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特許7554741センサ機能付き、特に摩耗検出付きのプラスチック摺動要素
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】センサ機能付き、特に摩耗検出付きのプラスチック摺動要素
(51)【国際特許分類】
   F16C 41/00 20060101AFI20240912BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20240912BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20240912BHJP
   B29C 64/10 20170101ALI20240912BHJP
   B29C 64/106 20170101ALI20240912BHJP
   B29C 64/307 20170101ALI20240912BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240912BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240912BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20240912BHJP
   F16C 17/24 20060101ALI20240912BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
F16C41/00
B29C45/00
B29C45/14
B29C64/10
B29C64/106
B29C64/307
B33Y10/00
B33Y70/00
B33Y80/00
F16C17/24
F16C33/20 Z
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021518716
(86)(22)【出願日】2019-10-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 EP2019077257
(87)【国際公開番号】W WO2020074536
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-08-15
(31)【優先権主張番号】202018105755.3
(32)【優先日】2018-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】202019101776.7
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】507336499
【氏名又は名称】イグス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクター ハフトゥング
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 利恵
(72)【発明者】
【氏名】ニールマン シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ロックマン-リチッチ シュテファン
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-535725(JP,A)
【文献】特開2016-133220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 41/00
F16C 33/20
F16C 17/24
B29C 45/00、45/14
B29C 64/10、64/106
B29C 64/307
B33Y 10/00、70/00、80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
滑り軸受における潤滑剤なしの軸受のためのプラスチック摺動要素(10;40)であって、
該摺動要素(10;40)は、2つの軸受部品の相互に対する移動案内のための摺動面(14;44A)を有する、プラスチック製の成形部品(12;42)を備え、
センサ機能付きの電気機能回路(16;46)が、動作パラメータの取得のための前記成形部品(12;42)上に配置され、
前記機能回路(16;46)は、前記成形部品(12)上に形成された少なくとも1つのトレース導体パターン(17、17A;47、47A)を備え、
前記機能回路(16;46)は、前記トレース導体パターンのキャリアとして前記成形部品(12)上に形成され、
前記機能回路は、付加製造法(AM法)によって、プラスチック製の前記成形部品(12;42)に付加され
前記機能回路(16;46)は、前記動作パラメータに関して感度を有する検出領域(17;47)を備え、
前記検出領域(17;47)は、前記成形部品(12;42)の、前記摺動面(14;44A)と反対側の面(44B)上に設けられることを特徴とする摺動要素。
【請求項2】
滑り軸受における潤滑剤なしの軸受のためのプラスチック摺動要素(10;40)であって、
該摺動要素(10;40)は、2つの軸受部品の相互に対する移動案内のための摺動面(14;44A)を有する、プラスチック製の成形部品(12;42)を備え、
センサ機能付きの電気機能回路(16;46)が、動作パラメータの取得のための前記成形部品(12;42)上に配置され、
前記機能回路(16;46)は、前記成形部品(12)上に形成された少なくとも1つのトレース導体パターン(17、17A;47、47A)を備え、
前記機能回路(16;46)は、前記トレース導体パターンのキャリアとして前記成形部品(12)上に形成され、
前記機能回路は、付加製造法(AM法)によって、プラスチック製の前記成形部品(12;42)に付加され、
前記成形部品(12;42)は、1つの面(13;44B)上に凹状パターン(15;45)を有し、
該凹状パターンに少なくとも部分的又は完全に前記機能回路(16;46)が配置されていることを特徴とする摺動要素。
【請求項3】
プラスチック製の前記成形部品(12;42)は、射出成形によって作製されたものである、請求項1または2に記載の摺動要素。
【請求項4】
前記成形部品(12;42)は、トライボポリマーから作製され、前記機能回路(16;46)に対して、回路キャリアとして作用することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の摺動要素。
【請求項5】
前記機能回路(16;46)は、前記動作パラメータに関して感度を有する検出領域(17;47)を備えることを特徴とする請求項に記載の摺動要素。
【請求項6】
前記検出領域(17;47)は、前記摺動要素(10;40)が新しい場合に前記摺動面(14;44A)から所定の距離を有することを特徴とする請求項1または5に記載の摺動要素。
【請求項7】
