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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ロータ、回転電機、ロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/278 20220101AFI20240912BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H02K1/278
H02K15/02 K
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021157428
(22)【出願日】2021-09-28
(65)【公開番号】P2023048245
(43)【公開日】2023-04-07
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕治
(72)【発明者】
【氏名】富岡 薫
(72)【発明者】
【氏名】多田 啓志
(72)【発明者】
【氏名】上田 孝治
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-144550(JP,A)
【文献】特開2018-107975(JP,A)
【文献】特開平08-265997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/278
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転可能なロータシャフトと、前記ロータシャフトの外周に配置される永久磁石と、前記永久磁石の外周に配置され、前記ロータシャフトに向かって前記永久磁石を押圧するスリーブと、を備えるロータであって、
前記スリーブは、該スリーブの軸方向視で同心状に配置された第1層と、第2層と、第3層とを有し、
前記第1層と、前記第2層と、前記第3層とは、前記スリーブの径方向の中心から外側に向かう方向にこの順に並んで一体化され、
前記第1層は、前記ロータシャフトの前記軸線及び前記スリーブの円周方向の両方に対して傾斜する方向に延在する第1炭素繊維を含む第1繊維強化樹脂を有し、
前記第2層は、前記スリーブの円周方向に沿って延在する第2炭素繊維を含む第2繊維強化樹脂を有し、
前記第3層は、前記スリーブの円周方向に沿って延在する第3炭素繊維を含む第3繊維強化樹脂を有し、
前記第3層の弾性率は、前記第2層の弾性率よりも大き
前記第3層の伸び率は、前記第2層の伸び率よりも小さい、ロータ。
【請求項2】
請求項1記載のロータにおいて、
前記第1層の厚みを1としたとき、前記第2層の厚みと前記第3層の厚みとを合計した合計厚みは7.9~28.7である、ロータ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のロータにおいて、
前記第1炭素繊維の延在方向が、前記ロータシャフトの前記軸線に対して傾斜する角度は、30°~40°である、ロータ。
【請求項4】
請求項1~の何れか1項に記載のロータにおいて、
前記スリーブは、前記ロータシャフトの前記軸線の延在方向に重ねられた複数のリング部材を有する円筒状部材である、ロータ。
【請求項5】
請求項1~の何れか1項に記載のロータと、前記ロータの外周と間隔を置いて向かい合うステータと、を備える、回転電機。
【請求項6】
軸線回りに回転可能なロータシャフトと、前記ロータシャフトの外周に配置される永久磁石と、前記永久磁石の外周に配置され、前記ロータシャフトに向かって前記永久磁石を押圧するスリーブと、を備えるロータの製造方法であって、
前記永久磁石が外周に配置された前記ロータシャフトと、前記ロータシャフトに装着する前の前記スリーブと、を提供する提供工程と、
前記ロータシャフトの前記永久磁石の外周に前記スリーブを装着する装着工程と、を有し、
前記提供工程で用意する前記スリーブは、同心状に配置された第1層と、第2層と、第3層とを有し、
前記第1層と、前記第2層と、前記第3層とは、前記スリーブの径方向の中心から外側に向かう方向にこの順に並んで一体化され、
前記第1層は、前記スリーブの軸方向及び前記スリーブの円周方向の両方に対して傾斜する方向に延在する第1炭素繊維を含む第1繊維強化樹脂を有し、
