(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】再取出方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/36 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
G21F9/36 G
G21F9/36 541E
G21F9/36 541D
(21)【出願番号】P 2021158820
(22)【出願日】2021-09-29
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】小林 一三
(72)【発明者】
【氏名】米丸 佳克
(72)【発明者】
【氏名】松本 聡碩
(72)【発明者】
【氏名】江崎 太一
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-132867(JP,A)
【文献】特開2013-011557(JP,A)
【文献】特開2014-020864(JP,A)
【文献】特開2015-230266(JP,A)
【文献】特表2020-523567(JP,A)
【文献】特開2021-021659(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0234663(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0345336(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性廃棄物処分場で放射性廃棄物を格納し埋め戻し材の中に埋められた金属容器を前記埋め戻し材から再び取出す再取出方法であって、
前記金属容器との間に前記埋め戻し材の一部を挟んで配置された磁石から前記金属容器に磁気吸引力を付与し、当該磁気吸引力に起因して前記金属容器から前記埋め戻し材に作用する力によって前記埋め戻し材を破壊させる埋め戻し材破壊工程を備える、再取出方法。
【請求項2】
前記埋め戻し材破壊工程では、前記磁気吸引力によって前記金属容器を前記埋め戻し材の中で振動させる、請求項1に記載の再取出方法。
【請求項3】
前記磁石は揚重装置に装着されており、
前記埋め戻し材破壊工程の後、前記磁石に前記金属容器を吸着させて前記埋め戻し材内から前記揚重装置で前記金属容器を取出す容器取出し工程を備える、請求項1又は2に記載の再取出方法。
【請求項4】
前記埋め戻し材は、前記放射性廃棄物処分場において前記金属容器を包囲するベントナイト系人工バリア材、又はセメント系人工バリア材である、請求項1~3の何れか1項に記載の再取出方法。
【請求項5】
前記金属容器は、前記放射性廃棄物処分場に埋設処分されたオーバーパック、又はPEMである、請求項1~4の何れか1項に記載の再取出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性廃棄物を格納し埋め戻し材の中に埋められた金属容器を埋め戻し材から再び取出す再取出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、放射性廃棄物を金属容器内に封入し例えば締固めたベントナイト系人工バリアなどの埋め戻し材で覆った状態で地下深くに埋設するといった処分が行われている。近年の原子力に関する新規制基準の潮流から、埋設後の放射性廃棄物に例えば核種の移行などが確認された場合には、この放射性廃棄物を速やかに再び取り出せるようにすることが求められている。この再取出においては金属容器の周囲の埋め戻し材を除去する必要がある。例えば下記特許文献1,2に記載のように、埋め戻し材に塩水を噴射してこの埋め戻し材を膨潤させ崩壊させる手法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5553164号公報
【文献】特許第5747620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1,2の手法によれば、処理に用いた塩水により大量のベントナイト泥水や泥土が新たに放射性廃棄物として発生するといった問題がある。この問題に鑑み、本発明は、埋め戻し材から金属容器を取出す際に、新たに発生する放射性廃棄物を低減する再取出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の再取出方法は、放射性廃棄物処分場で放射性廃棄物を格納し埋め戻し材の中に埋められた金属容器を埋め戻し材から再び取出す再取出方法であって、金属容器との間に埋め戻し材の一部を挟んで配置された磁石から金属容器に磁気吸引力を付与し、当該磁気吸引力に起因して金属容器から埋め戻し材に作用する力によって埋め戻し材を破壊させる埋め戻し材破壊工程を備える。