前記検出領域(17;47)は、前記成形部品(12;42)の、前記摺動面(14;44A)と反対側の面(44B)上に設けられることを特徴とする請求項5に記載の摺動要素。
【請求項8】
前記検出領域(17;47)は、摩耗限度(W1)の超過が前記機能回路によって検出可能となるように、検出される前記摩耗限度(W1)に少なくとも部分的に沿って延在し、及び/又は、前記検出領域(17;47)は、前記摺動面(14;44A)の周囲を覆う角度の少なくとも大部分にわたって延在する又は前記摺動面(14;44A)の軸方向長さの少なくとも大部分にわたって延在することを特徴とする請求項1、5、6、7のいずれか1項に記載の摺動要素。
【請求項9】
前記成形部品(12;42)は、1つの面(13;44B)上に凹状パターン(15;45)を有し、
該凹状パターンに少なくとも部分的又は完全に前記機能回路(16;46)が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の摺動要素。
【請求項10】
前記面(13;44B)は前記摺動面(14;44A)と反対側に位置する、請求項2または9に記載の摺動要素。
【請求項11】
前記凹状パターン(15;45)は、検出される前記摺動要素(10;40)の摩耗の度合いに対応する、前記摺動面(14;44A)から少なくとも所定距離にある領域に延在する凹部を備えることを特徴とする請求項2、9、10のいずれか1項に記載の摺動要素。
【請求項12】
前記トレース導体パターン(17、17A;47、47A)は、前記成形部品(12;42)上に直接及び/又は一体的に堆積され、物質対物質接合によって前記成形部品(12;42)に接合されたことを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の摺動要素。
【請求項13】
前記トレース導体パターン(17、17A;47、47A)は、前記成形部品(12)を形成するプラスチックよりも明らかに高い導電性を有する材料からなることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の摺動要素。
【請求項14】
前記トレース導体パターン(17、17A;47、47A)は、
00μm以下の第1の層厚及び0.5~5mmの導体幅を有する、付加的に付与されたトレース導体(17A;47A)と、
評価回路(39B)の解放可能な接触のための付加的に付与されたコンタクト領域(18A、18B;48A、48B)と
を備え、前記コンタクト領域が、前記第1の層厚よりも大きく、200μm以上の第2の層厚を有することを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載の摺動要素。
【請求項15】
前記機能回路(16;46)は、トレース導体(17A;47A)及び、評価回路(39B)の解放可能な接触のためのコンタクト領域(18A、18B;48A、48B)からな、及び/又は導体離断による抵抗性摩耗検出のために作用することを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載の摺動要素。
【請求項16】
前記成形部品(12;42)は、ベースポリマー及び固体潤滑剤を含むトライボポリマーを含むことを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載の摺動要素。
【請求項17】
前記摺動要素は、前記トレース導体パターンが形成されたプラスチックの前記成形部品(42)に付加される、前記成形部品(42)の安定化のための被覆(43)を有することを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載の摺動要素。
【請求項18】
第1の軸受部品(30;41)及び第2の軸受部品を有する、潤滑剤なしの軸受のための滑り軸受であって、
前記第1の軸受部品(30;41)は、前記第1の軸受部品に対する前記第2の軸受部品の移動案内のために作用する、請求項1から17のいずれか一項に記載の少なくとも1つの摺動要素(10;40)を備え、
前記第1の軸受部品(30;41)上に、前記少なくとも1つの摺動要素(10;40)上に前記機能回路(16;46)と取外し可能に接続された評価回路(39B)が設けられたことを特徴とする滑り軸受。
【請求項19】
前記第1の軸受部品(30;41)は、前記少なくとも1つの摺動要素(10;40)を保持するハウジング部品(32)上に、前記機能回路(16;46)への前記評価回路(39B)の接触のために、前記評価回路(39B)に接続されたコンタクトデバイス(20)を有することを特徴とする請求項18に記載の滑り軸受。
【請求項20】
前記コンタクトデバイス(20)は、前記摺動要素(10)の位置固定のためのホルダ(25)を有することを特徴とする請求項19に記載の滑り軸受。
【請求項21】
前記第1の軸受部品は、軸受ハウジング若しくはキャリッジ(30)として又は軸受ブッシュ(40)で構成され、前記評価回路(39B)及び電源(39C)とともにそこに取り付けられたモジュール(39A)を備えることを特徴とする請求項18、19、20のいずれか1項に記載の滑り軸受。
【請求項22】
前記評価回路(39B)は、前記機能回路(16)に基づいて少なくとも1つの動作パラメータを評価し、評価結果を上位モニタリングシステムに送信するように設定された通信モジュールを備えることを特徴とする請求項18から21のいずれか一項に記載の滑り軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概略として、あらゆる設計の滑り軸受での使用に適した内蔵センサ機能付きのプラスチック摺動要素に関する。本発明は、特に、プラスチックからなる成形部品、特に射出成形部品を備える滑り軸受における潤滑剤なしの軸受のためのプラスチック摺動要素に関し、センサ機能付きの電気機能回路がその成形部品上に配置される。この機能回路は、例えば、予知保全の目的の過度の摩耗の検出など、特に摺動要素自体の動作パラメータの取得において作用し得る。これに関して、摺動要素は、滑り軸受の2つの部品の相互に対する滑り軸受の実装及び/又は移動案内若しくは実装のための摺動面を有する。
【背景技術】
【0002】
そのような摺動要素は、本出願人に帰属する特許文献1から既に知られている。ここで、摺動要素は、臨界領域における所定程度の摩耗の際に、例えば、導体の離断によってその電気特性を変化させる検出器付きの機能回路を有する。機能回路は、特にトランスポンダを無線で用いて、摩耗によって誘発される変化を検出することを可能とする。
【0003】
製造に関し、特許文献1では、摺動面の凹部に検出器要素を配置することが提案される。例えば、フィルム型RFIDトランスポンダの既存又は適合構成要素が、検出器として提案される。またさらに、従来の市販のRFIDトランスポンダ、例えば、シャントコンダクタと接続される別個の構成要素が、検出器要素として提案される。いずれの場合でも、取付け後に、検出器が、追加のプロセス工程において埋め込まれ又はカプセル化され得る。しかし、どのようにして機能回路、特に検出器が精密に生産されるかは、特許文献1には開示されていない。
