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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】半導体発光装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/54 20100101AFI20240912BHJP
   H01L 33/56 20100101ALI20240912BHJP
【FI】
H01L33/54
H01L33/56
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021022564
(22)【出願日】2021-02-16
(65)【公開番号】P2022124748
(43)【公開日】2022-08-26
【審査請求日】2024-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宮村 真一
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-220672(JP,A)
【文献】特開2021-012961(JP,A)
【文献】特開2020-021937(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0285232(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
H01S 5/00- 5/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体発光素子と、
前記半導体発光素子に接続された配線と、前記半導体発光素子を囲む環形状の基板金属層が固着された基板接合面とを有する気密性の基板と、
前記半導体発光素子の放射光を透過する窓部と、前記基板金属層に対応する環形状のキャップ金属層が固着されたフランジ部とを有し、接合層によって前記キャップ金属層が前記基板金属層に接合されて前記半導体発光素子を収容する内部空間を有して前記基板に気密接合された気密性の透光キャップと、を有し、
前記接合層は、金(Au)網目構造体に接合金属が含浸した含浸接合体である、半導体発光装置。
【請求項2】
前記含浸接合体は内部に配列された空洞を有する、請求項1に記載の半導体発光装置。
【請求項3】
前記空洞は半球形状を有する、請求項に記載の半導体発光装置。
【請求項4】
前記内部空間には窒素及び酸素を含む混合ガスが封入されている、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の半導体発光装置。
【請求項5】
前記混合ガスは酸素を3~20%の範囲で含む、請求項に記載の半導体発光装置。
【請求項6】
前記半導体発光素子はAlGaN系の発光素子である、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の半導体発光装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載の半導体発光装置の製造方法であって、
前記気密性の前記基板の前記基板金属層の延在方向に沿って前記基板金属層上に複数の接合材バンプを配列し、
前記複数の接合材バンプを包埋するようにナノAuペーストを塗布し、
前記ナノAuペースト上から前記キャップ金属層を載置しつつ前記フランジ部を押圧し、
第1の熱処理温度で前記ナノAuペーストの焼結を行ってAu網目構造体を形成し、前記基板と前記気密性の前記透光キャップとを結合し、
前記基板及び前記透光キャップの結合体を減圧環境下に置いて前記内部空間内の排気を行い、
前記排気の後に、前記結合体を前記減圧環境よりも高圧かつ所定のガスの環境下に置いて前記内部空間内を前記所定のガスで置換し、
前記所定のガスによる置換後、前記第1の熱処理温度よりも高温の第2の熱処理温度で前記接合材バンプの接合材を前記Au網目構造体に含浸させる、半導体発光装置の製造方法。
【請求項8】
前記内部空間内の前記排気を行うステップは、前記ナノAuペーストに含まれるフラックスを前記内部空間から排気するステップを含む、請求項7に記載の半導体発光装置の製造方法。
【請求項9】
前記接合材を前記Au網目構造体に含浸させるステップは、前記含浸接合体の内部に配列された空洞を形成するステップを含む、請求項7又は8に記載の半導体発光装置の製造方法。
【請求項10】