【0006】
埋め戻し材破壊工程では、磁気吸引力によって金属容器を埋め戻し材の中で振動させる、こととしてもよい。本発明の再取出方法は、磁石は揚重装置に装着されており、埋め戻し材破壊工程の後、磁石に金属容器を吸着させて埋め戻し材内から揚重装置で金属容器を取出す容器取出し工程を備える、こととしてもよい。
【0007】
埋め戻し材は、放射性廃棄物処分場において金属容器を包囲するベントナイト系人工バリア材、又はセメント系人工バリア材である、こととしてもよい。金属容器は、放射性廃棄物処分場に埋設処分されたオーバーパック、又はPEMである、こととしてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、埋め戻し材から金属容器を取出す際に、新たに発生する放射性廃棄物を低減する再取出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(a)は、本実施形態の再取出方法が適用される放射性廃棄物処分場の地下トンネルを示す斜視図であり、(b)はそのIa-Ia断面図である。
【
図2】(a)は、揚重装置及びマグネット装置等を含む坑道の断面図であり、(b)は、マグネット装置の平面図である。
【
図3】(a)は、本実施形態の再取出方法における緩衝材破壊工程を示す断面図であり、(b)は、容器取出し工程を示す断面図である。
【
図4】(a)は、マグネット装置の他の例を示す平面図であり、(b)は、マグネット装置の更に他の例を示す断面図であり、(c)は、マグネット装置の更に他の例を示す平面図である。
【
図5】(a)は、更に他の例に係るマグネット装置が緩衝材上に配置された状態を示す平面図であり、(b)は、その断面図である。
【
図7】(a)は本実施形態の再取出方法が適用される地下トンネルの他の例を示す斜視図であり、(b)はその再取出方法の緩衝材破壊工程を示す断面図である。
【
図8】本実施形態の再取出方法が適用される地下トンネルの更に他の例を示す一部破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明に係る再取出方法の実施形態について詳細に説明する。本実施形態の再取出方法は、放射性廃棄物を格納して放射性廃棄物処分場に埋設処分された金属容器を再び取出すために用いられる方法である。
図1(a)はこの再取出方法が適用される放射性廃棄物処分場の地下トンネル1を示す斜視図であり、
図1(b)はそのIa-Ia断面図である。地下トンネル1は、例えば地下300m以深の地盤中に設けられる。地下トンネル1の坑道2の底面には概ね鉛直下方に向けて円柱形状に掘り下げられた直径約2.2mの円柱穴3が地下トンネル1の長手方向に間隔を空けて多数設けられている。この円柱穴3内に、当該円柱穴3と概ね同心で円柱形状の金属容器5が設置され、金属容器5を包囲するように埋め戻し材としての緩衝材7が円柱穴3内に充填されている。
【0011】
埋立処分時には、まず円柱穴3内に緩衝材7が設置される。この緩衝材7の中央には金属容器5とほぼ同径に形成された円柱状の有底の設置穴が円柱穴3と同心に形成されている。そして、重機等が金属容器5を上記設置穴に挿入するようにして金属容器5が円柱穴3の中央に設置され、更に金属容器5の上方に蓋をするように緩衝材7が円柱穴3の上端まで充填されることで、金属容器5は円柱穴3内の緩衝材7内に埋没する。各円柱穴3に1個ずつ金属容器5が埋設された後、地下トンネル1の坑道2も、所定の地盤材料で埋められる。なお、金属容器5の上面には上記の重機等が把持するための把持部5aが設けられている。
【0012】
金属容器5は内部に放射性廃棄物を格納している。この放射性廃棄物は、低レベル放射性廃棄物であってもよく、高レベル放射性廃棄物であってもよい。具体例として、本実施形態の金属容器5は、高レベル放射性廃棄物(HLW)をガラスとともに固めたガラス固化体をキャニスターと呼ばれるステンレススチール製の円柱容器内に封入し、このキャニスターを更に鋼鉄で包んでなるものであり、直径約80cmの円柱状をなしている。そして、この容器の円柱上端面に、前述の把持部5aが設けられている。このような金属容器5は、「オーバーパック」などと呼ばれる場合がある。なお、金属容器5は、オーバーパックには限定されず、例えば、PEM(Prefabricated Engineered Barrier System Module)であってもよい。
