IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ENEOSマテリアルの特許一覧 ▶ JX日鉱日石エネルギー株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-1,3-ブタジエンの製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-11
(45)【発行日】2024-09-20
(54)【発明の名称】1,3-ブタジエンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 5/48 20060101AFI20240912BHJP
   C07C 11/167 20060101ALI20240912BHJP
   C07C 7/11 20060101ALI20240912BHJP
   B01J 23/887 20060101ALI20240912BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
C07C5/48
C07C11/167
C07C7/11
B01J23/887 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021543714
(86)(22)【出願日】2020-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2020032165
(87)【国際公開番号】W WO2021044918
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2019159591
(32)【優先日】2019-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322004083
【氏名又は名称】株式会社ENEOSマテリアル
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】王 俊杰
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】森 隆史
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/140265(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/087668(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/168051(WO,A1)
【文献】特表2017-524011(JP,A)
【文献】特表2016-500372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01J
C07B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物触媒の存在下において、n-ブテンを含む原料ガスと酸素とを酸化脱水素反応することにより、1,3-ブタジエンを含む生成ガスを得る工程(A)、
前記工程(A)において得られた生成ガスを冷却する工程(B)、および
前記工程(B)において冷却された生成ガスを、吸収溶媒への選択的吸収により、分子状酸素および不活性ガス類と1,3-ブタジエンを含むその他のガスとに分離する工程(C)を有し、
前記工程(A)において、内部にモリブデンおよびビスマスを含有する複合酸化物触媒を有する固定床反応器に、少なくとも前記原料ガスおよび分子状酸素含有ガスを供給し、
前記固定床反応器に供給されるガス中の分子状酸素とn-ブテンとのモル比(分子状酸素/n-ブテン)が1.0~2.0であり、
前記固定床反応器に供給されるガス中の水蒸気とn-ブテンとのモル比(水/n-ブテン)が1.2以下であり、
前記工程(A)において、前記固定床反応器に供給されるガス中の水蒸気とn-ブテンとのモル比が0.6以下であることを特徴とする1,3-ブタジエンの製造方法。
【請求項2】
前記工程(A)で得られる生成ガス中において、カルボニル化合物の収率が1.34モル%以下であり、複素環式化合物の収率が3.01モル%以下であることを特徴とする請求項1に記載の1,3-ブタジエンの製造方法。
【請求項3】
前記工程(B)において、生成ガスは、冷却媒体に接触することによって冷却され、当該生成ガスに接触した後における当該冷却媒体中の有機酸類の収率が2モル%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の1,3-ブタジエンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,3-ブタジエンの製造方法に関し、更に詳しくは、酸化脱水素反応を利用する1,3-ブタジエンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、1,3-ブタジエン(以下、単に「ブタジエン」ともいう。)を製造する方法としては、ナフサのクラッキングにより得られた炭素数4の留分(以下、「C4留分」ともいう。)からブタジエン以外の成分を蒸留によって分離する方法が採用されている。
ブタジエンは合成ゴムなどの原料として需要が増加しているが、エチレンの製法がナフサのクラッキングからエタンの熱分解による方法に移行している等の事情により、C4留分の供給量が減少しており、C4留分を原料としないブタジエンの製造が求められている。
【0003】
そこで、ブタジエンの製造方法として、n-ブテンを酸化脱水素させて得られる生成ガスからブタジエンを分離して得る方法が注目されている(例えば特許文献1乃至特許文献4参照。)。この製造方法は、n-ブテンと、分子状酸素を含有する分子状酸素含有ガス(具体的には、例えば空気)とを含む原料ガスを、酸化脱水素反応させる酸化脱水素反応工程と、この工程によって得られた生成ガスを冷却する冷却工程と、この工程によって冷却された生成ガスからブタジエンを分離する生成ガス分離工程とを有する。
このようなブタジエンの製造方法においては、一般に、原料ガスの濃度が爆発範囲とならないように、不活性ガスおよび水蒸気によって、酸化脱水素反応工程に供されるガスの組成が調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-135470号公報
【文献】特表2016-500372号公報
【文献】特表2017-502988号公報
【文献】特表2016-524011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のブタジエンの製造方法においては、アセトアルデヒド、メチルビニルケトン等のカルボニル化合物や、カルボン酸等の有機酸類などの反応副生成物が発生する。このような反応副生成物の発生は、得られるブタジエンの収率が低下する原因となるだけでなく、例えば生成ガス分離工程後に脱溶する過程において、用いられる脱溶塔(リボイラー)に反応副生成物が付着することによって、精製効率が低下したり、冷却工程において、反応副生成物を含む冷却媒体の排水処理の負荷が増大したりする原因となる。このため、反応副生成物の発生が抑制されたブタジエンの製造方法が望まれていた。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、カルボニル化合物や有機酸類などの反応副生成物の発生を抑制することができる1,3-ブタジエンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1,3-ブタジエンの製造方法は、金属酸化物触媒の存在下において、n-ブテンを含む原料ガスと酸素とを酸化脱水素反応することにより、1, 3-ブタジエンを含む生成ガスを得る工程(A)、
前記工程(A)において得られた生成ガスを冷却する工程(B)、および
前記工程(B)において冷却された生成ガスを、吸収溶媒への選択的吸収により、分子状酸素および不活性ガス類と1,3-ブタジエンを含むその他のガスとに分離する工程(C)を有し、
前記工程(A)において、内部にモリブデンおよびビスマスを含有する複合酸化物触媒を有する固定床反応器に、少なくとも前記原料ガスおよび分子状酸素含有ガスを供給し、
前記固定床反応器に供給されるガス中の分子状酸素とn-ブテンとのモル比(分子状酸素/n-ブテン)が1.0~2.0であり、