【0004】
一方、集積センサシステムとの複雑な幾何形状でのプラスチック構成要素の組合せは、実際にはいくらかの困難をもたらす。したがって、最も変動的な幾何形状のプラスチック摺動要素へのセンサ機能の一体化は、多くの場合、現実には困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/182662号
【発明の概要】
【0006】
したがって、本発明の第1の目的は、動作パラメータのセンサによる検出のための電気機能回路が多数であっても安価にかつ高い信頼性で設けられ得るプラスチック摺動要素を提案することにある。
【0007】
この目的は、請求項1に記載される特徴を有するプラスチック摺動要素によって達成される。有利な実施形態は、従属請求項の事項を構成する。
【0008】
本発明によると、請求項1の前提部に記載のプラスチック摺動要素の場合において、機能回路が、プラスチックの成形部品に形成された少なくとも1つのトレース導体パターンを備え、成形部品自体がトレース導体パターンのためのキャリア又は基板を構成することが提案される。機能回路は、特に、付加製造法を用いて成形部品上に付加され得る。この場合、成形部品自体は、好ましくは、ただし必ずしもではなく、機能回路が付加される時に既に事前作製されている。
【0009】
提案される構成は、とりわけ、所望の特性を有する安価に生産可能なセンサシステムが成形部品に直接一体化可能となり、すなわち、自動化の程度が増加し、又は追加の製造工程が省略され得るという有利な効果を有する。
【0010】
成形部品を有する摺動要素は、この場合、被実装軸受部品又は実際には実装軸受部品(機械的フレーム)の一部を構成することがあり、すなわち、それが実装作用を有するのか又は実装されるのかは重要ではない。この意味における摺動要素は、特に、滑り軸受に嵌合される際に摺動相手の摺動実装及び/又は摺動相手への摺動実装のために作用する。
【0011】
ここで、用語「トレース導体」は、個々の導電的な接続要素を意味するものと理解される。トレースは任意の所望の長さの、ただし、特定の幅及び特定の厚さ(構造高さ)の構成要素であり、トレースの厚さはその幅よりも大幅に小さく、特に、少なくとも2倍小さく、従来的には概ね一桁の大きさだけ小さい。言い換えると、その用語は、プリント回路基板では従来的なトレース導体と同様の幾何形状を有する、典型的には平坦な構成の接続要素を指す。
【0012】
成形部品は、特に、トレース導体パターン又は機能回路の付加前に、事前作製され、又は既に存在していてもよい。このように、成形部品はそれ自体で、トレース導体パターンのための回路キャリア又は基板として使用され得る。したがって、従来のプリント回路基板、すなわち、PCBは不要となる。
【0013】
本発明によるトレース導体パターンは、異なる技術によって付加されてもよく、例えば、導電ワニスを事前作製された成形部品に付加することによって生産される、及び/又は例えば3D印刷を用いて成形部品上に印刷されてもよい。機能回路全体、ただし少なくともトレース導体パターンは、好ましくは、事前作製されたプラスチック部品上に直接に又は隣接して付加、特に印刷される。
【0014】
機能回路は、例えば、成形部品に対する付加メタライズ法によって、金属をメタライズ可能プラスチック材料に電気メッキによって付加することによって、又は実際には熱付加、例えば、噴霧によっても付加され得る。
【0015】
本発明による機能回路は、一般的に、付加製造法によってプラスチックの成形部品上に塗布又は堆積され得る。
【0016】
これは、特に、適切なMID(成形回路部品)技術、特に、ここではAM法の好適な例として理解される付加MID技術を用いて行われ得る。
【0017】
機能回路はまた、他の適切な事実上公知のAM法によって、特にVDI3405の規格又はDIN EN ISO17296-2(第II章)の規格による付加製造法として指定される方法によって取り付けられ得る。
【0018】
AM法は、通常は層毎に付加された構造体に基づいて、実質的に任意の所望の複雑な幾何形状の、本質的に自動化されたコンピュータ支援による製造を可能とする。特に適切なAM法の更なる例は、印刷組成物の自動硬化による直接印刷、又は実際には重合化、接着接合、焼結/溶融などの技術による3D印刷である。
【0019】
機能回路は、この点において、特に他の独立した電気構成要素なしに、粘着性付加製造プロセスにおいて全体的に又は一体的に生産され得る。さらに、押出成形による(EB)方法は、熱可塑性プラスチックの化学硬化又は物理固化のいずれかとともに、特に好適である。例えば、FDM(熱溶解積層)法も好適である。MJ(マテリアルジェット)法も、例えば、光への曝露を介して固化するフォトポリマーとともに実行可能である。SDP法としても知られる、いわゆるBJ(バインダージェット)法も、同様に考えられる。
【0020】
MID法に加えて、全てのいわゆる3D印刷技術も、原則として好適である。EB法は、比較的高い粘度、導電性ペーストに対するそれらの好適性のために、好適となる。
【0021】
特に、ここでは、FLM又はFFF法が、付加製造に好適である。
【0022】
ただし、機能回路は、インモールドラベリングによって、又は印刷膜を射出成形品に挿入してプラスチック材料でバックインジェクションすることによって付加されてもよい。機能回路は、さらに、ホットスタンピング(加圧及び加熱下での接着膜の付加)によって付着されてもよい。
【0023】
ここで、機能回路は、回路構成の断片又は機能部品を意味するものとしても理解される。そのため、機能回路は、特に、更なる回路との接続によってのみその実際の機能を充足し得るものであるため、特に、それ自体における回路構成を構成する必要はない。機能回路は、例えば、電気的な2極を構成し、その電気特性は検出される動作パラメータに応じる。成形部品は、同様に、特に、射出成形を用いてプラスチックから事前作製され得る。
【0024】
摺動要素の成形部品又は実際には摺動要素全体は、好ましくは、特に射出成形によってトライボポリマーからなる。トライボポリマーは、特に、潤滑剤なしの軸受実装、特に固体潤滑剤のための添加物を有するポリマーを意味するものと理解される。いずれの場合でも、摩擦学的に最適化されたプラスチック材料は、成形部品のための材料として好適である。
【0025】
好適な一実施形態では、所定又は既知の幾何形状において摺動面を規定する成形部品が、事前作製され、特に一体化して事前作製される。成形部品は、付加的に塗布又は印刷された機能回路のための基板又は回路キャリアとして、特に射出成形回路キャリアとして直接作用し得る。
【0026】
例えば、接着を促進するために又は更なる電気絶縁の目的で、成形部品と付加的に印刷又は堆積された機能回路との間の中間層を与えることが有利となり得る。多くのトライボポリマーは、静摩擦及び/又は摺動摩擦を低減するために、本来的には比較的不利な接着特性を有する。
【0027】