前記第2層は、前記スリーブの円周方向に沿って延在する第2炭素繊維を含む第2繊維強化樹脂を有し、
前記第3層は、前記スリーブの円周方向に沿って延在する第3炭素繊維を含む第3繊維強化樹脂を有し、
前記第3層の弾性率は、前記第2層の弾性率よりも大きく、
前記第3層の伸び率は、前記第2層の伸び率よりも小さく、
前記ロータシャフトに装着する前の前記スリーブの内径は、前記ロータシャフトの前記永久磁石を含む部分の外径よりも小さく、
前記装着工程では、前記スリーブ内に前記ロータシャフトを挿入し、前記スリーブの内径を拡径する方向に前記スリーブを弾性変形させ、前記スリーブの軸方向を前記ロータシャフトの軸線の延在方向に沿わせて、前記第1層と前記永久磁石の外周面とを摺動させながら、前記ロータシャフトに前記スリーブを装着する、ロータの製造方法。
【請求項7】
請求項記載のロータの製造方法において、
前記提供工程で用意する前記スリーブは、複数のリング部材であり、
前記装着工程では、複数の前記リング部材を前記ロータシャフトの軸線の延在方向に重ねることで、円筒状の前記スリーブを形成する、ロータの製造方法。
【請求項8】
請求項又は記載のロータの製造方法において、
前記装着工程の前に、前記ロータシャフトの延在方向の一端部に装着治具を取り付ける治具取り付け工程を有し、
前記装着工程では、前記ロータシャフトに取り付けられた前記装着治具を介して前記スリーブ内に前記ロータシャフトを挿入し、
前記装着治具は、前記ロータシャフトに装着する前の前記スリーブの内径以下の径の小径部と、前記ロータシャフトの前記永久磁石を含む部分の外径と同じ径の大径部と、前記小径部から前記大径部に向かってテーパ状に拡径するテーパ状部とを有する、ロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータ、回転電機、ロータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面磁石型の回転電機のロータでは、ロータシャフトの外周に永久磁石が配置されている。この種の回転電機では、ロータの回転時に生じる遠心力により、永久磁石にロータから脱離する方向の力が加えられる。そこで、永久磁石の外周にスリーブが配置される。該スリーブにより永久磁石が保持されるため、ロータシャフトから永久磁石が離脱することが抑制される。
【0003】
例えば、特許文献1には、強化繊維の配向方向が異なる2層の繊維強化樹脂から構成されたスリーブが提案されている。具体的には、スリーブの内周部に、強化繊維がフープ巻きされた繊維強化樹脂からなるフープ巻き層を設けている。また、フープ巻き層の外周部に、強化繊維がヘリカル巻きされた繊維強化樹脂からなるヘリカル巻き層を設けている。このスリーブでは、該スリーブの強度を確保するべくフープ巻き層を設け、フープ巻き層の強化繊維の剥離を防止するべくヘリカル巻き層を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-163752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のスリーブは、該スリーブの内径を拡径する方向に弾性変形させた状態で、永久磁石の外周に配置されることが好ましい。これにより、スリーブの弾性復元力により永久磁石がロータシャフトに向かって押圧される。このため、ロータシャフトの外周に永久磁石を良好に保持することができる。この場合、永久磁石に対するスリーブの保持力を大きくするべく、スリーブの弾性率を大きくすることが好ましい。
【0006】
一方、スリーブの弾性率を大きくすると、ロータシャフトへの装着時にスリーブに破断が生じ易くなる懸念がある。特に、スリーブの内周部では、外周部よりも変形量が大きくなる。このため、スリーブの内周部に、スリーブの拡径方向に弾性変形し難いフープ巻き層を設けると、スリーブの破断が一層生じ易くなる懸念がある。
【0007】
