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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】耐摩耗性床材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/20 20060101AFI20240912BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240912BHJP
   E04F 15/10 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B32B27/20 Z
B32B27/00 E
E04F15/10 104A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020198888
(22)【出願日】2020-11-30
(65)【公開番号】P2022086717
(43)【公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000222495
【氏名又は名称】東リ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】松本 龍樹
(72)【発明者】
【氏名】竹川 政克
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-046302(JP,A)
【文献】特開2003-034011(JP,A)
【文献】特開2002-119910(JP,A)
【文献】特開2000-094625(JP,A)
【文献】特開2010-047016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
E04F 15/00-15/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分を含む基材層及びその上方に保護層を含む床材であって、
(1)前記保護層が、紫外線硬化性樹脂及び硬質粒子を含む下層と、紫外線硬化性樹脂を含む上層とを含み、
(2)前記下層の上に前記上層が直に積層されており、
(3)少なくとも一部の硬質粒子が下層の上面から部分的に突出することにより形成された突出部を有しており、
(4)前記上層は、前記突出部を均すように形成されており、
(5)1)下層の厚みが20~60μmであり、粒径20~150μmの硬質粒子を含み、2)上層の厚みが70~120μmであり、
(6)上層の厚みtと、複数ある突出部Pの高さhのうち最も高い突出部Pの高さhmaxとがt≧2hmaxを満たし、
(7)前記突出部を形成する硬質粒子の下端が前記基材層の近傍に位置する、
ことを特徴とする耐摩耗性床材。
【請求項2】
硬質粒子の粒径が20~70μmである、請求項1に記載の耐摩耗性床材。
【請求項3】
下層における硬質粒子の含有量が、10~35重量%である、請求項1又は2に記載の耐摩耗性床材。
【請求項4】
上層の厚みが均一でない場合において、最も薄い部分の厚みtminと、複数ある突出部Pの高さhのうち最も高い突出部Pの高さhmaxとがtmin≧2hmaxを満たす、請求項1~3のいずれかに記載の耐摩耗性床材。
【請求項5】
耐摩耗性床材を製造する方法であって、
(1)樹脂成分を含む基材層又はそれに積層された層に、紫外線硬化性樹脂及び硬質粒子を含む塗工液を、少なくとも一部の硬質粒子が下層の上面から部分的に突出することにより突出部を形成させるように塗布することにより下層用塗膜を形成する工程、
(2)前記の下層用塗膜に、紫外線硬化性樹脂を含む塗工液を塗布することにより上層用塗膜を形成する工程、
(3)下層用塗膜及び上層用塗膜に紫外線を照射することにより下層用塗膜及び上層用塗膜を硬化させることにより、下層の厚みが20~60μmであり、上層の厚みが70~120μmであり、上層の厚みtと、複数ある突出部Pの高さhのうち最も高い突出部Pの高さhmaxとがt≧2hmaxを満たす上層及び下層を形成する工程
を含むことを特徴とする耐摩耗性床材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性床材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
商業施設、病院、ホテル等において用いられる床材としては、合成樹脂製の床材が多く利用されている。この場合、床材表面は、靴で踏まれたり、あるいはベビーカー、キャスター付きキャリアバッグ、台車、車椅子等による摩擦を受けるため、床材表面が軟らかであるとそれだけ摩耗も激しくなり、床材の張り替え頻度も高くなる。特にハイヒールや杖のように、接触面積が小さい場合、圧力が高くなり、摩耗がより激しくなる上、床材の層間に剪断力が強くかかるので、耐摩耗性が高く層間が強固に接合した床材が求められる。
【0003】
このため、特に床材表面の耐久性を高めるため、様々な工夫がなされており、耐摩耗性に優れた床材も提案されている。
【0004】
例えば、エネルギー線硬化性モノマー又はオリゴマー、光重合開始剤およびモース硬度8以上の無機充填材を含有することを特徴とする合成樹脂製床材用のエネルギー線硬化性樹脂組成物からなる皮膜を有することを特徴とする合成樹脂製床材が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また例えば、エネルギー線硬化性樹脂からなる表面層と、一以上の層からなる下層とから形成された内装材であって、前記表面層が、前記下層表面にエネルギー硬化性樹脂を塗布し、前記塗布されたエネルギー線硬化性樹脂の表面に無機質充填材を均一に散布後、エネルギー線を照射して前記エネルギー硬化性樹脂を硬化させることにより形成された表面層を有することを特徴とする内装材が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-213296号公報
【文献】特開2007-277439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これら従来技術では、上記のように、床材等の表層に無機充填材を含有させることにより耐久性を高めることを目的とするものである。
【0008】
しかしながら、これらの従来技術では、意図的に無機充填材を表層から突出させる場合はもとより、意図せずに無機充填材を表層から突出してしまう場合がある。このような場合、床面にざらつきが発生し、床材表面の平滑性が低下する結果、外観、防汚性等の低下を招くことになる。
【0009】