トレース導体パターン又は機能回路は、成形部品上に直接、特に成形部品の表面上に、又は挟まれた中間層とともに形成され得る。ただし、トレース導体パターン又は機能回路は、完成した摺動要素の表面に直接アクセス可能である必要はなく、完成した摺動要素において、より良好な保護のための1以上の保護層によって部分的又は完全に覆われ、又は例えば被覆されてもよい。保護層又はカプセル化層は、例えば、射出成形によるカプセル化によって生成され得る。有線信号接続の場合では、回路に対するアクセス開口が、接触の目的のために放置又は解放されてもよいし、又は実際にはコンタクトデバイスがともにカプセル化され得る。
【0028】
本発明による解決手段の1つの有利な効果は、例えば、屋外での使用などの不利な周囲条件にも適した、それでも強靭な構成での比較的安価な生産である。
【0029】
成形部品は、熱可塑性プラスチックを含む、又は実質的に熱可塑性プラスチックからなり得る。金属化合物もプラスチック材料と選択的に混合されてもよく、それは、例えば、MIDのLDS生産方法に対して有利となる。
【0030】
機能回路は、結合接続によって成形部品に好ましくは強固に接続される。機能回路は、好ましくは、成形部品に一体化され、又は生産後に成形部品の一体化構成要素として、すなわち、特に破壊せずには分離可能でない構成要素として存在する。
【0031】
好適な更なる展開例では、機能回路は、センサ機能の目的で、モニタリングされる動作パラメータに関して感度を有する少なくとも1つの検出領域を備える。
【0032】
機能回路は、好ましくは、検出器からの電気信号を評価するために別個に構成された回路に対する、機能回路、特に、検出器の切断可能な有線接触の目的で、少なくとも2つのコンタクト領域を有する。このように、摺動要素は、簡単に交換され得るものであり、センサ機能があるにもかかわらず非常に低い生産コストとなる。機能回路は、好ましくは、更なる回路と、プラグインコネクタなどのような切断可能な電気接続部によるコンタクトデバイスを介して接続される。
【0033】
例えば、MID法又はAM法などの付加方法の1つの有利な効果は、突出したコンタクト領域が他の構成、特に、トレース導体とともに1つのプロセス工程で電気接続のために生成可能な点にある。
【0034】
任意の所望な検出器構成要素又は検出器パターンが、原則として、検出領域として実施可能となり、これは好ましくは機能回路の付加製造中に一体的に生産される。
【0035】
検出領域は、特に、例えば、配線離断による摩耗検出のための抵抗性検出領域であり得る。この場合、簡素な電気抵抗測定値が、摩耗を示すのに使用され得る。例えば、近接検出、位置判定などのために誘導的又は容量的に作用する機能回路も、本発明の範囲内にある。例えば、温度測定又は変形若しくは応力測定のための他の検出の概念も、さらに実施可能である。検出器又は検出領域という用語は、特に、計測学の意味での検知素子(DIN1319-1参照)、すなわち、検出される所望の測定変数又は量に直接応答する装置の部分を示す。
【0036】
機能回路の検出領域は、少なくとも摺動要素が新しい場合に、成形部品の摺動面から所定の距離を有し得る。検出領域は、概略として、所定の位置に、特に対象の機能回路全体とともに成形部品上に永久的に又は取外し不能に配置される。
【0037】
検出領域は、特に、摺動面に対向する成形部品の面に設けられ、特にその面と一体化され得る。
【0038】
一実施形態では、検出領域は、摩耗限度の超過が機能回路によって検出可能となるように、検出される摩耗限度に少なくとも部分的に沿って延在し得る。
【0039】
摺動要素上での最大限広範囲な検出のために、摺動要素がアキシャル及び/又はラジアル軸受であるかに応じて、機能回路、特に検出領域が摺動要素の摺動面の周囲角又は軸方向長さの少なくとも大部分にわたって拡がるように準備が追加的又は代替的になされ得る。
【0040】
機能回路の付加製造は、完成した機能回路が少なくとも部分的に又は好ましくは完全に挿入され又は入れられる凹状パターンを成形部品が一方の面に有する場合に簡素化され得る。例えば、射出成形によって低い許容差で生産可能な凹状パターンの利用を通じて、例えば、未硬化の導体材料の溶解によってもたらされる付加製造の精度劣化が、低減又は補償され得る。特に好ましくは、凹状パターンは、既知の摺動要素の既存の要件又は仕様を損なわないように、実際の摺動面に対向する事前作製された成形部品に設けられる。付加製造の利用は、機能回路に対する凹状パターンが成形部品の凸面に設けられる場合に、簡素化される。
【0041】
凹状パターンへの機能回路の好適な完全な収容は、とりわけ、既存の又は既に大量生産された摺動要素の構成要素の幾何形状に関して、追加のセンサ機能付きの摺動要素が後方互換可能であり続けるという有利な効果を与える。
【0042】
凹状パターンは、機能回路の付加製造後に外部に開放されたままであってもよいし、付加製造の過程において選択的に、環境の影響に対する良好な保護のためにその後にカプセル化又は被覆されてもよい。
【0043】
摩耗検出に特に適した例示実施形態では、凹状パターンは、検出される摩耗限度に圧痕のプロファイルが対応するように、実際の摺動面から所定距離で適所に少なくとも配置される圧痕を備える。その距離は、摺動要素の検出される摩耗の度合いに対応し得る。機能回路、特に検出領域は、好ましくは少なくとも部分的に成形部品の表面の圧痕内に配置される。
【0044】
機能回路は、好ましくは、例えば、MID法によって事前作製された成形部品に直接及び/又は一体的に堆積される。これにより、機能回路は、好ましくは成形部品に接合される。
【0045】
機能回路は、好ましくは、成形部品のプラスチック材料よりも明らかに高い導電性を有する材料からなり、特に、銀、銅及び/又は炭素含有の材料からなる。したがって、機能回路は、成形部品の本体と機能回路のトレース導体パターンとの間の追加の絶縁層がなくても、成形部品上に直接配置され得る。
【0046】
付加製造の過程で導電パターンを生成するための種々の材料が、既に知られている。例えば、導電性のワニス、又は銀含有、銅含有及び/若しくは炭素含有(例えば、グラファイト又はカーボンブラック(CB))の他の印刷可能なペースト、液体若しくは熱可塑性プラスチックが使用され得る。例えば、DuPont(登録商標)5064H(データシートMCM5064H/2011参照)などの、例えば、銀粉末を有する液体樹脂などの銀ベースの導電性ペーストが、好適に使用される。機能回路のトレース導体の完成した材料が成形部品のプラスチック材料又はトライボポリマーよりも明らかに高い導電性を有するという条件の下で、導電性粒子を有するポリマーマトリクスの他の混合物、特に、高価でない炭素粒子(グラファイト又はCB)も実施可能である。
【0047】