前記固定床反応器に供給されるガス中の水蒸気とn-ブテンとのモル比(水/n-ブテン)が1.2以下であり、
前記工程(A)において、前記固定床反応器に供給されるガス中の水蒸気とn-ブテンとのモル比が0.6以下であることを特徴とする。
【0008】
本発明の1,3-ブタジエンの製造方法においては、前記工程(A)で得られる生成ガス中において、カルボニル化合物の収率が1.34モル%以下であり、複素環式化合物の収率が3.01モル%以下であることが好ましい。
【0009】
また、本発明の1,3-ブタジエンの製造方法においては、前記工程(B)において、生成ガスは、冷却媒体に接触することによって冷却され、当該生成ガスに接触した後における当該冷却媒体中の有機酸類の収率が2モル%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の1,3-ブタジエンの製造方法によれば、固定床反応器に供給されるガス中の水蒸気とn-ブテンとのモル比が1.2以下であるため、カルボニル化合物や有機酸類などの反応副生成物の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のブタジエンの製造方法を実施するための具体的な手法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
本発明のブタジエン(1,3-ブタジエン)の製造方法は、下記の(1)~(3)に示す工程を有するものであり、当該下記の(1)~(3)の工程を経ることにより、n-ブテンを含む原料ガスからブタジエンを製造するものである。
【0015】
(1)金属酸化物触媒の存在下において、n-ブテンを含む原料ガスと酸素とを酸化脱水素反応することにより、1,3-ブタジエンを含む生成ガスを得る工程(A)
(2)工程(A)において得られた生成ガスを冷却する工程(B)
(3)工程(B)において冷却された生成ガスを、吸収溶媒への選択的吸収により、分子状酸素および不活性ガス類と1,3-ブタジエンを含むその他のガスとに分離する工程(C)
【0016】
本発明の1,3-ブタジエンの製造方法においては、工程(A)において、内部にモリブデンおよびビスマスを含有する複合酸化物触媒が担持された固定床反応器に、少なくとも原料ガスおよび分子状酸素含有ガスが供給される。そして、固定床反応器に供給されるガス中の分子状酸素とn-ブテンとのモル比(分子状酸素/n-ブテン)が1.0~2.0であり、固定床反応器に供給されるガス中の水蒸気とn-ブテンとのモル比が1.2以下である。
【0017】
図1は、本発明のブタジエンの製造方法を実施するための具体的な手法の一例を示すフロー図である。
図1に示す例のブタジエンの製造方法では、工程(C)において、1,3-ブタジエンを含むその他のガスを吸収溶媒に選択的に吸収させることによって、工程(B)において冷却された生成ガスが、分子状酸素および不活性ガス類と1,3-ブタジエンを含むその他のガスとに分離される。
また、図1に示す例のブタジエンの製造方法では、下記(4)の工程を有する。
(4)工程(C)において得られた、1,3-ブタジエンを含むその他のガスを吸収した吸収溶媒を分離することにより、1,3-ブタジエンを含む1,3-ブタジエン液と吸収溶媒とを得る工程(D)
【0018】
以下、図1を用いて、本発明のブタジエンの製造方法の具体的な一例を詳細に説明する。
図1に示す例のブタジエンの製造方法は、上記の(1)~(4)の工程を有すると共に、工程(C)において得られた、分子状酸素および不活性ガス類を、工程(A)に還流する、すなわち還流ガスとして送給する循環工程とを有するものである。
【0019】
<工程(A)>
工程(A)においては、金属酸化物触媒の存在下において、原料ガスと分子状酸素含有ガスとを酸化脱水素反応させることにより、1,3-ブタジエンを含む生成ガスが得られる。この工程(A)において、原料ガスと分子状酸素含有ガスとの酸化脱水素反応は、図1に示されているように、固定床反応器1によって行われる。この固定床反応器1は、上部にガス導入口、下部にガス導出口が設けられ、内部に金属酸化物触媒が充填されることによって触媒層(図示省略)が形成された塔状のものである。この固定床反応器1において、ガス導入口には配管120を介して配管100と配管112とが接続されており、また、ガス導出口には、配管101が接続されている。
【0020】
工程(A)について具体的に説明すると、原料ガスおよび分子状酸素含有ガス、並びに、必要に応じて用いられる、不活性ガス類、または不活性ガス類および水蒸気(以下、これらを総称して「濃度調整用ガス」ともいう。)が、配管120に連通する配管100を介して、固定床反応器1と配管100との間に配設された予熱器(図示省略)によって200℃以上400℃以下程度に加熱された後、固定床反応器1に供給される。また、固定床反応器1には、配管100を介して供給される、原料ガス、分子状酸素含有ガス、濃度調整用ガス(以下、これらをまとめて「新規供給ガス」ともいう。)と共に、循環工程からの還流ガスが、配管120に連通する配管112を介して、前記予熱器によって加熱された後、供給される。すなわち、固定床反応器1には、新規供給ガスと還流ガスとの混合ガスが、予熱器によって加熱された後、供給される。ここに、新規供給ガスおよび還流ガスは、それぞれ別個の配管を介して固定床反応器1に直接供給されてもよいが、図1に示されているように、共通の配管120を介して、混合された状態で固定床反応器1に供給されることが好ましい。共通の配管120を設けることにより、種々の成分を含む混合ガスが、予め均一に混合された状態で固定床反応器1に供給されるため、当該固定床反応器1内において不均一な混合ガスが部分的に爆鳴気を形成する事態を防止することができる。
そして、混合ガスが供給された固定床反応器1においては、原料ガスと分子状酸素含有ガスとの酸化脱水素反応によってブタジエン(1,3-ブタジエン)が生成されて、そのブタジエンを含む生成ガスが得られる。得られた生成ガスは、固定床反応器1のガス導出口から配管101に流出する。
【0021】
(原料ガス)
原料ガスとしては、炭素数4のモノオレフィンであるn-ブテンを気化器(図示省略)でガス化したガス状物が用いられる。この原料ガスは、可燃性ガスである。本発明において、「n-ブテン」とは、直鎖状ブテンを意味し、具体的には、1-ブテン、シス-2-ブテンおよびトランス-2-ブテンがn-ブテンに含まれる。
また、原料ガスには、本発明の効果を阻害しない範囲で、任意の不純物が含まれていてもよい。この不純物の具体例としては、i-ブテン等の分岐型モノオレフィン、プロパン、n-ブタンおよびi-ブタン等の飽和炭化水素などが挙げられる。また、原料ガスには、不純物として、製造目的物である1,3-ブタジエンが含まれていてもよい。原料ガスにおける不純物量は、通常、原料ガス100体積%において、60体積%以下であり、好ましくは40体積%以下、より好ましくは25体積%以下、特に好ましくは5体積%以下である。不純物量が過大である場合には、原料ガスにおける直鎖状ブテンの濃度が低下することに起因して反応速度が遅くなったり、副生成物量が増加したりする傾向にある。
【0022】
原料ガスとしては、例えば、ナフサ分解で副生するC4留分(炭素数4の留分)からブタジエンおよびi-ブテンを分離して得られる直鎖状ブテンを主成分とする留分(ラフィネート2)や、n-ブタンの脱水素反応または酸化脱水素反応により生成するブテン留分を使用することができる。また、エチレンの2量化により得られる、高純度の、1-ブテン、シス-2-ブテンおよびトランス-2-ブテン、並びに、これらの混合物を含有するガスを使用することもできる。さらには、石油精製プラントなどで原油を蒸留した際に得られる重油留分を、流動層状態で粉末状の固体触媒を使って分解し、低沸点の炭化水素に変換する流動接触分解(Fluid Catalytic Cracking)から得られる炭素数4の炭化水素類を多く含むガス(以下、「FCC-C4」と略記することもある。)をそのまま原料ガスとすることもでき、また、FCC-C4からリンなどの不純物を除去したものを原料ガスとして使用することもできる。
【0023】
(分子状酸素含有ガス)
分子状酸素含有ガスは、通常、分子状酸素(O2)を10体積%以上含むガスである。この分子状酸素含有ガスにおいて、分子状酸素の濃度は、15体積%以上であることが好ましく、より好ましくは20体積%以上である。