つまり、スリーブの破断を抑制しつつロータシャフトにスリーブを装着することと、スリーブの弾性復元力により永久磁石をロータシャフトに向かって良好に押圧することとの両方を行うことは困難であった。ひいては、ロータシャフトの外周に永久磁石を良好に保持することは困難であった。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、軸線回りに回転可能なロータシャフトと、前記ロータシャフトの外周に配置される永久磁石と、前記永久磁石の外周に配置され、前記ロータシャフトに向かって前記永久磁石を押圧するスリーブと、を備えるロータであって、前記スリーブは、該スリーブの軸方向視で同心状に配置された第1層と、第2層と、第3層とを有し、前記第1層と、前記第2層と、前記第3層とは、前記スリーブの径方向の中心から外側に向かう方向にこの順に並んで一体化され、前記第1層は、前記ロータシャフトの前記軸線及び前記スリーブの円周方向の両方に対して傾斜する方向に延在する第1炭素繊維を含む第1繊維強化樹脂を有し、前記第2層は、前記スリーブの円周方向に沿って延在する第2炭素繊維を含む第2繊維強化樹脂を有し、前記第3層は、前記スリーブの円周方向に沿って延在する第3炭素繊維を含む第3繊維強化樹脂を有し、前記第3層の弾性率は、前記第2層の弾性率よりも大きい。
【0010】
本発明の別の一態様は、前記ロータと、前記ロータの外周と間隔を置いて向かい合うステータと、を備える、回転電機である。
【0011】
本発明のまた別の一態様は、軸線回りに回転可能なロータシャフトと、前記ロータシャフトの外周に配置される永久磁石と、前記永久磁石の外周に配置され、前記ロータシャフトに向かって前記永久磁石を押圧するスリーブと、を備えるロータの製造方法であって、前記永久磁石が外周に配置された前記ロータシャフトと、前記ロータシャフトに装着する前の前記スリーブと、を提供する提供工程と、前記ロータシャフトの前記永久磁石の外周に前記スリーブを装着する装着工程と、を有し、前記提供工程で用意する前記スリーブは、同心状に配置された第1層と、第2層と、第3層とを有し、前記第1層と、前記第2層と、前記第3層とは、前記スリーブの径方向の中心から外側に向かう方向にこの順に並んで一体化され、前記第1層は、前記スリーブの軸方向及び前記スリーブの円周方向の両方に対して傾斜する方向に延在する第1炭素繊維を含む第1繊維強化樹脂を有し、前記第2層は、前記スリーブの円周方向に沿って延在する第2炭素繊維を含む第2繊維強化樹脂を有し、前記第3層は、前記スリーブの円周方向に沿って延在する第3炭素繊維を含む第3繊維強化樹脂を有し、前記第3層の弾性率は、前記第2層の弾性率よりも大きく、前記ロータシャフトに装着する前の前記スリーブの内径は、前記ロータシャフトの前記永久磁石を含む部分の外径よりも小さく、前記装着工程では、前記スリーブ内に前記ロータシャフトを挿入し、前記スリーブの内径を拡径する方向に前記スリーブを弾性変形させ、前記スリーブの軸方向を前記ロータシャフトの前記軸線の延在方向に沿わせて、前記第1層と前記永久磁石の外周面とを摺動させながら、前記ロータシャフトに前記スリーブを装着する。
【発明の効果】
【0012】
スリーブの第1層と、第2層と、第3層と、は、該スリーブの径方向の中心から外側に向かう方向にこの順に並んで一体化されている。スリーブにロータシャフトを挿入するときに、スリーブの内径が拡径される方向(以下、拡径方向ともいう)のスリーブの変形量は、スリーブの径方向の中心に近いほど大きくなる。つまり、スリーブの拡径方向の変形量は、第1層で最も大きくなり、第3層で最も小さくなる。
【0013】
第1層の第1繊維強化樹脂は、ロータシャフトの軸線及びスリーブの円周方向の両方に対して傾斜する方向に延在する第1炭素繊維を含む。このため、第1層では、例えば、炭素繊維がスリーブの周方向に沿って延在する繊維強化樹脂層(フープ巻き層)よりも、拡径方向に弾性変形し易い。このため、上記の通り、スリーブにロータシャフトを挿入するとき、第1層の拡径方向の変形量が大きくなっても、第1層が破断することを効果的に抑制できる。
【0014】
第2層の第2繊維強化樹脂は、スリーブの円周方向に沿って延在する第2炭素繊維を含む。このため、第2層は、第1層よりも拡径方向の弾性率(剛性)が大きい。また、第3層の第3繊維強化樹脂は、スリーブの円周方向に沿って延在する第3炭素繊維を含む。また、第3層の弾性率は、第2層の弾性率よりも大きい。すなわち、スリーブでは、該スリーブにロータシャフトを挿入するときの拡径方向の変形量が小さくなる層ほど弾性率が大きくなっている。このため、第2層及び第3層についても、スリーブにロータシャフトを挿入するときに破断することが抑制される。また、ロータシャフトに装着した後のスリーブでは、第1層よりも弾性率が大きい第2層と、該第2層よりも弾性率が大きい第3層とによって、ロータシャフトの外周に永久磁石を良好に保持することが可能になる。