このように、表面の平滑さを維持しつつ、より高い耐久性を発揮できる樹脂製床材の開発が切望されている。
【0010】
従って、本発明の主な目的は、表面の平滑さを維持しつつ、より高い耐久性を発揮できる床材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、これら従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の層構成を有する床材を採用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記の耐摩耗性床材及びその製造方法に係る。
1. 樹脂成分を含む基材層及びその上方に保護層を含む床材であって、
(1)前記保護層が、紫外線硬化性樹脂及び硬質粒子を含む下層と、紫外線硬化性樹脂を含む上層とを含み、
(2)前記下層の上に前記上層が直に積層されており、
(3)少なくとも一部の硬質粒子が下層の上面から部分的に突出することにより形成された突出部を有しており、
(4)前記上層は、前記突出部を均すように形成されている、
ことを特徴とする耐摩耗性床材。
2. 1)下層の厚みが20~60μmであり、粒径20~150μmの硬質粒子を含み、2)上層の厚みが50~120μmである、前記項1に記載の耐摩耗性床材。
3. 下層における硬質粒子の含有量が、10~35重量%である、前記項1又は2に記載の耐摩耗性床材。
4. 前記突出部を形成する硬質粒子の下端が前記基材層の近傍に位置する、前記項1~3のいずれかに記載の耐摩耗性床材。
5. 耐摩耗性床材を製造する方法であって、
(1)樹脂成分を含む基材層又はそれに積層された層に、紫外線硬化性樹脂及び硬質粒子を含む塗工液を塗布することにより下層用塗膜を形成する工程、
(2)前記の下層用塗膜に、紫外線硬化性樹脂を含む塗工液を塗布することにより上層用塗膜を形成する工程、
(3)下層用塗膜及び上層用塗膜に紫外線を照射することにより下層用塗膜及び上層用塗膜を硬化させる工程
を含むことを特徴とする耐摩耗性床材の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、表面の平滑さを維持しつつ、より高い耐久性を発揮できる床材を提供することができる。
【0014】
特に、本発明の耐摩耗性床材では、硬質粒子を含み、かつ、その硬質粒子の一部が部分的に突出した突出部を有する下層と、その下層を均す上層とを有する保護層を備えているので、高い耐摩耗性とともに、平滑な床材表面を実現することができる。特に、ハイヒール、杖等のように接触面積が小さい物体で押圧される場合、床面に加わる圧力が高くなるため、床面の摩耗がより激しくなる上、床材の層間に剪断力がより強くなるが、本発明の床材では下層と上層とが硬質粒子を介して強固に接合されているので、そのような剪断力に対して高い耐久性を発揮することができる。
【0015】
このような特徴をもつ床材は、耐摩耗性と意匠性とが要求されるホテル、商業施設、オフィス、病院、マンション等の床面、廊下、通路、浴室、脱衣所トイレ等の様々なエリアに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の耐摩耗性床材の層構成例を示す図である。
図2】耐摩耗性床材の下層と上層との構造を示す拡大図である。
図3】実施例1で得られた床材の断面構造を走査型電子顕微鏡にて観察した結果(SEM像)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.耐摩耗性床材
本発明の耐摩耗性床材(本発明床材)は、樹脂成分を含む基材層及びその上方に保護層を含む床材であって、
(1)前記保護層が、紫外線硬化性樹脂及び硬質粒子を含む下層と、紫外線硬化性樹脂を含む上層とを含み、
(2)前記下層の上に前記上層が直に積層されており、
(3)少なくとも一部の硬質粒子が下層の上面から部分的に突出することにより形成された突出部を有しており、
(4)前記上層は、前記突出部を均すように形成されている、
ことを特徴とする。
【0018】
1)本発明床材の基本構成
本発明床材の基本構成について説明する。本発明床材には、例えば、JIS A 5705:2016で規定される床シート又は床タイルが該当する。床シート及び床タイルは、単層構造でも複層構造でも良い。日本産業規格JIS A 5705:2016によれば、単層構造の床シートとして、例えば単層ビニル床シート等が挙げられ、複層構造の床シートとして、例えば複層ビニル床シート、発泡複層ビニル床シート、クッションフロア等が挙げられる。また、単層構造の床タイルとして、例えば単層ビニル床タイル、コンポジションビニル床タイル等が挙げられ、複層構造の床タイルとして、例えば複層ビニル床タイル等が挙げられる。
【0019】
図1には、本発明床材の基本となる層構成を示す。本発明床材10は、樹脂成分を含む基材層11の上方に保護層12が形成されている。
【0020】
保護層12は、前記基材層11の表面上に形成された下層13と、下層13の表面上に形成された上層14とを含む。図1では、下層13は、紫外線硬化性樹脂を含む領域13a及び硬質粒子13bから構成されている。上層14は、紫外線硬化性樹脂を含む領域14aから構成されている。
【0021】
下層13では、図1に示すように、少なくとも一部の硬質粒子13bが下層の上面から部分的にはみ出している。より具体的には、図2に示すように、硬質粒子13aは、下層表面(上面)から突出することで突出部Pが形成されている。これにより、突出部Pが下層13と上層14との境界をまたいで上層14側に侵入した状態となっている。これにより、当該硬質粒子が下層と上層とを繋ぐ「かすがい」のような役割を果たすことによりアンカー効果が得られる結果、下層と上層とが強固に接合されて耐久性の向上に寄与することができる。
【0022】
上層14は、紫外線硬化性樹脂を含む領域14aから構成されているが、特に前記突出部Pを均すように形成されている。すなわち、下層13表面の突出部Pによる凹凸を均し、上層14表面にはその凹凸が反映されないように、上層14が下層13表面上に形成されている。これにより、床面表面の目立つ凹凸が少なくなり、より平坦な外観を創出することができる。
【0023】
ここで、「突出部Pを均すように形成」とは、図2に示すように、上層14の厚みtが、複数ある突出部Pの高さhのうち最も高い突出部Pの高さhmaxよりも大きくなるように、上層を形成することをいう。すなわち、t>hmax、好ましくはt≧2hmax、より好ましくはt≧2.5hmax、最も好ましくはt≧3hmaxとなるように上層を形成することを意味する。かかる条件を満たし、かつ、本発明の効果を妨げない限りにおいては、上層の表面に多少の凹凸が形成されることは許容される。また、上層14の厚みtが、t<15hmax、好ましくはt<12hmaxとなるように形成するのが良く、硬質粒子によるアンカー効果を十分に発揮することができる。このアンカー効果によって、上層を下層にを強固に接合することができるので、強い剪断力にも対抗できる。
