(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】液式鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/12 20060101AFI20240912BHJP
H01M 4/73 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H01M10/12 K
H01M4/73 A
(21)【出願番号】P 2021005761
(22)【出願日】2021-01-18
【審査請求日】2023-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 篤志
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-264202(JP,A)
【文献】特開2013-196828(JP,A)
【文献】特開2007-184114(JP,A)
【文献】国際公開第2020/080418(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0164575(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00- 10/04
H01M 10/06- 10/34
H01M 4/64- 4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セル室と、前記セル室に電解液と共に収納された極板群と、を備え、
前記極板群は、交互に配置された複数枚の負極板および正極板と、前記負極板と前記正極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有し、
前記正極板および前記負極板は、それぞれ、活物質を含む合剤が保持された格子状基板部と、前記格子状基板部から連続する耳部と、を備えた集電体を有し、
前記複数枚の正極板の少なくとも一枚の前記格子状基板部は、他の正極板の前記格子状基板部と異なるデザインを有する液式鉛蓄電池。
【請求項2】
前記複数枚の正極板の少なくとも一枚は、前記格子状基板部の穴の大きさが不均一である請求項1に記載の液式鉛蓄電池。
【請求項3】
前記複数枚の正極板の少なくとも一枚の前記格子状基板部は、前記耳部付近の穴よりも前記耳部から遠い部分の穴が大きいデザインを有する請求項1または2に記載の液式鉛蓄電池。
【請求項4】
隔壁により区画された複数のセル室を有する電槽を備え、前記複数のセル室に収納された前記極板群は、全て、同じ構成の前記積層体を有する請求項1~3のいずれか一項に記載の液式鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液式鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
液式鉛蓄電池は、セル室と、セル室に電解液と共に収納された極板群と、を備えている。極板群は、交互に配置された複数枚の負極板および正極板と、負極板と正極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有する。正極板および負極板は、それぞれ、活物質を含む合剤が保持された格子状基板部と、格子状基板部から連続する耳部と、を備えた集電体を有する。
【0003】
従来、自動車等に用いられている液式鉛蓄電池においては、格子状基板部を備えた集電体の材料として、Pb-Sb合金が用いられてきた。近年では、自己放電、減液量が少ない等の特徴を備え、メンテナンスフリーな鉛蓄電池を構成できることから、Pb-Ca-Sn系合金が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、このような集電体は、従来、鋳造法により製造されてきた。近年では、生産性に優れ、薄く軽量な基板を形成できることから、Pb-Ca-Sn系合金等の鉛合金や鉛からなるスラブを圧延して圧延シートを製造し、この圧延シートから格子状基板部を備えた集電体を形成する手法が広く普及している。
【0005】
圧延シートの製造の際には、格子状基板部を備えた集電体を圧延シートから形成し易くするために、圧下率を80%以上として厚みを薄くする、いわゆる強圧延が行われている。そして、格子状基板部を備えた集電体は、この圧延シートに対し、例えばエキスパンド加工や、プレス加工機等を用いて打抜くパンチング加工等を行う方法で製造されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-113913号公報