【0015】
従って、本発明によれば、スリーブの破断を抑制しつつロータシャフトにスリーブを装着することと、スリーブの弾性復元力により永久磁石をロータシャフトに向かって良好に押圧することとの両方を行うことができる。ひいては、ロータシャフトの外周に永久磁石を良好に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の実施形態に係るロータを備える回転電機の概略断面図である。
図2図2は、ロータの概略側面図である。
図3図3は、図2のロータを軸方向視したときの端面図である。
図4図4は、永久磁石が外周に配置されたロータシャフトと、該ロータシャフトに取り付けられる前の装着治具との概略側面図である。
図5図5は、ロータシャフトに装着治具を取り付ける治具取り付け工程を説明する説明図である。
図6図6は、装着治具を介してリング部材をロータシャフトに装着する装着工程を説明する説明図である。
図7図7は、装着工程におけるリング部材と永久磁石との要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下の図において、同一又は同様の機能及び効果を奏する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0018】
図1に示すように、本実施形態に係るロータ10は、回転電機12の一部を構成する。回転電機12は、ロータ10の他に、モータケース14と、ベアリング16と、ステータ18と、を備える。モータケース14は、一組のベアリング16を介してロータ10のロータシャフト22を回転可能に支持する。これにより、ロータシャフト22は軸線回りに回転可能である。一組のベアリング16は、ロータシャフト22の軸方向に互いに間隔を置いて配置されている。以下、ロータシャフト22の軸線に沿う方向をロータシャフト22の軸方向ともいう。
【0019】
ロータシャフト22は、本体部26と、一対の細径部24とを有する。一対の細径部24は、該ロータシャフト22の軸線に沿う方向(以下、ロータシャフト22の軸方向ともいう)の両端部に設けられている。本体部26は、細径部24よりも大きい外径を有しており、ロータシャフト22の細径部24同士の間(ロータシャフト22の軸方向の中央部)に設けられている。ロータシャフト22の一組の細径部24の各々がベアリング16に支持される。また、ロータシャフト22において一組のベアリング16に支持される箇所の間の部分は、モータケース14の内部に収容される。
【0020】
ステータ18は、モータケース14の内部に収容されている。ステータ18は、電磁コイル28と、不図示のステータコアとを有する。モータケース14の内部において、電磁コイル28及びステータコアは、ロータ10の外周と間隔を置いて向かい合う。
【0021】
図1図3に示すように、ロータ10は、ロータシャフト22と、永久磁石30と、スリーブ32とを有する。ロータシャフト22は、ステータ18と向かい合う部分(本体部26)の外周を有する。ロータシャフト22の当該外周に永久磁石30が取り付けられている。スリーブ32は、永久磁石30の外周に配置されている。スリーブ32は、ロータシャフト22に向かって永久磁石30を押圧する。これにより、スリーブ32は、ロータシャフト22の外周に永久磁石30を保持する。
【0022】
本実施形態では、スリーブ32の内径は、ロータシャフト22の永久磁石30を含む部分の径よりも小さい。このため、スリーブ32は、該スリーブ32の内径を拡径する方向に弾性変形させた状態で、永久磁石30の外周に配置されている。つまり、永久磁石30は、スリーブ32の弾性復元力により、ロータシャフト22に向かって押圧されている。
【0023】
