(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】電解コンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/028 20060101AFI20240912BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H01G9/028 F
H01G9/028 G
H01G9/00 290H
(21)【出願番号】P 2021045129
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】峯村 英利
(72)【発明者】
【氏名】多田 勝
(72)【発明者】
【氏名】根尾 定弘
【審査官】上谷 奈那
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-135212(JP,A)
【文献】国際公開第2018/235434(WO,A1)
【文献】特開2008-166364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/028
H01G 9/00
H01G 9/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体酸化皮膜を有する陽極と陰極とをセパレータを介して巻回してコンデンサ素子を作成する第1の工程と、
前記コンデンサ素子の少なくとも前記誘電体酸化皮膜と前記セパレータとの間に第1の導電性高分子層を形成する第2の工程と、
前記第1の導電性高分子層を形成したコンデンサ素子に第2の導電性高分子層を形成する第3の工程と、
前記第2の導電性高分子層を形成したコンデンサ素子を外装体に収容する第4の工程とを備え、
前記第2の工程が、少なくとも第1モノマーと第1ドーパントを含む第1液に前記コンデンサ素子を浸漬して引き上げた後、熱処理によって第1の導電性高分子層を形成するものであり、
前記第3の工程が、少なくとも前記第1モノマーと同じ第2モノマーと第2ドーパントを含む第2液に前記第1の導電性高分子層を形成したコンデンサ素子を浸漬して引き上げた後、熱処理によって第2の導電性高分子層を形成するものであり、
前記第1ドーパントの沸点は、前記第2ドーパントの沸点より低いことを特徴とする電解コンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記第2液中の前記第2モノマー濃度が、前記第1液中の前記第1モノマー濃度より高いことを特徴とする請求項
1に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
前記第2液が鉄イオンをさらに含み、
前記第2液に含まれる鉄イオンに対する第2ドーパントのモル比が、2.6以上3.0以下であることを特徴とする請求項
1に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
前記第1液が鉄イオンをさらに含み、
前記第1液に含まれる鉄イオンに対する第1ドーパントのモル比が、2.6以上3.4以下であることを特徴とする請求項
1に記載の電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサとして、誘電体酸化皮膜を有する陽極と、陰極と、陽極および陰極の間に配置されたセパレータとを有するコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子が収納された外装ケースと、外装ケースの開口を封止する封口体(封口手段)と、を備えた電解コンデンサが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、陽極に接続された電極引き出し手段の封口体貫通用丸棒部と溶接部において、少なくとも丸棒部を、予めポリイミドシリコンによりコートし、その後、コンデンサ素子の両電極間に固体電解質層を形成している。これにより、固体電解質が溶接部に付着した場合にショートが発生することが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した電解コンデンサには、固体電解質層を形成する前に絶縁物であるポリイミドシリコンがコートされているため、過電圧などが印加された際、ショートの発生を抑制できるものの、絶縁物が抵抗となるため、電解コンデンサの等価直列抵抗(ESR)が高くなる。
【0006】
