(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】透明ポリアミドの製造方法の改良
(51)【国際特許分類】
C08G 69/28 20060101AFI20240912BHJP
C08L 77/06 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C08G69/28
C08L77/06
(21)【出願番号】P 2021518627
(86)(22)【出願日】2019-10-02
(86)【国際出願番号】 FR2019052334
(87)【国際公開番号】W WO2020070446
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-09-26
(32)【優先日】2018-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ブリフォー, ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】サイヤール, バンジャマン
(72)【発明者】
【氏名】カシアノ ガスパル, ステファニア
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルジェ, ヨエル
(72)【発明者】
【氏名】オリビエ-シャニュ, ファビエンヌ
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-143211(JP,A)
【文献】特表2009-525362(JP,A)
【文献】特開2011-032469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 69/28
C08L 77/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一のジカルボン酸と少なくとも一の脂環式ジアミンを含むモノマーの混合物の重縮合工程を含むポリアミドを製造するための方法であって、
ジカルボン酸は、テレフタル酸とイソフタル酸の混合物であり、少なくとも50モル%のテレフタル酸を含み、
脂環式ジアミンは、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン(BMACM又はMACM又はBとも呼ばれる)である、
方法において、
ジアミンが非極性カラムでのガスクロマトグラフィーによる分析に供したときに6つの異性体画分に分解することと、前記異性体画分がその溶離の順に異性体画分IからVIと命名される場合、前記脂環式ジアミンの画分Iの質量含有率F
Iが35%を超えないことを特徴とし、
GC/FID分析が、次の機器構成で実施される:
カラム: キャピラリー、5%ポリシルフェニレンシロキサン、長さ30m、直径250μm、膜厚0.5μm
注入温度: 250℃
スプリット比: 1/50
温度プログラム: 70℃(2分)、70℃-185℃(8℃/分の昇温)、185℃(10分)、185-320℃(10℃/分の昇温)、320℃(10分)
検出器: FID-炎イオン化、温度:310℃、
方法。
【請求項2】
少なくとも一の脂環式ジアミンが、異性体画分の質量含有率F
Iよりも大きい異性体画分の質量含有率F
IIによって特徴付けられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも一の脂環式ジアミンが、0%を超える、異性体画分IIの質量含有率と異性体画分Iの質量含有率の間の差ΔF
II/Iによって特徴付けられる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ジカルボン酸が芳香族二
酸である、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
ジカルボン酸が、少なくとも60モル
%のテレフタル酸を含む、テレフタル酸とイソフタル酸の混合物である、請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
重縮合が、ラクタム、ω-アミノ酸又はジアミンとジカルボン酸の塩のようなポリアミド単位を形成する一又は複数の追加のモノマーの存在下で行われる、請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
ジカルボン酸がテレフタル酸とイソフタル酸の混合物であり、かつ重縮合がアミノウンデカン酸の存在下で行われる、請求項1から6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
ジカルボン酸がテレフタル酸とイソフタル酸の混合物であり、かつ重縮合がラウリルラクタムの存在下で行われる、請求項1から6の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
ポリアミドの製造のための、請求項1に記載の脂環式ジアミンの使用。
【請求項10】
少なくとも一のジカルボン酸と少なくとも一の脂環式ジアミンを含むモノマーの混合物により重縮合されたポリアミドであって、
脂環式ジアミンは、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン(BMACM又はMACM又はBとも呼ばれる)であり、
ジカルボン酸は、テレフタル酸とイソフタル酸の混合物であり、少なくとも50モル%のテレフタル酸を含む、
ポリアミドにおいて、
ジアミンが非極性カラムでのガスクロマトグラフィーによる分析に供したときに6つの異性体画分に分解することと、前記異性体画分がその溶離の順に異性体画分IからVIと命名される場合、前記脂環式ジアミンの画分Iの質量含有率F
Iが35%を超えないことを特徴とし、
GC/FID分析が、次の機器構成で実施される:
カラム: キャピラリー、5%ポリシルフェニレンシロキサン、長さ30m、直径250μm、膜厚0.5μm
注入温度: 250℃
スプリット比: 1/50
温度プログラム: 70℃(2分)、70℃-185℃(8℃/分の昇温)、185℃(10分)、185-320℃(10℃/分の昇温)、320℃(10分)
検出器: FID-炎イオン化、温度:310℃、
ポリアミド。
【請求項11】
請求項10に記載のポリアミド、一又は複数の他のポリマー、添加剤、フィラー及び/又は改質剤を含む配合物。
【請求項12】
請求項10に記載のポリアミド又は請求項11に記載の配合物を含む物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、透明ポリアミドを製造するための改良方法に関する。また、本発明は加熱処理後のポリアミドの透明性とその安定性を改善するための特定の異性体組成を有する脂環式ジアミンの使用に関する。更に、本出願は、そのような方法により得ることができる透明ポリアミドとまたそのようなポリアミドから製造された物品に関する。
【背景技術】
【0002】
アモルファスポリアミド、例えば脂環式ジアミン、芳香族酸及びラクタム又はアミノ酸から得られた、出願EP0313436A1に記載されたものは、優れた透明性と高い耐化学性を兼ね備え、かつその透明性が沸騰水に対して更に耐性を有する。これらのポリマーは、例えば、呼吸マスクなどの滅菌可能な品物、眼鏡フレーム及びレンズなどの光学品、及び家電製品の製造に対して関心がある。
【0003】
しかしながら、これらのポリアミドの透明性とその熱安定性が必ずしも期待に応えるものではないことが見出された。而して、バッチ生産ラインで製造されたある種のポリアミドの透明性が徐々に悪化することがあり、反応器の頻繁な洗浄を必要とし、生産性を著しく損なうことが見出された。
【0004】
また、これらのポリマーの透明性は通常は沸騰水によく耐えるが、製造中、例えば加熱プラトーの場合であろうと、又は使用中、例えば沸騰水に浸漬される場合であろうと、それらが熱に曝されている場合に、ある種のポリアミドバッチが不透明になることが見出されている。
【0005】
従って、より良好に制御され、特に、加熱処理の後でさえ期待に応え、保存される透明性を有するポリアミドを得ることを可能にする、ポリアミドの製造方法が求められている。
【0006】
透明ポリアミドの製造に最も頻繁に使用される脂環式ジアミンは、アルキレン基を介して互いに連結され、それぞれアミン基と、適切な場合には一又は複数の他のアルキル置換基によって置換されている、二つのシクロヘキサン基を含む。これらの化合物は、その化学構造のため、多数の立体異性体の形で存在する。これは、シクロヘキサンの各置換基が、シクロヘキサン上のエクアトリアル又はアキシャル位で、二つの環を連結するアルキレン基に対してトランス又はシス位に位置しうるからである。他の異性の可能性は、二つのシクロヘキサンが異なる立体構造を呈しうるという事実から生じる。その結果、これらの脂環式ジアミンは多数の異性体を生じる。
【0007】
幾つかの文献が、ポリアミドの特性に及ぼすビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン(「PACM」又は「P」と呼ばれる)異性体の影響の研究を報告している。
【0008】
例えば、フランス特許FR1541384から、ジアミンのトランス-トランス異性体でのみ得られたPACMに基づくポリアミドは不透明であることが知られている。この文献は、30%~80%のトランス-トランス異性体と10%未満のシス-シス異性体を含む混合物が、透明性が沸騰水に対して耐性がある透明ポリアミドを得ることを可能にすることを教示している。
【0009】
また、PACMのトランス-トランス異性体が、脂肪族二酸による重縮合により得られるポリアミドの結晶化を促進し、70%の含有量まで、これらのポリアミドの融点及びガラス転移温度を上昇させることが知られている(Prince, Frank R., Pearce, Eli M. "The effect of isomer ratio on the Properties of Bis(4-aminocyclohexyl)methane polyamides", Macromolecules 4/3, pp 347-350, 5/1971)。
【0010】
対照的に、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン(BMACM又は「B」と呼ばれる)のようなより複雑な脂環式ジアミンは、まだ詳細な研究の対象となっていない。
これは、
図3に示すように、各環上にアルキル基が更に存在すると、異性の可能性を増加させるためである。この異性源だけを考慮すると、よってBMACMには少なくとも16の立体異性体がある。
【0011】
現在、ジアミンBMACMは、BASF、Sigma Aldrich及びJiangsu Qingquan Chemical Co.,Ltdなど様々な会社によって販売されている。これらのジアミンは、それらを得るための方法に応じて、また方法の変更に続いて経時的にも変動しうる、それらの立体異性体組成の仕様なしで販売されている。
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的は、BMACMなどの脂環式ジアミンに基づく透明ポリアミドの製造方法を提案することであり、その方法は、より良く制御され、特に加熱処理後に保存される透明性を有するポリアミドを得ることを可能にする。
【0013】
具体的には、本発明は、これらのジアミンの特定の異性体プロファイルを選択することにより、ポリアミドが熱に曝された場合を含むポリアミドの満足のいく透明性を確保することができるという発見に基づいている。
【0014】
