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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】燃料ガスの吸着貯蔵システム
(51)【国際特許分類】
   F17C 11/00 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
F17C11/00 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021016083
(22)【出願日】2021-02-03
(65)【公開番号】P2022119089
(43)【公開日】2022-08-16
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】屋 隆了
(72)【発明者】
【氏名】末廣 眞人
【審査官】加藤 信秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-256708(JP,A)
【文献】特開2002-161998(JP,A)
【文献】特開2017-059452(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03130835(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を吸着・放出可能な第1吸着材が充填された第1ガス貯蔵部と、
燃料ガス及び二酸化炭素を貯蔵・放出可能な第2吸着材が充填され、燃料ガスの吸着・放出と、二酸化炭素の吸着・放出と、を交互に実行可能な第2ガス貯蔵部と、を含み、
前記第1ガス貯蔵部と、前記第2ガス貯蔵部と、は熱的に互いに接続され、
前記第2ガス貯蔵部は、複数配置されるとともに、燃料ガスの吸着・放出、及び二酸化炭素の吸着・放出を個別に実行可能である燃料ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項2】
前記第1ガス貯蔵部及び前記第2ガス貯蔵部の間を冷媒が循環するように配置された冷媒流路と、前記冷媒を循環させるポンプと、を含み、
前記第1ガス貯蔵部と前記第2ガス貯蔵部は、前記冷媒流路により直列に接続されている請求項1に記載の燃料ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料ガスの吸着貯蔵システムであって、燃料ガスを消費して二酸化炭素を排出する燃料利用機器に接続された燃料ガスの吸着貯蔵システムにおいて、
前記第1ガス貯蔵部は、前記燃料利用機器の二酸化炭素の導入側に連通しており、
前記第2ガス貯蔵部は、前記燃料利用機器の燃料ガスの導入側と、前記燃料利用機器の二酸化炭素の排気側に連通している請求項2に記載の燃料ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項4】
前記第1ガス貯蔵部の二酸化炭素の導入側に配置された第1仕切弁と、
前記第2ガス貯蔵部の燃料ガスの放出側に配置された第2仕切弁と、
前記第2ガス貯蔵部の二酸化炭素の放出側に配置された第3仕切弁と、
前記第1仕切弁、前記第2仕切弁、前記第3仕切弁を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
燃料ガスの充填された複数の前記第2ガス貯蔵部のうち最初に燃料ガスを放出する前記第2ガス貯蔵部の前記第2仕切弁を開放するとともに、前記第1仕切弁を開放する請求項3に記載の燃料ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項5】
前記燃料利用機器から排出された二酸化炭素を昇圧して前記第1ガス貯蔵部及び前記第2ガス貯蔵部に供給する昇圧器を備え、
前記制御部は、前記ポンプ、及び前記昇圧器を制御可能とされ、
前記冷媒の温度が所定の温度となるように、前記ポンプの出力、及び/又は、前記昇圧器の出力を調整する請求項4に記載の燃料ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項6】
前記燃料利用機器から排出された二酸化炭素を昇圧して前記第1ガス貯蔵部及び前記第2ガス貯蔵部に供給する昇圧器を備え、
前記制御部は、前記ポンプ、及び前記昇圧器を制御可能とされ、
前記第2ガス貯蔵部が放出する燃料ガスの放出圧力が所定圧力以上となるように前記ポンプの出力を増加させる、及び/又は、前記昇圧器の出力を調整する請求項4に記載の燃料ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項7】
前記冷媒流路にはヒータが配置され、
前記制御部は前記ヒータを制御可能とされ、燃料ガスの放出圧力が所定圧力以上となるように前記ヒータの出力を調整する請求項4に記載の燃料ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項8】
前記制御部は
前記第2ガス貯蔵部から燃料ガスを放出する際の前記冷媒の温度を、前記第2ガス貯蔵部に燃料ガスを充填するときの前記冷媒の温度よりも高く設定する請求項5に記載の燃料ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項9】
前記制御部は、
燃料ガスの放出が完了した前記第2ガス貯蔵部の前記第2仕切弁を閉止するともに、次に燃料ガスを放出する前記第2ガス貯蔵部の前記第2仕切弁を開放し、
燃料ガスの放出が完了した前記第2ガス貯蔵部の前記第3仕切弁を開放する請求項4乃至請求項8のいずれか1項に記載の燃料ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項10】
前記制御部は、
前記第3仕切弁が開放された前記第2ガス貯蔵部において、前記第3仕切弁を一時的に閉止し、前記第3仕切弁を閉止している間に前記第2仕切弁を一時的に開放する請求項9に記載の燃料ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項11】
前記制御部は、
燃料ガスの放出が完了した前記第2ガス貯蔵部の前記第2仕切弁を閉止したのち、燃料ガスが充填された残余の前記第2ガス貯蔵部のうちの一つを選択して当該第2ガス貯蔵部の前記第2仕切弁を開放し、且つ燃料ガスの放出が完了した前記第2ガス貯蔵部の前記第3仕切弁を開放する制御を逐次的に実行する請求項9又は請求項10に記載の燃料ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項12】
前記第2仕切弁を介して前記第2ガス貯蔵部に燃料ガスを充填する場合において、
前記制御部は、
最後に燃料ガスを放出した前記第2ガス貯蔵部の前記第2仕切弁を開放するとともに、次に燃料ガスを充填する前記第2ガス貯蔵部を選択して当該第2ガス貯蔵部の前記第3仕切弁を開放し、
二酸化炭素の放出が完了した前記第2ガス貯蔵部の前記第3仕切弁を閉止して当該第2ガス貯蔵部の前記第2仕切弁を開放するとともに、その次に燃料ガスを充填する前記第2ガス貯蔵部を選択して前記第2ガス貯蔵部の前記第3仕切弁を開放する制御を繰り返し、
最後に選択された前記第2ガス貯蔵部の前記第3仕切弁を閉止して当該第2ガス貯蔵部の前記第2仕切弁を開放するとともに、前記第1仕切弁を開放する請求項4に記載の燃料ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項13】
前記第2仕切弁を介して前記第2ガス貯蔵部に燃料ガスを充填する場合において、
前記制御部は、
全ての前記第2ガス貯蔵部の前記第3仕切弁を開放し、
二酸化炭素の放出が完了した全ての前記第2ガス貯蔵部の前記第3仕切弁を閉止して前記第2仕切弁を開放する請求項4に記載の燃料ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項14】
前記燃料利用機器の二酸化炭素の排出側と前記第1仕切弁及び前記第3仕切弁とを連通する第1流路と、
前記第1流路に配置された昇圧器と、
前記第1流路の前記昇圧器と前記第1ガス貯蔵部及び前記第2ガス貯蔵部との間に配置された第1遮断弁と、
前記第1仕切弁及び前記第3仕切弁に対して前記第1流路と並列に接続され、前記第1仕切弁及び前記第3仕切弁を外部に連通する第2流路と、
前記第2流路に配置された第2遮断弁と、
前記第2流路の前記第1仕切弁及び前記第3仕切弁と前記第2遮断弁との間から分岐して前記第1流路の前記昇圧器よりも二酸化炭素の上流側となる位置で前記第1流路に合流する第1分岐流路と、
前記第1分岐流路に配置された第3遮断弁と、
前記第1流路の前記昇圧器と前記第1遮断弁の間となる位置から分岐して前記第2流路の前記第2遮断弁よりも二酸化炭素の下流となる位置に合流する第2分岐流路と、
前記第2分岐流路に配置された第4遮断弁と、を備え、
前記制御部は、
前記第1遮断弁、前記第2遮断弁、前記第3遮断弁、及び前記第4遮断弁を制御可能とされ、
前記第1ガス貯蔵部に二酸化炭素を充填する又は前記第1ガス貯蔵部から二酸化炭素を放出するときに前記第1仕切弁を開放し、
前記第2ガス貯蔵部に二酸化炭素を充填する又は前記第2ガス貯蔵部から二酸化炭素を放出するときに前記第3仕切弁を開放し、
前記第1ガス貯蔵部又は前記第2ガス貯蔵部に二酸化炭素を充填するときに前記第1遮断弁を開放して前記第2遮断弁、前記第3遮断弁、及び前記第4遮断弁を閉止するとともに前記昇圧器を駆動し、
前記第1ガス貯蔵部又は前記第2ガス貯蔵部から二酸化炭素を放出するときに前記第1遮断弁を閉止して前記第2遮断弁、前記第3遮断弁、及び前記第4遮断弁を開放するとともに前記昇圧器を駆動する請求項4に記載の燃料ガスの吸着貯蔵システム。
【請求項15】
前記第2仕切弁を介して前記第2ガス貯蔵部に燃料ガスを充填する場合において、
前記第2仕切弁を外部の燃料供給設備に連通する第3流路と、
前記第3流路に配置された第5遮断弁と、
前記第2仕切弁に対して前記第3流路と並列に接続され、前記第2仕切弁を燃料利用機器の燃料ガスの導入側に連通する第4流路と、
前記第4流路を遮断する第6遮断弁と、
前記第3流路の前記第5遮断弁と前記第2仕切弁の間となる位置に配置され前記第3流路内のガスの圧力又はガスの種類を検知するセンサと、を備え、
前記制御部は、
前記第5遮断弁と前記第6遮断弁を閉止した状態で前記第2仕切弁を一つずつ所定時間開放し、前記第2仕切弁の開放時に前記センサを介して前記圧力又は前記種類を検知する請求項4に記載の燃料ガスの吸着貯蔵システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ガスの吸着貯蔵システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、燃料ガス(天然ガス)を吸着・放出可能な吸着材が充填されたタンクを備え、当該タンクから供給された燃料ガスを燃料として駆動する車両において、燃料ガスが吸着材から放出される際に発生する吸熱反応により燃料ガスの放出能力が低下することを防止するため、エンジン用の冷却水を用いてタンクを加熱する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-146092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1等の従来の車両では、タンクは車両後方に配置され、エンジン及びラジエータは車両前方に配置されることが一般的である。よって、タンクを加熱する場合、冷却水の配管を車両前方から車両後方まで延伸させる必要があり、熱交換システムが複雑になるだけでなく、冷却水を含めたシステムの重量が増加するという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、簡易な熱交換を実現するとともにシステムの重量化を回避する燃料ガスの吸着貯蔵システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様における燃料ガスの吸着貯蔵システムは、二酸化炭素を吸着・放出可能な第1吸着材が充填された第1ガス貯蔵部と、燃料ガス及び二酸化炭素を貯蔵・放出可能な第2吸着材が充填され、燃料ガスの吸着・放出と、二酸化炭素の吸着・放出と、を交互に実行可能な第2ガス貯蔵部と、を含み、第1ガス貯蔵部と、第2ガス貯蔵部と、は熱的に互いに接続され、第2ガス貯蔵部は、複数配置されるとともに、燃料ガスの吸着・放出、及び二酸化炭素の吸着・放出を個別に実行可能である。
【発明の効果】
【0007】
上記態様であれば、燃料ガスを第2吸着材に吸着させると吸着熱(発熱)が発生するが、これが燃料ガスの吸着能力を低下させる。また、燃料ガスを第2吸着材から放出させると放出熱(吸熱)が発生するが、これが燃料ガスの放出能力を低下させる。一方、二酸化炭素を第1吸着材(第2吸着材)に吸着させると吸着熱(発熱)が発生し、二酸化炭素を第1吸着材(第2吸着材)から放出させると放出熱(吸熱)を発生させる。よって、最初に選択された第2ガス貯蔵部から燃料ガスを放出する際に第1ガス貯蔵部に二酸化炭素を充填することで、第2ガス貯蔵部で発生した放出熱と第1ガス貯蔵部で発生した吸着熱との熱交換が可能である。また次に選択された第2ガス貯蔵部から燃料ガスを放出する際に、燃料ガスの放出が完了した第2ガス貯蔵部に二酸化炭素を充填することで、燃料ガスを放出中の第2ガス貯蔵部で発生した放出熱と二酸化炭素を充填中の第2ガス貯蔵部で発生した吸着熱との熱交換が可能である。一方、最後に燃料ガスを放出した第2ガス貯蔵部に燃料ガスを充填する際に、次に燃料ガスを充填する第2ガス貯蔵部から二酸化炭素を放出することで、燃料ガスを充填中の第2ガス貯蔵部で発生した吸着熱と二酸化炭素を放出中の第2ガス貯蔵部で発生した放出熱との熱交換が可能である。また、最後に選択された第2ガス貯蔵部に燃料ガスを充填する際に、第1ガス貯蔵部から二酸化炭素を放出することで、最後に選択された第2ガス貯蔵部で発生した吸着熱と第1ガス貯蔵部で発生した放出熱との熱交換が可能である。ところで、第1ガス貯蔵部及び第2ガス貯蔵部に二酸化炭素を供給する流路が必要となるが、二酸化炭素が流れる流路は、冷却水が流れる流路よりも冷却水がない分軽量となる。以上より、簡易な熱交換を実現するとともにシステムの重量化を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施形態の燃料ガスの吸着貯蔵システムにおける燃料ガスの放出の動作を簡易に説明するための図である。
