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特許7554735電極合剤用組成物、電極合剤、電極、非水電解質二次電池、および電極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】電極合剤用組成物、電極合剤、電極、非水電解質二次電池、および電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20240912BHJP
   C08K 5/16 20060101ALI20240912BHJP
   C08K 5/21 20060101ALI20240912BHJP
   C08K 5/32 20060101ALI20240912BHJP
   C08L 27/16 20060101ALI20240912BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240912BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240912BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
C08K5/16
C08K5/21
C08K5/32
C08L27/16
H01M4/13
H01M4/139
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021509251
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2020011957
(87)【国際公開番号】W WO2020196148
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-06-07
【審判番号】
【審判請求日】2023-09-25
(31)【優先権主張番号】P 2019055430
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】岡田 佳余子
(72)【発明者】
【氏名】小林 正太
(72)【発明者】
【氏名】上遠野 正孝
【合議体】
【審判長】岩間 直純
【審判官】畑中 博幸
【審判官】須原 宏光
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-243896(JP,A)
【文献】特開2007-265890(JP,A)
【文献】特開2000-251897(JP,A)
【文献】特開平10-330611(JP,A)
【文献】特開2018-145289(JP,A)
【文献】特開2017-81798(JP,A)
【文献】特開2000-108292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン重合体を99質量%以上の割合で含む合成樹脂と、
少なくとも一部のイソシアネート基がブロック剤でブロックされているポリイソシアネート化合物と、を含む、電極合剤用組成物であって、
前記フッ化ビニリデン重合体がフッ化ビニリデン単独重合体およびフッ化ビニリデン共重合体から選択される少なくとも1つであって、
前記フッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデンを主構成成分とし、
フッ化ビニリデンと、不飽和二塩基酸に由来する構造単位、不飽和二塩基酸モノエステルに由来する構造単位、ハロゲン化アルキルビニル化合物に由来する構造単位、以下の式(1)で示される化合物に由来する構造単位、以下の式(2)で示される化合物に由来する構造単位、および、以下の式(3)で示される化合物に由来する構造単位の少なくとも1つの構造単位(ただし、構造単位は不飽和ペルオキシドに由来する構造単位であることを除く)との共重合体である、電極合剤用組成物。
【化1】
(式(1)~(3)において、R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子または炭素数1~5のアルキル基であり、
式(1)において、X'は、主鎖が原子数1~19で構成される分子量472以下の原子団であり、
式(2)において、X''は、主鎖が原子数1~19で構成される分子量484以下の原子団であり、
式(3)において、X'''は、水素または少なくとも一つのヒドロキシル基を含む炭素数1~5の炭化水素部分である。)
【請求項2】
前記ポリイソシアネート化合物が、ヘキサメチレンジイソシアネートから誘導されるイソシアヌレート体、ビュレット体、アダクト体から選択される少なくとも1つの化合物である、請求項1に記載の電極合剤用組成物。
【請求項3】
前記ブロック剤が、オキシム化合物、活性メチレン化合物およびピラゾール化合物からなる群から選択される少なくとも1つのブロック剤である、請求項1または2に記載の電極合剤用組成物。
【請求項4】
前記ブロック剤が、オキシム化合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電極合剤用組成物。
【請求項5】
前記電極合剤用組成物において、前記合成樹脂100質量部に対する前記ポリイソシアネート化合物の含有量が0.5~50質量部である、請求項1~4のいずれか1項に記載の電極合剤用組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の電極合剤用組成物と、活物質と、を含む電極合剤。
【請求項7】
請求項6に記載の電極合剤から形成された電極合剤層を集電体上に備える電極。
【請求項8】
請求項7に記載の電極を備える非水電解質二次電池。
【請求項9】
集電体に請求項6に記載の電極合剤を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程後の集電体を80℃以上の温度で加熱乾燥させる加熱乾燥工程と、を含む、電極の製造方法。
【請求項10】
集電体に請求項6に記載の電極合剤を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程後の集電体を110℃以下の温度で加熱乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程後の集電体を乾燥工程の温度より高く、かつ110℃以上の温度で処理する熱処理工程を含む、電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極合剤用組成物、電極合剤およびその用途に関する。詳しくは、電極合剤用組成物、電極合剤、電極、非水電解質二次電池、および電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子技術の発展はめざましく、小型携帯機器の高機能化が進んでいる。そのため、これらに使用される電源には小型化及び軽量化、すなわち高エネルギー密度化が求められている。高いエネルギー密度を有する電池として、リチウムイオン二次電池等に代表される非水電解質二次電池が、広く使用されている。
【0003】
また、非水電解質二次電池は、地球環境問題及び省エネルギーの観点から、二次電池とエンジンとを組み合わせたハイブリッド自動車、及び二次電池を電源にした電気自動車などにも利用されており、その用途が拡大している。
【0004】
非水電解質二次電池用の電極は、集電体と集電体上に形成される電極合剤層とを有する構造となっている。電極合剤層は、一般に電極活物質と導電助剤と電極合剤用組成物(バインダー組成物)とを含む電極合剤が適当な溶剤または分散媒中に分散されたスラリー状態で集電体上に塗布され、溶剤または分散媒を揮散して形成される。バインダー組成物としては、耐薬品性、耐候性に優れ、優れた電気化学安定性を有することから、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ化ビニリデン重合体組成物が主に使用されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、有機希釈剤中に分散したフッ化ビニリデン重合体と、(メタ)アクリルポリマー分散剤と、を含むリチウムイオン二次電池の電極バインダーが記載されている。