現在の知識を考慮すると、透明性の損失は、300℃まで又はそれ以上の範囲でありうる高温まで不溶解性である構造の出現と相関している。その結果、構造はポリアミドの変換の工程中に保存される。一旦誘導されると、不透明化は従ってポリアミドの分解温度未満で不可逆的である。これらの構造は、ある種の二酸とのジアミンのある種の立体異性体の反応物からの熱の影響下で形成されることが仮定される。
【0015】
従って、本発明の根底にある考え方は、これらの不溶解性構造の形成を回避するため、かつそれらが熱に曝されても保存される透明性を有するポリアミドを得るために特定の異性体プロファイルを有する脂環式ジアミンを使用するというものである。
このような異性体プロファイルを持つ脂環式ジアミンの使用により、反応器を洗浄することなくポリアミドの多くの連続したバッチを製造することが可能になり、生産性が向上する。
【0016】
従って、第一の態様によれば、本発明の主題は、少なくとも一のジカルボン酸と少なくとも一の脂環式ジアミンを含むモノマーの混合物の重縮合工程を含む透明ポリアミドを製造するための方法であって、
脂環式ジアミンが1から6個の炭素原子を含むアルキレン基によって連結された2つの環を含み、各環がアミン基と、同一又は異なっていてもよく、1から6個の炭素原子を含む少なくとも一のアルキル基によって置換された方法において、
ジアミンが非極性カラムでのガスクロマトグラフィーによる分析に供したときに6つの異性体画分に分解することと、前記異性体画分がその溶離の順に異性体画分IからVIと命名される場合、前記脂環式ジアミンの画分Iの質量含有率FIが35%を超えないことを特徴とする、方法である。
【0017】
好ましくは、脂環式ジアミンは、その異性体画分の質量含有率FIよりも大きい異性体画分の質量含有率FIIによってまた特徴付けられる。
【0018】
有利には、脂環式ジアミンは、0%を超え、好ましくは5%を超える、異性体画分IIの質量含有率と異性体画分Iの質量含有率の間の差ΔFII/Iによってまた特徴付けられる。
【0019】
有利には、本発明に係る方法は、1から4個の炭素原子を含む直鎖又は分岐アルキレン基、特にメチレン又はプロピレンによって連結された2つのシクロヘキサン環を含み、シクロヘキサン環がそれぞれ、好ましくは4位において、アミン基によって、かつ1から6個の炭素原子を含む一又は二の直鎖又は分岐アルキル基、特にメチル又はエチルによって置換される、脂環式ジアミンを用いて実施化される。
【0020】
特に、ジアミンは、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン(BMACM又はMACM又はBとも呼ばれる)、2,2’-ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(3-メチル-5-エチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3,5-ジメチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3,5-ジメチル-4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(2,3-ジメチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(2,3-ジメチル-4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(3,5-ジエチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3,5-ジエチル-4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(3-メチル-5-イソプロピル-4-アミノシクロヘキシル)メタン及びビス(3-メチル-5-イソプロピル-4-アミノシクロヘキシル)プロパンから選択することができる。特に好ましいものは、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンである。
【0021】
好ましくは、本発明に係る方法は、芳香族二酸、特にテレフタル酸である、ジカルボン酸で実施化される。
特に、ジカルボン酸は、少なくとも50モル%、特に少なくとも60モル%、非常に特定的に少なくとも75モル%のテレフタル酸を含む、テレフタル酸とイソフタル酸の混合物でありうる。
【0022】
好ましい実施態様によれば、重縮合は一又は複数の追加のモノマーの存在下で行われる。特に、重縮合は、ラクタム、ω-アミノ酸又はジアミンとジカルボン酸の塩のようなポリアミド単位を形成する一又は複数の追加のモノマーの存在下で行うことができる。ω-アミノ酸は、好ましくは、アミノウンデカン酸から選択される。ラクタムは、好ましくはラウリルラクタムから選択される。
【0023】
特に好ましい実施態様によれば、本発明に係る方法は、脂環式ジアミンがビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンであり、二酸がテレフタル酸とイソフタル酸の混合物であり、かつ重縮合がアミノウンデカン酸の存在下で行われる。
【0024】
他の特に好ましい実施態様によれば、本発明に係る方法は、脂環式ジアミンがビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンであり、二酸がテレフタル酸とイソフタル酸の混合物であり、かつ重縮合がラウリルラクタムの存在下で行われる。
【0025】
第二の態様によれば、本発明は、透明ポリアミドの製造のための脂環式ジアミンの使用に関し、脂環式ジアミンが上述した通りであることを特徴とする。
【0026】