図2図2は、本実施形態の燃料ガスの吸着貯蔵システムにおける燃料ガスの充填の動作を簡易に説明するための図である。
図3図3は、本実施形態の燃料ガスの吸着貯蔵システムの主要構成を示すブロック図である。
図4図4は、本実施形態の燃料ガスの吸着貯蔵システムにおいて燃料ガスをガス貯蔵タンクから放出する際のフロー図である。
図5図5は、燃料ガス及び二酸化炭素の放出圧力と吸着材への充填量との関係を示すグラフである。
図6図6は、燃料ガスをガス貯蔵部から放出する際に発生する放出熱を外部から供給する場合のエネルギー収支であって、二酸化炭素の回収率を変数として二酸化炭素が充填中のガス貯蔵部から燃料ガスを放出中のガス貯蔵部に供給可能な熱量と車速に依存した関係を示すグラフと、二酸化炭素の吸着熱と昇圧器の消費電力との割合を示す円グラフである。
図7図7は、本実施形態の燃料ガスの吸着貯蔵システムにおいて燃料ガスをガス貯蔵タンクに充填する際のフロー図である。
図8図8は、燃料ガスを一つのガス貯蔵部に充填する際に当該ガス貯蔵部から取り出すべき熱量を二酸化炭素の回収率を変数としたときの二酸化炭素を放出する他のガス貯蔵部で発生する放出熱により賄う場合であって、燃料ガスの充填量、燃料ガスの充填時間、及び燃料ガスを充填するガス貯蔵部の温度の関係を示すグラフである。
図9A図9Aは、本実施形態の燃料ガスの吸着貯蔵システムにおけるガス貯蔵タンクの断面図である。
図9B図9Bは、本実施形態の燃料ガスの吸着貯蔵システムにおけるガス貯蔵タンクの断面図(変形例)である。
図10図10は、吸着材の構造を示す図である。
図11A図11Aは、吸着材の構造の変形例(合成前)を示す図である。
図11B図11Bは、吸着材の構造の変形例(合成後)を示す図である。
図12図12は、変形例の燃料ガスの吸着貯蔵システムにおける燃料ガスの放出の動作を簡易に説明するための図である。
図13図13は、ガス貯蔵タンクを複数の分割室に分割したときの第2ガス貯蔵部の占有率であって、分割室数及び第1ガス貯蔵部の個数を変化させた場合を示す図である。
図14図14は、比較例のガス貯蔵タンクにおける第2ガス貯蔵部の容積に対する本実施形態のガス貯蔵タンクにおける第2ガス貯蔵部の容積の増加の割合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
[本実施形態の概要]
図1は、本実施形態の燃料ガスの吸着貯蔵システム100における燃料ガスの放出の動作を簡易に説明するための図である。図2は、本実施形態の燃料ガスの吸着貯蔵システム100における燃料ガスの充填の動作を簡易に説明するための図である。
【0011】
本実施形態の燃料ガスの吸着貯蔵システム100(以後、吸着貯蔵システム100と称す。)を構成するガス貯蔵タンク1は、複数(個数は任意)に分割された分割室を備え、当該分割室に吸着材11(図9A図9B参照)が充填されることで複数のガス貯蔵部ST1乃至ガス貯蔵部ST9を形成している。
【0012】
ガス貯蔵部ST1は二酸化炭素(CO2)を吸着・放出可能な構成(図3図9A図9B参照)となっている。ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST9は、二酸化炭素を吸着・放出し、また燃料ガス(天然ガス)を吸着・放出可能な構成(図3図9A図9B参照)となっている。
【0013】
ここで、ガス貯蔵部ST1乃至ガス貯蔵部ST9は、互いに隣接するものの間で分割室を形成する壁面を通じて熱交換が可能である(図9A図9B参照)。さらに、ガス貯蔵部ST1乃至ガス貯蔵部ST9内には冷媒が循環しており(図3参照)、ガス貯蔵部ST1乃至ガス貯蔵部ST9の間で冷媒を介して熱交換が可能となっている。
【0014】
なお、後述のように、二酸化炭素及び燃料ガスはそれぞれ所定の圧力でガス貯蔵タンク1に供給されるものとする。
【0015】
図1を用いて、ガス貯蔵タンク1から燃料ガスを放出する場合について説明する。図1(a)に示す初期状態において、ガス貯蔵部ST1には二酸化炭素(C)は充填されておらず、ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST9には燃料ガス(F)が充填されているものとする。
【0016】
例えば、ガス貯蔵部ST2の吸着材11から燃料ガスを放出(図1において「F↑」と表記)させると、ガス貯蔵部ST2の吸着材11において放出熱(吸熱)が発生し、外部との熱交換が無い場合はガス貯蔵部ST2の温度が低下して燃料ガスの放出効率が低下する。
【0017】
よって、ガス貯蔵部ST2から燃料ガスを放出する際は、燃料ガスが吸着材11から放出する際に発生する放出熱を相殺するための熱量を外部から供給する必要がある。
【0018】
そこで、本実施形態では、図1(b)に示すように、ガス貯蔵部ST2から燃料ガスを放出するとともに、ガス貯蔵部ST1に二酸化炭素を充填(図1において「C↓」と表記)する。
【0019】
ところで、ガス貯蔵部ST1に二酸化炭素を充填すると、ガス貯蔵部ST1の吸着材11において吸着熱(発熱)が発生し、外部との熱交換が無い場合はガス貯蔵部ST1の温度が上昇して二酸化炭素の吸着効率が低下する。
【0020】
よって、ガス貯蔵部ST1に二酸化炭素を充填する際は、ガス貯蔵部ST1の吸着材11で発生する吸着熱を外部から取り出す必要がある。しかし、ガス貯蔵部ST1とガス貯蔵部ST2は熱交換が可能であり、当該吸着熱をガス貯蔵部ST2の放出熱により取り出すことができ、同時に当該放出熱を相殺するための熱量を当該吸着熱により賄うことができる。
【0021】
従って、ガス貯蔵部ST2で発生した放出熱をガス貯蔵部ST1で発生した吸着熱により相殺することができ、ガス貯蔵部ST2からの燃料ガスの放出、及びガス貯蔵部ST1への二酸化炭素の充填をそれぞれ効率的に行うことができる。図1(c)では、ガス貯蔵部ST2からの燃料ガスの放出の完了とほぼ同時にガス貯蔵部ST1への二酸化炭素の充填が完了している。
【0022】
図1(d)に示すように、次に、ガス貯蔵部ST3から燃料ガスを放出する場合は、燃料ガスを放出したガス貯蔵部ST2に二酸化炭素を充填する。これにより、図1(e)に示すように、ガス貯蔵部ST3からの燃料ガスの放出の完了とほぼ同時にガス貯蔵部ST2への二酸化炭素の充填を完了することができる。
【0023】
上記により、本実施形態では、ガス貯蔵部ST(k+1)(k=1、2、3、・・・8)から燃料ガスを放出する場合は、燃料ガスを放出したガス貯蔵部STkに二酸化炭素を充填する、という制御を順に実行する。
【0024】
図1(f)に示すように、燃料ガスを放出したガス貯蔵部ST8に二酸化炭素を充填しつつガス貯蔵部ST9から燃料ガスを放出する。これにより、図1(g)に示すように、ガス貯蔵部ST9からの燃料ガスの放出の完了とほぼ同時にガス貯蔵部ST8への二酸化炭素の充填を完了することができる。
【0025】
以上より、ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST9において燃料ガスを効率的に放出することができる。
【0026】
図2により、ガス貯蔵タンク1に燃料ガスを充填する場合について説明する。図2(a)に示す初期状態において、ガス貯蔵部ST9には燃料ガス(F)及び二酸化炭素(C)は充填されておらず、ガス貯蔵部ST1乃至ガス貯蔵部ST8には二酸化炭素(C)が充填されているものとする。
【0027】
例えば、ガス貯蔵部ST9に燃料ガスを充填(図2において「F↓」と表記)させると、ガス貯蔵部ST9の吸着材11において吸着熱(発熱)が発生し、外部との熱交換が無い場合はガス貯蔵部ST9の温度が上昇して燃料ガスの吸着効率が低下する。
【0028】
従って、ガス貯蔵部ST9に燃料ガスを充填する際は、燃料ガスが吸着材11に吸着する際に発生する吸着熱を外部から取り出す必要がある。
【0029】
そこで、本実施形態では、図2(b)に示すように、ガス貯蔵部ST9に燃料ガスを充填するとともに、次に燃料ガスを充填する例えばガス貯蔵部ST8の吸着材11から二酸化炭素を放出(図2において「C↑」と表記)させる。
【0030】
ところで、ガス貯蔵部ST8から二酸化炭素を放出させると、ガス貯蔵部ST8の吸着材11において放出熱(吸熱)が発生し、外部との熱交換が無い場合はガス貯蔵部ST9の温度が低下して二酸化炭素の放出効率が低下する。
【0031】
よって、ガス貯蔵部ST8から二酸化炭素を放出する際は、ガス貯蔵部ST8の吸着材11で発生する放出熱を相殺するための熱量を外部から供給する必要がある。しかし、ガス貯蔵部ST8はガス貯蔵部ST9と熱交換が可能であり、当該放出熱はガス貯蔵部ST9で発生した吸着熱により賄うことができ、同時に当該吸着熱を当該放出熱により取り出すことができる。
【0032】
従って、ガス貯蔵部ST9で発生した吸着熱をガス貯蔵部ST8で発生した放出熱により相殺することができ、ガス貯蔵部ST9への燃料ガスを充填、及びガス貯蔵部ST8からの二酸化炭素の放出をそれぞれ効率的に行うことができる。図2(c)では、ガス貯蔵部ST9への燃料ガスの充填の完了とほぼ同時にガス貯蔵部ST8からの二酸化炭素の放出が完了している。
【0033】
図2(d)に示すように、次に、ガス貯蔵部ST8に燃料ガスを充填する場合は、ガス貯蔵部ST7から二酸化炭素を放出する。これにより、図2(e)に示すように、ガス貯蔵部ST8への燃料ガスの充填の完了とほぼ同時にガス貯蔵部ST7からの二酸化炭素の放出が完了している。
【0034】
上記により、本実施形態では、ガス貯蔵部ST(k+1)(k=8、7、6、・・・1)に燃料ガスを充填する場合は、ガス貯蔵部ST(k)から二酸化炭素を放出する、という制御を順に実行する。
【0035】
図2(f)に示すように、ガス貯蔵部ST2に燃料ガスを充填しつつガス貯蔵部ST1から二酸化炭素を放出する。これにより、図2(g)に示すように、ガス貯蔵部ST2への燃料ガスの充填の完了とほぼ同時にガス貯蔵部ST1からの二酸化炭素の放出が完了している。
【0036】
以上より、ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST9において燃料ガスを効率的に充填することができる。
【0037】
本実施形態の吸着貯蔵システム100は、車両に搭載され、車両に付属する燃料利用機器9(図3参照)に燃料ガスを供給する。燃料利用機器9は、燃料ガスを消費して二酸化炭素を包含する排ガスを排出する。
【0038】
そこで、燃料ガスを充填・放出する際に必要となる二酸化炭素を燃料利用機器9の排気ガスから回収した二酸化炭素で賄うことができるか否か検討する。
【0039】
ガス貯蔵部ST1に用いる吸着材11(第1吸着材)と、ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST9に用いる吸着材11(第2吸着材)は同じものを適用できる。
【0040】
吸着材11としては、例えば金属有機構造体(Metal Organic Frameworks,MOF、規則性多孔質金属錯体)や、多孔性配位高分子(Porous Coordination Polymer,PCP)、活性炭、ゼオライト等のガス吸着材が適用される。なお、吸着材11の構造については後述する。
【0041】
二酸化炭素の1モル当たりの吸着熱/放出熱が、メタン等の天然ガスの吸着熱/放出熱に比して高くなる吸着材11としては、MOF、活性炭、ゼオライト等の材料が上げられる。Basolite C-300(登録商標)等の一般的に入手可能なMOFの多くは、メタン及び二酸化炭素の双方に高い吸着容量を有し、二酸化炭素の吸着熱も高い特性を有しており、システム全体の小型化を可能とする点からのその適用が好ましい。
【0042】
例えば、吸着材11としてMOFを適用した場合、メタンの吸着熱/放出熱は12.5[kJ/mol]であり、二酸化炭素の吸着熱/放出熱は15[kJ/mol]である。また、1モルのメタンを燃焼すると1モルの二酸化炭素が生成される。従って、1モルのメタンの吸着熱/放出熱を1モルの二酸化炭素の放出熱/吸着熱により賄うことができる。また、第1吸着材と第2吸着材とを同一材料(例えばMOF)とすることで、コストを抑制することができる。
【0043】
燃料ガス(天然ガス)は、その大部分がメタンにより構成されるが、その他エタン、プロパン、ブタンなどの炭化水素もわずかに含まれる。例えば、ブタン(nブタン)の吸着熱は、36[kJ/mol]であるが、ブタンを燃焼すると4モルの二酸化炭素が生成される。従って、1モルのブタンの吸着熱/放出熱(36[kJ/mol])を、4モルの二酸化炭素の放出熱/吸着熱(15×4=60[kJ/mol])により賄うことができる。なお、上記の二酸化炭素、メタン、ブタン(nブタン)の吸着熱/放出熱の値は、非特許文献("Heats of Adsorption for Seven Gases in Three Metal - Organic Frameworks: Systematic Comparison of Experiment and Simulation", David Farrusseng etc, Langmuir 2009, 25(13), 7383-7388, Published on Web 06/04/2009)から引用した。