【0024】
なお、上層の厚みが均一でない場合においては、最も薄い部分の厚みtminを基準として、tmin>hmax、好ましくはtmin≧2hmax、より好ましくはtmin≧2.5hmax、最も好ましくはtmin≧3hmaxとなるように上層を形成すれば良い。
【0025】
本発明床材の平面形状は、床タイル又は床シートのいずれでも良いが、公知の樹脂製タイル等で採用されている形状と同様とすることができ、例えば、正方形、長方形、菱形等の矩形状とすれば良い。床シートは、長尺に形成され、ロール状に巻いた状態で保管又は輸送されることが多いので、保護層の紫外線硬化性樹脂には巻いても割れない程度の柔軟性を有するものが好適に用いられる。一方、床タイルは、このような制約がないものの、反りの発生等を考慮して、紫外線硬化性樹脂を設計すれば良い。
【0026】
また、本発明床材の大きさは、例えば施工場所、所望の意匠等に応じて変更可能である。例えば、縦10~150cm及び横10~150cmの矩形タイル状とすることができるが、これに限定されない。
【0027】
2)本発明床材を構成する各層
以下においては、本発明床材で必須とする樹脂含有硬質層、表層及び反り防止層のほか、任意的に積層される層についても併せて説明する。
【0028】
基材層
本発明床材においては、基材層は芯材となり、特に保護層等を支持する機能を有するものである。
【0029】
基材層の組成は、樹脂成分を含むものであれば限定的ではないが、特に樹脂成分及び可塑剤を含む組成を好適に採用することができる。従って、例えば樹脂成分100重量部に対して可塑剤1~40重量部を含む組成を好適に採用することもできる。
【0030】
樹脂成分としては、例えば塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル系樹脂等の各種の合成樹脂が挙げられる。特に、所望の柔軟性、加工性等が得られるという点で、塩化ビニル系樹脂及びポリオレフィン系樹脂の少なくとも1種を好適に用いることができる。
【0031】
塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル樹脂のほか、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン-塩化ビニル共重合体等のように塩化ビニルを共重合成分として含むコポリマーが挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、例えばポリプロピレン樹脂等が挙げられる。
【0032】
本発明では、特に、安価であり、かつ、優れた可撓性及び耐久性を有し、加工性にも優れる点から、少なくとも塩化ビニル系樹脂を含んでいることが最も好ましい。より具体的には、例えば平均重合度1000~3000の塩化ビニル系樹脂、平均重合度800~1000のポリプロピレン系樹脂等が本発明の効果を達成するのに適した樹脂の一例として挙げられる。
【0033】
基材層中における樹脂成分の含有量は、限定的ではないが、一般的には25~60重量%程度とし、特に30~57重量%とすることが好ましい。なお、上記含有量は、可塑剤が含まれる場合は、樹脂成分及び可塑剤の合計量とする。
【0034】
また、本発明床材では、必要に応じて基材層中に充填材を含有させることができる。充填材としては、公知又は市販の床材で配合されているものを採用することができる。本発明では、特に無機系充填材が好ましい。無機系充填材としては、無機元素又は金属元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩、塩化物、ケイ酸塩等が挙げられる。より具体的には、例えば酸化カルシウム、炭酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、クレー、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、珪砂、ケイ酸カルシウム等が挙げられる。炭酸カルシウムは、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウムのいずれであっても良い。これらは、1種又は2種以上で用いることができる。
【0035】
充填材は、通常は粉末状の形態で使用することができ、その平均粒径は1~300μm程度の範囲内で適宜設定することができる。
【0036】
基材層中における充填材の含有量は、限定的ではないが、通常は0~70重量%程度である。このような範囲内に設定することによって、用途に応じた強度及び硬度を基材層に付与することができる。
【0037】
また、基材層中には、本発明の効果を妨げない範囲内で他の添加剤が含まれていても良い。例えば、可塑剤、安定剤、加工助剤、防黴剤、難燃剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤等が挙げられる。なお、これらの添加剤が無機化合物である場合は、そのような添加剤の含有量も、上記充填材の含有量に含めるものとする。
【0038】
特に、可塑剤は、本発明の効果を妨げない範囲内で比較的少量の範囲内で用いることが好ましい。可塑剤を配合することによって床材の軟らかさを微調整することができる。可塑剤としては、特に限定されず、例えばジオクチルフタレート(DOP)、ジヘプチルフタレート(DHP)、ジイソノニルフタレート(DINP)、リン酸トリオクチル(TOP)、リン酸トリフェニル(TPP)、ジオクチルテレフタレート(DOTP)、ジオクチルイソフタレート(DOIP)、ジイソノニルシクロヘキシルフタレート(DINCH)等の少なくとも1種が挙げられる。これらは市販品を使用することもできる。
【0039】
基材層中における可塑剤の含有量は、限定的ではないが、通常は40重量%以下程度とすれば良い。このような範囲内に設定することによって、用途に応じた強度及び硬度を基材層により確実に付与することができる。
【0040】
基材層の厚みは、特に限定されないが、例えば1~10mm程度とし、特に1.5~5mmとすることができる。上記のような厚み範囲に設定することによって、基材層の強度及び硬度を確保することができる。
【0041】