好ましくは、ジアミンは、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン(BMACM又はMACM又はBとも呼ばれる)、2,2’-ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(3-メチル-5-エチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3,5-ジメチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3,5-ジメチル-4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(2,3-ジメチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(2,3-ジメチル-4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(3,5-ジエチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3,5-ジエチル-4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(3-メチル-5-イソプロピル-4-アミノシクロヘキシル)メタン及びビス(3-メチル-5-イソプロピル-4-アミノシクロヘキシル)プロパンから選択される。特に好ましいものは、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンである。
【0027】
第三の態様によれば、本発明は、本発明に係る方法によって得ることができる透明ポリアミドに関する。
第四の態様によれば、本発明は、一又は複数の他のポリマー、添加剤、フィラー及び/又は改質剤との混合を介して、そのような透明ポリアミドから得られた配合物、特に透明配合物に関する。
第五及び最後の態様によれば、本発明は、最後には、そのような透明ポリアミド又はそのような透明配合物から得られた、物品、特に透明物品に関する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明は、以下の説明と図面に照らしてよりよく理解されるであろう。
【
図1】BMACMバッチ(BMACM1)のガスクロマトグラム(GC);
【
図2】別のBMACMバッチ(BMACM2)のガスクロマトグラム(GC);及び
【
図3】ジアミン:ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン中の立体異性源を例証する図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[用語の定義]
「モノマー」という用語は、「繰返し単位」又は「反復単位」の意味でポリアミドのコンテキストで取られるべきである。実際、ポリアミドの反復単位が二酸とジアミンの組み合わせからなる場合が特にしかりである。これは、ジアミンと二酸の組み合わせ、すなわち、単量体に相当する、ジアミン・二酸対(等モル量)であると考えられる。これは、個々には、二酸又はジアミンが、それ自体だけでは重合してポリアミドを得るには十分ではない構造単位に過ぎないという事実によって説明される。
【0030】
「コポリマー」という用語は、コモノマーと呼ばれる少なくとも二種の化学的に異なるタイプのモノマーの共重合から誘導されるポリマーを示すことが理解される。従って、コポリマーは、少なくとも二つの反復単位から形成される。また、三以上の反復単位から形成されてもよい。
【0031】
「アモルファスポリマー」という用語は、20℃/分の加熱速度の2回目の加熱中に示差熱量測定によって測定されて、せいぜい30J/gに等しく、特に1J/gと30J/gの間又は代わりに0J/gに等しい、融解エンタルピーを有するポリマーを指すことが理解される。
【0032】
「ヘイズ値」という用語は、材料中に存在する不均一部分との光の相互作用に従って観察される垂線から2.5°を超える角度で散乱する光の観点から材料の透明性を記述するものと理解される。特に記載がない限り、ヘイズ値は、試験管内の溶融ポリマーにおいてヘイズの有無について目視検査によって推定した。
【0033】
「異性体」という用語は、同じ経験式を持っているが、異なる立体化学的又は構造的な式を有する化合物を示すことが理解される。脂環式ジアミンの文脈では、関心のある異性体は特に立体異性体であり、これらの立体配置異性体の中で、すなわち、エアンチオマー及びジアステレオ異性体である。
【0034】
標準ISO16396-1:2015に準拠したポリアミド命名法を本明細書において使用している。
【0035】
その最も広い定義において、本発明は、脂環式ジアミンをジカルボン酸及び適切ならば他のコモノマーと重縮合させて透明ポリアミドを調製するための方法に関し、脂環式ジアミンの異性体プロファイルが、不溶解性化合物の生成を最小にするように選択される。このような方法は、ヘイズの観点で、ポリアミドが長期間、例えば24時間、48時間又は72時間、高温、例えば300℃に曝された場合でも満足のいくままである透明性を有するポリアミドを得ることを可能にする。
【0036】
その化学構造のために、脂環式ジアミンは多数の異性体、特に立体異性体の形で存在する。よって、ガスクロマトグラフィー(GC)分析により、それぞれが、その各々が異性体の画分で構成される異性体の共溶出物からなる、幾つかの区別可能なピークが明らかになる。
【0037】
より具体的には、本発明に係る方法において使用される脂環式ジアミンは、以下の実施例に記載した実験条件下でそれらを非極性カラム上でのガスクロマトグラフィー(GC)に供した場合、6つの異性体画分に分離していることが知見される。
【0038】