図2及び図3に示すように、スリーブ32は、円環状の複数のリング部材34を有している。複数のリング部材34は、ロータシャフト22の軸方向に互いに重ね合わされる。これにより、スリーブ32は、全体として円筒状になっている。円筒状のスリーブ32は、ロータシャフト22と同軸に配置される。図3に示すように、スリーブ32を構成する各リング部材34は、スリーブ32の軸方向視で同心状に配置された第1層36と、第2層38と、第3層40とを有する。第1層36と、第2層38と、第3層40とは、スリーブ32の径方向の中心から外側に向かう方向にこの順に並んで一体化されている。従って、第2層38は、第1層36の外側に配置されている。第3層40は、第2層38の外側に配置されている。
【0024】
第1層36は、第1繊維強化樹脂を有する。第1繊維強化樹脂は、第1マトリックス樹脂と、第1炭素繊維とを含む。第1マトリックス樹脂の好適な例としては、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、あるいはこれらの樹脂から選択される少なくとも2つ以上を混ぜ合わせた混合樹脂が挙げられるが、特にこれらには限定されない。第1炭素繊維は、ロータシャフト22の軸線(スリーブ32の軸方向)及びスリーブ32の円周方向の両方に対して傾斜する方向に延在する。つまり、第1炭素繊維は、いわゆる、ヘリカル巻きされている。第1炭素繊維の延在方向が、ロータシャフト22の軸線に対して傾斜する角度(以下、傾斜角度ともいう)は、30°~40°であることが好ましい(理由は後述する)。
【0025】
第2層38は、第2繊維強化樹脂を有する。第2繊維強化樹脂は、第2マトリックス樹脂と、第2炭素繊維とを含む。第2マトリックス樹脂の好適な例としては、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、あるいはこれらの樹脂から選択される少なくとも2つ以上を混ぜ合わせた混合樹脂が挙げられるが、特にこれらには限定されない。第2炭素繊維は、スリーブ32の円周方向に沿って延在する。つまり、第2炭素繊維は、いわゆる、フープ巻きされている。
【0026】
第3層40は、第3繊維強化樹脂を有する。第3繊維強化樹脂は、第3マトリックス樹脂と、第3炭素繊維とを含む。第3マトリックス樹脂の好適な例としては、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、あるいはこれらの樹脂から選択される少なくとも2つ以上を混ぜ合わせた混合樹脂が挙げられるが、特にこれらには限定されない。第3炭素繊維は、スリーブ32の円周方向に沿って延在する。つまり、第3炭素繊維は、いわゆる、フープ巻きされている。ここで、繊維強化樹脂では、強化繊維の延在方向の強度が効果的に高められている。このため、第2炭素繊維がフープ巻きされた第2層38と、第3炭素繊維がフープ巻きされた第3層40との各々は、リング部材34の周方向に特に高い強度を示す。つまり、第2層38及び第3層40は、ロータ10の回転時に永久磁石30に加えられる遠心力の方向に対して高い強度を示す。
【0027】
第3層40の弾性率は、第2層38の弾性率よりも大きい。第2層38の弾性率は、第2層38の周方向の引張弾性率である。第3層40の弾性率は、第3層40の周方向の引張弾性率である。また、第3層40の周方向の伸び率は、第2層38の周方向の伸び率よりも小さいことが好ましい。なお、第3層40の弾性率及び伸び率は、例えば、第3炭素繊維の種類を選定することで調整可能である。また、第2層38の弾性率及び伸び率は、例えば、第2炭素繊維の種類を選定することで調整可能である。
【0028】
各リング部材34では、第1層36の厚みを1としたとき、第2層38の厚みと第3層40との厚みとを合計した合計厚みが7.9~28.7であることが好ましい(理由は後述する)。この場合、例えば、第1層36の厚みは、0.2~0.3mmであることが好ましい。また、第2層38及び第3層40の合計厚みは、2.37~5.73mmであることが好ましい。各リング部材34の軸方向の長さは、3.3~12.0mmであることが好ましい。一層好適な各リング部材34の軸方向の長さは、6.0~8.0mmである。
【0029】
ロータ10は、基本的には上記のように構成される。以下、図4図7を併せて参照しつつ、本実施形態に係るロータ10の製造方法について説明する。ロータ10の製造方法では、先ず、提供工程を行う。提供工程では、永久磁石30が外周に配置されたロータシャフト22(図4)と、ロータシャフト22に装着する前のスリーブ32(図5のリング部材34)と、を提供する。本実施形態では、提供工程で提供するスリーブ32は、ロータシャフト22に装着する前の複数のリング部材34である。
