(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240912BHJP
C08L 1/08 20060101ALI20240912BHJP
C08K 5/315 20060101ALI20240912BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20240912BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20240912BHJP
C08K 5/37 20060101ALI20240912BHJP
C08K 5/21 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L1/08
C08K5/315
C08K5/09
C08K5/17
C08K5/37
C08K5/21
(21)【出願番号】P 2020215041
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2023-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2019239598
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽野 里奈子
(72)【発明者】
【氏名】熊本 吉晃
(72)【発明者】
【氏名】吉田 穣
(72)【発明者】
【氏名】大和 恭平
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-044096(JP,A)
【文献】特開2014-101466(JP,A)
【文献】特開2012-229350(JP,A)
【文献】特開2018-095675(JP,A)
【文献】特開2019-218538(JP,A)
【文献】特開2019-119984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性樹脂(A)と改質セルロース繊維(B)と重付加型硬化剤(C)とを含有してな
り、
重付加型硬化剤(C)がジシアンジアミドであり、用いる硬化促進剤がウレア類であり、
改質セルロース繊維(B)が、イオン性基を有するセルロース繊維の該イオン性基に修飾基が結合してなるものであり、
改質セルロース繊維(B)が有するイオン性基がカルボキシ基であり、
修飾基が、式(1)で表される化合物に由来する基である、
【化1】
〔式中、R
1
は、水素原子、又は炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、xはエチレンオキシド(EO)の平均付加モル数を示し、5~100であり、yはプロピレンオキシド(PO)の平均付加モル数を示し、1~50であり、EO及びPOは、ランダム又はブロック状に存在し、アミノ基とEO又はPOとの間に、炭素数1~3のアルキレン基が存在していてもよい。〕
樹脂組成物。
【請求項2】
改質セルロース繊維(B)の繊維長が1000nm以下である、請求項
1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
硬化性樹脂(A)が、光硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂である、請求項1
又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
硬化性樹脂(A)が、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シアネートエステル樹脂、及びポリイミド樹脂から選ばれる1種以上である、請求項1~
3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる、成形体。
【請求項6】
硬化性樹脂(A)を、改質セルロース繊維(B)と重付加型硬化剤(C)との存在下で重合する、
樹脂硬化物の製造方法であって、
重付加型硬化剤(C)がジシアンジアミドであり、用いる硬化促進剤がウレア類であり、
改質セルロース繊維(B)が、イオン性基を有するセルロース繊維の該イオン性基に修飾基が結合してなるものであり、
改質セルロース繊維(B)が有するイオン性基がカルボキシ基であり、
修飾基が、式(1)で表される化合物に由来する基である、
【化1】
〔式中、R
1
は、水素原子、又は炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、xはエチレンオキシド(EO)の平均付加モル数を示し、5~100であり、yはプロピレンオキシド(PO)の平均付加モル数を示し、1~50であり、EO及びPOは、ランダム又はブロック状に存在し、アミノ基とEO又はPOとの間に、炭素数1~3のアルキレン基が存在していてもよい。〕
樹脂硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質セルロース繊維を含有する樹脂組成物及び成形体、並びに樹脂硬化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有限な資源である石油由来のプラスチック材料が多用されてきたが、近年、環境負荷の少ない技術が脚光を浴びるようになってきた。かかる技術背景の下、天然に多量に存在するバイオマスであるセルロース繊維は、再生利用が可能であり、微生物によって生分解でき環境負荷が少なく、しかも機械的特性が優れているため、注目されている。
【0003】
セルロース繊維は膨大な水素結合を有し、その表面は親水性であるため、樹脂が疎水性であると、セルロース繊維が凝集し易く、樹脂中での分散性が低下する。そこで、セルロース繊維を樹脂に配合し、その機械的特性等を強化するためには、セルロース繊維の分散性、保存安定性を高める必要がある。
【0004】
セルロース繊維の樹脂中での分散性、保存安定性に関する技術として、種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、樹脂組成物の強度や靱性を向上させることができる、微細セルロース繊維複合体を含有する非水系の分散液、樹脂組成物として、イオン性基を含むセルロース繊維に修飾基が結合してなる微細セルロース繊維複合体と、樹脂を含有し、長さが1μm以上の異物が少ない樹脂組成物が開示されている。
特許文献2には、セルロースナノファイバーを用いた耐熱性と高い接着強度を有する接着剤組成物として、アニオン性官能基とセルロースI型結晶構造を有し、数平均繊維径が2~500nm、平均アスペクト比が10~1000であり、該アニオン性官能基の一部又は全てに特定のポリエーテルアミンが結合している微細繊維状セルロースと、マトリクス樹脂とを含有する接着剤組成物が開示されている。
特許文献3には、低熱膨張性であって、金属導体との密着性が良好な硬化物を得ることができるプリント配線板用硬化性樹脂組成物として、カルボキシル基を有するセルロース繊維の該カルボキシル基がアミン化合物等により修飾されて疎水化されてなる微細セルロース繊維と、硬化性樹脂とを含む樹脂組成物であって、該微細セルロース繊維の平均繊維径が0.1~200nm、平均繊維長が600nm以下、平均アスペクト比が1~200である樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-119880号公報
【文献】特開2018- 44097号公報
【文献】特開2018- 24878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~3の技術では、得られる樹脂組成物の分散性、保存安定性が十分に満足できるものではない。
また、硬化性樹脂組成物においては、樹脂と硬化剤を混合した後の作業性の観点から、可使時間が長いことが望まれる。
本発明は、改質セルロース繊維を含有する、保存安定性に優れ、可使時間が長い樹脂組成物及び成形体、並びに樹脂硬化物の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、硬化性樹脂と改質セルロース繊維と重付加型硬化剤とを組み合わせて複合化することにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、次の[1]~[3]に関する。
[1]硬化性樹脂(A)と改質セルロース繊維(B)と重付加型硬化剤(C)とを含有してなる、樹脂組成物。
[2]前記[1]に記載の樹脂組成物を成形してなる、成形体。
