(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】エレベーター保守支援システム及びエレベーター保守支援方法
(51)【国際特許分類】
B66B 5/00 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
B66B5/00 G
(21)【出願番号】P 2021094172
(22)【出願日】2021-06-04
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一朗
(72)【発明者】
【氏名】主税 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】星崎 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】神谷 駿
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-199393(JP,A)
【文献】特開2007-290831(JP,A)
【文献】特開2003-095553(JP,A)
【文献】特開2019-048712(JP,A)
【文献】特開2004-299902(JP,A)
【文献】特開2019-055827(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0276272(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第112027839(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00 - 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センタ装置と、エレベーターと、作業者が携帯する保守用端末とがネットワークで接続され、前記エレベーターの点検・整備作業を行う作業者を支援するエレベーター保守支援システムであって、
前記センタ装置は、
前記エレベーターの保守作業の内容を計画する作業スケジュール計画部と、
前記作業スケジュール計画部で計画される作業内容に沿って、作業者が点検作業に必要なツールソフトとその使用期限を選定するツールソフト選定・使用期限決定部と、
前記エレベーターに前記ツールソフトと使用期限情報を送信するツールソフト・使用期限送信部と、を備え、
前記エレベーターは、前記センタ装置から受信した使用期限と現在日時を比較し、ツールソフトが使用期限終了を迎えた場合、受信したツールソフトのうち、予め定められたツールソフトを除いて消去するツールソフト制御部を備え、
前記エレベーターは、前記センタ装置から送信されたツールソフト及びその使用期限を前記エレベーターの記憶部に格納し、前記ツールソフトが使用開始期限に到達したときに、前記記憶部から読み出して、前記ツールソフトを使用可とする旨の情報を前記保守用端末に送信する
エレベーター保守支援システム。
【請求項2】
前記ツールソフト選定・使用期限決定部は、前記エレベーターの保守サービス契約情報を参照し、保守サービス契約で使用が許可されているツールソフトとその使用期限を決定する
請求項1に記載のエレベーター保守支援システム。
【請求項3】
前記ツールソフト選定・使用期限決定部は、管理者が作成した作業スケジュールとツールソフト選定条件に従って、作業者による点検日前か、または前記エレベーターの故障発生時に、ツールソフトを選定するとともに、使用期限を決定する
請求項1または2に記載のエレベーター保守支援システム。
【請求項4】
さらに、前記センタ装置は、ネットワークで接続される前記保守用端末から、ツールソフト使用許可指令を受け取って、使用許可を承認するツールソフト使用許可指令受信・承認部を備え、
前記ツールソフト使用許可指令受信・承認部において承認された場合、前記ツールソフト・使用期限送信部より前記保守用端末へツールソフトを配布する
請求項1に記載のエレベーター保守支援システム。
【請求項5】
センタ装置と、エレベーターと、作業者が携帯する保守用端末とがネットワークで接続され、前記エレベーターの点検・整備作業を行う作業者を支援するエレベーター保守支援方法であって、
前記エレベーターの保守作業の内容を作業スケジュール計画部により計画するステップと、
前記作業スケジュール計画部で計画される作業内容に沿って、ツールソフト選定・使用期限決定部により、作業者が点検作業に必要なツールソフトとその使用期限を選定するステップと、
前記エレベーターに前記ツールソフトと使用期限情報をツールソフト・使用期限送信部から送信するステップと、
前記ツールソフト・使用期限送信部から送信された使用期限と現在日時を比較し、受信したツールソフトが使用期限終了を迎えた場合、受信したツールソフトのうち、予め定められたツールソフトを除いてツールソフト制御部により消去するステップと、を含み、
