル注入量:10μL、移動相:100mMリン酸緩衝液(pH2.5)をA液、アセトニトリルと超純水を9:1(容量比)で混合した液をB液とし、B液比率を、0~15分後まで0%、25分後まで4.5%、25.1~27.9分後まで40%、28~32分後まで0%となるようなリニアグラジエント、移動相の流速:1mL/min、検出器:UV検出器、検出波長:254nmである。
【0060】
<アミノ酸の分析>
本測定で採用したアミノ酸濃度の測定法は、HPLC法である。具体的には、本測定で採用したグルタミン酸、及びアスパラギン酸の測定器は、高速アミノ酸分析計L-8000シリーズ((株)日立製作所)である。測定条件は、アンモニアフィルタカラム:#2650L[内径:4.6mm×60mm、(株)日立製]、分析カラム:#2622[内径:4.6mm×60mm、(株)日立製]、ガードカラム:#2619[内径:4.6mm×60mm、(株)日立製]、移動相:クエン酸リチウム緩衝液、反応液:ニンヒドリン溶液、検出波長:VIS 570nmである。
【0061】
<Brix>
本測定で採用したBrix(可溶性固形分)の測定器は、屈折計(NAR-3T ATAGO社製)である。測定時の品温は、20℃であった。
【0062】
<pH>
本測定で採用したpHの測定器は、pH計(pH METER F-52 HORIBA社製)である。測定時の品温は、20℃であった。
【0063】
<結果>
比較例1、実施例1-1、実施例1-2、実施例2-1、実施例2-2に関して、Brix,pH,アミノ酸含有量、核酸含有量を測定した結果を表2に示す。また、実施例1-1、及び実施例1-2、並びに、実施例2-1、及び実施例2-2を基に、酵素処理後試料を、搾汁時のBrixに換算したときの、各種アミノ酸、核酸、及びEUCの値のシミュレーション値を、それぞれ、表3の実施例1、及び実施例2の欄に記載した。
【0064】
エノキタケ搾汁液を、グルタミナーゼ、及びデアミナーゼ処理を行うことによって、グルタミン含有量が低下し、グルタミン酸が増加した。併せて、5’-アデニル酸含有量が低下し、5’-イノシン酸含有量が増加した。その結果、EUCの値が増加した。また、搾汁前にエノキタケを冷解凍することによって、エノキタケ搾汁液の可溶性固形分が増加し、核酸含有量が増加し、EUCの値も増加した。
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
<考察>
エノキタケ加工品をデアミナーゼ処理、及びグルタミナーゼ処理を行うことによって、アミノ酸含有量、及び核酸含有量を増加させることができ、旨味増強用の組成物を作製することができた。また、エノキタケを冷解凍したものを用いることによって、さらにEUC値を高めることができ、旨味増強効果が高まることがわかった。なお、実施例1、及び2において、比較例1と比較して5’-GMP含有量が増加している理由は、エノキタケに含まれる内在酵素のヌクレアーゼの作用によるものと推測される。
【0068】
[各キノコ加工品における風味の違い確認]
<事前評価>
事前評価として、エノキタケ、シメジ、シイタケ、エリンギを用いて、フードプロセッサーを使用して破砕後、遠心分離機により遠心処理をし、各種キノコ類の搾汁液を作製した。各種キノコ類の搾汁について、5名の官能評価者により、キノコ臭の強さを評価した。その結果、エノキタケの搾汁が最もキノコ臭が低い結果となった。比較的キノコ臭が低いと言われているエリンギ、及びヒラタケについて、以後の試験において詳細に検討することとした。
【0069】
<比較例2>
市販のヒラタケ400gの石突部をカットし、5cm程度に切断し、フードプロセッサーを使用して破砕後、遠心分離機(日立社製、himacCR22N)により8000rpm、10分間処理し、ヒラタケを搾汁したものをヒラタケ搾汁試料(比較例2-1)。ヒラタケ搾汁試料を水でBrix4に調整したもの100gに対して、0.1gのデアミザイムG「アマノ」(デアミナーゼ)、及び、0.1gのグルタミナーゼSD-C100S(グルタミナーゼ)を添加後、よく撹拌し溶解させた。これを、恒温槽で撹拌しながら、60℃で1.5時間保持した。その後、100℃で10分加熱することにより酵素失活を行い、冷却後、ヒラタケ酵素処理試料(比較例2-2)とした。
【0070】
<比較例3>
市販のエリンギ400gの石突部をカットし、5cm程度に切断し、フードプロセッサーを使用して破砕後、遠心分離機(日立社製、himacCR22N)により8000rpm、10分間処理し、エリンギを搾汁したものを、エリンギ搾汁試料(比較例3-1)。エリンギ搾汁試料を水でBrix4に調整したもの100gに対して、0.1gのデアミザイムG「アマノ」(デアミナーゼ)、及び、0.1gのグルタミナーゼSD-C100S(グルタミナーゼ)を添加後、よく撹拌し溶解させた。これを、恒温槽で撹拌しながら、60℃で1.5時間保持した。その後、100℃で10分加熱することにより酵素失活を行い、冷却後、エリンギ酵素処理試料(比較例3-2)とした。
【0071】
<キノコ臭、並びに渋味(えぐ味)の官能評価>
香味評価に鋭敏な感覚を持つ官能評価者18~22名を選定した。比較例と実施例を比較し、香味における「キノコ臭」及び「渋味(えぐ味)」の評価を、2点比較法により行った。
【0072】
<官能評価基準>
官能評価は、官能評価試験(1)として、比較例2-1と実施例1-1における比較、並びに、比較例3-1と実施例1-1における比較により行った。各試料は、水で希釈を行っていない、搾汁試料を用いて行った。危険率5%以下で有意差が生じた項目に関して、キノコ臭が強い(又は弱い)と判断した。
【0073】