【文献】特開昭60-185365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
正極板および負極板の製造に際しては、鉛粉を含む混合物のペーストを、集電体の格子状基板部の穴に充填するとともに表面に塗布した後に、そのペーストを熟成・乾燥させ、さらに化成を行うことで、集電体の格子状基板部に、活物質を含む合剤が保持された状態とする。そして、格子状基板部の穴に充填されたペーストは、乾燥、化成の際に体積変化する。
【0008】
上記ペーストの体積変化の大きさは、電位分布と相関関係にあり、例えば耳部からの距離によって変わる。耳部の近くは電流が集中するため、電気化学反応が進行しやすく、ペーストの体積変化も大きい。耳部から離れるほど、ペーストの体積変化は小さくなる。この体積変化の差により、1枚の化成後の極板の格子状基板部の各部には、充放電中に活物質に押されやすい部位と、活物質に押されにくい部位とが生じ、格子状基板部に加わる力の向きや大きさが不均一になる。つまり、この状態は、格子状基板部に捩れを発生させる要因となる。
【0009】
一方、電位分布と活物質の脱落防止のため、格子状基板部の穴の大きさを、耳部付近で小さく、耳部から遠い部分で大きく設計すると、充填されるペースト量は、格子状基板部の全ての穴位置で同じではなく、不均一になる。これに伴い、1枚の化成後の極板の格子状基板部では、充放電にて加わる力の向きや大きさがさらに不均一になる。つまり、この状態は、より一層、格子状基板部に捩れを発生させる要因となる。
【0010】
一般的に、正極板は腐食による変形が生じやすく、負極板は腐食しにくい。そのため、正極用の集電体は負極用の集電体よりも厚く設計されることが多い。そして、厚く作られた正極板が、充放電の繰り返しにより腐食が進行し、上述した状態となって格子状基板部が捩じれると、薄く作られた負極板も、簡単に正極板と同じ向きに捩じれてしまう。
本発明の課題は、格子状基板部の穴の大きさが不均一な正極集電体を有する液式鉛蓄電池において、充放電の繰り返しによる腐食の進行に伴う正極板の捩れを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の液式鉛蓄電池は、下記の構成(1)~(3)を必須要件とする。
(1)セル室と、セル室に電解液と共に収納された極板群と、を備え、極板群は、交互に配置された複数枚の負極板および正極板と、負極板と正極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有する。
【0012】
(2)正極板および負極板は、それぞれ、活物質を含む合剤が保持された格子状基板部と、格子状基板部から連続する耳部と、を備えた集電体を有する。
(3)複数枚の正極板の少なくとも一枚の格子状基板部は、他の正極板の格子状基板部と異なるデザインを有する。
【0013】
なお、二枚の正極板の格子状基板部が「異なるデザインを有する」とは、二枚の正極板を、耳部同士を合わせて(使用状態となるように)重ねた際に、格子状基板部の穴を形成する内骨同士の一部または全部が重ならないことを意味する。つまり、耳部同士を合わせずに重ねた場合に、格子状基板部の穴を形成する内骨同士が全て重なるものであっても、「異なるデザインを有する」ものに含まれる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、格子状基板部の穴の大きさが不均一な正極集電体を有する液式鉛蓄電池において、充放電の繰り返しによる腐食の進行に伴う正極板の捩れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態の液式鉛蓄電池が有する複数枚の正極板を構成する一枚(第一のデザイン)の正極集電体を示す正面図である。
【
図2】実施形態の液式鉛蓄電池が有する複数枚の正極板を構成する一枚(第二のデザイン)の正極集電体を示す正面図である。
【
図3】第一のデザインの正極集電体と第二のデザインの正極集電体を重ねて示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
【0017】
[全体構成]
実施形態の液式鉛蓄電池は、モノブロックタイプの電槽と、蓋と、六個の極板群とを有する。電槽は、隔壁により六個のセル室に区画されている。六個のセル室は電槽の長手方向に沿って配列されている。各セル室に一つの極板群が配置されている。各セル室に電解液が注入されている。