また、分子状酸素含有ガスは、分子状酸素と共に、分子状窒素(N2)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、ヘリウム(He)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)および水(水蒸気)などの任意のガスを含むものであってもよい。分子状酸素含有ガスにおける任意のガスの量は、任意のガスが分子状窒素である場合には、通常、90体積%以下であり、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下であり、また、任意のガスが分子状窒素以外のガスである場合には、通常、10体積%以下であり、好ましくは1体積%以下である。任意のガスの量が過大である場合には、反応系(固定床反応器1の内部)において、必要とされる量の分子状酸素を原料ガスと共存させることができなくなるおそれがある。
工程(A)において、分子状酸素含有ガスの好ましい具体例としては、空気が挙げられる。
【0024】
(不活性ガス類)
濃度調整用ガスを構成する不活性ガス類は、原料ガスおよび分子状酸素含有ガスと共に固定床反応器1に供給されることが好ましい。
固定床反応器1に不活性ガス類を供給することにより、当該固定床反応器1内において、混合ガスが爆鳴気を形成することがないように、原料ガスおよび分子状酸素の濃度(相対濃度)を調整することができる。
本発明のブタジエンの製造方法に供される不活性ガス類としては、分子状窒素(N2)、アルゴン(Ar)および二酸化炭素(CO2)などが挙げられる。これらは、単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、経済的観点から、分子状窒素が好ましい。
【0025】
(水蒸気)
濃度調整用ガスとして水蒸気を用いる場合において、当該水蒸気は、原料ガスおよび分子状酸素含有ガスと共に固定床反応器1に供給されることが好ましい。
固定反応器1に水蒸気を供給することにより、前述の不活性ガス類と同様に、当該固定床反応器1内において、混合ガスが爆鳴気を形成することがないように、原料ガスおよび分子状酸素の濃度(相対濃度)を調整することができる。
【0026】
(混合ガス)
原料ガス、分子状酸素含有ガスおよび濃度調整用ガスの混合ガス、すなわち固定床反応器1に供給されるガス全体は、可燃性の原料ガスと分子状酸素とを含むものであることから、原料ガスの濃度が爆発範囲とならないように、その組成が調整される。
具体的には、混合ガスを構成する各々のガスを固定床反応器1に供給する配管(具体的には、配管100に連通する配管(図示省略)および配管112)に設置された流量計(図示省略)にて流量を監視しながら、固定床反応器1のガス導入口における混合ガスの組成を制御する。例えば、配管112を介して固定床反応器1に供給される還流ガスの分子状酸素濃度に応じて、配管100を介して固定床反応器1に供給する新規供給ガスの組成を制御する。
なお、本明細書中において、「爆発範囲」とは、混合ガスが何らかの着火源の存在下で着火するような組成を有する範囲を示す。ここに、可燃性ガスの濃度が或る値より低い場合には着火源が存在しても着火しないことが知られており、この濃度を爆発下限界という。爆発下限界は、爆発範囲の下限値である。また、可燃性のガスの濃度が或る値より高い場合にはやはり着火源が存在しても着火しないことが知られており、この濃度を爆発上限界という。爆発上限界は、爆発範囲の上限値である。そして、これらの値は分子状酸素の濃度に依存しており、一般に、分子状酸素の濃度が低いほど両者の値が近づき、分子状酸素の濃度が或る値になったとき両者が一致する。このときの分子状酸素の濃度を限界酸素濃度という。而して、混合ガスにおいては、分子状酸素の濃度が限界酸素濃度よりも低ければ原料ガスの濃度によらず混合ガスは着火しない。
【0027】
具体的には、混合ガスにおいて、n-ブテンの濃度は、ブタジエンの生産性および金属酸化物触媒の負担抑制の観点から、混合ガス100体積%において、2体積%以上30体積%以下であることが好ましく、より好ましくは3体積%以上25体積%以下であり、特に好ましくは5体積%以上20体積%以下である。n-ブテンの濃度が過小である場合には、ブタジエンの生産性が低下するおそれがある。一方、n-ブテンの濃度が過大である場合には、金属酸化物触媒の負担が大きくなるおそれがある。
【0028】
また、混合ガスにおいて、分子状酸素とn-ブテンとのモル比は、1.0~2.0とされ、好ましくは1.2~1.5である。分子状酸素とn-ブテンとのモル比が上記の範囲を逸脱する場合には、反応温度を調整することによって固定床反応器1のガス導出口における分子状酸素の濃度を調整し難くなる傾向がある。そして、反応温度によって固定床反応器1のガス導出口における分子状酸素の濃度を制御することが困難になると、固定床反応器1の内部における目的生成物の分解および副反応の発生を抑止することができなくなるおそれがある。
【0029】
混合ガスにおいて、原料ガスに対する分子状窒素および水蒸気の合計の割合は、原料ガス100モルに対して、400モル以上2700モル以下であることが好ましく、より好ましくは500モル以上2000モル以下である。分子状窒素および水蒸気の合計の割合が過大である場合には、その値が大きくなるほど、原料ガスの濃度が小さくなることからブタジエンの生産効率が低下する傾向がある。一方、分子状窒素および水蒸気の合計の割合が過小である場合には、その値が小さくなるほど、原料ガスの濃度が爆発範囲となったり、後述する、反応系の除熱が困難となったりする傾向がある。
【0030】
混合ガス、すなわち固定床反応器1に供給されるガス中の水蒸気とn-ブテンとのモル比(水/n-ブテン)が1.2以下とされ、好ましくは0.6以下とされる。混合ガス中の水蒸気の濃度が過大である場合には、副生成物の発生を十分に抑制することが困難となる。
【0031】
(金属酸化物触媒)
金属酸化物触媒としては、モリブデンおよびビスマスを含有する複合酸化物触媒が用いられる。このような複合酸化物触媒としては、例えば、モリブデン(Mo)、ビスマス(Bi)および鉄(Fe)を少なくとも含有するものを用いることができ、その具体例としては、下記の組成式(1)で表される複合金属酸化物を含有するものが挙げられる。
【0032】
組成式(1):
MoaBibFecdefg
【0033】
上記の組成式(1)中、Xは、NiおよびCoよりなる群から選ばれる少なくとも一種である。Yは、Li、Na、K、Rb、CsおよびTlよりなる群から選ばれる少なくとも一種である。Zは、Mg、Ca、Ce、Zn、Cr、Sb、As、B、PおよびWよりなる群から選ばれる少なくとも一種である。a、b、c、d、e、fおよびgは、それぞれ独立して、各元素の原子比率を示し、aが12のとき、bは0.1~8であり、cは0.1~20であり、dは0~20であり、eは0~4であり、fは0~2であり、gは上記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素元素の原子数である。
【0034】
上記の組成式(1)で表される複合金属酸化物を含有する複合酸化物触媒は、酸化脱水素反応を使用してブタジエンを製造する方法において、高活性かつ高選択性であり、さらに寿命安定性に優れている。
【0035】
複合酸化物触媒の調製法としては、特に限定されず、調製すべき複合酸化物触媒を構成する複合金属酸化物に係る各元素の原料物質を用いた、蒸発乾固法、スプレードライ法、酸化物混合法などの公知の方法を採用することができる。
上記各元素の原料物質としては、特に限定されず、例えば、成分元素の酸化物、硝酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩、水酸化物、カルボン酸塩、カルボン酸アンモニウム塩、ハロゲン化アンモニウム塩、水素酸、アルコキシドなどが挙げられる。
【0036】
また、複合酸化物触媒は、不活性な担体に担持させて使用してもよい。担体種としてはシリカ、アルミナ、シリコンカーバイドなどが挙げられる。
【0037】
(酸素脱水素反応)