前記エレベーターは、前記センタ装置から送信されたツールソフト及びその使用期限を前記エレベーターの記憶部に格納し、前記ツールソフトが使用開始期限に到達したときに、前記記憶部から読み出して、前記ツールソフトを使用可とする旨の情報を前記保守用端末に送信する
エレベーター保守支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーター保守支援システム及びエレベーター保守支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベーターの点検・整備作業において、エレベーターの保守用端末の紛失やエレベーターの制御用プリント基板盗難によるツールソフトの流出を防止するため、エレベーターの制御用プリント基板に搭載する保守用ツールソフトを消去する方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、メンテナンスソフトウェアが搭載される親機と、メンテナンスソフトウェアが搭載されないで、親機と接続しているときに限って親機のメンテナンスソフトウェアを利用することができる可搬型子機とからなるメンテナンス支援システムが記載されている。このメンテナンス支援システムでは、エレベーターの制御用プリント基板の電源供給が絶たれると、エレベーター側に搭載するツールソフトを消去するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されるメンテナンス支援システムでは、大規模停電時などの復旧においてツールソフトの制御用プリント基板への配信や書き込みが必要であり、エレベーターの復旧作業に支障が出る可能性がある。
【0006】
また、エレベーターの製造メーカは、エレベーターの点検作業を行うメンテナンス会社向けに、エレベーターの保守マニュアルを作成しているが、その際、エレベーターの製造メーカは、保守マニュアルに掲載する点検機能を実行するためのツールソフトをメンテナンス会社へ提供する義務がある。
【0007】
しかし、エレベーターの製造メーカがツールソフトをメンテナンス会社へ提供する際に、ツールソフトが消去されたりして、義務を果たせなくなるという問題が発生することがあり、従来の技術では、これらの問題に対する十分な解決方法が考慮されていなかった。
【0008】
本発明は上記問題を考慮してなされたもので、本発明の目的は、エレベーターの点検・整備作業において、点検終了後に、ツールソフトの外部への流出を防止するようにしたエレベーター保守支援システム及びエレベーター保守支援方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本願は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、本発明は、センタ装置と、エレベーターと、作業者が携帯する保守用端末とがネットワークで接続され、エレベーターの点検・整備作業を行う作業者を支援するエレベーター保守支援システムである。
【0010】
センタ装置は、エレベーターの保守作業の内容を計画する作業スケジュール計画部と、作業スケジュール計画部で計画される作業内容に沿って、作業者が点検作業に必要なツールソフトとその使用期限を選定するツールソフト選定・使用期限決定部と、エレベーターにツールソフトと使用期限情報を送信するツールソフト・使用期限送信部と、を備える。
また、エレベーターは、センタ装置から受信した使用期限と現在日時を比較し、ツールソフトが使用期限終了を迎えた場合、受信したツールソフトのうち、予め定められたツールソフトを除いて消去するツールソフト制御部を備え、エレベーターは、センタ装置から送信されたツールソフト及びその使用期限をエレベーターの記憶部に格納し、ツールソフトが使用開始期限に到達したときに、記憶部から読み出して、ツールソフトを使用可とする旨の情報を保守用端末に送信する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エレベーターの点検・整備作業において、点検作業者が点検当日の作業に必要とするツールソフトを使用可能とし、点検終了後は、予め定めたツールソフトを除いて、他のツールソフトを消去するので、ツールソフトの外部流出を防止することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るエレベーター保守支援システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施の形態に係るエレベーター保守支援システムを構成するセンタ装置、エレベーター及び保守用端末のハードウェア構成を示す図である。
【
図3】本発明の一実施の形態に係るエレベーター保守支援システムにおけるセンタ装置が作業スケジュールを基に配布するツールソフトを決定する際の選定条件の一例を示す図である。
【
図4】本発明の一実施の形態に係るエレベーター保守支援システムにおいて、センタ装置からエレベーターに対してツールソフトを配布する際の前半の手順を示すシーケンス図である。
【