3つの異性体画分に分離するPACMとは対照的に、BMACMは、より複雑な脂環式ジアミンであり、各環に追加のアルキル置換基を有しているため、6つの異性体画分に分離する。これらの異性体画分は、本明細書において「画分I-VI」として特定し、その溶出の順序に番号を付す。従って、溶出した第一画分は異性体画分Iと呼び、第二画分は異性体画分IIと呼ぶ等々である。
【0039】
異性体画分Xの質量含有率F
Xは、次のようにジアミンのクロマトグラムに記録された異性体画分のピークAIからAVIのピークの面積から計算される:
脂環式ジアミンの異性体プロファイルは、ガスクロマトグラフィーによって見出すことができる各異性体画分の相対的割合によって与えられる。その結果、その同一の原子組成とその非常に類似した化学構造を考慮すると、これらの割合が脂環式ジアミンの各異性体画分の質量含有率を表していると考えられる。
【0040】
本発明の基礎を形成する発見は、このような脂環式ジアミンが0から35%、好ましくは0から33%、特に0%と30%の間の異性体画分Iを含む場合、ヘイズの観点からのポリアミドの透明性が期待に沿い、加熱の影響下でも保存されていたという知見である。
【0041】
また、脂環式ジアミンがその異性体画分FIの質量含有率よりも大きい異性体画分FIIの質量含有率によって特徴付けられていた場合に、得られたポリアミドのヘイズの点で好ましいことが分かった。
【0042】
また、脂環式ジアミンは、0%より大きく、好ましくは5%より大きく、非常に特定的には10%より大きい、異性分率IIと異性体画分Iの質量含有率間の差ΔFII/Iを持つ異性体プロファイルを有していることが有利であることが知見された。
【0043】
含有率の差ΔF
Y/Xは、各異性体画分X及びYについて次のように計算される:
【0044】
PACMは様々な含有率のトランス-トランス立体異性体で市販されている。従って、このジアミンの3つの異性体画分のうち、ガスクロマトグラフィー(GC)において最初に出現する異性体画分をトランス-トランス立体異性体として指定することが可能であった。
【0045】
BMACMのようなより複雑なジアミンでは、そのようなグレードは市販されておらず、従って、これらの画分の各々を構造レベルで特徴付けるのがより困難である。
【0046】
それにもかかわらず、異性体画分の各含有率と、NMRスペクトルから推測できる立体異性体の相対含有率とのマッチングにより、実施例においてより詳細に説明するが、異性体画分IからVIの特性に関して仮説を策定することが可能となる。
【0047】
而して、この段階で、異性体画分I及びIIは、脂環式ジアミンのトランス-トランス立体異性体から本質的に、又は排他的に構成されていると仮定される。また、異性体画分III及びIVは、シス-トランス立体異性体から本質的に、又は排他的に構成されていると仮定される。最後に、異性体画分V及びVIは、シス-シス立体異性体から本質的に、又は排他的に構成されていると仮定される。
【0048】
有利には、本発明に係る方法は、1から4個の炭素原子を含む直鎖又は分岐アルキレン基、特にメチレン又はプロピレンによって連結された2つのシクロヘキサン環を含み、シクロヘキサン環がそれぞれ、好ましくは4位において、アミン基によって、かつ1から6個の炭素原子を含む一又は二の直鎖又は分岐アルキル基、特にメチル又はエチルによって置換される、脂環式ジアミンを用いて実施化される。有利には、本発明に係る方法は、1から4個の炭素原子を含む直鎖又は分岐アルキレン基、特にメチレン又はプロピレンによって連結された2つのシクロヘキサン環を含み、シクロヘキサン環がそれぞれ、好ましくは4位において、アミン基によって、かつ1から6個の炭素原子を含む一又は二の直鎖又は分岐アルキル基、特にメチル又はエチルによって置換される、脂環式ジアミンを用いて実施化される。脂環式ジアミンの2つの環がアルキレン基の同じ炭素原子に結合されることが好ましい。
【0049】
ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン(BMACM又はMACM又はBとも呼ばれる)、2,2’-ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(3-メチル-5-エチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3,5-ジメチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3,5-ジメチル-4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(2,3-ジメチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(2,3-ジメチル-4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(3,5-ジエチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3,5-ジエチル-4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(3-メチル-5-イソプロピル-4-アミノシクロヘキシル)メタン及びビス(3-メチル-5-イソプロピル-4-アミノシクロヘキシル)プロパンから選択される脂環式ジアミンが特に有利である。特に好ましいものは、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンである。
【0050】
本発明に係る方法は、使用されるジカルボン酸に関して特に限定されない。これらの二酸は特に、4から18個の炭素原子、特に4から12個、非常に特定的には4から6個の炭素原子を含む直鎖又は分岐脂肪族カルボン酸から選択することができる。
【0051】