【0030】
次に、治具取り付け工程を行う。図4及び図5に示すように、治具取り付け工程では、ロータシャフト22の延在方向の一端部に装着治具42を取り付ける。本実施形態では、装着治具42には、該装着治具42の軸方向に沿って挿通孔44が設けられている。この挿通孔44に、ロータシャフト22の一方の細径部24が挿入されることで、ロータシャフト22に装着治具42が取り付けられる。
【0031】
装着治具42は、小径部46と、大径部48と、テーパ状部50とを有している。小径部46の外径は、ロータシャフト22に装着する前のスリーブ32(各リング部材34)の内径以下である。大径部48の外径は、ロータシャフト22の永久磁石30を含む部分の外径と同じ径である。なお、ここでの「同じ径」は、大径部48の外径と、ロータシャフト22の永久磁石30を含む部分の外径とが略同じである場合も含む。
【0032】
テーパ状部50は、大径部48から小径部46に向かってテーパ状に縮径する。ロータシャフト22に装着治具42が取り付けられたとき、装着治具42の大径部48が、ロータシャフト22の永久磁石30を含む部分に連続的に隣接するように配置される。すなわち、装着治具42の小径部46は、大径部48よりも、ロータシャフト22の一端部の近くに配置される。
【0033】
次に、装着工程を行う。装着工程では、図6及び図7に示すように、ロータシャフト22の永久磁石30の外周にスリーブ32を装着する。本実施形態では、ロータシャフト22に取り付けられた装着治具42を介して複数のリング部材34の内側にロータシャフト22を挿入する。
【0034】
具体的には、リング部材34内に、装着治具42をその小径部46から挿入する。そして、リング部材34の第1層36の内周面と、テーパ状部50の外周面とを摺動させながら、リング部材34を大径部48に向かって相対移動させる。これにより、テーパ状部50の外径に合わせてリング部材34の内径が拡径されていく。リング部材34が大径部48に到達したとき、リング部材34の内径は、ロータシャフト22の永久磁石30を含む部分の外径に達するまで拡径される。このため、リング部材34の内径を拡径する方向(以下、拡径方向ともいう)に弾性変形させたリング部材34の内側に、ロータシャフト22の永久磁石30を含む部分を容易に挿入することができる。
【0035】
装着工程では、上記の通り装着治具42を介することで、ロータシャフト22の永久磁石30を含む部分の軸方向の一端部にリング部材34が配置される。このリング部材34を、ロータシャフト22の永久磁石30を含む部分の軸方向の他端部に向かって相対移動させる。このとき、リング部材34の軸方向をロータシャフト22の軸方向に沿わせて、第1層36と永久磁石30の外周面とを摺動させる。なお、装着治具42及びロータシャフト22に対してリング部材34を相対移動させる場合、例えば、不図示のプレス機構を用いてもよい。プレス機構は、リング部材34の軸方向の端面に当接して、リング部材34をその軸方向に沿って押圧可能である。
【0036】
上記のようにして、複数のリング部材34をロータシャフト22の軸方向に重ねていくことで、ロータシャフト22の永久磁石30の外周に円筒状のスリーブ32を形成することができる。その結果、スリーブ32の弾性復元力により、ロータシャフト22に向かって永久磁石30が押圧された状態で、ロータシャフト22の外周に永久磁石30が保持されたロータ10(図2)が得られる。
【0037】
以上から、本実施形態に係るロータ10の製造方法では、リング部材34(スリーブ32)にロータシャフト22を挿入してロータ10が得られる。このとき、拡径方向にリング部材34が変形する変形量は、スリーブ32の径方向の中心に近いほど大きくなる。つまり、リング部材34の拡径方向の変形量は、第1層36で最も大きくなり、第3層40で最も小さくなる。
【0038】
第1層36の第1繊維強化樹脂は、ロータシャフト22の軸線及びリング部材34の円周方向の両方に対して傾斜する方向に延在する第1炭素繊維を含む。このため、第1層36では、例えば、炭素繊維がリング部材34の周方向に沿って延在する繊維強化樹脂層(フープ巻き層)よりも、拡径方向に弾性変形し易い。このため、上記の通り、リング部材34にロータシャフト22を挿入するとき、第1層36の拡径方向の変形量が大きくなっても、第1層36が破断することを効果的に抑制できる。