前記接合材はAuSnである、請求項7ないし9のいずれか一項に記載の半導体発光装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光装置及びその製造方法、特に紫外光を放射する半導体発光素子が内部に封入された半導体発光装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子を半導体パッケージの内部に封入する半導体装置が知られている。半導体発光モジュールの場合では、半導体発光素子が載置された支持体に、発光素子からの光を透過するガラスなどの透明窓部材が接合されて気密封止される。
【0003】
例えば、特許文献1には、通気用貫通孔を有するキャビティ内に発光チップが配置され、通気用貫通孔を通してキャビティ内の気体を排気した後、通気用貫通孔を封止して発光チップが外部の水蒸気と酸素に接触することを防止する発光素子が開示されている。
【0004】
特許文献2には、紫外線などの短波長光を放射する半導体発光素子パッケージが開示されている。当該パッケージは、ホットメルト系材料によって貫通孔を封止し、内部を不活性ガスで封入されている。
【0005】
特許文献3には、貫通孔が設けられ、当該貫通孔が封止材により封止された光素子収納用パッケージが開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、パッケージに設けられた排気口を通してパッケージ内部を真空にした後、排気口を封止した電子部品装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-142690号公報
【文献】特開2006-93372号公報
【文献】特開2007-123444号公報
【文献】特開2007-287967号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】長瀬産業株式会社 https://www.nagase-pactech.jp/solder/spec/
【文献】田中貴金属工業株式会社 https://tanaka-preciousmetals.com/jp/products/detail/aurofuse/?nav=use
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、半導体発光装置について、より一層の高い信頼性が求められている。特に、紫外光を放射する半導体発光素子、特にAlGaN系の半導体発光素子は、環境ガスによって劣化し易い。従って、半導体発光素子の劣化を防止する環境にパッケージ内部を置換し、高い気密性を有する封止構造のパッケージが求められている。
【0010】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、パッケージにガス置換口を設けることなく、半導体発光素子が劣化し難い環境(ガス雰囲気)にパッケージ内部を置換でき、かつ高い気密性を有する半導体発光装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1実施形態による半導体発光装置は、
半導体発光素子と、
前記半導体発光素子に接続された配線と、前記半導体発光素子を囲む環形状の基板金属層が固着された基板接合面とを有する気密性の基板と、
前記半導体発光素子の放射光を透過する窓部と、前記基板金属層に対応する環形状のキャップ金属層が固着されたフランジ部とを有し、接合層によって前記キャップ金属層が前記基板金属層に接合されて前記半導体発光素子を収容する内部空間を有して前記基板に気密接合された気密性の透光キャップと、を有し、
前記接合層は、金(Au)網目構造体に接合金属が含浸した含浸接合体である。
【0012】
本発明の他の実施形態による半導体発光装置の製造方法は、上記した半導体発光装置の製造方法であって、
前記気密性の前記基板の前記基板金属層の延在方向に沿って前記基板金属層上に複数の接合材バンプを配列し、
前記複数の接合材バンプを包埋するようにナノAuペーストを塗布し、
前記ナノAuペースト上から前記キャップ金属層を載置しつつ前記フランジ部を押圧し、
第1の熱処理温度で前記ナノAuペーストの焼結を行ってAu網目構造体を形成し、前記基板と前記気密性の前記透光キャップとを結合し、
前記基板及び前記透光キャップの結合体を減圧環境下に置いて前記内部空間内の排気を行い、
前記排気の後に、前記結合体を前記減圧環境よりも高圧かつ所定のガスの環境下に置いて前記内部空間内を前記所定のガスで置換し、