基材層の形成方法は、特に限定されないが、通常は予め成形されたシートを使用することができる。すなわち、出発材料となる樹脂組成物を溶融し、シート状に成形することによって基材層用のシートを得ることができる。また、このようなシートを2層以上に積層することもできる。シート状に成形する方法は、特に限定されず、例えば押し出し成形、ブロー成形、カレンダー成形等の各種の方法を採用することができる。また、基材層と隣接する層とを同時押出ラミネートにより形成することもできる。また、床タイル用の基材層は、これらシートを所望の寸法に打抜くか、あるいは裁断することによって形成することができる。
【0042】
保護層
本発明床材では、基材層の表面上に保護層が積層されている。保護層の形成によって、外部から加わる摩擦力に対する耐久性を床材に付与できると同時に、表面の平滑性により意匠性の高い優れた外観、防汚性等をもたせることが可能となる。この点において、保護層は、本発明床材の最表面に配置され、外部に露出した面を構成していることが望ましい。これにより、外部からの圧力、摩擦等に対して硬質床材をよりいっそう確実に保護することができる。
【0043】
また、保護層は、紫外線硬化型樹脂を主成分として含むため、通常は透明性を有する。保護層が透明ないしは半透明であれば、その下に形成されている意匠層の識別性をより高めることができる。保護層が透明である場合の透明性は、限定的ではないが、ヘーズ値で示すと通常40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、特に20%以下であることがさらに好ましい。このような数値に設定することによって、保護層の下地となる層(例えば意匠層)の表面をより確実に視認できるような構成とすることができる。ヘーズ値の下限値は限定的ではないが、通常は1%程度とすれば良い。
【0044】
本発明では、保護層は少なくとも2層から構成されており、例えば図1に示すように基材層側にある下層と、下層の表面上に形成されている上層とを含む。
【0045】
下層
下層は、紫外線硬化性樹脂及び硬質粒子を含む。このような所定の大きさをもつ硬質粒子を含有させることにより、図2に示したように少なくとも一部の硬質粒子が下層の上面から部分的に突出することにより突出部を形成させることができる。既述のとおり、上層を形成した場合、突出部は上層に食い込むようになるため、アンカー効果のような作用をもたらし、下層と上層とを強固に接合することができる。その結果、下層だけでなく、上層にも高い耐摩耗性を付与することができる。また、このアンカー効果によって、強い剪断力にも対抗して、より確実に所定の層構造を維持することができる。
【0046】
また、突出部を形成する硬質粒子の下端は、基材層の近傍に位置することが好ましい。基材層の近傍に位置とは、硬質粒子の下端が基材層に接触又は僅かに離れていることをいい、具体的には硬質粒子の下端が基材層表面(上面)から3μm以下の距離に位置しているのが望ましい。硬質粒子が下層の下端から下層全体を貫いて上方へ突出しているので、硬質粒子がより脱落し難くなり、アンカー効果が増して下層と上層の結合力も高くなるため、耐久性、耐摩耗性を向上させることができる。
【0047】
紫外線硬化性樹脂としては、特に限定されない。例えば、不飽和ジカルボン酸と多価アルコールの縮合物等の不飽和ポリエステル類、ポリエステルメタクリレート、ポリエーテルメタクリレート、ポリオールメタクリレート、メラミンメタクリレート等のメタクリレート類、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリオールアクリレート、メラミンアクリレート等のアクリレート類等の紫外線硬化型樹脂等が挙げられる。これらは、公知又は市販のものを使用することができる。
【0048】
下層中における紫外線硬化性樹脂の含有量は、特に限定されないが、通常は65~90重量%程度とすれば良く、特に70~85重量%とすることが好ましい。
【0049】
硬質粒子としては、無機粒子を好適に用いることができる。無機粒子としては、例えば酸化物、炭酸化物、水酸化物等を用いることができる。より具体的には、アルミナ(酸化アルミニウム)、酸化ケイ素、酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、クレー、タルク、マイカ、重質炭酸カルシウム、珪砂、軽質炭酸カルシウム等が挙げられる。このなかでも、高硬度で優れた耐久性及び耐摩耗性を付与できることから、アルミナが特に好ましい。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0050】
硬質粒子の大きさは、下層に突出部が形成され、かつ、上層表面に突出しない範囲内とすれば良い。硬質粒子の形状は、限定的でなく、例えば略球状、フレーク状、繊維状、不定形状等のいずれも採用することができる。本発明では、保護層中においてより強固に固定できるという点で不定形状であることが好ましく、特に粉砕品のような角部を有する不定形状であることが好ましい。
【0051】
硬質粒子の大きさは、一般的には、粒径が20~150μm程度の範囲とし、特に30~70μmの範囲内で設定することが好ましい。粒子形状が不定形状等のような非球形の形状である場合、硬質粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、最大幅と最小幅の寸法の合計値を2で除して平均値を算出することによって、粒径を求めることができる。
【0052】
さらに、硬質粒子の大きさは、保護層の総厚みよりも小さいことが好ましい。硬質粒子の粒度分布、形状等にもよるが、一般的な目安としては、硬質粒子の平均粒径Dが保護層の総厚みTに対して0.24T≦D≦0.8Tを満たすように設定することが好ましい。このように設定することで、保護層(上層)表面に突出する硬質粒子を確実になくす又は低減させることができる結果、平坦な表面を形成することが可能となる。
【0053】
下層中における硬質粒子の含有量は、特に限定されないが、通常は10~35重量%程度とし、特に15~30重量%とすることが好ましい。これにより、より高い耐摩耗性、耐久性等を得ることができる。
【0054】
また、下層には必要に応じて他の添加剤を配合することもできる。他の添加剤としては、例えば、可塑剤、安定剤、加工助剤、防黴剤、難燃剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤等が挙げられる。
【0055】
下層の厚みは、特に限定されないが、特に20~60μmとすることが好ましく、その中でも30~50μmとすることがより好ましい。このような厚みに設定することによって、硬質粒子を強固に支持しつつ、突出部を効率良く形成することができる。