【0039】
第2層38の第2繊維強化樹脂は、リング部材34の円周方向に沿って延在する第2炭素繊維を含む。このため、第2層38は、第1層36よりも拡径方向の弾性率(剛性)が大きい。また、第3層40の第3繊維強化樹脂は、リング部材34の円周方向に沿って延在する第3炭素繊維を含む。また、第3層40の弾性率は、第2層38の弾性率よりも大きい。すなわち、リング部材34では、該リング部材34にロータシャフト22を挿入するときの拡径方向の変形量が小さくなる層ほど弾性率が大きくなっている。このため、第2層38及び第3層40についても、リング部材34にロータシャフト22を挿入するときに破断することが抑制される。また、ロータシャフト22に装着した後のリング部材34では、第1層36よりも弾性率が大きい第2層38と、該第2層38よりも弾性率が大きい第3層40とによって、ロータシャフト22の外周に永久磁石30を良好に保持することが可能になる。
【0040】
従って、本実施形態に係るロータ10、回転電機12、及びロータ10の製造方法によれば、リング部材34の破断を抑制しつつロータシャフト22にリング部材34を装着することができ、リング部材34の弾性復元力により永久磁石30をロータシャフト22に向かって良好に押圧することができる。ひいては、ロータシャフト22の外周に永久磁石30を良好に保持することができる。
【0041】
上記の実施形態に係るロータ10では、第3層40の伸び率は、第2層38の伸び率よりも小さい。この場合、ロータ10が高速回転し、永久磁石30に加えられる遠心力が大きくなっても、第3層40の伸びを抑制することができる。このため、スリーブ32によりロータシャフト22の外周に永久磁石30を良好に保持することができる。また、リング部材34をロータシャフト22に装着するときの拡径方向の変形量が第3層40よりも大きい第2層38では、第3層40よりも伸び率が大きくなっている。このため、リング部材34にロータシャフト22を挿入するときに、リング部材34が破断することを抑制できる。
【0042】
上記の実施形態に係るロータ10では、第1層36の厚みを1としたとき、第2層38の厚みと第3層40の厚みとを合計した合計厚みは7.9~28.7である。
【0043】
第1層36の厚みを1としたときの合計厚みを7.9以上とすることで、ロータ10の回転時に永久磁石30に加えられる遠心力に対して高い強度を示すフープ巻き層である第2層38及び第3層40の厚みを十分に確保できる。これにより、スリーブ32による永久磁石30の保持力を高めることができる。
【0044】
一方、第1層36の厚みを1としたときの合計厚みを28.7以下とすることで、スリーブ32の拡径方向の変形に対して破断が生じ難いヘリカル巻き層である第1層36の厚みを十分に確保できる。これにより、ロータシャフト22にスリーブ32を装着するときに、スリーブ32が破断することを効果的に抑制できる。
【0045】
上記の実施形態に係るロータ10では、第1炭素繊維の延在方向が、ロータシャフト22の軸線に対して傾斜する角度は、30°~40°である。
【0046】
傾斜角度を30°以上とすることで、第1炭素繊維の延在方向を、第2炭素繊維の延在方向に近づけて、第1層36と第2層38との接合強度を高めることができる。装着工程において、第1層36の内周面と永久磁石30の外周面とを摺動させるとき、互いの間にスリーブ32の軸方向に沿って摩擦力が生じる。この場合であっても、傾斜角度を30°以上とすることで、第1層36と第2層38との層間が剥離することを効果的に抑制できる。ひいては、リング部材34の破断を効果的に抑制できる。
【0047】
装着工程では、リング部材34の軸方向において、拡径前の部分と拡径している部分とが生じると、これらの拡径前の部分と拡径している部分との間に、応力差(応力分布)が生じる。リング部材34の拡径方向の変形量が大きい第1層36では、上記の応力差も大きくなる。傾斜角度を40°以下とすることで、上記の応力差が生じても、第1炭素繊維の配向方向に沿ってせん断応力が生じることを抑制できる。このため、第1層36の破断を効果的に抑制できる。ひいては、リング部材34の破断を効果的に抑制できる。