好適な一実施形態では、トレース導体パターンは、例えば、AM法を用いて付加的に付与され、第1の層厚、好ましくは200μm以下、特に好ましくは100μm以下、例えば、0.5~5mmの導体幅の場合には約5~50μmの範囲の第1の層厚、及び切断可能な接触のための特殊コンタクト領域を有するトレース導体を備える。コンタクト領域は、第1の層厚よりも顕著に大きな第2の層厚、特に200μm以上、例えば、250~500μmの範囲の第2の層厚を有する。選択的に許容範囲にある層厚という用語は、ここでは、その全長又は幅に垂直な平面における導体トレース又はコンタクト領域の材料厚を示す。この場合、トレース導体及びコンタクト領域は、好ましくは、単一かつ同一の製造プロセスにおいてプラスチック成形部品に付加され、特に付加的に付与される。
【0048】
代替的に又は追加的に、突出した導電コンタクト手段、例えば、コンタクトピン、コンタクトソケットなどが、接触の目的で摺動要素上に設けられてもよい。コンタクト手段は、例えば、付加的付与の場合に、トレース導体パターンに接続され、例えば、プラグコネクタを用いて外部から切断可能な電気的接触を可能としてもよい。コンタクト手段の一体化は、好ましくは被覆と組み合わされ、それは同時にコンタクト手段を機械的に固定し得る。そのようなコンタクト手段との関連において、付加されたトレース導体パターンの完全なカプセル化も達成され得る。
【0049】
付加製造された機能回路は、好ましくは純受動的であり、すなわち、それ自体のエネルギー源なしに具体化される。それは、特に、コンタクト領域を介して別個の評価回路に接続され得る2極の形態をとり得る。機能回路は、特に、専らトレース導体及びコンタクト領域からなり、又は別個の電気若しくは電子構成要素なしに具体化され得る。この特に簡素な設計は、例えば、特に、機能回路におけるトレース導体パターンの離断の抵抗性モニタリングによる抵抗性摩耗検出を可能とする。
【0050】
ただし、付加製造の過程において、測定変数検知要素の意味で他の種類の検出器又はセンサも生産され得る。これにより、例えば、容量性又は感熱センサパターンが、付加的に付与され得る。圧電抵抗性構造体も、AM法に関する最近の専門家の文献において既に説明されている。AM法を用いて生産可能な圧電抵抗性検出器は、例えば、非特許文献である、Leigh SJ、Bradley RJ他、「A Simple, Low-Cost Conductive Composite Material for 3D Printing of Electronic sensors」、PLoS ONE7(11)、2012年、に記載されている。
【0051】
電気回路の付加製造又は直接印刷による既知の方法で生産される滑り軸受部品同士の、特に射出成形部品同士の組合せは、成形部品がトライボポリマーから事前作製される場合に特に有利であることを示す。潤滑剤なしでの軸受実装のためのトライボポリマーは、事実上公知であり、典型的にはベースポリマー及び微細固体潤滑剤を含む。またさらに、トライボポリマーは、補強繊維及び/又は補強フィラー若しくは他のフィラーを含んでいてもよい。好適な材料は、例えば、イグス社(ケルン、D-51147)のiglidur(登録商標)製品によるトライボポリマーである。この種類の摺動要素は、軸受相手との固体潤滑のための固体潤滑剤粒子を放出するように設計されたベースポリマーのある程度の摩耗に曝されることが意図されている。したがって、付加製造の間に適宜実施可能な摩耗検出は、ここでは特に有利である。
【0052】
更なる実施形態では、摺動要素は、成形部品の安定化のための被覆を有し得る。この被覆は、トレース導体パターンが形成されるプラスチック材料の成形部品に付加され得る。被覆は、特に、更なるプラスチック材料を成形部品及びトレース導体パターンの周囲に、同時に外側保護層が機能回路に対する摺動要素上に設けられるように、射出成形することによって生成され得る。この場合、被覆の材料は、好ましくは、摺動面を与える成形部品のプラスチック材料よりも高い機械強度を有する高強度プラスチック材料を含み得る。被覆のプラスチック材料は、好ましくは、特に、成形部品の摺動要素のプラスチック材料よりも著しく多い繊維含有量で繊維補強される。安定化被覆を有する摺動要素は、特に、重負荷の軸受実装に対して有利である。被覆は、好ましくは、例えば接触のための、任意で1以上の凹部とともに成形部品の外部の少なくとも大部分を覆う。
【0053】
上記の例示実施形態の1つによるセンサ機能付きプラスチック摺動要素は、潤滑剤なしの軸受のための、例えば、リニア滑り軸受、ラジアル滑り軸受、アキシャル滑り軸受及び/又はラジアル/アキシャル滑り軸受のための滑り軸受に特に適する。
【0054】
この場合、滑り軸受は、第1の軸受部品上の少なくとも1つのそのような摺動要素を有し得る。これは、滑り軸受について事実上公知の構成において、第2の軸受部品に対する移動案内において作用する。摺動要素を有する軸受部品は、この場合、実装される軸受部品又は実装する軸受部品(機械的フレーム)のいずれかを構成し得る。これは、本発明について重要ではない。提案される摺動要素は、同様に、機械的な観点から、任意の所望の軸受タイプ、例えば、ラジアル軸受、アキシャル軸受、アキシャル/ラジアル組合せ軸受などに対して使用され得る。
【0055】
滑り軸受全体としての好適な更なる一展開例では、評価回路が、摺動要素から、任意で滑り軸受からも、空間的に独立して第1の軸受部品に設けられ、その評価回路とともに摺動要素の機能回路が信号伝送のための配線を介して取外し可能又は交換可能に接続される。この目的のため、特定のコンタクトインターフェースが、例えば、評価回路と機能回路の間に設けられてもよい。
【0056】
評価回路に配線を介して接続された対応のコンタクトデバイスは、例えば、少なくとも1つの摺動要素を保持する第1の軸受部品のハウジング部品上に設けられ得る。
【0057】
ハウジング部品は、トレース導体パターンのコンタクト領域が評価回路に接触されるとともに配線を介して有線で接続され得るように、ハウジング部品の表面からそこに保持される摺動要素に繋がる孔又は開口、ボアなどを有していてもよい。
【0058】
コンタクトデバイスは、特に、摺動要素の交換を簡素化するために、評価回路と、機能回路、特に、そのコンタクト領域との間を切断可能に接触させるためのスプリング付きコンタクトピンを有していてもよい。摺動要素と切断可能に接触するためのインターフェースによって、より複雑な又は高価な構成要素が、生産中に、滑り軸受の非摩耗性部品上の摺動要素から独立して配置されてもよい。
【0059】
コンタクトデバイスは、さらに、摺動要素の位置固定のために、例えば、摺動要素のアキシャル及び/又はラジアル位置固定のために具体化されてもよい。これは、特に、機械的ロックが電気的接触と同時に行われるように、適切なハウジング構成によって達成され得る。
【0060】
滑り軸受の用途に応じて、第1の軸受部品が、例えば、軸受ハウジング又は軸受キャリッジとして具体化されてもよい。ただし、第1の軸受部品は、例えば、軸受ブッシュとして具体化された摺動要素のための軸受受容部であってもよい。
【0061】
評価回路及び評価回路のための電源、例えば、バッテリを備えるモジュールが、第1の軸受部品に取り付けられてもよい。
【0062】