[3]硬化性樹脂(A)を、改質セルロース繊維(B)と重付加型硬化剤(C)との存在下で重合する、樹脂硬化物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、改質セルロース繊維を含有する、保存安定性に優れ、可使時間が長い樹脂組成物及び成形体、並びに樹脂硬化物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、硬化性樹脂(A)と改質セルロース繊維(B)と重付加型硬化剤(C)とを含有してなる。
本発明の樹脂組成物は保存安定性に優れ、可使時間が長い。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
一般的に、樹脂にセルロース繊維を配合すると、樹脂とセルロース繊維の相溶性の低さに起因して界面破壊が起こり易く、成形体は硬く、脆くなる傾向になる。ここで、硬化性樹脂(A)と改質セルロース繊維(B)と重付加型硬化剤(C)を配合すると、重付加型硬化剤(C)が硬化性樹脂(A)と改質セルロース繊維(B)の両者を適度に結合させるように働くと考えられる。その結果、改質セルロース繊維(B)が凝集することなく、硬化性樹脂(A)との相溶性が向上し、保存安定性が向上すると考えられる。
また、改質セルロース繊維(B)と重付加型硬化剤(C)が相互作用し、硬化反応と競合することにより、可使時間が長くなると考えられる。一方、この相互作用は可逆的なため、最終的な硬化度には影響はないと考えられる。
【0010】
<硬化性樹脂(A)>
本発明に用いられる硬化性樹脂(A)としては、光硬化性樹脂及び熱硬化性樹脂が挙げられる。これらの中では、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シアネートエステル樹脂、及びポリイミド樹脂から選ばれる1種以上が好ましく、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂から選ばれる1種以上がより好ましく、エポキシ樹脂が更に好ましい。
なお(メタ)アクリル樹脂とは、メタクリル樹脂及びアクリル樹脂を意味する。
【0011】
硬化性樹脂は、その種類によっては、光硬化処理及び/又は熱硬化処理を行なうことができる。
光硬化処理では、紫外線や電子線等の活性エネルギー線照射により、ラジカルやカチオンを発生する光重合開始剤を用いることで重合反応が進行する。
光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物、2,3-ジアルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物、チウラム化合物類、フルオロアミン化合物等が挙げられる。
光重合開始剤を用いて、単官能単量体、多官能単量体、反応性不飽和基を有するオリゴマーや樹脂等を重合することができる。
【0012】
硬化性樹脂(A)として用いることができるエポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂、ビスフェノールP型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂等が挙げられる。
ノボラック型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等が挙げられる。
その他のエポキシ樹脂としては、ビフェニル型、ビフェニルアラルキル型、アリールアルキレン型、テトラフェニロールエタン型、ナフタレン型、アントラセン型、フェノキシ型、ジシクロペンタジエン型、ノルボルネン型、アダマンタン型、フルオレン型、グリシジルメタアクリレート共重合系等のエポキシ樹脂の他、シクロヘキシルマレイミドとグリシジルメタアクリレートとの共重合エポキシ樹脂、エポキシ変性のポリブタジエンゴム誘導体、CTBN変性エポキシ樹脂等が挙げられる。
上記のエポキシ樹脂の中では、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノール型エポキシ樹脂がより好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が更に好ましい。
【0013】
フェノール樹脂としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、未変性のレゾールフェノール樹脂、油変性レゾールフェノール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。
【0014】
本発明においては、硬化性樹脂(A)を硬化させるために重付加型硬化剤(C)を使用する。
硬化性樹脂(A)としてエポキシ樹脂を用いる場合は、後述するように、重付加型硬化剤(C)として、ジシアンジアミド、酸無水物、及びポリメルカプタン化合物から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
【0015】
<改質セルロース繊維(B)>
本発明に用いられる改質セルロース繊維(B)としては、樹脂組成物の保存安定性、可使時間を向上させる観点から、イオン性基を有するセルロース繊維の該イオン性基に修飾基が結合してなる改質セルロース繊維を用いることが好ましい。
【0016】
改質セルロース繊維の原料となるセルロース繊維としては、環境負荷の観点から、天然セルロース繊維を用いることが好ましい。天然セルロース繊維としては、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリント等の綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられる。原料のセルロース繊維は、上記の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
原料のセルロース繊維の平均繊維長は、入手性及びコスト低減の観点から、好ましくは1,000μm以上、より好ましくは1,200μm以上、更に好ましくは1,500μm以上であり、そして、好ましくは10,000μm以下、より好ましくは5,000μm以下、更に好ましくは3,000μm以下である。
原料のセルロース繊維の平均繊維径は、入手性及びコスト低減の観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは20μm以上であり、そして、好ましくは300μm以下、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは80μm以下である。
原料のセルロース繊維のアスペクト比は、入手性及びコスト低減の観点から、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは15以上であり、そして、好ましくは200以下、より好ましくは100以下、更に好ましくは80以下である。
【0018】
(イオン性基を有するセルロース繊維)
イオン性基を有するセルロース繊維とは、セルロース繊維中にイオン性基を含むように変性されたセルロース繊維を意味する。
イオン性基としては、アニオン性基及びカチオン性基が挙げられる。
アニオン性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基及び(亜)リン酸基等が挙げられ、カチオン性基としては、その基内にアンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム等のオニウムを有する基が挙げられる。
イオン性基としては、改質セルロース繊維への導入効率の観点から、アニオン性基が好ましく、アニオン性基としてはカルボキシ基が好ましい。
【0019】
イオン性基がアニオン性基である場合、アニオン性基の対となるイオン(カウンターイオン)は、金属イオン及びプロトンから選ばれる1種以上が好ましい。
金属イオンとしては一価のカチオンが好ましく、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。これらの中では、改質セルロース繊維への反応効率の観点から、プロトンが好ましい。
【0020】
イオン性基を有するセルロース繊維におけるイオン性基の含有量は、改質セルロース繊維への導入効率の観点から、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.4mmol/g以上、更に好ましくは0.6mmol/g以上であり、そして、好ましくは3.0mmol/g以下、より好ましくは2.0mmol/g以下、更に好ましくは1.8mmol/g以下である。