本発明の目的は、電解コンデンサに過電圧などが印加された際、ショートの発生を抑制でき、かつ、ESRの上昇が抑制される電解コンデンサ、および、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電解コンデンサは、誘電体酸化皮膜を有する陽極と、陰極と、前記陽極および前記陰極の間に配置されたセパレータとを有するコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子が収容された外装体と、を備えた電解コンデンサであり、前記コンデンサ素子は、前記誘電体酸化皮膜と前記セパレータとの間に形成された、第1の導電性高分子層および第2の導電性高分子層を有し、前記第1の導電性高分子層の前記誘電体酸化皮膜との接触面積は、前記第2の導電性高分子層の前記誘電体酸化皮膜との接触面積より大きく、前記第1の導電性高分子層は、高分子と、第1ドーパントとを含み、前記第2の導電性高分子層は、前記第1の導電性高分子層に含まれる前記高分子と同じ高分子と、第2ドーパントとを含み、第1ドーパントの沸点は、前記第2ドーパントの沸点より低い。
【0008】
本発明者らの知見から、以下のことがわかった。
上記構成によると、誘電体酸化皮膜との接触面積が大きい第1の導電性高分子層に含まれる第1ドーパントの沸点が、第2の導電性高分子層に含まれる第2ドーパントの沸点より低い。電解コンデンサに過電圧などが印加された際、第1の導電性高分子層に含まれる第1ドーパントが、第2ドーパントより早く分解する。これにより、誘電体酸化皮膜との接触面積が大きい第1の導電性高分子層は、第2導電性高分子層より早く導電性を失い、絶縁化する。その結果、ショートの発生が抑制されることがわかった。
一方、誘電体酸化皮膜との接触面積が小さい第2の導電性高分子層は、第1の導電性高分子層より絶縁化しにくい。そのため、第2の導電性高分子層は抵抗となりにくい。これにより、過電圧が印加されても、電解コンデンサのESRが上昇しにくいことがわかった。
上記より、本発明によると、過電圧などが印加された際、ショートの発生を抑制でき、かつ、ESRの上昇が抑制される電解コンデンサを提供することができる。
【0009】
上記構成において、前記第2の導電性高分子層における高分子の重量が、前記第1の導電性高分子層における高分子の重量より大きいことが好ましい。
【0010】
上記構成によると、第1の導電性高分子層と第2の導電性高分子層とにおいて、絶縁化しにくい第2の導電性高分子層の高分子の重量が、絶縁化しやすい第1の導電性高分子層の高分子の重量より大きい。これは、抵抗になりにくい第2の導電性高分子層の高分子が比較的多いことを示す。そのため、過電圧が印加されても、電解コンデンサのESRがより上昇しにくい。
【0011】
本発明の電解コンデンサの製造方法は、誘電体酸化皮膜を有する陽極と陰極とをセパレータを介して巻回してコンデンサ素子を作成する第1の工程と、前記コンデンサ素子の少なくとも前記誘電体酸化皮膜と前記セパレータとの間に第1の導電性高分子層を形成する第2の工程と、前記第1の導電性高分子層を形成したコンデンサ素子に第2の導電性高分子層を形成する第3の工程と、前記第2の導電性高分子層を形成したコンデンサ素子を外装体に収容する第4の工程とを備え、前記第2の工程が、少なくとも第1モノマーと第1ドーパントを含む第1液に前記コンデンサ素子を浸漬して引き上げた後、熱処理によって第1の導電性高分子層を形成するものであり、前記第3の工程が、少なくとも前記第1モノマーと同じ第2モノマーと第2ドーパントを含む第2液に前記第1の導電性高分子層を形成したコンデンサ素子を浸漬して引き上げた後、熱処理によって第2の導電性高分子層を形成するものであり、前記第1ドーパントの沸点は、前記第2ドーパントの沸点より低い。
【0012】
上記構成によると、先に形成される第1の導電性高分子層は、後に形成される第2の導電性高分子層より、誘電体酸化皮膜との接触面積が大きい。誘電体酸化皮膜との接触面積が大きい第1の導電性高分子層に含まれる第1ドーパントの沸点が、第2の導電性高分子層に含まれる第2ドーパントの沸点より低い。そのため、電解コンデンサに過電圧などが印加された際、第1の導電性高分子層に含まれる第1ドーパントが、第2ドーパントより早く分解する。これにより、誘電体酸化皮膜との接触面積が大きい第1の導電性高分子層が、第2導電性高分子層より早く導電性を失い、絶縁化する。その結果、ショートの発生が抑制されることがわかった。
一方、誘電体酸化皮膜において、接触面積が小さい第2の導電性高分子層は、第1の導電性高分子層より絶縁化しにくい。そのため、第2の導電性高分子層は抵抗となりにくい。これにより、過電圧が印加されても、電解コンデンサのESRが上昇しにくいことがわかった。