更なる一展開例において、特にリニアガイドについて、評価回路を有する第1の軸受部品が、それぞれの機能回路を有する複数の摺動要素を備えるように準備がなされる。摺動要素の各々は、複数の摺動要素が同じ評価回路でモニタリングされるように、評価回路に交換可能に又は取外し可能に電気的に接続され得る。評価回路は、少なくとも1つの動作パラメータ、例えば、機能回路として単一の導体ループの状態又は電気抵抗を評価する。特許文献1によると、例えば、摩耗によって誘発される導体離断をモニタリングすることによって、例えば、滑り軸受又は摺動要素の動作状態についての有用な情報を得ることができる。
【0063】
評価回路は、さらに、評価結果を上位のモニタリングシステムに送信するように設定された通信モジュール、特に無線通信モジュールを備えていてもよい。この目的のため、任意の所望の有線又は無線技術が、データ送信のために使用され得る。
【0064】
提案される摺動要素又は滑り軸受は、潤滑剤なしのリニアガイドシステムでの使用に特に適するが、複数の他の滑り軸受にも、例えば、潤滑剤なしでのラジアル軸受実装のための滑り軸受ブッシュにも適する。
【0065】
更なる詳細、特徴及び有利な効果が、上記の教示の一般化した性質を限定することなく、添付図面に基づく好適な例示実施形態の以下の説明によって明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図1A】動作パラメータを検出するためのセンサ機能付きの電気機能回路を有するプラスチック摺動要素の斜視図である。
図1B】動作パラメータを検出するためのセンサ機能付きの電気機能回路を有するプラスチック摺動要素の斜視図である。
図2A図1A図1Bによる摺動要素上の機能回路の切断可能な接触のためのコンタクトデバイスの斜視図である。
図2B図1A図1Bによる摺動要素上の機能回路の切断可能な接触のためのコンタクトデバイスの斜視図である。
図3図1A図1Bによる複数の摺動要素及び図2A図2Bによるコンタクトデバイスを有するリニアガイドのための軸受キャリッジ、並びに評価回路及び電源を有するモジュールの、部分分解表示での斜視図である。
図4A】ここではラジアル軸受のための一体化電気機能回路を有する第2の例示実施形態によるプラスチック摺動要素の長手断面図である。
図4B】ここではラジアル軸受のための一体化電気機能回路を有する第2の例示実施形態によるプラスチック摺動要素の正面図である。
図4C】ここではラジアル軸受のための一体化電気機能回路を有する第2の例示実施形態によるプラスチック摺動要素の部分拡大長手断面図(図4AのIV-Cに対応)である。
図5A】例えば、図4A図4Cによるラジアル軸受のためのプラスチック成形部品に一体化された2つの機能回路を斜視図で示したものである。
図5B】例えば、図4A図4Cによるラジアル軸受のためのプラスチック成形部品に一体化された2つの機能回路を斜視図で示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0067】
図1A図1Bにおいて単に例示として示されて全体として符号10で示された摺動要素は、その主構成として、トライボポリマーから、例えば、イグス社(ケルン、D-51147)のiglidur(登録商標)タイプのトライボポリマーから射出成形によって事前作製された成形部品12を備える。成形部品12は、2つの軸受部品の移動案内及び摺動相対軸受実装のための内部摺動面14を構成する。凹状摺動面14は、断面丸形ガイドプロファイルのプロファイルレール上の、例えば、イグス社のdrylin(登録商標)Wタイプの金属ダブルレール(不図示)上のリニア摺動案内のための、図1A~1Bにおける略円筒状構成のものである。成形部品12の他のプロファイル断面も、本発明の範囲内のものである。案内に関する摺動要素10の幾何形状及び構成は、例えば、国際公開第97/40281号の教示、米国特許第7217034号明細書若しくは独国実用新案第202004016094号明細書の教示又は確かに独国実用新案第202016101698号明細書の教示に対応し得るものであり、その関連する教示は簡明化のためにここでは参照によって含まれる。
【0068】
凹状パターン15は、摺動面14の反対側の摺動要素10の外面13上に射出成形によって事前作製される。凹状パターン15は、外面13の輪郭又は包絡曲線に関してここでは一定の深さの、外面13に対する連続した圧痕を形成する。凹状パターン15の基点又は底部は、対向する摺動面14から一定の距離にある。所定の深さは、摩耗する摺動面14に対する公称摩耗限度に対応し、その時点が到来した時点で摺動要素10は交換されるべきである。所望の深さは、射出成形プロセス中に正確に確定される。摩耗限度に関しては、例えば、特許文献1の教示が参照される。凹状パターン15の断面は、例えば、一辺の長さが約0.5~1mmの長方形又は正方形であり得る。
【0069】
電気機能回路16は、凸状外面13上の凹状パターン15に導入され、ここでは凹状パターン15の底部を完全に埋め又は占有する。凹状パターン15及びしたがって機能回路16は、図1A図1Bの例では複数の蛇行又はU字形状ループで、かつ限度域から離れて摺動面14の周囲全体に対応する特に2つの末端環状部16A及び16Bを有する摺動面14の有効周囲角及び有効軸方向長さの大部分にわたって延在する。凹状パターン15又は機能回路16の選択されるトポロジーは、全ての設置位置について、摩耗に関して経験上重要な、摺動面14の小領域の最大被覆域を達成することが意図され、通常は摺動要素10の種類及びその用途に応じるものである。
【0070】
図1図3による例示実施形態では、機能回路16は、摺動要素10の有用な壁厚を減少させる累積的摩耗を動作パラメータとして検出することが意図される。この目的のため、機能回路16は、ここでは単に蛇行配置された導体ループからなり、それは、導体ループの摩耗によって誘発される離断を検出するための摩耗感度検出器17並びにこの導体ループの開放端における2つのコンタクト領域18A及び18Bとして作用する。コンタクト領域18A及び18Bは、図2A図2Bに関して以下に説明するように、交換可能接触のために作用する。これにより、機能回路16は、純受動的であり、突出する電気部品(抵抗、コンデンサ、コイル)を有さず、したがって低い製造コストで生産され得る。
【0071】
本発明によると、機能回路16は、例えば、MID技術を用いて、又は直接印刷若しくは適切なAM法、例えば、EB法を用いて、凹状パターン15内で成形部品12上に直接、適切な技術を用いて付加される。したがって、機能回路16、すなわち、ここではトレース導体17A又は検出器17並びにコンタクト領域18A及び18Bの導体ループは、1つのプロセス工程で直接かつ一体的に堆積され得る。機能回路16の導電構造体は、例えば、適切な印刷可能な銀ペースト又は適切な炭素含有量の熱可塑性プラスチックから生成され得る。検出器パターン17又はトレース導体17Aは、硬化後に、成形部品12のトライボポリマーのものよりも何倍も高い導電性を有することが意図される。必要であれば、接着促進剤が、同様に適切な印刷又はAM技術を用いて、凹状パターン15の底部に最初に堆積されてもよい。
【0072】