イオン性基がアニオン性基の場合のアニオン性基の含有量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0021】
なお、セルロース繊維にアニオン性基を導入する方法としては、例えば、セルロースのヒドロキシ基を酸化処理してカルボキシ基に変換する方法等が挙げられる。
セルロースのヒドロキシ基を酸化処理する方法は特に制限されない。例えば、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシル(TEMPO)を触媒として、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤及び臭化ナトリウム等の臭化物を反応させて酸化処理する方法が挙げられる。より詳細には、特開2011-140632号公報に記載の方法を参照することができる。
TEMPOを触媒としてセルロース繊維の酸化処理を行うことによって、セルロース構成単位のC6位のヒドロキシメチル基(-CH2OH)が選択的にカルボキシ基に変換される。特にこの方法は、原料のセルロース繊維表面の酸化対象となるC6位のヒドロキシ基の選択性に優れており、かつ反応条件も穏やかである点で有利である。
【0022】
(イオン性基の修飾基)
改質セルロース繊維においては、イオン性基を有するセルロース繊維の該イオン性基に修飾基が結合している。修飾基としては、(i)炭化水素基、及び(ii)アルキル基に共重合部位が結合した基等から選ばれる1種以上が挙げられる。これらの基は単独で又は2種以上を組み合わせて、改質セルロース繊維(B)に導入される。
【0023】
(i)炭化水素基
前記炭化水素基としては、鎖式飽和炭化水素基、鎖式不飽和炭化水素基、環式飽和炭化水素基、及び芳香族炭化水素基等から選ばれる1種以上が挙げられる。
修飾基としての炭化水素基の炭素数は、樹脂組成物の保存安定性、可使時間を向上させる観点から、1以上であり、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、そして、好ましくは30以下、より好ましくは24以下、更に好ましくは18以下である。なお、炭化水素基の炭素数とは、一つの修飾基における炭素数のことを意味する。
鎖式飽和炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等から、炭素数22のドコシル基等が挙げられる。
鎖式不飽和炭化水素基としては、エチレン基、プロピレン基、ブテン基、イソブテン基等から、炭素数18のオクタデセン基等が挙げられる。
環式飽和炭化水素基としては、炭素数3のシクロプロパン基、炭素数5のシクロペンタン基等から、炭素数18のシクロオクタデシル基等が挙げられる。
【0024】
芳香族炭化水素基としては、アリール基及びアラルキル基が挙げられる。アリール基及びアラルキル基としては、芳香族環そのものが置換されたものでも非置換のものであってもよい。
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基、トリフェニル基、ターフェニル基等が挙げられ、アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、フェニルヘプチル基、フェニルオクチル基等が挙げられる。これらの基の芳香族基は後述する置換基でさらに置換されていてもよい。
前記炭化水素基が置換基を有する場合は、置換基としては、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基、炭素数1~6のアシル基、臭素原子等のハロゲン原子、アラルキル基、アラルキルオキシ基、炭素数1~6のアルキルアミノ基、炭素数2~12のジアルキルアミノ基、ヒドロキシ基等が挙げられる。
【0025】
(ii)アルキル基に共重合部位が結合した基
アルキル基に共重合部位が結合した基における共重合部位としては、例えば、ポリオキシアルカンジイル基等が挙げられ、好ましくは後述するエチレンオキシド/プロピレンオキシド(EO/PO)共重合部位等が挙げられる。
【0026】
(修飾基を有する化合物)
イオン性基と修飾基との結合は、保存安定性を向上させる観点から、イオン性基を有するセルロース繊維、好ましくはアニオン変性セルロース繊維の表面に存在するイオン性基に、修飾基を有する化合物を、イオン結合及び/又は共有結合(例えば、アミド結合、エステル結合、ウレタン結合等)させることによって達成することができる。
修飾基を有する化合物は、イオン性基との結合様式に応じて適宜選択することができる。修飾基を有する化合物としては、例えば、アミン化合物、第4級アンモニウム化合物、ホスホニウム化合物、酸無水物、イソシアネート化合物等が挙げられるが、アミン化合物がより好ましい。
【0027】
(アミン化合物)
修飾基を有する化合物であるアミン化合物としては、第1級モノアミン、第2級モノアミン、及び第3級モノアミンから選ばれる1種以上が挙げられ、その炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは6以上であり、そして、好ましくは30以下、より好ましくは24以下、更に好ましくは18以下である。
第1級モノアミンとしては、脂肪族モノアミン、芳香族モノアミン、複素環含有モノアミン、脂環式モノアミン、ポリオキシエチレンアミン、ポリオキシプロピレンアミン、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン(EO/PO)アミン等が挙げられる。
これらの中では、反応性の観点及び保存安定性を向上させる観点から、第1級又は第2級のモノアミンが好ましく、第1級モノアミンがより好ましく、モノアミンが炭化水素基及びポリエーテル基から選ばれる1種以上を有する脂肪族第1級モノアミンがより好ましい。
【0028】
脂肪族モノアミンの具体例としては、プロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、ジアリルアミン、ヘキシルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、トリヘキシルアミン、オクチルアミン、ジオクチルアミン、トリオクチルアミン、ドデシルアミン、ジドデシルアミン、ジステアリルアミン、オレイルアミン、アニリン、オクタデシルアミン、ジメチルベンジルアミン等が挙げられ、ジアリルアミン、ヘキシルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、ドデシルアミン、オレイルアミン等が好ましい。
【0029】
モノアミンは、樹脂組成物の保存安定性、可使時間を向上させる観点から、(EO/PO)等のポリオキシアルカンジイル基を有する脂肪族第1級モノアミンがより好ましく、下記式(1)で表される化合物が更に好ましい。
【0030】
【0031】
〔式中、R1は、水素原子、又は炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、xはエチレンオキシド(EO)の平均付加モル数を示し、5~100であり、yはプロピレンオキシド(PO)の平均付加モル数を示し、1~50である。
EO及びPOは、ランダム又はブロック状に存在し、アミノ基とEO又はPOとの間に、炭素数1~3のアルキレン基が存在していてもよい。〕
【0032】
R1は、保存安定性を向上させる観点から、水素原子、アミノ基、アミノアルキル基から選ばれる一種以上であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
R1が炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である場合、該アルキル基は好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基又はイソプロピル基である。
前記炭素数1~3のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基及びプロピレン基が挙げられる。
【0033】
EOの平均付加モル数xは、保存安定性を向上させる観点から、好ましくは2以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは10以上、より更に好ましくは15以上、より更に好ましくは20以上であり、そして、好ましくは90以下、より好ましくは70以下、更に好ましくは50以下である。