【0013】
緩衝材7は、地盤と金属容器5との間に介在することで金属容器5に対する周囲の地盤の影響を遮断する人工バリアとして機能する。すなわち、緩衝材7は、遮水性をもつ材料からなり金属容器5が地下水に晒されることを抑制する。また、緩衝材7は、地震時などに周囲の地盤から金属容器5に作用する外力を緩衝する機能も有している。緩衝材7としては、例えばベントナイト系人工バリア材、セメント系人工バリア材等が採用され得る。本実施形態においては、緩衝材7は、ベントナイト系人工バリア材であり、例えば、ベントナイトと砂とを混合してなる土質材料からなる。
【0014】
上記のような地下トンネル1の緩衝材7から金属容器5を再び取出すための再取出方法について説明する。本実施形態の再取出方法では、まず地下トンネル1の坑道2を埋める地盤材料が掘削除去され、坑道2の底面に円柱穴3が現れる。この時点では、
図1(b)に示されるように、坑道2の底面の位置(すなわち、円柱穴3の上端の位置)で緩衝材7の円形の上端面が露出し、金属容器5は円柱穴3内の緩衝材7内に完全に埋没した状態である。
【0015】
続いて、
図2(a)に示されるように、坑道2内にマグネット装置11が導入される。本実施形態においては、坑道2内にクレーンを含む揚重装置13が構築され、マグネット装置11は揚重装置13に吊り下げられている。マグネット装置11は、揚重装置13の2次元的な水平移動に伴って2次元的に水平移動可能であり、揚重装置13の吊下げ索の引き上げ/送り出しによって上下動可能である。
図2(b)にも示されるように、マグネット装置11は、平面視で緩衝材7よりも大径の円形をなす筐体11aと、筐体11a内に内蔵された電磁石部11bと、を有している。マグネット装置11としては、公知のリフティングマグネット装置が採用されてもよい。
【0016】
図3(a)に示されるように、揚重装置13は、クレーン操作によりマグネット装置11を移動させ、坑道2の底面に露出する緩衝材7の上面の上方の位置にマグネット装置11を配置する。このとき、マグネット装置11の筐体11aは金属容器5と概ね同心で配置され、筐体11a下面の吸着面11cが緩衝材7の上面に沿うように配置される。またこのとき、吸着面11cと緩衝材7の上面とが密着してもよく、吸着面11cと緩衝材7の上面との間に隙間があってもよい。電磁石部11bは、金属容器5を吸着面11cに対して直交する方向に(ほぼ上向きに)吸引する機能を有する。
【0017】
この状態でマグネット装置11が駆動され磁気吸引力が発生すると、金属容器5が吸着面11cに向けて吸引され、金属容器5は上向きの力を受ける。この金属容器5への上向きの力は、当該金属容器5の上方に被さった緩衝材7の上部を押し上げるように作用する。電磁石部11bのON/OFFが繰り返されると、金属容器5には上向きの磁気吸引力が断続的に付与され、緩衝材7の上部に対して金属容器5からの上向きの外力が断続的に付与される。そして最終的には、緩衝材7の上部にひび割れが発生し、緩衝材7の上部が破壊される。このようにマグネット装置11から金属容器5に磁気吸引力を付与して緩衝材7の上部を破壊させる工程を以下では「緩衝材破壊工程」と呼ぶ。
【0018】
ここでは、電磁石部11bのON/OFFを周期的に切り替えることで、金属容器5を上下に振動させてもよい。またこの場合、電磁石部11bのON/OFFの切り替え周期を、金属容器5及び緩衝材7を含む系の固有振動数に対応させるようにしてもよい。この構成によれば、金属容器5の振動が増幅し大きな振動が得られるので、緩衝材7の上部の破壊が効率的に進行する。また、一般的には未知である上記固有振動数を探るため、緩衝材破壊工程では、電磁石部11bのON/OFFの切り替え周期を徐々に変えながら緩衝材7の振動をモニタし、当該振動が最も大きくなるような切り替え周期を採用するようにしてもよい。このため、マグネット装置11は緩衝材7の振動の大きさを検知するための振動検知装置(図示せず)を備えてもよい。
【0019】
その後、緩衝材7の上部を除去して金属容器5の上部を露出させる。緩衝材7の上部は前述の緩衝材破壊工程で既に破壊されているので、緩衝材7の上部の除去は比較的容易に実行される。この緩衝材7の上部の除去は、坑道2に導入された他の重機で行われてもよい。その後、