上記より、本発明によると、過電圧などが印加された際、ショートの発生を抑制でき、かつ、ESRの上昇が抑制される電解コンデンサを提供することができる。
【0013】
上記構成において、前記第2液中の前記第2モノマー濃度が、前記第1液中の前記第1モノマー濃度より高いことが好ましい。
【0014】
上記構成によると、第2液によって形成された第2の導電性高分子層中の高分子の重量が、第1液によって形成された第1の導電性高分子層中の高分子の重量より大きくなる。これにより、抵抗になりにくい第2の導電性高分子層の高分子が比較的多くなる。そのため、過電圧が印加されても、電解コンデンサのESRがより上昇しにくい。
【0015】
上記構成において、前記第2液が鉄イオンをさらに含み、前記第2液に含まれる鉄イオンに対する第2ドーパントのモル比が、2.6以上3.0以下であることが好ましい。
【0016】
上記構成により、過電圧などを印加する前の初期のESRが低い電解コンデンサを提供することができる。
【0017】
上記構成において、前記第1液が鉄イオンをさらに含み、前記第1液に含まれる鉄イオンに対する第1ドーパントのモル比が、2.6以上3.4以下であることが好ましい。
【0018】
上記構成により、静電容量が高く漏れ電流が低い電解コンデンサを提供することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、電解コンデンサに過電圧などが印加された際、ショートの発生を抑制でき、かつ、ESRの上昇が抑制される電解コンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係る電解コンデンサの要部切断正面図である。
【
図2】
図1に示すコンデンサ素子の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
電解コンデンサ1は、
図1に示すように、外装ケース2および外装ケース2の開口を封止した封口体3を有する外装体4と、外装体4に収容されたコンデンサ素子5とを備えている。
【0023】
コンデンサ素子5は、
図2に示すように、陽極11と陰極12とをセパレータ13を介して円筒形に巻回して形成され、外周面に貼り付けられたテープ14により巻止めされている。
【0024】
陽極11および陰極12にはそれぞれ図示しないリードタブが接続されている。陽極11は、リードタブを介して、リード端子21に接続されている。陰極12は、リードタブを介して、リード端子22に接続されている。リード端子21およびリード端子22は、それぞれ、
図1に示すように、封口体3に形成された孔31および孔32を通って外部に引き出されている。
【0025】
図2に示す陽極11は、表面に誘電体である誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属である。弁作用金属として、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブおよびチタンから構成される群より選択される少なくとも1つが挙げられる。誘電体酸化皮膜は、例えば、弁作用金属の箔の表面をエッチング処理により粗面化した後、化成処理を施すことによって形成される。
【0026】
陰極12は、弁作用金属を用いて形成されている。陰極12として、例えば、弁作用金属箔の表面をエッチング処理により粗面化した箔、または、粗面化後、化成処理を施した箔が使用される。陰極12として、エッチング処理を施さないプレーン箔を使用してもよい。さらに、前記粗面化箔もしくはプレーン箔の表面に、チタン、ニッケル、チタン炭化物、ニッケル炭化物、チタン窒化物、ニッケル窒化物、チタン炭窒化物およびニッケル炭窒化物からなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む金属薄膜が形成されたコーティング箔を使用してもよい。また、粗面化箔もしくはプレーン箔の表面にカーボン薄膜が形成されたコーティング箔を使用してもよい。
【0027】
セパレータ13の材質は特に限定されない。セパレータ13として、例えば、セルロースを主体とするものを使用してもよい。
【0028】
コンデンサ素子5は、少なくとも陽極11の誘電体酸化皮膜とセパレータ13との間に、第1の導電性高分子層および第2の導電性高分子層を有する。第1の導電性高分子層と誘電体酸化皮膜との接触面積は、第2の導電性高分子層と誘電体酸化皮膜との接触面積より大きい。第2の導電性高分子層と誘電体酸化皮膜との接触面積は、第1の導電性高分子層と誘電体酸化皮膜との接触面積の50%以上が好ましい。第1の導電性高分子層および第2の導電性高分子層は、陽極11の誘電体酸化皮膜とセパレータ13との間以外の部分にも形成されていてもよい。