【0044】
メタン及びブタンの吸着熱/放出熱を考慮すると、エタンの吸着熱/放出熱は約20[kJ/mol]、プロパンの吸着熱/放出熱は約28[kJ/mol]となる。また、1モルのエタンを燃焼すると2モルの二酸化炭素が生成され、1モルのプロパンを燃焼すると3モルの二酸化炭素が生成される。
【0045】
従って、1モルのエタンの吸着熱/放出熱(約20[kJ/mol])を、2モルの二酸化炭素の放出熱/吸着熱(15×2=30[kJ/mol])により賄うことができ、1モルのプロパンの吸着熱/放出熱(約28[kJ/mol])を、3モルの二酸化炭素の放出熱/吸着熱(15×3=45[kJ/mol])により賄うことができる。
【0046】
燃料利用機器9としては燃料電池、エンジンが適用される。燃料電池では燃料ガス(天然ガス)を改質ガスに変換し、これを発電反応に用いることで二酸化炭素と水蒸気との混合ガスが排出される。よって、排気ガスから二酸化炭素を回収する構成としては、例えば当該混合ガスを凝集器に供給し水蒸気を取り除くことで二酸化炭素を回収する構成があげられる。特に、燃料電池では高い回収率で二酸化炭素を回収することができるので、ガス貯蔵タンク1に効率的に二酸化炭素を供給することができる。
【0047】
一方、エンジンでは、燃料ガス(天然ガス)を直接燃焼して二酸化炭素を含む排気ガスが排出される。よって、排気ガスから二酸化炭素を回収する構成としては、例えばリーン吸収液、アルカリ金属炭酸塩の溶液等の捕捉剤を備えた装置に排気ガスを供給し排気ガスを捕捉剤に吹き付けて二酸化炭素を吸収させ、その後当該装置において捕捉剤を加熱することで二酸化炭素を回収する構成が挙げられる。なお、捕捉剤としては、冷媒等として使用されるハイドロフルオロエーテル(HFE)(例えば、US9267415B2参照)も適用できる。また、排気ガスから二酸化炭素を回収する他の構成としては、二酸化炭素分離用のFTポリマー(例えば、特開2015-536814号公報参照)に排気ガスを供給して二酸化炭素を排気ガスから分離する構成も適用できる。
【0048】
前記のようにメタンの吸着熱/放出熱は12.5[kJ/mol]であり、二酸化炭素の吸着熱/放出熱は15[kJ/mol]である。天然ガス中のメタンの割合は90[%]程度あるが、すべてメタンと仮定しても二酸化炭素の回収率が(12.5[kJ/mol])/(15[kJ/mol])×100=83.3[%]以上であれば、メタンの吸着熱/放出熱を二酸化炭素の放出熱/吸着熱により賄うことができる。
【0049】
なお、天然ガス中のメタンと比べて、より低い圧力でメタンと同モル数の二酸化炭素の吸着容量を実現できるように第1吸着材と第2吸着材の材料を適宜選択することも好ましい。これによっても、昇圧器321(図3)の負担(消費電力)を削減できる。
【0050】
[本実施形態の主要構成]
図3は、本実施形態の燃料ガスの吸着貯蔵システム100の主要構成を示すブロック図である。本実施形態の吸着貯蔵システム100は、前記のように、燃料ガス(天然ガス)を燃料として駆動する車両に搭載される。車両には燃料利用機器9(燃料電池、エンジン)、バッテリ(不図示)、モータ(不図示)が搭載される。燃料利用機器9は発電をしてバッテリに充電するが、エンジンである場合は、燃料ガスを燃焼して駆動力を発生させ、当該駆動力を駆動輪(駆動軸)に伝達することもできる。
【0051】
本実施形態の吸着貯蔵システム100は、ガス貯蔵タンク1を備えている。ガス貯蔵タンク1は、ガス貯蔵部ST1乃至ガス貯蔵部ST4を備えている。
【0052】
ガス貯蔵部ST1乃至ST4は、それぞれ吸着材11が充填され且つ独立して気密を保つ構成を有している。
【0053】
ガス貯蔵部ST1(第1ガス貯蔵部)には、バルブV-1C(第1仕切弁)が接続されている。ガス貯蔵部ST1はバルブV-1Cを介して二酸化炭素の充填・放出を行うことができる。
【0054】
ガス貯蔵部ST2(第2ガス貯蔵部)には、バルブV-2C(第3仕切弁)及びバルブV-2F(第2仕切弁)が接続されている。ガス貯蔵部ST2はバルブV-2Cを介して二酸化炭素の充填・放出を行うことができ、バルブV-2Fを介して燃料ガスの充填・放出を行うことができる。
【0055】
ガス貯蔵部ST3(第2ガス貯蔵部)には、バルブV-3C(第3仕切弁)及びバルブV-3F(第2仕切弁)が接続されている。ガス貯蔵部ST3はバルブV-3Cを介して二酸化炭素の充填・放出を行うことができ、バルブV-3Fを介して燃料ガスの充填・放出を行うことができる。
【0056】
ガス貯蔵部ST4(第2ガス貯蔵部)には、バルブV-4C(第3仕切弁)及びバルブV-4F(第2仕切弁)が接続されている。ガス貯蔵部ST4はバルブV-4Cを介して二酸化炭素の充填・放出を行うことができ、バルブV-4Fを介して燃料ガスの充填・放出を行うことができる。
【0057】
バルブV-2F、バルブV-3F、バルブV-4Fは、バスライン21(第3流路)により並列に接続されている。
【0058】
バスライン21の一端は、燃料ガスを蓄える外部供給設備とガス貯蔵タンク1側とを連通する燃料供給流路22(第3流路)に接続され、燃料供給流路22には燃料ガスの上流側から順に調圧弁PR1、バルブVF1(第5遮断弁)が配置されている。
【0059】
調圧弁PR1は、外部供給設備が供給する燃料ガスの圧力(例えば20[Mpa])を所定の圧力(例えば3.5[Mpa])に調圧してガス貯蔵タンク1側に供給する。
【0060】
バスライン21の他端は、燃料利用機器9の燃料ガスの導入側とガス貯蔵タンク1側とを連通する燃料放出流路23(第4流路)に接続され、燃料放出流路23には燃料ガスの上流側からバルブVF2(第6遮断弁)、調圧弁PR2が配置されている。
【0061】
調圧弁PR2は、ガス貯蔵タンク1から放出された燃料ガスの圧力(例えば0.2-3.5[Mpa])を所定の圧力(例えば0.2[Mpa])に調圧して燃料利用機器9の燃料ガスの導入側に供給する。
【0062】
バルブV-1C、バルブV-2C、バルブV-3C、バルブV-4Cは、バスライン31(第1流路)により並列に接続されている。
【0063】
バスライン31の一端は、燃料利用機器9(分離装置)の二酸化炭素の排出側とガス貯蔵タンク1側とを連通する回収流路32(第1流路)に接続され、回収流路32には二酸化炭素の上流側から順にバルブVC1、昇圧器321、バルブVC2(第1遮断弁)が配置されている。
【0064】
昇圧器321は、燃料利用機器9(分離装置)の二酸化炭素の排出側から供給された二酸化炭素を所定の圧力(例えば、0.3[Mpa])に昇圧してガス貯蔵タンク1側に供給する。
【0065】
バスライン31の他端は、外部とガス貯蔵タンク1側とを連通する排出流路33(第2流路)が接続され、排出流路33にはバルブVC3(第2遮断弁)が配置されている。
【0066】
バスライン31の中央部からは第1分岐流路34が延出し、第1分岐流路34は回収流路32のバルブVC1と昇圧器321との間となる位置で回収流路32に接続している。また第1分岐流路34にはバルブVC4が配置されている。
【0067】
回収流路32の昇圧器321とバルブVC2との間からは第2分岐流路35が延出し、第2分岐流路35は、排出流路33のバルブVC3よりも二酸化炭素の下流側となる位置で排出流路33に接続される、或いは端部が外部に開放している。第2分岐流路35にはバルブVC5が配置されている。
【0068】
ガス貯蔵タンク1には、冷媒流路4が流通しており、冷媒流路4は、ガス貯蔵部ST1乃至ガス貯蔵部ST4を、ガス貯蔵部ST1、ガス貯蔵部ST2、ガス貯蔵部ST3、ガス貯蔵部ST4の順に直列接続するように配置されている。
【0069】
冷媒流路4には、冷媒(水、又はオイル)を蓄えるタンク41、冷媒を循環させるポンプ42、冷媒を加熱するヒータ43が配置されている。ポンプ42によりタンク41から吸引された冷媒は、ガス貯蔵部ST1、ガス貯蔵部ST2、ガス貯蔵部ST3、ガス貯蔵部ST4を回り、タンク41に戻される。また、冷媒は、ガス貯蔵部ST1乃至ガス貯蔵部ST4と熱交換を行う。すなわち、ガス貯蔵部ST1乃至ガス貯蔵部ST4は冷媒を介して互いに熱交換が可能となっている。
【0070】
圧力センサP1は、バスライン21内の燃料ガスの圧力を検知する。
【0071】
圧力センサP2は、バスライン31内の二酸化炭素の圧力を検知する。
【0072】
温度センサT1は、冷媒流路4のガス貯蔵部ST1とガス貯蔵部ST2の間となる位置において冷媒の温度を検知する。
【0073】
温度センサT2は、冷媒流路4のガス貯蔵部ST4よりも下流となる位置において冷媒の温度を検知する。
【0074】
制御部5は、例えば、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)から構成されるコンピュータである。制御部5は、本実施形態の燃料ガスの吸着貯蔵システム100を構成し、システムを実行するプログラムを備えた構成要素である。また、制御部5は吸着貯蔵システム100を構成する構成要素の制御が可能であるとともに、燃料利用機器9のオン・オフ及びその出力制御も可能であり、また車両全体を制御するECU等からの指令により動作することもできる。
【0075】
[燃料ガス放出時の制御フロー]
図4は、本実施形態の燃料ガスの吸着貯蔵システム100において燃料ガスをガス貯蔵タンク1から放出する際のフロー図である。
【0076】
初期状態において、全バルブは閉止し、昇圧器321、ポンプ42も停止している。また、ガス貯蔵部ST1には二酸化炭素は充填されておらず、ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4には燃料ガスが充填されている。
【0077】
図4(及び後述の図7)において、バルブV-1C乃至バルブV-4Cは、パラメータm(整数)を用いてバルブV-mCと表記し、バルブV-2F乃至バルブV-4Fも、パラメータkを用いてバルブV-(k+1)Cと表記し、パラメータm及びパラメータkにより各バルブを選択するようにしている。
【0078】
これにより、パラメータmを用いて、二酸化炭素が充填されるガス貯蔵部STmと、パラメータkを用いて燃料ガスを放出するガス貯蔵部ST(k+1)を選択できる。なお、ガス貯蔵部STmと、ガス貯蔵部ST(k+1)の数値が一致する場合、例えばガス貯蔵部STm(m=1)とガス貯蔵部ST(k+1)(k=1)の場合は、同じガス貯蔵部ST2を指すものとする。
【0079】
なお、パラメータm及びパラメータkは「1」を初期値とするが、後述の処理によりインクリメントされ、最終値「3」まで増加する。又は、パラメータm及びパラメータkを「1」、「3」、「2」という順番で選択することも可能である。
【0080】
ステップS101において、制御部5は、バルブVF2を開放する。ステップS102において、制御部5は、バルブV-(k+1)Fを開放する。
【0081】
パラメータkが初期値「1」のとき、制御部5はバルブV-2Fを開放する。これにより、ガス貯蔵部ST2の吸着材11から燃料ガスが放出し、燃料ガスは、バルブVF2及び調圧弁PR2を介して燃料利用機器9に供給される。このとき、ガス貯蔵部ST2の吸着材11からの燃料ガスの放出により当該吸着材11には放出熱が発生する。
【0082】
ステップS103において、制御部5は、圧力センサP1の圧力が所定の目標圧力P1t(例えば、0.2[Mpa])以上であるか否かを判断し、YESであればステップS104に移行し、NOであればステップS120に移行する。
【0083】
ステップS104において、制御部5は、燃料利用機器9を起動する。これにより燃料利用機器9は供給された燃料ガスを消費して二酸化炭素を包含する排ガスを排出する。
【0084】
ステップS105において、制御部5は、バルブVC1及びバルブVC2を開放する。ステップS106において、制御部5は、バルブV-mCを開放する。パラメータmが初期値「1」のとき、制御部5は、バルブV-1Cを開放する。
【0085】
ステップS107において、制御部5は昇圧器321を起動する。これにより、燃料利用機器9から回収した二酸化炭素が昇圧器321で昇圧されてバルブV-1Cを経由してガス貯蔵部ST1に供給され吸着材11が二酸化炭素を吸着することでガス貯蔵部ST1に充填させる。このときガス貯蔵部ST1の吸着材11は二酸化炭素の吸着により吸着熱(発熱)を発生させる。
【0086】
ステップS108において、制御部5は、ポンプ42を所定の出力で起動する。これにより、冷媒が冷媒流路4を循環し、ガス貯蔵部ST1とガス貯蔵部ST2との間で冷媒を介した熱交換が可能となる。ガス貯蔵部ST1とガス貯蔵部ST2とが互いに接触している場合は、冷媒に関わらずガス貯蔵部ST1とガス貯蔵部ST2との間で両者を仕切る壁面を介して熱交換が可能となる。ここでは、ガス貯蔵部ST2で発生した放出熱とガス貯蔵部ST1で発生した吸着熱とを相殺する熱交換が冷媒及び壁面を介して行われる。
【0087】
ステップS109において、制御部5は、パラメータkが「3」(最終値)であるか否かを判断し、YESであればステップS111に移行し、NOであればステップS110に移行する。
【0088】
ステップS110において、制御部5は、バルブV-mCを閉止し、バルブV-kFを開放し、短時間(例えば1[s])経過後にバルブV-kFを閉止し、バルブV-mCを開放する制御を実行する。燃料ガスの放出が完了したのち二酸化炭素が充填されているガス貯蔵部STmでは、二酸化炭素が充填されることで吸着材11が局所的に温度上昇して燃料ガスが吸着材11から再び放出され始める。