POの平均付加モル数yは、保存安定性を向上させる観点から、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは4以上であり、そして、好ましくは40以下、より好ましくは30以下、更に好ましくは20以下である。
また、平均付加モル数の比(y/x)は、保存安定性を向上させる観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.3以上であり、そして、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、更に好ましくは10以下である。
【0034】
式(1)における(EO/PO)共重合部位の重量平均分子量は、保存安定性を向上させる観点から、好ましくは100以上、より好ましくは200以上、更に好ましくは300以上、より更に好ましくは500以上、より更に好ましくは1,000以上、より更に好ましくは1,500以上であり、そして、好ましくは10,000以下、より好ましくは7,000以下、更に好ましくは5,000以下、より更に好ましくは4,000以下、より更に好ましくは3,500以下、より更に好ましくは2,500以下である。
上記アミンについての詳細は、例えば、特開2018-44101号公報の段落〔0030〕~〔0041〕等に記載されている。
【0035】
前記(EO/PO)共重合部位を有するアミンの市販品例としては、米国ハンツマン(Huntsman)社製のJeffamine M-2070、Jeffamine M-2005、Jeffamine M-2095、Jeffamine M-1000、Jeffamine M-600、Surfoamine B200、Surfoamine L100、Surfoamine L200、Surfoamine L207,Surfoamine L300、XTJ-501、XTJ-506、XTJ-507、XTJ-508、Jeffamine ED-900、Jeffamine ED-2003、Jeffamine D-2000、Jeffamine D-4000、XTJ-510、Jeffamine T-3000、Jeffamine T-5000、XTJ-502、XTJ-509;BASF社製のM3000等が挙げられる。
【0036】
改質セルロース繊維(B)における修飾基の平均結合量は、保存安定性を向上させる観点から、好ましくは0.01mmol/g以上、より好ましくは0.05mmol/g以上、更に好ましくは0.1mmol/g以上、より更に好ましくは0.2mmol/g以上であり、そして、好ましくは3mmol/g以下、より好ましくは2mmol/g以下、更に好ましくは1mmol/g以下である。
改質セルロース繊維(B)における修飾基の導入率は、保存安定性を向上させる観点から、好ましくは5mol%以上、より好ましくは10mol%以上、更に好ましくは15mol%以上であり、そして、好ましくは95mol%以下、より好ましくは85mol%以下、更に好ましくは75mol%以下である。
前記の修飾基の平均結合量(mmol/g)及び導入率(mol%)とは、改質セルロース繊維(B)において、イオン性基に修飾基が導入された(結合した)量及び割合を意味する。修飾基の平均結合量及び導入率は、修飾基を導入するための化合物の添加量や種類、反応温度、反応時間、溶媒の種類等によって調整することができる。
修飾基の平均結合量及び導入率は、イオン性基がアニオン性基の場合には、実施例に記載の方法で算出される。
【0037】
改質セルロース繊維(B)において、セルロース繊維に対する修飾基の導入量(添加量)は、保存安定性を向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは200質量%以下、より好ましくは150質量%以下、更に好ましくは100質量%以下である。
セルロース繊維に対する修飾基の導入量は、実施例に記載の方法で算出される。
セルロース繊維に対する修飾基の導入量は、添加した修飾基を有する化合物の修飾基量の全てがセルロース繊維に導入され、修飾されたとして算出する。例えば、TEMPO酸化セルロース繊維のカルボキシ基に対して、修飾基を有するアミン化合物を添加し、アミン塩化(中和反応)することにより、修飾基をセルロース繊維に導入しているためである。
【0038】
(改質セルロース繊維(B)の製造)
改質セルロース繊維(B)は、イオン性基を含むセルロース繊維の該イオン性基に修飾基を導入できる方法であればよく、特に制限はない。
例えば、イオン性基がカルボキシ基の場合、特開2018-24967号公報の段落〔0017〕~〔0106〕等を参照して、改質セルロース繊維を製造することができる。
イオン性基がスルホン酸基の場合、セルロース繊維へスルホン酸基を導入する方法としては、セルロース繊維に硫酸を添加し加熱する方法等が挙げられる。
イオン性基が(亜)リン酸基の場合、セルロース繊維へ(亜)リン酸基を導入する方法としては、乾燥状態又は湿潤状態のセルロース繊維に、リン酸又はリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合する方法や、セルロース繊維の分散液にリン酸又はリン酸誘導体の水溶液を添加する方法等が挙げられる。修飾基を導入する方法としては、修飾基を有する化合物と、リン酸基を有するセルロース繊維とを混合する方法等が挙げられる。
イオン性基がカチオン性基の場合、セルロース繊維にカチオン性基を導入する方法としては、セルロース繊維にアルカリの存在下においてカチオン化剤で処理する方法等が挙げられる。なお、改質セルロース繊維(B)の製造の際には、特開2018-24967号公報における低アスペクト比化処理や微細化工程を省略することができる。
【0039】
(短繊維化処理)
本発明においては、原料のセルロース繊維の繊維長が1,000μm以上の場合は、短繊維化処理をすることが好ましい。
短繊維化処理は、原料のセルロース繊維を、アルカリ処理、酸処理、熱処理、紫外線処理、電子線処理、機械処理及び酵素処理からなる群から選ばれる1種以上の処理方法を施すことにより、行うことができる。
短繊維化処理後の改質セルロース繊維(B)の平均繊維長は、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは10μm以上であり、そして、好ましくは900μm以下、より好ましくは800μm以下、更に好ましくは700μm以下である。
短繊維化処理後の改質セルロース繊維(B)の平均繊維径は、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは15μm以上であり、そして、好ましくは300μm以下、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは80μm以下である。
短繊維化処理後の改質セルロース繊維(B)のアスペクト比は、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは15以上であり、そして、好ましくは200以下、より好ましくは100以下、更に好ましくは80以下である。
短繊維化したセルロース繊維の平均繊維長、平均繊維径、及びアスペクト比は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0040】
(改質セルロース繊維(B)の特性)
改質セルロース繊維(B)は、その原料として天然セルロース繊維を使用していることから、セルロースI型結晶構造を有している。
改質セルロース繊維(B)のセルロースI型結晶化度は、保存安定性を向上させる観点から、好ましくは30%以上、より好ましくは35%以上、更に好ましくは40%以上、より更に好ましくは45%以上であり、そして、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下、更に好ましくは85%以下である。
セルロースI型結晶とは天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化度とは、セルロース全体のうちのセルロースI型結晶領域量の占める割合を意味する。
セルロースI型結晶構造の有無は、X線回折測定において、2θ=22.6°にピークがあることで判定することができ、セルロースI型結晶化度の測定は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0041】
(微細化処理)
本発明の改質セルロース繊維(B)は、必要に応じて更に微細化処理を行うことができる。