【0006】
しかしながら、フッ化ビニリデン重合体は電池の集電体である金属箔および活物質等との接着強度が低いことがあり、接着強度を高めることが求められている。
【0007】
また正極活物質(電極活物質)としては、主としてコバルト酸リチウムが用いられてきたが、近年では用途に応じリチウムニッケル複合酸化物およびリン酸鉄リチウム等も正極活物質として知られている。正極活物質としてリチウムニッケル複合酸化物を使用する場合、バインダー組成物としてフッ化ビニリデン重合体を使用すると、電極合剤が保管中に増粘しやすくなる。場合によってはゲル化することもあり、電極合剤の安定性を高めることが求められている。
【0008】
そこで、フッ化ビニリデン重合体の、金属箔等との接着性を改善する方法としては、フッ化ビニリデンとマレイン酸モノメチルエステル等の不飽和二塩基酸のモノエステルとを共重合することにより得られるフッ化ビニリデン系共重合体(例えば、特許文献2および3参照)、フッ化ビニリデンとアクリル酸系化合物とを共重合することにより得られるフッ化ビニリデン系共重合体(例えば、特許文献4参照)が開示されている。
【0009】
また、電極合剤のゲル化を防止する方法としては、フッ化ビニリデンとクロロトリフルオロエチレンを含む共重合体(例えば、特許文献5参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】日本国公開特許公報 特開2017-510044号公報
【文献】日本国公開特許公報 特開2001-19896号公報
【文献】日本国公開特許公報 特開平6-172452号公報
【文献】日本国公表特許公報 特表2010-525124号公報
【文献】日本国公開特許公報 特開平11-195419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2~4に記載された重合体であっても、未だ金属箔等との接着性は充分ではない。また、特許文献5に開示されているように、フッ化ビニリデン系重合体と正極活物質とを用いて電極合剤を作製する際に、正極活物質としてニッケルの含有率が高いハイニッケル系の正極活物質を用いて電極合剤を作製すると、ゲル化は抑制されるものの接着性が低下するという問題がある。
【0012】
本発明は、上記従来技術の有する課題を鑑みてされたものであり、従来のフッ化ビニリデン重合体よりも、金属箔等との接着性に優れるバインダー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上述の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、フッ化ビニリデン重合体と、ポリイソシアネート化合物と、を含む電極合剤を用いることによって、意外にも、集電体と電極合剤層との接着強度を高めることができることを見出したことに基づき、本発明をするに至った。
【0014】
すなわち、本発明の一態様に係る電極合剤用組成物は、フッ化ビニリデン重合体を99質量%以上の割合で含む合成樹脂と、少なくとも一部のイソシアネート基がブロック剤でブロックされているポリイソシアネート化合物と、を含む、電極合剤用組成物である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、リチウムイオン二次電池等の電池における、集電体と電極合剤層との接着強度を高めることができる、電極合剤用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔電極合剤用組成物〕
本実施形態に係る電極合剤用組成物は、合成樹脂と、ポリイソシアネート化合物と、を含む。
【0017】
(合成樹脂)
合成樹脂は、フッ化ビニリデン重合体を99質量%以上の割合で含めばよく、一態様としては、フッ化ビニリデン重合体のみを含む。合成樹脂に他の重合体を含ませる場合、本実施形態の電極合剤用組成物の所望の効果が損なわれない限り特に制限はない。合成樹脂の一態様としては、他の重合体として(メタ)アクリル重合体を含んでいない合成樹脂であり得る。フッ化ビニリデン重合体を99質量%以上の割合で含むことにより、本実施形態に係る電極合剤用組成物を用いた場合の集電体と電極合剤層との接着強度を高めることができる。また、フッ化ビニリデン重合体を99質量%以上の割合で含むことは、電気化学的安定性の観点からも好ましい。
【0018】
(フッ化ビニリデン重合体)
本明細書において「フッ化ビニリデン重合体」とは、フッ化ビニリデンの単独重合体(ホモポリマー)、およびフッ化ビニリデンと共重合可能な単量体(モノマー)とフッ化ビニリデンとの共重合体(コポリマー)の何れをも含むものである。フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体としては、例えば、公知の単量体の中から適宜に選ぶことができる。フッ化ビニリデンを共重合させる場合、フッ化ビニリデン単位を50モル%以上で含有することが好ましく、フッ化ビニリデン単位を80モル%以上で含有することがより好ましく、フッ化ビニリデン単位を90モル%以上で含有することが特に好ましい。
【0019】
フッ化ビニリデン重合体がコポリマーの場合、フッ化ビニリデンを主構成成分とし、不飽和二塩基酸に由来する構造単位、不飽和二塩基酸モノエステルに由来する構造単位、ハロゲン化アルキルビニル化合物に由来する構造単位、以下の式(1)で示される化合物に由来する構造単位、以下の式(2)で示される化合物に由来する構造単位、および、以下の式(3)で示される化合物に由来する構造単位の少なくとも1つの構造単位を含有するフッ化ビニリデン共重合体であることが好ましい。
【0020】
【化1】
【0021】
本実施形態に係る不飽和二塩基酸として、例えば、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸およびフタル酸等が挙げられる。
【0022】
本実施形態に係る不飽和二塩基酸モノエステルとして、例えば、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、フタル酸モノメチル及びフタル酸モノエチル等が挙げられる。
【0023】
本実施形態に係る上記式(1)で示される化合物において、式(1)中、R、R、およびRは、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子、塩素原子または炭素数1~5のアルキル基である。
【0024】
炭素数1~5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基およびイソプロピル基等が挙げられる。本実施形態において、Rは水素原子またはメチル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。また、Rは水素原子またはメチル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。また、Rは水素原子、フッ素原子、またはメチル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0025】