前記所定のガスによる置換後、前記第1の熱処理温度よりも高温の第2の熱処理温度で前記接合材バンプの接合材を前記Au網目構造体に含浸させる製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】本発明の第1の実施形態による半導体発光装置10の上面を模式的に示す平面図である。
図1B】半導体発光装置10の側面を模式的に示す図である。
図1C】半導体発光装置10の裏面を模式的に示す平面図である。
図1D】半導体発光装置10の内部構造を模式的に示す図である。
図2A図1AのA-A線に沿った半導体発光装置10の断面を模式的に示す断面図である。
図2B】基板11と透光キャップ13とが接合された部分Wを拡大して示す部分拡大断面図である。
図3A】製造工程STEP1~STEP3におけるキャップ金属層21と基板金属層12との接合部を模式的に示す図である。各工程における断面図を上側に示し、当該断面図のA-A線に平行な面における平面図を下側に示している。
図3B】製造工程STEP4~STEP6におけるキャップ金属層21と基板金属層12との接合部を模式的に示す図である。
図4A】本発明の第2の実施形態による半導体発光装置50の断面を模式的に示す断面図である。
図4B】基板11と透光キャップ13とが接合された部分Wを拡大して示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下においては、本発明の好適な実施例について説明するが、これらを適宜改変し、組合せてもよい。また、以下の説明及び添付図面において、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符を付して説明する。
[第1の実施形態]
図1Aは、本発明の第1の実施形態による半導体発光装置10の上面を模式的に示す平面図である。図1Bは、半導体発光装置10の側面を模式的に示す図である。図1Cは、半導体発光装置10の裏面を模式的に示す平面図である。図1Dは、半導体発光装置10の内部構造を模式的に示す図である。
【0015】
また、図2Aは、図1AのA-A線に沿った半導体発光装置10の断面を模式的に示す断面図である。図2Bは、基板11と透光キャップ13とが接合された部分Wを拡大して示す部分拡大断面図である。
【0016】
図1A及び図1Bに示すように、半導体発光装置10は、矩形板形状の基板11と、透光キャップ13とが接合されて発光素子パッケージ10Aが構成されている。そして、発光素子パッケージ10A内に発光素子15が収容されている。なお、基板11の側面がx方向及びy方向に平行であり、基板11の上面がxy平面に平行であるとして示している。
(透光キャップ13及びキャップ金属層21)
図1A、1B及び図2Aに示すように、半球状のガラスからなる透光性窓である窓部13Aと、窓部13Aの底部の端部から延在するフランジ13B(キャップ接合部)とからなる。すなわち、透光キャップ13は気密性を有し、例えば窓部13Aとフランジ13Bとが気密的につなぎ合わされて構成されている。
【0017】
透光キャップ13は、半導体発光装置10内に配された発光素子15からの放射光を透過する透光性のガラスからなる。例えば、石英ガラス又はホウ珪酸ガラスを好適に用いることができる。
【0018】
フランジ13Bは円環板状の形状を有している。より詳細には、フランジ13Bの底面は窓部13Aの中心と同心の円環形状(中心:C)を有している。すなわち、フランジ13Bの外縁(外周)は、フランジ13Bの内縁(内周)と同心である。
【0019】
フランジ13Bは、フランジ13Bの底面(キャップ接合面)13Sに固着された金属層であり、且つフランジ13Bと同心の円環板状のキャップ金属層21を有している。
【0020】
キャップ金属層21には、例えば、クロム/ニッケル/金(Cr/Ni/Au)層、もしくは、チタン/パラジウム/銅/ニッケル/金(Ti/Pd/Cu/Ni/Au)層(Au層が最表面層)などを用いることができる。
(基板金属層12、透光キャップ13及び接合層24)
図2Aに示すように、基板11の上面上には、フランジ13B及びキャップ金属層21と同心の円環状の金属層12(以下、基板金属層12ともいう。)が形成されている。キャップ金属層21が基板金属層12と接合層22によって接合されることによって接合部24が形成され、基板11と透光キャップ13との気密が保たれている。
【0021】
すなわち、キャップ金属層21は、基板金属層12に対応する形状及び大きさを有し、キャップ金属層21及び基板金属層12は、接合層22によって互いに接合されている。
【0022】