【0029】
第1の導電性高分子層と第2の導電性高分子層とが存在する形態は、誘電体酸化皮膜に対する第1の導電性高分子層の接触面積が第2の導電性高分子層の接触面積より大きい限り、特に限定されない。例えば、誘電体酸化皮膜の上に第1の導電性高分子層が形成され、第1の導電性高分子層の上に第2の導電性高分子層が形成されていてもよい。誘電体酸化皮膜の上に、第1の導電性高分子層と第2の導電性高分子層とが存在してもよい。第1の導電性高分子層の隙間に第2の導電性高分子層が存在してもよい。ここでの「層」とは、平板状であってもよく、平板状でなくてもよい。
【0030】
第1の導電性高分子層は、高分子と、第1ドーパントとを含む。高分子は特定のものに限定されない。分子として、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンまたはそれらの誘導体が挙げられる。第1ドーパントは特定のものに限定されない。第1ドーパントとして、例えば、p-トルエンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸が挙げられる。
【0031】
第1の導電性高分子層は、鉄を含む酸化剤をさらに含んでいてもよい。鉄を含む酸化剤として、例えば、p-トルエンスルホン酸第二鉄、ベンゼンスルホン酸第二鉄が挙げられる。酸化剤は、例えば、第1の導電性高分子層を形成するとき、モノマーを化学酸化重合させるために用いられる。第1の導電性高分子層は、鉄を含む酸化剤とドーパントとを別々に含んでいてもよく、鉄とドーパントの酸との化合物を含んでいてもよい。鉄とドーパントの酸との化合物は、酸化剤兼ドーパントとして機能する。
【0032】
第2の導電性高分子層は、高分子と、第2ドーパントとを含む。第2の導電性高分子層に含まれる高分子は、第1の導電性高分子層に含まれる高分子と同じ高分子である。ここで、「第1の導電性高分子層に含まれる高分子と同じ高分子」とは、第1の導電性高分子層に含まれる高分子のモノマーと同じモノマーを重合して得られた高分子である。モノマー同士が同じであれば、つまり、「第1の導電性高分子層に含まれる高分子のモノマー」と「第2の導電性高分子層に含まれる高分子のモノマー」とが同じであれば、「第1の導電性高分子層に含まれる高分子の重合度」と、「第2の導電性高分子層に含まれる高分子の重合度」とが、同じでも、異なっても、「第1の導電性高分子層に含まれる高分子」と「第2の導電性高分子層に含まれる高分子」は同じである。
【0033】
第2ドーパントは特定のものに限定されない。第2ドーパントとして、例えば、p-トルエンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ベンゼンスルホン酸が挙げられる。
【0034】
第2の導電性高分子層は、鉄を含む酸化剤をさらに含んでいてもよい。鉄を含む酸化剤として、例えば、p-トルエンスルホン酸第二鉄、1-ナフタレンスルホン酸第二鉄が挙げられる。酸化剤は、例えば、第2の導電性高分子層を形成するとき、モノマーを化学酸化重合させるために用いられる。第2の導電性高分子層は、鉄を含む酸化剤とドーパントとを別々に含んでいてもよく、鉄とドーパントの酸との化合物を含んでいてもよい。鉄とドーパントの酸との化合物は、酸化剤兼ドーパントとして機能する。
【0035】
第1の導電性高分子層および第2の導電性高分子層の両方が鉄を含む酸化剤を含む場合、第1の導電性高分子層に含まれる酸化剤(鉄を含む酸化剤)と第2の導電性高分子層に含まれる酸化剤とは、同じでもよく、異なってもよい。
【0036】
第1の導電性高分子層に含まれる第1ドーパントの沸点は、第2の導電性高分子層に含まれる第2ドーパントの沸点より低い。言い換えると、第1ドーパントの熱安定性は、第2ドーパントの熱安定性より低い。
【0037】
第1ドーパントの沸点は特に限定されない。第2ドーパントの沸点は特に限定されない。第1ドーパントの沸点は、例えば、200℃以下が好ましく、さらに好ましくは150℃以下である。第2ドーパントの沸点は、例えば、140℃以上が好ましく、さらに好ましくは300℃以上である。第1ドーパントの沸点と第2ドーパントの沸点との差は、例えば、2℃以上であることが好ましく、15℃以上であることがさらに好ましく、150℃以上がより好ましい。
【0038】