【0056】
なお、下層は、1層(単層)であっても良いし、2層以上が積層された複層であっても良い。成形が容易で、かつ、下層を強固にできることから、1層のほうが好ましい。
【0057】
上層
上層は、紫外線硬化性樹脂を含む。上層は、突出部による凹凸表面を有する下層を均し、平滑な表面を形成する役割を果たす。例えば、図2に示すように、硬質粒子が下層の上面から部分的に突出することにより形成された突出部を上層が覆い、突出部による凹凸表面を打ち消し、比較的フラットな表面を創り出すことができる。このような上層は、散点的に存在する複数の突出部により支持されているので、摩擦に対して高い抵抗力を発揮することができる。
【0058】
紫外線硬化性樹脂としては、特に限定されない。例えば、不飽和ジカルボン酸と多価アルコールの縮合物等の不飽和ポリエステル類、ポリエステルメタクリレート、ポリエーテルメタクリレート、ポリオールメタクリレート、メラミンメタクリレート等のメタクリレート類、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリオールアクリレート、メラミンアクリレート等のアクリレート類等の紫外線硬化型樹脂等が挙げられる。これらは、公知又は市販のものを使用することができる。この場合、上層に採用される紫外線硬化性樹脂は、下層で使用される紫外線硬化性樹脂と互いに同じであっても良いし、互いに異なっていても良い。
【0059】
上層中における紫外線硬化性樹脂の含有量は、例えば65~100重量%程度の範囲内で適宜設定することが可能であるが、これに限定されない。
【0060】
また、上層においては、平滑性を大きく損なわない範囲内で必要に応じて他の添加剤を配合することもできる。従って、上層は、粒径20μm以上の硬質粒子は含まないことが望ましい。また、他の添加剤としては、例えば、可塑剤、安定剤、加工助剤、防黴剤、難燃剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤等が挙げられる。これらの他の添加剤も、固体(粒子)である場合、粒径20μm以上の添加剤は含まないことが望ましい。
【0061】
上層の厚みは、特に限定されないが、特に50~120μmとすることが好ましく、その中でも70~100μmとすることがより好ましい。このような厚みに設定することによって、高い耐摩耗性とともに、平滑表面をより確実に形成することができる。
【0062】
なお、上層は、1層(単層)であっても良いし、2層以上が積層された複層であっても良い。1層の場合、容易に上層を形成することができる。2層以上の場合、層ごとに最適な紫外線硬化性樹脂を選択し、防汚性等の種々の機能を付与することができる。
【0063】
保護層(上層及び下層)の形成方法としては、例えば上記のような樹脂成分を含む塗工液を塗布した後、硬化させることによって形成することができる。塗布方法は、限定的でなく、例えばロールコーター、カーテンコーター、バーコーター、ダイコーター、エアーナイフコーター、フローコーター、スプレー塗装等を用いることができる。特に、加工性に優れることから、ロールコーター、フローコーター、カーテンコーター等が好ましい。
【0064】
また、硬化方法は、樹脂成分の種類等に応じて適宜選択すれば良く、特に紫外線照射によって好適に実施することができる。従って、紫外線硬化性樹脂を含む塗工液を用いる場合は、その塗膜を紫外線照射により硬化させることによって所望の保護層を形成することができる。
【0065】
また、下層を硬化させずに上層を塗布した後、全層を同時に硬化させても良く、下層と上層の各層ごとに硬化又は半硬化させた後、最後に全層を完全に硬化させても良い。
【0066】
このような方法により、下層及び上層をそれぞれ形成することができる。なお、各層を塗工等により別々に形成した場合でも、例えば各層が互いに同じ組成から構成されることによって各層が実体的又は外観上一体化される(各層の境界が確認できなくなる)ようなことがあるが、このような場合も本発明に保護層に包含される。
【0067】
その他の層
本発明床材は、上記の通り、基材層及び保護層を必須とするものであるが、本発明の効果を妨げない範囲内において他の層を含んでいても良い。例えば、接着層、意匠層、補強層、反り防止層等が挙げられる。従って、本発明床材の実施形態例として、例えば「基材層/意匠層/保護層(下層/上層)」、「反り防止層/基材層/意匠層/保護層(下層/上層)」、「反り防止層/基材層/保護層(下層/上層)」、「/基材層/補強層/意匠層/保護層(下層/上層)」、「反り防止層/基材層/補強層/意匠層/保護層(下層/上層)」、「反り防止層/基材層/補強層/保護層(下層/上層)」等の積層体を採用することができる。また、接着層は、各層間の接合に適宜用いることができる。以下において、任意的な各層の具体的な構成を説明する。
【0068】
補強層
補強層は、本発明床材を平面方向又は鉛直方向に強化する機能を有するものである。このような補強層としては、特にa)有機繊維又は無機繊維の織物シート又は不織布シート(以下「繊維シート」ともいう。)及びb)前記繊維シートと基材層の樹脂成分とを含む複合材料の少なくとも1種を好適に用いることができる。
【0069】
前記a)の繊維シートとしては、高分子有機化合物による合成繊維のほか、天然繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維等の織物又は不織布が挙げられる。また、不織布は、例えばスパンボンド、フェルト等もすべて包含する。
【0070】
前記b)の複合材料としては、前記b)の繊維シートに合成樹脂を含浸させた材料が挙げられる。また、前記a)の発泡材のシート状体と、前記b)の繊維シートとを積層させた材料等も使用することができる。
【0071】
補強層の厚みは、補強層を構成する材料の種類等に応じて適宜設定することができるが、通常は0.2~1mm程度の範囲内とすれば良い。補強層の厚みをこの範囲とすることによって、床材全体の厚みを比較的薄く保った状態で、床材を十分に補強することができる。
【0072】
補強層の形成方法は、予め成形した補強層用シートを所定の箇所に積層すれば良い。積層に際しては、前記のような接着層による接着によって実施しても良く、あるいは樹脂成分としてヒートシール性を有する樹脂成分を含む補強層用シートを他の層にヒートシール(熱融着)することによって接合することもできる。このため、補強層(特に繊維シート)は、樹脂含有硬質層上に積層されていても良いし、あるいは樹脂含有硬質層中に埋設されていても良い。
【0073】