微細化処理は、機械的な処理であり、微細化処理を行うことにより、ナノスケールの繊維長、繊維径を有する微細セルロース繊維(ナノファイバー)へと変換することができる。
セルロース繊維を微細化する際に用いる装置は特に限定されない。例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波撹拌機等が挙げられる。これらの中では、微細化効率の観点から、強力な剪断力を印加できる湿式の高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いて分散体に印加する圧力は、微細化効率の観点から、好ましくは50MPa以上、より好ましくは100MPa以上、更に好ましくは120MPa以上であり、処理パス回数は、1回以上、好ましくは2回以上であり、そして、好ましくは20回以下、より好ましくは15回以下、更に好ましくは10回以下である。
【0042】
上記の微細化処理後の改質セルロース繊維(B)の平均繊維長は、分散安定性を向上させる観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは80nm以上、更に好ましくは100nm以上であり、そして、好ましくは1000nm以下、より好ましくは800nm以下、更に好ましくは500nm以下である。
微細化処理後の改質セルロース繊維(B)の平均繊維径は、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、更に好ましくは2.5nm以上であり、そして、好ましくは50nm以下、より好ましくは30nm以下、更に好ましくは20nm以下である。
微細化処理後の改質セルロース繊維(B)の平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは20以上であり、そして、好ましくは200以下、より好ましくは150以下、更に好ましくは80以下である。
微細化処理後の改質セルロース繊維(B)の平均繊維長、平均繊維径、平均アスペクト比は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0043】
<重付加型硬化剤(C)>
重付加型硬化剤(C)は、硬化性樹脂(A)と反応して樹脂組成物を硬化させる働きを有する。硬化剤としては、重付加型、触媒型のものが挙げられるが、本発明においては、得られる樹脂組成物の保存安定性、可使時間を向上させる観点から、重付加型硬化剤(C)が用いられる。
重付加型硬化剤(C)としては、ジシアンジアミド、酸無水物、フェノール樹脂硬化剤、ポリアミン化合物、ポリメルカプタン化合物、イソシアネート化合物、有機酸類等が挙げられるが、本発明においては、ジシアンジアミド、酸無水物、ポリアミン化合物、及びポリメルカプタン化合物から選ばれる1種以上が好ましい。
【0044】
(ジシアンジアミド)
ジシアンジアミドは、H2N-C(NH2)=N-CNで表され、融点は通常205~215℃、純度の高いものでは207~212℃である。
ジシアンジアミドは、結晶性物質であり、純度は、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上、更に好ましくは99.4%以上である。
ジシアンジアミドはその誘導体であってもよい。ジシアンジアミドの誘導体は、ジシアンジアミドに各種化合物を結合させたものであり、エポキシ樹脂との反応物、ビニル化合物やアクリル化合物との反応物等が挙げられる。
ジシアンジアミド又はその誘導体は、粉体として樹脂組成物中に配合することもできる。その場合、当該粉体の平均粒径は、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは10μm以下、より更に好ましくは5μm以下である。
【0045】
ジシアンジアミドの市販品としては、三菱化学株式会社製のDICY-7(平均粒径3μm)、DICY-15、日本カーバイド工業株式会社製、東京化成工業株式会社製、キシダ化学株式会社製、ナカライテスク株式会社製等が挙げられる。
ジシアンジアミドは、単独で用いてもよいし、ジシアンジアミドの硬化促進剤や、その他の硬化剤と組み合わせて用いてもよい。組み合わせることができるジシアンジアミドの硬化促進剤としては、ウレア類、イミダゾール類、ルイス酸触媒等が挙げられ、その他の硬化剤としては、芳香族アミン硬化剤、脂環式アミン硬化剤、酸無水物硬化剤等が挙げられる。これらの中では、硬化促進剤としてウレア類を用いることが好ましい。
ウレア類としては、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア(DCMU)、トルエンビス(ジメチルウレア)、4,4’-メチレンビス(フェニルジメチルウレア)、3-フェニル-1,1-ジメチルウレア、ジクロジメチルウレア、フェニルジメチルウレア等が挙げられる。
その市販品例としては、保土ヶ谷化学工業株式会社製の「DCMU99」、CVC Specialty Chemicals,Inc.製のOmicure24、Omicure52、Omicure94等が挙げられる。
【0046】
イミダゾール類の市販品例としては、四国化成株式会社製の「2MZ」、「2PZ」、「2E4MZ」等が挙げられる。
ルイス酸触媒としては、三フッ化ホウ素・ピペリジン錯体、三フッ化ホウ素・モノエチルアミン錯体、三フッ化ホウ素・トリエタノールアミン錯体、三塩化ホウ素・オクチルアミン錯体等のハロゲン化ホウ素と塩基の錯体が挙げられる。
【0047】
(酸無水物)
酸無水物としては、ラジカル重合可能な不飽和結合を有する不飽和ジカルボン酸の酸無水物が好ましく、芳香族酸無水物、環状脂肪族酸無水物、及び脂肪族酸無水物から選ばれる1種以上がより好ましく、25℃で液状の酸無水物が更に好ましい。
酸無水物の具体例としては、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、ドデセニルコハク酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸等の酸無水物が挙げられ、好ましくはマレイン酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸の酸無水物、より好ましくはテトラヒドロフタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物から選ばれる1種以上である。
これらの酸無水物は、単独で又は2種以上混合して用いることができる。
また、例えば、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物等の常温(約25℃)で固体状の酸無水物は、常温(約25℃)で液状の酸無水物に溶解させ、液状の混合物として使用することも好ましい。
【0048】
本発明においては、前記酸無水物以外の他の酸成分を用いることができる。
他の酸成分としては、多価カルボン酸又はその誘導体が挙げられ、好ましくは炭素数4~40の二価及び三価の非ラジカル反応性カルボン酸が挙げられる。例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、ダイマー酸、アルケニルコハク酸(炭素数4~20)、シクロヘキサンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸等の二価カルボン酸、及び1,2,4-ベンゼントリカルボン酸等の三価カルボン酸、その無水物が挙げられる。
酸無水物の含有量は、全酸成分中、好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上、更に好ましくは70モル%以上、より更に好ましくは90モル%以上であり、そして、100モル%以下である。
酸無水物の市販品例としては、新日本理化株式会社製の商品名「リカシッドMH」、「リカシッドMH-700G」、日立化成工業株式会社製の商品名「HN-5500」等が挙げられる。
【0049】
酸無水物を用いる場合、硬化反応を促進する機能を有する硬化促進剤として、第三級アミン、第三級アミン塩、イミダゾール類、有機リン系化合物、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、有機金属塩、ホウ素化合物等を用いることができる。