第2の導電性高分子層における高分子の重量は、前記第1の導電性高分子層における高分子の重量より大きい。例えば、第2の導電性高分子層を形成するためにコンデンサ素子を浸漬する第2液の第2モノマー濃度を、第1の導電性高分子層を形成するためにコンデンサ素子を浸漬する第1液の第1モノマー濃度より高くすることで、前記第2の導電性高分子層における高分子の重量を、前記第1の導電性高分子層における高分子の重量より多くすることができる。また、第1モノマー濃度と第2モノマー濃度が同濃度以下の場合、第2液に浸漬し引き上げて熱処理を行う回数を複数回繰り返すことでも前記第1の導電性高分子層における高分子の量より多くすることができる。一方で、浸漬~熱処理を繰り返すことは生産性が低下するので、第2モノマー濃度は第1モノマー濃度の2倍以上であることが好ましく、3倍以上であることがさらに好ましい。
【0039】
上述した電解コンデンサ1は、例えば以下の方法によって作製される。ここでは、第1の導電性高分子層および第2の導電性高分子層を形成するとき、モノマーを化学酸化重合する方法について説明する。
【0040】
所定の幅に切断された陽極11および陰極12(
図2参照)に、外部引き出し電極用のリードタブを接続する。リードタブが接続された陽極11および陰極12を、セパレータ13を介して巻回することにより、コンデンサ素子5となる本体部を作製する(第1の工程)。陽極11は、誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属である。
【0041】
コンデンサ素子5となる本体部の切り口や本体部の作製時に欠損した誘電体酸化皮膜を修復するため、本体部を化成処理する。化成処理は、化成液中で本体部に電圧を印加することによって行われる。化成処理に使用される化成液として、例えば、アジピン酸およびアジピン酸塩の少なくとも一方を含む水溶液が挙げられる。
【0042】
続いて、第1の導電性高分子層を形成するため、本体部を、第1モノマーと、第1ドーパントと、鉄を含む酸化剤とを含む第1液に浸した後、熱処理する。第1ドーパントと鉄を含む酸化剤とは、互いに異なるものあってもよく、第1ドーパント兼酸化剤のものであってもよい。第1モノマーが重合することにより、少なくとも誘電体酸化皮膜とセパレータ13との間に、第1の導電性高分子層が形成される(第2の工程)。熱処理後、必要に応じて、本体部を乾燥させてもよい。
【0043】
次に、第2の導電性高分子層を形成するため、第2モノマーと、第2ドーパントと、鉄を含む酸化剤とを含む第2液に、第1の導電性高分子層が形成された本体部を浸した後、熱処理する。第2モノマーは、第1の導電性高分子層を形成するときに使用した第1液に含まれる第1モノマーと同じモノマーである。第2液に含まれる第2モノマーの濃度は、第1液に含まれる第1モノマーの濃度より高い。例えば、第1液に含まれる第1モノマーの濃度を10wt%以上30wt%以下とし、第2液に含まれる第2モノマーの濃度を30wt%以上70wt%以下とする。第2液に含まれる第2モノマー濃度は、第1液に含まれる第1モノマー濃度の2倍以上であることが好ましく、3倍以上であることがさらに好ましい。第2モノマーが重合することにより、第2の導電性高分子層が形成される(第3の工程)。熱処理後、必要に応じて、本体部を乾燥させてもよい。これにより、コンデンサ素子5が得られる。コンデンサ素子5を金属ケースに収容する(第4の工程)ことにより、電解コンデンサ1が得られる。
【0044】
上記方法により、少なくとも陽極11の誘電体酸化皮膜とセパレータとの間に、第1の導電性高分子層および第2の導電性高分子層が形成される。第1の導電性高分子層を先に形成することにより、誘電体酸化皮膜の大部分に、第1の導電性高分子層が形成される。そのため、先に形成された第1の導電性高分子層と誘電体酸化皮膜との接触面積は、後に形成された第2の導電性高分子層と誘電体酸化皮膜との接触面積より大きい。
【0045】
上述した方法では、第2液に含まれる第2モノマーの濃度が、第1液に含まれる第1モノマーの濃度より高いため、得られた電解コンデンサにおいて、第2の導電性高分子層における高分子の重量は、第1の導電性高分子層における高分子の重量より大きい。
【0046】
本発明者らの知見から、本実施形態にかかる電解コンデンサ1によって、以下の効果が得られることがわかった。
誘電体酸化皮膜において、接触面積が大きい第1の導電性高分子層に含まれる第1ドーパントの沸点が、第2の導電性高分子層に含まれる第2ドーパントの沸点より低い。電解コンデンサ1に過電圧などが印加された際、第1の導電性高分子層に含まれる第1ドーパントが、第2ドーパントより早く分解する。これにより、誘電体酸化皮膜との接触面積が大きい第1の導電性高分子層が、第2の導電性高分子層より早く導電性を失い、絶縁化する。これにより、ショートの発生が抑制される。