図5】本発明の一実施の形態に係るエレベーター保守支援システムにおいて、センタ装置からエレベーターに対してツールソフトを配布する際の後半の手順を示すシーケンス図である。
【
図6】本発明の一実施の形態に係るエレベーター保守支援システムにおいて、予想外の作業が発生したときの、センタ装置からエレベーターに対してツールソフトを配布する際の手順を示すシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<エレベーター保守支援システムの構成と機能>
以下、
図1~
図6を参照して、本発明の一実施の形態例(以下、「本例」という)であるエレベーター保守支援システムの構成とその機能について説明する。
図1は、本例のエレベーター保守支援システム1の全体構成とその機能を示すブロック図である。
図1に示すように、本例のエレベーター保守支援システム1は、センタ装置10、エレベーター20、保守用端末30及び広域ネットワーク40を備えて構成される。
すなわち、センタ装置10とエレベーター20と保守用端末30は、広域ネットワーク40を介して接続され、互いの送受信部によりデータ通信が可能な構成になっている。
【0014】
[センタ装置10の構成と機能]
まず、センタ装置10の構成とその機能について説明する。
センタ装置10は、複数箇所に存在するエレベーターを統合的に管理する管理装置であって、例えば、サーバとデータベースによって実現される。
センタ装置10は、概して作業者が整備作業を実施する場所から遠隔の地、例えば点検作業者が所属するメンテナンス会社の建物等に設置される。
【0015】
図1に示すように、センタ装置10は、送受信部11、作業スケジュール計画部12、ツールソフト選定・使用期限決定部13、ツールソフト・使用期限送信部14、エレベーター状態受信処理部15、ツールソフト使用許可指令受信・承認部16、表示部17、及び記憶部18を備えて構成される。
【0016】
送受信部11は、通信インタフェースであり、広域ネットワーク40を介して、エレベーター20及び保守用端末30とデータの送受信を行う。
作業スケジュール計画部12は、作業者の点検作業において、いつ、どの現場を巡回し、点検対象のエレベーターに対し、どのような点検作業を行うのかなどを示す作業指示を計画する。作業スケジュール計画部12による作業スケジュールの計画は、作業者を管理する管理者によって作成される。
【0017】
なお、管理者は、作業スケジュールを作成する際に、記憶部18に記憶されている保守サービス契約情報181を参照して行う。保守サービス契約とは、エレベーターの製造メーカと保守サービスを専門に行う企業との契約であり、この契約内容によって、作業スケジュール計画部12によって計画される保守点検作業の内容が異なる。
【0018】
ツールソフト選定・使用期限決定部13は、作業スケジュール計画部12で計画された内容を基に、点検作業に必要なツールソフトを選定する。そして、ツールソフト選定・使用期限決定部13は、点検を開始する日時(使用開始期限)と点検が終了する日時(使用終了期限)を決定する。なお、ツールソフト選定・使用期限決定部13におけるツールソフトの選定は、後述する
図3に示す条件に従って行われる。
【0019】
ツールソフト選定・使用期限決定部13で決定される使用期限として点検日時が指定される場合には、点検開始から点検終了までの予定時刻を使用期限とし、使用期限として点検日のみが指定される場合には、点検日当日中を使用期限とする。但し、このような使用期限の設定はあくまでも一例である。
また、ツールソフト選定・使用期限決定部13で決定される使用期限は、作業者を管理する管理者がセンタ装置10の表示部17を操作することにより任意に変更することができる。
【0020】
ツールソフト・使用期限送信部14は、ツールソフト選定・使用期限決定部13が選定したツールソフトとその使用期限を、広域ネットワーク40を介してエレベーター20へ送信する。
エレベーター状態受信処理部15は、エレベーター20からエレベーターの異常状態を示すトラブル情報を受信する。すると、ツールソフト・使用期限送信部14はエレベーター20のトラブルの復旧に必要なツールソフトとその使用期限をエレベーター20に配布する。すなわち、エレベーター状態受信処理部15は、ツールソフト・使用期限送信部14に対して送信を促すトリガー機能を有する。
【0021】
エレベーターの点検当日に作業スケジュールに予定されていない予定外作業を行う必要が生じた場合には、その点検に必要なツールソフトの配布を要求する使用許可指令が、作業者の保守用端末30からセンタ装置10へ送信されることがある。
センタ装置10のツールソフト使用許可指令受信・承認部16は、保守用端末30からセンタ装置10へ送信された使用許可指令を承認して、要求があったツールソフトを保守用端末30へ送信する。
【0022】
このツールソフトの送信は、作業者を管理するセンタ装置10の管理者が、センタ装置10の表示部17を操作することにより、作業者からの使用許可指令に対する承認操作を行うことで実行される。なお、ここでいう作業者の予定外作業とは、作業者による点検作業で当日の作業スケジュールには存在しない作業、例えば作業者が乗場ドアの開閉異常等の故障を発見した場合などに、その故障の復旧作業を行う行為のことである。