第三級アミンとしては、例えば、ラウリルジメチルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジメチルアニリン、(N,N-ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6-トリス(N,N-ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)等が挙げられる。
第三級アミン塩としては、上記第三級アミンのカルボン酸塩、スルホン酸塩、無機酸塩等が挙げられる。
イミダゾール類としては、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール等が挙げられる。
【0050】
有機リン系化合物としては、トリフェニルホスフィン等が挙げられ、第四級アンモニウム塩としては、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。
第四級ホスホニウム塩としては、テトラブチルホスホニウムデカン酸塩、テトラブチルホスホニウムラウリン酸塩、テトラブチルホスホニウムミリスチン酸塩、テトラブチルホスホニウムパルミチン酸塩、及びテトラブチルホスホニウムカチオンとビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3-ジカルボン酸、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3-ジカルボン酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、4-クロロベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアニオンとの塩等が挙げられる。
有機金属塩としては、オクチル酸スズ、オクチル酸亜鉛、ジラウリン酸ジブチルスズ、アルミニウムアセチルアセトン錯体等が挙げられ、ホウ素化合物としては、三フッ化ホウ素、トリフェニルボレート等が挙げられる。
硬化促進剤の配合量は、特に限定されないが、硬化促進の観点及び色相の観点から、重付加型硬化剤(C)100質量部に対して、好ましくは0.05~5質量部、より好ましくは0.1~3質量部、更に好ましくは0.2~3質量部である。
【0051】
(ポリアミン化合物)
ポリアミン化合物としては、ジアミン化合物、トリアミン化合物等が挙げられるが、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン、及びジ脂環式アミンから選ばれる1種以上が好ましい。
【0052】
(ポリメルカプタン化合物)
ポリメルカプタン化合物としては、メルカプトカルボン酸の多価アルコールエステル、ポリカルボン酸を含むモノメルカプタン一価アルコールのエステル、ポリプロピレングリコールやポリエチレングリコール鎖の末端にメルカプタン基を有する化合物、米国特許第4,126,505号に記載の他のエステル含有ポリメルカプタン、米国特許第4,092,293号に記載のプロポキシル化エーテルポリチオール、米国特許第3,258,495号に記載の750~7000の分子量を有するポリメルカプタン含有樹脂、米国特許第2,919,255号に記載のジメルカプトポリスルフィドポリマー、チオール化オリゴマートリグリセリド等が挙げられる。
これらの中では、メルカプトカルボン酸の多価アルコールエステルが好ましい。
メルカプトカルボン酸の多価アルコールエステルとしては、例えば、トリメチロールプロパントリメルカプトプロピオン酸エステル、トリメチロールプロパントリチオグルコン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラメルカプトプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラチオグルコン酸エステル、トリメチロールエタントリメルカプトプロピオン酸エステル等が好ましく挙げられる。
【0053】
(樹脂組成物中の各成分の含有量)
樹脂組成物中の各成分の含有量は、樹脂の種類にもよるが、下記のとおりである。
樹脂組成物中の硬化性樹脂(A)の含有量は、得られる樹脂組成物の保存安定性、可使時間を向上させる観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上であり、そして、好ましくは99.5質量%以下、より好ましくは99質量%以下、更に好ましくは98質量%以下である。
樹脂組成物中の改質セルロース繊維(B)の含有量は、得られる樹脂組成物の保存安定性、可使時間を向上させる観点から、硬化性樹脂(A)に対する質量比((B)/(A))で、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、更に好ましくは0.01以上であり、そして、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.2以下、より更に好ましくは0.1以下である。
【0054】
樹脂組成物中の重付加型硬化剤(C)の含有量は、得られる樹脂組成物の保存安定性、可使時間を向上させる観点から、硬化性樹脂(A)に対する質量比((C)/(A))で、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、更に好ましくは0.01以上であり、そして、好ましくは1.1以下、より好ましくは1.0以下、更に好ましくは0.9以下である。
重付加型硬化剤(C)がジシアンジアミドの場合、質量比((C)/(A))は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、更に好ましくは0.01以上であり、そして、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下、更に好ましくは0.2以下である。
重付加型硬化剤(C)が酸無水物の場合、質量比((C)/(A))は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上、より更に好ましくは0.2以上であり、そして、好ましくは1.1以下、より好ましくは1.0以下、更に好ましくは0.9以下である。
【0055】
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、硬化性樹脂(A)以外の他の樹脂、可塑剤、結晶核剤、充填剤、加水分解抑制剤、難燃剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、光安定剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤、多糖類、香料等を配合することができる。
他の樹脂としては、熱可塑性樹脂、セルロース系樹脂、ゴム系樹脂等が挙げられる。
可塑剤としては、フタル酸エステル、コハク酸エステル、アジピン酸エステル等の多価カルボン酸エステル、グリセリン等の脂肪族ポリオールの脂肪酸エステル等が挙げられ、例えば特開2008-174718号公報に記載のものが例示される。
また、樹脂組成物がゴム系樹脂を配合する場合には、前記以外の成分として、所望により、カーボンブラックやシリカ等の補強用充填剤、各種薬品、例えば加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、スコーチ防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、プロセスオイル、植物油脂等の各種添加剤を一般的な量で配合させることができる。
【0056】
(樹脂組成物の調製)
本発明の樹脂組成物は、前記の硬化性樹脂(A)、改質セルロース繊維(B)、重付加型硬化剤(C)、及び必要により各種添加剤を含有する原料を、ヘンシェルミキサー等で撹拌、又は密閉式ニーダー、1軸又は2軸の押出機、オープンロール型混練機等の公知の混練機を用いて溶融混練することで調製することができる。
(樹脂組成物の用途)
本発明の樹脂組成物は、電子部品、特に半導体を、光、熱、湿気、ほこり、物理的衝撃等から保護するための封止材として用いることが好ましい。また、本発明の樹脂組成物は、後述するように、半導体関連材料、ディスプレイ関連材料、車載用材料、受動部品材料、電磁波材料、光学材料、接着剤等の各種用途に好適に用いることができる。
【0057】
[樹脂硬化物の製造方法]
本発明の樹脂硬化物の製造方法は、硬化性樹脂(A)を、改質セルロース繊維(B)と重付加型硬化剤(C)との存在下で重合する方法である。
硬化性樹脂(A)、改質セルロース繊維(B)、重付加型硬化剤(C)は前記のものを用いることができる。