基板金属層12は、基板11上に、順にタングステン、ニッケル、金を積層した構造(W/Ni/Au)を有している。あるいは、ニッケルクロム、金、ニッケル、金を積層した構造(NiCr/Au/Ni/Au)を用いることができる。なお、基板11の基材セラミックに接する金属に窒化(酸化物セラミックの場合は酸化)し易い金属を選択することで基板11に対する高い固着性を得ることができる。
【0023】
なお、基板金属層12が固着される基板11の面(基板接合面)11S及びキャップ金属層21が固着されるキャップ接合面13Sは平坦面であることが好ましい。
【0024】
接合層22は、ナノサイズのAu粒子が網目状に連結した網目構造体にAuSn合金が含浸し、内部に空洞を含んだ構造を有している。なお、接合層22の詳細な構造は後述する。
(基板、配線電極及び発光素子)
基板11は、ガス等を透過しない気密性に優れたセラミック基板である。例えば、高い熱伝導率を有し、ガスに対する気密性に優れた窒化アルミニウム(AlN)が用いられる。AlNセラミックの熱伝導率は150~170(W/m・K)であり、また熱膨張係数は4.5~4.6 (10-6・K-1)である。
【0025】
なお、基板11の基材として、熱伝導率の高い炭化ケイ素(SiC)、反射率の高い白アルミナ(Al)などを用いることができる。SiCの熱伝導率は200(W/m・K)であり熱膨張係数は4.4 (10-6・K-1)である、またAlの熱伝導率は29~32(W/m・K)であり熱膨張係数は7.7~8 (10-6・K-1)である。
【0026】
図1Dに及び図2Aに示すように、基板11上には、半導体発光装置10内の配線電極である第1配線電極(例えば、アノード電極)14A及び第2配線電極(例えば、カソード電極)14Bが備えられている(以下、特に区別しない場合には、配線電極14と称する。)。発光ダイオード(LED)又は半導体レーザなどの半導体発光素子15が第1配線電極14A上に金属接合層15Aによって接合され、発光素子15上のボンディングパッド15Bがボンディングワイヤ18Cを介して第2配線電極14Bに電気的に接続されている。
【0027】
発光素子15は、n型半導体層、発光層及びp型半導体層を含む半導体構造層が形成されたアルミ窒化ガリウム(AlGaN)系の半導体発光素子(LED)である。また、発光素子15は、半導体構造層が、反射層を介して導電性の支持基板(シリコン:Si)上に形成(接合)されている。
【0028】
発光素子15は、支持基板の半導体構造層が接合された面の反対面(発光素子15の裏面とも称する)にアノード電極を備え(図示せず)、基板11上の第1配線電極14Aに電気的に接続されている。また、発光素子15は、半導体構造層の支持基板が接合された面の反対面(発光素子15の表面とも称する)にカソード電極(パッド15B)を備え、ボンディングワイヤを介して第2配線電極14Bに電気的に接続されている。
【0029】
発光素子15は、波長265~415nmの紫外光を発光する窒化アルミ系の発光素子であることが好適である。具体的には、発光中心波長が、265nm、275nm、355nm、365nm、385nm、405nm又は415nmの発光素子を用いた。
【0030】
窒化アルミ系の紫外線を放射する発光素子(UV-LED素子)を構成する半導体結晶のAl組成は高く、水分(HO)や過剰な酸素(O)によって酸化劣化され易い。半導体発光装置10内の封入ガスとしては、ドライな窒素ガス(又は不活性ガス)及びドライな酸素ガスを3~20%の範囲で含む混合ガスを用いることが好適である。
【0031】
なお、発光素子15の第1配線電極14Aへの接合にフラックス等の有機物を含む接合部材を用いた場合には、接合部材の残留フラックス(有機物)による発光素子表面への炭化物の堆積が起こるが、封入ガスに若干のOを混合することで防止することができる。このとき、Oは発光素子15を劣化させる以前に不活性化されるので問題ない。
【0032】
また、基板11上には、第1配線電極14A及び第2配線電極14Bに接続されたツェナーダイオード(ZD)である保護素子16が設けられ、発光素子15の静電破壊を防止する。
【0033】
基板金属層12は、第1配線電極14A、第2配線電極14B、発光素子15及び保護素子16とは電気的に絶縁され、これらを取り囲むように形成されている。
【0034】
図1Cに示すように、基板11の裏面には、第1配線電極14A及び第2配線電極14Bにそれぞれ接続された第1実装電極17A及び第2実装電極17B(以下、特に区別しない場合には、実装電極17と称する。)が設けられている。具体的には、第1配線電極14A及び第2配線電極14Bの各々は、金属ビア18A、18B(以下、特に区別しない場合には、金属ビア18と称する。)を介してそれぞれ第1実装電極17A及び第2実装電極17Bに接続されている。