【0089】
このように、ガス貯蔵部STmにおいてバルブV-mCを一時的に閉止し、バルブV-kFを開放することで、ガス貯蔵部STmにおいて気化した燃料ガスをバルブV-kFから放出することができ、その分、二酸化炭素の吸着量を増加させることができる。
【0090】
ステップS111において、制御部5は、温度センサT1が検知する温度[T1]、及び温度センサT2が検知する温度[T2]が、それぞれ目標温度Tt(例えば20[℃])とほぼ一致するか否か判断し、YESであれば、ステップS112に移行し、NOであればステップS123に移行する。
【0091】
ステップS112において、制御部5は、燃料利用機器9の駆動を継続するか否か判断し、YESであれば、ステップS103に移行し、NOであればステップS113に移行する。ここで、燃料利用機器9(燃料電池、エンジン)の駆動を停止する場合は、例えばバッテリのSOC(充電率)が所定の上限値に到達して発電を停止させる場合がある。また車両がアイドリングストップするとき、又は完全停止させるときに燃料利用機器9(エンジン)を停止させる場合がある。
【0092】
ステップS113において、制御部5は、燃料利用機器9を停止する。これにより燃料利用機器9において燃焼ガスの消費が停止し、二酸化炭素を包含する排ガスの放出も停止する。
【0093】
ステップS114において、制御部5は、バルブV-(k+1)Fを閉止する。ステップS115において、制御部5はバルブVF2を閉止する。これにより、燃料利用機器9への燃料ガスの供給も停止する。
【0094】
ステップS116において、制御部5は、昇圧器321を停止する。ステップS117において、制御部5は、バルブVC1及びバルブVC2を閉止する。
【0095】
ステップS118において、制御部5は、パラメータkが「3」(最終値)の場合において、ヒータ43を停止し、ステップS119において、制御部5はポンプ42を停止する。
【0096】
ステップS120において、制御部5は、パラメータkが「3」(最終値)であるか否かを判断し、YESであればステップS121に移行し、NOであればステップS122に移行する。
【0097】
ステップS121において、制御部5は、ガス貯蔵タンク内の燃料が不足したと判断してFuelランプ(警告表示)を点灯する。
【0098】
ステップS122において、制御部5は、バルブV-(k+1)Fを閉止し、パラメータkに「1」を加算してステップS102に移行する。例えば、パラメータkが「1」であった場合は、パラメータkに1が加算されて「2」となり、ステップS102においてパラメータkは「2」が適用される。
【0099】
ステップS123において、制御部5は、圧力センサP2が検知する圧力[P2]が所定の目標圧力P2t以下であるか否か判断し、YESであればステップS107に移行し、NOであれば、ステップS124に移行する。
【0100】
ステップS124において、制御部5は、パラメータmが「3」(最終値)であるか否かを判断し、YESであればステップS126に移行し、NOであればステップS125に移行する。
【0101】
ステップS125において、制御部5は、バルブV-mCを閉止し、パラメータmに「1」を加算してステップS106に移行する。例えば、パラメータmが「1」の場合、制御部5は、バルブV-1Cを閉止し、ステップS106においてバルブV-2Cを開放する。
【0102】
ステップS126において、制御部5は、二酸化炭素が供給されているガス貯蔵部STm(m=3)において二酸化炭素の吸着材11への吸着量が低下し、燃料ガスを放出しているガス貯蔵部ST4(k=3)の吸着材11で発生する吸着熱を相殺する熱量を賄えないと判断してヒータ43をONにし、冷媒を例えば40[℃]となるように加熱する。
【0103】
上記フローにおいて、ステップS111とステップS123の処理を行うことにより、ステップS114の処理とステップS125の処理はほぼ同時に実行される。
【0104】
また、ステップS124に関して、パラメータmが「3」(最終値)ではない(例えば「1」)場合は、ヒータ43を加熱してガス貯蔵部ST2から引き続き燃料ガスの放出を促すよりは、次に燃料ガスを放出するガス貯蔵部ST3から燃料ガスを放出し、最後に燃料ガスを放出したガス貯蔵部ST2に二酸化炭素を充填した方が効率的となる。従って、ステップS124でNOの場合はステップS125を実行し、ステップS106に移行するフローを適用している。
【0105】
[燃料ガスの放出圧力と充填量]
図5は、燃料ガス及び二酸化炭素の放出圧力と吸着材11への充填量との関係を示すグラフである。例えばガス貯蔵部ST4から燃料ガスを放出し、且つガス貯蔵部ST3に二酸化炭素を充填する場合であって、ガス貯蔵部ST4とガス貯蔵部ST3で熱交換が行われ、双方の温度が室温(20[℃])を維持している場合を考える。
【0106】
この場合、ガス貯蔵部ST4内の燃料ガス(天然ガス)は初期的には目標圧力P1t(圧力センサP1が検知する圧力(P1)とガス貯蔵部ST4内の圧力に等しいと考える)以上の圧力を有し、図5に示すように、ガス貯蔵部ST4内の燃料ガスの圧力と充填量は、図5の座標(圧力、充填量)において、[20[℃]_FUEL(CH4)]のラインに従って座標の原点に向かって移動する。
【0107】
また、ガス貯蔵部ST3の二酸化炭素は初期的には大気圧(AP:101.3kPa)とほぼ同じ圧力を有するが、ガス貯蔵部ST3に二酸化炭素が充填されることでガス貯蔵部ST3内の二酸化炭素の圧力と充填量は、図5の座標(圧力、充填量)において、[20[℃]_CO2]のラインに従って座標の原点から遠ざかる方向に移動する特性を有する。
【0108】
ここで、図4のステップS124がYESであってステップS126を実行しない場合、ガス貯蔵部ST2内の燃料ガスの圧力が図5に示すP1tよりも小さくなり得る。この場合、燃料利用機器9において定格運転は実行できなくなるが、定格運転よりも効率の低い運転は引き続き実行できる。しかし、ガス貯蔵部ST4内の燃料ガスの圧力と充填量が最終的に[20[℃]_FUEL(CH4)]のライン上の座標(AP、A2)まで低下すると、これ以燃料ガスを取り出すことはできず、燃料利用機器9への供給も不可能となる。
【0109】
一方、図4のステップS124がYESであってステップS126を実行し、例えばガス貯蔵部ST4(燃料ガス)の温度が40度になったとすると、ガス貯蔵部ST4内の燃料ガスはその圧力を維持しつつ放出され充填量を下げていく。すなわち、ガス貯蔵部ST4内の燃料ガスの圧力と充填量は、[20[℃]_FUEL(CH4)]のライン上の座標(P1t、A3)から縦軸方向に下がり、最終的に[40[℃]_FUEL(CH4)]のライン上の座標(P1t、A1)にまで移動する。従って、その移動する間において燃料ガスをP1tの圧力で放出し、燃料利用機器9において引き続き定格運転が可能となる。
【0110】
燃料ガスの圧力及び充填量が座標(P1t、A1)に到達すると車両は走行(燃料利用機器9の運転)を停止する。その際バルブV-4F、バルブVF2を閉止しヒータ43も停止するので、燃料ガスの温度は室温(20[℃])に戻るとともに、例えば燃料ガスの圧力も大気圧以下の値(P1n<AP)となる。すなわち、ガス貯蔵部ST4内の燃料ガスの圧力と充填量は、[20[℃]_FUEL(CH4)]のライン上の座標(P1n、A1)にまで移動する。
【0111】
従って、図4のステップS126を実行することで、ステップS126を実行しない場合において燃料利用機器9の定格運転が可能な燃料ガスの充填率の最小値A3、及びステップS126を実行しない場合において燃料ガスの定格流量の供給が可能な燃料ガスの充填率の最小値A2よりも低い充填量A1になるまで燃料ガスを定格運転に使用することができ、これにより燃料ガスの使用量を増加させ、車両の走行距離を延ばすことができる。
【0112】
[燃料ガス放出時のエネルギー収支]
図6は、燃料ガスをガス貯蔵部ST(k+1)から放出する際に発生する放出熱を外部から供給する場合のエネルギー収支であって、二酸化炭素の回収率を変数として二酸化炭素を充填中のガス貯蔵部STmから燃料ガスを放出中のガス貯蔵部ST(k+1)に供給可能な熱量と車速に依存した関係を示すグラフと、二酸化炭素の吸着熱と昇圧器321の消費電力との割合を示す円グラフである。
【0113】
前記のように、二酸化炭素の回収率が近似的に=83.3[%]以上であれば、メタンの吸着熱/放出熱を二酸化炭素の放出熱/吸着熱により賄うことができる。よって、熱収支という観点でいえば、二酸化炭素の回収率が前記の値以上であれば、例えば、ガス貯蔵部ST4から燃料ガスを放出する際にガス貯蔵部ST4で発生する放出熱をガス貯蔵部ST3に二酸化炭素に充填する際にガス貯蔵部ST3で発生する吸着熱により賄うことが可能である。
【0114】
しかし、消費電力を含むエネルギー収支という観点でいえば、例えば二酸化炭素をガス貯蔵部ST3に充填する際に、昇圧器321による二酸化炭素の昇圧(昇圧器321の消費電力)とポンプ42の出力(消費電力)を除いて考える必要がある。
【0115】
また、燃料ガスの放出中は、車両が走行しているが、車速が上がると、燃料ガスの流量、すなわち、燃料ガスが吸着材11から放出する際の放出熱が増加する。これに対応して昇圧器321の消費電力が増加し、二酸化炭素が吸着材11に吸着する際の吸着熱が増加する。
【0116】
また、車速が上がると、ガス貯蔵部ST4に供給すべき熱量(放出熱)が増加するのに伴いガス貯蔵部ST3で発生する吸着熱も増加するがガス貯蔵部ST3の吸着材11に対する二酸化炭素の吸着効率の低下を抑制するためにガス貯蔵部ST3から取り出すべき熱量も増加する。このため、双方の熱バランスをとる(ガス貯蔵部ST4の温度とガス貯蔵部ST3の温度を近づける)必要があり、冷媒の流量すなわちポンプ42の出力(消費電力)が増加する。
【0117】
以上より、燃料ガスをガス貯蔵部ST4から放出し、且つ二酸化炭素をガス貯蔵部ST3に充填する際のエネルギー収支を計算すると以下のようになる。なお、ポンプ42の消費電力は昇圧器321の消費電力よりも十分小さいので、図6ではポンプ42の影響を無視している。
【0118】
図6に示すように、エネルギー収支を示す線は。車速が増加するほどマイナス方向に増加している。α=0の線は、二酸化炭素の吸着熱を全く利用しない場合のエネルギー収支を示すものであり、例えば車速が180km/hの位置では-567[W]である。しかし、この場合は昇圧器321を使用しないことと同義であり、昇圧器321の消費電力をゼロとすることができる。また、この場合、ガス貯蔵部ST4に供給すべき熱量を全てヒータ43(図3)で賄う場合は、ヒータ43が567[W]消費することになる。
【0119】
例えば、二酸化炭素の回収率α=0.5であって時速180km/hにおけるエネルギー収支は-391[W]であり、これにより、ガス貯蔵部ST4に供給できる正味の熱量は-391-(-567)=176[W]と算出される。一方、昇圧器321の消費電力は164[W]と算出される。よって、図6の円グラフ(中央)に示すように、昇圧器321の消費電力(Comp)よりもガス貯蔵部ST4に供給する正味の熱量(Heat)の方が上回っている。
【0120】
また、この場合、ガス貯蔵部ST4に供給すべき熱量のうち、ヒータ43(図3)が賄う分は391[W]であり、全てヒータ43が賄う場合よりも((567-391)/567)×100=31[%]削減できる。
【0121】
例えば、二酸化炭素の回収率α=0.9であって時速180km/hにおけるエネルギー収支は-250[W]であり、これにより、ガス貯蔵部ST4に供給できる正味の熱量は-250-(-567)=317[W]と算出される。一方、昇圧器321の消費電力は295[W]と算出される。よって、図6の円グラフ(右)に示すように、昇圧器321の消費電力(Comp)よりもガス貯蔵部ST4に供給する正味の熱量(Heat)の方が上回っている。
【0122】
また、この場合、ガス貯蔵部ST4に供給すべき熱量のうち、ヒータ43が賄う分は391[W]であり、全てヒータ43が賄う場合よりも((567-250)/567)×100=56[%]削減できる。
【0123】
例えば、二酸化炭素の回収率α=0であって時速20km/hにおけるエネルギー収支は-63[W]である。また二酸化炭素の回収率α=0.5であって時速20km/hにおけるエネルギー収支は-43[W]である。これにより、ガス貯蔵部ST4に供給できる正味の熱量は-43-(-63)=20[W]と算出される。一方、昇圧器321の消費電力は18[W]と算出される。よって、図6の円グラフ(左)に示すように、昇圧器321の消費電力(Comp)よりもガス貯蔵部ST4に供給する正味の熱量(Heat)の方が上回っている。
【0124】
また、この場合、ガス貯蔵部ST4に供給すべき熱量のうち、ヒータ43が賄う分は43[W]であり、全てヒータ43が賄う場合(63[W])よりも((63-43)/63)×100=32[%]削減できる。従って、いずれの場合でもヒータ43等で二酸化炭素を直接加熱する場合よりもエネルギー収支が向上し、またエネルギー消費も削減できることがわかる。
【0125】
なお、図4のフローでは、ガス貯蔵部ST4の燃料ガスの放出圧力が目標圧力P1tよりも低くなるとヒータ43を駆動させていたが、ガス貯蔵部ST2、ガス貯蔵部ST3の放出圧力が目標圧力P1tよりも低くなった場合でもヒータ43を駆動可能である。この場合であっても、上記同様のエネルギー収支を実現できる。
【0126】