有利には、使用されるジカルボン酸は、芳香族二酸、特にテレフタル酸を含むか又はそれからなる。テレフタル酸は、単独で、又は他のジカルボン酸、特にイソフタル酸との混合物で使用することができる。特に好ましいものは、テレフタル酸とイソフタル酸の混合物に対して少なくとも50モル%、特に少なくとも60モル%、非常に特定的には少なくとも75モル%のテレフタル酸を含む、テレフタル酸とイソフタル酸の混合物である。
【0052】
特定の異性体プロファイルを有するジアミンの使用は、テレフタル酸、モノマー混合物中の芳香族二酸の全量に対して特に30モル%を超え、特に50モル%を超え、特に60モル%を超え、特に80モル%を超え、特に90モル%、非常に特定的には100モル%を超えるテレフタル酸を含む透明ポリアミドの製造において特に有用であることが分かった。これは、得られた結果が、テレフタル酸に基づくポリアミドが透明性の課題に特に敏感であり、ジカルボン酸の混合物中のテレフタル酸のモル割合と共にその感度が増加することを示唆しているためである。
【0053】
ジアミンと二酸のモル比は、一般に0.9:1から1.1:1、特に0.95:1と1.05:1の間であり、よって化学量論比に近い。化学量論比が特に好ましい。
【0054】
所定の好ましい透明ポリアミドは、二酸とまたラクタム及び/又はω-アミノ酸及び/又はジアミンと二酸の塩との脂環式ジアミンの重縮合によって得られる。
【0055】
ラクタムは、好ましくは少なくとも7個の炭素原子、好ましくは9から12個の炭素原子を有する。それらは特にカプロラクトン、ラウリルラクタム(又はラクタム12)及びウンデカノラクタムから特に選択することができる。ラウリルラクタムが特に好ましい。
【0056】
ω-アミノ酸は、好ましくは、少なくとも7個の炭素原子、好ましくは9から12個の炭素原子を有する。なかでも特に10-アミノデカン酸、11-アミノウンデカン酸及び12-アミノドデカン酸を挙げることができる。11-アミノウンデカン酸が特に好ましい。
【0057】
ジアミンとジカルボン酸の塩におけるジアミンは、好ましくは、2から36個、有利には4から18個、非常に特定的には6から16個の炭素原子を含む脂肪族又は脂環式ジアミンから選択される。ジアミンとジカルボン酸の塩におけるジカルボン酸は、好ましくは、4から36個、有利には4から18個、非常に特定的には6から16個の炭素原子を有利には含む脂肪族又は芳香族二酸である。
【0058】
上述の追加のモノマーが存在する場合、一方では追加のモノマーと他方では脂環式ジアミン及び二酸の間のモル比は、一般に0.3/1と2.8/1の間、好ましくは0.5/1と2.0/1の間、より好ましくは0.6/1と1.5/1の間である。
【0059】
特に好ましい実施態様によれば、本発明に係る方法は、脂環式ジアミンがビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンであり、二酸がテレフタル酸とイソフタル酸の混合物であり、かつ重縮合がアミノヌンデカン酸の存在下で行われる、上に記載の方法である。
【0060】
別の特に好ましい実施態様によれば、本発明に係る方法は、脂環式ジアミンがビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンであり、二酸がテレフタル酸とイソフタル酸の混合物であり、かつ重縮合がラウリルラクタムの存在下で行われる、上に記載の方法である。
【0061】
ポリアミドを重縮合により製造するための方法は、それ自体、知られている。そのような方法は、例えば特許EP0313436B1に詳細に記載されている。
【0062】
この二工程法では、二酸オリゴマーが、脂環式ジアミンを除く全てのモノマーの縮合によって第一工程において調製される。反応は、一般的に、反応物を、好ましくは撹拌して、200℃と320℃の間、好ましくは260℃と310℃の間の温度に維持しながら、不活性雰囲気下及び/又は加圧下で反応器で行われる。反応は、一般的に、大気圧下又はせいぜい30バールの自己発生圧下で1から5時間かけて行われる。
【0063】
第二工程において、脂環式ジアミンが、形成された二酸オリゴマーに大気圧下で添加され、これは200℃と350℃の間、更に好ましくは250℃と310℃の間の温度で反応する。反応は、一般的に、真空及び/又は大気圧及び/又はせいぜい20バールの圧力下で1から6時間かけて不活性雰囲気中で行われる。使用される二酸オリゴマー/脂環式ジアミンのモル比は、1/0.9と1/1.1の間である。
【0064】
この第二工程では、リン酸や次亜リン酸等の既知のポリアミド化触媒が有利に使用できる。また、この第二工程において、光及び/又は熱安定剤、着色剤、光学的光沢剤、可塑剤、界面活性剤、核形成剤、潤滑剤、離型剤、難燃剤、鎖調節剤又は消泡剤などの反応媒体添加剤を添加することも可能である。
【0065】
また、例えば特許WO09153534に記載されているように、単一工程重縮合法を想定することもできる。より具体的には、モノマー及び任意選択的添加剤を、閉じた後、撹拌しながら加熱されるオートクレーブ反応器に導入することができる。2時間の自己発生圧下に保持する段階の後、圧力はついで大気圧に1.5時間かけて低下する。その後、反応器は約1時間ガス抜きされる。得られたコポリアミドを、ついでロッドの形で押し出し、周囲温度で水タンク内で冷却し、ついで顆粒化する。
これは、バッチ法又は連続法でありうる。
【0066】
このようにして得られたポリアミドは、その特性を最適化するために配合されうる。
特に、それらは、アロイを形成するために、他の熱可塑性材料、特に他のホモ又はコポリアミド、例えばPA11、PA12、PA66、PA612、PA1010及び/又はPA1012と混合することができる。これらの成分は、好ましくは、得られるアロイの0から50重量%を占めるような量で添加される。混合は、例えば押出機で溶融状態で顆粒を混錬することによって行うことができる。
【0067】