補強層を本発明床材の中央に配置し、保護層等のような表層と反り防止層と上下方向に対象となるように床材の層構造を構成すると、より高い反り防止効果を得ることができる。このような層構成だと床材表面と裏面で寸法変化に差異が生じず、さらに補強層によって床材全体の寸法変化が抑制されるためと考えられる。この構成において、例えば表層と反り防止層に硬質塩化ビニル系樹脂等を用いると、反り防止効果と寸法変化抑制効果をさらに高めることができる。
【0074】
意匠層
意匠層は、例えば絵柄、図柄、模様、文字等の所望の意匠を表現し、本発明床材に意匠性を与える機能を有する層である。上記意匠層を備えることにより、本発明床材に所望の意匠性を簡易、かつ、安価に付与することができる。また、意匠層は、単一の着色層のほか、2種以上の着色領域からなる着色層等であっても良い。
【0075】
上記意匠層は、その上方又は下方に配置される層との接合が容易な熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物により形成するのが好ましい。上記熱可塑性樹脂としては、塩化ビニル系樹脂、オレフィン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メタクリレート樹脂等のアクリル系樹脂、アミド系樹脂、エステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー等の各種エラストマー、ゴム等が挙げられる。
【0076】
その中でも、塩化ビニル系樹脂を含む樹脂組成物により形成されることが好ましい。これによって、より優れた可撓性が得られ、多様な意匠を着色剤の添加あるいは印刷によって容易に形成できるため、意匠層を安価かつ容易に形成することができる。
【0077】
前記の樹脂組成物中には、必要に応じて各種添加剤を配合することができる。添加剤としては公知又は市販のものが使用可能である。例えば、充填材、可塑剤、難燃剤、安定剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、発泡剤等が挙げられる。従って、例えば樹脂成分、可塑剤及び安定剤を含む樹脂組成物を採用することができる。
【0078】
意匠層の厚みは、特に限定されないが、例えば2μm~1.50mm程度とし、特に3μm~1.00mmとすることが好ましく、その中でも5μm~15μmとすることがより好ましい。
【0079】
意匠層の形成方法は、特に限定されず、例えば熱可塑性樹脂のシートの上面に公知の印刷方法で直接模様を印刷することにより形成しても良いし、熱可塑性樹脂のシートの上面に、印刷の施された模様フィルムを積層して形成しても良い。また、着色剤及び熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物により形成しても良いし、異なる色の着色剤と熱可塑性樹脂とを含む樹脂組成物を複数用意して練り込むことにより形成しても良い。
【0080】
熱可塑性樹脂のシートの上面に直接に模様を印刷する方法としては、例えばグラビア印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷等の各種装置を用いる方法のほか、転写シートによる印刷等も採用することができる。その他にも、予め樹脂フィルム上に意匠層が形成された印刷フィルムを積層する方法も用いることができる。
【0081】
熱可塑性樹脂のシートの上面に印刷の施された模様フィルムを貼付する方法は、多様な模様を容易に表現することができるという見地から好ましい方法である。例えば、模様フィルムによって、本発明床材に、例えば石目模様、木目模様、幾何学模様等の複雑な意匠を簡易かつ安価に付与することができる。模様フィルムの厚みは、通常は0.04~0.20mm程度であることが好ましく、特に0.05~0.16mmであることがより好ましい。上記模様フィルムの厚みが薄すぎると、光が透過して下面に積層されている熱可塑性樹脂のシートの表面が透けて見え、模様フィルムの意匠性を十分に表現できないおそれがある。一方、上記模様フィルムの厚みが薄すぎると、床材を敷設した際に、床材の境界部分が目立つおそれがある。
【0082】
さらに、模様フィルムを取り替えることで、本発明床材に、同一の生産設備で模様、明度、彩度、色合い等の外観の要素を容易にばらつかせることができる。上記外観の要素がばらついた床材を不規則に敷設することにより、床面全体で一意匠を一体的に表現することができる。上記外観の要素がばらついた床材により一意匠を一体的に表現する場合の例としては、例えば石目模様の明度、彩度又は色合いを変化させることにより、様々な木材を使用して床面を形成したような風合いを床面全体で一体的に表現する場合が挙げられる。このように外観の要素がばらついた床材を不規則に敷設してあると、床材を部分的に張替えても、意匠的な違和感を生じず、様々な木材を使用して床面を一体的に形成したような風合いを床面全体で一体的に表現することができる。
【0083】
接着層
接着層は、各層を接合するために必要に応じて形成することができる。接着層は、例えば接着剤を用いて形成することができる。接着剤としては、公知又は市販のものを適宜用いることができる。
【0084】
接着剤の種類は、各層の材質等に応じて適宜選択することができる。例えば、ウレタン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン-ブタジエン共重合系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂及びエポキシ系樹脂から選ばれる1種又は2種以上の混合物を接着成分として含む接着剤が例示される。これらの中でも、耐湿性等に優れるという見地より、ウレタン系樹脂を接着成分とする接着剤を好適に用いることができる。
【0085】
また、接着剤の硬化タイプも限定的でなく、例えば1液型接着剤、2液型接着剤、熱硬化型接着剤、ホットメルト型接着剤、紫外線硬化型接着剤等の各種のタイプの接着剤を使用することができる。これら接着剤の中でも、硬化時間が短く、高い生産性が得られるという点でホットメルト型接着剤を用いることが好ましい。より好ましくは、反応型ホットメルト接着剤が好ましい。これにより、経年劣化をより効果的に抑制できる結果、長期間にわたって強固な接着性を持続させることができる。従って、本発明では、ウレタン系樹脂を接着成分として含む反応型ホットメルト接着剤を好適に用いることができる。これは、湿度に強く、長期間品質が安定しているほか、UV照射等の装置を特に必要とせず、簡易な設備又は作業で床材を製造することができる。
【0086】
本発明では、接着剤を用いることによって、生産過程で製品が熱劣化することを抑制でき、また各層が異素材の場合であっても好適に接合させることができる。