確実な接触のために、コンタクト領域18A及び18Bは、検出器17のトレース導体トポロジーの他のトレース導体17Aに対する約5~50μmと比較して、約250~400μmの範囲の大きな膜厚を有しているべきである。検出器17を構成するトレース導体17Aの導体幅は、摺動要素10の寸法に応じて凹状パターン15の所定の幅、例えば、約500μmから数ミリメートルまでに対応する。
【0073】
図2A図2Bは、摺動要素10の交換を簡素化するコンタクトデバイス20を示す。コンタクトデバイス20は、摺動要素10上の機能回路16の末端コンタクト領域18A及び18Bの電気的接触のための2つのスプリング付きコンタクトピン又は圧縮スプリングコンタクト22を備える(図2Bにおいて矢印で示す)。スプリング付きコンタクトピン22は、追加のプラグピン23によってプリント刷回路基板24に取り付けられ、各々それと導電的に接続される。プラグピン23は、評価回路39B(図3)の接続配線とのプラグ接続のために作用する。プリント回路基板24は蓋状ホルダ25に固定され、それは射出成形部品として生産され、固定のための2つの保持アーム26を有する。ホルダ25は、摺動要素10の軸方向位置固定のための摺動要素10(図1B及び図2B参照)における固定用スロット19に係合する固定用ボルト27をさらに備える。
【0074】
図3は、ダブルプロファイルレール上の滑り軸受実装について、例えば、図1A図1Bによる4個の構造的に同一の摺動要素10を有するリニアガイドシステムの被実装部品としてのガイドキャリッジ30を示す。任意で、3個の従来の摺動要素とともに、インジケータとして作用する図1A図1Bによる1つのみの摺動要素10を用いることも可能である。摺動要素10は、各々、ガイドキャリッジ30のキャリッジプレート37の角部に取り付けられる別個のハウジング軸受32に収容される。キャリッジプレート37は、案内される機械部品に嵌合するために作用する。少なくとも1以上の摺動要素10が、関連するコンタクトデバイス20(図2A図2B)によって電気的に接触される機能回路16(図1A図1B)を有する。コンタクトデバイス20は、対応する受容部33に配置され、それぞれのハウジング軸受32の端部側係止開口36と保持アーム26によって工具不要でロック可能である。ソケット付きの配線ダクト34が各受容部33に対するキャリッジプレート37に含まれ又は設けられ、対応する機能回路16のためのそれぞれの接続配線が配線ダクトに案内される。圧縮スプリングコンタクト22及びプラグピン23の接触は、コンタクトデバイス20の係止において行われる。
【0075】
受容部38は、ガイドキャリッジ30の底部に設けられ、その受容部内に、それぞれのコンタクトデバイス20を介する機能回路16の接続のための電子モジュール39Aが設けられる。モジュール39Aは、例えばマイクロプロセッサを有する共通評価回路39B、及び給電のためのバッテリ39Cを備える。コンタクトデバイス20によって、摺動要素10は、それらがそれらの耐用寿命の終了に達すると、特にモジュール39Aとの干渉なしに、容易に交換され得る。
【0076】
この場合、評価回路39Bは、接続された機能回路16を介して摺動要素10の少なくとも摩耗状態をモニタリングする。摺動要素10の摩滅が所定の摩耗限度に達した場合、検出器パターン17が切断され、すなわちその抵抗が増加する。評価回路39Bは、機能回路16を有して構成された回路構成が離断され、すなわち電気抵抗が急峻に増加しているかを検出し、それにより、摩耗限度に達したかを特定する。
【0077】
評価回路39Bは、例えば、加速度、温度及び湿度の値などの滑り軸受の更なる動作パラメータを追加的に検出してもよい。評価回路39Bは、例えば、適切な無線通信プロトコルを介した上位モニタリングシステムへのセンサデータ又は評価結果のデータ転送のための通信モジュール(別個には不図示)を備える。適切な通信技術に関して、簡明化のため、例えば、国際公開第2018/115528号の特に図8図9の教示が参照される。
【0078】
滑り軸受の、したがってプラスチック摺動要素の設計は、原則として重要ではない。本発明による一体化センサシステムを有する摺動要素は、重負荷、すなわち、過酷な摩耗での用途において、及び/又は予測可能若しくは状態に応じたメンテナンスが望ましい用途において特に有利である。
【0079】
図4A図4Cは、更なる例示実施形態として、ここでは滑り軸受ブッシュとして具体化されるラジアル軸受のための摺動要素40を示す。摺動要素40は、例えば、イグス社(ケルン、D-51147)のiglidur(登録商標)タイプのトライボポリマーから射出成形によって事前作製される成形部品42を主構成として備える。
【0080】
成形部品42は、図示しない構成要素、例えば、回転可能な金属軸の潤滑剤なしでのラジアル軸受実装のための、軸Aに対して対称かつその周囲で閉じられた内部円筒形摺動面44Aを構成する。後者に関して、成形部品42のトライボポリマーは、所望の軸受のペアリング又は摩擦学的なペアリングに応じて、低い摩擦係数に適するように選択される。一体型摺動要素40は、ここでは、他の好適にはより強度の高いプラスチック材料製の補強外側ジャケット43を任意の追加構成として有し、それは、事前作製された成形部品42の射出成形によるカプセル化によって成形部品42の外面44Bに設けられる。図4A図4Cでは、外側ジャケット43は、軸Aを完全に囲み、任意で(ここでは不図示の)成形部品42の軸方向端面の周囲に係合していてもよい。外側ジャケット43は、高強度プラスチック材料からなるものでもよく、例えば、100MPaより重い負荷に対して、機械的剛性又は強度増加被覆を形成し得る。外側ジャケット43は、成形部品42に接合され又は分離不可能に接続されて、一部品となり又はそれと一体となる。摺動要素40は、例えば、マルチコンポーネント法を用いて生産され得る。
【0081】
図4A図4Cにおいて、摺動要素40は、全体的に略円筒状に、かつ内側成形部品42及び外側ジャケット43と一体的に具体化される。摺動要素40は、軸受部品41(フレーム)における整合する受容部に実装構成要素として、挿入され、例えば、嵌合又は圧入される。図4A図4Cにおける軸受部品41は、一部のみを単に作図のために直方体として図示される。
【0082】
成形部品42は、凹状摺動面44Aに対向する面44Bにおいて凹状パターン45を有し、それは凸状面44Bにおける連続する圧痕として事前作製される。図1~3の原理に従って、電気機能回路46も図4A図4Cにおける凹状パターン45に導入され、その回路は、トレース導体47Aのパターンからなり、例えば、凹状パターン45の底部を完全に覆い又は埋める。機能回路46は、トレース導体47Aのパターン47が、摩耗を示すための検出器を構成し、例えば、軸Aに関する実質的に全有効周囲角及び/又は摺動面44Aの全有効軸方向長さにわたるループにおいて、経験上重要であると知られる少なくとも成形部品42の領域を検出するように延在する。トレース導体47Aは、ここでは、キャリアとして作用する成形部品42の外面に形成される。
【0083】