式(1)中、X'を構成する主鎖は、原子数1~19であり、原子数1~14であることが好ましく、原子数1~9であることがより好ましい。このような主鎖を構成する原子としては、例えば、炭素原子およびヘテロ原子等が挙げられる。ヘテロ原子を含む場合、ヘテロ原子は、酸素原子であることが好ましい。なお、本明細書において、主鎖の原子数に水素原子の原子数は含まないものとする。また、主鎖の原子数とは、X'の右側に記載されたカルボキシル基と、X'の左側に記載された基(RC=CR-CO-)とを、最も少ない原子数で結ぶ鎖の骨格部分の原子数を意味するものとする。
【0026】
式(1)中、X'の原子団の分子量は472以下であればよいが、172以下であることが好ましい。また、原子団である場合の分子量の下限としては特に限定はないが、通常は14程度である。
【0027】
本実施形態に係る式(1)で表される化合物としては、具体的には、例えば、アクリロイロキシプロピルコハク酸、アクリロイロキシエチルコハク酸、メタクリロイロキシエチルコハク酸、メタクリロイロキシプロピルコハク酸、2-カルボキシエチルアクリレート、2-カルボキシエチルメタクリレート、アクリロイロキシエチルフタル酸、メタクリロイロキシエチルフタル酸、N-カルボキシエチル(メタ)アクリルアミド、およびカルボキシエチルチオ(メタ)アクリレート等が挙げられる。なかでも、アクリロイロキシプロピルコハク酸およびアクリロイロキシエチルコハク酸が好ましい。
【0028】
本実施形態に係る上記式(2)で表される化合物において、式(2)中、R、R、およびRは、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子、塩素原子または炭素数1~5のアルキル基である。好ましい態様は、式(1)におけるR、R、およびRと同じである。
【0029】
式(2)中、X''を構成する主鎖は、原子数1~19であればよいが、好ましくは原子数1~14であり、より好ましくは原子数1~9であり、さらに好ましくは原子数2~6である。主鎖を構成する原子としては、例えば、炭素原子およびヘテロ原子等が挙げられる。ヘテロ原子を含む場合、ヘテロ原子は、酸素原子であることが好ましい。なお、主鎖の原子数に水素原子の原子数は含まない。また、主鎖の原子数とは、式(2)中、X''の右側に記載されたカルボキシル基と、X''の左側に記載された基(RC=CR‐O‐)とを、最も少ない原子数で結ぶ鎖の骨格部分の原子数を意味している。
【0030】
式(2)中、X''の原子団の分子量は484以下であればよいが、好ましくは184以下であり、さらに好ましくは156以下である。また、原子団である場合の分子量の下限としては特に限定はないが、通常は14程度である。X''として好ましくは、主鎖が原子数2~6で構成される分子量156以下の原子団である。
【0031】
本実施形態に係る式(2)で表される化合物としては、具体的には、例えば、ビニルカルボキシメチルエーテル、およびビニルカルボキシエチルエーテル等が挙げられる。
【0032】
本実施形態に係る上記式(3)で表される化合物において、式(3)中、R、R、およびRは、それぞれ独立に水素原子、フッ素原子、塩素原子または炭素数1~5のアルキル基である。好ましい態様は、式(1)におけるR、R、およびRと同じである。
【0033】
式(3)中、X'''は、水素原子、または少なくとも一つのヒドロキシル基を含む炭素数1~5の炭化水素部分である。ヒドロキシル基を含む炭素数1~5の炭化水素部分としては、例えばヒドロキシエチル基およびヒドロキシプロピル基等が挙げられる。
【0034】
式(3)で表される化合物としては、具体的には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート2-ヒドロキシエチルメチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート等が挙げられる。なかでも、2-ヒドロキシエチルアクリレートおよびアクリル酸が好ましい。
【0035】
また、前記他のモノマーとしては、例えばフッ化ビニリデンと共重合可能なハロゲン化アルキルビニル化合物、フッ素系単量体あるいはエチレン、プロピレン等の炭化水素系単量体、ジメタクリル酸(ポリ)アルキレングリコールエステル、ジアクリル酸(ポリ)アルキレングリコールエステル、及びポリビニルベンゼン等が挙げられる。
【0036】
ハロゲン化アルキルビニル化合物としては、例えばフッ化アルキルビニル化合物が挙げられ、具体的には、例えば、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン(TFE)、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、及びフルオロアルキルビニルエーテル等が挙げられ、中でもヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレンが好ましい。なお、前記他のモノマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0037】
(フッ化ビニリデン重合体の例)
フッ化ビニリデン重合体としては、市販のものを用いることができる。例えば、株式会社クレハ製のKF#7300、KF#9100、KF#9700、KF#7500等が挙げられる。
【0038】
(フッ化ビニリデン重合体のインヘレント粘度(η))
本実施形態で用いられるフッ化ビニリデン重合体のインヘレント粘度は、特に限定されないが、0.5~5.0dl/gであることが好ましく、1.0dl/g以上4.5dl/g以下であることがより好ましく、1.5dl/g以上4.0dl/g以下であることがさらに好ましい。
【0039】
上記インヘレント粘度(η)は、フッ化ビニリデン重合体(A)をn-メチルピロリドン(NMP)に溶解させた溶液の30℃における粘度(η)、NMPの30℃における粘度(η)、および上記溶液におけるフッ化ビニリデン重合体(A)の濃度(C)から、以下の式により求めることができる。
【0040】
η=(1/C)・ln(η/η
(フッ化ビニリデン重合体の重合方法)
フッ化ビニリデン重合体の重合方法としては、特に限定はなく、従来公知の重合方法を用いることができる。重合方法としては、例えば懸濁重合、乳化重合、溶液重合等が挙げられるが、その中でも後処理の容易さ等の観点から水系の懸濁重合、乳化重合が好ましく、水系の懸濁重合が特に好ましい。
【0041】
(ポリイソシアネート化合物)
本実施形態の電極合剤用組成物に含まれるポリイソシアネート化合物は、少なくとも一部のイソシアネート基がブロック剤でブロックされている。すなわち、ポリイソシアネート化合物は、少なくとも1つのブロックイソシアネート基を有する。本明細書において、「ブロックイソシアネート基」は、ブロック剤でブロック(安定化)されているイソシアネート基を示す。
【0042】
ブロックイソシアネート基は、加熱することによってブロック剤が解離して(脱ブロック化)、イソシアネート基が再生する。集電体と電極合剤層との接着強度向上の点で、全体の60%以上のイソシアネート基がブロック剤でブロックされていることが好ましく、80%以上のイソシアネート基がブロック剤でブロックされていることがより好ましく、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基全てがブロック剤でブロックされていることが特に好ましい。
【0043】
本実施形態の電極合剤用組成物に含まれるポリイソシアネート化合物は、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートおよび芳香族ジイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも1種のジイソシアネートの多量体であって、少なくとも一部のイソシアネート基がブロック剤でブロック(安定化)されている。
【0044】
脂肪族ジイソシアネート化合物の例としては、ブタンジイソシアネート、ペンタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートおよびリジンジイソシアネート等が挙げられる。