工程(A)において、酸化脱水素反応を開始させるときには、先ずは固定床反応器1に対する、分子状酸素含有ガス、不活性ガス類および水蒸気の供給を開始し、それらの供給量を調整することによって、固定床反応器1のガス導入口における分子状酸素の濃度が限界酸素濃度以下となるように調整し、次いで、原料ガスの供給を開始し、固定床反応器1のガス導入口における原料ガスの濃度が爆発上限界を超えるように、原料ガスの供給量と分子状酸素含有ガスの供給量とを増加していくことが好ましい。
また、原料ガスおよび分子状酸素含有ガスの供給量を増やしていくときには、水蒸気の供給量を減らすことにより、混合ガスの供給量を一定となるようにしてもよい。このようにすることにより、配管や固定床反応器1におけるガス滞留時間が一定に保たれ、固定床反応器1内の圧力の変動を抑えることができる。
【0038】
固定床反応器1内の圧力(具体的には、固定床反応器1のガス導入口における圧力)、すなわち工程(A)における圧力は、0.1MPaG以上0.4MPaG以下であることが好ましく、より好ましくは0.15MPaG以上0.35MPaG以下であり、さらに好ましくは0.2MPaG以上0.3MPaG以下である。
工程(A)における圧力を上記範囲とすることにより、酸化脱水素反応における反応効率が向上する。
工程(A)における圧力が過小である場合には、酸化脱水素反応における反応効率が低下する傾向にある。一方、工程(A)における圧力が過大である場合には、酸化脱水素反応における収率が低下する傾向にある。
【0039】
また、酸化脱水素反応において、下記の数式(1)により求められる気体時空間速度(GHSV)は、500h-1以上5000h-1以下であることが好ましく、より好ましくは800h-1以上3000h-1以下であり、さらに好ましくは1000h-1以上2500h-1以下である。
GHSVを上記範囲とすることにより、酸化脱水素反応における反応効率をより向上させることができる。
【0040】
数式(1):
GHSV[h-1]=大気圧換算ガス流量[Nm3 /h]÷触媒層体積[m3
【0041】
上記の数式(1)中、「触媒層体積」とは、空隙を含む触媒層全体の体積(見かけ体積)を示す。
【0042】
また、酸化脱水素反応においては、当該酸化脱水素反応が発熱反応であることから、反応系の温度が上昇し、また、炭素数3~4の不飽和カルボニル化合物などの反応副生成物が生成し得る。生成ガスにおいて、炭素数3~4の不飽和カルボニル化合物の濃度が高くなると、種々の弊害が生じる。具体的には、上記不飽和カルボニル化合物が、後述する工程(C)において循環使用する吸収溶媒などに溶解することから、吸収溶媒などにおいて不純物が蓄積し、各部材において付着物が析出したり、金属酸化物触媒におけるコーキング(固体炭素の析出)が生じたりする傾向にある。
【0043】
而して、酸化脱水素反応において、上記不飽和カルボニル化合物の濃度を一定の範囲内とする手法としては、酸化脱水素反応の反応温度を調整する方法が挙げられる。また、反応温度を調整することにより、固定床反応器1のガス導出口における分子状酸素の濃度を、一定範囲内とすることもできる。
具体的に、反応温度は、300℃以上400℃以下であることが好ましく、より好ましくは320℃以上380℃未満である。
反応温度を上記範囲とすることにより、金属酸化物触媒におけるコーキング(固体炭素の析出)を抑制することができると共に、生成ガスにおける、上記不飽和カルボニル化合物の濃度を、一定範囲内とすることが可能となる。また、固定床反応器1のガス導出口における分子状酸素の濃度を、一定範囲内とすることも可能となる。
一方、反応温度が過小である場合には、n-ブテンの転化率が低下するおそれがある。また、反応温度が過大である場合には、上記不飽和カルボニル化合物の濃度が高くなり、吸収溶媒などにおいて不純物が蓄積したり、金属酸化物触媒におけるコーキングが生じたりする傾向がある。
【0044】
ここに、反応温度を調整する方法の好ましい具体例としては、例えば熱媒体(具体的には、ジベンジルトルエン、亜硝酸塩など)による除熱を行うことにより、固定床反応器1を適宜冷却して、触媒層の温度を一定に制御する手法が挙げられる。
【0045】
(生成ガス)
生成ガスには、原料ガスと分子状酸素含有ガスとの酸化脱水素反応の目的生成物である1,3-ブタジエンと共に、反応副生成物、未反応の原料ガス、未反応の分子状酸素、および濃度調整用ガスなどが含まれている。反応副生成物としては、カルボニル化合物および複素環式化合物が挙げられる。ここに、カルボニル化合物には、ケトン類、アルデヒド類、有機酸類が含まれる。
ケトン類としては、メチルビニルケトン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、アントラキノンおよびフルオレノンが挙げられる。
アルデヒド類としては、アセトアルデヒド、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド、ベンズアルデヒドなどが挙げられる。
有機酸類としては、マレイン酸、フマル酸、アクリル酸、フタル酸、安息香酸、クロトン酸、テトラヒドロフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、メタクリル酸、フェノールなどが挙げられる。
また、複素環式化合物としては、フラン、cis-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物などが挙げられる。
【0046】
工程(A)で得られる生成ガス中において、カルボニル化合物の収率は1.34モル%以下であることが好ましく、より好ましくは1.14モル%以下である。
また、工程(A)で得られる生成ガス中において、複素環式化合物の収率は3.01モル%以下であることが好ましく、より好ましくは2.98モル%以下である。
工程(A)で得られる生成ガス、すなわち急冷塔2から流出された生成ガスにおける各成分の収率が上記範囲であることにより、次工程以降におけるブタジエン精製の効率を向上させ、かつ、精製の際に生じるブタジエンの副反応を抑制することができ、これにより、ブタジエンを製造する際のエネルギー消費量をより低減することができる。
【0047】
<工程(B)>
工程(B)においては、工程(A)において得られた生成ガスを冷却する。この工程(B)において、工程(A)からの生成ガスの冷却は、通常、図1に示されているように、急冷塔2および冷却用熱交換器3によって行われる。
具体的に説明すると、工程(A)からの生成ガス、すなわち固定床反応器1から流出された生成ガスは、配管101を介して急冷塔2に送給され、当該急冷塔2において冷却された後、配管104を介して冷却用熱交換器3に送給されて、当該冷却用熱交換器3においてさらに冷却される。このようにして急冷塔2および冷却用熱交換器3によって冷却されることによって工程(B)を経た生成ガス(以下、「冷却生成ガス」ともいう。)は、冷却用熱交換器3から配管105に流出する。
この工程(B)を経ることにより、工程(A)からの生成ガスが精製される。具体的には、工程(A)からの生成ガスに含まれている反応副生成物の一部が除去される。
【0048】
(急冷塔)
急冷塔2は、工程(A)からの生成ガスに冷却媒体を向流接触することによって、当該生成ガスを、30℃以上90℃以下程度の温度に冷却する構成のものであり、下部には工程(A)からの生成ガスを導入するガス導入口が設けられ、上部には冷却媒体を導入する媒体入口が設けられている。ガス導入口には、一端が固定床反応器1のガス導出口に接続された配管101が接続されており、また媒体導入口には配管102が接続されている。また、急冷塔2には、塔頂に、冷却媒体によって冷却された工程(A)からの生成ガスを導出するガス導出口が設けられており、また、塔底には、工程(A)からの生成ガスに接触(向流接触)した冷却媒体を導出する媒体導出口が設けられている。ガス導出口には配管104が接続され、媒体導出口には配管103が接続されている。
この図の例において、急冷塔2から流出された、工程(A)からの生成ガスに接触(向流接触)した冷却媒体は、配管103を介して回収され、適宜に処理されることによって反応副生成物(具体的には、後述する有機酸類)が除去されて、再利用される。
【0049】
急冷塔2において、冷却媒体としては、例えば、水、アルカリ水溶液が用いられる。
冷却媒体の温度(媒体導入口における温度)は、冷却温度に応じて適宜に定められるが、10℃以上90℃以下であることが好ましく、より好ましくは20℃以上70℃以下であり、特に好ましくは20℃以上40℃以下である。