硬化性樹脂(A)に対する改質セルロース繊維(B)の使用量は、前記の硬化性樹脂(A)に対する質量比((B)/(A))と好ましい範囲は同じである。
硬化性樹脂(A)に対する重付加型硬化剤(C)の使用量は、前記の硬化性樹脂(A)に対する質量比((C)/(A))と好ましい範囲は同じである。
重合は、原料である硬化性樹脂(A)の種類によって、前述した光硬化処理及び/又は熱硬化処理条件を適宜調整して行うことができる。
【0058】
[成形体]
本発明の成形体は、本発明の樹脂組成物を成形してなる。
成形法としては、押出成形、射出成形、プレス成形、注型成型又は溶媒キャスト法等の公知の成形法を適用することができる。
成形体の形状は、シート状、塗膜のようなフィルム状、繊維状等であってもよく、用途に応じて適切な形状とすることができる。
本発明の樹脂組成物は保存安定性が優れており、成形体である各種樹脂製品の機械的強度が優れている。このため、日用雑貨品、家電部品、梱包資材、土木建築資材等の他、半導体関連材料、ディスプレイ関連材料、車載用材料、受動部品材料、電磁波材料、光学材料、接着剤等の各種用途に好適に用いることができる。
【0059】
半導体関連材料としては、封止材;整流ダイオード、パワートランジスタ、サイリスタ、トライアック等のパワーデバイス;フォトレジスト、バッファコート膜、バックグラインドテープ、ダイシングテープ、ダイボンドフィルム、アンダーフィル、CMPスラリー、CMPパッド等が挙げられる。
ディスプレイ関連材料としては、偏光子保護フィルム、表面処理フィルム、バックライト用フィルム、QDシート、保護フィルム、透明導電性フィルム、カバーシート、背面板、位相差フィルム、OLED用の基板や封止材、バンク材等が挙げられる。
車載用材料としては、ミリ波レーダー対応加飾材料、LiDAR用の光源や干渉フィルター、車載用のレンズ材料、OCA・OCR、HUD用の光源、凹面鏡・平面鏡、中間膜、コネクター用端子、モーター用絶縁シート等が挙げられる。
受動部品材料としては、アルミ電解コンデンザー、フィルムコンデンサー、積層セラミックコンデンサー、インダクター、バリスタ等が挙げられる。
電磁波材料としては、電磁波シールド材、ノイズ抑制シールド材等が挙げられ、光学材料としては、調光ガラス・フィルム、プロジェクタースクリーン用フィルム、グラファイトシート、LED蛍光体材料等が挙げられ、接着剤としては、各種の車両、航空機、船舶、ドローン等の構造用接着剤、瞬間接着剤、嫌気性接着剤等が挙げられる。
【実施例】
【0060】
〔セルロースI型結晶化度の測定〕
X線回折装置(株式会社リガク製、商品名:MiniFlexII)を用いて、以下の条件で測定することにより、セルロースの結晶構造を確認した。
測定ペレット調製条件:錠剤成形機で10~20MPaの範囲で、対象のセルロースに圧力を印加することで、面積320mm2×厚さ1mmの平滑なペレットを調製した。
X線回折分析条件:ステップ角0.01°、スキャンスピード10°/min、測定範囲:回折角2θ=5~40°
X線源:Cu/Kα-radiation、管電圧:15kv、管電流:30mA
ピーク分割条件:バックグラウンドノイズを除去した後、2θ=13-23°の間の誤差が5%以内に収まるようにガウス関数でフィッティングした。
上記のピーク分割により得られたX線回折ピークの面積により、下記式に基づいてセルロースI型結晶化度を算出した。
セルロースI型結晶化度(%)=[Icr/(Icr+Iam)]×100
〔式中、Icrは、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22-23°)の回折ピークの面積、Iamはアモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折ピークの面積を示す。〕
【0061】
〔短繊維化された改質セルロース繊維(B)の平均繊維長、平均繊維径、及びアスペクト比の測定〕
測定対象のセルロース繊維にイオン交換水を加えて、その含有量が0.01質量%の分散液を調製する。該分散液を湿式分散タイプ画像解析粒度分布計(ジャスコインターナショナル株式会社製、商品名:IF-3200)を用いて、フロントレンズ:2倍、テレセントリックズームレンズ:1倍、画像分解能:0.835μm/ピクセル、シリンジ内径:6515μm、スペーサー厚み:1000μm、画像認識モード:ゴースト、閾値:8、分析サンプル量:1mL、サンプリング:15%の条件で測定した。セルロース繊維を10000本以上測定し、それらの平均ISO繊維長を平均繊維長として算出し、平均ISO繊維径を平均繊維径として算出し、アスペクト比を算出した。
【0062】
〔微細化された改質セルロース繊維(B)の平均繊維長、平均繊維径、及びアスペクト比の測定〕
測定対象のセルロース繊維に媒体を加えて、その濃度が0.0001質量%の分散液を調製し、該分散液をマイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡((AFM)、Digital instrument社製、商品名:Nanoscope III Tapping mode AFM、プローブはナノセンサーズ社製、商品名:Point Probe(NCH)を使用)を用いて、該観察試料中のセルロース繊維の繊維高さを測定した。その際、該セルロース繊維が確認できる顕微鏡画像において、セルロース繊維を100本以上抽出し、平均繊維長、平均繊維径、及びアスペクト比を算出した。
【0063】
〔改質セルロース繊維(B)のアニオン性基(カルボキシ基)含有量の測定〕
乾燥質量0.5gの測定対象のセルロース繊維を100mLビーカーにとり、イオン交換水又はメタノール/水=2/1の混合溶媒を加えて全体で55mLとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製した。セルロース繊維が十分に分散するまで該分散液を攪拌した。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5~3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー株式会社製、商品名:AUT-710)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定した。pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、測定対象のセルロース繊維のアニオン性基含有量を算出した。
アニオン性基含有量(mmol/g)=水酸化ナトリウム滴定量×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)/測定対象のセルロース繊維の質量(0.5g)
【0064】
〔改質セルロース繊維(B)の修飾基の平均結合量及び導入率(イオン結合)〕
修飾基(アルキル基に(EO/PO)共重合部位が結合した基)の結合量をIR測定方法によって求め、下記式によりその平均結合量及び導入率を算出した。
IR測定は、乾燥させたイオン性基を有する改質セルロース繊維を赤外吸収分光装置(IR)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、商品名:Nicolet 6700)を用いて、ATR法にて測定し、次式により、イオン結合による修飾基の平均結合量及び導入率を算出した。以下はイオン性基がカルボキシ基の場合を示す。
修飾基の結合量(mmol/g)=[カルボキシ基を有するセルロース繊維のカルボキシ基含有量(mmol/g)]×[(カルボキシ基を有するセルロース繊維の1720cm-1のピーク強度-改質セルロース繊維の1720cm-1のピーク強度)/カルボキシ基を有するセルロース繊維の1720cm-1のピーク強度]
修飾基の導入率(mol%)=100×(修飾基の結合量(mmol/g))/(カルボキシ基を有するセルロース繊維中のカルボキシ基含有量(mmol/g))
なお「1720cm-1のピーク強度」は、カルボニル基に由来するピーク強度である。
【0065】
〔アニオン変性セルロースの製造〕
製造例1(アニオン変性セルロース繊維の製造)
天然セルロースとして針葉樹の漂白クラフトパルプ(ウエストフレザー社製、商品名:ヒントン)10gを990gのイオン交換水で十分に撹拌した後、該パルプ10gに対し、TEMPO(ALDRICH社製、商品名:Free radical、98質量%)0.13g、臭化ナトリウム1.3g、10.5質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(10.5質量%水溶液)27gをこの順で添加した。自動滴定装置(東亜ディーケーケー株式会社製、商品名:AUT-701)でpHスタット滴定を用い、0.5M水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保持した。撹拌速度200rpmにて反応を120分(20℃)行った後、水酸化ナトリウムの滴下を停止し、アニオン性基がカルボキシ基であるアニオン変性セルロースを得た。