表示部17は、例えば液晶ディスプレイであり、表示機能の他、タブレットパソコンやスマートフォンのように、数字や文字情報を入力することができるキーボード機能(入力機能)も備えている。
【0023】
記憶部18は、ソフトウェアやデータを記録するメモリである。記憶部18には、保守サービス契約情報181、ツールソフト選定条件182、作業スケジュール183、及び作業者が利用する各種ツールソフト(ツールソフトA184、ツールソフトB185、ツールソフトC186・・・)等が格納されている。
【0024】
ここで、保守サービス契約情報181は、保守サービス業者とエレベーター製造メーカとの間で取り交わす契約内容を示す情報であり、製造メーカの営業担当者と保守サービス業者との間で結ばれる契約情報である。
ツールソフト選定条件182は、ツールソフト選定・使用期限決定部13が保守用端末30へ送信するツールソフトを選定するための条件である。作業スケジュール183は、既に述べたように、管理者が作業スケジュール計画部12により計画し、作業者が携帯する保守用端末30に提供する具体的な作業スケジュールである。
【0025】
[エレベーター20の構成と機能]
次に、エレベーター20の構成とその機能について説明する。ここで示すエレベーター20の構成は、昇降機であるエレベーター20の運行を制御する制御装置としての構成であるので、エレベーター20の機構的な構成の説明は省略する。
エレベーター20は、送受信部21、エレベーター制御プログラム22、ツールソフト制御部23、エレベーター状態送信部24、及び記憶部25を備えて構成される。
【0026】
送受信部21は、通信インタフェースであり、広域ネットワーク40を介して、センタ装置10及び保守用端末30とデータの送受信を行う。
エレベーター制御プログラム22は、エレベーター20のモータ(不図示)を制御して乗りかごを昇降させる制御プログラムである。例えば、エレベーター制御プログラム22は、ツールソフト制御部23からのコマンド指令により、エレベーター20を昇降させる運転に関する制御データや故障発生時の調査用のデータの読み出しを行うプログラムである。
また、エレベーター制御プログラム22は、例えばドア廻りの動作寸法などの測定結果を含む、エレベーター20の電気的計測及び診断に関するデータの読み出しを行うこともできる。
【0027】
ツールソフト制御部23は、記憶部25に格納されているツールソフト(*)251を、作業者が携帯する保守用端末30の操作で使用できる形式に展開する。すなわち、ツールソフト制御部23は、ツールソフト(*)251を動作させるための機能を持つ。また、ツールソフト制御部23は、保守用端末30からの要求に応じて、保守用端末30の操作表示部32に情報の表示を行わせるためのツールソフトを保守用端末30に送信する。ここで「*」は、センタ装置10のツールソフトA、B、C・・・のいずれかを代表する記号である。
【0028】
また、ツールソフト制御部23は、ツールソフト251に保存されているコマンド指令を、エレベーター制御プログラム22へ供給し、エレベーター制御プログラム22から返答された回答データをツールソフト251へ供給する。
エレベーター状態送信部24は、エレベーター制御プログラム22を監視し、エレベーター20が故障につながるような異常状態に陥った場合に、その異常状態を示すトラブル情報をセンタ装置10へ送信する。
【0029】
記憶部25は、ソフトウェアまたはデータを記録するメモリである。具体的には、記憶部25のツールソフト(*)251及び使用期限252には、例えば、センタ装置10から配布されたツールソフトA184、B185・・・とその使用期限が格納される。
【0030】
[保守用端末30の構成と機能]
次に、保守用端末30の構成とその機能について説明する。保守用端末30は、エレベーターの点検・整備作業を行う作業員が作業時に携帯する端末である。
保守用端末30は、送受信部31、操作表示部32、ツールソフト情報入出力部33、及びツールソフト使用許可指令部34を備えて構成される。
【0031】
送受信部31は、通信インタフェースであり、広域ネットワーク40を介して、センタ装置10及びエレベーター20とデータの送受信を行う。
操作表示部32は、例えば液晶ディスプレイであり、表示機能の他、タブレットパソコンや、スマートフォンのように、数字や文字情報を入力することが可能なキーボード機能(入力機能)も備えている。
【0032】
ツールソフト情報入出力部33は、エレベーター20のツールソフト制御部23との間で、ツールソフトの画面操作に関する情報の入出力を行う。これにより、エレベーター20のツールソフト制御部23から保守用端末30の操作表示部32へのツールソフトの画面出力と操作が可能になる。
【0033】