凹状パターン45の基点又は底部は、対向する摺動面44Aから一定の距離にあり、それは、事前作製された成形部品42の場合に射出成形によって比較的精密に確定可能な第1の公称摩耗閾値W1に対応する。摺動面44Aの摩耗が所定の摩耗閾値W1を超えて増加すると、摺動要素40は交換されるべきであるが、少なくとも第2の摩耗閾値W2(図4C)までは機能し続ける。凹状パターン45の断面は、例えば、図4Cに示すように、例えば、一辺の長さが約0.5~1mmの長方形又は正方形であり得る。
【0084】
図4A図4Cによる外側ジャケット43は、同時に、機能回路46の保護部として、及び径方向外側方向へのトレース導体パターン47の機械的当接部として、後者は、とりわけ、成形部品42から意図せずに離脱し得ないように、作用する。
【0085】
図5A図5Bは、ここでは任意で好適な被覆なしに、成形部品42又は52上のそれぞれトレース導体パターン47又は57の、負荷に応じた好適なプロファイルを示す。図5Aの摺動要素40は、図4A図4Cに対応し、軸Aに関して支配的周囲プロファイルを有するトレース導体パターン47を示す、すなわち、図5Aでは、トレース導体パターン47の方向成分が(各々ベクトル視点から)軸Aを支配的に囲む。図5Aに示すように、図4A図4Cの検出器又はトレース導体パターン47は、図1A図1Bにおけるような有線接触のために2つの任意で補強されたコンタクト領域48A及び48Bに基づく2極を構成する内向きに偏向され又は入れ子状とされた導体ループを有する。
【0086】
図5Bは、代替の、すなわち、軸Aの方向に支配的に軸方向に蛇行するが全周にわたっても延在するトレース導体パターン57のプロファイルを示す。トレース導体パターン57はまた、コンタクト領域58A及び58Bに基づく2極を構成する。図示するもの以外の幾何形状は、主負荷に応じて、例えば、略正弦波(周囲面を展開してみた場合)、単一のリング形態の周回形状などが好適かつ可能である。
【0087】
摺動要素40、50の成形部品42、52に付加されるトレース導体パターン47、57は、各々、動作中における摩耗限度W1の超過に対する検出器又はインジケータとして作用する。摺動要素40、50の摩耗が進むにつれて、トレース導体47A、57Aの少なくとも1つが摩滅によって摩耗又は損傷する、すなわち、電気抵抗が測定可能な程度まで増加する。これは、例えば、評価回路(図3、符号39B参照)によって、電圧、電流、抵抗又は導電性を測定することによって、単に図1図3におけるように検出信号のようなものであり、評価回路は、それに従って信号を切替え又は摺動要素40、50が交換されるべきことを示すメッセージを出力する。この場合、まず、機能回路46の抵抗に生じる減少は摩耗限度W1に達したことを示し、トレース導体パターン47の離断は摩耗限度W2に達したことを示し得る。
【0088】
外側ジャケット43における径方向の通路開口49A及び軸受部品41における整列通路開口49B、例えば、ボアの結果として、コンタクト領域48A、48B及び58A、58Bは、それぞれ外部からアクセス可能となる。信号分岐のためにそれぞれコンタクト領域48A、48B又は58A、58Bとの有線の切断可能な接続又は接触が、通路開口49A、49Bによって生成される。この目的のため、図2A図2Bと同様であるが2つのスプリング付きコンタクトピン22を有する適切なコンタクトデバイスが、摺動要素40、50が好ましくはコンタクトデバイスの除去なしに軸方向Aに交換可能となるとともに接触が自動的に切断又は再生成されるように通路開口49A、49Bに挿入される。コンタクト領域48A及び48Bの双方に対する共通の径方向通路開口49Aが、好ましくは、外側ジャケット43に事前作製され、例えば、摺動要素40、50又は軸受ブッシュの軸方向構造長に対して中央に設けられる。通路開口49A及び49Bは、好ましくは、同じ径を有し、ここではコンタクトデバイス(不図示)とともに軸方向の固定において作用し得る。
【0089】
トレース導体パターン47、57及びコンタクト領域48A、48B及び58A、58Bをそれぞれ有する機能回路46は、成形部品42、52に対する種々の適切なプロセスを用いてプロセス的に付加されるか、又はそれと一体化され得る。自動化プロセス、例えば、MID生成法、3D印刷、インモールドラベリングなどが好ましい。そして、部分又は少なくとも大部分を保護するカプセル化(通路開口49Aが想定される)が、例えば、射出成形による独立したカプセル化によって、又は実際には3D印刷の過程において、任意で行われてもよい。図4A図4Cにおける機能回路46は、純受動的である。抵抗、コンデンサ、コイル、ICなどの電気部品が、他の動作パラメータを検出するよう設けられてもよい。そして、MID技術を用いる生成は任意で有利であり、カプセル化も成形部品と一体化した外側ジャケットによって提供され得る。特に、例えば、評価回路39Bによる信号評価に関して、プラスチック摺動要素40、50の更なる特徴が、図1図3に対応し得る。
【0090】
したがって、摩耗表示センサシステムに対して代替的に又は追加的に、機能回路は、モニタリングされる動作パラメータ、例えば、応力、温度、設置位置又は相対位置などのための異なる種類の検出器とともに使用されてもよい。
【0091】
本発明は、意図されるように、摺動要素又はそれとともに装備された滑り軸受の状態をモニタリングすることを可能とし、したがって、例えば、想定外の故障を防止し、摺動要素の耐用寿命を最適に利用すること及び/又はメンテナンスコストを低減することに役立つ。
【符号の説明】
【0092】
図1A図1B
10 摺動要素
12 成形部品
13 外面
14 摺動面
15 凹状パターン
16 機能回路
16A、16B 環状部
17 検出器(トレース導体パターン)
17A トレース導体
18A、18B コンタクト領域
19 固定用スロット
図2A図2B
10 摺動要素
12 成形部品
13 外面
14 摺動面
16 機能回路
20 コンタクトデバイス
22 スプリング付きコンタクトピン/圧縮スプリングコンタクト
23 プラグピン
24 プリント回路基板
25 ホルダ
26 保持アーム
27 固定用ボルト
図3
10 摺動要素
16 機能回路
20 コンタクトデバイス
30 ガイドキャリッジ
32 (摺動要素のための)ハウジング軸受
33 (コンタクトデバイスのための)受容部
34 配線ダクト
36 係止開口
37 キャリッジプレート
38 (モジュール39Aのための)受容部
39A モジュール
39B 評価回路
39C バッテリ
図4A図4C図5A
40 摺動要素
41 軸受部品
42 成形部品
43 外側ジャケット
44A 摺動面
44B 外面
45 凹状パターン
46 機能回路
47 トレース導体パターン(ここでは検出器)
47A トレース導体
48A、48B コンタクト領域
49A、49B 通路開口
A 軸受軸
W1、W2 摩耗限度
図5B
50 摺動要素
52 成形部品
57 トレース導体パターン(ここでは検出器)
57A トレース導体
58A、58B コンタクト領域
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B