【0045】
脂環族ジイソシアネート化合物の例としては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネートおよび1,4-シクロヘキサンジイソシアネート等が挙げられる。
【0046】
芳香族ジイソシアネートの例としては、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)およびトリレンジイソシアネート(TDI)等が挙げられる。
【0047】
これらジイソシアネートは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
これらのなかでも、脂肪族ジイソシアネートおよび脂環族ジイソシアネートが好ましく、耐候性、および工業的な入手の容易さの観点からヘキサメチレンジイソシアネートおよびイソホロンジイソシアネートが好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネートがより好ましい。
【0049】
ジイソシアネートより誘導されるポリイソシアネートとしては、イソシアヌレート結合、ビュレット結合、ウレタン結合、ウレトジオン結合、ウレア結合、アロハネート結合、オキサジアジントリオン結合およびイミノオキサジアジンジオン結合からなる群より選ばれる少なくとも1種の結合を有するポリイソシアネートが挙げられる。耐候性および耐熱性の観点からイソシアヌレート結合、ビュレット結合、ウレタン結合またはアロハネート結合を有するポリイソシアネートが好ましい。また、これらの結合の2つ以上を含んでいてもよい。
【0050】
ポリイソシアネートにおけるイソシアネート基(ブロックイソシアネート基を含む)の数は2~22が好ましく、3~18がより好ましい。
【0051】
ポリイソシアネートは1種単独で用いても、2種以上のポリイソシアネートを併用してもよい。
【0052】
ブロック剤の例として、オキシム化合物、活性メチレン化合物、ピラゾール化合物、アルコール化合物、アルキルフェノール化合物、フェノール化合物、メルカプタン化合物、酸アミド化合物、酸イミド化合物、イミダゾール化合物、尿素化合物およびアミン化合物等が挙げられる。
【0053】
オキシム化合物の例として、ホルムアルドオキシム、アセトアルドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム(MEKオキシム)、メチルイソブチルケトオキシム(MIBKオキシム)、ジメチルケトオキシム、ジエチルケトオキシムおよびシクロヘキサノンオキシム等が挙げられる。
【0054】
活性メチレン化合物の例として、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、イソブタノイル酢酸エチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチルおよびアセチルアセトン等が挙げられる。
【0055】
ピラゾール化合物の例として、3,5-ジメチルピラゾール、ピラゾールおよび3-メチルピラゾール等が挙げられる。
【0056】
アルコール化合物の例として、メタノール、エタノール、2-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノールおよび2-ブトキシエタノール等が挙げられる。
【0057】
アルキルフェノール化合物の例として、炭素原子数4以上のアルキル基を置換基として有するモノアルキルフェノール類およびジアルキルフェノール類等が挙げられる。
【0058】
フェノール化合物の例として、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、スチレン化フェノールおよびヒドロキシ安息香酸エステル等が挙げられる。
【0059】
メルカプタン化合物の例として、ブチルメルカプタンおよびドデシルメルカプタン等が挙げられる。
【0060】
酸アミド化合物の例として、アセトアニリド、酢酸アミド、ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタムおよびγ-ブチロラクタム等が挙げられる。
【0061】
酸イミド化合物の例として、コハク酸イミドおよびマレイン酸イミド等が挙げられる。
【0062】
イミダゾール系化合物の例として、イミダゾールおよび2-メチルイミダゾール等が挙げられる。
【0063】
尿素化合物の例として、尿素、チオ尿素およびエチレン尿素等が挙げられる。
【0064】
アミン系化合物の例として、ジフェニルアミン、アニリン、カルバゾール、ジ-n-プロピルアミン、ジイソプロピルアミンおよびイソプロピルエチルアミン等が挙げられる。
【0065】
ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基は、1種類のブロック剤でブロックされていても、2種類以上のブロック剤でブロックされていてもよい。
【0066】
ブロック剤でイソシアネート基がブロックされているポリイソシアネートは、加熱することによってブロック剤が解離して(脱ブロック化)、イソシアネート基が再生する。ブロック剤は電極用合剤を集電箔に塗布した後、乾燥させる加熱乾燥工程、あるいはその後に熱処理を施す熱処理工程の加熱温度などで解離することが好ましい。そのような観点から、ブロック剤はオキシム化合物、活性メチレン化合物、およびピラゾール化合物が好ましい。中でも、メチルエチルケトオキシム、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、3,5-ジメチルピラゾールおよびピラゾールが好ましい。特に、ブロック剤としてオキシム化合物を用いると、集電体と電極合剤層との接着強度を高めるとともに、電極合剤の増粘を抑制することができる。
【0067】
少なくとも一部のイソシアネート基がブロック剤でブロックされているポリイソシアネート化合物としては、市販のものを用いることができる。例えば、デュラネートTPA-B80E(1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートのオキシム誘導体ブロックポリイソシアネート)、SBN-70D(1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートのピラゾール誘導体ブロックイソシアネート)、MF-K60B(1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートの活性メチレン誘導体ブロックイソシアネート)(いずれも旭化成ケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0068】
(合成樹脂に対するポリイソシアネート化合物の質量比)
本実施形態の電極合剤用組成物における、合成樹脂100質量部に対するポリイソシアネート化合物の含有量は、0.5~50質量部であることが好ましく、2~40質量部であることがより好ましい。合成樹脂に対するポリイソシアネート化合物の質量比が上記範囲内であると、集電体と電極合剤層との接着強度を高めることができる。接着強度を高める観点から、合成樹脂のインヘレント粘度は、合成樹脂の好ましい粘度範囲の中で高いことが好ましい。
【0069】