ツールソフト使用許可指令部34は、作業者が点検当日に作業スケジュールに予定されていない予定外作業を行う必要が生じた場合、その点検に必要なツールソフトの配布を要求する使用許可指令を生成する。そして、ツールソフト使用許可指令部34は、新たに必要とするツールソフトを要求する使用許可指令をセンタ装置10に送信する。
以上が、本実施の形態のエレベーター保守支援システム1の構成と機能の説明である。
【0034】
<エレベーター保守支援システムのハードウェア構成>
図2は、本例のエレベーター保守支援システム1を構成するセンタ装置10、エレベーター20及び保守用端末30それぞれに共通のハードウェア構成を示す図である。
図1で説明したセンタ装置10、エレベーター20及び保守用端末30は、それぞれバス50に接続されたCPU(Central Processing Unit)51、ROM(Read Only Memory)52、RAM(Random Access Memory)53、不揮発性ストレージ54から構成される。
【0035】
CPU51は、センタ装置10、エレベーター20及び保守用端末30の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードをROM52から読み出して演算処理を実行する。RAM53には、CPU51で行われる演算処理の途中で発生した変数等が一時的に書き込まれる。CPU51は、ROM52に記録されているプログラムコードを実行することにより、センタ装置10、エレベーター20及び保守用端末30の機能を実現する。
【0036】
不揮発性ストレージ54は、SSD(Solid State Drive)等の不揮発性のメモリで構成される。この不揮発性ストレージ54には、CPU51が動作するために必要なプログラムやデータ等が格納される。また、不揮発性ストレージ54は、センタ装置10の記憶部18、エレベーター20の記憶部25に相当する他、保守用端末30の不図示の記憶部に相当する。
【0037】
また、センタ装置10、エレベーター20及び保守用端末30は、入力部55と出力部56を備える。センタ装置10の入力部55からは、管理者により作業スケジュール等の入力がなされる。また、センタ装置10の出力部56としては、例えば
図1の表示部17が相当する。
【0038】
保守用端末30では、入力部55と出力部56は、
図1の操作表示部32や、ツールソフト情報入出力部33がこれに相当する。
なお、
図1に示すエレベーター20では、ハードウェアとしての入力部55と出力部56は必ず必要とされるものではない。
【0039】
さらに、センタ装置10、エレベーター20及び保守用端末30は、通信インタフェース(通信部IF)57を備える。通信インタフェース57としては、例えば、NIC(Network Interface Card)等が用いられる。この通信インタフェース57は、センタ装置10の送受信部11、エレベーター20の送受信部21及び保守用端末30の送受信部31がこれに相当する。
【0040】
<ツールソフト選定条件>
図3は、エレベーター保守支援システム1のセンタ装置10が作業スケジュール183に基づいて配布するツールソフトを決定する際のツールソフト選定条件182のデータ構造を示している。
以下、
図3を参照して、センタ装置10が配布するツールソフトの選定条件について説明する。
図3に示すように、ツールソフト選定条件182は、番号(No.)フィールドL1、条件1フィールドL2、条件2フィールドL3、条件3フィールドL4、作業者の点検概要フィールドL5、及びツールソフトフィールドL6を有する。
【0041】
番号(No.)フィールドL1は、ツールソフト選定条件182の通し番号を示す欄である。ここでは、条件1~3フィールドL2~L4との関係で、番号1~番号8までの8つの条件に区分されている。
【0042】
条件1フィールドL2には、保守サービス契約の状況が格納される。ここでは、エレベーターの製造メーカ系の保守会社向けの選定条件を定義している。製造メーカ系ではない保守サービス業者は、条件1フィールドL2では未契約になる。未契約の場合には、作業者の点検概要フィールドL5に示すように、予め定められた必要最低限の機能を持つツールソフトのみが提供される。
【0043】
条件1フィールドL2で契約がある製造メーカ系の保守会社に対しては、条件2フィールドL3、条件3フィールドL4、作業者の点検概要フィールドL5に従って、ツールソフトフィールドL6で「〇」で示される選定されたツールソフトが提供される。
【0044】
すなわち、
図3に示すように、製造メーカと保守会社との間で、保守サービス契約がない未契約の場合には、保守サービス会社は、エレベーターの運転制御に関係するツールソフトA以外のツールソフト(例えば、ツールソフトB~F)は利用することができない。
一方、製造メーカと保守会社との保守サービス契約が締結されている場合には、保守点検に関わる契約内容に応じて、使用できるツールソフトが決められるようになっている。
【0045】