【0087】
接着層の厚みは、特に限定されないが、通常は1~200μm程度とし、特に30~100μmとすることが好ましい。このような厚み範囲に設定することによって、より効果的に各層を接合することが可能となる。
【0088】
接着層の形成方法は、例えば硬質樹脂含有層となる基材シートの下面に上記接着剤を塗布した後、硬化させることによって形成することができる。硬化させる方法は、用いる接着剤の硬化タイプに応じて適宜選択すれば良く、例えばエージング、乾燥、加熱、紫外線照射等の各種の工程を採用することができる。これらの工程での条件は、公知の方法に従えば良い。
【0089】
2.耐摩耗性床材の製造方法
本発明床材は、前記で示したような方法で各層を形成又は積層することにより製造することができる。すなわち、各層の積層についても、接着剤の塗工による方法のほか、接着剤の塗工によることなく、層間を熱融着で接合する方法等も採用することができる。
【0090】
特に、本発明床材は、耐摩耗性床材を製造する方法であって、
(1)樹脂成分を含む基材層又はそれに積層された層に、紫外線硬化性樹脂及び硬質粒子を含む塗工液を塗布することにより下層用塗膜を形成する工程(下層形成工程)、
(2)前記の下層用塗膜に、紫外線硬化性樹脂を含む塗工液を塗布することにより上層用塗膜を形成する工程(上層形成工程)、
(3)下層用塗膜及び上層用塗膜に紫外線を照射することにより下層用塗膜及び上層用塗膜を硬化させる工程(硬化工程)
を含むことを特徴とする耐摩耗性床材の製造方法によって、より効率的かつ確実に製造することができる。
【0091】
下層形成工程
下層形成工程では、樹脂成分を含む基材層又はそれに積層された層に、紫外線硬化性樹脂及び硬質粒子(好ましくは粒径20~150μm、より好ましくは粒径30~70μmの硬質粒子)を含む塗工液を塗布することにより下層用塗膜を形成する。
【0092】
塗工液の塗布の対象となる層は、基材層である場合のほか、基材層に他の層が積層されている場合は当該他の層となる。他の層としては、例えば意匠層等が挙げられる。
【0093】
塗工液は、紫外線硬化性樹脂及び硬質粒子を含む。紫外線硬化性樹脂、硬質粒子、両者の割合、添加剤等は、前記「1.耐摩耗性床材」で説明した内容に準じて設定することができる。
【0094】
塗工液は、必要に応じて溶剤を用いることができる。溶剤としては、例えば1)エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶剤、2)アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、3)イソプロピルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶剤、4)酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸セロソルブ等のエステル系溶剤、5)エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール系溶剤等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0095】
塗工液の固形分含有量は、所望の塗工性が得られるように、例えば10~90重量%の範囲内で適宜設定すれば良いが、これに限定されない。
【0096】
塗布の方法は、前記で説明したように、例えばロールコーター、カーテンコーター、バーコーター、ダイコーター、エアーナイフコーター、フローコーター、スプレー塗装等を用いることができる。特に、下層の形成には、塗工性等に優れるという見地から、ロールコーターを好適に用いることができる。
【0097】
塗布は、所望の下層厚みが得られる限り、1層だけの塗布であっても良いし、2層以上の塗布であっても良い。
【0098】
塗工液の塗布量は、最終的に形成される下層が所定の厚みとなるように適宜設定すれば良い。例えば20~60μm程度の範囲内で調整することができるが、これに限定されない。
【0099】
上層形成工程
上層形成工程では、前記の下層用塗膜に、紫外線硬化性樹脂を含む塗工液を塗布することにより上層用塗膜を形成する。
【0100】
塗工液は、紫外線硬化性樹脂を含む。紫外線硬化性樹脂、添加剤等は、前記「1.耐摩耗性床材」で説明した内容に準じて設定することができる。従って、塗工液としても、例えば紫外線硬化性樹脂を含み、かつ、粒径20μm以上の固形粒子を含まない塗工液を用いることが好ましい。
【0101】
塗工液は、必要に応じて溶剤を用いることができる。溶剤としては、例えば1)エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶剤、2)アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、3)イソプロピルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶剤、4)酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸セロソルブ等のエステル系溶剤、5)エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール系溶剤等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を用いることができる。
【0102】
塗工液の固形分含有量は、所望の塗工性が得られるように、例えば10~90重量%の範囲内で適宜設定すれば良いが、これに限定されない。
【0103】
塗布の方法は、前記で説明したように、例えばロールコーター、カーテンコーター、バーコーター、ダイコーター、エアーナイフコーター、フローコーター、スプレー塗装等を用いることができる。特に、上層の形成には、膜厚を大きくでき、表面の平滑性に優れるという見地から、カーテンコーターを好適に用いることができる。カーテンコーターを用いる場合、本発明の床材としては、床シートよりも床タイルのほうが、設備が大形化せず、塗布を容易に行うことができるので好ましい。
【0104】
塗布は、所望の上層厚みが得られる限り、1層だけの塗布であっても良いし、2層以上の塗布であっても良い。
【0105】
塗工液の塗布量は、最終的に形成される上層が所定の厚みとなるように適宜設定すれば良い。例えば50~120μm程度の範囲内で調整することができるが、これに限定されない。
【0106】
硬化工程
硬化工程では、下層用塗膜及び上層用塗膜に紫外線を照射することにより下層用塗膜及び上層用塗膜を硬化させる。