本実施形態の電極合剤用組成物の形態は特に限定されず、粉状で合っても、液状であってもよい。また、電極合剤用組成物は、溶媒を含んでいてもよい。溶媒は、非水溶媒であってもよいし、水であってもよい。非水溶媒としては、例えば、N‐メチルピロリドン、N,N‐ジメチルホルムアミド、N,N‐ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスフォアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチルウレア、トリエチルホスフェイト、トリメチルホスフェイト、アセトン、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、nブタノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートおよびシクロヘキサノンなどを挙げることができる。これらの溶媒は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0070】
〔電極合剤〕
本実施形態の電極合剤は、上記電極合剤用組成物と、活物質と、を含む。電極合剤は、導電助剤、非水溶媒、顔料分散剤および分散安定剤等を含んでいてもよい。
【0071】
電極合剤は、塗布対象である集電体の種類等に応じて活物質等の種類を変更することにより、正極用の電極合剤、または負極用の電極合剤とすることができる。フッ化ビニリデン重合体は、一般的に優れた耐酸化性を有しているため、本実施形態の電極合剤は、正極用の電極合剤として好適に用いることができる。また、フッ化ビニリデン重合体は、一般的に優れた耐還元性を有しているため、本実施形態の電極合剤は、負極用の電極合剤として好適に用いることができる。
【0072】
(活物質)
正極活物質としては、リチウム複合金属酸化物が典型的に用いられる。
【0073】
リチウム複合金属酸化物としては、例えば、LiMnO、LiMn、LiCoO、LiNiO、LiNiCo1-x(0<x<1)、LiNiCoMn1-x-y(0<x<1、0<y<1)、LiNiCoAl(0.55≦x<1、0<y2<0.55、0<z<0.55であり、かつx/(x+y+z)≧0.55である。)、LiFePO等を挙げることができる。リチウム複合金属酸化物の具体例として、Li1.00Ni0.5Co0.2Mn0.3(NCM523)、Li1.00Ni0.6Co0.2Mn0.2(NCM622)、Li1.00Ni0.83Co0.12Mn0.05(NCM811)、およびLi1.00Ni0.85Co0.15Al0.05(NCA811)を挙げることができる。
【0074】
負極活物質としては、炭素材料、金属・合金材料、および金属酸化物などをはじめとした従来公知の材料を用いることができる。これらのうち、電池のエネルギー密度をより高める観点から、炭素材料が好ましく、炭素材料としては、人造黒鉛、天然黒鉛、難黒鉛化炭素および易黒鉛化炭素等を挙げることができる。
【0075】
電極合剤において、活物質を100質量部としたときに、フッ化ビニリデン重合体が0.2~15質量部含まれていることが好ましく、0.5~10質量部含まれていることがより好ましい。
【0076】
(導電助剤)
導電助剤は、LiCoO等の電子伝導性の小さい活物質を使用する場合に、電極合剤層の導電性を向上する目的で添加してもよい。導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、黒鉛微粉末および黒鉛繊維等の炭素質物質、ならびにニッケルおよびアルミニウム等の金属微粉末または金属繊維を用いることができる。
【0077】
(非水溶媒)
非水溶媒は、上述の電極合剤用組成物に含み得る非水溶媒として例示したものを用いることができ、例として、N-メチルピロリドン(NMP)等が挙げられる。また、非水溶媒は1種単独でも、2種以上を混合してもよい。
【0078】
(電極合剤の他の成分)
本実施形態における電極合剤は、上述の成分以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、ポリビニルピロリドンなどの顔料分散剤等を挙げることができる。
【0079】
(電極合剤の調製)
本実施形態に係る電極合剤は、例えば、合成樹脂とポリイソシアネート化合物とを含む電極合剤用組成物、および活物質を均一なスラリーとなるように混合すればよく、混合する際の順序は特に限定されない。さらに電極合剤用組成物として溶媒を含む電極合剤用組成物を用いる場合、電極合剤用組成物に当該溶媒を加える前に、電極活物質等を加えてもよい。例えば、電極合剤用組成物に電極活物質を添加し、次いで溶媒を添加し、撹拌混合し、電極合剤を得てもよい。また電極活物質を溶媒に分散し、そこへ電極合剤用組成物を添加し、撹拌混合し、電極合剤を得てもよい。あるいは、電極合剤用組成物として溶媒を含む電極合剤用組成物に電極活物質を添加し、撹拌混合し、電極合剤を得てもよい。
【0080】
また、ポリイソシアネート化合物と活物質とを混合させたのちに、合成樹脂を混合させることによっても調製することができる。
【0081】
〔電極〕
本実施形態に係る電極は、上記電極合剤から形成された電極合剤層を集電体上に備える。本明細書等における「電極」とは、特に断りのない限り、本実施形態における電極合剤から形成される電極合剤層が集電体上に形成されている、電池の電極を意味する。
【0082】
(集電体)
集電体は、電極の基材であり、電気を取り出すための端子である。集電体の材質としては、鉄、ステンレス鋼、鋼、銅、アルミニウム、ニッケル、およびチタン等を挙げることができる。集電体の形状は、箔または網であることが好ましい。電極が正極である場合、集電体としては、アルミニウム箔とすることが好ましい。集電体の厚みは、1μm~100μmであることが好ましく、3~20μmがより好ましい。
【0083】
(電極合剤層)
電極合剤層は、上述した電極合剤を集電体に塗布して、乾燥させることにより得られる層である。電極合剤の塗布方法としては、当該技術分野における公知の方法を用いることができ、バーコーター、ダイコーターまたはコンマコーターなどを用いる方法を挙げることができる。電極合剤層を形成させるための乾燥温度としては、50℃~200℃であることが好ましく、80℃~180℃であることがより好ましい。電極合剤層は集電体の両面に形成されてもよいし、いずれか一方の面のみに形成されてもよい。
【0084】
電極合剤層の厚さは、片面当たり通常は20~600μmであり、好ましくは20~350μmである。また、電極合剤層をプレスして密度を高めてもよい。また、電極合剤層の目付量は、通常は20~700g/mであり、好ましくは30~500g/mである。
【0085】
電極は、上述したように、正極用の電極合剤を用いて電極合剤層が得られる場合には正極となり、負極用の電極合剤を用いて電極合剤層が得られる場合には負極となる。本実施形態に係る電極は、例えば、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池の正極として用いることができる。あるいは、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池の負極として用いることができる。
【0086】
〔電極の製造方法〕
以下、電極の製造方法の一例を具体的に説明するが、本実施形態に係る電極の製造方法は、以下の方法に限定されるものではない。
【0087】
(1段階の加熱による電極の製造方法)
本実施形態に係る電極の製造方法は、集電体に上記電極合剤を塗布する塗布工程と、上記塗布工程後の集電体を80℃以上の温度で加熱乾燥させる加熱乾燥工程と、を含む。
【0088】
<塗布工程>
塗布工程において、電極合剤を集電体に塗布する。電極合剤の塗布方法としては、当該技術分野における公知の方法を用いることができ、バーコーター、ダイコーターまたはコンマコーターなどを用いる方法を挙げることができる。
【0089】
<加熱乾燥工程>
加熱乾燥工程において、上記塗布工程後の集電体を80℃以上の温度で加熱乾燥させ、好ましくは110℃以上の温度で加熱乾燥させる。上記の温度範囲内で加熱乾燥させることによって、ブロックイソシアネート基からブロック剤を解離することができる。また、集電体に塗布された電極合剤の温度が80℃以上の温度になっていることが好ましい。
【0090】