図3(b)に示されるように、揚重装置13は、クレーン操作により、上部が露出した金属容器5をマグネット装置11の吸着面11cに吸着し持ち上げることで、金属容器5を緩衝材7から抜き取る。このように上部が破壊された緩衝材7から金属容器5を取出す工程を以下では「容器取出し工程」と呼ぶ。これにより金属容器5の再取出しが完了する。再取出しされた金属容器5は、坑道2を通じて適宜地下トンネル1外に搬出される。
【0020】
前述したように、金属容器5の埋立処分時には、緩衝材7の中央に円柱状の有底の設置穴が予め形成され、この設置穴に金属容器5が挿入される。このような金属容器5の挿入を円滑にすべく、上記設置穴は金属容器5よりも僅かに大径に形成され、従って、金属容器5と緩衝材7との間には僅かに径方向の隙間がある。また、金属容器5は、内部の放射性廃棄物からの放射線放出に起因してある程度の熱を発している。この熱により金属容器5の周囲の緩衝材7が乾燥する傾向にあり、金属容器5の近傍では緩衝材7の乾燥収縮が発生している場合がある。この乾燥収縮により金属容器5と緩衝材7との間に径方向の隙間が存在する。そして、上記のような径方向の隙間の存在により、緩衝材7の上部が除去された後は、金属容器5を円柱軸方向に上向きに緩衝材7から比較的容易に抜き取ることができる。なお、容器取出し工程で金属容器5を緩衝材7から抜き取る際には、上部に露出した金属容器5の把持部5aを他の重機で把持して金属容器5を緩衝材7から抜き取ってもよい。また、上記のような金属容器5と緩衝材7との間の隙間の存在は、磁気吸引力を受けた金属容器5を緩衝材7内部で十分に振動させることにも寄与する。
【0021】
以上のような揚重装置13及びマグネット装置11による一連の動作のうち一部又は全部が、遠隔操作により実行されてもよい。遠隔操作を採用することにより、作業者の放射線被曝を低減することができる。特に、緩衝材破壊工程は、緩衝材7の上面の位置にマグネット装置11を配置し、マグネット装置11を駆動する、といった比較的単純な動作によって実行可能であるので、遠隔操作によっても実行がし易い。この遠隔操作のために、揚重装置13及びマグネット装置11は、遠隔操作信号を送受信するための有線又は無線による通信装置(図示せず)を備えてもよい。
【0022】
続いて、マグネット装置11の電磁石部について更に説明する。マグネット装置11は、電磁石部11bに代えて、
図4(a)に示される電磁石部11eを備えるものであってもよい。電磁石部11eは、平面視で筐体11aと同心の円環形状をなしており、当該円環の中心を挟んで径方向に対向する位置に電磁石のN極とS極とを発生させる。そして、電流が制御されることで上記のN極及びS極を周方向に移動させたり、N極とS極とを互いに反転させたりすることができる。また、マグネット装置11は、
図4(b)に示される電磁石部11fを備えるものであってもよい。電磁石部11fは、平面視で筐体11aと同心の円環状をなしている。電磁石部11fでは、上下方向にN極とS極とを発生させるとともに、上下でN極とS極とを反転可能な部位が上記円環の周方向に配列されている。
【0023】
また、上記の電磁石部11bは金属容器5を吸着面11cに対して直交する方向に吸引するものであるが、電磁石部11bに代えて、次に説明する電磁石部11hが採用されてもよい。
図5(a)は、電磁石部11hを有するマグネット装置11が緩衝材7上に配置された状態を示す平面図であり、
図5(b)はその側面図である。
図5(a),(b)に示されるように、電磁石部11hは、平面視で筐体11aと同心の円環状をなしている。平面視において電磁石部11hの内径は金属容器5の外径よりも大きく、緩衝材破壊工程では平面視で金属容器5を囲むように外周側に配置される。
【0024】
電磁石部11hは、磁気吸引力を発生させる箇所を周方向に切り替える機能を有している。具体的には例えば、電磁石部11hは、その延在方向に配列された多数の磁極12を備えている。
図5の例の場合には、電磁石部11hの12個の磁極12が周方向に配列されている。電磁石部11hは、各磁極12における吸引力発生のON/OFFを個別に切り替えることができる。そのうち1つの磁極12をONにしたときには、金属容器5は当該磁極12に向けて斜め上方に吸引される。このような電磁石部11hの構成によれば、例えば、ONにする磁極12を周方向に順に切り替えることにより、金属容器5を吸引する方向を周方向に次々と変化させ、金属容器5の円柱軸を周方向に回転させるような力を当該金属容器5に付与することができる。また、各磁極12のON/OFFを更に複雑な順序及び組み合わせで切り替えることにより、金属容器5にはより複雑な力を付与することもできる。
【0025】