条件2フィールドL3には、エレベーター20の状態、つまり、エレベーター状態送信部24により捕捉されるエレベーター20の状態に関する情報が定義されている。例えば、条件2フィールドL3には、エレベーター20の異常を示す「故障発生」のほか、エレベーター20の点検作業である「稼働点検」、「ドア廻り点検」、「監視装置立上げ」、「ブレーキ診断」などの各種点検が定義されている。
【0046】
条件3フィールドL4には、条件2フィールドL3の故障発生に関連して、より詳細な条件として故障状態を細分化した状態が定義されている。ここでは、エレベーター20のモータ(不図示)の速度異常、乗りかごのドア開閉異常、エレベーター制御プログラム22のマイコンダウンが例として挙げられている。
作業者の点検概要フィールドL5には、条件1フィールドL2~条件3フィールドL4で定義されたエレベーター20の状態に対応させて、作業者の点検内容が定義されて、格納されている。
【0047】
ツールソフトフィールドL6のツールソフトA~ツールソフトFは、条件1~3フィールドL2~L4で定義されるエレベーター20の状態に対して、点検時に必要とするツールソフトを星取りで示したものである。「○」が必要、空欄が不要を示しており、「○」が付けられたツールソフトがセンタ装置10からエレベーター20に配布される。
【0048】
ここで、ツールソフトAは、エレベーター20の基本運転のためのソフトウェア機能を有するツールソフトであり、保守サービス契約が締結されているかどうかに関わらず、全ての保守サービス会社に提供される。
これに対して、ツールソフトB~Fは、製造メーカと保守サービス契約が締結されている保守サービス会社に提供されるツールソフトであり、例えば、ツールソフトBは、速度異常、ドア開閉異常、マイコンダウンのようなエレベーター20の故障の解析に必要なツールソフトである。
【0049】
ツールソフトCは、様々なエレベーター20の調整を行うツールソフトであり、条件3の故障発生時や、条件2のドア廻りの点検やブレーキ診断が必要になった場合などに提供される。
また、ツールソフトDは、エレベーター20の診断に必要とされるツールソフトであり、例えば、モータに付属されるブレーキの制動状態を診断し、調整実施を行う際に用いられる。
【0050】
ツールソフトEは、故障の予兆を検知する不図示の監視装置を制御するためのツールソフトであり、条件3のドア開閉異常の場合や、条件2のドア廻り点検が必要になった場合、及び条件2の監視装置立ち上げが必要とされる場合に、保守会社に提供される。
【0051】
具体的には、例えば、条件2フィールドL3が「ドア廻り点検」の場合、作業者の点検概要フィールドL5に「ドア廻り動作寸法の確認、必要であれば調整実施」が格納されている。そこで、ドア廻りの動作寸法を確認するため、ツールソフトEにより監視装置の情報が読み出される。また、必要であればツールソフトAを使ってエレベーター20を運転しながら、ツールソフトCによりエレベーターの調整が行われる。したがって、この場合には、ツールソフトA、ツールソフトC、ツールソフトEが保守点検時に必要とされることになる。
【0052】
また、ツールソフトFは、エレベーター20のエレベーター制御プログラム22が異常の場合や、ROMの焼き付けなどで、制御プログラムが搭載される制御用プリント基板を交換する必要が生じた場合などに、制御プログラムを書き換えるためのツールソフトである。例えば、ツールソフトFは、条件3のマイコンダウンの際に、作業者の点検概要フィールドL5に記載されるような、新たな基板への交換作業が必要な基板故障が発生した場合に提供される。
【0053】
以上のように、
図3に示したツールソフト選定条件182は、エレベーター20の故障状態、作業者が点検作業を行っているときに発見したエレベーター20のさまざまな条件を基に、作業者に対して配布するツールソフトを定義したものである。
【0054】
<ツールソフト配布と使用期限>
図4及び
図5は、エレベーター保守支援システム1において、センタ装置10からエレベーター20及び保守用端末30に対してツールソフトを配布する手順を前半と後半に分けて説明したシーケンス図である。
図4及び
図5では、ツールソフト配布の流れを、作業者を管理する管理者、センタ装置、エレベーター、保守用端末、作業者に分けてチャート化している。
【0055】
なお、
図4、
図5では、管理者はM*、センタ装置はC*、エレベーターはE*、保守用端末はT*、作業者はW*として、管理者、センタ装置、エレベーター、保守用端末及び作業者が行う行為の手順(ステップ)が示されている。「*」は、ステップを示す数字を表している。
【0056】
以下、
図4と
図5を参照し、
図1の機能ブロック図と関連付けてツールソフト配布の流れを説明する。
図4に示すように、まず、管理者は、センタ装置10の作業スケジュール計画部12により、作業スケジュールを計画する(M1)。ステップM1の作業スケジュール計画は、点検作業日の前日までに行われる。
【0057】
センタ装置10のツールソフト選定・使用期限決定部13は、対象となるエレベーター20が点検日前日を迎えたか否かを常時判定している(C1)。ステップC1で、点検日前日を迎えた場合(C1のYES)、作業スケジュール183とツールソフト選定条件182を照らし合わせて、配布するツールソフトの選定を行い(C2)、続いて使用期限を決定する(C3)。