また、光及び/又は熱安定剤、着色剤、顔料、光学的光沢剤、可塑剤、界面活性剤、核形成剤、潤滑剤、離型剤、天然ワックス、難燃剤又は他の鎖調節剤のような一又は複数種の添加剤をこの段階でポリアミドに添加することもできる。
また、特にその機械的性能を強化するために、ポリアミドにフィラー及び改質剤を添加することも同様に可能である。
【0068】
透明ポリアミドに基づく配合物は、特に透明でありうる。この場合、選択されるフィラー及び改質剤は有利には透明である。それらはガラス又はカーボン繊維又はビーズ又は他の衝撃改質剤から選ぶことができる。
【0069】
「衝撃改質剤」という用語は、(標準ISO-178:2010に従って23℃において測定して)100MPa未満の曲げ弾性率と(DSCサーモグラムの変曲点において標準11357-2に従って測定して)0℃未満のTgを持つポリオレフィン系ポリマー、特に、<200MPaの曲げ弾性率を有するPEBA(ポリエーテルブロックアミド)と場合によっては結合された、ポリオレフィンを意味するものとして理解されるべきである。組成物に衝撃改質剤としてPEBAを単独で使用することは、本発明の範囲から逸脱するものではない。
【0070】
衝撃改質剤のポリオレフィンは、官能化又は非官能化であるか、又は官能化されている少なくとも一種及び/又は非官能化である少なくとも一種の混合物であってもよい。
特に、ポリオレフィンの一部又は全てがカルボン酸、無水カルボン酸及びエポキシド官能基から選択される官能基を有し、特に、エラストマー性を持つエチレンとプロピレンのコポリマー(EPR)、エラストマー性を持つエチレン-プロピレン-ジエンコポリマー(EPDM)及びエチレン/アルキル(メタ)アクリレートコポリマー、エチレン-高アルケンコポリマー、特にエチレン-オクテンコポリマー、又はエチレンアルキルアクレート-無水マレイン酸ターポリマーから選択される。
【0071】
有利には、衝撃改質剤は、Fusabond(登録商標)F493、Pebax(登録商標)製品、特にPebax(登録商標)40R53 SP01、Lotader(登録商標)製品、特にLotader(登録商標)5500又はLotader(登録商標)7500、Exxelor(登録商標)VA1803、又はこれらの混合物(その場合、それらは0.1/99.9から99.9/0.1の範囲の比率にあり、それらが二種の混合物である場合、優先的には1/2から2/1である)から選択される。
例を挙げると、衝撃改質剤は、次の混合物:Fusabond(登録商標)493/Lotader(登録商標)、特にFusabond(登録商標)493/Lotader(登録商標)5500又はFusabond(登録商標)493/Lotader(登録商標)7500から選択される。
【0072】
衝撃改質剤は、「コア-シェル型コポリマー」とも示される「コア-シェル」型の改質剤でもよい。「コア-シェル型」の改質剤は、エラストマーコアと少なくとも一の熱可塑性シェルを持つ微粒子の形態であり;粒子のサイズは、一般的にマイクロメートル未満、有利には150から500nmである。「コア-シェル型」の改質剤は、ポリオレフィン基部を有する衝撃改質剤とは異なり、アクリル又はブタジエーン基部を有する。
有利には、衝撃改質剤の割合は、組成物の全重量に対して0重量%から10重量%である。
【0073】
場合によっては配合形態の、記載の方法によって得ることができる透明ポリアミドは、優れた品質の物品、特に透明物品の製造に有用である。
【0074】
本発明を、以下の実施例においてより詳細に説明する。
【実施例】
【0075】
1.GC-FIDによるBMACMの異性体プロファイルの決定
[反応物]
BMACM参照基準: ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン立体異性体混合物-99%純度(CAS6864-37-5,Sigma-Aldrichにより販売)
分析のためのBMACM: BMACM1及びBMACM2
エタノール: 無水エタノールCarlo Erba純度>99.99%
内部標準: ベンゾフェノン(CAS119-61-9,Sigma-Aldrichにより販売)、100mLの容量フラスコに250mgを導入してエタノールで構成した形成した溶液
【0076】
[機器]
ガスクロマトグラフィー(GC)(Agilentにより販売されているAgilent(登録商標)6890モデル)
【0077】
[GC/FID条件]
GC/FID分析を、次の機器構成で実施した:
カラム: キャピラリー、5%ポリシルフェニレンシロキサン(SGEにより販売されているBPX5)、長さ30m、直径250μm、膜厚0.5μm
注入温度: 250℃
スプリット比: 1/50
温度プログラム: 70℃(2分)、70℃-185℃(8℃/分の昇温)、185℃(10分)、185-320℃(10℃/分の昇温)、320℃(10分)
検出器: FID-炎イオン化、温度:310℃
オートサンプラーを使用してサンプルを注入した。
異性体は、揮発温度とカラムとの相互作用に応じて、識別可能な群で溶出される。内部標準によるピークに加えて、クロマトグラフィーカラムからの出現順に異性体画分IからVIと呼ばれる、BMACMの6つの画分に対応する6つの他のピークが観察される。
【0078】
2つのジアミンバッチBMACM1及びBMACM2を、上述の方法を使用して分析した(
図1及び
図2を参照)。異性体画分の保持時間を以下の表1に並べる。
【0079】
2つのBMACMジアミンバッチの異性体画分F
I-F
VIの質量含有率を、面積の合計に対するそれぞれのピークの面積から計算した。異性体画分II及びIの質量含有率間の差はΔF
II/Iである。これらの結果を以下の表2に並べる。
【0080】
2.NMR分析
観察された異性体画分をBMACMの様々な立体異性体に一致させるために、BMACMの様々なバッチを、GC/FID及びNMR(Bruker avance(登録商標)400MHz)によって研究した。