この電磁石部11hを有するマグネット装置11では、各磁極12のON/OFFを周期的に切り替えることにより、金属容器5の円柱軸の向きが変動するような振動モードを含む複雑な振動を当該金属容器5に付与することができる。その結果、緩衝材7の上部をより効率よく破壊することができる。また、電磁石部11hでは、各磁極12のON/OFF切り替えに代えて、各磁極12の磁性(N極/S極)を個別に切り替えられるようにしてもよいし、各磁極12のON/OFF切り替えに加えて更に、各磁極12の磁性(N極/S極)も個別に切り替えられるようにしてもよい。電磁石部11hにおいても、前述の電磁石部11bと同様に、各磁極12のON/OFF切り替えや磁性の切り替えの周期を、金属容器5及び緩衝材7を含む系の固有振動数に対応させるようにしてもよい。
【0026】
なお、マグネット装置11に電磁石が採用されることは必須ではなく、マグネット装置11は、電磁石部11bに代えて、
図4(c)に示される永久磁石部11jを備えるものであってもよい。永久磁石部11jは、筐体11a内部で当該筐体11aの直径に沿って金属容器5の直径よりも長く延在しており、両端にN極とS極とを備えている。そして、永久磁石部11jは、筐体11aの中心位置に回転軸を備え、当該回転軸を中心として所定の回転機構により水平方向に回転する。このような永久磁石部11jによっても、金属容器5に対して磁気吸引力による振動を付与することができる。永久磁石部11jにおいても、前述の電磁石部11bと同様に、当該永久磁石部11jの回転周期を、金属容器5及び緩衝材7を含む系の固有振動数に対応させるようにしてもよい。
【0027】
電磁石部11b,11e,11f,11hには超伝導電磁石が採用されてもよい。超伝導電磁石を採用することで、金属容器5に対してより大きい磁気吸引力が付与可能であり、緩衝材7の上部をより効率よく破壊することができる。また、マグネット装置11が備える磁石は、電磁石と永久磁石とが組み合わされて構成されたものであってもよい。
【0028】
続いて、本実施形態の再取出方法による作用効果について説明する。この再取出方法では、緩衝材7の上面に沿ってマグネット装置11が配置され、マグネット装置11から金属容器5への磁気吸引力が付与される。この磁気吸引力に起因して、マグネット装置11と金属容器5との間に挟まれた緩衝材7の上部に対して金属容器5からの力が作用し、この力によって緩衝材7が破壊される。従って、この再取出方法では、従来のように緩衝材7に水を吹付ける等の処理は行われず、吹付けた水に由来する新たな放射性廃棄物は発生しない。また、緩衝材7の切削処理等に比較して切削粉塵も発生せず、緩衝材7にひび割れが生じる前には粉塵等もほとんど発生しない。従って、本実施形態の再取出方法によれば、緩衝材7から金属容器5を取出す際に、新たに発生する放射性廃棄物を低減することができる。
【0029】
また、この再取出方法における緩衝材破壊工程では、金属容器5が緩衝材7の上部を下から押し上げる力によって当該緩衝材7の上部が破壊される。緩衝材7の上部を下から押し上げる力は、緩衝材7に対して主に引張応力を発生させる力として作用する。ここで、緩衝材7は、例えばベントナイト系人工バリア材であるので、引張破壊強度が圧縮破壊強度に比較して小さいものである。従って、金属容器5への磁気吸引力を利用して緩衝材7に引張応力を発生させることで、当該緩衝材7を比較的弱い力で破壊することができる。
【0030】
更に、緩衝材破壊工程では、金属容器5に磁気吸引力を断続的に付与して金属容器5を振動させるように電磁石部11bのON/OFFを周期的に切り替えると、緩衝材7の上部には上記引張応力が繰返し断続的に作用することで、緩衝材7の破壊がより効率的に進行する。このとき、電磁石部11bのON/OFF切り替えの周期を金属容器5及び緩衝材7を含む系の固有振動数に対応させれば、金属容器5の振動が増幅され、緩衝材7の破壊がより効率的に進行する。
【0031】
また、マグネット装置11は揚重装置13に装着されており、緩衝材破壊工程の後の容器取出し工程において、マグネット装置11に金属容器5を吸着させて緩衝材7から取出すようにすれば、緩衝材破壊工程、容器取出し工程及び坑道2内での金属容器5の移動を、揚重装置13及びマグネット装置11を用いて実行することが可能である。
【0032】
続いて、本発明者らが行った実験について説明する。実験では、