【0050】
また、動作中の急冷塔2において、当該急冷塔2の内部の温度は、10℃以上100℃以下であることが好ましく、より好ましくは20℃以上90℃以下である。
【0051】
また、動作中の急冷塔2の圧力(具体的には、急冷塔2のガス導出口の圧力)、すなわち工程(B)の圧力は、工程(A)の圧力と同等または工程(A)の圧力未満であることが好ましい。
具体的には、工程(B)の圧力の、工程(A)の圧力との差、すなわち工程(A)の圧力から工程(B)の圧力を減じた値は、0MPaG以上0. 05MPaG以下であることが好ましく、より好ましくは0. 01MPaG以上0. 04MPaG以下である。
工程(A)と工程(B)との圧力差を上記範囲とすることにより、急冷塔2において、工程(A)からの生成ガス中の反応副生成物の、凝縮および冷却媒体への溶解を促進することができ、その結果、急冷塔2から流出する生成ガスにおける反応副生成物の濃度をより低減することができる。
【0052】
また、急冷塔2から流出された、工程(A)からの生成ガスに接触した冷却媒体には、当該急冷塔2において凝縮したり当該冷却媒体に溶解したりした、工程(A)からの生成ガスにおける反応副生成物である有機酸類などが含まれている。
生成ガスに接触した後における冷却媒体、すなわち急冷塔2から流出された冷却媒体において、有機酸類の収率は、2%以下であることが好ましい。有機酸類の収率が過大である場合には、冷却媒体の排水処理の負荷が増大するおそれがある。
【0053】
(冷却用熱交換器)
冷却用熱交換器3としては、急冷塔2から流出された生成ガスを、室温(10℃以上30℃以下)に冷却することのできるものが適宜用いられる。
この図の例において、冷却用熱交換器3には、ガス導入口に、一端が急冷塔2のガス導出口に接続された配管104が接続され、ガス導出口には、配管105が接続されている。
【0054】
また、動作中の冷却用熱交換器3の圧力(具体的には、冷却用熱交換器3のガス導出口の圧力)は、動作中の急冷塔2の圧力(急冷塔2のガス導出口の圧力)と同等であることが好ましい。
【0055】
冷却用熱交換器3から流出された冷却生成ガスにおいて、分子状窒素の濃度は、60体積%以上94体積%以下であることが好ましく、より好ましくは70体積%以上85体積%以下である。また、ブタジエンの濃度は、2体積%以上15体積%以下であることが好ましく、より好ましくは3体積%以上10体積%以下である。また、水(水蒸気)の濃度は、1体積%以上30体積%以下であることが好ましく、より好ましくは1体積%以上3体積%以下である。ケトン・アルデヒド類の濃度は、0体積%以上0.3体積%以下であることが好ましく、より好ましくは0.05体積%以上0.25体積%以下である。
【0056】
<工程(C)>
工程(C)においては、工程(B)によって冷却された生成ガスを、吸収溶媒への選択的吸収により、分子状酸素および不活性ガス類と1,3-ブタジエンを含むその他のガスとに分離(粗分離)する。ここに、「1,3-ブタジエンを含むその他のガス」とは、少なくとも、ブタジエンとn-ブテン(未反応のn-ブテン)とを含むガスを示し、具体的には、ブタジエンおよびn-ブテンと共に、反応副生成物(具体的には、ケトン・アルデヒド類)を含み得るものである。
この工程(C)において、冷却生成ガスの分離は、図1に示されているように、吸収塔4によって行われる。ここに、吸収塔4は、下部に冷却生成ガスを導入するガス導入口が設けられ、上部に吸収溶媒を導入する媒体導入口が設けられていると共に、塔底には、ガス(具体的には、1,3-ブタジエンを含むその他のガス)を吸収した吸収溶媒(以下、「ガス吸収液」ともいう。)を導出する液導出口が設けられ、塔頂には、吸収溶媒に吸収されなかったガス(具体的には、分子状酸素および不活性ガス類)を導出するガス導出口が設けられたものである。ガス導入口には一端が冷却用熱交換器3のガス導出口に接続された配管105が接続され、媒体導入口には配管106が接続されており、また液導出口には配管113が接続され、ガス導出口には配管107が接続されている。
工程(C)について具体的に説明すると、工程(B)からの冷却生成ガス、すなわち冷却用熱交換器3から流出された冷却生成ガスは、配管105を介して吸収塔4に送給され、それと同期して当該吸収塔4には配管106を介して吸収溶媒を供給する。このようにして、冷却生成ガスに吸収溶媒を向流接触し、冷却生成ガス中の1,3-ブタジエンを含むその他のガスを吸収溶媒に選択的に吸収させることにより、1,3-ブタジエンを含むその他のガスと分子状酸素および不活性ガス類とを粗分離する。そして、1,3-ブタジエンを含むその他のガスを吸収した吸収溶媒(ガス吸収液)は、配管113に流出し、一方、吸収溶媒に吸収されなかった、分子状酸素および不活性ガス類は、配管107に流出する。
【0057】
動作中の吸収塔4において、当該吸収塔4の内部の温度は、特に限定はされないが、吸収塔4の内部の温度が高くなるに従って分子状酸素および不活性ガス類が吸収溶媒に吸収されにくくなり、その一方、吸収塔4の内部の温度が低くなるに従ってブタジエン等の炭化水素(1,3-ブタジエンを含むその他のガス)の吸収溶媒への吸収効率が高くなることから、ブタジエンの生産性を考慮して、0℃以上60℃以下であることが好ましく、より好ましくは10℃以上50℃以下である。
【0058】
また、動作中の吸収塔4の圧力(具体的には、吸収塔4のガス導出口の圧力)、すなわち工程(C)の圧力は、工程(B)の圧力と同等または工程(B)の圧力未満であることが好ましい。
具体的には、工程(C)の圧力の、工程(B)の圧力との差、すなわち工程(B)の圧力から工程(C)の圧力を減じた値は、0MPaG以上0. 05MPaG以下であることが好ましく、より好ましくは0. 01MPaG以上0. 04MPaG以下である。
工程(B)と工程(C)との圧力差を上記範囲とすることにより、吸収塔4における吸収溶媒へのブタジエン(1,3-ブタジエンを含むその他のガス)の吸収を促進することができ、その結果、吸収溶媒の使用量を低減することができ、エネルギー消費を低減させることができる。
【0059】
(吸収溶媒)
吸収溶媒としては、1,3-ブタジエンを含むその他のガスを選択的に吸収することのできるものが用いられる。
具体的に、吸収溶媒としては、例えば、有機溶媒を主成分とするものが挙げられる。ここに「有機溶媒を主成分とする」とは、吸収溶媒における有機溶媒の含有割合が50質量%以上であることを示す。
吸収溶媒を構成する有機溶媒としては、例えばトルエン、キシレンおよびベンゼン等の芳香族化合物、ジメチルホルムアミドおよびN-メチル-2-ピロリドン等のアミド化合物、ジメチルスルホキシドおよびスルホラン等の硫黄化合物、アセトニトリルおよびブチロニトリル等のニトリル化合物、シクロヘキサノンおよびアセトフェノン等のケトン化合物などが挙げられる。
【0060】
吸収溶媒の使用量(供給量)は、特に限定されないが、冷却生成ガスにおけるブタジエンとn-ブテンとの合計の流量(質量流量)に対して、10質量倍以上100質量倍以下であることが好ましく、より好ましくは17質量倍以上40質量倍以下である。
吸収溶媒の使用量を上記範囲とすることにより、1,3-ブタジエンを含むその他のガスの吸収効率を向上させることができる。
一方、吸収溶媒の使用量が過大である場合には、吸収溶媒を循環使用するための精製に用いるエネルギー消費量が増大する傾向がある。また、吸収溶媒の使用量が過小である場合には、1,3-ブタジエンを含むその他のガスの吸収効率が低下する傾向にある。
【0061】
吸収溶媒の温度(溶媒導入口における温度)は、0℃以上60℃以下であることが好ましく、より好ましくは0℃以上40℃以下である。
吸収溶媒の温度を上記範囲とすることにより、1,3-ブタジエンを含むその他のガスの吸収効率をより向上させることができる。
【0062】
<循環工程>
循環工程においては、工程(C)において得られた、分子状酸素および不活性ガス類を、必要に応じて適宜に処理した後、工程(A)に対して還流ガスとして送給する。この循環工程において、工程(C)からの分子状酸素および不活性ガス類は、溶剤回収塔5および圧縮機6によって処理される。