ブロック剤が解離する温度およびブロックイソシアネート基の熱安定性はブロック剤の種類によって異なることから、加熱乾燥温度はブロック剤の種類により、適宜選択すればよい。例えば、イソシアネート基をブロックしているブロック剤がオキシム化合物である場合、110~180℃で加熱乾燥させることがさらに好ましい。また、イソシアネート基をブロックしているブロック剤が活性メチレン化合物である場合、80~150℃で加熱乾燥させることがさらに好ましい。また、イソシアネート基をブロックしているブロック剤がピラゾール化合物である場合、80~180℃で加熱乾燥させることがさらに好ましい。
【0091】
加熱乾燥時間は、特に限定はないが、1~300分が好ましく、加熱温度により適宜選択すればよい。
【0092】
(複数段階の加熱による電極の製造方法)
また、本実施形態に係る電極の製造方法は、集電体に上記電極合剤を塗布する塗布工程と、上記塗布工程後の集電体を110℃以下の温度で加熱乾燥させる乾燥工程と、上記乾燥工程後の集電体を乾燥工程の温度より高く、かつ110℃以上の温度で処理する熱処理工程と、を含んでいてもよい。塗布工程は、上記(1段階による加熱による電極の製造方法)の塗布工程と同じである。
【0093】
<乾燥工程>
乾燥工程において、上記塗布工程後の集電体を110℃以下の温度で加熱乾燥させる。当該乾燥工程においては、ブロックイソシアネート基から大部分のブロック剤が解離しない温度かつ電極合剤中の溶媒を除去できる温度で加熱乾燥させることが好ましい。具体的には、110℃以下の温度で加熱乾燥させることが好ましく、100℃以下の温度で加熱乾燥させることがより好ましい。また、集電体に塗布された電極合剤の温度が110℃以下の温度になっていることが好ましい。
【0094】
乾燥時間は、特に限定はないが、1~100分が好ましい。
【0095】
<熱処理工程>
熱処理工程においては、上記乾燥工程後の集電体を乾燥工程の温度より高く、かつ110℃以上の温度で加熱処理する。上記の温度範囲内で加熱処理することによって、大部分のブロックイソシアネート基からブロック剤が解離することができる。また、集電体に塗布された電極合剤の温度が110℃以上の温度になっていることが好ましい。
【0096】
ブロック剤が解離する温度およびブロックイソシアネート基の熱安定性はブロック剤の種類によって異なることから、熱処理温度はブロック剤の種類により、適宜選択すればよい。例えば、イソシアネート基をブロックしているブロック剤がオキシム化合物である場合、120~180℃で加熱処理することがさらに好ましい。また、イソシアネート基をブロックしているブロック剤が活性メチレン化合物である場合、110~150℃で加熱処理することが好ましい。また、イソシアネート基をブロックしているブロック剤がピラゾール化合物である場合、120~180℃で加熱処理することが好ましい。
【0097】
熱処理時間は、特に限定はないが、1~300分が好ましく、加熱温度により適宜選択すればよい。
【0098】
複数段階の加熱によって製造された電極は、1段階の加熱によって製造された電極よりも、集電体と電極合剤層との接着強度を高めることができる。その理由として、以下のように考えられる。
【0099】
イソシアネート基は、活物質および集電体(例えば、アルミニウム箔)に存在するOH基と結合することによって、活物質とフッ化ビニリデン重合体との界面、集電体と電極合剤層との界面における接着性が向上することが考えられる。イソシアネート基は、OH基よりもアミンと優先的に反応しやすい。よって、ブロックイソシアネート基からブロック剤を解離させ、イソシアネート基を再生したときに、イソシアネート基の周りに分散媒等に含まれるアミンが多く存在すると、活物質および集電体に存在するOH基よりも、イソシアネート基はアミンと反応する。したがって、まず、1段階目の加熱で電極合剤層中の分散媒を除去することによりアミンの存在量を減らす。そして、2段階目以降の加熱でブロックイソシアネート基からブロック剤を解離することによって、再生したイソシアネート基が活物質および集電体に存在するOH基と結合し、接着性が向上すると考えられる。なお、イソシアネート基は、アミン、OH基、COOH基の順で反応し易い。
【0100】
〔非水電解質二次電池〕
本実施形態の非水電解質二次電池は、上記電極を備える。非水電解質二次電池における他の部材については特に限定されるものでなく、例えば、従来用いられている部材を用いることができる。
【0101】
非水電解質二次電池の製造方法としては、例えば、負極層と正極層とをセパレータを介して重ね合わせ、電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。この製造方法において、電極液の注入後の熱プレスによって、電極合剤に含有されるフッ化ビニリデン重合体の少なくとも一部が溶融され、セパレータと接着する。
【0102】
〔まとめ〕
本実施形態に係る電極合剤用組成物は、フッ化ビニリデン重合体を99質量%以上の割合で含む合成樹脂と、少なくとも一部のイソシアネート基がブロック剤でブロックされているポリイソシアネート化合物と、を含む、電極合剤用組成物である。
【0103】
また、本実施形態に係る電極合剤用組成物において、前記ポリイソシアネート化合物が、ヘキサメチレンジイソシアネートから誘導されるイソシアヌレート体、ビュレット体、アダクト体から選択される少なくとも1つの化合物であることが好ましい。
【0104】
また、本実施形態に係る電極合剤用組成物において、前記ブロック剤が、オキシム化合物、活性メチレン化合物およびピラゾール化合物からなる群から選択される少なくとも1つのブロック剤であることが好ましい。
【0105】
また、本実施形態に係る電極合剤用組成物において、前記ブロック剤が、オキシム化合物であることがより好ましい。
【0106】
また、本実施形態に係る電極合剤用組成物において、前記合成樹脂100質量部に対する前記ポリイソシアネート化合物の含有量が0.5~50質量部であることが好ましい。
【0107】
また、本実施形態に係る電極合剤用組成物において、前記フッ化ビニリデン重合体がフッ化ビニリデンの単独重合体であってもよい。
【0108】
また、本実施形態に係る電極合剤用組成物において、前記フッ化ビニリデン重合体は、フッ化ビニリデンを主構成成分とし、不飽和二塩基酸に由来する構造単位、不飽和二塩基酸モノエステルに由来する構造単位、ハロゲン化アルキルビニル化合物に由来する構造単位、以下の式(1)で示される化合物に由来する構造単位、以下の式(2)で示される化合物に由来する構造単位、および、以下の式(3)で示される化合物に由来する構造単位の少なくとも1つの構造単位を含有するフッ化ビニリデン共重合体であってもよい。
【0109】
【化2】
(式(1)~(3)において、R、R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子または炭素数1~5のアルキル基であり、式(1)において、X'は、主鎖が原子数1~19で構成される分子量472以下の原子団であり、式(2)において、X''は、主鎖が原子数1~19で構成される分子量484以下の原子団であり、式(3)において、X'''は、水素または少なくとも一つのヒドロキシル基を含む炭素数1~5の炭化水素部分である。)
【0110】
本実施形態に係る電極合剤は、前記電極合剤用組成物と、活物質と、を含む。
【0111】
本実施形態に係る電極は、前記電極合剤から形成された電極合剤層を集電体上に備える。
【0112】
本実施形態に係る非水電解質二次電池は、前記電極を備える。
【0113】
本実施形態に係る電極の製造方法は、集電体に前記電極合剤を塗布する塗布工程と、前記塗布工程後の集電体を80℃以上の温度で加熱乾燥させる加熱乾燥工程と、を含む。
【0114】