【0107】
本発明では、下層を硬化させる前に上層を塗布し、紫外線を照射して全層を同時に硬化させても良く、また、下層と上層の各層ごとに硬化又は半硬化させた後、最後に全層を完全に硬化させても良い。このような硬化方法の選択は、各層に用いる塗布の方法とともに、最適の方法を適宜行うことができる。
【0108】
紫外線照射は、公知又は市販の紫外線照射装置を用いて実施することができる。照射条件は、例えば紫外線波長365nmでの積算光量で50~5000mJ/cm程度とすることができるが、これに限定されない。
【0109】
その他の工程
上記以外の工程として、接着剤による塗工、他の層(意匠層等)の成形又は積層等の工程を必要に応じて追加的に実施することもできる。
【0110】
他の層については、前記「1.耐摩耗性床材」で説明した方法によって各層を形成することができる。
【0111】
また、接着剤の塗工による場合、接着層としては、前記で説明したものを採用することができる。接着層の形成は、接合する層どうしの一方の面に接着剤を塗工する方法、あるいは両方の面に接着剤を塗工する方法のいずれも採用することができる。
【0112】
また、本発明では、接着剤の塗工によることなく、熱融着により接合する場合、その熱融着の方法は、特に限定されない。例えば、各層を重ね合わせた状態で加熱・加圧下で溶融軟化させて接合することができる。より具体的には、熱プレス加工又はそれを連続的に行う連続プレス等によって各層を接合することができる。熱融着による接合は、各層の材質が可塑化されず、経時劣化し難く、長期間強固に接合させることができるという点で有利である。
【0113】
なお、熱融着により接合する場合は、接合される層の少なくとも一方に熱融着性(ヒートシール性)を有する成分が含まれていることが望ましい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0114】
さらに、熱融着により各層を接合する場合、2層以上を押出しラミネートにより成形することもできる。このようにして得られる積層体を本発明床材の層構成の一部に採用することができる。
【0115】
各層を積層した後は、必要に応じて、積層体を公知の方法に従って裁断、加工等を行っても良い。
【0116】
3.床構造
本発明は、本発明床材の複数が床下地に敷設されてなる床構造を包含する。例えば、略矩形状(略正方形、略長方形、略菱形、略平行四辺形等)の本発明床材の単数又は複数枚を用意し、これらを床下地(例えばコンクリートスラブ等の床スラブ)上に設置することによって、本発明床材から構成される床構造を形成することができる。特に、本発明では、このような床下地に直に本発明床材を敷設することにより床構造を形成することができる。
【0117】
本発明床材を床下地に設置する場合は、公知又は市販の床材の施工時に採用される設置方法と同様にすれば良い。例えば、接着剤、粘着剤、粘着テープ(両面粘着テープ)等を使用して施工すれば良い。これらの接着剤等は、市販品を使用することもできる。
【0118】
このようにして施工された床構造は、例えば店舗、ホテル等の商業施設、住居(家屋)、病院、オフィス等の室内、通路、ベランダ、バルコニー、浴室、脱衣所、トイレ、等の各種エリアの床材として好適に使用することができる。
【実施例
【0119】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0120】
実施例1
図1に示すような積層体「基材層/保護層(下層/上層)」からなる床材を作製した。基材層としては、塩化ビニル樹脂45重量%、可塑剤6重量%、充填剤46重量%、その他の添加剤3重量%からなる組成を有する硬質塩化ビニル系樹脂シート(厚み3.0mm)を用いた。
【0121】
前記シートの片面に、ウレタンアクリレートを主成分とする紫外線硬化性樹脂100重量部及び硬質粒子(アルミナ粒子、粒度♯280(平均粒径68μm)、不定形状)30重量部を含む塗工液(無溶剤タイプ)をロールコーターを用いて塗布し、下層用塗膜を形成した。なお、アルミナ粒度は「日本産業規格JIS R6001」研削といし用研磨材の粒度によるものである。
【0122】
次いで、下層用塗膜の表面に、ウレタンアクリレートを主成分とする紫外線硬化性樹脂を含み、かつ、アルミナ粒子を含まない塗工液をカーテンコーターを用いて塗布し、上層用塗膜を形成した。
【0123】
その後、市販の紫外線照射装置にて、上層用塗膜の上から紫外線を照射することにより、下層用塗膜及び上層用塗膜をほぼ同時に硬化させることによって基材層に下層(厚み45μm)及び上層(80μm)が積層された床材を製造した。
【0124】
実施例2
下層の厚みが30μmとなるように設定したほかは、実施例1と同様にして床材を製造した。
【0125】
実施例3
下層の厚みが20μmとなるように設定したほかは、実施例1と同様にして床材を製造した。
【0126】
比較例1
下層にアルミナを配合しなかったほかは、実施例1と同様にして床材を製造した。
【0127】
比較例2
下層を形成しなかったほかは、実施例1と同様にして床材を製造した。
【0128】
試験例1
各実施例及び比較例で得られた床材の保護層の耐摩耗性をそれぞれ調べた。それらの結果を表2~4に示す。
テーバー摩耗試験は、耐摩耗性を測定する試験である。具体的には、日本産業規格「JIS A1453」に準拠した試験法に基づいて、テーバー摩耗試験器に研磨紙S-42を取り付け、回転速度70rpmでサンプル表面を回転させて摩耗させた。摩耗面を目視にて観察して、保護層が100%摩耗して消失するまでの回転数を求めた。また、表1に示すような基準で、テーバー摩耗試験の回転数から、床材としての耐摩耗性の判定を行った。
【0129】
【表1】
【0130】
【表2】
【0131】
【表3】
【0132】
表2及び表3の結果からも明らかなように、所定の保護層を形成することによって、より優れた耐摩耗性を発揮できることがわかる。
【0133】
試験例2
実施例1で得られた床材の断面を観察した。床材の切断し、切断面を走査型電子顕微鏡にて観察した。その結果を図3に示す。図3の透明塩化ビニル層は、表層であり、本発明の基材層の一部に相当する。
【0134】
図3に示すように、基材層上に保護層が形成されていることが確認され、保護層の下側(基材層側)に硬質粒子であるアルミナ粒子が固定されており、その上方を覆うように所定の厚みの層が形成されており、アルミナ粒子による凹凸が均されて保護層表面が平坦化されていることがわかる。また、保護層は、アルミナ粒子を固定している層の上に、アルミナ粒子を含まない層が積層された2層構造を有していることがわかる。
図1
図2
図3