具体的に説明すると、工程(C)からの分子状酸素および不活性ガス類、すなわち吸収塔4から流出された分子状酸素および不活性ガス類は、配管107を介して溶剤回収塔5に送給されて溶媒除去処理された後、配管110を介して圧縮機6に送給され、必要に応じて圧力調整処理される。このようにして溶媒除去処理および圧力調整処理された工程(C)からの分子状酸素および不活性ガス類は、圧縮機6から反応塔1に向かって配管112に流出する。
この図の例において、溶剤回収塔5から流出された、分子状酸素および不活性ガス類は、配管110を流通する過程において、当該分子状酸素および不活性ガス類の一部が、配管110に連通する配管111を介して廃棄される。このように、溶剤回収塔5から流出された、分子状酸素および不活性ガス類の一部を廃棄するための配管111を設けることにより、工程(A)に対する還流ガスの供給量を調整することができる。
【0063】
(溶剤回収塔)
溶剤回収塔5は、工程(C)からの分子状酸素および不活性ガス類を水または溶剤によって洗浄することにより、当該分子状酸素および不活性ガス類を溶媒除去処理する構成のものであり、中央部には工程(C)からの分子状酸素および不活性ガス類を導入するガス導入口が設けられ、上部には水または溶剤を導入する水または溶剤導入口が設けられている。ガス導入口には、一端が吸収塔4のガス導出口に接続された配管107が接続されており、また水または溶剤導入口には配管108が接続されている。また、溶剤回収塔5には、塔頂に、水または溶剤によって洗浄された、分子状酸素および不活性ガス類を導出するガス導出口が設けられており、また、塔底には、工程(C)からの分子状酸素および不活性ガス類の洗浄に用いた水または溶剤を導出する水または溶剤導出口が設けられている。ガス導出口には、配管110が接続されており、水または溶剤導出口には配管109が接続されている。
【0064】
この溶剤回収塔5においては、工程(C)からの分子状酸素および不活性ガス類に含まれていた吸収溶媒が除去され、除去された吸収溶媒が、洗浄に用いられた水または溶剤と共に配管109に流出し、この配管109を介して回収される。また、溶剤除去処理された、工程(C)からの分子状酸素および不活性ガス類は、配管110に流出する。
【0065】
また、動作中の溶剤回収塔5において、当該溶剤回収塔5の内部の温度は、特に限定されないが、0℃以上80℃以下であることが好ましく、より好ましくは10℃以上60℃以下である。
【0066】
(圧縮機)
圧縮機6としては、溶剤回収塔5からの分子状酸素および不活性ガス類を、必要に応じて昇圧し、工程(A)において必要とされる圧力にすることのできるものが適宜用いられる。
この図の例において、圧縮機6には、ガス導入口に、一端が溶剤回収塔5のガス導出口に接続された配管110が接続され、ガス導出口には、配管112が接続されている。
【0067】
この圧縮機6においては、工程(C)の圧力が工程(A)の圧力未満である場合において、工程(C)と工程(A)との圧力差に応じ、当該圧力差分の昇圧を行う。
この圧縮機6において昇圧が行われる場合において、その昇圧は、通常、小さいものであるため、圧縮機の電気エネルギー消費量は小さなものに留まる。
【0068】
圧縮機6から流出された分子状酸素および不活性ガス類、すなわち還流ガスにおいて、分子状窒素の濃度は、87体積%以上97体積%以下であることが好ましく、より好ましくは90体積%以上95体積%以下である。また、分子状酸素の濃度は、1体積%以上6体積%以下であることが好ましく、より好ましくは2体積%以上5体積%以下である。
【0069】
<工程(D)>
工程(D)においては、工程(C)において得られたガス吸収液から、工程(D1)および工程(D2)をこの順に経ることによって1,3-ブタジエン液を得ると共に、当該工程(D1)において、また、当該工程(D1)、工程(D2)および工程(E)をこの順に経ることによって、再利用可能な吸収溶媒を得る。ここに、工程(D)において得られる1,3-ブタジエンを含む液は、少なくとも、1,3-ブタジエンおよびn-ブタンを含むものである。
すなわち、工程(D1)、工程(D2)および工程(E)を有する工程(D)においては、先ずは工程(D1)において再利用可能な吸収溶媒が得られ、次いで、工程(D2)において1,3-ブタジエン液が得られ、さらに工程(E)において再利用可能な吸収溶媒が得られる。
【0070】
<工程(D1)>
工程(D1)においては、工程(C)において得られたガス吸収液から吸収溶媒を分離することにより、吸収溶媒(以下、「分離吸収溶媒(D1)」ともいう。)と、1,3-ブタジエンを含むその他のガスからなる吸収成分が濃縮されたガス吸収液(以下、「濃縮ガス吸収液」ともいう。)とを得る。すなわち、工程(C)からのガス吸収液を、分離吸収溶媒(D1)と濃縮ガス吸収液とに蒸留分離する。
この工程(D1)において、ガス吸収液の分離は、図1に示されているように、脱溶塔7、コンデンサー8およびリボイラー9によって行われる。
具体的に説明すると、工程(C)からのガス吸収液、すなわち吸収塔4から流出されたガス吸収液は、配管113を介して脱溶塔7に送給されて蒸留分離される。この脱溶塔7における蒸留分離により、ガス吸収液と、吸収溶媒(以下、「吸収溶媒(D1)」ともいう。)とが得られる。そして、脱溶塔7から流出された粗分離濃縮ガスは、配管115を介してコンデンサー8に送給されて冷却され、当該コンデンサー8からは、配管119に濃縮ガス吸収液が流出する。一方、脱溶塔7から流出された吸収溶媒(D1)は、配管114を介してリボイラー9に送給されて、当該リボイラー9からは、配管118に吸収溶媒(D1)が流出する。
【0071】
(脱溶塔)
脱溶塔7は、工程(C)からのガス吸収液を蒸留分離する構成のものであり、中央部には工程(C)からのガス吸収液を導入する液導入口が設けられており、また、塔頂には、粗分離濃縮ガスを導出するガス導出口が設けられ、塔底には、吸収溶媒(D1)を導出する液導出口が設けられている。液導入口には、一端が吸収塔4の液導出口に接続された配管113が接続されており、また、塔頂の液導出口には、配管115が接続され、塔底の液導出口には配管114が接続されている。
【0072】
この脱溶塔7においては、ガス吸収液から蒸留分離された、粗分離濃縮ガスと吸収溶媒(D1)とが、それぞれ、粗分離濃縮ガスが配管115に流出し、吸収溶媒(D1)が配管114に流出する。
【0073】
脱溶塔7の内部の圧力は、特に限定されないが、0.03MPaG以上1.0MPaG以下であることが好ましく、より好ましくは0.2MPaG以上0.6MPaG以下である。
【0074】
また、動作中の脱溶塔7において、当該脱溶塔7の塔底の温度は、80℃以上190℃以下であることが好ましく、より好ましくは100℃以上180℃以下である。
【0075】
(コンデンサー)
コンデンサー8としては、脱溶塔7からの粗分離濃縮ガス吸収液を、さらに蒸留して吸収成分を濃縮することのできるものが適宜用いられる。
この図の例において、コンデンサー8には、液導入口に、一端が脱溶塔7の塔頂の出口に接続された配管115が接続され、液導出口には、配管119と、循環導出口とが設けられており、この循環導出口である配管117は、一端が、コンデンサー8の循環導出口に接続されていると共に、他端が、脱溶塔7の上部に設けられた循環導入口に接続されており、ガス吸収液を脱溶塔7に向かって送給するものである。
【0076】
(リボイラー)
リボイラー9としては、脱溶塔7からの吸収溶媒(D1)を加熱できるものが適宜用いられる。
このリボイラー9から配管118に流出された吸収溶媒(D1)は、配管133および配管106を介して、さらに精製されることなく、そのままの状態で吸収塔4に再び供給される。
この図の例において、リボイラー9には、液導入口に、一端が脱溶塔7の液導出口に接続された配管114の一部が接続され、循環導出口には配管116が接続されている。この配管116は、一端が、リボイラー9の循環導出口に接続されていると共に、他端が、脱溶塔7の下部に設けられた循環導入口に接続されている。
【0077】
リボイラー9から流出された吸収溶媒(D1)は、反応副生成物(具体的には、ケトン・アルデヒド類)を実質上含まないものである。具体的には、分離吸収溶媒(D1)において、ケトン・アルデヒド類の濃度は、0質量%以上1質量%以下であり、好ましくは0質量%以上0.05質量%以下である。
分離吸収溶媒(D1)におけるケトン・アルデヒド類の濃度が上記範囲であることにより、当該分離吸収溶媒(D1)を、さらに精製することなく、そのままの状態で工程(C)にて使用することができる。