また、本実施形態に係る電極の製造方法は、集電体に前記電極合剤を塗布する塗布工程と、前記塗布工程後の集電体を110℃以下の温度で加熱乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程後の集電体を乾燥工程の温度より高く、かつ110℃以上の温度で処理する熱処理工程を含む。
【0115】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明の以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例
【0116】
[実施例1]電極合剤の調製
正極活物質として、100質量部のLi1.0Ni0.5Co0.2Mn0.3(NCM523、平均粒子径11μm)を使用した。導電性カーボンブラックとして、2質量部のSuper-P(Timcal Japan製、平均粒子径40nm、比表面積60m/g)を使用した。合成樹脂として、2質量部のポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製 KF#9700)を使用した。ポリイソシアネート化合物として、0.38質量部のポリイソシアネート(旭化成ケミカルズ株式会社製 デュラネート(商標) TPA-B80E)を使用した。正極活物質、導電性カーボンブラック、合成樹脂およびポリイソシアネート化合物をNMPに分散させて、スラリー状の正極合剤(電極合剤)を調製した。
【0117】
[実施例2]電極合剤の調製
ポリイソシアネート化合物の量を0.04質量部とした以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0118】
[実施例3]電極合剤の調製
ポリイソシアネート化合物の量を0.16質量部とした以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0119】
[実施例4]電極合剤の調製
ポリイソシアネート化合物の量を0.57質量部とした以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0120】
[実施例5]電極合剤の調製
ポリイソシアネート化合物をSBN-70D(旭化成ケミカルズ株式会社製)とした以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0121】
[実施例6]電極合剤の調製
ポリイソシアネート化合物をMF-K60B(旭化成ケミカルズ株式会社製)とした以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0122】
[比較例1]電極合剤の調製
合成樹脂の量を2.38質量部とし、ポリイソシアネート化合物を使用しなかった以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0123】
[比較例2]電極合剤の調製
合成樹脂の量を3質量部とし、ポリイソシアネート化合物を使用しなかった以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0124】
[比較例3]電極合剤の調製
ポリイソシアネート化合物を2.04質量部とし、合成樹脂を使用しなかった以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0125】
[比較例4]電極合剤の調製
ポリイソシアネート化合物をSBN-70Dとした以外は、比較例3と同様に電極合剤を調製した。
【0126】
[比較例5]電極合剤の調製
ポリイソシアネート化合物を、イソシアネート化合物MOI-BP(昭和電工株式会社製)とした以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0127】
[比較例6]電極合剤の調製
ポリイソシアネート化合物を、イソシアネート基がブロックされていないポリイソシアネート化合物24A-100(旭化成株式会社製)とした以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0128】
[実施例7]電極合剤の調製
合成樹脂をKF#7300(株式会社クレハ製)とした以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0129】
[比較例7]電極合剤の調製
合成樹脂をKF#7300とした以外は、比較例1と同様に電極合剤を調製した。
【0130】
[実施例8]電極合剤の調製
合成樹脂をKF#9100(株式会社クレハ製)とした以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0131】
[比較例8]電極合剤の調製
合成樹脂をKF#9100とした以外は、比較例1と同様に電極合剤を調製した。
【0132】
[実施例9]電極合剤の調製
合成樹脂をKF#7500(株式会社クレハ製)とした以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0133】
[比較例9]電極合剤の調製
合成樹脂をKF#7500(株式会社クレハ製)とした以外は、比較例1と同様に電極合剤を調製した。
【0134】
[実施例10]電極合剤の調製
正極活物質をLiCoO(LCOセルシードC5H、日本化学工業株式会社製、平均粒子径5μm)とした以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0135】
[比較例10]電極合剤の調製
正極活物質をLCOとした以外は、比較例1と同様に電極合剤を調製した。
【0136】
[実施例11]電極合剤の調製
正極活物質をLiFePO(LFP、平均粒子径1.2μm、比表面積14.7m/g)とした以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0137】
[比較例11]電極合剤の調製
正極活物質をLFPとした以外は、比較例1と同様に電極合剤を調製した。
【0138】
[実施例12]電極合剤の調製
正極活物質をLi1.0Ni0.85Co0.15Al0.05(NCA811、平均粒子径14.7μm、比表面積0.17m/g)とした以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。
【0139】
[実施例13]電極合剤の調製
ポリイソシアネート化合物をSBN-70Dとした以外は、実施例12と同様に電極合剤を調製した。
【0140】
[比較例12]電極合剤の調製
正極活物質をNCAとした以外は、比較例1と同様に電極合剤を調製した。
【0141】
[実施例14]電極合剤の調製
負極活物質として、95質量部の天然黒鉛(BTR NEW ENERGY MATERIALS INC社製、BTR(登録商標)918)を使用した。合成樹脂として、4.5質量部のポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製 KF#9700)を使用した。ポリイソシアネート化合物として、0.5質量部のポリイソシアネート(旭化成ケミカルズ株式会社製 デュラネート(商標) TPA-B80E)を使用した。負極活物質、合成樹脂およびポリイソシアネート化合物をNMPに分散させて、スラリー状の負極合剤(電極合剤)を調製した。
【0142】
[比較例13]電極合剤の調製
合成樹脂の量を5.0質量部とし、ポリイソシアネート化合物を使用しなかった以外は、実施例14と同様に電極合剤を調製した。
【0143】
[実施例15]電極合剤の調製
合成樹脂をKF#7300(株式会社クレハ製)とした以外は、実施例14と同様に電極合剤を調製した。
【0144】
[比較例14]電極合剤の調製
合成樹脂をKF#7300(株式会社クレハ製)とした以外は、比較例13と同様に電極合剤を調製した。
【0145】
[評価例1]剥離強度の測定