【0018】
各極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板と、正極板および負極板との間に配置されたセパレータと、からなる積層体を有する。各極板群において、積層体の構成は同じである。
正極板は、正極集電体と正極合剤(正極活物質を含む合剤)とを有する。正極集電体は、長方形の格子状基板部と、格子状基板部に連続する耳部とを有し、格子状基板部に正極合剤が保持されている。正極集電体のデザインについては後で詳述する。
【0019】
負極板は、負極集電体と負極合剤(負極活物質を含む合剤)とを有する。負極集電体は、長方形の格子状基板部と、格子状基板部に連続する耳部とを有し、格子状基板部に負極合剤が保持されている。この実施形態の負極集電体のデザインは全て同じであるが、少なくとも一枚が異なるデザインであってもよい。複数枚の正極板および負極板は、セパレータを介して交互に配置されている。積層体を構成する負極板の枚数は正極板の枚数よりも一枚多いが、同じであっても、一枚少なくても良い。
【0020】
負極板は袋状セパレータ内に収納されている。そして、負極板が入った袋状セパレータと正極板とを交互に重ねることで、正極板と負極板との間にセパレータが配置された状態となっている。なお、正極板を袋状セパレータ内に収納して、負極板と交互に重ねてもよい。
また、各極板群は、積層体を構成する複数の正極板および負極板をそれぞれ幅方向の別の位置で連結する正極ストラップおよび負極ストラップと、正極ストラップおよび負極ストラップからそれぞれ立ち上がる正極中間極柱および負極中間極柱と、外部端子となる正極極柱および負極極柱を有する。
【0021】
正極ストラップおよび負極ストラップは、複数の正極板および負極板の耳部をそれぞれ連結して固定している。隣接するセル室の正極中間極柱同士および負極中間極柱同士が抵抗溶接されて、隣接するセル間が電気的に直列に接続されている。
正極極柱および負極極柱は、セル配列方向の両端のセル室に配置された正極ストラップおよび負極ストラップに、小片部を介して形成されている。
【0022】
[正極集電体のデザインについて]
複数枚の正極板を構成する一枚の正極板は、
図1に示す第一のデザインの正極集電体1を有する。複数枚の正極板を構成する別の一枚の正極板は、
図2に示す第二のデザインの正極集電体2を有する。
【0023】
第一のデザインの正極集電体1は、活物質を含む合剤が保持される格子状基板部11と、格子状基板部11から連続する耳部12を備えている。格子状基板部11は、耳部12付近の穴131よりも耳部12から遠い部分の穴132が大きいデザインを有する。
第二のデザインの正極集電体2は、活物質を含む合剤が保持される格子状基板部21と、格子状基板部21から連続する耳部22を備えている。格子状基板部21は、耳部22が格子状基板部21から突出する方向と垂直な方向における両端部を除いて、耳部22付近の穴231よりも耳部22から遠い部分の穴232が大きいデザインを有する。
正極集電体1の格子状基板部11と正極集電体2の格子状基板部21とでは、デザインが異なる。格子状基板部11は、横内骨111を6本、縦内骨112を9本有し、格子状基板部21は、横内骨211を6本、縦内骨212を10本有し、格子状基板部21の横内骨211は、全体的に、格子状基板部11の横内骨111よりも耳部22側に配置されている。格子状基板部21の縦内骨212は格子状基板部11の縦内骨112よりも一本多い。
【0024】
そして、
図3に示すように、正極集電体1と正極集電体2を重ねると、耳部12と耳部22および外枠同士は重なるが、格子状基板部11の横内骨111と格子状基板部21の横内骨211、格子状基板部11の縦内骨112と格子状基板部21の縦内骨212は、全て重ならない。
【0025】
積層体が偶数枚の正極板を有する場合、例えば、そのうちの半分の正極板は第一のデザインの正極集電体1を有し、残りの半分の正極板は第二のデザインの正極集電体2を有する。
積層体が奇数の正極板を有する場合、例えば、第一のデザインの正極集電体1を有する正極板および第二のデザインの正極集電体2を有する正極板のうち、いずれかを一枚多くする。
【0026】
[作用、効果]