なお、ステップC1では、点検日の前日を迎えたか否かの判定を行っているが、必ずしも前日でなくてもよい。例えば、点検日の2日前あるいは3日前であってもよいし、また点検前であれば点検日当日でもよい。
【0058】
また、ステップC1において、エレベーター20が故障し、エレベーター状態送信部24からの故障発生を示すトラブル情報を、センタ装置10のエレベーター状態受信処理部15で受信した場合にも、同様にツールソフト選定(C2)と使用期限の決定(C3)が行われる。なお、作業者による保守作業中に、予想外の作業が発生した場合については、
図6で詳述する。
ステップC1で点検日前日ではなく、かつ故障発生もない場合(C1のNO)には、その事象が発生するまで待機する。
【0059】
次に、センタ装置10のツールソフト・使用期限送信部14は、記憶部18に格納されるツールソフトから、ステップC3の判定で選定されたツールソフトを抽出してエレベーター20に送信する(C4)と共に、併せてツールソフトの使用期限情報をエレベーター20に送信する(C5)。
【0060】
これを受けたエレベーター20のツールソフト制御部23は、受信したツールソフトと使用期限を、ツールソフト*251及び使用期限252として記憶部25に格納する(E3)。
なお、エレベーター20が受信したツールソフト及びその使用期限を記憶部25に格納する前の状態は、エレベーターの運転制御のための予め定められた必要最低限のツールソフトAを除き、使用不可の状態になっている(E1)。
【0061】
一方、作業者は、保守用端末30の操作表示部32を操作し、ツールソフトを使用するか否かを判断する(W1)。ステップW1で、作業者がツールソフトを使用しない場合(W1のNO)は待機状態になるが、作業者がツールソフトを使用する場合(W1のYES)には、作業者は、保守用端末30の画面操作によりツールソフトを起動する(W2)。
ツールソフトが起動すると、保守用端末30は、エレベーター20に対してツールソフト情報を取得するための指令を送信する(T1)。
【0062】
この段階では、エレベーター20には、使用可のツールソフトがないので、エレベーター20は、保守用端末30に対して、ツールソフトが使用不可であることを示す情報を返送する(E2)。保守用端末30は、その操作表示部32に使用不可を示すメッセージを表示する(T2)。作業者は、保守用端末30の表示画面に表示されたメッセージを見てツールソフトが使用不可であることを知る。
【0063】
次に、エレベーター20のツールソフト制御部23は、ステップC4、C5でセンタ装置10からツールソフトとその使用期限を受信した後、受信したツールソフトが使用開始期限に到達しているか否かを現在日時と比較して判定する(E4)。ステップE4で、使用開始期限に到達している場合(E4のYES)には、ツールソフト制御部23は、
図5に示すように、ツールソフトを使用可とする(E5)。一方、ステップE4で、受信したツールソフトが使用開始期限に到達していないときは(E4のNO)、使用開始期限に到達するまで待機する。
【0064】
続いて、
図5を参照してセンタ装置10からエレベーター20及び保守用端末30に対してツールソフトを配布する手順の説明を続ける。
作業者は、再びツールソフトの使用を試みる(W3)。ステップW3で、作業者がツールソフトを使用する場合(W3のYES)、作業者は、保守用端末30の画面操作によりツールソフトを起動する(W4)。ここでツールソフトが起動すると、保守用端末30は、エレベーター20に対してツールソフト情報を取得するための指令を送信する(T3)。なお、ステップW3で、作業者がツールソフトを使用しないならば(W3のNO)、作業者はツールソフトの使用まで待機する。
【0065】
エレベーター20のエレベーター状態送信部24は、ステップE5でツールソフトが使用可になっているので、保守用端末30に対してツールソフトが使用可であることを伝える情報を返送する(E6)。すると、作業者は保守用端末30の表示画面を見て、ツールソフトが使用可であることを知る(T4)。
【0066】
それ以降、エレベーター20のツールソフト制御部23は、ツールソフトが使用終了期限に到達したかを判定する(E7)。そして、ツールソフト制御部23は、使用終了期限に到達するまでは(E7のNO)、ツールソフトを使用可とするが、ツールソフトが使用終了期限に到達した場合には(E7のYES)、ツールソフトを使用不可とする(E8)。
そして、ツールソフト制御部23は、ステップE8で使用不可となったツールソフトを消去する(E9)。
【0067】
ステップE9において、ツールソフトが消去された後は、作業者が保守用端末30の操作表示部32を操作し、ツールソフトの使用を試みても(W5のYES)、作業者はツールソフトを起動することができない。