各実施例および比較例で得られた正極合剤をそれぞれ、厚み15μmのAl箔上にバーコーターで塗布し、110℃で30分加熱乾燥させた。さらに130℃で2時間熱処理し、片面目付量が200g/mの片面塗工電極を作製した。
【0146】
上記片面塗工電極を、長さ50mm、幅20mmに切り出し、JIS K6854-1に準じて、引張試験機(株式会社オリエンテック製 UNIVERSAL TESTING INSTRUMENT MODEL:STA-1150)を使用し、ヘッド速度10mm/分で90度剥離試験を行い、剥離強度(gf/mm)を測定した。剥離強度の測定結果を表1に示す。
【0147】
[評価例2]電極合剤の粘度測定
実施例12、13および比較例12で得られた正極合剤のスラリー粘度を、B型粘度計(BROOKFIELD製 デジタル粘度計 LV DV-E)でスピンドルNo.64を用いて測定した。0.5rpmで1分間の予備攪拌後、1.0rpmで2分間、6.0rpmで2分間、12rpmで2分間測定した。1.0rpmにおける2分後の粘度の値をスラリー粘度とした。
【0148】
25℃、窒素雰囲気下で上記スラリー状の正極合剤を保存しながら、上記スラリー粘度の測定を一定時間(保存開始時点を0時間とし、3時間、6時間、24時間、48時間、72時間)ごとに行った。スラリー粘度が400000mPa・sを超えたときに、上記正極合剤がゲル化したと判断した。
【0149】
72時間経過後もゲル化しなかったときを「◎」(電極合剤の増粘が十分に抑制されている)と判定した。48時間までゲル化しなかったときを「○」(電極合剤の増粘が抑制されている)と判定した。24時間以内にゲル化したときを「×」(電極合剤の増粘が抑制されなかった)と判定した。粘度測定の結果を表1に示す。
【0150】
【表1】
【0151】
表1に示すように、実施例1~13の電極合剤を使用したとき、高い剥離強度を示した。一方、ポリイソシアネート化合物が含まれていない比較例1、2、7~12の電極合剤を使用したとき、剥離強度は低かった。合成樹脂が含まれていない比較例3~4の電極合剤を使用したときも、剥離強度は低かった。
【0152】
また、実施例1、比較例5および6を比較すると、少なくとも一部のイソシアネート基がブロックイソシアネート基である、ポリイソシアネート化合物が含まれている実施例1の電極合剤を使用したとき、十分に高い剥離強度を示した。一方、ポリイソシアネート化合物ではない、ブロックイソシアネート基を有するイソシアネート化合物が含まれている比較例5の電極合剤を使用したとき、剥離強度が十分ではなかった。また、イソシアネート基がブロックされていないポリイソシアネート化合物が含まれている比較例6の電極合剤を使用したときも剥離強度が十分ではなかった。これらの結果から、少なくとも一部のイソシアネート基がブロックイソシアネート基である、ポリイソシアネート化合物を電極合剤に用いることによって、集電体と電極合剤層との間の接着強度を高めることができることが分かった。
【0153】
また、実施例12、13および比較例12を比較すると、ポリイソシアネート化合物が含まれている実施例12および13の電極合剤において、増粘を抑制することができた。特に、オキシム化合物によって少なくとも一部のイソシアネート基がブロックされているポリイソシアネート化合物が含まれている実施例12の電極合剤において、増粘が十分に抑制されていた。一方、ポリイソシアネート化合物が含まれていない比較例12の電極合剤において、増粘は抑制されなかった。
【0154】
[評価例3]加熱乾燥温度による剥離強度の検討
合成樹脂の量を1.68質量部、ポリイソシアネート化合物の量を0.32質量部とした以外は、実施例5と同様に電極合剤を調製した。次に、加熱乾燥温度を90℃にし、熱処理を行わなかった以外は、評価例1と同様に剥離強度を測定した。
【0155】
[評価例4]加熱乾燥温度による剥離強度の検討
加熱乾燥温度を100℃にした以外は、評価例3と同様に剥離強度を測定した。
【0156】
[評価例5]加熱乾燥温度による剥離強度の検討
合成樹脂の量を2質量部とし、ポリイソシアネート化合物を使用しなかった以外は、実施例5と同様に電極合剤を調製した。次に、評価例3と同様に剥離強度を測定した。
【0157】
[評価例6]熱処理温度による剥離強度の検討
合成樹脂の量を1.68質量部、ポリイソシアネート化合物の量を0.32質量部とした以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。次に、加熱乾燥温度を100℃にした以外は、評価例1と同様に剥離強度を測定した。
【0158】
[評価例7]熱処理温度による剥離強度の検討
加熱乾燥温度を110℃にした以外は、評価例6と同様に剥離強度を測定した。
【0159】
[評価例8]熱処理温度による剥離強度の検討
加熱乾燥温度を130℃にした以外は、評価例6と同様に剥離強度を測定した。
【0160】
[評価例9]熱処理温度による剥離強度の検討
合成樹脂の量を2質量部とし、ポリイソシアネート化合物を使用しなかった以外は、実施例1と同様に電極合剤を調製した。次に、評価例1と同様に剥離強度を測定した。
【0161】
評価例3~9における剥離強度の測定結果を表2に示す。
【0162】
【表2】
【0163】
表2に示すように、評価例3~4では高い剥離強度を示し、ポリイソシアネート化合物が含まれていない電極合剤を使用した評価例5では低い剥離強度を示した。また、評価例3と4を比較すると、加熱乾燥温度を100℃にした評価例4の剥離強度がもっとも高かった。
【0164】
また、表2に示すように、評価例6~8では高い剥離強度を示し、ポリイソシアネート化合物が含まれていない電極合剤を使用した評価例9では低い剥離強度を示した。また、評価例6~8を比較すると、加熱乾燥温度を100℃にした評価例6の剥離強度がもっとも高かった。
【0165】
評価例6~8で使用したポリイソシアネート化合物は、少なくとも一部のイソシアネート基がブロック剤でブロックされている、ポリイソシアネート化合物である。そして、当該ポリイソシアネート化合物を130℃前後で加熱すると、ブロック剤がイソシアネート基から解離して、イソシアネート基が再生する。
【0166】
評価例8においては、加熱乾燥温度を130℃としたことにより、加熱乾燥工程において、大部分のブロックイソシアネート基からブロック剤が解離したと考えられる。一方、加熱乾燥温度を110℃以下にした評価例6~7においては、加熱乾燥工程ではブロックイソシアネート基からのブロック剤の解離は少なく、熱処理工程において、大部分のブロックイソシアネート基からブロック剤が解離したと考えられる。
【0167】
評価例6~9の結果から、ブロックイソシアネート基からブロック剤の解離が少ない温度以下で乾燥させてから、ブロックイソシアネート基から大部分のブロック剤が解離する温度以上で乾燥(熱処理)することによって、集電体と電極合剤層との間の接着強度をより高めることができることが分かった。
【0168】
[評価例10]剥離強度の測定
実施例14および15ならびに比較例13および14で得られた負極合剤をそれぞれ、厚み10μmのCu箔上にバーコーターで塗布し、110℃で30分加熱乾燥させた。さらに130℃で2時間熱処理し、片面目付量が150g/mの片面塗工電極を作製した。
【0169】
上記片面塗工電極を、長さ50mm、幅20mmに切り出し、JIS K6854-1に準じて、引張試験機(株式会社オリエンテック製 UNIVERSAL TESTING INSTRUMENT MODEL:STA-1150)を使用し、ヘッド速度10mm/分で90度剥離試験を行い、剥離強度(gf/mm)を測定した。剥離強度の測定結果を表3に示す。
【0170】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0171】
本発明は、非水電解質二次電池の電極の製造において、集電体に塗布される電極合剤として利用することができる。