併せて、官能評価試験(2)として、比較例2-2と実施例1-2における比較、並びに、比較例3-2と実施例1-2における比較により行った。各試料は、水でBrix4.0に調整したものを用いた。危険率5%以下で有意差が生じた項目に関して、キノコ臭が強い(又は弱い)、及び渋味が強い(又は弱い)と判断した。
【0074】
<キノコ臭寄与成分のGC-MS分析>
キノコ含有加工品を用いて、キノコ臭に寄与する香成分を分析した。本分析において対象としたキノコ臭の香成分は、1-オクテン-3-オールである。本発明に係る香成分の含有量を測定する方法として採用できるのは、ガスクロマトグラフィー質量分析法である。キノコ含有加工品である比較例1-2、比較例2-2、実施例1-2を、水で薄めたものを試料とした。ガスクロマトグラフィー質量分析計(GC-MS)により当該成分を検出することができる。本試験において、水でBrix2.0に調整した各試料における1-オクテン-3-オールの1,2-ジクロロベンゼンに対するIS比を測定した。本試験にて用いたGC-MSの条件は、以下のとおりである。
【0075】
<前処理条件>
前処理方法 :ダイナミックヘッドスペース法
試料採取量 :5g
内部標準物質 :1000ppm 1,2-ジクロロベンゼン溶液を10μL添加
インキュベーションタイム:10min
パージ条件 :6min(10ml/min)
ドライ条件:18min(50ml/min)
<TDU(加熱脱着ユニット)条件>
TDU :40℃→720℃/min→240℃(3min)
CIS :10℃→12℃/sec→240℃(20min)
<GC-MS条件>
GC :Agilent Technologies 7890A
MS :Agilent Technologies 5975C
注入口 :溶媒ベントモード
ライナー :Tenax TA充填
カラム :J&W DB-WAX
(60m×250μm×0.50μm)
オーブン温度 :40℃(3min)→10℃/min→
240℃(17min)
測定モード :Scanモード
【0076】
<結果>
比較例1、比較例2-1、比較例2-2、比較例3-1、比較例3-2に関して、Brix,pH,アミノ酸含有量、核酸含有量を測定した結果を表4に示す。また、比較例2-1、及び比較例2-2、並びに、比較例3-1、及び比較例3-2を基に、酵素処理後試料を、搾汁時のBrixに換算したときの、各種アミノ酸、核酸、及びEUCの値のシミュレーション値を、それぞれ、表5の比較例2、及び比較例3の欄に記載した。併せて、前述した実施例1、及び実施例2の各種アミノ酸、核酸、及びEUCの値のシミュレーション値も併記した。
【0077】
ヒラタケ、及びエリンギに関して、搾汁後にデアミナーゼ処理、及びグルタミナーゼ処理を行うことによって、各搾汁液における5’-アデニル酸含有量が低下し、5’-イノシン酸含有量が増加した。併せて、グルタミン含有量が低下し、グルタミン酸含有量が増加した。一方で、エノキタケの場合と比較して、搾汁液の可溶性固形分量が低く、酵素処理後においても、搾汁液におけるアミノ酸含有量や核酸含有量が低く、EUCの値も低くなる結果となった。
【0078】
比較例2-1(ヒラタケ加工品)と実施例1-1(エノキタケ加工品)とで、キノコ臭に関して評価を行った結果、比較例2-1の方が有意にキノコ臭が強い結果となった(表6)。また、比較例3-1(エリンギ加工品)と実施例1-1とでキノコ臭に関して評価を行った結果、比較例3-1の方が、有意にキノコ臭が強い結果となった。
【0079】
比較例2-2(ヒラタケ加工品)と実施例1-2(エノキタケ加工品)とで、キノコ臭及び渋味に関して評価を行った結果、比較例2-2の方が有意にキノコ臭、及び渋味が強い結果となった(表7)。また、比較例3-2(エリンギ加工品)と実施例1-2とでキノコ臭い及び渋味に関して評価を行った結果、比較例3-2の方が、有意にキノコ臭が強い結果となった。キノコ臭に関しては、水でBrix4.0に希釈した場合、及び希釈前の搾汁試料の何れにおいても、エノキタケを用いた試料が最も低い結果となった。
【0080】
キノコ臭に関わる1-オクテン-3-オールに関してGC-MS分析を行ったところ、比較例2-2ではIS比が12.27、比較例3-2では、IS比が1.82、実施例1-2では、IS比が0.05となり、エノキタケ加工品が最も1-オクテン-3-オールの含有量が少ない結果となった(表8)。
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
【表6】
【0084】
【表7】
【0085】
【表8】
【0086】
<考察>
エノキタケ含有加工品において、デアミナーゼ処理、及びグルタミナーゼ処理を行うことによって、他のキノコ類を用いた場合と比較して、旨味を増強させる成分が多く、かつ、キノコ臭の低いものを作ることができることがわかった。これは、エノキタケ含有加工品の可溶性固形分やグルタミン含有量が、他のキノコ類を用いた場合と比較して高くなることが理由として考えられた。グルタミン含有量が多いことによって、グルタミナーゼ処理を行ったときに生成するグルタミン酸が多くなり、旨味増強に寄与する。また、エノキタケ含有加工品は、キノコ臭に寄与する1-オクテン-3-オールの前駆体である、リノール酸の含有量が、他のキノコ類と比較して少ないため、生成する1-オクテン-3-オールも少なくなり、キノコ臭が低くなることが考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明が有用な分野は、エノキタケ属キノコ含有加工品、旨味増強用組成物、野菜含有飲食品、及び野菜含有調味料の製造及び販売である。


図1