【0048】
上記の実施形態に係るロータ10では、スリーブ32は、ロータシャフト22の軸線の延在方向に重ねられた複数のリング部材34を有する円筒状部材である。この場合、装着工程において、リング部材34をロータシャフト22に装着するべく、リング部材34を軸方向に押圧するときに、リング部材34が破断することを効果的に抑制できる。
【0049】
すなわち、装着工程では、リング部材34の軸方向の端面を押圧して、第1層36の内周面と永久磁石30の外周面とを摺動させる。このとき、第1層36の内周面と永久磁石30の外周面との間には摩擦力が生じる。リング部材34の破断を効果的に抑制するためには、上記の摩擦力を小さくすることが好ましい。
【0050】
上記の摩擦力は、第1層36の内周面と永久磁石30の外周面との接触面積が大きくなると大きくなる。このため、リング部材34をロータシャフト22に装着してスリーブ32を構成することで、例えば、リング部材34よりも軸方向に長い一体の円筒状であるスリーブ32をロータシャフト22に装着する場合よりも、上記の接触面積を小さくして、上記の摩擦力を小さくできる。その結果、スリーブ32の破断を効果的に抑制することができる。ひいては、ロータシャフト22の外周に永久磁石30を一層良好に保持することが可能になる。
【0051】
なお、上記の通り、各リング部材34の軸方向の長さは、3.3~12.0mmであることが好ましく、6.0~8.0mmであることが一層好ましい。この場合、上記の摩擦力により、リング部材34に軸方向に沿ったせん断応力が生じても、リング部材34が軸方向に変形することを効果的に抑制できる。このため、リング部材34の破断を一層効果的に抑制できる。
【0052】
本実施形態に係る回転電機12は、ロータ10と、ロータ10の外周と間隔を置いて向かい合うステータ18と、を備える。
【0053】
上記の実施形態に係るロータ10の製造方法において、提供工程で用意するスリーブ32は、複数のリング部材34であり、装着工程では、複数のリング部材34をロータシャフト22の軸線の延在方向に重ねることで、円筒状のスリーブ32を形成する。
【0054】
上記の実施形態に係るロータ10の製造方法において、装着工程の前に、ロータシャフト22の延在方向の一端部に装着治具42を取り付ける治具取り付け工程を有し、装着工程では、ロータシャフト22に取り付けられた装着治具42を介してスリーブ32内にロータシャフト22を挿入し、装着治具42は、ロータシャフト22に装着する前のスリーブ32の内径以下の径の小径部46と、ロータシャフト22の永久磁石30を含む部分の外径と同じ径の大径部48と、小径部46から大径部48に向かってテーパ状に拡径するテーパ状部50とを有する。この場合、ロータシャフト22に装着治具42を取り付ける簡単な構成により、拡径方向に弾性変形させたリング部材34を、ロータシャフト22に容易に装着することが可能になる。
【0055】
本発明は、上述した実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を取り得る。
【0056】
例えば、上記の実施形態では、複数のリング部材34を、ロータシャフト22の軸方向に重ねて円筒状のスリーブ32を構成することとしたが、特にこれには制限されない。スリーブ32は、予め一体の円筒状に形成されていてもよい。この場合であっても、スリーブ32は、リング部材34と同様に、第1層36と第2層38と第3層40とを有する。また、一体の円筒状であるスリーブ32も、リング部材34と同様に、ロータシャフト22の永久磁石30の外周に配置することが可能である。
【0057】
上記の実施形態に係るロータ10の製造方法は、治具取り付け工程を有することとしたが、治具取り付け工程を有していなくてもよい。この場合、装着治具42を介さずに、ロータシャフト22にスリーブ32を装着してもよい。
【符号の説明】
【0058】
10…ロータ 12…回転電機
18…ステータ 22…ロータシャフト
30…永久磁石 32…スリーブ
34…リング部材 36…第1層
38…第2層 40…第3層
42…装着治具 46…小径部
48…大径部 50…テーパ状部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7