実施形態の液式鉛蓄電池では、電位分布の向上と活物質の脱落防止を目的として、正極集電体1の格子状基板部11を、耳部12付近の穴131よりも耳部12から遠い部分の穴132が大きいデザインとしている。また、正極集電体2の格子状基板部21は、耳部22が格子状基板部21から突出する方向と垂直な方向における両端部を除いて、耳部22付近の穴231よりも耳部22から遠い部分の穴232が大きいデザインとし、耳部22が格子状基板部21から突出する方向と垂直な方向における両端部には、耳部22付近の穴よりも小さい穴が存在する。
つまり、実施形態の液式鉛蓄電池を構成する複数枚の正極板が備えている正極集電体1,2は、穴の大きさが不均一でデザインの異なる格子状基板部11,21を有している。
【0027】
そのため、実施形態の液式鉛蓄電池によれば、正極集電体1,2のいずれかのみを備えている場合と比較して、穴に充填されるペースト量の不均一性に伴い発生する格子状基板部11,21の捩れの向きが分散されるため、捩じれの力が一つの向きに偏らず、捩れの程度が低減される。つまり、充放電の繰り返しによる腐食の進行に伴う正極板の捩れを抑制することができる。その結果、セパレータの破れが抑制されることで、内部短絡に起因する短寿命化が防止できる。
【0028】
[デザインが異なる集電体の製造方法について]
デザインが異なる集電体は、同じデザインの集電体を製造する場合と同様に、圧延シートに対し、例えばエキスパンド加工や、プレス加工機等を用いて打抜くパンチング加工等を行う方法で製造される。
【0029】
そして、エキスパンド加工を行う方法では、例えば、エキスパンド加工後の圧延シートを長手方向で切断する際に切断位置をずらすことで、格子状基板部を異なるデザインにすることができる。パンチング加工を行う方法では、パンチング加工で異なる形状に打ち抜くことで、格子状基板部を異なるデザインにすることができる。
【0030】
[本発明の一態様と実施形態との違い]
上記実施形態では、全ての極板群が同じ構成の積層体を有している。つまり、複数のセル室に収納された極板群は、全て、同じ構成の積層体を有し、複数枚の正極板の構成を全ての極板群で同じにしている(デザインの異なる格子状基板部を有する複数枚の正極板を同じ順序で積層している)が、複数枚の正極板の構成は極板群毎に異なるものとしてもよい。
【0031】
ただし、正極板の格子状基板部のデザインが異なると、正極板の電位分布が異なるため、複数枚の正極板の構成を極板群毎に異なるものとした場合、セル室毎に電池性能が異なる極板群が配置されることになる。その場合、セル室毎に電池性能のばらつきがあるため、特定のセル室内の極板群が優先的に使用されて早期寿命を迎え、全体としての電池寿命が短くなる可能性がある。これに対して、複数枚の正極板の構成を全ての極板群で同じに(デザインの異なる格子状基板部を有する複数枚の正極板を同じ順序で積層)すれば、セル室毎の電池性能のばらつきが抑制されるため、全体としての電池寿命が良好になる。
【0032】
しかし、寿命低下に及ぼす影響は、セル室毎の電池性能のばらつきによるものよりも、正極板の捩じれによるものの方が大きいため、極板群を構成する複数枚の正極板の少なくとも一枚の格子状基板部が、他の正極板の格子状基板部と異なるデザインを有するものであれば、複数枚の正極板の構成が極板群毎に異なるものであっても、電池寿命を長くする効果は得られる。
【0033】
上記実施形態では、第一のデザインの正極集電体1の格子状基板部11は、全体的に耳部付近の穴よりも耳部から遠い部分の穴が大きいデザインを有するが、第二のデザインの正極集電体2の格子状基板部21は、耳部22が格子状基板部21から突出する方向と垂直な方向における両端部で、耳部付近の穴よりも小さい穴を有する。つまり、第二のデザインの正極集電体2の格子状基板部21は、耳部付近の穴よりも耳部から遠い部分の穴が大きいデザインを有する格子状基板部ではないが、穴の大きさが不均一な格子状基板部である。
【0034】
そして、複数枚の正極板の少なくとも一枚が、他の正極板と異なるデザインを有すれば、耳部付近の穴よりも耳部から遠い部分の穴が大きいデザインの格子状基板部を有する正極板を一枚も備えていないものも、本発明の一態様の液式鉛蓄電池に含まれ、格子状基板部の捩じれの向きが分散されて、捩れの程度が低減される効果が得られる。
【符号の説明】
【0035】
1 第一のデザインの正極集電体
11 格子状基板部
111 横内骨
112 縦内骨
12 耳部
131 耳部付近の穴
132 耳部から遠い部分の穴
2 第二のデザインの正極集電体
21 格子状基板部
211 横内骨
212 縦内骨
22 耳部
231 耳部付近の穴
232 耳部から遠い部分の穴