一方、誘電体酸化皮膜において、接触面積が小さい第2の導電性高分子層は、第1の導電性高分子層より絶縁化しにくい。そのため、第2の導電性高分子層は抵抗となりにくい。これにより、過電圧が印加されても、電解コンデンサ1のESRが上昇しにくいことがわかった。
上記電解コンデンサ1によれば、過電圧などが印加された際、ショートの発生を抑制でき、かつ、ESRの上昇を抑制できる。
【0047】
また、絶縁化しにくい第2の導電性高分子層における高分子の重量は、第1の導電性高分子層における高分子の重量より大きい。これは、抵抗になりにくい第2の導電性高分子層の高分子が多いことを示す。そのため、過電圧が印加されても、電解コンデンサのESRがより上昇しにくい。
【0048】
なお、上記では、電解コンデンサの製造工程において、第2液に含まれる第2モノマーの濃度を、第1液に含まれる第1モノマーの濃度より高くした。これにより、第2の導電性高分子層における高分子の重量が、第1の導電性高分子層における高分子の重量より大きくなる。しかし、第1液に含まれる第1モノマーの濃度と第2液に含まれる第2モノマーの濃度とが同じ、または、第1液に含まれる第1モノマーの濃度が第2液に含まれる第2モノマーの濃度より高い場合であってもよい。この場合、例えば、第1の導電性高分子層が形成されたコンデンサ素子の本体部を、第2モノマーを含む第2液に浸した後、引き上げて熱処理する工程を複数回繰り返し行うことにより、得られた電解コンデンサにおいて、第2の導電性高分子層における高分子の重量が、第1の導電性高分子層における高分子の重量より大きくなる。
【0049】
また、電解コンデンサの製造工程において、第2液に鉄イオンが含まれる場合、第2液に含まれる鉄イオンに対する第2ドーパントのモル比が、2.6以上3.0以下であることが好ましい。また、第2の導電性高分子層が、鉄を含む酸化剤を含む場合、第2の導電性高分子層において、酸化剤に含まれる鉄:第2ドーパントのモル比が、1:2.6~3.0であることが好ましい。この場合、電解コンデンサ1の初期のESR(過電圧などを印加する前のESR)が比較的低い傾向がある。
【0050】
また、電解コンデンサの製造工程において、前記第1液に鉄イオンが含まれる場合、前記第1液に含まれる鉄イオンに対する第1ドーパントのモル比が、2.6以上3.4以下であることが好ましい。第1の導電性高分子層が、鉄を含む酸化剤を含む場合、第1の導電性高分子層において、酸化剤に含まれる鉄:第1ドーパントのモル比が、1:2.6~3.4であることが好ましい。この場合、静電容量が高く漏れ電流が低い電解コンデンサを提供することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。
【0052】
以下の方法により電解コンデンサを作製した。
【0053】
所定の幅に切断された陽極箔および陰極箔に外部引き出し電極用のアルミリードタブを接続した。陽極アルミ箔は、弁作用金属であるアルミニウム箔の表面にエッチング処理を施すことよって粗面化した後、60Vで化成処理を施すことによって誘電体酸化皮膜が形成されたものである。陰極箔は、カーボンを担持したアルミニウム箔である。陽極アルミ箔および陰極アルミ箔を、セルロースを主体とした電解紙(セパレータ)を介して巻回することにより、コンデンサ素子となる本体部を作製した。
【0054】
陽極箔の切り口およびリードタブの取り付け部に欠損した誘電体酸化皮膜を修復するため、化成処理を行った。化成処理は、化成液にコンデンサ素子となる本体部を浸した状態で、誘電体酸化皮膜の化成電圧値に近似した電圧を印加することにより行った。化成液として、アジピン酸アンモニウム濃度が2wt%のアジピン酸アンモニウム水溶液を使用した。
【0055】
次に、下記の条件で(後述の[第1の導電性高分子層および第2の導電性高分子層の作製条件]で)、エチレンジオキシチオフェン(EDOT)と第1ドーパントと第1ドーパントの鉄塩(ドーパント兼酸化剤)30wt%およびエタノールを混合した第1液に、コンデンサ素子となる本体部を30分間浸漬した後、第1液から本体部を引き上げ、40℃で、1時間、熱処理することにより、第1の導電性高分子層を形成した。
【0056】