【0035】
配線電極14、実装電極17及び金属ビア18は、例えば、タングステン/ニッケル/金(W/Ni/Au)、もしくは、ニッケルクロム/金/ニッケル/金 (NiCr/Au/Ni/Au)である。すなわち、基板11は、ビアが金属で充填されて気密が保たれた気密性の基板である。
【0036】
図2Aを参照すると、半導体発光装置10は配線回路基板(図示しない)上に実装されるように構成され、第1実装電極17A及び第2実装電極17Bへの電圧印加によって、発光素子15は発光し、発光素子15の表面(光取り出し面)からの放射光LEは透光キャップ13を経て外部に放射される。
[発光装置10の製造方法]
以下に、発光装置10の製造方法について、詳細かつ具体的に説明する。
(素子接合工程)
まず、基板11の第1配線電極14A上に、素子接合のための揮発性ソルダーペーストはんだを塗布する。揮発性ソルダーペーストとしては、融点付近に沸点を有するフラックスと金錫合金(AuSn)の微粒子からなる揮発性ソルダーペーストはんだを用いた。金錫合金の組成は、溶融温度が約280℃のAu-Sn:20wt%のものを用いた。粒子サイズは、数nm~数十μmである。フラックスは、例えば、発光素子15の光(365nm)で炭化するロジン類、アルコール類、糖類、エステル類、脂肪酸類、油脂類、重合油類、界面活性剤、有機酸、などである。
【0037】
次に、発光素子15をAuSnペースト上に載せて、基板を300℃まで加熱して、AuSnを溶融・固化して第1配線電極14A上に発光素子15を接合した。発光素子15は溶融したAuSn合金によりセルフアライメントされつつ接合された。なお、保護素子16を搭載する場合には同時に行う。このとき、AuSnペーストに含まれるフラックスは殆ど揮発する。
【0038】
次に、発光素子15の上部電極のボンディングパッド15Bと第2配線電極14Bとの間をボンディングワイヤ18C(Auワイヤ)によって電気的に接続する。
(透光キャップ13と基板11との接合)
図3A及び図3Bを参照して透光キャップ13と基板11との接合工程について詳細に説明する。なお、図3A及び図3Bはそれぞれ工程1~3(STEP1~STEP3)及び工程4~6(STEP4~STEP6)におけるキャップ金属層21と基板金属層12との接合部を模式的に示す図である。また、各工程における断面図を上側に示し、当該断面図のA-A線に平行な面における平面図を下側に示している。なお、それぞれ基板金属層12の延在方向に沿った断面及び平面を示している。
(STEP1)
まず、基板11と、透光キャップ13とをキャップ接合装置にセットする。次に、基板11及び透光キャップ13の雰囲気を真空状態にし、温度275℃で15分間、加熱処理(アニール処理)した。前述のように、基板11及び透光キャップ13は気密性である。
【0039】
続いて、基板11及び透光キャップ13の雰囲気をドライ窒素(N)ガス、1気圧(101.3kPa)で満たした。次に、図3Aに示す工程1(STEP1)の断面図(上側)及び平面図(下側)に示すように、ノズルNZ1から溶融したAuSn融液22Dを基板金属層12上に打ち付けてAuSnバンプ22Bを形成した。
【0040】
AuSnバンプ22Bは、基板金属層12の延在方向の中心線であるB-B線(図1Dの場合では、円CF)に沿って一定周期で形成されるのが好ましい。また、AuSnバンプ22Bは、同一サイズを有することが好ましい。AuSnバンプ22Bは、円環状の基板金属層12の延在方向の全体に亘って形成される。
【0041】
図1A及び図1Dは、上面から見たとき(上面視)のAuSnバンプ22Bの配列を模式的に示している。複数のAuSnバンプ22Bは、円環形状の基板金属層12の中心Cを中心とする円周に沿って、特に当該円環の幅の中心を通る円周CFに沿ってその全体に亘って形成されることが好ましい。
【0042】
AuSnバンプ22Bは、球形状又は半球形状を有して形成されることが好ましい。例えば、非特許文献1(長瀬産業株式会社/レーザーリフロー式はんだボールジェットシステム/原理)に記載のように、溶融したはんだボールをキャピラリから射出し、半球状のはんだバンプを基板上に形成することができる。
(STEP2)
続いて、ノズルNZ2からナノ金粒子ペースト(以下、単にナノAuペーストと称する。)22Nを吐出し、AnSnバンプ22Bに沿ってAnSnバンプ22Bを覆うように塗布した。この際、ナノAuペースト22NはAnSnバンプ22Bにガイドされて塗布された。