一方では、異性体画分I-VIの質量含有率を、前のセクションで説明したようにクロマトグラムから決定した。
他方、NMRスペクトルを使用して、中心のメチレン基の炭素原子に対してトランス位及びシス位それぞれの環上アミン基に隣接する脂環式水素原子に対応する線の相対面積を算出した。メチレン基の炭素原子に対してトランス位に位置する水素原子の相対面積をTと、メチレン基の炭素原子に対してシス位に位置する水素原子の相対面積をCと標記する。
【0081】
得られたそれぞれの結果を、以下の表3に並べる。
上記の表3の相対面積%T及び%Cに基づいて、ジアミン中の2つの環の構造が独立していると仮定することにより、次のようにBMACMにおけるトランス-トランス(%TT)、シス-トランス(%CT)及びシス-シス(%CC)立体異性体の含有率を推定することが可能である:
【0082】
%TT、%CT、%CC含有率の推定値を以下の表4に並べる。
【0083】
表3におけるGP/FID分析の結果と表4における異なる立体異性体の含有率を比較することで、異性体画分をそれぞれトランス-トランス、シス-トランス及びシス-シス立体異性体にマッチさせることが可能になる。
具体的には、BMACMの2つのバッチのデータを比較することにより、異性体画分FI及びFIIが増加すると、トランス-トランス異性体%TTの含有率がまた増加することが観察される。また、異性体画分FV及びFVIが減少すると、シス-シス異性体%CCの含有率がまた減少することが観察される。
また、それぞれの立体異性体が一つ又は二つの共通の、近い画分に一緒に集まると仮定することによって、トランス-トランス立体異性体の含有率%TTを含むのに十分な大きさの唯一の画分は、異性体画分I及びIIである。同様に、異性体画分V及びVIの含有率が、シス-シス立体異性体%CCの含有率に数値的に対応することが観察される。
そのようなマッチングは、トランス-トランス立体異性体を最初に溶出した異性体画分に帰属させたPACMの結果によって確認される。
【0084】
実施例1:PA12/BI/BTの透明性に対する異性体プロファイルの影響
ポリアミドの透明性に対するBMACMの異性体プロファイルの影響を、異なる異性体プロファイルのBMACMジアミンを用いてポリアミドを調製し、熱曝露後に得られたポリアミドのヘイズを推定することによって、評価した。
ポリアミド12/BI/BTは次のようにして調製した。Paraviscスターラーを備えた適切な反応器に、以下の表5に示された割合で出発材料を添加する。ついで、反応器を、30バールの窒素を用いて3回パージし、その後、その都度大気圧に戻すことによって不活性化する。その後、反応器を2時間30分間、100rpmで撹拌しながら285℃の温度まで加熱する。反応を2時間のその圧力と温度条件下に維持し、その後、290℃の温度を狙いながら、圧力を1時間にわたって大気圧まで低下させる。
BMACMとして、BMACM1、BMACM2及びこれら2つのバッチの様々な混合物を使用した。様々なバッチ及び混合物の異性体プロファイルを以下の表6に示す。
【0085】
このようにして得られたポリアミドは、最初はゼロのヘイズを有している。その後、試験管内で300℃まで不活性雰囲気下で48時間加熱し、その間、溶融媒体のヘイズを様々な時間間隔で300℃において目視で評価した。
以下の表7に結果を並べる。
【0086】
これらの結果は、異性体画分Iの質量含有率が35%を超えないBMACMで得られたポリアミドは、加熱処理への曝露後に保存されるヘイズの点で透明性を有することを証明している。他方、これらのBMACMは、5%を超える異性体画分II及びIの質量含有率差を示すことが留意される。
【0087】
実施例2-5:PA11/BI/BTの透明性に対するBMACMの異性体プロファイルの影響
可変割合のテレフタル酸を有するポリアミドを調製し、熱曝露後のヘイズを評価することによって、熱への曝露後のポリアミドの透明性に対するテレフタル酸の含有率の影響を評価した。
様々なポリアミド11/BI/BTを、以下の表8に示した割合で出発材料を添加することにより、実施例1で説明したようにして調製した。
【0088】
こうして製造された様々なポリアミド11/BI/BTは、ゼロのヘイズを有する。その後、それらを300℃まで加熱し、窒素フラッシング下この温度に72時間維持した。周囲温度まで冷却した後、ポリアミドのヘイズを目視で評価した。以下の表9に、得られた結果を並べる。
【0089】
テレフタル酸とイソフタル酸の混合物がテレフタル酸とイソフタル酸の混合物に対して最大50モル%のテレフタル酸を含む場合に、ポリアミドのヘイズがゼロであることが観察される(実施例2及び3)。混合物がより多くのテレフタル酸を含む場合(実施例4及び5)、それにもかかわらずポリアミドは、異性体画分Iの質量含有率が35%を超えないBMACMで調製された場合にもゼロのヘイズを示す。
【0090】
【0091】
これらの結果から、第一に高比率のテレフタル酸を用いて得られたポリアミドは、熱への曝露後の透明性の損失に対してより敏感であることが分かる。
それにもかかわらず、全ての結果は、適切な異性体プロファイルを持つジアミンの選択により、ポリアミドが高モル比のテレフタル酸を含む場合を含めて、ポリアミドの強固な透明性を確保することを可能にすることをまた証明する。
【0092】
よって、本研究は、異性体画分Iの質量含有率が35%を超えないBMACMを使用することにより、高モル比のテレフタル酸を含むポリアミドに対してさえも、加熱処理後も保存される透明性を有するポリアミドを得ることを可能にすることを証明している。
【0093】
[引用文献一覧]
EP0313436A1
FR1541384
Prince, Frank R., Pearce, Eli M., Macromolecules 4/3, pp 347-350, 5/1971