[燃料ガス充填時の制御フロー]
図7は、本実施形態の燃料ガスの吸着貯蔵システム100において燃料ガスをガス貯蔵タンク1に充填する際のフロー図である。
【0127】
初期状態において、全バルブは閉止し、昇圧器321、ポンプ42も停止している。また、ガス貯蔵部ST4には燃料ガス及び二酸化炭素は充填されておらず、ガス貯蔵部ST1乃至ガス貯蔵部ST3には二酸化炭素が充填されている。また、パラメータm及びパラメータkは、m,k=3,2,1の順に選択する。
【0128】
ステップS201において、制御部5はバルブV-mCを開放する。パラメータmが初期値「3」である場合、制御部5はバルブV-3Cを開放する。これにより、ガス貯蔵部ST3の吸着材11から二酸化炭素が放出されガス貯蔵部STから二酸化炭素が放出される。その際、吸着材11から二酸化炭素が放出されることで吸着材11において放出熱が発生する。
【0129】
ステップS202において、制御部5はバルブVC3を所定の開度で開放する。
【0130】
ステップS203において、制御部5はポンプ42を所定の出力で起動する。これにより、冷媒流路4において冷媒が循環し、ガス貯蔵部ST1乃至ガス貯蔵部ST4の間で熱交換が可能となる。
【0131】
ステップS204において、制御部5はバルブV-(k+1)Fを開放する。パラメータkが初期値「3」の場合、制御部5はバルブV-4Fを開放する。
【0132】
ステップS205において、制御部5は、バルブVF1を所定の開度で開放する。これにより、パラメータkが初期値「3」である場合、ガス貯蔵部ST4に燃料ガスが供給され、燃料ガスがガス貯蔵部ST4の吸着材11に吸着することで、ガス貯蔵部ST4の吸着材11において吸着熱が発生する。しかし、ガス貯蔵部STm(m=3)で発生した放出熱により、冷媒を介してガス貯蔵部ST4で発生した吸着熱を取り出すことができる。
【0133】
ステップS206において、制御部5は、温度センサT1が検知する温度[T1]が所定の温度範囲内にあるか否かを判断し、YESであればステップS207に移行し、NOであれば、ステップS217に移行する。温度[T1]の温度範囲としては、例えば下限値T1minが15[℃]で上限値T1maxが25[℃]とし、T1min<T1<T1maxの関係を満たすか否かを判断する。ここで、T1maxは、少なくともヒータ43が駆動しているときの冷媒の温度(例えば40[℃])よりも低い温度に設定される。これにより、燃料ガスの充填効率の低下を抑制することができる。
【0134】
ステップS207において、制御部5は、圧力センサP1が検知する圧力[P1]が所定の上限値P1max(例えば3.5[Mpa])よりも低いか否かを判断し、YESであればステップS208に移行し、NOであればステップS219に移行する。
【0135】
ステップS208において、制御部5は、圧力センサP2が検知する圧力[P2]が所定の下限値P2min1(例えば0.1[Mpa])よりも大きいか否かを判断し、YESであればステップS206に移行し、NOであればステップS209に移行する。
【0136】
ステップS209において、制御部5は、パラメータmが「1」(最終値)であるか否か判断し、YESであればステップS221に移行し、NOであればステップS210に移行する。
【0137】
ステップS210において、制御部5は、バルブVC4及びバルブVC5を開放する。ステップS211において、制御部5は、バルブVC2及びバルブVC3を閉止する。これにより、ガス貯蔵部STmは昇圧器321のガスの導入側に連通する。
【0138】
ステップS212において、制御部5は、昇圧器321を起動する。これにより、ガス貯蔵部STmの内部が昇圧器321により掃気され二酸化炭素の放出が促される。
【0139】
ステップS213において、ステップS213において、制御部5は、圧力センサP2が検知する圧力[P2]が所定の下限値P2min2(例えば、P2min1よりも低い任意の値、又は圧力センサP2が測定可能な圧力の下限値)に到達したか否かを判断し、YESであればステップS214に移行し、NOであればステップS213に移行する。
【0140】
ステップS214において、制御部5は、昇圧器321を停止する。ステップS215において、制御部5は、バルブVC4(第3遮断弁)及びバルブVC5(第4遮断弁)を閉止する。ステップS216において、制御部5は、バルブV-mCを閉止する。パラメータmが「3」のときは、バルブV-3Cを閉止する。またこのとき、制御部5は、パラメータmの値を一つ減算して、ステップS201に移行する。
【0141】
ステップS217において、制御部5は、温度センサT2が検知する温度[T2]から温度センサT1が検知する温度[T1]を差し引いた差分がΔT(例えば5[℃])よりも低いから否か判断し、YESであればステップS218に移行し、NOであればステップS205に移行する。
【0142】
ステップS218において、制御部5は、温度センサT1が検知する温度[T1]が所定の下限値T1min(例えば15度[℃])よりも低いか否か判断し、YESであればステップS205に移行し、NOであれば温度センサT1が検知する温度[T1]が所定の上限値T1maxよりも高いと判断してステップS202に移行する。
【0143】
ステップS219において、制御部5は、パラメータkが「1」(最終値)であるか否か判断し、YESであればステップS221に移行し、NOであればステップS210に移行する。
【0144】
ステップS220において、制御部5は、バルブV-(k+1)Fを閉止する。パラメータkが「3」である場合、制御部5は、バルブV-4Fを閉止する。このとき、制御部5は、パラメータkから「1」を減じてステップS204に移行する。
【0145】
ステップS221において、制御部5は、バルブV-2F及びバルブVF1を閉止する。これにより、ガス貯蔵部ST4、ガス貯蔵部ST3、ガス貯蔵部ST2への燃料ガスの供給が完了する。
【0146】
ステップS222において、制御部5は、バルブV-1C及びバルブVC3を閉止する。ステップS223において、制御部5は、ポンプ42を停止する。
【0147】
ステップS217(NO)は、ガス貯蔵部ST(k+1)において温度勾配が発生し、ガス貯蔵部ST(k+1)の吸着材11において燃料ガスの吸着量に位置的なムラが発生していることを示している。従って、ステップS217(NO)の後、ステップS203において、制御部5は、ポンプ42の出力を所定量増加させる。これにより、冷媒の循環流量を増加させることでガス貯蔵部ST(k+1)とガス貯蔵部STmとの熱交換量を増やし、ガス貯蔵部ST(k+1)の温度勾配を低減させることができる。
【0148】
ステップS218(YES)は、ガス貯蔵部ST(k+1)で発生する吸着熱がガス貯蔵部STmで発生する放出熱よりも小さく、ガス貯蔵部STmの吸着材11の二酸化炭素の吸着効率が低下する虞があることを示している。また、ステップS218(YES)は、ガス貯蔵部ST(k+1)に対してより多くの流量の燃料ガスを供給可能であることも示している。
【0149】
従って、ステップS218(YES)の後、ステップS205において、制御部5は、バルブVF1の開度を所定量増加させる。これにより、ガス貯蔵部ST(k+1)に供給する燃料ガスの流量を増加させることで、ガス貯蔵部ST(k+1)で発生する吸着熱とガス貯蔵部STmで発生する吸着熱との熱バランスを取ることができる。
【0150】
ステップS218(NO)は、ガス貯蔵部ST(k+1)で発生する吸着熱がガス貯蔵部STmで発生する放出熱よりも大きくなっており、ガス貯蔵部ST(k+1)における燃料ガスの吸着効率が低下するおそれがあることを示している。従って、ステップS218(NO)の後、ステップS202において、制御部5は、バルブVC3の開度を所定量増加させる。これにより、ガス貯蔵部STmから放出される二酸化炭素の流量が増加することでガス貯蔵部STmの放出熱を増加させ、ガス貯蔵部ST(k+1)で発生する吸着熱とガス貯蔵部STmで発生する吸着熱との熱バランスを取ることができる。
【0151】
上記のフローにおいて、ステップS206,ステップS207,ステップS217,ステップS218等を実行することで、ステップS216とステップS220はほぼ同時に実行される。すなわち、ガス貯蔵部ST4への燃料ガスの充填とガス貯蔵部ST3からの二酸化酸素の放出がほぼ同時に終了し、ガス貯蔵部ST3への燃料ガスの充填とガス貯蔵部ST2からの二酸化酸素の放出がほぼ同時に終了する。
【0152】
また上記同様の理由により、ステップS209(YES)とステップS219(YES)がほぼ同時に終了する。これにより、ガス貯蔵部ST2への燃料ガスの充填とガス貯蔵部ST1からの二酸化酸素の放出もほぼ同時に終了する。
【0153】
ところで、ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4では、燃料ガスの充填時の圧力が3.5[Mpa]となっており、二酸化炭素の充填時の圧力が0.3[Mpa]となっている。よって、例えば、燃料ガスをガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4に充填する前に、VF1を閉止した状態でバルブV-2F、バルブV-3F、バルブV-4Fを順次開放して圧力センサP1において圧力[P1]を測定し、ガス貯蔵部ST(k+1)の圧力[P1]がほぼ3.5[Mpa]に近い値であればガス貯蔵部ST(k+1)には燃料ガスが充填され、0.5[Mpa]に近い値であればガス貯蔵部ST(k+1)には二酸化炭素が充填されていると判断することができる。
【0154】
従って、ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4に燃料ガスを充填する前に、すでに燃料ガスが充填されたガス貯蔵部ST(k+1)を除外して燃料ガスを充填する制御を行うことも可能である。また、圧力センサP1の代わりにガスセンサ(不図示)をバスライン21に配置し、VF1を閉止した状態でバルブV-2F、バルブV-3F、バルブV-4Fを順次開放して、各バルブの開放時にガスセンサがガスの種類(燃料ガス、又は二酸化炭素)を検知するように構成してもよい。
【0155】
また、ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4に燃料ガスを充填する際には以下のような制御も可能である。
(1)ポンプ42を起動して冷媒を循環させる。
(2)バルブVC3,バルブV-1C、バルブV-2C、バルブV-3Cを同時に開放してガス貯蔵部ST1乃至ガス貯蔵部ST3内の二酸化炭素を放出する。
(3)バルブV-4Cを開放しつつステップS210-ステップS215を実行してガス貯蔵部ST1乃至ガス貯蔵部ST4内を掃気する。
(4)掃気後はバルブVC3,バルブV-1C、バルブV-2C、バルブV-3C、バルブV-4Cを閉止する。
(5)バルブVF1、バルブV-2F,バルブV-3F、バルブV-4Fを同時に開放して、ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4に同時に燃料ガスを充填する。
【0156】
上記の制御では、(2)において冷媒が十分に冷却されるので、(5)の充填工程において、ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4を十分に冷却して吸着材11の燃料ガスの吸着効率の低下を抑制することができる。また、上記の制御によれば、充填時間を短くすることができるので、車両を運転するドライバーへの負担を軽減できる。
【0157】
[燃料ガスの急速充填と二酸化炭素の回収率との関係]
図8は、燃料ガスを一つのガス貯蔵部ST(k+1)に充填する際に当該ガス貯蔵部ST(k+1)から取り出すべき熱量を二酸化炭素の回収率を変数としたときの二酸化炭素を放出する他のガス貯蔵部STmで発生する放出熱により賄う場合であって、燃料ガスの充填量、燃料ガスの充填時間、及び燃料ガスを充填するガス貯蔵部ST(k+1)の温度の関係を示すグラフである。
【0158】
図8では、ガス貯蔵部ST(k+1)に燃料ガスを短時間(例えば10分)で急速充填する場合を想定し、その時間内において燃料ガスが吸着材11に急速に吸着可能な上限温度(例えば40[℃])超えないようにするための二酸化炭素の回収率を検討した。なお、回収率は、前記のように燃料利用機器9からの二酸化炭素の回収率を表すが、ガス貯蔵部ST(k+1)に充填する燃料ガスの流量と、ガス貯蔵部STmから放出する二酸化炭素の流量のモル比と同義となる。また、ガス貯蔵部ST(k+1)の温度の演算に際してはガス貯蔵部ST(k+1)から外部への放熱分を考慮している。
【0159】
回収率α=0、すなわち、ガス貯蔵部ST(k+1)に燃料ガスを充填する場合に、ガス貯蔵部STmとの間で熱交換を全く行わない場合、充填開始から約1分後、充填率が約10[%]となった段階でガス貯蔵部ST(k+1)の温度が上限温度(例えば40[℃])に到達し、これ以上の急速充填は困難になることがわかる。
【0160】
回収率α=0.75の場合、充填開始から約5分後、約50[%]充填が完了した段階でガス貯蔵部ST(k+1)の温度が上限温度(例えば40[℃])に到達し、これ以上の急速充填は困難になることがわかる。
【0161】
回収率α=0.80の場合、充填開始から約9分後、約90[%]充填が完了した段階でガス貯蔵部ST(k+1)の温度が上限温度(例えば40[℃])に到達し、これ以上の急速充填は困難になることがわかる。
【0162】