【0043】
ここで、ナノAuペースト22Nとしては、例えば、非特許文献2の田中貴金属製の低温焼成ペーストAuRoFUSE(登録商標)を用いることができる(https://tanaka-preciousmetals.com/jp/products/detail/aurofuse/?nav=use)。当該ナノAuペーストは、サブミクロンサイズの金粒子と溶剤のみで構成され、低温焼結性能を有し、200℃で金-金接合が可能なハロゲンフリーのAuペーストである。また、低電気抵抗及び高熱伝導度(150W/m・K)の金属接合が可能である。
(STEP3,4)
次に、透光キャップ13のフランジ金属層21をナノAuペースト22N上に載置し(STEP3)、透光キャップ13のフランジ13B(図示は省略)を押圧した(STEP4)。この際、フランジ金属層21がAnSnバンプ22Bに当接するようにフランジ13Bを押圧してもよい。この場合、AnSnバンプ22Bがスペーサの機能を果たす。
【0044】
フランジ金属層21を押圧することにより、AnSnバンプ22BはナノAuペースト22Nによって包埋された。また、ナノAuペースト22Nは基板金属層12上に帯状に拡がって形成された(図中、矢印)。
(STEP5:ネッキング工程)
続いて、200℃の熱処理(第1の熱処理)を行うことによって、フラックスは蒸発するとともに、低温焼結してナノAu粒子が隣接粒子間で結合(ネッキング)する。その結果、ナノ金粒子焼結層は通気性のある網目(メッシュ)体であるAu網目構造体22Mになる。なお、この熱処理工程(200℃)ではAuSn合金は溶融しない。
(STEP5:ガス置換工程)
窒素雰囲気、200℃の熱処理下において、透光キャップ13及び基板11の接合体(結合体)の環境を交互に減圧及び常圧とする操作を数回繰り返して、Au網目構造体22Mを介して半導体発光装置10内のガス置換を行った。この操作により、半導体発光装置10内のフラックスガスを排気した。
【0045】
次に、半導体発光装置10内を減圧した後、窒素(N)及び酸素(O)が所望の比率(例えば4:1)からなる混合ガスを用いて常圧とすることで半導体発光装置10内に酸素を導入した。このように、ナノAu網目構造体22Mを介して半導体発光装置10内のガスの置換が可能であり、半導体発光装置10内に所望の量の酸素(O)ガスを導入することができる。
(STEP6)
続いて、AuSnバンプ22Bの溶融温度(すなわち、第1の熱処理温度よりも高温の第2の熱処理温度)まで昇温した。例えば280℃まで昇温すると、溶融したAuSn(接合金属)がナノAu網目構造体22Mの隙間に含浸して気密性の高いAuSn含浸網目構造体22Pが形成される。
【0046】
また、当該第2の熱処理によって、AuSnがナノAu網目構造体22Mに含浸し(図中、矢印)、気密性の接合層22が形成されると同時に、AuSnバンプ22Bの内部には含浸によってAuSnが抜けた空洞(キャビティ)22Cが形成された。
【0047】
すなわち、図3B及び図2Bに示すように、接合層22は、ナノAu網目構造体22MにAuSnが含浸した接合層であり、内部にはAuSnの含浸に応じたサイズの空洞22Cを含む。空洞22Cは、図3Bに模式的に示すように、半球形状を有することが好ましい。この場合、半球面は応力分散面となるので、さらに応力耐性の高い接合を形成することができる。
【0048】
以上の工程により、基板11と透光キャップ13とが気密接合された半導体発光装置10が製造された。上記したように、基板11と透光キャップ13とは、接合金属がナノAu網目構造体22Mに含浸して形成された気密性の高い含浸接合体である接合層22によって接合されている。
【0049】
より詳細には、柔らかいAu網目状体と、硬いAuSn媒質体によって、柔軟かつ高い強度の接合層を形成することができるので、応力耐性の高い接合を提供することが可能である。
【0050】
すなわち、Au網目状体に含浸した接合金属(AuSn)媒質体構造によって、AuSn媒質体の残存応力がAu網目状体に吸収されるので、結晶粒界破断を防止することができる(始点防止)。
【0051】
さらに、Au網目状体によって、発生したクラック(粒界破断)の成長を防止することができる(クラック成長の防止)。含浸接合体(AuSnバンプ)内の空洞構造により、発生したクラックを寸断(または成長経路を曲げる)することができる(クラック成長の内部終焉)。
【0052】