【0078】
この工程(D1)においては、当該工程(D1)に供されるガス吸収液の量が、工程(D2)に供される、濃縮ガス吸収液の量よりも大きいことが好ましい。
具体的には、工程(D1)に供されるガス吸収液の量に対する工程(D2)に供される濃縮ガス吸収液の量の比が、0.01~0.1であることが好ましい。
【0079】
<工程(D2)>
工程(D2)においては、工程(D1)において得られた濃縮ガス吸収液を、1,3-ブタジエンを含む1,3-ブタジエン液と、反応副生成物(具体的には、ケトン・アルデヒド類)を含む反応副生成物含有溶媒とに蒸留分離する。
この工程(D2)において、濃縮ガス吸収液の分離は、図1に示されているように、脱溶塔10、コンデンサー11およびリボイラー12によって行われる。
具体的に説明すると、工程(D1)からの濃縮ガス吸収液、すなわちコンデンサー8から流出された濃縮ガス吸収液は、配管119を介して脱溶塔10に送給されて蒸留分離される。この脱溶塔10における蒸留分離により、1,3-ブタジエンを含む吸収溶媒と、反応副生成物を含む吸収溶媒とが得られる。そして、脱溶塔10から流出された1,3-ブタジエンを含む吸収溶媒は、配管121を介してコンデンサー11に送給されて冷却され、当該コンデンサー11からは、配管125に、1,3-ブタジエン液が流出する。ここに、1,3-ブタジエン液は、1,3-ブタジエンと共にn-ブテンを含み得るものである。一方、脱溶塔10から流出された反応副生成物を含む吸収溶媒は、配管122を介してリボイラー12に送給される。
【0080】
(脱溶塔)
脱溶塔10は、工程(D1)からの濃縮ガス吸収液を蒸留分離する構成のものであり、中央部には工程(D1)からの濃縮ガス吸収液を導入する液導入口が設けられており、また、塔頂には、1,3-ブタジエンを含有するガスを導出する液導出口が設けられ、塔底には、反応副生成物を含む吸収溶媒を導出する液導出口が設けられている。液導入口には、一端がコンデンサー8の液導出口に接続された配管119が接続されており、また、塔頂のガス導出口には、配管121が接続され、塔底の液出口には配管122が接続されている。
【0081】
この脱溶塔10においては、濃縮ガス吸収液から分離された、1,3-ブタジエンを含むガスと反応副生成物を含む吸収溶媒とが、それぞれ、配管121、配管122に流出する。
【0082】
脱溶塔10の内部の圧力は、特に限定されないが、0.03MPaG以上1.0MPaG以下であることが好ましく、より好ましくは0.2MPaG以上0.6MPaG以下である。
【0083】
また、動作中の脱溶塔10において、当該脱溶塔10の塔底の温度は、80℃以上190℃以下であることが好ましく、より好ましくは100℃以上180℃以下である。
【0084】
(コンデンサー)
コンデンサー11としては、脱溶塔10からの1,3-ブタジエンを含むガスを冷却できるものが適宜用いられる。
この図の例において、コンデンサー11には、液導入口に、一端が脱溶塔10の塔頂出口に接続された配管121が接続され、液導出口には、配管125が接続されている。また、コンデンサー11には、循環導出口が設けられており、この循環導出口には配管123が接続されている。この配管123は、一端が、コンデンサー11の循環導出口に接続されていると共に、他端が、脱溶塔10の上部に設けられた循環導入口に接続されおり、1,3-ブタジエン液を脱溶塔10に向かって送給するものである。
【0085】
(リボイラー)
リボイラー12としては、脱溶塔10からの反応副生成物を含む吸収溶媒加熱できるものが適宜用いられる。
この図の例において、リボイラー12には、液導入口に、一端が脱溶塔10の塔底の液導出口に接続された配管122の一部が接続され、配管124は、一端が、リボイラー12の循環導出口に接続されていると共に、他端が、脱溶塔10の下部に設けられた循環導入口に接続されており、リボイラー12において、反応副生成物を含む吸収溶媒からを脱溶塔10に向かって送給するものである。
【0086】
この工程(D2)に供される濃縮ガス吸収液の量は、前述したように、工程(D1)に供されるガス吸収液の量よりも小さいことが好ましい。
【0087】
<工程(E)>
工程(E)においては、工程(D)において得られた反応副生成物含有液を精製する。 この工程(E)において、反応副生成物液の精製は、図1に示されているように、溶剤回収塔13、コンデンサー14およびリボイラー15によって行われる。
具体的に説明すると、工程(D)からの反応副生成物含有液は、配管126を介して溶剤回収塔13に送給されて蒸留分離される。この溶剤回収塔13における蒸留分離により、反応副生成物含有液から、当該反応副生成物含有液に僅かに含まれていた吸収溶媒が分離され、吸収溶媒(以下、「吸収溶媒(E)」ともいう。)と、反応副生成物がさらに濃縮された反応副生成物含有液とが得られる。そして、溶剤回収塔13から流出された吸収溶媒(E)は、配管128を介してリボイラー15に送給されて加熱され、配管130に吸収溶媒(E)が流出する。一方、溶剤回収塔13から流出された濃縮反応副生成物含有ガスは、配管127を介して溶剤回収用熱交換器14に送給されて冷却され、当該コンデンサー14からは、配管129に反応副生成物液が流出する。
【0088】
(溶剤回収塔)
溶剤回収塔13は、工程(D)からの反応副生成物含有液を蒸留分離する構成のものであり、中央部には工程(D)からの反応副生成物含有液を導入する入口が設けられており、また、塔頂には、濃縮反応副生成物含有液を導出する液導出口が設けられ、塔底には、吸収溶媒(E)を導出する液導出口が設けられている。液導入口には、一端が濃縮用熱交換12の液導出口に接続された配管126が接続されており、また、塔頂の液導出口には、配管127が接続され、塔底の液導出口には配管128が接続されている。
【0089】
この溶剤回収塔13においては、反応副生成物含有液から分離された、濃縮反応副生成物含有ガスと粗分離吸収溶媒(E)とが、それぞれ、濃縮反応副生成物含有ガスが配管127に流出し、粗分離吸収溶媒(E)が配管128に流出する。
【0090】
溶剤回収塔13の内部の圧力は、特に限定されないが、0.03MPaG以上1.0MPaG以下であることが好ましく、より好ましくは0.2MPaG以上0.6MPaG以下である。
【0091】
また、動作中の溶剤回収塔13において、当該溶剤回収塔13の塔底の温度は、80℃以上190℃以下であることが好ましく、より好ましくは100℃以上180℃以下である。
【0092】
(コンデンサー)
コンデンサー14としては、溶剤回収塔13からの濃縮反応副生成物含有液に含まれている微量の吸収溶媒を、冷却できるものが適宜用いられる。
このようなコンデンサー14からは、反応副生成物が配管129に流出される。この配管129に流出された反応副生成物液は、廃棄される。
この図の例において、コンデンサー14には、液導入口に、一端が溶剤回収塔13の液導出口に接続された配管127が接続され、反応副生成物液導出口には、配管129が接続されている。また、コンデンサー14には、循環導出口が設けられており、この循環導出口には配管131が接続されている。この配管131は、一端が、コンデンサー14の循環導出口に接続されていると共に、他端が、溶剤回収塔13の上部に設けられた循環導入口に接続されており、濃縮反応副生成物含有液を溶剤回収塔13に向かって送給するものである。
【0093】
(リボイラー)
リボイラー15としては、溶剤回収塔13からの吸収溶媒(E)を加熱できるものが適宜用いられる。
このリボイラー15から配管130に流出された吸収溶媒(E)は、配管133および配管106を介して、そのままの状態で吸収塔4に再び供給される。
この図の例において、リボイラー15には、液導入口に、一端が溶剤回収塔13の液導出口に接続された配管128の一部が接続され、配管128の一部には配管130が接続されており、この配管130は、配管133を介して配管106に連通されている。また、リボイラー15には、循環導出口が設けられており、この循環導出口には配管132が接続されている。この配管132は、一端が、リボイラー15の循環導出口に接続されていると共に、他端が、溶剤回収塔13の下部に設けられた循環導入口に接続されており、吸収溶媒(E)を溶剤回収塔13に向かって送給するものである。