回収率α=0.90の場合、充填を開始した直後からガス貯蔵部ST(k+1)の温度がゆるやかながら単調に減少する。そして充填開始から約10分後、約100[%]充填が完了した段階でもガス貯蔵部ST(k+1)の温度が上限温度(例えば40[℃])を超えることはない。従って、回収率α=0.90であれば急速充填は十分に可能であることがわかる。
【0163】
なお、前記のように、二酸化炭素の回収率が83.3[%]以上であれば、図8に示す曲線が充填時間とともに単調増加することはなく、急速充填が可能と考える。
【0164】
[本実施形態の効果]
本実施形態の燃料ガスの吸着貯蔵システム100によれば、二酸化炭素を吸着・放出可能な第1吸着材(吸着材11)が充填された第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)と、燃料ガス及び二酸化炭素を吸着・放出可能な第2吸着材(吸着材11)が充填され、燃料ガスの吸着・放出と、二酸化炭素の吸着・放出と、を交互に実行可能な第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)と、を含み、第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)と、第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)と、は熱的に互いに接続され、第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)は、複数配置されるとともに、燃料ガスの吸着・放出、及び二酸化炭素の吸着・放出を個別に実行可能である。
【0165】
上記構成により、燃料ガスを第2吸着材(吸着材11)に吸着させると吸着熱(発熱)が発生するが、これが燃料ガスの吸着能力を低下させる。また、燃料ガスを第2吸着材(吸着材11)から放出させると放出熱(吸熱)が発生するが、これが燃料ガスの放出能力を低下させる。一方、二酸化炭素を第1吸着材(吸着材11)に吸着させると吸着熱(発熱)が発生し、二酸化炭素を第1吸着材(吸着材11)から放出させると放出熱(吸熱)を発生させる。よって、最初に選択された第2ガス貯蔵部(例えばガス貯蔵部ST2)から燃料ガスを放出する際に第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)に二酸化炭素を充填することで、第2ガス貯蔵部(例えばガス貯蔵部ST2)で発生した放出熱と第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)で発生した吸着熱との熱交換が可能である。また次に選択された第2ガス貯蔵部(例えばガス貯蔵部ST3)から燃料ガスを放出する際に、燃料ガスの放出が完了した第2ガス貯蔵部(例えばガス貯蔵部ST2)に二酸化炭素を充填することで、燃料ガスを放出中の第2ガス貯蔵部(例えばガス貯蔵部ST3)で発生した放出熱と二酸化炭素を充填中の第2ガス貯蔵部(例えばガス貯蔵部ST2)で発生した吸着熱との熱交換が可能である。一方、最後に燃料ガスを放出した第2ガス貯蔵部(例えばガス貯蔵部ST4)に燃料ガスを充填する際に、次に燃料ガスを充填する第2ガス貯蔵部(例えばガス貯蔵部ST3)から二酸化炭素を放出することで、燃料ガスを充填中の第2ガス貯蔵部(例えばガス貯蔵部ST4)で発生した吸着熱と二酸化炭素を放出中の第2ガス貯蔵部(例えばガス貯蔵部ST3)で発生した放出熱との熱交換が可能である。また、最後に選択された第2ガス貯蔵部(例えばガス貯蔵部ST2)に燃料ガスを充填する際に、第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)から二酸化炭素を放出することで、最後に選択された第2ガス貯蔵部(例えばガス貯蔵部ST2)で発生した吸着熱と第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)で発生した放出熱との熱交換が可能である。ところで、第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)及び第2ガス貯蔵部(例えばガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)に二酸化炭素を供給する流路が必要となるが、二酸化炭素が流れる流路は、冷却水が流れる流路よりも冷却水がない分軽量となる。以上より、簡易な熱交換を実現するとともにシステムの重量化を回避することができる。
【0166】
本実施形態において、第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)及び第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)の間を冷媒が循環するように配置された冷媒流路4と、冷媒を循環させるポンプ42と、を含み、第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)と第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)は、冷媒流路4により直列に接続されている。これにより、第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)と第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)との熱交換を容易に行うことができる。
【0167】
本実施形態の燃料ガスの吸着貯蔵システム100であって、燃料ガスを消費して二酸化炭素を排出する燃料利用機器9に接続された燃料ガスの吸着貯蔵システム100において、第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)は、燃料利用機器9の二酸化炭素の導入側に連通しており、第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)は、燃料利用機器9の燃料ガスの導入側と、燃料利用機器9の二酸化炭素の排気側に連通している。これにより、燃料ガスを放出する際に必要となる二酸化炭素を、当該燃料ガスを消費して排出された排ガスに含まれる二酸化炭素により賄うことができる。
【0168】
本実施形態において、第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)の二酸化炭素の導入側に配置された第1仕切弁(バルブV-1C)と、第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)の燃料ガスの放出側に配置された第2仕切弁(バルブV-2F、V-3F、バルブV-4F)と、第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)の二酸化炭素の放出側に配置された第3仕切弁(バルブV-2C、バルブV-3C、バルブV-4C)と、第1仕切弁(バルブV-1C)、第2仕切弁(バルブV-2F、V-3F、バルブV-4F)、第3仕切弁(バルブV-2C、バルブV-3C、バルブV-4C)を制御する制御部5と、を備え、制御部5は、燃料ガスの充填された複数の第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)のうち最初に燃料ガスを放出する第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2)の第2仕切弁(バルブV-2F)を開放するとともに、第1仕切弁(バルブV-1C)を開放する。
【0169】
これにより、最初に選択された第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2)から燃料ガスを放出する際に第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)に二酸化炭素を充填することで、第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2)で発生した放出熱と第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)で発生した吸着熱との熱交換を行う制御を容易に実行可能である。
【0170】
本実施形態において、燃料利用機器9から排出された二酸化炭素を昇圧して第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)及び第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)に供給する昇圧器321を備え、制御部5は、ポンプ42、及び昇圧器321を制御可能とされ、冷媒の温度が所定の温度となるように、ポンプ42の出力、及び/又は、昇圧器321の出力を調整する。これにより例えば第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)の二酸化炭素の吸着量を安定化させることができる。
【0171】
本実施形態において、燃料利用機器9から排出された二酸化炭素を昇圧して第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)及び第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)に供給する昇圧器321を備え、制御部5は、ポンプ42、及び昇圧器321を制御可能とされ、第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)が放出する燃料ガスの放出圧力が所定圧力以上となるようにポンプ42の出力を増加させる、及び/又は、昇圧器321の出力を調整する。これにより、簡易な構成で、第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)が放出する燃料ガスの放出圧力を安定化させることができる。
【0172】
本実施形態において、冷媒流路4にはヒータ43が配置され、制御部5はヒータ43を制御可能とされ、燃料ガスの放出圧力が所定圧力以上となるようにヒータ43の出力を調整する。これにより、簡易な構成で燃料ガスの放出圧力を制御することができる。
【0173】
本実施形態において、制御部5は第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)から燃料ガスを放出する際の冷媒の温度(例えば40[℃])を、第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)に燃料ガスを充填するときの冷媒の温度(例えば20[℃])よりも高く設定する。これにより、燃料ガスの放出効率の低下を低減できる。
【0174】
本実施形態において、制御部5は、燃料ガスの放出が完了した第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2)の第2仕切弁(バルブV-2F)を閉止するともに、次に燃料ガスを放出する第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST3)の第2仕切弁(バルブV-3F)を開放し、燃料ガスの放出が完了した第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2)の第3仕切弁(バルブV-2C)を開放する。これにより、燃料ガスを放出している第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST3)で発生する放出熱を相殺するための熱量を二酸化炭素が充填されている第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2)で発生した吸着熱により賄うことができる。
【0175】
本実施形態において、制御部5は、第3仕切弁(バルブV-2C、バルブV-3C)が開放された第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2、ガス貯蔵部ST3)において、第3仕切弁(バルブV-2C、バルブV-3C)を一時的に閉止し、第3仕切弁(バルブV-2C、バルブV-3C)を閉止している間に第2仕切弁(バルブV-2F,バルブV-3F)を一時的に開放する。これにより、二酸化炭素を充填途中の第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2、ガス貯蔵部ST3)において、第2仕切弁(バルブV-2F,バルブV-3F)を一時的に開放することで第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2、ガス貯蔵部ST3)内に残留した燃料ガスを放出して、二酸化炭素の吸着量を高めることができる。
【0176】
本実施形態において、制御部5は、燃料ガスの放出が完了した第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2)の第2仕切弁(バルブV-2F)を閉止したのち、燃料ガスが充填された残余の第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST3、又はガス貯蔵部ST4)のうちの一つを選択して当該第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST3、又はガス貯蔵部ST4)の第2仕切弁(バルブV-3F、又はバルブV-4F)を開放し、且つ燃料ガスの放出が完了した第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2)の第3仕切弁(バルブV-3C)を開放する制御を逐次的に実行する。これにより、第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)において、全ての第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)から燃料ガスを放出するとともに、燃料ガスを放出後の第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2及びガス貯蔵部ST3)に二酸化炭素を充填することができる。