図6に示される供試体90を準備した。供試体90は、緩衝材97の内部に3つの金属玉93を埋込んで締固め、直径約40mm、高さ約40mmの円柱形状に形成したものである。緩衝材97は、前述の地下トンネル1内の緩衝材7と同等の材料(ベントナイト系人工バリア材)からなり、緩衝材7に想定される硬さと同程度の硬さに締め固めた。また緩衝材97の乾燥密度は、地下トンネル1内の緩衝材7に想定される乾燥密度と同程度とした。金属玉93としては、直径約11mmのパチンコ用の遊戯玉を用いた。3つの金属玉93は、緩衝材97内部で概ね円柱軸上に沿って並ぶようにした。
【0033】
この供試体90をマグネットスタラー92上に載せ、更に供試体90の上面に約20kgの吸引力を有する磁石94を載せてマグネットスタラー92の内部磁石を1500RPMで回転させた。そうすると、供試体90に振動が発生し、約3日~1週間後には緩衝材97に亀裂が発生し、最終的には4つの破片に割れた。破片においては、金属玉93の周囲に緩衝材97との間に隙間が発生していた。以上の実験により、金属物が埋められた緩衝材を、外からの金属物への磁気吸引力によって破壊する方法の有効性が確認された。
【0034】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して、下記の変形例を構成することも可能である。各実施形態等の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0035】
例えば、上述の実施形態では、クレーンを含む揚重装置13にマグネット装置11が吊り下げられる例を説明したが、マグネット装置11は、例えば坑道2内を自走可能な重機のアーム先端のアタッチメントとして装着されてもよい。この場合、容器取出し工程では、マグネット装置11に金属容器5を吸着させ、重機のアーム操作により緩衝材7の外に取出すようにしてもよい。また、緩衝材7は、ベントナイト系人工バリア材に限られず、セメント系人工バリア材であってもよい。更に、他の種々の埋め戻し材の中に埋められた金属容器5の再取出しにも本発明が適用可能である。
【0036】
本発明の再取出方法は、地下トンネル1(
図1)に代えて、
図7(a)に示されるタイプの地下トンネル51においても適用することができる。地下トンネル51では、坑道52の中央の位置に金属容器5が配置されている。複数の金属容器5が、坑道52の延在方向に円柱軸を向けた姿勢で、坑道52の延在方向に1つずつ所定間隔で配列されている。坑道52内は、ベントナイト系人工バリア材である緩衝材7によって充填されている。このような地下トンネル51における金属容器5の再取出しでは、
図7(b)に示されるように、例えば、重機14のアーム先端のアタッチメントとしてマグネット装置11が装着される。この重機14のアーム操作によって、緩衝材7のほぼ鉛直な端面にマグネット装置11を沿わせた状態とすることができる。そして、前述の実施形態と同様に、マグネット装置11からの磁気吸引力が金属容器5に付与されることで、緩衝材7が破壊される。
【0037】
また、本発明の再取出方法は、地下トンネル1(
図1)に代えて、
図8に示されるタイプの地下トンネル61においても適用することができる。地下トンネル61の坑道62内には複数の直方体形状の金属容器65がトンネルの幅方向、高さ方向及び長さ方向に複数配列され収容されている。そして、金属容器65同士の隙間に充填材67(埋め戻し材)が設けられている。さらに充填材67の周囲を多層に囲むように、鉄筋コンクリートで形成されたコンクリートピット69、プレキャストコンクリートで形成された低拡散層71、及び緩衝層73が存在しており、緩衝層73と地下トンネル61の壁面との間は地盤材料75で埋め戻されている。上記の充填材67はセメント系人工バリア材であり、金属容器65同士の間にセメントミルクが充填され硬化されて形成されたものである。このような地下トンネル61から金属容器65を再取出しする際には、まず、地盤材料75、緩衝層73、低拡散層71、及びコンクリートピット69が除去される。その後、充填材67の中に埋められた金属容器65を再取出しする際には、例えば、重機14(
図7(b)参照)を坑道62内に導入し、前述の実施形態と同様に、充填材67の外側に配置されたマグネット装置11から金属容器65に磁気吸引力が付与されることで、充填材67が破壊される。
【符号の説明】
【0038】
1,51,61…地下トンネル(放射性廃棄物処分場)、5,65…金属容器、7…緩衝材(埋め戻し材)、11…マグネット装置、13…揚重装置、11b,11e,11f,11h…電磁石部(磁石)、11j…永久磁石部(磁石)、14…重機(揚重装置)、67…充填材(埋め戻し材、セメント系人工バリア材)。