続いて、下記の条件で、エチレンジオキシチオフェン(EDOT)と第2ドーパントと第2ドーパントの鉄塩(ドーパント兼酸化剤)30wt%およびエタノールを混合した第2液に、コンデンサ素子となる本体部を30分間浸漬した後、第2液から本体部を引き上げ、40℃で、1時間、熱処理し、その後、220℃で、15分間、熱処理した。その後、コンデンサ素子となる本体部を、エチレングリコールに5分間浸漬し、余剰な鉄やドーパントを除去した後、160℃で、30分間、乾燥させた。これにより、第2の導電性高分子層を形成した。
【0057】
得られたコンデンサ素子のリード線を封口体の孔に挿通し、コンデンサ素子と封口体とをアルミニウム製のケース内に収容した後、ケースの開口の周縁をカーリング加工した。150℃に設定された恒温槽内で、ケースに収容されたコンデンサ素子に定格電圧(25V)を印加し、エージング処理を施すことにより、電解コンデンサを作製した。本実験で作成した電解コンデンサは、定格電圧25WV、定格静電容量150μFおよび製品サイズφ8×10L(mm)の製品である。
【0058】
[第1の導電性高分子層および第2の導電性高分子層の作製条件]
<従来条件>
モノマー(EDOT)濃度 30wt% /ドーパント p-トルエンスルホン酸(鉄:ドーパントのモル比=1:2.8)
従来条件では、導電性高分子層を一層だけ作製した。
<実施例1>
第1の導電性高分子層:モノマー(EDOT)濃度 10wt% /ドーパント p-トルエンスルホン酸(鉄:ドーパントのモル比=1:2.8)
第2の導電性高分子層:モノマー(EDOT)濃度 30wt% /ドーパント 1-ナフタレンスルホン酸(鉄:ドーパントのモル比=1:2.6)
<実施例2>
第1の導電性高分子層:モノマー(EDOT)濃度 10wt% /ドーパント エタンスルホン酸(鉄:ドーパントのモル比=1:2.6)
第2の導電性高分子層:モノマー(EDOT)濃度 30wt% /ドーパント p-トルエンスルホン酸(鉄:ドーパントのモル比=1:2.8)
<実施例3>
第1の導電性高分子層:モノマー(EDOT)濃度 10wt% /ドーパント エタンスルホン酸(鉄:ドーパントのモル比=1:3.2)
第2の導電性高分子層:モノマー(EDOT)濃度 30wt% /ドーパント p-トルエンスルホン酸(鉄:ドーパントのモル比=1:2.8)
<実施例4>
第1の導電性高分子層:モノマー(EDOT)濃度 10wt% /ドーパント ベンゼンスルホン酸(鉄:ドーパントのモル比=1:2.6)
第2の導電性高分子層:モノマー(EDOT)濃度 30wt% /ドーパント 1-ナフタレンスルホン酸(鉄:ドーパントのモル比=1:3.0)
<比較例1>
第1の導電性高分子層:モノマー(EDOT)濃度 10wt% /ドーパント ベンゼンスルホン酸(鉄:ドーパントのモル比=1:2.6)
第2の導電性高分子層:モノマー(EDOT)濃度 30wt% /ドーパント ベンゼンスルホン酸(鉄:ドーパントのモル比=1:2.6)
<比較例2>
第1の導電性高分子層:モノマー(EDOT)濃度 10wt% /ドーパント 1-ナフタレンスルホン酸(鉄:ドーパントのモル比=1:2.8)
第2の導電性高分子層:モノマー(EDOT)濃度 30wt% /ドーパント ベンゼンスルホン酸(鉄:ドーパントのモル比=1:2.8)
<比較例3>
第1の導電性高分子層:モノマー(EDOT)濃度 10wt% /ドーパント 1-ナフタレンスルホン酸(鉄:ドーパントのモル比=1:2.8)
第2の導電性高分子層:モノマー(EDOT)濃度 30wt% /ドーパント p-トルエンスルホン酸(鉄:ドーパントのモル比=1:2.8)
<実施例5>
第1の導電性高分子層:モノマー(EDOT)濃度 10wt% /ドーパント p-トルエンスルホン酸(鉄:ドーパントのモル比=1:2.8)
第2の導電性高分子層:モノマー(EDOT)濃度 30wt% /ドーパント 1-ナフタレンスルホン酸(鉄:ドーパントのモル比=1:3.2)
<実施例6>
第1の導電性高分子層:モノマー(EDOT)濃度 10wt% /ドーパント ベンゼンスルホン酸(鉄:ドーパントのモル比=1:3.4)
第2の導電性高分子層:モノマー(EDOT)濃度 30wt% /ドーパント p-トルエンスルホン酸(鉄:ドーパントのモル比=1:3.4)
<比較例4>
第1の導電性高分子層:モノマー(EDOT)濃度 10wt% /ドーパント ベンゼンスルホン酸(鉄:ドーパントのモル比=1:3.0)
第2の導電性高分子層:モノマー(EDOT)濃度 30wt% /ドーパント ベンゼンスルホン酸(鉄:ドーパントのモル比=1:3.0)
【0059】
表1にコンデンサ作製条件を示している。
【0060】
【0061】
(評価)