【0177】
本実施形態において、第2仕切弁(バルブV-2F、バルブV-2F、バルブV-4F)を介して第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)に燃料ガスを充填する場合において、制御部5は、最後に燃料ガスを放出した第2ガス貯蔵部(例えばガス貯蔵部ST4)の第2仕切弁(バルブV-4F)を開放するとともに、次に燃料ガスを充填する第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST3)を選択して当該第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST3)の第3仕切弁(バルブV-3C)を開放し、二酸化炭素の放出が完了した第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST3)の第3仕切弁(バルブV-3C)を閉止して当該第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST3)の第2仕切弁(バルブV-3F)を開放するとともに、その次に燃料ガスを充填する第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2)を選択して当該第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2)の第3仕切弁(バルブV-2C)を開放する制御を繰り返し、最後に選択された第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2)の第3仕切弁(バルブV-2C)を閉止して当該第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2)の第2仕切弁(バルブV-2F)を開放するとともに、第1仕切弁(バルブV-1C)を開放する。これにより、第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)及び第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)から二酸化炭素を放出するとともに、第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)に二酸化炭素を充填することができる。
【0178】
本実施形態において、第2仕切弁(バルブV-2F、バルブV-3F,バルブV-4F)を介して第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)に燃料ガスを充填する場合において、制御部5は、全ての第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)の第3仕切弁(バルブV-2C、バルブV-3C、バルブV-4C)を開放し、二酸化炭素の放出が完了した全ての第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)の第3仕切弁(バルブV-2C、バルブV-3C、バルブV-4C)を閉止して第2仕切弁(バルブV-2F、バルブV-3F,バルブV-4F)を開放する。
【0179】
本実施形態において、第2仕切弁(バルブV-2F、バルブV-3F,バルブV-4F)を介して第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)に燃料ガスを充填する場合において、燃料利用機器9の二酸化炭素の排出側と第1仕切弁(バルブV-1C)及び第3仕切弁(バルブV-2C、バルブV-3C、バルブV-4C)とを連通する第1流路(回収流路32、バスライン31)と、第1流路(回収流路32)に配置された昇圧器321と、第1流路(回収流路32)の昇圧器321と第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)及び第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)との間に配置された第1遮断弁(バルブVC2)と、第1仕切弁(バルブV-1C)及び第3仕切弁(バルブV-2C、バルブV-3C、バルブV-4C)に対して第1流路(回収流路32)と並列に接続され、第1仕切弁(バルブV-1C)及び第3仕切弁(バルブV-2C、バルブV-3C、バルブV-4C)を外部に連通する第2流路(排出流路33)と、第2流路(排出流路33)に配置された第2遮断弁(バルブVC3)と、第2流路(排出流路33)の第1仕切弁(バルブV-1C)及び第3仕切弁(バルブV-2C、バルブV-3C、バルブV-4C)と第2遮断弁(バルブVC3)との間から分岐して第1流路(回収流路32)の昇圧器321よりも二酸化炭素の上流側となる位置で第1流路(回収流路32)に合流する第1分岐流路34と、第1分岐流路34に配置された第3遮断弁(バルブVC4)と、第1流路(回収流路32)の昇圧器321と第1遮断弁(バルブVC2)の間となる位置から分岐して第2流路(排出流路33)の第2遮断弁(バルブVC3)よりも二酸化炭素の下流となる位置に合流する第2分岐流路35と、第2分岐流路35に配置された第4遮断弁(バルブVC5)と、を備え、制御部5は、第1遮断弁(バルブVC2)、第2遮断弁(バルブVC3)、第3遮断弁(バルブVC4)、及び第4遮断弁(バルブVC5)を制御可能とされ、第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)に二酸化炭素を充填する又は第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)から二酸化炭素を放出するときに第1仕切弁(バルブV-1C)を開放し、第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)に二酸化炭素を充填する又は第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)から二酸化炭素を放出するときに第3仕切弁(バルブV-2C、バルブV-3C、バルブV-4C)を開放し、第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)又は第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)に二酸化炭素を充填するときに第1遮断弁(バルブVC2)を開放して第2遮断弁(バルブVC3)、第3遮断弁(バルブVC4)、及び第4遮断弁(バルブVC5)を閉止するとともに昇圧器321を駆動し、第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)又は第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)から二酸化炭素を放出するときに第1遮断弁(バルブVC2)を閉止して第2遮断弁(バルブVC3)、第3遮断弁(バルブVC4)、及び第4遮断弁(バルブVC5)を開放するとともに昇圧器321を駆動する。
【0180】
これにより、第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)又は第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)に二酸化炭素を充填するときに二酸化炭素が昇圧器321により昇圧されて第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)及び第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)に供給されるので、第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)及び第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)に確実に二酸化炭素を充填できる。また、第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)又は第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)から二酸化炭素を放出するときに、昇圧器321が第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)及び第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)の内部を吸引(掃気)する配置となるので、第1ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST1)及び第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)から確実に二酸化炭素を放出させることができる。
【0181】
本実施形態において、第2仕切弁(バルブV-2F、バルブV-3F、バルブV-4F)を介して第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)に燃料ガスを充填する場合において、第2仕切弁(バルブV-2F、バルブV-3F、バルブV-4F)を外部の燃料供給設備に連通する第3流路(燃料供給流路22、バスライン21)と、第3流路(燃料供給流路22)に配置された第5遮断弁(バルブVF1)と、第2仕切弁(バルブV-2F、バルブV-3F、バルブV-4F)に対して第3流路(燃料供給流路22)と並列に接続され、第2仕切弁(バルブV-2F、バルブV-3F、バルブV-4F)を燃料利用機器9の燃料ガスの導入側に連通する第4流路(燃料放出流路23)と、第4流路(燃料放出流路23)を遮断する第6遮断弁(バルブVF2)と、第3流路(燃料供給流路22、バスライン21)の第5遮断弁(バルブVF1)と第2仕切弁(バルブV-2F、バルブV-3F、バルブV-4F)の間となる位置に配置され第3流路(燃料供給流路22、バスライン21)内のガスの圧力又はガスの種類を検知するセンサ(圧力センサP1、ガスセンサ)と、を備え、制御部5は、第5遮断弁(バルブVF1)と第6遮断弁(バルブVF2)を閉止した状態で第2仕切弁(バルブV-2F、バルブV-3F、バルブV-4F)を一つずつ所定時間開放し、第2仕切弁(バルブV-2F、バルブV-3F、バルブV-4F)の開放時にセンサ(圧力センサP1、ガスセンサ)を介してガスの圧力又はガスの種類を検知する。これにより、第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)に燃料ガスを充填する場合において、すでに燃料ガスが充填された第2ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)を識別して当該ガス貯蔵部(ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST4)に燃料ガスを充填しない制御が可能となる。
【0182】
[ガス貯蔵タンク1の構造]
図9Aは、本実施形態の燃料ガスの吸着貯蔵システム100におけるガス貯蔵タンク1の断面図である。
【0183】
図9Aに示すように、ガス貯蔵タンク1は、複数(10個)の直方体の空間の分室に分割されている。そして、各分室に吸着材11が充填されることで、10個のガス貯蔵部ST1乃至ガス貯蔵部ST10が形成されている。
【0184】
ガス貯蔵部ST1乃至ガス貯蔵部ST10には、ガスが流通するガス流路12と、冷媒が流通する冷媒流路4が形成されている。ガス流路12及び冷媒流路4はガス貯蔵タンク1の長手方向に延びる流路である。
【0185】
ガス貯蔵部ST1には、直方体の長手方向の一端(例えば図9Aの紙面の手前側)に二酸化炭素が流通するバルブV-1C(不図示)が配置され、ガス貯蔵部ST1に配置されたガス流路12の長手方向の一端が接続している。
【0186】
ガス貯蔵部STj(j=2-10の整数)には、直方体の長手方向の一端(例えば図9Aの紙面の手前側)に二酸化炭素が流通するバルブV-jC(不図示)が配置され、ガス貯蔵部STjに配置されたガス流路12の長手方向の他端が接続している。
【0187】
ガス貯蔵部ST1のガス流路12乃至ガス貯蔵部ST10のガス流路12には、それぞれバルブV-mC(m=1-9の整数)を通じて二酸化炭素が供給され、二酸化炭素はガス流路12の壁面から吸着材11の隙間を通じて内部に拡散し、吸着材11に吸着される。また吸着材11から放出された二酸化炭素は、バルブV-mC(m=1-9の整数)を通じて外部に放出される。
【0188】
ガス貯蔵部ST2のガス流路12乃至ガス貯蔵部ST10のガス流路12には、それぞれバルブV-(k+1)F(k=1-9の整数)を通じて燃料ガスが供給され、燃料ガスはガス流路12の壁面から吸着材11の隙間を通じて内部に拡散し、吸着材11に吸着される。また吸着材11から放出された燃料ガスは、バルブV-(k+1)F(k=1-9の整数)を通じて外部に放出される。
【0189】