【0094】
リボイラー15から流出された吸収溶媒(E)は、リボイラー9から流出された吸収溶媒(D1)と共に工程(C)に還流される。すなわち、リボイラー15から配管130に流出された分離吸収溶媒(E)と、リボイラー9から配管118に流出された吸収溶媒(D1)とが、配管113において混合されて配管106を介して吸収塔4に再供給される。
このようにして配管133および配管106を介して再供給される吸収溶媒において、ケトン・アルデヒド類の濃度は、0質量%以上1質量%以下であることが好ましい。
【0095】
本発明の1,3-ブタジエンの製造方法によれば、固定床反応器1に供給されるガス中の水蒸気とn-ブテンとのモル比が1.2以下であるため、カルボニル化合物や有機酸類などの反応副生成物の発生を抑制することができる。
【実施例
【0096】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0097】
以下の実施例において、ガス組成分析は、下記の表1に示す条件でのガスクロマトグラフィーにより行った。水蒸気に関しては、ガスサンプリングの際の水冷トラップにより得られた水分量を加算して算出した。
【0098】

【表1】
【0099】
また、カルボニル化合物の分析、複素環式化合物の分析および有機酸の分析は、下記表2に示す条件で液体クロマトグラフィーにより行った。
【0100】
【表2】
【0101】
また、n-ブテンの転化率、ブタジエンの収率、アルデヒド類の分析は表1の条件で、ガスクロマトグラフィーにより行った。
【0102】
[実施例1]
図1のフロー図に従って、下記の工程(A)、工程(B)、工程(C)、工程(D1)、工程(D2)、工程(E)および循環工程を経ることにより、n-ブテンを含む原料ガスから1,3-ブタジエンを製造した。
【0103】
(工程(A))
金属酸化物触媒を、触媒層長が4000mmとなるように充填した固定床反応器1(内径21.2mm、外径25.4mm)に、体積比(n-ブテン/O2/N2/H2O)が1/1.5/17.5/0(水蒸気とn-ブテンとのモル比が0)である混合ガスを2000h-1の気体時空間速度(具体的には、標準状態での流量を用いて算出したSV)にて供給し、反応温度320~330℃の条件によって、原料ガスと分子状酸素含有ガスとを酸化脱水素反応させることにより、1,3-ブタジエンを含む生成ガスを得た。この工程(A)の圧力、すなわち固定床反応器1のガス導入口における圧力は、0.1MPaGであった。
この工程(A)において、金属酸化物触媒としては、組成式Mo12Bi5Fe0.5Ni2Co30.1Cs0.1Sb0.2で表される酸化物を球状のシリカに触媒総体積の20%の割合で担持されたものを用いた。
また、混合ガスは、原料ガスと還流ガス(分子状酸素および不活性ガス類)とが混合され、必要に応じて、分子状酸素含有ガスとしての空気、不活性ガス類としての分子状窒素および水(水蒸気)がさらに混合されることにより、組成が調整されたものである。
【0104】
(工程(B))
固定床反応器1から流出された生成ガスを、急冷塔2において、冷却媒体としての水と向流接触させて急冷し、76℃まで冷却した後、熱交換器3において30℃まで冷却した。
【0105】
(工程(C))
冷却用熱交換器3から流出された生成ガス(冷却生成ガス)を、内部に規則充填物を配置した吸収塔4(外径152.4mm、高さ7800mm、材質SUS304)の下部のガス導入口から供給し、当該吸収塔4の上部の溶媒導入口からは、トルエンを95質量%以上含む吸収溶媒を10℃で供給した。吸収溶媒の供給量は、冷却生成ガスにおけるブタジエンとn-ブテンとの合計の流量(質量流量)に対して33質量倍であった。この工程(C)の圧力、すなわち吸収塔4のガス導出口における圧力は、0.1MPaGであった。
【0106】
(循環工程)
吸収塔4から流出されたガスを、溶剤回収塔5において、水または溶剤によって洗浄することにより、当該ガスに含まれていた少量の吸収溶媒を除去した。このようにして吸収溶媒が除去されたガスは、溶剤回収塔5から流出し、一部が廃棄され、残りの大部分が圧縮機6に送給された。そして、圧縮機6においては、溶剤回収塔5からのガスが、圧力調整処理によって昇圧された。このようにして吸収溶媒が除去され、昇圧されたガスは、圧縮機6から流出し、反応塔1に還流された。
【0107】
(工程(D):工程(D1))
吸収塔4から流出された液体を、脱溶塔7において蒸留分離し、当該脱溶塔7の塔頂出口から流出された分離ガスをコンデンサー8において冷却することより、濃縮液(以下、「濃縮分離液(D1)」ともいう。)を得た。一方、脱溶塔7の塔底の液導出口は、吸収溶媒(以下、「循環吸収溶媒(D1)」ともいう。)を得た。
【0108】
(工程(D):工程(D2))
コンデンサー8から流出された濃縮分離液(D1)を、分離塔10において蒸留分離し、当該脱溶塔10の塔頂出口から流出された分離ガスをコンデンサー11において冷却することにより、1,3-ブタジエンを含む1,3-ブタジエン液を得、この1,3-ブタジエン液を製造目的物として回収した。一方、脱溶塔10の塔底の液導出口から反応副生成物を含む濃縮液(以下、「濃縮分離液(D2)」ともいう。)を得た。
【0109】
(工程(D):工程(E))
脱溶塔10の塔底の液導出口から流出された濃縮分離液(D2)を溶剤回収塔13において分離精製した後、当該溶剤回収塔13の塔底の液導出口から吸収溶媒(以下、「循環吸収溶媒(E)」ともいう。)を得た。一方、溶剤回収塔13の塔頂出口から流出された分離ガスをコンデンサー14において冷却することにより、反応副生成物を含む反応副生成物液を得、その反応副生成物液を廃棄した。
この工程(E)において得られた循環吸収溶媒(E)は、工程(D1)において得られた循環吸収溶媒(D1)と共に配管133および配管106を介して吸収塔4に供給された。
【0110】
以上において、工程(A)におけるn-ブテンの転化率および1,3-ブタジエンの収率、工程(A)で得られた生成ガス中におけるカルボニル化合物の収率および複素環式化合物の収率、並びに工程(B)における排水中の有機酸類の収率を下記表3に示す。
【0111】
[実施例2]
固定床反応器1に供給する混合ガスを、体積比(n-ブテン/O2/N2/H2O)が1/1.5/16.9/0.6(水蒸気とn-ブテンとのモル比が0.6)であるものに変更したこと以外は、実施例1と同様にして1,3-ブダジエンを製造した。
工程(A)におけるn-ブテンの転化率および1,3-ブタジエンの収率、工程(A)で得られた生成ガス中におけるカルボニル化合物の収率および複素環式化合物の収率、並びに工程(B)における排水中の有機酸類の収率を下記表3に示す。
【0112】
[実施例3]
固定床反応器1に供給する混合ガスを、体積比(n-ブテン/O2/N2/H2O)が1/1.5/16.3/1.2(水蒸気とn-ブテンとのモル比が1.2)であるものに変更したこと以外は、実施例1と同様にして1,3-ブダジエンを製造した。
工程(A)におけるn-ブテンの転化率および1,3-ブタジエンの収率、工程(A)で得られた生成ガス中におけるカルボニル化合物の収率および複素環式化合物の収率、並びに工程(B)における排水中の有機酸類の収率を下記表3に示す。
【0113】
[比較例1]
固定床反応器1に供給する混合ガスを、体積比(n-ブテン/O2/N2/H2O)が1/1.5/15.1/2.4(水蒸気とn-ブテンとのモル比が2.4)であるものに変更したこと以外は、実施例1と同様にして1,3-ブダジエンを製造した。
工程(A)におけるn-ブテンの転化率および1,3-ブタジエンの収率、工程(A)で得られた生成ガス中におけるカルボニル化合物の収率および複素環式化合物の収率、並びに工程(B)における排水中の有機酸類の収率を下記表3に示す。
【0114】

【表3】
【0115】
表3に示す結果から、実施例1~3に係る1,3-ブタジエンの製造方法によれば、反応副生成物の発生が抑制され、高い収率で1,3-ブタジエンが得られることが確認された。
【符号の説明】
【0116】
1 固定床反応器
2 急冷塔
3 冷却用熱交換器
4 吸収塔
5 溶剤回収塔
6 圧縮機
7 脱溶塔
8 コンデンサー
9 リボイラー
10 脱溶塔
11 コンデンサー
12 リボイラー
13 溶剤回収塔
14 コンデンサー
15 リボイラー
21 脱溶塔
100~132,140 配管
図1