また、ナノAuペーストのフラックスが除去され、パッケージ内部を所定の混合気とした構造を有する。すなわち、通気性のあるAu網目状体と接合金属(AuSn)バンプとからなる含浸前の状態において、パッケージ内部の排気及びフラック除去を行った後、混合ガスをパッケージ内部に導入することが可能である。
【0053】
すなわち、基板11及び透光キャップ13からなる発光素子パッケージにガス置換口(脱気口)を設けることなく、発光素子パッケージ内のガス置換を行い、パッケージ内を所望のガスで封入することができる。
[第2の実施形態]
図4Aは、本発明の第2の実施形態による半導体発光装置50の断面を模式的に示す断面図である。第1の実施形態の半導体発光装置10においては、透光キャップ13が、半球状の透光性窓及び平坦なフランジからなるパッケージについて説明したが、これに限らない。第2の実施形態においては、透光キャップ13は、円盤状の平板として構成されている。図4Bは、基板11と透光キャップ13とが接合された部分Wを拡大して示す部分拡大断面図である。
【0054】
より詳細には、透光キャップ13の円環形状の外縁部がキャップ接合部であるフランジ13Bであり、その内側が透光部である窓部13Aである。例えば、1枚の円盤状ガラスから形成されている。フランジ13Bの底面(すなわち、透光キャップ13の底面の円環形状外周部)には円環形状のフランジ金属層21が固着されている。
【0055】
図4Bに示すように、フランジ金属層21が含浸接合体である接合層22によって基板金属層12に接合されることによって接合部24が形成され、基板11と透光キャップ13との気密が保たれている。第1の実施形態の場合と同様に、気密性の基板11と気密性の透光キャップ13とが接合層22によって接合されて半導体発光装置50が形成されている。
【0056】
本実施形態の半導体発光装置50においては、半導体発光素子15をその内部に収容する空間HSを有している。より詳細には、基板11と、基板11の外周部に立設されて形成された枠11Aと、透光キャップ13とによって画定される円柱状の凹部である収容空間HSを有するハウジング構造(枠構造)として構成されている。枠11Aの平坦な頂面上に透光キャップ13が接合されている。
【0057】
含浸接合体である接合層22は、第1の実施形態と同様に形成される。すなわち、図4Bに示すように、接合層22は、ナノAu網目構造体にAuSnが含浸した気密性の高いAuSn含浸網目構造体22Pと、基板金属層12上に基板金属層12に沿って配列され、内部に形成された空洞22Cを有している。
【0058】
従って、基板11と透光キャップ13とは、接合金属がナノAu網目構造体22Mに含浸して形成された気密性の高い接合層22によって接合されている。また、基板11及び透光キャップ13からなる発光素子パッケージにガス置換口(脱気口)を設けることなく、発光素子パッケージ内の半導体発光素子の収容空間HSのガス置換を行い、パッケージ内を所望のガスで封入することができる。
[さらなる実施形態]
上記した実施形態においては、フランジ13Bの接合面、すなわちフランジ金属層21が円環形状を有する場合について説明したが、これに限らない。例えば、フランジ金属層21が矩形形状、又はn角形(nは3以上の整数)の多角形状を有し、基板金属層12がフランジ金属層21に対応する形状及び大きさを有して接合されるように構成されていてもよい。
【0059】
また、基板11が半導体発光素子15を収容する空間を有する場合、基板金属層12及びフランジ金属層21の形状に応じて、当該収容空間は角柱形状、多角柱形状を有していてもよく、また、角部がR面加工(面取り)された角柱形状を有していてもよい。
【0060】
以上、詳細に説明したように、パッケージにガス置換口を設けることなく、半導体発光素子が劣化し難い環境(ガス雰囲気)にパッケージ内部を置換でき、かつ高い気密性を有する半導体発光装置及びその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0061】
10,50 半導体発光装置
11 基板
11S 基板接合面
12 基板金属層
13 透光キャップ
13A 窓部
13B キャップ接合部
13S キャップ接合面
14,14A,14B 配線電極
15 半導体発光素子
21 キャップ金属層
22 接合層
22B 接合材バンプ
22C 空洞
22M Au網目構造体
22N ナノAuペースト
24 接合部
HS パッケージの収容空間
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B