冷媒流路4は、例えばガス貯蔵部ST1の冷媒流路4乃至ガス貯蔵部ST10の冷媒流路4の順に直列に接続されており、タンク41、ポンプ42、ヒータ43に連通している(図3参照)。
【0190】
ガス貯蔵部ST1乃至ガス貯蔵部ST10は直列に接続された冷媒流路4を介して互いに熱交換が可能である。例えばガス貯蔵部ST10から燃料ガスを放出することによりガス貯蔵部ST10の吸着材11で発生した放出熱を相殺する熱量を、ガス貯蔵部ST2から二酸化炭素を放出することによりガス貯蔵部ST2で発生した吸着熱により賄うことができる。
【0191】
なお、温度センサT1は、ガス貯蔵部ST1の冷媒流路4とガス貯蔵部ST2の冷媒流路4とが接続する位置に配置し、温度センサT2はガス貯蔵部ST10よりも冷媒の下流となる位置に配置すればよい。
【0192】
図9Bは、本実施形態の燃料ガスの吸着貯蔵システム100におけるガス貯蔵タンク1の断面図(変形例)である。図9Bに示すガス貯蔵タンク1は、図9Aと同様にガス貯蔵部ST1乃至ガス貯蔵部ST10を有しており、ガス貯蔵部ST1乃至ガス貯蔵部ST10には吸着材11が充填され且つガス流路12が形成されている。一方、冷媒流路4は、ガス貯蔵タンク1の金属の外壁、及びガス貯蔵タンク1を仕切る金属の壁面の中に配置されている。冷媒流路4は、全て直列となるように接続してもよいし、一部が並列になるように接続してもよい。
【0193】
温度センサT1は、例えば、ガス貯蔵部ST1に隣接する冷媒流路4であってガス貯蔵部ST1の隣接位置を最後に通過する冷媒流路4に配置すればよく、例えば図9Bにおいてガス貯蔵部ST1の右下に配置された冷媒流路4と、当該冷媒流路4に接続される次の冷媒流路4と、の間に配置する。
【0194】
温度センサT2は、例えば、ガス貯蔵部ST10に隣接する冷媒流路4であってガス貯蔵部ST10の隣接位置を最後に通過する冷媒流路4に配置すればよく、例えば図9Bにおいてガス貯蔵部ST10の左下に配置された冷媒流路4よりも冷媒に下流となる位置に配置する。
【0195】
[吸着材11の構造]
図10は、吸着材11の構造を示す図である。図11Aは、吸着材11の構造の変形例(合成前)を示す図である。図11Bは、吸着材11の構造の変形例(合成後)を示す図である。
【0196】
吸着材11は、例えば、前記のように金属有機構造体で形成されているが、図10に示すように、所定の粒径を持った粒子を凝固させた形状を有している。よって、充填率はあまり高くなく、空隙が存在している。この空隙の容量が大きいほど単位体積当たりの吸着容量は低下する。
【0197】
そこで、図11Aに示すように、平均粒径の大きい粒子を面状に充填させ、その隙間に平均粒径の小さな粒子を充填させることで、図11Bに示すように、平均粒径の大きい粒子と平均粒径の小さな粒子を充填させた層を形成し、この層を複数重ね合わせることで充填率の高い吸着材11を構築することができる。
【0198】
ここで、吸着材11は、燃料ガス(メタン)の吸着熱/放出熱よりも二酸化炭素の吸着熱/放出熱の方が大きくなるもの、又は燃料ガスの吸着効率よりも二酸化炭素の吸着効率の方が大きくなるものが好適である。これにより、例えばガス貯蔵部ST1乃至ガス貯蔵部ST10において、二酸化炭素の吸着・放出のみ行うガス貯蔵部ST1の容積を他のガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST10よりも小さく設定することができる。例えばガス貯蔵部ST1の二酸化炭素の吸着熱・放出熱がガス貯蔵部ST2の燃料ガスの放出熱・吸着熱と等しくなるように設定することが可能である。
【0199】
また吸着材11としては、燃料ガスの吸着熱/放出熱よりも二酸化炭素の吸着熱/放出熱の方が大きくなる第1吸着材と、二酸化炭素の吸着熱/放出熱よりも燃料ガスの吸着熱/放出熱の方が大きくなる第2吸着材と、を混合した構成を適用してもよい。
【0200】
この構成では、第1吸着材に二酸化炭素が優先的に吸着され、第2吸着材には燃料ガスが優先的に吸着される。よって、例えばガス貯蔵部ST2から二酸化炭素を放出した後、ガス貯蔵部ST2に燃料ガスを充填すると、燃料ガスが第2吸着材に吸着することで第2吸着材において吸着熱が発生し、これが第1吸着材に伝達される。すると第1吸着材では残留した二酸化炭素が放出して放出熱を発生し、これが少なくとも吸着熱の一部を相殺する。従って、互いに隣接する第1吸着材と第2吸着材というミクロな範囲で熱交換を行うことが可能であり、冷媒等で熱交換を行う場合よりも熱交換の応答を早くすることができる。
【0201】
[変形例]
図12は、変形例の燃料ガスの吸着貯蔵システム100における燃料ガスの放出の動作を簡易に説明するための図である。
【0202】
変形例の吸着貯蔵システム100の基本構造は上記の吸着貯蔵システム100と同様であるが、第1ガス貯蔵部、すなわち二酸化炭素の吸着・放出のみ行う第1ガス貯蔵部が2個設定されている。図12では、ガス貯蔵部ST1とガス貯蔵部ST10が第1ガス貯蔵部に設定されている。
【0203】
ガス貯蔵タンク1から燃料ガスを放出する場合について説明する。図12(a)に示す初期状態において、ガス貯蔵部ST1には二酸化炭素(C)は充填されておらず、ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST9には燃料ガス(F)が充填されているものとする。
【0204】
図12(b)に示すように、ガス貯蔵部ST2から燃料ガスを放出(図において「F↑」と表記)するとともに、ガス貯蔵部ST1の吸着材11に二酸化炭素を吸着(図において「C↓」と表記)させる。また、ガス貯蔵部ST9から燃料ガスを放出するとともに、ガス貯蔵部ST10の吸着材11に二酸化炭素を吸着させる。
【0205】
これにより、図12(c)に示すように、ガス貯蔵部ST2からの燃料ガスの放出の完了とほぼ同時にガス貯蔵部ST1への二酸化炭素の充填が完了し、ガス貯蔵部ST9からの燃料ガスの放出の完了とほぼ同時にガス貯蔵部ST10への二酸化炭素の充填が完了する。
【0206】
上記により、変形例では、ガス貯蔵部ST(k+1)(k=1、2、3、4)から燃料ガスを放出する場合は、燃料ガスを放出したガス貯蔵部STkに二酸化炭素を充填し、ガス貯蔵部ST(m)(m=9、8、7、6)から燃料ガスを放出する場合は、燃料ガスを放出したガス貯蔵部ST(m+1)に二酸化炭素を充填する、という制御を順に実行する。
【0207】
図12(d)に示すように、燃料ガスを放出したガス貯蔵部ST4に二酸化炭素を充填しつつガス貯蔵部ST5から燃料ガスを放出し、燃料ガスを放出したガス貯蔵部ST7に二酸化炭素を充填しつつガス貯蔵部ST6から燃料ガスを放出する。
【0208】
これにより、図12(e)に示すように、ガス貯蔵部ST5からの燃料ガスの放出の完了とほぼ同時にガス貯蔵部ST4への二酸化炭素の充填を完了し、ガス貯蔵部ST6からの燃料ガスの放出の完了とほぼ同時にガス貯蔵部ST7への二酸化炭素の充填を完了することができる。
【0209】
以上より、ガス貯蔵部ST2乃至ガス貯蔵部ST9において燃料ガスを効率的に放出することができる。
【0210】
[ガス貯蔵タンク1内を分割する個数と第1ガス貯蔵部の個数との関係]
図13は、ガス貯蔵タンク1において燃料ガスを吸着・放出する分割室の占有率であって、分割室数n及び第1ガス貯蔵部の個数jを変化させた場合を示す図である。
【0211】
ガス貯蔵タンク1を幅方向(図9A図9Bで示す横方向)に分割して分割室をn個形成した場合において二酸化炭素を充填可能な第1ガス貯蔵部の個数jを変化させた場合について、二酸化炭素と燃料ガスを充填可能な第2ガス貯蔵部のガス貯蔵タンク内の占有率を算出した。
【0212】
ガス貯蔵タンク1の内部空間の幅方向の長さをx[mm]、厚み方向(図9A図9Bで示す縦方向)の長さをy[mm]とする。ここでは、幅方向に分割して分割室を形成するので内部区間の奥行方向の長さ成分は省略して考える。
【0213】
ガス貯蔵タンク1の内部空間の断面積(容積)はx×y[mm2]となる。
【0214】
厚さtの壁面によりガス貯蔵タンクの内部空間をn等分(n:整数)してn個の分割室を形成すると、(n-1)個の壁面で内部空間を分割することになるので、一つの分割室の断面積(容積)は、
y×(x-(n-1)×t)/n・・・(1)
となる。
【0215】
分割室のうち二酸化炭素のみを充填・放出する第1ガス貯蔵部の個数をj(j=1,2,3・・・(整数)、n-j>1)とすると、二酸化炭素の充填・放出又は燃料ガスの充填・放出が可能な第2ガス貯蔵部の断面積(容積)は、
(n-j)×y×(x-(n-1)×t)/n・・・(2)
となる。
【0216】
以上より、ガス貯蔵タンクの内部空間のうち、第2ガス貯蔵部として利用できる割合(占有率)は、
(n-j)×y×(x-(n-1)×t)/n/(x×y)・・・(3)
となる。
【0217】
図13は、上記の数式(3)において、x=658[mm]、y=276[mm]、t=2[mm]と設定し、分割室数n(連続量)と第1ガス貯蔵部の個数j(整数)を変化させたときのグラフとなる。
【0218】
いずれの分割室数nであっても第1ガス貯蔵部の個数jを増やしていけばガス貯蔵タンク1における第2ガス貯蔵部の占有率は低下する。
【0219】
また、第1ガス貯蔵部の個数jがいずれであっても、分割室数nを減少させると、ガス貯蔵タンク1における第1ガス貯蔵部の占有率が増加するので、その分、ガス貯蔵タンク1における第2ガス貯蔵部の占有率は低下する。
【0220】
一方、第1ガス貯蔵部の個数jがいずれであっても、分割室数nを増加させると、ガス貯蔵タンク1における第1ガス貯蔵部の占有率が減少するので、その分、ガス貯蔵タンク1における第2ガス貯蔵部の占有率は増加する。しかし、分割室数nをさらに増加させると、ガス貯蔵タンク1に対する厚さtの壁面の占有率が高くなるので、その分、ガス貯蔵タンク1における第2ガス貯蔵部の占有率は低下する。
【0221】
従って、図13の曲線が示すように、数式(3)に示す占有率には極値が存在し、例えば第1ガス貯蔵部の個数j=1のとき、分割室数n=9が最大となり、j=2のとき、n=13が最大となり、j=3のとき、n=17が最大となる。
【0222】
ただし、j=2においては、第1ガス貯蔵部で発生する吸着熱/放出熱と第2ガス貯蔵部で発生する放出熱/吸着熱の熱交換を2か所で同時に行うことを考えると、実質的にn=12、又は14が最大となる。
【0223】
また、j=3においては、第1ガス貯蔵部で発生する吸着熱/放出熱と第2ガス貯蔵部で発生する放出熱/吸着熱の熱交換を3か所で同時に行うことを考えると、実質的にn=18が最大となる。
【0224】
以上のように、第1ガス貯蔵部の個数jに応じて第2ガス貯蔵部の占有率が最大となる分割室数nを設定することができる。
【0225】
図14は、比較例のガス貯蔵タンク1における第2ガス貯蔵部の容積に対する本実施形態のガス貯蔵タンク1における第2ガス貯蔵部の容積の増加の割合を示す図である。
【0226】
比較例のガス貯蔵タンク1では、内部空間を2つに分割し、一方を第1ガス貯蔵部とし、他方を第2ガス貯蔵部と設定している。比較例において第2ガス貯蔵部は、一つであるので、例えば一方の第2ガス貯蔵部から燃料ガスを放出する際に他方の第2ガス貯蔵部に二酸化炭素を充填する、という場面はない。従って、比較例の第2ガス貯蔵部は、実質的に燃料ガスのみを充填・放出するものとなる。
【0227】
上記の比較例において、第2ガス貯蔵部の占有率は、上記の数式(3)において、n=2、j=1とすることで、
(x-t)/2・・・(4)
となる。
【0228】
従って、第2ガス貯蔵部の占有率の増加の割合は、数式(3)及び数式(4)より
(n-j)×y×(x-(n-1)×t)/n/(x×y)/((x-t)/2)-1・・・(5)
となる。
【0229】
図14は、上記の数式(5)において、x=658[mm]、y=276[mm]、t=2[mm]と設定し、分割室数n(連続量)と第1ガス貯蔵部の個数j(整数)を変化させたときのグラフとなる。
【0230】
図14に示すように、第1ガス貯蔵部の個数j=1であって、分割室数n=3のとき、占有率の増加の割合は30[%]程度であるが、分割室数n=9、又は10のときは、59[%]にまで増加する。第1ガス貯蔵部の個数j=2であって、分割室数n=5のとき、占有率の増加の割合は13[%]程度であるが、分割室数n=10のときは、41[%]にまで増加する。第1ガス貯蔵部の個数j=3であって、分割室数n=7のとき、占有率の増加の割合は5[%]程度であるが、分割室数n=10のときは、23[%]にまで増加する。第1ガス貯蔵部の個数j=4であって、分割室数n=10のとき、占有率の増加の割合は5[%]程度である。
【0231】
以上のように、比較例のように二酸化炭素のみを充填・放出する第1ガス貯蔵部(吸着材11)と燃料ガスのみを充填・放出する第2ガス貯蔵部(吸着材11)に分離した場合に比べて、本実施形態のように、二酸化炭素の充填・放出と燃料ガスの充填・放出を交互に行う第2ガス貯蔵部を複数配置することで、燃料ガスを充填可能な領域の充填率を比較例よりも高めることができる。本実施形態の複数の第2ガス貯蔵部の容積を比較例の第2ガス貯蔵部と同じに設定した場合には、本実施形態の第1ガス貯蔵部及び複数の第2ガス貯蔵部の全容積を、比較例の第1ガス貯蔵部及び第2貯蔵部の全容積よりも小さく設定でき、システム全体を小型化することができる。
【符号の説明】
【0232】
100 吸着貯蔵システム
1 ガス貯蔵タンク
11 吸着材
ST1 ガス貯蔵部(第1ガス貯蔵部)
ST2-ST4 ガス貯蔵部(第2ガス貯蔵部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14