得られたアニオン変性セルロースを0.01Mの塩酸で中和した後、イオン交換水を用いてコンパクト電気伝導率計(株式会社堀場製作所製、商品名:LAQUAtwin EC-33B)によるろ液の電導度測定において200μs/cm以下になるまで前記アニオン変性セルロースを十分に洗浄し、次いで脱水処理を行った。
得られたアニオン変性セルロース繊維の平均繊維長は594μm、アスペクト比は220、カルボキシ基含有量は1.3mmol/gであった。
【0066】
製造例2(改質セルロース繊維を含有する樹脂組成物の製造)
製造例1で得られたアニオン変性セルロース繊維の所定量(即ち、セルロース換算で10g)、アセトン500g、モノアミン(米国ハンツマン(Huntsman)社製、商品名:ジェファーミン(Jeffamine)M2070、PO/EO(モル比)=10/31)6.5gを混合し、25℃で1時間撹拌し、改質セルロース繊維(平均繊維長:132nm、アスペクト比:40)の分散体を得た。
その後、エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、商品名:jER828、粘度120~150P/25℃、エポキシ当量184~194)を500g添加し、25℃でさらに1時間撹拌した。得られた混合液を、高圧ホモジナイザー(吉田機械興業株式会社製、商品名:ナノヴェイタL-ES)を用いて、150MPaで5パス、分散処理に供した。得られた分散液から溶媒を除去し、改質セルロース繊維とエポキシ樹脂を含有する樹脂組成物を得た。
得られた改質セルロース繊維の修飾基(アルキル基に(EO/PO)共重合部位が結合した基)の結合量は0.34mmol/g、修飾基の導入率は26mol%、セルロースI型結晶化度は65%であった。
【0067】
〔樹脂組成物の製造〕
実施例A1
製造例2で得られた樹脂組成物10gにジシアンジアミド(重付加型硬化剤)0.5g、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア(硬化促進剤、保土ヶ谷化学工業株式会社製、商品名:DCMU99)0.3gを加え、自動公転式撹拌機(株式会社シンキー製、商品名:あわとり練太郎)を用いて常温(25℃)下、撹拌2分間、脱泡2分間を行い、改質セルロース繊維とエポキシ樹脂を含有する樹脂組成物を得た。
【0068】
比較例A1
製造例2で得られた樹脂組成物10gに2-エチル-4-メチル-イミダゾール(重縮合型硬化剤)0.5gを加え、硬化促進剤は使用しないで、実施例A1と同様にして、改質セルロース繊維とエポキシ樹脂を含有する樹脂組成物を得た。
【0069】
比較例A2
実施例A1において、製造例2で得られた樹脂組成物10gに代えて、改質セルロース繊維を含まないエポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、商品名:jER828)10gを用いたこと以外は、実施例A1と同様にして、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0070】
比較例A3
比較例A1において、製造例2で得られた樹脂組成物10gに代えて、改質セルロース繊維を含まないエポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、商品名:jER828)10gを用いたこと以外は、比較例A1と同様にして、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0071】
実施例A2
製造例2で得られた樹脂組成物10gに酸無水物(重付加型硬化剤、新日本理化株式会社製、商品名:リカシッドMH-700G、4-メチルヘキサヒドロフタル酸無水物/ヘキサヒドロフタル酸無水物=70/30の混合物)8.9g、N,N-ジメチルベンジルアミン(硬化促進剤、花王株式会社製、商品名:カオーライザーNo.20:KL-20)0.1gを加え、実施例A1と同様にして、改質セルロース繊維とエポキシ樹脂を含有する樹脂組成物を得た。
【0072】
比較例A4
実施例A2において、製造例2で得られた樹脂組成物10gに代えて、改質セルロース繊維を含まないエポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、商品名:jER828)10gを用いたこと以外は、実施例A2と同様にして、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0073】
〔樹脂成形体の製造〕
実施例B1
実施例A1で得られた樹脂組成物を、示差走査熱量計(株式会社日立ハイテクサイエンス製、商品名:DSC7020)の測定用の密封型試料容器(アルミニウム製、15μL)に10~15mg程度秤量し、成形体用サンプルを調製した。その後、測定機器内で130℃、2時間加熱し、改質セルロース繊維とエポキシ樹脂を含有する樹脂成形体を得た。
【0074】
比較例B1
実施例B1において、比較例A1で得られた樹脂組成物を用いて、加熱条件を80℃で1時間、150℃で1時間、計2時間に変更したこと以外は、実施例B1と同様にして樹脂成形体を得た。
【0075】
比較例B2
実施例B1において、比較例A2で得られたエポキシ樹脂組成物を用いた以外は、実施例B1と同様にして樹脂成形体を得た。
【0076】
比較例B3
比較例B1において、比較例A3で得られたエポキシ樹脂組成物を用いた以外は、比較例B1と同様にして樹脂成形体を得た。
【0077】
実施例B2
実施例B1において、実施例A2で得られた樹脂組成物を用いて、加熱条件を120℃で1時間、150℃で2時間、計3時間に変更したこと以外は、実施例B1と同様にして樹脂成形体を得た。
【0078】
比較例B4
実施例B2において、比較例A4で得られたエポキシ樹脂組成物を用いた以外は、実施例B2と同様にして樹脂成形体を得た。
【0079】
得られた樹脂組成物、樹脂成形体の特性を、下記試験例1~2の方法により評価した。結果を表1に示す。
【0080】
試験例1(保存安定性の評価)
実施例及び比較例で得られた樹脂成形体について、80℃、1時間における発熱の有無を示差走査熱量計にて測定した。
硬化反応は発熱反応であるため、硬化反応の進行の有無を発熱ピークの有無により測定することができる。
【0081】
試験例2(可使時間の評価)
実施例及び比較例で得られた樹脂組成物(サンプル量:10~15mg)を5℃/分で昇温し、硬化剤種それぞれに応じた硬化温度に到達してから、硬化発熱ピークのピークトップに達するまでの時間を測定することにより、樹脂組成物の可使時間(硬化剤を混合後、使用可能な時間の長さ(ポットライフ))を評価した。
実施例B1、比較例B2の硬化温度は130℃、比較例B1、比較例B3の硬化温度は80℃、実施例B2、比較例B4の硬化温度は120℃として、その硬化温度に到達してから、硬化発熱ピークのピークトップに達するまでの時間を測定した。
【0082】
【0083】
表1から、重付加型硬化剤を用いて得られた実施例A1、B1及び実施例A2、B2の樹脂組成物、樹脂成形体は、80℃、1時間の条件下では硬化が進行せず、重縮合型硬化剤を用いて得られた比較例A1、B1の樹脂組成物、樹脂成形体と比較して保存安定性が優れている。
また、実施例A1、B1及び実施例A2、B2の樹脂組成物、樹脂成形体のように、改質セルロース繊維を含有すると、硬化開始時間が遅延し、可使時間が長くなることが分かる。
なお、実施例A2、B2と比較例A4、B4の可使時間の差は1.7分であるが、サンプル量が10~15mgという少量でこの可使時間の差となるため、より実用的な量を扱う際には十分に有意差があると言える。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の改質セルロース繊維を含有する樹脂組成物は、保存安定性に優れ、可使時間が長く、その成形体である各種樹脂製品は機械的強度が優れている。このため、日用雑貨品、家電部品、梱包資材、土木建築資材等の他、半導体関連材料、ディスプレイ関連材料、車載用材料、受動部品材料、電磁波材料、光学材料、接着剤等の各種用途に好適に用いることができる。