初期特性として、20℃の環境下で、コンデンサの静電容量(Cap.)、損失角の正接(tanδ)、等価直列抵抗(ESR)および漏れ電流(μA)を測定した。各コンデンサに100Vを60分間印加した後(過電圧試験後)、コンデンサの静電容量(Cap.)、損失角の正接(tanδ)、等価直列抵抗(ESR)および漏れ電流(μA)を測定した。表2に評価結果を示している。
【0062】
【0063】
導電性高分子層を1層だけ形成した従来条件では、過電圧試験中、ショートが発生した。
比較例1および比較例4でも、過電圧試験中、ショートが発生した。比較例1および比較例4は、コンデンサ素子に第1の導電性高分子層および第2の導電性高分子層が形成されているが、第1の導電性高分子層および第2の導電性高分子層が同じ条件で形成されている(表1参照)。
【0064】
表2に示すように、比較例2および比較例3では、ショートが発生しなかったが、過電圧試験後、ESRが大幅に上昇した。比較例2および比較例3では、第2の導電性高分子層に含まれる第2ドーパントの沸点が、第1の導電性高分子層に含まれる第1ドーパントの沸点より低い(表1参照)。第1の導電性高分子層の高分子に比べ相対的に重量が大きい高分子を有する第2の導電性高分子層が第1の導電性高分子層より早く導電性を失い、絶縁化したことにより、ESRが大幅に上昇したと考えられる。
【0065】
上記実験より、以下のことがわかった。
陽極の誘電体酸化皮膜に対する接触面積が大きい第1の導電性高分子層に含まれる第1ドーパントの沸点が、第2の導電性高分子層に含まれる第2ドーパントの沸点より低く、かつ、陽極の誘電体酸化皮膜に対する接触面積が小さい第2の導電性高分子層における高分子の重量が、第1の導電性高分子層における高分子の重量より大きい場合、電解コンデンサに過電圧が印加された際、ショートの発生を抑制でき、かつ、電解コンデンサのESRの上昇が抑制されることがわかった。
【0066】
また、実施例1~4では、表2に示すように、初期のESRが低い。このことから、第2の導電性高分子層において、酸化剤に含まれる鉄:第2ドーパントのモル比が、1:2.6~3.0である場合(表1参照)、初期のESRが低いことがわかった。
【0067】
上記実験では、第1の導電性高分子層および第2の導電性高分子層を形成するため、モノマーとしてエチレンジオキシチオフェン(EDOT)を重合することにより、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)の高分子を得た。しかし、第1の導電性高分子層および第2の導電性高分子層を形成するためのモノマーおよび高分子は、上記実験で使用したエチレンジオキシチオフェン(EDOT)およびポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)に限定されない。上記以外のモノマーおよび高分子でもよい。他のモノマーおよび高分子によっても、上記と同様な効果が得られる。
【0068】
第1の導電性高分子層に含まれる第1ドーパントおよび酸化剤、上記実験で使用した第1ドーパントおよび酸化剤に限定されない。第2の導電性高分子層に含まれる第2ドーパントおよび酸化剤、上記実験で使用した第2ドーパントおよび酸化剤に限定されない。他のドーパントおよび酸化剤を使用した場合も、上記と同様な効果が得られる。
【0069】
以上、本発明の実施形態について実施例に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0070】
例えば、上記では、第1の導電性高分子層および第2の導電性高分子層が、誘電体酸化皮膜とセパレータとの間に形成されている場合について説明した。しかし、第1の導電性高分子層および第2の導電性高分子層は、誘電体酸化皮膜とセパレータとの間以外にも形成されていてもよい。例えば、誘電体酸化皮膜および/またはセパレータにも形成されていてもよい。
【0071】
また、上記では、第1の導電性高分子層および第2の導電性高分子層が、誘電体酸化皮膜とセパレータとの間に形成されている場合について説明した。しかし、誘電体酸化皮膜とセパレータとの間には、第1の導電性高分子層および第2の導電性高分子層に加え、別の導電性高分子層が形成されていてもよい。
【0072】
また、上記実験では、定格電圧25WV、定格容量150μFおよび製品サイズφ8×10L(mm)の電解コンデンサを作製したが、本発明の電解コンデンサの定格電圧、定格容量および製品サイズは上記に限られない。
【符号の説明】
【0073】
1 電解コンデンサ
2 外装ケース
3 封口体
4 外装体
5 コンデンサ素子
11 陽極
12 陰極
21,22 リード端子