すなわち、作業者が保守用端末30の画面操作を行ってツールソフトを起動して(W6)、エレベーター20にツールソフト取得指令を送信しても(T5)、エレベーター20のツールソフト制御部23から保守用端末30に使用不可が返送される(E10)。この結果、保守用端末30のツールソフト情報入出力部33は、ツールソフトの使用不可の返答を受信し、操作表示部32に使用不可を示すメッセージを表示して、作業者に伝える(T6)。以上が、センタ装置10からエレベーター20と保守用端末30にツールソフトを配布するための標準的な手順である。
【0068】
<予定外作業時のツールソフト配布>
次に、
図6を参照して、予想外の作業が発生したときの、センタ装置からエレベーターに対してツールソフトを配布する際の手順を説明する。
作業者が点検当日に作業スケジュールに予定されていない予定外作業を行う必要が生じる場合がある。なお、ここでいう予定外作業とは、例えば作業者による保守点検作業において、乗場ドアの開閉異常等の故障などの当日の作業スケジュールには存在しない作業を発見した場合、その故障の復旧を行う作業のことである。
【0069】
まず、作業者は、保守点検作業中に予定外の作業が発生したかを判断する(W7)。予定外の作業がなければ(W7のNO)、そのまま待機するが、予定外の作業が発生した場合(W7のYES)には、作業者は必要なツールソフトを選定する(W8)。
【0070】
そして、保守用端末30の画面操作を行って、ツールソフト使用許可依頼を作成する(W9)。すなわち、作業者は、保守用端末30の操作表示部32の操作により、その点検に必要なツールソフトの配布を要求する。すると、保守用端末30は、ツールソフト使用許可指令部34よりツールソフトの使用許可指令をセンタ装置10に送信する。
【0071】
センタ装置10のツールソフト使用許可指令受信・承認部16は、保守用端末30からツールソフト情報取得司令を受信すると、作業者を管理する管理者へメール等により、予定外作業が発生している旨のアラートを行う(C6)。
そして、これに気付いた管理者は、センタ装置10の表示部17を操作して、作業者に対して、予定外作業の承認操作を行う(M2)。ステップM2で管理者が承認を認めた場合(M2のYES)には、管理者は画面操作を行って、センタ装置10に対してツールソフトの使用許可を与える。すると、センタ装置10のツールソフト選定・使用期限決定部13は、要求されたツールソフトの使用期限を決定する(C7)。ここでは使用期限を当日限りとして設定している。
【0072】
その後、センタ装置10のツールソフト・使用期限送信部14は、保守用端末30から要求されたツールソフトとその使用期限をエレベーター20に送信する(C8、C9)。
また、センタ装置10のツールソフト・使用期限送信部14は、ツールソフトの使用許可通知を保守用端末30に送信する(C10)。
【0073】
エレベーター20は、センタ装置10から送信されたツールソフトとその使用期限を記憶部25のツールソフト*251と使用期限250に格納する(E12)。そして、格納されたツールソフトを使用可とする(E13)。
この段階で、作業者は、保守用端末30を通してセンタ装置10に対して要求したツールソフトを使用するかどうかを判断する(W10)。そして、保守用端末30の操作表示部32により画面操作を行ってツールソフトを起動する(W11)。
【0074】
保守用端末30のツールソフト使用許可指令部34は、ツールソフト情報取得指令をエレベーター20に送信する(T8)。すると、エレベーター20のツールソフト制御部23は、要求されたツールソフトの使用を可とする情報を保守用端末30に返送する(E14)。保守用端末30は、ツールソフトが使用可になったことを操作表示部32に表示して作業者に知らせる(T9)。
以上が、作業者の点検作業中に予想外の作業が発生したときの、センタ装置10からエレベーター20と保守用端末30に対してツールソフトを配布する際の手順である。
【0075】
なお、本発明は前述した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形態様が含まれる。また、前述した実施の形態は、本発明を分かりやすく説明するために説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではなく、適宜、その他の構成にも応用できる。
【0076】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【符号の説明】
【0077】
1…エレベーター保守支援システム、
10…センタ装置、11…送受信部、12…作業スケジュール計画部、13…ツールソフト選定、使用期限決定部、14…ツールソフト・使用期限送信部、15…エレベーター状態受信処理部、16…ツールソフト使用許可司令受信・承認部、17…表示部、18…記憶部、
20…エレベーター、21…送受信部、22…エレベーター制御プログラム、23…ツールソフト制御部、24…エレベーター状態送信部、25…記憶部、
30…保守用端末、31…送受信部、32…操作表示部、33…ツールソフト情報入出力部、34…ツールソフト使用許可指令部